(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023148631
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】光触媒部材
(51)【国際特許分類】
B01J 35/02 20060101AFI20231005BHJP
C23C 14/08 20060101ALI20231005BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20231005BHJP
B01J 23/10 20060101ALI20231005BHJP
B01J 31/38 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
B01J35/02 J
C23C14/08 J
C23C14/08 E
C23C14/34
B01J23/10 M
B01J31/38 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022056768
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】若生 仁志
【テーマコード(参考)】
4G169
4K029
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169BA02A
4G169BA02B
4G169BA04A
4G169BA04B
4G169BA14B
4G169BA22A
4G169BA22B
4G169BA48A
4G169BB04A
4G169BB04B
4G169BC43A
4G169BC43B
4G169BD01B
4G169BD04B
4G169BE36B
4G169CA02
4G169CA10
4G169CA11
4G169CA17
4G169DA06
4G169EA08
4G169EB15X
4G169EB15Y
4G169ED02
4G169EE01
4G169EE06
4G169FB02
4G169HA12
4G169HB01
4G169HB06
4G169HC15
4G169HC16
4G169HD13
4G169HE03
4G169HE07
4K029AA09
4K029AA11
4K029AA25
4K029BA02
4K029BA17
4K029BA35
4K029BA43
4K029BA46
4K029BA48
4K029BB02
4K029BC07
4K029CA06
4K029DC05
(57)【要約】
【課題】産業的に生産性の高い光触媒を製造する。
【解決手段】本発明のある観点によれば、基材に対して下地層を介して光触媒層が形成された光触媒部材であって、下地層が少なくとも酸化セリウムを有し、光触媒層が少なくとも酸化チタンを有することを特徴とする、光触媒部材が提供される。ここで、下地層は、酸化セリウムのみで構成されるか、もしくは酸化セリウムとセリウム元素比率で10原子%以下の他の少なくとも1種類以上の元素とで構成されてもよい。本発明によれば、産業的に生産性の高い光触媒を製造することができる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に対して下地層を介して光触媒層が形成された光触媒部材であって、下地層が少なくとも酸化セリウムを有し、光触媒層が少なくとも酸化チタンを有することを特徴とする、光触媒部材。
【請求項2】
前記下地層は、前記酸化セリウムのみで構成されるか、または前記酸化セリウムとセリウム元素比率で10原子%以下の他の少なくとも1種類以上の元素とで構成されることを特徴とする、請求項1記載の光触媒部材。
【請求項3】
前記光触媒層は、前記酸化チタンのみで構成されるか、または前記酸化チタンとチタン元素比率で10原子%以下の他の少なくとも1種類以上の元素とで構成されることを特徴とする、請求項1または2に記載の光触媒部材。
【請求項4】
前記下地層の厚みが10nm以上であることを特徴とする、請求項1~3の何れか1項に記載の光触媒部材。
【請求項5】
前記光触媒層の厚みが20nm以上であることを特徴とする、請求項1~4の何れか1項に記載の光触媒部材。
【請求項6】
前記光触媒層の上に酸化ケイ素若しくは前記酸化ケイ素と他の金属の複合酸化物を用いた親水保持層を有することを特徴とする、請求項1~5の何れか1項に記載の光触媒部材。
【請求項7】
前記基材が透明であることを特徴とする、請求項1~6の何れか1項に記載の光触媒部材。
【請求項8】
前記基材が高分子フィルムであることを特徴とする、請求項1~7の何れか1項に記載の光触媒部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒部材に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線、可視光線などの光により触媒作用が生じる光触媒は、様々な効果があるために現在注目されている。光触媒による効果としては、特に、本多-藤嶋効果にみられるように、水の光分解による水素/酸素生成や、表面で活性酸素が生成することによる強酸化性、表面に水酸基が多数生成することによる超親水性などが知られている。光触媒は、特に近年流行が著しいコロナウィルスなどのウィルスや病原菌などを光照射にて滅菌する、シックハウスの原因となるホルムアルデヒドを分解する、超親水性を応用した防曇フィルムなど様々な応用が考えられる。
【0003】
また、光触媒を反射防止膜に適用した場合、反射防止膜の表面に付着した指紋跡の分解に効果があると期待されている。特に厚み1μm以下の異なる屈折率を有する無機物を交互に積層した誘電体多層膜による反射防止膜は光の干渉を使用するため、表面にわずかな指紋跡のような透明異物が付着しても干渉効果が崩れ、透明異物が視認されやすい。従来はフッ素化合物などの低表面エネルギーを有する物質で反射防止膜を覆い、指紋跡等の透明異物の付着を抑制していたが、その効果は十分とはいえず、またふき取りなどの清掃も必要であった。そうした課題に対して有機物である透明異物が光触媒によって分解されることができれば、清掃不要となるため光触媒は非常に期待されている。
【0004】
光触媒能を有する材料としては酸化チタンが知られている。酸化チタンを何らかの基材の表面に形成する方法としては、スパッタリングなどの真空薄膜形成手法が知られている。しかし、酸化チタンが光触媒性能を発揮するためにはアナタース型もしくはルチル型などの結晶化が必要であり、結晶化のためには、成膜中もしくは成膜後300℃以上の熱処理が必要である。このため、耐熱性の低いプラスチックなどの部材への光触媒の適用は難しい。もう一つの方法として結晶化した酸化チタン微粉末を結合剤とともに基材に塗布して固定化する方法が提案されている。この塗布法は加熱などの処理を必要としないこと、大面積処理が可能なことなどから非常に幅広く用いられており、現在製品化されている光触媒のほとんどがこの塗布法によるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-308729号公報
【特許文献2】特開2007-314835号公報
【特許文献3】特許第5217023号公報
【特許文献4】特開2000-345320号公報
【特許文献5】特許第4460537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、基材との固定に用いる結合剤は有機物であることが多く、光触媒と接するためにチョーキング現象と呼ばれる結合剤の分解が生じ、光触媒自体も脱落するという課題がある。また、基材と光触媒との結合を強めるために結合剤の比率を高くすると光触媒の比率が相対的に低下して触媒性能が低くなってしまうという課題もある。
【0007】
そのため、結合剤を含まない真空薄膜形成手法で酸化チタン薄膜を形成することが望ましいが、室温での成膜でいかに光触媒性能を実現できるかが課題である。
【0008】
室温で結晶化した酸化チタンを得る方法としては特許文献1には、シングルカソードもしくはデュアルカソードを用いて電圧印加のデューティー比を一定値以下とする方法が開示されている。特許文献1には、本手法で結晶化した酸化チタンが得られると記載されているが、本発明者が再現実験を行ったところ結晶化は確認できず、設備の構成などに依存する可能性がある。
【0009】
また、特許文献2、特許文献3には、チタン金属膜の成膜と酸化処理を2つに分けて行うことで結晶化を促進させる方法が開示されている。しかし、設備的に複雑な構成が必要となり、汎用的なスパッタリング装置では実現が難しい。
【0010】
汎用的なスパッタリング装置を用いた例としては、特許文献4に示すように、成膜時に水分を添加し、比較的低温(200℃以上)の熱処理を行うことで結晶化をさせる方法が試みられている。しかし、低温結晶化とはいえ200℃以上の加熱が必要であるため、多くのプラスチック基材は変形してしまう。このため汎用性に欠けるという問題がある。
【0011】
汎用的なスパッタリング装置を用いて室温成膜で光触媒性能を得る手法として、特許文献5に示すように酸化ジルコニウムを下地層として成膜したのち、酸化チタンを成膜する方法がある。本方法は加熱処理を行うことなく光触媒性能を実現できる優れた手法といえる。
【0012】
しかしながら、酸化ジルコニウムの成膜速度は極めて遅く、また酸化ジルコニウムの結晶化の度合いも低いため十分な下地層として機能するためにはある程度の膜厚が必要であり、成膜速度が低いことと相まって生産性が低かった。
本発明は係る課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、酸化ジルコニウムとは異なる下地層を探索し産業的に生産性の高い光触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
かかる課題に対して、本発明者は鋭意検討を行い、本発明に至った。すなわち、酸化セリウムを下地層として用いることで、高い成膜速度と極めて薄い膜厚で結晶化した酸化セリウム層を形成し、その上に成膜した酸化チタン層に加熱処理することなく非常に高い光触媒性能を与えることができた。
【0014】
具体的には、例えば酸化セリウム(CeO2)もしくは酸化セリウムの他に酸化セリウムのセリウム元素に対して10原子%を超えない他の元素を含有する下地層を成膜する。ついで、酸化チタン(TiO2)もしくは酸化チタンの他に酸化チタンのチタン元素に対して10原子%を超えない他の元素を含有する光触媒層を成膜する。これにより、加熱処理することなく、光触媒層が光触媒性能を示すことが分かった。
【0015】
本発明の下地層は酸化セリウムのみで構成されることが望ましいが、酸化セリウムの結晶性を維持できるのであれば他の元素が含まれていてもよい。特に、スパッタリングの際、安定した放電を実現するために酸化セリウムと他の金属を混合して複合ターゲットとする場合がある。この場合、成膜時に膜中に金属が取り込まれることがあるが酸化セリウムの結晶性が維持できていればよい。下地層の厚みは特に制限されず、例えば10nmでも効果があることが分かっている。ただし、基材がプラスチックフィルムなどの場合は表面が平滑でない場合もあることから下地層の厚みは20nm以上あることが望ましい。下地層の厚みが20nm以上あれば下地層の連続性が確保でき、かつ十分な結晶性が維持できる。ただし、下地層の厚みが100nm以上となる場合、基材に熱負荷がかかるだけでなく、産業的にも非効率なため望ましくは100nm以下とするのがよい。
【0016】
本発明の光触媒層は酸化チタン(TiO2)で構成されるが、光触媒性能が発現するのであれば酸化チタンの他に他の元素が含まれていてもよい。例えば酸化チタンはバンドギャップが紫外線領域にあり、光触媒として動作するためには紫外線を必要とするが、それを可視光において応答させるために窒素を添加した例がある。本発明においても窒素を添加して可視応答光触媒とすることもできる。また、光触媒層の電気伝導性を高めるために金属元素、例えばニオビウムを加えてもよい。光触媒層の厚みは特に制限されないが、光触媒性能が明確に発現する20nm以上あることが好ましい。また光触媒層の厚みが厚くても本発明の効果は得られるが、産業的には200nm以下であることが望ましい。
【0017】
さらに、本発明には、下地層、光触媒層以外の層があってもよい。例示するなら光触媒の超親水性を保持する目的で光触媒層の表面に酸化ケイ素を成膜してもよい。また、本多-藤嶋効果にみられるように本発明を光触媒電極として用いるために下地層を成膜する前に導電層を形成してもよい。
いずれにしても酸化セリウムを含む下地層に対して基材とは反対側に酸化チタンを含む光触媒層を成膜することにより本発明は完成する。本発明の要旨は以下の通りである。
【0018】
本発明のある観点によれば、基材に対して下地層を介して光触媒層が形成された光触媒部材であって、下地層が少なくとも酸化セリウムを有し、光触媒層が少なくとも酸化チタンを有することを特徴とする、光触媒部材が提供される。
【0019】
ここで、下地層は、酸化セリウムのみで構成されるか、もしくは酸化セリウムとセリウム元素比率で10原子%以下の他の少なくとも1種類以上の元素とで構成されてもよい。
【0020】
また、光触媒層は、酸化チタンのみで構成されるか、もしくは酸化チタンとチタン元素比率で10原子%以下の他の少なくとも1種類以上の元素とで構成されてもよい。
【0021】
また、下地層の厚みが10nm以上であってもよい。
【0022】
また、光触媒層の厚みが20nm以上であってもよい。
【0023】
また、光触媒層の上に酸化ケイ素若しくは酸化ケイ素と他の金属の複合酸化物を用いた親水保持層を有していてもよい。
【0024】
また、基材が透明であってもよい。
【0025】
また、基材が高分子フィルムであってもよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、産業的に生産性の高い光触媒を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】XRDスペクトルの一例を示すグラフである。
【
図2】本発明に係る光触媒部材の概要を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
<1.酸化セリウムと酸化ジルコニウムとの比較>
本発明で使用した酸化セリウムについて特許文献5で用いた酸化ジルコニウムと比較して示す。まずはそれぞれの材料について成膜した際の結晶性を比較する。
【0029】
成膜にはRFスパッタリング装置を用いた。排気系はターボ分子ポンプとロータリーポンプで構成され、5×10-4Pa以下にまで排気することが可能である。真空槽内には4つのカソードが配置されており、それぞれに直径2インチのターゲット材料を設置することが可能である。各カソード間にはシャッター機構が設置されておりタイマーにて開閉時間を制御することができる。そのためあらかじめ成膜速度が既知であればシャッターの開時間を制御することより膜の厚みを精密に制御することができる。真空槽にはガス供給配管がつながっており、アルゴンガス、酸素ガス、窒素ガスを供給することができる。各ガスはガスボンベと真空槽の間に設置したマスフローメータにて精密に流量を制御できる。ターボ分子ポンプと真空槽の間にはコンダクタンスバルブが設置されており排気速度を調整することで任意の成膜圧力に調整することが可能である。基材はターゲットに対向するステージに設置することができる。膜の厚みを均一にするようにステージは自転することができ、300℃までの加熱も可能である。さらにステージとターゲットまでの距離も調整可能である。
【0030】
上記、RFスパッタリング装置内のステージにシリコン基材を設置後、5×10-4Pa以下になるまで排気し、アルゴンガスおよび酸素ガスを導入した。アルゴンガスと酸素ガスの比率はあらかじめ可視光領域での吸収が出ない条件を調査して決定した。
【0031】
酸化セリウム膜の成膜は酸化セリウムを焼結させてターゲット形状に成型したものをターゲットして用いた。酸化ジルコニウムは金属ジルコニウムをターゲットとして用いた。一般に金属ターゲットのほうが酸化物ターゲットよりも成膜速度は早いことが知られている。
【0032】
2インチのターゲットに対して200WのRF電力を投入し、シリコン基材上に一定時間成膜して膜厚を分光エリプソメトリー(M-2000 J.A.Woollam社製)を用いて評価した。エリプソメトリーではp偏光とs偏光の振幅比Ψと位相差Δが各波長ごとに得られるが、これらに対して適当な光学モデルを当てはめ、パラメータとして膜厚も含めてフィッティングを行うと、光学定数とともに膜厚が得られる。シリコン基材の中心部での測定結果をもとに膜厚とした。膜厚を成膜時間で除したものを表1に示す。
【0033】
【0034】
表1からも明らかなように酸化ジルコニウムに比べ酸化セリウムは2倍以上の成膜速度を有していることが分かる。
【0035】
さらに各材料の結晶性を比較するためにガラス基材上に成膜を行い、XRDによる評価を行った。薄膜の結晶化において基材の影響を避けるために無アルカリガラス(日本電気硝子製OA-10G)を用いた。基材は中性洗剤を用いて水洗したのち、エタノール液中で超音波洗浄を10分間行い、液中から引き上げたのち、直ちにエアガンにて液滴を除去して乾燥シミが生じないようにした。
【0036】
洗浄した無アルカリガラスを上記RFスパッタリング装置内のステージに設置し、表1の成膜速度を元に膜厚が50nmになるように成膜時間を調整して成膜を行い、XRDにて結晶性の評価を行った。XRDは X’Pert PRO MPD(PANalytical社製)を用いて Cuαを線源として、入射角1°で入射させて測定を行った。XRDの結果を
図1に示す。
【0037】
図1に示すように酸化ジルコニウムは28°付近にわずかながらピークがみられる。それに対して酸化セリウムにおいては同じ位置に鋭いピークがあるのに加えて、33°、47°、56°にもピークが認められる。ゆえに結晶性の面において酸化セリウムの方が優位であるといえる。
図1には比較のために酸化ハフニウムの結果も示す。ハフニウムは周期律表上ではジルコニウムの直下に位置しており特性もジルコニウムに類似すると期待されるが、結晶化はしていない。
【0038】
下地層を形成することで酸化チタンに光触媒性能が生じる要因としては部分的なヘテロエピタキシャル成長が考えられる。下地層によって結晶格子が形成され、酸化チタンがその結晶子に合わせるように結晶成長するものと考えられる。そのため、下地層側が薄い膜厚で明瞭な結晶化をすれば、そののちに成膜する光触媒層の酸化チタンも結晶化を促進すると考えられる。
上記結果をもとに、以下、本発明の好ましい実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0039】
<2.本実施形態に係る光触媒部材>
図2は本発明に係る光触媒部材1の構成を模式的に示す断面図である。
本実施形態に係る光触媒部材1は、基材2に対して下地層3を介して光触媒層4が形成された光触媒部材であって、下地層3が少なくとも酸化セリウムを有し、光触媒層4が少なくとも酸化チタンを有する。
【0040】
<3.基材>
本発明の基材2はどのような材料で構成されていてもよい。基材2の材質を例示すればガラス、金属、樹脂、セラミックスなどである。特に樹脂の厚みを薄くした樹脂フィルムは、軽量で様々な場所に貼合することができるなど利点が多い。さらに産業上の理由から大量生産する上ではロールツーロールスパッタ装置を用いて連続的に成膜処理できる利点がある。さらに、窓ガラスやディスプレイなど光を透過させる必要がある場所に用いる場合は透明樹脂(高分子)フィルムを用いることもある。
【0041】
透明樹脂フィルムの材料としては特に限定されることはないが、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリアラミド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリシクロオレフィン(COC、COP)などを用いることができる。
基材2の厚みは、特に限定されることはないが、基材2が樹脂フィルムである場合、製造時の取り扱いの容易さと部材の薄型化を考慮し、20μm以上200μm以下とすることが望ましい。なお、基材2の耐擦過性を向上させる観点から、基材2の少なくとも1面に例えばアクリル樹脂による被膜を例えば溶液塗布により形成することもできる。また上記アクリル樹脂の内部に曇り度とフィルム走行性を向上させる目的で有機もしくは無機の粒子を分散させたものを用いてもよい。
【0042】
<4.下地層>
下地層3は本実施形態の目的である光触媒層4の結晶化を促進させる層である。下地層3は、酸化セリウムを含む。より具体的には、下地層3は、酸化セリウムのみで構成されるか、または、酸化セリウムとセリウム元素比率で合計10原子%以下の他の少なくとも1種類以上の元素とで構成される。ただしこの構成はあくまで一例であり、下地層3に酸化セリウムが含まれていればよい。下地層3に含まれる元素は例えばX線マイクロアナライザー(XMA)や蛍光X線分析(XRF)などによって測定可能である。
【0043】
下地層3の製法については任意の手法であってよい。ただし、多層膜を形成するための異種材料の積層という観点ではスパッタリング法が有効である。厚みは最低でも10nm以上あることが望ましい。また基材2の表面粗さなどの影響を考慮すると20nm以上あることが望ましい。下地層3の厚みは、例えばミクロトーム法により試料の断面切片を作成し、透過型電子顕微鏡にて計測することが可能である。下地層3の厚みが20nm以上あれば基材2の表面が粗くても下地層3の連続性をより確実に担保することができる。一方で、100nm以上の成膜は基材2に熱負荷がかかるだけでなく、産業的にも非効率なため望ましくは100nm以下とする。下地層3は酸化セリウムのみで構成されることが望ましいが、その結晶性を維持できるのであれば他の元素が含まれていてもよい。特に、スパッタリングの際、安定した放電を実現するために酸化セリウムと他の金属を混合して複合ターゲットとした場合、成膜時に膜中に金属が取り込まれることがある。このような場合であっても、下地層3の結晶性が維持できていればよい。他の金属を例示すればZn、Alなどが挙げられる。
【0044】
<5.光触媒層>
光触媒層4は光触媒として機能する層である。光触媒層4は、光触媒として酸化チタンを含む。より具体的には、光触媒層4は、酸化チタンのみで構成されるか、または、酸化チタンとチタン元素比率で合計10原子%以下の他の少なくとも1種類以上の元素とで構成される。ただしこの構成はあくまで一例であり、本実施形態の効果が得られる程度に光触媒層4に酸化チタンが含まれていればよい。光触媒層4に含まれる元素は例えばX線マイクロアナライザー(XMA)や蛍光X線分析(XRF)などによって測定可能である。
【0045】
光触媒層4の製法については任意の手法であってよい。ただし、多層膜を形成するための異種材料の積層という観点ではスパッタリング法が有効である。光触媒層4の厚みは、光触媒層4を光触媒として機能させるために最低でも20nm以上あることが望ましい。光触媒層4の厚みは、例えばミクロトーム法により試料の断面切片を作成し、透過型電子顕微鏡にて計測することが可能である。厚みの上限については特に定めないが酸化チタンも成膜速度が遅く、産業的には生産性の観点から200nm以下であることが望ましい。光触媒層4には、光触媒性能が発現するのであれば他の元素が含まれていてもよい。例えば酸化チタンはバンドギャップが紫外線領域にあり、光触媒として動作するためには紫外線を必要とするが、それを可視光において応答させるために窒素を添加した例がある。本発明においても窒素を添加して可視応答光触媒とすることもできる。また、光触媒層の電気伝導性を高めるために金属元素、例えばニオビウムを加えてもよい。
【0046】
<6.その他の層>
ここで、光触媒部材1に導電性を持たせる目的で基材2と下地層3との間に1層以上の導電材料を積層してもよい。このような導電材料としては、たとえばインジウム-錫複合酸化物(ITO)やアルミニウム-亜鉛複合酸化物(AZO)などが挙げられる。また、金属材料を積層してもよい。さらに金属材料の上に下地層3を成膜する際のプラズマによる酸化を抑制するために異なる酸化物を積層してもよい。さらに、基材2と下地層3の密着性を確保する目的で密着層を形成してもよい。さらに、基材2が透明基材の場合は、光触媒部材1の透明性を高める目的で透明材料を成膜してもよい。さらに、基材2の表面を平滑にするために平滑層を形成してもよい。
【0047】
さらに、光触媒層4の表面に透明材料を形成してもよい。特に、超親水性を長時間・暗所でも維持できるように酸化ケイ素若しくは酸化ケイ素と他の金属の複合酸化物を用いた親水保持層を、光触媒層4の上に形成してもよい。また、光触媒層に用いる酸化チタンが高屈折率材料であるため、表面の反射率を低減させる目的で光触媒層の上に酸化ケイ素などの低屈折率材料を積層してもよい。
【0048】
以上説明した通り、本実施形態によれば、下地層3に酸化セリウムを用いるので、光触媒層4を加熱しなくとも光触媒層4に光触媒としての機能を発現させることができる。さらに、酸化セリウムは成膜速度が速い。したがって、産業的に生産性の高い光触媒を製造することができる。
【実施例0049】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
<実施例1>
基材として無アルカリガラス(日本電気硝子製OA-10G)を用いた。基材は中性洗剤を用いて水洗したのち、エタノール液中で超音波洗浄を10分間行い、液中から引き上げたのち、直ちにエアガンにて液滴を除去し乾燥した。RFスパッタリング装置に基材をセットして、排気後、成膜を行った。下地層として酸化セリウムを50nmの厚さで成膜し、さらにその上に光触媒層として酸化チタンを50nm積層したのちに取り出し、試料を作成した。
【0050】
<実施例2>
酸化セリウムの厚みを10nmとしたこと以外は実施例1と同一の条件で試料を作成した。
【0051】
<実施例3>
酸化セリウムの厚みを100nmとしたこと以外は実施例1と同一の条件で試料を作成した。
【0052】
<実施例4>
酸化チタンの厚みを20nmとしたこと以外は実施例1と同一の条件で試料を作成した。
【0053】
<実施例5>
酸化セリウムの厚みを200nm としたこと以外は実施例1と同一の条件で試料を作成した。
【0054】
<実施例6>
実施例1と同一の条件で試料を作成したのちに、そのままスパッタリング装置にて酸化ケイ素を5nmの厚みで成膜した。
【0055】
<実施例7>
基材として、シクロオレフィンポリマー(COP)を用いた。スパッタリング装置に基材を設置する前に、プラズマ処理できる真空装置にてCOPの表面をアルゴンプラズマにて5W、60秒暴露し表面の汚染を除去したのち直ちにスパッタリング装置に基材をセットした。その後実施例1と同一の条件で試料を作成した。
【0056】
<比較例1>
基材として無アルカリガラス(日本電気硝子製OA-10G)を用いた。基材は中性洗剤を用いて水洗したのち、エタノール液中で超音波洗浄を10分間行い、液中から引き上げたのち、直ちにエアガンにて液滴を除去し乾燥して試料を作成した。
【0057】
<比較例2>
基材として無アルカリガラス(日本電気硝子製OA-10G)を用いた。基材は中性洗剤を用いて水洗したのち、エタノール液中で超音波洗浄を10分間行い、液中から引き上げたのち、直ちにエアガンにて液滴を除去し乾燥した。RFスパッタリング装置に基材をセットして、排気後、酸化チタンを50nm成膜したのちに取り出し、試料を作成した。
【0058】
<比較例3>
比較例2と同一の条件作成した試料を電気炉で300℃まで昇温したのち、2時間保持し、その後電気炉の加熱を止め室温に戻るまで炉中で冷却したのち取り出して試料を作成した。
【0059】
<比較例4>
酸化セリウムを酸化ジルコニウムに変えたこと以外は実施例1と同一の条件で試料を作成した。
【0060】
<比較例5>
酸化ジルコニウムの厚みを10nmとしたこと以外は比較例4と同一の条件で試料を作成した。
【0061】
<比較例6>
酸化セリウムを酸化ハフニウムに変えたこと以外は実施例1と同一の条件で試料を作成した。
【0062】
<評価>
<超親水性評価>
作成した試料は外光の影響を除くために48時間暗所に静置した。その後、取り出してキセノン促進耐候性試験機Q-SUN Xe-3(Q-Lab Corp.製)に設置した。キセノン光は太陽光のスペクトルに近く、光量も制御できるため正確に光触媒の効果を検証することができる。放射照度 64W/m2(0.55W/m2/nm)@340nm)、フィルターをDaylight-B/Bを使用し、ブラックパネル温度70℃とし温度47℃相対湿度50%で1時間照射した。取り出し後、30分以内に水の接触角を評価して超親水性の有無を評価した。水の接触角は全自動接触角計DMo―702(協和界面科学(株)製)を用い、純水を1.5μL滴下し接触角を測定した。測定は3回繰り返し平均値を照射後接触角とした。
【0063】
<評価結果>
<実施例1~3>
表2から明らかなように酸化セリウムの厚みを10~100nmの範囲とし、酸化チタンの厚みを50nmとすると、キセノン光照射後の接触角がいずれも10°以下となり、超親水性状態になっており光触媒として機能していることが分かる。
【0064】
<実施例4~5>
実施例1~3に比べて酸化チタンの厚みをそれぞれ20nm、200nmとしてもキセノン光照射後の接触角がいずれも10°以下となり、超親水性状態になっており光触媒として機能していることが分かる。
【0065】
<実施例6>
表面に親水保持層である酸化ケイ素層を形成してもキセノン光照射後の接触角は10°以下であり超親水性状態となっており光触媒として機能していることが分かる。
【0066】
<実施例7>
COPのガラス転移点は150℃であるが、成膜後の試料は変形など発生しておらず高温にさらされていないことが分かる。キセノン光照射後の接触角は10°以下であり超親水性状態となっており光触媒として機能していることが分かる。
【0067】
<比較例1>
ガラス基板単体ではキセノン光照射後の接触角は10°以下とはならず、光触媒性能は発現していないことが分かる。
【0068】
<比較例2>
酸化チタンのみを室温で成膜して、熱処理を施さない場合では、キセノン光照射後の接触角は10°以下とはならず、光触媒性能は発現していない。これにより、光触媒性能は酸化チタンを形成しただけでは発現しないことが明らかである。
【0069】
<比較例3>
比較例2と同じ条件で成膜したものを熱処理して、キセノン光を照射したところ接触角は10°以下となっており超親水性状態になっており光触媒性能が得られている。しかし、300℃という高温の熱処理が必要であることが明らかである。
【0070】
<比較例4>
酸化セリウムの代わりに酸化ジルコニウムを下地層とした場合、キセノン光を照射したところ接触角は10°以下となっており超親水性状態になっており光触媒性能が得られている。しかし、表1に示した通り酸化ジルコニウムの成膜速度は酸化セリウムに比べ遅く、生産性に劣っている。
【0071】
<比較例5>
成膜速度の遅さの影響を軽減する目的で酸化ジルコニウムを10nmと薄くすると、キセノン光照射後の接触角は10°以下とはならず、光触媒性能は発現していない。それに対して実施例2で示したように酸化セリウムは薄い膜厚でも光触媒性能を示しており、酸化ジルコニウムに対する優位性を示している。
【0072】
<比較例6>
酸化セリウムの代わりに酸化ハフニウムを下地層とした場合、キセノン光照射後の接触角は10°以下とはならず光触媒性能は発現していない。このことから本発明の酸化セリウムが光触媒性能を発現する下地に適していることが分かる。
【0073】
以上説明した通り、本実施形態によれば、熱処理することなしに高い生産性を示す光触媒部材を提供することができる。本実施形態によりウィルスや病原菌の滅菌、シックハウス症候群の原因となるホルムアルデヒドの分解、防曇フィルムなどに供する光触媒部材を提供することができる。
【0074】
更に光干渉効果を利用する光学フィルムにおいて本実施形態を適用することにより汗などの有機物を分解する機能を付与することができ、常に優れた光学特性を維持することができる。
【0075】
【0076】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。