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特開2023-14864無効電力補償装置の制御装置、無効電力補償装置の制御方法、およびプログラム
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  • 特開-無効電力補償装置の制御装置、無効電力補償装置の制御方法、およびプログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023014864
(43)【公開日】2023-01-31
(54)【発明の名称】無効電力補償装置の制御装置、無効電力補償装置の制御方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/18 20060101AFI20230124BHJP
【FI】
H02J3/18 135
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021119049
(22)【出願日】2021-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久米 里奈
(72)【発明者】
【氏名】直井 伸也
(72)【発明者】
【氏名】福島 大史
(72)【発明者】
【氏名】田村 裕治
(72)【発明者】
【氏名】張 飛
【テーマコード(参考)】
5G066
【Fターム(参考)】
5G066DA04
5G066FA01
5G066FB11
5G066FC14
(57)【要約】
【課題】電力送電システムにおいて発生した系統事故から復旧するときに起こり得る、無効電力補償装置が出力する無効電力のオーバーシュートを抑制することができる無効電力補償装置の制御装置、無効電力補償装置の制御方法、およびプログラムを提供することである。
【解決手段】実施形態の無効電力補償装置の制御装置は、比例積分制御器と、指令値変換部と、制限値切替部とを持つ。無効電力補償装置の制御装置は、少なくとも交流系統との連系点に配置された電圧検出装置によって検出された電圧検出値に基づいて、交流系統に連系された無効電力補償装置からの無効電力の出力を制御する。比例積分制御器は、電圧検出値に基づく、比例器の比例値と積分器の積分値とに基づく比例積分値を出力する。指令値変換部は、比例積分値を無効電力出力指令値に変換する。制限値切替部は、少なくとも積分器による電圧検出値に基づく値の積分を制限させる制限値を切り替える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも交流系統との連系点に配置された電圧検出装置によって検出された電圧検出値に基づいて、前記交流系統に連系された無効電力補償装置からの無効電力の出力を制御する無効電力補償装置の制御装置であって、
前記電圧検出値に基づく値に応じた比例値を出力する比例器、および入力された制限値に従って前記電圧検出値に基づく値を積分した積分値を出力する積分器を備え、前記比例値と前記積分値とに基づく比例積分値を出力する比例積分制御器と、
前記比例積分値を、前記無効電力補償装置に前記無効電力を出力させるための無効電力出力指令値に変換する指令値変換部と、
少なくとも前記積分器による前記電圧検出値に基づく値の積分を制限させる前記制限値を切り替える制限値切替部と、
を備え、
前記制限値切替部は、
前記電圧検出値が低下したときに、前記制限値を、前記積分値を低く制限させる第1の制限値に切り替え、
前記電圧検出値が復電したときに、前記制限値を、前記積分値を制限させない第2の制限値に切り替える、
無効電力補償装置の制御装置。
【請求項2】
前記制限値切替部は、前記制限値を前記指令値変換部に出力し、
前記指令値変換部は、入力された前記制限値に従って、変換する前記無効電力出力指令値の大きさを制限する、
請求項1に記載の無効電力補償装置の制御装置。
【請求項3】
前記交流系統と前記無効電力補償装置との間に流れる電流を検出する電流検出装置によって検出された電流検出値に基づいて、前記電圧検出値に基づく値を補正する補正部、をさらに備える、
請求項2に記載の無効電力補償装置の制御装置。
【請求項4】
前記補正部は、前記無効電力補償装置の電流指令値と、前記電流検出値との差分に基づいて、前記電圧検出値に基づく値を補正する、
請求項3に記載の無効電力補償装置の制御装置。
【請求項5】
前記制限値切替部は、前記電圧検出値が復電したときには、前記制限値を、所定の時間をかけて前記第1の制限値から前記第2の制限値に切り替える、
請求項1から請求項4のうちいずれか1項に記載の無効電力補償装置の制御装置。
【請求項6】
少なくとも交流系統との連系点に配置された電圧検出装置によって検出された電圧検出値に基づいて、前記交流系統に連系された無効電力補償装置からの無効電力の出力を制御する無効電力補償装置の制御方法であって、
前記無効電力補償装置の制御装置のコンピュータが、
前記電圧検出値に基づく値に応じた比例値と、制限値に従って前記電圧検出値に基づく値を積分した積分値とに基づく比例積分値を求め、
前記比例積分値を、前記無効電力補償装置に前記無効電力を出力させるための無効電力出力指令値に変換し、
前記電圧検出値が低下したときに、前記制限値を、少なくとも前記電圧検出値に基づく値を積分する前記積分値を低く制限させる第1の制限値に切り替え、
前記電圧検出値が復電したときに、前記制限値を、前記積分値を制限させない第2の制限値に切り替える、
無効電力補償装置の制御方法。
【請求項7】
少なくとも交流系統との連系点に配置された電圧検出装置によって検出された電圧検出値に基づいて、前記交流系統に連系された無効電力補償装置からの無効電力の出力を制御する無効電力補償装置の制御装置において実行されるプログラムであって、
前記無効電力補償装置の制御装置のコンピュータに、
前記電圧検出値に基づく値に応じた比例値と、制限値に従って前記電圧検出値に基づく値を積分した積分値とに基づく比例積分値を求めさせ、
前記比例積分値を、前記無効電力補償装置に前記無効電力を出力させるための無効電力出力指令値に変換させ、
前記電圧検出値が低下したときに、前記制限値を、少なくとも前記電圧検出値に基づく値を積分する前記積分値を低く制限させる第1の制限値に切り替えさせ、
前記電圧検出値が復電したときに、前記制限値を、前記積分値を制限させない第2の制限値に切り替えさせる、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、無効電力補償装置の制御装置、無効電力補償装置の制御方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
電力送電システムでは、交流系統が連系される母線に、無効電力を補償するための無効電力補償装置が接続されている。無効電力補償装置は、電圧指令値と母線の電圧検出値との差分に応じた無効電力を出力することによって母線の電圧変動を抑制する装置である。無効電力補償装置は、例えば、母線に繋がるいずれかの送電経路に発生した事故(系統事故)によって系統電圧が低下した場合、容量性の無効電力を出力することによって系統電圧を上昇させ、母線の電圧変動を抑制する。一般的に、無効電力補償装置は、母線の電圧検出値が電圧指令値に追従するように比例積分制御(PI制御)を行う制御装置によって、運転が制御される。無効電力補償装置は、制御装置により出力された出力指令値に基づくゲート信号に応じた無効電力を、母線に出力する。
【0003】
電力送電システムには、例えば、事故が発生した送電経路を遮断する遮断器など、事故が他の送電経路に波及してしまうのを抑えたり、発生した事故から復旧したりするための構成要素も備えている。このため、発生した事故から復旧した場合、つまり、母線の電圧が復電した場合には、無効電力補償装置は、事故発生中に出力していた容量性の無効電力出力を停止、あるいは減少するよう運転する。この場合の無効電力補償装置の運転も、制御装置によって制御される。このため、例えば、発生した事故から瞬時に復旧(復電)した場合、制御装置における容量性の無効電力出力の停止あるいは減少の制御が間に合わずに、事故による系統電圧の低下量に応じた無効電力補償装置からの容量性の無効電力の出力がしばらく継続してしまうことも考えられる。この場合、無効電力補償装置により継続して出力された無効電力によって、母線に過電圧を発生させてしまうこともあり得る。
【0004】
これに関して、例えば、特許文献1には、過電圧の発生を防止する無効電力補償装置および制御回路に関する技術が開示されている。特許文献1には、系統電圧の低下を検出したときに所定の小さい指令値を出力し、系統電圧が復電したときに微小な指令値を出力するように指令値を切り替えることが記載されている。さらに、特許文献1には、系統電圧の低下を検出したときに、制御回路(PI制御)の出力をゼロにホールドすることが記載されている。特許文献1には、系統電圧が復電したときに、制御回路における積分制御をリセットすることも記載されている。これにより、特許文献1に記載されている技術では、系統電圧が復電したときに発生する過電圧を防止している。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されている技術では、制御回路において、系統電圧の低下中にも、電圧指令値と系統電圧との差分の積分が継続される。このため、特許文献1に記載されている技術では、系統電圧が復電した瞬間における積分値が大きくなり、この大きな積分値に応じて必要以上の積分制御が行われ、無効電力補償装置が出力する無効電力がオーバーシュートしてしまう可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-122144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、電力送電システムにおいて発生した系統事故から復旧するときに起こり得る、無効電力補償装置が出力する無効電力のオーバーシュートを抑制することができる無効電力補償装置の制御装置、無効電力補償装置の制御方法、およびプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態の無効電力補償装置の制御装置は、比例積分制御器と、指令値変換部と、制限値切替部とを持つ。無効電力補償装置の制御装置は、少なくとも交流系統との連系点に配置された電圧検出装置によって検出された電圧検出値に基づいて、前記交流系統に連系された無効電力補償装置からの無効電力の出力を制御する。比例積分制御器は、比例器、および積分器を備える。比例器は、前記電圧検出値に基づく値に応じた比例値を出力する。積分器は、入力された制限値に従って前記電圧検出値に基づく値を積分した積分値を出力する。比例積分制御器は、前記比例値と前記積分値とに基づく比例積分値を出力する。指令値変換部は、前記比例積分値を、前記無効電力補償装置に前記無効電力を出力させるための無効電力出力指令値に変換する。制限値切替部は、少なくとも前記積分器による前記電圧検出値に基づく値の積分を制限させる前記制限値を切り替える。前記制限値切替部は、前記電圧検出値が低下したときに、前記制限値を、前記積分値を低く制限させる第1の制限値に切り替え、前記電圧検出値が復電したときに、前記制限値を、前記積分値を制限させない第2の制限値に切り替える。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係る電力送電システムが備える交流系統システムの構成の一例を示す図。
図2】実施形態の交流系統システムが備える無効電力補償装置の制御装置の構成の一例を示す図。
図3】実施形態の制御装置が備えるPI制御器内の積分器における積分動作の一例を示す図。
図4】実施形態の制御装置が備えるリミッタ選択器内のレートリミッタの動作の一例を示す図。
図5】実施形態の制御装置が備えるリミッタ選択器における処理の一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態の無効電力補償装置の制御装置、無効電力補償装置の制御方法、およびプログラムを、図面を参照して説明する。
【0011】
[交流系統システムの構成]
図1は、実施形態に係る電力送電システムが備える交流系統システムの構成の一例を示す図である。電力送電システムは、送電側の交流系統システムから受電側の交流系統システムに電力を送電するシステムである。電力送電システムにおける送電は、送電側の交流系統システムの交流電力をそのまま受電側の交流系統システムに送電してもよいし、送電側の交流系統システムの交流電力を一旦直流電力に変換してから送電し、受電側で再び交流電力に変換して受電側の交流系統システムに送電してもよい。図1に示した交流系統システム1は、送電側の交流系統システムであってもよいし、受電側の交流系統システムであってもよい。
【0012】
図1に示した交流系統システム1は、例えば、交流系統10と、母線20と、無効電力補償装置30と、電圧検出器40と、電流検出器50と、制御装置60と、を備える。
【0013】
交流系統10は、連系されている母線20に交流電力を供給する、あるいは母線20の交流電力の供給を受ける設備である。交流系統10は、例えば、交流電力を発電する発電設備であってもよいし、他の送電側の交流系統システムが備える交流系統から送電されてきた交流電力を、さらに受電側の交流系統システムが備える交流系統に送電するものや、接続された先に存在するそれぞれの需要家に供給するものであってもよい。
【0014】
無効電力補償装置30は、母線20を介して交流系統10に接続されている。無効電力補償装置30は、制御装置60からの制御に従って、容量性または誘導性の無効電力(以下、単に「無効電力」という)を母線20に出力する。無効電力補償装置30は、制御装置60により出力された無効電力出力指令値を表すゲートパルス信号に応じた無効電力を母線20に出力することにより、母線20における電圧変動を抑制する。
【0015】
電圧検出器40は、母線20と無効電力補償装置30との連系点の電圧を検出する。電圧検出器40は、検出した電圧値(以下、「電圧検出値」という)の情報を、制御装置60に出力する。電圧検出器40は、特許請求の範囲における「電圧検出装置」の一例である。
【0016】
電流検出器50は、母線20と無効電力補償装置30との間に流れる電流を検出する。電流検出器50は、検出した電流値(以下、「電流検出値」という)の情報を、制御装置60に出力する。電流検出器50は、特許請求の範囲における「電流検出装置」の一例である。
【0017】
制御装置60は、無効電力補償装置30からの無効電力の出力を制御する。制御装置60は、電圧検出器40により出力された電圧検出値の情報と、電流検出器50により出力された電流検出値の情報とに基づいて、無効電力補償装置30に無効電力を出力させるための指令値(以下、「無効電力出力指令値」という)を生成する。制御装置60は、生成した無効電力出力指令値に基づいたゲートパルス信号を、無効電力補償装置30に出力する。これにより、無効電力補償装置30は、ゲートパルス信号に応じた無効電力を、母線20に出力する。
【0018】
制御装置60や、後述する制御装置60が備える構成要素は、例えば、CPU(Central Processing Unit)などのハードウェアプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することにより以下の機能を実現するものである。制御装置60や、制御装置60が備える構成要素の機能のうち一部または全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)などのハードウェア(回路部;circuitryを含む)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。制御装置60や、制御装置60が備える構成要素の機能のうち一部または全部は、専用のLSIによって実現されてもよい。プログラムは、予め制御装置60あるいは交流系統システム1が備えるHDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリなどの記憶装置(非一過性の記憶媒体を備える記憶装置)に格納されていてもよいし、DVDやCD-ROMなどの着脱可能な記憶媒体(非一過性の記憶媒体)に格納されており、記憶媒体が制御装置60あるいは交流系統システム1が備えるドライブ装置に装着されることで制御装置60が備える記憶装置にインストールされてもよい。
【0019】
[制御装置の構成]
図2は、実施形態の交流系統システム1が備える無効電力補償装置30の制御装置60の構成の一例を示す図である。制御装置60は、例えば、加算器610と、加算器620と、乗算器630と、加算器640と、PI制御器650と、リミッタ660と、Q/θ変換器670と、パルス生成器680と、リミッタ選択器690と、を備える。図2に示した制御装置60の構成はあくまで一例であり、構成要素の一部が省略されてもよいし、構成要素の一部が異なる構成に代わってもよいし、さらに別の構成要素が追加されてもよい。
【0020】
加算器610は、電圧検出器40が検出した電圧検出値と電圧指令値との差分を算出する。電圧指令値は、交流系統システム1において母線20や、母線20に接続された電力送電経路(電力送電線)に出力させる電力の電圧を制御するための指令値である。図2では、加算器610は、電圧指令値から電圧検出値を減算している。言い換えれば、加算器610は、電圧検出値と電圧指令値との偏差を算出する。加算器610は、例えば、減算器で構成してもよい。加算器610は、算出した結果(以下、「電圧差分値」という)を、加算器640に出力する。
【0021】
加算器620は、電流検出器50が検出した電流検出値と電流指令値との差分を算出する。電流指令値は、交流系統システム1において母線20や、母線20に接続された電力送電経路に出力させる電力の電流を制御するための指令値である。図2では、加算器620は、電流検出値から電流指令値を減算している。言い換えれば、加算器620は、電流検出値と電流指令値との偏差を算出する。加算器620は、例えば、減算器で構成してもよい。加算器620は、算出した結果(以下、「電流差分値」という)を、乗算器630に出力する。
【0022】
乗算器630は、加算器620が算出した電流差分値に対して所定のゲインをかける。図2では、加算器620が算出した電流差分値を乗算器630に入力する構成を示しているが、乗算器630への入力は、これに限定されない。例えば、乗算器630に、電流検出器50が検出した電流検出値を直接入力する構成、つまり、電流検出器50が検出した電流検出値に対して所定のゲインをかける構成であってもよい。この構成の場合、加算器620は省略されもよい。所定のゲインは、例えば、電流差分値に応じて電圧指令値から所定の割合で母線の電圧が変化するように設定する。乗算器630は、ゲインをかけた結果(以下、「電流乗算値」という)を、加算器640に出力する。
【0023】
加算器640は、加算器610が算出した電圧差分値から、乗算器630がゲインをかけた電流乗算値を減算する。これにより、加算器640は、電圧差分値を電流乗算値で補正する。加算器640は、電圧差分値を補正した結果(以下、「電圧補正値」という)を、PI制御器650に出力する。図2では、加算器640を備える構成を示しているが、加算器640は、省略されてもよい。つまり、加算器610が算出した電圧差分値がPI制御器650に直接出力される構成であってもよい。この場合、加算器620および乗算器630は省略されもよい。加算器620(乗算器630および加算器640を含めてもよい)は、特許請求の範囲における「補正部」の一例である。
【0024】
PI制御器650は、加算器640により出力された電圧補正値に基づいて、比例積分制御(PI制御)を行う。あるいは、制御装置60において加算器640が省略された構成である場合には、PI制御器650は、加算器610により出力された電圧差分値に基づいて比例積分制御を行う。以下の説明においては、PI制御器650に電圧補正値が入力され、電圧補正値に基づいて比例積分制御を行うものとする。PI制御器650は、例えば、比例器652と、積分器654と、加算器656と、を備える。PI制御器650は、特許請求の範囲における「比例積分制御器」の一例である。電圧補正値、あるいは電圧差分値は、特許請求の範囲における「電圧検出値に基づく値」の一例である。
【0025】
比例器652は、入力された電圧補正値に対して比例制御を行う。比例器652は、比例制御の結果(以下、「比例値」という)を加算器656に出力する。
【0026】
積分器654は、入力された電圧補正値を積分する。このとき、積分器654は、リミッタ選択器690により出力された、後述する制限値(以下、「リミット値」という)に従って、電圧補正値を積分する。つまり、積分器654は、リミッタ付きの積分器である。積分器654は、電圧補正値を積分した結果(以下、「積分値」という)が、リミッタ選択器690により出力された上限リミット値Lim-max、および下限リミット値Lim-minを超えないようにする。積分器654は、積分値を加算器656に出力する。
【0027】
ここで、積分器654が、リミット値に従って入力された値を積分する動作の一例について説明する。図3は、実施形態の制御装置60が備えるPI制御器650内の積分器654における積分動作の一例を示す図である。図3の(a)には、以下に説明する積分器654のモデルの一例を示している。ここでは、上限リミット値Lim-maxが「1」、下限リミット値Lim-minが「-1」である場合において、積分器654が、入力された入力値INを積分して積分値OUTを出力する場合について説明する。図3の(b)には、積分器654に入力される入力値INの時間的な変化の一例を示し、図3の(c)には、積分器654が積分して出力する積分値OUTの時間的な変化の一例を示している。図3の(d)には、参考として、積分器654がリミット値に従わずに単純に入力値INを積分する、つまり、積分器654が、従来の無効電力補償装置の制御装置が備えるPI制御器内の積分器と同様に、リミッタ付きではない通常の積分器であるものとした場合における積分値OUTの時間的な変化の一例を示している。
【0028】
図3の(b)に示したように、時間t1から正の値=「1」の入力値INの入力が開始されると、積分器654は、入力値INに応じた値の積分を開始する。積分器654は、例えば、下式(1)に基づいて、入力値INに応じた値を積分する。
【0029】
【数1】
【0030】
上式(1)においてTは、積分時間Tである。積分時間Tが、例えば、0.03[sec]である場合、積分器654は、0.03[sec]ごとのタイミングで周期的に、入力値INに応じた値を積分する。
【0031】
これにより、図3の(c)および図3の(d)に示したように、積分器654が出力する積分値OUTは増加していく。そして、積分値OUTが上限リミット値Lim-max=「1」になると、積分器654が出力する積分値OUTは、上限リミット値Lim-maxの大きさで保持される。一方、積分器654がリミット値に従わずに入力値INを積分場合、積分器654が出力する積分値OUTは、上限リミット値Lim-maxを超えて増加していく。図3の(c)には、時刻t2において積分値OUTが上限リミット値Lim-maxと同じ値になり、時刻t2以降はその値が保持されている状態を示している。積分器654は、積分値OUTが上限リミット値Lim-maxになったときに、入力値INに応じた値の積分を停止してもよいし、入力値INに応じた値を「0」として積分動作を継続してもよい。一方、図3の(d)には、同様に時刻t2において積分値OUTが上限リミット値Lim-maxと同じ値になるが、時刻t2以降も積分値OUTが増加していく状態を示している。
【0032】
このような積分動作によって、積分器654は、積分値OUTがリミッタ選択器690により出力されたリミット値になるまでの間、入力値INに応じた値の積分を行い、積分値OUTがリミット値になった以降は、その値を保持することによって、リミット値を超えないようにする。上述した説明では、入力値INが正の値である場合について説明したが、入力値INが負の値である場合も同様である。従って、入力値INが負の値である場合における積分器654の積分動作に関する説明は省略する。
【0033】
図2に戻り、加算器656は、比例器652により出力された比例値と、積分器654により出力された積分値との和を算出する。加算器656は、算出した結果(以下、「比例積分値」という)を、リミッタ660に出力する。
【0034】
リミッタ660は、PI制御器650(より具体的には、加算器656)により出力された比例積分値に基づいて、無効電力補償装置30に無効電力を出力させるための無効電力出力指令値を算出する。リミッタ660は、従来の無効電力補償装置の制御装置が備える構成と同様の構成であってもよいし、算出する無効電力出力指令値が表す無効電力の大きさを、リミッタ選択器690により出力された、後述するリミット値に応じて制限する構成であってもよい。図2では、リミッタ660が、リミッタ選択器690により出力された上限リミット値Lim-max、および下限リミット値Lim-minに応じた制限をかける構成を示している。リミッタ660は、上限リミット値Lim-maxを上限値とし、下限リミット値Lim-minを下限値として、無効電力出力指令値を算出する。リミッタ660は、算出した無効電力出力指令値(以下、「無効電力出力指令値Qc」という)を、Q/θ変換器670に出力する。リミッタ660は、特許請求の範囲における「指令値変換部」の一例である。
【0035】
Q/θ変換器670は、リミッタ660により出力された無効電力出力指令値Qcによって無効電力補償装置30に出力させる無効電力(Q)を位相角(θ)に変換する。Q/θ変換器670は、変換した位相角をパルス生成器680に出力する。
【0036】
パルス生成器680は、Q/θ変換器670により出力された位相角を表すパルス信号を生成する。つまり、パルス生成器680は、リミッタ660が算出した無効電力出力指令値Qcを表すパルス信号を生成する。パルス生成器680は、生成したパルス信号を、ゲートパルス信号として無効電力補償装置30に出力する。これにより、無効電力補償装置30は、パルス生成器680、つまり、制御装置60により出力されたゲートパルス信号に応じた無効電力を、母線20に出力する。
【0037】
制御装置60におけるここまでの構成は、PI制御器650内の積分器654、およびリミッタ660が、リミッタ選択器690により出力されたリミット値に応じた動作をする以外は、従来の無効電力補償装置の制御装置と同様である。制御装置60では、従来の無効電力補償装置の制御装置に対して、リミッタ選択器690が追加されている。
【0038】
リミッタ選択器690は、電圧検出器40が検出した電圧検出値に基づいて、制御装置60における制限値(リミット値)を切り替える。つまり、リミッタ選択器690は、電圧検出器40が検出した電圧検出値に基づいて、PI制御器650が備える積分器654に電圧補正値を積分する際のリミット値と、リミッタ660が無効電力出力指令値Qcを算出する際のリミット値とを切り替える。より具体的には、電圧検出器40が検出した電圧検出値が、交流系統システム1において定常の運転がされていると判定することができる値である場合、リミッタ選択器690は、積分器654が積分する積分値を制限させず、リミッタ660が算出する無効電力出力指令値Qcが表す無効電力が定常時の大きさとなるように、上限リミット値Lim-maxを大きい(高い)値、下限リミット値Lim-minを小さい(低い)値に切り替える。一方、電圧検出器40が検出した電圧検出値が、例えば、母線20や母線20に繋がるいずれかの送電経路に系統事故(以下、単に「事故」という)が発生したと判定することができるような値に低下した場合、リミッタ選択器690は、積分器654が積分する積分値が正の場合には小さくなるように制限させ、負の場合には大きくなるように制限させ、リミッタ660が算出する無効電力出力指令値Qcが表す無効電力が小さくなるように制限させるために、上限リミット値Lim-maxを小さい(低い)値、下限リミット値Lim-minを大きい(高い)値に切り替える。その後、電圧検出器40が検出した電圧検出値が、交流系統システム1において定常の運転がされていると判定することができる値になった場合、リミッタ選択器690は、上限リミット値Lim-maxを大きい値、下限リミット値Lim-minを小さい値に切り替える。つまり、リミッタ選択器690は、発生した事故から復旧した場合には、積分器654とリミッタ660に対する制限を解除するため、上限リミット値Lim-maxを大きい値、下限リミット値Lim-minを小さい値に戻す。リミッタ選択器690は、例えば、比較器692と、二つの切替器694(切替器694-1および切替器694-2)と、二つのレートリミッタ696(レートリミッタ696-1およびレートリミッタ696-2)と、を備える。リミッタ選択器690は、特許請求の範囲における「制限値切替部」の一例である。
【0039】
比較器692は、電圧検出器40が検出した電圧検出値と、予め設定された閾値Vuvとを比較する。言い換えれば、比較器692は、この比較結果に基づいて、交流系統システム1において事故が発生したか否かを判定する。閾値Vuvは、交流系統システム1において事故が発生したか否かを判定するために、例えば、電力送電システムにおける電力の送電や、交流系統システム1の動作を制御する上位制御装置(不図示)によって、交流系統システム1における電圧の定格値(=1pu)よりも低い値に設定される。電圧検出器40が出力する電圧検出値は、実効値であってもよいし、絶対値や、絶対値の平均値、振幅値(最大値)であってもよい。閾値Vuvは、電圧検出器40が出力する電圧検出値の表現形式に合わせて設定される。比較器692は、比較結果を表す信号、つまり、交流系統システム1において事故が発生したか否かを判定した結果を表す信号を、切り替え信号Ssとして切替器694-1と切替器694-2とのそれぞれに出力する。
【0040】
切替器694のそれぞれは、比較器692により出力された切り替え信号Ssに応じて、対応するリミット値を切り替える。切替器694のそれぞれは、切り替えたリミット値を、対応するレートリミッタ696に出力する。より具体的には、切替器694-1は、比較器692により出力された切り替え信号Ssが交流系統システム1において事故が発生していない(定常時である)ことを表している場合には、大きい値(つまり、制限を緩い方向にする)の正リミット値Lim-PHに切り替える。一方、切替器694-1は、切り替え信号Ssが事故が発生している(事故時である)ことを表している場合には、小さい値(つまり、制限を厳しい方向にする)の正リミット値Lim-PLに切り替える。切替器694-1は、切り替えた正リミット値Lim-PHあるいは正リミット値Lim-PLのいずれか一方を、正リミット値Lim-Pとして対応するレートリミッタ696-1に出力する。同様に、切替器694-2は、切り替え信号Ssが定常時であることを表している場合には、小さい値の負リミット値Lim-NHに切り替え、切り替え信号Ssが事故時であることを表している場合には、大きい値の負リミット値Lim-NLに切り替える。切替器694-2は、切り替えた負リミット値Lim-NHあるいは負リミット値Lim-NLのいずれか一方を、負リミット値Lim-Nとして対応するレートリミッタ696-2に出力する。正リミット値Lim-PLおよび負リミット値Lim-NLは、特許請求の範囲における「第1の制限値」の一例であり、正リミット値Lim-PHおよび負リミット値Lim-NHは、特許請求の範囲における「第2の制限値」の一例である。
【0041】
正リミット値Lim-PH、正リミット値Lim-PL、負リミット値Lim-NH、および負リミット値Lim-NLのそれぞれのリミット値は、例えば、不図示の上位制御装置によって設定される。ここで、上位制御装置は、無効電力補償装置30における無効電力出力の正の定格値(=1pu)よりも大きい(高い)値を正リミット値Lim-PHとして設定し、無効電力出力の負の定格値(=-1pu)よりも小さい(低い)値を負リミット値Lim-NHとして設定する。これにより、正リミット値Lim-PHおよび負リミット値Lim-NHによる制限は、無効電力補償装置30における無効電力出力の定格値よりも広く(制限が緩く)なる。一方、上位制御装置は、無効電力出力の正の定格値(=1pu)よりも小さい(低い)正の所定値を正リミット値Lim-PLとして設定し、無効電力出力の負の定格値(=-1pu)よりも大きい(高い)値を負リミット値Lim-NLとして設定する。これにより、正リミット値Lim-PLおよび負リミット値Lim-NLによる制限は、無効電力補償装置30における無効電力出力の定格値よりも狭く(制限が厳しく)なる。上位制御装置は、正リミット値Lim-PLと負リミット値Lim-NLとのそれぞれを同じ値に設定してもよい。上位制御装置は、例えば、正リミット値Lim-PLと負リミット値Lim-NLとのそれぞれに「0」を設定してもよい。
【0042】
レートリミッタ696のそれぞれは、予め設定された変化率の係数に基づいて、対応する切替器694により出力されたリミット値の変化を調整する。変化率の係数は、交流系統システム1において事故が発生した場合にはリミット値が瞬時に変化し、発生した事故から復旧した場合にはリミット値が所定の時間をかけて変化するように、リミット値の変化速度を定めたものである。リミット値の変化速度は、例えば、不図示の上位制御装置が、交流系統システム1、あるいは交流系統システム1が連系された電力送電システムにおける運用の要件に基づいて、母線20における電圧変動を抑制することができる変化速度を設定する。変化速度は、例えば、1.0pu変化するのにかかる所定の時間が1.0[sec]となるような速度である。レートリミッタ696のそれぞれは、変化を調整したリミット値を、PI制御器650が備える積分器654と、リミッタ660とのそれぞれに出力する。より具体的には、レートリミッタ696-1は、切替器694-1により出力された正リミット値Lim-Pが、事故が発生したことによって正リミット値Lim-PHから正リミット値Lim-PLに切り替えられた場合には、瞬時に変化するように調整し、発生した事故から復旧したことによって正リミット値Lim-PLから正リミット値Lim-PHに切り替えられた場合には、所定の時間をかけて変化するように調整する。レートリミッタ696-1は、変化を調整した正リミット値Lim-Pを、上限リミット値Lim-maxとして積分器654とリミッタ660とのそれぞれに出力する。同様に、レートリミッタ696-2は、切替器694-2により出力された負リミット値Lim-Nが、事故が発生したことによって負リミット値Lim-NHから負リミット値Lim-NLに切り替えられた場合には、瞬時に変化するように調整し、発生した事故から復旧したことによって負リミット値Lim-NLから負リミット値Lim-NHに切り替えられた場合には、所定の時間をかけて変化するように調整する。レートリミッタ696-2は、変化を調整した負リミット値Lim-Nを、下限リミット値Lim-minとして積分器654とリミッタ660とのそれぞれに出力する。
【0043】
ここで、レートリミッタ696が、リミット値を変化させる動作の一例について説明する。図4は、実施形態の制御装置60が備えるリミッタ選択器690内のレートリミッタ696の動作の一例を示す図である。図4には、例えば、母線20や母線20に繋がるいずれかの送電経路に事故が発生した場合に、レートリミッタ696-1が上限リミット値Lim-maxを変化させる動作の一例を示している。図4には、上限リミット値Lim-maxの時間的な変化を示している。
【0044】
交流系統システム1において定常の運転がされているとき、切替器694-1は、正リミット値Lim-PHを正リミット値Lim-Pとして出力している。従って、レートリミッタ696-1は、このときの正リミット値Lim-PHを上限リミット値Lim-maxとして出力する。つまり、レートリミッタ696-1は、大きい(高い)値の上限リミット値Lim-maxを出力する。
【0045】
ここで、時間taにおいて事故が発生すると、切替器694-1は、比較器692により出力された切り替え信号Ssに応じて正リミット値Lim-Pを、正リミット値Lim-PHから正リミット値Lim-PLに切り替える。これにより、レートリミッタ696-1は、瞬時に正リミット値Lim-PLを上限リミット値Lim-maxとして出力する。つまり、レートリミッタ696-1は、瞬時に上限リミット値Lim-maxを大きい(高い)値から小さい(低い)値に変化させる。
【0046】
その後、時間toにおいて、例えば、事故が発生した送電経路が遮断されるなどによって、発生した事故から復旧すると、切替器694-1は、比較器692により出力された切り替え信号Ssに応じて正リミット値Lim-Pを、正リミット値Lim-PLから正リミット値Lim-PHに切り替える。これにより、レートリミッタ696-1は、所定の時間をかけて、上限リミット値Lim-maxを、正リミット値Lim-PLから正リミット値Lim-PHに変化させる。図4では、レートリミッタ696-1に設定された変化率の係数が、所定時間Pをかけて上限リミット値Lim-maxが変化する変化速度が設定されている場合を示している。これにより、レートリミッタ696-1は、上限リミット値Lim-maxを、時間toから上限リミット値Lim-maxを順次増加させ、所定時間Pが経過する時間tpのときに上限リミット値Lim-maxが正リミット値Lim-PHになるように変化させる。つまり、レートリミッタ696-1は、上限リミット値Lim-maxを小さい(低い)値から大きい(高い)値に、所定時間Pをかけて変化させる。
【0047】
このような動作によって、レートリミッタ696-1は、予め設定された変化率の係数に基づいて、事故が発生した場合と、発生した事故から復旧した場合とで、切替器694-1により出力された正リミット値Lim-Pを変化させる速度を異ならせる。上述した説明では、レートリミッタ696-1の動作について説明したが、レートリミッタ696-2の動作も同様である。従って、レートリミッタ696-2の動作に関する説明は省略する。
【0048】
図2に戻り、リミッタ選択器690において、それぞれのレートリミッタ696は省略されてもよい。この場合、リミッタ選択器690は、切替器694-1が切り替えた正リミット値Lim-PHあるいは正リミット値Lim-PLのいずれか一方の正リミット値Lim-Pを、上限リミット値Lim-maxとして積分器654とリミッタ660とのそれぞれに出力する。さらに、リミッタ選択器690は、切替器694-2が切り替えた負リミット値Lim-NHあるいは負リミット値Lim-NLのいずれか一方の負リミット値Lim-Nを、下限リミット値Lim-minとして積分器654とリミッタ660とのそれぞれに出力する。
【0049】
[リミッタ選択器の処理]
次に、リミッタ選択器690における処理の一例について説明する。図5は、実施形態の制御装置60が備えるリミッタ選択器690における処理の一例を示すフローチャートである。本フローチャートの処理は、無効電力補償装置30が動作している間、繰り返し実行される。以下の説明においては、電圧検出器40が出力する電圧検出値が実効値であるものとする。
【0050】
無効電力補償装置30が動作すると、リミッタ選択器690は、電圧検出器40が検出して出力した電圧検出値を取得する(ステップS100)。
【0051】
比較器692は、電圧検出値(実効値)と閾値Vuvとを比較し、電圧検出値が閾値Vuvよりも小さいか否かを判定する(ステップS102)。ステップS102において、電圧検出値が閾値Vuv以上である場合、比較器692は、この比較結果を表す切り替え信号Ssを切替器694-1と切替器694-2とのそれぞれに出力する。ここで、電圧検出値が閾値Vuv以上であるということは、交流系統システム1において定常の運転がされている(事故が発生していない)と判定されるということである。従って、比較器692は、交流系統システム1の運転が定常時の運転であることを表す切り替え信号Ssを、切替器694-1と切替器694-2とのそれぞれに出力する。
【0052】
切替器694-1は、出力する正リミット値Lim-Pを正リミット値Lim-PHに切り替えてレートリミッタ696-1に出力し、切替器694-2は、出力する負リミット値Lim-Nを負リミット値Lim-NHに切り替えてレートリミッタ696-2に出力する(ステップS104)。そして、レートリミッタ696-1は、切替器694-1により出力された正リミット値Lim-P(正リミット値Lim-PH)を、そのまま上限リミット値Lim-maxとしてPI制御器650が備える積分器654とリミッタ660とのそれぞれに出力する(図4参照)。レートリミッタ696-2は、切替器694-2により出力された負リミット値Lim-N(負リミット値Lim-NH)を、そのまま下限リミット値Lim-minとしてPI制御器650が備える積分器654とリミッタ660とのそれぞれに出力する(図4参照)。これにより、積分器654およびリミッタ660は、正リミット値Lim-PHである上限リミット値Lim-max、および負リミット値Lim-NHである下限リミット値Lim-minに応じた制限(つまり、制限がされていない状態)で動作する。そして、パルス生成器680は、リミッタ660が算出した無効電力出力指令値に基づいたゲートパルス信号を、無効電力補償装置30に出力する。これにより、無効電力補償装置30は、ゲートパルス信号に応じた、交流系統システム1における定常時の無効電力を、母線20に出力する。その後、リミッタ選択器690は、処理をステップS100に戻し、次に電圧検出器40が検出した電圧検出値に対する処理を繰り返す。
【0053】
一方、ステップS102において、電圧検出値が閾値Vuvよりも小さい場合、比較器692は、この比較結果を表す切り替え信号Ssを切替器694-1と切替器694-2とのそれぞれに出力する。ここで、電圧検出値が閾値Vuvよりも小さいということは、交流系統システム1において定常の運転がされていない(事故が発生している)と判定されるということである。従って、比較器692は、交流系統システム1の運転が事故時の運転であることを表す切り替え信号Ssを、切替器694-1と切替器694-2とのそれぞれに出力する。
【0054】
切替器694-1は、出力する正リミット値Lim-Pを正リミット値Lim-PLに切り替えてレートリミッタ696-1に出力し、切替器694-2は、出力する負リミット値Lim-Nを負リミット値Lim-NLに切り替えてレートリミッタ696-2に出力する(ステップS106)。そして、レートリミッタ696-1は、切替器694-1により出力された正リミット値Lim-P(正リミット値Lim-PL)を、そのまま(瞬時に)上限リミット値Lim-maxとしてPI制御器650が備える積分器654とリミッタ660とのそれぞれに出力する(図4参照)。レートリミッタ696-2は、切替器694-2により出力された負リミット値Lim-N(負リミット値Lim-NL)を、そのまま(瞬時に)下限リミット値Lim-minとしてPI制御器650が備える積分器654とリミッタ660とのそれぞれに出力する(図4参照)。これにより、積分器654およびリミッタ660は、正リミット値Lim-PLである上限リミット値Lim-max、および負リミット値Lim-NLである下限リミット値Lim-minに応じた制限(つまり、制限がされている状態)で動作する。そして、パルス生成器680は、リミッタ660が算出した無効電力出力指令値に基づいたゲートパルス信号を、無効電力補償装置30に出力する。これにより、無効電力補償装置30は、ゲートパルス信号に応じた、交流系統システム1における事故時の無効電力を、母線20に出力する。これにより、交流系統システム1では、発生した事故による母線20の電圧変動が抑制される。
【0055】
その後、リミッタ選択器690は、次に電圧検出器40が検出して出力した電圧検出値を取得する(ステップS108)。
【0056】
比較器692は、電圧検出値と閾値Vuvとを比較し、電圧検出値が閾値Vuvよりも大きいか否かを判定する(ステップS110)。ステップS110において、電圧検出値が閾値Vuv以下である場合、比較器692は、処理をステップS108に戻し、さらに次に電圧検出器40が検出した電圧検出値に対する判定を繰り返す。これは、電圧検出値が閾値Vuv以下であるということは、交流系統システム1において発生した事故から復旧していない(事故が継続している)と判定されるということである。従って、比較器692は、交流系統システム1の運転が事故時の運転であることを表す切り替え信号Ssの切替器694-1と切替器694-2とのそれぞれへの出力を継続する。これにより、パルス生成器680は、リミッタ660が算出した事故時の無効電力出力指令値に基づいたゲートパルス信号の無効電力補償装置30への出力を継続し、無効電力補償装置30は、事故時の無効電力の母線20への出力を継続して、事故による母線20の電圧変動を引き続き抑制する。
【0057】
一方、ステップS110において、電圧検出値が閾値Vuvよりも大きい場合、比較器692は、この比較結果を表す切り替え信号Ssを切替器694-1と切替器694-2とのそれぞれに出力する。ここで、電圧検出値が閾値Vuvよりも大きいということは、交流系統システム1において発生した事故から復旧し、定常の運転がされている(事故が発生していない)と判定されるということである。従って、比較器692は、交流系統システム1の運転が定常時の運転であることを表す切り替え信号Ssを、切替器694-1と切替器694-2とのそれぞれに出力する。
【0058】
切替器694-1は、出力する正リミット値Lim-Pを正リミット値Lim-PHに切り替えてレートリミッタ696-1に出力し、切替器694-2は、出力する負リミット値Lim-Nを負リミット値Lim-NHに切り替えてレートリミッタ696-2に出力する(ステップS112)。これにより、レートリミッタ696-1は、所定の時間(例えば、1.0pu変化するのに1.0[sec])をかけて、PI制御器650が備える積分器654とリミッタ660とのそれぞれに出力している上限リミット値Lim-maxを、正リミット値Lim-PLから正リミット値Lim-PHに変化させる(図4参照)。レートリミッタ696-2は、所定の時間をかけて、PI制御器650が備える積分器654とリミッタ660とのそれぞれに出力している下限リミット値Lim-minを、負リミット値Lim-NLから負リミット値Lim-NHに変化させる(図4参照)。これにより、積分器654およびリミッタ660は、動作するときに入力されている上限リミット値Lim-max、および下限リミット値Lim-minに応じた制限(つまり、制限を次第に緩めていく状態)で動作する。より具体的には、積分器654は、入力された電圧補正値を積分した積分値を徐々に大きくしていく。リミッタ660は、算出する無効電力出力指令値が表す無効電力の大きさの制限を徐々に解除していく。そして、パルス生成器680は、リミッタ660が算出した無効電力出力指令値に基づいたゲートパルス信号を、無効電力補償装置30に出力する。これにより、無効電力補償装置30は、ゲートパルス信号に応じて母線20に出力している交流系統システム1における事故時の無効電力を、定常時の無効電力に徐々に変化させる。これにより、交流系統システム1では、発生した事故による母線20の電圧変動の抑制が徐々に解除される。その後、リミッタ選択器690は、処理をステップS100に戻し、次に電圧検出器40が検出した電圧検出値に対する処理を繰り返す。
【0059】
このような構成および処理によって、制御装置60では、リミッタ選択器690が、電圧検出器40が検出した電圧検出値が、交流系統システム1において定常の運転がされていると判定することができる値である場合には、積分器654が積分する積分値を制限させず、リミッタ660が算出する無効電力出力指令値が表す無効電力が定常時の大きさとなるように、上限リミット値Lim-maxおよび下限リミット値Lim-minを大きい(高い)値に切り替える。一方、制御装置60では、リミッタ選択器690が、電圧検出器40が検出した電圧検出値が、交流系統システム1において事故が発生したと判定することができるような値に低下した場合には、積分器654が積分する積分値が小さくなるように制限させ、リミッタ660が算出する無効電力出力指令値が表す無効電力が小さくなるように制限させるために、上限リミット値Lim-maxおよび下限リミット値Lim-minを小さい(低い)値に切り替える。これにより、交流系統システム1では、交流系統システム1において事故が発生している間に積分器654が電圧補正値を積分した積分値が、リミッタ選択器690により出力された上限リミット値Lim-max、および下限リミット値Lim-minを超えてしまうことがなくなり、その後に交流系統システム1において事故から復旧した場合(瞬時に復旧した場合も含む)でも、積分器654が出力する積分値が急に大きな値になってしまうのを抑制することができる。これにより、制御装置60では、大きな積分値によってPI制御器650が必要以上の比例積分制御を行ってしまうことがなくなる。このことにより、交流系統システム1では、発生した事故から復旧するときに起こり得る、無効電力補償装置30が出力する無効電力のオーバーシュートを抑制することができ、母線20に過電圧を発生させてしまうことがないようにすることができる。さらに、交流系統システム1では、電圧指令値と事故時の電圧検出値との大きな差によって加算器640により出力された電圧補正値が大きくなったことにより、比例器652が出力する比例値が大きな値になってしまった場合でも、リミッタ660が、算出する無効電力出力指令値を、上限リミット値Lim-maxおよび下限リミット値Lim-minに応じて制限する。これにより、制御装置60では、仮に大きな比例積分値がリミッタ660に出力されてしまったとしても、例えば、正リミット値Lim-PLと負リミット値Lim-NLとのそれぞれが同じ値に設定されている場合には、リミッタ660は、PI制御器650により出力された比例積分値に関係なく、算出する無効電力出力指令値を制限することができる。このことにより、交流系統システム1では、事故時に無効電力補償装置30が出力する無効電力が必要以上に大きくなってしまうのを抑制することができ、母線20に過電圧を発生させてしまうことがないようにすることができる。
【0060】
さらに、制御装置60では、リミッタ選択器690が、その後に電圧検出器40が検出した電圧検出値が、交流系統システム1において定常の運転がされていると判定することができる値になった場合、つまり、事故から復旧したと判定することができる値になった場合には、積分器654とリミッタ660に対する制限を解除するため、上限リミット値Lim-maxおよび下限リミット値Lim-minを大きい値に切り替える(戻す)。このとき、リミッタ選択器690にレートリミッタ696を備えている構成である場合には、レートリミッタ696が、所定の時間をかけて上限リミット値Lim-maxおよび下限リミット値Lim-minを大きい値に戻す。つまり、レートリミッタ696が、上限リミット値Lim-maxおよび下限リミット値Lim-minの変化速度を遅くする。これにより、交流系統システム1では、発生した事故から復旧する際に無効電力補償装置30が出力する無効電力の急激な変化を抑制することができ、母線20に過電圧を発生させてしまうことがないようにすることができる。
【0061】
上記に述べたとおり、実施形態の制御装置60によれば、リミッタ選択器690が、電圧検出器40が検出した電圧検出値に基づいて、交流系統システム1における事故時に、PI制御器650が備える積分器654における電圧補正値の積分動作と、リミッタ660が算出する無効電力出力指令値とを制限させるために、上限リミット値Lim-maxを小さい(低い)値、下限リミット値Lim-minを大きい(高い)値に切り替える。これにより、実施形態の制御装置60では、事故時の無効電力出力指令値を制限して、無効電力補償装置30に無効電力を出力させることができる。このことにより、実施形態の制御装置60を備える無効電力補償装置30が接続されている交流系統システム1では、発生した事故から復旧するときに起こり得る、無効電力補償装置30が出力する無効電力のオーバーシュートを抑制することができる。これにより、実施形態の制御装置60を備える無効電力補償装置30が接続されている交流系統システム1では、電力送電システムにおける電力送電の信頼度を向上させたシステムを実現することができる。
【0062】
上記に述べた実施形態では、交流系統システム1において、制御装置60と無効電力補償装置30とが、異なる構成要素として備えられる構成を説明した。しかし、制御装置60と無効電力補償装置30とは別体での構成に限定されない、例えば、制御装置60は、無効電力補償装置30が備える構成要素であってもよい。この場合における制御装置60の構成や、動作、処理は、上述した制御装置60の構成や、動作、処理と等価なものになるようにすればよい。従って、制御装置60が無効電力補償装置30が備える構成要素である場合の構成や、動作、処理に関する詳細な説明は省略する。
【0063】
上記説明したように、例えば、交流系統システム1が備える無効電力補償装置30の制御装置60が実行する制御方法は、少なくとも交流系統10との連系点(例えば、母線20)に配置された電圧検出器40によって検出された電圧検出値に基づいて、交流系統10に連系された無効電力補償装置30からの無効電力の出力を制御する制御方法であって、制御装置60のコンピュータ(プロセッサなど)が、電圧検出値に基づく値に応じた比例値と、制限値(上限リミット値Lim-maxおよび下限リミット値Lim-min)に従って電圧検出値に基づく値を積分した積分値とに基づく比例積分値を求め、比例積分値を、無効電力補償装置30に無効電力を出力させるための無効電力出力指令値に変換し、電圧検出値が低下したときに、制限値を、少なくとも電圧検出値に基づく値を積分する積分値を低く制限させる第1の制限値(正リミット値Lim-PLおよび負リミット値Lim-NL)に切り替え、電圧検出値が復電したときに、制限値を、積分値を制限させない第2の制限値(正リミット値Lim-PHおよび負リミット値Lim-NH)に切り替える、制御方法である。
【0064】
上記説明したように、例えば、交流系統システム1が備える無効電力補償装置30の制御装置60が実行するプログラムは、少なくとも交流系統10との連系点(例えば、母線20)に配置された電圧検出器40によって検出された電圧検出値に基づいて、交流系統10に連系された無効電力補償装置30からの無効電力の出力を制御する制御装置60において実行されるプログラムであって、制御装置60のコンピュータ(プロセッサなど)に、電圧検出値に基づく値に応じた比例値と、制限値(上限リミット値Lim-maxおよび下限リミット値Lim-min)に従って電圧検出値に基づく値を積分した積分値とに基づく比例積分値を求めさせ、比例積分値を、無効電力補償装置30に無効電力を出力させるための無効電力出力指令値に変換させ、電圧検出値が低下したときに、制限値を、少なくとも電圧検出値に基づく値を積分する積分値を低く制限させる第1の制限値(正リミット値Lim-PLおよび負リミット値Lim-NL)に切り替えさせ、電圧検出値が復電したときに、制限値を、積分値を制限させない第2の制限値(正リミット値Lim-PHおよび負リミット値Lim-NH)に切り替えさせる、プログラムである。
【0065】
以上説明した実施形態によれば、少なくとも交流系統(10)との連系点(例えば、20)に配置された電圧検出装置(40)によって検出された電圧検出値に基づいて、交流系統に連系された無効電力補償装置(30)からの無効電力の出力を制御する無効電力補償装置の制御装置(60)であって、電圧検出値に基づく値に応じた比例値を出力する比例器(652)、および入力された制限値(上限リミット値Lim-maxおよび下限リミット値Lim-min)に従って電圧検出値に基づく値を積分した積分値を出力する積分器(654)を備え、比例値と積分値とに基づく比例積分値を出力する比例積分制御器(650)と、比例積分値を、無効電力補償装置に無効電力を出力させるための無効電力出力指令値に変換する指令値変換部(660)と、少なくとも積分器による電圧検出値に基づく値の積分を制限させる制限値を切り替える制限値切替部(690)と、を備え、制限値切替部は、電圧検出値が低下したときに、制限値を、積分値を低く制限させる第1の制限値(正リミット値Lim-PLおよび負リミット値Lim-NL)に切り替え、電圧検出値が復電したときに、制限値を、積分値を制限させない第2の制限値(正リミット値Lim-PHおよび負リミット値Lim-NH)に切り替えることにより、電力送電システムにおいて発生した系統事故から復旧するときに起こり得る、無効電力補償装置が出力する無効電力のオーバーシュートを抑制することができる。
【0066】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0067】
1・・・交流系統システム、10・・・交流系統、20・・・母線、30・・・無効電力補償装置、40・・・電圧検出器、50・・・電流検出器、60・・・制御装置、610・・・加算器、620・・・加算器、630・・・乗算器、640・・・加算器、650・・・PI制御器、652・・・比例器、654・・・積分器、656・・・加算器、660・・・リミッタ、670・・・Q/θ変換器、680・・・パルス生成器、690・・・リミッタ選択器、692・・・比較器、694,694-1,694-2・・・切替器、696,696-1,696-2・・・レートリミッタ
図1
図2
図3
図4
図5