(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023148926
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】塗布ヘッド
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20231005BHJP
B05C 5/00 20060101ALI20231005BHJP
B05D 1/26 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
B41J2/14 607
B41J2/14 301
B41J2/14 613
B05C5/00 101
B05D1/26 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022057220
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】熊澤 謙太郎
(72)【発明者】
【氏名】中谷 修平
(72)【発明者】
【氏名】入江 一伸
(72)【発明者】
【氏名】大塚 巨
(72)【発明者】
【氏名】豊福 洋介
【テーマコード(参考)】
2C057
4D075
4F041
【Fターム(参考)】
2C057AF70
2C057AG45
2C057AG47
2C057AH20
2C057AP02
2C057AP25
2C057AP61
2C057BA14
4D075AC06
4D075AC09
4D075AC84
4D075AC88
4D075CA44
4D075DC24
4D075EA07
4D075EA33
4D075EC30
4F041AA05
4F041AB02
4F041BA01
4F041BA10
4F041BA12
4F041BA13
4F041BA17
4F041BA34
4F041BA59
(57)【要約】
【課題】インクに対する接液面の耐性を向上できる塗布ヘッドを提供する。
【解決手段】塗布ヘッドは、複数のノズルと、複数のノズルに連通する複数の圧力室と、複数の圧力室に連通するインク流路と、を備え、ノズル、圧力室及びインク流路の接液面の少なくとも一部に、コーティング層が設けられている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のノズルと、
複数の前記ノズルに連通する複数の圧力室と、
複数の前記圧力室に連通するインク流路と、を備え、
前記ノズル、前記圧力室及び前記インク流路の接液面の少なくとも一部に、コーティング層が設けられている、
塗布ヘッド。
【請求項2】
前記コーティング層は、金属酸化物で形成された層を含む、
請求項1に記載の塗布ヘッド。
【請求項3】
前記コーティング層は、複数層からなる積層構造を有する、
請求項1又は2に記載の塗布ヘッド。
【請求項4】
前記コーティング層の最下層は、他の層に比較して、前記接液面に対する密着性が最も高い、
請求項3に記載の塗布ヘッド。
【請求項5】
前記コーティング層の最表層は、他の層に比較して、濡れ性が最も高い、
請求項3又は4に記載の塗布ヘッド。
【請求項6】
前記最表層は、接触角が10°以下である、
請求項5に記載の塗布ヘッド。
【請求項7】
ノズルプレート、圧力室プレート及び振動板プレートが積層され、接着されることにより形成され、
前記ノズルプレートと前記圧力室プレートとの間に介在する第1接着層、及び、前記圧力室プレートと前記振動プレートとの間に介在する第2接着層は、前記接液面の一部を形成し、
前記コーティング層は、前記第1接着層及び前記第2接着層を覆う、
請求項1から6のいずれか一項に記載の塗布ヘッド。
【請求項8】
前記コーティング層は、前記第1接着層及び前記第2接着層に対応する部分が、その他の部分よりも厚い、
請求項7に記載の塗布ヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、塗布ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶パネルや有機ELパネル等の電子デバイスの製造に、インクジェット方式の塗布装置が利用されている。塗布ヘッドの一例として、塗布対象物に対して、必要なタイミングで必要な量のインク液滴を、高周波駆動(例えば、50kHZ)で高精度に吐出できるドロップオンデマンド型の塗布ヘッドが知られている。この種の塗布ヘッドは、一般に、インク流路、インク流路に接続されインクを貯留する圧力室、圧力室に貯留されているインクに加圧する圧電素子(ピエゾ素子)、及び、圧力室に連通するノズル等を備えている(例えば、特許文献1参照)。圧電素子に通電して圧力室内のインクに加圧することにより、ノズルからインク液滴が吐出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
塗布装置を利用して電子デバイスを製造する場合、多様な材料をインク化する必要があり、強溶解性の溶媒を用いてインク化が行われることもある。このような強溶解性の溶媒を含むインクは、塗布ヘッドの接液部を溶解する虞がある。特に、複数のプレートを積層し、プレート間を接着剤により接合して塗布ヘッドを形成する場合、接着層が接液面に露出することとなり、溶媒による損傷を受けやすい。
【0005】
本開示の目的は、インクに対する接液面の耐性を向上できる塗布ヘッドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る塗布ヘッドは、
複数のノズルと、
複数の前記ノズルに連通する複数の圧力室と、
複数の前記圧力室に連通するインク流路と、を備え、
前記ノズル、前記圧力室及び前記インク流路の接液面の少なくとも一部に、コーティング層が設けられている。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、インクに対する接液面の耐性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施の形態に係る塗布ヘッドの外観を示す分解斜視図である。
【
図2】
図2は、実施の形態に係る塗布ヘッドを模式的に示す図である。
【
図3】
図3は、塗布ヘッドにおけるインク流路の一例を模式的に示す断面図である。
【
図4】
図4は、塗布ヘッドにおけるインク流路の一例を模式的に示す断面図である。
【
図6】
図6A~
図6Dは、インク流路にインクを導入する様子の一例を示す遷移図である。
【
図7】
図7A~
図7Dは、インク流路にインクを導入する様子の一例を示す遷移図である。
【
図8】
図8は、塗布ヘッドの製造工程の一例を示すフローチャートである。
【
図9】
図9は、塗布ヘッドにおけるインク流路の他の一例を模式的に示す断面図である。
【
図10】
図10は、塗布ヘッドにおけるインク流路の他の一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施の形態に係る塗布ヘッド1について、図面を参照しながら説明する。塗布ヘッド1は、例えば、インク循環型の塗布ヘッドである。本開示では、直交座標系(X,Y,Z)を使用して説明する。Z軸の正方向が塗布ヘッド1におけるインクの吐出方向、X軸に沿う方向がノズル101の配列方向、Y軸に沿う方向が圧力室102に接続されるインク流路(上流個別流路103及び下流個別流路104)におけるインクの流動方向である。以下において、X軸、Y軸及びZ軸に沿う方向を、それぞれ「X軸方向」、「Y軸方向」及び「Z軸方向」と称する。
【0010】
図1は、実施の形態に係る塗布ヘッド1の外観を示す分解斜視図である。
図2は、実施の形態に係る塗布ヘッドを模式的に示す図である。
図3、
図4は、塗布ヘッド1におけるインク流路を模式的に示す断面図である。
図3は、
図2におけるA-A断面を示し、
図4は、
図2におけるB-B断面を示す。
【0011】
塗布ヘッド1は、
図3、
図4に示すように、ノズル101、圧力室102、上流個別流路103、下流個別流路104、上流共通流路105、下流共通流路106、及び圧電素子107等を備える。ノズル101、圧力室102、上流個別流路103、下流個別流路104、上流共通流路105及び下流共通流路106は、ノズルプレート10、圧力室プレート20、振動プレート30及びハウジング40の内部に、又はこれらが結合されることにより形成される。
【0012】
ノズルプレート10は、板面がZ軸に直交するように配置される。ノズルプレート10は、例えば、エッチングやプレス加工によって成型されたステンレス板で形成される。ステンレス板の厚みは、例えば、100μmである。
【0013】
圧力室プレート20は、直方体形状を有し、Z軸方向においてノズルプレート10の負側に、板面がZ軸と直交するように配置される。圧力室プレート20は、振動プレート30及びノズルプレート10によって挟持される。圧力室プレート20は、例えば、エッチングやプレス加工によって成型された複数のステンレス板の積層体である。それぞれのステンレス板の厚さは、例えば、10~100μmであり、積層数は、例えば、3~10層である。
【0014】
振動プレート30は、Z軸方向において、圧力室プレート20の負側に、板面がZ軸と直交するように配置される。振動プレート30は、ハウジング40及び圧力室プレート20によって挟持される。振動プレート30は、例えば、厚さが5~50μmの薄膜であり、例えば、ニッケルの電気めっきにより形成される。振動プレート30は、圧電素子107の変動を受ける受圧部33を有する。受圧部33は、複数の圧力室102のそれぞれに対応して設けられ、例えば、Z軸方向の負側に突出して形成される。
【0015】
ハウジング40は、直方体形状を有し、Z軸方向において、振動プレート30の負側に配置される。ハウジング40は、例えば、Z軸方向の厚さが1cmである。ハウジング40は、例えば、ステンレス鋼などの合金鋼を切削加工することにより形成される。
【0016】
圧力変動部50は、ハウジング40に形成された収容室(図示略)に配置される。圧力変動部50は、圧電素子107を有する。
【0017】
ノズルプレート10と圧力室プレート20の間、圧力室プレート20と振動プレート30の間、振動プレート30とハウジング40の間、及び振動プレート30と圧力変動部50の間は、それぞれ、接着剤により接着固定される。接着剤には、例えば、熱硬化特性を有するエポキシ系接着剤が用いられる。なお、それぞれの構成要素を接着する接着剤は、同一の接着剤であってもよいし、異なる接着剤であってもよい。
【0018】
ノズルプレート10と圧力室プレート20との間には第1接着層61が介在する。圧力室プレート20と振動プレート30との間には第2接着層62が介在する。第1接着層61及び第2接着層62は、圧力室102、上流共通流路105及び下流共通流路106の一部を形成する。すなわち、第1接着層61及び第2接着層62は、インク流路における接液面となる。第1接着層61及び第2接着層62は、有機物を含んでおり、インクに溶解されやすいため、特にコーティング層70による保護が必要な部分といえる。振動プレート30と圧電素子107との間には第3接着層63が介在する。
【0019】
複数のノズル101は、ノズルプレート10に、X軸に沿って穿設されている。ノズル101は、ノズルプレート10をZ軸方向に貫通する穴である。ノズル101を介して、インク液滴が外部に吐出される。ノズル101の直径は、例えば、3~100μmである。なお、ノズル101は、X軸に沿って1列で配置されてもよいし、複数列で配置されてもよい。
図1では、ノズル101は、X軸に沿って2列で配置されている。ノズル101が複数列で配置される場合、それぞれのノズル列に対して、圧力室102、上流個別流路103、下流個別流路104、上流共通流路105及び下流共通流路106が設けられる。
【0020】
圧力室102は、圧力室プレート20に形成された凹部の開放面(Z軸方向における負側の面)が、振動プレート30によって閉塞されることにより形成されている。圧力室102は、インクを貯留するインク貯留空間である。圧力室102は、複数のノズル101のそれぞれに対して一対一で設けられ、ノズル101と連通する。圧力室102は、例えば、Y軸に沿って延びる直方体形状を有する。なお、圧力室102の内面には、段差が形成されていてもよい。
【0021】
上流個別流路103は、圧力室102のインク流動方向の上流に配置され、圧力室102と上流共通流路105を連通する。上流個別流路103は、複数の圧力室102のそれぞれに対して、1対1で設けられる。
【0022】
下流個別流路104は、圧力室102のインク流動方向の下流に配置され、圧力室102と下流共通流路106を連通する。下流個別流路104は、複数の圧力室102のそれぞれに対して、1対1で設けられる。
【0023】
上流共通流路105は、上流個別流路103のインク流動方向の上流に配置されるインク貯留空間である。上流共通流路105は、複数の上流個別流路103に対して共通して設けられる。上流共通流路105は、振動プレート30に形成された開口31を介して、ハウジング40に形成されたインク供給路(図示略)と連通する。
【0024】
下流共通流路106は、下流個別流路104のインク流動方向の下流に配置されるインク貯留空間である。下流共通流路106は、複数の下流個別流路104に対して共通して設けられる。下流共通流路106は、振動プレート30に形成された開口32を介して、ハウジング40に形成されたインク排出路(図示略)と連通する。
【0025】
圧電素子107は、複数の圧力室102に対応して設けられ、振動プレート30の受圧部33と接触する。圧電素子107は、電圧を印加することによって、例えば、Z軸方向に伸縮するように変形する。圧電素子107には、例えば、D33モードの積層型ピエゾアクチュエーターが適用される。
【0026】
塗布ヘッド1において、ハウジング40のインク供給路(図示略)を介して外部のインク供給タンク(図示略)から供給されたインクは、上流共通流路105、上流個別流路103を経由して圧力室102に供給され、下流個別流路104、下流共通流路106を経由して、インク排出路(図示略)から排出される。排出されたインクは、例えば、循環ポンプ(図示略)により、インク供給タンクに循環される。このように、インクを滞留させずに循環させることで、インクが圧力室102やノズル101に滞留してノズル詰まりが生じるのを防止することができる。
【0027】
インク循環型の塗布ヘッド1では、インク供給路(図示略)に接続されたインク供給タンク(図示略)の圧力は、インク排出路(図示略)に接続されたインク排出タンク(図示略)の圧力よりも高くなるように設定される。例えば、インク供給タンクとインク排出タンクのZ軸方向の位置(圧力室102を基準とする高さ)を異ならせることにより、圧力差を制御することができる。また例えば、インク供給タンク及びインク排出タンクの内圧を、レギュレーターで個別に制御するようにしてもよい。
【0028】
塗布ヘッド1において、圧電素子107に電圧が印加されると、圧電素子107は、例えば、Z軸方向に伸張するように変形し、振動プレート30の受圧部33にZ軸方向の振動が伝達される。これにより、振動プレート30が変形し、圧力室102に貯留されているインクに圧力変動が生じる。この圧力変動がノズル101に向けて伝播することにより、ノズル101からインク液滴が吐出される。
【0029】
本実施の形態では、ノズル101、圧力室102、上流個別流路103、下流個別流路104、上流共通流路105及び下流共通流路106の接液面の全面に、コーティング層70が設けられている。コーティング層70を設けることにより、ノズル101、圧力室102、並びに、上流個別流路103、下流個別流路104、上流共通流路105及び下流共通流路106を含むインク流路が、インクによって溶解されるのを防止できる。インクには、一般に、強溶解性の溶媒(例えば、N,N-ジメチルホルムアミド CAS68-12-2)が用いられる。
【0030】
コーティング層70は、インクによって溶解されない耐薬品性、下地(例えば、ノズルプレート10)に対する高い密着性、及び高い濡れ性(例えば、接触角30°以下)が要求される。これらの性状は、例えば、コーティング層70を積層構造とすることで、実現することができる。
【0031】
【0032】
図5Aに示すコーティング層70は、単層構造を有する。コーティング層70は、インクによって溶解されない耐薬品性の高い材料で形成される第1コーティング層71を含む。第1コーティング層71は、例えば、樹脂膜、金属膜又は金属酸化膜である。樹脂膜の場合、例えば、パリレン樹脂が好適である。金属膜の場合、例えば、金、ニオブ、タンタルが好適である。金属酸化膜の場合、例えば、アルミナ、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化タルタル、酸化シリコンが好適である。
【0033】
特に、第1コーティング層71が金属酸化膜である場合、数原子層の薄膜コーティングが可能であるため、圧力室102の寸法に変化が少ない。また、成膜プロセスにおいて膜厚のバラツキを抑制することができる。したがって、複数の圧力室102に対応して設けられた複数のノズル101間の吐出性能が安定する。
【0034】
図5Bに示すコーティング層70は、二層構造を有する。二層構造のコーティング層70は、耐薬品性の高い材料で形成される第1コーティング層71に加えて、下地と接触する最下層に、下地(
図5Bではノズルプレート10)との密着性が第1コーティング層71よりも高い第2コーティング層72を含む。下地がステンレスで形成されている場合、第2コーティング層72には、例えば、酸化チタンが好適である。
【0035】
インクによる溶解の防止を狙って、コーティング材料や成膜プロセスを決定した場合、下地との密着性が犠牲になり、経時的にコーティング層70の剥離が生じる虞がある。コーティング層70を二層構造とし、最下層に、下地との密着性が高い第2コーティング層72を設けることにより、コーティング層70の剥離を容易に抑制することができる。
【0036】
なお、二層構造のコーティング層70において、下地に対する第1コーティング層71の密着性が高い場合、第1コーティング層71を最下層として、その表層に、濡れ性の高い第3コーティング層73を形成してもよい。
【0037】
図5Cに示すコーティング層70は、三層構造を有する。三層構造のコーティング層70は、第1コーティング層71及び第2コーティング層72に加えて、最表層に、インクに比較して表面張力が大きい第3コーティング層73を含む。第3コーティング層73は、第2コーティング層72よりも濡れ性が高く、インクとの接触角は小さくなる。第3コーティング層73は、接触角が30°以下、好ましくは10°以下である。第3コーティング層73を設けることにより、接液面の接触角を容易に小さくすることができる。
【0038】
図6A~
図6D及び
図7A~
図7Dは、塗布ヘッドにおけるインク流路にインク111を充填する際の様子を示す遷移図である。
図7A~
図7Dに示す塗布ヘッド1では、
図6A~
図6Dに示す塗布ヘッドに比較して、濡れ性が高いコーティング層70が用いられている。
【0039】
コーティング層70の濡れ性が低い場合(例えば、接触角が90°)、供給タンク(図示略)から供給されたインクは、上流共通流路105及び上流個別流路103を介して圧力室102に流入する(
図6A参照)。インク111は、圧力室102の接液面に沿って進行する。このとき、コーティング層70の接触角が大きいため、インクは主として外部圧力により進行することとなり、接液面に濡れ拡がらない(
図6B参照)。その結果、圧力室102の角部にインク111が満ちていない状態となり(
図6C参照)、圧力室102に気泡112として残留する。圧力室102に気泡112が混入した場合、圧力室102内の圧力変動が気泡112により緩和されるため、インクの吐出不良が生じる虞がある。
【0040】
一方、コーティング層70の濡れ性が高い場合(例えば、接触角が10°以下)、供給タンク(図示略)から供給されたインクは、上流共通流路105及び上流個別流路103を介して圧力室102に流入する(
図7A参照)。インク111は、圧力室102の接液面に沿って進行する。このとき、コーティング層70の接触角が小さいため、インクは主として濡れ拡がる力で進行することとなり、接液面に濡れ拡がる(
図7B参照)。その結果、圧力室102の角部を含めて、空隙なくインクが充填されていき(
図7C参照)、圧力室102に気泡は残留しない。したがって、インクの吐出品質が向上する。また、上流個別流路103から圧力室102にインクが流入する際、液面の表面張力により圧力室102へのインクの流入が妨げられることはなく、滑らかにインクを流入させることができる。
【0041】
図8は、塗布ヘッド1の製造工程の一例を示す図である。
【0042】
まず、ステップS1において、個々のプレート10~30を準備する。例えば、ノズルプレート10については、ノズル面(Z軸方向の正側の面)に撥水膜が形成された後、ノズル穴が形成される。また、圧力室プレート20については、インク流路となる開口が形成された複数のプレートが積層され、接着される。
【0043】
次に、ステップS2において、ノズルプレート10と圧力室プレート20とを接着剤により接合する。ノズルプレート10と圧力室プレート20の間に、第1接着層61が形成される(
図3、
図4参照)。
【0044】
次に、ステップS3において、ノズルプレート10と圧力室プレート20の接合体と、振動プレート30とを、接着剤により接合する。圧力室プレート20と振動プレート30の間に、第2接着層62が形成される(
図3、
図4参照)。
【0045】
次に、ステップS4において、ノズルプレート10、圧力室プレート20及び振動プレート30の接合体に対して、コーティング層70を形成する。コーティング層70の形成には、例えば、原子層堆積法(ALD:Atomic layer deposition)が好適である。コーティング層70は、ノズルプレート10、圧力室プレート20及び振動プレート30によって形成されているインク流路の表面に形成される。原子層堆積法を用いることにより、狭小空間であるインク流路にもコーティング材料が入り込み、コーティング層70を均一な厚さで形成することができる。また、ノズルプレート10、圧力室プレート20及び振動プレート30を接合した後に、コーティング工程が行われるので、コーティング層70は、第1接着層61及び第2接着層62の表面にも形成される。
【0046】
コーティング終了後、ステップS5において、ノズルプレート10、圧力室プレート20及び振動プレート30の接合体と、圧電素子107とを、接着剤により接合する。振動プレート30と圧電素子107との間に、第3接着層63が形成される(
図3、
図4参照)。
【0047】
なお、ステップS2、S3の工程は、順不同である。また、ステップS2、S3の工程では、接着剤による接合ではなく、金属拡散接合によりプレート同士を接合してもよい。
【0048】
このように、実施の形態に係る塗布ヘッドは、複数のノズル101と、複数のノズル101に連通する複数の圧力室102と、複数の圧力室102に連通するインク流路(上流共通流路105、上流個別流路103、下流個別流路104及び下流共通流路106)と、通電により変形して圧力室102内のインクに加圧する圧電素子107と、を備え、ノズル101、圧力室102及びインク流路103~106の接液面の少なくとも一部に、コーティング層70が設けられている。これにより、コーティング層70によって覆われた部分に関して、インクに対する接液面の耐性が向上するので、塗布ヘッド1の信頼性が向上する。
【0049】
また、塗布ヘッド1において、コーティング層70は、金属酸化物で形成された第1コーティング層71を含む。これにより、インクに対する接液面の耐性を容易に向上することができる。また、数原子層の薄膜コーティングが可能であるため、圧力室102の寸法に変化が少なく、成膜プロセスにおいて膜厚のバラツキを抑制することができる。したがって、ノズル間の吐出性能が安定する。
【0050】
また、塗布ヘッド1において、コーティング層70は、複数層からなる積層構造を有する。これにより、インクに対する耐薬品性だけでなく、下地との密着性や、インクの濡れ性を考慮して、コーティング層70を設計することができる。
【0051】
また、塗布ヘッド1において、コーティング層70の第2コーティング層72(最下層)は、他の層に比較して、接液面に対する密着性が最も高い。これにより、コーティング層70が経時的に下地から剥離するのを抑制することができる。
【0052】
また、塗布ヘッド1において、コーティング層70の第3コーティング層73(最表層)は、他の層に比較して、濡れ性が最も高い。具体的には、第3コーティング層73(最表層)は、接触角が10°以下である、これにより、圧力室102内にインクを滑らかに流入させて充填することができ、圧力室102内に気泡が残留することによる不具合を防止することができる。
【0053】
また、塗布ヘッド1は、ノズルプレート10、圧力室プレート20及び振動板プレート30が積層され、接着されることにより形成され、ノズルプレート10と圧力室プレート20との間に介在する第1接着層61、及び、圧力室プレート20と振動プレート30との間に介在する第2接着層62は、接液面の一部を形成し、コーティング層70は、第1接着層61及び第2接着層62を覆う。これにより、プレートよりもインクに溶解されやすい接着部分を保護することができる。
【0054】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づいて具体的に説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で変更可能である。
【0055】
例えば、コーティング層70は、接液面の全面ではなく、インクによって溶解されやすい材料で形成されている部分に、部分的に設けられてもよい。例えば、ノズルプレート10及び圧力室プレート20がステンレスで形成され、振動プレート30がニッケルめっきにより形成されており、インクの種類によっては、振動プレート30の接液面だけが溶解されやすい場合がある。
【0056】
この場合、振動プレート30の接液面にだけにコーティング層70を設けてもよい。
図9には、振動プレート30の全面にコーティング層70を設けた例について示している。プレート間の接着前にコーティング層70を形成することができるので、製造工程が容易化される。また、振動プレート30の両面にコーティング層70を形成した場合、振動プレート30がインクによって溶解されるのを確実に防止することができる。したがって、振動プレートが損壊して導電性のインクが圧電素子107と接触することはなく、短絡事故等が生じるのを未然に防止することができ、安全性が向上する。なお、コーティング層70と接着剤との密着性が悪い場合は、第2接着層62及び第3接着層63が形成される部分には、コーティング層70が形成されなくてもよい。
【0057】
また例えば、
図10に示すように、コーティング層70によって第1接着層61及び第2接着層62を覆う場合、第1接着層61及び第2接着層62に対応する部分70aが、その他の部分よりも厚くなるようにしてもよい。これにより、インクにより最も溶解されやすい接着部分を、より確実に保護することができる。
【0058】
また、コーティング層70の最表層には、接触角を小さくするために、微細な凹凸が形成されてもよい。また、本開示は、実施の形態で説明した循環型の塗布ヘッドだけでなく、非循環型の塗布ヘッドにも適用することができる。
【0059】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本開示は、塗布ヘッド、及び塗布ヘッドを備える塗布装置に広く利用可能である。
【符号の説明】
【0061】
1 塗布ヘッド
10 ノズルプレート
20 圧力室プレート
30 振動プレート
61 第1接着層
62 第2接着層
63 第3接着層
70 コーティング層
71 第1コーティング層
72 第2コーティング層
73 第3コーティング層
101 ノズル
102 圧力室
103 上流個別流路
104 下流個別流路
105 上流共通流路
106 下流共通流路
107 圧電素子