(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149024
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】太陽電池モジュール
(51)【国際特許分類】
H01L 31/042 20140101AFI20231005BHJP
【FI】
H01L31/04 500
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022057345
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】田飼 伸匡
【テーマコード(参考)】
5F151
5F251
【Fターム(参考)】
5F151EA05
5F151JA03
5F151JA04
5F251EA05
5F251JA03
5F251JA04
(57)【要約】
【課題】本発明は、保護板への周囲の風景の映り込みを抑制することと、内部の視認性を低下させることとを両立させることができる太陽電池モジュールを提供する。
【解決手段】本発明に係る太陽電池モジュールは、太陽電池ストリングと、該太陽電池ストリングの光入射面側に重ねられた、透光性を有する保護板と、前記太陽電池ストリングと前記保護板との間に配され、かつ、前記保護板を透過した入射光の一部を減光または遮光する装飾層と、前記太陽電池ストリングを封止すべく、少なくとも前記太陽電池ストリングと前記保護板との間に配される封止材と、を備え、前記保護板の光入射面における60度光沢度が、20GU以上80GU以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽電池ストリングと、
該太陽電池ストリングの光入射面側に重ねられた、透光性を有する保護板と、
前記太陽電池ストリングと前記保護板との間に配され、かつ、前記保護板を透過した入射光の一部を減光または遮光する装飾層と、
前記太陽電池ストリングを封止すべく、少なくとも前記太陽電池ストリングと前記保護板との間に配される封止材と、を備え、
前記保護板の光入射面における60度光沢度が、20GU以上80GU以下である
太陽電池モジュール。
【請求項2】
前記保護板は、表面に塗膜が形成された塗装ガラスである
請求項1に記載の太陽電池モジュール。
【請求項3】
前記太陽電池ストリングは、受光により発電する複数の発電セルを有し、
前記複数の発電セルのそれぞれは、細長形状を有していて、互いにシングリング接続されている
請求項1または2に記載の太陽電池モジュール。
【請求項4】
壁面に設置して用いられる
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の太陽電池モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の発電セルが互いに接続されて構成された太陽電池ストリングと、該太陽電池ストリングの光入射面側に重ねられた、透光性を有する保護板(例えば、ガラス板など)と、前記太陽電池ストリングと前記保護板との間に配され、かつ、前記保護板を透過した光の一部を減光または遮光する装飾層と、前記太陽電池ストリングを封止すべく、少なくとも前記太陽電池ストリングと前記保護板との間に配される封止材と、を備える太陽電池モジュールが知られている。
【0003】
前記太陽電池ストリングには、該太陽電池ストリングによって太陽光エネルギーから変換された電気エネルギーを外部に取り出すための配線が接続されている。
そして、上記のような太陽電池モジュールにおいては、前記配線を隠すために上記のような装飾層が備えられている。
【0004】
ところで、太陽電池モジュールをビルなどの建築物の壁面に設置して用いた場合、透光性を有する保護板に周囲の風景が映り込むようになる。
そして、上記のような装飾層を備える太陽電池モジュールでは、前記装飾層と重なっている部分において、前記透光性を有する保護板に映り込む周囲の風景に歪みが生じ易くなる。
例えば、前記装飾層と重なっている部分において、前記透光性を有する保護板に波打った形状の電線が映り込むような場合には、その波打ち形状が大きく歪められた形で映り込むようになる。
このように、周囲の風景が歪んだ状態で前記透光性を有する保護板に映り込むことは、美観の点から好ましくない。
【0005】
このような保護板への周囲の風景の映り込みを抑制するために、下記特許文献1では、前記保護板の光入射面に凹凸を設けることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、前記太陽電池ストリングを構成する複数の発電セルは、必ずしも、同一の色調を有するものばかりではない。
このように、前記太陽電池ストリングが色調の異なる発電セルを含む場合には、前記太陽電池ストリングに色ムラが生じるようになる。
【0008】
ここで、上記のように透光性を有する保護板への周囲の風景の映り込みが抑制されると、保護板表面での鏡面反射が小さくなって、相対的に太陽電池モジュールの内部で反射した光が大きくなることにより、前記太陽電池モジュールの内部が視認可能となることがある。
このような場合には、前記太陽電池ストリングに上記のような色ムラが生じていることは、美感の点から好ましくない。
このように、透光性を有する保護板への周囲の風景の映り込みを抑制することと、太陽電池ストリングの内部の視認性を低下させることとは、トレードオフの関係にある。
【0009】
しかしながら、上記のトレードオフの関係を解消して、透光性を有する保護板への周囲の風景の映り込みを抑制することと、太陽電池モジュールの内部の視認性を低下させることとを両立させることについて、未だ十分な検討がなされているとは言い難い。
【0010】
そこで、本発明は、透光性を有する保護板への周囲の風景の映り込みを抑制することと、内部の視認性を低下させることとを両立させることができる、太陽電池モジュールを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らが鋭意検討したところ、上記のように構成される太陽電池モジュールにおいて、透光性を有する保護板の光入射面における60度光沢度を20GU以上80GU以下とすることにより、前記透光性を有する保護板への周囲の風景の映り込みを抑制することと、内部の視認性を低下させることとを両立できることを見出した。
そして、本発明を想到するに至った。
【0012】
すなわち、本発明に係る太陽電池モジュールは、
太陽電池ストリングと、
該太陽電池ストリングの光入射面側に重ねられた、透光性を有する保護板と、
前記太陽電池ストリングと前記保護板との間に配され、かつ、前記保護板を透過した入射光の一部を減光または遮光する装飾層と、
前記太陽電池ストリングを封止すべく、少なくとも前記太陽電池ストリングと前記保護板との間に配される封止材と、を備え、
前記保護板の光入射面における60度光沢度が、20GU以上80GU以下である。
【0013】
斯かる構成によれば、前記透光性を有する保護板への周囲の風景の映り込みを抑制することと、内部の視認性を低下させることとを両立させることができる。
【0014】
前記太陽電池モジュールにおいては、
前記保護板は、表面に塗膜が形成された塗装ガラスである、ことが好ましい。
【0015】
前記保護板として塗装ガラスを用いた場合には、前記装飾層が配されている領域における像の歪みがより大きくなり得るものの、前記保護板の光入射面における60度光沢度が、20GU以上80GU以下であることにより、前記装飾層が配されている領域においてより大きくなり得る像の歪みを視認者に視認し難くすることができる。
【0016】
前記太陽電池モジュールにおいては、
前記太陽電池ストリングは、受光により発電する複数の発電セルを有し、
前記複数の発電セルのそれぞれは、細長形状を有していて、互いにシングリング接続されている、ことが好ましい。
【0017】
複数の発電セルのそれぞれが互いにシングリング接続されて前記太陽電池ストリングが構成されている第1態様では、複数の発電セルどうしが配線を介して接続されて前記太陽電池ストリングが構成されている第2態様と比べて、隣り合う発電セルがより近い位置関係となる。
そのため、第1態様に係る太陽電池ストリングにおいては、発電セルの色調が異なることに起因する色ムラがより目立つようになる。
しかしながら、前記透光性を有する保護板の光入射面における60度光沢度が20GU以上80GU以下となっていれば、太陽電池モジュールの内部の視認性を低下させることができるので、太陽電池ストリングが上記のような第1態様として構成される場合であっても、発電セルの色調が異なることによる色ムラが目立つことを十分に抑制することができる。
【0018】
前記太陽電池モジュールにおいては、
壁面に設置して用いられる、ことが好ましい。
【0019】
太陽電池モジュールを壁面に設置した場合には、前記透光性を有する保護板側から前記太陽電池モジュールの内部を視認し易くなるものの、前記透光性を有する保護板の光入射面における60度光沢度が20GU以上80GU以下となっていれば、前記太陽電池モジュールの内部の視認性を低下させることができる。
そのため、内部の視認性を低下させた状態で、前記太陽電池モジュールを壁面に設置することができる。
また、前記透光性を有する保護板の光入射面における60度光沢度が20GU以上80GU以下であることにより、前記透光性を有する保護板への周囲の風景の映り込みを抑制することができるので、壁面に太陽電池モジュールを設置した場合おいて、前記装飾層が配されている部分に映り込む周囲の風景に歪みが生じていたとしても、その歪みを目立たなくすることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、透光性を有する保護板への周囲の風景の映り込みを抑制することと、内部の視認性を低下させることとを両立させることができる太陽電池モジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態に係る太陽電池モジュールを模式的に示した平面図。
【
図2】
図1のII-II位置における模式的な断面図。
【
図3A】装飾層を備える太陽電池モジュールにおいて、透光性の保護板に映り込む周囲の風景に歪みが生じるメカニズムを説明するための断面図。
【
図3B】装飾層を備える太陽電池モジュールにおいて、透光性の保護板に映り込む周囲の風景に歪みが生じるメカニズムを説明するための断面図。
【
図4A】装飾層を備るとともに、60度光沢度が80GUを超える透光性の保護板を備える太陽電池モジュールを建築物の窓枠内に取り付けた状態において、透光性を有する保護板に周囲の風景が映り込んだ様子を示す一例。
【
図4B】本発明の一実施形態に係る太陽電池モジュールを建築物の窓枠内に取り付けた状態において、透光性を有する保護板に風景が映り込んだ様子を示す一例。
【
図5A】60度光沢度が150GUのフロートガラス、及び、60度光沢度が5.8GUの防眩ガラスにおいて、周囲の風景の映り方の違いを説明するための図。
【
図5B】60度光沢度が150GUのフロートガラス、及び、60度光沢度が90GUの平滑面を有する型板ガラスにおいて、周囲の風景の映り方の違いを説明するための図。
【
図5C】60度光沢度が150GUのフロートガラス、及び、60度光沢度が41.4GUのエンボス面を有する型枠ガラスにおいて、周囲の風景の映り方の違いを説明するための図。
【
図6A】60度光沢度が30GUの透光性を有する保護板を備える太陽電池モジュールにおいて、内部の視認性を説明するための図。
【
図6B】60度光沢度が5GU程度の透光性を有する保護板を備える太陽電池モジュールにおいて、内部の視認性を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態について説明する。
なお、以下では、本発明の一実施形態を、単に、本実施形態と称することがある。
【0023】
[太陽電池モジュール]
図1及び2に示したように、本実施形態に係る太陽電池モジュール10は、太陽電池ストリング1と、太陽電池ストリング1の光入射面側に重ねられた、透光性を有する第1の保護板2と、太陽電池ストリング1と透光性を有する第1の保護板2との間に配され、かつ、透光性を有する第1の保護板2を透過した光の一部を減光または遮光する装飾層3と、太陽電池ストリング1を封止すべく、少なくとも太陽電池ストリング1と透光性を有する第1の保護板2との間に配される封止材4と、を備える。
本実施形態に係る太陽電池モジュール10は、
図2に示したように、太陽電池ストリング1の光入射面と反対側に重ねられた第2の保護板5をさらに備える。
本実施形態に係る太陽電池モジュール10では、
図2に示したように、太陽電池ストリング1と第2の保護板5との間にも、封止材4が配されている。
なお、本実施形態に係る太陽電池モジュール10では、封止材4は封止層として構成されている。
本実施形態に係る太陽電池モジュール10では、透光性を有する第1の保護板2の光入射面における60度光沢度が、20GU以上80GU以下である。
なお、以下では、透光性を有する第1の保護板2を、単に、第1の保護板2と称することがある。
【0024】
本実施形態に係る太陽電池モジュール10では、第1の保護板2の光入射面における60度光沢度は、25GU以上であることが好ましく、30GU以上であることがより好ましい。
また、第1の保護板2の光入射面における60度光沢度は、70Gu以下であることが好ましく、60Gu以下であることがより好ましく、50GU以下であることがさらに好ましい。
第1の保護板2の光入射面における60度光沢度は、光沢計(日本電飾社製のハンディ型光沢計PG-II)を用いて測定することができる。
なお、60度光沢度の測定は、JIS Z 8741 鏡面光沢度-測定方法の60度鏡面光沢に従う。
【0025】
ここで、本実施形態に係る太陽電池モジュール10のように、太陽電池ストリング1と第1の保護板2との間に装飾層3が配されている態様においては、
図3Aに示したように、装飾層3が配されている領域においては、太陽光の反射経路として、第1の保護板2の表面側での反射経路Aと装飾層3の表面側(第1の保護板2の裏面側)での反射経路Bとが存在する。
また、装飾層3が配されていない領域においては、太陽光の反射経路として、反射経路A及び反射経路Bに加えて、太陽電池ストリング1の表面側での反射経路Cが存在する。
そして、装飾層3が配されている領域においては、反射経路Aを経由した反射光Aと反射経路Bを経由した反射光Bとが干渉し合うようになり、装飾層3が配されていない領域においては、反射光A及び反射光Bに加えて、反射経路Cを経由した反射光Cも干渉し合うようになる。
また、装飾層3が配されている領域においては、反射光Bは、装飾層3の表面で反射された反射光であるの対し、装飾層3が配されていない領域においては、反射光Bは、封止材4の表面で反射された反射光であることから、これらの反射光は、光の強度が異なっていると考えられる。
これらにより、装飾層3が配されている領域と装飾層3が配されていない領域とでは、反射光の干渉のされ方が大きく異なっていると考えられる。
そのため、第1の保護板2において、装飾層3が配されている領域に映し出される像と装飾層3が配されていない領域に映し出される像とは、見え方が大きく異なるようになって、装飾層3が配されている領域では、装飾層3が配されていない領域に比べて、像の歪みが大きくなると考えられる(
図4A参照)。
しかしながら、本実施形態に係る太陽電池モジュール10においては、第1の保護板2の光入射面における60度光沢度が、20GU以上80GU以下となっているため、第1の保護板2に映し出される像を、視認者が視認し難くなっている。
そのため、装飾層3が配されている領域において、装飾層3が配されていない領域に比べて映し出される像の歪みが大きくなった場合であっても、装飾層3が配されている領域における像の歪みを視認し難くすることができる(
図4B)。
なお、
図4A及び
図4Bは、本実施形態に係る太陽電池モジュール10を建築物の窓枠20内に設置した状態を示しており、第1の保護板2には周囲の風景として電線が写し出されている。
【0026】
また、本実施形態に係る太陽電池モジュール10においては、第1の保護板2の光入射面における60度光沢度を20GU以上80GU以下という適度の範囲としているので、第1の保護板2の光入射面において、太陽光を適度に散乱などさせることができる。
これにより、太陽電池モジュール10の内部の視認性を低下させることができる。
なお、第1の保護板2の光入射面の60度光沢度の値は、前記光入射面にエンボス加工などを施して、前記光入射面が適切な表面粗さを有するものとなるようするなどして調整することができる。
前記エンボス加工は、ロールアウト法で前記光入射面にエンボス模様を形成するなどして実施できる。
また、60度光沢度の値は、前記光入射面をサンドブラスト加工で部分的に掘削して前記光入射面に凹凸を形成することにより調整してもよいし、薬液によるエッチング処理を施して前記光入射面に凹凸を形成することにより調整してもよいし、前記光入射面に中空シリカなどの光拡散物質を含有させた透明膜をコーティングすることにより調整してもよい。
【0027】
本実施形態に係る太陽電池モジュール10では、
図2に示したように、第1の保護板2と第2の保護板5とは、平面視において略同一寸法を有しており、外周端縁が略一致するように互いに対面して配されている。
なお、本実施形態に係る太陽電池モジュール10では、
図2に示したように、封止層として構成される封止材4は、平面視において、第1の保護板2及び第2の保護板5と略同一寸法を有している。
本実施形態に係る太陽電池モジュール10では、
図2に示したように、封止層として構成される封止材4の一方面側に第1の保護板2が積層され、封止層として構成される封止材4の他方面側に第2の保護板5が積層されている。
すなわち、本実施形態に係る太陽電池モジュール10では、
図2に示したように、第1の保護板2、封止材4、及び、第2の保護板5は積層体を形成している。
さらに、本実施形態に係る太陽電池モジュール10は、第1の保護板2、封止材4、及び、第2の保護板5の積層体の外周端部を覆った状態で、前記積層体を保持する枠部6を備える。
【0028】
本実施形態に係る太陽電池モジュール10では、
図2に示したように、装飾層3は、太陽電池ストリング1と重ならずに配されていることが好ましい。
すなわち、装飾層3は、太陽電池ストリング1の外周端縁よりも外側に配されていることが好ましい。
装飾層3がこのように配されることにより、太陽電池ストリング1の全体に太陽光を十分に照射させることができる。
これにより、太陽電池ストリング1における発電量が小さくなることを抑制できる。
【0029】
本実施形態に係る太陽電池モジュール10は、平面視において、通常、矩形状をなしている。
本実施形態に係る太陽電池モジュール10は、第1の保護板2側から太陽光が照射されるように、家屋などの建築物の屋根やビルなどの建築物の窓枠内などに取り付けられる。
すなわち、本実施形態に係る太陽電池モジュール10は、第1の保護板2が太陽光の照射側に向くように、家屋などの建築物の屋根やビルなどの建築物の窓枠内(すなわち、建築物の壁)などに取り付けられる。
【0030】
特に、本実施形態に係る太陽電池モジュール10がビルなどの建築物の窓枠内などに取り付けられる場合、すなわち、建築物の壁に取り付けられる場合には、太陽電池モジュール10は、通行人や建築物への来客などの不特定多数の目に曝されるようになる。
より詳しくは、太陽電池モジュール10を建築物の屋根に設置した場合には、太陽電池モジュール10が設置される建築物よりも高層の建築物からしか太陽電池モジュール10を視認できないのに対し、建築物の壁などに取り付けられる場合は、通行人や来客など不特定多数から太陽電池モジュール10が視認可能となる。
また、太陽電池モジュール10が建築物の低層階の壁などに取り付けられる場合においては、通行人や来客などは、近距離で太陽電池モジュール10を視認可能となる。
そのため、第1の保護板2が上記のごとき特性を備えていない場合、すなわち、光入射面における60度光沢度が20GU以上80GU以下であるという特性を備えていない場合には、装飾層3が配されている部分において、第1の保護板2に映し出される周囲の風景には歪みが生じるようになって、これが通行人や来客などに視認可能になったり、太陽電池モジュール10の内部が通行人や来客などに視認可能になったりする。
第1の保護板2に映し出される周囲の風景に歪みが生じ、これが通行人や来客などが視認可能となることは、美観の点から好ましくない。
また、太陽電池モジュール10の内部が視認可能となるような場合において、後述する太陽電池ストリング1を構成する複数の発電セル1aどうしの色調が異なると、発電セル1aの色調が異なることが原因となる太陽電池ストリング1の色ムラが目立つようになるので、このような事態が生じることは、美感の点から好ましくない。
しかしながら、本実施形態に係る太陽電池モジュール10では、第1の保護板2として、光入射面における60度光沢度が20GU以上80GU以下のものが備えられているので、上記のような美観や美感の問題が生じることを抑制できる。
なお、太陽電池モジュール10は建築物の外観そのものとなるので、建築物に設置された太陽電池モジュール10における美観や美観の問題がその建築物の外観に及ぼす影響は甚大である。
【0031】
本実施形態に係る太陽電池モジュール10では、太陽電池ストリング1は、受光により発電する複数の発電セル1aを備える。
本実施形態に係る太陽電池モジュール10では、複数の発電セル1aのそれぞれは、平面視において、長手方向と該長手方向に直交する短手方向とを備える細長形状、より詳しくは、細長の矩形状を有している。
本実施形態に係る太陽電池モジュール10では、複数の発電セル1aのそれぞれは、互いにシングリング接続されている。
すなわち、本実施形態に係る太陽電池モジュール10では、複数の発電セル1aのそれぞれが互いにシングリング接続されて、太陽電池ストリング1を構成している。
シングリング接続とは、細長形状を有する複数の発電セルを、各発電セルの長辺どうしが重なるように接続しながら順次配していくことである。
【0032】
このように、複数の発電セル1aのそれぞれがシングリング接続されて構成された太陽電池ストリング1では、配線を介して複数の発電セル1aのそれぞれを接続させる方式と比べて、隣り合う発電セル1aがより近い位置関係となる。
より詳しくは、複数の発電セル1aのそれぞれがシングシング接続される形式では、隣り合う発電セル1aどうしは、隙間なく連続的に接続されるようになっている。
ここで、太陽電池ストリング1を構成する複数の発電セル1aは、必ずしも、同一の色調を有するものではないことから、上記のように、複数の発電セル1aのそれぞれがシングリング接続されて構成された太陽電池ストリング1では、隣り合う発電セル1aどうしの色調が異なることに起因する色ムラがより目立つようになる。
例えば、太陽電池ストリング1の視認者(上記した、通行人や来客など)は、無意識のうちに、太陽電池ストリング1は全体として同一の色調を有していると思って、換言すれば、隣り合う発電セル1aどうしが連続的に同一の色調を有していると思って、太陽電池ストリング1を視認するものの、実際に視認された太陽電池ストリング1が全体として同一の色調を有していない場合、換言すれば、隣り合う発電セル1aどうしの色調が異なっており、色調が不連続の場合には、強い違和感を覚えるようになる。
しかしながら、本実施形態に係る太陽電池モジュール10では、第1の保護板2の光入射面における60度光沢度が、20GU以上80GU以下であるので、太陽電池モジュール10の内部の視認性が十分に低下されている。
そのため、上記のように、太陽電池ストリング1が、複数の発電セル1aのそれぞれがシングリング接続されて構成されたものであったとしても、隣り合う発電セル1aどうしの色調が異なることに起因する色ムラが目立つことを十分に抑制することができる。
【0033】
なお、太陽電池ストリング1を構成する複数の発電セル1aの色調が異なることがある理由としては、以下のようなものが挙げられる。
・発電セル1aの光入射面には、通常、反射防止膜などの薄膜が形成されているが、前記薄膜の膜厚は発電セル1aごとに異なる。すなわち、発電セル1aどうしで前記薄膜の膜厚に差が生じる。
そして、このように膜厚に差が生じると、膜厚によって打ち消される光の波長が異なるようになって、発電セル1aどうしが異なった色調で視認されるようになる。
上記のように、薄膜の膜厚の差が原因となって、発電セル1aどうしが異なった色調で視認されるようになることを抑制するために、光入射面への薄膜形成後に、視認される色調ごとに発電セル1aを分別したり、数多くの発電セル1aを一度に薄膜形成するために製膜装置を大型化したりすることなどが考えられるが、これらは、いずれもコストアップにつながることから好ましくない。
【0034】
第1の保護板2は、例えば、ガラス板である。
第1の保護板2の厚みは、例えば、2mm以上8mm以下である。
【0035】
第1の保護板2は、表面に塗膜が形成された塗装ガラスであってもよい。
塗装ガラスは、
図3Bに示したように、ガラス本体2aと該ガラス本体2aの少なくとも一方面に配される塗膜2bとを備えている。
そして、第1の保護板2として塗装ガラスを用いた場合には、反射経路A~Cに加えて、塗膜2bの表面での反射経路A’が新たに存在するようになる(
図3B参照)。
すなわち、装飾層3が配されている領域においては、反射光A及び反射光Bに加えて、反射経路A’を経由した反射光A’も干渉に寄与するようになり、装飾層3が配されていない領域においては、反射光A、反射光B、及び、反射光Cに加えて、反射光A’も干渉に寄与するようになると考えられる。
そのため、装飾層3が配されている領域と装飾層3が配されていない領域とでは、干渉状態の違いがより大きくなると考えられることから、装飾層3が配されている領域における像の歪みはより大きくなると考えられる。
しかしながら、本実施形態に係る太陽電池モジュール10では、第1の保護板2の光入射面における60度光沢度が、20GU以上80GU以下となっているので、第1の保護板2として塗装ガラスを用いた場合に、装飾層3が配されている領域において像の歪みがより大きくなったとしても、その大きくなった像の歪みを視認者に視認し難くすることができる。
【0036】
上で説明したように、本実施形態に係る太陽電池モジュール10では、封止材4は封止層として構成されており、第1の保護板2と太陽電池ストリング1との間に配されるとともに、第2の保護板5と太陽電池ストリング1との間にも配されて、太陽電池ストリング1の全体を覆っている。
すなわち、本実施形態に係る太陽電池モジュール10では、太陽電池ストリング1は、その全体が封止材4によって覆われる形で封止されている。
封止材4は、樹脂で構成されていることが好ましい。
封止材4を樹脂で構成することにより、封止層として構成された封止材4の一方面を第1の保護板2に好適に密着させることができるとともに、封止層として構成された封止材4の他方面を第2の保護板5に好適に密着させることができる。
【0037】
封止材4による太陽電池ストリング1の封止は、2枚の樹脂シートで太陽電池ストリング1を一方面側(表面側)及び他方面側(裏面側)から挟み込んだ状態とした後、これら2枚の樹脂シートを外方からプレスすることにより実施することができる。
すなわち、封止材4は、2枚の樹脂シートをプレスすることによって構成されたものであってもよい。
上で説明したように、本実施形態に係る太陽電池モジュール10では、太陽電池ストリング1は、複数の発電セル1aを接続することにより構成されている。
そのため、2枚の樹脂シートで挟み込んだ状態とした後、これらの2枚の樹脂シートを外方からプレスして太陽電池ストリング1を封止するときに、前記樹脂シートの弾性が乏しいと、太陽電池ストリング1において複数の発電セル1aの接続部分に破損が生じてしまう虞がある。
このような点を考慮すると、前記樹脂シートは、適度な弾性を有するものであることが好ましい。
このような適度な弾性を有する樹脂シートとしては、例えば、ポリオレフィンエラストマー樹脂によって形成された樹脂シートなどが挙げられる。
【0038】
装飾層3は、例えば、太陽電池ストリング1の周囲に配された配線(電気配線)を隠すなどして、太陽電池モジュール10の美感を整えるために備えられている。
前記配線は、例えば、太陽電池ストリング1によって太陽エネルギーから変換された電気エネルギーを外部に取り出すためなどに配されている。
なお、
図1及び2などにおいては、前記配線の図示は省略している。
【0039】
本実施形態に係る太陽電池モジュール10においては、装飾層3は、第1の保護板2の光入射面と反対面に形成された塗膜である。
前記塗膜は、樹脂組成物を第1の保護板2の光入射面と反対面に塗布した後乾燥させることにより形成することができる。
このように、装飾層3が第1の保護板2の光入射面と反対面に形成されていることにより、装飾層3が第1の保護板2の光入射面に形成されている場合と比べて、経年によって塗膜の剥離が生じることを抑制し易くなる。
装飾層3が塗膜である場合、該塗膜の厚みは5μm以上50μm以下であることが好ましい。
前記塗膜は、例えば、セラミック印刷により形成することができる。
【0040】
装飾層3は、第1の保護板2を透過した入射光の一部の領域で遮光(遮蔽)したり、前記入射光のうちある程度の光を透過したりする。
すなわち、装飾層3では、第1の保護板2を透過した入射光の一部が遮光されたり、前記入射光の一部が減光されたりする。
【0041】
太陽電池ストリング1の周囲に配された配線(電気配線)を隠すとともに、内部を視認した際に目立ち難くする観点から、装飾層3は、暗色を呈していることが好ましく、暗色の中でも黒色を呈していることがより好ましい。
装飾層3を形成するための樹脂組成物に暗色を呈する顔料などを含有させておくことにより、装飾層3は暗色を呈するものとなる。
暗色を呈する顔料としては、例えば、カーボンブラックなどが挙げられる。
【0042】
装飾層3は、例えば、第1の保護板2の光入射面と反対面において所定範囲を塗りつぶすことにより(べた塗りすることにより)形成される塗膜である。
装飾層3は、第1の保護板2の光入射面と反対面において複数の遮光領域と複数の透光領域とを隣接して形成することにより、遮光領域と透光領域との組み合わせで厚み方向における減光や遮光がなされる塗膜であってもよい。
具体的には、装飾層3は、第1の保護板2の光入射面と反対面において所定範囲をドット状や網状などに塗った塗膜であってもよい。
装飾層3は、第1の保護板2の光入射面と反対面に貼り合わせることが可能な黒色や他の色の遮光フィルムなどであってもよい。
なお、装飾層3は、封止材4において、太陽電池ストリング1の外周端縁よりも外側の領域を黒色などに着色することにより形成されてもよい。
例えば、封止材4が、上記のように2枚の樹脂シートによって構成される場合には、2枚の樹脂シートのうち、第1の保護板2側に配される樹脂シートにおいて、太陽電池ストリング1の外周端縁よりも外側に相当する部分を黒色に着色しておき、この一部が黒色に着色された樹脂シートと黒色に着色されていない樹脂シートとで、太陽電池ストリング1を一方面側(表面側)および他方面側(裏面側)から挟み込んだ状態とした後、これら2枚の樹脂シートを外方からプレスすることにより、封止材4に備えさせた状態で、太陽電池ストリング1の外周端縁よりも外側に装飾層3を設けることができる。
【0043】
なお、装飾層3は、第1の保護板2、封止材4、及び、第2の保護板5の積層体の外周端部を覆った状態で前記積層体を保持する枠部6とは、別部材である。
【0044】
第2の保護板5は、例えば、第1の保護板2と同様に、ガラス板である。
第2の保護板5の厚みは、例えば、第1の保護板2と同様に、2mm以上8mm以下である。
【0045】
上記したように、枠部6は、第1の保護板2、封止材4、及び、第2の保護板5の積層体の外周端部を覆った状態で、前記積層体を保持する。
枠部6は、前記積層体の外周端部を覆うべく、第1の保護板2、封止材4、及び、第2の保護板5よりも一回り大きな平面寸法を有している。
すなわち、枠部6の外周端縁は、第1の保護板2、封止材4、及び、第2の保護板5の外周端縁よりも外側に位置している。
また、枠部6は、前記積層体の外周端部を覆うべく、前記積層体よりも高く構成されている。
さらに、
図2に示したように、枠部6は、前記積層体を保持すべく、前記積層体を篏入可能な篏入部6aを備えている。
枠部6によって前記積層体を保持した状態で太陽電池モジュール10を構成することにより、枠部6によって前記積層体を保持させない状態で構成された太陽電池モジュール10と比べて、機械的強度を向上させることができる。
枠部6によって前記積層体を保持させておくことにより、太陽電池モジュール10に寸法変動が生じることを抑制できる。
すなわち、太陽電池モジュール10を一定の形態に整えた状態で維持することができる。
【0046】
なお、本発明に係る太陽電池モジュールは、前記実施形態によって限定されるものではない。
また、本発明に係る太陽電池モジュールは、前記した作用効果によって限定されるものでもない。
本発明に係る太陽電池モジュールは、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【実施例0047】
次に、実施例を挙げて本発明についてさらに説明する。以下の実施例は本発明をさらに詳しく説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0048】
(像の視認性)
60度光沢度が異なる4種のガラスを用いて、これらのガラスの表面に像がどのように映し出されるか、すなわち、像の視認性について調べた。
4種のガラスとしては、以下のものを用いた。
(1)60度光沢度が150GUであるフロートガラス
(2)60度光沢度が6GUである防眩ガラス
(3)60度光沢度が90GUである平滑面を有する型板ガラス
(4)60度光沢度が41GUであるエンボス面を有する型板ガラス
像の視認性は、天井に複数の蛍光灯が配された室内の床に上記4種のガラスを配し、該4種のガラスの表面に、蛍光灯がどのような像として映し出されるかを調べることにより実施した。
4種のガラス表面に蛍光灯が像として映し出された状態を撮像した写真を、以下の
図5A~5Cに示した。
なお、
図5Aは、上記(1)のフロートガラス表面に映し出される蛍光灯の像と上記(2)の防眩ガラス表面に映し出される蛍光灯の像とを対比させる形で撮像した写真であり、
図5Bは、上記(1)のフロートガラス表面に映し出される蛍光灯の像と上記(3)の平滑面を有する型板ガラス表面に映し出される蛍光灯の像とを対比させる形で撮像した写真であり、
図5Cは、上記(1)のフロートガラス表面に映し出される蛍光灯の像と上記(4)のエンボス面を有する型板ガラス表面に映し出される蛍光灯の像とを対比させる形で撮像した写真である。
【0049】
図5Aから、60度光沢度が150GUのフロートガラス表面には、明瞭に視認できる状態で蛍光灯の像が映し出されており、60度光沢度が6GUの防眩ガラス表面には、視認できる程度には蛍光灯の像は映し出されていないことが分かる。
また、
図5Bから、60度光沢度が90GUの平滑面を有する型板ガラス表面には、ややぼやけた状態で蛍光灯の像が映し出されていることが分かる。
さらに、
図5Cから、60度光沢度が41GUのエンボス面を有する型板ガラス表面には、かなりぼやけた状態で蛍光灯の像が映し出されていることが分かる。
この結果から、透光性を有する保護板の光入射面における60度光沢度を80GU以下とすることにより、前記透光性を有する保護板の光入射面に映し出される像を十分にぼやかすことができることが分かる。
【0050】
(太陽電池モジュールの内部視認性)
保護板として60度光沢度が30GUのガラス板を用いて構成された太陽電池モジュールと、保護板として60度光沢が5GUのガラス板を用いて構成された太陽電池モジュールを、それぞれ、建築物の屋根に設置して、保護板の表面側から太陽電池モジュールの内部がどのような状態で視認されるかについて調べた。
なお、上記2種の太陽電池モジュールでは、太陽電池ストリングを色調の異なる複数の発電セルを用いて構成しており、発電セルどうしはシングリング接続されていた。
各太陽電池モジュールの内部がどのような状態で視認されるかを撮像した写真を、以下の
図6A及び
図6Bに示した。
なお、
図6Aは、保護板として60度光沢度が30GUのガラス板を用いて構成された太陽電池モジュールを保護板側から撮像した写真であり、
図6Bは、保護板として60度光沢度が5GUのガラス板を用いて構成された太陽電池モジュールを保護板側から撮像した写真である。
【0051】
図6Aに示した、保護板として60度光沢度が30GUのガラス板を用いて構成された太陽電池モジュールでは、太陽電池ストリングに色ムラが生じていることが視認し難くなっていた。
一方で、
図6Bに示した、保護板として60度光沢度が5GUのガラス板を用いて構成された太陽電池モジュールでは、太陽電池ストリングに色ムラが生じていることが明瞭に視認できた。
この結果から、透光性を有する保護板の光入射面における60度光沢度を20GU以上とすることにより、前記太陽電池モジュールの内部の視認性を十分に低下できることが分かる。