(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023148805
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】クレーン
(51)【国際特許分類】
B66C 13/23 20060101AFI20231005BHJP
B66C 23/00 20060101ALI20231005BHJP
B66D 1/44 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
B66C13/23 E
B66C23/00 B
B66D1/44 D
B66D1/44 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022057043
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】503032946
【氏名又は名称】住友重機械建機クレーン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】弁理士法人武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 格
【テーマコード(参考)】
3F204
3F205
【Fターム(参考)】
3F204AA04
3F204BA09
3F205AA07
(57)【要約】
【課題】複数のウインチの同調性を改善させる。
【解決手段】第1ウインチ(7)と、第1ウインチを駆動する可変容量式の第1油圧モータ(131)と、第2ウインチ(6)と、第2ウインチを駆動する可変容量式の第2油圧モータ(31)と、第1油圧モータ及び第2油圧モータに圧油を供給する油圧ポンプ(130)と、を備えたクレーンにおいて、第1ウインチが停止状態から動作を開始した時には、第1所定時間に亘って、操作者により指示された第1ウインチの回転速度に関わらず、第1油圧モータのモータ傾転を時間の経過に伴って大傾転から小傾転に徐々に変化させる第1制御を行い、第2ウインチが停止状態から動作を開始した時には、第2所定時間に亘って、操作者により指示された第2ウインチの回転速度に関わらず、第1油圧モータのモータ傾転を時間の経過に伴って大傾転から小傾転に徐々に変化させる第2制御を行う。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ウインチと、前記第1ウインチを駆動する可変容量式の第1油圧モータと、
第2ウインチと、前記第2ウインチを駆動する可変容量式の第2油圧モータと、
前記第1油圧モータ及び前記第2油圧モータに圧油を供給する油圧ポンプと、を備えたクレーンにおいて、
前記第1ウインチが停止状態から動作を開始した時には、
第1所定時間に亘って、操作者により指示された前記第1ウインチの回転速度に関わらず、前記第1油圧モータのモータ傾転を時間の経過に伴って大傾転から小傾転に徐々に変化させる第1制御を行い、
前記第2ウインチが停止状態から動作を開始した時には、
第2所定時間に亘って、前記操作者により指示された前記第2ウインチの回転速度に関わらず、前記第1油圧モータのモータ傾転を時間の経過に伴って大傾転から小傾転に徐々に変化させる第2制御を行うことを特徴とするクレーン。
【請求項2】
請求項1に記載のクレーンにおいて、
パイロット圧によって作動し、前記第1油圧モータのモータ傾転を制御する第1スプールと、
前記パイロット圧によって作動し、前記第2油圧モータのモータ傾転を制御する第2スプールと、
パイロット油圧源と、
前記パイロット油圧源と前記第1スプールとの間に設けられ、前記パイロット油圧源から前記第1スプールに供給される前記パイロット圧を制御する第1電磁比例弁と、
前記パイロット油圧源と前記第2スプールとの間に設けられ、前記パイロット油圧源から前記第2スプールに供給される前記パイロット圧を制御する第2電磁比例弁と、を備え、
前記第1電磁比例弁は、前記第1所定時間に亘って、前記第1油圧モータのモータ傾転が時間の経過に伴って前記大傾転から前記小傾転に徐々に変化するように、前記パイロット圧を制御し、
前記第2電磁比例弁は、前記第2所定時間に亘って、前記第2油圧モータのモータ傾転が時間の経過に伴って前記大傾転から前記小傾転に徐々に変化するように、前記パイロット圧を制御することを特徴とするクレーン。
【請求項3】
請求項1または2に記載のクレーンにおいて、
前記第1制御及び前記第2制御は、前記第1ウインチ及び前記第2ウインチが少なくとも同一方向に操作された場合に行うことを特徴とするクレーン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーンに関する。
【背景技術】
【0002】
クレーンでは、多数のアクチュエータを同時に高速駆動するため、油圧ポンプから吐出される圧油を、上流側の油圧モータから下流側の油圧モータへと順次直列に供給するシリーズ回路(油圧回路)を採用する場合がある。この種のクレーンの油圧回路において、油圧モータの負荷による圧力が設定圧を超えた場合には、油圧モータを大傾転に制御して、圧力を抑えるようにする場合がある(例えば、特許文献1参照)。また、ウインチのモータ傾転は、操作レバーの操作量に合わせて大傾転状態から小傾転状態へ可変する構成としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
油圧モータに搭載される容量制御装置には絞りが内蔵される場合があり、2つの油圧モータの間に圧力差がある場合、絞りの通過流量に差が生じることで、モータ容量の可変速度の差となり、結果としてウインチの駆動開始時の回転が同調しにくくなるという課題があった。
【0005】
本発明はこの点を鑑み、複数のウインチを同時に駆動開始した場合において、回転動作の同調性を改善させたクレーンを提供することを目的として考案された。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、代表的な本発明は、第1ウインチと、前記第1ウインチを駆動する可変容量式の第1油圧モータと、第2ウインチと、前記第2ウインチを駆動する可変容量式の第2油圧モータと、前記第1油圧モータ及び前記第2油圧モータに圧油を供給する油圧ポンプと、を備えたクレーンにおいて、前記第1ウインチが停止状態から動作を開始した時には、第1所定時間に亘って、操作者により指示された前記第1ウインチの回転速度に関わらず、前記第1油圧モータのモータ傾転を時間の経過に伴って大傾転から小傾転に徐々に変化させる第1制御を行い、前記第2ウインチが停止状態から動作を開始した時には、第2所定時間に亘って、前記操作者により指示された前記第2ウインチの回転速度に関わらず、前記第1油圧モータのモータ傾転を時間の経過に伴って大傾転から小傾転に徐々に変化させる第2制御を行うことを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、複数のウインチを同時に駆動した場合において、各ウインチの回転動作の同調性を改善させることができる。なお、上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係るクレーンの側面図である。
【
図2】クレーンの油圧回路の全体構成を示す概略図である。
【
図3】主巻ウインチの駆動装置の全体構成図(油圧回路図)である。
【
図4】油圧モータのモータ傾転制御の処理手順を示すフローチャートである。
【
図5】操作レバーの操作量と電磁比例弁に出力する電流指令値との関係を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係るクレーンの実施形態について、図面を参照して説明する。
【0010】
図1は、本発明の実施形態に係るクレーンの側面図である。
図1に示すクレーン1は、クローラクレーンであり、走行体2と、旋回装置3を介して走行体2上に旋回可能に搭載された旋回体4と、旋回体4の先端部に起伏可能に取り付けられたブーム5と、ブーム5の先端に設けられたシーブ10,11及びシーブ17,18とを有している。シーブ10及びシーブ17を経由した主巻ロープ12と、シーブ11及びシーブ18を経由した補巻ロープ13とによって、アタッチメントの一例であるバケット16が吊り下げられている。
【0011】
なお、旋回体4にはキャブ9が設けられており、オペレータはキャブ9内で操作レバー25,26等(後述)を操作して、クレーン1の吊り荷作業や掘削作業を行う。ちなみに、操作レバー25,26は、非操作状態では中立位置にあり、低速と高速の2段階の操作が可能である。そして、オペレータが所定の方向に操作レバー25,26を傾けることで、所望の操作が可能となる。
【0012】
主巻ロープ12、補巻ロープ13は旋回体4に搭載された主巻ウインチ(第2ウインチ)6、補巻ウインチ(第1ウインチ)7にそれぞれ巻回され、各ウインチ6,7の駆動によって各ロープ12,13が巻き取りまたは繰り出されて、吊り荷が昇降する。そして、バケット16を主巻ロープ12及び補巻ロープ13で吊り下げて、主巻ウインチ6と補巻ウインチ7とを同時に駆動することで、バケット16を巻上げまたは巻下げることができる。詳しくは後述するが、主巻ウインチ6と補巻ウインチ7の回転動作の同調性を高めるために、モータ傾転制限制御が行われる(
図4参照)。
【0013】
なお、ブーム5の先端部にはペンダントロープ14が接続されており、旋回体4に搭載された起伏ウインチ8の駆動により起伏ロープ15が巻き取りまたは繰り出されると、ペンダントロープ14を介してブーム5が起伏される。
【0014】
図2は、クレーン1の油圧回路の全体構成を示す概略図である。
図2に示すように、クレーン1は、主巻ウインチ6を駆動する油圧モータ(第2油圧モータ)31、補巻ウインチ7を駆動する油圧モータ(第1油圧モータ)131の他に、起伏ウインチ8を駆動する油圧モータ231、走行用の油圧モータ331,431、及び旋回モータ(図示せず)を備えている。各油圧モータ31,131,231,331,431は、油圧ポンプ30及び/または油圧ポンプ130から供給される圧油によって駆動される。なお、油圧ポンプ30,130は何れも可変容量式であり、例えば斜板式のピストンポンプである。また、油圧モータ31,131,231,331,431も可変容量式のものが用いられている。
【0015】
油圧モータ31,131,431は、油圧ポンプ30に対して直列的に接続されてシリーズ回路S1を構成する。具体的には、油圧ポンプ30に対して圧油の流れの上流側から順に、走行用の油圧モータ431、補巻ウインチ7用の油圧モータ131、主巻ウインチ6用の油圧モータ31が、それぞれ方向制御弁432,132-1,32を介してセンター管路L1上に直列に配置されている。
【0016】
油圧ポンプ30から吐出された圧油は、センター管路L1を流れて、まず、油圧モータ431に流入する。油圧モータ431から流出した圧油は、次に油圧モータ131に流入する。油圧モータ131から流出した圧油は、次に油圧モータ31へと流入し、油圧モータ31から流出した圧油は、タンク34に戻る。このように、シリーズ回路S1は、1つの油圧ポンプ30によって、油圧モータ431,131,31に順番に圧油を供給して、3つの油圧モータを駆動できる。
【0017】
同様に、油圧モータ31,131,231,331は、油圧ポンプ130に対して直列的に接続されてシリーズ回路S2を構成する。具体的には、油圧ポンプ130に対して圧油の流れの上流側から順に、走行用の油圧モータ331、起伏ウインチ8用の油圧モータ231、補巻ウインチ7用の油圧モータ131、主巻ウインチ6用の油圧モータ31が、それぞれ方向制御弁332,232,132,32-1を介してセンター管路L2上に直列に配置されている。
【0018】
油圧ポンプ130から吐出された圧油は、センター管路L2を流れて、まず、油圧モータ331に流入する。油圧モータ331から流出した圧油は、次に油圧モータ231に流入する。油圧モータ231から流出した圧油は、次に油圧モータ131へと流入する。油圧モータ131から流出した圧油は、次に油圧モータ31に流入する。油圧モータ31から流出した圧油は、タンク34に戻る。このように、シリーズ回路S2は、1つの油圧ポンプ130によって、油圧モータ331,231,131,31に順番に圧油を供給して、4つの油圧モータを駆動できる。
【0019】
なお、
図2において、補巻ウインチ7用の油圧モータ131が主巻ウインチ6用の油圧モータ31よりも油圧ポンプ30及び油圧ポンプ130に対してそれぞれ上流側に設けられているが、両者の位置は逆でも良い。また、走行用の油圧モータ431と、補巻ウインチ7用の油圧モータ131と、主巻ウインチ6用の油圧モータ31とを油圧ポンプ30に対して並列に接続しても良く、同様に、走行用の油圧モータ331と、起伏ウインチ8用の油圧モータ231と、補巻ウインチ7用の油圧モータ131と、主巻ウインチ6用の油圧モータ31とを油圧ポンプ130に対して並列に接続しても良い。つまり、油圧回路はシリーズ回路でもパラレル回路でも構わない。また、油圧ポンプ30,130と、油圧モータ31,131,231,331,431との組み合わせは任意であり、主巻ウインチ6用の油圧モータ31と補巻ウインチ7用の油圧モータ131とを入れ換えても良い。
【0020】
さらに、本実施形態では、シリーズ回路S1とシリーズ回路S2とを合流させる合流回路M1,M2が設けられている。
【0021】
合流回路M1は、油圧ポンプ30から油圧モータ31へ圧油を供給するメイン管路37,38に対して油圧ポンプ130からの圧油を合流させるための回路であって、管路71,72を備える。管路71はメイン管路37と、管路72はメイン管路38とそれぞれ接続されており、油圧ポンプ130からの圧油が、管路71,72を介して油圧モータ31へ供給可能となっている。よって、油圧モータ31を、2つの油圧ポンプ30,130によって駆動できる。
【0022】
合流回路M2は、油圧ポンプ130から油圧モータ131へ圧油を供給するメイン管路137,138に対して油圧ポンプ30からの圧油を合流させるための回路であって、管路171,172を備える。管路171はメイン管路137と、管路172はメイン管路138とそれぞれ接続されており、油圧ポンプ30からの圧油が、管路171,172を介して油圧モータ131へ供給可能となっている。よって、油圧モータ131を、2つの油圧ポンプ30,130によって駆動できる。
【0023】
また、シリーズ回路S1では、回路内の圧力を制限するために、油圧ポンプ30と方向制御弁432との間の位置にリリーフ弁35が設けられている。また、油圧ポンプ30と方向制御弁432との間のセンター管路L1上には、回路内の圧力を検出するための圧力検出器65が設けられている。圧力検出器65にて検出された圧力データは、コントローラ60(
図3参照)に入力される。シリーズ回路S2も同様に、リリーフ弁36及び圧力検出器66を備えている。なお、圧力検出器65の位置は、シリーズ回路S1の回路圧を適切に検出できれば何れの位置であって良く、例えば、油圧ポンプ30内部の圧力を検出するようにしても良いし、油圧モータ31,131内部の圧力を検出しても良い。圧力検出器66についてもシリーズ回路S2の回路圧を適切に検出できれば、その位置は問わない。
【0024】
次に、油圧モータと方向制御弁との間の油圧回路の構成の詳細について、主巻ウインチ6を駆動する油圧モータ31の油圧回路を例に挙げて説明する。
【0025】
図3は、主巻ウインチ6の駆動装置の全体構成図(油圧回路図)である。
図3に示すように、主巻ウインチ6の駆動装置は、可変容量式の油圧ポンプ30と、一対のメイン管路37,38を介して供給される油圧ポンプ30からの圧油によって駆動する可変容量式の油圧モータ(第2油圧モータ)31と、油圧ポンプ30から油圧モータ31への圧油の流れを制御する方向制御弁32と、方向制御弁32と油圧モータ31の間に介装されるカウンターバランス弁33と、ポンプ吐出圧を制限するリリーフ弁35(
図2参照)と、主巻ウインチ6の駆動を指令する電気式の操作レバー25と、油圧モータ31のモータ容量(モータ傾転、モータ吸収量ともいう)を制御するモータ容量制御装置40と、を備える。
【0026】
油圧モータ31の出力軸と主巻ウインチ6のドラム6aとは連結しており、油圧モータ31の回転に連動してドラム6aが回転し、主巻ロープ12が巻き取りまたは繰り出される。なお、油圧ポンプ30は、旋回体4内に設けられたエンジン(図示せず)により駆動される。また、油圧ポンプ30のポンプ容量は、いわゆる馬力制御によりポンプ吐出圧に応じて制御され、油圧モータ31についても同様に馬力制御によりモータ容量が制御されている。
【0027】
操作レバー25からの操作信号は、コントローラ60を介して電磁切換弁55,56に入力される。電磁切換弁55,56は、常態では位置P1の状態である。オペレータが操作レバー25を操作すると、コントローラ60から電磁切換弁55,56に操作信号が入力され、電磁切換弁55,56は位置P1から位置P2に切り換わる。そうすると、油圧源であるパイロットポンプ47からの圧油(パイロット圧)が、方向制御弁32の受圧部32aまたは受圧部32bに導入され、方向制御弁32が位置A0から位置A1または位置A2に切り換わる。方向制御弁32が位置A1に切り換わると、主巻ウインチ6が巻上げられ、方向制御弁32が位置A2に切り換わると、主巻ウインチ6は巻下げられる。なお、
図3において、符号E1~E5は電気配線を示している。
【0028】
ここで、電気式の操作レバー25の代わりに、油圧式の操作レバーを用いても良い。この場合、油圧源からのパイロット圧を油圧式の操作レバーの操作により直接、方向制御弁32の受圧部32a,32bに導入すれば良い。また、方向制御弁32の代わりに電磁比例式の方向制御弁を用いても良い。この場合、パイロット圧を方向制御弁に導入する必要がないため、油圧配管を簡素化できる。
【0029】
主巻ウインチ6の巻上げ速度及び巻下げ速度は、モータ容量制御装置40によって制御される。モータ容量制御装置40は、油圧モータ31のモータ傾転を変化させるための装置であり、具体的には以下のように構成される。
【0030】
油圧モータ31には斜板の角度(モータ傾転)を変化させるピストン41が設けられている。ピストン41の一方の油室41aにはメイン管路38の圧油が導入され、他方の油室41bにはメイン管路38の圧油が制御弁である負荷圧力制御スプール42、制御弁である傾転制御スプール44(第2スプール)、及び絞り50を介して導入される。油室41b内のピストン径は油室41a内のピストン径よりも大きい。
【0031】
したがって、油室41aに導入される圧油の圧力にピストン断面積を乗じた値Xと、油室41bに導入される圧油にピストン断面積を乗じた値Yとの大小関係により、ピストン41は、a方向またはb方向に移動する。具体的には、値X>値Yのとき、ピストン41はa方向に移動してモータ傾転が大きくなる。その結果、油圧モータ31の回転速度が小さくなる(遅くなる)。一方、値X<値Yのとき、ピストン41はb方向に移動してモータ傾転が小さくなる。その結果、油圧モータ31の回転速度が大きくなる(速くなる)。
【0032】
負荷圧力制御スプール42は、ピストン43を備える。ピストン43の一方の油室43aにはメイン管路38の圧油が導入され、他方の油室43bにはメイン管路37の圧油が導入される。油室43aに作用する力と油室43bに作用する力の差と、ばね42aの付勢力とのバランスにより、負荷圧力制御スプール42は、位置B0から位置B1または位置B2に切り換わる。
【0033】
傾転制御スプール44は、ピストン45を備える。ピストン45の油室45aには固定容量式のパイロットポンプ47からの圧油(パイロット圧)が電磁比例弁46(第2電磁比例弁)を介して導入される。パイロットポンプ47は、図示しないエンジンによって駆動される。なお、電磁比例弁46の開度はコントローラ60からの制御信号に応じて制御される。油室45aに作用する力とばね44aの付勢力とのバランスにより、傾転制御スプール44は、位置C0から位置C1または位置C2に切り換わる。
【0034】
負荷圧力制御スプール42が位置B1、かつ、傾転制御スプール44が位置C1に切り換わると、メイン管路38からの圧油が管路51を流れて、油室41bに導入される。なお、管路51には絞り50が設けられおり、油室41bに急激な流量の圧油が供給されないよう、圧油の流量が制限されている。
【0035】
一方、傾転制御スプール44が位置C2に切り換わると、油室41bとタンク34とが連通し、油室41b内の圧油がタンク34に戻る。
【0036】
なお、負荷圧力制御スプール42が位置B0、かつ、傾転制御スプール44が位置C0に切り換わると、モータ傾転が安定する。
【0037】
ここで、図示は省略するが、補巻ウインチ7用の油圧モータ(第1油圧モータ)131についても上記と同様の回路構成となっており、操作レバー26を操作することで補巻ウインチ7の油圧モータ131が回転し、補巻ウインチ7の油圧モータ131用のモータ容量制御装置140によって、油圧モータ131のモータ傾転が制御される。より詳細には、コントローラ60からの操作指令に応じて電磁比例弁146(第1電磁比例弁)が傾転制御スプール144(第1スプール)に作用するパイロット圧を制御し、モータ傾転を変化させる。そして、操作レバー25と操作レバー26とを同時に操作することで、バケット16を巻上げまたは巻下げて、掘削作業を行うことができる。また、その他の油圧モータ231,331,431についても概ね同様の構成により駆動されるが、このこと自体は公知であるため、ここでの説明は省略する。
【0038】
次に、
図2に示すクレーン1の油圧回路の動作について説明する。
【0039】
(低速巻上げ操作)
オペレータが主巻ウインチ6用の操作レバー25を低速(1段目)に入れて巻上げ操作すると、方向制御弁32(低速用)が位置A0から位置A1に切り換わる。すると、油圧ポンプ30から吐出された圧油がメイン管路38を流れて油圧モータ31に流入し、油圧モータ31を低速で回転させる。油圧モータ31から流出した圧油は、メイン管路37を流れて最終的にタンク34に戻される。こうして、主巻ウインチ6が低速で主巻ロープ12を巻上げる。
【0040】
オペレータが補巻ウインチ7用の操作レバー26を低速(1段目)に入れて巻上げ操作すると、方向制御弁132が位置A20から位置A21に切り換わる。すると、油圧ポンプ130から吐出された圧油がメイン管路138を流れて油圧モータ131に流入し、油圧モータ131を低速で回転させる。油圧モータ131から流出した圧油は、メイン管路137を流れて最終的にタンク34に戻される。こうして、補巻ウインチ7が低速で補巻ロープ13を巻上げる。
【0041】
このように、主巻ウインチ6及び補巻ウインチ7を低速で巻上げ操作すると、主巻ウインチ6は油圧ポンプ30からの圧油のみで駆動され、補巻ウインチ7用の油圧モータ131は油圧ポンプ130からの圧油のみで駆動される。
【0042】
なお、オペレータは、起伏ウインチ8用の操作レバー、走行用の操作レバーを操作すると、それぞれに対応する方向制御弁232,332,432が所定の位置に切り換わる。そして、油圧ポンプ30からの圧油が走行用の油圧モータ431に供給され、油圧ポンプ130からの圧油が起伏ウインチ8用の油圧モータ231及び走行用の油圧モータ331に供給され、油圧モータ231,331,431がそれぞれ回転する。
【0043】
(高速巻上げ操作)
オペレータが主巻ウインチ6用の操作レバー25を高速(2段目)に入れて巻上げ操作すると、方向制御弁32が位置A0から位置A1に切り換わると共に、方向制御弁32-1(高速用)が位置A10から位置A11に切り換わる。すると、油圧ポンプ30から吐出された圧油がメイン管路38を流れて油圧モータ31に流入する。さらに、油圧ポンプ130から吐出された圧油が合流回路M1の管路72を流れてメイン管路38に合流し、油圧モータ31に流入する。
【0044】
つまり、油圧ポンプ30から吐出された圧油と油圧ポンプ130から吐出された圧油とが、低速と約2倍の流量で油圧モータ31に流入し、油圧モータ31を高速で回転させる。油圧モータ31から流出した圧油は、メイン管路37及び合流回路M1の管路71を流れて最終的にタンク34に戻される。こうして、主巻ウインチ6が高速で主巻ロープ12を巻上げる。
【0045】
オペレータが補巻ウインチ7用の操作レバー26を高速(2段目)に入れて巻上げ操作すると、方向制御弁132が位置A20から位置A21に切り換わると共に、方向制御弁132-1(高速用)が位置A30から位置A31に切り換わる。すると、油圧ポンプ130から吐出された圧油がメイン管路138を流れて油圧モータ131に流入する。さらに、油圧ポンプ30から吐出された圧油が合流回路M2の管路172を流れてメイン管路138に合流し、油圧モータ131に流入する。
【0046】
つまり、油圧ポンプ130から吐出された圧油と油圧ポンプ30から吐出された圧油とが、低速と約2倍の流量で油圧モータ131に流入し、油圧モータ131を高速で回転させる。油圧モータ131から流出した圧油は、メイン管路137及び合流回路M2の管路171を流れて最終的にタンク34に戻される。こうして、補巻ウインチ7が高速で補巻ロープ13を巻上げる。
【0047】
このように、主巻ウインチ6及び補巻ウインチ7を高速で同時に巻上げ操作すると、主巻ウインチ6及び補巻ウインチ7が、それぞれ油圧ポンプ30と油圧ポンプ130の両方からの圧油で駆動される。
【0048】
ここで、本実施形態では、操作レバー25を巻上げ方向(または巻下げ方向)に操作すると、操作開始から第1所定時間(例えば、2~3秒)に亘って、主巻ウインチ6の巻上げ速度(または巻下げ速度)の急激な上昇を避けるべく、コントローラ60が油圧モータ31のモータ傾転制限制御を実行する。以下、主巻ウインチ6のモータ傾転制限制御について説明する。
【0049】
コントローラ60は、CPUや記憶装置であるROM及びRAM、その他の周辺回路などを有する演算処理装置を含んで構成される。コントローラ60は、操作レバー25,26と電気配線E1を介して接続されると共に、圧力検出器65,66と電気配線E2を介して電気的に接続されている(
図3参照)。そして、これらから入力される検知信号に基づいて、電磁切換弁55,56の動作を制御し、あるいは電磁比例弁46の動作を制御する。
【0050】
図4は、油圧モータ31のモータ傾転制御の処理手順を示すフローチャートである。
図4に示すように、コントローラ60は、操作レバー25の操作を監視し(ステップS1)、操作レバー25が中立位置から巻上げ方向または巻下げ方向に操作されたと判定した場合には(ステップS1/Yes)、油圧モータ31のモータ傾転制限制御(詳細後述)を開始する(ステップS2)。そして、コントローラ60は、操作レバー25の操作開始からの時間を計測し、操作レバー25の操作開始から第1所定時間を経過したか否かを判定する(ステップS3)。
【0051】
操作レバー25の操作開始から第1所定時間を経過したとコントローラ60が判定した場合(ステップS3/Yes)、コントローラ60は、モータ傾転通常制御に切り換える(ステップS4)。一方、操作レバー25の操作開始から第1所定時間を経過していないとコントローラ60が判定した場合(ステップS3/No)、ステップS2に戻り、コントローラ60はモータ傾転制限制御を継続する。
【0052】
次に、モータ傾転制限制御について詳しく説明する。モータ傾転制限制御が開始されると、コントローラ60は、操作レバー25の操作量と電流指令値の上限値とを比較する。操作レバー25の操作量の方が電流指令値の上限値より小さければ、コントローラ60は、レバー操作量に応じた電流指令値を電磁比例弁46に出力する。一方、操作レバー25の操作量の方が電流指令値の上限値以上であれば、電流指令値の上限値を電磁比例弁46に出力する。
【0053】
ここで、電流指令値の上限値は、予め定められた特性に従って、時間の経過に伴って徐々に大きくなるように設定されている。
図5は、操作レバー25のレバー操作量とコントローラ60が電磁比例弁46に出力する電流指令値との関係を示すタイムチャートである。
【0054】
図5(a)に示すように、オペレータが時間t1に操作レバー25の操作を開始し、速やかに操作レバー25を例えば巻上げ方向に倒すと、時間t2において操作レバー25の操作量は最大になる。オペレータが操作レバー25をそのまま保持すると、操作レバー25の操作量は最大を維持する。オペレータが時間t4に操作レバー25の操作を停止すると、操作レバー25は速やかに中立位置に戻り、操作レバー25の操作量は時間t5において初期状態に戻る。
【0055】
これに対して、
図5(b)に示すように、コントローラ60が電磁比例弁46に出力する電流指令値の変化は必ずしも操作レバー25の操作量に対応していない。具体的には、操作レバー25の操作開始時である時間t1では電流指令値は出力されず、操作レバー25の操作量が最大になる時間t2とほぼ同じ時間に電流指令値の出力が開始される。即ち、操作レバー25の操作開始から若干の遅れを以って電流指令値が電磁比例弁46に出力される。そして、時間t2において、レバー操作量が最大であるのに対して、電流指令値は最大指令値の約20%程度である。
【0056】
また、時間t2から時間t3において、レバー操作量が最大を維持しているにもかかわらず、電流指令値は、時間の経過に伴って徐々に大きくなるように出力される。即ち、操作レバー25を最大に倒しても、電磁比例弁46は徐々に開度が大きくなり、傾転制御スプール44に作用するパイロット圧がレバー操作量ほど大きくならないため、ピストン41が徐々に大傾転側から方向b(小傾転側)に移動することとなる(
図3参照)。
【0057】
その結果、油圧モータ31は、時間t1から時間t3の間、時間の経過に伴って徐々に回転速度が大きくなる。なお、時間t1から時間t3までの間の時間は、例えば、2~3秒程度である。つまり、操作レバー25の操作開始から第1所定時間までの間、モータ傾転制限制御が行われ(
図4のステップS2参照)、主巻ウインチ6の巻上げ速度はゆっくり上昇する。勿論、操作レバー25を巻下げ方向に操作すると、上記と同様にモータ傾転制限制御が行われる。
【0058】
そして、時間t3になると電流指令値が最大となり、最大のレバー操作量に対応する油圧モータ31の回転速度となる。即ち、時間t3以降はモータ傾転通常制御が行われる(
図4のステップS4参照)。そして、電流指令値は操作レバー25が中立位置に戻された時間t5のときにゼロとなる。
【0059】
なお、上記のモータ傾転制限制御は、操作レバー26に対しても実行される。即ち、補巻ウインチ7に対する巻上げ速度及び巻下げ速度も操作レバー26の操作開始から第2所定時間(例えば、2~3秒)に亘って、ゆっくり上昇することとなる。
【0060】
以上説明したように、本実施形態では、レバー操作開始後に十分な時間を掛けて(例えば2~3秒)モータ傾転の可変指令を電気的に出力する構成(モータ傾転制限制御)としたので、操作レバー25,26の操作量に合わせて、圧油の粘度や圧力の影響を受けながらモータ傾転が可変してしまう事を避けることができ、モータ可変速度のバラツキを減らすことができる。また、これにより、2つの操作レバー25,26の操作を同時に開始した場合において、各ウインチ6,7の回転動作の同調性を向上させることができる。
【0061】
(その他の実施形態への言及)
なお、本発明は前述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であり、特許請求の範囲に記載された技術思想に含まれる技術的事項の全てが本発明の対象となる。前記実施形態は、好適な例を示したものであるが、当業者ならば、本明細書に開示の内容から、各種の代替例、修正例、変形例あるいは改良例を実現することができ、これらは添付の特許請求の範囲に記載された技術的範囲に含まれる。
【0062】
例えば、
図5において、時間t2から時間t3の間の電流指令値の出力が線形状である例を示したが、時間の経過に伴って電流指令値が徐々に大きくなっていれば、線形以外の出力特性、例えば指数曲線などの曲線状であっても良い。
【0063】
また、操作レバー25,26を巻上げ操作及び巻下げ操作した場合の両方において、上記したモータ傾転制限制御を行う構成を説明したが、巻上げ操作または巻下げ操作の何れかの場合に限ってモータ傾転制限制御を行う構成としても良い。つまり、このモータ傾転制限制御は、少なくとも2つの操作レバー25,26が同一方向に操作された場合に実行されれば良い。ここで、操作レバー25と操作レバー26とが同一方向に操作されていることをセンサ等の手段で必ずしも検出する必要はない。各操作レバー25,26の操作に基づいて、油圧モータ31,131に対してそれぞれ独立してモータ傾転制限制御が行われたとしても、ほぼ同時に操作レバー25,26が操作されれば、油圧モータ31,131がそれぞれ十分に時間をかけて回転するので、ウインチ6,7の同調性の改善を図ることができる。
【0064】
また、本実施形態において、第1所定時間と第2所定時間は例えば2~3秒で同じ時間としたが、第1所定時間と第2所定時間とが異なっていても良く、また、時間は任意に定めることができる。
【0065】
また、操作レバー25,26等の各ウインチの操作レバーはクレーン1のキャブ9ではなく、例えばクレーン1とは遠隔の遠隔操作室に配置されていても良い。また、操作レバー25,26の代わりに操作ダイヤル等の装置を用いても良いし、ウインチ6,7等の巻上げ/巻下げ速度をタッチパネルや携帯端末等などの操作部から入力し、コントローラ60がその入力値(速度値)に対応する電流指令値を電磁切換弁55,56に出力する構成としても良い。即ち、ウインチ6,7等の回転速度を指示する手段として、操作者が操作レバー25,26の操作量により指示する手段のほかに、操作ダイヤルによる指示や速度値の直接入力による指示など、あらゆる手段を用いることができる。
【0066】
また、クレーンの一例として、クローラクレーンを例示したが、本発明は、これに限らず、ホイールクレーン、トラッククレーン、ラフテレーンクレーン、オールテレーンクレーン等の他の移動式クレーンに加えて、タワークレーン、天井クレーン、ジブクレーン、引込みクレーン、スタッカークレーン、門型クレーン、アンローダ、アースドリル等の基礎機械等のあらゆるクレーンに適用可能である。また、アタッチメントの一例として、
図1に示すようにグラブバケット16を例示したが、本発明は、複数のウインチで動作するアタッチメントであればあらゆる形式のものを用いることができ、例えば、クラムシェル、ハンマグラブ、連壁装置なども適用可能である。
【符号の説明】
【0067】
1 クレーン
2 走行体
3 旋回装置
4 旋回体
5 ブーム
6 主巻ウインチ(第2ウインチ)
7 補巻ウインチ(第1ウインチ)
8 起伏ウインチ
9 キャブ
10,11 シーブ
12 主巻ロープ
13 補巻ロープ
14 ペンダントロープ
15 起伏ロープ
16 バケット(アタッチメント)
17,18 シーブ
25,26 操作レバー
30 油圧ポンプ
31 油圧モータ(第2油圧モータ)
32 方向制御弁
32a,23b 受圧部
33 カウンターバランス弁
34 タンク
35,36 リリーフ弁
37,38 メイン管路
40 モータ容量制御装置
41 ピストン
41a,41b 油室
42 負荷圧力制御スプール
42a ばね
43 ピストン
43a,43b 油室
44 傾転制御スプール(第2スプール)
44a ばね
45 ピストン
45a 油室
46 電磁比例弁(第2電磁比例弁)
47 パイロットポンプ
50 絞り
51 管路
55,56 電磁切換弁
60 コントローラ
65,66 圧力検出器
130 油圧ポンプ
131 油圧モータ(第1油圧モータ)
140 モータ容量制御装置
144 傾転制御スプール(第1スプール)
146 電磁比例弁(第1電磁比例弁)
E1~E5 電気配線
L1,L2 センター管路
231 油圧モータ(起伏用)
331 油圧モータ(走行用)
431 油圧モータ(走行用)