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特開2023-148890リッド及びその製造方法並びに光半導体
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  • 特開-リッド及びその製造方法並びに光半導体 図1
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  • 特開-リッド及びその製造方法並びに光半導体 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023148890
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】リッド及びその製造方法並びに光半導体
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/02 20060101AFI20231005BHJP
   H01L 33/62 20100101ALI20231005BHJP
【FI】
H01L23/02 C
H01L23/02 F
H01L33/62
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022057169
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000232483
【氏名又は名称】日本電波工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 啓之
(72)【発明者】
【氏名】菊池 賢一
【テーマコード(参考)】
5F142
【Fターム(参考)】
5F142AA82
5F142AA84
5F142BA02
5F142BA22
5F142CA03
5F142CA13
5F142CC25
5F142DB02
5F142FA01
(57)【要約】
【課題】材料コストを抑え、かつ、発光素子を封止する時の煩雑さを低減することができるリッド及びその製造方法並びに光半導体を提供する。
【解決手段】光半導体用のリッド10は、水晶又はガラスで構成された基材11と、基材11の、光半導体用のベースと接合される予定の面の縁部に沿って、基材11の表面上に、リング形状に形成したCr/Ni又はTi/Cuの積層膜12と、積層膜12の上層であるNi層又はCu層に溶着された封止用部材13と、を具えている。封止用部材13は還元雰囲気下で積層膜12のNi層又はCu層の表面上に溶着される。光半導体50は、発光素子20を搭載したベース30と、ベース30と接続し、発光素子20を封止するためのリッド10から構成される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水晶又はガラスで構成された基材を用い、ベースと接合されて使用されるリッドにおいて、
前記基材の、前記ベースと接合される予定の面の縁部に沿って、前記基材の表面上に形成されたCr/Ni又はTi/Cuの積層膜と、
前記積層膜の上層であるNi層又はCu層に溶着されている封止用部材と、
を具えることを特徴とするリッド。
【請求項2】
前記封止用部材はAuSnで構成されていることを特徴とする請求項1に記載のリッド。
【請求項3】
水晶又はガラスで構成された基材、前記基材の、光半導体用のベースと接合される予定の面の縁部に沿って、前記基材の表面上に形成されたCr/Ni又はTi/Cuの積層膜及び前記積層膜の上層であるNi層又はCu層に溶着されている封止用部材を具えるリッドと、
前記リッドに前記封止用部材を介して接続されている当該ベースと、
前記リッド及び前記ベースで形成された容器内に実装されている発光素子と、
を具える光半導体。
【請求項4】
水晶又はガラスで構成された基材を具え、ベースと接合されて使用されるリッドの製造方法において、
前記基材の、前記ベースと接合される予定の面の縁部に沿って封止用部材を溶着するに当たり、
前記基材の、前記ベースと接合される予定の面の縁部に沿って、前記基材の表面上にCr/Ni又はTi/Cuの積層膜を形成する工程と、
前記積層膜の上層であるNi層又はCu層に、還元雰囲気下で前記封止用部材を溶着する工程と、
を含むことを特徴とするリッドの製造方法。
【請求項5】
前記還元雰囲気は水素又はギ酸による還元ガス雰囲気であることを特徴とする請求項4に記載のリッドの製造方法。
【請求項6】
前記還元ガス雰囲気は、体積比において還元剤の濃度が5vol%以下であることを特徴とする請求項4又は5に記載のリッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材料コストを抑え、かつ、封止時の煩雑さを低減することができるリッド及びその製造方法並びに光半導体に関する。
【背景技術】
【0002】
光半導体の一種として、近年、水銀ランプの代替可能性を持ち、深紫外光の出力も可能な発光ダイオードの研究が、盛んになっている。光半導体は、パッケージ内の空間に発光素子を実装すると共に、発光素子を保護するためパッケージに封止構造を設けている。これらパッケージは、発光素子を搭載するためのベースと、発光素子を封止するための蓋となるリッドから構成される。ベースとリッドを封止する方法の一つとして、封止用部材、例えばろう材を用いる方法がある。
【0003】
例えば特許文献1には、パッケージ基板(ベース)、窓部材(リッド)及び金属接合材(ろう材)からなる封止構造の、光半導体用のパッケージが開示されている。このパッケージ基板及び窓部材では、金属接合材と溶着するために、接合予定領域に金属層が設けられており、窓部材に設けられている金属層は、チタン(Ti)、白金(Pt)、金(Au)が順に積層される多層膜である。なお、チタンの替わりにクロム(Cr)を用いても良いし、白金の変わりに銅(Cu)及びニッケルを用いてもよいとされている(特許文献1の段落0032から0035)。
また、金属接合材は接合予定領域に対応した形状の金錫プリフォームとされること、また、金属接合材は、ベース側又はリッド側にあらかじめ仮止めされても良いことが記載されている(特許文献1の段落0041)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018―37581
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術の場合、ろう材をリッドに溶着するための金属層に、Auを使用しているため材料費を高めてしまうという問題がある。近年、Auの価格は高騰しており、原価低減のためにはAuの使用量を減らすことが重要である。また、金属接合材をベース側又はリッド側に仮止めしても良いと記載されているが、予めろう材がリッドに溶着されているほうが、そうで無い場合と比べ、ベースに搭載された半導体素子を封止する際、リッドとベースという2要素のみの位置合わせですむため、封止時の煩雑さを低減することができる。
この発明は、このような点に鑑みなされたものであり、従ってこの出願の目的は、従来よりも材料コストを抑えられ、かつ、封止時の煩雑さを低減することができる、新規の構造を有したリッド及びその製造方法並びに光半導体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的の達成を図るため、この出願のリッドの発明によれば、水晶又はガラスで構成された基材と、前記基材の、ベースと接合される予定の面の縁部に沿って、前記基材の表面上に形成されたCr/Ni又はTi/Cuの積層膜と、前記積層膜の上層であるNi層又はCu層に溶着されている封止用部材と、を具えることを特徴とする。
【0007】
また、この出願の光半導体の発明によれば、水晶又はガラスで構成された基材、前記基材の、光半導体用のベースと接合される予定の面の縁部に沿って、前記基材の表面上に形成されたCr/Ni又はTi/Cuの積層膜及び前記積層膜の上層であるNi層又はCu層に溶着されている封止用部材を具えるリッドと、前記リッドに前記封止用部材を介して接続されている当該ベースと、前記リッド及び前記ベースで形成された容器内に実装されている発光素子と、を具えることを特徴とする。
【0008】
また、水晶又はガラスで構成された基材を具え、ベースと接合されて使用されるリッドの製造方法において、前記ベースと接合される予定の面の縁部に沿って封止用部材を溶着するに当たり、前記基材の、ベースと接合される予定の面の縁部に沿って、前記基材の表面上にCr/Ni又はTi/Cuの積層膜を形成する工程と、前記積層膜の上層であるNi層又はCu層の表面上に、還元雰囲気下で前記封止用部材を溶着する工程と、を含むことを特徴とする
【発明の効果】
【0009】
この発明のリッドによれば、基材に形成したCr/Ni又はTi/Cuの積層膜の上層であるNi層又はCu層の表面上に、Au層を設ける必要がないため、材料コストを抑えることができる。また、予めリッドに封止用部材を溶着していることで、ベースに搭載された電子部品を封止する時に、ベースとリッドという2要素のみの位置合わせですむため、封止時の煩雑さを低減することができる。
また、この発明の光半導体によれば、発光素子を封止するためのリッドとして、基材と、この基材上に形成したCr/Ni又はTi/Cuの積層膜と、この積層膜の上層に溶着した封止用部材とを具えるリッド、すなわちAu層を設けていないリッドを、用いるため、材料コストを抑えることができる。
また、前記リッドの製造方法によれば、基材の表面上にCr/Ni又はTi/Cuの積層膜を形成し、前記積層膜の上層であるNi層又はCu層に、還元雰囲気下で封止用部材を溶着する工程を用いるので、前記Ni層又はCu層の表面上の酸化膜は還元雰囲気下により除去され、前記封止用部材を前記Ni層又はCu層に溶着することが可能となる。従って、前記Ni層又はCu層上にAu層を設ける必要が無く、前記Ni層又はCu層に前記封止用部材を溶着したリッドを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1の(A)図は、本発明の実施形態のリッドの概要を示す斜視図である。図1の(B)図は、本発明の実施形態のリッドの概要を示す断面図である。
図2図2の(A)図は、本発明の実施形態の光半導体の概要を示す斜視図である。図2の(B)図は、本発明の実施形態の光半導体の概要を示す断面図である。
図3】本発明のリッドの製造方法の実施形態を説明する説明図である。
図4図3に続く製法例の説明図である
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照してこの出願のリッド及びその製造方法並びに光半導体の各発明の実施形態についてそれぞれ説明する。
なお、説明に用いる各図はこれらの発明を理解できる程度に概略的に示してあるにすぎない。また、説明に用いる各図において、同様な構成成分については同一の番号を付して示し、その説明を省略する場合もある。また、以下の説明で述べる形状、材質等はこの発明の範囲内の好適例に過ぎない。従って、本発明は以下の実施形態のみに限定されるものではない。
【0012】
1.リッドの構成
図1の(A)図は、本発明の実施形態のリッドの概要を示す斜視図である。また、図1の(B)図は、(A)図中のA-A線に沿った断面図である。
本発明のリッド10は、水晶又はガラスで構成された、例えば、平面視において矩形状に形成された基材11と、基材11の、例えば、光半導体用のベースと接合される予定の面の縁部に沿って、基材11の表面上にリング形状に形成され、基材側から、Cr/Ni又はTi/Cuの積層膜12と、光半導体用のベースに当該基材を接合するため、積層膜12の上層であるNi層又はCu層に溶着されている封止用部材13と、を具えている。
ここで、UVA、UVB及びUBCといった紫外光を発する光半導体用のリッドとして、本発明のリッドを用いる場合、水晶は深紫外光に対する透過率が優れるため、好ましい。また、リッドの基材としてガラスを用いる場合であって、そのリッドを、UVA、UVB及びUBCといった深紫外光を発する光半導体用のリッドとして用いる場合、当該ガラスは、深紫外光に対する透過率が高いもの、例えばホウケイ酸ガラスや石英ガラス等が好ましい。
【0013】
本発明のリッド10によれば、基材に形成したCr/Ni又はTi/Cuの積層膜12の上層であるNi層又はCu層の表面上に、Au層を設ける必要がないため、材料コストを抑えることができる。しかも、予めリッドに封止用部材が溶着されているため、ベースに搭載された発光素子を封止する時に、ベースとリッドの2要素のみの位置合わせですむため、封止時の煩雑さを低減することができる。
【0014】
また、封止用部材13は、耐食性に優れていることに加え、耐熱性の要件も考慮した材料から選ぶのが良い。すなわち、このリッドを用いて完成させた電子部品、例えば、光半導体を、種々の電子機器に実装するときに使用されるはんだ(融点180℃~230℃)よりも融点が高く、上記ハンダ付け時に再溶融されることなくパッケージの気密性を維持できる材料から選ぶのが良く、例えば、AuSn(融点280℃~300℃)が良い。
【0015】
2.光半導体の構成
本発明のリッドは光半導体のパッケージの構成成分である蓋材として使用できる。以下、本発明のリッドを、光半導体のパッケージの蓋材に用いて構成した、光半導体の例を説明する。図2はその説明のための図であり、(A)図は、発光素子を搭載するためのベースと、ベースに搭載される発光素子と、発光素子を封止するための本発明のリッドと、を用いた光半導体の斜視図である。また、(B)図は、(A)図中のB-B線に沿った光半導体の断面図である。ただし、(A)図、(B)図いずれも、分解した状態での斜視図又は断面図である。
【0016】
本発明のリッド10、任意の形状、この例では平面視において矩形状の発光素子20及び、ベースとして、例えば、周知のAlNで構成されたベース30を用意する。この場合のベース30は、平面視において矩形状であり、図2の(A)図及び(B)図に示すように、発光素子20を収納する凹部30aと、ベース30の縁部に沿って土手部30bと、凹部30aの底面に設けた発光素子と接続される配線端子30c及び30dと、ベース30の裏面に設けた実装端子30eと、を具えている。配線端子30cと配線端子30dは、実装端子30eとビア配線(図示せず)により電気的に接続してある。また、土手部30bの天面に、リッド10の封止部材に対応するメタライズ膜(図示せず)を設けてある。
ここで、AlNで構成されたベースは高熱伝導率であり、過剰な熱は光半導体の性能や信頼性に関するさまざまな問題を引き起こすため、熱をできる限り除去する目的として光半導体によく用いられる。
【0017】
配線端子30cの上に、発光素子20を、例えば導電性接着剤(図示しない)で固定し、その後、周知のワイヤボンディング技術により、例えば金線40で発光素子20と配線端子30dとを接続する。次に、発光素子20や金線40を保護するために、凹部30aに封止樹脂を充填し、硬化させる。次に、本発明に係るリッド10を、ベース30に重ね、これらに所定の熱を加えて、リッド10の封止用部材を溶融させて、リッド10とベース30とを接合させる。このようにしてリッド10及びベース30に発光素子20が収納された構造の、光半導体50が得られる。
【0018】
3.リッドの製造方法
図3は、本発明のリッドの製造方法の実施形態を説明する説明図である。初めに、水晶又はガラスで構成された、例えば、平面視において矩形状の基材61を用意する。次に、基材61の、光半導体用のベースと接合される予定の面の表面上に、周知のスパッタ技術によりCr/Ni又はTi/Cuの積層膜62を形成する。次に、積層膜62を、前記ベースと接合される予定の面の縁部に沿って、リング形状になるように、フォトリソグラフィ技術などによりパターニングする。
【0019】
次に、積層膜62を形成した基材61を、図4に示すように処理室70に運ぶ。基材61を処理室70に運んだ後に、処理室70内に還元ガスを注入し、処理室70の雰囲気を還元雰囲気状態にする。処理室70の雰囲気が還元雰囲気状態になった後に、処理室70内にて、基材61の縁部に沿って、ベースと基材61の接合予定領域の形状に予めプリフォームした封止用部材64を、基材61に形成した積層膜62上に重ね合わせる。
ここで、還元雰囲気状態にする理由は次の通りである。通常、積層膜62の上層であるNi又はCu層は、表面上に酸化膜を形成してしまい、酸化膜は濡れ性が低いため、封止用部材63は基材61に溶着できないが、基材61を還元雰囲気下におくことで、Ni又はCu層の表面上の酸化膜を除去することができる。これにより、封止用部材63を基材61に溶着することができる。
【0020】
ここで、使用する還元ガスとして、例えば、水素又はギ酸が挙げられる。また、還元ガスの濃度は、爆発の危険性を考慮すると、体積比において5vol%以下が好ましい。
【0021】
次に、処理室70内の還元ガス雰囲気の温度を、封止用部材63の融点に達するまで上昇させる。これにより、封止用部材63は溶融し、基材61に溶着される。この際、還元ガス雰囲気の温度は、融点まで上昇させて封止用部材63が溶融した後、急峻に降下させる必要がある。これは、温度を上昇させた状態を保ち続けてしまうと、封止用部材63が溶融され続け、プリフォームした形状が崩れてしまうからである。
このように、還元ガス雰囲気下で封止用部材63の溶着を行うことで、Au層を設ける必要が無く、予め封止用部材が溶着されているため、発光素子を封止する時に位置合わせの煩雑さを低減することができる、リッドを得ることができる。
【0022】
ここで、還元ガス雰囲気の温度は、封止用部材にAuSnを用いることを想定した場合、AuSnの融点である280℃~300℃であることが好ましい。
【0023】
なお、上記の実施形態では、基材として平面視において矩形状のものを用い、平面視において矩形状の光半導体を形成する例を述べたが、基材及び光半導体の形状は、例えば平面視において円形状など、用途に応じ任意の形状を選択できる。また、上記の実施形態では、本発明のリッドを光半導体のパッケージの構成成分である蓋材として用いたが、本発明のリッドは光半導体に限らず、他の電子機器のパッケージに用いてもよい。
【符号の説明】
【0024】
10:本発明の実施形態のリッド 11:基材
12:積層膜 13:封止用部材
20:発光素子 30:ベース
30a:凹部 30b:土手部
30c、30d:配線端子 30e:実装端子
40:金線 50:本発明の実施形態の光半導体
60:本発明の実施形態のリッド 61:基材
62:積層膜 63:封止用部材
70:処理室
図1
図2
図3
図4