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特開2023-148911水素供給設備および水素供給システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023148911
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】水素供給設備および水素供給システム
(51)【国際特許分類】
   C01B 3/00 20060101AFI20231005BHJP
   F16L 1/06 20060101ALI20231005BHJP
   F16L 1/028 20060101ALI20231005BHJP
   F17D 5/02 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C01B3/00 Z
F16L1/06
F16L1/028 B
F17D5/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022057197
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000158312
【氏名又は名称】岩谷産業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】592010357
【氏名又は名称】九州計測器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136098
【弁理士】
【氏名又は名称】北野 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100137246
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勝也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 康平
(72)【発明者】
【氏名】山中 祐弥
【テーマコード(参考)】
3J071
4G140
【Fターム(参考)】
3J071AA02
3J071CC07
3J071EE06
3J071EE37
3J071EE38
4G140AB01
(57)【要約】
【課題】導管を通じた水素の供給において、安全性の向上が図られた水素供給設備および水素供給システムを提供すること。
【解決手段】地中に埋設され、地中において延びる、内部に水素が流通される導管と、前記導管の外周を覆い、前記導管に沿って延びる被覆管と、前記被覆管から枝分かれした分岐管と、水素を検出可能であるセンサと、を備える水素供給設備である。前記分岐管は、互いに離隔して複数備えられる。複数の前記分岐管の各々は、地中から地表に延びる管であって、前記被覆管と接続する第1端部と、地上に開口する第2端部とを有する。複数の前記分岐管の各々に前記センサが備えられている。前記センサは、前記第2端部の内部または前記2端部を覆う蓋の裏面に備えられている。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に埋設され、地中において延びる、内部に水素が流通される導管と、
前記導管の外周を覆い、前記導管に沿って延びる被覆管と、
前記被覆管から枝分かれした分岐管と、
水素を検出可能であるセンサと、を備え、
前記分岐管は、互いに離隔して複数備えられており、
複数の前記分岐管の各々は、地中から地表に延びる管であって、前記被覆管と接続する第1端部と、地上に開口する第2端部とを有し、
複数の前記分岐管の各々に前記センサが備えられており、
前記センサは、前記第2端部の内部または前記2端部を覆う蓋の裏面に備えられている、
水素供給設備。
【請求項2】
前記被覆管は、その延びる方向に垂直な断面において、鉛直方向の最上部に弧状部を有し、
前記分岐管の前記第1端部は前記弧状部に接続されている、
請求項1に記載の水素供給設備。
【請求項3】
前記導管には、互いに離隔して複数の遮断機構が備えられており、
前記センサと前記遮断機構とが連動可能である、
請求項1または請求項2に記載の水素供給装置。
【請求項4】
地中に埋設され、地中において延びる導管と、
前記導管を覆い、前記導管に沿って延びる被覆管と、
前記被覆管から枝分かれした分岐管と、
水素を検出可能であるセンサと、
を備え、
前記分岐管は、地中から地表に延びる管であって、前記被覆管と接続部する第1端部と、地上に開口する第2端部とを有し、
前記センサは、前記第2端部の内部または前記2端部を覆う蓋の裏面に備えられており、
前記導管内に水素が流通される時、前記センサは継続的または間欠的に水素濃度を検出し、
前記センサにおいて規定値以上の水素が感知されると、所定の信号が発信され、
前記信号に対応して、前記導管内における水素の流通が遮断される、
水素供給システム。
【請求項5】
前記分岐管は、前記導管の延びる方向に互いに離隔して複数備えられており、
複数の前記分岐管の各々に前記センサが備えられており、
前記導管には、互いに長さ方向に離隔して複数の遮断機構が備えられており、
前記センサのいずれかにおいて規定値以上の水素が感知されると、所定の信号が発信され、
前記信号に対応して水素漏洩箇所が予測され、
前記水素漏洩箇所に対応して前記遮断機構のいずれかが作動し、前記導管内における水素の流通が遮断される、
請求項4に記載の水素供給システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素供給設備および水素供給システムに関する。
【背景技術】
【0002】
水素を輸送するための技術が検討されている。例えば特許文献1は、二重管を用いて水素製造所から水素ステーションまで水素を輸送する際に水素の漏洩を監視するための手段を開示している。特許文献1の漏洩監視システムでは、二重管の内管には水素製造所から水素ステーションに向けて水素・窒素の混合ガスが流通され、内管と外管の間には逆方向に窒素が流通される。また、内管と外管との空間部には伝送ケーブル付きの複数の水素ガス検知器が備えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6265166号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
水素の利用が広がるにつれて、水素を供給するためのインフラに対するニーズが高まっている。本発明は、導管を通じた水素の供給において、安全性の向上が図られた水素供給設備および水素供給システムを提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示にかかる水素供給設備は、地中に埋設され、地中において延びる、内部に水素が流通される導管と、前記導管の外周を覆い、前記導管に沿って延びる被覆管と、前記被覆管から枝分かれした分岐管と、水素を検出可能であるセンサと、を備える。前記分岐管は、互いに離隔して複数備えられている。複数の前記分岐管の各々は、地中から地表に延びる管であって、前記被覆管と接続部する第1端部と、地上に開口する第2端部とを有する。複数の前記分岐管の各々に前記センサが備えられている。前記センサは、前記第2端部の内部または前記2端部を覆う蓋の裏面に備えられている。
【0006】
本開示に係る水素供給システムは、地中に埋設され、地中において延びる導管と、前記導管の外周を覆い、前記導管に沿って延びる被覆管と、前記被覆管から枝分かれした分岐管と、水素を検出可能であるセンサと、を備える。前記分岐管は、地中から地表に延びる管であって、前記被覆管と接続する第1端部と、地上に開口する第2端部と、を有する。前記センサは、前記第2端部の内部または前記2端部を覆う蓋の裏面に備えられている。前記導管内に水素が流通される時、前記センサは継続的または間欠的に水素濃度を検出する。前記センサにおいて規定値以上の水素が感知されると、所定の信号が発信される。前記信号に対応して、前記導管内における水素の流通が遮断される。
【発明の効果】
【0007】
上記水素供給設備および水素供給システムによれば、導管を通じた水素の供給において、安全性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示に係る水素供給設備を示す模式図である。
図2】本開示に係る水素供給設備の一部を示す断面模式図である。
図3】本開示に係る水素供給システムを示す模式図である。
図4】ハンドホール設置間隔とセンサ検知時間との関係を示すグラフである。
図5】ハンドホール設置間隔とセンサ検知時間との関係を示すグラフである。
図6】ハンドホール設置間隔とセンサ検知時間との関係を示すグラフである。
図7】ハンドホール設置間隔とセンサ検知時間との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[実施形態の概要]
まず、実施形態の概要を列挙して説明する。
本開示にかかる水素供給設備は、地中に埋設され、地中において延びる、内部に水素が流通される導管と、前記導管の外周を覆い、前記導管に沿って延びる被覆管と、前記被覆管から枝分かれした分岐管と、水素を検出可能であるセンサと、を備える。前記分岐管は、互いに離隔して複数備えられている。複数の前記分岐管の各々は、地中から地表に延びる管であって、前記被覆管と接続部する第1端部と、地上に開口する第2端部とを有する。複数の前記分岐管の各々に前記センサが備えられている。前記センサは、前記第2端部の内部または前記2端部を覆う蓋の裏面に備えられている。
【0010】
水素社会の実現に向けて、水素を利用する場所に水素を供給するための設備および方法の検討が行われている。水素を供給する方法として、タンクやボンベに収容した液化水素または水素ガスを車輛等に搭載して輸送する方法がある。しかしながら、このような方法には輸送量の限界があり、また、一般家庭において高圧の水素ボンベを取り扱うことは法律上、安全上の観点からも難しい。このため、導管を通じて水素を供給する方法が検討されている。例えば特許文献2の水素漏洩監視システムでは、安全性の観点から二重管が用いられる。さらに、水素・窒素混合ガスを内管に流通させるとともに、外管には逆方向に窒素ガスを流通させる。また、内管と外管との空間部に伝送ケーブル付きの複数の水素ガス検知器を設けている。しかしながら、特許文献2のシステムをインフラとして広範囲に敷設および使用する場合には多大なコストが発生することが予測され、実用性について必ずしも十分ではないと考えられた。この状況の下、発明者らは、安全性の向上が図られた水素供給設備および水素供給システムについて検討を行った。
【0011】
地中に埋設された導管を通じて供給されるガスとして、いわゆる都市ガスがある。周知のとおり都市ガスにはメタンガス等の主成分に加えて付臭剤が付加されており、臭気によって漏洩が感知されやすくされている。臭気成分の付加による安全性の向上は、コストおよび汎用性の点で有利であると考えられた。しかしながら、水素に付臭剤を付加すると、付臭剤成分が水素使用設備(例えば燃料電池設備)に対して影響を与えるおそれがある。このため、水素の供給においては、付臭剤の使用は回避することが好ましいと考えられた。
【0012】
そこで発明者らは、水素を感知するセンサを使用して安全性の向上を図り、また、インフラとして実現しうる実用性を備えた水素供給設備を提供するため検討を進めた。そして、安全性の向上のためには、漏洩が生じた際に早期に検知するとともに、漏洩した水素ガスを放出しうる構成が必要と考えられた。この検討を進める中で、地中における水素の拡散挙動は多くの外的要因を考慮する必要があり、地中で漏洩した水素ガスを早期に確実に水素センサへ感知させることが課題となった。
【0013】
本開示にかかる水素供給設備は、内部に水素が流通される導管と、導管の外周を覆う被覆管と、被覆管から枝分かれした複数の分岐管とが備えられる。分岐管の一端は地上に開口する。また、分岐管の地表近くに水素センサが備えられる。これらの構成によれば、導管から水素の漏洩が生じた場合、漏洩した水素は被覆管に沿って移動し、漏洩箇所から近い位置にある分岐管へと到達して、センサに検出されることが実証された。また、水素センサを地表近くに設けることによって、安全性が確保可能であるとともに、漏洩箇所の特定が容易となることが確認された。さらに、センサを地表近くに設けることによって、センサのメンテナンスの面でも実用性が高く、また、汎用的な技術を用いてセンサと外部設備(制御装置等)との通信を行うことも可能となった。
【0014】
前記被覆管は、その延びる方向に垂直な断面において、鉛直方向の少なくとも最上部に弧状部を有し、前記分岐管の前記第1端部は前記弧状部に接続されていてもよい。このような構成である場合、漏洩した水素が被覆管内に滞留することが抑制され、被覆管から分岐管にすみやかに移動してセンサに感知されることが確認された。このため、より安全性に優れた水素供給設備となる。
【0015】
前記導管には、互いに離隔して複数の遮断機構が備えられており、前記センサと前記遮断機構とが連動可能であってよい。この構成によれば、漏洩が生じた箇所の近傍で水素の流通を遮断することが可能である。また、センサと遮断機構とが連動することによって、よりすみやかに漏洩をストップできる。このため、より安全性に優れた水素供給設備となる。さらに、遮断箇所よりも上流では水素の流通を継続できるため、漏洩による影響を抑制できる。
【0016】
また、本開示にかかる水素供給システムは、地中に埋設され、地中において延びる導管と、前記導管の外周を覆い、前記導管に沿って延びる被覆管と、前記被覆管から枝分かれした分岐管と、水素を検出可能であるセンサと、を備える。前記分岐管は、地中から地表に延びる管であって、前記被覆管と接続する第1端部と、地上に開口する第2端部とを有する。前記センサは、前記第2端部の内部または前記2端部を覆う蓋の裏面に備えられる。前記水素供給システムにおいて、前記導管内に水素が流通される時、前記センサは継続的または間欠的に水素濃度を検出し、前記センサにおいて規定値以上の水素が感知されると、所定の信号が発信される。前記信号に対応して、前記導管内における水素の流通が遮断される。
【0017】
本開示にかかる水素供給システムは、導管からの水素の漏洩を地表近くに設けたセンサによって検出する。本開示にかかる水素供給システムによれば、導管からの水素の漏洩が生じた場合、漏洩した水素が被覆管に沿って移動し、漏洩箇所から近い位置にある分岐管へと到達して、センサに検出されることが実証された。また、センサを地面近くに設けることによって、安全性が確保可能であるとともに、漏洩箇所の特定が容易となることが確認された。さらに、センサを地表近くに設けることによって、センサのメンテナンスの面でも実用性が高く、また、汎用的な技術を用いてセンサと外部設備(制御装置等)との通信を行うことも可能となった。そして、水素が所定値以上となった場合には、センサからの通報によって、水素の流通が遮断される。この構成によって、水素濃度の上昇を防止し、漏洩した水素を安全に大気中に放出できる。本開示に係る水素供給システムは、水素の漏洩を早期に検出可能であり、安全性に優れた水素供給システムである。
【0018】
前記分岐管は前記導管の延びる方向に互いに離隔して複数備えられ、複数の前記分岐管の各々に前記センサが備えられてよい。また、前記導管には、互いに長さ方向に離隔して複数の遮断機構が備えられてよい。前記センサのいずれかにおいて規定値以上の水素が感知されると、所定の信号が発報され、前記信号に対応して水素漏洩箇所が予測されうる。前記水素漏洩箇所に対応して前記遮断機構のいずれかが作動し、前記導管内における水素の流通が遮断されてもよい。これらの構成によれば、漏洩の発生をすみやかに検出することが可能であるとともに、漏洩発生箇所の近傍で水素の流通を遮断することが可能である。また、センサと遮断機構とが連動することによって、よりすみやかに漏洩をストップできる。このため、より安全性に優れた水素供給システムとなる。さらに、遮断箇所よりも上流では水素の流通を継続できるため、漏洩による影響を抑制できる。
【0019】
[実施形態の具体例]
次に、本開示にかかる水素供給設備および水素供給システムの実施形態の一例を、図面を参照しつつ説明する。以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
【0020】
本開示にかかる水素供給設備および水素供給システム(以下、水素供給設備および水素供給システムをまとめて水素供給設備等ということがある)において供給される水素は、水素以外に恣意的に添加された成分を含まない水素ガス(以下では100%水素ガスということもある)であってもよく、水素以外の成分を含む水素含有ガスであってもよい。水素に添加または混合される成分としては、例えば、窒素ガス等の不活性ガス、付臭剤として用いられるTBM(ターシャリーブチルメルカプタン)、THT(テトラヒドロチオフェン)、DMS(ジメチルサルファイド)等の有機硫黄化合物やCH(シクロヘキセン)等の硫黄分が挙げられる。水素は、不活性ガスや付臭剤を含まない100%水素ガスであることが好ましい。
【0021】
本開示にかかる水素供給設備等に供給される水素は、例えば、液化水素ガスを気化させる気化設備や水素製造プラントからパイプラインを通じて供給されうる。また、タンクに収容された状態で水素ステーションに輸送され、水素ステーションから本開示にかかる水素供給設備等に供給されてもよい。本開示にかかる水素供給設備等の設置場所は、特に制限されない。例えば、本開示にかかる水素供給設備等は水素ステーションから一般家屋やビル等までの間に敷設されるものであってよい。本開示にかかる水素供給設備等はインフラとして整備されうる。また、本開示にかかる水素供給設備等は、例えば工場敷地内に工場設備の一部として敷設されうる。
【0022】
図1は、本開示に係る水素供給設備を模式的に示した図である。図1を参照して、水素供給設備1の概要を説明する。水素供給設備1は、内部に水素が流通される導管としてのパイプライン11と、パイプライン11の外周に備えられる被覆管としてのカバー21と、カバー21から枝分かれした分岐管31とを備える。パイプライン11の上流には、ガバナ61が設けられている。ガバナ61の上流には、パイプライン71を介してタンク62が接続されている。タンク62はさらに水素製造プラント等にパイプラインを介して接続されていてもよい。また、タンク62は取り換え可能な高圧タンクであってもよい。当然ながら、図示した以外にも複数のガバナやその他の装置を備えてよい。
【0023】
パイプライン11は、地中に埋設され、地中において延びる埋設管である。埋設深さは例えば、地表から0.6m~1.2m程度下であってよく、典型的には地表から1m下である。パイプライン11の長さは、本開示の効果を奏する限り特に制限されないが、例えば、数十m~数百kmであってよい。また、図1ではパイプライン11を模式的に図示しているが、パイプライン11はカーブや分岐を有していてもよい。
【0024】
パイプライン11は、ステンレス鋼や炭素鋼等からなる鋼管であってもよく、ポリエチレンや塩化ビニル等の樹脂管で構成されていてもよい。パイプライン11の外周面に不織布やジュート材等の被覆部材が取り付けられていてもよい。パイプライン11の直径は、所望の流量に応じて適宜設定でき、例えば、内径が50mm~750mm程度であってよい。
【0025】
カバー21は、パイプライン11の上部を覆い、パイプライン11に沿って延びる。図1では理解容易のためにカバー21の一部を示しているが、カバー21はパイプライン11の全長にわたって設けられていることが好ましい。カバー21の長さ方向に垂直な断面は、半円形である。カバー21には複数の分岐管31が接続し、カバー21と分岐管31との間は連通している。
【0026】
図1の例ではカバー21の断面は半円形であるが、カバー21の形状はこの形状に制限されず、例えば中空円筒状の管であってもよい。カバー21は、パイプライン11の外周の少なくとも上部を覆う。なお、パイプライン11の外周の上部とは、パイプライン11の中心軸よりも鉛直方向における上である部分を意味する。カバー21の断面形状は、鉛直方向の少なくとも最上部に弧状部を有することが好ましい。なお、カバー21の断面形状における鉛直方向の少なくとも最上部とは、カバー21の断面のうち、鉛直方向で最も高い位置にある部分を意味している。カバー21の断面は、半円形、円形、楕円形、逆U字状等であってよい。カバー21の断面が半円形であるとき、弦に相当する部分は開口していてもよいし、底面を有してもよい。なお、半円形とは、数学的に精密な二分の一円であることのみを意味するものではなく、実用上半円として用いられる、弧状部と直線部から構成される形状を含む。
【0027】
パイプラインから水素ガスの漏洩が発生した場合、漏洩した水素ガスは、まずパイプラインとカバーの間に形成される空間の上部に移動する。当初、漏洩した水素を効率よく集約させるために、カバーの上部が狭くなっていることが好ましいという考えに従い、断面形状が三角形のカバーを用いることが検討された。しかしながら、実証を進める過程において、漏洩した水素を確実に早期に検知するためには、漏洩した水素を集約するだけでは必ずしも充分ではなく、漏洩した水素がカバーの中で滞留することなく移動しやすいことが肝要であると判明した。そして、鉛直方向の少なくとも最上部に弧状部を有する断面のカバーによれば、すみやかに漏洩した水素がハンドホールのセンサまで到達し、漏洩が感知されることが確認された。
【0028】
カバー21の材質は、ポリエチレンや塩化ビニル等の樹脂管であってもよく、ステンレス鋼や炭素鋼等からなる鋼管であってもよい。また、外周面に不織布やジュート材等の被覆部材が取り付けられていてもよい。カバー21の直径は、パイプライン11の直径に応じて選択されうるが、例えば52mm~800mmであってよい。
【0029】
分岐管31は、カバー21の上部に接続される。分岐管31は、カバー21の鉛直方向における最上部に接続されることが好ましい。分岐管31の両端のうち、第1端部としての第1部分32はカバー21に接続する。第2端部としてのハンドホール33は地上に開口する。ハンドホール33の上面は地表面と実質的に同じ高さであってもよく、ハンドホール33の一部が地上に突出していてもよい。第1部分32の断面積は、カバー21の断面積よりも小さい。第1部分32は、断面が円形の円筒管である。ハンドホール33は、第1部分32よりも断面積が大きく、断面が四角形の箱状部分であってもよい。ハンドホール33は、コンクリートや樹脂製であってよい。ハンドホール33には、開閉可能な蓋34が備えられている。蓋34は手動によって開閉可能であってもよく、信号に基づいて開閉動作を実行する開閉機構が備えられていてもよい。
【0030】
分岐管31は、パイプライン11の延びる方向において、互いに離隔して複数設けられている。隣接する分岐管31の間隔はすべて同じであってもよく、間隔が異なっていてもよい。例えば、水素ガスの供給元に近い場所では、その下流よりも分岐管31の間隔が小さくてもよい。分岐管31が設けられる間隔は本開示にかかる効果を奏する限り制限されないが、例えば5m~300mであってよく、100m~200mであれば好ましい。一例として、パイプライン11に0.1MPa~1.2MPa(ゲージ圧)の水素ガスが流通されるとき、分岐管31は100m~300mの間隔で設置されてもよい。分岐管の間隔が大きすぎる(例えば3kmに1箇所)と、水素の漏洩が生じた場合にすみやかな検出が困難である。また、分岐管からの水素ガス放出にも懸念がある。一方で、分岐管の間隔が小さい(例えば3mに1箇所)場合、インフラとして敷設しうる実用性に懸念がある。この点、本開示にかかる水素供給設備においては、実用可能な間隔で分岐管を設置し、万一漏洩が生じた場合にはすみやかに水素ガスを検知し、また分岐管から水素ガスを放出することも可能であるため、安全が確保される。
【0031】
分岐管31の蓋34の裏面に、水素を検出可能であるセンサ41が備えられている。センサ41の設置位置は、ハンドホール33の内部であってもよい。センサ41が分岐管31の中に設置される構成、とりわけ、ハンドホール33の内部に設置される構成によって、メンテナンスが容易であるとともに地上設備との通信の確実性が向上する。
【0032】
センサ41は、水素を検出できるセンサを用いればよく、例えば、接触燃焼式センサ、熱伝導式センサ、半導体式センサ、固体電解質式センサ等を選択できる。反応速度、応答性等の観点から、接触燃焼式センサであることが好ましい。センサ41は、例えば水素濃度が所定の値を超えたことを検出する。所定の値としては、例えば、100ppm、4000ppm、40000ppm等であってよい。また、センサ41は、水素濃度の変動を検出してもよい。例えば、所定の時間内(例えば1分、10分、30分、60分)の水素濃度の変動が一定値(例えば2%、10%、30%、50%)以上となることを検出してもよい。また、センサ41は水素濃度を検出し、別の装置によって検出値の評価が行われてもよい。
【0033】
パイプライン11には、遮断機構としての遮断弁51が設けられる。図1の例では分岐管31の1箇所に対して1箇所の遮断弁51が設けられているが、複数の分岐管31に対して1箇所の割合で遮断弁51が設けられていてもよい。また、パイプライン11の上流の1箇所に設けられていてもよい。遮断弁51は、パイプライン11における水素の流通を遮断する機能を有する。遮断弁51は、通信機能を有し、センサ41からの信号に対応して遮断動作を行いうるものであってよい。
【0034】
上記以外に、水素供給設備1には水素を安定に供給し、安全を確保するための各種装置を備える。例えば、自動または手動で操作可能な流量制御弁、圧力調整弁、圧力センサや温度計等の計測機器類および付随するケーブル、保護装置等が備えられていてもよい。
【0035】
図2は、本開示に係る水素供給設備1における、パイプライン11の長さ方向に対して垂直な断面模式図である。パイプライン11は地中に埋設される。パイプライン11は地中に直接埋設されていてもよいし、保護部材に覆われていてもよい。パイプライン11の外周側に、カバー21が被せられる。カバー21は断面が半円形である。パイプライン11とカバー21の間には空間Sが形成される。空間Sが過大であると漏洩した水素ガスは空気と混合し、水素ガスの漏洩を速やかに検知できないおそれがある。空間Sは常圧の空気で満たされている。
【0036】
分岐管31は、第1部分32と、ハンドホール33とを含む。ハンドホール33は開閉可能な蓋34を有する。第1部分32は、カバー21の上部から鉛直方向上向きに延び、地表面に達する。第1部分32は、カバー21よりも断面積が小さい小径の管である。このように構成することで、漏洩した水素をすみやかにセンサ41の位置まで誘導できる。ハンドホール33は、第1部分32よりも断面積が大きい直方体の箱状部分である。ハンドホール33にセンサ41が設置される。図3の例では蓋34の裏面にセンサ41が設置されている。分岐管31ないしハンドホール33の内部には、センサ41以外にもその他の計測機器や通信機器、電源等が設置されていてもよい。分岐管31は、第1部分32とハンドホール33以外にも、接続部材やさらに径の異なる誘導管等の別の部材を含んでもよい。
【0037】
図3は、本開示に係る水素供給システムを示す模式図である。本開示に係る水素供給システム100は、前述の水素供給設備1を用いて実行されるシステムである。記述の構成には同じ符号を付し、説明を省略する。ここではシステムの動作について主に説明する。
【0038】
水素供給システム100は、水素ステーションや水素製造工場等である水素供給源から、一般家屋やビル、工場等の水素使用場所までの全域にわたってもよいし、一部のみに設けられてもよい。
【0039】
図3を参照して、水素供給システム100では、パイプライン11を通じて水素ガスGが図中矢印の方向に流通される。パイプライン11内の水素Gの圧力は、例えば0.1MPa~1.2MPaである。典型的には、0.1MPa未満、または、0.1MPa以上1.0MPa未満であってよい。これらの範囲とすることで、水素ステーション等から一般家屋等の水素使用場所までの水素供給を実施できると考えられる。なお、水素ステーションと水素使用場所との間には、複数箇所にガバナが設けられて、所定の圧力に調整されうる。
【0040】
図3の例では、すべてのハンドホール33にセンサ41(s1,s2,s3)が設けられる。別の実施態様として、複数のハンドホール33のうちの1箇所ごとにセンサ41を設置してもよい。例えば、センサを設けるハンドホールとセンサを設けないハンドホールを交互に設けることもできる。ハンドホール33に設置されたセンサ41は、継続的または間欠的に水素濃度を検出する。すべてのセンサ41が検出動作を行ってもよいし、複数のセンサ41のうち一部が動作するよう設定してもよい。
【0041】
センサ41は無線通信機能を備える。センサ41が検出した水素データは、無線通信によって発信される。受信機を含む制御装置110が水素データを受け取る。別の方式として、センサ41を含む機器に演算機能が搭載されており、センサ41において水素データを分析した上で必要に応じて制御装置110に対して信号を発信することもできる。
【0042】
センサ41または制御装置110において水素データが解析される。具体的な方法は制限されないが、一例としては例えば、水素濃度が所定の規定値未満であること、あるいは、水素濃度の変動が所定の変動範囲に満たないことが感知されると、異状なしと判断され、検出が継続される。一方、水素濃度が所定の値以上であること、あるいは、水素濃度の変動が所定の範囲以上であることが感知されると、所定の信号が発信される。所定の信号は例えば、漏洩感知信号、漏洩箇所特定信号、緊急遮断警報等である。
【0043】
図3を参照して、パイプライン11に破断Xが生じると、破断Xから水素ガスが漏洩する。漏洩した水素はカバー21内で拡散する。このとき、漏洩した水素は、水素の物性に従ってカバー21の上部に沿って広がり、さらに破断Xに近い位置にある分岐管31内を上昇する。分岐管31内の上部にあるハンドホール33に達した水素は、センサs2において、水素濃度の変化として感知される。水素を感知したセンサs2が所定の信号を発信する。
【0044】
信号を受信した制御装置110は、センサ41(s1,s2,s3)のうち、センサs2からの信号であることを判別する。制御装置110は、信号を発信したセンサs2の位置情報を元に破断Xの位置を推定する。破断Xの位置推定に基づいて、遮断弁b2に遮断信号が発信される。別の方式として、制御装置110は、センサ41からの発信を受信した場合、最上流部に設置された遮断弁b1を閉じることとしてもよい。また、信号を発信したセンサs2に対応する分岐管31の蓋c2を開放する指令を発信する。蓋c2が開放されると、分岐管31と地上とが連通し、漏洩した水素は分岐管31を通じて大気中に拡散する。このため、漏洩した水素がハンドホールに滞留して水素濃度が上昇することが回避される。また、このようにして、水素の漏洩が生じた場合であっても、漏洩した水素をすみやかに開放して水素濃度を低下させることができる。また、パイプライン11を遮断することによって、水素の漏洩をストップさせることができる。
【0045】
(実験による実証)
下記の手順により、本開示にかかる水素供給設備の有効性を実証した。
【0046】
1.カバー形状の検討
パイプラインのカバー形状を検討した。
パイプラインのカバーを想定して、断面積が15000mmであり、断面形状が半円形、三角形、四角形、長さ1200mmの塩ビ管を準備した。三角形の形状のカバーは強度確保の観点から、最上部に一定間隔で補強板を設置した。
塩ビ管の最上部に水素センサ(九州計測器株式会社製、型番:Hydlog10)を設置した。次いで、これらの塩ビ管に水素ガス(水素:3.5%、窒素96.5%、岩谷瓦斯(株)製)を流量1L/minで流通させて、水素の拡散挙動、水素の滞留の有無を確認した。
その結果、断面形状が半円形の塩ビ管は、他の形状と比較して、水素の検知時間が短く、水素の滞留は無かった。
以上より、パイプラインのカバーとして、断面形状が半円形である管を用いることが好ましいと考えられた。
【0047】
2.水素供給設備の実証
パイプラインのカバーのモデルとして、内径194mmの半円型の塩化ビニル管VPを地上に載置した。塩化ビニル管の長さは12mとした。塩化ビニル管の模擬漏洩箇所から3m、5m、8mの各地点に、パイプラインに対して鉛直上向きに延びる分岐管を設置した。この距離は、ハンドホールの設置間隔を模擬するものである。分岐管は、内径100mmの塩化ビニル管VP(長さ895mm)と、その上部に1辺が216mmの角型ハンドホールとを有する形状とした。ハンドホール内に、水素ガス検知器(新コスモス電機株式会社製、可燃性ガス検知器XP-3160)を設置した。
塩ビ管の端部を模擬漏洩箇所とし、この模擬漏洩箇所から塩化ビニル管内に1L/min、0.75L/min、0.5L/min、0.3L/minの各流量にて、水素ガス(100%)を流通させた。ハンドホール上部に設置した水素ガス検知器によって、ハンドホール上部における水素ガス濃度の変化を測定した。水素ガス流量を1L/minとした場合の結果を[図4]に示す。[図4]を参照して、流量(模擬漏洩量)が1L/minの場合、ピッチ間隔が3,5,8mである場合、模擬漏洩開始からそれぞれ1分40秒、4分、7分30秒にて水素検知量が100ppmとなることが確認された。またこの水素検知量は漸増することが確認された。
【0048】
上記の結果を元に、より実際的な水素流量および圧力とする場合のハンドホールの設置間隔を検討した。
具体的に、水素漏洩箇所を直径5mmのピンホールと想定し、0.1MPaから1.2MPaまでの各圧力における水素ガス漏洩量(L/min)を算定した。なお、地中の温度は季節によって大幅に変動し、温度に応じてガス密度も変動する。このため、夏(地中温度25℃)および冬(地中温度5℃)の場合の各水素ガス供給圧力に対する水素ガス漏洩量を算定した。算定結果を[表1]に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
上記より水素漏洩量を1000L/minと想定し、[図4]およびその他の流量における結果を参照して、ハンドホール設置間隔とハンドホールに設置した水素ガス検知器の検出値が100ppmとなるまでの時間(検知時間)との関係を算出した。このシミュレーションにより得られたグラフを[図5]に示す。また、水素漏洩量を500L/minと想定した場合も同様に、ハンドホール設置間隔とハンドホールに設置した水素ガス検知器の検出値が100ppmとなるまでの時間(検知時間)との関係を算出した。このシミュレーションにより得られたグラフを[図6]に示す。
【0051】
図5]を参照して、中圧(0.1MPa以上1.0MPa未満)および低圧(0.1MPa未満)での水素ガス輸送においてパイプラインに直径5mmの穴が発生した場合、例えばハンドホールの設置間隔を300mとすると、漏洩開始より170秒(3分未満)で検出できることが確認される。また[図6]を参照して、水素漏洩量が1/2(500L/min)である場合も、例えばハンドホールの設置間隔を300mとすると、漏洩開始より320秒(6分未満)で検出できることが確認される。さらに、[図7]を参照して、水素漏洩量が100L/minである場合も、例えばハンドホールの設置間隔を300mとすると、漏洩開始より1700秒(30分未満)で検出できることが確認された。さらに少ない水素漏洩量を想定する場合も、ハンドホールを100m程度の間隔で設置すれば速やかに漏洩が検出できることがシミュレーションされた。これらの結果より、本開示にかかる水素供給設備によれば、インフラとして実用可能なハンドホールの設置間隔で、すみやかに水素漏洩を検知可能な水素供給設備が実現できるものと考えられた。
【0052】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、どのような面からも制限的なものではないと理解されるべきである。本発明の範囲は上記した意味ではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0053】
1 水素供給設備、11、71 パイプライン、21 カバー、31 分岐管、33 ハンドホール、34 蓋、41 センサ、51 遮断弁、61 ガバナ、62 タンク、100 水素供給システム、110 制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7