(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023148705
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】止水装置
(51)【国際特許分類】
E02B 7/40 20060101AFI20231005BHJP
E06B 5/00 20060101ALI20231005BHJP
E06B 7/22 20060101ALI20231005BHJP
E04H 9/14 20060101ALI20231005BHJP
E02B 7/50 20060101ALN20231005BHJP
【FI】
E02B7/40
E06B5/00 Z
E06B7/22 J
E04H9/14 Z
E02B7/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022056870
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000241290
【氏名又は名称】豊国工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】下見 広司
【テーマコード(参考)】
2D019
2E036
2E139
2E239
【Fターム(参考)】
2D019CA01
2E036AA01
2E036BA01
2E036CA01
2E036DA02
2E036EB02
2E036EC01
2E036FA10
2E036FB02
2E036GA02
2E036HA02
2E036HB23
2E139AA09
2E139AC19
2E139AC20
2E239AC04
(57)【要約】
【課題】浸水を止める必要がない常時は、通路として機能し、災害などにより突発的な浸水が発生した場合には、浮力により確実に止水板が起立動作して水の浸入を防止する信頼性の高い止水装置を提供する。
【解決手段】止水装置1は、止水板10を起伏自在に支持すべく、該止水板10の径間方向に沿って延び、弾性変形自在のヒンジ体11と、止水板10から一体的に延び、下面にヒンジ体11の上端部50が固定されるヒンジ取付板12と、止水板10の倒伏状態から起立状態に至る過程においては、ヒンジ取付板12を含むヒンジ体11の水圧方向への移動を規制すると共に、止水板10の起立状態においては、ヒンジ取付板12を含む前記ヒンジ体11の水圧方向及び鉛直方向への移動を規制するヒンジ支持手段13と、を備えている。これにより、止水装置1としての信頼性を向上させることができる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
止水板が水の浮力により起立することで、浸水防止区域への浸水を止める止水装置であって、
前記止水板を起伏自在に支持すべく、該止水板の径間方向に沿って延び、弾性変形自在のヒンジ体と、
前記止水板から一体的に延び、下面に前記ヒンジ体の一端部が固定されるヒンジ取付板と、
前記止水板の倒伏状態から起立状態に至る過程においては、前記ヒンジ取付板を含む前記ヒンジ体の水圧方向への移動を規制すると共に、前記止水板の起立状態においては、前記ヒンジ取付板を含む前記ヒンジ体の水圧方向及び鉛直方向への移動を規制するヒンジ支持手段と、
を備えることを特徴とする止水装置。
【請求項2】
前記ヒンジ支持手段は、
前記ヒンジ取付板の端面から一体的に延び、前記止水板の起伏動作に伴って、略上下方向に沿って移動する、前記止水板の径間方向に沿って延びる支持部と、
該支持部が収容され、該支持部の移動範囲を規定する切欠き溝部を有し、前記止水板の径間方向に沿って間隔を置いて複数立設される板状支持部材と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の止水装置。
【請求項3】
前記ヒンジ体は、前記止水板の倒伏状態にて、縦断面視コ字状に形成されることを特徴とする請求項1または2に記載の止水装置。
【請求項4】
前記ヒンジ体は、補強繊維で補強されたゴム材料にて構成され、
前記ヒンジ体の上壁部は、上下方向から挟持されるようにして、前記ヒンジ取付板に固定されると共に、前記ヒンジ体の下壁部は、上下方向から挟持されるようにして、支持部位に固定され、
前記対向する上壁部及び下壁部は、共に開放側に向かってその厚みが次第に厚く形成されることを特徴とする請求項3に記載の止水装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水の浮力により通路の床面に設置した止水板(扉体)が起立して止水する止水装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の豪雨、洪水、高潮等の災害においては、建築物や施設における通路からの浸水を止める必要があり、常時は人や車両等が出入りする通路として機能する箇所への臨機の止水対応が求められている。これに対応するために、止水板を設置し対応しているが、多くの人が利用する施設やマンション等の通路では、止水板の操作管理体制の確立及びその体制の維持継続が問題となる場合もある。これに対応するために、常時は人や車両等の通路として機能し、災害などの突発的な浸水が発生した場合には、浮力により自動的に起立して止水する自動止水装置が普及し始めている。そして、通路に到達した水から作用する浮力を利用して、通路の床面に設置した止水板が起立する浮力式防水装置が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の浮力式防水装置を含む従来の止水装置では、止水板がヒンジ体を中心に回転することで起伏自在に構成される。また、止水板は、通路の床面の一部として機能するために、通路の床面に作用する負荷を支持する必要があり、且つ起立時には、止水し水圧による負荷を安全に保持する必要がある。しかしながら、通路の床面からの負荷によるヒンジ体の変形や、通路の床面に発生する塵芥(砂や埃等)の影響により、ヒンジ体の動作不良が生じる問題がある。すなわち、一般的に、ヒンジ体は、軸ピンと軸ピン周りを回転する一対の回転部材とからなる蝶番により構成されており、通路の床面からの負荷や、通路の床面に発生する塵芥の影響により、ヒンジ体の変形や、ヒンジ体の軸ピンと回転部材との隙間への砂や埃等の侵入等により、回転抵抗が異常に大きくなり、災害時に浮力でスムーズに動作しない虞があり、信頼性が低下する。
【0004】
これに対して、特許文献2には、蝶番を用いない形式のヒンジ体を用いた起伏式流水侵入防止ゲートが開示されている。特許文献2に記載のヒンジ体は、可撓性のあるゴム板などにより構成されている。当該ヒンジ体は、上述したヒンジ体を構成する蝶番のように砂や埃等の影響により回転容易性が損なわれる構造ではない。しかしながら、特許文献2に記載の可撓性のあるヒンジ体は、一対の下部押さえ板によって、扉体及びピットの受け金具にボルト固定されているが、この一対の下部押さえ板間に形成される隙間に砂や埃等の異物が噛み込むことにより回転不良となる虞がある。
【0005】
すなわち、扉体が倒伏状態では、一対の下部押さえ板間に隙間(特許文献2の
図2参照)が存在するが、この隙間に、常時、砂や埃等の異物が詰まる状況となる。また、扉体の起立状態(特許文献2の
図1参照)では、一対の下部押さえ板は互いに当接して、隙間がなくなるが、扉体の倒伏状態から起立状態に至る過程においては、一対の下部押さえ板間の隙間に砂や埃等の異物の噛み込むことにより、スムーズな起立が妨げられる虞がある。
【0006】
また、一対の下部押さえ板間の隙間に、砂や埃等の異物が噛み込む状態が発生した場合、梃子の作用によりヒンジ体に大きな張力が発生して、下部押さえ板に固定されたヒンジ体が外れるなどの不具合が発生する虞もある。また、扉体の倒伏状態では、通路として機能する必要があるが、一対の下部押さえ板間の隙間は比較的に無視し得ない大きさの溝となっており、歩行者のつまずきや、ベビーカー等で用いられる小径の車輪を有する器具の運用の障害となる問題もある。
【0007】
さらに、特許文献2に記載の可撓性のヒンジ部材は、補強することにより、水圧による負荷を保持できるが、支圧力及びせん断力が作用した場合には、可撓性のヒンジ体自体でその負荷を支持するのは困難である。すなわち、一対の下部押さえ板同士が当接して、また過負荷防止ベルトに張力が発生して、扉体の起立が保持されるまでの動作過程において、ヒンジ体自体で支圧力やせん断力を支持できない。そのために、ヒンジ体が弾性変形する過程で、伝達される支圧力やせん断力を支持できるように、扉体を起立させる必要があるが、その構造が確立されていないために、それに起因して、ヒンジ体の固定部が外れる等の不具合が発生する虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2016-142030号公報
【特許文献2】特開2012-122246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、上述した特許文献1及び2の発明を含む従来の止水装置では、浸水を止める必要がない常時は、人や車両が出入りする通路の床として機能して、突発的な災害時には確実に起立動作する止水装置としての信頼性は、まだ十分とは言えない状況にある。
【0010】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、浸水を止める必要がない常時は、通路として機能し、災害などにより突発的な浸水が発生した場合には、浮力により確実に起立動作して浸水を防止する信頼性の高い止水装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、請求項1の発明は、止水板が水の浮力により起立することで、浸水防止区域への浸水を止める止水装置であって、前記止水板を起伏自在に支持すべく、該止水板の径間方向に沿って延び、弾性変形自在のヒンジ体と、前記止水板から一体的に延び、下面に前記ヒンジ体の一端部が固定されるヒンジ取付板と、前記止水板の倒伏状態から起立状態に至る過程においては、前記ヒンジ取付板を含む前記ヒンジ体の水圧方向への移動を規制すると共に、前記止水板の起立状態においては、前記ヒンジ取付板を含む前記ヒンジ体の水圧方向及び鉛直方向への移動を規制するヒンジ支持手段と、を備えることを特徴とするものである。
【0012】
請求項1の発明では、ヒンジ体の一端部が、ヒンジ取付板の下面に固定されているので、止水板の倒伏時に通路として機能する際に、通路の床面としての止水板の上面が平滑面となり、通行の障害となる溝などの凸凹を構成する部分がなく好適である。なお、ヒンジ体単体では、止水板の倒伏状態から起立状態に至る過程、及び止水板の起立状態において、水圧等による負荷により、止水板のヒンジ取付体を含むヒンジ体が意図しない方向に移動(変位)する虞がありその位置を保持することが困難となる。これに鑑みて、請求項1の発明では、ヒンジ支持手段により、止水板の倒伏状態から起立状態に至る過程においては、ヒンジ取付板を含むヒンジ体の水圧方向(略水平方向)への移動を規制すると共に、止水板の起立状態においては、ヒンジ取付板を含むヒンジ体の水圧方向(略水平方向)及び鉛直方向への移動を規制することができる。その結果、止水装置の動作時、ヒンジ取付板を含むヒンジ体が意図しない方向に移動(変位)することなくその位置が保持されると共に、ヒンジ取付板を含むヒンジ体に伝達される水圧方向(略水平方向)、及び起立状態にあっては水圧方向(略水平方向)及び鉛直下方への負荷は、止水板のヒンジ取付板とヒンジ支持手段との当接を介して、ピットに安全に伝達される。なお、通常、止水板には、起立状態を保持する、伸長及び折畳自在な支持脚が備えられており、当該支持脚により、止水板に作用する水圧による負荷をピット底部に伝達することができる。
【0013】
請求項2の発明は、請求項1に記載の発明において、前記ヒンジ支持手段は、前記ヒンジ取付板の端面から一体的に延び、前記止水板の起伏動作に伴って、略上下方向に沿って移動する、前記止水板の径間方向に沿って延びる支持部と、該支持部が収容され、該支持部の移動範囲を規定する切欠き溝部を有し、前記止水板の径間方向に沿って間隔を置いて複数立設される板状支持部材と、を備えることを特徴とするものである。
【0014】
請求項2の発明では、止水板の倒伏状態から起立状態に至る過程では、ヒンジ取付板の端面から一体的に延びる支持部が、各板状支持部材の切欠き溝部内を、該切欠き溝部に沿って下方に移動するので、ヒンジ取付板を含むヒンジ体の水圧方向への移動を規制することができる。また、止水板の起立状態では、ヒンジ取付板の端面から一体的に延びる支持部が、各板状支持部材の切欠き溝部内でその底面に接触するので、ヒンジ取付板を含むヒンジ体の、水圧方向への移動に加え、鉛直方向への移動も規制することができる。
【0015】
請求項3の発明は、請求項1または2に記載の発明において、前記ヒンジ体は、前記止水板の倒伏状態にて、縦断面視コ字状に形成されることを特徴とするものである。
【0016】
請求項3の発明では、止水板の倒伏状態におけるヒンジ体は、浸水防止区域側とは反対側の水貯留区域側が開放される縦断面視コ字状に形成され、この状態でヒンジ体がヒンジ取付板の下方に配置されることにより、ヒンジ体の閉塞側から浸水防止区域側の空間にヒンジ支持手段(支持部及び各板状支持部材)をコンパクトに配置することができる。なお、ヒンジ体は、その上壁部がヒンジ取付板にボルト固定されると共に、その下壁部がピット内の例えば取付台にボルト固定されているので、起立状態に至る過程における止水板の上方への変位に対して、ヒンジ体の鉛直壁部が抗するようになる。つまり、ヒンジ体の形状および固定状態により、止水板に浮力が作用して起立動作する途中にヒンジ体に上方に引き上げられる力が作用した場合でも、ヒンジ体を含む止水板が意図しない方向に移動することなくその位置が確実に保持されるので、ヒンジ取付板、ひいては止水板が上方に浮き上がる不安定な挙動を抑制することができる。
【0017】
請求項4の発明は、請求項3に記載の発明において、前記ヒンジ体は、補強繊維で補強されたゴム材料にて構成され、前記ヒンジ体の上壁部は、上下方向から挟持されるようにして、前記ヒンジ取付板に固定されると共に、前記ヒンジ体の下壁部は、上下方向から挟持されるようにして、支持部位に固定され、前記対向する上壁部及び下壁部は、共に開放側に向かってその厚みが次第に厚く形成されることを特徴とするものである。
【0018】
請求項4の発明では、ヒンジ体には、補強繊維で補強されたゴム材料が採用されているので、ヒンジ体における屈曲及び水密機能を合わせ持つとともに、主に補強繊維が、作用する負荷を伝達することで、ヒンジ体における意図しない大きな変形を抑制することができる。また、ヒンジ体の上壁部は、上下方向から挟持されるようにして、ヒンジ取付板に固定されると共に、下壁部は、上下方向から挟持されるようにして、ピット内の取付台等の支持部位に固定される。しかも、上壁部及び下壁部は、共に開放側に向かってその厚み次第に厚くなるように形成される。その結果、止水板の起立状態を含むそれまでの過程等において、水圧によりヒンジ体が引き抜かれる方向へ作用する負荷に対して抗する(引き抜きを抑制できる)ことができる。そして、止水板の起立状態を含むそれまでの過程等において、ヒンジ体における、意図しない大きな変形を抑制することができる。これにより、止水装置の動作時、ヒンジ体、ひいては止水板が意図しない方向に移動することなくその位置が確実に保持され、起立状態および倒伏状態の止水板の位置精度が向上し、開閉動作の確実性が向上する。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る止水装置は、浸水を止める必要がない常時は、人や車両等が出入りする通路の床面として機能して、災害などによる突発的な浸水が発生した場合には、確実に浮力により止水板が起立動作して止水すべく高い信頼性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る止水装置の全体を示し、止水板が起立した状態を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態に係る止水装置の止水板が倒伏してピット内に収容された状態を示す側面図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施形態に係る止水装置の止水板が起立した状態を示す側面図である。
【
図6】
図6は、本発明の実施形態に係る止水装置の止水板の径間方向(長手方向)端部と側部との間の水密構造を示す平面図である。
【
図7】
図7は、本発明の実施形態に係る止水装置の各止水板本体間の水密構造を示す平面図である。
【
図8】
図8は、本発明の実施形態に係る止水装置の止水板が収容されるピット内からの排水構造を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態を
図1~
図8に基づいて詳細に説明する。
本発明の実施形態に係る止水装置1は、
図1に示すように、例えば、底部3と、互いに対向する一対の側部4、4とで囲まれた通路5内に流入した水の流れを止めるものである。なお、通路5側の側部4の面には平滑な接触板7が埋設されている。接触板7についての作用は後で詳述する。
図1及び
図2に示すように、本実施形態に係る止水装置1は、水貯留区域の水位の上昇に伴って、ピット16内に各通水口蓋20を介して浸水すると、止水板10が浮力によりヒンジ体11を中心に回転、起立することで止水する構成である。
【0022】
以下の説明においては、その説明の便宜上、通路5の幅方向を径間方向と称し、径間方向に対して直交する方向を前後方向と称する。通路5内に設置された本実施形態に係る止水装置1を境として、浸水防止区域と水貯留区域とに区画される。なお、
図1では、本実施形態に係る止水装置1を境として右斜め上側が浸水防止区域となり、左斜め下側が水貯留区域となる。また、
図2~
図5では、本実施形態に係る止水装置1を境として、図の右側が浸水防止区域となり、図の左側が水貯留区域となる。
【0023】
本実施形態に係る止水装置1は、
図1及び
図2を参照して、一対の側部4、4間の径間方向全域に亘って延びる止水板10と、該止水板10を起伏自在に支持すべく、該止水板10の径間方向(長手方向)に沿って延び、弾性変形自在のヒンジ体11と、止水板10から一体的に延び、下面にヒンジ体11の上端部50(一端部)が固定されるヒンジ取付板12と、止水板10の倒伏状態から起立状態に至る過程において、ヒンジ取付板12を含むヒンジ体11の水圧方向への移動を規制すると共に、止水板10の起立状態において、ヒンジ取付板12を含むヒンジ体11の水圧方向及び鉛直方向への移動を規制するヒンジ支持手段13と、を備えている。
【0024】
図1及び
図2を参照して、止水を必要としない常時において、止水板10は、通路5の底部3に径間方向全幅に亘って設けられたピット16内に収容され、通路5として機能する。ピット16は、通路5の底部3に径間方向全幅に亘って凹設されてなるものである。ピット16の深さは、止水板10の厚さ程度とされる。ピット16内の底部18は、止水板10が倒伏して収容される際に、止水板10が均一に支持されるように平滑とされる。洪水などの浸水が発生して水貯留区域の水位が上昇した際、水貯留区域側からピット16内に確実に浸水して、止水板10に浮力が発生するように、ピット16の水貯留区域側には、径間方向に沿って、隙間のないように複数の通水口蓋20が設けられる。各通水口蓋20は、後述の各止水板本体10Aに対応して備えられる。各通水口蓋20は、通路5の床面として機能する必要があることから、前後方向の長さは必要最小限とされ、通水可能なグレーチング等が採用される。
【0025】
図1を参照して、止水板10は、経済性や品質確保の観点から、複数の止水板本体10A、10Aを互いに連結してユニット化されて構成される。止水板10の乗載荷重は、各止水板本体10A、10Aを介してピット16の底部18に安全に伝達される必要があるが、止水板本体10Aは、浮体として動作する必要もあるため、軽量化にも配慮した構造とする必要がある。そして、
図6及び
図7を参照して、止水板本体10Aには、床板22の下面に、前後方向に延びる断面コ字状のコ字状桁23を径間方向に沿って間隔を置いて複数溶接接合したコルゲート構造が採用されている。
【0026】
これにより、複数の止水板本体10A、10Aからなる止水板10は、所要の強度を確保しつつ軽量化を実現している。また、止水板10に十分な浮力が作用するように、各止水板本体10Aは、上述のコルゲート構造で形成された空間に、低比重の発泡材25が取り付けられて構成される。なお、通路5の径間方向に沿う長さ等の設置条件によっては、止水板10を止水板本体10A単体で構成することもできる。また、他の実施形態に係る止水板10では、止水板10の強度と軽量化を実現する構成として密閉のボックス構造を採用したり、十分な強度を有する低比重の樹脂材料を採用することもできる。このように、止水板本体10Aにおける具体的な構成が限定されることはない。
【0027】
図1及び
図2を参照して、各止水板本体10Aに対応して床板22がそれぞれ備えられる。床板22は、止水板10の倒伏状態において、通路5の床面として機能する。床板22は、ピット16に連続する前後方向に沿う床面に対して、通水口蓋20及び蓋部材73(後述)を介して、段差、または有害な隙間や溝のできない寸法とされている。当該床板22には、縞鋼板等のスリップ防止鋼板が採用され、通路5としての機能性を確保している。
図3を参照して、床板22には、後述するヒンジ体11側に向かって床板ヒンジ取付部が突設される。該床板ヒンジ取付部28の下面に、後述するヒンジ取付板12が固定される。該ヒンジ取付板12の端面に、後述するヒンジ支持手段13の棒状支持部材66(支持部)が固定される。
【0028】
また、
図1及び
図6を参照して、一対の側部4、4に近接する各止水板本体10A、10Aの床板22、22には、一対の側部4、4に向かって、発泡材25、25の部位からそれぞれ突設される床板シール取付部31、31が備えられる。
図6を参照して、当該床板シール取付部31の下面には、板状の水密ゴム33が取付材34によりボルト固定される。その結果、水密ゴム33の先端が側部4に埋設された接触板7に摺動自在に圧着される。この水密ゴム33により、床板22の床板シール取付部31の径間方向(長手方向)端部と、側部4との間の水密が確保される。
【0029】
なお、
図1も参照して、側部4に埋設された接触板7は、止水板10の倒伏状態から起立状態までの過程において、水密ゴム33の先端が接触板7と接触して、側部4と止水板10との間の水密が図られるような形状に形成される。また、
図7を参照して、隣接する止水板本体10A、10A間における床板22、22間の隙間35には、それを跨ぐようにして、水密ゴム36が各床板22、22の下面に取付材37により圧着される。これにより、各止水板本体10A、10Aの床板22、22間の水密が確保される。
【0030】
図2及び
図3を参照して、各止水板本体10Aには、発泡材25の上部からヒンジ体11側に延びるヒンジ取付板12が一体的に突設される。ヒンジ取付板12は、径間方向に沿って間隔を置いて複数配置される補強リブ39、39により支持される。ヒンジ取付板12は、床板22の床板ヒンジ取付部28の下面に当接して固定される。
図1、
図2及び
図4を参照して、各止水板本体10Aの上端部と、ピット16内の水貯留区域側の底部18との間には、止水板本体10Aの起立状態を保持する、伸長及び折畳自在な支持脚40が備えられている。
【0031】
支持脚40は、各止水板本体10Aに対応してそれぞれ備えられる。支持脚40は、リンク構造にて構成される。止水板本体10Aの上端部に設けられた上部ピン41に上部リンク42の一端部が回転自在に連結される。上部リンク42の他端部は、中間ピン43を介して2本の下部リンク44、44の一端に互いに回転自在に連結される。各下部リンク44、44の他端部が、ピット16の底部18で、水貯留区域側に配置された下部ピン45に回転自在に支持される。
【0032】
そして、
図2を参照して、止水板10(各止水板本体10A、10A)の倒伏状態では、止水板10の下方に、各支持脚40の上部リンク42及び各下部リンク44、44が折り畳められた状態で、各支持脚40を含む各止水板本体10Aの全体がピット16内に収容される。一方、
図4を参照して、止水板10(各止水板本体10A、10A)が最大で起立した場合には、各支持脚40の上部リンク42及び各下部リンク44、44が伸長して、止水板10の起立状態を保持することができる。そして、この起立状態における水圧の一部を、支持脚40を介して、安全にピット16に伝達することができる。なお、本実施形態では、支持脚40として、上部リンク42及び各下部リンク44、44が採用されているが、ベルト等、張力支持と収納とが両立できる他の構造を採用してもよい。
【0033】
図3及び
図5を参照すると共に適宜
図2及び
図4も参照して、各止水板本体10Aのヒンジ取付板12の下方にヒンジ体11が固定される。ヒンジ体11は、弾性変形可能であり、屈曲抵抗が少なく張力に対して十分な強度を有する材料として補強繊維入りのゴム材料が採用される。補強繊維は、ヒンジとしての屈曲性(弾性変形)を保ちながら、引張荷重を伝達するとともに引張方向の有害な伸びを抑制するためのものである。本実施形態では、例えば、補強繊維として、ナイロン繊維が採用される。加えて、柔軟なゴム材料は、ヒンジとしての屈曲性を容易として、対応するヒンジ取付板12及び後述する取付台58の取付面部61に密着することで、当該各密着部分における水密を確保するものである。本実施形態では、例えば、ゴム材料として、クロロプレインゴムが採用される。
【0034】
図3を参照して、ヒンジ体11は、止水板10の倒伏状態において、対向する上壁部50及び下壁部51と、上壁部50の端部及び下壁部51の端部に接続される鉛直壁部52とからなる縦断面コ字状に形成される。ヒンジ体11は、止水板本体10Aの径間方向(長手方向)全域に亘って延びている。ヒンジ体11は、その開放側が水貯留区域側を指向して、その閉塞側が浸水防止区域側を指向している。ヒンジ体11の上壁部50は、その厚みが開放側に向かって厚く形成される。詳しくは、止水板10の倒伏状態において、ヒンジ体11の上壁部50は、その上面が水平方向に沿って延び、その下面が開放側に向かって下方傾斜するように形成される。ヒンジ体11の上壁部50の下面には固定用上部板材55が配置される。固定用上部板材55は、止水板本体10Aの径間方向(長手方向)全域に亘って延びている。固定用上部板材55の上面は、ヒンジ体11の上壁部50の下面に接触するように、ヒンジ体11の開放側に向かって下方傾斜している。一方、固定用上部板材55の下面は、固定用下部板材56の上面に接触するように、水平方向に沿って延びている。
【0035】
ヒンジ体11の下壁部51は、その厚みが開放側に向かって厚く形成される。詳しくは、止水板10の倒伏状態において、ヒンジ体11の下壁部51は、その下面が水平方向に沿って延び、その上面が開放側に向かって上方傾斜するように形成される。ヒンジ体11の下壁部51の上面には固定用下部板材56が配置される。固定用下部板材56は、止水板本体10Aの径間方向(長手方向)全域に亘って延びている。固定用下部板材56の下面は、ヒンジ体11の下壁部51の上面に接触するように、ヒンジ体11の開放側に向かって上方傾斜している。一方、固定用下部板材56の上面は、固定用上部板材55の下面に接触するように、水平方向に沿って延びている。固定用上部板材55及び固定用下部板材56は、ヒンジ体11の上壁部50、下壁部51及び鉛直壁部52にて囲まれた範囲に互いに接触して配置される。また、ピット16内には、浸水防止区域側の底部18から取付台58が上方に向かって突設される。取付台58は、ピット16内を一対の側部4、4間の径間方向に沿って延びている。取付台58は、ピット16の底部18から上方に向かって延びる取付脚部60と、取付脚部60の上端から水貯留区域側に向かって水平方向に延びる取付面部61とからなる断面L字状に形成される。
【0036】
そして、ヒンジ体11の上壁部50は、止水板本体10Aからのヒンジ取付板12と、固定用上部板材55との間に挟持されて、上部固定ボルト63により固定される。一方、ヒンジ体11の下壁部51は、取付台58の取付面部61(支持部位)と、固定用下部板材56との間に挟持されて、下部固定ボルト64により固定される。そして、
図4及び
図5を参照して、水貯留区域の水位の上昇に伴うピット16内への浸水により、止水板10(各止水板本体10A、10A)に浮力が作用すると、止水板10は、ヒンジ体11を中心に時計回り方向に回転することで、ピット16内から起立することができる。このとき、ヒンジ体11の上壁部50は、下壁部51から離れるように屈曲して、弾性変形することになる。また、止水板10の起立動作に伴って、各支持脚40の上部リンク42及び各下部リンク44、44が伸長して、止水板10の起立状態を保持する。
【0037】
このように、ヒンジ体11の上壁部50と下壁部51とがそれぞれ固定部位とされ、鉛直壁部52が非固定部となることで、ヒンジ体11の回転自由度が確保されるとともに、起立動作時における止水板10の上方向への変位がヒンジ体11の鉛直壁部52により拘束され、止水板10に作用する浮力による上方への負荷を支持する構造とされる。一方、止水板10が倒伏してピット16内に収容された際には、ヒンジ体11にも床板22(通路5の床面)からの負荷が作用する。そこで、ヒンジ体11が配置される部分は、床板22の床板ヒンジ取付部28と、取付台58の取付面部61との間に、ヒンジ取付板12、ヒンジ体11、固定用上部板材55及び固定用下部板材56が互いに上下方向に沿って密着した配置となっている。そして、これらは、互いに上下方向に沿って密着した状態で取付台58により支持されるので、床板22からヒンジ体11に伝達される負荷は、取付台58を介して確実にピット16に伝達される。このように、止水板10の倒伏状態では、止水板10ががたつくことのない耐久性の高い構成とされる。
【0038】
図3を参照して、ヒンジ取付板12の端面と、ヒンジ体11の鉛直壁部52の浸水防止区域側の面と、取付台58の取付脚60の浸水防止区域側の面とは、上下方向に沿う略同一平面上に位置する。ピット16内において、ヒンジ体11の鉛直壁部52より浸水防止区域側の空間にヒンジ支持手段13が配置される。この空間は、ピット16内のドレン溝75(後述)としても機能する。このように、ヒンジ体11の縦断面視形状がコ字状に形成されることで、ピット16内の、ヒンジ体11よりも浸水防止区域側に空間を適宜備えることができ、この空間にヒンジ支持手段13をコンパクト配置することができる。
【0039】
ヒンジ支持手段13は、止水板10の倒伏状態から起立状態に至る過程において、ヒンジ取付板12を含むヒンジ体11の水圧方向への移動を規制すると共に、止水板10の起立状態において、ヒンジ取付板12を含むヒンジ体11の水圧方向及び鉛直方向への移動を規制するものである。詳しくは、ヒンジ支持手段13は、ヒンジ取付板12の端面から一体的に延び、止水板10の起伏動作に伴って、略上下方向に沿って移動する、止水板10の径間方向(長手方向)に沿って延びる棒状支持部材66と、該棒状支持部材66が収容され、該棒状支持部材66の移動範囲を規定する切欠き溝部69を有し、止水板10の径間方向(長手方向)に沿って間隔を置いて複数立設される板状支持部材67と、を備えている。なお、棒状支持部材66が支持部に相当する。
【0040】
棒状支持部材66は、断面円形状に形成される。棒状支持部材66は、各止水板本体10Aの径間方向(長手方向)全域に亘って延びている。棒状支持部材66は、ヒンジ取付板12の厚みよりも大径に形成される。棒状支持部材66は、その外周面がヒンジ取付板12の端面に当接して固定される。棒状支持部材66は、止水板10の倒伏状態では、その上端(外周面)が床板22の床板ヒンジ取付部28の上面に一致する位置に配置される。棒状支持部材66は、止水板10の起伏動作に伴って、ヒンジ取付板12の回動動作により、略上下方向に沿って移動する。なお、本実施形態では、棒状支持部材66の外周面がヒンジ取付板12の端面に固定されて構成されているが、棒状支持部材66の代わりに、ヒンジ取付面12の端面を、棒状支持部材66の外周面に沿った円弧面に形成して、当該円弧面部を支持部として機能させてもよい。また、本実施形態では、棒状支持部材66の外周面がヒンジ取付板12の端面に固定されて構成されているが、止水板10の倒伏動作に伴って、棒状支持部材66の外周面がヒンジ取付板12の端面に常時当接した状態で、棒状支持部材66が略上下方向に沿って移動できるように、棒状支持部材66を弾性支持する形態を採用してもよい。板状支持部材67は、ヒンジ体11の鉛直壁部52よりも浸水防水区域側の空間に立設される。板状支持部材67は、各止水板本体10Aの径間方向(長手方向)に沿って間隔を置いて複数立設される。板状支持部材67の水貯留区域側の端面は、ヒンジ体11の鉛直壁部52及び取付台58の取付脚60に当接される。
【0041】
板状支持部材67には、ヒンジ取付板12の端面と対向する位置に側面視略L字状の切欠き溝部69が形成される。切欠き溝部69の水平方向に沿う長さは、棒状支持部材66の外径と略一致する。止水板10の起伏動作に伴って、切欠き溝部69内に棒状支持部材66が略上下方向に沿って移動する構成となる。切欠き溝部69の高さは、止水板10が最大で起立した際に、棒状支持部材66の外周面が切欠き溝部69の底面に到達すべく高さに設定される。板状支持部材67には、その下部で、浸水防止区域側に扇状のドレン切欠き溝71が形成される。各板状支持部材67の上端には、各板状支持部材67間の隙間を上方から塞ぐためのL字状の蓋部材73(L字状アングル材)が配置されている。床板22の床板ヒンジ取付部28の端部に並ぶ棒状支持部材66と蓋部材73との間の隙間は、極小であり無視できる程度の大きさである。床板22の床板ヒンジ取付部28の上面と、棒状支持部材66の上端面(外周面)と、蓋部材73の上面とは、水平方向に沿う略同一平面上に位置して、段差等は無い。
【0042】
そして、
図2及び
図3を参照して、止水板10が倒伏状態でピット16内に収容されている際には、ヒンジ取付板12の端面に固定された棒状支持部材66の上端が、床板ヒンジ取付部28の上面と一致する位置で、且つ各板状支持部材67の切欠き溝部69の上端に位置する。その結果、ヒンジ体11(ヒンジ取付板12)を含む止水板10のピット16内における前後方向の移動が規制される。また、
図3及び
図5を参照して、止水板10の倒伏状態から起立状態に至る過程では、止水板10がヒンジ体11を中心に回転して起立し始めると、床板22及びヒンジ取付板12が水平状態から傾斜するように移動することで、ヒンジ取付板12の端面に固定された棒状支持部材66が板状支持部材67の切欠き溝部69内を下方に向かって、ヒンジ体11の鉛直壁部52に接触しながら移動する。その結果、止水板10の倒伏状態から起立状態に至る過程において、ヒンジ取付板12を含むヒンジ体11の水圧方向(略水平方向または前後方向)への移動が規制される。
【0043】
さらに、
図4及び
図5を参照して、止水板10が最大の起立状態に到達した際には、棒状支持部材66が、各板状支持部材67の切欠き溝部69内でその底面に接触すると共に、ヒンジ体11の鉛直壁部52に接触した状態となる。その結果、止水板10の最大の起立状態では、ヒンジ取付板12を含むヒンジ体11の水圧方向(略水平方向または前後方向)及び鉛直方向への移動が規制される。このように、ヒンジ支持手段13により、止水板10の倒伏状態から起立状態に至る過程、及び止水板10の起立状態において、ヒンジ取付板12を含むヒンジ体11が意図しない方向に移動(変位)することなくその位置を確実に保持することができる。また、ヒンジ支持手段13により、ヒンジ取付板12を含むヒンジ体11への負荷を確実にピット16に伝達することができる。しかも、複数の板状支持部材67は、ヒンジ体11に加えて、取付台58の取付脚60にも接触して配置されているので、止水板10の倒伏状態から起立状態に至る過程、及び止水板10の起立状態において、各板状支持部材67により、取付台58の取付脚60の水圧方向への変形をも抑制することができる。その結果、上述しているように、ヒンジ取付板12を含むヒンジ体11の水圧方向及び鉛直方向への移動を確実に規制することができる。
【0044】
また、水貯留区域の水位が下がり、それに伴って、ピット16内の水位が下がると、止水板10への浮力が次第に低下する。すると、止水板10は、
図4において、ヒンジ体11を中心に反時計周り方向に回転すると共に、各支持脚40の上部リンク42及び各下部リンク44、44が折り畳められることで、ピット16内に倒伏した状態で収容される。このとき、ヒンジ体11は、その上壁部50が初期位置(止水板10の倒伏状態)に戻るように復元すると共に、棒状支持部材66が各板状支持部材67の切欠き溝部69内を上方に向かって移動し、初期位置に戻る(
図2及び
図3の状態)。その結果、上述したように、通常通り、止水板10の床板22が通路5の床面として機能して、その状態が維持される。
【0045】
なお、
図3、
図5及び
図8を参照して、上述したように、ピット16内において、ヒンジ支持手段13が配置されている空間がドレン溝75として機能する。すなわち、当該ドレン溝75は、ピット16内の、取付台58の取付脚60から浸水防止区域側のドレンとして機能する。上述したように、ヒンジ支持手段13の各板状支持部材67には、その通水の妨げとならないようにドレン切欠き溝71がそれぞれ形成される。このピット16内のドレン溝75は、浸水防止区域側における雨水の処理や、止水板10からの少量の漏水などのドレンに対処するためのものである。また、ドレン溝75は、棒状支持部材66と蓋部材73との間の隙間から侵入する極小のごみに対して、十分なスペースを確保して、ごみがドレン溝75内に詰まることのなく、ドレン溝75に沿って排出されるように配慮されている。
【0046】
図8を参照して、止水板10から浸水防止区域側の床面には、ピット16内のドレン溝75からドレン管77を経由して集水して、排水し易いようにドレンピット76が設けられている。一方、ピット16内であって、取付台58の取付脚60よりも水貯留区域側の領域と、水貯留区域とを連通するように排水管78が備えられる。排水管78は、ピット16の底部18付近から水貯留区域に向かって延びている。なお、排水管78を、水貯留区域に向かって下方傾斜させてもよい。そして、ピット16内へ浸水後、水貯留区域の水位の低下が進んだ場合、この排水管78により、ピット16内から水貯留区域側への排水が促進される。これにより、水貯留区域の水位を、ピット16内の水位として正確に置換させることができ、水貯留区域の水位の低下に伴って、遅延することなく適切に止水板10をピット16内に倒伏させることができる。
【0047】
以上説明したように、本実施形態に係る止水装置1では、柔軟な弾性変形自在のヒンジ体11が採用され、当該ヒンジ体11は、補強繊維で補強されたゴム材料にて構成されているので、止水板10の回転抵抗が少なく、通路5からの負荷や水圧等によるヒンジ体11の意図しない大きな変形により、動作不良が発生することを抑制することができる。言い換えれば、ヒンジ体11には、補強繊維で補強されたゴム材料が採用されているので、ヒンジ体11としての屈曲及び水密機能を備えると共に、通路5からの負荷や水圧等を主に補強繊維を介してピット16に伝達することができ、ヒンジ体11における意図しない大きな変形を抑制することができる。
【0048】
また、本実施形態に係る止水装置1において、止水板10は、コルゲート構造を採用しているので、倒伏状態において通路5の一部として機能する十分な強度を有すると共に、止水板10には、複数の低比重の発泡材25を採用して軽量化されているので、ピット16内に浸水した際、止水板10を浮力により自動的に起立させることができる。さらに、ヒンジ体11は、止水板10のヒンジ取付板12の下面に取付けられているので、倒伏時に通路5として機能する際に、通路5の床面としての止水板10の上面が平滑面となり、通行の障害となる溝などの凸凹を構成する部分がなく好適である。
【0049】
さらに、本実施形態に係る止水装置1は、ヒンジ支持手段13を備えているので、止水板10の倒伏状態から起立状態に至る過程においては、ヒンジ取付板12を含むヒンジ体11の水圧方向(略水平方向及び前後方向)への移動が規制されると共に、止水板10の最大の起立状態では、ヒンジ取付板12を含むヒンジ体11の水圧方向及び鉛直方向への移動が規制される。
【0050】
これにより、ヒンジ取付板12を含むヒンジ体11に伝達される水圧方向、及び起立状態にあっては水圧方向(略水平方向)及び鉛直方向下方への負荷は、止水板10のヒンジ取付板12とヒンジ支持手段13との接触を介してピット16に安全に伝達される。言い換えれば、止水板10の倒伏状態から起立状態に至る過程、及び止水板10の最大の起立状態時、ヒンジ取付板12を含むヒンジ体11、ひいては止水板10が意図しない方向に移動することなくその位置が確実に保持され、起立状態及び倒伏状態の止水板10の位置精度が向上し、開閉動作の確実性が向上する。
【0051】
すなわち、止水板10の起立状態においては、ヒンジ体11には、鉛直方向下向きの成分の力(圧縮力)が大きく作用する。このために、ヒンジ体11単体による支持では、止水板10が下方に変位して適切に止水板10の位置が保持できないが、本実施形態に係る止水装置1では、ヒンジ支持手段13を備えていることにより、特に、止水板10の起立状態において、ヒンジ体11、ひいては止水板10の下方への移動が規制される。これにより、ヒンジ体11、ひいては止水板10が意図しない方向に移動することなくその位置が確実に保持され、特に、起立状態の止水板10の位置精度が向上する。
【0052】
さらにまた、本実施形態に係る止水装置1に採用したヒンジ支持手段13は、ヒンジ取付板12の端面に固定され(端面から一体的に延び)、止水板10の起伏動作に伴って、略上下方向に沿って移動する、止水板10の径間方向(長手方向)に沿って延びる棒状支持部材66(支持部)と、該棒状支持部材66が収容され、該棒状支持部材66の移動範囲を規定する切欠き溝部69を有し、止水板10の径間方向(長手方向)に沿って間隔を置いて複数立設される板状支持部材67と、を備えている。
【0053】
これにより、止水板10の倒伏状態から起立状態に至る過程では、ヒンジ取付板12の端面に固定される棒状支持部材66が、各板状支持部材67の切欠き溝部69内を、該切欠き溝部69に沿って下方に移動するので、ヒンジ取付板12を含むヒンジ体11の水圧方向への移動を規制することができる。また、止水板10の起立状態では、ヒンジ取付板12の端面に固定される棒状支持部材66が、各板状支持部材67の切欠き溝部69内でその底面に接触するので、ヒンジ取付板12を含むヒンジ体11の、水圧方向への移動に加え、鉛直方向への移動も規制することができる。
【0054】
さらにまた、本実施形態に係る止水装置1に採用されたヒンジ体11は、止水板10の倒伏状態にて、縦断面視コ字状に形成される。また、ヒンジ体11は、開放側が水貯留区域に指向するように、ヒンジ取付板12の下方に配置されている。その結果、従来(特に特許文献2に記載の下部止水ゴム板)のように、通路5の砂や埃等の異物が起因とされるヒンジ体11の動作不良等の問題を解消することができる。また、縦断面視コ字状に形成されたヒンジ体11は、ヒンジ取付板12の下方に配置されているので、ピット16内において、ヒンジ体11の浸水防止区域側に有効な空間を備えることができ、当該空間にヒンジ支持手段13をコンパクトに配置することができる。
【0055】
さらにまた、本実施形態に係る止水装置1において、ヒンジ体11は、その上壁部50が床板22のヒンジ取付板12にボルト固定されると共に、その下壁部51がピット16内の取付台58の取付面部61(支持部位)にボルト固定されて支持されるので、起立状態に至る過程における止水板10の上方への変位に対して、ヒンジ体11の鉛直壁部52が抗するようになる。つまり、ヒンジ体11の形状および固定状態により、止水板10に浮力が作用して起立動作する途中にヒンジ体11に上方に引き上げられる力が作用した場合でも、ヒンジ体11を含む止水板10が意図しない方向に移動することなくその位置が保持されるので、ヒンジ取付板12、ひいては止水板10が上方に浮き上がる不安定な挙動を抑制することができる。
【0056】
さらにまた、本実施形態に係る止水装置1において、ヒンジ体11の上壁部50は、開放側に向かってその厚みが次第に厚く形成される。また、当該上壁部50は、ヒンジ取付板12と固定用上部板材55とに挟持されるようにして、ヒンジ取付板12に固定される。一方、ヒンジ体11の下壁部51は、開放側に向かってその厚みが次第に厚く形成される。また、当該下壁部51は、取付台58の取付面部61と固定用下部板材56とに挟持されるようにして、取付面部61に固定される。その結果、止水板10の起立状態を含むそれまでの過程等において、水圧によりヒンジ体11が引き抜かれる方向へ作用する負荷に対して抗することができる。これにより、止水装置1の動作時、ヒンジ体11、ひいては止水板10が意図しない方向に移動することなくその位置が確実に保持され、起立状態及び倒伏状態の止水板10の位置精度がさらに向上し、開閉動作の確実性がさらに向上する。
【0057】
そして、本実施形態に係る止水装置1では、上述した特有の作用効果を奏することができ、その結果として、浸水を止める必要がない常時は、人や車両等が出入りする通路5の床面として十分に機能して、災害などによる突発的な浸水が発生した場合には、確実に浮力により止水板10が起立動作して止水すべく高い信頼性を得ることができる。
【符号の説明】
【0058】
1 止水装置,10 止水板,11 ヒンジ体,12 ヒンジ取付板,13 ヒンジ支持手段,50 上壁部(一端部),51 下壁部,58 取付台,61 取付面部(支持部位),66 棒状支持部材(支持部),67 板状支持部材,69 切欠き溝部