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特開2023-149026排水性に優れたアルミニウム部材、熱交換器用フィン、チューブ、ヘッダタンク及び熱交換器
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  • 特開-排水性に優れたアルミニウム部材、熱交換器用フィン、チューブ、ヘッダタンク及び熱交換器 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149026
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】排水性に優れたアルミニウム部材、熱交換器用フィン、チューブ、ヘッダタンク及び熱交換器
(51)【国際特許分類】
   F28F 13/18 20060101AFI20231005BHJP
   C03C 8/16 20060101ALI20231005BHJP
   C22C 21/00 20060101ALN20231005BHJP
   B23K 35/363 20060101ALN20231005BHJP
   C09D 1/00 20060101ALN20231005BHJP
【FI】
F28F13/18 B
C03C8/16
C22C21/00 J
B23K35/363 H
C09D1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022057351
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】522160125
【氏名又は名称】MAアルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】兵庫 靖憲
(72)【発明者】
【氏名】古村 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】中村 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】植杉 隆二
【テーマコード(参考)】
4G062
4J038
【Fターム(参考)】
4G062AA09
4G062BB01
4G062BB07
4G062BB08
4G062BB09
4G062BB12
4G062DA01
4G062DA02
4G062DA03
4G062DA04
4G062DA05
4G062DA06
4G062DA10
4G062DB01
4G062DC01
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4G062DC04
4G062DC05
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4G062DD01
4G062DD02
4G062DD03
4G062DD04
4G062DD05
4G062DD06
4G062DD07
4G062DE01
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4G062FF04
4G062FF05
4G062FF06
4G062FF07
4G062FG01
4G062FH01
4G062FJ01
4G062FK01
4G062FL01
4G062GA01
4G062GA02
4G062GA03
4G062GA04
4G062GA05
4G062GA06
4G062GA07
4G062GA10
4G062GB01
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4G062GE01
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4G062HH11
4G062HH13
4G062HH15
4G062HH17
4G062HH20
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4G062JJ10
4G062KK01
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4G062KK07
4G062KK10
4G062MM06
4G062NN31
4G062NN40
4J038AA011
4J038CG122
4J038HA386
4J038HA471
4J038HA481
4J038KA06
4J038KA08
4J038MA08
4J038NA06
4J038NA27
4J038PB06
4J038PC02
(57)【要約】
【課題】本発明は、排水性に優れるアルミニウム部材、熱交換器用フィン、チューブ、ヘッダータンク及び熱交換器の提供を目的とする。
【解決手段】本発明のアルミニウム部材は、表面にSiO含有量60%以下のガラス系の親水性無機皮膜が複数点在されており、その数密度が2000個/mm以上であることを特徴とする。本発明のアルミニウム部材は、前記親水性無機皮膜による前記表面の被覆率が0.5%以上70%以下であることが好ましい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にSiO含有量60%以下のガラス系の親水性無機皮膜が複数点在されており、その数密度が2000個/mm以上であることを特徴とする排水性に優れたアルミニウム部材。
【請求項2】
前記親水性無機皮膜による前記表面の被覆率が0.5%以上70%以下であることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム部材。
【請求項3】
前記親水性無機皮膜を含めた前記表面の比表面積が0.018m/g未満であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の排水性に優れたアルミニウム部材。
【請求項4】
前記親水性無機皮膜に含まれるガラス成分として、ホウ酸系ガラス、リン酸系ガラス、バナジウム酸系ガラス、ビスマス系ガラス、ホウ酸系着色ガラス、リン酸系着色ガラス、バナジウム酸系着色ガラス、及びビスマス系着色ガラスの内、1種類もしくは2種類以上を含むことを特徴とする請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の排水性に優れたアルミニウム部材。
【請求項5】
親水性付与成分として、酸化ホウ素、酸化アルミニウムの1種類もしくは2種類が前記表面に存在することを特徴とする請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の排水性に優れたアルミニウム部材。
【請求項6】
金属元素または希土類元素として、銅、ニッケル、鉄、コバルト、マンガン、クロム、セリウム、プラセオシウム、ネオジウム、サマリウム、ユーロピウム、エルビウムの内、1種類もしくは2種類以上を前記親水性無機皮膜の着色ガラス成分として含むことを特徴とする請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の排水性に優れたアルミニウム部材。
【請求項7】
抗菌性を有する無機粉末として、亜鉛系無機抗菌粉末、銀系無機抗菌粉末もしくは亜鉛と銀を両方含む無機抗菌粉末、及び銅系無機抗菌粉末の内、1種類もしくは2種類以上を前記表面に有することを特徴とする請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の排水性に優れたアルミニウム部材。
【請求項8】
請求項1~請求項7のいずれか一項に記載された排水性に優れるアルミニウム部材からなる熱交換器用フィン。
【請求項9】
請求項1~請求項7のいずれか一項に記載された排水性に優れるアルミニウム部材からなる熱交換器用チューブ。
【請求項10】
請求項1~請求項7のいずれか一項に記載された排水性に優れるアルミニウム部材からなる熱交換器用ヘッダタンク。
【請求項11】
請求項1~請求項7のいずれか一項に記載された排水性に優れるアルミニウム部材が適用された熱交換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水性に優れたアルミニウム部材、熱交換器用フィン、チューブ、ヘッダタンク及び熱交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
エアコンなどの熱交換器は、フィンに結露水が付着し通風抵抗が増すと熱交性能が低下する。そのため、熱交換を行うフィンには結露水を素早く排除するための排水性が必要であり、長期間使用してもその排水性が低下しないことが求められる。
また、それ以外にも耐臭気性や耐抗菌性、意匠性のための着色付与が要求される。これらの特性は現状の熱交換器では有機系皮膜をフィンに施し得ているが、長期間使用していると結露と乾燥の繰り返し等により有機系皮膜が劣化し、それらの特性が低下する問題があった。
【0003】
例えば、以下の特許文献1には、Siを1~5質量%含有するアルミニウム合金板の表面に塗膜を有し、塗膜中のSi量が1~300mg/mであるプレコートフィンが開示されている。この塗膜には、珪酸リチウム等のケイ酸塩と非晶質シリカの少なくとも一方が含有され、さらに、フッ化物フラックスが含まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-044694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、銅とアルミニウムからなる熱交換器ではアルミニウム合金フィン表面の親水性向上のため、一般には有機系塗料を予めフィンに塗装したプレコートフィンが用いられている。
一方、アルミニウムのみからなる熱交換器では部材接合のため、約600℃に加熱するろう付熱処理を行う必要がある。ところが、有機系塗料からなる親水性皮膜を用いると、ろう付熱処理において親水性皮膜が変質もしくは分解してしまい、ろう付後に充分な親水性が維持できないという問題があった。
【0006】
また、有機系塗料の代わりに水ガラスを含む無機系塗料を予めアルミニウムフィンの表面に塗布し、皮膜を形成することにより、ろう付熱処理後においてもフィン表面の親水性を維持することが可能となる。しかし、上記皮膜では、においの元となる物質や細菌、微生物等が吸着するために、エアコン使用中の臭い物質の脱離や細菌、微生物が増殖することにより、臭気や異臭が発生するという問題がある。更に、水ガラスは60%を超える量のSiOを含むが、SiOを多く含む水ガラスはろう付加熱時にフラックスと反応して変色し、アルミニウムが本来有する金属光沢を損なう問題がある。
【0007】
本願発明は、ろう付熱処理などの熱処理が施された後に使用される熱交部材や熱交換器に適用し好適であり、良好な排水性を有するアルミニウム部材、フィン、チューブ、ヘッダタンクと熱交換器の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明に係る排水性に優れたアルミニウム部材は、表面にSiO含有量60%以下のガラス系の親水性無機皮膜が複数点在されており、その数密度が2000個/mm以上であることを特徴とする。
(2)本発明に係る排水性に優れたアルミニウム部材において、前記親水性無機皮膜による前記表面の被覆率が0.5%以上70%以下であることが好ましい。
(3)本発明に係る排水性に優れたアルミニウム部材において、前記親水性無機皮膜を含めた前記表面の比表面積が0.018m/g未満であることが好ましい。
【0009】
(4)本発明に係る排水性に優れたアルミニウム部材において、前記親水性無機皮膜に含まれるガラス成分として、ホウ酸系ガラス、リン酸系ガラス、バナジウム酸系ガラス、ビスマス系ガラス、ホウ酸系着色ガラス、リン酸系着色ガラス、バナジウム酸系着色ガラス、及びビスマス系着色ガラスの内、1種類もしくは2種類以上を含むことが好ましい。
(5)本発明に係る排水性に優れたアルミニウム部材において、親水性付与成分として、酸化ホウ素、酸化アルミニウムの1種類もしくは2種類が前記表面に存在することが好ましい。
(6)本発明に係る排水性に優れたアルミニウム部材において、金属元素または希土類元素として、銅、ニッケル、鉄、コバルト、マンガン、クロム、セリウム、プラセオシウム、ネオジウム、サマリウム、ユーロピウム、エルビウムの内、1種類もしくは2種類以上を前記親水性無機皮膜の着色ガラス成分として含むことが好ましい。
【0010】
(7)本発明に係る排水性に優れたアルミニウム部材において、抗菌性を有する無機粉末として、亜鉛系無機抗菌粉末、銀系無機抗菌粉末もしくは亜鉛と銀を両方含む無機抗菌粉末、及び銅系無機抗菌粉末の内、1種類もしくは2種類以上を前記表面に有することが好ましい。
【0011】
(8)本発明に係る熱交換器用フィンは、(1)~(7)のいずれか一項に記載された排水性に優れるアルミニウム部材からなることが好ましい。
(9)本発明に係る熱交換器用チューブは、(1)~(7)のいずれか一項に記載された排水性に優れるアルミニウム部材からなることが好ましい。
(10)本発明に係る熱交換器用ヘッダタンクは、(1)~(7)のいずれか一項に記載された排水性に優れるアルミニウム部材からなることが好ましい。
(11)本発明に係る熱交換器は、(1)~(7)のいずれか一項に記載された排水性に優れるアルミニウム部材が適用されたことが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るアルミニウム部材は、表面にSiO含有量60%以下のガラス系の親水性無機皮膜が複数点在されており、その数密度が2000個/mm以上であるので、優れた親水性を発揮する。
また、SiO含有量60%以下のガラス系の親水性無機皮膜であるならば、ろう付加熱を経たアルミニウム部材として、ろう付加熱後であったとしても、優れた親水性を得ることができる。更に、本発明によれば、フラックスと反応して親水性無機皮膜が変色することもなく、アルミニウムが本来有する金属光沢を維持できるアルミニウム部材を提供できる。
また、親水性無機皮膜の数密度が2000個/mm以上であるので、ろう付加熱を経たアルミニウム部材として、ろう付加熱後であったとしても、優れた親水性を得ることができる。
【0013】
以上により、ろう付加熱後も排水性を確保でき、優れた表面排水性を備えたアルミニウム部材、フィン、チューブ、ヘッダタンク及び熱交換器を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係る熱交換器の一例を部分断面とした正面図である。
図2】本発明に係る熱交換器において、ヘッダタンク、チューブおよびフィンがろう付された状態を示す部分拡大断面図である。
図3】本発明に係る熱交換器において、ろう付前にヘッダタンク、チューブおよびフィンが組み立てられ、チューブ表面にろう付用塗膜が塗布された状態を示す部分拡大断面図である。
図4】アルミニウム部材の表面に親水性複合皮膜を形成する場合に用いる塗膜の一例を示す部分拡大断面図である。
図5】アルミニウム部材の表面に形成された親水性複合皮膜の一例を示す部分断面図である。
図6】実施例においてアルミニウム部材の表面に親水性複合皮膜を形成する場合に用いた塗膜の一例(ろう付相当熱処理前)を示す拡大写真である。
図7】アルミニウム部材の表面に形成された親水性複合皮膜の一例(ろう付相当熱処理後)を示す拡大写真図である。
図8】実施例の親水性複合皮膜をTEM観察した結果を示すもので、(a)は親水性複合皮膜の観察部位を示す断面図、(b)は観察部位から得られた回折結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面に基づき、本発明の実施形態の一例について詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合がある。
【0016】
「第1実施形態」
図1は、後述する親水性塗料組成物を塗布し、ろう付加熱後に得られた親水性皮膜を備えたフィン、チューブ、ヘッダタンクを用いて構成された熱交換器の一例を示す斜視図である。
この例の熱交換器30は、ルームエアコンディショナーの室内・室外機用の熱交換器、あるいは、HVAC(Heating Ventilating Air Conditioning)用の室外機、自動車用の熱交換器などの用途に使用されるアルミニウム熱交換器である。
図1に示す熱交換器30は、離間して平行に配置されたヘッダタンク(アルミニウム部材)31、32と、これらのヘッダタンク31、32の間に相互に間隔を保って平行に、かつ、ヘッダタンク31、32に対して直角に接合された複数のチューブ33(アルミニウム部材)と、各チューブ33に付設された波形のフィン(アルミニウム部材)34を主体として構成されている。ヘッダタンク31、32、チューブ33及びフィン34は、いずれもアルミニウム合金から構成されている。
【0017】
より詳細には、パイプ状のヘッダタンク31、32の相対向する側面に複数のスリット36が各タンクの長さ方向に定間隔で形成され、これらヘッダタンク31、32の相対向するスリット36にチューブ33の端部を挿通してヘッダタンク31、32間にチューブ33が複数架設されている。また、ヘッダタンク31、32間に所定間隔で架設された複数のチューブ33、33の間に波形のフィン34が配置され、これらのフィン34が例えば図2に示すようにチューブ33の上面33A側あるいは下面33B側にろう付されている。
【0018】
図2に示す如く、ヘッダタンク31のスリット36に対しチューブ33の端部を挿通した部分において、挿通部分の隙間を埋めるようにろう材により第1のフィレット38が形成され、ヘッダタンク31、32に対しチューブ33がろう付されている。また、波形のフィン34において、波の頂点の部分に隣接するチューブ33の上面33Aまたは下面33Bに対向させてそれらの間の部分に生成されたろう材により第2のフィレット39が形成され、チューブ33の上面33A側と下面33B側にそれぞれ波形のフィン34がろう付されている。
チューブ33はアルミニウム合金からなる扁平多穴管であり、その内部には複数の冷媒通路33Cが形成されている。
【0019】
本実施形態の熱交換器30は、図3に示すようにヘッダタンク31、32とそれらの間に架設される複数のチューブ33と複数のフィン34とを組み付けて熱交換器組立体41を形成し、これを加熱してろう付することにより製造されたものである。なお、ろう付時の加熱によってチューブ33の上面33A側と下面33B側には図2に示すZn溶融拡散層42が形成されている。
【0020】
ヘッダタンク31、32を構成するアルミニウム合金は、一般的な熱交換器用ヘッダタンク適用されるアルミニウム合金からなるが、例えば、Al-Mn系をベースとしたアルミニウム合金が適用される。
例えば、質量%でMn:0.05~1.50%+を含有することが好ましく、他の元素として、Cu:0.05~0.8%、及びZr:0.05~0.15%を含有することができる。なお、以下の説明において、成分や塗膜量などの範囲について「~」を用いて表示する場合、特に指定しない限り、上限と下限を含む範囲を意味する。よって、例えば、0.05~1.50%は0.05%以上1.50%以下を意味する。なお、本実施形態においてヘッダタンク31、32は上述のアルミニウム合金からなるパイプ状の心材の外面にろう材層が形成されたものが適用されている。図2図3では心材を符号31Aで示し、ろう材層を符号43で示している。
【0021】
チューブ33は、その厚さに対し幅の比率が大きい扁平形状のチューブであり、チューブ33の幅方向には複数(数個~数10個)の冷媒通路33Cが隔壁に仕切られた状態で隣接形成されている。
チューブ33を構成するアルミニウム合金は、熱交換器用の扁平多穴管、チューブに適用されるアルミニウム合金であれば特に制限はない。一例として、質量%で、Si:0.05~1.0%、Mn:0.1~1.5%、及びCu:0.1%未満を含有し、残部不可避不純物およびアルミニウムからなるアルミニウム合金などからなる。
本実施形態のチューブ33は、アルミニウム合金を押出し加工することによって作製されたものであるが、特にその製造方法は限定されず、板材を成形加工したチューブであってもよい。なお、チューブ33に形成される冷媒通路33Cの数は1つ以上であれば任意の数で良いが、冷媒通路33Cの数が複数形成されている構造が熱交換効率向上の面で好ましい。
【0022】
フィン34を構成するアルミニウム合金は、熱交換器用フィンに用いられるアルミニウム合金の一般的なものを広く適用できるが、一例を挙げるならば、質量%で、Zn:0.3~5.0%、Mn:0.5~2.0%、Fe:1.0%以下、及びSi:1.5%以下を含有し、残部不可避不純物およびアルミニウムからなるアルミニウム合金などからなる。
フィン34は、上記組成を有するアルミニウム合金を常法により溶製し、熱間圧延工程、冷間圧延工程などを経て板状あるいはシート状のフィン材(ろう付部材)を製造し、フィン材の表裏両面に親水性塗膜35を形成後、目的のフィン形状、例えばコルゲート形状に加工して得られる。なお、フィン34の製造方法は、特に限定されるものではなく、既知の製法を適宜採用することができる。
【0023】
本実施形態において、図3に示すようにろう付前のチューブ33の上面と下面に、一例として、Si粉末:1~5g/m、Zn含有フラックス(KZnF粉末等):3.0~20g/m、及び樹脂:0.2~8.3g/mを含んだろう付用塗膜37が形成されている。
【0024】
フィン34(アルミニウム板材)は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる板状の基材34aと、基材34aの表裏面(表面と裏面)に付着された親水性複合皮膜35aを有している。即ち、基材34aの表裏両面にろう付加熱処理後の親水性複合皮膜35aが設けられている。
なお、図面には略されているが、ヘッダタンク31、32の表面、チューブ33の表面にも前述の親水性複合皮膜35aと同等の親水性複合皮膜が形成されている。以下、フィン34の表面に形成されている親水性複合皮膜35aについて詳細に説明することにより、ヘッダタンク31、32とチューブ33の表面に形成されている親水性複合皮膜の説明を省略するが、これらの複合皮膜は同等の皮膜である。
【0025】
<親水性複合塗膜>
図3に示すろう付熱処理前の熱交換器組立体41において、フィン34の表裏面(表裏両面)に親水性塗膜35が形成されている(なお、親水性塗膜は省略して単に塗膜と表記することがある)。
熱交換器組立体41はろう付する前の熱交換器に相当し、図1に示す概形になるように左右のヘッダタンク31、32とチューブ33とフィン34を組み付けたものである。この熱交換器組立体41を後述するようにろう付熱処理温度に加熱することで図1に示す熱交換器30を得ることができる。親水性塗膜35はフィン34の表面と裏面の一方のみに形成されていても良い。なお、ヘッダタンク31、32の表面、チューブ33の表面にも親水性皮膜35aが形成されているが、図面では略している。
【0026】
親水性塗膜35は、以下に説明する親水性塗料組成物を塗布し、200~260℃、例えば250℃で0.2~5分間乾燥することで溶媒が揮発し、塗膜量が0.1~3g/となるようにして得られた塗膜である。
【0027】
「ガラス成分」
本実施形態で用いる親水性塗料組成物は、ガラス成分として、リン酸系ガラス、ホウ酸系ガラス、バナジウム酸系ガラス、ビスマス系ガラス、リン酸系着色ガラス、ホウ酸系着色ガラス、バナジウム酸系着色ガラス及びビスマス系着色ガラスの内、1種類もしくは2種類以上を含むことが好ましい。
また、上述のガラス成分に着色するために、金属元素または希土類元素として、銅、ニッケル、鉄、コバルト、マンガン、クロム、セリウム、プラセオシウム、ネオジウム、サマリウム、ユーロピウム、エルビウムの内、1種類もしくは2種類以上を含んでいても良い。これらの成分を含むことで着色ガラス成分とすることができる。
【0028】
「有機バインダ成分」
親水性塗料組成物は、有機バインダ成分として、有機溶剤に可溶な高分子材料を含む。高分子材料としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリルなどの(メタ)アクリル酸C1~C18アルキルエステルと、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコールエステル、(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコールエステル、エステル部分にアルキレンオキシドを付加した(メタ)アクリル酸エステル(例えば、CH=C(CH)COO(CO)H(nは、例えば2~12の整数)など)などの水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルと、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸などのカルボン酸基含有(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸アミドと、スチレン、α-メチルスチレンなどのスチレン類からなるホモポリマー、コポリマーや、イソブチレン、イソプレンなどからなるコポリマーや、エチルセルロース、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセトアミド、ポリエチレングリコール、及びポリエチレンオキシドの内、1種類もしくは2種類以上含むことが好ましい。
【0029】
「親水性付与成分」
親水性塗料組成物は、親水性付与成分として、アルミナゾル、塩基性塩化アルミニウム、アルミニウムアルコキシド、ホウ酸、メタホウ酸、四ホウ酸、ホウ酸塩、メタホウ酸塩、四ホウ酸塩、水溶性ジルコニウム化合物、及び水溶性チタニウム化合物の内、1種類もしくは2種類以上を含む。
前記ホウ酸塩は、ホウ酸リチウム、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム、ホウ酸カルシウム、ホウ酸バリウム、及びホウ酸アンモニウム、の内、1種類または2種類以上であることが好ましい。前記メタホウ酸塩は、メタホウ酸リチウム、メタホウ酸ナトリウム、メタホウ酸カリウム、メタホウ酸カルシウム、メタホウ酸バリウム、及びメタホウ酸アンモニウムの内、1種類または2種類以上であることが好ましい。前記四ホウ酸塩は、四ホウ酸リチウム、四ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸カリウム、四ホウ酸カルシウム、四ホウ酸バリウム、及び四ホウ酸アンモニウムの内、1種類または2種類以上であることが好ましい。
【0030】
「抗菌剤」
親水性塗料組成物において、抗菌剤として無機粉末が含有されている。抗菌剤としての無機粉末の具体例は、亜鉛、銀もしくは銅単体またはこれらの化合物の粉末、ゼオライトなどの多孔質体に亜鉛、銀もしくは銅単体またはこれらの化合物を担持させた粉末や亜鉛、銀もしくは銅を組成として含むガラス粉末などが挙げられる。これらの亜鉛系無機抗菌粉末、銀系無機抗菌粉末もしくは亜鉛と銀を両方含む無機抗菌粉末、及び銅系無機抗菌粉末のうち、1種類または2種類以上を選択して用いることができる。
【0031】
「レオロジー調整剤」
親水性塗料組成物において、レオロジー調整剤を含んでいても良い。レオロジー調整剤として、具体的には、合成または天然の膨潤性層状鉱物粒子(ヘクトライト、バーミキュライト、ハロサイト、膨潤性マイカ等)、超微粒子酸化物粒子(アルミナ、チタニア、ジルコニア等)、PVA、PVP、ポリアクリル酸またはポリアクリル酸塩、ポリメタクリル酸またはポリメタクリル酸塩、水溶性セルロース誘導体、及びセルロースナノファイバーのうち、1種類または2種類以上を選択して用いることができる。
【0032】
「界面活性剤」
親水性塗料組成物において、界面活性剤を含んでいても良い。界面活性剤として、具体的には、アニオン系界面活性剤として、カルボン酸塩、スルホン酸塩、硫酸エステル塩、及びリン酸エステル塩から選択される1種または2種以上を適用することができる。アルキルベンゼンスルホン酸塩として知られるLAS、α-スルホ脂肪酸メチルエステル塩として知られるMES、又はα-オレフィンスルホン酸塩として知られるAOSなどを用いても良い。硫酸エステル塩としては、アルキル硫酸エステル塩のAS、又はポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩として知られるAESなどを用いても良い。
【0033】
その他、カチオン系界面活性剤として、ベンザルコニウム塩や第四級アンモニウム塩、又はイミダゾリン化合物を使用することができる。
その他、非イオン系界面活性剤として、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、しょ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、又はポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールなどを用いても良い。また、両性界面活性剤として、アルキルベタイン、脂肪酸アミドプロピルベタイン、又はアルキルアミンオキサイドなどを用いても良い。
【0034】
「フラックス剤」
親水性塗料組成物において、フラックス剤を含んでいても良い。フラックス剤として、アルカリ金属、アルカリ土類金属、ホウ素、アルミニウム、シリコン、亜鉛、チタン、ジルコニウム、及びセシウムのいずれか1種または2種以上を含むフッ素化合物のいずれか1種または2種以上を含む。
前記フッ素化合物は、K1-3AlF4-6、Cs1-3AlF4-6、Cs0.021-2AlF4-5、AlF、KF、KZnF、KSiF、LiAlF、NaF、NaSiF、KSiF、MgF、CaF、CsF、NaBF、KBF、KTiF、及びKZrFのうち、いずれか1種または2種以上であることが好ましい。
【0035】
「水または有機溶剤または有機溶剤+水」
親水性塗料組成物は、水または有機溶剤または有機溶剤+水を主体とする分散媒に上述の成分が配合されている。有機溶剤は、4-メチル-2-ペンタノール、α-テルピネオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオールなどのアルコールもしくは多価アルコール系有機溶剤や、1,2-ジエトキシエタン、ジブチルエーテル、1,2-ジブトキシエタン、ジフェニルエーテルなどのエーテル系有機溶剤や、アセトン、4-ペンタノン、シクロヘキサノン、ジイソブチルケトン、メチルシクロヘキサノンなどのケトン系有機溶剤や、酢酸ブチル、プロピオン酸ブチル、マレイン酸ジメチル、安息香酸エチルなどのエステル系有機溶剤や、トルエン、エチルシクロヘキサン、テレピン油、n-ドデカンなどの炭化水素系有機溶剤や、1-エトキシ-2-プロパノール、2-フェノキシエタノールなどの2つ以上の官能基を有する有機溶剤のうち、1種類または2種類以上を用いることができる。
【0036】
また、水を添加しても使用することが可能な有機溶剤として、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1,4-ジオキサン、tert-ブタノール、ヘキサノール、オクタノール、デカノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、エチレングリコールジメチルエーテル、ジメトキシエタン、アセトニトリル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、2-エトキシエタノール、1-ブタノール、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、2-エトキシエチルアセテート、2-メトキシエチルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジアセトンアルコール、ジメチルアミノエタノール、N,N-ジメチルホルムアミド、トリエチレングリコールジメチルエーテル、3-メトキシ-1-ブタノール、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、γ-ブチルラクトン、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、2-ブトキシエタノール、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、グリセリン、2-アミノエタノールのうち、1種類または2種類以上を用いることができる。
【0037】
図3に示す熱交換器組立体41において、チューブ33の上面33Aと下面33Bにろう付用塗膜37が形成されており、熱交換器組立体41を580~620℃程度の温度に数分~数10分程度加熱することでろう付用塗膜37を溶融させることができる。
加熱処理後、冷却すると図2に示すようにフィレット38、39によりチューブ33とフィン34をろう付し、フィレット38によりチューブ33をヘッダタンク31、32にろう付した熱交換器30を得ることができる。
ろう付前のフィン34に形成されていた親水性塗膜35は、ろう付熱処理において、親水性塗膜35の各々の成分の一部又は全てが蒸散、溶融、酸化または非晶質(ガラス)化することにより、ろう付熱処理後に親水性複合皮膜35aとなり、フィン34の表面と裏面に残留する。
なお、図面では略しているが、ヘッダタンク31、32、チューブ33にも前述の親水性塗膜35を設けている場合もある。その場合、ヘッダタンク31、32の表面、チューブ33の表面にもフィンの表面と同様にろう付処理後の親水性複合皮膜35aが形成されているが、図面では表示を略している。
【0038】
ろう付用塗膜37にZn含有フラックスを含有している場合、ろう付熱処理時にチューブ33の上面33Aと下面33BにZnが拡散してZn拡散層42を生成し、このZn拡散層42が防食効果を発揮する。
ろう付用塗膜37はその他一般的に知られているろう付用塗料、あるいは、ブレージングシートなどのクラッド材に適用される一般的なろう材層から構成されていても良い。
また、フィン34側へろう材層が形成され、チューブ33にろう付塗料37が形成されていない構成でも使用する事ができる。この時チューブ33の表裏面にはZn溶射層やフラックス層が形成されていてもよい。
【0039】
本実施形態の親水性塗膜35はろう付前に上述の組成を有するので、ろう付熱処理後は、有機バインダ成分、界面活性剤、有機物からなるレオロジー調整剤等が除去された後、残りの成分が凝集して親水性複合皮膜35aを構成することで、親水性を発現する。
図4はろう付熱処理前の親水性塗膜35を示す部分拡大略断面図であり、図5はろう付熱処理後の親水性複合皮膜35aを示す部分拡大略断面図である。
図4に示すようにろう付け熱処理前の親水性塗膜35は、フィン34の概形を構成するアルミニウム部材1の表面を覆って形成された塗膜本体層2と、該塗膜本体層2に分散された複数のガラス粒子3を有する複合構造とされている。
【0040】
図4に示す親水性塗膜35がろう付加熱後には、図5に示す親水性複合皮膜35aとなる。親水性複合皮膜35aは、上述のように有機バインダ成分、界面活性剤、有機物からなるレオロジー調整剤などが加熱により除去された後、親水性付与成分の一部が残留した親水性付与層5と、該親水性付与層5中に点在されたガラス粒子を主体とする親水性無機皮膜6からなる。
後述する実施例において、ろう付加熱前の塗膜表面写真(図6)とろう付加熱後の皮膜表面写真(図7)について説明するが、図6に示すようにろう付加熱以前に不定形の粒子の集合体であったガラス粒子は、図7に示すようにろう付加熱後に一部溶融して概形が丸くなった粒状となる。このように概形が丸くなった粒状のガラス粒子からなる親水性無機皮膜6が点在することで、ろう付加熱後であっても親水性複合皮膜35aは良好な親水性を発現する。また、親水性複合皮膜35aは、親水性無機皮膜6が点在されていない部分に、親水性付与成分の一部を残留させた親水性付与膜5を有するため、より優れた親水性を発現する。
なお、図5では親水性付与層5の厚さと親水性無機皮膜6の厚さを同等程度に描いているが、親水性無機皮膜6の厚さが親水性付与層5より厚くても差し支えない。
【0041】
親水性複合皮膜35aを被覆したアルミニウム部材1(フィン34)は、その表面にSiO含有量60%以下の上述したガラス粒子を点在させた親水性複合皮膜35aが形成されており、親水性無機皮膜6の数密度が2000個/mm以上であることを特徴とする。
また、親水性無機皮膜6によるアルミニウム部材1表面の被覆率は0.5%以上70%以下であることが好ましい。
親水性無機皮膜6を含めたアルミニウム部材1の表面の比表面積は0.018m/g未満であることが好ましい。
【0042】
特に、ガラス成分として上述のリン酸系ガラス、ホウ酸系ガラス、バナジウム酸系ガラス、ビスマス系ガラス及びこれらに着色成分を含有させたガラスの内、1種類もしくは2種類以上は、上述のろう付加熱温度に加熱された後も親水性無機皮膜6を構成し、優れた親水性を発現する。よって、熱交換器30の運転中にフィン34の表面に水滴が付着しても水滴を容易に排出することができる。フィン34は複数隣接配置されており、フィン34、34間の間隔は小さいが、上述の優れた親水性により、フィン34、34間の隙間に水滴を留めることなく排出ができる。よって、フィン34の表面に水滴を生じ易い環境で熱交換器30を運転していたとして、水滴の滞留を防止し、効率が低下しない状態で熱交換器30を運転できる。
【0043】
親水性無機皮膜6の数密度が2000個/mm以上であることにより、特に優れた親水性が得られる。親水性無機皮膜6を構成するガラス粒子自体は微細粒子であり、熱交換器の表面に付着する水滴より小さいが、これらが上述の数密度以上点在することでアルミニウム部材1の表面に優れた親水性を付与できる。
同様な事情から、親水性無機皮膜6によるアルミニウム部材1表面の被覆率は0.5%以上70%以下であることが好ましい。アルミニウム部材1の表面の比表面積は0.018m/g未満であることが好ましい。
上述の親水性複合皮膜6は、フィン34を構成するアルミニウム部材1の表面に加え、ヘッダタンク31、32の表面とチューブ33の表面にも形成しても良く、これらの表面にも優れた親水性を付与することができる。よって、熱交換器30の運転中にヘッダタンク31、32の表面とチューブ33の表面に付着した水滴も容易に排水することができる。
【実施例0044】
以下、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
<サンプルの作製>
Si:0.4~1.0質量%、Mn:1.0~2.0質量%、Zn:0.5~3.5質量%を含み、残部Alおよび不可避不純物の組成を有する板状のアルミニウム基材を複数用意し、これらの基材に対し、脱脂処理を行った。
脱脂処理の後、各基材表裏面に対しバーコーター塗装により、以下に記載する親水性塗料組成物を塗装した。
【0045】
<親水性塗料組成物の調整>
以下の各表に示すガラス成分、親水性付与成分、着色成分、抗菌粉末を分散媒中に分散させた親水性塗料をアルミニウム基材の表面に塗布し、親水性塗膜を作成し、次いで(600℃に10分間)加熱するろう付相当熱処理を施して親水性複合皮膜を作製した。
以下の表1~表29に、親水性複合皮膜形成用の塗膜に含有させたガラス成分、親水性付与成分、着色成分、抗菌粉末の種類を示す。また、表1~表29に、塗膜形成に用いた塗料の種別(塗料1~塗料144)を記載し、表30~表37に塗料1~塗料145の成分を示す。
なお、表29に示す比較例2は、(NaO・3SiOaq)の組成の水ガラスの塗料を塗布し、ろう付相当熱処理を施した試料である。
また、ろう付相当熱処理後に得られた各親水性複合皮膜について、ガラス粒子を主体とする親水性皮膜の数密度(個/mm)を測定し、被覆率(%)を測定し、比表面積(m/g)を測定し、後に記載する表1~表29に併記した。
なお、親水性塗料の塗布にあたり、塗布量の調整により親水性複合皮膜における親水性無機皮膜の数密度と被覆率を調整することができる。塗布量を多くすると、数密度と被覆率を高くすることができる。以下の実施例では、0.025~3.3g/mの範囲で塗布量の調整を行った。
【0046】
<評価試験>
更に、以下に説明する条件にて親水性複合皮膜の初期排水性と、長期間の排水性と、臭気と、着色の有無、抗菌効果の有無について試験した。
初期排水性:初期の水接触角が10°以下を◎、20°以下を○、20°超を×と判定した。
長期間の排水性:乾湿14サイクル後の水接触角が10°以下を◎、20°以下を○、20°超を×と判定した。
耐臭気:試験者3名が息を吹きかけて臭気の大小を評価する官能試験とし、臭気なしを〇、臭気ありを×と判定した。
着色の有無について表示し、着色していない試料を-で示し、着色した試料は有と表示した。
JIS Z 2801:2010で規定されている抗菌性試験を実施し、抗菌活性値を求めた。得られた抗菌活性値が2.0以上であれば、抗菌性ありと判断し、有と表示した。
これらの評価結果を後に記載する表1~表29に示した。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
【表3】
【0050】
【表4】
【0051】
【表5】
【0052】
【表6】
【0053】
【表7】
【0054】
【表8】
【0055】
【表9】
【0056】
【表10】
【0057】
【表11】
【0058】
【表12】
【0059】
【表13】
【0060】
【表14】
【0061】
【表15】
【0062】
【表16】
【0063】
【表17】
【0064】
【表18】
【0065】
【表19】
【0066】
【表20】
【0067】
【表21】
【0068】
【表22】
【0069】
【表23】
【0070】
【表24】
【0071】
【表25】
【0072】
【表26】
【0073】
【表27】
【0074】
【表28】
【0075】
【表29】
【0076】
【表30】
【0077】
【表31】
【0078】
【表32】
【0079】
【表33】
【0080】
【表34】
【0081】
【表35】
【0082】
【表36】
【0083】
【表37】
【0084】
表1~表29に示すように、実施例1~実施例291は、粒状の親水性複合皮膜を表面に2000個/mm以上点在させた初期排水性と長期排水性のいずれにも優れた親水性複合皮膜であった。
【0085】
実施例1~7の親水性複合皮膜は、ホウ酸ガラスを含み、親水性付与成分を含んでいない試料であるが、ろう付相当熱処理時の加熱によりガラス粒子が溶融し、粒状の親水性複合皮膜を表面に付着させていると考えられる。
実施例15~18、30~33、39~41、58~61、73~76、82~84、99~102、114~117、123~125、140~143、155~158、164~166は着色成分を含む親水性複合皮膜であるが、ろう付相当熱処理後においても色の発現が見られた。従って、これらの親水性複合皮膜を適用することで熱交換器のフィン、チューブ、ヘッダタンクを着色することができる。
【0086】
実施例167~290は、CuやCoなどの金属元素をガラス成分に添加した着色ガラスを含む塗膜をろう付相当熱処理して得た親水性複合皮膜である。これらの着色ガラスを用いても、ろう付相当熱処理後に生成する親水性複合塗膜に着色することができた。
従って、これらの親水性複合皮膜を適用することで熱交換器のフィン、チューブ、ヘッダタンクを着色することができる。
【0087】
実施例19~22、34~37、40~41、62~65、77~80、83~84、103~106、118~121、124~125、144~147、159~162、165~166、181~184、192~195、197、212~215、223~226、228、243~246、254~257、259、274~277、285~288、290は、抗菌粉末を添加した塗膜をろう付相当熱処理して得た親水性複合皮膜である。抗菌粉末を含む塗膜を用い、ろう付相当熱処理後に生成する親水性複合塗膜に抗菌効果を発現させることができた。
従って、これらの親水性複合皮膜を適用することで熱交換器のフィン、チューブ、ヘッダタンクにおいて抗菌効果を得ることができる。
【0088】
これら実施例に対し、表29に示す比較例1は、ガラス系の親水性無機皮膜の数密度を1800個/mmとした試料であるが、実施例に対し親水性に劣る結果となった。
表29に示す比較例2は、(NaO・3SiOaq)の組成の水ガラスを塗布して他の例と同等のろう付相当熱処理を受けた試料である。
参考例の試料は実施例試料に対し耐臭気性に問題を生じた。また、比較例2の試料はSiOを60%以上含むことから、ろう付熱処理時にSiOとフラックスとの反応により生成した金属ケイ素による黄土色の皮膜であり、アルミニウムが本来有する金属光沢を阻害する色相を呈する。
【0089】
図8は、実施例No.10の親水性複合皮膜をTEM観察した結果を示すもので、(a)は親水性複合皮膜をFIB(収束イオンビーム)により加工して得たTEM(透過電子顕微鏡)観察試料の断面を示し、(b)は前記断面の観察部位から得られた回折結果を示す図である。
FIB加工は、株式会社日立ハイテク製FIB―SEM複合装置NX2000を用い、TEM観察は、日本電子株式会社性電界放出形透過電子顕微鏡JEM-2010Fを用いた。
図8に示す結果から明らかなように、実施例の試料は回折スポットのないハローが得られているので、本発明に係る親水性複合皮膜は非晶質(ガラス)であることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0090】
1…アルミニウム部材、2…塗膜本体層、3…ガラス粒子、5…親水性付与層、6…親水性無機皮膜、30…熱交換器、31、32…ヘッダタンク(アルミニウム部材)、33…チューブ(アルミニウム部材)、33A…上面、33B…下面、33C…冷媒通路、34…フィン(アルミニウム部材)、35…ろう付熱処理前の親水性塗膜、35a…親水性複合皮膜、37…犠牲陽極層、38…第1のフィレット、39…第2のフィレット、41…熱交換器組立体。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8