(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023148953
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】建築基材塗装体およびコート材
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20231005BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20231005BHJP
C09D 183/04 20060101ALI20231005BHJP
C09K 3/18 20060101ALI20231005BHJP
C04B 41/64 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D7/61
C09D183/04
C09K3/18 104
C04B41/64
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022057251
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】503367376
【氏名又は名称】ケイミュー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003322
【氏名又は名称】大日本塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【弁理士】
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100182132
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100172683
【弁理士】
【氏名又は名称】綾 聡平
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】堤 靖浩
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 宏
(72)【発明者】
【氏名】岡山 誠史
(72)【発明者】
【氏名】照沼 卓也
(72)【発明者】
【氏名】坂口 真哉
(72)【発明者】
【氏名】畠山 忠
【テーマコード(参考)】
4G028
4H020
4J038
【Fターム(参考)】
4G028CA01
4G028CB08
4H020BA32
4J038DL052
4J038HA446
4J038JA18
4J038JC32
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4J038KA09
4J038MA10
4J038MA14
4J038NA07
4J038PA11
4J038PB05
(57)【要約】
【課題】長期に渡って撥水性に優れ、密着性にも優れる表層を有する建築基材塗装体を提供する。
【解決手段】表層に平均膜厚0.010~20μmの第1撥水層を有する建築基材塗装体であって、前記第1撥水層がバインダー成分と疎水性シリカ粒子を含有し、前記第1撥水層中の前記疎水性シリカ粒子の量が35~95体積%であることを特徴とする建築基材塗装体である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表層に平均膜厚0.010~20μmの第1撥水層を有する建築基材塗装体であって、
前記第1撥水層がバインダー成分と疎水性シリカ粒子を含有し、
前記第1撥水層中の前記疎水性シリカ粒子の量が35~95体積%であることを特徴とする建築基材塗装体。
【請求項2】
前記バインダー成分が式(1)で示される化合物を構成単位として含むことを特徴とする、請求項1に記載の建築基材塗装体。
式(1):R1nSi(OR2)4-n
(式中、R1は炭素数1~8の有機基であり、R2は炭素数1~5のアルキル基であり、nは1又は2である。)
【請求項3】
前記第1撥水層上に形成された第2撥水層を有し、前記第2撥水層が撥水剤を含有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の建築基材塗装体。
【請求項4】
前記第1撥水層中に分散している前記疎水性シリカ粒子の平均粒子径が2nm以上500nm未満の範囲内であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の建築基材塗装体。
【請求項5】
前記第1撥水層の水接触角が100°~170°の範囲内であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の建築基材塗装体。
【請求項6】
前記第1撥水層中における、前記バインダー成分と前記疎水性シリカ粒子の質量比が、50:50~5:95の範囲内であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の建築基材塗装体。
【請求項7】
前記第1撥水層が塗膜層上に形成されており、前記塗膜層が、アルコキシシランを構成単位として含む樹脂を含むことを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の建築基材塗装体。
【請求項8】
撥水層を形成するコート材であって、
式(1)で示される化合物を構成単位として含むバインダー成分を含有するとともに、疎水性シリカ粒子を含有することを特徴とするコート材。
式(1):R1nSi(OR2)4-n
(式中、R1は炭素数1~8の有機基であり、R2は炭素数1~5のアルキル基であり、nは1又は2である。)
【請求項9】
前記バインダー成分は、オルガノシラン及び/又はその部分加水分解縮合物、及びシリル基含有ビニル系樹脂を構成単位として含有することを特徴とする、請求項8に記載のコート材。
【請求項10】
前記コート材は、水と、親水性有機溶剤及び/又は界面活性剤を含有することを特徴とする、請求項8又は9に記載のコート材。
【請求項11】
前記親水性有機溶剤がアルコールを含有することを特徴とする、請求項10に記載のコート材。
【請求項12】
前記バインダー成分と前記疎水性シリカ粒子の質量比が、50:50~5:95であることを特徴とする、請求項8~11のいずれか一項に記載のコート材。
【請求項13】
前記コート材は、膜厚0.01~20μmの層を形成した場合、その層の表面の水接触角が100°~170°の範囲内であることを特徴とする、請求項8~12のいずれか一項に記載のコート材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築基材塗装体およびコート材に関し、特には、長期に渡って撥水性に優れ、密着性にも優れる表層を有する建築基材塗装体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
屋根や外壁等の建築基材は屋外で用いられることが多いことから、表面の耐汚染性を確保するために親水性塗膜や光触媒塗膜を形成し、雨水によって汚染除去する技術が確立されている。
【0003】
特開平9-228602号公報(特許文献1)は、外壁用建材基体の表面に、光触媒性酸化物粒子を含有する表面層を備えるセルフクリーニング性外壁用建材の発明を記載する。特許文献1では、光触媒を含有する表面層を形成した外壁用建材において、光触媒を光励起すると、その表面が高度に親水化されるため、降雨にさらされた時に、付着堆積物や汚染物が雨滴により洗い流されるようになることから、自己洗浄(セルフクリーニング)可能な外壁用建材を提供できるとしている。
【0004】
特開2013-209832号公報(特許文献2)は、基材上に下地塗膜層、クリヤー塗膜層およびオーバーコート塗膜層を有する建築板であって、クリヤー塗膜層がフッ素成分を含有するクリヤー塗料を塗布することにより形成されることを特徴とする建築板を記載する。特許文献2では、フッ素含有成分がクリヤー塗膜層とオーバーコート塗膜層の界面に適切に配向することにより、自己洗浄能力を有する親水性の防汚積層塗膜における親水性の経時安定性を改善できることが記載されている。
【0005】
上述のとおり、建築基材の表面を親水性にすることで、自己洗浄能力(セルフクリーニング性)が得られる。しかしながら、これらの方法は光や水の影響を受けやすいことから、使用環境によって効果の大小が生じる可能性がある。
【0006】
建築基材の表面を親水性にする手法とは別に、建築基材の表面を撥水性にする手法も知られている。建築基材の表面を撥水性にすることで、大気浮遊物等による汚染を防止する効果が期待できる。
【0007】
特開2009-28712号公報(特許文献3)は、凹凸模様を有する塗装体であって、その表面に、アクリル樹脂とシリコーン樹脂を特定比率で混在する合成樹脂エマルションと平均粒子径0.5~500μm、吸油量60ml/100g以下の粉粒体を必須成分とし、当該粉粒体の顔料容積濃度が10~90%である被覆材による塗膜が形成されていることを特徴とする塗装体を記載する。特許文献3では、比較的大きな粒子径の粉粒体を用いて表面に凹凸模様を形成すると共に、汚染防止性および撥水性等に優れた合成樹脂エマルションを用いることで、塗装体の表面に汚れがつきにくく、また汚れがついた場合でも容易に除去できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9-228602号公報
【特許文献2】特開2013-209832号公報
【特許文献3】特開2009-28712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、長期に渡って撥水性に優れ、密着性にも優れる表層を有する建築基材塗装体を提供することを課題とする。また、本発明は、撥水層を形成するためのコート材を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討したところ、平均膜厚0.01~20μmの塗膜において、疎水性シリカ粒子を35~95体積%の割合で配合させることで、長期に渡って撥水性に優れ、密着性にも優れる塗膜を形成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
したがって、本発明の第1の態様は、表層に平均膜厚0.010~20μmの第1撥水層を有する建築基材塗装体であって、前記第1撥水層がバインダー成分と疎水性シリカ粒子を含有し、前記第1撥水層中の前記疎水性シリカ粒子の量が35~95体積%であることを特徴とする建築基材塗装体である。
【0012】
本発明の建築基材塗装体の好適例においては、前記バインダー成分が式(1)で示される化合物を構成単位として含む。
式(1):R1nSi(OR2)4-n
(式中、R1は炭素数1~8の有機基であり、R2は炭素数1~5のアルキル基であり、nは1又は2である。)
【0013】
本発明の建築基材塗装体の他の好適例においては、前記第1撥水層上に形成された第2撥水層を有し、前記第2撥水層が撥水剤を含有する。
【0014】
本発明の建築基材塗装体の他の好適例においては、前記第1撥水層中に分散している前記疎水性シリカ粒子の平均粒子径が2nm以上500nm未満の範囲内である。
【0015】
本発明の建築基材塗装体の他の好適例においては、前記第1撥水層の水接触角が100°~170°の範囲内である。
【0016】
本発明の建築基材塗装体の他の好適例においては、前記第1撥水層中における、前記バインダー成分と前記疎水性シリカ粒子の質量比が、50:50~5:95の範囲内である。
【0017】
本発明の建築基材塗装体の他の好適例においては、前記第1撥水層が塗膜層上に形成されており、前記塗膜層が、アルコキシシランを構成単位として含む樹脂を含む。
【0018】
また、本発明の第2の態様は、撥水層を形成するコート材であって、式(1)で示される化合物を構成単位として含むバインダー成分を含有するとともに、疎水性シリカ粒子を含有することを特徴とするコート材である。
式(1):R1nSi(OR2)4-n
(式中、R1は炭素数1~8の有機基であり、R2は炭素数1~5のアルキル基であり、nは1又は2である。)
【0019】
本発明のコート材の好適例において、前記バインダー成分は、オルガノシラン及び/又はその部分加水分解縮合物、及びシリル基含有ビニル系樹脂を構成単位として含有する。
【0020】
本発明のコート材の他の好適例において、前記コート材は、水と、親水性有機溶剤及び/又は界面活性剤を含有する。
【0021】
本発明のコート材の他の好適例においては、前記親水性有機溶剤がアルコールを含有する。
【0022】
本発明のコート材の他の好適例においては、前記バインダー成分と前記疎水性シリカ粒子の質量比が、50:50~5:95である。
【0023】
本発明のコート材の他の好適例において、前記コート材は、膜厚0.01~20μmの層を形成した場合、その層の表面の水接触角が100°~170°の範囲内である。
【発明の効果】
【0024】
本発明の第1の態様によれば、長期に渡って撥水性に優れ、密着性にも優れる表層を有する建築基材塗装体を提供することができる。また、本発明の第2の態様によれば、撥水層を形成するためのコート材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0026】
本発明の1つの態様は、表層に撥水層を有する建築基材塗装体である。本明細書では、この建築基材塗装体を「本発明の建築基材塗装体」または「本発明の塗装体」とも称する。ここで、建築基材塗装体とは、建築基材の塗装体、即ち塗装された表面を有する建築基材を指す。
【0027】
本発明の塗装体は、表層に撥水層を有する。ここで、撥水層は、1層でも複数層でもよく、少なくとも2層からなる撥水層であることが好ましい。本発明の塗装体の一実施形態において、撥水層は、疎水性シリカ粒子を含有する撥水層である。また、本発明の塗装体の別の実施形態において、撥水層は、疎水性シリカ粒子を含有する撥水層と、撥水剤を含有する撥水層からなる積層タイプの撥水層である。本明細書においては、疎水性シリカ粒子を含有する撥水層を「第1撥水層」と称し、疎水性シリカ粒子を含有しない撥水層を「第2撥水層」と称する。
【0028】
本発明の好ましい実施形態において、建築基材塗装体は、表層に平均膜厚0.010~20μmの第1撥水層であって、バインダー成分および疎水性シリカ粒子を含有し、疎水性シリカ粒子の量が35~95体積%である第1撥水層を有する。
【0029】
本発明者は、膜厚が比較的小さい塗膜に多量の疎水性シリカ粒子を配合して、撥水性を有する表面に微細な凹凸構造を形成させることで、いわゆるハスの葉効果(またはロータス効果)のように、非常に優れた撥水性を発揮することができ、大気浮遊物等による汚染を防止可能であることを見出した。本明細書では、膜厚が比較的小さい塗膜に多量の疎水性シリカ粒子を配合することで得られる撥水性を「超撥水性」と称する場合がある。
【0030】
第1撥水層の平均膜厚は、0.01~20μmの範囲内であることが好ましく、0.1~15μmの範囲内であることがより好ましく、0.1~10μmの範囲内であることがさらに好ましく、0.2~10μmの範囲内であることが特に好ましく、1~8μmの範囲内であることが最も好ましい。第1撥水層が薄すぎると、コート材の塗布量が少なくなり、超撥水性を安定して発揮できない恐れがある。また、第1撥水層が厚すぎると、撥水層の濁りが強くなる恐れや、撥水層の脱落が起こりやすくなる恐れがある。
【0031】
本明細書において、撥水層の平均膜厚は、塗膜の断面を走査型電子顕微鏡で観察して求めた値であり、撮影画像の中から無作為に選んだ100点の測定結果の平均値によって求められる。
【0032】
疎水性シリカ粒子は、表面に疎水性を有するシリカ粒子である。疎水性シリカ粒子を用いることで長期に渡って塗膜に撥水性を付与することができる。シリカは、結晶性シリカと非結晶性シリカに大別されるが、本発明に用いる疎水性シリカ粒子は、結晶性シリカと非結晶性シリカのいずれも使用することができる。また、シリカが合成品である場合、その製造方法によって湿式シリカと乾式シリカに分類される場合もあるが、本発明に用いる疎水性シリカ粒子は、湿式シリカと乾式シリカのいずれも使用することができる。疎水性シリカ粒子は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
疎水性シリカの合成には、様々な方法が知られており、例えば、シリカゾル中のシリカ表面のシラノール基を高級アルコール等と反応させエステルを形成させて調製する方法、四エチルケイ酸を加水分解しシリカヒドロゲルを調製しこれを水酸化ナトリウムで塩基性に調節した水中高温下(例えば100℃)で水熱処理する方法、シリカヒドロゲルとメトキシシランカップリング剤等のシランカップリング剤と反応させる方法、アルキルクロロシラン、アルコキシクロロシラン等のシラン化合物と反応させる方法、カチオン性界面活性剤とアニオン性コロイダルシリカから脱水反応を利用して疎水性オルガノコロイダルシリカを製造する方法、シリカと各種シリコーン油を高温で処理する方法等がある。
【0034】
シリカ粒子の疎水性については、M値を指標として表すことが知られている。M値とは、メタノール/水混合液中での試料の浮遊量を調べ、試料が50%浮遊するところのメタノールの体積分率(%)である。M値が大きい程、その試料の疎水性が高いことを示す。疎水性シリカ粒子は、M値が30~80であることが好ましい。
【0035】
本明細書において、シリカ粒子の疎水性は、次のように求められる。試料0.5gとメタノール/水混合液100cm3を入れ、長さ20mm、直径7mmの棒状テフロン(商品名:デュポン社製)コート撹拌子を用いるマグネティックスターラーにて回転速度500rpmで30分間撹拌し、10時間静置した後に沈降分と液部を吸引して浮遊分を残す。120℃で6時間乾燥し、浮遊分の質量を測定する。メタノール/水の比を変えて浮遊量を調べ、試料が50質量%浮遊するところのメタノール濃度を求める。この時のメタノールの体積分率(%)をM値とする。
【0036】
第1撥水層中に分散している疎水性シリカ粒子の平均粒子径は、2nm以上500nm未満の範囲内であることが好ましく、5nm以上250nm以下の範囲内であることがより好ましく、100nm以上250nm以下の範囲内であることがさらに好ましい。疎水性シリカ粒子の平均粒子径が上記特定した範囲内であれば、撥水層表面に超微細な凹凸を形成することができ、撥水性を更に向上させることができる。
【0037】
本明細書において、第1撥水層中に分散している疎水性シリカ粒子の平均粒子径は、コート材中に分散している疎水性シリカ粒子の平均粒子径と略同等とみなすことができ、体積基準粒度分布の50%粒子径(D50)を指し、粒度分布測定装置(例えばレーザ回析/散乱式粒度分布測定装置)を用いて測定される粒度分布から求めることができる。ここでの粒子径は、レーザ回折・散乱法による球相当径で表される。
【0038】
第1撥水層中の疎水性シリカ粒子の量は、35~95体積%であることが好ましく、50~95体積%であることがより好ましく、60~90体積%であることがさらに好ましい。また、第1撥水層中の疎水性シリカ粒子の量が多すぎると、バインダー成分が少なくなるため、撥水層の密着性が低下する。
【0039】
本発明の塗装体の好ましい実施形態において、第1撥水層は、バインダー成分を含む。バインダー成分を用いることで撥水層の密着性を確保することができる。また、バインダー成分は、撥水性の観点から、疎水性のバインダー成分を含むことが好ましい。
【0040】
本明細書において、疎水性のバインダー成分とは、バインダー単独で塗膜を形成した際の水接触角が70度以上となる樹脂成分を意味する。バインダー成分中の疎水性のバインダー成分の量は、40質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましい。
【0041】
バインダー成分としては、例えば、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、アクリルシリコーン樹脂、スチレンアクリル共重合樹脂、ポリエステル樹脂、ふっ素樹脂、ロジン樹脂、石油樹脂、クマロン樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂、セルロース樹脂、キシレン樹脂、アルキド樹脂、脂肪族炭化水素樹脂、ブチラール樹脂、マレイン酸樹脂、フマル酸樹脂、ビニル樹脂、アミン樹脂、ケチミン樹脂、およびこれらの樹脂を変性した樹脂(変性樹脂)等の樹脂が挙げられる。樹脂の変性には、各種変性が知られるが、例えば、アルキル変性、アルキルエーテル変性、アルキルフェノールノボラック変性、アクリル変性、脂肪酸変性、ウレタン変性、アミノ変性、イソシアネート変性、シリコーン変性や、アリル基を利用したグラフト変性等が挙げられる。また、架橋剤により架橋された樹脂もバインダー成分に含まれる。
【0042】
第1撥水層中のバインダー成分の量は、5~50質量%であることが好ましく、10~40質量%であることがより好ましい。バインダー成分は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
バインダー成分は、水溶性のものと、非水溶性のものに分類することも可能であり、いずれを使用することも可能であるが、バインダー成分としては非水溶性のバインダー成分が好ましい。バインダー成分中の非水溶性成分の量は、40質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。
【0044】
本明細書において、水溶性成分とは、水媒体中における成分濃度を20質量%とした際に透明性を有する成分を意味し、それ以外の成分は、非水溶性成分に分類される。
【0045】
第1撥水層中における、バインダー成分と疎水性シリカ粒子の質量比、即ちバインダー成分:疎水性シリカ粒子の質量比は、50:50~5:95の範囲内であることが好ましく、40:60~10:90の範囲内であることがより好ましい。
【0046】
第1撥水層中における、非水溶性のバインダー成分と疎水性シリカ粒子の質量比、即ち非水溶性のバインダー成分:疎水性シリカ粒子の質量比は、50:50~2:98の範囲内であることが好ましく、50:50~10:90の範囲内であることがより好ましい。
【0047】
バインダー成分は、式(1):R1nSi(OR2)4-n(式中、R1は炭素数1~8の有機基であり、R2は炭素数1~5のアルキル基であり、nは1又は2である。)で示される化合物を構成単位(繰り返し単位等)として含むことが好ましく、例えば、式(1)で示される化合物を構成単位として含む樹脂を含むことが好ましい。バインダー成分が式(1)で示される化合物を構成単位として含むことで、耐候性と撥水性能の持続性に優れる膜を形成することができる。
【0048】
式(1)において、R1の有機基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ビニル基を挙げることができる。また、アルキル基は、直鎖でも分岐したものでもよく、このようなアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等を挙げることができる。好ましいアルキル基は、炭素数が1~4個のものである。シクロアルキル基としては、例えば、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基を好適に挙げることができる。アリール基としては、例えば、フェニル基等を挙げることができる。これらの有機基は任意に置換基で置換されていてもよい。このような置換基としては、例えば、ハロゲン原子(例えば、塩素原子、臭素原子、フッ素原子)、(メタ)アクリロイル基、メルカプト基、脂環式基等を挙げることができる。
【0049】
式(1)において、R2のアルキル基は、直鎖でも分岐したものでもよく、このようなアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基等を挙げることができる。好ましいアルキル基は炭素数が1~2個のものである。
【0050】
式(1)で示される化合物の具体例としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、i-プロピルトリメトキシシラン、i-プロピルトリエトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3-トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、γ-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、ジメチルジプロポキシシラン等を挙げることができる。好ましくは、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシランである。
【0051】
式(1)で示される化合物を構成単位として含むバインダー成分を得る際には、式(1)で示される化合物を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、式(1)で示される化合物の部分加水分解縮合物を用いてもよい。この部分加水分解縮合物は、ポリスチレン換算重量平均分子量が、例えば300~5000であり、好ましくは500~3000である。このような分子量の部分加水縮合物を使用することにより、貯蔵安定性を悪化させることなく、密着性のよい膜を得ることができる。また、式(1)で示される化合物の部分加水分解縮合物は、ケイ素原子に結合した-OH基や-OR2基を1個以上、好ましくは3~30個有するものであることが適当である。式(1)で示される化合物の具体例としては、市販品である信越化学工業社製のKR-211、KR-212、KR-213、KR-214、KR-216、KR-218;東芝シリコーン社製のTSR-145、TSR-160、TSR-165、YR-3187等を挙げることができる。
【0052】
式(1)で示される化合物を構成単位として含むバインダー成分を得る場合において、式(1)で示される化合物および/またはその部分加水分解縮合物(ただし式(1)中のnが1である)(A)と、式(1)で示される化合物および/またはその部分加水分解縮合物(ただし式(1)中のnが2である)(B)を併用する場合、その質量比(A:B)が例えば50:50~100:0、好ましくは60:40~95:5であると、その後に加水分解縮合反応させる際に安定に反応し、また耐クラック性の良好な膜を形成することができる。
【0053】
バインダー成分中の式(1)で示される化合物の量は、5~90質量%であることが好ましく、10~80質量%であることがより好ましい。
バインダー成分に式(1)で示される化合物を用いる方法としては、バインダー成分重合の際の単量体として用いる他、架橋剤として用いる等、従来公知の方法を利用することができる。
【0054】
バインダー成分は、有機無機複合樹脂を含むことが好ましく、オルガノシランおよび/またはその部分加水分解縮合物、およびシリル基含有ビニル系樹脂を構成単位として含有する有機無機複合樹脂を含むことがより好ましく、式(1)で示される化合物および/またはその部分加水分解縮合物、およびシリル基含有ビニル系樹脂を構成単位として含有する有機無機複合樹脂を含むことがさらに好ましい。バインダー成分がこのような有機無機複合樹脂を含むことで、耐候性と撥水性能の持続性に優れる膜を形成することができる。
【0055】
バインダー成分中の有機無機複合樹脂の量は、5質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましい。有機無機複合樹脂は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
シリル基含有ビニル系樹脂は、加水分解性シリル基または水酸基と結合したケイ素原子を有するシリル基を有することが好ましく、ビニル系樹脂の末端または側鎖に加水分解性シリル基または水酸基と結合したケイ素原子を有するシリル基を樹脂1分子中に少なくとも1個を有することがより好ましく、ビニル系樹脂の末端または側鎖に加水分解性シリル基または水酸基と結合したケイ素原子を有するシリル基を樹脂1分子中に2個以上有することがさらに好ましい。
【0057】
シリル基含有ビニル系樹脂のシリル基は、例えば、一般式-SiXP(R3)(3-P)(式中、Xは、アルコキシ基、アシロキシ基、ハロゲン基、ケトキシメート基、メルカプト基、アルケニルオキシ基、フェノキシ基等の加水分解性基または水酸基であり、R3は、水素または炭素数1~10のアルキル基、アリール基、アラルキル基等の1価の炭化水素基であり、Pは1~3の整数である。)で示されるものである。
【0058】
シリル基含有ビニル系樹脂は、例えば、一般式(X)P(R3)(3-P)Si-H(式中、X、R3およびPは、上記シリル基の一般式のX、R3およびPと同じ意味である。)で示されるヒドロシラン化合物と、炭素-炭素二重結合を有するビニル系樹脂とを常法に従って反応させることにより製造される。
【0059】
ここで、ヒドロシラン化合物としては、例えば、メチルジクロロヒドロシラン、メチルジエトキシヒドロシラン、メチルジアセトキシヒドロシラン等を代表的なものとして挙げることができる。シリル基含有ビニル系樹脂を製造する際のヒドロシラン化合物の使用量は、ビニル系樹脂中に含まれる炭素-炭素二重結合の数に対して0.5~2倍となるモル量が適当である。
【0060】
ビニル系樹脂は、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、フマル酸等のカルボン酸又は無水マレイン酸等の酸無水物を必須モノマー単位として含有し、更に(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、シクロヘキシル(メタ)アクリル酸等の(メタ)アクリル酸エステル、アクリロニトリル、スチレン、α-メチルスチレン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等からなる群から選ばれるビニル系モノマーをコモノマー単位として含有する共重合体であることが好ましく、共重合体製造時に(メタ)アクリル酸アリル、ジアリルフタレート等をラジカル共重合させることにより、ビニル系樹脂中にヒドロシリル化反応のための炭素-炭素二重結合を導入することが可能となる。
【0061】
また、シリル基含有ビニル系樹脂は、上記のカルボン酸又は酸無水物を含むビニル系モノマーと、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシビニルエーテル等の水酸基含有モノマーと、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、β-(メタ)アクリロキシエチルトリメトキシシラン、β-(メタ)アクリロキシエチルトリエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジプロポキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシブチルフェニルジメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルジエチルメトキシシラン等のシリル基含有ビニル化合物とをラジカル重合させる方法によっても調製することができる。これらシリル基含有ビニル系樹脂の具体例としては、例えば、市販品である鐘淵化学工業社製のカネカゼムラツク等を挙げることができる。
【0062】
また、シリル基含有ビニル系樹脂が水分散性樹脂である場合には、後述のようにして水分散性のシリル基含有ビニル系樹脂を調製することも可能である。
【0063】
シリル基含有ビニル系樹脂の酸価は、好ましくは20~150mgKOH/gであり、より好ましくは50~120mgKOH/gである。シリル基含有ビニル系樹脂の酸価が上記特定した範囲内にあると、得られる有機無機複合樹脂の貯蔵安定性を向上させることができ、また、得られる膜の耐水性および耐熱水性を向上させることもできる。本明細書において、樹脂の酸価とは、樹脂1gを中和するのに必要な水酸化カリウムのmg数を意味する。
【0064】
シリル基含有ビニル系樹脂は、ポリスチレン換算重量平均分子量が、1000~50000であることが好ましい。
【0065】
次に、式(1)で示される化合物および/またはその部分加水分解縮合物、およびシリル基含有ビニル系樹脂を構成単位として含有する有機無機複合樹脂の製造方法について説明する。本明細書では、この有機無機複合樹脂を「有機無機複合樹脂(a)」とも称する。
【0066】
有機無機複合樹脂(a)、特にその水分散液の製造方法の一実施形態においては、まず、式(1)で示される化合物および/またはその部分加水分解縮合物(以下、成分(a-1)ともいう)とシリル基含有ビニル系樹脂(以下、成分(a-2)ともいう)との混合物に更に水および触媒を存在させて加水分解および縮合反応を生じさせる。成分(a-1)と成分(a-2)との混合割合は、成分(a-1)100質量部に対して成分(a-2)の量が5~200質量部、好ましくは10~150質量部であることが適当である。この成分(a-2)の量が5質量部より少ないと、得られる塗膜の外観や耐クラック性、耐凍害性、耐アルカリ性等が悪くなる場合があり、逆に成分(a-2)の量が200質量部を超えると、得られる膜の耐候性、耐汚染性等が悪くなる場合がある。
【0067】
成分(a-1)と成分(a-2)との混合物に添加する水の量は、成分(a-1)と成分(a-2)との混合物中に初期に存在していた加水分解性基の好ましくは45~100%、より好ましくは50~90%を加水分解および縮合反応させるのに充分な量であり、具体的には上記の混合物中の加水分解性基の総数の0.45~1.0倍、好ましくは0.5~0.9倍のモル数となる量が適当である。ここで45%以上が好ましいとする理由は、有機無機複合樹脂(a)の水分散液(エマルション)となった時の貯蔵安定性がよく、また、コート材に用いた時に透明性の高い膜形成が可能であるためである。
【0068】
成分(a-1)と成分(a-2)との混合物に添加する触媒としては、硝酸、塩酸等の無機酸や、酢酸、蟻酸、プロピオン酸等の有機酸を挙げることができる。触媒の添加量は、上記混合物のpHが3~6になる量が適当である。加水分解反応については、成分(a-1)と成分(a-2)との混合物を、水及び触媒の存在下で、40~80℃、好ましくは45~65℃で、2~10時間、撹拌しながら反応させる方法が適当であるが、この方法に限定されるものではない。
【0069】
成分(a-1)と成分(a-2)との加水分解縮合反応を上記のように一段階で実施することが可能であるが、生成物の貯蔵安定性の観点から、次のような二段階で反応させることが好ましい。即ち、第一段階として、水及び触媒の存在下で、成分(a-1)と成分(a-2)との混合物中に初期に存在していた加水分解性基の40~80%、好ましくは45~70%が加水分解縮合反応するように、40~80℃、好ましくは45~65℃で1~8時間、撹拌しながら反応させる。
【0070】
第二段階として、第一段階に続いて、更に水及びトリメトキシボラン、トリエトキシボラン等のトリアルコキシボラン、トリ-n-ブトキシエチルアセテートジルコニウム、ジn-ブトキシ(エチルアセテート)ジルコニウム、テトタラキス(エチルアセテート)ジルコニウム等のジルコニウムキレート化合物、ジイソプロポキシビス(アセチルアセテート)チタン、ジイソプロポキシビス(エチルアセテート)チタン等のチタンキレート化合物、モノアセチルアセテートビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、ジイソプロポキシエチルアセトアセテートアルミニウム等のアルミニウムキレート化合物等の有機金属化合物触媒を添加し、加水分解および縮合反応を生じさせる。第二段階で用いるトリアルコキシボランや有機金属化合物触媒は縮合反応を促進し、膜の外観、耐候性、耐汚染性、耐熱水性等を向上させることができる。
【0071】
第二段階で添加する水の量は、成分(a-1)と成分(a-2)との混合物中に初期に存在していた加水分解性基の45~100%、好ましくは50~90%が加水分解および縮合反応するのに充分な量である。第二段階で添加する触媒の量は、第一段階で得られた反応物と未反応で残っている成分(a-1)および成分(a-2)との合計量100質量部に対して0.001~5質量部、好ましくは、0.005~2質量部が適当である。第二段階における加水分解縮合反応は、第一段階と同様に40~80℃で2~5時間反応させるのが適当である。
【0072】
なお、加水分解縮合反応物は、その反応で生成するアルコール分により、又はそのアルコール分と必要に応じて添加した後記の有機溶媒とにより溶液状態となっている。このようにして得られた反応物である有機無機複合樹脂(a)の溶液に中和剤を加えて均一に分散させ、中和した後、水を加えるか、もしくは中和剤と水とを同時に加え、撹拌することにより強制分散させて水分散液(エマルション)を得る。
【0073】
中和剤の量は、安定なエマルションが得られるように、反応物である有機無機複合樹脂中の酸基の50~100%、好ましくは、70~100%を中和する量が適当である。なお、中和剤としては、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、モノエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、モルホリン等が代表的なものとして挙げられる。
【0074】
中和後に加える水の量は、コート材の塗装作業性等を考慮して任意に決定されるが、通常コート材の固形分が10~70質量%になる程度の量が適当である。なお、このようにして得られた有機無機複合樹脂(a)の水分散液中には上記の加水分解縮合反応により生成したアルコール分が残っている。従って、その水分散液をそのままコート材に使用すると、揮発性有機成分(VOC)が多くなるので、常法に従ってアルコール分を減圧下で除去することが好ましい。
【0075】
有機無機複合樹脂は、アミノ基を有する加水分解縮合反応なアルコキシシランにより架橋(または硬化)されていることが好ましく、アミノ基を有する加水分解縮合反応なアルコキシシランおよび該アルコキシシランのアミノ基との反応性を有するエポキシ基を分子内に有する化合物により架橋(または硬化)されていることがさらに好ましい。このように有機無機複合樹脂を架橋または硬化させることによって、耐熱水性、耐アルカリ性、耐候性、耐汚染性、耐溶剤性、耐クラック性等に優れた膜を形成することができる。本明細書では、このアミノ基を有する加水分解縮合反応なアルコキシシランを「アルコキシシラン(b)」または「成分(b)」とも称し、該アルコキシシランのアミノ基との反応性を有するエポキシ基を分子内に有する化合物を「化合物(c)」または「成分(c)」とも称する。
【0076】
成分(b)は、アミノ基を有する加水分解縮合反応可能なアルコキシシランであり、具体的には、式(2):(R6-NH-R5-)nSi(OR4)4-n(式中、R4は、炭素数1~5のアルキル基であり、R5は、炭素数1~5のアルキレン基であり、R6は、水素原子、炭素数1~5のアルキル基、炭素数5~8のシクロアルキル基、炭素数6~8のアリール基、または置換もしくは未置換のアミノ基であり、nは1または2である。)で示されるアミノ基含有アルコキシシランを好適に使用することができる。アルコキシシラン(b)は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0077】
式(2)において、R4としてのアルキル基は、直鎖でも分岐したものでもよく、その例として、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基等を挙げることができる。好ましいアルキル基は炭素数が1~2個のものである。R5としてのアルキレン基は、直鎖でも分岐したものでもよく、その例として、メチレン基、エチレン基、プロピレン基等を挙げることができる。R6としてのアルキル基は、R4の場合と同様である。また、R6としてのシクロアルキル基としては、例えばシクロヘキシル基、シクロヘプチル基等を挙げることができる。またR6としてのアリール基としては、例えば、フェニル基等を挙げることができる。さらにR6としてのアミノ基としては、アミノ基中の水素原子の一方または両方が、例えば、炭素数1~5のアルキル基で置換されたものを挙げることができる。
【0078】
アルコキシシラン(b)としては、例えば、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N-シクロへキシルーγ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-シクロヘキシル-γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アニリノプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0079】
アルコキシシラン(b)の量は、有機無機複合樹脂100質量部に対して、好ましくは0.5~30質量部、より好ましくは2~15質量部であることが適当である。アルコキシシラン(b)の量が少なすぎると、得られる膜の硬化性や耐汚染性が低下する場合があり、逆に多過ぎると、耐熱水性や耐クラック性が低下する場合がある。
【0080】
成分(c)は、アルコキシシラン(b)中のアミノ基との反応性を有するエポキシ基を分子内に有する化合物である。化合物(c)としては、例えば、エポキシ基含有アルコキシシラン、アルキルグリシジルエーテルおよびエステル、シクロエポキシ化合物、ビスフェノールAF系の低分子量エポキシ樹脂、あるいはこれらの乳化物等を用いることができる。化合物(c)は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0081】
化合物(c)の具体例としては、γ-グリシドキシプロピルトリメキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリイソプロペニルオキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリイミノオキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルメチルジメトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルトリイソプロペニルオキシシランとグリシドールとの付加物、ブチルグリシジルエーテル、ポリオキシエチレングリシジルエーテル、カージュラーE(シェル社製商品名)、ブチルフェニルグリシジルエーテル、エピコート815、828、834(油化シェルエポキシ社製商品名)等およびこれら乳化物が代表的なものとして挙げられる。化合物(c)の中でも加水分解性シリル基を持つエポキシ基含有アルコキシシラン化合物を用いた場合には、膜の硬化性が向上し、耐熱性、耐アルカリ性等がよくなるので好ましい。
【0082】
化合物(c)の量は、アルコキシシラン(b)のアミノ基の活性水素の総数に対して、化合物(c)のエポキシ基の総数が、好ましくは0.1~2.0倍、より好ましくは0.2~1.2倍となる量であることが適当である。化合物(c)の量が少なすぎると、得られる膜の耐熱水性等が低下する場合があり、逆に多過ぎると塗膜の耐候性、耐クラック性等が低下する場合がある。
【0083】
アルコキシシラン(b)や化合物(c)を用いる場合は、塗装直前に有機無機複合樹脂の水分散液と混合し、分散させて使用することが好ましい。アルコキシシラン(b)および化合物(c)は、有機無機複合樹脂の硬化剤として作用し、アルコキシシラン(b)中のシリル基および化合物(c)中のシリル基(存在する場合)は、有機無機複合樹脂中に残存するシリル基と加水分解縮合反応し、また、アルコキシシラン(b)中のアミノ基は化合物(c)中のエポキシ基と反応する。
【0084】
バインダー成分は、水分散性樹脂を含んでもよい。本明細書において「水分散性樹脂」とは、水中に分布して不均質な系(例えば乳濁液又は懸濁液)を形成することが可能な樹脂である。水分散性樹脂は、エマルション樹脂を含むことが好ましい。エマルション樹脂は、分子量を大きくすることが可能であり、また、分散安定性にも優れる水分散性樹脂である。例えば、上述の有機無機複合樹脂またはシリル基含有ビニル系樹脂が水分散性樹脂である場合や、有機無機複合樹脂またはシリル基含有ビニル系樹脂以外の樹脂として水分散性樹脂を含む場合等がある。
【0085】
バインダー成分中の水分散性樹脂の量は、例えば40質量%以上であり、70質量%以上であることが好ましい。水分散性樹脂は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0086】
水分散性樹脂は、アクリル成分を構成単位(繰り返し単位等)として含むことが好ましい。本明細書において「アクリル成分」とは、アクリル酸、メタクリル酸およびその誘導体(例えば、アクリル酸およびメタクリル酸のエステル、アミド等の(メタ)アクリロイル基を有する化合物やアクリル酸ニトリル、メタクリル酸ニトリル等)を指す。アクリル成分は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0087】
アクリル成分の具体例としては、特に制限されるものではないが、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、アミル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、n-ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド、N-モノメチル(メタ)アクリルアミド、N-モノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-n-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、メチレンビス(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、エチレングリコール(メタ)アクリレート、エチレングリコールメトキシ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールメトキシ(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、4-メチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシルエチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシルプロピル(メタ)アクリレート、4-メチルシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0088】
本明細書において、(メタ)アクリレートの語は、メタクリレートまたはアクリレートを意味する。例えば、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートは、2-エチルヘキシルアクリレートまたは2-エチルヘキシルメタクリレートである。また、ジ(メタ)アクリレート、トリ(メタ)アクリレート等のように、複数であることを示す接頭語が(メタ)アクリレートに付されている場合もあるが、この場合の各(メタ)アクリレートは、同一でも異なっていてもよい。
【0089】
アクリル成分を構成要素として含む水分散性樹脂には、アクリル樹脂の他、アクリルスチレン樹脂、アクリルシリコーン樹脂、ふっ素変性アクリル樹脂、脂肪酸変性アクリル樹脂、ウレタン変性アクリル樹脂、エポキシ変性アクリル樹脂等の各種変性樹脂も含まれる。
【0090】
水分散性樹脂中のアクリル成分の量は、10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましい。
【0091】
水分散性樹脂は、非アクリル成分を構成単位(繰り返し単位等)として含むことができる。非アクリル成分とは、アクリル成分以外の成分であり、例えば、スチレンの他、フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、クロトン酸、ビニルバーサチック酸等のカルボキシル基含有単量体;メチルスチレン、クロロスチレン、メトキシスチレン、ビニルトルエン等の芳香族系モノマー;エチレン、プロピレン等のオレフィン系モノマー;酢酸ビニル、塩化ビニル等のビニル系モノマー;マレイン酸アミド等のアミド系モノマー;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン等のアルコキシシリル基含有単量体;ジアルキルフマレート、アリルアルコール、ビニルピリジン、ブタジエン等が挙げられる。非アクリル成分は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0092】
水分散性樹脂は、構成単位となる単量体成分の重合により得ることができ、乳化重合、懸濁重合、分散重合、溶液重合、ミニエマルション重合等、従来公知の方法によって得ることができる。単量体成分は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0093】
水分散性樹脂は、単相構造を有する樹脂であってもよいし、異相構造を有する樹脂であってもよい。本明細書において、異相構造を有する樹脂とは、単量体成分の組成が異なる複数の部位がドメイン状あるいは層状に存在する樹脂を指し、このうち、単量体成分の組成が異なる複数の部位が層状に存在する樹脂を「複層構造を有する樹脂」とも称される。また、この複層構造を有する水分散性樹脂粒子の内側の層を「コア」、外側の層を「シェル」とし、これを、コアシェル構造を有する樹脂と称する場合もある。一方、単相構造を有する樹脂は、単量体成分の組成がドメイン状あるいは層状に分かれていない樹脂、好ましくは単量体成分の組成が一様に分布している樹脂である。単層構造は、1段の乳化重合によって調製することができ、異相構造は、多段の乳化重合によって調製することができる。異相構造は、例えば2~5の層またはドメイン、好ましくは2~3の層またはドメインを有する。
【0094】
第1撥水層は、界面活性剤を含んでもよい。撥水層の形成に用いるコート材において疎水性シリカ粒子を安定に分散させる観点から、界面活性剤を用いることが好ましい。界面活性剤は、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤等に分類され、いずれを用いてもよいが、非イオン性界面活性剤を用いることがより好ましい。界面活性剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。第1撥水層中の界面活性剤の量は、例えば、0.1~5質量%である。
【0095】
第1撥水層は、その他の成分として、顔料、染料、分散剤、濡れ剤、酸化防止剤、沈降防止剤、シランカップリング剤、付着性付与剤、防藻剤、防カビ剤、防腐剤、殺虫剤、抗菌剤、抗ウイルス剤、紫外線吸収剤、ラジカル捕捉剤、帯電防止剤、導電性付与剤等を必要に応じて適宜含んでいてもよい。
【0096】
第1撥水層は、水接触角が100°~170°の範囲内であることが好ましく、105°~165°の範囲内であることがより好ましく、110°~160°の範囲内であることがさらに好ましい。水接触角は、水に対するぬれの尺度となり、一般に水接触角が高いと撥水性が高くなる。水接触角は、バインダー成分の疎水度の調整や、疎水性シリカの粒子径、量の調整、凹凸構造の調整等によって変化させることができる。
【0097】
本明細書において、撥水層の水接触角は、静滴法によって求められる水の接触角を指す。具体的には、撥水層表面に10μLの蒸留水を滴下し、20℃の雰囲気下で10秒間静置し、一般的な接触角計(例えば協和界面化学株式会社接触角計DMs-401)を用いて水の接触角を測定することができる。
【0098】
第1撥水層は、可視光透過率が、好ましくは10%以上であり、より好ましくは20%以上である。
【0099】
本明細書において、可視光透過率は、可視領域(360nm~750nm)における全光線透過率を意味し、JIS K 7361-1:1997に基づき測定することで求められる。
【0100】
本発明の好ましい実施形態において、建築基材塗装体は、表層に、上述の第1撥水層と、該第1撥水層上に形成された第2撥水層とを有することが好ましい。ここで、第2撥水層は、撥水剤を含有する撥水層である。第2撥水層によって撥水性を更に向上させることができる。また、経時的に第2撥水層の摩耗や脱落が起きたとしても、第1撥水層の存在によって、持続的な撥水性の発現が可能になる。
【0101】
第2撥水層の平均膜厚は、10μm以下であることが好ましく、0.1~5μmの範囲内であることがより好ましく、0.5~3μmの範囲内であることがさらに好ましい。第2撥水層を厚くすることで、より高い撥水性を安定して実現することができる。他方で、第2撥水層が厚すぎると、塗装ムラが生じやすくなり、安定した機能の発現が困難になる恐れがある。
【0102】
撥水剤としては、例えばシリコーン系撥水剤を用いることができ、特にアルコキシル基を有する構造を備えるアルコキシシラン系撥水剤を用いることが好ましい。撥水剤をモノマーやオリゴマーの形態で用いる場合、第2撥水層中では、それらの加水分解縮合物として存在している。
【0103】
アルコキシシラン系撥水剤としては、例えば中鎖もしくは長鎖のアルキル基を官能基として有しているものを挙げることができ、例えば下記一般式(3)や下記一般式(4)に示すものを挙げることができる。
【0104】
一般式(3): RnSi(OR1)4-n
一般式(3)中のnは、1~3の整数を示し、Rは中鎖または長鎖のアルキル基を示し、R1はアルキル基を示す。
【0105】
一般式(4): RnSi(OR1)4-n-mXm
一般式(4)中のnは1~3の整数を示し、mは0~2の整数を示し、Rは中鎖または長鎖のアルキル基を示し、R1はアルキル基を示し、Xは加水分解性基を示す。
【0106】
このようなアルコキシシラン系撥水剤は、モノマー分子からなるもののほか、加水分解により複数分子が重縮合したオリゴマーからなるものを用いることもできる。
【0107】
一般式(3)および(4)において、中鎖もしくは長鎖のアルキル基(R)としては、炭素数4~12の直鎖または分枝鎖アルキル基が好適なものとして例示される。また、アルコキシ基(OR1)を構成するアルキル基(R1)については通常は、炭素数1~3程度の低級アルキル基が好ましい。また、加水分解性基については、アルコキシ基、エステル基、ハロゲン原子等を挙げることができる。
【0108】
また、アルコキシシラン系撥水剤の官能基アルキル基は、炭素数4~12の中鎖または長鎖アルキル基であることが好ましく、炭素数1~3の低級アルキル基の場合には、良好な撥水効果を得ることは難しくなり、炭素数が12を超える場合にも同様である。
【0109】
撥水剤は、オイル状態(モノマーやオリゴマー)あるいは予め水に分散されてエマルジョン状態で使用されることが好ましい。
【0110】
また、撥水剤としては、上述のシリコーン系撥水剤の他、フッ素系撥水剤やフッ素含有シリコーン系撥水剤等の公知の撥水剤を使用することができる。フッ素系撥水剤としては、例えば、含フッ素アクリレート系ポリマーやパーフルオロポリエーテル等が挙げられる。フッ素含有シリコーン系撥水剤としては、例えば、上述のシリコーン系撥水剤にフッ素原子を含有する有機基が導入されたものや、パーフルオロポリエーテルの末端または側鎖にケイ素原子を含有する有機基が導入されたもの等が挙げられる。
【0111】
第2撥水層中の撥水剤の量は、30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましい。撥水剤は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0112】
第2撥水層は、その他の成分として、樹脂、顔料、染料、分散剤、消泡剤、濡れ剤、酸化防止剤、沈降防止剤、付着性付与剤、防藻剤、防カビ剤、防腐剤、殺虫剤、抗菌剤、抗ウイルス剤、紫外線吸収剤、ラジカル捕捉剤、帯電防止剤、導電性付与剤等を必要に応じて適宜含んでいてもよい。
【0113】
第2撥水層は、水接触角が100°~170°の範囲内であることが好ましく、105°~165°の範囲内であることがより好ましく、110°~160°の範囲内であることがさらに好ましい。第2撥水層形成後の水接触角は、凹凸構造や撥水剤の種類、量、膜厚等によって調整することができる。
【0114】
本発明の塗装体は、撥水層、特に第1撥水層が、塗膜層上に形成されていてもよい。ここで、塗膜層は、1層でも複数層でもよく、様々な目的から塗装されている。例えば、建築基材に意匠を施す場合には意匠層を塗装することができ、また、建築基材の表面を保護する場合には保護層を塗装することができる。また、塗膜層は、異なる機能を有する複数の塗膜層から構成されてもよく、例えば、意匠層と保護層とを積層してなる積層タイプの塗膜層や、浸透防止層と表面保護層を組み合わせた、基材の意匠を活かした積層タイプの塗膜層等が挙げられる。
【0115】
塗膜層は、撥水層に使用されるものと同種の樹脂を含むことが好ましい。このように、撥水層と塗膜層に同種の樹脂を用いることで、撥水層と塗膜層の密着性を向上させることができる。特に、第1撥水層が接している塗膜層において、第1撥水層と同種の樹脂を用いることが、撥水層と塗膜層の密着性を向上させる観点から好ましい。
【0116】
本発明の塗装体において、塗膜層は、アルコキシシランを構成単位(繰り返し単位等)として含む樹脂を含むことが好ましく、アルコキシシランを構成単位(繰り返し単位等)として含む有機無機複合樹脂を含むことがより好ましく、オルガノシランおよび/またはその部分加水分解縮合物、およびシリル基含有ビニル系樹脂を構成単位として含有する有機無機複合樹脂を含むことがさらに好ましく、式(1)で示される化合物および/またはその部分加水分解縮合物、およびシリル基含有ビニル系樹脂を構成単位として含有する有機無機複合樹脂を含むことが特に好ましい。また、塗膜層に含まれる有機無機複合樹脂は、アミノ基を有する加水分解縮合反応なアルコキシシランにより架橋(または硬化)されていることが好ましく、アミノ基を有する加水分解縮合反応なアルコキシシランおよび該アルコキシシランのアミノ基との反応性を有するエポキシ基を分子内に有する化合物により架橋(または硬化)されていることがさらに好ましい。塗膜層がこのような樹脂を含む場合、塗装体に耐候性を付与できるとともに、撥水層、特に第1撥水層が同種の樹脂を含む場合に撥水層と塗膜層の密着性を向上させることができる。ここで、塗膜層に使用できる「式(1)で示される化合物」、「シリル基含有ビニル系樹脂」、「有機無機複合樹脂」、「アミノ基を有する加水分解縮合反応なアルコキシシラン」および「該アルコキシシランのアミノ基との反応性を有するエポキシ基を分子内に有する化合物」の説明については、第1撥水層についての「式(1)で示される化合物」、「シリル基含有ビニル系樹脂」、「有機無機複合樹脂」、「アミノ基を有する加水分解縮合反応なアルコキシシラン」および「該アルコキシシランのアミノ基との反応性を有するエポキシ基を分子内に有する化合物」の説明が同様に当てはまる。
【0117】
塗膜層(複数層である場合は各塗膜層)中の樹脂の量は、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。樹脂は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0118】
樹脂中のアルコキシシランの量は、5~90質量%であることが好ましく、10~80質量%であることがより好ましい。アルコキシシランは、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0119】
塗膜層は、その他の成分として、他の樹脂、顔料、染料、分散剤、酸化防止剤、沈降防止剤、シランカップリング剤、付着性付与剤、防藻剤、防カビ剤、防腐剤、殺虫剤、抗菌剤、抗ウイルス剤、紫外線吸収剤、ラジカル捕捉剤、帯電防止剤、導電性付与剤等を必要に応じて適宜含んでいてもよい。
【0120】
本発明の塗装体において、基材としては、例えば、エポキシ樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、アクリル樹脂、特にはポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリプロピレン(PP)等のプラスチック基材、鉄、ステンレス、アルミニウム、銅、チタンやそれらの合金等の金属基材、セメント、コンクリート、石膏、ケイ酸カルシウム、炭酸カルシウム、大理石、人工大理石、ガラス、セラミック等の金属以外の無機質基材、木質基材、これら基材の2種以上の材料を組み合わせた複合基材等が挙げられる。
【0121】
基材は、様々な形状のものがあり、例えば、板状の基材等がある。基材の表面は、平滑であってもよいし、凹凸を有していてもよい。
【0122】
本発明の塗装体は、建築基材の塗装体である。建築基材の具体例としては、例えば、単板、合板、パーティクルボード、中密度繊維板(MDF)等の木質建材;窯業系サイディングボード、フレキシブルボード、珪酸カルシウム板、石膏スラグバーライト板、木片セメント板、パルプセメント板、プレキャストコンクリート板、軽量気泡コンクリート(ALC)板またはALCパネル、石膏ボード等の窯業建材;金属サイディングボード、アルミニウム、鉄、ステンレス等の金属建材等の各種建材(特に建築板)が好適に挙げられる。また、基材の具体例として、塩ビシート、ターポリン、プラダン(プラスチック製ダンボール)、アクリル板等のプラスチック基材、タイル、ガラス板等も挙げられる。
【0123】
基材は、その表面に、脱脂処理、化成処理、研磨等の前処理や、シーラー、プライマー塗装等が施されていてもよい。例えば、基材が、窯業建材等のコート材を過度に吸い込む可能性のある基材(特に多孔性基材)である場合、基材の表面がシーラーで塗装され、基材上にシーラー層が形成されている場合がある。また、基材が、金属建材等である場合には、基材の表面がプライマーで塗装され、基材上にプライマー層が形成されている場合がある。
【0124】
本発明の塗装体は、外壁や屋根、内装材、雨樋等の住宅部材に好適に適用することができる。
【0125】
撥水層(特に第1撥水層、第2撥水層)および塗膜層を形成するためのコート材は、必要に応じて適宜選択される各種成分を混合することによって調製できる。コート材は、1液型でも2液型でもよいが、2液型のコート材である場合、主剤と硬化剤とを予め用意しておき、これらを塗装時に混合することで調製できる。通常、主剤は樹脂を含み、硬化剤は架橋剤を含む。主剤と硬化剤との混合の際に、粘度の調整等の目的で水や希釈剤等の添加剤をさらに加えてもよい。
【0126】
コート材の塗装手段は、特に限定されず、既知の塗装手段、例えば、刷毛塗装、ローラー塗装、コテ塗装、ヘラ塗装、フローコーター塗装、スプレー塗装(例えばエアースプレー塗装、エアレススプレー塗装)、シャーワーコーター塗装、ディッピング塗装等が利用できる。
【0127】
コート材の乾燥手段は、特に限定されず、周囲温度での自然乾燥や乾燥機等を用いた強制乾燥のいずれであってもよい。また、焼付けを行う場合もある。焼付けの場合、基材やコート材に応じて加熱温度が適宜設定されるが、通常、40~90℃の範囲内で加熱して膜を形成することが好ましい。
【0128】
本発明の別の態様は、疎水性シリカ粒子を含有する、撥水層を形成するためのコート材である。本明細書では、このコート材を「本発明のコート材」とも称する。本発明のコート材は、撥水層、特に第1撥水層を形成するために使用できるコート材である。
【0129】
本発明のコート材は、疎水性シリカ粒子を含有する。本発明のコート材に使用できる「疎水性シリカ粒子」の説明については、特段の記載がない限り、上述した本発明の塗装体の第1撥水層についての「疎水性シリカ粒子」の説明が同様に当てはまる。
【0130】
例えば、本発明のコート材において、コート材中に分散している疎水性シリカ粒子は、その平均粒子径が、2nm以上500nm未満の範囲内であることが好ましく、5nm以上250nm以下の範囲内であることがより好ましく、100nm以上250nm以下の範囲内であることがさらに好ましい。
【0131】
ここで、疎水性シリカ粒子の平均粒子径は、体積基準粒度分布の50%粒子径(D50)を指し、粒度分布測定装置(例えばレーザ回折/散乱式粒度分布測定装置)を用いて測定される粒度分布から求めることができる。ここでの粒子径は、レーザ回折・散乱法による球相当径で表される。また、コート材中に分散している疎水性シリカ粒子の平均粒子径は、攪拌器にて500rpm/30秒攪拌した後の塗料溶液の粒度分布測定装置(例えば、レーザ回折式粒度分布測定装置)による粒子径測定によって求められる。
【0132】
一方、本発明のコート材における疎水性シリカ粒子の量については、本発明のコート材が溶媒等の揮発性物質を含み得ることから、上述した本発明の塗装体の説明とは異なる部分もある。
【0133】
本発明のコート材中の疎水性シリカ粒子の量は、第1撥水層中の疎水性シリカ粒子の量を上記特定した範囲に調整する観点から、0.1~50質量%あることが好ましく、2~15質量%であることがより好ましく、3~10質量%であることがさらに好ましい。
【0134】
本発明のコート材は、バインダー成分を含むことが好ましい。本発明のコート材に使用できる「バインダー成分」の説明については、特段の記載がない限り、上述した本発明の塗装体の第1撥水層についての「バインダー成分」の説明が同様に当てはまる。
【0135】
例えば、本発明のコート材において、バインダー成分は、式(1):R1nSi(OR2)4-n(式中、R1は炭素数1~8の有機基であり、R2は炭素数1~5のアルキル基であり、nは1又は2である。)で示される化合物を構成単位(繰り返し単位等)として含むことが好ましく、例えば、式(1)で示される化合物を構成単位として含む樹脂を含むことが好ましい。また、バインダー成分は、有機無機複合樹脂を含むことが好ましく、オルガノシランおよび/またはその部分加水分解縮合物、およびシリル基含有ビニル系樹脂を構成単位として含有する有機無機複合樹脂を含むことがより好ましく、式(1)で示される化合物および/またはその部分加水分解縮合物、およびシリル基含有ビニル系樹脂を構成単位として含有する有機無機複合樹脂を含むことがさらに好ましい。また、有機無機複合樹脂は、形成される撥水層中で、アミノ基を有する加水分解縮合反応なアルコキシシランにより架橋(または硬化)されることが好ましく、アミノ基を有する加水分解縮合反応なアルコキシシランおよび該アルコキシシランのアミノ基との反応性を有するエポキシ基を分子内に有する化合物により架橋(または硬化)されることがさらに好ましい。ここで、「アミノ基を有する加水分解縮合反応なアルコキシシラン」および「該アルコキシシランのアミノ基との反応性を有するエポキシ基を分子内に有する化合物」も撥水層中で樹脂の一部を構成することになることから、バインダー成分に含まれる。
【0136】
一方、本発明のコート材におけるバインダー成分の量については、本発明のコート材が溶媒等の揮発性物質を含み得ることから、上述した本発明の塗装体の説明とは異なる部分もある。
【0137】
本発明のコート材中のバインダー成分の量は、第1撥水層中のバインダー成分の量を上記特定した範囲に調整する観点から、0.1~15質量%であることが好ましく、0.4~3.5質量%であることがより好ましい。
【0138】
本発明のコート材中における、バインダー成分と疎水性シリカ粒子の質量比、即ちバインダー成分:疎水性シリカ粒子の質量比は、50:50~5:95の範囲内であることが好ましく、40:60~10:90の範囲内であることがより好ましい。
【0139】
本発明のコート材中における、非水溶性のバインダー成分と疎水性シリカ粒子の質量比、即ち非水溶性のバインダー成分:疎水性シリカ粒子の質量比は、50:50~2:98の範囲内であることが好ましく、50:50~10:90の範囲内であることがより好ましい。
【0140】
本発明のコート材は、溶媒を含むことができる。溶媒としては、水、有機溶剤またはそれらの混合溶媒を使用できる。ここで、有機溶剤としては、特に限定されるものではなく、炭化水素系溶媒、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒等の各種有機溶媒が使用できる。有機溶媒は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。本発明のコート材中の溶媒の含有量は、例えば30~95質量%である。
【0141】
水は、特に制限されるものではないが、イオン交換水や蒸留水等の純水等が好適に挙げられる。また、コート材を長期保存する場合には、カビやバクテリアの発生を防止するため、紫外線照射等により滅菌処理した水を用いてもよい。本発明のコート材中の水の量は、40~90質量%であることが好ましい。主溶媒として水を含有するコート材を「水系コート材」と称する場合もある。
【0142】
炭化水素系溶媒としては、例えば、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素等が挙げられ、より具体的には、トルエン、キシレン、ソルベントナフサ、ミネラルスピリット、ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、テルペン油等を例示することができる。また、アルコール系溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールが挙げられ、ケトン系溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられ、エステル系溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられ、エーテル系溶媒としては、例えば、エチレングリコールモノエチルエーテル、メチルカルビトール等が挙げられる。なお、エチレングリコールモノエチルエーテルやメチルカルビトールのように水酸基とエーテル結合の両方を有する溶媒は、本明細書においては、エーテル系溶媒に分類される。
【0143】
本発明のコート材は、溶媒として水を含有することが好ましく、水および親水性有機溶剤を含有することがさらに好ましい。本明細書において、「親水性有機溶剤」とは、25℃のコート材中において水と均質に混合できる有機溶剤を指す。親水性有機溶剤としては、アルコールが好ましい。本発明のコート材中の親水性有機溶剤の量は、5~50質量%であることが好ましい。
【0144】
本発明のコート材は、界面活性剤を含むことが好ましい。界面活性剤は、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤等に分類され、いずれを用いてもよいが、非イオン性界面活性剤を用いることがより好ましい。界面活性剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。本発明のコート材中の界面活性剤の量は、例えば、0.1~5質量%である。
【0145】
本発明のコート材は、水と、親水性有機溶剤及び/又は界面活性剤を含有することが好ましい。親水性有機溶剤や界面活性剤を併用することで、溶媒として水を含むコート材中において疎水性シリカ粒子を安定に分散させることができる。
【0146】
本発明のコート材は、その他の成分として、顔料、染料、分散剤、濡れ剤、酸化防止剤、沈降防止剤、シランカップリング剤、付着性付与剤、防藻剤、防カビ剤、防腐剤、殺虫剤、抗菌剤、抗ウイルス剤、紫外線吸収剤、ラジカル捕捉剤、帯電防止剤、導電性付与剤等を必要に応じて適宜含んでいてもよい。
【0147】
本発明のコート材は、必要に応じて適宜選択される各種成分を混合することによって調製できる。本発明のコート材は、1液型でも2液型でもよいが、2液型のコート材である場合、主剤と硬化剤とを予め用意しておき、これらを塗装時に混合することで調製できる。通常、主剤は樹脂を含み、硬化剤は架橋剤を含む。主剤と硬化剤との混合の際に、粘度の調整等の目的で水や希釈剤等の添加剤をさらに加えてもよい。
【0148】
本発明のコート材の塗装手段は、特に限定されず、既知の塗装手段、例えば、刷毛塗装、ローラー塗装、コテ塗装、ヘラ塗装、フローコーター塗装、スプレー塗装(例えばエアースプレー塗装、エアレススプレー塗装)、シャーワーコーター塗装、ディッピング塗装等が利用できる。
【0149】
本発明のコート材の乾燥手段は、特に限定されず、周囲温度での自然乾燥や乾燥機等を用いた強制乾燥のいずれであってもよい。また、焼付けを行う場合もある。焼付けの場合、基材やコート材に応じて加熱温度が適宜設定されるが、通常、40~80℃の範囲内で加熱して膜を形成することが好ましい。
【0150】
本発明のコート材は、膜厚0.01~20μmの層を形成した場合、その層の表面の水接触角が100°~170°の範囲内であることが好ましく、105°~165°の範囲内であることがより好ましく、110°~160°の範囲内であることがさらに好ましい。
【実施例0151】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0152】
<塗装体1の第1撥水層用のコート材>
混合器に水46.90質量部、イソプロパノール46.90質量部投入し、これにAEROSIL(登録商標) R812(日本アエロジル社製 疎水性シリカ 粒子径7nm)6質量部、BYK-3441(BYK社製レベリング剤)0.2質量部をそれぞれ攪拌環境下で徐々に投入し20分間攪拌を行い、コート材を調製した。
【0153】
<塗装体2~37の第1撥水層用のコート材>
以下の表1~7に示す配合処方に変更した以外は、上記<塗装体1の第1撥水層用のコート材>の調製方法と同様に、各塗装体の第1撥水層用のコート材を調製した。
なお、上記<塗装体1の第1撥水層用のコート材>では使用されていない成分については、以下のとおりである。
1)親水性シリカ微粒子(日本アエロジル社製AEROSIL 380、粒子径7nm)
2)有機無機複合樹脂エマルション(日本触媒社製アクリセット(登録商標)EX-103SI、単膜での水接触角80°、NV25質量%)
3)アクリルエマルション(BASF社製アクロナールYJ3031D、単膜での水接触角65°、NV25質量%)
4)水溶性樹脂(大成ファインケミカル社製、水溶性アクリルポリマー#3000、単膜での水接触角30°、NV25質量%)
5)非イオン性界面活性剤(花王社製、エマルゲン(登録商標)106、HLB10.5)
6)シリカ粒子(富士シリシア化学社製SYLYSIA(登録商標)300、親水性シリカ粒子、粒子径1.7μm)
【0154】
<第2撥水層用のコート材>
混合器に水70質量部、撥水剤(信越シリコーン社製X-51-1302M、NV17質量%)30質量部、濡れ剤(AGCセイミケミカル社製サーフロン(登録商標)S-211)0.3質量部をそれぞれ攪拌環境下で徐々に投入し20分間攪拌を行い、第2撥水層用のコート材を調製した。
【0155】
<表層に第1撥水層を有する塗装体の作製例>
アルコキシシランを構成単位として含む樹脂を含む塗膜層が形成されたセメント系基材の塗膜層表面に、所定の膜厚となるように第1撥水層用のコート材をエアスプレーで塗装し80℃5分乾燥させて、第1撥水層を形成させた。
【0156】
<表層に第1撥水層及び第2撥水層を有する塗装体の作製例>
アルコキシシランを構成単位として含む樹脂を含む塗膜層が形成されたセメント系基材の塗膜層表面に、所定の膜厚となるように第1撥水層用のコート材をエアスプレーで塗装し80℃5分乾燥させて、第1撥水層を形成させた。次いで、第1撥水層表面に、所定の膜厚となるように第2撥水層用のコート材をエアスプレーで塗装し80℃5分乾燥させて、第2撥水層を形成させた。
【0157】
<実施例1~24及び比較例1~13>
実施例1~13、23、24及び比較例1~6、13の塗装体1~19及び35~37は、表層に第1撥水層のみを有する塗装体である。表1~7には、塗装体上に形成された第1撥水層の平均膜厚を示す。
実施例14~22及び比較例7~12の塗装体20~34は、表層に第1撥水層及び第2撥水層を有する塗装体である。表1~7には、塗装体上に形成された第1撥水層及び第2撥水層の平均膜厚を示す。
また、実施例23、実施例24及び比較例13の塗装体35~37については、第1撥水層中に分散するシリカ粒子の平均粒子径を測定した。結果を表1~7に示す。
【0158】
<塗装体の評価>
塗装体について、以下のとおり、接触角の測定、汚染液残存角度の測定及び評価、並びに温水風乾サイクル試験後の接触角の測定、汚染液残存角度の測定及び評価、及びセロハンテープ付着試験を実施した。結果を表1~7に示す。
【0159】
<接触角>
塗装体の撥水層について、接触角計DMs-401(協和界面科学株式会社)を用い、撥水層表面の水平部分に10μLの水滴を着適させ、20℃の雰囲気下で10秒経過した後の水滴の接触点からの接線と水平線との角度を記録した。
結果を表1~7に示す。ここで、温水風乾サイクル試験を受ける前の水接触角を初期評価とし、温水風乾サイクル試験を受けた後の水接触角を2次評価とする。また、表層に第1撥水層のみを有する塗装体については、測定結果は第1撥水層の水接触角を示し、表層に第1撥水層及び第2撥水層を有する塗装体については、第2撥水層の水接触角を示す。初期から長期に渡って「撥水性」が優れる塗装体では、初期および温水風乾サイクル後の接触角が100度以上である。
【0160】
<汚染液残存角度>
塗装体の撥水層について、0.01質量%濃度のカーボン汚染水を60μL着適させた後、10秒毎に5°の角度で徐々に傾けた際にカーボン汚染液が滑落し始める角度を記録した。以下の評価基準に従い評価を行い、結果を表1~7に示す。滑落角が小さいほど、撥水性に優れることを示す。なお、温水風乾サイクル試験を受ける前の汚染液残存角度を初期評価とし、温水風乾サイクル試験を受けた後の汚染液残存角度を2次評価とする。初期から長期に渡って「撥水性」が優れる塗装体では、初期および温水風乾サイクル後の滑落角が90度以下である。
(評価基準)
○:滑落角が59°以下
△:滑落角が60°~90°
×:滑落しない
【0161】
<温水風乾サイクル試験>
塗装体について、60℃温水8時間浸漬後、23℃風乾16時間を1サイクルとする試験を計10サイクル実施した。
10サイクルを終了した塗装体について、上記<接触角>及び<汚染液残存角度>に従い、接触角の測定、汚染液残存角度の測定及び評価を行うと共に、後述のとおりセロハンテープ付着試験を行った。
【0162】
<セロハンテープ付着試験>
JIS Z1522に従って、以下の評価基準に従い、塗膜付着性の評価を実施した。長期に渡って「撥水性」に優れる塗装体を得るためには、温水風乾試験後も撥水層が塗膜と密着し、剥離しないことが求められる。
(評価基準)
○:剥離無し
△:5%未満の面積で剥離有
×:5%以上の面積で剥離有
【0163】
【0164】
【0165】
【0166】
【0167】
【0168】
【0169】
【0170】
表中、「OC1」は、第1撥水層を意味し、「OC2」は、第2撥水層を意味する。
【0171】
比較例1、比較例7は、塗膜表面に撥水性を有しているものの、バインダー成分を含まないことから塗膜の2次密着性が悪く、風雨等で撥水層が剥離しやすい。比較例2、比較例8についても、疎水性シリカ粒子の量が多く、バインダー成分量が少ないことから、塗膜の2次密着性に課題があった。比較例3、9、13は親水性シリカ粒子を用いていることから、汚染液の滑落性が不十分であった。比較例4、10は膜厚が厚く、温水風乾サイクル後の塗膜の付着性に劣っていた。これは、無機質成分を多く含む本発明の撥水層は、過膜厚となった場合に自然環境下での風雨や気温の変化によって撥水層が脱落しやすくなる傾向を示しているものと考えられる。比較例5、11は撥水層が薄く、十分な撥水性が得られなかった。比較例6、12は疎水性シリカ粒子の量が少なく、十分な撥水性が得られなかった。また、比較例13では、第1撥水層中に分散しているシリカの粒子径も大きいことから、撥水性がかなり劣っていた。これに対して、実施例1~24は、長期に渡って撥水性に優れる表層を有する建築基材塗装体を提供するといった本発明の目的を達成するものであった。