(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023148848
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】鉄道システム、車上装置及び電気車駆動方法
(51)【国際特許分類】
B60L 13/00 20060101AFI20231005BHJP
B60L 50/60 20190101ALI20231005BHJP
B60L 53/14 20190101ALI20231005BHJP
B60L 53/24 20190101ALI20231005BHJP
B60L 9/18 20060101ALI20231005BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20231005BHJP
H02J 7/10 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
B60L13/00 D
B60L50/60
B60L53/14
B60L53/24
B60L9/18 A
H02J7/00 P
H02J7/10 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022057111
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安東 正登
(72)【発明者】
【氏名】北林 英朗
(72)【発明者】
【氏名】石川 勝美
(72)【発明者】
【氏名】岩村 重典
(72)【発明者】
【氏名】山崎 剛司
【テーマコード(参考)】
5G503
5H125
【Fターム(参考)】
5G503AA01
5G503BA01
5G503BB01
5G503CA11
5G503FA06
5G503GB04
5G503GB06
5H125AA06
5H125AC02
5H125AC12
5H125AC23
5H125AC24
5H125BA00
5H125BB02
5H125BB05
5H125BC21
5H125DD02
5H125FF03
(57)【要約】
【課題】 地上の充電スタンドの電圧を昇圧して電気車の蓄電装置へ充電できるようにした、より簡素な鉄道システムを提供する。
【解決手段】 地上から供給される電力により充電可能な蓄電装置を具備する電気車を稼働させる鉄道システムであって、地上には、電車線とは別系統の直流充電装置が配設され、電気車の車上装置として、電車線から集電装置を介して接続されスイッチング素子を有する少なくとも直流から交流への電力変換装置と、電力変換装置の交流側に接続された電動機と、を備え、直流充電装置により蓄電装置を充電するために必要な充電電圧は、直流充電装置の出力電圧を直流-直流電力変換装置が昇圧して確保する。直流-直流電力変換装置が車上の兼用機であれば、インバータモードからチョパモードへと切り替え可能な切り替えスイッチと、昇圧可能に形成されるチョッパ回路と、を有するが、専用機を備えても良い。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地上から供給される電力により充電可能な蓄電装置を具備する電気車を稼働させる鉄道システムであって、
前記地上には、電車線とは別系統の直流充電装置が配設され、
前記電気車の車上装置として、
前記電車線から集電装置を介して接続されスイッチング素子を有する少なくとも直流から交流への電力変換装置と、
該電力変換装置の交流側に接続された電動機と、
を備え、
前記直流充電装置により前記蓄電装置を充電するために必要な充電電圧は、前記直流充電装置の出力電圧を直流-直流電力変換装置が昇圧して確保する、
鉄道システム。
【請求項2】
前記直流-直流電力変換装置は車上に配設される専用機を備え、該専用機には昇圧用のチョッパ回路が常設された、
請求項1に記載の鉄道システム。
【請求項3】
前記直流-直流電力変換装置は車上に配設される兼用機であり、
該兼用機におけるインバータモードからチョパモードへと切り替え可能な切り替えスイッチと、
昇圧可能に形成されるチョッパ回路と、
を有し、
前記蓄電装置を充電するときに、スイッチング素子を兼用しながら前記電力変換装置の機能を使い分けて形成され、
前記電力変換装置の少なくとも一相に前記直流充電装置から電力供給されるように接続されて前記直流-直流電力変換装置として昇圧動作する、
請求項1に記載の鉄道システム。
【請求項4】
交流き電区間を走行する交流電車に適用され、
変圧器の漏れリアクタンスをリアクトルに代用して前記チョッパ回路を形成した、
請求項3に記載の鉄道システム。
【請求項5】
リアクトルの両端のうち、一端は前記集電装置に接続され、他端は前記切り替えスイッチの分岐基部に接続され、
前記切り替えスイッチは、前記リアクトルの他端を少なくとも2回路の接点への分岐を形成しており、一方の接点は前記電力変換装置の直流母線に接続され、他方の接点は前記電力変換装置の交流側に接続される、
請求項3に係る鉄道システム。
【請求項6】
前記電力変換装置は2又は3レベルのインバータを備える、
請求項5に記載の鉄道システム。
【請求項7】
前記電力変換装置は三相インバータを備え、前記直流充電装置で急速充電する場合に前記電力変換装置の全相が前記直流-直流電力変換装置として動作する、
請求項6に記載の鉄道システム。
【請求項8】
前記電力変換装置が前記インバータとして動作する場合のキャリア周波数と、前記電力変換装置が直流-直流電力変換装置として動作する場合のキャリア周波数が異なる、
請求項6又は7に記載の鉄道システム。
【請求項9】
前記電力変換装置に搭載されるスイッチング素子のうち少なくとも一方はシリコン又はシリコンよりバンドギャップが大きい半導体材料を母材とする、
請求項1に記載の鉄道システム。
【請求項10】
前記電力変換装置に搭載されるスイッチング素子のうち少なくとも一方はMOSFET、IGBT又はマルチゲートIGBTの電圧駆動型素子である、
請求項1に記載の鉄道システム。
【請求項11】
請求項1~10の何れか1項に記載の鉄道システムにおける、
前記直流-直流電力変換装置に形成される前記電力変換装置を前記電気車に搭載して構成される車上装置。
【請求項12】
電車線とは別系統で地上に配設された直流充電装置から充電可能な蓄電装置を具備する電気車を駆動する電気車駆動方法であって、
前記電気車に配設された電力変換装置は、
集電装置を介して前記電車線と連係された電力をスイッチング素子により少なくとも直流から交流へ変換して電動機と連係し、
前記電気車が力行又回生するときは、前記電動機が前記電力変換装置の交流側と電力授受し、
前記蓄電装置を充電するときは、直流-直流電力変換装置が、前記直流充電装置の出力電圧を昇圧して充電用に供給する、
電気車駆動方法。
【請求項13】
前記直流-直流電力変換装置は車上に配設される専用機を備え、該専用機には昇圧用のチョッパ回路が常設された、
請求項12に記載の電気車駆動方法。
【請求項14】
車上に配設された前記直流-直流電力変換装置は兼用機であり、
該兼用機は、
切り替えスイッチによって、インバータモードからチョパモードへと切り替え、
該チョパモードでは、チョッパ回路が昇圧可能に形成され、
前記蓄電装置を充電するときに、スイッチング素子を兼用しながら前記電力変換装置の機能を使い分けて形成され、
前記電力変換装置の少なくとも一相に前記直流充電装置から電力供給されるように接続されて前記直流-直流電力変換装置として昇圧動作する、
請求項12に記載の電気車駆動方法。
【請求項15】
交流き電区間を走行する交流電車に適用され、
変圧器の漏れリアクタンスをリアクトルに代用して前記チョッパ回路を形成した、
請求項14に記載の電気車駆動方法。
【請求項16】
リアクトルの両端のうち、一端は前記集電装置に接続され、他端は前記切り替えスイッチの分岐基部に接続され、
前記切り替えスイッチは、前記リアクトルの他端を少なくとも2回路の接点への分岐を形成しており、一方の接点は前記電力変換装置の直流母線に接続され、他方の接点は前記電力変換装置の交流側に接続される、
請求項14に係る電気車駆動方法。
【請求項17】
前記電力変換装置は2レベル又は3レベルのインバータとして稼働する、
請求項16に記載の電気車駆動方法。
【請求項18】
前記直流充電装置で急速充電する場合、三相インバータを備える前記電力変換装置は、三相の全てが直流-直流電力変換装置として動作する、
請求項17に記載の電気車駆動方法。
【請求項19】
前記電力変換装置が前記インバータとして動作する場合のキャリア周波数と、前記電力変換装置が直流-直流電力変換装置として動作する場合のキャリア周波数と、を相違させる、
請求項17又は18に記載の電気車駆動方法。
【請求項20】
前記電力変換装置を構成するスイッチング素子のうち少なくとも一部には、シリコン又はシリコンよりバンドギャップが大きい半導体材料を母材とするものが用いられる、
請求項12に記載の電気車駆動方法。
【請求項21】
前記電力変換装置を構成するスイッチング素子のうち少なくとも一部は、MOSFET、IGBT又はマルチゲートIGBTの電圧駆動型素子が用いられる、
請求項12に記載の電気車駆動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鉄道システム、車上装置及び電気車駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電気車において、架線からの電力供給が途絶えた緊急時には、車載畜電池に蓄えられた電力で、電気車に必要最小限の自力走行させることが考えられる。その車載畜電池は、充電機能も含めて、スペース、重量及び設備負担の点から、できるだけ小規模であることが好ましい。そこで、車載された複数の二次電池を並列接続することにより、低電圧の充電装置から充電し、この充電済の二次電池を直列接続につなぎ換えて、高電圧出力が得られるようにした電気車が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
蓄電池電車は、架線等の電車線を備えて電力供給が維持された区間を通常の電車として走行し、電車線がない区間、又は電車線からの給電が途絶えた場合、車載蓄電池の電力によりある程度の自力走行が可能である。その車載蓄電池の容量に制約があっても、今後、地上の電気自動車(Battery Electric Vehicle、以下「EV」ともいう)用充電設備から電気車の車載蓄電池に対し、プラグイン方式による充電が容易になれば、列車運行計画の選択肢が広がる。
【0005】
その際、高電圧駆動の電車と、比較的低電圧駆動のEVとの電圧格差が問題であり、その電圧格差を解消できて、なお簡素なシステムとすることが好ましい。本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、地上の充電スタンドの電圧を昇圧して電気車の蓄電装置へ充電できるようにした、より簡素な鉄道システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する本発明は、地上から供給される電力により充電可能な蓄電装置を具備する電気車を稼働させる鉄道システムであって、地上には、電車線とは別系統の直流充電装置が配設され、電気車の車上装置として、電車線から集電装置を介して接続されスイッチング素子を有する少なくとも直流から交流への電力変換装置と、電力変換装置の交流側に接続された電動機と、を備え、直流充電装置により蓄電装置を充電するために必要な充電電圧は、直流充電装置の出力電圧を直流-直流電力変換装置が昇圧して確保する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、地上の充電スタンドの電圧を昇圧して電気車の蓄電装置へ充電できるようにした、より簡素な鉄道システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施例1に係る鉄道システム(以下、「本システム」ともいう)の概略図である。
【
図3】
図1及び
図2の本システムのモード別動作を示すタイミングチャートである。
【
図4】
図2の概略回路図に示した本システムの電力変換装置が三相インバータモードにスイッチ結線された回路図である。
【
図5】
図2の概略回路図に示した本システムの電力変換装置がチョッパモードにスイッチ結線された回路図である。
【
図6】
図1及び
図2の本システムに対する変形例の回路図である。
【
図7】本発明の実施例2に係る鉄道システム(これも「本システム」という)の回路図である。
【
図8】本発明の実施例3に係る鉄道システム(これも「本システム」という)の回路図である。
【
図9】本発明の実施例4に係る鉄道システム(これも「本システム」という)の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を用いて実施例を説明する。実施例1は、
図1~
図6を用いて説明し、その変形例は、
図6を用いて説明する。実施例2は、
図7を用いて説明する。実施例3は、
図8を用いて説明する。これら各実施例に応じた電力変換装置6A~電力変換装置6Dを後述するが、区別の必要がなければ、まとめて電力変換装置6とする。文中の符号6Xは、電力変換装置(インバータ)6を異なるモードの直流-直流電力変換装置(チョッパ回路)6Xとして使用し、兼用機6Xともいうが、その符号6Xは不図示である。
【実施例0010】
図1は、本発明の実施例1に係る鉄道システムを示す概略図である。
図1に示すように、車両8は、架線1から集電装置7を介して受電し、電動機5の駆動により、車輪3を回転させて、前進又は後進する。車両8を駆動する電機品、すなわち車上装置としての遮断器11a、電力変換装置6A、フィルタリアクトル15、断流器箱、蓄電装置9、蓄電池17、及び外部充電コネクタ10は、各別の箱に格納されて床下に配設されている。なお、フィルタリアクトル15については、詳細に後述する。
【0011】
図1に示す各電機品は、別箱で記載しているが、電機品の一部もしくは全てを一体の箱に格納することにより、実装密度を高密度化しても良い。電気的なグラウンドとして、電力変換装置6Aの低電位側は、車輪3を介してレール2に接続されている。電動機5は、台車4に搭載されており、その台車4は、車両8を支持している。
【0012】
電動機5は、誘導電動機又は永久磁石同期電動機のどちらでも良い。なお、誘導電動機の場合、1台の電力変換装置6Aで複数の電動機を駆動できる。しかし、同期電動機の場合、1台の電力変換装置6Aで駆動できる電動機は1台に限られる。架線1の電圧は直流600V、直流750V、直流1500V、直流3000V等である。なお、実施例1では架線1の電圧は直流1500Vとしている。以下、本システムの構成を説明する。
【0013】
図2は、
図1の本システムの概略回路図である。本システムは、架線1の電力を集電装置7で受電し、遮断器11a及びフィルタリアクトル15を介して電力変換装置6Aに電力を供給する。遮断器11aとフィルタリアクトル15の間には電力変換装置6Aの一部として接触器12a,14a及び充電抵抗13aで構成される充電回路が搭載されている。なお、これらの充電回路は電力変換装置6Aとは別箱で実装されても良い。
【0014】
電力変換装置6Aは集電装置7で受電した直流電力を交流電力に変換する機能を有し、スイッチS1,S2、フィルタキャパシタ16、スイッチング素子Q1~Q6、逆並列還流ダイオード(以下、単に「ダイオード」ともいう)D1~D6で構成されている。スイッチング素子Q1-Q2群は直列接続されてU相を構成する。
【0015】
同様に、スイッチング素子Q3-Q4群は直列接続されてV相を構成する。同様に、スイッチング素子Q5-Q6群は直列接続されてW相を構成している。実施例1の電力変換装置6Aは、一例として2レベルの回路構成として説明するが、実施例2として
図7に示す電力変換装置6Cのように、3レベル以上のマルチレベルの回路構成でも適用可能である。
【0016】
スイッチング素子Q1~Q6がIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)の場合、各スイッチング素子Q1~Q6の主端子にそれぞれ逆並列に接続されたダイオードD1~D6が必要である。ダイオードD1~D6は、各スイッチング素子Q1~Q6がオフ時に還流電流を流す。
【0017】
これに対し、スイッチング素子Q1~Q6がMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor:電界効果トランジスタ)の場合、ダイオードD1~D6として、MOSFETのボディダイオードを用いても良い。このように、スイッチング素子Q1~Q6がMOSFET等のため、ボディダイオードを有する場合、各スイッチング素子Q1~Q6と逆並列にダイオードを接続せず、MOSFETのボディダイオードを利用して良い(
図7及び
図8に記載された同類の素子にも適用可)。
【0018】
ボディダイオードを環流ダイオードとして使用することでダイオードD1~D6のチップを削減でき、電力変換装置6Aを小型化できる。また、直列接続された他方のスイッチング素子Q1~Q6(例えばQ1とQ2)は、同一パッケージに収納されて、2in1のパッケージに形成されたものを用いても良い。スイッチング素子Q1~Q6は、MOSFETやIGBT、マルチゲートIGBTでも良い(
図7及び
図8に記載された同類の素子にも適用可)。
【0019】
スイッチング素子Q1~Q6及びダイオードD1~D6の半導体材料は、Si(シリコン)やSiよりもバンドギャップが広い半導体であるSiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)でも良い。これらのワイドバンドギャップ半導体は、Siに比べて発生損失を低減できるため、電力変換装置6Aを小型化できる。(
図7及び
図8に記載された同類の素子にも適用可)。
【0020】
本システムは、蓄電池17とその遮断器11b及び接触器12b,14bと充電抵抗13bから構成される充電回路を有している。蓄電池17は、遮断器11b及び充電回路を介してフィルタキャパシタ16に対して並列に接続される。このため、蓄電池17の電圧と架線1の電圧は、概ね一致し1500Vである。したがって、蓄電池17は、架線1から取得した電力でも充電できる。
【0021】
なお、架線1に電力を供給する変電所(図示しない)が、ダイオード整流器を採用している場合、電力制御ができず、かつ架線電圧が大きく変動することがある。このような場合、変電所と、蓄電池電車と、少なくとも何れかにおいて、何らかの対策しなければ、架線1と蓄電池17との電位差により、蓄電池に過大な充電電流が流れることが危惧される。その対策の1つとして、変電所側が充電電力を制御可能な設備とし、過大な充電電流を低減するようにしても良い。
【0022】
それとは別の対策として、変電所が上述のダイオード整流器のため電力制御ができない場合、本システム側で、以下のように蓄電池17を充電制御することもできる。まず、車両8が加速(力行)する場合を説明する。車両8の力行時において、本システムは、架線1から電力供給を受けて電動機5を駆動するとともに、接触器12b,14b又は遮断器11bを釈放し、架線1から蓄電池17を切り離すことで、力行により電圧の低下した架線1の影響を蓄電池17が受けないように制御する。
【0023】
一方、車両8の減速時において、本システムは、接触器12a,14a又は遮断器11aを釈放することにより、架線1と切り離すとともに接触器14b及び遮断器11bを投入することにより、電動機5からの回生電力を蓄電池17の充電のみに振り向ける。このように、ダイオード整流器を採用した変電所のため、蓄電池電車にとって必ずしも好適な電力環境でない場合であっても、本システムは、上述した制御により、架線1からの供給電力と、力行電力需要と、回生電力供給と、蓄電池17の充電と、様々な場合に応じて最適の対応ができる。
【0024】
また、本システムは地上に直流充電装置20を有している。この直流充電装置20は、車上の外部充電コネクタ10を介して電力変換装置6Aに接続される。外部充電コネクタ10の高電位側は、接触器14aとフィルタリアクトル15の間に接続され、低電位側はフィルタキャパシタ16の低電位側に接続される。直流充電装置20の出力電圧は架線1の電圧である1500Vよりも低く、例えば350Vである。
【0025】
電力変換装置6Aは、スイッチS1,S2を備えている。スイッチS1の基端はフィルタリアクトル15に接続され、末端はフィルタキャパシタ16の高電位側に接続される。スイッチS2も基端はスイッチS1と同様にフィルタリアクトル15に接続され、末端はスイッチング素子Q1とQ2の間、すなわちU相の中間端子に接続される。なお、スイッチS1,S2の基端と末端とは、
図2、
図6及び
図7と整合する便宜上の呼び方であり、実際には、以下にいうa,b,c接点で特定される。
【0026】
電力変換装置6Aは、スイッチS2の末端はU相の中間端子に接続しているが、V相又はW相の中間端子でも良い。また、スイッチS1,S2は、a接点あるいはb接点のスイッチとしているが、c接点のスイッチでも良く、その場合はスイッチの小型化が可能となる。なお、a接点、b接点、c接点のスイッチとは、リレーの動作と端子との関係に対する一般的呼称であるため、図示を省略するが、次のとおりである。
【0027】
a接点とは、コイルに電流を流すとNO(Normally Open)端子とつながりON状態となる端子をいう。b接点(Brake Contact)とは、コイルに電流を流すとNC(Normally Close)端子から離れてOFF状態となる端子をいう。c接点とは、電流を流さないとNC端子(b接点)とつながり、電流を流すとNO端子(a接点)とつながる端子をいう。
【0028】
図3は、
図1及び
図2の本システムのモード別動作を示すタイミングチャートである。
図3の横軸は時間、縦軸は上から車両走行指令(Vehicle running command)、遮断器11aの指令(Command of circuit breaker 11a)、スイッチS1の指令(Command of switch S1)、電力変換装置6Aの動作(Motin of power converter 6A)、外部充電指令(External charging command)、スイッチS2の指令(Command of switch S2)である。以下、タイミングチャートを説明する。
【0029】
時刻t0において、車両8の前進、後進又は加速、減速の指令に備えて、遮断器11aとスイッチS1が投入されている。
【0030】
時刻t1において、車両の運転士のノッチ操作に基づいて、車両情報制御装置(不図示)から車両走行指令がONとなり、電力変換装置6Aは三相インバータモードで動作する。電力変換装置6Aの三相インバータモード(Three-phase inverter mode)の詳細は後述する。
【0031】
時刻t2において、車両走行指令がOFFになると、電力変換装置6Aも動作を停止する。
【0032】
時刻t3において、直流充電装置20から充電する外部充電指令がON状態になると、蓄電池17を充電するモードとなる。このとき、架線1と直流充電装置20とでは、それぞれの電圧が異なるため、両者を電気的に切り離す必要があることから、遮断器11aを開放する。なお、遮断器11aを開放する代わりに接触器12a,14aを開放しても良い。また、スイッチS1を開放しスイッチS2を投入する。
【0033】
時刻t4において、電力変換装置6Aはチョッパモード(Chopper mode)として動作を開始し、直流充電装置20から電力変換装置6Aを介して蓄電池17を充電する。電力変換装置6Aのチョッパモードの詳細は後述する。
【0034】
図4は、
図2の概略回路図に示した本システムの電力変換装置6Aが三相インバータモードにスイッチ結線された回路図である。なお、電力変換装置6Aが三相インバータモードで動作するとき、直流充電装置20は接続しないため図示していない。スイッチング素子Q1~Q6をPWM(Pulse Width Modulation)制御することでフィルタキャパシタ16からパルス状の交流電力を出力する。この交流電力は、電動機5に供給されて、機械エネルギーに変換されることにより、車両8を前進又は後進させる。
【0035】
なお、フィルタキャパシタ16の初期充電は、接触器14aを開放、接触器12aを投入することで充電抵抗13aを介して行われる。フィルタキャパシタ16の初期充電が完了すると、接触器12aは開放、接触器14aが投入される。フィルタキャパシタ16とフィルタリアクトル15は、フィルタ回路を構成しており、電力変換装置6Aから架線1に流れるノイズ電流を低減している。
【0036】
車両8を加速する場合、架線1から集電装置7を介して電力を受電し、遮断器11a、フィルタリアクトル15、電力変換装置6Aを介して電動機5に電力を供給する。若しくは、遮断器11aを開放すれば、電力変換装置6Aは、蓄電池17から電力を供給されるので、架線1に接続された変電所(不図示)からの受電電力を削減することができる。
【0037】
なお、蓄電池17は、車両8が停車中と、加速(力行)中と、の少なくとも何れかのタイミングで充電すれば良い。その充電中は、接触器12bを投入、接触器14bを開放して充電抵抗13bを介することで、蓄電池17の充電電流を制限することができる。あるいは、接触器12bを開放し、接触器14bを投入することで充電抵抗13bを介することなく、蓄電池17を急速充電することができる。
【0038】
車両8を減速するブレーキ動作の場合、電動機5が発電機として機能し、回生電力が発生する。回生電力は、電力変換装置6Aにより、交流-直流電力変換され、フィルタリアクトル15、遮断器11a、集電装置7、及び架線1を介して他の車両(不図示)が加速(力行)するための電力などに利用される。
【0039】
回生電力を蓄電池17に充電する際には、架線1と電気的に切り離すため、遮断器11aを開放するもしくは接触器12a,14aを開放すれば良い。この際、電動機5のブレーキトルクを通常時よりも低くすることによって、蓄電池17の充電電流を制限し、蓄電池17の劣化を抑制することができる。以上より、電力変換装置6Aが三相インバータモードで動作する場合は、車両8を前進、後進又は加速、減速する際に電動機5の電力を制御する。
【0040】
図5は、
図2の概略回路図に示した本システムの電力変換装置6Aがチョッパモードにスイッチ結線された回路図である。電力変換装置6Aは等価変換している。また、前述のとおり、遮断器11aを単独で開放するか、又は、2つの接触器12a,14aを両方ともに開放するか、何れかで架線1と直流充電装置20を電気的に切り離している。
【0041】
電力変換装置6Aがチョッパモードで動作する際は、直流充電装置20が外部充電コネクタ10を介して接続される。ここで、フィルタリアクトル15が昇圧リアクトル15として機能し、スイッチング素子Q1,Q2及びダイオードD1,D2がチョッパ回路として機能することで昇圧チョッパ回路が構成される。
【0042】
すなわち、直流充電装置20の出力電圧350Vに対して、昇圧チョッパを介することで1500Vを出力し、蓄電池17を充電することができる。このとき、接触器12bは開放し、接触器14b及び遮断器11bは投入状態とすることで、充電抵抗13bを介することなく直流充電装置20で蓄電池17の充電電流を制御できる。また、スイッチング素子Q1,Q2のスイッチングに伴うリプル電流を吸収するキャパシタ(不図示)は、直流充電装置20の内部と、電力変換装置6Aと、少なくとも何れかに搭載すると良い。
【0043】
本システムのスイッチS1,S2を電力変換装置6Aに搭載した構成により、直流充電装置20の出力電圧が蓄電池17の電圧よりも低い場合も蓄電池17を充電することができる。すなわち、電力変換装置6Aは、フィルタリアクトル15を昇圧チョッパモードに適用し、直流-直流電力変換装置6Xとして動作することにより、直流充電装置20の出力電圧の不足分を補足する。その結果、車両8や地上側に昇圧チョッパを新規搭載する必要がなく、本システムの小型化が可能となる。さらに、
図7の実施例2で後述するように、電力変換装置6Aは、2レベルの回路構成で昇圧動作することも可能である。
【0044】
電力変換装置6Aは、三相インバータモードと、チョッパモードと、それぞれの動作に応じて制御部(不図示)を切り替える必要がある。この切り替えに合わせて、三相インバータモードと、チョッパモードと、それぞれの動作に最適なスイッチング素子Q1~Q6のキャリア周波数に変更すると良い。例えば、チョッパモードのキャリア周波数を低減することにより、直流-直流電力変換装置6Xのスイッチング損失を低減し、電力変換装置6の寿命を向上させることができる。
【0045】
ここで、電動機5への誘導障害等を考慮する。
図2の本システムにおいて、スイッチング素子Q1~Q6の損失や寿命を考慮すると、インバータ動作の最高周波数に比べ、昇圧チョッパの効率を高めたくても、その周波数を極端に高くはできない。このように動作モード別の周波数に大差無ければ、誘導障害等に関係する電圧変化率dv/dtも大差無い。また、電動機5の端子に対し、昇圧チョッパ動作による誘導障害等の電圧が印可されても、中性点電圧は、インバータ動作中と同じ値(入力電圧Ed/6)である。したがって、電動機5への漏洩電流による誘導障害は、問題ないと考えられる。
【0046】
図2の実施例1では、車上機器の小型化に向けて、昇圧チョッパレス(昇圧専用の部品増加を避ける)化しつつ、直流充電装置20の低圧出力と、蓄電池17の高圧と、の電位差を解消する。そのため、
図2の電力変換装置(インバータ)6Aのうち一相のスイッチング素子Q1,Q2をチョッパ動作させると、電動機5に中性点電圧(Ed/6)が発生する。このとき、他の二相のスイッチング素子Q1~Q6、及びダイオードD11~D6は、全てオフ状態のため、電動機5には電流が流れない。したがって、停車して充電中の電車8が動いてしまう危険は無い。
【0047】
[変形例]
図6は、
図1及び
図2の本システムに対する変形例の回路図である。
図6の変形例の電力変換装置6Bには、実施例1の電力変換装置6Aに対してスイッチS3,S4が追加されており,その他の構成は実施例1と同様であるため説明を省略する。スイッチS3の基端は、スイッチS2と同様にフィルタリアクトル15に接続され、末端は、スイッチング素子Q3とQ4の間、すなわちV相の中間端子に接続される。
【0048】
スイッチS4の基端は、スイッチS3と同様にフィルタリアクトル15に接続され、末端はスイッチング素子Q5とQ6の間、すなわちW相の中間端子に接続される。
図6の電力変換装置6Bは、チョッパモードにおいて、スイッチS2,S3,S4が投入され、スイッチS1は開放される。これにより、電力変換装置6Bは、フィルタリアクトル15が昇圧リアクトル15として機能して、直流-直流電力変換装置6Xとなる。
【0049】
この直流-直流電力変換装置6Xは、そのU相、V相、W相を構成していたスイッチング素子Q1~Q6及びダイオードD1~D6が、それぞれチョッパ回路として機能するので三相の昇圧チョッパ回路が構成される。この三相の昇圧チョッパ回路は、一相の昇圧チョッパ回路に比べ、蓄電池17の充電電力を増大することができるので、蓄電池17をより急速に充電することができる。