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特開2023-148634水性2液型クリヤー塗料組成物および自動車補修用塗料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023148634
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】水性2液型クリヤー塗料組成物および自動車補修用塗料
(51)【国際特許分類】
   C09D 175/04 20060101AFI20231005BHJP
   C09D 133/08 20060101ALI20231005BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20231005BHJP
   C09D 175/08 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C09D175/04
C09D133/08
C09D7/65
C09D175/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022056771
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】515096952
【氏名又は名称】日本ペイント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100088801
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 宗雄
(72)【発明者】
【氏名】田西 一磨
(72)【発明者】
【氏名】小川 弘隆
(72)【発明者】
【氏名】松田 智明
(72)【発明者】
【氏名】田渕 新二
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CG141
4J038DF011
4J038DG131
4J038DG191
4J038DG261
4J038GA03
4J038MA08
4J038NA11
4J038PA19
4J038PB07
4J038PC02
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】耐擦り傷性、および擦り傷に起因して低下した光沢の回復性に優れる塗膜が得られる水性2液型クリヤー塗料組成物を提供する。
【解決手段】主剤(A)および硬化剤(B)を含み、前記主剤(A)は、水酸基含有アクリル樹脂(a1)と、水性溶媒(a2)と、を含み、前記硬化剤(B)は、イソシアネート化合物(b1)と、水酸基を有さない有機溶媒(b2)と、を含み、前記水酸基含有アクリル樹脂(a1)の側鎖および前記イソシアネート化合物(b1)の少なくとも一方は、ソフトセグメント部分を有し、前記ソフトセグメント部分は、下記式(x)、(y)および(z):
-X-(OC-Y (x)
-X-(OC-Y (y)
-X-(CH-Y (z)
(式中、式中、各記号は明細書中と同意義である。)
で表される鎖よりなる群から選択される少なくとも1つを含む、水性2液型クリヤー塗料組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主剤(A)および硬化剤(B)を含み、
前記主剤(A)は、
水酸基含有アクリル樹脂(a1)と、
水性溶媒(a2)と、を含み、
前記硬化剤(B)は、
イソシアネート化合物(b1)と、
水酸基を有さない有機溶媒(b2)と、を含み、
前記水酸基含有アクリル樹脂(a1)の側鎖および前記イソシアネート化合物(b1)の少なくとも一方は、ソフトセグメント部分を有し、
前記ソフトセグメント部分は、
下記式(x)、(y)および(z):
-X-(OC-Y (x)
-X-(OC-Y (y)
-X-(CH-Y (z)
[式中、
pおよびqは、それぞれ独立して2以上の整数を表し、
rは、6以上の整数を表し、
前記水酸基含有アクリル樹脂(a1)の側鎖が前記ソフトセグメント部分を有する場合、
およびXは、それぞれ独立して、-C(=O)-を表わし、
は、-C(=O)-O-を表わし、
は、-E-OH(式中、Eは、単結合、またはオキシエチレン基以外の二価の有機基である。)で表され、
は、-E-OH(式中、Eは、単結合、またはオキシプロピレン基以外の二価の有機基である。)で表され、
は、-E-OH(式中、Eは、単結合、またはアルキレン基以外の二価の有機基である。)で表され、
前記イソシアネート化合物(b1)が前記ソフトセグメント部分を有する場合、
およびXは、それぞれ独立して、-NH-C(=O)-を表わし、
は、-NH-C(=O)-、または、-NH-C(=O)-O-を表わし、
は、-E-NCO(式中、Eは上記と同意義である。)で表され、
は、-E-NCO(式中、Eは上記と同意義である。)で表され、
は、-E-NCO(式中、Eは上記と同意義である。)で表される。]
で表される鎖よりなる群から選択される少なくとも1つを含む、水性2液型クリヤー塗料組成物。
【請求項2】
前記イソシアネート化合物(b1)は、親水性イソシアネート化合物(b11)および疎水性イソシアネート化合物(b12)を含む、請求項1に記載の水性2液型クリヤー塗料組成物。
【請求項3】
前記ソフトセグメント部分は、少なくとも前記疎水性イソシアネート化合物(b12)に含まれる、請求項2に記載の水性2液型クリヤー塗料組成物。
【請求項4】
前記ソフトセグメント部分の前記疎水性イソシアネート化合物(b12)に占める割合は、40質量%以上90質量%以下である、請求項3に記載の水性2液型クリヤー塗料組成物。
【請求項5】
前記親水性イソシアネート化合物(b1)の固形分質量Wb1と前記疎水性イソシアネート化合物(b2)の固形分質量Wb2との比:Wb1/Wb2は、99/1から76/24である、請求項2に記載の水性2液型クリヤー塗料組成物。
【請求項6】
前記主剤(A)は、さらに、ポリオール化合物(a3)を含む、請求項1に記載の水性2液型クリヤー塗料組成物。
【請求項7】
さらに、モリブデン化合物(C)を含む、請求項1に記載の水性2液型クリヤー塗料組成物。
【請求項8】
請求項1に記載の水性2液型クリヤー塗料組成物を含む、自動車補修用塗料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性2液型クリヤー塗料組成物および自動車補修用塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の補修塗装には、鮮映性や仕上がり外観が向上し易い点で、溶剤系の塗料が用いられている。近年、環境に対する関心が高まり、溶剤系塗料に替わって、水性塗料の需要が高まっている。(例えば、特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-22948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記のような水性塗料によって形成される自動車の補修塗膜には、洗車等により擦り傷が形成され易い。
【0005】
本発明の目的は、耐擦り傷性、および擦り傷に起因して低下した光沢の回復性に優れる塗膜、特に補修塗膜が得られる、水性2液型クリヤー塗料組成物を提供することである。本発明の目的は、また、上記水性2液型クリヤー塗料組成物を含む自動車補修用塗料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記態様[1]~[8]を提供する。
[1]
主剤(A)および硬化剤(B)を含み、
前記主剤(A)は、
水酸基含有アクリル樹脂(a1)と、
水性溶媒(a2)と、を含み、
前記硬化剤(B)は、
イソシアネート化合物(b1)と、
水酸基を有さない有機溶媒(b2)と、を含み、
前記水酸基含有アクリル樹脂(a1)の側鎖および前記イソシアネート化合物(b1)の少なくとも一方は、ソフトセグメント部分を有し、
前記ソフトセグメント部分は、
下記式(x)、(y)および(z):
-X-(OC-Y (x)
-X-(OC-Y (y)
-X-(CH-Y (z)
[式中、
pおよびqは、それぞれ独立して2以上の整数を表し、
rは、6以上の整数を表し、
水酸基含有アクリル樹脂(a1)の側鎖がソフトセグメント部分を有する場合、
およびXは、それぞれ独立して、-C(=O)-を表わし、
は、-C(=O)-O-を表わし、
は、-E-OH(式中、Eは、単結合、またはオキシエチレン基以外の二価の有機基である。)で表され、
は、-E-OH(式中、Eは、単結合、またはオキシプロピレン基以外の二価の有機基である。)で表され、
は、-E-OH(式中、Eは、単結合、またはアルキレン基以外の二価の有機基である。)で表され、
イソシアネート化合物(b1)が前記ソフトセグメント部分を有する場合、
およびXは、それぞれ独立して、-NH-C(=O)-を表わし、
は、-NH-C(=O)-、または、-NH-C(=O)-O-を表わし、
は、-E-NCO(式中、Eは上記と同意義である。)で表され、
は、-E-NCO(式中、Eは上記と同意義である。)で表され、
は、-E-NCO(式中、Eは上記と同意義である。)で表される。]
で表される鎖よりなる群から選択される少なくとも1つを含む、水性2液型クリヤー塗料組成物。
【0007】
[2]
前記イソシアネート化合物(b1)は、親水性イソシアネート化合物(b11)および疎水性イソシアネート化合物(b12)を含む、上記[1]に記載の水性2液型クリヤー塗料組成物。
【0008】
[3]
前記ソフトセグメント部分は、少なくとも前記疎水性イソシアネート化合物(b12)に含まれる、上記[2]に記載の水性2液型クリヤー塗料組成物。
【0009】
[4]
前記ソフトセグメント部分の前記疎水性イソシアネート化合物(b12)に占める割合は、40質量%以上90質量%以下である、上記[3]に記載の水性2液型クリヤー塗料組成物。
【0010】
[5]
前記親水性イソシアネート化合物(b1)の固形分質量Wb1と前記疎水性イソシアネート化合物(b2)の固形分質量Wb2との比:Wb1/Wb2は、99/1から76/24である、上記[2]に記載の水性2液型クリヤー塗料組成物。
【0011】
[6]
前記主剤(A)は、さらに、ポリオール化合物(a3)を含む、上記[1]に記載の水性2液型クリヤー塗料組成物。
【0012】
[7]
さらに、モリブデン化合物(C)を含む、上記[1]に記載の水性2液型クリヤー塗料組成物。
【0013】
[8]
上記[1]に記載の水性2液型クリヤー塗料組成物を含む、自動車補修用塗料。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、耐擦り傷性、および擦り傷に起因して低下した光沢の回復性に優れる塗膜、特に補修塗膜が得られる、水性2液型クリヤー塗料組成物が提供される。本発明によれば、また、上記水性2液型クリヤー塗料組成物を含む自動車補修用塗料が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[水性2液型クリヤー塗料組成物]
本実施形態に係る水性2液型クリヤー塗料組成物(以下、単に塗料組成物と称する場合がある。)は、主剤(A)および硬化剤(B)を含む2液型である。主剤(A)は、水酸基含有アクリル樹脂(a1)と水性溶媒(a2)とを含む。硬化剤(B)は、イソシアネート化合物(b1)と水酸基を有さない有機溶媒(b2)とを含む。
【0016】
水酸基含有アクリル樹脂(a1)の側鎖およびイソシアネート化合物(b1)の少なくとも一方は、ソフトセグメント部分を有する。
【0017】
ソフトセグメント部分は、
下記式(x)、(y)および(z):
-X-(OC-Y (x)
-X-(OC-Y (y)
-X-(CH-Y (z)
[式中、
pおよびqは、それぞれ独立して2以上の整数を表し、
rは、6以上の整数を表し、
水酸基含有アクリル樹脂(a1)の側鎖がソフトセグメント部分を有する場合、
およびXは、それぞれ独立して、-C(=O)-を表わし、
は、-C(=O)-O-を表わし、
は、-E-OH(式中、Eは、単結合、あるいはOC以外の二価の有機基である。)で表され、
は、-E-OH(式中、Eは、単結合、あるいはOC以外の二価の有機基である。)で表され、
は、-E-OH(式中、Eは、単結合、あるいは、酸素原子、窒素原子、◆〇○を含む二価の有機基である。)で表され、
イソシアネート化合物(b1)が前記ソフトセグメント部分を有する場合、
およびXは、それぞれ独立して、-NH-C(=O)-を表わし、
は、-NH-C(=O)-、または、-NH-C(=O)-O-を表わし、
は、-E-NCO(式中、Eは上記と同意義である。)で表され、
は、-E-NCO(式中、Eは上記と同意義である。)で表され、
は、-E-NCO(式中、Eは上記と同意義である。)で表される。]
で表される鎖よりなる群から選択される少なくとも1つを含む。
【0018】
ソフトセグメント部分は、塗膜においてバネのような役割を果たす。擦り傷は、外力による塗膜の微細な変形である。本実施形態に係る塗料組成物により得られる塗膜は、ソフトセグメント部分を含むため、外力によって変形し難い。さらに、変形した場合にも、塗膜は容易に変形から回復することができる。つまり、本実施形態に係る塗料組成物により得られる塗膜は、耐擦り傷性、および擦り傷に起因して低下した光沢の回復性(以下、単に光沢回復性と称する。)に優れる。そのため、本実施形態に係る塗料組成物は、特に補修塗膜の形成に適している。
【0019】
補修塗膜は、既存の塗膜を研磨により剥離した後、その剥離部分に形成される塗膜である。通常、新車の塗膜よりも低温(例えば、40℃以上100℃以下)で硬化される補修塗膜は、物性が低下し易い。本実施形態に係る塗料組成物により得られる補修塗膜は、耐擦り傷性および光沢回復性に優れるため、既存の塗膜に劣らない物性を有し得る。
【0020】
以下、「塗膜」という記載は、補修塗膜を含む。補修用塗料は、この補修塗膜の形成に用いられる塗料である。補修塗装は、既存の塗膜を研磨により剥離した後、その剥離部分に行われる塗装である。以下、「塗装」という記載は、補修塗装を含む。
【0021】
ソフトセグメント部分は、水酸基含有アクリル樹脂(a1)の側鎖に含まれていてよく、イソシアネート化合物(b1)に含まれていてよく、これらの双方に含まれていてよい。ソフトセグメント部分は、イソシアネート化合物(b1)に含まれていてよい。
【0022】
<主剤(A)>
主剤(A)は、水酸基含有アクリル樹脂(a1)および水性溶媒(a2)を含む。主剤(A)の固形分濃度は特に限定されない。主剤(A)の固形分濃度は、例えば、30質量%以上60質量%以下である。
【0023】
(水酸基含有アクリル樹脂(a1))
水酸基含有アクリル樹脂(a1)は、得られる塗膜の外観、耐候性、耐薬品性等の諸物性を向上させる。
【0024】
水酸基含有アクリル樹脂(a1)は、水性溶媒(a2)に分散したエマルションの形態を有している。主剤(A)における水酸基含有アクリル樹脂(a1)の粒子径は特に限定されない。粘度制御のし易さ、および得られる塗膜の外観の点で、水酸基含有アクリル樹脂(a1)の平均粒子径は、0.01μm以上であってよく、0.05μm以上であってよい。同様に、水酸基含有アクリル樹脂(a1)の平均粒子径は、1.0μm以下であってよく、0.5μm以下であってよい。一態様において、水酸基含有アクリル樹脂(a1)の平均粒子径は、0.01μm以上1.0μm以下である。平均粒子径は、動的光散乱法により測定される、体積基準の粒度分布における50%径(メジアン径、D50)である。
【0025】
水酸基含有アクリル樹脂(a1)の固形分濃度は、主剤(A)に含まれる全固形分の30質量%以上であってよく、35質量%以上であってよく、40質量%以上であってよい。水酸基含有アクリル樹脂(a1)の固形分濃度は、主剤(A)に含まれる全固形分の95質量%以下であってよく、90質量%以下であってよく、85質量%以下であってよい。一態様において、水酸基含有アクリル樹脂(a1)の固形分濃度は、主剤(A)に含まれる全固形分の30質量%以上95質量%以下である。水酸基含有アクリル樹脂(a1)の固形分濃度が上記の範囲であると、得られる塗膜の強度が高まり易い。
【0026】
水酸基含有アクリル樹脂(a1)の水酸基価は、5mgKOH/g以上であってよく、50mgKOH/g以上であってよい。水酸基含有アクリル樹脂(a1)の水酸基価は、200mgKOH/g以下であってよく、150mgKOH/g以下であってよい。一態様において、水酸基含有アクリル樹脂(a1)の水酸基価は、5mgKOH/g以上200mgKOH/g以下である。水酸基含有アクリル樹脂(a1)の水酸基価が上記の範囲であると、得られる塗膜の強度が十分に高くなるとともに、耐水性も向上し易い。
【0027】
水酸基含有アクリル樹脂(a1)の酸価は、5mgKOH/g以上であってよく、10mgKOH/g以上であってよい。水酸基含有アクリル樹脂(a1)の酸価は、100mgKOH/g以下であってよく、50mgKOH/g以下であってよい。一態様において、水酸基含有アクリル樹脂(a1)の酸価は、5mgKOH/g以上100mgKOH/g以下である。水酸基含有アクリル樹脂(a1)の酸価が上記の範囲であると、水酸基含有アクリル樹脂(a1)の水分散性が高まるとともに、得られる塗膜の耐水性も向上し易い。
【0028】
水酸基含有アクリル樹脂(a1)の数平均分子量は、1,000以上であってよく、2,000以上であってよく、3,000以上であってよい。水酸基含有アクリル樹脂(a1)の数平均分子量は、100,000以下であってよく、50,000以下であってよく、10,000以下であってよい。一態様において、水酸基含有アクリル樹脂(a1)の数平均分子量は、1,000以上100,000以下である。水酸基含有アクリル樹脂(a1)の数平均分子量が上記の範囲であると、水性2液型クリヤー塗料組成物の粘度の過度な上昇が抑制されて、得られる塗膜の外観が向上するとともに、その強度も十分に高くなり易い。
【0029】
水酸基価および酸価は、いずれも固形分を基準としており、JIS K 0070に準じて測定することができる。数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定される、スチレンホモポリマー換算値である。以下同様である。
【0030】
水酸基含有アクリル樹脂(a1)は、例えば、1種以上の原料モノマーを乳化重合することによって得られる。乳化重合は、当業者において一般的に行われる方法により行われる。具体的には、必要に応じてアルコール等の有機溶剤を含む水性媒体に乳化剤を混合し、得られた混合物を加熱および撹拌させながら、原料モノマーおよび重合開始剤を滴下する。また、原料モノマー、乳化剤および水を予め乳化した乳化混合物を、水性媒体中に滴下してもよい。上記水性媒体は、水性溶媒(a2)と同じでも異なっていてもよい。
【0031】
水酸基含有アクリル樹脂(a1)は、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマー、酸基含有エチレン性不飽和モノマー、水酸基含有エチレン性不飽和モノマー、およびスチレン系モノマーを含む原料モノマー混合物を、乳化重合することにより得られる。
【0032】
≪第1ソフトセグメント部分≫
水酸基含有アクリル樹脂(a1)は、側鎖にソフトセグメント部分(以下、第1ソフトセグメント部分と称する。)を有し得る。
【0033】
第1ソフトセグメント部分は、下記式(x1)、(y1)および(z1):
-X11-(OCp1-Y11 (x1)
-X21-(OCq1-Y21 (y1)
-X31-(CHr1-Y31 (z1)
[式中、
p1およびq1は、それぞれ独立して2以上の整数を表し、
r1は、6以上の整数を表し、
11およびX21は、それぞれ独立して、-C(=O)-を表わし、
31は、-C(=O)-O-を表わし、
11は、-E11-OH(式中、E11は、単結合、またはオキシエチレン基以外の二価の有機基である。)で表され、
21は、-E21-OH(式中、E21は、単結合、またはオキシプロピレン基以外の二価の有機基である。)で表され、
31は、-E31-OH(式中、E31は、単結合、またはアルキレン基以外の二価の有機基である。)で表される。]
で表される鎖よりなる群から選択される少なくとも1つを含む。
【0034】
式(x1)で表される第1ソフトセグメント部分に含まれるポリオキシエチレン鎖(-(OCp1-)は、直鎖状(-(OCHCHp1-)であってよく、分岐(-(OCH(CH))p1-)していてよい。ポリオキシエチレン鎖は、直鎖状(-(OCHCHp1-)であってよい。
【0035】
式(y1)で表される第1ソフトセグメント部分に含まれるポリオキシプロピレン鎖(-(OCq1-)は、直鎖状(-(OCHCHCHq1-)であってよく、分岐(-(OCH(CH)CHq1-)、または、-(OCHCH(CH))q1-)していてよい。ポリオキシプロピレン鎖は、分岐していてよく、-(OCH(CH)CHq1-であってよい。
【0036】
式(z1)で表される第1ソフトセグメント部分に含まれるアルキレン鎖(-(CHr1-)は、直鎖状であってよく、分岐していてよく、環状であってよい。アルキレン鎖は、直鎖状であってよい。
【0037】
繰り返し単位数p1およびq1は、それぞれ独立して2以上の整数であり、r1は、6以上の整数である。繰り返し単位数p1、q1およびr1の上限値は、水酸基含有アクリル樹脂(a1)の数平均分子量や、第1ソフトセグメント部分の水酸基含有アクリル樹脂(a1)に占める割合を考慮して、適宜設定すればよい。
【0038】
耐擦り傷性および光沢回復性の観点から、繰り返し単位数p1およびq1は、それぞれ独立して3以上であってよく、4以上であってよい。初期の光沢値が向上し易い点で、繰り返し単位数p1およびq1は、それぞれ独立して10以下であってよく、8以下であってよい。一態様において、繰り返し単位数p1およびq1は、それぞれ独立して3以上10以下である。同様の観点から、繰り返し単位数r1は、5以上であってよく、8以上であってよい。繰り返し単位数r1は、15以下であってよく、12以下であってよい。一態様において、繰り返し単位数r1は、5以上15以下である。
【0039】
ポリオキシエチレン鎖、ポリオキシプロピレン鎖およびアルキレン鎖の一方の結合手は、X11、X21またはX31にそれぞれ結合している。ポリオキシエチレン鎖、ポリオキシプロピレン鎖およびアルキレン鎖の他方の結合手は、Y11、Y21またはY31に結合している。
【0040】
11は、-E11-OH(式中、E11は、単結合、あるいはオキシエチレン基以外の二価の有機基である。)で表される。オキシエチレン基以外の二価の有機基としては、例えば、炭素数1~8の炭化水素基、炭素原子および窒素原子を含む基、オキシプロピレン基、および、エーテル結合が挙げられる。炭化水素基は、脂肪族炭化水素基であってよく、脂環式炭化水素基を有していてよく、芳香族炭化水素基を有していてよい。脂肪族炭化水素基は、直鎖状であってよく、分岐していてよい。E11は単結合であってよい。
【0041】
21は、-E21-OH(式中、E21は、単結合、あるいはオキシプロピレン基以外の二価の有機基である。)で表される。オキシプロピレン基以外の二価の有機基としては、例えば、炭素数1~8の炭化水素基、炭素原子および窒素原子を含む基、オキシエチレン基、および、エーテル結合が挙げられる。炭化水素基は、E11と同様である。E21は単結合であってよい。
【0042】
31は、-E31-OH(式中、E31は、単結合、あるいは、アルキレン基以外の二価の有機基である。)で表される。アルキレン基以外の二価の有機基としては、炭素原子とともに、例えば、酸素原子および/または窒素原子を含む基、および、エーテル結合が挙げられる。アルキレン基以外の二価の有機基は、オキシエチレン基、オキシプロピレン基等のオキシアルキレン基であってよい。E31は単結合であってよい。
【0043】
上記の通り、第1ソフトセグメント部分は、末端に水酸基を有する。この水酸基は、イソシアネート基との反応に用いられる。そのため、架橋密度を低下させることなく、塗膜にバネ機能を付与できる。
【0044】
11、X21およびX31の一方の結合手は、上記の通り、ポリオキシエチレン鎖、ポリオキシプロピレン鎖あるいはアルキレン鎖に結合している。X11、X21およびX31の他方の結合手は、例えば、水酸基含有アクリル樹脂(a1)の主鎖を構成する炭素原子に結合している。
【0045】
11およびX21は、それぞれ独立して-C(=O)-を表わす。具体的には、X11およびX21はそれぞれ、エステル結合から酸素原子を1つ除いた2価の有機基を表わし、隣接するポリオキシエチレン鎖またはポリオキシプロピレン鎖の酸素原子とともに、エステル結合を構成する。
【0046】
31は、-C(=O)-O-を表わす。具体的には、X31は、エステル結合である。
【0047】
第1ソフトセグメント部分を有する水酸基含有アクリル樹脂(a1)は、原料モノマーの一部に、第1ソフトセグメント部分を有するものを用いることにより得られる。このような原料モノマーとしては、例えば、炭素数2および/または3のアルキレンオキサイド基を有する(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートのε-カプロラクトン付加物が挙げられる。第1ソフトセグメント部分を有する原料モノマーの使用割合は、例えば、全原料モノマーの30質量%以上60質量%以下である。この場合、第1ソフトセグメント部分の水酸基含有アクリル樹脂(a1)に占める割合(以下、占有割合Aと称す。)もまた、30質量%以上60質量%以下であり得る。
【0048】
塗料組成物は、異なる第1ソフトセグメント部分を有する複数種の水酸基含有アクリル樹脂(a1)を含んでいてよい。塗料組成物は、第1ソフトセグメント部分を有する水酸基含有アクリル樹脂(a1)と、第1ソフトセグメント部分を有さない水酸基含有アクリル樹脂(a1)とを含んでいてよい。1つの水酸基含有アクリル樹脂(a1)は、異なる複数種の第1ソフトセグメント部分を有していてよい。
【0049】
(水性溶媒(a2))
水性溶媒としては、純水、イオン交換水、水道水、工業水等の各種水が挙げられる。主剤(A)は、水性溶媒とともに、有機溶媒を含んでもよい。有機溶媒としては、例えば、ジエチレングリコールジブチルエーテル(ジブチルジグリコール)、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、エチルジグリコールアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、n-ブチルアルコール、メトキシプロパノール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノヘキシルエーテルが挙げられる。
【0050】
(ポリオール化合物(a3))
塗料組成物は、さらに、水酸基含有アクリル樹脂(a1)以外のポリオール化合物(a3)を含んでいてよい。ポリオール化合物(a3)としては、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリウレタンポリオール、ポリカーボネートポリオールが挙げられる。
【0051】
ポリオール化合物(a3)の1分子あたりの水酸基数は、2以上であればよく、3以上であってよい。ポリオール化合物(a3)の1分子あたりの水酸基数は、5以下であってよく、4以下であってよい。一態様において、ポリオール化合物(a3)の1分子あたりの水酸基数は、2であってよく、3であってよい。
【0052】
水酸基含有アクリル樹脂(a1)の固形分質量Wa1とポリオール化合物(a3)の固形分質量Wa2との比:Wa1/Wa2は、95/5から60/40である。これにより、塗膜に、高い耐擦り傷性および光沢回復性を付与することができる。
【0053】
耐擦り傷性の観点から、Wa1とWa2との合計を100質量部としたとき、ポリオール化合物(a3)の固形分質量Wa2は、10質量部以上であってよく、15質量部以上であってよい。塗膜の耐水性等の観点から、Wa1とWa2との合計を100質量部としたとき、ポリオール化合物(a3)の固形分質量Wa2は、35質量部以下であってよく、30質量部以下であってよい。
【0054】
ポリオール化合物(a3)の固形分濃度は、主剤(A)に含まれる全固形分の5質量%以上であってよく、10質量%以上であってよく、12質量%以上であってよい。ポリオール化合物(a3)の固形分濃度は、主剤(A)に含まれる全固形分の40質量%以下であってよく、35質量%以下であってよく、32質量%以下であってよい。一態様において、ポリオール化合物(a3)の固形分濃度は、主剤(A)に含まれる全固形分の5質量%以上40質量%以下である。
【0055】
≪第3ソフトセグメント部分を有するポリオール(a3)≫
ポリオール化合物(a3)は、第3ソフトセグメント部分を有していてよい。これにより、塗膜の耐擦り傷性および光沢回復性はさらに向上する。第3ソフトセグメント部分は、下記式(1)、(2)および(3)で表される鎖よりなる群から選択される少なくとも1つを含む。第3ソフトセグメント部分は、塗膜においてバネのような役割を果たす。
【0056】
式(1)、(2)および(3):
-(OC- (1)
-(OC- (2)
-(OC(=O)O-R)- (3)
(式中、a、bおよびcは、それぞれ独立して2以上の整数を表し、Rは、炭素数1~8の炭化水素基を表わす。)
【0057】
塗料組成物は、異なる第3ソフトセグメント部分を有する複数種のポリオール化合物(a3)を含んでいてよく、同種の第3ソフトセグメント部分を有する異なる複数のポリオール化合物(a3)を含んでいてよい。1つのポリオール化合物(a3)は、異なる複数種の第3ソフトセグメント部分を有していてよい。
【0058】
式(1):-(OC-で表される鎖(ポリオキシエチレン鎖)は、直鎖状(-(OCHCH-)であってよく、分岐(-(OCH(CH))-)していてよい。ポリオキシエチレン鎖は、直鎖状(-(OCHCH-)であってよい。
【0059】
式(2):-(OC-で表される鎖(ポリオキシプロピレン鎖)は、直鎖状(-(OCHCHCH-)であってよく、分岐(-(OCH(CH)CH-)、または、-(OCHCH(CH))-)していてよい。ポリオキシプロピレン鎖は、分岐していてよく、-(OCH(CH)CH-であってよい。
【0060】
式(3):-(OC(=O)O-R)-で表される鎖(ポリカーボネート鎖)において、Rは、炭素数1~8の炭化水素基を表わす。炭化水素基は、脂肪族炭化水素基であってよく、脂環式炭化水素基を有していてよく、芳香族炭化水素基を有していてよい。脂肪族炭化水素基は、直鎖状であってよく、分岐していてよい。Rは、炭素数4~6の直鎖状または分岐している脂肪族炭化水素基であってよい。
【0061】
繰り返し単位数a、b、cは特に限定されず、2以上であればよい。繰り返し単位数a、b、cは、ポリオール化合物(a3)の数平均分子量や、第3ソフトセグメント部分のポリオール化合物(a3)に占める割合を考慮して、適宜設定すればよい。耐擦り傷性および光沢回復性の観点から、繰り返し単位数a、b、cは、それぞれ独立して3以上であってよい。初期の光沢値が向上し易い点で、繰り返し単位数a、b、cは、それぞれ独立して12以下であってよく、8以下であってよい。一態様において、繰り返し単位数a、b、cは、それぞれ独立して3以上12以下である。
【0062】
第3ソフトセグメント部分を有するポリオール化合物(a3)として、具体的には、ポリエーテルポリオールおよびポリカーボネートポリオールが挙げられる。初期の光沢値の点で、ポリエーテルポリオールであってよい。
【0063】
ポリエーテルポリオールとしては、多価アルコール、多価フェノール、多価カルボン酸類等の活性水素含有化合物に、エチレンオキサイドおよび/またはプロピレンオキサイドが付加した化合物が挙げられる。活性水素原子含有化合物としては、例えば、水;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-ジヒドロキシメチルシクロヘキサン、シクロヘキシレングリコール等の2価のアルコール;グリセリン、トリオキシイソブタン、1,2,3-ブタントリオール、1,2,3-ペンタントリオール、2-メチル-1,2,3-プロパントリオール、2-メチル-2,3,4-ブタントリオール、2-エチル-1,2,3-ブタントリオール、2,3,4-ペンタントリオール、2,3,4-ヘキサントリオール、4-プロピル-3,4,5-ヘプタントリオール、2,4-ジメチル-2,3,4-ペンタントリオール、ペンタメチルグリセリン、ペンタグリセリン、1,2,4-ブタントリオール、1,2,4-ペンタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン等の3価アルコール;ペンタエリスリトール、1,2,3,4-ペンタンテトロール、2,3,4,5-ヘキサンテトロール、1,2,4,5-ペンタンテトロール、1,3,4,5-ヘキサンテトロール、ジグリセリン、ソルビタン等の4価アルコール;アドニトール、アラビトール、キシリトール、トリグリセリン等の5価アルコール:ジペンタエリスリトール、ソルビトール、マンニトール、イジトール、イノシトール、ダルシトール、タロース、アロース等の6価アルコール;蔗糖等の8価アルコール;ポリグリセリン;ピロガロール、ヒドロキノン、フロログルシン等の多価フェノール;ビスフェノールA、ビスフェノールスルフォン等のビスフェノール類;コハク酸、アジピン酸等の脂肪族ポリカルボン酸;フタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸等の芳香族ポリカルボン酸が挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0064】
ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、ポリオール(典型的には、ジオール)とカルボニル化剤との反応物が挙げられる。ジオールとしては、例えば、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、2-エチル-1,6-ヘキサンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族ジオール;1,3-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール;p-キシレンジオール、p-テトラクロロキシレンジオール等の芳香族ジオール;ジエチレングリコール;ジプロピレングリコールが挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。カルボニル化剤としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のアルキレンカーボネート;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート等のジアルキルカーボネート;ジフェニルカーボネート等のジアリールカーボネートが挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0065】
ポリオール化合物(a3)は、1分子内に2つの水酸基とポリオキシエチレン鎖とを有していてよい。このようなポリオール化合物(a3)として、具体的には、ポリオキシエチレングリコールが挙げられる。
【0066】
ポリオール化合物(a3)は、1分子内に2つの水酸基とポリオキシプロピレン鎖とを有していてよい。このようなポリオール化合物(a3)として、具体的には、ポリオキシプロピレングリコールが挙げられる。
【0067】
ポリオール化合物(a3)は、1分子内に2つの水酸基とポリカーボネート鎖とを有していてよい。このようなポリオール化合物(a3)として、具体的には、ポリカーボネートジオールが挙げられる。
【0068】
ポリオール化合物(a3)は、1分子内に3つの水酸基とポリオキシエチレン鎖とを有していてよい。このようなポリオール化合物(a3)として、具体的には、ポリエチレングリセリルエーテルが挙げられる。
【0069】
ポリオール化合物(a3)は、1分子内に3つの水酸基とポリオキシプロピレン鎖とを有していてよい。このようなポリオール化合物(a3)として、具体的には、ポリプロピレングリセリルエーテルが挙げられる。
【0070】
ポリオール化合物(a3)の数平均分子量は、耐擦り傷性の観点から、500以上であってよく、600以上であってよい。ポリオール化合物(a3)の数平均分子量は、初期の光沢値が向上し易い点で、3,000以下であってよく、1,500以下であってよい。ポリオール化合物(a3)の数平均分子量は、水酸基価から算出される理論値であってもよい。一態様において、ポリオール化合物(a3)の数平均分子量は、500以上3,000以下である。
【0071】
ポリオール化合物(a3)の水酸基価は、56mgKOH/g以上であってよく、112mgKOH/g以上であってよく、160mgKOH/g以上であってよい。ポリオール化合物(a3)の水酸基価は、330mgKOH/g以下であってよく、280mgKOH/g以下であってよい。一態様において、ポリオール化合物(a3)の水酸基価は、56mgKOH/g以上330mgKOH/g以下である。
【0072】
第3ソフトセグメント部分のポリオール化合物(a3)に占める割合(以下、占有割合Pと称す。)は、60質量%以上であってよく、65質量%以上であってよく、75質量%以上であってよく、82質量%以上であってよい。占有割合Pは、99質量%以下であってよく、98質量%以下であってよく、97質量%以下であってよく、95質量%以下であってよい。一態様において、占有割合Pは、60質量%以上99質量%以下である。これにより、塗膜は、バネ機能を発揮し易くなる。
【0073】
占有割合Pは、第3ソフトセグメント部分の質量をポリオール化合物(a3)の数平均分子量で除すことにより算出される。第3ソフトセグメント部分の質量は、その構造および繰り返し単位数から算出できる。繰り返し単位数は、当該ポリオール化合物(a3)の数平均分子量から算出できる。
【0074】
(その他)
主剤(A)は、必要に応じて、水酸基を含有しない樹脂を含み得る。主剤(A)はまた、水酸基含有アクリル樹脂(a1)および水性溶媒(a2)以外に、必要に応じて、各種添加剤を含み得る。添加剤としては、例えば、分散剤、消泡剤、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン光安定剤、酸化防止剤、粘性調整剤、表面調整剤、造膜助剤、防錆剤および増粘剤が挙げられる。
【0075】
(主剤(A)の調製方法)
主剤(A)は、上記成分を当業者に知られた方法によって混合することによって、調製することができる。混合方法としては、ニーダーまたはロール等を用いた混練混合法、サンドグラインドミルまたはディスパー等を用いた分散混合法が挙げられる。
【0076】
<硬化剤(B)>
硬化剤(B)は、イソシアネート化合物(b1)および水酸基を有さない有機溶媒(b2)を含む。硬化剤(B)の固形分濃度は特に限定されない。硬化剤(B)の固形分濃度は、例えば、20質量%以上70質量%以下である。
【0077】
(イソシアネート化合物(b1))
イソシアネート化合物(b1)は、主剤(A)の水酸基含有アクリル樹脂(a1)およびポリオール化合物(a3)が有する水酸基と反応し、架橋構造を形成する。
【0078】
イソシアネート化合物(b1)の含有量は、例えば、硬化剤(B)の全固形分の20質量%以上であってよく、30質量%以上であってよい。
【0079】
イソシアネート化合物(b1)の数平均分子量は、例えば、500以上であってよく、700以上であってよく、800以上であってよい。架橋密度が高まり易い点で、イソシアネート化合物(b1)の数平均分子量は、例えば、3,000以下であってよく、2,500以下であってよく、2,000以下であってよい。一態様において、イソシアネート化合物(b1)の数平均分子量は500以上3,000以下である。
【0080】
イソシアネート化合物(b1)は、1分子中に平均で2個以上のイソシアネート基を有するものであれば特に限定されない。イソシアネート化合物(b1)は、主剤(A)との相溶性の観点から、親水性であってよい。
【0081】
≪親水性イソシアネート化合物(b11)≫
親水性イソシアネート化合物(b11)は、1分子中に平均で2個以上のイソシアネート基とともに、水酸基以外の親水性基あるいは親水性部分を有する。
【0082】
水酸基以外の親水性基としては、例えば、リン酸基およびスルホン酸基の少なくとも一方が挙げられる。親水性部分としては、例えば、ポリオキシアルキレン鎖が挙げられる。オキシアルキレン基の炭素数は、例えば、2~4である。親水性イソシアネート化合物(b11)は、親水性部分として、炭素数2および/または3のオキシアルキレン基を有するポリオキシアルキレン鎖を有していてよい。
【0083】
親水性イソシアネート化合物(b11)は、例えば、従来公知のイソシアネート化合物(典型的には、後述する疎水性イソシアネート化合物(b12))に、イソシアネート基と反応する官能基(代表的には、水酸基)と水酸基以外の親水性基あるいは親水性部分とを有する化合物を反応させることにより得られる。
【0084】
≪疎水性イソシアネート化合物(b12)≫
イソシアネート化合物(b1)は、親水性イソシアネート化合物(b11)とともに疎水性イソシアネート化合物(b12)を含んでよい。これにより、架橋密度がさらに高まり易い。
【0085】
疎水性イソシアネート化合物(b12)は、1分子中に平均で2個以上のイソシアネート基を有し、疎水性であれば特に限定されない。疎水性イソシアネート化合物(b12)は、水酸基、上記の親水性基および親水性部分を有さない。疎水性イソシアネート化合物(b12)としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ペンタメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイシシアネート等の脂肪族ジイソシアネート;イソホロンジイソシアネート、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)等の脂環式ポリイソシアネート;4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;これらの変性体(例えば、ウレタン化物、カーボジイミド、ウレトジオン、ウレトンイミン、ビューレット体、イソシアヌレート体等)が挙げられる。
【0086】
親水性イソシアネート化合物(b11)の固形分質量Wb1と疎水性イソシアネート化合物(b12)の固形分質量Wb2との比:Wb1/Wb2は、例えば、99/1から75/25であり、99/1から76/24であってよい。これにより、架橋密度および初期の光沢値が向上し得る。架橋密度の観点から、Wb1とWb2との合計を100質量部としたとき、疎水性イソシアネート化合物(b12)の固形分質量Wb2は、2質量部以上であってよく、4質量部以上であってよい。初期の光沢値が向上し易い点で、Wb1とWb2との合計を100質量部としたとき、疎水性イソシアネート化合物(b12)の固形分質量Wb2は、20質量部以下であってよく、10質量部以下であってよい。
【0087】
≪第2ソフトセグメント部分≫
イソシアネート化合物(b1)は、ソフトセグメント部分(以下、第2ソフトセグメント部分と称する。)を有し得る。
【0088】
親水性イソシアネート化合物(b11)および疎水性イソシアネート化合物(b12)が併用される場合、第2ソフトセグメント部分は、いずれのイソシアネート化合物にあってもよく、両方にあってもよい。第2ソフトセグメント部分は、疎水性イソシアネート化合物(b12)にあってよい。
【0089】
第2ソフトセグメント部分は、例えば、下記式(x2)、(y2)および(z2):
-X12-(OCp2-Y12 (x2)
-X22-(OCq2-Y22 (y2)
-X32-(CHr2-Y32 (z2)
(式中、
p2およびq2は、それぞれ独立して2以上の整数を表し、
r2は、6以上の整数を表し、
12およびX22は、それぞれ独立して、-NH-C(=O)-を表わし、
32は、-NH-C(=O)-、または、-NH-C(=O)-O-を表わし、
12は、-E12-NCO(式中、E12は、単結合、またはオキシエチレン基以外の二価の有機基である。)で表され、
22は、-E22-NCO(式中、E22は、単結合、またはオキシプロピレン基以外の二価の有機基である。)で表され、
32は、-E32-NCO(式中、E32は、単結合、またはアルキレン基以外の二価の有機基である。)で表される。]
で表される鎖よりなる群から選択される少なくとも1つを含む。
【0090】
式(x2)で表される第2ソフトセグメント部分に含まれるポリオキシエチレン鎖は、直鎖状(-(OCHCHp2-)であってよく、分岐(-(OCH(CH))p2-)していてよい。ポリオキシエチレン鎖は、直鎖状(-(OCHCHp2-)であってよい。
【0091】
式(y2)で表される第2ソフトセグメント部分に含まれるポリオキシプロピレン鎖は、直鎖状(-(OCHCHCHq2-)であってよく、分岐(-(OCH(CH)CHq2-)、または、-(OCHCH(CH))q2-)していてよい。ポリオキシプロピレン鎖は、分岐していてよく、-(OCH(CH)CHq2-であってよい。
【0092】
式(z2)で表される第2ソフトセグメント部分に含まれるアルキレン鎖(-(CHr2-)は、直鎖状であってよく、分岐していてよく、環状であってよい。アルキレン鎖は、直鎖状であってよい。
【0093】
繰り返し単位数p2およびq2は、それぞれ独立して2以上の整数であり、r2は、6以上の整数である。繰り返し単位数p2、q2およびr2の上限値は、イソシアネート化合物(b1)の数平均分子量や、第2ソフトセグメント部分のイソシアネート化合物(b1)に占める割合を考慮して、適宜設定すればよい。
【0094】
耐擦り傷性および光沢回復性の観点から、繰り返し単位数p2およびq2は、それぞれ独立して3以上であってよく、4以上であってよい。初期の光沢値が向上し易い点で、繰り返し単位数p2およびq2は、それぞれ独立して10以下であってよく、8以下であってよい。一態様において、繰り返し単位数p2およびq2は、それぞれ独立して3以上10以下である。同様の観点から、繰り返し単位数r2は、5以上であってよく、8以上であってよい。繰り返し単位数r2は、15以下であってよく、12以下であってよい。一態様において、繰り返し単位数r2は、5以上15以下である。
【0095】
第2ソフトセグメント部分を有するイソシアネート化合物(b1)は、例えば、親水性イソシアネート化合物(b11)または疎水性イソシアネート化合物(b12)と、イソシアネート基と反応する官能基、および第2ソフトセグメント部分を有する化合物との反応物である。
【0096】
ポリオキシエチレン鎖、ポリオキシプロピレン鎖およびアルキレン鎖の一方の結合手は、X12、X22またはX32にそれぞれ結合している。ポリオキシエチレン鎖、ポリオキシプロピレン鎖およびアルキレン鎖の他方の結合手は、Y12、Y22またはY32に結合している。
【0097】
12は、-E12-NCO(式中、E12は、単結合、またはオキシエチレン基以外の二価の有機基である。)で表される。オキシエチレン基以外の二価の有機基としては、E12として挙げられたものと同様の基が挙げられる。E12は単結合であってよい。
【0098】
22は、-E22-NCO(式中、E22は、単結合、またはオキシプロピレン基以外の二価の有機基である。)で表される。オキシプロピレン基以外の二価の有機基としては、E21として挙げられたものと同様の基が挙げられる。E22は単結合であってよい。
【0099】
32は、-E32-NCO(式中、E32は、単結合、またはアルキレン基以外の二価の有機基である。)で表される。アルキレン基以外の二価の有機基としては、E31として挙げられたものと同様の基が挙げられる。E32は単結合であってよい。
【0100】
上記の通り、第2ソフトセグメント部分は、末端にイソシアネート基を有する。このイソシアネート基は、主剤(A)の水酸基との反応に用いられる。そのため、架橋密度を低下させることなく、塗膜にバネ機能を付与できる。
【0101】
12、X22およびX32の一方の結合手は、上記の通り、ポリオキシエチレン鎖、ポリオキシプロピレン鎖あるいはアルキレン鎖に結合している。X12、X22およびX32の他方の結合手は、例えば、末端にイソシアネート基を有する有機基に結合している。有機基は、例えば、親水性イソシアネート化合物(b11)または疎水性イソシアネート化合物(b12)から、イソシアネート基を1つ除いたものである。
【0102】
12およびX22は、それぞれ独立して、-NH-C(=O)-を表わす。具体的には、X12およびX22はそれぞれ、ウレタン結合から酸素原子を1つ除いた2価の有機基を表わし、隣接するポリオキシエチレン鎖またはポリオキシプロピレン鎖の酸素原子とともに、ウレタン結合を構成する。
【0103】
32は、-NH-C(=O)-、または、-NH-C(=O)-O-表わす。具体的には、X32は、アミド結合あるいはウレタン結合である。
【0104】
式(x2)で表される第2ソフトセグメント部分を有するイソシアネート化合物(b1)は、例えば、親水性イソシアネート化合物(b11)または疎水性イソシアネート化合物(b12)と、ポリオキシエチレングリコールとの反応物である。
【0105】
式(y2)で表される第2ソフトセグメント部分を有するイソシアネート化合物(b1)は、例えば、親水性イソシアネート化合物(b11)または疎水性イソシアネート化合物(b12)と、ポリオキシプロピレングリコールとの反応物である。
【0106】
式(z2)で表される第2ソフトセグメント部分を有するイソシアネート化合物(b1)は、例えば、親水性イソシアネート化合物(b11)または疎水性イソシアネート化合物(b12)と、ラクトン系ポリオールとの反応物である。ラクトン系ポリオール(B)としては、例えば、ポリブチロラクトンポリオール、ポリバレロラクトンポリオール、ポリカプロラクトンポリオールが挙げられる。
【0107】
第2ソフトセグメント部分の、これを含有するイソシアネート化合物(b1)、例えば疎水性イソシアネート化合物(b12)に占める割合(以下、占有割合Iと称す。)は、40質量%以上であってよく、42質量%以上であってよい。占有割合Iは、90質量%以下であってよく、80質量%以下であってよく、60質量%以下であってよい。一態様において、占有割合Iは、40質量%以上90質量%以下である。これにより、塗膜は、バネ機能を発揮し易くなる。
【0108】
占有割合Iは、第2ソフトセグメント部分の質量を、これを含有するイソシアネート化合物(b1)、典型的には疎水性イソシアネート化合物(b12)の数平均分子量で除すことにより算出される。第2ソフトセグメント部分の質量は、その構造および繰り返し単位数から算出できる。繰り返し単位数は、当該イソシアネート化合物の数平均分子量から算出できる。
【0109】
(有機溶媒(b2))
有機溶媒(b2)は、水酸基を有さない限り特に限定されない。有機溶媒(b2)としては、例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールイソプロピルメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジ-n-プロピルエーテル、プロピレングリコールジイソプロピルエーテル、プロピレングリコールジ-n-ブチルエーテル、プロピレングリコールジイソブチルエーテル、プロピレングリコールジアリルエーテル、プロピレングリコールジフェニルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジ-n-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールジイソブチルエーテル、ジプロピレングリコールジアリルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジエチルエーテル、トリプロピレングリコールジ-n-ブチルエーテル、トリプロピレングリコールジイソブチルエーテル、トリプロピレングリコールジアリルエーテル、ブチレングリコールジメチルエーテル、ブチレングリコールジエチルエーテル、ブチレングリコールジ-n-ブチルエーテル、2-ブトキシエチルジエトキシエチルエーテル、2-ブトキシエチルトリエトキシエーテル、2-ブトキシエチルテトラエトキシエチルエーテル等のグリコールエーテル系有機溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテルアセテート、3-メトキシブチルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のアセテート系有機溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルアミルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系有機溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、安息香酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸メチル等のエステル系有機溶剤;が挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0110】
(その他)
硬化剤(B)は、イソシアネート化合物(b1)以外の硬化剤を含み得る。他の硬化剤の含有量は、例えば、すべての硬化剤の合計固形分量の10質量%以下である。
【0111】
(硬化剤(B)の調製方法)
硬化剤(B)は、上記成分を当業者に知られた方法によって混合することによって、調製することができる。混合方法としては、主剤(A)の調製と同様の方法が挙げられる。
【0112】
<硬化促進剤(C)>
塗料組成物は、さらに硬化促進剤(C)を含み得る。硬化促進剤(C)は、水性2液型クリヤー塗料組成物の乾燥速度を制御して、得られる塗膜の外観および塗膜性能を向上させ得る。硬化促進剤(C)は、主剤(A)および硬化剤(B)の少なくとも一方に含まれてよく、塗料組成物の調製の際に添加されてよい。
【0113】
硬化促進剤(C)の含有量は、水酸基含有アクリル樹脂(a1)およびポリオール化合物(a3)の合計の固形分100質量部に対して、例えば、0.03質量部以上0.3質量部以下である。硬化促進剤(C)は、この範囲の中で硬化環境等に応じて、任意に決定される。
【0114】
硬化促進剤(C)は、水酸基とイソシアネート基との反応を促進する限り、特に限定されない。硬化促進剤(C)としては、例えば、アミン化合物、金属化合物、酸が挙げられる。アミン化合物としては、例えば、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン等の三級アミンが挙げられる。金属化合物としては、例えば、スズ化合物、ビスマス化合物、モリブデン化合物、亜鉛化合物が挙げられる。酸としては、例えば、スルホン酸、無機酸、リン酸エステル、オキシ酸、カルボン酸が挙げられる。なかでも、金属化合物が好ましい。特に、乾燥速度の制御がし易く、さらに、塗膜の外観が向上し易い点で、モリブデン化合物が好ましい。加えて、モリブデン化合物は水と反応し難いため、水性溶媒中でも安定して存在し得る。
【0115】
モリブデン化合物としては、例えば、酸化モリブデン、モリブデン酸、モリブデン酸塩、リンモリブデン酸、リンモリブデン酸塩、有機モリブデンが挙げられる。モリブデン酸塩としては、例えば、モリブデン酸カリウム、モリブデン酸カルシウム、モリブデン(VI)酸二ナトリウム二水和物、モリブデン酸リチウム、モリブデン酸マグネシウム、モリブデン酸ルビジウム、モリブデン酸セシウム、モリブデン酸コバルト(II)、モリブデン酸マンガン(II)、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸六アンモニウム四水和物、七モリブデン酸六アンモニウム四水和物が挙げられる。リンモリブデン酸塩としては、例えば、リンモリブデン酸n水和物、リンモリブデン酸ナトリウムn水和物、リンモリブデン酸アンモニウム三水和物が挙げられる。有機モリブデンとしては、例えば、モリブデニム(IV)オキサイドビスアセチルアセトネート、ビス(アセチルアセトナト)酸化モリブデン(IV)、二酸化モリブデンテトラメチルヘプタジオネート、モリブデン酸テトラエチルアンモニウム、モリブデン酸トリメチルスタンニル・テトラブチルアンモニウム、モリブデンアルコキシド、2-エチルヘキサン酸モリブデン、ヘキサカルボニルモリブデンが挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0116】
<希釈成分(D)>
塗料組成物は、さらに希釈成分(D)を含み得る。希釈成分(D)は、塗料組成物の粘度を調整するために用いられる。希釈成分(D)としては、水性溶媒(a2)の例示と同じものが挙げられる。希釈成分(D)は、水性溶媒(a2)と同じであってよく、異なっていてもよい。
【0117】
希釈成分(D)の混合量は、塗料組成物の粘度、塗装方法等を考慮して適宜設定される。希釈成分(D)の混合量は、例えば、水酸基含有樹脂(a1)およびポリオール化合物(a3)の合計の固形分100質量部に対して、10質量部以上70質量部以下である。
【0118】
水性2液型クリヤー塗料組成物は、当業者において通常用いられる方法を用いて調製される。水性2液型クリヤー塗料組成物は、例えば、主剤(A)の調製と同様の方法により、各成分が混合されることにより調製される。
【0119】
[自動車補修用塗料]
本実施形態は、上記の塗料組成物を含む自動車補修用塗料を包含する。上記の塗料組成物は、耐擦り傷性および光沢回復性に優れるため、自動車の補修用塗料として好適に用いられる。
【0120】
[塗装物品の製造方法]
上記の塗料組成物を被塗物に塗布して、塗装物品を得ることができる。
塗装物品は、例えば、被塗物上に塗料組成物を塗装して、未硬化の塗膜を形成する工程と、未硬化の塗膜を硬化させる工程と、を備える方法により製造される。
【0121】
以下、塗料組成物を自動車補修用塗料として用いる場合を例に挙げて、塗装物品の製造方法を説明する。ただし、本実施形態はこれに限定されるものではない。
【0122】
(被塗物)
被塗物の形状は特に限定されない。被塗物は、平板状であってよく、立体形状を有していてもよい。被塗物の材質も特に限定されない。被塗物の材質としては、例えば、金属、樹脂、ガラスが挙げられる。金属としては、例えば、鉄、銅、アルミニウム、スズ、亜鉛またはこれらの合金が挙げられる。
【0123】
金属製の被塗物は、表面処理されていてもよい。表面処理としては、例えば、リン酸塩処理、クロメート処理、ジルコニウム化成処理、複合酸化物処理が挙げられる。金属製の被塗物は、表面処理後、さらに電着塗料によって塗装されていてもよい。電着塗料は、カチオン型であってよく、アニオン型であってよい。
【0124】
樹脂としては、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂が挙げられる。樹脂製の被塗物は、脱脂処理されていることが好ましい。
【0125】
被塗物としては、具体的には、乗用車、トラック、オートバイ、バス等の自動車車体、あるいは、これらの一部が挙げられる。
【0126】
まず、必要に応じて、被塗物の対象部位とその周辺が研磨され、パテで凹凸が埋められる。その後、当該部分が再度研磨される。次いで、プライマー塗料あるいは補修用下塗り塗料(プライマーサーフェーサーとも呼ばれる。)が塗装される。プライマー塗料および補修用下塗り塗料は特に限定されず、その上方に塗装される塗料の種類に応じて適宜選択される。プライマー塗料および補修用下塗り塗料は、例えば、水性あるいは溶剤系の2液型ウレタン塗料である。
【0127】
プライマー塗料あるいはプライマーサーフェーサーが塗装された後、塗膜を硬化させ、さらに研磨および脱脂する。硬化は、例えば、40℃以上70℃以下で、30分から60分間程度行われる。研磨は、サンドペーパー等を用いて行われる。
【0128】
続いて、補修用ベースコート塗料が塗装される。ベースコート塗料は、硬化タイプであってよく、ラッカータイプであってよい。硬化タイプのベースコート塗料は、上記のように主剤と硬化剤との硬化反応によって、硬化塗膜を形成する。ラッカータイプのベースコート塗料は、溶媒の揮発によって、硬化塗膜を形成する。ベースコート塗料の塗装は、複数回行われてもよい。
【0129】
補修用ベースコート塗料の塗装後、塗膜を硬化させる。硬化条件は、ベースコート塗料の組成によって、適宜設定される。
【0130】
最後に、上記の塗料組成物が塗装される。塗料組成物の塗装方法は特に限定されない。塗装方法としては、例えば、エアスプレー塗装、エアレススプレー塗装、回転霧化塗装、カーテンコート塗装が挙げられる。これらの方法と静電塗装とを組み合わせてもよい。補修の場合、局所的な塗装が容易である点で、エアスプレー塗装が好ましい。塗料組成物の塗装は、複数回行われてもよい。
【0131】
塗料組成物の塗布量は特に限定されず、塗膜に求められる性能に応じて適宜設定される。塗料組成物は、例えば、硬化後の塗膜の厚さが5μm以上70μm以下になるように、塗布される。
【0132】
次いで、例えば40℃以上100℃以下で、15分から60分間程度加熱して、塗膜を硬化させる。これにより、塗装物品が得られる。
【実施例0133】
以下、実施例を用いて本実施形態をより詳細に説明するが、本実施形態は実施例により何ら制限されるものではない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り質量基準による。
【0134】
表1に示された各成分は、以下の通りである。
ポリオールA:サンニックスGP-600、三洋化成工業社製、ポリオキシプロピレングリセリルエーテル、式(2)で示される第3ソフトセグメント部分含有、b:3、占有割合P:約85質量%
ポリオールB:サンニックスGP-1000、三洋化成工業社製、ポリオキシプロピレングリセリルエーテル、式(2)で示される第3ソフトセグメント部分含有、b:5、占有割合P:約90質量%
ポリオールC:サンニックスGP-1500、三洋化成工業社製、ポリオキシプロピレングリセリルエーテル、式(2)で示される第3ソフトセグメント部分含有、b:8、占有割合P:約94質量%
ポリオールD:PEG-600、三洋化成工業社製、ポリオキシプロピレングリコール、式(2)で示される第3ソフトセグメント部分含有、b:12、占有割合P:約97質量%
ポリオールE:デュラノールT5650E、旭化成ケミカルズ社製、ポリアルキレンカーボネートジオール、式(3)で示される第3ソフトセグメント部分含有、c:5、占有割合P:約88質量%
【0135】
親水性イソシアネート化合物A:バイヒジュール304、住化コベストロ社製、ポリオキシプロピレン鎖含有、第2ソフトセグメント部分非含有
疎水性イソシアネート化合物A:デスモジュールN3800、住化コベストロ社製、式(z2)で示される第2ソフトセグメント部分含有、X32:-NH-C(=O)-、E32:単結合、r2:5、占有割合I:43質量%
疎水性イソシアネート化合物B:スミジュールN3300、住化コベストロ社製、第2ソフトセグメント部分非含有
【0136】
[実施例1]
(I)塗料組成物の調製
nax E-CUBE WB(2:1)NNクリヤー(日本ペイント社製、水酸基含有アクリル樹脂(a1)含有、固形分濃度約38%)と、ポリオールA(ポリオール化合物(a3))と、純水(水性溶媒(a2))とを、表1に示す割合で混合し、主剤(A)を調製した。なお、表1において、純水の混合割合は、nax E-CUBE WB(2:1)NNクリヤーに含まれる希釈水の量を含む。
【0137】
親水性イソシアネート化合物A(イソシアネート化合物(b1))と、PMA(有機溶媒(b2)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)とを、表1に示す割合で混合し、硬化剤(B)を調製した。
【0138】
主剤(A)に、水酸基含有アクリル樹脂(a1)およびポリオール化合物(a3)の合計の固形分100質量部に対して0.03質量部のモリブデン酸ナトリウム(硬化促進剤(C))を添加した。続いて、この主剤(A)と硬化剤(B)と純水(希釈成分(D))とを、表1に示す割合で混合し、塗料組成物を調製した。
【0139】
(II)塗装物品の作製
(II-1)下地塗膜の形成
nax E-CUBE WBプラサフ ヴィータ グレー(主剤、日本ペイント社製、固形分約56%)100部、nax E-CUBE WB水性用 ハードナー(硬化剤、日本ペイント社製、固形分約64%)12.5部、および、nax E-CUBE WBクリヤー・プラサフ専用希釈水(希釈成分、日本ペイント社製)適量を混合して、プライマーサーフェーサーを調製した。
【0140】
60cm×40cmの鋼板(被塗物)に、スプレーガンにより上記のプライマーサーフェーサーを塗装し、指で触れて塗料が付着しなくなるまでエアブロー乾燥を行った。この塗装および乾燥を、さらに2回繰り返した。続いて、この鋼板を60℃に設定されたオーブンに投入し、30分加熱して、硬化塗膜を形成した。次いで、得られた塗膜の表面を研磨した。最後に、塗膜の表面を脱脂した。
【0141】
(II-2)水性ベース塗膜の形成
nax E-CUBE WB412 サイレントブラック(主剤、日本ペイント社製、固形分約22%)100部、nax E-CUBE WB911 S-バインダー(硬化剤、日本ペイント社製、固形分約26%)50部、および、nax E-CUBE WBR20 標準希釈剤(希釈成分、日本ペイント社製)45部を混合して、ベースコート塗料を調製した。
【0142】
下地塗膜を備える被塗物に、エアスプレーガンにより上記のベースコート塗料を塗装し、指で触れて塗料が付着しなくなるまでエアブロー乾燥を行った。この塗装および乾燥を、さらに2回繰り返して、ベースコート塗膜(硬化膜厚20μm)を形成した。
このようにして、下塗り塗膜およびベースコート塗膜を備える被塗物を準備した。
【0143】
(II-3)クリヤー塗膜の形成
下地塗膜およびベースコート塗膜を備える被塗物に、エアスプレーガンにより上記の塗料組成物を3回塗装した。各塗装は、1分間間隔をあけて行った。その後、被塗物を、温度23±2℃、湿度50±2RH%の環境下で15分間静置した。次いで、上記被塗物を70℃設定のオーブンで20分間加熱して、クリヤー塗膜(硬化膜厚50μm)を形成した。
【0144】
[実施例2~9、比較例1~2]
ポリオール化合物(a3)およびイソシアネート化合物(b1)の種類および/または混合量を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、塗料組成物を調製し、塗装物品を作製した。
【0145】
[評価方法]
塗装物品を、以下の方法により評価した。評価結果を、表1に示す。
【0146】
(1)初期の光沢値G
硬化されたクリヤー塗膜の初期の20°光沢値を、BYK製のマイクロトリグロスを使用して測定した。光沢値Gは、測定個所を変えて3回測定した数値の平均値とした。光沢値Gを、以下の基準に基づき評価した。
【0147】
最良:20°光沢値が85以上
良:20°光沢値が80以上85未満
可:20°光沢値が75以上80未満
不良:20°光沢値が75未満
【0148】
(2)耐擦り傷性
以下のようにして、耐擦り傷性試験を行った。
ミニ洗車機の台上に、試験用ダスト(7種類混合、粒度27~31μm)15gと水100gとの混合物を散布した。続いて、水を流さずにミニ洗車機を回転(45rpm)させながら一往復させて、洗車機ブラシに試験用ダストを付着させた。その後、台上に塗装物品(70mm×150mm)を固定した。塗装物品上に鋳物砂約5gを散布した後、水を流さずに、上記のミニ洗車機を回転(96rpm)させながら3往復させた。その後、塗装物品を水洗し、乾燥させた。
【0149】
耐擦り傷性試験後の塗装物品の20°光沢値を、上記と同様にして測定した。測定個所を変えて3回測定した光沢値の平均値を、試験後の光沢値Gとした。下記式に従い、初期の光沢値Gに対する試験後の光沢値Gの割合(光沢保持率)を算出した。光沢値Gを、以下の基準に基づき評価した。
光沢保持率(%)=100×試験後の光沢値G/初期光沢値G
【0150】
最良:光沢保持率が95%以上
良:光沢保持率が90%以上95%未満
可:光沢保持率が80%以上90%未満
不良:光沢保持率が80%未満
【0151】
(3)光沢回復性
上記の耐擦り傷性試験後の塗装物品を、80℃に設定したオーブンで30分加熱した。
加熱後の塗装物品の20°光沢値を、上記と同様にして測定した。測定個所を変えて3回測定した光沢値の平均値を、加熱後の光沢値Gとした。下記式に従い、初期の光沢値Gに対する加熱後の光沢値Gの割合(光沢回復率)を算出した。光沢値Gを、以下の基準に基づき評価した。
光沢回復率(%)=100×加熱後の光沢値G/初期光沢値G
【0152】
最良:光沢回復率が95%以上
良:光沢回復率が90%以上95%未満
可:光沢回復率が80%以上90%未満
不良:光沢回復率が80%未満
【0153】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0154】
本発明によれば、耐擦り傷性、および擦り傷に起因して低下した光沢の回復性に優れる塗膜が得られる水性2液型クリヤー塗料組成物が提供される。この水性2液型クリヤー塗料組成物は、自動車の塗装、特に自動車補修用の塗装に適している。