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特開2023-148887有機無機ハイブリッド体の成形体、有機無機ハイブリッド体分散液および有機無機ハイブリッド体の塗膜の製造方法
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  • 特開-有機無機ハイブリッド体の成形体、有機無機ハイブリッド体分散液および有機無機ハイブリッド体の塗膜の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023148887
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】有機無機ハイブリッド体の成形体、有機無機ハイブリッド体分散液および有機無機ハイブリッド体の塗膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/18 20060101AFI20231005BHJP
   C09D 1/00 20060101ALI20231005BHJP
   C09D 7/62 20180101ALI20231005BHJP
   C01G 25/02 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C01B33/18 C
C09D1/00
C09D7/62
C01G25/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022057165
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】赤池 寛人
(72)【発明者】
【氏名】日向野 怜子
(72)【発明者】
【氏名】森 秀晴
(72)【発明者】
【氏名】大橋 巧人
【テーマコード(参考)】
4G048
4G072
4J038
【Fターム(参考)】
4G048AA02
4G048AB04
4G048AC08
4G048AD04
4G072AA25
4G072BB05
4G072DD06
4G072EE07
4G072HH30
4G072JJ25
4G072JJ41
4G072JJ42
4G072JJ45
4G072QQ02
4G072QQ07
4G072UU30
4J038AA011
4J038GA08
4J038HA211
4J038HA441
4J038JC34
4J038JC38
4J038KA06
4J038MA06
4J038MA14
4J038NA05
4J038NA11
4J038PA09
(57)【要約】
【課題】硬度とヤング率が高く、かつ優れた自己修復機能を有する新規な有機無機ハイブリッド体の成形体と、その成形体の製造用として有用な有機無機ハイブリッド体の分散液および有機無機ハイブリッド体の塗膜の製造方法を提供する。
【解決手段】有機無機ハイブリッド体の成形体は、金属酸化物粒子と、正に帯電した亜鉛とを含み、前記金属酸化物粒子は、末端にイミダゾール基を有する官能基で表面修飾された修飾酸化ジルコニウム粒子または修飾シリカ粒子である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物粒子と、正に帯電した亜鉛とを含み、
前記金属酸化物粒子は、末端にイミダゾール基を有する官能基で表面修飾された修飾酸化ジルコニウム粒子または修飾シリカ粒子である、有機無機ハイブリッド体の成形体。
【請求項2】
前記修飾酸化ジルコニウム粒子または修飾シリカ粒子は凝集体を形成している、請求項1に記載の有機無機ハイブリッド体の成形体。
【請求項3】
溶媒と、金属酸化物粒子と、亜鉛塩とを含み、前記金属酸化物粒子は、末端にイミダゾール基を有する官能基で表面修飾された修飾酸化ジルコニウム粒子または修飾シリカ粒子である、有機無機ハイブリッド体分散液を塗布し、乾燥する、有機無機ハイブリッド体の塗膜の製造方法。
【請求項4】
溶媒と、金属酸化物粒子と、亜鉛塩とを含み、
前記金属酸化物粒子は、末端にイミダゾール基を有する官能基で表面修飾された修飾酸化ジルコニウム粒子または修飾シリカ粒子である、有機無機ハイブリッド体分散液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機無機ハイブリッド体の成形体、有機無機ハイブリッド体分散液および有機無機ハイブリッド体の塗膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器、機械製品、ガラス製品、建築材料などの様々な製品に対して、製品本体への汚れの付着を防止すること、水分など製品を劣化させる物質や衝撃から製品を保護することなどを目的として、コーティング膜を設けることが行われている。コーティング膜に微細な傷や欠損が生じた場合は、そのコーティング膜の機能が低下するだけでなく、製品の見栄えが悪くなる。このため、微細な傷や欠損に対して自己修復性を有するコーティング膜が望まれている。
【0003】
自己修復性を有するコーティング膜の材料として、特定の高分子材料を組み合わせた樹脂組成物が知られている(特許文献1)。また、特定の官能基を有するポリロタキサンと無機物粒子とを組み合わせた組成物が知られている(特許文献2)。また、イミダゾール基とn-アルキル基を持つ官能基を有するシルセスキオキサン微粒子とを含む自己修復性有機無機ハイブリッド材が知られている(非特許文献1)。この有機無機ハイブリッド材は、シルセスキオキサン微粒子に付与されたイミダゾール基と、亜鉛イオンとの配位子交換作用により、自己修復性が発揮される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-107490号公報
【特許文献2】特開2020-015827号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「Mechanically robust, ion-condctive, self-healing glassy hybrid materials via tailored Zn/imidazole interation」 Materials Today Chemistry 22(2021)100611
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特定の高分子材料を組み合わせた樹脂組成物は、硬度を高くすることが難しい。また、特定の官能基を有するポリロタキサンと、無機物粒子とを組み合わせた組成物は、無機材料とポリロタキサン化合物との相互作用が小さいため、無機材料の充填率を増加させると材料の耐擦傷性が低下する傾向があった。また、シルセスキオキサン微粒子を含む有機無機ハイブリッド材はシルセスキオキサン自身の硬度が高くないため、硬度・ヤング率を高くすることが難しい。
【0007】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、硬度とヤング率が高く、かつ優れた自己修復機能を有する新規な有機無機ハイブリッド体の成形体と、その成形体の製造用として有用な有機無機ハイブリッド体の分散液および有機無機ハイブリッド体の塗膜(コーティング膜)の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の有機無機ハイブリッド体の成形体は、金属酸化物粒子と、正に帯電した亜鉛とを含み、前記金属酸化物粒子は、末端にイミダゾール基を有する官能基で表面修飾された修飾酸化ジルコニウム粒子または修飾シリカ粒子である構成とされている。
【0009】
このような構成とされた本発明の有機無機ハイブリッド体の成形体は、金属酸化物粒子が官能基のイミダゾール基を介して正に帯電した亜鉛に配位結合することにより、正に帯電した亜鉛を介して複数の金属酸化物粒子が連結した構造を形成しやすい。このため、本発明の有機無機ハイブリッド体の成形体は硬度とヤング率が高くなる。また、本発明の有機無機ハイブリッド体の成形体は、微細な傷や欠損が生じて、配位結合が切断されたときには、早期に金属酸化物粒子の官能基のイミダゾール基と亜鉛とが配位結合を再度形成するので、自己修復性が高い。
【0010】
ここで、本発明の有機無機ハイブリッド体の成形体においては、前記修飾酸化ジルコニウム粒子または修飾シリカ粒子は凝集体を形成している構成とされていてもよい。
この場合、修飾酸化ジルコニウム粒子または修飾シリカ粒子は配位結合を介して凝集体を形成しているので、成形体の硬度がより高くなる。
【0011】
また、本発明の有機無機ハイブリッド体の塗膜の製造方法は、溶媒と、金属酸化物粒子と、亜鉛塩とを含み、前記金属酸化物粒子は、末端にイミダゾール基を有する官能基で表面修飾された修飾酸化ジルコニウム粒子または修飾シリカ粒子である、有機無機ハイブリッド体分散液を塗布し、乾燥する構成とされている。
【0012】
このような構成とされた本発明の製造方法によって得られた有機無機ハイブリッド体の塗膜は、正に帯電した亜鉛を介して複数の金属酸化物粒子が連結した構造を有する。このため、得られた塗膜は硬度とヤング率が高くなる。また、得られた塗膜は、微細な傷や欠損が生じて、配位結合が切断されたときには、早期に金属酸化物粒子の官能基のイミダゾール基と亜鉛とが配位結合するので、自己修復性が高い。
【0013】
また、本発明の有機無機ハイブリッド体分散液は、溶媒と、金属酸化物粒子と、亜鉛塩とを含み、前記金属酸化物粒子は、末端にイミダゾール基を有する官能基で表面修飾された修飾酸化ジルコニウム粒子または修飾シリカ粒子である構成とされている。
【0014】
このような構成とされた本発明の有機無機ハイブリッド体分散液は、塗布して乾燥することによって、正に帯電した亜鉛を介して複数の金属酸化物粒子が連結した構造を有する塗膜やシートなどの有機無機ハイブリッド体の成形体を得ることができる。得られた有機無機ハイブリッド体の形成体は、硬度とヤング率が高く、微細な傷や欠損が生じて、配位結合が切断されたときには、早期に金属酸化物粒子の官能基のイミダゾール基と亜鉛とが配位結合を再度形成するので、自己修復性が高い。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、硬度とヤング率が高く、かつ優れた自己修復機能を有する新規な有機無機ハイブリッド体の成形体と、その成形体の製造用として有用な有機無機ハイブリッド体の分散液および有機無機ハイブリッド体の塗膜(コーティング膜)の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態である有機無機ハイブリッド体の成形体を構成する有機無機ハイブリッド体の概念図である。
図2】本発明例1で作製したMI/OH基含有シリカ粒子のH-NMRスペクトルとFT-IRスペクトルである。
図3】本発明例1で作製したMI/Bu基含有シリカ粒子のH-NMRスペクトルとFT-IRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の一実施形態に係る有機無機ハイブリッド体の成形体、有機無機ハイブリッド体分散液および有機無機ハイブリッド体の塗膜の製造方法について、添付した図面を適宜参照して説明する。
本実施形態において、有機無機ハイブリッド体は、金属酸化物粒子と、正に帯電した亜鉛とを含む。金属酸化物粒子は、末端にイミダゾール基を有する官能基で表面修飾された修飾酸化ジルコニウム粒子または修飾シリカ粒子である。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態である有機無機ハイブリッド体の成形体を構成する有機無機ハイブリッド体の概念図である。
図1に示すように、本実施形態に係る有機無機ハイブリッド体1は、金属酸化物粒子3(無機成分)と、正に帯電した亜鉛5(無機成分)とを含み、金属酸化物粒子3は末端にイミダゾール基を有する官能基4(有機成分)で表面修飾された修飾金属酸化物粒子2である無機成分と有機成分の複合体である。
【0019】
修飾金属酸化物粒子2は、末端にイミダゾール基を有する官能基4で表面修飾された修飾酸化ジルコニウム粒子または修飾シリカ粒子とされている。金属酸化物粒子3の一次粒子の形状には、特に制限はなく、例えば、球状、楕円状、多角柱状であってもよい。金属酸化物粒子3の平均一次粒子径は、1nm以上40nm以下の範囲内にあることが好ましい。金属酸化物粒子3の平均一次粒子径がこの範囲内にあると、金属酸化物粒子3が微細であるので、一個の正に帯電した亜鉛5に対して複数個の修飾金属酸化物粒子2を配位結合させることができる。よって、有機無機ハイブリッド体1を用いた成形体の硬度とヤング率が高くなる。金属酸化物粒子3の一次粒子径が20nmよりも大きくなると、金属酸化物粒子3の比表面積が小さくなって、粒子表面において機能する有機成分の量が減少することで、有機無機ハイブリッド体1中の架橋密度が低下し、有機無機ハイブリッド体1を用いた成形体の硬度が十分に発現しなくなるおそれがある。金属酸化物粒子3の平均一次粒子径は、TEM(透過電子顕微鏡)像を用いて測長した100個以上の粒子の粒子径の平均値とすることができる。有機無機ハイブリッド体1の金属酸化物粒子3(酸化ジルコニウム粒子またはシリカ粒子)の含有量は25質量%以上70質量%以下の範囲内にあることが好ましい。金属酸化物粒子3の含有量が25質量%よりも小さいと、有機無機ハイブリッド体1を用いた成形体の硬度が十分に発現しにくくなるおそれがある。一方、金属酸化物粒子3の含有量が70質量%よりも大きいと、相対的に官能基4および正に帯電した亜鉛5の含有量が少なくなり、有機無機ハイブリッド体1を用いた成形体の自己修復性が不十分となるおそれがある。
【0020】
修飾金属酸化物粒子2の官能基4のイミダゾール基は負に帯電している。このため、修飾金属酸化物粒子2は、イミダゾール基を介して正に帯電した亜鉛5に配位結合している。1個の亜鉛5に対して、2~4個の修飾金属酸化物粒子2が配位結合していることが好ましい。1個の亜鉛5に対して複数個の修飾金属酸化物粒子2が配位結合することによって、有機無機ハイブリッド体1を用いた成形体の硬度とヤング率が高くなる。また、亜鉛5と修飾金属酸化物粒子2との配位結合が切断されたときは、亜鉛5が元の修飾金属酸化物粒子2の官能基4のイミダゾール基あるいは他の修飾金属酸化物粒子2の官能基4のイミダゾール基と配位結合するので切断された配位結合が速やかに再構成される。このため、有機無機ハイブリッド体1を用いた成形体は、微細な傷や欠損が生じたときの自己修復性が高くなる。有機無機ハイブリッド体1の正に帯電した亜鉛5の含有量は15質量%以上60質量%以下の範囲内にあることが好ましい。正に帯電した亜鉛5の含有量が15質量%よりも小さいと、配位結合が十分に生成しなくなるおそれがある。一方、正に帯電した亜鉛5の含有量が60質量%よりも大きいと、相対的に官能基4および金属酸化物粒子3の含有量が少なくなり、有機無機ハイブリッド体1を用いた成形体の自己修復性が不十分となるおそれがある。
【0021】
有機無機ハイブリッド体1の官能基4の含有量は、15質量%以上60質量%以下の範囲内にあることが好ましい。官能基4の含有量が15質量%よりも小さいと、配位結合が十分に生成しなくなり、有機無機ハイブリッド体1の硬度が低下するおそれがある。一方、官能基4の含有量が60質量%よりも大きいと、相対的に正に帯電した亜鉛5および金属酸化物粒子3の含有量が少なくなり、有機無機ハイブリッド体1を用いた成形体の自己修復性が不十分となるおそれがある。
【0022】
官能基4のイミダゾール基と金属酸化物粒子3とを連結する連結基としては、例えば、2価の炭化水素基、2価の複素環基、酸素原子(-O-)、硫黄原子(-S-)、イミノ基(-NH-、但し、水素は、炭素原子数1~6のアルキル基で置換されていてもよい。)、カルボニル基(-CO-)、シロキサン結合(-Si-O-Si-)又はこれらの基を組み合わせた基を用いることができる。2価の炭化水素基は、例えば、脂肪族基(アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基)、シクロアルキレン基、アリーレン基、又はこれらを組み合わせた基であってもよい。2価の炭化水素基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、炭素原子数1~6のアルキル基、炭素原子数1~6のアルコキシ基、炭素原子数1~6のオキシカルボニル基を挙げることができる。連結基の長さは、例えば、官能基4のイミダゾール基と金属酸化物粒子3とを連結する原子の数として、8~20個の範囲内にあることが好ましい。
【0023】
有機無機ハイブリッド体1は、例えば、次のようにして製造することができる。
まず、溶媒に、官能基4で表面修飾された修飾金属酸化物粒子2を分散させる。次いで、得られた分散液を撹拌しながら、その分散液に亜鉛塩の溶液を加えて混合して液体組成物調製する。そして、得られた液体組成物の溶媒を除去する。液体組成物の溶媒を除去する方法としては、例えば、減圧乾燥を用いることができる。
【0024】
修飾金属酸化物粒子2は、例えば、次のようにして作製することができる。
まず、原料として、金属酸化物粒子3、イミダゾール基を有するイミダゾール化合物、金属酸化物粒子3と反応可能な反応性基と、イミダゾール化合物と反応可能な反応性基とを有するカップリング剤を用意する。イミダゾール化合物としては、例えば、2-メルカプト-1-メチルイミダゾールを用いることができる。カップリング剤としては、イミダゾール化合物と反応可能な官能基を有するシランカップリング剤を用いることができる。イミダゾール化合物と反応可能な官能基は、イミダゾール化合物の種類によっても異なるが、例えば、エポキシ基、アミノ基、アクリレート基、メタクリレート基、メルカプト基、ビニル基を挙げることができる。
【0025】
次に、金属酸化物粒子3と、カップリング剤とを反応させて、金属酸化物粒子3の表面に末端にイミダゾール化合物と反応可能な反応性基を有する官能基で修飾された金属酸化物粒子3を得る。次に、金属酸化物粒子3を修飾する官能基の反応性基とイミダゾール化合物とを反応させて、官能基の末端にイミダゾール基を結合させる。
以上のようにして、末端にイミダゾール基を有する官能基4で表面修飾された修飾金属酸化物粒子2を作製することができる。
【0026】
有機無機ハイブリッド体1の成形体は、上述の有機無機ハイブリッド体1を所定の形状に成形したものある。有機無機ハイブリッド体1の成形体の例としては、塗膜、シート、粉末、成形物を挙げることができる。有機無機ハイブリッド体1の成形体が粉末あるいは粉末の成形物の場合、修飾金属酸化物粒子2は、配位結合を介して凝集体を形成していてもよい。また、有機無機ハイブリッド体1は溶媒に分散された分散液としてもよい。有機無機ハイブリッド体1の塗膜は、例えば、電子機器(ディスプレイ、携帯電話)、機械製品(車両、産業用機械)、ガラス製品(窓ガラス)、建築材料(建材パネル)などの様々な製品の保護層(コーティング膜)として利用できる。有機無機ハイブリッド体1の成形物は、例えば、容器、筐体および基材である。有機無機ハイブリッド体1の形成体は、例えば、塗布法および加圧成形法によって作製することができる。塗布法は、例えば、塗膜を形成する塗膜形成対象物の表面に有機無機ハイブリッド体分散液を塗布して塗布層を形成し、次いで、塗布層を加熱して液体組成物の溶媒を除去して乾燥する方法である。加圧成形法は、例えば、有機無機ハイブリッド体1(粉末)を型に充填して、加圧しながら加熱する方法である。
【0027】
有機無機ハイブリッド体1の成形体が粉末あるいは粉末の成形物であって、有機無機ハイブリッド体1の金属酸化物粒子3が凝集体を形成している場合、凝集体の平均粒子径は、例えば、1μm以上5000μm以下の範囲内にあってもよい。凝集体の平均粒子径は、顕微鏡観察により測長した100個以上の凝集粒子の粒子径の平均値とすることができる。また、有機無機ハイブリッド体1の成形体が塗膜である場合、塗膜の膜厚は、例えば、1μm以上5000μm以下の範囲内にあってもよい。
【0028】
有機無機ハイブリッド体分散液は、溶媒と、修飾金属酸化物粒子と、亜鉛塩とを含み、修飾金属酸化物粒子は、修飾酸化ジルコニウム粒子または修飾シリカ粒子である。修飾金属酸化物粒子は、上述の有機無機ハイブリッド体1に含まれている修飾金属酸化物粒子2と同じである。
【0029】
有機無機ハイブリッド体分散液の溶媒としては、例えば、水、有機溶媒、水と有機溶媒とを含む混合液を用いることができる。有機溶媒としては、例えば、炭素原子数1~5の低級アルコール、炭素原子数1~5の低級脂肪族ケトン、非プロトン性極性溶媒を用いることができる。低級アルコールの例としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール1-モノメチルエーテルを挙げることができる。低級脂肪族ケトンの例としては、アセトン、メチルエチルケトンを挙げることができる。非プロトン性極性溶媒の例としては、アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドを挙げることができる。水と有機溶媒とを含む混合液は、例えば、質量比で9:1~6:4(有機溶媒:水)の範囲内にあってもよい。
【0030】
有機無機ハイブリッド体分散液の亜鉛塩は、溶媒に溶解するものであれば特に制限なく、例えば、ビス(トリフルオロメタンスルホニルイミド)亜鉛、塩化亜鉛、ビス(トリフルオロメタンスルホン酸)亜鉛を用いることができる。
【0031】
有機無機ハイブリッド体分散液は、例えば、次のようにして作製することができる。溶媒に、修飾酸化ジルコニウム粒子または修飾シリカ粒子を分散させる。次いで、修飾酸化ジルコニウム粒子または修飾シリカ粒子の分散液を撹拌しながら、その分散液に亜鉛塩の溶液を加えて混合する。また、上述の有機無機ハイブリッド体1を溶媒に分散させる方法によっても調製することができる。
【0032】
以上のような構成とされた本実施形態の有機無機ハイブリッド体1の成形体は、有機無機ハイブリッド体1の修飾金属酸化物粒子2が官能基のイミダゾール基を介して正に帯電した亜鉛5に配位結合することにより、正に帯電した亜鉛5を介して複数の修飾金属酸化物粒子2が連結した構造をとりやすい。このため、本実施形態の有機無機ハイブリッド体1の成形体は硬度とヤング率が高くなる。また、本実施形態の有機無機ハイブリッド体1の成形体は、微細な傷や欠損が生じて、配位結合が切断されたときには、早期に金属酸化物粒子の官能基のイミダゾール基と亜鉛5とが配位結合を再度形成するので、自己修復性が高い。
【0033】
本実施形態の有機無機ハイブリッド体1の成形体において、修飾金属酸化物粒子2が配位結合を介して凝集体を形成している場合、成形体の硬度がより高くなる。
【0034】
本実施形態の塗布法によって得られた有機無機ハイブリッド体1の塗膜は、正に帯電した亜鉛を介して複数の金属酸化物粒子が連結した構造を有する。このため、有機無機ハイブリッド体1の塗膜は硬度とヤング率が高くなる。また、有機無機ハイブリッド体1の塗膜に微細な傷や欠損が生じて、配位結合が切断されたときには、早期に金属酸化物粒子の官能基のイミダゾール基と亜鉛とが配位結合するので、自己修復性が高い。
【0035】
本実施形態の有機無機ハイブリッド体分散液は、塗布して乾燥することによって、正に帯電した亜鉛を介して複数の金属酸化物粒子が連結した構造を有する塗膜やシートなどの有機無機ハイブリッド体1の成形体を得ることができる。得られた有機無機ハイブリッド体1の形成物は、硬度とヤング率が高く、微細な傷や欠損が生じて、配位結合が切断されたときには、早期に金属酸化物粒子の官能基のイミダゾール基と亜鉛とが配位結合を再度形成するので、自己修復性が高い。
【0036】
以上、本発明の実施形態である有機無機ハイブリッド体1の成形体、有機無機ハイブリッド体分散液および有機無機ハイブリッド体1の塗膜の製造方法について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【実施例0037】
[本発明例1]
(1)エポキシ基含有シリカ粒子の作製
丸底フラスコに、平均一次粒子径が10nmのシリカ粒子のメタノール分散液(シリカ濃度:30質量%)を6質量部、メタノール30を質量部、エポキシ基含有シランカップリング剤(3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン)を2質量部、酢酸水溶液(酢酸濃度:0.1モル/L)を2質量部、イオン交換水を10質量部の割合で入れて、3時間攪拌した。攪拌終了後、さらに、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)5質量部を加えて均一になるまで攪拌した。次いで、得られた混合物中の水と、酢酸と、メタノール(エポキシ基含有シランカップリング剤の加水分解によって生成したもの)とを、エバポレータを用いて除去し、残部に、DMFを加えて、不揮発分の濃度が25質量%となるように調整して、末端にエポキシ基を有する官能基で修飾されたエポキシ基含有シリカ粒子のDMF分散液を得た。
【0038】
(2)MI/OH基含有シリカ粒子の作製
丸底フラスコに、エポキシ基含有シリカ粒子のDMF分散液を8.7質量部、2-メルカプト-1-メチルイミダゾールを4.1質量部、DMFを55質量部の割合で入れ、さらに無水水酸化リチウム0.3質量部を添加した。その後、25℃で24時間攪拌して、下記の式(1)に示す反応(チオールクリック反応)により、エポキシ基含有シリカ粒子のエポキシ基とMIのメルカプト基とを反応させ、末端にイミダゾール基を有し、側鎖に水酸基を有する官能基(MI/OH基)を生成させた。次いで、この反応後の反応混合物を、ガラス容器中で撹拌されているジエチルエーテル100質量部に添加し、そのまま30分間攪拌を行った。反応生成物が沈殿またはガラス容器壁面に貼り付いていることを確認した後、上澄み液をデカンテーションにより除去することで、反応生成物を回収した。回収した反応生成分を、減圧乾燥して、ジエチルエーテルを除去して、MI/OH基で修飾されたMI/OH基含有シリカ粒子を得た。図2の(a)は、MI/OH基含有シリカ粒子のH-NMRスペクトルであり、(b)は、MI/OH基含有シリカ粒子のFT-IRスペクトルである。このH-NMRスペクトルとFT-IRスペクトルの結果から、MI/OH基含有シリカ粒子は、末端にメチルイミダゾール基を有し、側鎖に水酸基を有する官能基で修飾されていることが確認できる。
【0039】
【化1】
【0040】
(3)MI/Bu基含有シリカ粒子の作製
攪拌機と温度計を備えた二口フラスコに、MI/OH基含有シリカ粒子を3質量部、ピリジンを45質量部の割合で入れ、内部を窒素ガス雰囲気とした後、攪拌してピリジン中にMI/OH基含有シリカ粒子を分散させた。次いで、二口フラスコを氷水バスに入れて氷冷しながら、内部の窒素ガス雰囲気を維持しつつ、バレリルクロリドを2.2質量部、ジメチルアミノピリジンをスパチュラ一杯分添加した。次いで、二口フラスコを氷水バスから取り出し、二口フラスコを25℃に加熱しその温度を維持しながら24時間攪拌して、下記の式(2)に示す反応により、MI/OH基含有シリカ粒子の水酸基をブチルエステル化した。得られた反応物をジクロロメタン150質量部と混合し、得られた混合物を分液ロートに入れ、分液ロート中で、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液300質量部で2回、飽和食塩水300質量部で1回洗浄した。ジクロロメタンを中心とした有機相を分離した後、300質量部のヘキサンと混合し、遠心分離により固形物を沈降させた後、上澄み液をデカンテーションにより除去して洗浄した。洗浄後の固形物を減圧乾燥して溶媒を除去し、末端にメチルイミダゾール基を有し、側鎖にブチルエステルを有する官能基(MI/Bu基)で修飾されたMI/Bu基含有シリカ粒子を得た。図3の(a)は、MI/Bu基含有シリカ粒子のH-NMRスペクトルであり、(b)は、MI/Bu基含有シリカ粒子のFT-IRスペクトルである。このH-NMRスペクトルとFT-IRスペクトルの結果から、MI/Bu基含有シリカ粒子は、末端にメチルイミダゾール基を有し、側鎖にブチルエステル基を有する官能基で修飾されていることが確認できる。
【0041】
【化2】
【0042】
(4)有機無機ハイブリッド体の作製
サンプル瓶に、DMFを10.5質量部、ビス(トリフルオロメタンスルホニルイミド)亜鉛を0.6質量部の割合で入れて攪拌して、ビス(トリフルオロメタンスルホニルイミド)亜鉛をDMFに溶解させて、亜鉛溶液を調製した。
攪拌機と温度計を備えた二口フラスコに、MI/Bu基含有シリカ粒子を1.5質量部、DMFを10質量部の割合で入れ、内部を窒素ガス雰囲気とした後、攪拌してDMF中にMI/Bu基含有シリカ粒子を分散させた。次いで、MI/Bu基含有シリカ粒子の分散液を撹拌しながら、その分散液に上記の亜鉛溶液を全量加えた。その後、二口フラスコを30℃に維持しながら一晩攪拌して混合した。得られた混合物を、減圧乾燥してDMFを除去し、MI/Bu基含有シリカ粒子と亜鉛とを含む有機無機ハイブリッド体(粉末)を得た。
【0043】
得られた有機無機ハイブリッド体を、7×15×2mmtの型に充填し、100℃で1分間熱プレスして、膜状成形体を得た。
【0044】
[評価]
得られた膜状成形体の機械特性(硬度、ヤング率)と自己修復性の評価を、下記のようにして行った。その結果を、下記の表1に示す。
【0045】
[評価]
(機械特性の評価)
得られた膜状成形体のマルテンス硬度およびヤング率をナノインデンター(株式会社フィッシャーインストルメンツ製ピコデンターHM500)を用いて、荷重1mNの条件にて測定した。
【0046】
(自己修復性の評価)
得られた膜状成形体に対して、ナノインデンター(フィッシャーインストルメンツ製ピコデンターHM500)を用いて、荷重300mNにて約20μm幅の圧子の押圧痕を形成した。押圧痕を形成した膜状成形体を30℃の恒温槽に10分静置した。その後、膜状成形体の表面を観察し、圧子の押圧痕が視認できなくなった場合を「〇」とし、押圧痕が視認できた場合を「×」とした。
【0047】
[本発明例2]
シリカ粒子の代わりに、平均一次粒子径が5nmの酸化ジルコニウム粒子を用いたこと以外は、本発明例1と同様にして有機無機ハイブリッド体を得た。得られた有機無機ハイブリッド体を用いて、本発明例1と同様にして、膜状成形体を作製し、得られた膜状成形体の機械特性(マルテンス硬度、ヤング率)と自己修復性を評価した。その結果を表1に示す。
【0048】
[比較例1]
本発明例1の(1)エポキシ基含有シリカ粒子の作製において、シリカ粒子のメタノール分散液を加えなかったこと以外は、本発明例1と同様にして、末端にイミダゾール基を有する官能基を含むシラン重合体と亜鉛とを含む混合物を得た。得られた混合物を用いて、本発明例1と同様にして、膜状成形体を作製し、得られた膜状成形体の機械特性(マルテンス硬度、ヤング率)と自己修復性を評価した。その結果を表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
表1の結果から、末端にイミダゾール基を有する官能基で表面修飾された修飾酸化ジルコニウム粒子または修飾シリカ粒子と、正に帯電した亜鉛とを含む有機無機ハイブリッド体の成形体は、硬度とヤング率が高く、かつ優れた自己修復機能を有することが確認された。これに対して、末端にイミダゾール基を有する官能基を含むシラン重合体有機物と正に帯電した亜鉛とを含む混合物の成形体は、硬度とヤング率が低くなった。
【符号の説明】
【0051】
1 有機無機ハイブリッド体
2 修飾金属酸化物粒子
3 金属酸化物粒子
4 官能基
5 亜鉛
図1
図2
図3