(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023148695
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】鍵盤楽器の鍵盤装置
(51)【国際特許分類】
G10B 3/12 20060101AFI20231005BHJP
G10H 1/34 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
G10B3/12 113
G10B3/12 130
G10H1/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022056845
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000001410
【氏名又は名称】株式会社河合楽器製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100095566
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 友雄
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(72)【発明者】
【氏名】鬼頭 慧
【テーマコード(参考)】
5D478
【Fターム(参考)】
5D478BD01
5D478BD05
(57)【要約】
【課題】押鍵に連動して回動するハンマーが元の位置に戻るときのバウンドを抑制することで、鍵のバウンスの発生を抑制でき、また、ハンマーによるノイズの発生を抑制することができる鍵盤楽器の鍵盤装置を提供する。
【解決手段】押鍵された鍵2に連動して上下方向に回動するハンマー31と、ハンマー31の下方に設けられ、押鍵に伴い上方に回動したハンマー31が離鍵に伴い元の位置に戻る際にハンマー31が上方から当接するクッション52と、を備え、ハンマー31は、ハンマー支軸18aから後方に向かって、互いに間隔を隔ててかつ各々が下方に突出する複数の凸部51を有しており、クッション52は、ハンマー31が上方から当接する際に、複数の凸部51のうち、ハンマー支軸18aに近いものから遠いものに向かって順に当接する複数のクッション52a、52b、52c及び52dで構成されている。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍵盤シャーシと、
前後方向に延び、前記鍵盤シャーシの上部に配置された鍵と、
前後方向に延び、前記鍵の下方において前記鍵盤シャーシにハンマー支軸を介して回動自在に支持され、押鍵された前記鍵に連動して上下方向に回動するハンマーと、
前記ハンマーの下方に設けられ、離鍵状態において前記ハンマーが載置されるとともに、押鍵に伴い上方に回動した前記ハンマーが離鍵に伴い元の位置に戻る際に当該ハンマーが上方から当接するクッションと、
を備え、
前記ハンマーは、前記ハンマー支軸から後方に向かって、互いに間隔を隔ててかつ各々が下方に突出するように形成された複数の凸部を有しており、
前記クッションは、前記複数の凸部にそれぞれ対応し、前記ハンマーが上方から当接する際に、前記複数の凸部のうち、前記ハンマー支軸に近いものから遠いものに向かって順に当接する複数のクッションで構成されていることを特徴とする鍵盤楽器の鍵盤装置。
【請求項2】
前記複数の凸部の少なくとも1つは、下方に向かってテーパ状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の鍵盤楽器の鍵盤装置。
【請求項3】
前記複数のクッションは、前記ハンマー支軸に近いほど、低い反発性を有する弾性材料で構成されていることを特徴とする請求項1に記載の鍵盤楽器の鍵盤装置。
【請求項4】
前記ハンマーは、
合成樹脂から成り、前後方向に延びるとともに前記ハンマー支軸に回動自在に支持されたハンマー本体と、
金属から成り、前後方向に延びるとともに前記ハンマー本体の後部に取り付けられかつ当該ハンマー本体の後端よりも後方に延びるように形成された錘と、
を有しており、
前記ハンマー本体及び前記錘には、前記複数の凸部が少なくとも1つ設けられていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の鍵盤楽器の鍵盤装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子ピアノなどの鍵盤楽器に適用され、鍵の押鍵に連動して回動するハンマーを備えた鍵盤楽器の鍵盤装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の鍵盤装置として、例えば特許文献1に記載されたものが知られている。この鍵盤装置では、前後方向に延びる鍵ごとに、その下方にハンマーが回動自在に設けられている。離鍵状態において、各ハンマーは、後下がりに傾斜した状態で前後方向に延びており、後端部がストッパに上方から当接するようになっている。このストッパは、左右方向に水平に延びるストッパレールと、このストッパレールの上面に、長さ方向の全体にわたって横断面が一定の矩形状に形成された緩衝材とで構成されている。
【0003】
上記のようなストッパを有する鍵盤装置では、鍵が押鍵されると、その鍵に対応するハンマーが所定方向に回動し、ハンマーの後端部がストッパの上方に移動する。そして、その鍵が離鍵されると、ハンマーが上記と逆方向に回動し、ハンマーの後端部がストッパに上方から当接する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の鍵盤装置では、ストッパが、ハンマーの後端部に対応する位置に1つのみ設けられている。この場合、回動するハンマーの後端部は、ハンマーの回動支点から最も遠いため、ストッパに当接する際の運動エネルギーが大きくなる。そのため、ハンマーがストッパに当接した際に、バウンドしやすく、完全に停止するまでに時間がかかることがある。その結果、ハンマーが完全に停止するまでの間、そのハンマーに対応する鍵の上面が上下に振動する、いわゆるバウンスを生じるおそれがある。また、運動エネルギーの大きなハンマーの後端部が単一のストッパに当接することで、ノイズが発生しやすいという問題もある。
【0006】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、押鍵に連動して回動するハンマーが元の位置に戻るときのバウンドを抑制することで、鍵のバウンスの発生を抑制でき、また、ハンマーによるノイズの発生を抑制することができる鍵盤楽器の鍵盤装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、鍵盤シャーシと、前後方向に延び、鍵盤シャーシの上部に配置された鍵と、前後方向に延び、鍵の下方において鍵盤シャーシにハンマー支軸を介して回動自在に支持され、押鍵された鍵に連動して上下方向に回動するハンマーと、ハンマーの下方に設けられ、離鍵状態においてハンマーが載置されるとともに、押鍵に伴い上方に回動したハンマーが離鍵に伴い元の位置に戻る際にハンマーが上方から当接するクッションと、を備え、ハンマーは、ハンマー支軸から後方に向かって、互いに間隔を隔ててかつ各々が下方に突出するように形成された複数の凸部を有しており、クッションは、複数の凸部にそれぞれ対応し、ハンマーが上方から当接する際に、複数の凸部のうち、ハンマー支軸に近いものから遠いものに向かって順に当接する複数のクッションで構成されていることを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、押鍵に伴い上方に回動したハンマーが離鍵に伴い元の位置に戻る際に、そのハンマーがクッションに上方から当接する。また、ハンマーには、ハンマー支軸から後方に向かって、互いに間隔を隔ててかつ下方に突出するように形成された複数の凸部が設けられる一方、クッションは、ハンマーの複数の凸部にそれぞれ対応する複数のクッションで構成されている。そして、ハンマーの複数の凸部が複数のクッションにそれぞれ当接する際に、ハンマー支軸に近い凸部から遠い凸部に向かって順に、対応するクッションに当接する。これにより、回動するハンマーの運動エネルギーが、複数のクッションによって徐々に低減され、ハンマーの全ての凸部がクッションに当接した際のハンマーのバウンドを抑制することができる。その結果、鍵がハンマーに連動するように構成されている場合でも、鍵のバウンスの発生も抑制することができる。また、ハンマーがクッションに当接する場合、上述したように、ハンマーが複数のクッションに順に当接することで、回動するハンマーの速度や勢いを徐々に低減できるので、ハンマーが単一のストッパに当接する従来に比べて、ノイズの発生を抑制することができる。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の鍵盤楽器の鍵盤装置において、複数の凸部の少なくとも1つは、下方に向かってテーパ状に形成されていることを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、複数の凸部の少なくとも1つが、下方に向かってテーパ状に形成されているので、ハンマーの凸部がそれに対応するクッションに上方から当接する際に、その凸部とクッションとの接触面積を徐々に増やすように当接させることができる。これにより、ハンマーがクッションに当接する際の接触面積が当初から大きい場合に比べて、ハンマーがクッションに当接した際のノイズの発生を抑制することができる。
【0011】
請求項3に係る発明は、請求項1に記載の鍵盤楽器の鍵盤装置において、複数のクッションは、ハンマー支軸に近いほど、低い反発性を有する弾性材料で構成されていることを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、ハンマーの複数の凸部がそれぞれ当接する複数のクッションが、ハンマー支軸に近いほど、低い反発性を有する弾性材料で構成されているので、各凸部がクッションに当接する際のノイズを効果的に抑制しながら、回動するハンマーの運動エネルギーを徐々に低減することができる。これにより、ハンマーがクッションに当接する際のノイズの発生及び鍵のバウンスの発生を効果的に抑制することができる。
【0013】
請求項4に係る発明は、請求項1から3のいずれかに記載の鍵盤楽器の鍵盤装置において、ハンマーは、合成樹脂から成り、前後方向に延びるとともにハンマー支軸に回動自在に支持されたハンマー本体と、金属から成り、前後方向に延びるとともにハンマー本体の後部に取り付けられかつハンマー本体の後端よりも後方に延びるように形成された錘と、を有しており、ハンマー本体及び錘には、複数の凸部が少なくとも1つ設けられていることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、合成樹脂から成るハンマー本体と、金属から成る錘とを有するハンマーにおいて、ハンマー本体及び錘にそれぞれ、クッションに当接する凸部が少なくとも1つ設けられている。これにより、ハンマー本体の凸部及び錘の凸部がそれぞれ当接するクッションとして、ハンマー本体及び錘にそれぞれ適した弾性材料を採用することにより、ハンマーが当接した際の衝撃を良好に緩和することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明を適用した電子ピアノの鍵盤装置の一部(1オクターブ分)を示す斜視図であり、(a)は鍵盤装置の外観を示し、(b)は左端の白鍵及び黒鍵以外の鍵を省略した状態を示す。
【
図2】
図1(b)に示す鍵盤装置において、白鍵及び黒鍵を、それぞれの鍵支持機構とともに、鍵盤シャーシから取り外した状態を示す斜視図である。
【
図3】(a)は
図1(b)に示す鍵盤装置の平面図、(b)はA-A線に沿う断面図である。
【
図4】白鍵及び鍵支持機構を示す斜視図であり、(a)は白鍵と鍵支持機構が連結された状態、(b)は白鍵と鍵支持機構が分解された状態を示す。
【
図5】黒鍵及び鍵支持機構を示す斜視図であり、(a)は黒鍵と鍵支持機構が連結された状態、(b)は黒鍵と鍵支持機構が分解された状態を示す。
【
図6】鍵盤装置における白鍵の動作を説明するための図であり、(a)は離鍵状態を示し、(b)は押鍵状態を示す。
【
図7】鍵盤装置における黒鍵の動作を説明するための図であり、(a)は離鍵状態を示し、(b)は押鍵状態を示す。
【
図8】本発明の要部を説明するための図であり、(a)は
図3(b)と同様の断面図、(b)は第1アームの後部及びその周囲を拡大して示す図、(c)は第1アームの後部のみを拡大して示す図である。
【
図9】第1アームの後部における複数の凸部がクッションに当接する状態を順に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。
図1(a)は、本発明が適用される電子ピアノの鍵盤装置1について、1オクターブ分のみを示している。なお、以下の説明ではまず、鍵盤装置1の基本構成及びその動作を説明し、その後で、本発明の要部について説明するものとする。
【0017】
図1(b)は、同図(a)の鍵盤装置1において、左端の白鍵2a及び黒鍵2b以外の鍵2を省略した状態を示しており、
図2は、白鍵2a及び黒鍵2bを鍵支持機構6とともに鍵盤シャーシ4から取り外した状態を示している。
【0018】
この鍵盤装置1は、鍵盤シャーシ4と、白鍵2a及び黒鍵2bから成り、左右方向に並んだ状態に配置された複数の鍵2と、鍵2ごとに鍵盤シャーシ4に回動自在に取り付けられ、対応する鍵2を下方から支持する鍵支持機構6と、各鍵2の押鍵情報を検出するための鍵スイッチ3などを備えている。
【0019】
鍵盤シャーシ4は、所定の樹脂材料(例えばABS樹脂)を射出成形することなどによって所定形状の樹脂成形品から成るシャーシ本体4aを備えている。
図3に示すように、このシャーシ本体4aでは、その前部11、中間部12及び後部13がいずれも全体として左右方向(
図3(a)の左右方向)に延びるように形成され、これらが左右方向に間隔を隔ててかつ各々が前後方向に延びる複数のリブ14によって一体に成形されている。なお、以下の説明では、鍵盤シャーシ4において、シャーシ本体4aの前部11、中間部12及び後部13をそれぞれ、「シャーシ前部11」、「シャーシ中間部12」及び「シャーシ後部13」というものとする。
【0020】
シャーシ前部11は主に、押鍵時に白鍵2aをガイドするとともに、その前端部の上限位置及び下限位置を規制するためのものである。このシャーシ前部11には、白鍵2aごとに下方から挿入され、白鍵2aの横振れを防止するための複数の白鍵ガイド11aが、左右方向に並んだ状態で立設されている。また、シャーシ前部11には、各白鍵ガイド11aの左右両側に、上下方向に貫通する係合孔11b、11bが設けられており、両係合孔11b、11bに、白鍵2aの後述する左右2つの上限位置規制部21、21がそれぞれ貫通した状態で係合する。さらに、シャーシ前部11には、その前端部に、前方に突出しかつシャーシ本体4aの全体にわたって左右方向に延びるストッパ取付部11cが設けられ、このストッパ取付部11cの下面及び上面にそれぞれ、白鍵用の鍵上限ストッパ16a及び鍵下限ストッパ16bが、左右方向に延びるように取り付けられている。なお、シャーシ前部11には、白鍵ガイド11aの後方の所定位置に、シャーシ本体4aの全体にわたって左右方向に延びる黒鍵用のストッパ取付部11dが設けられ、このストッパ取付部11dに、黒鍵用の鍵上限ストッパ17が、左右方向に延びるように取り付けられている。
【0021】
シャーシ中間部12は主に、押鍵時に黒鍵2bをガイドするとともに、白鍵用及び黒鍵用の鍵支持機構6a、6bの後述する第1アーム31及び第2アーム32を揺動自在に支持するものである。このシャーシ中間部12は、左右方向に延びる平板状の平坦部12aと、この平坦部12a上に立設され、左右方向に適宜、間隔を隔てて配置された複数の黒鍵ガイド12bとを有している。各黒鍵ガイド12bは、黒鍵2bごとに下方から挿入され、その黒鍵2bの横振れを防止する。また、シャーシ中間部12の前部には、鍵支持機構6の第1アーム31を支持する第1アーム支持部18が設けられている。この第1アーム支持部18は、隣り合うリブ14、14の間にそれぞれ左右方向に延びるように設けられた複数の第1支軸18aを有しており、これらの第1支軸18aに、第1アーム31が揺動自在に支持されている。さらに、シャーシ中間部12の後部には、鍵支持機構6の第2アーム32を支持する第2アーム支持部19が設けられている。この第2アーム支持部19は、隣り合うリブ14、14の間にそれぞれ左右方向に延びるように設けられた複数の第2支軸19aを有している。複数の第2支軸19aは、上記第1支軸18aよりも後方にかつ高い位置に、左右方向に延びる同一軸線上に配置されており、これらの第2支軸19aに、第2アーム32が揺動自在に支持されている。なお、シャーシ中間部12の下側に設けられた後述する中レール8の所定位置には、シャーシ本体4aの全体にわたって左右方向に延びる第1アーム下限ストッパ10bが設けられている。
【0022】
また、鍵盤シャーシ4の下部には、上記のシャーシ前部11とシャーシ中間部12の間に、前記鍵スイッチ3が取り付けられている。この鍵スイッチ3は、左右方向に延びる横長のプリント基板3aと、このプリント基板3a上に鍵2ごとに取り付けられ、押鍵時に第1アーム31によって押圧されるゴムスイッチから成る複数のスイッチ本体3bとで構成されている。
【0023】
シャーシ後部13は主に、鍵2を、その後端部において、横振れを防止しながら上下方向にガイドするとともに、第1アーム31の後端部の上限位置を規制するためのものである。
図2及び
図3(a)に示すように、シャーシ後部13は、隣接する鍵2、2同士を仕切るよう、互いに左右方向に所定間隔を隔てて、複数の仕切壁13aを有している。また、
図3(b)に示すように、シャーシ後部13の上部の所定位置には、シャーシ本体4aの全体にわたって左右方向に延びる第1アーム上限ストッパ10aが設けられている。この第1アーム上限ストッパ10a、及びシャーシ中間部12に設けられた前記第1アーム下限ストッパ10bはそれぞれ、鍵2にタッチ重さを付与するためのハンマーとしての機能を有する第1アーム31に対し、その第1アーム31が上方に回動したときの上限位置、及び下方に回動したときの下限位置を規制するためのものである。さらに、シャーシ後部13の上部には、シャーシ本体4aの全体にわたって左右方向に延び、鍵2の後端部を覆うように配置された金属製のカバープレート15が取り付けられている。
【0024】
以上のように構成された鍵盤シャーシ4のシャーシ本体4aには、
図2及び
図3(a)に示すように、上方及び前方に開放する複数の第1開口部5a及び上方に開放する複数の第2開口部5bが設けられている。上記の各第1開口部5aを介して、鍵支持機構6の第1アーム31が外方から第1支軸18aに係合され、また、上記の各第2開口部5bを介して、第2アーム32が外方から第2支軸19aに係合される。
【0025】
また、上記の鍵盤シャーシ4では、複数のシャーシ本体4aが、互いに左右方向に並んだ状態に連結されるとともに、いずれも左右方向に延び、互いに前後方向に所定間隔を隔てて配置された金属製の前レール7、中レール8及び後レール9に載置された状態でねじ止めされている。そして、上記の前レール7及び後レール9を介して、電子ピアノの図示しない棚板上に鍵盤シャーシ4が固定される。
【0026】
次に、鍵2及び鍵支持機構6について説明する。
図4(a)は、白鍵2a及びその鍵支持機構6aを拡大して示しており、
図4(b)は、それらを分解して示している。同図に示すように、白鍵2aは、所定の樹脂材料(例えばAS樹脂)を射出成形することなどにより、前後方向に所定長さ延びるとともに、下方に開放する中空状に形成されている。白鍵2aの前端部には、左右の側壁から下方に延びかつその下端部が前方に屈曲するように形成された左右一対の上限位置規制部21、21が設けられている。これらの上限位置規制部21、21は、前述したように、シャーシ前部11の左右の係合孔11b、11bにそれぞれ貫通した状態で係合する。
【0027】
また、白鍵2aの前部には、上限位置規制部21よりも後方の所定位置に、鍵支持機構6aの第1アーム31に連結される鍵前側連結部22が設けられている。この鍵前側連結部22は、側面形状が長孔状でかつ前方に開放するU字状に形成された連結凹部22aを有している。また、この連結凹部22aには、その内周面全体を覆うように設けられ、第1アーム31の後述する連結軸35bが連結凹部22a内で摺動する際に、ノイズの発生を抑制するための緩衝部材20が取り付けられている。
【0028】
さらに、白鍵2aの後部には、鍵支持機構6aの第2アーム32に連結される鍵後側連結部23が設けられている。この鍵後側連結部23は、白鍵2aの左右方向の中央部から下方に垂下し、左右方向に所定の厚さを有する板状の連結本体部23aと、この連結本体部23aの左右の側面からそれぞれ同軸状に突出した左右一対の係合凸部23b、23bとを有している。また、白鍵2aの後部には、上下方向に貫通し、鍵盤装置1のメンテナンス時などに、白鍵2aと鍵支持機構6aの第2アーム32との連結を解除する際に、所定の工具を上方から挿入するための工具挿入孔24が形成されている。
【0029】
一方、鍵支持機構6aは、互いに係合するとともに、白鍵2aの鍵前側連結部22及び鍵後側連結部23にそれぞれ連結された第1アーム31及び第2アーム32を備えている。
【0030】
図4(b)に示すように、第1アーム31は、アーム本体33と、このアーム本体33に取り付けられた2つの錘34、34とで構成されている。アーム本体33は、所定の樹脂材料(例えばポリアセタール)を射出成形することなどにより、所定形状の樹脂成形品で構成されている。このアーム本体33は、前後方向に所定長さ延びていて、前端部に、白鍵2aの鍵前側連結部22に連結する第1アーム前側連結部35が設けられている。この第1アーム前側連結部35は、上方及び前方に開放するボックス状に形成されたボックス部35aと、このボックス部35aの左右の側壁の前側上端部同士をつないだ状態で、左右方向に延びるように設けられた連結軸35bとを有している。そして、この連結軸35bは、白鍵2aの鍵前側連結部22の連結凹部22aに対し、回動自在にかつ前後方向にスライド自在に連結している。
【0031】
また、アーム本体33は、第1アーム前側連結部35の直ぐ後側の所定位置に、側面形状が下方に開放するU字状の軸受部36を有しており、この軸受部36が、鍵盤シャーシ4における第1支軸18aに回動自在に係合する。さらに、アーム本体33は、軸受部36の後方の所定位置に、第2アーム32と連結する第1アーム後側連結部37が設けられている。具体的には、第1アーム後側連結部37は、左右方向に延び、両端部がアーム本体33の左右の側面よりも外方にそれぞれ突出する連結軸37aを有している。そして、この連結軸37aの両端部が、第2アーム32の後述する第2アーム前側連結部45の連結凹部45b、45bに係合する。
【0032】
アーム本体33の後部である錘取付け部38には、細長い板状の2枚の錘34、34が、錘取付け部38を両側から挟んだ状態で取り付けられている。なお、各錘34は、アーム本体33よりも比重の大きな材料(例えば鉄などの金属)から成り、金属板をプレス加工することなどによって、所定形状に形成されている。
【0033】
第2アーム32は、第1アーム31のアーム本体33と同様の樹脂材料を射出成形することにより、所定形状の樹脂成形品で構成されている。この第2アーム32は、第1アーム31よりも短く前後方向に所定長さ延びている。また、第2アーム32は、長さ方向の中央付近に、側面形状が前方に開放するC字状の軸受部41を有しており、この軸受部41が、鍵盤シャーシ4における第2支軸19aに回動自在に係合する。
【0034】
また、第2アーム32の後部には、白鍵2aの鍵後側連結部23に連結される第2アーム後側連結部42が設けられている。この第2アーム後側連結部42は、二股状に形成されており、第2アーム32の長さ方向に沿って互いに平行に所定長さ延びる左右2つの連結アーム部43、43を有している。各連結アーム部43の後端部には、左右方向に貫通する連結孔43aが形成されている。そして、両連結アーム部43、43は、それらの後端部間で、白鍵2aにおける鍵後側連結部23の連結本体部23aを左右両側から挟持するとともに、各連結孔43aが鍵後側連結部23の対応する係合凸部23bに回動自在に嵌合する。
【0035】
さらに、第2アーム32の前部には、第1アーム31の第1アーム後側連結部37に連結される第2アーム前側連結部45が設けられている。この第2アーム前側連結部45は、互いに左右方向に所定間隔を隔てた左右一対の連結片45a、45aを有しており、各連結片45aには、側面形状が長孔状でかつ前方に開放するU字状の連結凹部45bが形成されている。そして、第2アーム前側連結部45の左右の連結片45a、45aは、それらの連結凹部45b、45bを介して、第1アーム31の連結軸37aの両端部にそれぞれ、回動自在にかつスライド自在に係合する。
【0036】
図5(a)は、黒鍵2b及びその鍵支持機構6bを拡大して示しており、
図5(b)は、それらを分解して示している。黒鍵2bは、白鍵2aと同様の樹脂材料を射出成形することなどにより、白鍵2aよりも短く前後方向に所定長さ延びるとともに、下方に開放する中空状に形成されている。黒鍵2bの前側下端部には、白鍵2aの鍵前側連結部22とほぼ同様に形成された鍵前側連結部26が設けられている。この鍵前側連結部26は、側面形状が長孔状でかつ前方に開放するU字状に形成された連結凹部26aを有している。また、鍵前側連結部26は、連結凹部26aの下側前端部に、黒鍵2bの本体の前面よりも前方に所定長さ延びる延設部26bを有しており、この延設部26bが黒鍵2bの上限位置規制部として機能する。なお、以下の説明では、黒鍵2b及び鍵支持機構6bについて、前述した白鍵2a及び鍵支持機構6aと同じ構成部分については同一の符号を付して、詳細な説明を省略するものとする。
【0037】
黒鍵2bを支持する鍵支持機構6bは、前述した白鍵用の鍵支持機構6aとほぼ同様に構成されている。具体的には、鍵支持機構6bの第1アーム31のアーム本体33、及び第2アーム32は、白鍵用の鍵支持機構6aのアーム本体33及び第2アーム32に対し、形状及びサイズが全く同じに構成されている。なお、黒鍵用の鍵支持機構6bの左右2つの錘34、34は、白鍵用の鍵支持機構6aの錘34に対し、後部の形状が異なっている。
【0038】
次に、以上のように構成された鍵盤装置1における鍵2及び鍵支持機構6の動作について説明する。
図6は白鍵2a及びその鍵支持機構6aの動作を示し、
図7は、黒鍵2b及びその鍵支持機構6bの動作を示している。
【0039】
図6(a)に示す離鍵状態において、白鍵2aの前端部が演奏者により指で押し下げられると、白鍵2aの鍵前側連結部22が下方に移動し、それにより、第1アーム31が第1支軸18aを中心として反時計方向に回動する。また、第1アーム31の上記回動に伴い、第1アーム31の連結軸37aに連結凹部45bを介して係合する第2アーム前側連結部45が上方に移動する。これにより、第2アーム32は、第2支軸19aを中心として時計方向に回動する。そして、この第2アーム32の回動に伴い、その後端部の第2アーム後側連結部42を介して連結された鍵後側連結部23が引き下げられ、白鍵2aの後端部が下方に移動する。
【0040】
なお、第1アーム31の上記回動の際には、第1アーム前側連結部35のボックス部35aが下方に移動するのに伴い、そのボックス部35aの底壁によって、押鍵された鍵2に対応する鍵スイッチ3のスイッチ本体3bを上方から押圧する。これにより、電子ピアノにおいて、押鍵された鍵2の押鍵情報が検出され、その検出された押鍵情報に基づいて、図示しないスピーカから音が発生する。
【0041】
上記のように、白鍵2aを押し下げる場合、第1アーム31の反時計方向への回動に伴い、第1アーム31の錘34は、
図6(b)に示すように、後ろ上がりに傾斜し、後端部が第1アーム上限ストッパ10aに下方から当接する。これにより、第1アーム31のそれ以上の回動が阻止される。そして、白鍵2aの前端部が最下位置まで押し下げられた際には、白鍵2aの前端部が鍵下限ストッパ16bに当接し、それ以上の白鍵2aの押下げが阻止される。
【0042】
以上のように押鍵される白鍵2aは、その後端よりも後方に位置する仮想支点Pを中心として回動するように動作する。この仮想支点Pの位置は、例えば白鍵2aの前端からの距離が白鍵2a自体の長さの約2倍になるように設定されている。これにより、白鍵2aの前端部が最下位置まで押し下げられた際には、
図6(a)に示す離鍵状態のときに比べて、白鍵2aの前端部は、所定の鍵ストローク(例えば10mm)分、下方に位置し、後端部は、上記鍵ストロークの約1/2の距離(例えば5mm)分、下方に位置する。
【0043】
一方、押し下げられた白鍵2aから指を離すと、錘34の自重により、鍵支持機構6aの第1アーム31が上記と逆方向に回動し、それに伴い、第2アーム32も上記と逆方向に回動する。これに伴い、白鍵2aは、仮想支点Pを中心として、上方に回動する。そして、第1アーム31における第1支軸18aの後方の所定部位が第1アーム下限ストッパ10bに上方から当接するとともに、白鍵2aの両上限位置規制部21、21が鍵上限ストッパ16aに下方から当接し、それ以上の白鍵2aの回動が阻止され、元の離鍵状態に戻る。
【0044】
また、黒鍵2bの押鍵時の動作も、上述した白鍵2a及び鍵支持機構6aと同様に行われる。すなわち、
図7(a)に示す離鍵状態において、黒鍵2bの前端部が押し下げられると、第1アーム31が第1支軸18aを中心として反時計方向に、第2アーム32が第2支軸19aを中心として時計方向に回動し、これにより、黒鍵2bは、後方の仮想支点Qを中心として回動するように動作する。なお、この仮想支点Qの位置は、前述した白鍵2aの仮想支点Pと同様、例えば黒鍵2bの前端からの距離が黒鍵2自体の長さの約2倍になるように設定されている。したがって、黒鍵2bの前端部が最下位置まで押し下げられた際には、
図7(a)に示す離鍵状態のときに比べて、黒鍵2bの前端部は、所定の鍵ストローク分、下方に位置し、後端部は、上記鍵ストロークの約1/2の距離分、下方に位置する。
【0045】
一方、押し下げられた黒鍵2bから指を離すと、鍵支持機構6bの第1アーム31及び第2アーム32が上記と逆方向に回動し、それに伴い、黒鍵2bが、仮想支点Qを中心として、上方に回動する。そして、黒鍵2bの鍵前側連結部26の延設部26bが鍵上限ストッパ17に下方から当接し、それ以上の黒鍵2bの回動が阻止され、元の離鍵状態に戻る。
【0046】
次に、
図8及び
図9を参照しながら、本発明の要部について説明する。本発明の要部は、各鍵2の第1アーム31(ハンマー)において、後部に複数の凸部51を設けるとともに、それらの凸部51が上方からそれぞれ当接する複数のクッション52を設けることである。
【0047】
図8(a)及び(b)に示すように、本発明の鍵盤装置1では、各鍵2の第1アーム31の後部(
図8(a)の右部)に、前後方向に間隔を隔てて配置された4つの凸部51が設けられている。また、これら4つの凸部51の下方にはそれぞれ、後レール9上に固定された4つのクッション52が設けられている。
【0048】
なお、以下の説明では、上記4つの凸部51を、第1支軸18a(ハンマー支軸)に最も近い前側(
図8の左側)から順に、第1凸部51a、第2凸部51b、第3凸部51c及び第4凸部51dというものとし、また、4つのクッション52を、前側から順に、第1クッション52a、第2クッション52b、第3クッション52c及び第4クッション52dというものとする。
【0049】
図8(c)に示すように、第1凸部51a及び第2凸部51bは、下方に所定長さ突出し、ハンマー本体33に一体に形成されている。また、第1凸部51aは、底面が平坦に形成される一方、第2凸部51bは、下方に向かってテーパ状に形成されている。
【0050】
また、第3凸部51c及び第4凸部51dは、下方に所定長さ突出し、錘34に一体に形成されている。また、第3凸部51cは、底面が平坦に形成される一方、第4凸部51dは、下方に向かってテーパ状に形成されている。
【0051】
一方、4つのクッション52は、ウレタンなどの弾性を有する材料から成り、後レール9に沿って左右方向(
図8の表裏方向)に所定長さ延びるとともに、長さ方向の全体にわたって横断面が一定の矩形状に形成され、上面が水平になっている。
【0052】
また、4つのクッション52は、第1支軸18aに近いほど、低い反発性を有するように構成されている。つまり、4つのクッション52のうち、第1クッション52aの反発性が最も低く、第4クッション52dの反発性が最も高くなっている。
【0053】
図9は、押鍵に伴い上方に回動した第1アーム31が離鍵に伴い元の位置に戻る際に、4つの凸部51がそれぞれ、対応するクッション52に上方から当接する状態を順に示している。すなわち、
図9(a)に示すように、まず第1アーム31の第1凸部51aが第1クッション52aに当接し、次いで、同図(b)に示すように、第2凸部51bが第2クッション52bに当接する。次いで、同図(c)に示すように、第3凸部51cが第3クッション52cに当接し、最後に、同図(d)に示すように、第4凸部51dが第4クッション52dに当接する。このように、上記の4つの凸部51を有する第1アーム31が、4つのクッション52に上方から当接する場合、第1支軸18aに近い凸部51から順に、対応するクッション52にそれぞれ当接する。
【0054】
以上のように構成された4つの凸部51を有する第1アーム31、及び4つのクッション52を備えた鍵盤装置1では、第1アーム31の4つの凸部51が4つのクッション52にそれぞれ当接する際に、回動する第1アーム31の運動エネルギーが4つのクッション52によって徐々に低減され、第1アーム31の全ての凸部51がクッション52に当接した際の第1アーム31のバウンドを抑制することができる。その結果、第1アーム31の回動に連動する鍵2において、その上面が上下に振動するバウンスの発生を抑制することができる。また、第1アーム31がクッション52に当接する場合、第1アーム31が4つのクッション52a~52dに順に当接することで、回動する第1アーム31の速度や勢いを徐々に低減できるので、ハンマーが単一のストッパに当接する従来に比べて、ノイズの発生を抑制することができる。
【0055】
また、第1アーム31の4つの凸部51において、第2凸部51b及び第4凸部51dが下方に向かってテーパ状に形成されているので、これらの凸部51b、51dは、対応するクッション52b、52dに対し、接触面積が徐々に増えるように当接する。これにより、第1アーム31がクッション52に当接する際の接触面積が当初から大きい場合に比べて、第1アーム31がクッション52に当接した際のノイズの発生を抑制することができる。
【0056】
さらに、4つのクッション52では、第1支軸18aに近いほど、反発性が低く構成されているので、第1アーム31の各凸部51がクッション52に当接する際のノイズの発生を効果的に抑制しながら、回動する第1アーム31の運動エネルギーを徐々に低減することができる。これにより、第1アーム31がクッション52に当接する際のノイズの発生及び鍵2のバウンスの発生を効果的に抑制することができる。
【0057】
なお、本発明は、説明した上記実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、第1アーム31に4つの凸部51を設けるとともにそれらに対応する4つのクッション52を設けたが、本発明はこれに限定されるものではなく、第1アーム31の凸部51を2つや3つにしたり、あるいは5つ以上にしたりすることも可能である。なお、これらの場合には、凸部51の数に応じて、クッション52が設置される。
【0058】
また、実施形態では、押鍵された鍵2が、後方の仮想支点P、Qを中心として回動するように動作する鍵盤装置1に本発明を適用した場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、鍵がそれ自体の後端部を中心として回動しかつ第2アーム32を備えていない一般的な鍵盤装置にも適用できることはもちろんである。また、実施形態で示した第1アーム31、凸部51及びクッション52の細部の構成などは、あくまで例示であり、本発明の趣旨の範囲内で適宜、変更することができる。
【符号の説明】
【0059】
1 鍵盤装置
2 鍵
4 鍵盤シャーシ
9 後レール
18a 第1支軸(ハンマー支軸)
31 第1アーム(ハンマー)
33 アーム本体
34 錘
51 凸部
51a 第1凸部
51b 第2凸部
51c 第3凸部
51d 第4凸部
52 クッション
52a 第1クッション
52b 第2クッション
52c 第3クッション
52d 第4クッション
P 白鍵の仮想支点
Q 黒鍵の仮想支点