(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023148964
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】薄膜積層体、および、塗料
(51)【国際特許分類】
B32B 9/00 20060101AFI20231005BHJP
B32B 7/027 20190101ALI20231005BHJP
C09C 1/28 20060101ALI20231005BHJP
C09D 17/00 20060101ALI20231005BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20231005BHJP
C09D 7/62 20180101ALI20231005BHJP
C09D 5/33 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
B32B9/00 A
B32B7/027
C09C1/28
C09D17/00
C09D201/00
C09D7/62
C09D5/33
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022057268
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 泉
(72)【発明者】
【氏名】秋山 晋也
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 洋
【テーマコード(参考)】
4F100
4J037
4J038
【Fターム(参考)】
4F100AA17B
4F100AA17D
4F100AA20A
4F100AB24C
4F100AB31C
4F100AT00A
4F100BA04
4F100BA07
4F100DE02
4F100EH46
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4F100GB32
4F100JA13A
4F100JD06
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4F100JG05D
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4F100JN01
4F100YY00A
4F100YY00C
4J037AA18
4J037CA03
4J037CA09
4J037DD10
4J037EE04
4J037EE23
4J037EE44
4J037FF02
4J038EA011
4J038HA066
4J038HA166
4J038HA446
4J038KA08
4J038KA12
4J038NA01
4J038NA19
(57)【要約】
【課題】平坦性を改善させることにより、赤外線反射性能および可視光透過性能を向上させる。
【解決手段】薄膜積層体100は、可視光を透過し、赤外線を反射する鱗片状の透明遮熱顔料として用いられる薄膜積層体100であって、シリカからなる支持層110と、支持層110上に設けられ、金属酸化物からなる第1誘電体層120と、第1誘電体層120上に設けられ、AgまたはAgの合金からなるAg層130と、Ag層130上に設けられ、第1誘電体層120の金属酸化物と同一または異なる金属酸化物からなる第2誘電体層140と、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可視光を透過し、赤外線を反射する鱗片状の透明遮熱顔料として用いられる薄膜積層体であって、
シリカからなる支持層と、
前記支持層上に設けられ、金属酸化物からなる第1誘電体層と、
前記第1誘電体層上に設けられ、AgまたはAgの合金からなるAg層と、
前記Ag層上に設けられ、前記第1誘電体層の前記金属酸化物と同一または異なる金属酸化物からなる第2誘電体層と、
を含む、薄膜積層体。
【請求項2】
前記支持層の体積密度は、1.9g/cm3以上である、請求項1に記載の薄膜積層体。
【請求項3】
前記支持層の厚みは、10nm以上である、請求項1または2に記載の薄膜積層体。
【請求項4】
前記Ag層の厚みは、10nm以上、15nm以下である、請求項1から3のいずれか1項に記載の薄膜積層体。
【請求項5】
前記支持層は、積層方向に対して垂直な方向の圧縮残留応力を有し、
前記第1誘電体層は、前記積層方向に対して垂直な方向の引張残留応力を有する、請求項1から4のいずれか1項に記載の薄膜積層体。
【請求項6】
前記第1誘電体層の厚みに対する前記支持層の厚みを調整することにより、前記支持層が有する前記圧縮残留応力と、前記第1誘電体層が有する前記引張残留応力とが実質的に等しい、請求項5に記載の薄膜積層体。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の薄膜積層体を透明遮熱顔料として含む塗料であって、
前記塗料は、溶媒として樹脂を含み、
前記塗料の乾燥前後の前記樹脂の収縮率は、2%以下である、塗料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜積層体、および、塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、可視光を透過し、赤外線を反射する薄膜積層体が遮熱顔料として開発されている。上記薄膜積層体として、金属層と誘電体層とが交互に5層以上積層されたものが開発されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
特許文献1には、上記薄膜積層体の製造方法として、積層工程と、剥離工程と、粉砕工程とを含む方法が開示されている。積層工程は、物理蒸着(PVD)法、化学蒸着(CVD)法、溶液塗布法、ディッピング法、スプレー法等を用いて、薄膜積層体を構成する各層を基板上に積層する工程である。剥離工程は、超音波水浴中に浸漬させることにより、基板から薄膜積層体を剥離する工程である。粉砕工程は、基板から剥離した薄膜積層体を、所定の大きさに粉砕する工程である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2016/006664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記したように、剥離工程において、基板から剥離された薄膜積層体は、薄膜積層体自体が有する残留応力により、湾曲してしまい、平坦でなくなる。このため、金属層を構成する金属粒子が凝集して浮島状となり、金属層が膜としての形状を維持できなくなってしまう。そうすると、薄膜積層体の赤外線反射性能が著しく低下してしまうという問題が生じる。
【0006】
また、薄膜積層体が湾曲していると、金属層と誘電体層とが層間剥離しやすく、薄膜積層体の赤外線反射性能、可視光透過性能、耐熱性、および、遮熱性が著しく低下してしまうという問題が生じる。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、平坦性を改善させることにより、赤外線反射性能および可視光透過性能を向上させることが可能な薄膜積層体、および、塗料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、
可視光を透過し、赤外線を反射する鱗片状の透明遮熱顔料として用いられる薄膜積層体であって、
シリカからなる支持層と、
前記支持層上に設けられ、金属酸化物からなる第1誘電体層と、
前記第1誘電体層上に設けられ、AgまたはAgの合金からなるAg層と、
前記Ag層上に設けられ、前記第1誘電体層の前記金属酸化物と同一または異なる金属酸化物からなる第2誘電体層と、
を含む、薄膜積層体が提供される。
【0009】
前記支持層の体積密度は、1.9g/cm3以上であってもよい。
【0010】
前記支持層の厚みは、10nm以上であってもよい。
【0011】
前記Ag層の厚みは、10nm以上、15nm以下であってもよい。
【0012】
前記支持層は、積層方向に対して垂直な方向の圧縮残留応力を有し、
前記第1誘電体層は、前記積層方向に対して垂直な方向の引張残留応力を有してもよい。
【0013】
前記第1誘電体層の厚みに対する前記支持層の厚みを調整することにより、前記支持層が有する前記圧縮残留応力と、前記第1誘電体層が有する前記引張残留応力とが実質的に等しくてもよい。
【0014】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、
上記薄膜積層体を透明遮熱顔料として含む塗料であって、
前記塗料は、溶媒として樹脂を含み、
前記塗料の乾燥前後の前記樹脂の収縮率は、2%以下である、塗料が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、平坦性を改善させることにより、赤外線反射性能および可視光透過性能を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係る薄膜積層体を説明する図である。
【
図2】圧縮残留応力および引張残留応力を説明する図である。
【
図3】同実施形態に係る薄膜積層体の製造方法の処理の流れを説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0018】
なお、以下の説明において参照する各図面では、説明の便宜上、一部の構成部材の大きさを誇張して表現している場合がある。したがって、各図面において図示される構成部材同士の相対的な大きさは、必ずしも実際の構成部材同士の大小関係を正確に表現するものではない。また、以下の説明では、積層方向を上下方向と表現する。
【0019】
[薄膜積層体100]
図1は、本発明の一実施形態に係る薄膜積層体100を説明する図である。なお、
図1、および、下記
図2において、Z軸方向は、積層方向を示し、X軸方向は、積層方向に対して垂直な方向を示す。
図1に示すように、薄膜積層体100は、支持層110と、第1誘電体層120と、Ag層130と、第2誘電体層140とで構成される4層構造である。薄膜積層体100は、可視光を透過し、赤外線を反射する鱗片状の透明遮熱顔料として用いられる。以下、支持層110、第1誘電体層120、Ag層130、第2誘電体層140について詳述する。
【0020】
[支持層110]
支持層110は、シリカ(SiO2)からなる。シリカは、Agと比較して熱膨張係数が低い。このため、支持層110がシリカからなることにより、薄膜積層体100が高温になることによって生じる、Ag層130の凝集を防止することができる。したがって、薄膜積層体100の耐熱性を向上させることが可能となる。
【0021】
支持層110は、X軸方向の圧縮残留応力を有する。
図2は、圧縮残留応力および引張残留応力を説明する図である。
図2中、白抜き矢印で示すように、支持層110は、X軸方向の応力であり、支持層110の端部から中央に向かう方向に作用する応力である圧縮残留応力を有する。
【0022】
また、本実施形態において、支持層110の体積密度は、1.9g/cm3以上、理論密度(2.2g/cm3)以下であり、好ましくは、1.9g/cm3以上、2.0g/cm3以下である。支持層110の体積密度を1.9g/cm3以上とすることにより、薄膜積層体100の平坦度を向上させることが可能となる。また、支持層110の体積密度を2.0g/cm3以下とすることにより、支持層110を容易に製造することができる。
【0023】
[第1誘電体層120]
第1誘電体層120は、支持層110上に積層される。第1誘電体層120は、シリカ以外の金属酸化物からなる。金属酸化物は、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、および、タングステン(W)のうちのいずれか1または複数の酸化物からなる。なお、酸化物は、酸素欠損型でなくてもよいし、酸素欠損型でもよい。
【0024】
第1誘電体層120は、X軸方向の引張残留応力を有する。
図2中、黒い塗りつぶしの矢印で示すように、第1誘電体層120は、X軸方向の応力であり、第1誘電体層120の中央から端部に向かう方向に作用する応力である引張残留応力を有する。
【0025】
上記したように、支持層110は圧縮残留応力を有する。したがって、支持層110上に第1誘電体層120を積層することにより、第1誘電体層120の引張残留応力を支持層110の圧縮残留応力で相殺することができる。換言すれば、支持層110の圧縮残留応力を第1誘電体層120の引張残留応力で相殺することができる。したがって、支持層110を備えない従来の薄膜積層体と比較して、薄膜積層体100は、第1誘電体層120の引張残留応力による湾曲を抑制することが可能となる。これにより、薄膜積層体100の平坦度を向上させることができる。
【0026】
[Ag層130]
図1に戻って説明すると、Ag層130は、第1誘電体層120上に積層される。Ag層130は、Ag(銀)またはAgの合金からなる。Agの合金は、例えば、Cu(銅)を含むAg合金、Pd(パラジウム)を含むAg合金、または、CuおよびPdを含むAg合金である。
【0027】
このように、本実施形態に係る薄膜積層体100は、AgまたはAg合金からなるAg層130を備える。これにより、薄膜積層体100は、赤外線反射率、耐熱性、および、遮熱性を向上させることができる。
【0028】
また、CuおよびPdムのうちのいずれか一方または両方を含むAg合金でAg層130を構成することにより、耐熱性をさらに向上させることが可能となる。また、Cuを含むAg合金でAg層130を構成することにより、低コストで耐熱性を向上させることができる。
【0029】
[第2誘電体層140]
第2誘電体層140は、Ag層130上に積層される。第2誘電体層140は、第1誘電体層120の金属酸化物と同一または異なる金属酸化物からなる。第2誘電体層140を構成する金属酸化物は、Ti(チタン)、Ta(タンタル)、Nb(ニオブ)、Zr(ジルコニウム)、Hf(ハフニウム)、および、W(タングステン)のうちのいずれか1または複数の酸化物からなる。なお、酸化物は、酸素欠損型でなくてもよいし、酸素欠損型でもよい。
【0030】
このように、薄膜積層体100は、第1誘電体層120、Ag層130、および、第2誘電体層140を備える。Ag層130のみを備える従来の顔料は、入射光の波長が可視光領域(380nm以上750nm以下)であっても、60%程度の反射率を有する。つまり、Ag層130のみを備える従来の顔料は、可視光の透過率が低い。また、Ag層130のみを備える従来の顔料は、入射光の波長が増加するに従って反射率が増加する。
【0031】
一方、第1誘電体層120、Ag層130、および、第2誘電体層140を備える薄膜積層体100は、入射光の波長が可視光領域である場合、Ag層130のみを備える従来の顔料と比較して、反射率が著しく低下する。また、薄膜積層体100は、Ag層130のみを備える従来の顔料と比較して、赤外線領域の波長の反射率が増加する。
【0032】
したがって、Ag層130に加えて、第1誘電体層120および第2誘電体層140を備えることにより、薄膜積層体100は、可視光の反射率を低下させることができ、可視光透過率および赤外線反射率を両方とも向上させること可能となる。
【0033】
[各層の膜厚(厚み)について]
続いて、支持層110、第1誘電体層120、Ag層130、および、第2誘電体層140の膜厚について説明する。以下、Ag層130の膜厚T3、第1誘電体層120の膜厚T2、第2誘電体層140の膜厚T4、支持層110の膜厚T1の順で説明する。
【0034】
[Ag層130の膜厚T3]
本実施形態において、Ag層130の膜厚T3は、10nm以上であり、好ましくは13nm以上である。Ag層130の膜厚T3が10nm未満であると、Ag層130は膜としての形状を維持できない。したがって、Ag層130の膜厚T3を10nm以上とすることにより、薄膜積層体100は、赤外線を効率よく反射させることができる。また、Ag層130の膜厚T3を13nm以上とすることにより、薄膜積層体100は、赤外線をより効率よく反射させることができる。
【0035】
また、Ag層130の膜厚T3を10nm以上とすることにより、Ag層130は、膜としての形状を維持することができ、耐熱性を向上させることが可能となる。したがって、薄膜積層体100を遮熱顔料として、自動車等に焼き付け塗装しても、Ag層130が凝集してしまう事態を回避することができる。これにより、薄膜積層体100は、焼き付け塗装等の高温(160℃以上)の処理が施されても、変色、および、遮熱性の大幅な低下を防止することが可能となる。したがって、薄膜積層体100は、自動車等の外装用の遮熱塗料として利用することができる。
【0036】
また、上記したように、Ag層130の膜厚T3は、15nm以下である。Ag層130の膜厚T3が15nmを上回ると、薄膜積層体100の可視光透過率が低下してしまう。したがって、Ag層130の膜厚T3を15nm以下とすることにより、薄膜積層体100は、可視光透過率を向上させることができる。
【0037】
[第1誘電体層120の膜厚T2、および、第2誘電体層140の膜厚T4]
本実施形態において、第1誘電体層120の膜厚T2は、20nm以上である。第1誘電体層120の膜厚T2が20nm未満であると、薄膜積層体100の可視光透過率が低下してしまう。したがって、第1誘電体層120の膜厚T2は、例えば、20nm以上、40nm以下である。
【0038】
同様に、第2誘電体層140の膜厚T4は、20nm以上である。第2誘電体層140の膜厚T4が20nm未満であると、薄膜積層体100の可視光透過率が低下してしまう。したがって、第2誘電体層140の膜厚T4は、例えば、20nm以上、40nm以下である。なお、第2誘電体層140の膜厚T4は、第1誘電体層120の膜厚T2と実質的に等しくてもよいし、異なっていてもよい。
【0039】
また、第1誘電体層120および第2誘電体層140の光学膜厚(n×d)を調整することにより、薄膜積層体100(遮熱顔料)の可視光ピーク透過率を制御することができる。例えば、第1誘電体層120および第2誘電体層140を酸化チタン系で構成する場合、n=2.3~2.4とすれば、青領域にピーク透過率を設定するためには、膜厚d(膜厚T2および膜厚T4)をそれぞれ約30nmとする。また、第1誘電体層120および第2誘電体層140を酸化チタン系で構成する場合、緑領域または赤領域にピーク透過率を設定するためには、膜厚dをそれぞれ35nm以上、60nm以下の所定の膜厚とする。
【0040】
また、薄膜積層体100で構成される遮熱顔料を用いて塗料の色調を制御する場合には、光干渉による反射色を制御する必要があり、これも同様に第1誘電体層120および第2誘電体層140の光学膜厚(n×d)を最適化することで所望の反射色を得ることが可能となる。
【0041】
[支持層110の膜厚T1]
本実施形態において、支持層110の膜厚T1は、第1誘電体層120の膜厚T2に基づいて決定される。具体的には、支持層110が有する圧縮残留応力と、第1誘電体層120が有する引張残留応力とが実質的に等しくなるように、第1誘電体層120の膜厚T2に対して、支持層110の膜厚T1が調整される。
【0042】
上記したように、第1誘電体層120の膜厚T2が20nm以上、40nm以下であり、Ag層130の膜厚T3が、10nm以上、15nm以下である場合、支持層110の膜厚T1は、10nm以上である。これにより、支持層110が有する圧縮残留応力と、第1誘電体層120が有する引張残留応力とを実質的に等しくすることができる。したがって、第1誘電体層120の引張残留応力を支持層110の圧縮残留応力で相殺することができる。このため、支持層110を備えない従来の薄膜積層体と比較して、薄膜積層体100は、第1誘電体層120の引張残留応力による湾曲を抑制することが可能となる。これにより、薄膜積層体100の平坦度を向上させることができる。なお、支持層110の屈折率は、後述する塗料に含まれる樹脂と同程度である。このため、支持層110の膜厚T1による光学特性への影響はない。したがって、支持層110の膜厚T1の上限値に限定はない。支持層110の膜厚T1は、例えば、後述する膜厚Tt未満である。
【0043】
[第1誘電体層120の膜厚T2、Ag層130の膜厚T3、および、第2誘電体層140の膜厚T4の合計値]
膜厚Ttは、第1誘電体層120の膜厚T2、Ag層130の膜厚T3、および、第2誘電体層140の膜厚T4の合計値である。膜厚Ttは、50nm以上85nm以下であり、好ましくは、70nm以下である。これにより、薄膜積層体100は、可視光透過率を向上させることが可能となる。
【0044】
また、薄膜積層体100の一片の幅Wは、10μm以下である。これにより、薄膜積層体100は、可視光透過率を向上させることができる。
【0045】
[薄膜積層体100の製造方法]
図3は、本実施形態に係る薄膜積層体100の製造方法の処理の流れを説明するフローチャートである。
図3に示すように、薄膜積層体100の製造方法は、離型剤成膜工程S110と、第1成膜工程S120と、第2成膜工程S130と、第3成膜工程S140と、第4成膜工程S150と、剥離工程S160と、洗浄工程S170と、粉砕工程S180と、調整工程S190とを含む。以下、各工程について説明する。
【0046】
[離型剤成膜工程S110]
離型剤成膜工程S110は、基板に離型剤を成膜する工程である。基板は、例えば、ガラス基板である。離型剤は、例えば、スクロースである。離型剤の厚み、例えば、20nm程度である。離型剤成膜工程S110、後述する、第1成膜工程S120、第2成膜工程S130、および、第3成膜工程S140は、電子ビーム蒸着等の真空蒸着、または、スパッタリング等のPVD法によって為される。
【0047】
[第1成膜工程S120]
第1成膜工程S120は、離型剤が成膜された基板に、第2誘電体層140を成膜する工程である。
【0048】
[第2成膜工程S130]
第2成膜工程S130は、第2誘電体層140が成膜された基板に、Ag層130を成膜する工程である。
【0049】
[第3成膜工程S140]
第3成膜工程S140は、Ag層130が成膜された基板に、第1誘電体層120を成膜する工程である。
【0050】
[第4成膜工程S150]
第4成膜工程S150は、第1誘電体層120が成膜された基板に、支持層110を成膜する工程である。第4成膜工程S150は、バーコータ等によってSOG(spin-on-glass)液が塗布されることによって為されてもよい。SOG液は、パーヒドロポリシラザンを含む。また、第4成膜工程S150は、電子ビーム蒸着等の真空蒸着、または、スパッタリング等のPVD法によって為されてもよい。
【0051】
上記第1成膜工程S120~第4成膜工程S150を実行することで、薄膜積層体100が製造される。
【0052】
[剥離工程S160]
剥離工程S160は、薄膜積層体100を基板から剥離する工程である。剥離工程S160では、まず、最後に第4成膜工程S150を実行してから所定時間(例えば、24時間以上)、積層体(基板に薄膜積層体100が積層されたもの)を放置する。そして、積層体を第1溶媒に所定時間浸漬する。第1溶媒は、離型剤を溶解可能な溶媒である。第1溶媒は、離型剤に基づいて決定される。第1溶媒は、例えば、水、エタノール、2-プロパノール(IPA)である。
【0053】
[洗浄工程S170]
洗浄工程S170は、剥離された薄膜積層体100を第1溶媒で超音波洗浄する工程である。
【0054】
[粉砕工程S180]
粉砕工程S180は、薄膜積層体100を粉砕する工程である。粉砕工程S180は、一片の長さが10μm以下となるように薄膜積層体100を粉砕する。粉砕工程S180では、第1溶媒に薄膜積層体100を浸漬した状態で超音波を照射して、薄膜積層体100を粉砕する。なお、粉砕工程S180は、ボールミルによって為されてもよい。
【0055】
[調整工程S190]
調整工程S190では、粉砕工程S180を実行した後、第1溶媒から第2溶媒に置換する。第2溶媒は、第1溶媒とは異なる溶媒であってもよいし、同じ溶媒であってもよい。そして、薄膜積層体100の第2溶媒懸濁液に分散剤を添加する。分散剤は、例えば、カチオン基含有アクリルポリマーである。
【0056】
以上説明したように、本実施形態に係る薄膜積層体100は、支持層110を備える。上記したように、支持層110は圧縮残留応力を有し、第1誘電体層120は引張残留応力を有する。つまり、支持層110は、第1誘電体層120の残留応力と逆方向に作用する応力を有する。
【0057】
このため、支持層110上に第1誘電体層120を積層することにより、第1誘電体層120の引張残留応力を支持層110の圧縮残留応力で相殺することができる。したがって、支持層110を備えない従来の薄膜積層体と比較して、薄膜積層体100は、第1誘電体層120の引張残留応力による湾曲を抑制することが可能となる。これにより、薄膜積層体100の平坦度を向上させることができる。
【0058】
薄膜積層体が湾曲すると、Ag層130を構成する金属粒子が凝集して浮島状となり、Ag層130が膜としての形状を維持できなくなってしまう。そうすると、薄膜積層体の赤外線反射性能が著しく低下してしまうという問題が生じる。
【0059】
また、薄膜積層体が湾曲していると、第1誘電体層120とAg層130、Ag層130と第2誘電体層140が層間剥離しやすく、薄膜積層体の赤外線反射性能、可視光透過性能、耐熱性、および、遮熱性が著しく低下してしまうという問題が生じる。
【0060】
これに対し、本実施形態に係る薄膜積層体100は、第1誘電体層120、Ag層130、および、第2誘電体層140に加え、支持層110を備える。これにより、薄膜積層体100の平坦度を向上させることができる。したがって、薄膜積層体100は、湾曲によって生じるAg層130の凝集や層間剥離を防止することが可能となる。これにより、薄膜積層体100は、赤外線反射性能、可視光透過性能、耐熱性、および、遮熱性を向上させることができる。
【0061】
[塗料]
続いて、上記薄膜積層体100を利用した塗料について説明する。本実施形態に係る塗料は、赤外線反射塗料(遮熱塗料)である。本実施形態に係る塗料は、上記薄膜積層体100、および、溶剤としての樹脂を少なくとも含む。薄膜積層体100は、透明である。このため、塗料が、着色顔料を含んでいるか否かに拘わらず、薄膜積層体100によって塗料自体の色が変化することはない。
【0062】
塗料の乾燥前後の収縮率、つまり、塗料が乾燥する前の樹脂に対する、乾燥した後の樹脂の収縮率(以下、単に「収縮率」という)は、2%以下である。収縮率を2%以下とすることにより、耐熱性を向上させることができる。したがって、塗料は、焼き付け塗装等の高温(160℃以上)の処理が施されても、変色を防止することが可能となる。したがって、塗料は、自動車等の外装用の遮熱塗料として利用することができる。
【0063】
なお、収縮率が2%以下の樹脂は、例えば、エポキシ系の樹脂である。
【実施例0064】
以下では、本発明の実施例および比較例について具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、あくまでも一例であって、本発明に係る薄膜積層体および塗料は、下記の実施例に限定されない。
【0065】
上記薄膜積層体100の製造方法によって、実施例1~3の薄膜積層体100、および、比較例1~2の薄膜積層体を製造した。以下、詳細について説明する。
【0066】
離型剤成膜工程S110では、基板としてガラス基板を用いた。また、離型剤としてスクロースを無加熱真空蒸着によって成膜した。なお、成膜レートは、0.2nm/sec程度とした。また、離型剤の膜厚は、20nmとした。
【0067】
第1成膜工程S120では、無加熱真空蒸着によって第2誘電体層140を成膜した。なお、成膜レートは、0.5nm/sec程度とした。また、第2誘電体層140の膜厚T4は、33nmとした。第2誘電体層140として、TiO2(酸化チタン)を成膜した。
【0068】
第2成膜工程S130では、無加熱真空蒸着によってAg層130を成膜した。なお、成膜レートは、0.4nm/sec程度とした。また、Ag層130として、Cuを5%~7.5%含むAg合金を成膜した。第2成膜工程S130におけるAg層130の膜厚T3は、実施例1~3では13nm、比較例1では15nm、比較例2では17nmとした。
【0069】
第3成膜工程S140では、無加熱真空蒸着によって第1誘電体層120を成膜した。なお、成膜レートは、0.5nm/sec程度とした。また、第1誘電体層120の膜厚T2は、33nmとした。第1誘電体層120として、酸化チタンを成膜した。
【0070】
実施例1~3では、第4成膜工程S150を行った。実施例1では、第4成膜工程S150において、バーコータによってSOG液を塗布した後、80℃程度に加熱して支持層110を成膜した。実施例1では、SOG液として、有限会社エクスシア製のシリカシールドSSN-SD50を用いた。実施例1では、支持層110の体積密度を2.0g/cm3とした。
【0071】
実施例2、3では、第4成膜工程S150において、真空蒸着により支持層110を成膜した。実施例2では、成膜レートを15nm/secとし、真空度を1.0E-3Pa程度とした。また、実施例2では、支持層110の体積密度を1.76g/cm3とした。実施例2では、支持層110の膜厚T1を5nmとした。
【0072】
実施例3では、成膜レートを15nm/secとし、真空度を1.0E-4Pa程度とした。また、実施例3では、支持層110の体積密度を1.9g/cm3とした。実施例3では、支持層110の膜厚T1を5nmとした。
【0073】
また、実施例2、3では、蒸発材料としてシリカ(SiO2)を用いた。SiO2として、稀産金属株式会社製のSA-5を用いた。
【0074】
一方、比較例1、2では、第4成膜工程S150を行わなかった。つまり、比較例1、2の薄膜積層体は、支持層110を備えない。
【0075】
このようにして、実施例1~3の薄膜積層体100、および、比較例1、2の薄膜積層体を製造した。
【0076】
そして、実施例1~3の薄膜積層体100、および、比較例1、2の薄膜積層体の可視光透過率を測定した。可視光は、400nm~780nmが平均的に含まれる光とした。
【0077】
また、実施例1~3のカール半径[μm]を顕微鏡写真に基づいて算出した。カール半径は、薄膜積層体100のうちの湾曲部分の半径である。カール半径が大きいほど、平坦度が高い。
【0078】
実施例1~3の薄膜積層体100、および、比較例1、2の薄膜積層体の可視光透過率およびカール半径を下記表1に示す。なお、表1中、「◎」は、当該評価がとても良いことを示し、「〇」は、各評価項目の評価が良いことを示し、「△」は、各評価項目の評価が悪いことを示し、「×」は、当該評価がとても悪いことを示す。
【0079】
【0080】
表1に示すように、実施例1の薄膜積層体100の可視光透過率は、84%であった。また、実施例2、3の薄膜積層体100の可視光透過率は、80.8%であった。また、比較例1の薄膜積層体の可視光透過率は、82%であった。一方、比較例2の薄膜積層体の可視光透過率は、79%であった。
【0081】
これらの結果から、Ag層130の膜厚T3を13nm以上、15nm以下とすることにより、薄膜積層体100の可視光透過性能を向上できることが確認された。
【0082】
図4は、実施例1の薄膜積層体100の顕微鏡写真である。
図5は、実施例2の薄膜積層体100の顕微鏡写真である。
図6は、実施例3の薄膜積層体100の顕微鏡写真である。
【0083】
図4に示すように、実施例1の薄膜積層体100では、カールの形成が認められなかった。また、
図6に示すように、実施例3の薄膜積層体100には、カールの形成が認められないもの、および、カール半径が38.3μmであるものが混在していた。
【0084】
一方、
図5に示すように、実施例2の薄膜積層体100では、カールの形成が認められ、カール半径が13.02nmであった。
【0085】
これらの結果から、支持層110の体積密度を1.9g/cm3以上とすることにより、薄膜積層体100の平坦度を向上できることが確認された。
【0086】
また、比較例1、2では、支持層110を備えないため、カール半径が実施例2よりも小さいカールが形成されると推測される。
【0087】
また、実施例1の薄膜積層体100を用いて、実施例Aの塗料および比較例Aの塗料を製造した。
【0088】
実施例Aの塗料は、実施例1の薄膜積層体100にエポキシ系の樹脂および溶剤を混合することで製造した。実施例Aの樹脂の収縮率は、2%である。
【0089】
比較例Aの塗料は、実施例1の薄膜積層体100にアクリル系の樹脂および溶剤を混合することで製造した。比較例Aの樹脂の収縮率は、4%である。
【0090】
そして、実施例Aの塗料、および、比較例Aの塗料に対し、耐熱試験を行った。耐熱試験では、塗料を、恒温槽にて大気中で160℃、30分加熱した。そして、加熱前の塗料と、加熱後の塗料と色変化ΔEを測定した。色の測定は、アズワン株式会社製のポータブル色差計TES-135Aを用いて、L*a*bを測定した。L*a*bに基づいて、下記式(1)を用い、色変化ΔEを算出した。
ΔE = √{(L1*-L2*)2+(a1*-a2*)2+(b1*-b2*)2} …式1)
なお、上記式(1)中、L1*、a1*、b1*は、加熱前の値を示し、L2*、a2*、b1*は、加熱後の値を示す。
【0091】
実施例Aの塗料、および、比較例Aの塗料の色変化ΔEを下記表2に示す。なお、表2中、「〇」は、各評価項目の評価が良いことを示し、「×」は、当該評価が悪いことを示す。
【0092】
【0093】
表2に示すように、実施例Aの塗料の色変化ΔEは、2.0であった。一方、比較例Aの塗料の色変化ΔEは、6.7であった。これらの結果から、実施例Aの塗料の色変化ΔEは、比較例Aの塗料の色変化ΔEより小さいことが確認された。
【0094】
したがって、塗料に含まれる樹脂の収縮率を2%以下とすることにより、薄膜積層体100の耐熱性を向上できることが確認された。
【0095】
以上、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。