(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023148975
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】ハニカム構造体、電気加熱型担体及び排気ガス浄化装置
(51)【国際特許分類】
B01J 35/04 20060101AFI20231005BHJP
B01J 32/00 20060101ALI20231005BHJP
C04B 38/00 20060101ALI20231005BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20231005BHJP
F01N 3/20 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
B01J35/04 301P
B01J32/00 ZAB
B01J35/04 301F
C04B38/00 303Z
B01D53/94 300
B01D53/94 280
B01D53/94 245
B01D53/94 222
F01N3/20 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022057283
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】服部 真子
【テーマコード(参考)】
3G091
4D148
4G019
4G169
【Fターム(参考)】
3G091AB02
3G091AB03
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4G169EE03
(57)【要約】
【課題】金属管に収容されて温度変化を受ける際にクラックが発生し難いハニカム構造体を提供する。
【解決手段】外周壁と、前記外周壁の内側に配設され、一方の端面から他方の端面まで流路を形成する複数のセルを区画形成する隔壁とを有する導電性のハニカム構造部、及び、前記ハニカム構造部の中心軸を挟んで対向するように前記外周壁の外表面に設けられた一対の電極層を備え、40℃から300℃まで温度変化させたときのJIS R1618:2002に従って測定される前記ハニカム構造部の線膨張係数が4.1×10
-6/℃以上であり、且つ、300℃から800℃まで温度変化させたときのJIS R1618:2002に従って測定される前記ハニカム構造部の線膨張係数が4.2×10
-6/℃以上4.8×10
-6/℃以下である、ハニカム構造体。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周壁と、前記外周壁の内側に配設され、一方の端面から他方の端面まで流路を形成する複数のセルを区画形成する隔壁とを有する導電性のハニカム構造部、及び、
前記ハニカム構造部の中心軸を挟んで対向するように前記外周壁の外表面に設けられた一対の電極層を備え、
40℃から300℃まで温度変化させたときのJIS R1618:2002に従って測定される前記ハニカム構造部の線膨張係数が4.1×10-6/℃以上であり、且つ、300℃から800℃まで温度変化させたときのJIS R1618:2002に従って測定される前記ハニカム構造部の線膨張係数が4.2×10-6/℃以上4.8×10-6/℃以下である、
ハニカム構造体。
【請求項2】
40℃から300℃まで温度変化させたときのJIS R1618:2002に従って測定される前記ハニカム構造部の線膨張係数が4.1×10-6/℃以上6.0×10-6/℃以下である請求項1に記載のハニカム構造体。
【請求項3】
前記外周壁及び前記隔壁の材料が炭化珪素-珪素複合材を主成分とする請求項1又は2に記載のハニカム構造体。
【請求項4】
前記外周壁及び前記隔壁のそれぞれの表面の少なくとも一部は、クリストバライトを含有する酸化膜で被覆されている請求項3に記載のハニカム構造体。
【請求項5】
40℃から300℃まで温度変化させたときのJIS R1618:2002に従って測定される前記ハニカム構造部の線膨張係数は、300℃から800℃まで温度変化させたときのJIS R1618:2002に従って測定される前記ハニカム構造部の線膨張係数よりも大きい請求項1~4の何れか一項に記載のハニカム構造体。
【請求項6】
請求項1~5の何れか一項に記載のハニカム構造体と、
前記一対の電極層のそれぞれの外表面に接合された金属端子と、
を備える電気加熱型担体。
【請求項7】
請求項6に記載の電気加熱型担体と、
前記電気加熱型担体を収容する筒状の金属管と、
を備える排気ガス浄化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム構造体、ハニカム構造体を備える電気加熱型担体、及び電気加熱型担体を備える排気ガス浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エンジン始動直後の排気ガス浄化性能の低下を改善するため、電気加熱触媒(EHC)が提案されている。EHCは、導電性セラミックス製のハニカム構造体に一対の電極を配設し、通電によりハニカム構造体自体を発熱させることで、ハニカム構造体に担持された触媒をエンジン始動前に活性温度まで昇温するシステムである。EHCにおいて、ハニカム構造体は金属製の缶体(以下、「金属管」という。)に収容(キャニング)されて自動車の排ガス流路の途中に設置されるのが通常である。
【0003】
排ガス流路には高温の排ガスが流れるため、ハニカム構造体には耐熱衝撃性が求められる。耐熱衝撃性を高めるため、ハニカム構造体の構成材料であるセラミックスの好適な熱膨張率が検討されてきた。特許文献1には、25~800℃の線膨張係数は、3.5~6.0ppm/Kが好ましく、3.5~4.5ppm/Kがより好ましいと記載されている。特許文献2には、40~800℃の線膨張係数は、2.0×10-6/K~4.6×10-6/Kが好ましいと記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-181457号公報
【特許文献2】特開2014-189447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ハニカム構造体の構成材料であるセラミックスの線膨張係数を先行技術文献に教示されるような範囲にすることで、ハニカム構造体の耐熱衝撃性を高めることはできる。しかしながら、先行技術文献に記載されるような範囲の線膨張係数を有するセラミックスを材料とするハニカム構造体を金属管に収容して自動車の排ガス流路の途中に設置し、実使用しても、クラックが発生する事例が見られた。ハニカム構造体にクラックが発生すると、クラック部分に電気が流れ難くなって発熱性能が低下したり、機械的強度が低下したりする。このため、クラックの発生を更に抑制することが望ましい。また、自動車の運転中にハニカム構造体が振動すると、ハニカム構造体が金属管内で位置ずれを起こすことがあった。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みて創作されたものであり、一実施形態において、金属管に収容されて温度変化及び振動を受ける際にクラックが発生し難く、且つ、位置ずれし難いハニカム構造体を提供することを課題とする。本発明は別の一実施形態において、そのようなハニカム構造体を備える電気加熱型担体を提供することを課題とする。本発明は更に別の一実施形態において、そのような電気加熱型担体を備える排気ガス浄化装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は一実施形態において、
外周壁と、前記外周壁の内側に配設され、一方の端面から他方の端面まで流路を形成する複数のセルを区画形成する隔壁とを有する導電性のハニカム構造部、及び、
前記ハニカム構造部の中心軸を挟んで対向するように前記外周壁の外表面に設けられた一対の電極層を備え、
40℃から300℃まで温度変化させたときのJIS R1618:2002に従って測定される前記ハニカム構造部の線膨張係数が4.1×10-6/℃以上であり、且つ、300℃から800℃まで温度変化させたときのJIS R1618:2002に従って測定される前記ハニカム構造部の線膨張係数が4.2×10-6/℃以上4.8×10-6/℃以下である、
ハニカム構造体である。
【0008】
本発明は別の一実施形態において、前記ハニカム構造体と、
前記一対の電極層のそれぞれの外表面に接合された金属端子と、
を備える電気加熱型担体である。
【0009】
本発明は更に別の一実施形態において、
前記電気加熱型担体と、
前記電気加熱型担体を収容する筒状の金属管と、
を備える排気ガス浄化装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一実施形態に係るハニカム構造体は、金属管に収容されて温度変化を受ける際にクラックが発生し難い。このため、例えば当該ハニカム構造体をEHCに適用することで、高温の排気ガスによって急加熱される際にもクラックの入りにくい耐熱衝撃性に優れたEHCを提供することができる。また、高温加熱時に振動が生じても金属管内に収容したハニカム構造体の位置ずれが生じ難くなる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る電気加熱型担体を一方の端面から観察したときの模式図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る電気加熱型担体の模式的な斜視図である。
【
図3】発明の一実施形態に係る排気ガス浄化装置を示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に本発明を実施するための形態を図面を参照しながら詳細に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0013】
(1.電気加熱型担体)
図1は、本発明の一実施形態に係る電気加熱型担体100を一方の端面116から観察したときの模式図である。
図2は、本発明の一実施形態に係る電気加熱型担体100の模式的な斜視図である。電気加熱型担体100は、ハニカム構造体110及び金属端子130を備える。電気加熱型担体100に触媒を担持することにより、電気加熱型担体100を触媒体として使用することができる。
【0014】
触媒としては、例えば、貴金属系触媒又はこれら以外の触媒が挙げられる。貴金属系触媒としては、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)といった貴金属をアルミナ細孔表面に担持し、セリア、ジルコニア等の助触媒を含む三元触媒や酸化触媒、又は、アルカリ土類金属と白金を窒素酸化物(NOx)の吸蔵成分として含むNOx吸蔵還元触媒(LNT触媒)が例示される。貴金属を用いない触媒として、銅置換又は鉄置換ゼオライトを含むNOx選択還元触媒(SCR触媒)等が例示される。また、これらの触媒から選択される二種以上の触媒を用いてもよい。なお、触媒の担持方法についても特に制限はなく、ハニカム構造体に触媒を担持する公知の方法を採用することができる。
【0015】
(1-1.ハニカム構造体)
一実施形態においてハニカム構造体110は、
外周壁114と、外周壁114の内側に配設され、一方の端面116から他方の端面118まで流路を形成する複数のセル115を区画形成する隔壁113とを有する導電性のハニカム構造部、及び、
ハニカム構造部の中心軸Oを挟んで対向するように外周壁114の外表面に設けられた一対の電極層112a、112bを備える。
【0016】
ハニカム構造体110の外形は特に限定されず、例えば端面が円形状、オーバル形状、楕円形状、レーストラック形状及び長円形状等のラウンド形状の柱体、端面が三角形状及び四角形状等の多角形状の柱体、並びに、端面がその他の異形形状を有する柱体とすることができる。図示のハニカム構造体110は、端面形状が円形状であり、全体として円柱状である。
【0017】
ハニカム構造体の高さ(一方の端面から他方の端面までの長さ)は特に制限はなく、用途や要求性能に応じて適宜設定すればよい。ハニカム構造体の高さと各端面の最大径(ハニカム構造体の各端面の重心を通る径のうち、最大長さを指す)の関係についても特に制限はない。従って、ハニカム構造体の高さが各端面の最大径よりも長くてもよいし、ハニカム構造体の高さが各端面の最大径よりも短くてもよい。
【0018】
また、ハニカム構造体110の大きさは、耐熱性を高める(外周壁の周方向に入るクラックを抑制する)という理由により、一つの端面の面積が2000~20000mm2であることが好ましく、5000~15000mm2であることが更に好ましい。
【0019】
外周壁114及び隔壁113は、電極層112a、112bよりも体積抵抗率は高いものの導電性を有する。外周壁114及び隔壁113の体積抵抗率は、通電してジュール熱により発熱可能である限り特に制限はないが、四端子法により25℃で測定したときに、0.1~200Ωcmであることが好ましく、1~200Ωcmであることがより好ましく、10~100Ωcmであることが更に好ましい。
【0020】
外周壁114及び隔壁113の材料は、通電してジュール熱により発熱可能である限り特に制限はなく、金属やセラミックス(とりわけ導電性セラミックス)等を単独で又は組み合わせて使用可能である。外周壁114及び隔壁113の材料としては、限定的ではないが、アルミナ、ムライト、ジルコニア及びコージェライト等の酸化物系セラミックス、並びに、炭化珪素、窒化珪素及び窒化アルミ等の非酸化物系セラミックスから選択される一種又は二種以上を含有することができる。また、炭化珪素-珪素複合材や炭化珪素-グラファイト複合材等を用いることもできる。これらの中でも、耐熱性と導電性の両立の観点から、外周壁114及び隔壁113の材料は、炭化珪素-珪素複合材又は炭化珪素を主成分とすることが好ましい。外周壁114及び隔壁113の材料が、炭化珪素-珪素複合材を主成分とするものであるというときは、外周壁114及び隔壁113がそれぞれ、炭化珪素-珪素複合材(合計質量)を全体の90質量%以上含有していることを意味する。ここで、炭化珪素-珪素複合材は、骨材としての炭化珪素粒子、及び炭化珪素粒子を結合させる結合材としての珪素を含有するものであり、複数の炭化珪素粒子が、炭化珪素粒子間に細孔を形成するようにして、珪素によって結合されていることが好ましい。外周壁114及び隔壁113の材料が、炭化珪素を主成分とするものであるというときは、外周壁114及び隔壁113がそれぞれ、炭化珪素(合計質量)を全体の90質量%以上含有していることを意味する。
【0021】
外周壁114及び隔壁113が、炭化珪素-珪素複合材を含有する場合、外周壁114及び隔壁113が含有する「骨材としての炭化珪素粒子の質量」と、外周壁114及び隔壁113が含有する「結合材としての珪素の質量」との合計に対する、外周壁114及び隔壁113が含有する「結合材としての珪素の質量」の比率はそれぞれ、10~40質量%であることが好ましく、15~35質量%であることが更に好ましい。10質量%以上であると、外周壁114及び隔壁113の強度が十分に維持される。40質量%以下であると、焼成時に形状を保持しやすくなる。
【0022】
電気加熱型担体100を排気ガス浄化装置に用いる場合、電気加熱型担体100はエンジンからの排ガスを流すための排ガス流路の途中に設けられた金属管内に押し込んで嵌合させる押し込みキャニングによって固定されることが多い。金属管側からハニカム構造体110の外周壁114に圧力が加わることで、電気加熱型担体100は金属管内に安定固定される。
【0023】
エンジンから高温の排ガスがセル115に流れると、ハニカム構造体110は熱膨張するが、ハニカム構造体110の熱膨張が大きくなると、外周壁114に引張応力が発生し、これがクラックの原因となる。しかしながら、ハニカム構造体110の熱膨張が金属管からの圧力よって抑制されれば、ハニカム構造体110にクラックが入りにくくなる。但し、高温下では金属管も熱膨張する。このため、ハニカム構造体110はある程度熱膨張させた方が金属管からの圧力の低下が抑制されるので、クラックの抑制には効果的である。
【0024】
本発明者は上記観点からハニカム構造体110の熱膨張とクラック抑制の関係について検討したところ、40℃から300℃までの低温領域における熱膨張を従来よりも大きくし、300℃から800℃までの熱膨張は従来と同レベルにすることが有利であることを見出した。
【0025】
具体的には、ハニカム構造部は、40℃から300℃まで温度変化させたときのJIS R1618:2002に従って測定される線膨張係数が4.1×10-6/℃以上であり、且つ、300℃から800℃まで温度変化させたときのJIS R1618:2002に従って測定される線膨張係数が4.2×10-6/℃以上4.8×10-6/℃以下であることが、クラックの抑制に効果的である。
【0026】
40℃から300℃まで温度変化させたときのJIS R1618:2002に従って測定されるハニカム構造部の線膨張係数が4.1×10-6/℃以上であることは、高温時に金属管との熱膨張差が広がるのを抑制でき、金属管からの圧力が低下するのを抑制するのに寄与する。40℃から300℃まで温度変化させたときのハニカム構造部の当該線膨張係数の下限は、4.5×10-6/℃以上であることが好ましく、5.0×10-6/℃以上であることがより好ましい。
【0027】
但し、ハニカム構造体110に触媒を焼き付けるための加熱処理はキャニング前に行われるのが通常である。このため、触媒を焼き付けるための加熱処理時には金属管からの圧力が低下するのを抑制することによるクラック抑制効果は得られない。このため、ハニカム構造体110が過度に熱膨張するのは回避することが望ましい。よって、40℃から300℃まで温度変化させたときのハニカム構造部の当該線膨張係数の上限は、7.5×10-6/℃以下であることが好ましく、6.0×10-6/℃以下であることがより好ましい。
【0028】
300℃から800℃まで温度変化させたときのJIS R1618:2002に従って測定されるハニカム構造部の線膨張係数が4.2×10-6/℃以上であることは、高温時に金属管との熱膨張差が広がるのを抑制でき、金属管からの圧力が低下するのを抑制するのに寄与する。300℃から800℃まで温度変化させたときのハニカム構造部の当該線膨張係数の下限は、4.3×10-6/℃以上であることが好ましく、4.4×10-6/℃以上であることがより好ましい。
【0029】
また、300℃から800℃まで温度変化させたときのJIS R1618:2002に従って測定されるハニカム構造部の当該線膨張係数が4.8×10-6/℃以下であることにより、高温時にハニカム構造体内部に発生する熱応力が過度に大きくなるのを防止可能である。300℃から800℃まで温度変化させたときのハニカム構造部の当該線膨張係数の上限は、4.7×10-6/℃以下であることが好ましく、4.6×10-6/℃以下であることがより好ましい。
【0030】
好ましい実施形態において、40℃から300℃まで温度変化させたときのJIS R1618:2002に従って測定されるハニカム構造部の線膨張係数は、300℃から800℃まで温度変化させたときのJIS R1618:2002に従って測定されるハニカム構造部の線膨張係数よりも大きい。具体的には、40℃から300℃まで温度変化させたときのJIS R1618:2002に従って測定されるハニカム構造部の線膨張係数をCTEAとし、300℃から800℃まで温度変化させたときのJIS R1618:2002に従って測定されるハニカム構造部の線膨張係数をCTEBとすると、CTEA>CTEBが成立する。
CTEA/CTEB≧1.1が成立することが好ましく、CTEA/CTEB≧1.2が成立することがより好ましい。
【0031】
CTEA/CTEBの上限は特に設定されないが、典型的には、1.5≧CTEA/CTEB≧1.1が成立する。より典型的には、1.4≧CTEA/CTEB≧1.2が成立する。
【0032】
ハニカム構造部の線膨張係数の測定は以下の手順で行う。ハニカム構造部から3mm×3mm×20mm(セルの延伸方向の長さ)の大きさの角柱状サンプルをハニカム構造部の径方向及び高さ方向の中心部から切り出し、当該サンプルに対して上述した温度変化条件で線膨張係数を測定し、測定値とする。
【0033】
ハニカム構造部について、40℃から300℃まで温度変化させたときの線膨張係数と、300℃から800℃まで温度変化させたときの線膨張係数との間に変化を与える方法としては、限定的ではないが、40℃から300℃の間に相転移を生じて大きく膨張する材料をハニカム構造部(外周壁、隔壁)に使用する方法が挙げられる。
【0034】
40℃から300℃の間に相転移を生じて大きく膨張する材料としては、クリストバライトが挙げられる。クリストバライトは200~300℃付近で相転移が起こり、大きく膨張する。このため、クリストバライトの含有量が大きいと、40℃から300℃まで温度変化させたときの線膨張係数を大きくすることができる。クリストバライトは外周壁114及び隔壁113を形成するためのセラミックス原料中に添加しても良いが、外周壁114及び隔壁113を形成するためのセラミックス原料中にSiが含まれている場合、酸化雰囲気下で高温焼成するとクリストバライトを含有する酸化膜が生成するので、焼成後の酸化処理条件(温度、保持時間、酸化雰囲気の種類、昇温速度、冷却速度等)を調整することでクリストバライトの含有量を制御することもできる。従って、一実施形態において、外周壁114及び隔壁113のそれぞれの表面の少なくとも一部は、クリストバライトを含有する酸化膜で被覆されている。
【0035】
セル115の延伸方向に垂直な断面におけるセルの形状に制限はないが、四角形、六角形、八角形、又はこれらの組み合わせであることが好ましい。これ等のなかでも、四角形及び六角形が好ましい。セル形状をこのようにすることにより、ハニカム構造体110に排ガスを流したときの圧力損失が小さくなり、触媒の浄化性能が優れたものとなる。構造強度及び加熱均一性を両立させやすいという観点からは、六角形が特に好ましい。
【0036】
セル115は一方の端面116から他方の端面118まで貫通していてもよい。また、セル115は、一方の端面116が目封止されており他方の端面118が開口を有する第1セルと、一方の端面116が開口を有し他方の端面118が目封止されている第2セルとが隔壁113を挟んで交互に隣接配置されていてもよい。
【0037】
セル115を区画形成する隔壁113の厚みは、0.1~0.3mmであることが好ましく、0.15~0.25mmであることがより好ましい。隔壁113の厚みが0.1mm以上であることで、ハニカム構造体110の強度が低下するのを抑制可能である。隔壁113の厚みが0.3mm以下であることで、ハニカム構造体110を触媒担体として用いて、触媒を担持した場合に、排ガスを流したときの圧力損失が大きくなるのを抑制できる。本発明において、隔壁113の厚みは、セル115の延伸方向に垂直な断面において、隣接するセル115の重心同士を結ぶ線分のうち、隔壁113を通過する部分の長さとして定義される。
【0038】
ハニカム構造体110は、セル115の延伸方向に垂直な断面において、セル密度が40~150セル/cm2であることが好ましく、70~100セル/cm2であることが更に好ましい。セル密度をこのような範囲にすることにより、ハニカム構造体110に排ガスを流したときの圧力損失を小さくした状態で、触媒の浄化性能を高くすることができる。セル密度が40セル/cm2以上であると、触媒担持面積が十分に確保される。セル密度が150セル/cm2以下であるとハニカム構造体110を触媒担体として用いて、触媒を担持した場合に、排ガスを流したときの圧力損失が大きくなりすぎることが抑制される。セル密度は、外周壁部分を除くハニカム構造体の一つの端面の面積でセル数を除して得られる値である。
【0039】
隔壁113は緻密質でもよいが、多孔質とすることが好ましい。隔壁113の気孔率は、35~60%であることが好ましく、35~45%であることが更に好ましい。気孔率が35%以上であると、焼成時の変形をより抑制しやすくなる。気孔率が60%以下であるとハニカム構造体110の強度が十分に維持される。気孔率は、水銀ポロシメータにより測定される値である。なお、緻密質というのは気孔率が5%以下のことを指す。
【0040】
隔壁113の平均細孔径は、2~15μmであることが好ましく、4~8μmであることが更に好ましい。平均細孔径が2μm以上であると、体積抵抗率が大きくなりすぎることが抑制される。平均細孔径が15μm以下であると、体積抵抗率が小さくなりすぎることが抑制される。平均細孔径は、水銀ポロシメータにより測定される値である。
【0041】
ハニカム構造体110に外周壁114を設けることは、ハニカム構造体110の構造強度を確保し、また、セル115を流れる流体が外周側面から漏洩するのを抑制する観点で有用である。この点で、外周壁114の厚みは好ましくは0.1mm以上であり、より好ましくは0.15mm以上であり、更により好ましくは0.2mm以上である。但し、外周壁114を厚くしすぎると高強度になりすぎてしまい、隔壁113との強度バランスが崩れて耐熱衝撃性が低下することから、外周壁114の厚みは好ましくは1.0mm以下であり、より好ましくは0.7mm以下であり、更により好ましくは0.5mm以下である。ここで、外周壁114の厚みは、厚みを測定しようとする外周壁114の箇所をセル115の延伸方向に垂直な断面で観察したときに、当該測定箇所における外周壁114の外表面の接線に対する法線方向の厚みとして定義される。
【0042】
外周壁114上には、外周壁114よりも体積抵抗率の低い電極層112a、112bが配設されることで、電流がハニカム構造体110の周方向及びセル115の延伸方向に広がりやすくなるので、ハニカム構造体110の均一発熱性を高めることが可能となる。セル115に垂直な断面において、一対の電極層112a、112bのそれぞれの周方向中心からハニカム構造体110の中心軸Oまで延ばした二つの線分のなす角度θ(0°≦θ≦180°)は、150°≦θ≦180°であることが好ましく、160°≦θ≦180°であることがより好ましく、170°≦θ≦180°であることが更により好ましく、180°であることが最も好ましい。
【0043】
電極層112a、112bの形成領域に特段の制約はないが、ハニカム構造体110の均一発熱性を高めるという観点からは、電極層112a、112bはそれぞれ、外周壁114の外表面上でハニカム構造体110の周方向及びセル115の延伸方向に帯状に延設することが好ましい。具体的には、セル115の延伸方向に垂直な断面において、各電極層112a、112bの周方向の両側端と中心軸Oとを結ぶ2本の線分が作る中心角αは、電流を周方向に広げて均一発熱性を高めるという観点から、30°以上であることが好ましく、40°以上であることがより好ましく、60°以上であることが更により好ましい。但し、中心角αを大きくし過ぎると、ハニカム構造体110の内部を通過する電流が少なくなり、外周壁114付近を通過する電流が多くなる。そこで、当該中心角αは、ハニカム構造体110の均一発熱性の観点から、140°以下であることが好ましく、130°以下であることがより好ましく、120°以下であることが更により好ましい。また、電極層112a、112bはそれぞれ、ハニカム構造体110の両端面間の長さの80%以上の長さに亘って、好ましくは90%以上の長さに亘って、より好ましくは全長に亘って延びていることが望ましい。電極層112a、112bは単層で構成されていてもよく、複数層が積層された積層構造を有することもできる。
【0044】
電極層112a、112bの厚みは、0.01~5mmであることが好ましく、0.01~3mmであることが更に好ましい。このような範囲とすることにより均一発熱性を高めることができる。電極層112a、112bの厚みが0.01mm以上であると、電気抵抗が適切に制御され、より均一に発熱することができる。電極層112a、112bの厚みが5mm以下であると、キャニング時に破損する恐れが低減される。電極層112a、112bの厚みは、厚みを測定しようとする電極層112a、112bの箇所をセル115の延伸方向に垂直な断面で観察したときに、当該測定箇所における電極層112a、112bの外表面の接線に対する法線方向の厚みとして定義される。
【0045】
電極層112a、112bの体積抵抗率を隔壁113及び外周壁114の体積抵抗率より低くすることにより、電極層112a、112bに優先的に電気が流れやすくなり、通電時に電気がハニカム構造体110の周方向及びセル115の延伸方向に広がりやすくなる。電極層112a、112bの体積抵抗率は、隔壁113及び外周壁114の体積抵抗率の1/10以下であることが好ましく、1/20以下であることがより好ましく、1/30以下であることが更により好ましい。但し、両者の体積抵抗率の差が大きくなりすぎると対向する電極層112a、112bの端部間に電流が集中してハニカム構造体110の発熱が偏ることから、電極層112a、112bの体積抵抗率は、隔壁113及び外周壁114の体積抵抗率の1/200以上であることが好ましく、1/150以上であることがより好ましく、1/100以上であることが更により好ましい。本発明において、電極層、隔壁及び外周壁の体積抵抗率は、四端子法により25℃で測定した値とする。
【0046】
電極層112a、112bの材質は、限定的ではないが、金属とセラミックス(とりわけ導電性セラミックス)との複合材(サーメット)を使用することができる。金属としては、例えばCr、Fe、Co、Ni、Si又はTiの単体金属又はこれらの金属から選択される少なくとも一種の金属を含有する合金が挙げられる。セラミックスとしては、限定的ではないが、炭化珪素(SiC)の他、珪化タンタル(TaSi2)及び珪化クロム(CrSi2)等の金属珪化物等の金属化合物が挙げられる。金属とセラミックスとの複合材(サーメット)の具体例としては、金属珪素と炭化珪素の複合材、珪化タンタルや珪化クロム等の金属珪化物と金属珪素と炭化珪素の複合材、更には上記の一種又は二種以上の金属に熱膨張低減の観点から、アルミナ、ムライト、ジルコニア、コージェライト、窒化珪素及び窒化アルミ等の絶縁性セラミックスを一種又は二種以上添加した複合材が挙げられる。電極層112a、112bの材質としては、上記の各種金属及びセラミックスの中でも、珪化タンタルや珪化クロム等の金属珪化物と金属珪素と炭化珪素の複合材とすることが、隔壁及び外周壁と同時に焼成できるので製造工程の簡素化に資するという理由により好ましい。
【0047】
(1-2.金属端子)
金属端子130は、一対の電極層112a、112bのそれぞれの外表面に直接又は間接的に接合されている。金属端子130を介してハニカム構造体110に電圧を印加すると通電してジュール熱によりハニカム構造体110を発熱させることが可能である。このため、ハニカム構造体110はヒーターとしても好適に用いることができる。これにより、ハニカム構造体110の均一発熱性を向上させることが可能となる。印加する電圧は12~900Vが好ましく、48~600Vが更に好ましいが、印加する電圧は適宜変更可能である。
【0048】
金属端子130と電極層112a、112bは直接接合してもよいが、電極層112a、112bと金属端子130の間の熱膨張差を緩和して金属端子130の接合信頼性を向上する目的で、一層又は二層以上の下地層120を介して接合してもよい。従って、好ましい実施形態において、ハニカム構造体110は外周壁114上に、ハニカム構造体110の中心軸を挟んで対向するように配設された一対の電極層112a、112bを有しており、各電極層112a、112bには下地層120を介して、一つ又は複数の金属端子130が接合される。
【0049】
熱膨張率は金属端子130→(下地層120)→電極層112a、112b→外周壁114の順に段階的に小さくすることが、接合信頼性を向上する観点で好ましい。なお、ここでの「熱膨張率」は、25℃から1000℃まで変化させたときのJIS R1618:2002に従って測定される線膨張係数を意味する。
【0050】
金属端子130の材質としては、金属であれば特段の制約はなく、単体金属及び合金等を採用することもできるが、耐食性、体積抵抗率及び熱膨張率の観点から例えば、Cr、Fe、Co、Ni及びTiよりなる群から選択される少なくとも一種を含む合金とすることが好ましく、ステンレス鋼及びFe-Ni合金がより好ましい。金属端子130の形状及び大きさは、特に限定されず、ハニカム構造体110の大きさや通電性能等に応じて、適宜設計することができる。
【0051】
下地層120の材質は、限定的ではないが、金属とセラミックス(とりわけ導電性セラミックス)との複合材(サーメット)を使用することができる。下地層120の熱膨張率は、例えば、金属とセラミックスの配合比を調整することで制御可能である。
【0052】
下地層120は、限定的ではないが、Ni基合金、Fe基合金、Ti基合金、Co基合金、金属珪素、及びCrから選択される一種又は二種以上の金属を含有することが好ましい。
【0053】
下地層120は、限定的ではないが、アルミナ、ムライト、ジルコニア、ガラス及びコージェライト等の酸化物系セラミックス、並びに、炭化珪素、窒化珪素及び窒化アルミ等の非酸化物系セラミックスから選択される一種又は二種以上のセラミックスを含有することが好ましい。
【0054】
下地層120の厚みは、特に制限はないが、クラック抑制の観点からは0.1~1.5mmであることが好ましく、0.3~0.5mmであることがより好ましい。下地層120の厚みは、厚みを測定しようとする下地層120をセルの延伸方向に垂直な断面で観察したときに、当該測定箇所における下地層120の外表面の接線に対する法線方向の厚みとして定義される。
【0055】
金属端子130と電極層112a、112b又は下地層120の接合方法には、特に制限はないが、例えば、溶射、溶接及びロウ付が挙げられる。
【0056】
(2.排気ガス浄化装置)
本発明の一実施形態に係る電気加熱型担体100は、排気ガス浄化装置に用いることができる。
図3を参照すると、排気ガス浄化装置200は、電気加熱型担体100と、当該電気加熱型担体100を収容する筒状の金属管220とを有する。電気加熱型担体100の金属端子130には給電のための電線240を接続することができる。金属管220の材質としては、限定的ではないが、例えばステンレス鋼が挙げられる。
【0057】
排気ガス浄化装置200において、電気加熱型担体100は、自動車排ガス等の流体の流路の途中に設置することができる。電気加熱型担体100は、例えば、セルの延伸方向と金属管220の延伸方向が一致する位置関係で金属管220内に押し込んで嵌合させる押し込みキャニングによって、金属管220内に固定することができる。金属管220と電気加熱型担体100の間にはマット(「クッション材」ともいう。)260を配置してもよい。マット260の材質としては、限定的ではないが、アルミナファイバー及びムライトファイバー等のセラミックスファイバーが電気加熱型担体の位置ずれの抑制や金属管と電気加熱型担体との面圧維持の理由により好ましい。
【0058】
金属管内に固定されている電気加熱型担体100が金属管から受ける圧力の下限は、排ガス圧力による位置ずれを防止するという理由により、25℃において0.1MPa以上とすることが好ましく、0.2MPa以上とすることがより好ましい。
金属管内に固定されている電気加熱型担体100が金属管から受ける圧力の上限は、ハニカム構造体の破損を防止するという理由により、25℃において1.0MPa以下とすることが好ましく、0.8MPa以下とすることがより好ましい。
【0059】
金属管内に固定されている電気加熱型担体100が金属管から受ける圧力は、ハニカム構造体の外径、金属管の内径、マットの面比重(g/m2)からGBD(Gap Bulk Density)の値を算出し、マットごとに固有の特性線図(GBD-面圧カーブ)を用いて算出したGBDの値に対応する圧力(面圧)を求めることで、測定可能である。GBD(Gap Bulk Density)[g/cm3]とは、ハニカム構造体と金属管の間のマットの充填密度=面比重[g/m2]/((金属管の内径-ハニカム構造体の外径)[mm]×1000)のことを指す。
【0060】
(3.製造方法)
次に、本発明の一実施形態に係る電気加熱型担体を製造する方法について例示的に説明する。電気加熱型担体は、ハニカム成形体を得る工程1と、電極層形成ペースト付き未焼成ハニカム構造体を得る工程2と、電極層形成ペースト付き未焼成ハニカム構造体を焼成してハニカム構造体を得る工程3と、電極層に金属端子を接合する工程4とを含む製造方法により製造可能である。
【0061】
(工程1)
工程1は、ハニカム構造体の前駆体であるハニカム成形体を作製する工程である。ハニカム成形体の作製は、公知のハニカム構造体の製造方法におけるハニカム成形体の作製方法に準じて行うことができる。例えば、まず、炭化珪素粉末(炭化珪素)に、金属珪素粉末(金属珪素)、バインダ、界面活性剤、造孔材、水等を添加して成形原料を作製する。炭化珪素粉末の質量と金属珪素粉末の質量との合計に対して、金属珪素粉末の質量が10~40質量%となるようにすることが好ましい。炭化珪素粉末における炭化珪素粒子の平均粒子径は、3~50μmが好ましく、3~40μmがより好ましい。金属珪素粉末における金属珪素粒子の平均粒子径は、2~35μmであることが好ましい。炭化珪素粒子及び金属珪素粒子の平均粒子径はレーザー回折法で粒度の頻度分布を測定したときの、体積基準による算術平均径を指す。炭化珪素粒子は、炭化珪素粉末を構成する炭化珪素の微粒子であり、金属珪素粒子は、金属珪素粉末を構成する金属珪素の微粒子である。なお、これは、ハニカム構造体の材質を、珪素-炭化珪素系複合材とする場合の成形原料の配合であり、ハニカム構造体の材質を炭化珪素とする場合には、金属珪素は添加しない。
【0062】
バインダとしては、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロポキシルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等を挙げることができる。これらの中でも、メチルセルロースとヒドロキシプロポキシルセルロースとを併用することが好ましい。バインダの含有量は、炭化珪素粉末及び金属珪素粉末の合計質量を100質量部としたときに、2.0~10.0質量部であることが好ましい。
【0063】
界面活性剤としては、エチレングリコール、デキストリン、脂肪酸石鹸、ポリアルコール等を用いることができる。これらは、一種単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。界面活性剤の含有量は、炭化珪素粉末及び金属珪素粉末の合計質量を100質量部としたときに、0.1~2.0質量部であることが好ましい。
【0064】
造孔材としては、焼成後に気孔となるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、グラファイト、澱粉、発泡樹脂、吸水性樹脂、シリカゲル等を挙げることができる。造孔材の含有量は、炭化珪素粉末及び金属珪素粉末の合計質量を100質量部としたときに、0.5~10.0質量部であることが好ましい。造孔材の平均粒子径は、10~30μmであることが好ましい。造孔材の平均粒子径はレーザー回折法で粒度の頻度分布を測定したときの、体積基準による算術平均径を指す。造孔材が吸水性樹脂の場合には、造孔材の平均粒子径は吸水後の平均粒子径のことである。
【0065】
水の含有量は、炭化珪素粉末及び金属珪素粉末の合計質量を100質量部としたときに、20~60質量部であることが好ましい。
【0066】
次に、得られた成形原料を混練して坏土を形成した後、坏土を押出成形して、外周壁及び隔壁を有する柱状のハニカム成形体を作製する。押出成形に際しては、所望の全体形状、セル形状、隔壁厚み、セル密度等を有する口金を用いることができる。次に、得られたハニカム成形体について、乾燥を行うことが好ましい。ハニカム成形体の中心軸方向長さが、所望の長さではない場合は、ハニカム成形体の両端部を切断して所望の長さとすることができる。乾燥後のハニカム成形体をハニカム乾燥体と呼ぶ。
【0067】
工程1の変形例として、ハニカム成形体を一旦焼成してもよい。すなわち、この変形例では、ハニカム成形体を焼成してハニカム焼成体を作製し、当該ハニカム焼成体に対して工程2を実施する。
【0068】
(工程2)
工程2は、ハニカム成形体の側面に電極層形成ペーストを塗布して、電極層形成ペースト付き未焼成ハニカム構造体を得る工程である。電極層形成ペーストは、電極層の要求特性に応じて配合した原料粉(金属粉末、及び、セラミックス粉末等)に各種添加剤を適宜添加して混練することで形成することができる。原料粉の平均粒子径は、限定的ではないが、例えば、5~50μmであることが好ましく、10~30μmであることがより好ましい。原料粉の平均粒子径はレーザー回折法で粒度の頻度分布を測定したときの、体積基準による算術平均径を指す。
【0069】
次に、得られた電極層形成ペーストを、ハニカム成形体(典型的にはハニカム乾燥体)の側面の所要箇所に塗布し、電極層形成ペースト付き未焼成ハニカム構造体を得る。電極層形成ペーストを調合する方法、及び電極層形成ペーストをハニカム成形体に塗布する方法については、公知のハニカム構造体の製造方法に準じて行うことができるが、電極層を外周壁及び隔壁に比べて低い体積抵抗率にするために、外周壁及び隔壁よりも金属の含有比率を高めたり、原料粉中の金属粒子の粒径を小さくしたりすることができる。
【0070】
(工程3)
工程3は、電極層形成ペースト付き未焼成ハニカム構造体を焼成してハニカム構造体を得る工程である。焼成前に、電極層形成ペースト付き未焼成ハニカム構造体を乾燥してもよい。また、焼成前に、バインダ等を除去するため、脱脂を行ってもよい。脱脂及び焼成の方法は特に限定されず、電気炉、ガス炉等を用いて焼成することができる。焼成条件としては、ハニカム構造体の材質にもよるが、窒素、アルゴン等の不活性雰囲気において、1400~1500℃で、1~20時間加熱することが好ましい。また、焼成後、耐久性向上及びクリストバライトを含有する酸化膜形成のために、800℃から酸化処理の最高温度までの範囲で、1~20時間の酸化処理を行うことが好ましい。800℃から酸化処理の最高温度まで平均昇温速度を20~400℃/hとし、酸化処理の最高温度から800℃までの平均冷却速度を400~40℃/hとすることが好ましい。酸化処理は、例えば酸素雰囲気、大気雰囲気、水蒸気雰囲気で行うことができる。成形原料に金属珪素を使用している場合、酸化処理の条件を変化させることによって、クリストバライトの生成量を調整することができる。具体的には、800℃以上における昇温速度、冷却速度ともに遅いほうがクリストバライトの生成量が増加する。酸化処理時の温度を高温にするほど、酸化処理の時間を長時間にするほど、クリストバライトの生成量が増加する。また、大気雰囲気よりも、酸素雰囲気又は水蒸気雰囲気で酸化処理を行う方がクリストバライトの生成量を増加させるのに有利である。クリストバライトの生成量が増加すると、40℃から300℃まで温度変化させたときのハニカム構造部の線膨張係数が大きくなりやすい。
【0071】
(工程4)
工程4は、電極層に金属端子を接合する工程である。接合方法としては、特に制限はないが、例えば、溶射、溶接及びロウ付が挙げられる。電極層と金属端子との接合性を向上させる点から、溶射等の方法により下地層を形成してもよい。
【実施例0072】
以下、本発明及びその利点をより良く理解するための実施例を例示するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0073】
<実施例1>
(1.円柱状の坏土の作製)
炭化珪素(SiC)粉末と金属珪素(Si)粉末とを80:20の質量割合で混合してセラミックス原料を調製した。そして、セラミックス原料に、バインダとしてヒドロキシプロピルメチルセルロース、造孔材として吸水性樹脂を添加すると共に、水を添加して成形原料とした。そして、成形原料を真空土練機により混練し、円柱状の坏土を作製した。バインダの含有量は炭化珪素(SiC)粉末と金属珪素(Si)粉末の合計を100質量部としたときに7質量部とした。造孔材の含有量は炭化珪素(SiC)粉末と金属珪素(Si)粉末の合計を100質量部としたときに3質量部とした。水の含有量は炭化珪素(SiC)粉末と金属珪素(Si)粉末の合計を100質量部としたときに42質量部とした。炭化珪素粉末の平均粒子径は20μmであり、金属珪素粉末の平均粒子径は6μmであった。また、造孔材の平均粒子径は20μmであった。炭化珪素粉末、金属珪素粉末及び造孔材の平均粒子径は、レーザー回折法で粒度の頻度分布を測定したときの、体積基準による算術平均径を指す。
【0074】
(2.ハニカム乾燥体の作製)
得られた円柱状の坏土を碁盤目状の口金構造を有する押出成形機を用いて成形し、セルの延伸方向に垂直な断面における各セル形状が六角形である円柱状のハニカム成形体を得た。このハニカム成形体を高周波誘電加熱乾燥した後、熱風乾燥機を用いて120℃で2時間乾燥し、両底面を所定量切断して、ハニカム乾燥体を作製した。
【0075】
(3.電極層形成ペーストの調製)
金属珪素(Si)粉末、炭化珪素(SiC)粉末、メチルセルロース、グリセリン、及び水を、自転公転攪拌機で混合して、電極層形成ペーストを調製した。Si粉末、及びSiC粉末は体積比で、Si粉末:SiC粉末=40:60となるように配合した。また、Si粉末、及びSiC粉末の合計を100質量部としたときに、メチルセルロースは0.5質量部であり、グリセリンは10質量部であり、水は38質量部であった。金属珪素粉末の平均粒子径は6μmであった。炭化珪素粉末の平均粒子径は35μmであった。これらの平均粒子径はレーザー回折法で粒度の頻度分布を測定したときの、体積基準による算術平均径を指す。
【0076】
(4.電極層形成ペーストの塗布)
上記の電極層形成ペーストを上記のハニカム乾燥体の外周壁の外表面上に中心軸を挟んで対向するように、曲面印刷機によって二箇所塗布した。各塗布部は、ハニカム乾燥体の両底面間の全長に亘って帯状に形成した(角度θ=180°、中心角α=90°)。
【0077】
(5.焼成)
電極層形成ペースト付きハニカム構造体を120℃で乾燥した後、大気雰囲気において、550℃で3時間、脱脂した。次に、脱脂した電極層形成ペースト付きハニカム構造体を、焼成し、その後に酸化処理して、高さ65mm×直径80mmの円柱状のハニカム構造体を得た。焼成は、1450℃のアルゴン雰囲気中で2時間行った。その後、酸化処理は、800℃から表1に記載の最高温度までの平均昇温速度、酸化処理の最高温度、最高温度保持時間、最高温度から800℃までの平均冷却速度、及び酸化雰囲気の条件で行い、クリストバライトを含む酸化膜を生成させた。クリストバライトが生成したことは、隔壁サンプルをX線回折装置により分析することにより確認した。
【0078】
<実施例2>
酸化処理条件を表1に記載の条件に変えた以外は実施例1と同じ製造条件でハニカム構造体を作製した。
【0079】
<実施例3>
実施例1と比べて金属珪素(Si)粉末の質量割合を多くして坏土作製用のセラミックス原料を調製したこと、及び、酸化処理条件を表1に記載の条件に変えた以外は、実施例1と同じ製造条件でハニカム構造体を作製した。
【0080】
<実施例4>
実施例1と比べて炭化珪素(SiC)粉末の質量割合を多くして坏土作製用のセラミックス原料を調製したこと、及び、酸化処理条件を表1に記載の条件に変えた以外は、実施例1と同じ製造条件でハニカム構造体を作製した。
【0081】
<実施例5>
酸化処理条件を表1に記載の条件に変えた以外は、実施例1と同じ製造条件でハニカム構造体を作製した。
【0082】
<実施例6>
実施例1と比べて炭化珪素(SiC)粉末の質量割合を多くして坏土作製用のセラミックス原料を調製したこと、及び、酸化処理条件を表1に記載の条件に変えた以外は、実施例1と同じ製造条件でハニカム構造体を作製した。
【0083】
<比較例1~3>
酸化処理の条件を表1に記載の条件に変えた以外は実施例1と同じ製造条件でハニカム構造体を作製した。
【0084】
<比較例4~5>
炭化珪素(SiC)粉末と金属珪素(Si)粉末に加えてコージェライト粉末を更に添加し、これらを混合して坏土作製用のセラミックス原料を調製したこと、及び、酸化処理の条件を表1に記載の条件に変えた以外は、実施例1と同じ製造条件でハニカム構造体を作製した。セラミックス原料中にコージェライト粉末を添加した試験例については表1の「Cd含有」の欄に「有」と記載した。セラミックス原料中にコージェライト粉末を添加しなかった試験例については表1の「Cd含有」の欄に「無」と記載した。
【0085】
<特性評価>
上記の製造条件で得られたハニカム構造体について、下記の特性評価を実施した。なお、ハニカム構造体は特性評価に必要な数を用意した。
【0086】
(1.線膨張係数)
実施例及び比較例に係るハニカム構造体のハニカム構造部の径方向及び高さ方向の中心部から先述した方法でサンプルを採取し、40℃から300℃まで温度変化させたときのJIS R1618:2002に従って測定されるハニカム構造部の線膨張係数(CTEA(40-300℃))、及び、300℃から800℃まで温度変化させたときのJIS R1618:2002に従って測定されるハニカム構造部の線膨張係数(CTEB(300-800℃))を測定した。結果は表1に示す。
【0087】
(2.触媒か焼模擬試験)
触媒か焼時の加熱条件を模擬する試験を行った。具体的には、実施例及び比較例に係るハニカム構造体を、550℃の炉内温度の電気炉に20分間保持後、炉から出して15分自然冷却、冷却ファンにて室温まで下げる試験を行った。ハニカム構造体の側面及び端面におけるクラックの有無を目視で調査した。この模擬試験をそれぞれ5個のハニカム構造体に対して実施し、何処にもクラックが確認されなかったハニカム構造体の数を数えた。結果を表1に示す。
【0088】
(3.冷熱試験)
実施例及び比較例に係るハニカム構造体を、金属管と、当該金属管内に燃焼ガスを供給することができるプロパンガスバーナーとを備えたプロパンガスバーナー試験機を用いて、ハニカム構造体の冷熱試験を実施した。具体的には、内径87mmの金属管内への押し込みキャニングによって、ステンレス鋼製の金属管内に固定した。この際、金属管とハニカム構造体の間にはセラミックス(アルミナファイバー及びムライトファイバー等)製のマット(クッション材)を介在させた。なお、金属管内に固定されているハニカム構造体が金属管から受ける25℃における面圧は、ハニカム構造体の外径、金属管の内径、セラミックス製マットの面比重から、先述した方法により、0.1MPaと算出される。
次いで、プロパンガスバーナーでプロパンガスを燃焼させることにより発生する燃焼ガスを、金属管内に固定されたハニカム構造体の一方の端面から他方の端面に向かって流し、10分間でハニカム構造体の入口側の燃焼ガス温度を950℃まで上昇させ、当該温度で5分間保持し、その後、空気を流すことで3分間で150℃まで冷却し、150℃で10分間保持した。最後に室温まで放冷し、金属管からハニカム構造体を取り出した。取り出したハニカム構造体の側面及び端面におけるクラックの有無を目視で調査した。この冷熱試験をそれぞれ5個のハニカム構造体に対して実施し、何処にもクラックが確認されなかったハニカム構造体の数を数えた。結果を表1に示す。
【0089】
(4.HVT試験)
実施例及び比較例に係るハニカム構造体を、金属管と、当該金属管内に燃焼ガスを供給することができるプロパンガスバーナーとを備えたプロパンガスバーナー試験機を用いて、ハニカム構造体の冷熱試験を実施した。具体的には、内径87mmの金属管内への押し込みキャニングによって、ステンレス鋼製の金属管内に固定した。この際、金属管とハニカム構造体の間にはセラミックス(アルミナファイバー及びムライトファイバー等)製のマット(クッション材)を介在させた。金属管内に固定されているハニカム構造体が金属管から受ける25℃における面圧は、ハニカム構造体の外径、金属管の内径、セラミックス製マットの面比重から、先述した方法により、0.1MPaと算出される。
次いで、プロパンガスバーナーでプロパンガスを燃焼させることにより発生する燃焼ガスを、金属管内に固定されたハニカム構造体の一方の端面から他方の端面に向かって流し、10分間でハニカム構造体の入口側の燃焼ガス温度を900℃まで上昇させ、当該温度で5分間保持し、その後、空気を流すことで3分間で100℃まで冷却し、100℃で10分間保持した。上記一連の操作を1サイクルとして、96サイクル行った。また、燃焼ガスを流す際には同時に振動負荷装置により加速度40G、周波数150Hzの振動をハニカム構造体に対して付与した。最後に室温まで放冷し、試験前後でのハニカム構造体の金属管内での金属管の長さ方向における移動距離を測定した。結果を表1に示す。
【0090】
【0091】
(5.考察)
表1より、CTEA(40-300℃)及びCTEB(300-800℃)が適切化された実施例1~6のハニカム構造体は、金属管に収容されて温度変化を受ける際にクラックが発生し難いことが分かる。CTEA(40-300℃)及びCTEB(300-800℃)がより適切化された実施例1~4のハニカム構造体は、触媒か焼時のような比較的低温の温度変化を受ける際にもクラックが発生しにくいことも分かる。