(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023148883
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】作業機械の旋回制御装置およびこれを備えた作業機械
(51)【国際特許分類】
B66C 23/84 20060101AFI20231005BHJP
B66C 23/42 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
B66C23/84 H
B66C23/42 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022057159
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000246273
【氏名又は名称】コベルコ建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100178582
【弁理士】
【氏名又は名称】行武 孝
(72)【発明者】
【氏名】大久保 正基
【テーマコード(参考)】
3F205
【Fターム(参考)】
3F205AA07
3F205AC01
3F205AC05
3F205CA02
3F205CA04
3F205CA09
3F205EA07
3F205EA10
(57)【要約】
【課題】上部旋回体を目標旋回速度で精度良く旋回させることが可能な作業機械の旋回制御装置およびこれを備えた作業機械を提供する。
【解決手段】旋回制御装置100は、上部旋回体12と下部走行体14と旋回駆動部101とアタッチメント10Sとを有するクレーン10に用いられる。旋回制御装置100は、コントローラ110を有する。コントローラ110は、上部旋回体12が目標旋回速度で旋回するようにフィードフォワード制御に基づいて旋回駆動部101を作動させる。コントローラ110は、所定の目標旋回速度に対応して予め設定された基準指令信号を、前記旋回速度を変動させる変動要因に関する情報に基づいて補正して補正指令信号を生成し、当該補正指令信号を旋回駆動部101に入力する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部本体と、
前記下部本体に旋回可能に支持される上部旋回体と、
入力される指令信号の大きさに応じた駆動力で前記上部旋回体を旋回させる旋回駆動部と、
前記上部旋回体に起伏方向に回動可能に支持されるアタッチメントと、
を有する作業機械に用いられる作業機械の旋回制御装置であって、
前記上部旋回体が所定の目標旋回速度で旋回するようにフィードフォワード制御に基づいて前記旋回駆動部を作動させるコントローラであって、前記目標旋回速度に対応して予め設定された基準指令信号を、旋回速度を変動させる変動要因に関する情報に基づいて補正して補正指令信号を生成し、当該補正指令信号を前記旋回駆動部に入力するコントローラを備える、作業機械の旋回制御装置。
【請求項2】
前記変動要因は、前記作業機械の作業現場に関連する外的変動要因を含む、請求項1に記載の作業機械の旋回制御装置。
【請求項3】
前記作業現場における風量および風向のうちの少なくとも一方を含む風情報を取得可能な風情報取得部を更に備え、
前記外的変動要因は、前記風情報を含む、請求項2に記載の作業機械の旋回制御装置。
【請求項4】
前記上部旋回体の前記下部本体に対する旋回角度を検出可能な旋回角度検出部を更に備え、
前記風情報は前記風向を含み、
前記コントローラは、少なくとも前記風向および前記旋回角度に基づいて前記基準指令信号を補正する、請求項3に記載の作業機械の旋回制御装置。
【請求項5】
前記アタッチメントの作業半径に関する情報を取得可能な作業半径取得部を更に備え、
前記コントローラは、少なくとも前記風情報および前記作業半径に基づいて前記基準指令信号を補正する、請求項3または4に記載の作業機械の旋回制御装置。
【請求項6】
前記作業現場における前記上部旋回体の水平面に対する傾斜角度を検出可能な傾斜検出部を更に備え、
前記外的変動要因は、前記傾斜角度を含む、請求項2に記載の作業機械の旋回制御装置。
【請求項7】
前記上部旋回体の前記下部本体に対する旋回角度を検出可能な旋回角度検出部を更に備え、
前記コントローラは、少なくとも前記傾斜角度および前記旋回角度に基づいて前記基準指令信号を補正する、請求項6に記載の作業機械の旋回制御装置。
【請求項8】
前記アタッチメントの作業半径に関する情報を取得可能な作業半径取得部を更に備え、
前記コントローラは、少なくとも前記傾斜角度および前記作業半径に基づいて前記基準指令信号を補正する、請求項6または7に記載の作業機械の旋回制御装置。
【請求項9】
前記アタッチメントの先端部から吊り下げられる吊り荷の荷重を検出可能な荷重検出部を更に備え、
前記コントローラは、少なくとも前記荷重に基づいて前記基準指令信号を補正する、請求項1乃至8の何れか1項に記載の作業機械の旋回制御装置。
【請求項10】
前記変動要因は、前記作業機械に関連する内的変動要因を含む、請求項1乃至9の何れか1項に記載の作業機械の旋回制御装置。
【請求項11】
前記内的変動要因は、非接続状態において前記上部旋回体の旋回速度を変化させる要因を含み、
前記非接続状態は前記アタッチメントが前記上部旋回体から脱離された状態である、請求項10に記載の作業機械の旋回制御装置。
【請求項12】
前記旋回駆動部は、
作動油を受け入れることで前記上部旋回体を旋回させるように回転する旋回モーターと、
入力される前記指令信号に応じて、前記旋回モーターに供給される作動油の流量を変化させるように開弁する弁機構と、
を有する、請求項1乃至11の何れか1項に記載の作業機械の旋回制御装置。
【請求項13】
前記コントローラは、前記変動要因に関する情報を受け付け、ニューラルネットワークによって前記基準指令信号を補正する、請求項1乃至12の何れか1項に記載の作業機械の旋回制御装置。
【請求項14】
下部本体と、
前記下部本体に旋回可能に支持される上部旋回体と、
入力される指令信号の大きさに応じた駆動力で前記上部旋回体を旋回させる旋回駆動部と、
前記上部旋回体に起伏方向に回動可能に支持されるアタッチメントと、
請求項1乃至13の何れか1項に記載の作業機械の旋回制御装置と、
を備える、作業機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業機械の旋回制御装置およびこれを備えた作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、移動式クレーンとして、下部走行体と、上部旋回体と、ブームやジブのようなアタッチメントと、を備えたものが知られている(特許文献1)。アタッチメントは、上部旋回体の前部に起伏可能に取り付けられる。アタッチメントの先端部から垂下された吊り荷ロープに吊り荷が接続されると、吊り荷の吊り上げ作業が可能となる。また、このようなクレーンでは、吊り荷が吊り上げられた状態で上部旋回体の旋回動作が行われることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようなクレーンにおいて、所望の目標旋回速度に対応する指令信号を駆動部に入力させて上部旋回体を旋回させようとしても、風などの影響により上部旋回体に負荷がかかり、実際の旋回速度が前記目標旋回速度に達しない場合があった。
【0005】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、上部旋回体を目標旋回速度で精度良く旋回させることが可能な作業機械の旋回制御装置およびこれを備えた作業機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一局面に係る作業機械の旋回制御装置は、下部本体と、前記下部本体に旋回可能に支持される上部旋回体と、入力される指令信号の大きさに応じた駆動力で前記上部旋回体を旋回させる旋回駆動部と、前記上部旋回体に起伏方向に回動可能に支持されるアタッチメントと、を有する作業機械に用いられる。当該旋回制御装置は、前記上部旋回体が所定の目標旋回速度で旋回するようにフィードフォワード制御に基づいて前記旋回駆動部を作動させるコントローラであって、前記目標旋回速度に対応して予め設定された基準指令信号を、旋回速度を変動させる変動要因に関する情報に基づいて補正して補正指令信号を生成し、当該補正指令信号を前記旋回駆動部に入力するコントローラを備える。
【0007】
本構成によれば、コントローラが変動要因を加味して基準指令信号を補正するため、変動要因によるばらつきを抑えながら、上部旋回体を目標旋回速度で精度良く旋回させることができる。
【0008】
上記の構成において、前記変動要因は、前記作業機械の作業現場に関連する外的変動要因を含むものでもよい。
【0009】
本構成によれば、作業現場において旋回速度を変動させる外的変動要因が変化することがあっても、上部旋回体を目標旋回速度で精度良く旋回させることができる。
【0010】
上記の構成において、前記作業現場における風量および風向のうちの少なくとも一方を含む風情報を取得可能な風情報取得部を更に備え、前記外的変動要因は、前記風情報を含むものでもよい。
【0011】
本構成によれば、作業現場において風情報が変化することがあっても、上部旋回体を目標旋回速度で精度良く旋回させることができる。
【0012】
上記の構成において、前記上部旋回体の前記下部本体に対する旋回角度を検出可能な旋回角度検出部を更に備え、前記風情報は前記風向を含み、前記コントローラは、少なくとも前記風向および前記旋回角度に基づいて前記基準指令信号を補正するものでもよい。
【0013】
本構成によれば、上部旋回体に支持されたアタッチメントが、風上から風下、または、風下から風上のいずれの方向に向かうかに応じて、アタッチメントが風から受ける負荷を加味しながら、上部旋回体を目標旋回速度で精度良く旋回させることができる。
【0014】
上記の構成において、前記アタッチメントの作業半径に関する情報を取得可能な作業半径取得部を更に備え、前記コントローラは、少なくとも前記風情報および前記作業半径に基づいて前記基準指令信号を補正するものでもよい。
【0015】
本構成によれば、コントローラは、アタッチメントの作業半径を加味することで、風からアタッチメントが受ける横方向(上部旋回体の横方向)のモーメントを加味して、上部旋回体を目標旋回速度で精度良く旋回させることができる。
【0016】
上記の構成において、前記作業現場における前記上部旋回体の水平面に対する傾斜角度を検出可能な傾斜検出部を更に備え、前記外的変動要因は、前記傾斜角度を含むものでもよい。
【0017】
本構成によれば、上部旋回体に支持されたアタッチメントが、作業現場の傾斜に応じて受ける重力の影響を加味しながら、上部旋回体を目標旋回速度で精度良く旋回させることができる。
【0018】
上記の構成において、前記上部旋回体の前記下部本体に対する旋回角度を検出可能な旋回角度検出部を更に備え、前記コントローラは、少なくとも前記傾斜角度および前記旋回角度に基づいて前記基準指令信号を補正するものでもよい。
【0019】
本構成によれば、上部旋回体に支持されたアタッチメントが、傾斜面を登る方向、または、傾斜面を下る方向のいずれの方向に向かうかに応じて、アタッチメントが受ける重力の影響を加味しながら、上部旋回体を目標旋回速度で精度良く旋回させることができる。
【0020】
上記の構成において、前記アタッチメントの作業半径に関する情報を取得可能な作業半径取得部を更に備え、前記コントローラは、少なくとも前記傾斜角度および前記作業半径に基づいて前記基準指令信号を補正するものでもよい。
【0021】
本構成によれば、作業現場の傾斜に応じてアタッチメントが受ける重力の影響と、作業半径に応じてアタッチメントが実際に受ける横方向のモーメントを加味しながら、上部旋回体を目標旋回速度で精度良く旋回させることができる。
【0022】
上記の構成において、前記アタッチメントの先端部から吊り下げられる吊り荷の荷重を検出可能な荷重検出部を更に備え、前記コントローラは、少なくとも前記荷重に基づいて前記基準指令信号を補正するものでもよい。
【0023】
本構成によれば、吊り荷重がアタッチメント、上部旋回体の旋回動作に付与する負荷を加味して、上部旋回体を目標旋回速度で精度良く旋回させることができる。
【0024】
上記の構成において、前記変動要因は、前記作業機械に関連する内的変動要因を含むものでもよい。
【0025】
本構成によれば、作業現場において旋回速度を変動させる内的変動要因が変化することがあっても、上部旋回体を目標旋回速度で精度良く旋回させることができる。
【0026】
上記の構成において、前記内的変動要因は、非接続状態において前記上部旋回体の旋回速度を変化させる要因を含み、前記非接続状態は前記アタッチメントが前記上部旋回体から脱離された状態であるものでもよい。
【0027】
本構成によれば、アタッチメントを含まない上部旋回体が下部走行体に対して旋回する際の変動要因を加味して、アタッチメントが上部旋回体に装着された状態において上部旋回体を目標旋回速度で精度良く旋回させることができる。
【0028】
上記の構成において、前記旋回駆動部は、作動油を受け入れることで前記上部旋回体を旋回させるように回転する旋回モーターと、入力される前記指令信号に応じて、前記旋回モーターに供給される作動油の流量を変化させるように開弁する弁機構と、を有するものでもよい。
【0029】
本構成によれば、コントローラが弁機構に入力する指令信号を最適化することで、上部旋回体の旋回速度を目標旋回速度に安定して設定することができる。
【0030】
上記の構成において、前記コントローラは、前記変動要因に関する情報を受け付け、ニューラルネットワークによって前記基準指令信号を補正するものでもよい。
【0031】
本構成によれば、複数のパラメータが変化するような高度な演算が必要な条件においても、各パラメータの影響を加味して最適な補正後の指令信号を取得することができる。
【0032】
本発明の他の局面に係る作業機械は、下部本体と、前記下部本体に旋回可能に支持される上部旋回体と、入力される指令信号の大きさに応じた駆動力で前記上部旋回体を旋回させる旋回駆動部と、前記上部旋回体に起伏方向に回動可能に支持されるアタッチメントと、上記に記載の作業機械の旋回制御装置と、を備える。
【0033】
本構成によれば、変動要因によるばらつきを抑えながら、上部旋回体が目標旋回速度で精度良く旋回することができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、上部旋回体を目標旋回速度で精度良く旋回させることが可能な作業機械の旋回制御装置およびこれを備えた作業機械を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】本発明の一実施形態に係る旋回制御装置を備えた作業機械の側面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る作業機械のブロック図および油圧回路図である。
【
図3】目標旋回速度と比例弁指示電流値との関係を示すグラフである。
【
図4】目標旋回速度および実旋回速度の時間推移を示すグラフである。
【
図5】本発明の一実施形態に係る旋回制御装置が実行する内的変動要因の補正制御を示すフローチャートである。
【
図6】目標旋回速度と比例弁指示電流値との関係を示すグラフである。
【
図7】比例弁指示電流値の時間推移を示すグラフである。
【
図8】本発明の一実施形態に係る旋回制御装置が実行する外的変動要因の補正制御を示すフローチャートである。
【
図9】本発明の変形実施形態に係る旋回制御装置が実行する外的変動要因の補正制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、図面を参照しつつ、本発明の各実施形態について説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係るクレーン10の側面図である。なお、以後、各図には、「上」、「下」、「前」および「後」の方向が示されているが、当該方向は、各実施形態に係るクレーン10の構造および組立方法を説明するために便宜上示すものであり、本発明に係るクレーンの移動方向や使用態様などを限定するものではない。
【0037】
クレーン10は、クレーン本体に相当する上部旋回体12と、この上部旋回体12を旋回可能に支持する下部走行体14(下部本体)と、ブーム16及びジブ18を含むアタッチメント10S(起伏体ともいう)と、ブーム起伏用部材であるマスト20と、を備える。上部旋回体12は、下部走行体14に対して上下方向に延びる旋回中心軸CL回りに旋回可能なように下部走行体14に支持される。上部旋回体12と下部走行体14との間には、旋回ベアリング12S(
図1)が配置されており、当該旋回ベアリング12Sの摺動(回転)によって、上部旋回体12が旋回する。また、上部旋回体12の後部には、クレーン10のバランスを調整するためのカウンタウエイト13が積載されている。また、上部旋回体12の前端部には、キャブ15が備えられている。キャブ15は、クレーン10の運転席に相当する。
【0038】
また、アタッチメント10Sは、上部旋回体12に起伏方向に回動可能に支持される基端部と当該基端部とは反対側の先端部とを含み、上部旋回体12に対して着脱可能とされている。
【0039】
図1に示されるブーム16は、いわゆるラチス型であり、下部ブーム16Aと、一または複数(図例では3個)の中間ブーム16B,16C、16Dと、上部ブーム16Eとから構成される。上部ブーム16Eの先端部に、ジブ18およびジブ18を回動させるためのリヤストラット21およびフロントストラット22がそれぞれ回動可能に連結される。ブーム16は、下端部に備えられたブームフットピン16Sを支点として左右方向に延びる回転軸回りに上部旋回体12に回動可能に軸支される。
【0040】
ただし、本発明ではブームの具体的な構造は限定されない。例えば、当該ブームは、中間部材がないものでもよく、また、上記とは中間部材の数が異なるものでもよい。更に、ブームは、単一の部材で構成されたものでもよい。
【0041】
ジブ18も、その具体的な構造は限定されない。そして、このジブ18の基端部は、ブーム16の上部ブーム16Eの先端部に回動可能に連結(軸支)されており、ジブ18の回動軸は、上部旋回体12に対するブーム16の回動軸(ブームフットピン16S)と平行な横軸になっている。
【0042】
マスト20は、基端及び回動端を有し、その基端が上部旋回体12に回動可能に連結される。マスト20の回動軸は、ブーム16の回動軸と平行でかつ当該ブーム16の回動軸のすぐ後方に位置している。すなわち、このマスト20はブーム16の起伏方向と同方向に回動可能である。一方、このマスト20の回動端は左右一対のブーム用ガイライン24を介してブーム16の先端に連結される。この連結は、マスト20の回動とブーム16の回動とを連携させる。
【0043】
更に、クレーン10は、左右一対のバックストップ23と、左右一対のストラットバックストップ25およびガイライン26と、左右一対のジブ用ガイライン28と、を備える。左右一対のバックストップ23は、ブーム16が強風等で後方に煽られることを規制する。
【0044】
リヤストラット21は、ブーム16の先端部に回動可能に軸支される。リヤストラット21は、上部ブーム16Eの先端からブーム起立側(
図1では左側)に張り出す姿勢で保持される。この姿勢を保持する手段として、左右一対のストラットバックストップ25及び左右一対のガイライン26が介在する。
【0045】
フロントストラット22は、ジブ18の後方に配置されており、ジブ18と連動して回動するようにブーム16の先端部(上部ブーム16E)に回動可能に軸支されている。詳しくは、このフロントストラット22の先端部とジブ18の先端部とを連結するように左右一対のジブ用ガイライン28が張設される。従って、このフロントストラット22の回動駆動によって、ジブ18もフロントストラット22と一体的に回動駆動される。
【0046】
クレーン10は、各種ウインチを更に備える。具体的には、クレーン10は、ブーム16を起伏させるためのブーム起伏用ウインチ30と、ジブ18を起伏方向に回動させるためのジブ起伏用ウインチ32と、吊り荷の巻上げ及び巻下げを行うための主巻用ウインチ34及び補巻用ウインチ36とを備える。また、クレーン10は、ブーム起伏用ロープ38と、ジブ起伏用ロープ44と、主巻ロープ50と、補巻ロープ60と、を備える。上記のウインチ30,32,34,36の位置は、
図1の態様に限定されるものではない。
【0047】
ブーム起伏用ウインチ30は、ブーム起伏用ロープ38の巻き取りや繰り出しを行うことにより、両シーブブロック40,42間の距離を変化させる。これによってマスト20さらにはこれと連動するブーム16が起伏方向に回動する。
【0048】
ジブ起伏用ウインチ32は、リヤストラット21とフロントストラット22との間に掛け回されたジブ起伏用ロープ44の巻き取り及び繰り出しを行うことで、両シーブブロック47,48間の距離を変え、リヤストラット21に対してフロントストラット22を相対的に回動させる。この結果、ジブ起伏用ウインチ32は、フロントストラット22と連動するジブ18を起伏させる。
【0049】
主巻用ウインチ34は、主巻ロープ50による吊り荷の巻き上げ及び巻き下げを行うことで両シーブ56,58間の距離を変化させる。この結果、ジブ18の先端から垂下された主巻ロープ50に連結された主フック57の巻き上げ及び巻き下げが行われる。このように本実施形態では、主巻ロープ50(吊り荷ロープ)は、アタッチメント10Sの前記先端部から垂下され、主フック57を介して吊り荷に接続される。
【0050】
同様にして、補巻用ウインチ36が補巻ロープ60による吊り荷の巻き上げ及び巻き下げを行うことで、補巻ロープ60の末端に連結された図略の吊荷用の補フックが巻上げられ、または巻下げられる。
【0051】
図2は、本実施形態に係るクレーン10のブロック図および油圧回路図である。クレーン10は、旋回駆動部101と、旋回制御装置100とを更に備える。
【0052】
旋回駆動部101は、入力される指令信号の大きさに応じた駆動力で上部旋回体12を旋回させる。旋回駆動部101は、エンジン102と、ECU103と、油圧ポンプ104と、旋回モーター105と、コントロールバルブ106と、比例弁107と、を有する。
【0053】
エンジン102は、回転する出力軸を有し、燃料の供給を受けて前記出力軸を回転させる。エンジン102が発生する駆動力は、油圧ポンプ104を回転させる。ECU103は、コントローラ110から受ける回転数切換信号に応じて、エンジン102への燃料供給量を調整し、エンジン102の回転数を調整する。
【0054】
油圧ポンプ104は、旋回モーター105に供給する作動油を吐出する。旋回モーター105は、油圧ポンプ104からの作動油を受け入れ、上部旋回体12を旋回させる駆動力を発生する。旋回モーター105は、2つのポートを有し、当該2つのポートのうちの一方のポートに作動油を受け入れるとともに他方のポートから作動油を排出する。作動油の受入先に応じて、旋回モーター105は、上部旋回体12を一の旋回方向(右旋回方向)またはその反対の他の旋回方向(左旋回方向)に旋回させるように回転する。
【0055】
コントロールバルブ106は、油圧ポンプ104と旋回モーター105との間に介在するように配置され、当該油圧ポンプ104から旋回モーター105に供給される作動油の流量および流路を変化させる。具体的に、コントロールバルブ106は、旋回モーター105が右旋回動作および左旋回動作を行う際に、旋回モーター105に油圧ポンプ104の作動油を供給するとともに旋回モーター105から排出された作動油をタンクに排出するように作動する。コントロールバルブ106は、一対のパイロットポートを有するパイロット操作式の3位置方向切換弁からなる。
【0056】
コントロールバルブ106は、一対のパイロットポートの何れにもパイロット圧が入力されないときは中立位置に保たれ、前記油圧ポンプ104と旋回モーター105との間を遮断する。
【0057】
コントロールバルブ106は、第1のパイロットポートにパイロット圧が入力されると、そのパイロット圧の大きさに対応したストロークで前記中立位置から右旋回位置に切り換えられる。これにより、前記油圧ポンプ104から旋回モーター105の一の油室に前記ストロークに応じた流量で作動油が供給されるとともに、旋回モーター105の他の油室から作動油が排出される。この結果、旋回モーター105は前記パイロット圧に対応した速度で上部旋回体12を右旋回方向に旋回させる。なお、上部旋回体12が左旋回方向に旋回する場合も、同様である。
【0058】
比例弁107は、コントローラ110から入力される指令信号を受けて、当該指令信号に応じたパイロット圧をコントロールバルブ106のパイロットポートに入力するように開弁する。比例弁107は、不図示のパイロットポンプとコントロールバルブ106との間に介在するように配置されている。なお、
図2では、1つの比例弁107が図示されているが、前記一対のパイロットポートに対応して、2つの比例弁107が設けられている。なお、2つの比例弁107および前述のコントロールバルブ106は、本発明の弁機構を構成する。当該弁機構は、入力される指令信号に応じて、旋回モーター105に供給される作動油の流量を変化させるように開弁する。
【0059】
旋回制御装置100は、旋回駆動部101に指令信号を入力することで、上部旋回体12を旋回させる。旋回制御装置100は、コントローラ110と、通信機器111と、サーバー112と、旋回速度計121と、旋回角度計122と、風速計123と、角度計124と、本体傾斜計125と、荷重計126(荷重検出部)とを有する。
【0060】
コントローラ110は、上部旋回体12の旋回動作を含む、クレーン10の各動作を統括する。特に、コントローラ110は、上部旋回体12が目標旋回速度で旋回するようにフィードフォワード制御に基づいて旋回駆動部101を作動させる。なお、コントローラ110の機能については、後記で詳述する。
【0061】
通信機器111は、コントローラ110から入力された各種の情報をサーバー112に向かって送信するとともに、サーバー112から各種の情報を受信して、コントローラ110に入力する。
【0062】
サーバー112は、クレーン10の作業現場とは異なる、遠隔地に配置されている。サーバー112は、複数のクレーン10をコントロールする管理装置として機能する。本実施形態では、サーバー112は、ニューラルネットワークに基づく高度の演算処理機能を備えている。なお、サーバー112の機能は、コントローラ110が備えても良い。
【0063】
旋回速度計121は、上部旋回体12の旋回速度を検出し、検出した速度に応じた信号をコントローラ110に入力する。
【0064】
旋回角度計122は、下部走行体14に対する上部旋回体12の旋回角度を検出し、検出した角度に応じた信号をコントローラ110に入力する。前記旋回角度は、上部旋回体12の前後方向と下部走行体14の前後方向とが合致する状態を0度とし、右旋回をプラス、左旋回をマイナスとして、最大360度で検出される。
【0065】
風速計123は、クレーン10の周囲における風向、風速(いずれも風情報)を検出し、検出した情報に応じた信号をコントローラ110に入力する。
【0066】
角度計124は、ブーム16の起伏角、ジブ18の起伏角をそれぞれ検出し、検出した角度に応じた信号をコントローラ110に入力する。ブーム16の起伏角は、水平面に対するブーム16の中心線の相対角度であり、ジブ18の起伏角は水平面に対するジブ18の中心線の相対角度である。起伏角の定義は、これに限定されるものではない。
【0067】
本体傾斜計125は、クレーン10の本体(上部旋回体12、下部走行体14)の水平面に対する傾斜角を検出し、検出した角度に応じた信号をコントローラ110に入力する。クレーン10が傾斜地において作業をする場合などに、本体傾斜計125は、所定の角度を検出する。
【0068】
荷重計126は、ジブ18の先端部から吊り下げられフック57に接続される吊り荷の荷重を検出し、検出した荷重に応じた信号をコントローラ110に入力する。荷重計126は、たとえば、ロープ50の張力に基づいて前記荷重を検出する。
【0069】
クレーン10の作業現場では、上部旋回体12を所望の旋回速度で旋回させる必要がある。一例として、クレーン10の自動運転技術の一つとして、ジブ18の先端部から吊り下げられた吊り荷の荷振れを抑制するために、上部旋回体12の旋回速度、旋回方向を制御することがある。荷振れは、吊り荷(ロープ50)が、ジブ18の先端部を支点として振れる現象である。吊り荷が振れた状態において、上部旋回体12の旋回動作を制御することで、前記振れを収束させることが知られている。
【0070】
図3は、目標旋回速度と比例弁指示電流値との関係を示すグラフである。上記のような旋回速度の制御のために、
図3に示すような速度マップを用いることができる。このような速度マップは、油圧の動力計算によって得ることができる。このような速度マップに基づいてコントローラ110から比例弁107に入力される比例弁指示電流値の大きさを制御することで、油圧ポンプ104から旋回モーター105に供給される作動油の流量が調整され、上部旋回体12の旋回速度が制御される。この場合、エンジン102の回転数が大きい場合の方が、相対的に小さな比例電流値で目標の旋回速度を得ることができる。
【0071】
本発明の発明者は、予め設定された速度マップに戻づいて、上部旋回体12の旋回動作を制御しようとした場合に、様々な変動要因によって、実際の旋回速度がばらつくことに着目し、本発明を想起するに至った。表1は、このような変動要因の一例を示すものである。
【0072】
【表1】
上部旋回体12の旋回速度を変動させる要因は、内的要因(内的変動要因)と外的要因(外的変動要因)に分類される。内的要因は、主にクレーン10に関連するものであり、複数のクレーン10が存在する場合には、クレーン10間で異なる大きさを示す。具体的に、内的要因に含まれる影響因子として、摩擦、バルブばねばらつき、比例弁ばらつきが挙げられる。摩擦は、前記旋回ベアリング12S(
図1)およびこれに付随する減速機の個体間ばらつきに相当する。バルブばねばらつきは、コントロールバルブ106の各パイロットポートに対応して設けられた一対のばねのばね定数の個体間ばらつきに相当する。当該ばね定数が異なると、同じ比例弁指示電流値であっても、コントロールバルブ106の開口面積が変化し、結果として、上部旋回体12の旋回速度が変化する。また、比例弁ばらつきは、比例弁107の個体間ばらつきであり、同じ比例弁指示電流値を受けても、コントロールバルブ106のパイロットポートに供給されるパイロット圧が比例弁107の個体間で異なることを意味する。
【0073】
一方、外的要因に含まれる影響因子として、風荷重(風情報)、本体傾斜が挙げられる。風荷重は、作業現場において発生する風がアタッチメント10Sに作用することで上部旋回体12の旋回動作における抵抗となる荷重を意味する。風量が大きい場合には、より大きな抵抗がアタッチメント10Sに作用する。また、上部旋回体12、すなわちアタッチメント10Sの旋回動作に対する風向によって、前記抵抗の大きさは変化する。更に、当該風荷重の大きさは、受風面積によって変化することから、アタッチメント10Sの構成(ブーム16のみか、ブーム16およびジブ18か)、ブーム16の角度、ジブ18の角度によっても変化する。また、本体傾斜は、作業現場におけるクレーン10の本体(上部旋回体12、下部走行体14)の傾斜に相当する。所定の斜面において、クレーン10が作業を行う場合、上部旋回体12の旋回中心軸が鉛直方向に対して傾いた状態となる。このため、上部旋回体12の旋回位置(旋回角度)に応じて、アタッチメント10Sに作用する重力が、旋回動作を促進する、または、妨げるように働くため、旋回速度のばらつき要因となる。本体傾斜に関連する機械側関連パラメータは、アタッチメント10Sの構成、ブーム16の角度、ジブ18の角度に加え、アタッチメント10Sの遠心力に影響する吊荷荷重も含まれる。
【0074】
上記のように、上部旋回体12の旋回速度には種々の変動要因が存在するため、
図3のようにクレーン10の個体差、作業現場の環境に関わらず予め設定された速度マップに基づいて旋回速度を制御しようとすると、目標の旋回速度を得ることができない。
図4は、目標旋回速度および実旋回速度の時間推移を示すグラフである。
図4に示すように、
図3の速度マップに基づいて比例弁指示電流値を入力すると、変動要因による抵抗、負荷によって実旋回速度が目標旋回速度よりも小さくなってしまう。例えば、荷振れ制御を目的として上部旋回体12の旋回速度を制御する場合には、結果として、荷振れが収まらない、または、助長されるという問題が生じる。
【0075】
本実施形態では、上記のような問題を解決するために、旋回制御装置100のコントローラ110が、比例弁107に入力する比例弁指示電流値を好適に制御する。具体的に、コントローラ110は、所定の目標旋回速度に対応して予め設定された基準指令信号を、旋回速度を変動させる変動要因に関する情報に基づいて補正して補正指令信号を生成し、当該補正指令信号を旋回駆動部101に入力する。
【0076】
特に、本実施形態では、コントローラ110は、以下の式1に基づいて、上部旋回体12の旋回速度の調整を行う。
【0077】
I_swing=I_ideal+I_mod_in+I_mod_ext ・・・(式1)
式1において、I_swingは、最終的に比例弁107に入力される比例弁指示電流値(補正指令信号)である。また、I_idealは、前述の速度マップの理論値であって、理想的な関係から得られる指示電流値である。I_mod_inは、前述の内的要因を補正する項であり、I_mod_extは、前述の外的要因を補正する項である。
【0078】
次に、本実施形態において、上記のI_mod_inを導出する手順について説明する。
図5は、本実施形態に係る旋回制御装置100が実行する内的要因の補正制御を示すフローチャートである。
図6は、目標旋回速度と比例弁指示電流値との関係を示すグラフである。
図7は、比例弁指示電流値の時間推移を示すグラフである。
【0079】
本実施形態では、一例として、クレーン10が工場から出荷される前に、アタッチメント10Sが上部旋回体12から取り外された状態で、上記のI_mod_inが導出、設定され、コントローラ110に記憶される。すなわち、I_mod_inは、クレーン10の個体差を考慮して、クレーン10ごとに個別に設定される。
図5に示すように、I_mod_inの導出過程では、コントローラ110が所定の目標旋回速度を指示する(ステップS1)。次に、コントローラ110は、ECU103からエンジン102の回転数の情報を取得する(ステップS2)。エンジン102の回転数は、クレーン10のキャブ内に設けられた回転数設定スイッチを通じてオペレータによって設定される。次に、コントローラ110は、I_idealを演算する(ステップS3)。一例として、
図3に示す速度マップが予めコントローラ110に記憶されており、コントローラ110は、この速度マップにおいて、前記目標旋回速度、エンジン回転数から、I_idealを演算する。なお、
図3に示すグラフ情報がコントローラ110に記憶されている場合は、同グラフの縦軸が、I_idealに相当する。なお、コントローラ110に格納された前記グラフを示す演算式に基づいて、I_idealが算出されてもよい。この結果、比例弁107に入力される比例弁指示電流値が決定される(ステップS4)。
【0080】
次に、コントローラ110は、上記の比例弁指示電流値を比例弁107に入力し、比例弁107を開弁させることで旋回モーター105を回転させる(ステップS5)。この結果、アタッチメント10Sが装着されていない状態の上部旋回体12が下部走行体14に対して旋回する。そして、旋回速度計121が上部旋回体12の実旋回速度を測定し、その結果をコントローラ110に入力する(ステップS6)。コントローラ110は、受け取った実旋回速度と、ステップS4で決定された比例弁指示電流値との関係をマップ化して記憶する(ステップS7)。
図6では、ステップS3で取得されたI_idealが破線で示され、ステップS7でマップ化された実旋回速度が、実線で示されている。換言すれば、アタッチメント10Sが上部旋回体12から取り外された状態においても、摩擦、バルブばねばらつき、比例弁ばらつきなどの内的要因によって、理想的な比例弁指示電流値I_idealよりも大きな電流値が必要になる。そして、同じ目標旋回速度に対して、
図6の実線と破線との差が、I_mod_inに相当する。この結果、コントローラ110は、I_mod_inの情報を取得することができる(ステップS8)。
【0081】
I_mod_inを得ることによって、下記の式2に基づいて、内的要因を加味した比例弁補正電流値I_swing’を設定することができる。
【0082】
I_swing’=I_ideal+I_mod_in ・・・(式2)
すなわち、所定の目標旋回速度で上部旋回体12を旋回させたい場合に、I_idealに代えて、I_swing’を比例弁107に入力することで、内的要因によるばらつきを抑制した、精度の良い旋回速度を実現することができる。
図7では、I_idealが破線で示され、I_swing’が実線で示されている。
【0083】
なお、
図5の手順は、エンジン回転数、目標旋回速度を変化させて、繰り返し実行されることが望ましい。この結果、これらのパラメータが変化した場合でも、高い精度でI_mod_inを取得することができる。
【0084】
次に、本実施形態において、上記のI_mod_extを導出する手順について説明する。
図8は、本実施形態に係る旋回制御装置100が実行する外的要因の補正制御を示すフローチャートである。本実施形態では、一例として、クレーン10の作業現場において、アタッチメント10Sが上部旋回体12に取り付けられた状態で、上記のI_mod_extが導出、設定され、コントローラ110に記憶される。なお、工場出荷前であって、上記のI_mod_inが導出、設定された後に、以下と同様の手順でI_mod_extの初期値が設定されてもよい。
【0085】
図8に示すように、I_mod_extの導出過程においても、コントローラ110が所定の目標旋回速度を指示する(ステップS11)。次に、コントローラ110は、予めコントローラ110内の記憶部に記憶されているアタッチメント10Sの構成に関する情報を取得する(ステップS12)。更に、コントローラ110は、ECU103からエンジン102の回転数の情報を取得する(ステップS13)。そして、次に、コントローラ110は、I_ideal’を演算する(ステップS14)。一例として、
図6の実線で示される、内的要因を加味した速度マップが予めコントローラ110に記憶されており、コントローラ110は、この速度マップにおいて、前記目標旋回速度、エンジン回転数から、I_ideal’を演算する。この結果、比例弁107に入力される比例弁指示電流値が決定される(ステップS15)。
【0086】
次に、コントローラ110は、上記の比例弁指示電流値を比例弁107に入力し、比例弁107を開弁させることで旋回モーター105を回転させる(ステップS16)。この結果、アタッチメント10Sが装着された状態の上部旋回体12が下部走行体14に対して旋回する。そして、旋回速度計121が上部旋回体12の実旋回速度を測定し、その結果をコントローラ110に入力する(ステップS17)。同様に、旋回角度計122、風速計123、角度計124、本体傾斜計125、荷重計126が検出した情報がコントローラ110にそれぞれ入力される。
【0087】
ここで、コントローラ110は、ステップS11の目標旋回速度、ステップS12のアタッチメント構成、ステップS17で取得した実旋回速度、風向、風速、ブーム16およびジブ18の角度、クレーン10の本体傾斜、吊荷荷重の各情報を、通信機器111(
図2)を通じて、サーバー112に送信する(ステップS18)。
【0088】
サーバー112は、取得した各情報を入力値として、ニューラルネットワークを更新する(ステップS19)。ここで、ニューラルネットワークは、上記の各入力パラメータの相互関係を演算するものであり、各パラメータが変化した場合の、目標旋回速度を得るための比例弁指令電流値に関する情報を蓄積する。したがって、
図8のステップS11で設定された目標旋回速度を、最も高い精度で得ることができる最適指令電流値I_optiを出力することができる。コントローラ110は、サーバー112から通信機器111に入力された最適指令電流値I_optiを取得する(ステップS20)。
【0089】
そして、コントローラ110は、最適指令電流値I_optiからステップS14で演算された、I_ideal’を引くことで、最新のI_mod_extを算出することができる(ステップS21)。すなわち、最適指令電流値I_optiには、理想的な関係から得られる指示電流値であるI_ideal、前述の内的要因を補正する項であるI_mod_inおよび前述の外的要因を補正する項であるI_mod_extが含まれているため、I_ideal+I_mod_inに相当するI_ideal’の分を取り除くことで、I_mod_extを得ることができる。
【0090】
図8に示される処理も、エンジン回転数、目標旋回速度に加えて、風向、風速、ブーム16およびジブ18の角度、クレーン10の本体傾斜、吊荷荷重の各情報を変化させて、繰り返し実行されることが望ましい。これらの作業は、出荷前に工場などで行われても良い。この結果、これらのパラメータが変化した場合でも、高い精度でI_mod_extを取得することができる。したがって、作業現場において、各パラメータが変動することがあっても、上部旋回体12が目標旋回速度で旋回することが可能な比例弁指示電流値I_swingを比例弁107に入力することができる。なお、内的要因および外的要因に含まれる少なくとも一つ以上の変動要因に応じて、比例弁指示電流値I_swingが設定される態様でもよい。
【0091】
なお、サーバー112が作業現場で稼働する複数のクレーン10から各パラメータを取得し、I_mod_extの情報をサーバー112に蓄積、共有することも可能である。特に、同じクラス(仕様)のクレーン10同士では、共通のI_mod_extを用いてもよい。
【0092】
上記の実施形態では、作業現場においてクレーン10の作業に先立って、外的要因を補正する項であるI_mod_extが設定される態様にて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
図9は、本発明の変形実施形態に係る旋回制御装置100が実行する外的要因の補正制御を示すフローチャートである。本変形実施形態では、予めサーバー112のニューラルネットワークが所定の情報を蓄積しており、作業現場においてクレーン10が作業を開始した後に、取得される各パラメータに応じて、適正な比例弁指示電流値I_swingが設定される。
【0093】
たとえば、コントローラ110は吊り荷の振れを抑制するためにフィードフォワード制御に基づいて、所定の目標旋回速度を指示する(ステップS31)。次に、コントローラ110は、アタッチメント10Sの構成に関する情報を取得する(ステップS32)。更に、コントローラ110は、ECU103からエンジン102の回転数の情報を取得する(ステップS33)。
【0094】
次に、旋回角度計122、風速計123、角度計124、本体傾斜計125、荷重計126が検出した情報がコントローラ110に入力される(ステップS34)。コントローラ110は、取得した情報をサーバー112に送信する(ステップS35)。サーバー112は、受け付けた情報を入力値としてニューラルネットワークを更新し(ステップS36)、ステップS31で設定された目標旋回速度に対応する最適な比例弁指示電流値I_swingを決定し(ステップS37)、通信機器111を通じてコントローラ110に送信する。コントローラ110は、当該比例弁指示電流値I_swingに基づいて、比例弁107を開弁させ、上部旋回体12の旋回動作を実行する(ステップS38)。この際、旋回速度計121が検出する上部旋回体12の実旋回速度がコントローラ110からサーバー112に送信されることで、サーバー112内のニューラルネットワークの情報が更新(学習)されてもよい。
【0095】
以上のように、本変形実施形態では、クレーン10が作業現場において作業を行いながら、高い精度で上部旋回体12の旋回速度を制御するとともに、サーバー112内の情報を更新することができる。なお、サーバー112が実行する演算手法は、ニューラルネットワークに限定されるものではなく、その他の公知の機械学習機能などに基づくものでもよい。
【0096】
上記の各実施形態によれば、旋回制御装置100(コントローラ110)が、上部旋回体12が目標旋回速度で旋回するようにフィードフォワード制御に基づいて旋回駆動部101を作動させる。コントローラ110は、所定の目標旋回速度に対応して予め設定された基準指令信号を、前記旋回速度を変動させる変動要因に関する情報に基づいて補正して補正指令信号を生成し、当該補正指令信号を旋回駆動部101に入力する。このため、変動要因によるばらつきを抑えながら、上部旋回体12を目標旋回速度で精度良く旋回させることができる。
【0097】
特に、前記変動要因は、クレーン10の作業現場に関連する外的変動要因を含む。このため、作業現場において旋回速度を変動させる外的変動要因が変化することがあっても、上部旋回体12を目標旋回速度で精度良く旋回させることができる。
【0098】
なお、旋回制御装置100が風速計123(風情報取得部)を含み、コントローラ110が外的変動要因として風量および風向のうちの少なくとも一方を含む風情報に基づいて、前記基準指令信号を補正し補正指令信号を生成するものでもよい。このような構成によれば、作業現場において風情報が変化することがあっても、上部旋回体12を目標旋回速度で精度良く旋回させることができる。
【0099】
また、旋回制御装置100が、風速計123に加え、上部旋回体12の下部走行体14に対する旋回角度を検出可能な旋回角度計122(旋回角度検出部)を更に備える場合には、コントローラ110が外的要因として風向および旋回角度に基づいて、前記基準指令信号を補正し補正指令信号を生成するものでもよい。このような構成によれば、上部旋回体12に支持されたアタッチメント10Sが、風上から風下、または、風下から風上のいずれの方向に向かうかに応じて、アタッチメント10Sが風から受ける負荷を加味しながら、上部旋回体12を目標旋回速度で精度良く旋回させることができる。
【0100】
また、
図2の角度計124は、本発明の作業半径取得部として機能することができる。すなわち、ブーム16およびジブ18の長さの情報が予めコントローラ110に格納されている場合、ブーム16の起伏角、ジブ18の起伏角が角度計124に検出されることで、コントローラ110は、平面視におけるアタッチメント10Sの作業半径を演算することができる。この場合、コントローラ110は、外的要因として前記風情報および前記作業半径に基づいて、前記基準指令信号を補正し補正指令信号を生成するものでもよい。
【0101】
アタッチメント10Sの作業半径が小さい、すなわち、アタッチメント10Sが上部旋回体12に対してより鉛直方向に近い姿勢を取っている場合には、アタッチメント10Sが風から横方向に受けるモーメントは小さい。一方、アタッチメント10Sの作業半径が大きい、すなわち、アタッチメント10Sが上部旋回体12に対して大きく倒伏した姿勢を取っている場合には、アタッチメント10Sが風から横方向に受けるモーメントは相対的に大きくなる。このため、コントローラ110は、アタッチメント10Sの作業半径を加味することで、風からアタッチメント10Sが受ける横方向(上部旋回体12の横方向)のモーメントを加味して補正指令信号を生成し、上部旋回体12を目標旋回速度で精度良く旋回させることができる。
【0102】
また、コントローラ110が本体傾斜計125(傾斜検出部)を含む場合には、コントローラ110が外的要因として上部旋回体12の水平面に対する傾斜角度に基づいて、前記基準指令信号を補正し補正指令信号を生成するものでもよい。このような構成によれば、上部旋回体12に支持されたアタッチメント10Sが作業現場の傾斜に応じて受ける重力の影響を加味しながら、上部旋回体12を目標旋回速度で精度良く旋回させることができる。
【0103】
また、コントローラ110が本体傾斜計125(傾斜検出部)に加えて旋回角度計122を含む場合には、コントローラ110が外的要因として上部旋回体12の水平面に対する傾斜角度および上部旋回体12の旋回角度に基づいて、前記基準指令信号を補正し補正指令信号を生成するものでもよい。このような構成によれば、上部旋回体12に支持されたアタッチメント10Sが、傾斜面を登る方向、または、傾斜面を下る方向のいずれの方向に向かうかに応じて、アタッチメント10Sが受ける重力の影響を加味しながら補正指令信号を生成し、上部旋回体12を目標旋回速度で精度良く旋回させることができる。
【0104】
また、上記のようにコントローラ110が本体傾斜計125を含む場合において、前述の作業半径に関する情報を演算、取得することができる場合には、コントローラ110が外的要因として前記傾斜角度、作業半径に基づいて前記基準指令信号を補正し補正指令信号を生成するものでもよい。このような構成によれば、作業現場の傾斜に応じて受ける重力の影響と、それに伴ってアタッチメント10Sが実際に受ける横方向のモーメントを加味しながら補正指令信号を生成し、上部旋回体12を目標旋回速度で精度良く旋回させることができる。
【0105】
更に、コントローラ110が荷重計126を含む場合には、コントローラ110は外的要因としての吊り荷重に基づいて、前記基準指令信号を補正し補正指令信号を生成するものでもよい。このような構成によれば、吊り荷重が上部旋回体12の旋回動作に付与する負荷を加味して補正指令信号を生成し、上部旋回体12を目標旋回速度で精度良く旋回させることができる。
【0106】
また、前記変動要因は、クレーン10に関連する内的要因を含むものでもよい。このような場合には、作業現場において内的要因が変化することがあっても、上部旋回体12を目標旋回速度で精度良く旋回させることができる。
【0107】
特に、本実施形態では、前記内的要因は、非接続状態において上部旋回体12の旋回速度を変化させる要因を含む。前記非接続状態は前記アタッチメント10Sが前記上部旋回体12から脱離された状態である。このような構成によれば、アタッチメント10Sを含まない上部旋回体12が下部走行体14に対して旋回する際の変動要因を加味した上で、アタッチメント10Sが上部旋回体12に装着された状態において上部旋回体12を目標旋回速度で精度良く旋回させることができる。すなわち、アタッチメント10Sが装着されていない状態の上部旋回体12が下部走行体14に対して旋回する際に、旋回ベアリング12S(
図1)やこれに連結された減速機などの公差、個体間ばらつきなどを加味した上で、上部旋回体12の旋回速度を目標旋回速度に設定することができる。
【0108】
更に、本実施形態では、旋回駆動部101が、旋回モーター105と、入力される指令信号に応じて当該旋回モーター105に供給される作動油の流量を変化させるように開弁する弁機構(コントロールバルブ106、比例弁107)とを有する。このため、コントローラ110が弁機構に入力する指令信号(比例弁指示電流値)を最適化することで、上部旋回体12の旋回速度を目標旋回速度に安定して設定することができる。
【0109】
また、本実施形態では、コントローラ110(サーバー112)が、前記変動要因に関する情報を受け付け、ニューラルネットワークによってI_ideal(基準指令信号)を補正する。このため、複数のパラメータが変化するような高度な演算が必要な条件においても、各パラメータの影響を加味して最適な補正後の指令信号を取得することができる。
【0110】
以上、本発明の各実施形態に係る旋回制御装置100およびこれを備えるクレーン10について説明した。なお、本発明はこれらの形態に限定されるものではない。本発明は、例えば以下のような変形実施形態を取ることができる。
【0111】
(1)上記の実施形態では、コントローラ110が、表1の内的要因、外的要因をともに考慮して比例弁107への指令信号を設定する態様にて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。コントローラ110は、いずれかの変動要因に基づいて前記指令信号を設定するものでもよい。また、各変動要因は、表1に記載されるものに限定されるものではない。
【0112】
(2)また、
図1に示されるクレーン10は、リヤストラット21、フロントストラット22を備えないものでもよいし、1つのストラットを備えるものでもよい。また、ブーム16を支持するマストの構造も、
図1に示されるものに限定されるものではなく、他のマスト構造や不図示のガントリ構造などでもよい。更に、クレーン10は、ジブ18を備えないものでもよい。更に、上部旋回体12を支持する下部本体は、走行可能な下部走行体14に限定されるものではなく、固定式のものでもよい。また、本発明に係る作業機械はクレーン10に限定されるものではなく、下部本体に対して旋回する上部旋回体を有する他の作業機械でもよい。
【符号の説明】
【0113】
10 クレーン
100 旋回制御装置
101 旋回駆動部
102 エンジン
103 ECU
104 油圧ポンプ
105 旋回モーター
106 コントロールバルブ(弁機構)
107 比例弁(弁機構)
10S アタッチメント
110 コントローラ
111 通信機器
112 サーバー
121 旋回速度計
122 旋回角度計(旋回角度検出部)
123 風速計(風情報取得部)
124 角度計(作業半径取得部)
125 本体傾斜計(傾斜検出部)
126 荷重計(荷重検出部)
12 上部旋回体
14 下部走行体(下部本体)
16 ブーム
18 ジブ