(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023148678
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】電動アクチュエータおよびそれを備えた液圧発生装置
(51)【国際特許分類】
F16H 25/22 20060101AFI20231005BHJP
B60T 13/138 20060101ALI20231005BHJP
F16H 25/20 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
F16H25/22 Z
B60T13/138 A
F16H25/20 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022056826
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】315019735
【氏名又は名称】日立Astemo上田株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】三輪 正一
【テーマコード(参考)】
3D048
3J062
【Fターム(参考)】
3D048BB59
3D048CC54
3D048HH15
3D048HH18
3D048NN03
3D048PP04
3J062AA01
3J062AB22
3J062AC07
3J062BA14
3J062CD04
3J062CD12
3J062CD23
3J062CD64
(57)【要約】
【課題】回り止め機構部における摺動する部品間でのスタックをより確実に回避できる電動アクチュエータおよびそれを備えた液圧発生装置を提供する。
【解決手段】電動アクチュエータは、ボールねじ軸27aの回り止めを行う回り止め機構部35を備える。回り止め機構部35は、ボールねじ軸27aに設けられた回転規制部材37と、軸方向に沿って配置された案内ピン42とを有する。回転規制部材37の径方向外側端部39aに、軸方向に沿って被案内部40が形成されている。案内ピン42は、被案内部40内に少なくとも一部が入った状態で回転規制部材37を軸方向に案内する。被案内部40の内面と案内ピン42との間に、径方向のクリアランス部が設けられている。クリアランス部は、被案内部40の内面と案内ピン42とが径方向に近接して接触した場合において、被案内部40の内面と案内ピン42との間に径方向の空間を形成する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータが取り付けられた基体と、
前記モータの回転駆動力を受けて回転するナット部材と、
前記ナット部材に螺合して軸方向に移動可能に設けられるシャフト部材と、
前記シャフト部材の回り止めを行う回り止め機構部と、を備え、
前記回り止め機構部は、
前記シャフト部材に設けられた回転規制部材と、
前記基体に前記軸方向に沿って配置された案内ピンと、を有し、
前記回転規制部材の径方向外側端部に、前記軸方向に沿って被案内部が形成されており、
前記案内ピンは、前記被案内部内に少なくとも一部が入った状態で前記回転規制部材を前記軸方向に案内するものであり、
前記被案内部の内面と前記案内ピンとの間に前記径方向のクリアランス部が設けられており、
前記クリアランス部は、前記被案内部の内面と前記案内ピンとが前記径方向に近接して接触した場合において、前記被案内部の内面と前記案内ピンとの間に前記径方向の空間を形成することを特徴とする電動アクチュエータ。
【請求項2】
前記被案内部は、前記回転規制部材の前記径方向外側端部の端面に形成された凹状の被案内溝であり、
前記被案内溝の内面に、前記軸方向に沿って凹状の切欠き溝が形成されており、
前記クリアランス部は、前記切欠き溝によって形成されていることを特徴とする請求項1に記載の電動アクチュエータ。
【請求項3】
前記被案内部の内面は、前記案内ピンの半径よりも大きい半径を有する複数の円弧面を繋げて構成されており、
前記クリアランス部は、隣接する一対の前記円弧面と前記案内ピンとの間に形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電動アクチュエータ。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の電動アクチュエータを備え、
前記ナット部材の回転により前記シャフト部材が前記基体に形成されたシリンダ穴内でピストンに当接して前進させることによってブレーキ液圧を発生させることを特徴とする液圧発生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動アクチュエータおよびそれを備えた液圧発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両等に用いられる電動アクチュエータが知られている(例えば、特許文献1参照)。この電動アクチュエータは、モータによって回転するナット部材と、ナット部材に螺合して該ナット部材の回転によって軸方向に移動するシャフト部材とを備える駆動伝達部を有している。
【0003】
特許文献1に記載の電動アクチュエータには、ナット部材の回転によってシャフト部材が連れ回ることを防止するための回り止め機構部が設けられている。具体的には、シャフト部材の回り止めのためのピンが、シャフト部材の基端側である後側に、該シャフト部材の径方向に貫通して設けられている。また、ピンの端部をシャフト部材の軸方向に沿って移動可能に支持する摺動溝が、駆動伝達部を収容するハウジングに設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の電動アクチュエータでは、回り止め機構部を構成する部品の寸法ばらつきによっては、摺動する部品間でスタック(固着)が発生するおそれがあり、部品間での当接位置や摺動位置の設定が困難であるという課題がある。
【0006】
そこで、本発明は、回り止め機構部における摺動する部品間でのスタックをより確実に回避できる電動アクチュエータおよびそれを備えた液圧発生装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための本発明は、基体と、ナット部材と、シャフト部材と、回り止め機構部と、を備える電動アクチュエータである。前記基体には、モータが取り付けられている。前記ナット部材は、前記モータの回転駆動力を受けて回転する。前記シャフト部材は、前記ナット部材に螺合して軸方向に移動可能に設けられている。前記回り止め機構部は、前記シャフト部材の回り止めを行う。前記回り止め機構部は、前記シャフト部材に設けられた回転規制部材と、前記基体に前記軸方向に沿って配置された案内ピンと、を有する。前記回転規制部材の径方向外側端部に、前記軸方向に沿って被案内部が形成されている。前記案内ピンは、前記被案内部内に少なくとも一部が入った状態で前記回転規制部材を前記軸方向に案内するものである。前記被案内部の内面と前記案内ピンとの間に前記径方向のクリアランス部が設けられている。前記クリアランス部は、前記被案内部の内面と前記案内ピンとが前記径方向に近接して接触した場合において、前記被案内部の内面と前記案内ピンとの間に前記径方向の空間を形成する。
【0008】
この構成では、ナット部材の回転によって、シャフト部材が軸方向に移動するとともに、シャフト部材の連れ回りが回り止め機構部により防止される。また、この構成では、被案内部の内面と前記案内ピンとの間に設けられたクリアランス部がグリス溜まりの場所を提供できる。したがって、被案内部と案内ピンとが摺動する際には、クリアランス部によってグリスの保持が可能となるため、スタック(固着)をより確実に回避することができる。
したがって、この発明によれば、回り止め機構部における摺動する部品間でのスタックをより確実に回避できる電動アクチュエータを提供することができる。
【0009】
前記電動アクチュエータにおいて、前記被案内部は、前記回転規制部材の前記径方向外側端部の端面に形成された凹状の被案内溝であることが好ましい。この場合、前記被案内溝の内面に、前記軸方向に沿って凹状の切欠き溝が形成されているとよい。この場合、前記クリアランス部は、前記切欠き溝によって形成されている。
【0010】
この構成では、切欠き溝によってグリスの保持が可能となるため、スタックをより確実に回避することができる。
また、スタックをより確実に回避できるため、案内ピンと回転規制部材との当接に関する設計の自由度が増す。これにより、両者のすきま、並びに、両者が当接する位置および角度の調整が可能となる。さらに、両者の当接角度を調整することで、製品の小型化および耐摩耗性向上を実現できる。
【0011】
前記電動アクチュエータにおいて、前記被案内部の内面は、前記案内ピンの半径よりも大きい半径を有する複数の円弧面を繋げて構成されていることが好ましい。この場合、前記クリアランス部は、隣接する一対の前記円弧面と前記案内ピンとの間に形成されている。
【0012】
この構成では、隣接する一対の前記円弧面と前記案内ピンとの間にグリスの保持が可能となるため、スタックをより確実に回避することができる。
また、スタックをより確実に回避できるため、案内ピンと回転規制部材との当接に関する設計の自由度が増す。これにより、両者のすきま、並びに、両者が当接する位置および角度の調整が可能となる。さらに、両者の当接角度を調整することで、製品の小型化および耐摩耗性向上を実現できる。
【0013】
また、本発明は、前記電動アクチュエータを備える液圧発生装置である。前記液圧発生装置は、前記ナット部材の回転により前記シャフト部材が前記基体に形成されたシリンダ穴内でピストンに当接して前進させることによってブレーキ液圧を発生させる。
この発明によれば、回り止め機構部における摺動する部品間でのスタックをより確実に回避できる液圧発生装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、回り止め機構部における摺動する部品間でのスタックをより確実に回避できる電動アクチュエータおよびそれを備えた液圧発生装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態に係る液圧発生装置を用いた車両用ブレーキシステムの概略構成図である。
【
図3】
図2のIII-III線に沿う断面図である。
【
図5A】回転規制部材の被案内部の内面と案内ピンとの間に設けられた径方向のクリアランス部を示す拡大断面図である。
【
図5B】回転規制部材が僅かに回転して被案内部の内面と案内ピンとが当接した状態を示す断面図である。
【
図6】変形例に係るクリアランス部を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
本実施形態では、本発明の液圧発生装置を車両用ブレーキシステムに適用した場合を例として説明する。
【0017】
図1に示す車両用ブレーキシステムAは、原動機(エンジンやモータ等)の起動時に作動するバイ・ワイヤ(By Wire)式のブレーキシステムと、原動機の停止時などに作動する油圧式のブレーキシステムがともに機能するように構成されている。車両用ブレーキシステムAは、マスタシリンダ1と、ストロークシミュレータ2と、液圧発生装置20と、液圧制御装置50と、を含んで構成されている。そして、マスタシリンダ1と、ストロークシミュレータ2と、液圧発生装置20と、液圧制御装置50は、外部配管を介して連通している。
【0018】
マスタシリンダ1には、一対のメイン液圧路9a,9bが接続されている。一方のメイン液圧路9aには、常開型遮断弁(電磁弁)4と圧力センサ7が備わり、他方のメイン液圧路9bには、常開型遮断弁(電磁弁)5と圧力センサ8が備わる。また、一方のメイン液圧路9aからは、連絡液圧路9cと分岐液圧路9eが分岐し、他方のメイン液圧路9bからは連絡液圧路9dが分岐している。
【0019】
マスタシリンダ1はタンデム式であり、2つのマスタピストン(第一マスタピストン1a,第二マスタピストン1b)を有する。この2つのマスタピストンは、シリンダ本体10の内部に形成された第一シリンダ穴11aに収容され、直列に配置されている。
2つのマスタピストンのうち、第二マスタピストン1bは、ブレーキ操作子(ブレーキペダルP)が接続されるプッシュロッドRに連結される。また、第一マスタピストン1aは、第二リターンスプリング1dを介して第二マスタピストン1bと連結される。さらに、第一シリンダ穴11aの底部と第一マスタピストン1aの間に第一リターンスプリング1cが配設される。
また、第一シリンダ穴11aには、底部と第一マスタピストン1aの間に第一圧力室1eが形成されており、第一マスタピストン1aと第二マスタピストン1bの間に第二圧力室1fが形成されている。
【0020】
第二マスタピストン1bには、ブレーキペダルPの踏力がプッシュロッドRを介して入力される。そして、ブレーキペダルPに対して踏み込み操作がなされると、第二マスタピストン1bが変位する。さらに、第二マスタピストン1bに入力された踏力は第一マスタピストン1aに入力され、第一マスタピストン1aも変位する。
そして、第一マスタピストン1aおよび第二マスタピストン1bの変位によって第一圧力室1eおよび第二圧力室1fでブレーキ液が加圧されて、ブレーキ液にブレーキ液圧が発生する。
第一圧力室1eで発生したブレーキ液圧はメイン液圧路9aから出力され、第二圧力室1fで発生したブレーキ液圧はメイン液圧路9bから出力される。
【0021】
このように、マスタシリンダ1は、2つのマスタピストン(第一マスタピストン1a,第二マスタピストン1b)の変位によって、ブレーキペダルPの踏み込み操作量に応じたブレーキ液圧を発生する装置である。
【0022】
ストロークシミュレータ2は、踏み込み操作されたブレーキペダルPに擬似的な操作反力を発生させる装置であり、分岐液圧路9eに接続されている。ストロークシミュレータ2は、シリンダ本体10の内部に形成された第二シリンダ穴11b内を摺動するピストン2aと、ピストン2aを付勢する2つのリターンスプリング(第一シミュレータスプリング2b,第二シミュレータスプリング2c)を備えている。
第一シミュレータスプリング2bは、第二シミュレータスプリング2cよりもバネ定数、軸系(コイルスプリングの直径)、および線径(構成する線材の直径)が大きい。ストロークシミュレータ2には、分岐液圧路9e側から順に、ピストン2a、第二シミュレータスプリング2cおよび第一シミュレータスプリング2bが直列に配設されている。
【0023】
また、ストロークシミュレータ2の第二シリンダ穴11bは、メイン液圧路9aおよび分岐液圧路9eを介して第一圧力室1eに通じており、第一圧力室1eで発生したブレーキ液圧で作動する。
マスタシリンダ1の第一圧力室1eで発生したブレーキ液圧がストロークシミュレータ2の第二シリンダ穴11bに入力されるとピストン2aが変位する。このとき、ブレーキ液圧の大きさに応じて第二シミュレータスプリング2c、第一シミュレータスプリング2bの順に圧縮されてピストン2aに反力を発生する。そして、ピストン2aに発生した反力が、分岐液圧路9e、メイン液圧路9aを介してマスタシリンダ1に入力される。マスタシリンダ1に入力された反力がブレーキペダルPに付与されて操作反力になる。
【0024】
マスタシリンダ1には、リザーバ3が備わっている。リザーバ3は、ブレーキ液を貯溜する容器であり、マスタシリンダ1に接続される給油口3a,3bと、メインリザーバ(図示せず)から延びるホースが接続される管接続口3cと、を備えている。
【0025】
常開型遮断弁4,5は、メイン液圧路9a,9bを開閉するものであり、いずれもノーマルオープンタイプの電磁弁からなる。一方の常開型遮断弁4は、メイン液圧路9aと分岐液圧路9eとの分岐点からメイン液圧路9aと連絡液圧路9cとの分岐点に至る区間においてメイン液圧路9aを開閉する。他方の常開型遮断弁5は、メイン液圧路9bと連絡液圧路9dとの分岐点よりも上流側においてメイン液圧路9bを開閉する。
【0026】
常閉型遮断弁6は、分岐液圧路9eを開閉するものであり、ノーマルクローズタイプの電磁弁からなる。
【0027】
圧力センサ7,8は、マスタシリンダ1で発生するブレーキ液圧を検出するセンサであり、メイン液圧路9a,9bに通じるセンサ装着穴(図示せず)に装着されている。一方の圧力センサ7は、常開型遮断弁4よりも下流側に配置されている。圧力センサ7は、常開型遮断弁4が閉じられた状態(=メイン液圧路9aが遮断された状態)にあるときには、液圧発生装置20でブレーキ液に発生するブレーキ液圧を検出可能に構成されている。他方の圧力センサ8は、常開型遮断弁5よりも上流側に配置されており、常開型遮断弁5が閉じられた状態(=メイン液圧路9bが遮断された状態)にあるときに、マスタシリンダ1で発生したブレーキ液圧を検出する。圧力センサ7,8で検出された液圧は検出信号に変換されて、図示しない電子制御ユニット(ECU)に入力される。
【0028】
メイン液圧路9a,9bは、マスタシリンダ1を起点とする液圧路である。一方のメイン液圧路9aは第一圧力室1eに接続され、他方のメイン液圧路9bは第二圧力室1fに接続される。また、メイン液圧路9a,9bは、それぞれ液圧制御装置50と接続されている。連絡液圧路9c,9dは、メイン液圧路9a,9bから分岐する液圧路であり、それぞれ液圧発生装置20と接続されている。
【0029】
分岐液圧路9eは、一方のメイン液圧路9aから分岐し、ストロークシミュレータ2に至る液圧路である。
【0030】
マスタシリンダ1は、メイン液圧路9a,9bを介して液圧制御装置50に連通している。そして、常開型遮断弁4,5が開弁状態にあるときにマスタシリンダ1で発生したブレーキ液圧は、メイン液圧路9a,9bを介して液圧制御装置50に入力される。
【0031】
図2に示すように、液圧発生装置20は、タンデム式であり、2つのスレーブピストン(第一スレーブピストン23a,第二スレーブピストン23b)を有する。第一スレーブピストン23aおよび第二スレーブピストン23bは、基体としてのシリンダ本体21の内部に形成されたシリンダ穴22に挿入されて直列に配置されている。
【0032】
第一スレーブピストン23aと第二スレーブピストン23bの間には、第二リターンスプリング24bが配設される。また、シリンダ穴22の底部22aと第一スレーブピストン23aの間には、第一リターンスプリング24aが配設される。
第一スレーブピストン23aと第二スレーブピストン23bの間に第二液圧室25bが形成される。また、シリンダ穴22の底部22aと第一スレーブピストン23aの間に第一液圧室25aが形成される。
【0033】
液圧発生装置20は、シリンダ本体21に取り付けられた電動機であるモータ26を備える。また、液圧発生装置20は、モータ26の回転駆動力を直線方向の軸力に変換して第二スレーブピストン23bに伝達する駆動伝達部としてのボールねじ構造体27を有する電動ブレーキ装置を備える。この電動ブレーキ装置は、モータ26を駆動源としてシリンダ穴22内で第一スレーブピストン23aおよび第二スレーブピストン23bを前進させることでブレーキ液圧を発生させる。
【0034】
ボールねじ構造体27は、シリンダ本体21の内部に備えられている。ボールねじ構造体27は、シャフト部材(ボールねじ軸27a)と、ナット部材(ボールねじナット27b)と、複数のボール27cと、を有している。
【0035】
ボールねじ軸27aは、ボールねじナット27bにボール27cを介して螺合して自身の軸方向(中心線CLに沿った方向。以下、単に「軸方向」ともいう)に移動可能に設けられている。ボールねじ軸27aの端部が、第二スレーブピストン23bの端面に当接する。また、ボールねじ軸27aの外周には、螺旋状の凹溝28が形成されている。ボールねじ軸27aは、軸方向に直進運動(変位)して第二スレーブピストン23bをシリンダ穴22の軸方向に変位させる。
ボールねじナット27bは、ボールねじ軸27aに外嵌されて、ボールねじ軸27aを中心に回転するナット部材である。ボールねじナット27bは、シリンダ本体21の内部に設置された軸受43によって回転自在に支持されている。ボールねじナット27bの外周には、アウターギア30が連動可能に結合されている。アウターギア30には、複数のギア31,32,33を介して、モータ26の回転軸26aの回転が伝達される。すなわち、モータ26の回転軸26aの回転が、複数のギア31,32,33およびアウターギア30を介してボールねじナット27bに伝達される。
また、ボール27cは、ボールねじ軸27aの凹溝28と、ボールねじナット27bの内周に設けられている雌ネジと、の間に配置されている。ボール27cは、ボールねじナット27bの回転にともなって凹溝28内で転動し、ボールねじ軸27aの外周を周回する。そして、転動しながら周回するボール27cが螺旋状の凹溝28を送り出し、これによってボールねじ軸27aが軸方向に直進運動して変位する。
【0036】
このように、ボールねじ構造体27は、モータ26の回転駆動力でボールねじナット27bを回転してボールねじ軸27aを直進運動させる。また、直進運動して変位するボールねじ軸27aが第二スレーブピストン23bを直進運動させる(変位させる)。
【0037】
また、複数のギア31,32,33およびアウターギア30によって減速機構が構成される。モータ26の回転軸26aの回転速度は減速機構で適宜減速されてボールねじナット27bに伝達される。なお、減速機構の減速比(ギア比)は、モータ26の性能や、液圧発生装置20に要求される性能等にもとづいて適宜設定される。また、減速機構にベルト機構が利用されてもよい。
【0038】
また、ボールねじ構造体27は、ボールねじ軸27aの回り止めを行う回り止め機構部35を有している。
図3は、
図2のIII-III線に沿う断面図である。
図4は、
図3のIV-IV線に沿う断面図である。
【0039】
図3、
図4に示すように、回り止め機構部35は、軸方向溝36と、回転規制部材37と、案内ピン42と、を有している。軸方向溝36は、第二スレーブピストン23bが摺動するシリンダ穴22の摺動面22bに軸方向に沿って形成されている。本実施形態では、軸方向溝36は、シリンダ穴22の摺動面22bの軸方向における一部に凹状に形成されている。また、軸方向溝36は、シリンダ穴22の摺動面22bの対向する位置に一対形成されている。
【0040】
回転規制部材37は、ボールねじ軸27aに設けられている。具体的には、回転規制部材37は、ボールねじ軸27aの凹溝28よりも前側の径方向外側に、例えば圧入等によって固定されている。回転規制部材37は、円筒状の本体38と、本体38の外周面に連設され該外周面から径方向外側に突出する突出部39とを有している。ここでは、突出部39は、一対の軸方向溝36に対応して、回転規制部材37の本体38の外周面に一対設けられている。一対の突出部39は、本体38の周方向に180度の間隔をあけて設けられている。回転規制部材37の突出部39の径方向外側端部39aは、軸方向溝36内に配置されている。径方向外側端部39aには、軸方向に沿って被案内部40が形成されている。
【0041】
案内ピン42は、真直な棒状を呈しており、軸方向溝36内に軸方向に沿って配置されている。この案内ピン42は、被案内部40内に案内ピン42の少なくとも一部が入った状態で回転規制部材37を軸方向に案内するものである。案内ピン42は、軸方向溝36内に軸方向に沿って形成された凹状の設置溝36a内に配置されている。
図4に示すように、シリンダ本体21には、シリンダ穴22の軸方向に沿って穴21aが形成されている。穴21aは、軸方向溝36の先端面に凹設されている。案内ピン42の前端部42aは、穴21aに挿入されている。案内ピン42の後端部42bの端面は、ボールねじナット27bを回転自在に支持する軸受43の外輪の側面に対向して配置されている。
【0042】
図3に示すように、被案内部40は、本実施形態では、回転規制部材37の突出部39の径方向外側端部39aの端面に形成された凹状の被案内溝である。この被案内溝は、本実施形態では、例えば軸方向に垂直な断面で1つの点を中心とした円弧形状を呈している。そして、被案内部40の内面には、軸方向に沿って凹状の切欠き溝41が形成されている。切欠き溝41は、本実施形態では、例えば軸方向に垂直な断面において略矩形形状を呈している。
【0043】
図5Aに示すように、回転規制部材37の被案内部40の内面と案内ピン42との間には、ボールねじ軸27aの径方向のクリアランス部44が設けられている。クリアランス部44は、被案内部40の内面と案内ピン42とが、仮に径方向に近接して接触したと想定した場合において、被案内部40の内面と案内ピン42との間に径方向の空間を形成する。このクリアランス部44は、本実施形態では、切欠き溝41によって形成される。
【0044】
図5Bに示すように、ボールねじ軸27aに設けられた回転規制部材37が回転しようとすると、被案内部40の内面と案内ピン42とが当接する。つまり、案内ピン42は、被案内部40内に少なくとも一部が入り込むことによってボールねじ軸27aの中心線CLを中心とする回転を規制する。また、ボールねじ軸27aが軸方向に変位するとき、ボールねじ軸27aとともに変位する回転規制部材37が案内ピン42にガイドされる。
【0045】
図6は、変形例に係るクリアランス部44を示す拡大断面図である。
図6に示す変形例では、被案内部40の内面は、案内ピン42の半径よりも大きい半径を有する複数(ここでは2つ)の円弧面45a,45bを繋げて構成されている。つまり、被案内部40の内面は、いわゆるゴシックアーク形状を呈している。この変形例の場合、クリアランス部44は、隣接する一対の円弧面45a,45bと案内ピン42との間に形成される。
【0046】
なお、シリンダ本体21にはリザーバ29が備わり、シリンダ本体21に供給されるブレーキ液がリザーバ29に貯留されている。
【0047】
モータ26は、電子制御ユニット(図示せず)から入力される制御信号に基づいて駆動して回転軸26aを回転させる。回転軸26aの回転は複数のギア31,32,33およびアウターギア30を介してボールねじナット27bに伝達され、ボールねじナット27bをボールねじ軸27aの外周の周りで回転(周回)させる。ボールねじナット27bがボールねじ軸27aの周囲を回転するとボール27cが転動する。ボール27cは、ボールねじ軸27aの外周に螺旋状に刻設された凹溝28に沿って転動しながら循環してボールねじ軸27aを周回する。これによって、ボールねじ軸27aが軸方向に変位する。
このように、モータ26が出力する回転駆動力でボールねじ構造体27のボールねじ軸27aが直進運動する。
【0048】
ボールねじ軸27aがシリンダ穴22の底部22aの方向に変位すると第二スレーブピストン23bが底部22aの方向に変位し、第二リターンスプリング24bが圧縮される。さらに、圧縮された第二リターンスプリング24bの反力で第一スレーブピストン23aが底部22aの方向に変位する。
そして、第一スレーブピストン23aおよび第二スレーブピストン23bの変位によって、第一液圧室25aおよび第二液圧室25bでブレーキ液が圧縮されてブレーキ液圧が発生する。第一液圧室25aで発生したブレーキ液圧は連絡液圧路9cに出力される。また、第二液圧室25bで発生したブレーキ液圧は連絡液圧路9dに出力される。
【0049】
液圧発生装置20の第一液圧室25aおよび第二液圧室25bで発生したブレーキ液圧は、連絡液圧路9c,9d、および
図1に示すメイン液圧路9a,9bを介して液圧制御装置50に入力される。なお、リザーバ29には、リザーバ3(
図1参照)から延びるホース(図示せず)が接続される。
【0050】
図2に示すように構成される液圧発生装置20は、モータ26の駆動によって、ブレーキペダルP(
図1参照)の踏み込み操作量に応じたブレーキ液圧を発生する。また、液圧発生装置20に備わるボールねじ構造体27は、モータ26が出力する回転駆動力でボールねじ軸27aを軸方向に直進運動させる。
【0051】
図1に示す液圧制御装置50は、車輪のスリップを抑制するアンチロックブレーキ制御(ABS制御)、車両の挙動を安定化させる横滑り制御やトラクション制御などを実行し得るような構成を具備する。液圧制御装置50は、管材を介してホイールシリンダW,W,…に接続されている。なお、図示は省略するが、液圧制御装置50は、電磁弁やポンプ等が設けられた液圧ユニット、ポンプを駆動するためのモータ、電磁弁やモータ等を制御するための電子制御ユニットなどを備えている。
【0052】
前記したように、本実施形態に係る液圧発生装置20は、シリンダ穴22内で第二スレーブピストン23bを前進させることでブレーキ液圧を発生させる電動ブレーキ装置を備える。この電動ブレーキ装置は、モータ26の回転駆動力を直線方向の軸力に変換して第二スレーブピストン23bに伝達するボールねじ構造体27を有する。ボールねじ構造体27は、回転するボールねじナット27bと、ボールねじナット27bに螺合して軸方向に移動可能に設けられるとともに第二スレーブピストン23bに当接するボールねじ軸27aとを有する。また、ボールねじ構造体27は、ボールねじ軸27aの回り止めを行う回り止め機構部35を有する。回り止め機構部35は、第二スレーブピストン23bが摺動するシリンダ穴22の摺動面22bに軸方向に沿って形成された軸方向溝36と、ボールねじ軸27aに設けられた回転規制部材37とを有している。そして、回転規制部材37の径方向外側端部39aが軸方向溝36内に配置されている。
【0053】
本実施形態では、ボールねじナット27bの回転によりボールねじ軸27aが軸方向に移動し、ボールねじ軸27aが連れ回ることがボールねじ軸27aの前側に設けられた回り止め機構部35により防止される。ボールねじ軸27aに設けられた回転規制部材37の径方向外側端部39aが、シリンダ穴22の摺動面22bに軸方向に沿って形成された軸方向溝36内を通るため、シリンダ穴22の軸方向長さの増大を抑制できる。
したがって、本実施形態によれば、回り止め機構部35をボールねじ軸27aの前側に設けるとともにシリンダ穴22の軸方向長さの増大を抑制することができる液圧発生装置20を提供できる。
しかも、軸方向溝36が、シリンダ穴22の摺動面22bに軸方向に沿って形成されている。これにより、第二スレーブピストン23bは、シリンダ穴22の摺動面22bの軸方向溝が形成されていない部分で保持され得るため、第二スレーブピストン23bの倒れを抑えて摩耗を抑制することが可能である。
【0054】
また、本実施形態では、軸方向溝36は、シリンダ穴22の摺動面22bの軸方向における一部に凹状に形成されている。この構成では、第二スレーブピストン23bがシリンダ穴22の摺動面22bによって保持される領域をより多く確保できるため、第二スレーブピストン23bの倒れをより抑えることが可能である。
【0055】
また、本実施形態では、回転規制部材37の径方向外側端部39aには、軸方向に沿って被案内部40が形成されている。この場合、回り止め機構部35は、軸方向溝36内に軸方向に沿って配置された案内ピン42を有する。この案内ピン42は、被案内部40内に少なくとも一部が入った状態で回転規制部材37を軸方向に案内する。この構成では、ボールねじ軸27aに設けられた回転規制部材37の被案内部40に案内ピン42の少なくとも一部が入ることで、ボールねじ軸27aの回り止めを行うことができる。
【0056】
また、本実施形態では、案内ピン42は、軸方向溝36内に軸方向に沿って形成された凹状の設置溝36a内に配置されている。この構成では、案内ピン42を、最小限の大きさの軸方向溝36の内部に配置できるとともに、軸方向溝36内に形成された設置溝36a内に安定的に設置できる。
【0057】
また、本実施形態では、案内ピン42は、前端部がシリンダ本体21に軸方向に沿って形成された穴21aに挿入されている。この構成では、案内ピン42の一方の端部を支持できるとともに、案内ピン42の前方への移動を規制することで位置決めすることができる。
【0058】
また、本実施形態では、案内ピン42は、後端部の端面がボールねじナット27bを回転自在に支持する軸受43の外輪の側面に対向して配置されている。この構成では、案内ピン42の後方への移動を規制することで位置決めすることができる。
【0059】
また、本実施形態では、軸方向溝36は、シリンダ穴22の摺動面22bの対向する位置に一対形成され、回転規制部材37の径方向外側端部39aは、一対の軸方向溝36に対応して一対形成されている。この構成では、ボールねじナット27bの回転によってボールねじ軸27aが連れ回ることをバランス良く効果的に防止することができる。
【0060】
また、本実施形態では、被案内部40の内面と案内ピン42との間に、径方向のクリアランス部44が設けられている。クリアランス部44は、被案内部40の内面と案内ピン42とが径方向に近接して接触した場合において、被案内部40の内面と案内ピン42との間に径方向の空間を形成する。
【0061】
この構成では、回り止め機構部35によってボールねじ軸27aの回り止めが行われるとき、被案内部40の内面と案内ピン42との間に設けられたクリアランス部44がグリス溜まりの場所を提供できる。したがって、被案内部40と案内ピン42とが摺動する際には、クリアランス部44によってグリスの保持が可能となるため、スタック(固着)をより確実に回避することができる。
したがって、シリンダ本体21とボールねじナット27bとボールねじ軸27aと回り止め機構部35とを備える電動アクチュエータにおいて、回り止め機構部35における摺動する部品間でのスタックをより確実に回避できる。
【0062】
また、本実施形態では、被案内部40は、回転規制部材37の径方向外側端部39aの端面に形成された凹状の被案内溝である。この被案内溝の内面に、軸方向に沿って凹状の切欠き溝41が形成されており、クリアランス部44は、切欠き溝41によって形成されている。この構成では、切欠き溝41によってグリスを保持できるため、スタックをより確実に回避することができる。また、スタックをより確実に回避できるため、案内ピン42と回転規制部材37との当接に関する設計の自由度が増す。これにより、両者のすきま、並びに、両者が当接する位置および角度の調整が可能となる。さらに、両者の当接角度を調整することで、製品の小型化および耐摩耗性向上を実現できる。
【0063】
被案内部40の内面は、案内ピン42の半径よりも大きい半径を有する複数の円弧面45a,45bを繋げて構成されていてもよい。この場合、クリアランス部44は、隣接する一対の円弧面45a,45bと案内ピン42との間に形成されている。この構成では、隣接する一対の円弧面45a,45bと案内ピン42との間にグリスを保持できるため、スタックをより確実に回避することができる。また、スタックをより確実に回避できるため、案内ピン42と回転規制部材37との当接に関する設計の自由度が増す。これにより、両者のすきま、並びに、両者が当接する位置および角度の調整が可能となる。さらに、両者の当接角度を調整することで、製品の小型化および耐摩耗性向上を実現できる。
なお、被案内部40の内面が複数の円弧面45a,45bを繋げて構成されるとともに、この内面に軸方向に沿って凹状の切欠き溝41が形成されることも可能である。
【0064】
以上、本発明について、実施形態に基づいて説明したが、本発明は、前記実施形態に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【0065】
例えば、液圧発生装置20は、一つのピストンを有するシングル式であってもよい。また、液圧発生装置20は、マスタシリンダ1、ストロークシミュレータ2、および液圧制御装置50を構成する部品のうちのいずれかを備えるように構成されてもよい。
【符号の説明】
【0066】
20 液圧発生装置
21 シリンダ本体(基体)
21a 穴
22 シリンダ穴
22b 摺動面
23a 第一スレーブピストン
23b 第二スレーブピストン(ピストン)
26 モータ
27 ボールねじ構造体(駆動伝達部)
27a ボールねじ軸(シャフト部材)
27b ボールねじナット(ナット部材)
35 回り止め機構部
36 軸方向溝
36a 設置溝
37 回転規制部材
39a 径方向外側端部
40 被案内部
41 切欠き溝
42 案内ピン
42a 前端部
42b 後端部
43 軸受
44 クリアランス部
45a,45b 円弧面