(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023148955
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】加熱方法および加熱システム
(51)【国際特許分類】
C21D 9/02 20060101AFI20231005BHJP
H05B 3/00 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C21D9/02 A
H05B3/00 330Z
H05B3/00 310D
C21D9/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022057253
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹田 和也
(72)【発明者】
【氏名】安田 浩之
(72)【発明者】
【氏名】塚田 航太
【テーマコード(参考)】
3K058
4K042
【Fターム(参考)】
3K058AA86
3K058CB02
3K058CE12
3K058FA07
4K042AA02
4K042BA10
4K042DA01
4K042DB02
4K042DC02
4K042DF02
4K042EA01
4K042EA03
(57)【要約】
【課題】コイルばねの線材間の隙間のばらつきや、巻回によって形成されるコイルの径のばらつきを抑制することができる加熱方法および加熱システムを提供すること。
【解決手段】本発明に係る加熱方法は、コイルばねの焼入れを行う加熱方法であって、コイルばねを支持部材に載置するとともに、該コイルばねの一端を、回転自在な第1軸部材の外周面に固定し、他端を第2軸部材の外周面に固定する固定ステップと、第1および第2軸部材に通電し、コイルばねを加熱する加熱ステップと、第1軸部材を回転させて、コイルばねの一端を、予め設定された位置に移動させる回転ステップと、を含み、第1および第2軸部材の各軸が、水平方向に対して0以上30度以下の角度をなす互いに同じ直線上に位置し、第1および第2軸部材に取り付けられ、支持部材に支持されているコイルばねの中心軸は、上記直線と平行である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルばねの焼入れを行う加熱方法であって、
前記コイルばねを支持部材に載置するとともに、該コイルばねの一端を、回転自在な第1軸部材の外周面に固定し、他端を第2軸部材の外周面に固定する固定ステップと、
前記第1および第2軸部材に通電し、前記コイルばねを加熱する加熱ステップと、
前記第1軸部材を回転させて、前記コイルばねの一端を、予め設定された位置に移動させる回転ステップと、
を含み、
前記第1および第2軸部材の各軸が、水平方向に対して0以上30度以下の角度をなす互いに同じ直線上に位置し、
前記第1および第2軸部材に取り付けられ、前記支持部材に支持されている前記コイルばねの中心軸は、前記直線と平行である、
ことを特徴とする加熱方法。
【請求項2】
前記回転ステップは、前記コイルばねの温度が当該コイルばねを形成する材料の変態点温度以上の温度に設定される設定温度に到達した場合に、前記第1軸部材を回転させる、
ことを特徴とする請求項1に記載の加熱方法。
【請求項3】
前記固定ステップは、前記コイルばねの中心軸が、前記直線に対してオフセットした位置に前記コイルばねを固定する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の加熱方法。
【請求項4】
コイルばねの焼入れを行う加熱システムであって、
長手方向に延びる回転軸のまわりに回転可能であり、コイルばねの一端を把持する第1軸部材と、
長手軸方向に延び、コイルばねの他端を把持する第2軸部材と、
前記第1および第2軸部材への通電、および、前記第1軸部材の回転を制御する制御装置と、
を備え
前記第1軸部材の回転軸、および第2軸部材の長手軸は、水平方向に対して0以上30度以下の角度をなす互いに同じ直線上に位置し、
前記第1および第2軸部材に取り付けられた前記コイルばねの中心軸は、前記直線と平行であり、
前記制御装置は、コイルばねへの加熱を開始時に、前記第1軸部材の回転規制を解除し、加熱処理終了時までに、前記コイルばねの一端を、予め設定された位置に移動させる、
ことを特徴とする加熱システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばコイルばねの焼入れを行うための加熱方法および加熱システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、コイルばねを作製する工程において、焼入れが行われる。焼入れは、例えば、機械的な特性を改善させたりするために実施される。焼入れを行うための加熱方法として、コイルばねの端部に電極を接続し、通電によって発生する熱で加熱する方法が知られている(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1では、コイルばねを支持プレートで支持して、コイルばねの中心軸を略水平方向に向けて横置きにして加熱している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1が開示する加熱方法では、焼入れ後に、コイルばねの線材間の隙間のばらつきや巻回によって形成されるコイルの径のばらつきが大きくなる場合があった。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、コイルばねの線材間の隙間のばらつきや、巻回によって形成されるコイルの径のばらつきを抑制することができる加熱方法および加熱システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る加熱方法は、コイルばねの焼入れを行う加熱方法であって、前記コイルばねを支持部材に載置するとともに、該コイルばねの一端を、回転自在な第1軸部材の外周面に固定し、他端を第2軸部材の外周面に固定する固定ステップと、前記第1および第2軸部材に通電し、前記コイルばねを加熱する加熱ステップと、前記第1軸部材を回転させて、前記コイルばねの一端を、予め設定された位置に移動させる回転ステップと、を含み、前記第1および第2軸部材の各軸が、水平方向に対して0以上30度以下の角度をなす互いに同じ直線上に位置し、前記第1および第2軸部材に取り付けられ、前記支持部材に支持されている前記コイルばねの中心軸は、前記直線と平行である、ことを特徴とする。
【0007】
また、本発明に係る加熱方法は、上記発明において、前記回転ステップは、前記コイルばねの温度が当該コイルばねを形成する材料の変態点温度以上の温度に設定される設定温度に到達した場合に、前記第1軸部材を回転させる、ことを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る加熱方法は、上記発明において、前記固定ステップは、前記コイルばねの中心軸が、前記直線に対してオフセットした位置に前記コイルばねを固定する、ことを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る加熱システムは、コイルばねの焼入れを行う加熱システムであって、長手方向に延びる回転軸のまわりに回転可能であり、コイルばねの一端を把持する第1軸部材と、長手軸方向に延び、コイルばねの他端を把持する第2軸部材と、前記第1および第2軸部材への通電、および、前記第1軸部材の回転を制御する制御装置と、を備え前記第1軸部材の回転軸、および第2軸部材の長手軸は、水平方向に対して0以上30度以下の角度をなす互いに同じ直線上に位置し、前記第1および第2軸部材に取り付けられた前記コイルばねの中心軸は、前記直線と平行であり、前記制御装置は、コイルばねへの加熱を開始時に、前記第1軸部材の回転規制を解除し、加熱処理終了時までに、前記コイルばねの一端を、予め設定された位置に移動させる、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、コイルばねの線材間の隙間のばらつきや、巻回によって形成されるコイルの径のばらつきを抑制することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の一実施の形態に係る加熱システムの概略構成を示す図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施の形態に係る加熱システムの要部の構成を説明するための図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施の形態に係る加熱方法を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、本発明の変形例1に係る加熱システムの概略構成を示す図である。
【
図5】
図5は、本発明の変形例2に係る加熱方法を示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、本発明の変形例3に係る加熱方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して本発明を実施するための形態(以下、「実施の形態」という)を説明する。なお、図面は模式的なものであって、各部分の厚みと幅との関係、それぞれの部分の厚みの比率などは現実のものとは異なる場合があり、図面の相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれる場合がある。
【0013】
(実施の形態)
図1は、本発明の一実施の形態に係る加熱システムの概略構成を示す図である。
図1に示す加熱システム1は、例えばコイルばね100の焼入れを行うためシステムである。加熱システム1は、コイルばね100を保持して加熱する加熱装置10と、加熱装置10を制御する制御装置20とを備える。コイルばね100は、所定の軸(ここではN
100)のまわりに線材を螺旋状に巻回してなる。
【0014】
加熱装置10は、第1軸部材11と、第2軸部材12と、支持部材13とを備える。
【0015】
第1軸部材11は、円柱状をなして延びる軸本体110の中心を通過し、かつ長手方向と平行に延びる回転軸N11のまわりに回転する。軸本体110は、回転軸N11のまわりに回転自在な回転機構を有するとともに、制御装置20の制御によってその回転機構による回転が制御される。回転機構は、例えばモーターとクラッチを用いて構成される。また、回転機構は、制御装置20の制御のもと、電気的または機械的に回転規制が可能である。
また、第1軸部材11には、軸本体110の側面に固定され、コイルばね100の一端を保持するばね保持部111が設けられる。ばね保持部111には、軸本体110の外周面とによってコイルばね100の一端を挟み込む把持部112が設けられる。ばね保持部111は、軸本体110と一体的に回転する。
【0016】
第2軸部材12は、制御装置20の制御のもと、長手軸N12を中心軸とする円柱状をなして延びる。また、第2軸部材12には、軸本体120の側面に固定され、コイルばね100の他端を保持するばね保持部121が設けられる。ばね保持部121には、軸本体120の外周面とによってコイルばね100の他端を挟み込む把持部122が設けられる。なお、軸本体120を長手軸N12のまわりに回転可能としてもよい。この際、ばね保持部121は、軸本体120と一体的に回転する。
【0017】
第1軸部材11の回転軸N
11、および、第2軸部材12の長手軸N
12は、一方の軸を他方の軸に向けて延長させた直線が、該他方の軸と一致する。すなわち、回転軸N
11および長手軸N
12は、同一直線上に位置する。なお、コイルばね100の回転制御に支障が出ない範囲であれば、軸N11および軸N12は全く同一の直線上になくてもよい。
また、各把持部(把持部112、122)によってコイルばね100を把持した状態において、コイルばね100の中心軸N
100は、回転軸N
11および長手軸N
12とそれぞれ平行である。なお、
図1では、中心軸N
100と、回転軸N
11および長手軸N
12とがオフセットされた例を示しているが、中心軸N
100と、回転軸N
11および長手軸N
12とが互いに一致するように配置してもよい。中心軸N
100と、回転軸N
11および長手軸N
12とがオフセットしている場合、コイルばね100は、中心軸N
100と平行かつ互いに異なる位置に位置する軸のまわりに回転する。これに対し、中心軸N
100と、回転軸N
11および長手軸N
12とが同一直線上にある場合、コイルばね100は、中心軸N
100のまわりに回転する。
なお、中心軸N
100と、回転軸N
11および長手軸N
12とは、水平方向に対する角度が、0以上30度以下に設定される。この角度は、コイルばねの特性等によって設定される。ここでいう水平方向とは、重力の方向(鉛直方向)に対して垂直な方向である。
【0018】
また、第1軸部材11の軸本体110、および、第2軸部材12の軸本体120は、導電性材料を用いて形成される。また、各軸本体と制御装置20とは、図示しない電線によって接続される。
【0019】
図2は、本発明の一実施の形態に係る加熱システムの要部の構成を説明するための図である。
図2は、軸本体およびばね保持部の構成、動作について説明する図である。軸本体110が回転すると、この回転に連動してばね保持部111も回転する。この際、軸本体110は、回転軸N
11のまわりに往復動する。例えば、ばね保持部111は、基準位置P
Sに対して時計まわりに回転した位置P
Rや、基準位置P
Sに対して反時計まわりに回転した位置P
Lに位置する。軸本体110と把持部112とがコイルばね100を把持している場合、軸本体110の回転にしたがってコイルばね100の端部も軸本体110の外周に沿って移動する。
なお、第1軸部材11では、エンコーダ等を用いて回転量が計測可能に構成される。
【0020】
支持部材13は、コイルばね100が載置されて、該コイルばね100を支持するプレートである。支持部材13は、第1軸部材11および第2軸部材12の位置や、コイルばね100のサイズに応じて鉛直方向に上下動させるようにしてもよい。また、支持部材13は、コイルばね100の特定の部分(例えば、コイルばね100の中央部)のみを支持する構造であってもよい。
【0021】
図1に戻り、制御装置20は、入力部21と、出力部22と、設定部23と、検出部24と、制御部25と、記憶部26とを備える。
【0022】
入力部21は、加熱システム1の動作に関する各種信号の入力を受け付ける。入力部21は、キーボード、マウス、スイッチ、タッチパネル等を用いて構成される。
【0023】
出力部22は、制御部25の制御のもと、画像を表示させたり、音や光を出力させたりする。出力部22は、ディスプレイや、スピーカー、光源等を用いて構成される。
【0024】
設定部23は、加熱条件の設定を行う。設定部23は、例えば入力部21が受け付けた設定情報や、記憶部26に記憶されている情報に基づいて、コイルばね100の加熱温度や加熱時間、加熱後の把持部112の位置、軸部材へ通電する電力量を設定する。
【0025】
検出部24は、コイルばね100の温度を検出する。なお、検出部24は、各軸部材の温度を検出するようにしてもよい。
【0026】
制御部25は、加熱システム1の各構成部品の動作を制御する。また、制御部25は、通電制御部251と、回転制御部252とを有する。通電制御部251は、例えば、入力部21を介して加熱処理を開始する指示入力があると、第1軸部材11および第2軸部材12への通電をオンにする。また、回転制御部252は、加熱処理時における第1軸部材11の回転制御を実行する。
【0027】
設定部23、検出部24および制御部25は、それぞれ、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサや、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の特定の機能を実行する各種演算回路等のプロセッサを用いて構成される。
【0028】
記憶部26は、制御部25が各種動作を実行するためのプログラム(例えば加熱処理時に実行するプログラム)等を記憶する。また、記憶部26は、コイルばね100を焼入れする際の加熱条件や、加熱処理のプログラムやパラメータを記憶する加熱条件記憶部261と、コイルばね100を回転制御する際の回転条件や、回転制御のプログラムやパラメータを記憶する回転条件記憶部262とを有する。記憶部26は、揮発性メモリや不揮発性メモリを用いて構成されるか、またはそれらを組み合わせて構成される。例えば、記憶部26は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等を用いて構成される。
【0029】
続いて、加熱システム1によるコイルばね100の加熱処理について、
図3を参照して説明する。
図3は、本発明の一実施の形態に係る加熱方法を示すフローチャートである。以下、制御装置20の制御のもと、各部が動作するものとして説明する。
【0030】
まず、コイルばね100を加熱装置10にセットする(ステップS101)。具体的には、コイルばね100の一端を把持部112と軸本体110とによって把持させ、他端を把持部122と軸本体120とによって把持させる。これにより、コイルばね100の両端が、第1軸部材11および第2軸部材12に固定される。
【0031】
コイルばね100をセット後、通電制御部251は、第1軸部材11および第2軸部材12への通電を開始する(ステップS102)。通電制御部251は、入力部21が受け付けた通電開始指示等をトリガとして、通電制御を開始する。通電によって、第1軸部材11および第2軸部材12を経てコイルばね100に電流が流れて発熱する。この熱によってコイルばねが加熱される。通電制御部251は、コイルばね100の加熱温度が、設定部23が設定した加熱温度まで上昇するような電流を第1軸部材11および第2軸部材12へ流す制御を行う。
【0032】
また、回転制御部252は、第1軸部材11の回転軸N11まわりの回転規制を解除する(ステップS103)。これにより、第1軸部材11は、回転軸N11まわりの回転がフリーな状態となる。
なお、ステップS102およびS103の処理は、同時に実行されてもよく、ステップS103を先に実行してもよい。また、ステップS103に移行した時点で第1軸部材11が回転フリーな状態となっていれば、本ステップS103を実行しなくてもよい。
【0033】
加熱処理時、コイルばね100では、組織変態等によって変形する。この際、第1軸部材11では、この変形に追従して回転軸N11まわりに回転する。この回転により、変形時に当該コイルばね100にかかる荷重を逃がすことができる。
【0034】
そして、回転制御部252は、コイルばね100の温度が、設定温度に到達したか否かを判断する(ステップS104)。回転制御部252は、検出部24が検出した温度に基づいて、コイルばね100の温度が設定温度に到達していないと判断した場合(ステップS104:No)、温度の確認を繰り返す。これに対し、回転制御部252は、コイルばね100の温度が設定温度に到達したと判断した場合(ステップS104:Yes)、ステップS105に移行する。ここで、設定温度は、コイルばね100を形成する材料の変態点温度以上の温度が設定される。
【0035】
ステップS105において、回転制御部252は、軸本体110を回転させて、把持部112の位置を、予め設定されている設定位置に移動させる。ここで、設定位置は、例えば加熱前にコイルばね100を取り付けた位置や、第2軸部材12に保持されるコイルばね100の端部位置に対応する位置である。
【0036】
その後、通電制御部251は、第1軸部材11および第2軸部材12への通電を終了し、加熱処理を終了する(ステップS106)。
なお、通電の終了タイミングおよび回転処理の実行タイミングは、同時であってもよいし、回転処理を先に実行させてもよい。
【0037】
以上説明した本発明の実施の形態では、各軸本体の外周面にコイルばねの端部をそれぞれ把持させて固定し、軸本体を介してコイルばね100を通電加熱するとともに、加熱時に一方の軸部材の回転をフリーにし、組織変態に伴うコイルばね100の変形に追従させて回転するようにした。本実施の形態によれば、通電加熱において生じるコイルばね100の組織変態時の変形による荷重を逃がしつつ、加熱終了時に端部位置を設定位置に移動させることによって、コイルばねの線材間の隙間(例えば
図1に示す隙間S
1)のばらつきや、巻回によって形成されるコイルの径(例えば
図1に示すコイル径R
1)のばらつきを抑制することができる。
【0038】
また、本実施の形態によれば、コイルばね100が変態点温度に到達した場合に第1軸部材11を回転させてコイルばね100の端部位置を適切な位置に移動させるため、形状精度を一層高くすることができる。
【0039】
(変形例1)
次に、本発明の実施の形態の変形例1について、
図4を参照して説明する。
図4は、本発明の変形例1に係る加熱システムの概略構成を示す図である。変形例1に係る加熱システム1Aは、加熱装置10に代えて加熱装置10Aを備える。制御装置20は、実施の形態と同じ構成であるため、説明を省略する。
【0040】
加熱装置10Aは、第1軸部材11と、第2軸部材12と、支持部材13Aとを備える。第1軸部材11および第2軸部材12は、実施の形態と同様であるため、説明を省略する。
【0041】
支持部材13Aは、コイルばね100が載置されて、該コイルばね100を支持する。支持部材13Aは、棒状に延び、先端部でコイルばね100の一部を支持する複数の棒状部材131からなる。支持部材13Aは、第1軸部材11および第2軸部材12の位置や、コイルばね100のサイズに応じて、各棒状部材131を鉛直方向に上下動させるようにしてもよい。また、支持部材13Aは、コイルばね100の特定の部分(例えば、コイルばね100の中央部)のみを支持する構造であってもよい。
【0042】
加熱システム1Aによるコイルばね100の加熱処理は、
図3に示すフローチャートと同様の流れで実行される。
【0043】
以上説明した本変形例1では、実施の形態と同様にして加熱処理が実行されるため、通電加熱において生じるコイルばね100の組織変態時の変形による荷重を逃がしつつ、加熱終了時に端部位置を設定位置に移動させることによって、コイルばねの線材間の隙間のばらつきや、巻回によって形成されるコイルの径のばらつきを抑制することができる。
【0044】
(変形例2)
次に、本発明の実施の形態の変形例2について説明する。変形例2に係る加熱システムは、実施の形態に係る加熱システム1において、コイルばね100の温度を測定する測定機構(図示略)を備える。なお、変形例では、検出部24が通電時間を検出するものとして説明する。
【0045】
本変形例2に係る加熱処理について、
図5を参照して説明する。
図5は、変形例2に係る加熱方法を示すフローチャートである。
【0046】
まず、
図3に示すステップS101およびS102と同様にして、コイルばね100を加熱装置10にセットし(ステップS201)、通電制御部251によって第1軸部材11および第2軸部材12への通電を開始する(ステップS202)。
【0047】
その後、回転制御部252が、第1軸部材11の回転軸N11まわりの回転規制を解除する(ステップS203)。加熱処理時、コイルばね100の変形に追従して回転軸N11まわりに回転する。
【0048】
その後、回転制御部252は、通電時間が、予め設定されている設定時間経過したか否かを判断する(ステップS204)。回転制御部252は、検出部24が検出した通電時間に基づいて、通電時間が設定時間経過していないと判断した場合(ステップS204:No)、通電時間の確認を繰り返す。これに対し、回転制御部252は、通電時間が設定時間経過したと判断した場合(ステップS204:Yes)、ステップS205に移行する。この際に設定される設定時間は、例えば、コイルばね100がオーステナイト化される温度に到達するのに要する時間が設定される。
【0049】
ステップS205において、回転制御部252は、軸本体110を回転させて、把持部112の位置を、予め設定されている設定位置に移動させる。
【0050】
その後、通電制御部251は、回転軸への通電を終了する(ステップS206)。
【0051】
以上説明した本変形例2では、実施の形態と同様にして加熱処理が実行されるため、通電加熱において生じるコイルばね100の組織変態時の変形による荷重を逃がしつつ、加熱終了時に端部位置を設定位置に移動させることによって、コイルばねの線材間の隙間のばらつきや、巻回によって形成されるコイルの径のばらつきを抑制することができる。
【0052】
(変形例3)
次に、本発明の実施の形態の変形例3について説明する。変形例3に係る加熱システムは、実施の形態に係る加熱システム1において、コイルばね100の温度を測定する測定機構(図示略)を備える。なお、変形例では、検出部24が電力量(例えば通電開始からの総電力量)を検出するものとして説明する。
【0053】
本変形例3に係る加熱処理について、
図6を参照して説明する。
図6は、変形例3に係る加熱方法を示すフローチャートである。
【0054】
まず、
図3に示すステップS101およびS102と同様にして、コイルばね100を加熱装置10にセットし(ステップS301)、通電制御部251によって第1軸部材11および第2軸部材12への通電を開始する(ステップS302)。
【0055】
その後、回転制御部252が、第1軸部材11の回転軸N11まわりの回転規制を解除する(ステップS303)。加熱処理時、コイルばね100の変形に追従して回転軸N11まわりに回転する。
【0056】
その後、回転制御部252は、通電電力量が、予め設定されている設定電力量に到達したか否かを判断する(ステップS304)。回転制御部252は、検出部24が検出した通電電力量に基づいて、通電電力量が設定電力量に到達していないと判断した場合(ステップS304:No)、通電電力量の確認を繰り返す。これに対し、回転制御部252は、通電電力量が設定電力量に到達したと判断した場合(ステップS304:Yes)、ステップS305に移行する。この際に設定される設定電力量は、例えば、コイルばね100がオーステナイト化される温度に到達するのに要する電力量(例えば総電力量)が設定される。
【0057】
ステップS305において、回転制御部252は、軸本体110を回転させて、把持部112の位置を、予め設定されている設定位置に移動させる。
【0058】
その後、通電制御部251は、回転軸への通電を終了する(ステップS306)。
【0059】
以上説明した本変形例3では、実施の形態と同様にして加熱処理が実行されるため、通電加熱において生じるコイルばね100の組織変態時の変形による荷重を逃がしつつ、加熱終了時に端部位置を設定位置に移動させることによって、コイルばねの線材間の隙間のばらつきや、巻回によって形成されるコイルの径のばらつきを抑制することができる。
【0060】
ここまで、本発明を実施するための形態を説明してきたが、本発明は上述した実施の形態によってのみ限定されるべきものではない。なお、実施の形態では、第2軸部材12は回転しない例について説明したが、第2軸部材12を回転させる構成としてもよいし、第1軸部材11および第2軸部材12の両方を回転自在な構成としてもよい。両軸部材を回転自在な構成とする場合は、例えばステップS105において、一方の軸部材のばね保持部の位置と、他方の軸部材のばね保持部の位置とが設計に対応する位置となるように、少なくとも一方の軸部材を回転させる。
【0061】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を含みうるものであり、特許請求の範囲により特定される技術的思想を逸脱しない範囲内において種々の設計変更等を施すことが可能である。
【0062】
また、実施の形態および変形例では、温度、加熱時間および電力量のいずれかを用いて停止または継続を判断する例について説明したが、これに限らず、温度、時間および電力量を組み合わせて制御するようにしてもよい。
【0063】
以上説明したように、本発明に係る加熱方法および加熱システムは、コイルばねの線材間の隙間のばらつきや、巻回によって形成されるコイルの径のばらつきを抑制するのに好適である。
【符号の説明】
【0064】
1、1A 加熱システム
10、10A 加熱装置
11 第1軸部材
12 第2軸部材
13、13A 支持部材
20 制御装置
21 入力部
22 出力部
23 設定部
24 検出部
25 制御部
26 記憶部
251 通電制御部
252 回転制御部
261 加熱条件記憶部
262 回転条件記憶部