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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023148934
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】抗菌用成形体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 2/02 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
A61L2/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022057229
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(71)【出願人】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高村 渓太
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 昌博
(72)【発明者】
【氏名】鬼澤 香代子
(72)【発明者】
【氏名】柳瀬 恵一
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 英治
(72)【発明者】
【氏名】後藤 亜希
(72)【発明者】
【氏名】藤平 耕一
【テーマコード(参考)】
4C058
【Fターム(参考)】
4C058AA01
4C058AA02
4C058AA12
4C058AA19
4C058AA23
4C058AA25
4C058AA26
4C058BB02
(57)【要約】
【課題】抗菌性能をより高めることができる抗菌性成形体を提供すること。
【解決手段】抗菌性成形体は、高さが異なる複数の独立した抗菌面が組み合わされてなる抗菌領域を有する。前記複数の抗菌面は、高さが最も高い第1抗菌面、高さが最も低い第2抗菌面、および第1抗菌面の高さおよび第2抗菌面の高さの中間の高さを有する中間抗菌面を含み、前記複数の抗菌面は、第1抗菌面の表面積の平均値、第2抗菌面の表面積の平均値、および中間抗菌面の表面積の平均値が、いずれも35.0μm以上95.0μm以下であり、かつ、前記第1抗菌面と前記中間抗菌面との間の高さ分布の最頻値の差、および前記中間抗菌面と前記第2抗菌面との間の高さ分布の最頻値の差が、いずれも1.70μm以上10.0μm以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高さが異なる複数の独立した抗菌面が組み合わされてなる抗菌領域を有する抗菌性成形体であって、
前記複数の抗菌面は、高さが最も高い第1抗菌面、高さが最も低い第2抗菌面、および第1抗菌面の高さおよび第2抗菌面の高さの中間の高さを有する中間抗菌面を含み、
前記複数の抗菌面は、第1抗菌面の表面積の平均値、第2抗菌面の表面積の平均値、および中間抗菌面の表面積の平均値が、いずれも35.0μm以上95.0μm以下であり、かつ、前記第1抗菌面と前記中間抗菌面との間の高さ分布の最頻値の差、および前記中間抗菌面と前記第2抗菌面との間の高さ分布の最頻値の差が、いずれも1.70μm以上10.0μm以下である、
抗菌性成形体。
【請求項2】
前記第1抗菌面は、その外周に前記第2抗菌面および前記中間抗菌面のみが接している、請求項1に記載の抗菌性成形体。
【請求項3】
前記第2抗菌面は、その外周に前記第1抗菌面および前記中間抗菌面のみが接している、請求項1または2に記載の抗菌性成形体。
【請求項4】
前記複数の抗菌面は、規則的に配置された、請求項1~3のいずれか1項に記載の抗菌性成形体。
【請求項5】
前記複数の抗菌面は、格子状に配置された、請求項1~4のいずれか1項に記載の抗菌性成形体。
【請求項6】
前記第1抗菌面は、最も近い他の前記第1抗菌面との間の距離が0.5μm以上95μm以下となる位置に配置された、請求項1~5のいずれか1項に記載の抗菌性成形体。
【請求項7】
前記第2抗菌面は、最も近い他の前記第2抗菌面との間の距離が0.5μm以上95μm以下となる位置に配置された、請求項1~6のいずれか1項に記載の抗菌性成形体。
【請求項8】
食品用包装材である、請求項1~7のいずれか1項に記載の抗菌性成形体。
【請求項9】
生体内留置用装置である、請求項1~8のいずれか1項に記載の抗菌性成形体。
【請求項10】
請求項1に記載の抗菌性成形体が有する抗菌領域を成形体の表面に形成する、または請求項1に記載の抗菌性成形体が有する抗菌領域を表面に有する成形体を成形する、抗菌性成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌用成形体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抗菌性を有する物品は、消費者意識の高まりから多く市場に出回っている。多くの場合、物品の表面に、抗菌剤を含むコーティングを施したり、銀ナノ粒子を包埋させたりすることで、物品に抗菌性を付与している。
【0003】
また近年、物品の表面に、微細な凹凸構造を設けることで、物理的に抗菌効果を得ようとする試みがなされている(例えば特許文献1および2)。これらの多くは、物品の表面に微細な突起を設けることで、細菌を刺殺したり、細菌の移動を抑制したりしようとするものである。したがって、細菌を刺殺するための鋭利な突起を設けたり、細菌と同程度の間隔を有する突起を設けたりしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-132916号公報
【特許文献2】特開2019-151614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、上述の抗菌剤や、銀ナノ粒子を含む抗菌性の物品には、その効果が経時で消失することがあり、さらに生体への安全性等も懸念されることがあった。そのため、用途や使用環境に制限がかかる場合があった。特許文献1や特許文献2の、物品の表面に微細な凹凸構造を設ける方法によれば、上記懸念は解消される。しかし、特許文献1や特許文献2に記載の方法では、抗菌活性が期待したほど高まらないという問題があった。
【0006】
本発明は上記課題を鑑みてなされたものである。本発明は、物品の表面に微細な凹凸構造を設けて抗菌活性を付与したものであり、かつ抗菌活性が高められた抗菌用成形体、およびその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するための抗菌性成形体は、高さが異なる複数の独立した抗菌面が組み合わされてなる抗菌領域を有する。前記複数の抗菌面は、高さが最も高い第1抗菌面、高さが最も低い第2抗菌面、および第1抗菌面の高さおよび第2抗菌面の高さの中間の高さを有する中間抗菌面を含み、前記複数の抗菌面は、第1抗菌面の表面積の平均値、第2抗菌面の表面積の平均値、および中間抗菌面の表面積の平均値が、いずれも35.0μm以上95.0μm以下であり、かつ、前記第1抗菌面と前記中間抗菌面との間の高さ分布の最頻値の差、および前記中間抗菌面と前記第2抗菌面との間の高さ分布の最頻値の差が、いずれも1.70μm以上10.0μm以下である。
【0008】
また、上記の課題を解決するための抗菌性成形体の製造方法は、前記抗菌領域を成形体の表面に形成する、または前記抗菌領域を表面に有する成形体を成形する、抗菌性成形体の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、物品の表面に微細な凹凸構造を設けて抗菌活性を付与したものであり、かつ抗菌活性が高められた抗菌用成形体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の一実施形態に関する抗菌領域の一例を示すレーザー顕微鏡写真である。
図2図2は、図1に示す抗菌領域を模式的に表した平面図である。
図3図3Aは、図2に示す仮想線A-Aによって切断した抗菌領域を図中矢印方向に見たときの様子を示す模式図であり、図3Bは、図2に示す仮想線B-Bによって切断した抗菌領域を図中矢印方向に見たときの様子を示す模式図である。
図4図4は、高さが最も高い第1抗菌面および高さが最も低い第2抗菌面のみを有する抗菌領域を示す模式的な平面図である。
図5図5は、本発明の一実施形態に関する抗菌領域の他の例を模式的に表した平面図である。
図6図6は、本発明の一実施形態に関する抗菌領域のさらに他の例を模式的に表した平面図である。
図7図7は、レーザー顕微鏡で抗菌領域を観察して得られる高さ分布スペクトルの一例である。
図8図8は、抗菌領域に任意に設定したプロファイル線について得られる輪郭曲線の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態に関する抗菌性成形体は、その表面の少なくとも一部に、抗菌活性を付与された抗菌領域を有する。上記抗菌領域は、異なる高さを有する複数の抗菌面が組み合わされて配置されてなる。
【0012】
[抗菌領域]
図1は、上記抗菌領域の一例を示すレーザー顕微鏡写真である。図1には、レーザー顕微鏡により抗菌領域の表面の高さを測定し、高さごとに異なる色を付与した写真を示している。図2は、図1に示す抗菌領域を模式的に表した平面図である。図3Aは、図2に示す仮想線A-Aによって切断した抗菌領域を図中矢印方向に見たときの様子を示す模式図である(図3Aには、一つ奥側に配置された抗菌領域の断面形状を点線で示している。)。図3Bは、図2に示す仮想線B-Bによって切断した抗菌領域を図中矢印方向に見たときの様子を示す模式図である。
【0013】
図1図2図3Aおよび図3Bに示すように、抗菌領域100は、高さが最も高い第1抗菌面110、高さが最も低い第2抗菌面120、および中間の高さを有する中間抗菌面130を有する。これらの高さが異なる複数の抗菌面が組み合わされて配置されることにより、抗菌領域100が形成されている。
【0014】
多くの細菌は、元来、その密度が高まると、増殖が鈍化し、死滅していく機構を備えている。また個々の細菌は、誘引物質を放出しており、当該誘引物質をセンシングすることで、その密度を認識している。つまり、誘引物質の量が多くなると、細菌の増殖が抑制され、細菌が死滅していくことにより密度が減少していく。ここで、上記それぞれの抗菌面は、いずれも表面積が所定の範囲に設定されているため、比較的少ない細菌量でも、細菌が放出する誘引物質の濃度が十分に高まる。その結果、比較的短時間に、かつ細菌が大きく増殖する前に、増殖が停止し、死滅していく。したがって、長期間に亘って、細菌の量が一定量以上に増え難く、細菌の少ない状態を維持できる。
【0015】
上記各抗菌面の表面積の平均値をより小さくすることで、上記細菌の密度による抗菌効果をより十分に発揮させることができる。一方で、上記各抗菌面の表面積の平均値をある程度大きくすることで、当該抗菌面にある程度の量の細菌を存在させて、上記細菌の密度による抗菌効果が各抗菌面で発揮できるようにすることができる。これらのバランスをとる観点から、上記第1抗菌面110、第2抗菌面120および中間抗菌面130は、いずれも、表面積の平均値が35.0μm以上95.0μm以下であり、35μm以上70μm以下であることが好ましく、35μm以上50μm以下であることがより好ましい。
【0016】
隣接する抗菌面の間の高さの差をある程度大きくすることで、細菌が、隣接する抗菌面との間の壁を乗り越えにくく、より高い抗菌面への移動をしにくくすることができる。一方で、隣接する抗菌面の間の高さの差を所定の範囲に抑えることで、抗菌面の間の壁面における細菌の増殖を抑制することができる。これらのバランスをとる観点から、第1抗菌面110の高さ分布の最頻値と中間抗菌面130の高さ分布の最頻値との差、および中間抗菌面130の高さ分布の最頻値と第2抗菌面120の高さ分布の最頻値との差は、いずれも、1.70μm以上10.0μm以下であり、1.70μm以上8.00μm以下であることが好ましく、2.00μm以上3.00μm以下であることがより好ましい。なお、これらの高さ分布の最頻値の差は隣接する抗菌面の高さの差を直接的に反映するものではないが、これらの高さ分布の最頻値の差が上記範囲であれば、より多くの抗菌面について、隣接する抗菌面との高さの差が十分な範囲になると推測される。
【0017】
上記第1抗菌面110、第2抗菌面120および中間抗菌面130は、いずれも表面積が所定の範囲に設定されているため、細菌が、隣接する抗菌面との間の壁を乗り越えにくく、より高い抗菌面への移動がしにくい。そのため、それぞれの抗菌面に存在する細菌は、当該抗菌面にとどまるか、あるいは隣接する高さがより低い抗菌面に移動するしかできない。そして、細菌が当該抗菌面にとどまれば、細菌がわずかに増殖しただけで当該細菌の密度(誘引物質の濃度)が十分に高まり、当該細菌は増殖が停止し、死滅していく。また、高さがより低い抗菌面に細菌が移動すれば、移動先の抗菌面における当該細菌の密度(誘引物質の濃度)が十分に高まるため、当該細菌は増殖が停止し、死滅していく。このように、より高い抗菌面への細菌の移動を阻害することで、細菌の拡散を抑止して各抗菌面における当該細菌の増殖を抑止させ、あるいは死滅させていくことができる。
【0018】
図1に示すように、本実施形態において、複数の第1抗菌面110は、いずれも独立して配置されており、その外周に接して配置される他の第1抗菌面110はない。より具体的には、それぞれの第1抗菌面110は、その外周には第2抗菌面120および中間抗菌面130のみが接しており、その外周に接するように表面が連なって配置された他の第1抗菌面110はない。そのため、それぞれの第1抗菌面110に存在する細菌は、他の第1抗菌面110に移動することができず、当該第1抗菌面110にとどまることしかできない。その結果として、当該第1抗菌面110における当該細菌の密度(誘引物質の濃度)が高まると、当該細菌は増殖が停止し、死滅していく。
【0019】
また、図1に示すように、本実施形態において、複数の第2抗菌面120は、いずれも独立して配置されており、その外周に接して配置される他の第2抗菌面120はない。より具体的には、それぞれの第2抗菌面120は、その外周には第1抗菌面110および中間抗菌面130のみが接しており、その外周に接するように表面が連なって配置された他の第2抗菌面120はない。そのため、それぞれの第2抗菌面120に存在する細菌は、他の第2抗菌面120に移動することができず、当該第2抗菌面120にとどまるか、あるいは隣接する高さがより低い抗菌面に移動するしかできない。その結果として、当該第2抗菌面120あるいは隣接する抗菌面における当該細菌の密度(誘引物質の濃度)が十分に高まるため、当該細菌は増殖が停止し、死滅していく。
【0020】
本実施形態において、抗菌領域100は、高さが最も高い第1抗菌面110および高さが最も低い第2抗菌面120に加えて、中間の高さを有する中間抗菌面130を有する。中間抗菌面130を配置して、少なくとも3通りに高さが異なる複数の抗菌面を組み合わせることにより、第1抗菌面110および第2抗菌面の外周に接した位置に、他の第1抗菌面110および第2抗菌面が配置されにくくすることができる。
【0021】
図4は、高さが最も高い第1表面410および高さが最も低い第2表面420のみを有する領域400を示す模式的な平面図である。図4に示す領域400は、ある第1表面410aが、隣接する第1表面410bと点Pにおいて接している。この点Pを介して、細菌が第1表面410aから第1表面410bへと移動し拡散してしまうと、第1表面410における細菌の密度(誘引物質の濃度)が十分に高まらず、細菌の増殖停止および死滅が十分になされないことがある。サイズを小さくした第1表面410を同じ位置に配置するようにして、隣り合う第1表面410同士が接しないようにすると、今度は隣り合う第2表面420同士が領域400の底面で接続されてしまい、ある第2表面420から隣り合う第2表面420へと細菌が移動し拡散してしまう。その結果、第2表面420(底面)における細菌の密度(誘引物質の濃度)が十分に高まらず、細菌の増殖停止および死滅が十分になされないことがある。これに対し、本実施形態では中間抗菌面130を設けることで、隣り合う第1抗菌面110および隣り合う第2抗菌面120が互いに接しないような配置とすることができ(図2参照)、それぞれの抗菌面における最近の密度上昇による細菌の増殖停止および死滅効果(抗菌効果)をより十分に奏させることができる。
【0022】
異なる位置に配置された第1抗菌面110の間、異なる位置に配置された第2抗菌面120の間、および異なる位置に配置された中間抗菌面130の間での細菌の移動をより効果的に抑制する観点から、異なる第1抗菌面110の間の距離、異なる第2抗菌面120の間の距離、および異なる中間抗菌面130の間の距離は、なるべく離れていることが好ましい。一方で、それぞれの抗菌面の表面積の平均値を上述した範囲にする観点からは、それぞれの第1抗菌面110、それぞれの第2抗菌面120、およびそれぞれの中間抗菌面130の間の距離を極端には離れさせ過ぎないことが好ましい。これらのバランスをとる観点から、ある第1抗菌面110と、それと最も近い第1抗菌面110との間の距離の平均値、ある第2抗菌面120と、それと最も近い第2抗菌面120との間の距離の平均値、およびある中間抗菌面130と、それと最も近い中間抗菌面130との間の距離の平均値は、いずれも0.5μm以上95μm以下であることが好ましく、1.5μm以上45μm以下であることがより好ましく、2.0μm以上14μm以下であることがさらに好ましくい。
【0023】
なお、基材の表面から凸部を形成していって各抗菌面を形成するときは、高さが最も低い面(底面)から複数の凸部が突き出された形状になりやすく、このような形状では底面が連続してしまい、底面において細菌が増殖しやすい。各抗菌面を形成するときは、底面が連続しない形状となるように形成条件を調整して、高さが最も低い第2抗菌面120の表面積の平均値が35.0μm以上95.0μm以下、好ましくは35μm以上70μm以下、より好ましくは35μm以上50μm以下とする。同様に、形成条件を調整して、ある第1抗菌面110と、それと最も近い第1抗菌面110との間の距離の平均値が、0.5μm以上95μm以下、好ましくは1.5μm以上45μm以下、より好ましくは2.0μm以上14μm以下とすることが望ましい。
【0024】
また、高さが最も高い第1抗菌面は、隣接する抗菌面との間の細菌の移動が生じやすく、細菌が増殖しやすい。そのため、形成条件を調整して、第1抗菌面110の表面積の平均値が35.0μm以上95.0μm以下、好ましくは35μm以上70μm以下、より好ましくは35μm以上50μm以下とする。同様に、形成条件を調整して、ある第2抗菌面120と、それと最も近い第2抗菌面120との間の距離の平均値が、0.5μm以上95μm以下、好ましくは1.5μm以上45μm以下、より好ましくは2.0μm以上14μm以下とすることが望ましい。
【0025】
同様に、形成条件を調整して、中間抗菌面130の表面積の平均値が35.0μm以上95.0μm以下、好ましくは35μm以上70μm以下、より好ましくは35μm以上50μm以下とする。同様に、形成条件を調整して、ある中間抗菌面130と、それと最も近い中間抗菌面130との間の距離が、0.5μm以上95μm以下、好ましくは1.5μm以上45μm以下、より好ましくは2.0μm以上14μm以下とすることが望ましい。
【0026】
なお、本実施形態では、第1抗菌面110、第2抗菌面120および中間抗菌面130が、各抗菌面の配列された線が縦横に直交するような四角格子状に配列されており、一の列では第1抗菌面110および中間抗菌面130が交互に配置され(図3A)、隣り合う他の列では第2抗菌面120および中間抗菌面130が交互に配置され(図3B)、かつ上記一の列と上記他の列とでは、第2抗菌面120の配置がずらされている(図3Aおよび図3B)。しかし、各抗菌面の配置はこれに限定されず、不規則に配置されてもよいし、規則的に配置されてもよい。
【0027】
各抗菌面が規則的に配置されるときも、各抗菌面の配置は図1および図2に限定されることはなく、たとえば第1抗菌面510、第2抗菌面520および中間抗菌面530が、各抗菌面が所定の角度を有して交わるような2つの非直交の直線上に配置されてもよい(図5)。また、第1抗菌面610、第2抗菌面620および中間抗菌面630の形状が、三角格子状などの四角格子以外の形状に配置されてもよい(図6)。
【0028】
本実施形態では、第1抗菌面110が、高さが同じ複数の抗菌面により構成されているが、抗菌領域100は、高さが最も高い第1抗菌面110をひとつのみ有していてもよい。また、第2抗菌面120が、高さが同じ複数の抗菌面により構成されているが、抗菌領域100は、高さが最も低い第2抗菌面120をひとつのみ有していてもよい。また、本実施形態では、中間抗菌面130が、高さが同じ複数の抗菌面により構成されているが、抗菌領域100は、高さが異なる複数の中間抗菌面130を有していてもよい。抗菌領域100は、高さが異なる複数の中間抗菌面130を有しているときは、それぞれの高さの中間抗菌面130が、上述した表面積の平均値を満たし、かつ高さが最も近い他の中間抗菌面との間の高さの差が、第1抗菌面110、中間抗菌面130および第2抗菌面120について上述した高さ分布の最頻値の差の条件を満たすことが好ましい。なお、抗菌領域100の作製を容易にする観点からは、抗菌領域100は、すべての中間抗菌面の高さがほぼ共通していることが好ましく、異なる高さの中間抗菌面を有するときは、高さが2種類以上5種類以下、好ましくは2種類以上3種類以下、より好ましくは2種類の中間抗菌面を有することが望ましい。なお、「異なる高さの中間抗菌面」が存在するとは、高さ分布の最頻値の間に明確な差があり、後述するしきい値をそれぞれの中間抗菌面の間に設定できるような、中間抗菌面のまとまりが2つ以上確認できることを意味する。このとき、上記中間抗菌面の表面積の平均値、高さ分布の最頻値および最も近い中間抗菌面との間の距離とは、所定の高さのまとまりである複数の中間抗菌面のそれぞれについて測定される、表面積の平均値、高さ分布の最頻値および最も近い中間抗菌面との間の距離である。
【0029】
なお、第1抗菌面110、第2抗菌面120および中間抗菌面130は、上述した表面積の平均値がいずれの抗菌面にも共通していてもよいし、それぞれの抗菌面ごとに、表面積の平均値が上述した範囲内で異なっていてもよい。
【0030】
上記各抗菌面の表面積の平均値は、以下の方法で求めることができる。まずレーザー顕微鏡で抗菌領域を観察し、高さに対する計測点の分布(頻度)を示す、高さ分布スペクトルを得る。図7は、このとき得られる高さ分布スペクトルの一例である。図7からは、ピーク710(第1抗菌面110に相当)、ピーク720(第2抗菌面120に相当)、およびピーク730(中間抗菌面130に相当)の3つのピークがあることが確認できる。図7に示す高さ分布スペクトルを、これらのピークに相当する正規分布の集合だと仮定し、隣接する正規分布の交点(交点がないときは、高さが低い方の正規分布が0になる点)をしきい値とする。図7には、ピーク710とピーク730との間のしきい値740、およびピーク730とピーク720との間のしきい値750を確認することができる。そして、高さが最も高いしきい値740よりも高い領域の合計面積を求め、得られた合計面積を高さが最も高いしきい値740よりも高い領域の個数で除算することで、高さが最も高い第1抗菌面の表面積の平均値を求めることができる。次に、高さが次に高いしきい値750よりも高い領域の合計面積を求め、得られた合計面積から、しきい値740よりも高い領域の合計面積を減算する。このようにして得られた面積(中間抗菌面130に相当)を、高さがしきい値750よりも高く、しきい値740よりも小さい領域の個数で除算することで、中間抗菌面の表面積の平均値を求めることができる。最後に、抗菌領域全体の表面積から、しきい値750よりも高い領域の合計面積を減算する。このようにして得られた面積(第2抗菌面120に相当)を、高さがしきい値750よりも小さい領域の個数で除算することで、高さが最も低い第2抗菌面の表面積の平均値を求めることができる。なお、高さが異なる複数の中間抗菌面を抗菌領域が有するときは、高さ分布スペクトルにより多くのピークおよびしきい値を設定することができる。これらのピークおよびしきい値に基づいて上記中間抗菌面の表面積の平均値の算出を繰り返すことで、それぞれの中間抗菌面の表面積の平均値を算出することができる。それぞれのピークに相当する領域の個数は、公知の画像解析ソフト等により計測することができる。
【0031】
また、第1抗菌面110の高さ分布の最頻値と中間抗菌面130の高さ分布の最頻値との差は、図7におけるピーク710とピーク730との間の高さの差とすることができる。同様に、中間抗菌面130の高さ分布の最頻値と第2抗菌面120の高さ分布の最頻値との差は、図7におけるピーク730とピーク720との間の高さの差とすることができる。
【0032】
また、ある第1抗菌面110と、それと最も近い第1抗菌面110との間の距離の平均値は、上記レーザー顕微鏡による抗菌領域の観察で得られた断面曲線から算出することができる。図8は、抗菌領域に任意に設定したプロファイル線について得られる断面曲線の一例である。この断面曲線には、第1抗菌面110、第2抗菌面120および中間抗菌面130が表れている。この断面曲線に、上記表面積の平均値の測定で設定したしきい値740およびしきい値750に相当する高さを示す仮想線を設定する。間に他の第1抗菌面を挟まないように設定した一組の第1抗菌面110の間について、しきい値740に相当する仮想線と断面曲線間との交点間の距離D1を求め、これらの1抗菌面110の間の距離とする。このようにして、任意に設定した10本のプロファイル線のそれぞれについて1個の第1抗菌面110の間の距離を求め、これらの加算平均を、ある第1抗菌面110と、それと最も近い第1抗菌面110との間の距離の平均値とする。ある第2抗菌面120と、それと最も近い第2抗菌面120との間の距離D2の平均値、およびある中間抗菌面130と、それと最も近い中間抗菌面130との間の距離D3の平均値も、同様である。なお、中間抗菌面130間の距離は、図8ではしきい値750の高さにおける断面曲線間の距離としているが、たとえば中間抗菌面130の間に第1抗菌面110が配置されるときはしきい値740の高さにおける断面曲線間の距離にするなど、それぞれの中間抗菌面130と交差する仮想線をもとに距離を求めればよい。
【0033】
これらの計測および算出は、たとえばレーザー顕微鏡として株式会社キーエンス製、VK-X250を使用し、解析ソフトとしてマルチファイル解析アプリケーションVK-HIXMを使用して、行うことができる。
【0034】
上述した抗菌領域は、抗菌性成形体の表面の全体に形成されていてもよいし、細菌が付着しやすい領域のみに形成されていてもよい。また、細菌が付着しやすい領域の一部に、上述した抗菌領域が分散して配置されていてもよい。
【0035】
[抗菌性成形体の材料、形状]
抗菌性成形体の材料は特に制限されず、抗菌性成形体の用途に応じて適宜選択される。上記抗菌領域を有していれば、抗菌性成形体の材料に関わらず、同様の効果が得られる。ここで、抗菌性成形体の材料は、例えば金属やセラミック等の無機材料であってもよく、樹脂等の有機材料であってもよく、これらの複合体であってもよい。なお、その表面には抗菌剤や銀ナノ粒子を含まないことが好ましい。
【0036】
金属の例には、ステンレス鋼や、アルミニウム、銅、銀、鉄、チタン等が含まれる。また、セラミックの例には、炭化ケイ素、ジルコル酸チタン酸鉛等が含まれる。一方、樹脂は、熱可塑性樹脂であってもよいし、熱硬化性樹脂であってもよい。また、上記樹脂は、結晶性の樹脂であってもよいし、非結晶性の樹脂であってもよい。また、樹脂は、合成ゴムおよび天然ゴムなどのゴムであってもよい。
【0037】
上記樹脂の例には、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;環状オレフィン系樹脂;ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)等のハロゲン化炭化水素;ポリアミド;ポリイミド;ポリアセタール(POM);ポリウレタン;エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH);アクリル系重合体;エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA);ポリ乳酸(PLA);ポリカプロラクトン(PCL);ポリグリコール酸(PGA);ポリスチレン(PS);ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、およびポリブチレンナフタレート(PBN)等のポリエステル;ポリフェニレンスルフィド(PPS);ポリエーテルエーテルケトン(PEEK);アクリルニトリル・スチレン共重合体(AS);アクリルニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS);ポリカーボネート(PC);ポリアリレート(PAR);ポリフェニレンエーテル(PPE);ポリフェノール系樹脂;エポキシ樹脂;イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、エチレン・プロピレンゴム(EPM)等のゴム;等が含まれる。
【0038】
上記の中でも、加工性や汎用性等の観点で、ステンレス鋼、ポリカーボネートおよび環状オレフィン系樹脂が好ましい。ポリカーボネートおよび環状オレフィン系樹脂は透明のフィルムを形成することができ、包装材や電子機器の保護シートとして良好な外観を得られるので好ましい。
【0039】
また、抗菌性成形体の形状は、上述の抗菌領域を有していれば特に制限されず、抗菌性成形体の用途等に応じて任意の形状とすることができる。抗菌性成形体は、例えば、フィルム状、シート状、チューブ状、リング状、バルク状(立方体、直方体、円柱状、および球状等)、板状、袋状、ならびにこれらを加工して得られる3次元立体構造等、所望の形状とすることができる。
【0040】
[抗菌性成形体の用途]
抗菌性成形体の用途は特に制限されず、包装材、医療器具、家電、建築物の設備、宇宙服、宇宙船内装、電子機器およびその周辺機器、自動車用部品、農業用品、文房具ならびに身体装具等を含む、広汎な用途に使用可能である。なお、上記抗菌性成形体の使用の態様には、上記抗菌性成形体がこれらの用途に使用される物品であることや、上記抗菌性成形体をこれらの物品の一部として組み入れること等が含まれる。
【0041】
包装材の例には、フィルムやシート、箱、ケース、装飾品等が含まれる。またこのとき、上記抗菌性成形体の抗菌領域は、被包装物に接する面、または被包装物に接しない面のいずれに配置してもよい。包装材に上記抗菌性成形体を使用することで、包装される物品の細菌の増殖を予防し、その保存性を高めることもできる。
【0042】
ここで、包装材の中でも、食品用包装材には高い抗菌性が求められる。そこで、上記抗菌性成形体は食品用包装材として特に好適であり、この場合、食品に接する面に抗菌領域を配置することが好ましい。上述のように、抗菌性成形体は抗菌剤や銀ナノ粒子を含む必要がないため、安全性が高い。さらに、上記抗菌性成形体は、細菌が放出する誘引物質を濃化させることによって、細菌を死滅させる。したがって、多数の種類の細菌が存在する環境下より、特定の種類の細菌が存在する環境下のほうが、より効果を発揮しやすい。したがって、例えば、食品の密閉に使用される食品用包装材の内側に当該抗菌性成形体を使用すると、特定の細菌の増殖を抑え、消費期限などを延ばすことが可能となる。
【0043】
一方、医療器具の例には、鉗子、シリンジ、ステント、人工血管、カテーテル、創傷被覆材、再生医療用足場材、癒着防止材、およびペースメーカーなどが含まれる。特に、これらの中でも、上記抗菌性成形体は、ペースメーカー等の生体内留置用装置の部材として、非常に有用である。生体では通常、細菌の出入りがないが、手術器具等を経由して生体内に細菌が入り込んでしまうことがある。これに対し、上述の抗菌性成形体を生体内留置用装置の一部に使用することで、生体内での細菌の増殖を抑制できる。
【0044】
また、上記家電の例には、炊飯器、電子レンジ、冷蔵庫、アイロン、ヘアードライヤー、エアコンおよび空気清浄機のフィルター部位等が含まれる。
【0045】
上記建築物の設備の例には、トイレおよび便座シート、洗面化粧台、上下水の配管、足拭きマット、内装材、浴槽の手すりや外装部、浴槽本体、浴槽カバー、扉等の把手、手すりおよびスイッチ等の日常的に人の手が触れる物品などが含まれる。
【0046】
また、宇宙服や宇宙船の内装、宇宙船に持ち込まれる電子機器、各種装置等にも、上記抗菌性成形体は有用である。宇宙空間では、地上からの持ち込み物や人体を介して持ち込まれた細菌しか存在しない。ただし、宇宙空間では、人の免疫が低下するため、細菌の増殖が大きなリスクとなる。そこで、上記抗菌性成形体を各種部材に使用することで、細菌の増殖を効果的に抑制できる。
【0047】
電子機器およびその周辺機器の例には、ノートパソコン、スマートフォン、タブレット、デジタルカメラ、医療用電子機器、POSシステム、プリンター、テレビ、マウスおよびキーボード等が含まれる。
【0048】
上記自動車用部品の例には、ハンドル、シート、シフトレバーおよび各種配管が含まれる。
【0049】
上記農業用品の例には、農業ハウス用の展張フィルムなどが含まれる。
【0050】
上記身体装具の例には、上着および下着などを含む衣類、帽子、靴、手袋、おむつ、ならびにナプキンおよびその収納袋などが含まれる。
【0051】
上記の中でも、食品に接する面の少なくとも一部が上記抗菌領域である食品用包装材、またはペースメーカー等の生体内留置用の装置が好ましい。
【0052】
[抗菌性成形体の製造方法]
上述の抗菌性成形体の形成方法は特に制限されず、抗菌性成形体の材料や用途、形状等に合わせて適宜選択される。
【0053】
例えば、抗菌性成形体の表面に上記抗菌領域を形成する場合には、レーザー加工等によって、所望の深さおよび開口面積を有する凹部を、所望の間隔で形成することができる。このとき、たとえば図2に示す形状であればレーザーを縦方向に走査して凹部を形成した後、横方向に走査して凹部を形成することで、縦方向の走査および横方向の走査の両方で加工された部位を高さが最も低い第2抗菌面とし、縦方向の走査および横方向の走査のいずれか一方のみで加工された部位を中間抗菌面とし、レーザーを照射しなかった部位を高さが最も高い第1抗菌面とすることができる。このとき、上述した条件を満たす第1抗菌面、第2抗菌面および中間抗菌面が形成されるように、レーザーの照射条件を制御することが望ましい。また、このとき、レーザーの走査方向を変更することで、図5図6に示すような形状の抗菌領域を形成することもできる。
【0054】
あるいは、樹脂または金属を、上記抗菌領域の形状となる凸部を内表面に有する金型を用いて成形したり、上記抗菌領域が形成されるように付加造形したりして、上記抗菌領域を形成してもよい。一方、用途に合わせて成形した成形体の表面に、ナノインプリントやエッチング等によって抗菌領域を形成してもよい。
【0055】
なお、成形体の表面に形成されためっき層や皮膜などのコーティング層に、上記抗菌領域を形成してもよいし、インクジェット法などのプリンティング法により、上記抗菌領域を有するコーティングを形成してもよい。
【実施例0056】
以下、本発明の具体的な実施例を比較例とともに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0057】
1.抗菌性成形体の作製
[実施例1]
ステンレス鋼(材料)製の金属板の表面に、幅10μm、深さ2μmの形状となるように照射条件および照射回数を調整してレーザーを照射し、溝状の凹部を縦横(縦横の凹部間の角度は90°)に形成した。それぞれの凹部間の間隔は1.5μmとした。レーザー照射後の金属板表面の顕微鏡写真を図1に示す。なお、レーザーは中央部の強度が強く、かつ上記深さの凹部を形成するための照射回数は少ないため、レーザー照射した端部は十分には加工されず、凹部間の間隔は1.5μmよりも広くなっている。得られた加工部を、抗菌領域1とする。
【0058】
[実施例2]
それぞれの凹部間の間隔を5.0μmとした以外は実施例1と同様の条件で金属板の表面にレーザーを照射し、溝状の凹部を縦横に形成した。得られた加工部を、抗菌領域2とする。
【0059】
[比較例1]
それぞれの凹部の幅を20μmとした以外は実施例1と同様の条件で金属板の表面にレーザーを照射し、溝状の凹部を縦横に形成した。得られた加工部を、抗菌領域3とする。
【0060】
2.表面形状の測定
レーザー顕微鏡で抗菌領域1~抗菌領域3を観察し、高さに対する計測点の分布(頻度)を示す、高さ分布スペクトルを得た。それぞれの抗菌領域から得られた高さ分布スペクトルには、3つのピークが確認された(高い方から順に、ピーク1、ピーク2およびピーク3とする)。高さ分布スペクトルを、これら3つのピークに相当する正規分布の集合だと仮定し、隣接する正規分布の交点をしきい値(高い方から順に、しきい値1およびしきい2とする)とした。しきい値1よりも高い領域の合計面積を求め、得られた合計面積をピーク1に相当する領域の個数で除算することで、高さが最も高い第2抗菌面の表面積の平均値を求めた。次に、しきい値2よりも高い領域の合計面積を求め、得られた合計面積から、しきい値1よりも高い領域の合計面積を減算して得られた面積を、ピーク2に相当する領域の個数で除算することで、中間抗菌面の表面積の平均値を求めた。最後に、抗菌領域全体の表面積から、しきい値2よりも高い領域の合計面積を除算して得られた面積を、ピーク3に相当する領域の個数で除算することで、高さが最も低い第1抗菌面の表面積の平均値を求めた。
【0061】
さらに、上記高さ分布スペクトルのうち、図7におけるピーク1とピーク2との間の高さの差を求めて、第1抗菌面の高さ分布の最頻値と中間抗菌面の高さ分布の最頻値との差とした。また、ピーク2とピーク3との間の高さの差を求めて、中間抗菌面の高さ分布の最頻値と第1抗菌面の高さ分布の最頻値との差とした。
【0062】
なお、これらの計測および算出は、レーザー顕微鏡として株式会社キーエンス製、VK-X250を使用し、解析ソフトとしてマルチファイル解析アプリケーションVK-HIXMを使用して、行った。
【0063】
また、上記レーザー顕微鏡による抗菌領域に、ある第1抗菌面と、それと最も近い第1抗菌面を含むよう任意に設定した10本のプロファイル線を設定し、それぞれのプロファイル線から得られた断面曲線において、ある第1抗菌面と、それと最も近い第1抗菌面との間の距離を、上記しきい値1の高さにおけるこれらの抗菌面の間の距離から求めた。それぞれのプロファイル線について1個の抗菌面間の距離を算出し、これらの加算平均値を、それぞれ、ある第1抗菌面と、それと最も近い第1抗菌面との間の距離の平均値とした。
【0064】
上記レーザー顕微鏡による抗菌領域に、ある第2抗菌面と、それと最も近い第2抗菌面を含むよう任意に設定した10本のプロファイル線を設定し、それぞれのプロファイル線から得られた断面曲線において、ある第2抗菌面と、それと最も近い第2抗菌面との間の距離を、上記しきい値2の高さにおけるこれらの抗菌面の間の距離から求めた。それぞれのプロファイル線について1個の抗菌面間の距離を算出し、これらの加算平均値を、それぞれ、ある第2抗菌面と、それと最も近い第2抗菌面との間の距離の平均値とした。
【0065】
上記レーザー顕微鏡による抗菌領域に、ある中間抗菌面と、それと最も近い中間抗菌面を含むよう任意に設定した10本のプロファイル線を設定し、それぞれのプロファイル線から得られた断面曲線において、ある中間抗菌面と、それと最も近い中間抗菌面との間の距離を、上記しきい値1またはしきい値2の高さにおけるこれらの抗菌面の間の距離から求めた。それぞれのプロファイル線について1個の抗菌面間の距離を算出し、これらの加算平均値を、それぞれ、ある中間抗菌面と、それと最も近い中間抗菌面との間の距離の平均値とした。
【0066】
3.抗菌活性の評価
JIS Z 2801(2012年)に記載の方法に準じて、各抗菌領域の大腸菌に対する抗菌性を評価した。具体的には、各抗菌領域上に、以下の大腸菌を接種し、以下の条件で24時間培養した。比較様サンプルとして、表面を加工しなかったサンプルに表面にも以下の大腸菌を接種し、以下の条件で24時間培養した。
【0067】
(菌種)
Escherichia coli, NBRC No. 3972
(培養条件)
温度: 35℃±1℃
(生菌数の測定)
使用培地: 標準寒天培地
【0068】
接種直後および接種から24時間後に、JIS Z 2801(2012年)に記載の方法に準じて生菌数を測定し、Δlog菌数(比較用サンプルの24時間後の生菌数の対数値-評価用サンプルの24時間後の生菌数の対数値)を求めた。
【0069】
表1に、それぞれの抗菌領域の形状性、およびΔlog菌数(抗菌活性)および抗菌性の評価結果を示す。高い抗菌性が認められるもの(Δlog菌数が2.0以上)を「〇」、十分な抗菌性が認められないもの(Δlog菌数が2.0未満)を「×」とする。
【0070】
【表1】
【0071】
表1に示されるように、表面積の平均値がいずれも35.0μm以上95.0μm以下であり、かつ高さ分布の最頻値の差が1.70μm以上10.0μm以下であるような第1抗菌面、中間抗菌面および第2抗菌面を形成する抗菌領域1および抗菌領域2では、良好な抗菌活性が得られた。
【0072】
一方で、第1抗菌面の表面積の平均値が大きい抗菌領域3では、抗菌活性がさほど高まらなかった。これは、第1抗菌面において細菌が散在しやすくなり、上記誘引物質の濃度が高まりにくかったため、細菌が増殖しやすかったからだと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の抗菌性成形体によれば、高い抗菌性が得られる。また、抗菌剤や銀ナノ粒子等を使用する必要がなく、安全性にも優れる。さらに、表面に凸部を設ける必要がなく、抗菌領域が摩耗することも少ない。したがって、長期間に亘って、高い抗菌性が発揮されることから、食品用包装材や、生体内留置用装置等、種々の用途に適用可能である。
【符号の説明】
【0074】
100、500、600 抗菌領域
110、510、610 第1抗菌面
120、520、620 第2抗菌面
130、530、630 中間抗菌面
400 抗菌領域
410 第1表面
420、420a、420b 第2表面
710、720、730 ピーク
740、750 しきい値
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8