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特開2023-149045スイッチ装置、プッシュ式入力装置、及び、電子シフタ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149045
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】スイッチ装置、プッシュ式入力装置、及び、電子シフタ
(51)【国際特許分類】
   G01M 99/00 20110101AFI20231005BHJP
   H01H 13/00 20060101ALI20231005BHJP
   G01M 17/007 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
G01M99/00 Z
H01H13/00 D
G01M17/007 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022057383
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 寿春
(72)【発明者】
【氏名】二上 文人
【テーマコード(参考)】
2G024
5G206
【Fターム(参考)】
2G024AD29
2G024BA27
2G024CA01
2G024CA08
2G024DA28
2G024FA06
2G024FA13
5G206AS23F
5G206AS23J
5G206AS36K
5G206CS04K
5G206FS01J
5G206FS32K
5G206FU03
5G206GS21
5G206JS02
5G206KS09
5G206KS15
5G206PS07
5G206RS04
5G206RS24
(57)【要約】
【課題】測定誤差等に起因する故障の誤判定を低減可能なスイッチ装置、プッシュ式入力装置、及び、電子シフタを提供する。
【解決手段】スイッチ装置は、スイッチの操作位置に応じた3つ以上の複数の測定値をそれぞれ検出する3つ以上の複数のセンサ部と、前記複数のセンサ部の前記複数の測定値の各々の測定レベルに基づく多数決に応じて前記スイッチの切換状態を判定する切換判定部と、前記複数のセンサ部の各々の故障を判定する故障判定部とを含み、前記故障判定部は、前記複数のセンサ部のうちの1つのセンサ部の測定値と、前記複数のセンサ部のうちの前記1つのセンサ部以外の他のセンサ部の測定値とを比較し、1つのセンサ部の測定値を含む所定範囲内に、前記他のセンサ部の測定値のうちの半数以上の測定値が存在しない場合には、前記1つのセンサ部は故障していると判定する。
【選択図】図14B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチの操作位置に応じた3つ以上の複数の測定値をそれぞれ検出する3つ以上の複数のセンサ部と、
前記複数のセンサ部の前記複数の測定値の各々の測定レベルに基づく多数決に応じて前記スイッチの切換状態を判定する切換判定部と、
前記複数のセンサ部の各々の故障を判定する故障判定部と
を含み、
前記故障判定部は、前記複数のセンサ部のうちの1つのセンサ部の測定値と、前記複数のセンサ部のうちの前記1つのセンサ部以外の他のセンサ部の測定値とを比較し、前記1つのセンサ部の測定値を含む所定範囲内に、前記他のセンサ部の測定値のうちの半数以上の測定値が存在しない場合には、前記1つのセンサ部は故障していると判定する、スイッチ装置。
【請求項2】
前記故障判定部が前記複数のセンサ部の各々について故障を判定した結果、故障と判定されていないセンサ部の数が複数である場合には、前記切換判定部は、前記故障と判定されていないセンサ部の測定値の各々の測定レベルに基づく多数決に応じて前記スイッチの切換状態を判定する、請求項1に記載のスイッチ装置。
【請求項3】
前記故障判定部が前記複数のセンサ部の各々について故障を判定した結果、故障と判定されていないセンサ部の数が複数である場合には、以後は、前記故障と判定されていないセンサ部で動作を継続する、請求項1乃至2に記載のスイッチ装置。
【請求項4】
前記故障判定部は、前記複数のセンサ部の各々について故障を判定した結果、故障と判定されていないセンサ部の数が複数でない場合には、以後は使用不可能な完全故障と判定し、判定結果を出力する、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のスイッチ装置。
【請求項5】
前記センサ部は、前記測定値の第1レベル範囲と第2レベル範囲との間に第3レベル範囲としてヒステリシス領域を有する、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のスイッチ装置。
【請求項6】
前記所定範囲は、前記測定値の測定レベルの高低方向において、前記ヒステリシス領域よりも広い、請求項5に記載のスイッチ装置。
【請求項7】
前記切換判定部は、前記複数の測定値のうち、最も多くの測定値が入ったレベル範囲の数が複数ある場合には、前記スイッチの切換状態を判定しない、請求項1乃至6のいずれか1項に記載のスイッチ装置。
【請求項8】
前記第1レベル範囲は、前記切換状態のオフに相当するレベル範囲であり、前記第2レベル範囲は、前記切換状態のオンに相当するレベル範囲である、請求項5乃至7のいずれか1項に記載のスイッチ装置。
【請求項9】
前記複数のセンサ部の前記複数の測定値の各々は、前記スイッチが共通の操作位置にある状態において前記複数のセンサ部の各々によって測定された実測値と、前記スイッチが前記共通の操作位置にあるときの前記複数のセンサ部の理論出力値との差分を前記複数のセンサ部の各々の出力値から減じた値である、請求項1乃至8のいずれか1項に記載のスイッチ装置。
【請求項10】
前記故障判定部の判定結果を保持する不揮発性メモリをさらに含む、請求項1乃至9のいずれか1項に記載のスイッチ装置。
【請求項11】
前記複数のセンサ部は、4つのセンサ部である、請求項1乃至10のいずれか1項に記載のスイッチ装置。
【請求項12】
操作者によってプッシュ操作されるスイッチと、
前記プッシュ操作に対してクリック感を付与するクリック感付与機構と、
前記プッシュ操作に伴って、所定のスライド方向にスライドするスライダと、
前記スライダの前記スライドに伴って回転する回転体と、
前記回転体の回転角度に応じた3つ以上の複数の測定値をそれぞれ検出する3つ以上の複数のセンサ部と、
前記複数のセンサ部の前記複数の測定値の各々の測定レベルに基づく多数決に応じて前記スイッチの切換状態を判定する切換判定部と、
前記複数のセンサ部の各々の故障を判定する故障判定部と
を含み、
前記故障判定部は、前記複数のセンサ部のうちの1つのセンサ部の測定値と、前記複数のセンサ部のうちの前記1つのセンサ部以外の他のセンサ部の測定値とを比較し、1つのセンサ部の測定値を含む所定範囲内に、前記他のセンサ部の測定値のうちの半数以上の測定値が存在しない場合には、前記1つのセンサ部は故障していると判定する、プッシュ式入力装置。
【請求項13】
前記回転体を復帰回転方向に付勢する付勢手段と、
前記回転体に保持された磁石と
をさらに含み、
前記回転体は、外周面に設けられた螺旋状のカム部に上側カム面を有し、
前記スライダは、当該スライダの下方への前記スライドに伴って、前記上側カム面を摺動することにより、前記回転体を回転させる上側摺動部を有し、
前記回転体の前記上側カム面は、
前記付勢手段の付勢力により、常に前記スライダの前記上側摺動部に押し当たる方向に付勢されており、
前記センサ部は、基板に実装され、前記回転体に保持された前記磁石の前記回転角度を検出する磁気センサである、請求項12に記載のプッシュ式入力装置。
【請求項14】
車両のシフトポジションを選択するスイッチを含む電子シフタであって、
前記スイッチの操作位置に応じた3つ以上の複数の測定値をそれぞれ検出する3つ以上の複数のセンサ部と、
前記複数のセンサ部の前記複数の測定値の各々の測定レベルに基づく多数決に応じて前記スイッチの切換状態を判定する切換判定部と、
前記複数のセンサ部の各々の故障を判定する故障判定部と
を含み、
前記故障判定部は、前記複数のセンサ部のうちの1つのセンサ部の測定値と、前記複数のセンサ部のうちの前記1つのセンサ部以外の他のセンサ部の測定値とを比較し、前記1つのセンサ部の測定値を含む所定範囲内に、前記他のセンサ部の測定値のうちの半数以上の測定値が存在しない場合には、前記1つのセンサ部は故障していると判定する、電子シフタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スイッチ装置、プッシュ式入力装置、及び、電子シフタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、複数の位置センサからの出力信号のうち過半数の出力信号が同一の操作位置に対応する場合には、その過半数の出力信号が同一とされた操作位置がシフトレバーの操作位置であるとする多数決判定を行うが、その多数決判定が成立しない場合には、複数の位置センサからの出力信号の大小関係に基づいて、シフトレバーの操作位置がM操作ポジション側であるかN操作ポジション側であるかを判定する車両用シフトレバー位置判定装置がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-109292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来の車両用シフトレバー位置判定装置は、故障の検知や誤判定について対策を施したものではない。特に、車両の走行系に関わる装置等のような機能安全が求められる装置では、誤判定は許容されない。
【0005】
そこで、測定誤差等に起因する故障の誤判定を低減可能なスイッチ装置、プッシュ式入力装置、及び、電子シフタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の実施形態のスイッチ装置は、スイッチの操作位置に応じた3つ以上の複数の測定値をそれぞれ検出する3つ以上の複数のセンサ部と、前記複数のセンサ部の前記複数の測定値の各々の測定レベルに基づく多数決に応じて前記スイッチの切換状態を判定する切換判定部と、前記複数のセンサ部の各々の故障を判定する故障判定部とを含み、前記故障判定部は、前記複数のセンサ部のうちの1つのセンサ部の測定値と、前記複数のセンサ部のうちの前記1つのセンサ部以外の他のセンサ部の測定値とを比較し、1つのセンサ部の測定値を含む所定範囲内に、前記他のセンサ部の測定値のうちの半数以上の測定値が存在しない場合には、前記1つのセンサ部は故障していると判定する。
【発明の効果】
【0007】
測定誤差等に起因する故障の誤判定を低減可能なスイッチ装置、プッシュ式入力装置、及び、電子シフタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】一実施形態に係るプッシュ式シフタ装置の外観斜視図である。
図2】一実施形態に係るプッシュ式シフタ装置の分解斜視図である。
図3】一実施形態に係るプッシュ式シフタ装置の斜視断面図である。
図4】一実施形態に係るプッシュ式シフタ装置の一部拡大斜視断面図である。
図5】一実施形態に係るプッシュ式シフタ装置の電気的構成を示す図である。
図6】一実施形態に係るプッシュ式入力装置が備えるスライダの外観斜視図である。
図7】一実施形態に係るプッシュ式入力装置が備える回転体の側面図である。
図8】一実施形態に係るプッシュ式入力装置における、スライダの上側摺動部および下側摺動部と、回転体のカム部との係合状態を示す図である。
図9】一実施形態に係るプッシュ式入力装置における、スライダの上側摺動部および下側摺動部と、回転体のカム部との係合状態を示す図である。
図10A】磁気センサ107Cの構成を示す図である。
図10B】磁気センサ107Cが出力する+SIN信号1及び-SIN信号1の波形の一例を示す図である。
図10C】角度範囲ARを拡大して示す図である。
図11】+SIN信号1の出力値と差分値を説明する図である。
図12】角度範囲ARに含まれる、オフ範囲、ヒステリシス領域、及びオン範囲を示す図である。
図13A】比較用の故障判定方法を説明する図である。
図13B】比較用の故障判定方法のもう1つの問題点を説明する図である。
図14A】実施形態のスイッチ装置50が行う故障判定を説明する図である。
図14B】実施形態のスイッチ装置50が行う故障判定を説明する図である。
図15A】故障判定部123が実行する故障判定の処理を示すフローチャートである。
図15B】切換判定部122及び故障判定部123が実行する処理を示すフローチャートである。
図16】切換判定部122と故障判定部123の判定パターンを纏めた図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示のスイッチ装置、プッシュ式入力装置、及び、電子シフタを適用した実施形態について説明する。
【0010】
<実施形態>
(プッシュ式シフタ装置10の概要)
図1は、一実施形態に係るプッシュ式シフタ装置10の外観斜視図である。プッシュ式シフタ装置10は、プッシュ式入力装置の一例であるとともに、電子シフタの一例である。なお、以降の説明では、便宜上、X軸方向を前後方向とし、Y軸方向を左右方向とし、Z軸方向を上下方向とする。但し、X軸正方向を前方向とし、Y軸正方向を右方向とし、Z軸正方向を上方向とする。これらは、装置内の相対的な位置関係を示すものであり、装置の設置方向や操作方向を限定するものではなく、装置内の相対的な位置関係が同等なものは、設置方向や操作方向が異なっているものも全て、本開示の権利範囲に含まれるものである。
【0011】
図1に示すプッシュ式シフタ装置10は、自動車等の車両に設置され、当該車両のシフトポジションを選択する操作を受け付ける装置である。図1に示すように、プッシュ式シフタ装置10は、4つのプッシュ式入力機構100(100-1~100-4)と、ケース101とを備える。4つのプッシュ式入力機構100は、左右方向(Y軸方向)に一列に並べられた状態で、一つのケース101によって一体化されている。4つのプッシュ式入力機構100の各々は、最上部に操作ノブ102を備えており、操作者は、当該操作ノブ102のプッシュ操作によって、当該操作ノブ102に対応するシフトポジションへ、シフトポジションを選択する操作を行うことが可能である。
【0012】
(プッシュ式入力機構100の構成)
図2は、一実施形態に係るプッシュ式シフタ装置10の分解斜視図である。図3は、一実施形態に係るプッシュ式シフタ装置10の斜視断面図である。図4は、一実施形態に係るプッシュ式シフタ装置10の一部拡大斜視断面図である。なお、図3は、プッシュ式シフタ装置10が備えるプッシュ式入力機構100-1の、XZ平面による断面(図1に示すA-A断面線による断面)を表している。また、図4は、プッシュ式シフタ装置10が備えるプッシュ式入力機構100-1(特に、回転体105)の、YZ平面による断面(図2に示すB-B断面線による断面)を表している。
【0013】
図2に示すように、4つのプッシュ式入力機構100-1~100-4の各々は、操作ノブ102、ケース101、スライダ103、ライトガイド104、回転体105、ラバーシート106、基板107、およびカバー108を備える。
【0014】
操作ノブ102は、操作者からのプッシュ操作を受け付ける樹脂製の部品である。操作ノブ102は、スイッチの一例である。図2に示す例では、操作ノブ102は、概ね直方体形状を有する。また、操作ノブ102は、その上面が、プッシュ操作を受け付けるための、概ね水平であり、且つ、僅かに凹状に湾曲した操作面102Aとなっている。また、操作ノブ102は、下面に相当する部分の全体が、下側開口部102Bとなっている。操作ノブ102は、下側(Z軸負側)から下側開口部102B内にスライダ103の上部が嵌め込まれることにより、スライダ103の上部に固定的に取り付けられる。これにより、操作ノブ102は、スライダ103と一体的に上下方向(Z軸方向)に移動することができる。すなわち、操作ノブ102は、操作面102Aに対するプッシュ操作がなされることにより、スライダ103を下方(Z軸負方向)にスライドさせることができる。
【0015】
ケース101は、概ね直方体形状且つ中空構造を有する、容器状且つ樹脂製の部品である。ケース101の内部には、スライダ103、ライトガイド104、回転体105、ラバーシート106、および基板107が収容される。ケース101の上面には、平面視において矩形状を有する上側開口部101Aが形成されている。上側開口部101Aには、スライダ103が、上下方向(Z軸方向)にスライド可能に配置される。また、ケース101は、下面に相当する部分の全体が、下側開口部101Bとなっている。下側開口部101Bは、カバー108によって閉塞される。また、図3に示すように、ケース101の内部には、天井面から垂下して設けられた、円柱状の軸支部101Cが設けられている。図3に示すように、軸支部101Cは、回転体105の上部開口部105bに挿入されることにより、回転体105の上部を回転可能に支持する。また、図4に示すように、ケース101の内部には、軸受開口部101Dを間に挟んで互いに対向する一対の支持部101Eが設けられている。また、図4に示すように、回転体105の下端部には、当該回転体105の外周面から半径方向に拡大された鍔部105Eが設けられている。鍔部105Eの直径は、軸受開口部101Dの直径よりも大きい。図4に示すように、軸受開口部101Dには、回転体105の下端部が嵌め込まれる。この際、回転体105の鍔部105Eが、一対の支持部101Eの上面に当接する。これにより、回転体105の下部が回転可能に支持され、すなわち、回転体105の下方への移動が規制される。
【0016】
スライダ103は、ケース101の上側開口部101Aに、上下方向(Z軸方向)(「所定のスライド方向」の一例)にスライド可能に配置される樹脂製の部品である。スライダ103は、上下方向(Z軸方向)を筒方向とする、概ね四角筒状の筒部103Aを有する。
【0017】
ライトガイド104は、スライダ103の筒部103A内に配置される、樹脂製且つ四角柱状の部品である。ライトガイド104は、基板107の上面107Aに実装されたLED107Bから出射されて、当該ライトガイド104の底面から入射された光を、当該ライトガイド104の上面から出射する。これにより、ライトガイド104は、LED107Bから出射された光を、操作ノブ102へ導く。
【0018】
回転体105は、上下方向を筒方向とする、概ね円筒状の部材である。回転体105は、スライダ103の側方において、上下方向(Z軸方向)を回転軸の軸方向として、当該回転軸の軸周りに回転可能に配置される。回転体105の外周面は、スライダ103の上下方向へのスライドに伴って回転するようにスライダ103と係合している(係合の詳細は後述する)。図3に示すように、回転体105の下側開口部105aには、磁石105Aが埋設されている。また、図3に示すように、回転体105の上部開口部105bには、ケース101の軸支部101Cが挿入されている。これにより、回転体105は、ケース101によって回転可能に支持される。また、回転体105の上部開口部105bには、ケース101の軸支部101Cの周囲に、環状のトーションばね105B(「付勢手段」の一例)が設けられている。トーションばね105Bの一端部は軸支部101Cに固定され、トーションばね105Bの他端部は回転体105に固定されている。これにより、回転体105は、トーションばね105Bの発生する弾性力により、上方から見て常に反時計回り(復帰回転方向)に付勢されている。回転体105は、プッシュ操作によるスライダ103の下方(Z軸負方向)へのスライドに伴って上方から見て時計回りに回転した後、プッシュ操作が解除されたとき、トーションばね105Bの発生する弾性力により、上方から見て反時計回り(復帰回転方向)に回転することができる。これにより、回転体105は、後述するラバーシート106のラバードーム106Aがスライダ103を上方(Z軸正方向)に押し上げて、スライダ103がプッシュ操作前の初期位置へ復帰する動作に伴って、回転体105の初期位置まで回転して復帰することができる。
【0019】
ラバーシート106は、基板107の上面107Aに重ねて設けられる、シート状の部材である。ラバーシート106は、弾性素材(例えば、シリコンゴム等)が用いられて形成される。ラバーシート106は、基板107の上面107Aを全域に亘って覆うことにより、ケース101の内部に水が浸入した場合であっても、基板107の上面107Aが被水してしまうことを抑制することができる。
【0020】
また、ラバーシート106には、各スライダ103の底面と対向した位置に、2つのラバードーム106Aが一体的に形成されている。各ラバードーム106Aは、「クリック感付与機構」の一例である。各ラバードーム106Aは、ラバーシート106の上面から上方に突出した凸状に形成されている。各ラバードーム106Aは、プッシュ操作がなされたときに、スライダ103の底面によって押圧されることにより、ドーム部が弾性変形(反転屈曲)し、プッシュ操作に対してクリック操作感を付与する。また、上述した通り、各ラバードーム106Aは、プッシュ操作が解除されたとき、当該ラバードーム106Aの発生する弾性力(初期形状への復帰力)により、スライダ103を上方(Z軸正方向)に押し上げて、スライダ103をプッシュ操作前の初期位置に復帰させることができる。
【0021】
基板107は、平板状の部品である。基板107は、平面視において四角形状を有する。基板107は、ケース101の内部において、XY平面に対して水平な姿勢で、カバー108の上面に固定的に設置される。基板107としては、例えば、PWB(Printed Wiring Board)が用いられる。基板107の上面107Aには、LED(Light Emitting Diode)107Bおよび磁気センサ107Cが実装されている。
【0022】
LED107Bは、ライトガイド104の直下となる位置に設けられている。LED107Bは、外部に設けられた制御装置120(図5参照)からの制御により、発光することができる。LED107Bは、発光することによって、ライトガイド104内に光を照射することができる。
【0023】
磁気センサ107Cは、回転体105の直下となる位置に設けられており、回転体105の下端面に設けられた磁石105Aと対向する。磁気センサ107Cは、磁石105Aの回転に伴う磁束方向の変化を検出することにより、回転体105の回転角度を検出することができる。そして、磁気センサ107Cは、検出された回転角度を示す回転角度信号を、コネクタ108Aを介して、外部に設けられた制御装置120(図5参照)へ出力することができる。なお、一実施形態に係るプッシュ式入力機構100は、回転角度を検出するための「センサ」の一例として、磁気センサ107C(GMRセンサ)を用いている。但し、これに限らず、プッシュ式入力機構100は、回転角度を検出するための「センサ」の他の一例として、その他の方式(例えば、光学式、機械式、静電式、抵抗式等)のセンサを用いてもよい。
【0024】
磁気センサ107Cは、回転体105の回転角度を検出する複数のGMR素子を有する。磁気センサ107Cが有する複数のGMR素子は、複数のセンサ部の一例である。磁気センサ107Cの構成については、図10Aを用いて後述する。
【0025】
カバー108は、ケース101の下側開口部101Bを閉塞する、樹脂製且つ平板状の部品である。カバー108は、当該カバー108を貫通する4本のねじ109によって、ケース101にねじ止め固定される。カバー108の底面には、四角筒状のコネクタ108Aが下方に突出して設けられている。コネクタ108Aの内部には、基板107の下面から下方に垂下して設けられた複数のコネクタピン(図示省略)が配置される。コネクタ108Aは、外部のコネクタ(図示省略)が嵌め込まれることにより、複数のコネクタピンを、外部のコネクタに電気的に接続させる。
【0026】
(プッシュ式シフタ装置10の電気的構成)
図5は、一実施形態に係るプッシュ式シフタ装置10の電気的構成を示す図である。また、図5には、実施形態のスイッチ装置50を示す。図5に示すように、プッシュ式シフタ装置10は、4つのプッシュ式入力機構100-1~100-4と、制御装置120とを備える。また、各プッシュ式入力機構100は、LED107Bおよび磁気センサ107Cを備える。
【0027】
制御装置120は、プッシュ式シフタ装置10が備えるコネクタ108A(図2および図3参照)を介して、各プッシュ式入力機構100が備えるLED107Bおよび磁気センサ107Cに接続される。制御装置120は、発光制御部121、切換判定部122、故障判定部123、及びメモリ124を備える。
【0028】
ここで、実施形態のスイッチ装置50は、磁気センサ107C、切換判定部122、故障判定部123、及びメモリ124を含む。図5には、スイッチ装置50がプッシュ式入力機構100-1の磁気センサ107Cを含むように示すが、スイッチ装置50は、複数の磁気センサ107Cを含んでもよく、プッシュ式入力機構100-1~100-4の4つの磁気センサ107Cを含む構成であってもよい。
【0029】
制御装置120は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、入出力インターフェース、及び内部バス等を含むコンピュータによって実現される。発光制御部121、切換判定部122、及び故障判定部123は、制御装置120が実行するプログラムの機能(ファンクション)を機能ブロックとして示したものである。また、メモリ124は、制御装置120のメモリを機能的に表したものである。
【0030】
発光制御部121は、各プッシュ式入力機構100が備えるLED107Bの発光を制御する。
【0031】
切換判定部122は、各プッシュ式入力機構100が備える磁気センサ107Cから供給された検出信号(すなわち、磁気センサ107Cによる回転角度の検出結果)に基づいて、各プッシュ式入力機構100について、プッシュ操作による操作ノブ102(スイッチの一例)の切換状態を判定する。詳細は後述するが、磁気センサ107Cは、操作ノブ102の操作位置に応じて、一例として4つの測定値を出力し、切換判定部122は、4つの測定値の測定レベルに基づく多数決に応じて操作ノブ102の切換状態を判定する。
【0032】
故障判定部123は、磁気センサ107Cが有する複数のGMR素子の各々の故障を判定する。プッシュ式シフタ装置10は、機能安全の製品なので、故障であっても、誤ってスイッチオンと判定することは許容されない。故障判定部123が行う具体的な処理については、図15A及び図15Bを用いて後述する。
【0033】
メモリ124は、故障判定部123の判定結果を保持する。磁気センサ107Cが有する複数のGMR素子の各々の故障についての故障判定部123の判定結果を事後的に取得可能にするためである。なお、ここでは、メモリ124が制御装置120に含まれる形態について説明するが、メモリ124は、制御装置120の外部に設けられていてもよい。
【0034】
(スライダ103の上側摺動部103Bおよび下側摺動部103C)
図6は、一実施形態に係るプッシュ式入力機構100-1が備えるスライダ103の外観斜視図である。図6では、プッシュ式入力機構100-1が備えるスライダ103の筒部103Aの、後側(X軸負側)の側面が示されている。図6に示すように、プッシュ式入力機構100-1が備えるスライダ103は、筒部103Aの後側(X軸負側)の側面に、上側摺動部103Bおよび下側摺動部103Cが突出して設けられている。
【0035】
上側摺動部103Bは、下側摺動部103Cよりも僅かに上方(Z軸正方向)且つ僅かに左方(Y軸負方向)に設けられている。上側摺動部103Bと下側摺動部103Cとの間には、隙間103Dが形成されている。上側摺動部103Bは、隙間103Dに面した曲面状(隙間103Dに向かって凸面状)の上側摺動面103Baを有する。下側摺動部103Cは、隙間103Dに面した曲面状(隙間103Dに向かって凸面状)の下側摺動面103Caを有する。上側摺動部103Bと下側摺動部103Cとは、後述するカム部105Dを挟んで互いに対向する位置に設けられている。(図8図9参照)
【0036】
(回転体105のカム部105D)
図7は、一実施形態に係るプッシュ式入力機構100-1が備える回転体105の側面図である。図7では、プッシュ式入力機構100-1が備える回転体105の、前側(X軸正側)の外周面105Cが示されている。図7に示すように、プッシュ式入力機構100-1が備える回転体105は、前側(X軸正側)の外周面105Cに、螺旋状のカム部105Dが突出して設けられている。カム部105Dは、上端部から下端部に向かって、外周面105Cに沿って、上方から見て反時計回りに延設されている。また、カム部105Dは、上端部から下端部に向かって、徐々に高さ位置が低くなるように、螺旋状に形成されている。カム部105Dの上側の傾斜面は、スライダ103の上側摺動面103Ba(図6参照)が当接して摺動可能な上側カム面105Da(「カム面」の一例)となっている。上側カム面105Daは、スライダ103のスライド力を、回転体105の回転力に変換する。また、カム部105Dの上側カム面105Daの裏側(下側)の傾斜面は、スライダ103の下側摺動面103Ca(図6参照)が当接して摺動可能な下側カム面105Dbとなっている。
【0037】
なお、図7に示すように、上側カム面105Daは、回転開始部分P1、回転中間部分P2、および回転終了部分P3を有する。
【0038】
回転開始部分P1は、操作ノブ102のストローク量がストローク量S1に達するまで(「回転体の回転開始時」に相当)、スライダ103の上側摺動部103Bが摺動する部分である。
【0039】
回転中間部分P2は、操作ノブ102のストローク量がストローク量S1からストローク量S2に達するまで(「回転体の回転中間時」に相当)、スライダ103の上側摺動部103Bが摺動する部分である。
【0040】
回転終了部分P3は、操作ノブ102のストローク量がストローク量S2以降のとき(「回転体の回転終了時」に相当)、スライダ103の上側摺動部103Bが摺動する部分である。
【0041】
(スライダ103と回転体105との係合状態)
図8および図9は、一実施形態に係るプッシュ式入力機構100-1における、スライダ103の上側摺動部103Bおよび下側摺動部103Cと、回転体105のカム部105Dとの係合状態を示す図である。なお、図8は、上方(Z軸正方向)且つ右方(Y軸正方向)から見た、スライダ103および回転体105の外観斜視図である。また、図9は、前方(X軸正方向)から見た、スライダ103および回転体105のYZ平面による断面図であり、スライダ103のみ断面を表している。
【0042】
図8および図9に示すように、回転体105のカム部105Dは、スライダ103における上側摺動部103Bと下側摺動部103Cとの間の隙間103D内に配置される。これにより、図9に示すように、カム部105Dの上側カム面105Daは、上側摺動部103Bの上側摺動面103Baに当接して摺動可能である。また、図9に示すように、カム部105Dの下側カム面105Dbは、下側摺動部103Cの下側摺動面103Caに当接して摺動可能である。
【0043】
これにより、一実施形態に係るプッシュ式入力機構100-1は、操作ノブ102のプッシュ操作に伴って、プッシュ操作に伴ってスライダ103が下方(Z軸負方向)へ移動したとき、スライダ103に設けられた上側摺動部103Bの上側摺動面103Baが、回転体105に設けられたカム部105Dの上側カム面105Daをその下端部に向けて摺動しつつ、回転体105を上方から見て時計回り方向に回転駆動する。これにより、一実施形態に係るプッシュ式入力機構100-1は、操作ノブ102のプッシュ操作に伴って、回転体105を上方から見て時計回りに回転駆動させることができる。また、トーションばね105Bの発生する弾性力により、回転体105は、上方から見て常に反時計回り(復帰回転方向)に付勢されているので、カム部105Dの上側カム面105Daは、上側摺動部103Bの上側摺動面103Baに常に当接する。このため、一実施形態に係るプッシュ式入力機構100-1は、振動や衝撃があっても、回転体105がスライダ103から離れて回転してしまうことがなく、確実にプッシュ操作に伴う回転体105の回転角度を、スライダ103の下方(Z軸負方向)への移動量に応じたものとすることができる。
【0044】
また、一実施形態に係るプッシュ式入力機構100-1は、操作ノブ102のプッシュ操作が解除されたとき、回転体105の上部開口部105bに設けられているトーションばね105Bの発生する弾性力により、回転体105を上方から見て反時計回りに回転させることができる。これにより、一実施形態に係るプッシュ式入力機構100-1は、回転体105に設けられたカム部105Dの上側カム面105Daが、スライダ103に設けられた上側摺動部103Bの上側摺動面103Baに常に当接して摺動しつつ、ラバードーム106Aの弾性力によるスライダ103の上方(Z軸正方向)への移動に回転体105が追従して回転する。その結果、一実施形態に係るプッシュ式入力機構100-1は、ラバードーム106Aによってスライダ103を上方(Z軸正方向)に押し上げて、スライダ103をプッシュ操作前の初期位置に復帰させるとともに、回転体105を初期位置に復帰させることができる。
【0045】
また、一実施形態に係るプッシュ式入力機構100-1は、スライダ103が下側摺動部103Cを有する。これにより、一実施形態に係るプッシュ式入力機構100-1は、操作ノブ102のプッシュ操作が解除されたときに、スライダ103がラバードーム106Aからの付勢力によって上方に移動したにも関わらず、回転体105の異物等による引っ掛かりによって、トーションばね105Bの発生する弾性力による回転体105の復帰回転方向(上方から見て反時計回り方向)への回転に不具合が生じ、スライダ103の上方への移動に回転体105の回転が追従できなくなった場合、通常の復帰の状態では、カム部105Dの下側カム面105Dbとは隙間を有して離れているスライダ103の下側摺動部103Cが、ラバードーム106Aの押し上げ力によって上方に移動されると、その場で止まっている回転体105に設けられたカム部105Dの下側カム面105Dbに当接し、下側カム面105Dbをその上端部に向けて摺動しつつ、回転体105を復帰回転方向(上方から見て反時計回り方向)に回転駆動することができる。これにより、一実施形態に係るプッシュ式入力機構100-1は、異物等による引っ掛かりによって、トーションばね105Bの発生する弾性力だけでは回転体105を回転駆動させることができなくなった場合であっても、回転体105を復帰回転方向(上方から見て反時計回り方向)へ強制的に回転させることができ、回転体105をプッシュ操作前の初期の回転角度に確実に復帰させることができる。
【0046】
さらに、一実施形態に係るプッシュ式入力機構100-1は、仮にカム部105D、もしくはスライダ103の上側摺動部103Bと下側摺動部103Cの両方が破損して無くなった場合であっても、トーションばね105Bからの復帰回転方向への付勢力によって、回転体105を初期の回転角度に復帰させることができる。
【0047】
なお、上側摺動部103Bと下側摺動部103Cとの間の隙間103Dには、当該隙間103D内でカム部105Dが滑らかに摺動できるように、カム部105Dに対する僅かなクリアランスが設けられている。このクリアランスは、隙間103D内におけるカム部105Dのがたつきを生じさせてしまう虞がある。
【0048】
しかしながら、上述した通り、一実施形態に係るプッシュ式入力機構100-1は、回転体105に設けられたトーションばね105Bの発生する付勢力により、カム部105Dを、上方から見て反時計回りに回転するように付勢している。これにより、一実施形態に係るプッシュ式入力機構100-1は、カム部105Dを、常に上側摺動部103Bに押し当たる方向に付勢することができ、すなわち、カム部105Dを隙間103D内で一方向に片寄せすることで、がたつきを抑制することができる。よって、衝撃や振動を受けた際にも、カム部105Dのがたつきに起因して、回転体105の回転角度が不安定化してしまうことを抑制することができる。
【0049】
さらに、上述した通り、一実施形態に係るプッシュ式入力機構100-1は、カム部105Dを、常に上側摺動部103Bに当接する方向に付勢することにより、スライダ103の急激な操作に対する回転体105の先行回転(回り過ぎ)を抑制することができ、よって、スライダ103の上下方向(Z軸方向)へのスライドに対し、回転体105の回転動作を確実に追従させることができる。
【0050】
また、回転体105と、回転体105を回転可能に支持する部品(ケース101の軸支部101Cおよび一対の支持部101E(図4参照))との間には、回転体105を滑らかに回転させるための僅かなクリアランスが設けられている。このクリアランスは、回転体105に対し、水平方向および上下方向のがたつきを生じさせてしまう虞がある。そこで、一実施形態に係るプッシュ式入力機構100-1は、上側摺動面103Baおよび上側カム面105Daの各々を、回転体105の半径方向における外側に向かって徐々に高さ位置が低くなるように、所定の傾斜角度を有して傾斜させている。この傾斜により、カム部105Dの回転中心軸方向(上下方向)の板厚は、半径方向における内側部から外側部へ行くほど薄く設定されている。この傾斜は、トーションばね105Bからの付勢力によって、上側カム面105Daが上側摺動面103Baに押し当てられたときに、回転体105に対し、上側カム面105Daの傾斜した面に対して垂直な方向への反力を生じさせる。この反力の分力が、下向き(支持部101E向き)および水平(回転中心軸向き)の反力となる。一実施形態に係るプッシュ式入力機構100-1は、この反力によって、回転体105を、上記した回転体105を回転可能に支持する部品との間のクリアランス内で、下向き(支持部101E向き)および水平(回転中心軸向き)に付勢して片寄せすることができる。したがって、一実施形態に係るプッシュ式入力機構100-1は、回転体105の水平方向および上下方向へのがたつきを抑制し、回転体105を安定的に回転させることができる。よって、スライダ103の上下方向(Z軸方向)へのスライドに対し、回転体105の回転動作を確実に追従させることができる。
【0051】
なお、本実施形態では、「ドーム状弾性体」の一例として、ラバードーム106Aを用いているが、これに限らず、「ドーム状弾性体」の他の一例として、反転動作可能な金属ドーム部材等を用いてもよい。
【0052】
なお、以上では、「カム面」を回転体105に設けるようにしているが、これに限らず、「カム面」をスライダ103に設けるようにしてもよい。
【0053】
<スイッチ装置50が行う切換判定と故障判定>
スイッチ装置50(図5参照)では、切換判定部122は、磁気センサ107Cの4つの出力に基づく多数決に応じて操作ノブ102の切換状態を判定し、故障判定部123は、磁気センサ107Cが有する複数のGMR素子の各々の故障を判定する。ここでは、磁気センサ107Cの4つの出力について説明する。
【0054】
<磁気センサ107Cの構成>
図10Aは、磁気センサ107Cの構成を示す図である。磁気センサ107Cは、4つのGMRセンサ部107C1~107C4を有する。GMRセンサ部107C1~107C4は、複数のセンサ部の一例であり、ここでは磁気センサ107Cが4つのGMRセンサ部107C1~107C4を有する形態について説明する。なお、磁気センサ107Cが有するGMRセンサ部の数は、3つ以上であればよい。
【0055】
GMRセンサ部107C1~107C4の各々は、図10Aに示すように、電源Vddとグランド(GND)の間で直列に接続される2つのGMR素子を有し、GMRセンサ部107C1及び107C2は並列に接続され、GMRセンサ部107C3及び107C4は並列に接続される。
【0056】
GMRセンサ部107C1~107C4の各々のGMR素子は、操作ノブ102のプッシュ操作に伴う磁石105Aの回転によって磁束の方向が変化すると、抵抗値が変化し、直列に接続される2つのGMR素子の接続点から正弦波を出力する。GMRセンサ部107C1及び107C2は、位相が180度異なる+SIN信号1及び-SIN信号1を出力するように、GMRセンサ部107C1及び107C2に含まれる4つのGMR素子の極性が設定されている。同様に、GMRセンサ部107C3及び107C4は、位相が180度異なる+SIN信号2及び-SIN信号2を出力するように、GMRセンサ部107C3及び107C4に含まれる4つのGMR素子の極性が設定されている。
【0057】
プッシュ式シフタ装置10は、+SIN信号1、-SIN信号1、+SIN信号2、及び-SIN信号2に基づいて、回転体105の回転角度を検出することができる。回転体105の回転角度は、操作ノブ102のプッシュ操作によるプッシュ操作量に相当する。プッシュ操作量は、操作ノブ102を下方に押し下げる量である。
【0058】
図10Bは、磁気センサ107Cが出力する+SIN信号1及び-SIN信号1の波形の一例を示す図である。図10Bにおいて、横軸は磁石105Aの回転角度を表し、縦軸は+SIN信号1及び-SIN信号1の電圧値を表す。磁石105Aの回転角度が-30度の位置(左端)は、操作ノブ102にプッシュ操作が行われておらず、プッシュ操作量がゼロの状態に相当する。磁石105Aの回転角度が+30度の位置(右端)は、操作ノブ102にプッシュ操作が行われて、操作ノブ102が一番下まで完全に押し下げられている状態に相当する。この状態でのプッシュ操作量は最大値である。
【0059】
プッシュ操作による磁石105Aの回転角度の変化に伴い、+SIN信号1及び-SIN信号1は、図10Bに示すように±30度の範囲で変化する。このときに、磁石105Aの回転角度が0度の前後の角度範囲ARでは、+SIN信号1及び-SIN信号1が線形的に変化する。角度範囲ARは、一例として±30度の範囲である。なお、ここでは、+SIN信号1及び-SIN信号1の波形について説明するが、+SIN信号2及び-SIN信号2についても同様である。
【0060】
なお、プッシュ操作による磁石105Aの回転角度の変化に伴い、+SIN信号1及び-SIN信号1が±30度の範囲で変化するのは具体例の1つであり、±30度に限定されない。プッシュ操作による磁石105Aの回転角度の変化に伴う+SIN信号1及び-SIN信号1の変化の範囲が、+SIN信号1及び-SIN信号1が線形的に変化する範囲内であれば、どの範囲の角度でもよい。
【0061】
図10Cは、角度範囲ARを拡大して示す図である。図10Cにおいて、横軸は磁石105Aの回転角度を表し、縦軸は+SIN信号1及び-SIN信号1の電圧値を表す。図10Cには+SIN信号1及び-SIN信号1の波形を示すが、+SIN信号2及び-SIN信号2の波形も同様である。
【0062】
プッシュ式シフタ装置10は、磁気センサ107Cが出力する+SIN信号1、-SIN1信号、+SIN信号2、及び-SIN信号2が、磁石105Aの回転角度に対して線形的に変化する角度範囲ARを利用して、プッシュ操作によるプッシュ操作によるスイッチオン/スイッチオフ判定(オン/オフ判定)を行う。
【0063】
<+SIN信号1、-SIN1信号、+SIN信号2、及び-SIN信号2の出力値の校正>
図11は、+SIN信号1の出力値の校正を説明する図である。図11において、横軸は磁石105Aの回転角度を表し、縦軸は+SIN信号1の電圧値を表す。実線は、GMRセンサ部107C1(図10A参照)が実際に出力する+SIN信号1(出力値)を表す。
【0064】
GMRセンサ部107C1は、内蔵するGMR素子の個体差等により、出力値にばらつきがある。これは、GMRセンサ部107C2~107C4も同様である。切換判定部122が磁気センサ107CのGMRセンサ部107C1~107C4の4つの出力に基づく多数決に応じて操作ノブ102の切換状態を判定する際に、GMRセンサ部107C1~107C4の4つの出力値にばらつきがあると、操作ノブ102の正確なプッシュ操作量が分からない。このため、GMRセンサ部107C1~107C4の4つの実際の出力値を統一した基準で校正し、校正した出力値をGMRセンサ部107C1~107C4の測定値として取り扱う。測定値は、角度(磁石105Aの回転角度)を表し、回転体105の回転角度は、操作ノブ102のプッシュ操作によるプッシュ操作量に相当するため、測定値は、角度(磁石105Aの回転角度)を表すとともに、操作ノブ102のプッシュ操作量を表す。
【0065】
一例として、プッシュ式入力機構100を組み立てた後に、操作ノブ102をプッシュ操作し、共通のプッシュ操作量(操作位置)にある状態において、GMRセンサ部107C1~107C4の4つの出力値を測定することで、共通のプッシュ操作量(操作位置)におけるGMRセンサ部107C1~107C4の出力値を校正する。共通のプッシュ操作量(操作位置)にある状態において測定されるGMRセンサ部107C1~107C4の4つの出力値は、実測値である。
【0066】
例えば、共通のプッシュ操作量(操作位置)が0度に相当し、角度が0度のときのGMRセンサ部107C1~107C4の出力値の理論出力値が0(V)であるとする。また、図11に実線で示すように、GMRセンサ部107C1が出力する+SIN信号1の出力が角度0度の位置において0(V)から-V1(V)だけずれているとする。-V1(V)は、GMRセンサ部107C1~107C4の出力値と理論出力値との差分であり、GMRセンサ部107C1~107C4の出力値の誤差である。
【0067】
このような場合に、GMRセンサ部107C1の出力値から誤差(-V1)を減じて得る値は、破線で示すように角度0度の位置において0(V)になる特性を示す。破線が示す特性は、出力値の特性を校正した測定値の特性である。このように、共通のプッシュ操作量(操作位置)における誤差を校正する作業をGMRセンサ部107C1~107C4の出力値(+SIN信号1、-SIN1信号、+SIN信号2、及び-SIN信号2)に対して行えば、プッシュ操作量に対する+SIN信号1、-SIN1信号、+SIN信号2、及び-SIN信号2の特性を揃えることができる。GMRセンサ部107C1~107C4の出力値と理論出力値との誤差は、校正値である。
【0068】
GMRセンサ部107C1~107C4が出力する+SIN信号1、-SIN1信号、+SIN信号2、及び-SIN信号2は、デジタル値に変換してから制御装置120に入力されるため、+SIN信号1、-SIN1信号、+SIN信号2、及び-SIN信号2の出力値をデジタル変換したデジタル値から、実測値と理論出力値との誤差(校正値)を減じた値をGMRセンサ部107C1~107C4の測定値として制御装置120に入力すればよい。このような校正によって得られる測定値の角度に対する特性は、操作ノブ102の実際のプッシュ操作量を略正確に表している。このため、切換判定部122は、操作ノブ102の実際のプッシュ操作量に応じて、操作ノブ102の切換状態を高精度に判定することができる。また、故障判定部123は、操作ノブ102の実際のプッシュ操作量に応じて、故障判定を高精度に行うことができる。
【0069】
<オフ範囲、ヒステリシス領域、及びオン範囲>
図12は、角度範囲ARに含まれる、オフ範囲、ヒステリシス領域、及びオン範囲を示す図である。図12は、オフ範囲、ヒステリシス領域、及びオン範囲を説明する図であり、実施形態のスイッチ装置50における故障の判定方法を説明する図ではない。
【0070】
図12において、横軸は角度範囲ARにおける角度を表す。縦方向には、+SIN信号1、-SIN信号1、+SIN信号2、及び-SIN信号2が表す角度(測定値)を4行に並べて示す。
【0071】
オフ範囲は、第1レベル範囲の一例である。第1レベル範囲の一例としてのオフ範囲は、操作ノブ102の切換状態のオフという第1レベルに相当する角度(測定値)の範囲である。オン範囲は、第2レベル範囲の一例である。第2レベル範囲の一例としてのオン範囲は、操作ノブ102の切換状態のオンという第2レベルに相当する角度(測定値)の範囲である。オフ範囲とオン範囲の間は、ヒステリシス領域である。また、ヒステリシス領域は、第3レベル範囲の一例である。角度範囲ARは、一例として-30度から+30度であるため、オフ範囲は、-30度からヒステリシス領域の下限角度A1未満の角度(測定値)の範囲であり、オン範囲は、ヒステリシス領域の上限角度A2よりも大きく、+30度までの角度(測定値)の範囲である。ヒステリシス領域は、0度を含む角度(測定値)の範囲(領域)である。以下では、オフ範囲とオン範囲のことをレベル範囲と称す場合がある。レベル範囲は、角度(測定値)のレベルを表す範囲である。
【0072】
+SIN信号1、-SIN信号1、+SIN信号2、及び-SIN信号2が表す角度を黒丸(●)のマーカで示す。図12では、一例として、+SIN信号1、-SIN信号1、+SIN信号2、及び-SIN信号2が表す角度は、すべてオン範囲に入っている。
【0073】
図13Aは、比較用の故障判定方法を説明する図である。+SIN信号1、-SIN信号1、+SIN信号2、及び-SIN信号2が表す角度(測定値)が黒丸(●)であり、実際には、+SIN信号1を出力するGMRセンサ部107C1が故障して、+SIN信号1が表す角度がオフ範囲内の値に固定されているとする。
【0074】
このような場合に、比較用の故障判定方法は、+SIN信号1、-SIN信号1、+SIN信号2、及び-SIN信号2の出力に基づいて、単純に多数決で故障判定を行う。オフ範囲に+SIN信号1の1つのみがあり、オン範囲に-SIN信号1、+SIN信号2、及び-SIN信号2の3つがあるため、1対3になる。この結果、比較用の故障判定方法は、+SIN信号1を出力するGMRセンサ部107C1が故障していると判定することになる。
【0075】
図13Bは、比較用の故障判定方法の1つの問題点を説明する図である。例えば、操作ノブ102に対するプッシュ操作を非常にゆっくり行うと、GMRセンサ部107C1~107C4の角度(測定値)の変化の仕方にばらつきがある場合には、図13Bに示すように、+SIN信号1が表す角度がオフ範囲であり、-SIN信号1、+SIN信号2、及び-SIN信号2が表す角度がオン範囲に入る場合が有り得る。プッシュ操作で操作ノブ102を中程まで押圧しているときに、-SIN信号1、+SIN信号2、及び-SIN信号2が表す角度がオン範囲に入っても、+SIN信号1が表す角度がオフ範囲である場合が有り得る。このような場合には、+SIN信号1を出力するGMRセンサ部107C1が故障しているのか、GMRセンサ部107C1~107C4の角度(測定値)の変化の仕方にばらつきによるものであるのか、どちらであるか判定できない。また、安全要件を満たす早い時間で故障との判定を確定させる必要があるが、図13Bに示すような状態の場合には、誤判定する可能性が増大する。
【0076】
そこで、実施形態のスイッチ装置50は、図14A及び図14Bで説明する方法によって故障を判定する。
【0077】
<実施形態のスイッチ装置50が行う故障判定>
図14A及び図14Bは、実施形態のスイッチ装置50が行う故障判定を説明する図である。図14A及び図14Bには、+SIN信号1、-SIN信号1、+SIN信号2、及び-SIN信号2が表す角度を示す4行の欄の左端に、+SIN信号1、-SIN信号1、+SIN信号2、及び-SIN信号2を出力するGMRセンサ部107C1~107C4についての故障判定部123の判定結果を示す欄を示す。ここでは、判定結果を○(正常)と×(故障)で表す。
【0078】
実施形態の故障判定では、+SIN信号1、-SIN信号1、+SIN信号2、及び-SIN信号2の各々の測定値に対して、測定値を中央値とする所定範囲Eを設ける。すなわち、所定範囲Eは、+SIN信号1、-SIN信号1、+SIN信号2、及び-SIN信号2の各々の測定値よりもE/2(V)低い下限値から、+SIN信号1、-SIN信号1、+SIN信号2、及び-SIN信号2の各々の測定値よりもE/2(V)高い上限値までの範囲である。
【0079】
所定範囲Eは、故障が生じていない正常な状態のGMRセンサ部107C1~107C4の測定値に生じうる誤差範囲に相当する。また、このような所定範囲Eは、一例として、測定値の測定レベルの高低方向において、ヒステリシス領域の下限角度A1から上限角度A2までの範囲よりも広い。このため、GMRセンサ部の測定誤差を考慮して、スイッチ装置50は、故障判定における誤判定を低減することができる。
【0080】
スイッチ装置50は、+SIN信号1、-SIN信号1、+SIN信号2、及び-SIN信号2の出力値を共通のプッシュ操作量(操作位置)にある状態の一例として角度0度の状態で校正し、出力値を校正して得る測定値を用いて故障判定を行う。測定値の所定範囲Eは、GMRセンサ部107C1~107C4の個体差等によって生じうる誤差範囲として用いられる。所定範囲Eは、+SIN信号1、-SIN信号1、+SIN信号2、及び-SIN信号2の各々の測定値に基づいて、多数決で故障判定を行う際に用いる際に用いられる。
【0081】
例えば、故障判定部123が+SIN信号1を出力するGMRセンサ部107C1についての故障判定を行う際に、+SIN信号1の測定値の所定範囲E内に、+SIN信号1以外の-SIN信号1、+SIN信号2、及び-SIN信号2の測定値の半数以上が存在すれば、故障判定部123は、GMRセンサ部107C1が正常であると判定する。一方、+SIN信号1の測定値の所定範囲E内に、+SIN信号1以外の-SIN信号1、+SIN信号2、及び-SIN信号2の測定値の半数以上が存在しなければ、故障判定部123は、GMRセンサ部107C1は故障していると判定する。
【0082】
スイッチ装置50がGMRセンサ部107C1の故障判定を行う際に、GMRセンサ部107C1が出力する+SIN信号1以外の-SIN信号1、+SIN信号2、及び-SIN信号2の測定値は、他のセンサ部(GMRセンサ部107C2~107C4)の測定値である。故障判定部123が、+SIN信号1以外の-SIN信号1、+SIN信号2、及び-SIN信号2の測定値の半数以上が存在するかどうかを判定することは、他のセンサ部(GMRセンサ部107C2~107C4)の測定値の半数以上が+SIN信号1の測定値の所定範囲E内に存在するかどうかを判定することである。
【0083】
スイッチ装置50は、GMRセンサ部107C2~107C4について、上述のGMRセンサ部107C1についての故障判定と同様に、他のセンサ部の測定値の半数以上が所定範囲E内に存在するかどうかで、故障判定を行えばよい。
【0084】
図14Aでは、+SIN信号1、-SIN信号1、+SIN信号2、及び-SIN信号2の測定値は、すべてオン範囲内にあり、+SIN信号1、-SIN信号1、+SIN信号2、及び-SIN信号2の各々の測定値の所定範囲E内に、他のGMRセンサ部の測定値が存在する。このため、故障判定部123は、GMRセンサ部107C1~107C4のすべてが正常であると判定する。また、切換判定部122は、多数決で、操作ノブ102の切換状態はオンであると判定する。
【0085】
また、図14Bでは、+SIN信号1の測定値がオフ範囲内にあり、-SIN信号1の測定値がヒステリシス領域内にあり、+SIN信号2及び-SIN信号2の測定値がオン範囲内にある。
【0086】
この場合に、故障判定部123は、+SIN信号1を出力するGMRセンサ部107C1について故障判定を行い、+SIN信号1の測定値の所定範囲E内に、他のセンサ部の測定値の半数以上が存在するかどうかを判定する。+SIN信号1の測定値の所定範囲E内に、+SIN信号1以外の-SIN信号1、+SIN信号2、及び-SIN信号2の測定値が1つも存在しないため、故障判定部123は、GMRセンサ部107C1は故障していると判定する。この状態は、+SIN信号1について、他のセンサ部の測定値の半数以上が所定範囲E内に存在しない状態に該当する。このため、故障判定の結果は、×(故障)である。
【0087】
また、故障判定部123は、-SIN信号1を出力するGMRセンサ部107C2について故障判定を行い、-SIN信号1の測定値の所定範囲E内に、他のセンサ部の測定値の半数以上が存在するかどうかを判定する。-SIN信号1の測定値の所定範囲E内に、+SIN信号2及び-SIN信号2の2つの測定値が存在するため、故障判定部123は、GMRセンサ部107C2は正常であると判定する。この状態は、-SIN信号1について、他のセンサ部の測定値の半数以上が所定範囲E内に存在する状態に該当する。このため、故障判定の結果は、○(正常)である。
【0088】
また、故障判定部123は、+SIN信号2を出力するGMRセンサ部107C3について故障判定を行い、+SIN信号2の測定値の所定範囲E内に、他のセンサ部の測定値の半数以上が存在するかどうかを判定する。+SIN信号2の測定値の所定範囲E内に、-SIN信号1及び-SIN信号2の2つの測定値が存在するため、故障判定部123は、GMRセンサ部107C3は正常であると判定する。この状態は、+SIN信号2について、他のセンサ部の測定値の半数以上が所定範囲E内に存在する状態に該当する。このため、故障判定の結果は、○(正常)である。
【0089】
また、故障判定部123は、-SIN信号2を出力するGMRセンサ部107C4について故障判定を行い、-SIN信号2の測定値の所定範囲E内に、他のセンサ部の測定値の半数以上が存在するかどうかを判定する。-SIN信号2の測定値の所定範囲E内に、-SIN信号1及び+SIN信号2の2つの測定値が存在するため、故障判定部123は、GMRセンサ部107C4は正常であると判定する。この状態は、-SIN信号2について、他のセンサ部の測定値の半数以上が所定範囲E内に存在する状態に該当する。このため、故障判定の結果は、○(正常)である。
【0090】
図14Bに示すように、GMRセンサ部107C1が故障と判定されるとともに、GMRセンサ部107C2~107C4が正常と判定された場合に、正常な3つのGMRセンサ部107C2~107C4の出力のうち、GMRセンサ部107C2の測定値はヒステリシス領域内にあり、GMRセンサ部107C3及び107C4の測定値はオン範囲内にある。この場合に、切換判定部122は、正常な3つのGMRセンサ部107C2~107C4の測定値の過半数がオン範囲内にあることから、操作ノブ102はオンであると判定する。
【0091】
図15Aは、故障判定部123が実行する故障判定の処理を示すフローチャートである。故障判定部123は、故障判定の処理をスタートすると、以下の処理を行う。
【0092】
故障判定部123は、GMRセンサ部107C1~107C4の出力値を校正する(ステップS1)。+SIN信号1、-SIN信号1、+SIN信号2、及び-SIN信号2の出力値は、図11を用いて+SIN信号1について説明したように、一例として角度が0度のときのGMRセンサ部107C1~107C4の出力の理論出力値(0(V))を用いて校正される。故障判定部123は、GMRセンサ部107C1~107C4の出力値を校正して得る測定値を用いて、故障判定を行う。
【0093】
故障判定部123は、GMRセンサ部107C1について故障判定を行い、+SIN信号1の測定値の所定範囲E内に、他のGMRセンサ部の測定値の半数以上が存在するかどうかを判定する(ステップS2)。
【0094】
故障判定部123は、+SIN信号1の測定値の所定範囲E内に、他のGMRセンサ部の測定値の半数以上が存在する(S2:YES)と判定すると、GMRセンサ部107C1は正常であると判定する(ステップS3A)。故障判定部123は、GMRセンサ部107C1が正常であることを表すデータをメモリ124に格納する。故障判定部123は、ステップS3Aの処理を終えると、フローをステップS4に進める。
【0095】
一方、故障判定部123は、ステップS2において、+SIN信号1の測定値の所定範囲E内に、他のGMRセンサ部の測定値の半数以上が存在しない(S2:NO)と判定すると、GMRセンサ部107C1は故障していると判定する(ステップS3B)。故障判定部123は、GMRセンサ部107C1は故障していることを表すデータをメモリ124に格納する。故障判定部123は、ステップS3Bの処理を終えると、フローをステップS4に進める。
【0096】
故障判定部123は、GMRセンサ部107C2について故障判定を行い、-SIN信号1の測定値の所定範囲E内に、他のGMRセンサ部の測定値の半数以上が存在するかどうかを判定する(ステップS4)。
【0097】
故障判定部123は、-SIN信号1の測定値の所定範囲E内に、他のGMRセンサ部の測定値の半数以上が存在する(S4:YES)と判定すると、GMRセンサ部107C2は正常であると判定する(ステップS5A)。故障判定部123は、GMRセンサ部107C2が正常であることを表すデータをメモリ124に格納する。故障判定部123は、ステップS5Aの処理を終えると、フローをステップS6に進める。
【0098】
一方、故障判定部123は、ステップS4において、-SIN信号1の測定値の所定範囲E内に、他のGMRセンサ部の測定値の半数以上が存在しない(S4:NO)と判定すると、GMRセンサ部107C2は故障していると判定する(ステップS5B)。故障判定部123は、GMRセンサ部107C2は故障していることを表すデータをメモリ124に格納する。故障判定部123は、ステップS5Bの処理を終えると、フローをステップS6に進める。
【0099】
故障判定部123は、GMRセンサ部107C3について故障判定を行い、+SIN信号2の測定値の所定範囲E内に、他のGMRセンサ部の測定値の半数以上が存在するかどうかを判定する(ステップS6)。
【0100】
故障判定部123は、+SIN信号2の測定値の所定範囲E内に、他のGMRセンサ部の測定値の半数以上が存在する(S6:YES)と判定すると、GMRセンサ部107C3は正常であると判定する(ステップS7A)。故障判定部123は、GMRセンサ部107C3が正常であることを表すデータをメモリ124に格納する。故障判定部123は、ステップS7Aの処理を終えると、フローをステップS8に進める。
【0101】
一方、故障判定部123は、ステップS6において、+SIN信号2の測定値の所定範囲E内に、他のGMRセンサ部の測定値の半数以上が存在しない(S6:NO)と判定すると、GMRセンサ部107C3は故障していると判定する(ステップS7B)。故障判定部123は、GMRセンサ部107C3は故障していることを表すデータをメモリ124に格納する。故障判定部123は、ステップS7Bの処理を終えると、フローをステップS8に進める。
【0102】
故障判定部123は、GMRセンサ部107C4について故障判定を行い、-SIN信号2の測定値の所定範囲E内に、他のGMRセンサ部の測定値の半数以上が存在するかどうかを判定する(ステップS8)。
【0103】
故障判定部123は、-SIN信号2の測定値の所定範囲E内に、他のGMRセンサ部の測定値の半数以上が存在する(S8:YES)と判定すると、GMRセンサ部107C4は正常であると判定する(ステップS9A)。故障判定部123は、GMRセンサ部107C4が正常であることを表すデータをメモリ124に格納する。故障判定部123は、ステップS9Aの処理を終えると、フローを図15Bに示すステップS10に進める。
【0104】
一方、故障判定部123は、ステップS8において、-SIN信号2の測定値の所定範囲E内に、他のGMRセンサ部の測定値の半数以上が存在しない(S8:NO)と判定すると、GMRセンサ部107C4は故障していると判定する(ステップS9B)。故障判定部123は、GMRセンサ部107C4は故障していることを表すデータをメモリ124に格納する。
【0105】
以上で、GMRセンサ部107C1~107C4について故障判定部123が行う故障判定の処理が終了する。故障判定部123は、ステップS9Bの処理を終えると、フローを図15Bに示すステップS10に進める。
【0106】
図15Bは、切換判定部122及び故障判定部123が実行する処理を示すフローチャートである。
【0107】
故障判定部123は、ステップS2~S9A又はS9Bの処理の判定結果を集計する(ステップS10)。
【0108】
故障判定部123は、集計結果に基づいて、故障と判定されていないGMRセンサ部の数が複数であるかどうかを判定する(ステップS11)。
【0109】
切換判定部122は、故障判定部123が複数のGMRセンサ部107C1~107C4の各々について故障を判定した結果、故障と判定されていないGMRセンサ部の数が複数である(S11:YES)と判定した場合には、故障と判定されていないGMRセンサ部の測定値の各々の測定レベルに基づく多数決に応じて操作ノブ102の切換状態を判定する(ステップS12A)。スイッチ装置50が4つのGMRセンサ部107C1~107C4を含む場合に、故障と判定されていないGMRセンサ部の数が複数あるのは、故障と判定されたGMRセンサ部の数が0~2個の場合である。故障と判定されたGMRセンサ部の数が0である場合には、切換判定部122は、4つのGMRセンサ部107C1~107C4の測定値の各々の測定レベルに基づく多数決に応じて操作ノブ102の切換状態を判定すればよい。また、故障と判定されたGMRセンサ部の数が1個である場合には、切換判定部122は、正常な3つのGMRセンサ部の測定値の各々の測定レベルに基づく多数決に応じて操作ノブ102の切換状態を判定すればよい。この場合の一例は、図14Bを用いて説明した通りである。また、故障と判定されたGMRセンサ部の数が2個である場合には、切換判定部122は、正常な2つのGMRセンサ部の測定値の各々の測定レベルに基づく多数決に応じて操作ノブ102の切換状態を判定すればよい。正常なGMRセンサ部が2つの場合の多数決は、2つの測定値の測定レベルが、ともにオフ範囲又はオン範囲に属する場合に決定する。このため、正常なGMRセンサ部が2つの場合には、2つの測定値の測定レベルが、ともにオフ範囲にあれば、切換判定部122は切換状態がオフであると判定すればよい。また、2つの測定値の測定レベルが、ともにオン範囲にあれば、切換判定部122は切換状態がオンであると判定すればよい。
【0110】
また、故障判定部123が複数のGMRセンサ部107C1~107C4の各々について故障を判定した結果、故障と判定されたGMRセンサ部の数が複数のGMRセンサ部107C1~107C4のうちの半数未満である場合には、以後(故障の発生後)、スイッチ装置50は、故障と判定されていないGMRセンサ部の測定値を利用して継続的に動作する。例えば、GMRセンサ部107C1~107C4のうちの1つが故障しても、正常に動作している残りのGMRセンサ部が複数あることから、正常に動作している残りの3つのGMRセンサ部の測定値の多数決に応じて操作ノブ102の切換状態の判定を継続することにより、故障の発生後においても、操作者は、故障が発生する前と同様にスイッチ装置50を利用することができる。
【0111】
なお、切換判定部122は、複数の測定値の中に、オフ範囲内の測定値が複数あるとともに、オン範囲内の測定値が複数あり、オフ範囲内の測定値の数と、オン範囲内の測定値の数とが等しい場合には、操作ノブ102の切換状態を判定しない。換言すれば、切換判定部122は、複数の測定値の中に、最も多くの測定値が入ったレベル範囲(オン範囲又はオフ範囲)の数が複数ある場合には、操作ノブ102の切換状態を判定しない。切換判定部122が操作ノブ102の切換状態を多数決で判定することができないからである。例えば、切換判定部122は、4つの測定値のうちの2つがオフ範囲内にあり、残りの2つがオン範囲にあるような場合には、多数決でオン/オフを判定できないので、操作ノブ102の切換状態を判定しない。この場合に、切換判定部122は、前回の処理における判定結果を出力してもよい。また、複数の測定値の中に、オフ範囲内の測定値が複数あるとともに、オン範囲内の測定値が複数あり、オフ範囲内の測定値の数と、オン範囲内の測定値の数とが等しい状態が解消するまで、切換判定部122が判定を保留し、多数決の判定ができるようになるまで待機してもよい。また、切換判定部122は、正常に動作している3つのGMRセンサ部の測定値の測定レベルのうちの1つがオフ範囲にあり、もう1つがヒステリシス領域にあり、残りの1つがオン範囲にある場合にも、多数決でオン/オフを判定できないので、操作ノブ102の切換状態を判定しない。この場合にも、切換判定部122は、前回の処理における判定結果を出力してもよい。また、多数決の判定ができるようになるまで待機してもよい。
【0112】
また、故障判定部123は、ステップS11において、複数のGMRセンサ部107C1~107C4の各々について故障を判定した結果、故障と判定されていないGMRセンサ部の数が複数ではない(S11:NO)と判定した場合には、以後(故障の発生後)は使用不可能な完全故障と判定し、判定結果を出力する(ステップS12B)。正常に動作している残りのGMRセンサ部が複数ない場合には、切換判定部122が操作ノブ102の切換状態を適切に判定することは困難だからである。完全故障とは、故障したGMRセンサ部の交換、又は、新たなプッシュ式シフタ装置10との交換を行う必要がある状態をいう。GMRセンサ部107C1~107C4のうちの3つ以上が故障した場合には、故障判定部123は、以後は使用不可能な完全故障と判定し、判定結果を出力する。また、スイッチ装置50が車両に搭載されている場合には、スイッチ装置50は、車載ネットワーク等を通じて車両の利用者(スイッチ装置50の操作者)等に完全故障であることを通知してもよい。利用者(スイッチ装置50の操作者)がスイッチ装置50及びプッシュ式シフタ装置10を継続的に使用することを防ぎ、安全性を高めることができる。
【0113】
図16は、切換判定部122と故障判定部123の判定パターンを纏めた図である。図16には、4つのGMRセンサ部107C1~107C4の測定値に基づく判定パターンを示す。
【0114】
切換判定部122は、故障判定部123によって故障と判定されたGMRセンサ部の数が0個(0個故障)の場合には、GMRセンサ部の測定レベルに基づく多数決で、オン範囲又はオフ範囲のいずれかに3個以上あれば、切換状態(オン又はオフ)を判定する。また、切換判定部122は、故障判定部123によって故障と判定されたGMRセンサ部の数が1個(1個故障)の場合には、GMRセンサ部の測定レベルに基づく多数決で、オン範囲又はオフ範囲のいずれかに2個以上あれば、切換状態(オン又はオフ)を判定する。
【0115】
また、切換判定部122は、故障判定部123によって故障と判定されたGMRセンサ部の数が2個(2個故障)の場合には、GMRセンサ部の測定レベルに基づく多数決で、オン範囲又はオフ範囲のいずれかに2個あれば、切換状態(オン又はオフ)を判定する。すなわち、切換判定部122は、2個故障の場合には、正常な2個のGMRセンサ部の測定レベルがオン範囲又はオフ範囲のいずれかで一致した場合に、切換状態(オン又はオフ)を判定する。
【0116】
切換判定部122は、0個故障、1個故障、及び2個故障の場合に、上記以外の場合には、切換状態(オン又はオフ)を判定しない。この場合に、切換判定部122は、前回の処理における判定結果を出力してもよい。
【0117】
また、切換判定部122は、故障判定部123によって故障と判定されたGMRセンサ部の数が3個(3個故障)又は4個(4個故障)の場合には、判定動作を行わずに動作を停止する。
【0118】
故障判定部123は、既に故障と判定されているGMRセンサ部の数が0個(0個故障)で、4個のGMRセンサ部の各々について、測定値に基づいて故障判定を行う場合には、所定範囲E内にある他のGMRセンサの測定値が2個未満の場合には、そのGMRセンサは故障であると判定する。
【0119】
故障判定部123は、既に故障と判定されているGMRセンサ部の数が1個(1個故障)で、残りの3個のGMRセンサ部の各々について、測定値に基づいて故障判定を行う場合には、所定範囲E内に存在する他のGMRセンサの測定値が0個の場合には、そのGMRセンサは故障であると判定する。
【0120】
故障判定部123は、既に故障と判定されているGMRセンサ部の数が2個(2個故障)で、残りの2個のGMRセンサ部の各々について、測定値に基づいて故障判定を行う場合には、所定範囲E内に存在する他のGMRセンサの測定値が0個の場合には、そのGMRセンサは故障であると判定する。すなわち、故障判定部123は、2個故障の場合には、一方の測定値の所定範囲E内に他方が存在する関係が2個の測定値について成立しない場合には、そのGMRセンサは故障であると判定する。換言すれば、故障判定部123は、互いの測定値の所定範囲E内に測定値が存在しなければ、そのGMRセンサは故障であると判定する。
【0121】
故障判定部123は、既に故障と判定されているGMRセンサ部の数が3個(3個故障)又は4個(4個故障)の場合には、故障判定を行わない。比較対象が存在しないからである。
【0122】
<効果>
以上のように、故障判定部123は、複数のGMRセンサ部107C1~107C4のうちの1つのGMRセンサ部の測定値と、複数のGMRセンサ部107C1~107C4のうちの1つのGMRセンサ部以外の他のGMRセンサ部の測定値とを比較し、1つのGMRセンサ部の測定値を含む所定範囲内に、他のGMRセンサ部の測定値のうちの半数以上の測定値が存在しない場合には、1つのGMRセンサ部は故障していると判定する。
【0123】
1つのGMRセンサ部の測定値を含む所定範囲内に、他のGMRセンサ部の測定値のうちの半数以上の測定値が存在するかどうかを判定することで、1つのGMRセンサ部の測定誤差による故障の誤判定を抑制できる。
【0124】
したがって、測定誤差等に起因する故障の誤判定を低減可能なスイッチ装置50及びプッシュ式シフタ装置10を提供することができる。
【0125】
また、故障判定部123が複数のGMRセンサ部107C1~107C4の各々について故障を判定した結果、故障と判定されていないGMRセンサ部の数が複数である場合には、切換判定部122は、故障と判定されていないGMRセンサ部の測定値の各々の測定レベルに基づく多数決に応じて操作ノブ102の切換状態を判定する。複数のGMRセンサ部107C1~107C4の複数が正常に動作していれば、切換判定部122は、多数決に応じて操作ノブ102の切換状態を判定可能である。また、このような状態での切換判定部122の判定は、機能安全の製品として問題ないものである。このため、故障していないGMRセンサ部の数が複数である場合には、測定誤差等に起因する故障の誤判定を低減可能で、切換判定部122がGMRセンサ部の出力に基づく多数決に応じて操作ノブ102の切換状態を判定可能なスイッチ装置50を提供することができる。また、故障していないGMRセンサ部の数が複数であれば、GMRセンサ部の故障が生じても切換判定部122が操作ノブ102の切換状態を判定可能であり、GMRセンサ部の故障に対するスイッチ装置50の耐性が向上する。
【0126】
また、故障判定部123が複数のGMRセンサ部107C1~107C4の各々について故障を判定した結果、故障と判定されていないGMRセンサ部の数が複数である場合には、以後(故障の発生後)は、スイッチ装置50は、故障と判定されていないGMRセンサ部の測定値を利用して継続的に動作する。正常に動作している残りのGMRセンサ部の測定値の多数決に応じて操作ノブ102の切換状態の判定を継続することにより、故障の発生後においても、操作者は、故障が発生する前と同様にスイッチ装置50を利用することができる。また、故障していないGMRセンサ部の数が複数あれば、GMRセンサ部の故障が生じても、操作者は継続的にスイッチ装置50を利用することができ、GMRセンサ部の故障に対するスイッチ装置50の耐性が向上する。例えば、3つのGMRセンサ部が正常であり、1つのGMRセンサ部が故障していると故障判定部123によって判定された場合には、切換判定部122は、次の切換状態の判定を正常な3つのGMRセンサ部を用いて行う。
【0127】
また、故障判定部123は、複数のGMRセンサ部107C1~107C4の各々について故障を判定した結果、故障と判定されていないGMRセンサ部の数が複数でない場合には、以後は使用不可能な完全故障と判定し、判定結果を出力する。正常に動作している残りのGMRセンサ部が複数ない場合は、機能安全の製品であるスイッチ装置50において、安全を確保した状態で切換判定部122が操作ノブ102の切換状態を判定することは困難であるため、使用不可能な状態にすることで、スイッチ装置50を継続的に使用することを防ぎ、安全性を高めることができる。
【0128】
また、GMRセンサ部は、測定値のオフ範囲とオン範囲との間にヒステリシス領域を有するので、切換判定部122がオン/オフを判定する際におけるノイズの影響等を低減することができ、切換判定部122がオン/オフを安定的に判定することができる。
【0129】
所定範囲Eは、測定値の測定レベルの高低方向において、ヒステリシス領域よりも広い。所定範囲Eは、正常な状態のGMRセンサ部の出力に生じうる誤差範囲に相当する。このため、GMRセンサ部の測定誤差を考慮して、スイッチ装置50は、故障判定における誤判定を低減することができる。また、所定範囲Eがヒステリシス領域よりも広いと、例えば、4つのGMRセンサ部107C1~107C4の測定値のうちの2つがオフ範囲内にあり、残りの2つがオン範囲内にある状態が生じ得る。このような場合には、例えば、切換判定部122が前回の処理における判定結果を出力することで、動作の安定性を確保することができる。また、切換判定部122が判定を保留し、多数決の判定ができるようになるまで待機してもよい。これにより、GMRセンサ部の故障に対するスイッチ装置50の耐性が向上する。
【0130】
切換判定部122は、複数の測定値の中に、オフ範囲内の測定値が複数あるとともに、オン範囲内の測定値が複数あり、オフ範囲内の測定値の数と、オン範囲内の測定値の数とが等しい場合には、操作ノブ102の切換状態を判定しない。換言すれば、切換判定部122は、複数の測定値の中に、最も多くの測定値が入ったレベル範囲(オン範囲又はオフ範囲)の数が複数ある場合には、操作ノブ102の切換状態を判定しない。切換判定部122が操作ノブ102の切換状態を多数決で判定できないため、切換判定部122が操作ノブ102の切換状態を判定しないようにすることで、GMRセンサ部の故障に対するスイッチ装置50の耐性が向上する。上述のように、4つのGMRセンサ部107C1~107C4の測定値のうちの2つがオフ範囲内にあり、残りの2つがオン範囲内にある状態が生じた場合に、切換判定部122が操作ノブ102の切換状態を判定しないことによって、GMRセンサ部の故障に対するスイッチ装置50の耐性が向上する。また、切換判定部122は、正常に動作している3つのGMRセンサ部の測定値の測定レベルのうちの1つがオフ範囲にあり、もう1つがヒステリシス領域にあり、残りの1つがオン範囲にある場合にも、多数決でオン/オフを判定できないので、操作ノブ102の切換状態を判定しないようにすることで、GMRセンサ部の故障に対するスイッチ装置50の耐性が向上する。
【0131】
また、第1レベル範囲は、切換状態のオフに相当するレベル範囲であり、第2レベル範囲は、切換状態のオンに相当するレベル範囲であるため、オン/オフの2値を取るスイッチ装置50の耐ノイズ性が向上する。
【0132】
また、複数のGMRセンサ部107C1~107C4の複数の測定値の各々は、操作ノブ102が共通の操作位置にある状態において複数のGMRセンサ部107C1~107C4の各々によって測定された実測値と、操作ノブ102が共通の操作位置にあるときの複数のGMRセンサ部107C1~107C4の理論出力値との差分(誤差)を複数のGMRセンサ部107C1~107C4の出力値から減じた値である。このため、GMRセンサ部107C1~107C4の誤差によって操作ノブ102のプッシュ操作量に対する測定値が異なっていても、スイッチ装置50は、GMRセンサ部107C1~107C4の誤差等を起因とするGMRセンサ部107C1~107C4の故障判定における誤判定を低下させることができる。
【0133】
また、故障判定部123の判定結果を保持するメモリ124を不揮発性メモリにすることで、スイッチ装置50は、バッテリ等から供給される電力が無くなってスイッチ装置50の電源がオフになり、その後に復帰した場合でも、GMRセンサ部の故障状態を特定できる。また、スイッチ装置50は、故障したGMRセンサ部を使用せずに動作することができる。
【0134】
また、複数のGMRセンサ部107C1~107C4は、4つのGMRセンサ部であるので、各GMRセンサ部の測定誤差等を起因とした故障判定における誤判定を低下させることができる。
【0135】
また、プッシュ式シフタ装置10は、操作者によってプッシュ操作される操作ノブ102と、プッシュ操作に対してクリック感を付与するラバードーム106Aと、プッシュ操作に伴って、所定のスライド方向にスライドするスライダ103と、スライダのスライドに伴って回転する回転体105と、回転体105の回転角度に応じた3つ以上の複数の測定値をそれぞれ検出する3つ以上の複数のGMRセンサ部107C1~107C4と、複数のGMRセンサ部107C1~107C4の複数の測定値の各々の測定レベルに基づく多数決に応じて操作ノブ102の切換状態を判定する切換判定部122と、複数のGMRセンサ部107C1~107C4の各々の故障を判定する故障判定部123とを含み、故障判定部123は、複数のGMRセンサ部107C1~107C4のうちの1つのGMRセンサ部の測定値と、複数のGMRセンサ部107C1~107C4のうちの1つのGMRセンサ部以外の他のGMRセンサ部の測定値とを比較し、1つのGMRセンサ部の測定値を含む所定範囲内に、他のGMRセンサ部の測定値のうちの半数以上の測定値が存在しない場合には、1つのGMRセンサ部は故障していると判定する。したがって、測定誤差等に起因する故障の誤判定を低減可能なスイッチ装置50を提供することができる。
【0136】
なお、以上では、電子シフタの一例であるプッシュ式シフタ装置10が、操作ノブ102、ラバードーム106A、スライダ103、及び回転体105を含み、GMRセンサ部107C1~107C4が回転体105の回転に伴う回転に伴う磁束方向の変化を検出する形態について説明したが、電子シフタの一例であるプッシュ式シフタ装置10が含む機械的な構成は、このような構成に限られず、スイッチの操作に応じて磁束方向が変化する構成であればよい。
【0137】
また、以上では、スイッチ装置50が4つのGMRセンサ部107C1~107C4を含む形態について説明したが、スイッチ装置50は、2つ以上のGMRセンサ部を含んでいればよく、同様に故障判定を行えばよい。
【0138】
例えば、スイッチ装置50が6つのGMRセンサ部を含む場合には、故障判定部123は、次のように故障判定を行い、切換判定部122は、次のように操作ノブ102の切換状態を判定することができる。
【0139】
故障判定部123は、スイッチ装置50が6つのGMRセンサ部を含む場合に故障を判定する際に、ある1つのGMRセンサ部の測定値と同一の範囲(オフ範囲、ヒステリシス領域、及びオン範囲のいずれか1つの範囲)に他の3つ以上のGMRセンサの測定値がある場合には、その1つのGMRセンサ部は正常であると判定する。一方、故障判定部123は、スイッチ装置50が6つのGMRセンサ部を含む場合に故障を判定する際には、ある1つのGMRセンサ部の測定値と同一の範囲(オフ範囲、ヒステリシス領域、及びオン範囲のいずれか1つの範囲)に測定値があるGMRセンサが3つ未満である場合には、その1つのGMRセンサ部は故障していると判定する。
【0140】
故障判定部123が6つのGMRセンサ部の各々について故障を判定した結果、故障と判定されていないGMRセンサ部の数が複数である2つ以上である場合には、切換判定部122は、故障と判定されていない2つ以上のGMRセンサ部の測定値の各々の測定レベルに基づく多数決に応じて操作ノブ102の切換状態を判定する。
【0141】
また、故障判定部123は、6つのGMRセンサ部の各々について故障を判定した結果、故障と判定されていないGMRセンサ部の数が複数でない1つ以下である場合には、以後(故障の発生後)は使用不可能な完全故障と判定し、判定結果を出力する。
【0142】
また、故障判定部123が故障判定を行った結果、6つの測定値の中に、オフ範囲内の測定値が複数あるとともに、オン範囲内の測定値が複数あり、オフ範囲内の測定値の数と、オン範囲内の測定値の数とが等しい場合には、切換判定部122は、操作ノブ102の切換状態を判定しない。換言すれば、切換判定部122は、6つの測定値の中に、最も多くの測定値が入ったレベル範囲(オン範囲又はオフ範囲)の数が複数ある場合には、操作ノブ102の切換状態を判定しない。
【0143】
このように、スイッチ装置50が6つのGMRセンサ部を含む場合には、故障判定部123は、上述した4つのGMRセンサ部107C1~107C4を含む場合と同様に故障判定を行うことができる。
【0144】
以上、本開示の例示的な実施形態のスイッチ装置、プッシュ式入力装置、及び、電子シフタについて説明したが、本開示は、具体的に開示された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。
【符号の説明】
【0145】
10 プッシュ式シフタ装置(プッシュ式入力装置の一例、電子シフタの一例)
50 スイッチ装置
100,100-1~100-4 プッシュ式入力機構
107C1~107C4 GMRセンサ部(センサ部の一例)
120 制御装置
121 発光制御部
122 切換判定部
123 故障判定部
124 メモリ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図10C
図11
図12
図13A
図13B
図14A
図14B
図15A
図15B
図16