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特開2023-148665硬化性樹脂組成物およびその貯蔵安定方法
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  • 特開-硬化性樹脂組成物およびその貯蔵安定方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023148665
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】硬化性樹脂組成物およびその貯蔵安定方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 20/26 20060101AFI20231005BHJP
   C08L 33/04 20060101ALI20231005BHJP
   C08K 5/17 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C08F20/26
C08L33/04
C08K5/17
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022056809
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(72)【発明者】
【氏名】福留 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 宗弘
【テーマコード(参考)】
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
4J002BG021
4J002EN026
4J100AL03Q
4J100AL08P
4J100BA08P
4J100CA04
4J100DA01
4J100DA04
4J100FA03
4J100FA19
4J100FA28
4J100FA30
(57)【要約】
【課題】
アクリロイル基のみを重合したビニルエーテル基含有アクリル酸エステル重合体を含む硬化性樹脂組成物において、意図せずに短時間でゲル化が進行することがあった。
【解決手段】
下記一般式(1)で表されるビニルエーテル基含有アクリル酸エステルを単量体成分として含む重合体組成物であって、前記重合体に対して塩基性化合物を1質量ppm以上10000質量ppm以下含むビニルエーテル基含有アクリル酸エステル重合体組成物とする。
【化1】
(式中、Rは、水素原子もしくはメチル基を表す。R及びRは、同一又は異なって、水素原子又は有機基を表す。Rは、水素原子又は有機基を表す。nは、1以上の整数を表す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるビニルエーテル基含有アクリル酸エステルを単量体成分として含む重合体組成物であって、前記重合体に対して塩基性化合物を1質量ppm以上10000質量ppm以下含むビニルエーテル基含有アクリル酸エステル重合体組成物。
【化1】
(式中、Rは、水素原子もしくはメチル基を表す。R及びRは、同一又は異なって、水素原子又は有機基を表す。Rは、水素原子又は有機基を表す。nは、1以上の整数を表す。)
【請求項2】
前記塩基性化合物が、NR で表される3級アミンである、請求項1に記載の組成物。
(式中、Rは互いに独立して炭素数1~8のアルキル基を表す。)
【請求項3】
下記一般式(1)で表されるビニルエーテル基含有アクリル酸エステルを単量体成分として含む重合体組成物の貯蔵方法であって、前記重合体に対して塩基性化合物を1質量ppm以上10000質量ppm以下含む貯蔵安定方法。
【化2】
(式中、Rは、水素原子もしくはメチル基を表す。R及びRは、同一又は異なって、水素原子又は有機基を表す。Rは、水素原子又は有機基を表す。nは、1以上の整数を表す。)
【請求項4】
前記塩基性化合物が、NR で表される3級アミンである、請求項3に記載の貯蔵安定方法。(式中、Rは互いに独立して炭素数1~8のアルキル基を表す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性樹脂組成物およびその貯蔵安定方法に関する。より詳しくは、ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類を含む単量体成分の重合体を含む組成物およびその貯蔵安定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ラジカル重合性基とイオン重合性基を分子内に併せ持つ異種重合性モノマーとして、ビニルエーテル基含有アクリル酸エステル類が知られている。このような異種重合性モノマーを重合して得られる重合体は、工業的に汎用性が高く有用であり、各種用途において広く使用されている。
【0003】
ビニルエーテル基含有アクリル酸エステル類は、モノマー内にビニルエーテル基とアクリロイル基を有する。そのため、ビニルエーテル基のみをカチオン重合させるとアクリロイル基ペンダント型ポリビニルエーテルを得ることができる。一方、アクリロイル基のみを重合させるとビニルエーテルペンダント型アクリルポリマーを得ることができる。このように、ビニルエーテル基含有アクリル酸エステル類は2種の重合性基を有するため、所望の重合体を得るためには最適な重合方法を選択する必要がある。
【0004】
なかでも、アクリロイル基のみを重合させて、ビニルエーテル基含有アクリル酸エステル重合体を得る方法について、これまでにいくつか提案されている。
例えば、特許文献1には、ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類を必須に含む単量体成分を、炭素-炭素二重結合を有するシラン化合物及び触媒の存在下でグループトランスファー重合する工程を含むことを特徴とするビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2019/240049号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のようなビニルエーテル基含有アクリル酸エステルの重合体を得るための従来の方法において、アクリロイル基のみを温和な条件で重合した硬化性樹脂組成物が得られるものの、得られた硬化性樹脂組成物において、意図せずに短時間でゲル化が進行することがあった。
【0007】
本発明は、ビニルエーテル基含有アクリル酸エステルの重合体を含有する重合体組成物において、貯蔵安定性に優れた組成物および貯蔵安定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成する為に種々検討を行ない、本発明に想到した。
すなわち本発明は、下記一般式(1)で表されるビニルエーテル基含有アクリル酸エステルを単量体成分として含む重合体組成物であって、前記重合体に対して塩基性化合物を1質量ppm以上10000質量ppm以下含むビニルエーテル基含有アクリル酸エステル重合体組成物である。
【0009】
【化1】
【0010】
(式中、Rは、水素原子もしくはメチル基を表す。R及びRは、同一又は異なって、水素原子又は有機基を表す。Rは、水素原子又は有機基を表す。nは、1以上の整数を表す。)
また、本発明の別の形態は、上記一般式(1)で表されるビニルエーテル基含有アクリル酸エステルを単量体成分として含む重合体組成物の貯蔵安定方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明のビニルエーテル基含有アクリル酸エステル重合体組成物は、貯蔵安定性に優れることから、粘着剤、接着剤、印刷用インク組成物、レジスト用組成物、コーティング剤、成形材料等の各種用途に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実験例1の重合反応液のH-NMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
【0014】
[本発明の重合体組成物]
本発明のビニルエーテル基含有アクリル酸エステル重合体組成物は、下記一般式(1)で表されるビニルエーテル基含有アクリル酸エステルを単量体成分として含む重合体組成物であって、前記重合体に対して塩基性化合物を1質量ppm以上10000質量ppm以下含むビニルエーテル基含有アクリル酸エステル重合体組成物である。
【0015】
【化2】
【0016】
(式中、Rは、水素原子もしくはメチル基を表す。R及びRは、同一又は異なって、水素原子又は有機基を表す。Rは、水素原子又は有機基を表す。nは、1以上の整数を表す。)
本発明の重合体組成物は、重合体中にビニルエーテル基を有することから、酸、アルカリ、ラジカル等の発生により架橋反応が進行する。特に、重合体組成物の使用環境から混入する酸成分による意図しない架橋反応が進行することから、重合体に対して塩基性化合物を1質量ppm以上10000質量ppm以下含むことにより、重合体中のビニルエーテル基の意図しない架橋反応を抑制することができる。塩基性化合物は10質量ppm以上が好ましく、50質量ppm以上がより好ましく、100質量ppm以上がさらに好ましい。塩基性化合物の上限としては5000質量ppm以下が好ましく、3000質量ppm以下がより好ましく、1000質量ppm以下がさらに好ましい。
【0017】
本発明に用いられる塩基性化合物としては、NR (式中、Rは互いに独立して炭素数1~8のアルキル基を表す。)で表される3級アミンであることが好ましく、具体的には、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリn-ブチルアミン、n-ブチルジメチルアミン、トリイソペンチルアミン、トリn-オクチルアミン、トリ(2-エチルヘキシル)アミン等が挙げられ、トリエチルアミン、トリn-ブチルアミンが特に好ましい。
【0018】
本発明の重合体組成物における残存モノマーの含有量は、重合体組成物中の重合体100質量%に対して10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、0~3質量%であることが更に好ましい。
【0019】
残存モノマーの含有量は、H-NMRやガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定することができる。
【0020】
本発明の重合体組成物として、後述するグループトランスファー重合により得られた重合体を含む重合体組成物をそのまま用いることができる。後述するグループトランスファー重合を用いた製造方法により得られた、ビニルエーテル基含有アクリル酸エステル重合体を含む重合体組成物について、精製等を行って、残存モノマーの量を適宜調整してもよい。
【0021】
本発明の重合体組成物における、上記ビニルエーテル基含有アクリル酸エステル重合体の含有量は、特に限定されず、重合体組成物の目的、用途に応じて適宜設計すればよいが、例えば、固形分総量100質量%に対して1~99質量%、好ましくは2~98質量%、より好ましくは3~97質量%である。
【0022】
なお、本明細書において、「固形分総量」とは、硬化物を形成する成分(硬化物の形成時に揮発する溶媒等を除く)の総量を意味する。
【0023】
本発明の重合体組成物は、上記ビニルエーテル基含有アクリル酸エステル重合体以外に、必要に応じて他の成分を含んでいてもよい。上記他の成分としては、例えば、溶媒、重合開始剤、連鎖移動剤、分散剤、酸化防止剤、レベリング剤、無機微粒子、カップリング剤、硬化剤、硬化助剤、可塑剤、重合禁止剤、紫外線吸収剤、消泡剤、帯電防止剤、酸発生剤、樹脂、重合性化合物等の1種又は2種以上の任意の成分が挙げられる。これらは、重合体組成物の目的、用途に応じて、公知のものから適宜選択するとよい。また、その使用量も適宜設計することができる。
【0024】
本発明の重合体組成物は、上記ビニルエーテル基含有アクリル酸エステル重合体を含むので、ラジカル硬化性、カチオン硬化性、光硬化性等の特性を有する。そのため、本発明の重合体組成物は、例えば、粘・接着剤、印刷用インク組成物、レジスト用組成物、コーティング、成形材等に好適に使用することができる。
【0025】
本発明の重合体は、単量体成分として、上記一般式(1)で表されるビニルエーテル基含有アクリル酸エステルを使用する。
【0026】
又はRで表される有機基としては、例えば、炭素数1~20の鎖状若しくは環状の1価の炭化水素基、又は、これらの炭化水素基を構成する原子の少なくとも一部を、ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子又は硫黄原子に置換したもの等が挙げられる。
【0027】
で表される有機基としては、例えば、上述したR及びRで表される有機基と同じものを挙げることができる。なかでも、上記Rで表される有機基は、炭素数1~11の鎖状又は環状の炭化水素基であることが好ましく、炭素数1~10のアルキル基、炭素数3~10のシクロアルキル基、炭素数6~11の芳香族炭化水素基であることがより好ましく、炭素数1~3のアルキル基であることが更に好ましい。
【0028】
上記ビニルエーテル基含有アクリル酸エステル(1)は、1種のみ用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
上記ビニルエーテル基含有アクリル酸エステル(1)の含有割合は、全構造単位100モル%に対して5~100モル%であることが好ましい。上記ビニルエーテル基含有アクリル酸エステル(1)の含有割合は、重合体又は硬化触媒と充分に架橋できる点で、10モル%以上であることがより好ましく、20モル%以上であることが更に好ましい。
【0030】
なお、上記ビニルエーテル基含有アクリル酸エステル(1)として2種以上含む場合は、上記含有割合は、その2種以上の合計含有割合である。
【0031】
上記ビニルエーテル基含有アクリル酸エステル(1)の含有割合は、ガスクロマトグラフィーや液体クロマトグラフィー、H-HMR等を用いて、上記ビニルエーテル基含有アクリル酸エステルやそれ以外のモノマーの反応率の比やH-NMRの該当する積分値の比較の方法により求めることができる。
【0032】
本発明の重合体は、上記ビニルエーテル基含有アクリル酸エステル(1)以外の、他の重合性単量体を含んでいてもよい。
【0033】
上記他の重合性単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル等の(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル等の水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル等の環状エーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリル酸トリフルオロエチル、(メタ)アクリル酸オクタフルオロペンチル、(メタ)アクリル酸パーフロロオクチルエチル等のハロゲン含有(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン等の窒素原子含有重合性単量体類;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等の多官能性重合性単量体類;2-(メタ)アクロイルオキシエチルイソシアネート、(メタ)アクロイルイソシアネート等のイソシアネート基含有重合性単量体類;4-(メタ)アクリロイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、1-(メタ)アクリロイル-4-シアノ-4-(メタ)アクリロイルアミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン等の紫外線安定性重合性単量体類;メチレンブチロラクトン、メチルメチレンブチロラクトン等の重合性環状ラクトン単量体類;(メタ)アクリロニトリル;無水マレイン酸;等が挙げられる。
【0034】
また、上記他の重合性単量体は、炭素数が2~22であることが好ましく、2~18であることがより好ましく、3~15であることが更に好ましい。
上記他の重合性単量体は、1種のみ用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
単量体成分として、上記ビニルエーテル基含有アクリル酸エステル(1)と上記他の重合性単量体を含む場合、それぞれの成分の含有量は、得ようとする重合体の目的・用途に応じて適宜設計することができる。
【0036】
[本発明の重合体の製造方法]
本発明のビニルエーテル基含有アクリル酸エステル重合体の製造方法は、下記一般式(1)で表されるビニルエーテル基含有アクリル酸エステル類を含む単量体成分を、炭素-炭素二重結合を有するシラン化合物、及び、触媒の存在下でグループトランスファー重合する工程を含むことが好ましい。
【0037】
【化3】
【0038】
(式中、Rは、水素原子もしくはメチル基を表す。R及びRは、同一又は異なって、水素原子又は有機基を表す。Rは、水素原子又は有機基を表す。nは、1以上の整数を表す。)
本発明の製造方法で用いるグループトランスファー重合は、炭素-炭素二重結合を有するシラン化合物を重合開始剤としてモノマーを重合させるアニオン重合の一種である。炭素-炭素二重結合を有するシラン化合物が、ビニルエーテル基含有アクリル酸エステル類のアクリロイル基に付加し、新たに形成された重合体の成長末端のシリルケテンアセタールが次々と重合体分子の末端へと移ってゆくことにより重合体が得られる。
【0039】
このようなグループトランスファー重合を用いることにより、ビニルエーテル基含有アクリル酸エステル類の重合反応を、室温等の、制御が比較的容易な温度範囲で行うことができる。また、反応系内の水分量を厳密に制御する必要もなく、上記重合反応を行うことができる。更に、上記重合を用いれば、不純物の生成が少なく、高転化率でビニルエーテル基を残存させたままビニルエーテル基含有アクリル酸エステル重合体を製造することができる。
【0040】
このように、触媒の存在下でのグループトランスファー重合を用いると、ビニルエーテル基含有アクリル酸エステル類のアクリロイル基のみを重合させた、ビニルエーテル基含有アクリル酸エステル重合体を極めて容易かつ効率的に製造することができる。
【0041】
本発明の製造方法における重合工程では、重合開始剤として炭素-炭素二重結合を有するシラン化合物を用い、触媒の存在下で、上記一般式(1)で表されるビニルエーテル基含有アクリル酸エステル類を含む単量体成分を重合させる。
【0042】
具体的には、反応前に、上記単量体成分、触媒、炭素-炭素二重結合を有するシラン化合物のうちいずれか2つを反応容器内に仕込み、残り1つを添加することにより重合が開始する。これらを添加する順序については特に限定されず、任意の方法で添加して重合を開始することができる。
【0043】
また、上記炭素-炭素二重結合を有するシラン化合物、触媒、及び、単量体成分は、それぞれ、使用する全量を一度に添加してもよいし、少量ずつ連続的に添加してもよいし、数回に分けて添加してもよい。
【0044】
上記単量体成分を重合して得られる重合体の分子量は、上記単量体成分の種類及び量や、上記炭素-炭素二重結合を有するシラン化合物の種類及び量、上記触媒の種類及び量、使用する溶媒の種類や量により適宜制御することができる。
【0045】
上記炭素-炭素二重結合を有するシラン化合物の使用量は、所望の重合体が得られるのであれば特に限定されないが、より効率的に重合体を製造できる点で、使用する単量体成分に対して、1×10-4~10モル%であることが好ましく、1×10-3~5モル%がより好ましく、1×10-2~1モル%であることが更に好ましい。
【0046】
上記触媒の使用量は、所望の重合体が得られるのであれば特に限定されないが、より効率的に重合体を製造できる点で、使用する単量体成分に対して、1×10-4~10モル%であることが好ましく、1×10-3~5モル%がより好ましく、1×10-2~1モル%であることが更に好ましい。
【0047】
上記重合反応は、溶媒を使用せずに行うこともできるが、溶媒を使用することが好ましい。使用する溶媒としては、原料、触媒、重合開始剤、重合体を溶解させることのできる溶媒であれば制限されないが、重合反応が効率良く進行し得る点で、非プロトン性溶媒が好ましい。
【0048】
本発明において使用する溶媒としては、具体的には、例えば、トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒;ヘキサン、ペンタン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;クロロベンゼン、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリル、バレロニトリル等のニトリル系溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド系溶媒;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,2-ジメトキシエタン(DME)、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、テトラヒドロピラン(THP)、アニソール、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグリム)、ジエチレングリコールエチルエーテル(カルビトール)、シクロペンチルメチルエーテル(CPME)等のエーテル系溶媒;ペルフルオロヘキサン、ペルフルオロシクロヘキサン、ペンタフルオロベンゼン、オクタフルオロトルエン等のフッ素系溶媒;DMSO、ニトロメタン等が挙げられる。
【0049】
なかでも、重合反応がより一層効率良く進行し得る点で、上記溶媒としては、芳香族炭化水素系溶媒、脂肪族炭化水素系溶媒、ケトン系溶媒、ハロゲン化炭化水素系溶媒、エーテル系溶媒、エステル系溶媒、及びニトリル系溶媒からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、芳香族炭化水素系溶媒、エーテル系溶媒、エステル系溶媒であることがより好ましい。上記溶媒は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
上記溶媒の使用量としては、使用する単量体成分総量100質量%に対して、好ましくは10~10000質量%、より好ましくは50~5000質量%、更に好ましくは100~1000質量%が挙げられる。
【0051】
また、上記重合においては、重合開始時の溶媒中の酸素濃度が1000ppm以下であることが好ましい。重合開始時の溶媒中の酸素濃度が上述の範囲であると、上記炭素-炭素二重結合を有するシラン化合物や触媒等の活性がより低下しにくくなるため、重合反応がより良好に進行し、所望の重合体をより効率良く製造することができる。上記酸素濃度は、800ppm以下であることがより好ましく、0~500ppmであることが更に好ましい。上記酸素濃度は、ポーラロ方式溶存酸素計により測定することができる。
【0052】
また、上記重合においては、重合開始時の溶媒中の水分量が1000ppm以下であることが好ましい。重合開始時の溶媒中の水分量が上述の範囲であると、上記炭素-炭素二重結合を有するシラン化合物が分解を起こしにくく触媒等の活性がより低下しにくくなるため、重合反応がより良好に進行し、所望の重合体をより効率良く製造することができる。上記水分量は、500ppm以下であることがより好ましく、300ppm以下であることが更に好ましい。上記水分量は、カールフィッシャー水分測定法により測定することができる。
【0053】
上記重合における反応温度は、特に制限されないが、分子量及び分子量分布の制御や触媒活性の維持ができる点で、-20~100℃が好ましく、-10~50℃がより好ましく、0~30℃が更に好ましい。また、製造コスト低減の観点から、室温±20℃で重合する工程を含むことも、本発明の製造方法の好ましい形態の一つである。反応時間は、特に制限されないが、10分~48時間が好ましく、30分~36時間がより好ましく、1~24時間が更に好ましい。
【0054】
上記重合における反応雰囲気下は、大気下でもよいが、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下であることが好ましい。また上記重合における雰囲気中の酸素濃度は、10000ppm以下であることが好ましく、1000ppm以下であることがより好ましく、100ppm以下であることが更に好ましい。
【0055】
上記重合反応で得られる重合体は、主鎖末端に重合開始剤のシリル基を含むシリルケテンアセタール構造又はエノレートアニオン構造となっており、反応系内に水、アルコール、又は酸を添加して、重合体の片末端のシリルケテンアセタール又はエノレートアニオンをカルボン酸又はエステルに変換させることにより、重合反応を停止させることができる。
【0056】
上記アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール等が挙げられる。
【0057】
上記酸としては、例えば、塩酸、硫酸、リン酸等の無機酸や、酢酸、安息香酸等の有機酸が挙げられる。
【0058】
水、アルコール又は酸の使用量としては特に限定されないが、使用する炭素-炭素二重結合を有するシラン化合物1molに対し、好ましくは1~1000mol、より好ましくは1~100mol、更に好ましくは1~10molである。
【0059】
また、上記水、アルコール、又は酸の代わりに、求電子剤を添加してもよい。求電子剤を添加することにより、目的の官能基を導入して、重合反応を停止させることができる。上記求電子剤としては、例えば、ヨウ素や臭素等のハロゲン、ハロゲン化コハク酸イミド化合物、ハロゲン化アルキル、ハロゲン化アリル、ハロゲン化プロパルギル、アルデヒド、酸クロライド等が挙げられる。
【0060】
上記求電子剤の使用量としては、特に限定されないが、使用するシリルケテンアセタール1molに対し、好ましくは0.5~1.5mol、より好ましくは0.6~1.3mol、更に好ましくは0.8~1.2molである。
【0061】
[本発明の貯蔵安定方法]
また、本発明の別の形態は、下記一般式(1)で表されるビニルエーテル基含有アクリル酸エステルを単量体成分として含む重合体組成物の貯蔵方法であって、前記重合体に対して塩基性化合物を1質量ppm以上10000質量ppm以下含む貯蔵安定方法である。
【0062】
【化4】
【0063】
(式中、Rは、水素原子もしくはメチル基を表す。R及びRは、同一又は異なって、水素原子又は有機基を表す。Rは、水素原子又は有機基を表す。nは、1以上の整数を表す。)
本発明の貯蔵安定方法は、重合体に対して塩基性化合物を1質量ppm以上10000質量ppm以下含むことにより、重合体中のビニルエーテル基の意図しない架橋反応を抑制することができる。塩基性化合物は10質量ppm以上が好ましく、50質量ppm以上がより好ましく、100質量ppm以上がさらに好ましい。塩基性化合物の上限としては5000質量ppm以下が好ましく、3000質量ppm以下がより好ましく、1000質量ppm以下がさらに好ましい。
【0064】
本発明の貯蔵方法は、前記塩基性化合物が、NR (式中、Rは互いに独立して炭素数1~8のアルキル基を表す。)で表される3級アミンであることが好ましく、具体的には、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリn-ブチルアミン、n-ブチルジメチルアミン、トリイソペンチルアミン、トリn-オクチルアミン、トリ(2-エチルヘキシル)アミン等が挙げられ、トリエチルアミン、トリn-ブチルアミンが特に好ましい。
【実施例0065】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。各実施例における重合体等の分析は以下のようにして行った。
【0066】
H-NMR測定>
装置:アジレント・テクノロジー社製核磁気共鳴装置(600MHz)
測定溶媒:重クロロホルム
<分子量測定>
得られた重合体を、テトラヒドロフランで溶解・希釈し、孔径0.45μmのフィルターで濾過したものを、下記ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)装置、及び条件で測定した。
装置:HLC-8020GPC(東ソー株式会社製)
溶出溶媒:テトラヒドロフラン
標準物質:標準ポリスチレン(東ソー株式会社製)
分離カラム:TSKgel SuperHM-M、TSKgel SuperH-RC(東ソー株式会社製)
[実験例1]
1000mLの3口フラスコに、脱水ジエチレングリコールジメチルエーテル160g、ジメチルケテンメチルトリメチルシリルアセタール8.11mL(40mmol)、テトラブチルアンモニウムベンゾエート145mg(0.4mmol)を入れ、窒素気流下、10℃(外温)で攪拌しながら、メタクリル酸2-(2-ビニロキシエトキシ)エチル(以下、「VEEM」と称する。)60gとメタクリル酸ブチル180gの混合物を36分間かけて滴下した。滴下終了から同条件で2時間撹拌することでVEEM-メタクリル酸ブチル共重合体を60質量%含有するジエチレングリコールジメチルエーテル溶液を得た。
重合反応後溶液をH-NMR測定分析を行うことでVEEMとメタクリル酸ブチルが完全に消費されていることを確認した。同様に分子量測定を行い、重量平均分子量は7000、数平均分子量は6400であり、分子量分布(Mw/Mn)は、1.1であった。
【0067】
[比較例1]
濃塩酸をジエチレングリコールジメチルエーテルで希釈することで塩化水素0.1%のジエチレングリコールジメチルエーテル溶液を調整した。この溶液60mgと実験例1で得られた溶液1.0gを混合することで重合体に対して塩化水素を100質量ppm含んだ溶液を調整して室温で静置した。1日経過時点では流動性が確認できたが、4日経過時点でゲル化が観測された。
【0068】
[実施例1]
比較例1と同じ溶液に対してさらにトリエチルアミンを1%含むジエチレングリコールジメチルエーテル溶液24mgを加えることで重合体に対してトリエチルアミンを400質量ppm含む溶液を調整して室温で静置した。11日経過時点でもゲル化が観測されず、18日経過時点で分子量測定を行っても重合体の分子量に変化は見られなかった。
【0069】
[実施例2]
実験例1で得られた溶液1.0gを5サンプル用意し、トリエチルアミンを5%含む酢酸エチルを各サンプルに(1)0mg、(2)12mg、(3)36mg、(4)120mg、(5)360mg加えることで共重合体に対しトリエチルアミンを(1)0質量ppm(2)1000質量ppm(3)3000質量ppm(4)10000質量ppm(5)30000質量ppm含む溶液を調整した。
各サンプルを手動で撹拌後30分静置して様相を確認したところ、(5)のサンプルにおいてのみトリエチルアミンによる着色および臭気が確認された。
図1