(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023148668
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】締結方法
(51)【国際特許分類】
B23B 31/02 20060101AFI20231005BHJP
B23B 31/20 20060101ALI20231005BHJP
B23Q 3/12 20060101ALI20231005BHJP
B23Q 17/00 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
B23B31/02 D
B23B31/20 F
B23Q3/12 A
B23Q17/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022056814
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591033755
【氏名又は名称】エヌティーツール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】辻野 駿志
(72)【発明者】
【氏名】森田 賢史
(72)【発明者】
【氏名】三上 結生
【テーマコード(参考)】
3C016
3C029
3C032
【Fターム(参考)】
3C016FA01
3C029EE05
3C032BB12
3C032FF03
3C032JJ12
(57)【要約】
【課題】ホルダに対する工具の位置精度が向上した締結方法を提供することを課題とする。
【解決手段】工具が挿入されたコレットを保持したホルダに対して螺合するキャップを締め付けることにより、前記コレットを介して前記工具を前記ホルダに締結する締結方法であって、前記キャップを締め付けてから緩め、次に前記キャップを再度締め付けてから前記ホルダに対する前記工具の位置を計測し、次に前記キャップを緩めて前記工具の位置の計測結果に基づいて前記ホルダに対して前記工具の位置決めしてから、前記キャップを締め付ける、締結方法。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具が挿入されたコレットを保持したホルダに対して螺合するキャップを締め付けることにより、前記コレットを介して前記工具を前記ホルダに締結する締結方法であって、
前記キャップを締め付けてから緩め、
次に前記キャップを再度締め付けてから前記ホルダに対する前記工具の位置を計測し、
次に前記キャップを緩めて前記工具の位置の計測結果に基づいて前記ホルダに対して前記工具の位置決めしてから、前記キャップを締め付ける、締結方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、締結方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工具が挿入されたコレットを保持したホルダに対して螺合するキャップを締め付けることにより、コレットを介して工具をホルダに締結する締結方法が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ホルダに対する工具の位置のばらつきが大きいと、このような工具を機械加工に用いた際に加工精度に影響を及ぼすおそれがある。
【0005】
そこで本発明は、ホルダに対する工具の位置精度が向上した締結方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は、工具が挿入されたコレットを保持したホルダに対して螺合するキャップを締め付けることにより、前記コレットを介して前記工具を前記ホルダに締結する締結方法であって、前記キャップを締め付けてから緩め、次に前記キャップを再度締め付けてから前記ホルダに対する前記工具の位置を計測し、次に前記キャップを緩めて前記工具の位置の計測結果に基づいて前記ホルダに対して前記工具の位置決めしてから、前記キャップを締め付ける、締結方法によって達成できる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ホルダに対する工具の位置精度が向上した締結方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、ツールプリセッタの概略構成図である。
【
図2】
図2は、ホルダと工具との概略構成図である。
【
図3】
図3は、本実施例での締結方法の一例を示したフローチャートである。
【
図4】
図4は、比較例での締結方法を示したフローチャートである。
【
図5】
図5は、工具を位置決めしてからキャップを本締めした際の、工具のホルダへの沈み込み量を示したグラフである。
【
図6】
図6Aは、本実施例のステップS2及びS3の実行前でのキャップの雌ネジ部の部分拡大図であり、
図6Bは、本実施例のステップS2及びS3の実施後でのキャップの雌ネジ部の部分拡大図である。
【
図7】
図7A及び
図7Bは、雌ネジ部の谷部の底に押し込まれるスラッジの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[ツールプリセッタ100の概略構成]
図1は、ツールプリセッタ100の概略構成図である。尚、
図1には、互いに直交するX軸及びY軸を示している。X軸は水平方向に平行であり、Y軸は垂直方向に平行である。
【0010】
ツールプリセッタ100は、基台101、撮影装置110、締付装置120、及び回転装置130を含む。基台101の側面には、X軸方向に延びたレール102が形成されている。撮影装置110は、X軸方向に移動可能にレール102に係合しており、アクチュエータによりX軸方向に所定範囲内を移動する。撮影装置110には、Y軸方向に延びたレール112が設けられている。スライダ114は、Y軸方向に移動可能にレール112に係合しており、アクチュエータによりY軸方向に所定範囲内を移動する。スライダ114の先端にはカメラ116が取り付けられている。このようにしてカメラ116は、所定範囲内でX軸方向及びY軸方向に移動可能に支持されている。
【0011】
締付装置120は、撮影装置110と対面するように基台101に設置されている。締付装置120には、Y軸方向に延びたレール122が形成されている。スライダ126は、Y軸方向に移動可能にレール122に係合しており、アクチュエータによりY軸方向に所定範囲内を移動する。スライダ126には、X軸方向に延びた可動部材124をX軸方向に移動可能に保持している。可動部材124は、アクチュエータによりスライダ126に対してX軸方向に移動する。可動部材124の先端には、締付スパナ128が固定されている。これにより締付スパナ128は、所定範囲内でX軸方向及びY軸方向で移動可能に支持されている。
【0012】
回転装置130は、撮影装置110と締付装置120との間の位置で基台101の内部に設けられている。回転装置130は、詳しくは後述するがY軸に平行な軸心C周りに双方向に回転可能な主軸部132及びレンチ部134が設けられている。主軸部132及びレンチ部134はアクチュエータにより独立して回転可能である。また、レンチ部134は、主軸部132を貫通して所定範囲内でY軸方向に移動可能である。
【0013】
コントローラ200は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)等の揮発性や不揮発性のメモリを含むコンピュータである。コントローラ200は、メモリにインストールされるプログラムをCPU上で実行することによりツールプリセッタ100に関する各種の制御処理を実現する。具体的には、コントローラ200は上述したアクチュエータやカメラ116を制御することにより、以下に説明するホルダ2と工具10とを締結する。
【0014】
[ホルダ2と工具10との概略構成]
図2は、ホルダ2と工具10との概略構成図である。
図2は、ホルダ2とホルダ2に締結された工具10とを示している。ホルダ2は、本体部20、コレット30、キャップ40、及びプリセットスクリュ50を含む。本体部20は、略円筒状であり、胴部21a、フランジ部21b、シャンク部21c、及びプルスタッドボルト21dを含む。フランジ部21bは胴部21aの基端側に設けられており、胴部21aよりも外径が大きい。シャンク部21cはフランジ部21bよりも基端側に設けられており、フランジ部21bよりも外径が小さく、基端側に向けて外径が徐々に小さくなるテーパ状に形成されている。プルスタッドボルト21dはシャンク部21cの基端側に設けられている。
【0015】
コレット30は、本体部20よりも軸方向に短い略円筒状であり、貫通孔31及びテーパ外周面32を含み、本体部20の胴部21aの先端側に取り付けられている。キャップ40は、略有底円筒状であって、円板部41及び筒部42を含み、本体部20の胴部21aの先端側に取り付けられている。工具10は、本体部20内に設けられた軸孔内に保持されている。また工具10は貫通孔31を貫通するように保持されている。工具10は、先端部11、先端部11から径方向外側に突出した肩部12、及び基端部13を有している。尚、工具10はドリルであるが、リーマ等のその他の工具であってもよい。
図2に示すように、フランジ部21bの下端面から工具10の先端部11までの高さを先端高さL1とし、フランジ部21bの下端面から工具10の肩部12までの高さを肩高さL2とする。
【0016】
胴部21aの軸孔内の先端側には、基端側に向けて内径が徐々に小さくなるテーパ内周面23が形成されている。コレット30のテーパ外周面32は、基端側に向けて外径が徐々に小さくなっており、テーパ内周面23と当接している。キャップ40の円板部41には、コレット30が嵌合し且つ係合した孔が設けられている。筒部42の内周面には、雌ネジ部44が形成されている。胴部21aの先端側の外周面には、雌ネジ部44に螺合する雄ネジ部22が形成されている。キャップ40を回転させて雌ネジ部44と雄ネジ部22との螺合量を調整することにより、キャップ40と共にコレット30が基端側に移動する。これにより、テーパ内周面23に対してテーパ外周面32が基端側に移動してコレット30が縮径し、コレット30の貫通孔31内を貫通した工具10が締結される。このように、本体部20に対して螺合するキャップ40を締め付けることにより、コレット30を介して工具10がホルダ2に締結される。詳しくは後述するが、上述したツールプリセッタ100によりこのような工具10のホルダ2への締結が行われる。
【0017】
挿入孔24は、テーパ内周面23から基端側から連続しており、テーパ内周面23の内径よりも小さく工具10の外径よりも大きく形成されている。挿入孔24内には、工具10の基端部13を支持するプリセットスクリュ50が保持されている。プリセットスクリュ50の外周面には、雄ネジ部51が形成されている。挿入孔24の内周面には雌ネジ部25が形成されている。雄ネジ部51と雌ネジ部25とが螺合しており、この螺合量に応じてプリセットスクリュ50は本体部20に対して軸方向に移動させることができる。プリセットスクリュ50の下端面には、上述したレンチ部134の先端が係合可能な係合部52が形成されている。逃がし孔26は挿入孔24から基端側に連続して挿入孔24の内径よりも小さく形成されており、プルスタッドボルト21dの基端にまで貫通している。
【0018】
[締結方法]
最初に本実施例での締結方法について説明する。
図3は、本実施例での締結方法の一例を示したフローチャートである。最初に、作業員は工具10を保持したホルダ2を上述したツールプリセッタ100の回転装置130にセットする(ステップS1)。詳細には、レンチ部134をY軸下方向に退避させた状態で、作業員がホルダ2のシャンク部21cを主軸部132に保持させ、コントローラ200により締付スパナ128をキャップ40に把持させる。尚、この状態ではキャップ40は締め付けられておらず、工具10はホルダ2に対して挿抜可能に、工具10の基端部13がプリセットスクリュ50に支持されている。
【0019】
次にコントローラ200は、本体部20に対してキャップ40を事前に締め付ける事前締付を行う(ステップS2)。詳細には、コントローラ200により主軸部132を一方向に回転させて、締付スパナ128により把持されたキャップ40に対して本体部20を一方向に相対回転させる。次にコントローラ200は、本体部20に対してキャップ40を緩める(ステップS3)。詳細には、コントローラ200により主軸部132を上述した方向と反対方向に回転させて、キャップ40に対して本体部20を反対方向に相対回転させる。ステップS2及びS3の意義については後述する。
【0020】
次にコントローラ200は、ステップS2と同様の方法で本体部20に対してキャップ40の仮締めを行う(ステップS4)。これにより、工具10はコレット30を介してホルダ2の本体部20に仮締結される。
【0021】
次にコントローラ200は、カメラ116により先端高さL1を計測し(ステップS5)、次に肩高さL2を測定する(ステップS6)。次に、コントローラ200は先端高さL1と肩高さL2との差分量(L1-L2)を算出する(ステップS7)。次にコントローラ200は、せり出し量を算出する(ステップS8)。せり出し量は、目標先端高さTL1から現状の先端高さL1を差し引いた値である。目標先端高さTL1は、目標肩高さTL2に差分量(L1-L2)を加算し、更に工具10をホルダ2に最終的に締結した際に想定される沈み込み量を加算して算出される。
【0022】
次にコントローラ200は本体部20に対してキャップ40を緩めて工具10の締結を解除する(ステップS9)。次にコントローラ200は、工具10を本体部20に対して上述したせり出し量となるように工具10を位置決めする(ステップS10)。詳細には、主軸部132を停止した状態で、レンチ部134を逃がし孔26内に挿入して、レンチ部134の先端をプリセットスクリュ50の係合部52に係合させて、レンチ部134を一方向に回転させる。これにより、プリセットスクリュ50の雄ネジ部51と挿入孔24の雌ネジ部25との螺合量が調整され、プリセットスクリュ50が工具10の基端部13を支持して工具10をホルダ2に対して軸方向に移動させる。このように、ステップS5及びS6の計測結果に基づいて工具10をホルダ1に対して位置決めする。尚、工具10のせり出し量が上述したように算出されたせり出し量となったかどうかの判断は、カメラ116の画像に基づいて行われる。
【0023】
次にコントローラ200は、上述した方法によりキャップ40を仮締めする(ステップS11)。次にコントローラ200は、レンチ部134によりプリセットスクリュ50が工具10の基端部13から離間するようにプリセットスクリュ50を回転させる(ステップS12)。次にコントローラ200は、上述した方法によりキャップ40を本締めする(ステップS13)。これにより、工具10は本体部20に対して位置決めされた位置でキャップ40により締結される。次にコントローラ200は、レンチ部134によりプリセットスクリュ50を工具10の基端部13に当接させる(ステップS14)。このようにして、ホルダ2に対して工具10が位置決めされて締結される。
【0024】
次にコントローラ200はカメラ116により肩高さL2の最終測定を行う(ステップS15)。次に作業者は工具10が締結されたホルダ2をツールプリセッタ100から取り外す(ステップS16)。尚、ステップS15で最終計測された肩高さL2が所望の範囲内にない場合には、再度ステップS4以降の処理を実施してもよい。
【0025】
次に比較例での締結方法について説明する。
図4は、比較例での締結方法を示したフローチャートである。比較例での締結方法は、本実施例での締結方法と異なり、ステップS2及びS3については実施されない。
【0026】
図5は、工具10を位置決めしてからキャップ40を本締めした際の、工具10のホルダ2への沈み込み量を示したグラフである。横軸は締結回数[‐]を示し、縦軸は沈み込み量[mm]を示している。
図5は、機械加工に使用した同種の工具10とホルダ2とを用いて1回目から10回目まで締結した際の沈み込み量の計測結果を、本実施例及び比較例について示している。
図5に示すように、本実施例の方が比較例よりも沈み込み量のばらつきが小さい。即ち、
図5は、本実施例の方が比較例よりも、ホルダ2に対する工具10の位置精度のばらつきが小さいことを示している。この原因の一つは、以下に説明するように雌ネジ部44に付着したスラッジと考えられる。
【0027】
図6Aは、本実施例のステップS2及びS3の実行前でのキャップ40の雌ネジ部44の部分拡大図である。
図6Aに示すように、雌ネジ部44には複数のスラッジSが散在している。スラッジSには、金属粉や潤滑油等を含む。工具10はホルダ2に締結された状態で機械加工装置に装着されて使用されるが、スラッジSはこのような機械加工時にキャップ40と本体部20との隙間から内部に侵入して雌ネジ部44に付着する。
図6Bは、本実施例のステップS2及びS3の実施後でのキャップ40の雌ネジ部44の部分拡大図である。ステップS2及びS3を実施することにより、雌ネジ部44に散在していたスラッジSが雌ネジ部44の谷部の底に移動する。
【0028】
図7A及び
図7Bは、雌ネジ部44の谷部の底に押し込まれるスラッジSの説明図である。
図7Aに示すように、螺合前に雌ネジ部44にスラッジSが付着している。
図7Bに示すように、雌ネジ部44に雄ネジ部22が螺合しその螺合量が増大するにつれて、雄ネジ部22の山部が雌ネジ部44の谷部の底に挿入される。これにより雌ネジ部44に付着したスラッジSは雌ネジ部44の谷部の底に押し込まれる。比較例では、上述したようにステップS2及びS3が実施されないため、スラッジSが雌ネジ部44に散在した状態で計測や位置決め等が行われてキャップ40が本締めされる。これに対して本実施例ではステップS2及びS3が実行されてスラッジSが雌ネジ部44の谷部の底に押し込まれた後に、計測や位置決め等が実行される。これにより本実施例では比較例よりも工具10の沈み込み量のばらつきが抑制される。これにより本実施例では、ホルダ2に対する工具10の位置精度が向上しており、このような工具10を用いた加工の精度も向上する。
【0029】
従って、ステップS2でのキャップ40の事前締付での締め付け量が大きいほど、スラッジSを雌ネジ部44の谷部の底に押し込むことができる。このため、ステップS2での事前締付での締め付け量は、少なくともステップS4やステップS11での締め付け量よりも大きく、ステップS13の本締めでの締め付け量と同等であることが好ましい。
【0030】
上記実施例において、先端高さL1及び肩高さL2の計測結果に基づいてホルダ2に対して工具10を位置決めしたが(ステップS10)、計測方法はこれに限定されない。例えば、先端高さL1及び肩高さL2の一方のみを計測してホルダ2に対して工具10を位置決めしてもよい。
【0031】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0032】
2 ホルダ
10 工具
20 本体部
30 コレット
40 キャップ
50 プリセットスクリュ