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特開2023-149090固体電解コンデンサ用セパレータ及び固体電解コンデンサ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149090
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】固体電解コンデンサ用セパレータ及び固体電解コンデンサ
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/02 20060101AFI20231005BHJP
   H01G 9/035 20060101ALI20231005BHJP
   H01G 9/15 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
H01G9/02
H01G9/035
H01G9/15
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022057474
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005980
【氏名又は名称】三菱製紙株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 友洋
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、耐熱性に優れ、マイクロスリット加工時の不良が発生しにくい固体電解コンデンサ用セパレータと、それを用いた固体電解コンデンサを提供することにある。
【解決手段】湿式不織布からなる固体電解コンデンサ用セパレータにおいて、湿式不織布が、ジカルボン酸成分がテレフタル酸であり、ジオール成分がエチレングリコールとテトラメチレングリコールであり、融点が160~185℃である結晶性の共重合ポリエステルを鞘部とする芯鞘型ポリエステル複合繊維Aとフィブリル化耐熱性繊維とフィブリル化天然セルロース繊維とを含有し、セパレータに含まれる繊維全体に対して、芯鞘型ポリエステル複合繊維Aの含有率は10~40質量%であり、フィブリル化耐熱性繊維の含有率は10~60質量%であり、フィブリル化天然セルロース繊維の含有率は1~10質量%であり、かつ、JIS L1913:2010で規定される41.5°カンチレバー法による縦方向と横方向の剛軟度の平均値が40mN・m以上である固体電解コンデンサ用セパレータと、それを用いてなる固体電解コンデンサ。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿式不織布からなる固体電解コンデンサ用セパレータにおいて、湿式不織布が、ジカルボン酸成分がテレフタル酸であり、ジオール成分がエチレングリコールとテトラメチレングリコールであり、融点が160~185℃である結晶性の共重合ポリエステルを鞘部とする芯鞘型ポリエステル複合繊維Aとフィブリル化耐熱性繊維とフィブリル化天然セルロース繊維とを含有し、セパレータに含まれる繊維全体に対して、芯鞘型ポリエステル複合繊維Aの含有率は10~40質量%であり、フィブリル化耐熱性繊維の含有率は10~60質量%であり、フィブリル化天然セルロース繊維の含有率は1~10質量%であり、かつ、JIS L1913:2010で規定される41.5°カンチレバー法による縦方向と横方向の剛軟度の平均値が40mN・m以上であることを特徴とする固体電解コンデンサ用セパレータ。
【請求項2】
請求項1に記載の固体電解コンデンサ用セパレータを含有する固体電解コンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解コンデンサ用セパレータ及び固体電解コンデンサに関する。以下、「固体電解コンデンサ用セパレータ」を「セパレータ」と略記する場合がある。また、「固体電解コンデンサ」を「コンデンサ」と略記する場合がある。
【背景技術】
【0002】
固体電解質として、ポリピロールやポリチオフェンなどの導電性高分子を用いる固体電解コンデンサ(固体電解キャパシタ)では、箔状の陽極電極及び陰極電極を、セパレータを介して巻き取り、巻回素子を形成し、この巻回素子中のセパレータに導電性高分子の重合液を含浸させて重合させたり、導電性高分子分散液を含浸させたりすることによって、セパレータを覆う導電性高分子膜が形成される。
【0003】
従来、コンデンサのセパレータとしては、エスパルトや麻パルプなどの天然セルロース繊維、溶剤紡糸セルロース繊維、再生セルロース繊維等のセルロース繊維の叩解物を主体とする紙製セパレータが使用されている(特許文献1及び2)。これら紙製セパレータ中のセルロース繊維は、導電性高分子を重合する際に用いる酸化剤と反応して導電性高分子の重合を阻害することから、重合を阻害しないように、予め炭化処理が施される。炭化処理によって紙製セパレータの強度は著しく低下するため、強度が低下した紙製セパレータに形成した導電性高分子膜は破れ易く、ショートや漏れ電流不良率が高くなる問題があった。近年、電子機器の高機能化、小型・軽量化による利用分野の拡大に伴い、コンデンサの使用環境、条件が厳しくなっており、コンデンサのリフロー耐熱性の要求温度も高くなってきている。
【0004】
そのため、リフロー耐熱性を有するセパレータとして、フィブリル化耐熱性繊維を含む不織布を用いたセパレータが検討されている(特許文献3~14)。しかし、これらセパレータを幅3~8mmなどの細幅にマイクロスリット加工する際に、セパレータの折れ曲がりや搬送ロールへの巻き付き等のスリット不良を起こすことがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5-267103号公報
【特許文献2】特開2017-69229号公報
【特許文献3】特開2007-242584号公報
【特許文献4】特開2001-332451号公報
【特許文献5】特開2004-235293号公報
【特許文献6】国際公開第2005/101432号パンフレット
【特許文献7】特開2016-204798号公報
【特許文献8】特開2020-53425号公報
【特許文献9】特開2020-88024号公報
【特許文献10】特開2020-88049号公報
【特許文献11】特開2020-88089号公報
【特許文献12】特開2020-102500号公報
【特許文献13】特開2020-141047号公報
【特許文献14】特開2006-278636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、耐熱性に優れ、マイクロスリット加工時の不良が発生しにくい固体電解コンデンサ用セパレータと、それを用いた固体電解コンデンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、下記手段によって解決された。
【0008】
(1)湿式不織布からなる固体電解コンデンサ用セパレータにおいて、湿式不織布が、ジカルボン酸成分がテレフタル酸であり、ジオール成分がエチレングリコールとテトラメチレングリコールであり、融点が160~185℃である結晶性の共重合ポリエステルを鞘部とする芯鞘型ポリエステル複合繊維Aとフィブリル化耐熱性繊維とフィブリル化天然セルロース繊維とを含有し、セパレータに含まれる繊維全体に対して、芯鞘型ポリエステル複合繊維Aの含有率は10~40質量%であり、フィブリル化耐熱性繊維の含有率は10~60質量%であり、フィブリル化天然セルロース繊維の含有率は1~10質量%であり、かつ、JIS L1913:2010で規定される41.5°カンチレバー法による縦方向と横方向の剛軟度の平均値が40mN・m以上であることを特徴とする固体電解コンデンサ用セパレータ。
(2)上記(1)記載の固体電解コンデンサ用セパレータを含有する固体電解コンデンサ。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐熱性に優れ、マイクロスリット加工時のスリット不良が発生しにくい固体電解コンデンサ用セパレータと、それを用いた固体電解コンデンサを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<固体電解コンデンサ>
本発明において、固体電解コンデンサは、電解質として、導電性を有する機能性高分子(導電性高分子)を用いる固体電解コンデンサを指す。導電性を有する機能性高分子としては、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリアセン、これらの誘導体などが挙げられる。本発明において、固体電解コンデンサは、これらの機能性高分子と電解液を併用した、ハイブリッド電解コンデンサであっても良い。電解液としては、イオン解離性の塩を溶解させた水溶液、イオン解離性の塩を溶解させた有機溶媒、イオン性液体(固体溶融塩)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。有機溶媒としては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、アセトニトリル(AN)、γ-ブチロラクトン(BL)、ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン(THF)、ジメトキシエタン(DME)、ジメトキシメタン(DMM)、スルホラン(SL)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、エチレングリコール、プロピレングリコールなどが挙げられる。
【0011】
<芯鞘型ポリエステル複合繊維A>
本発明において、芯鞘型ポリエステル複合繊維Aの鞘部は、ジカルボン酸成分がテレフタル酸であり、ジオール成分がエチレングリコールとテトラメチレングリコールであり、融点が160~185℃である結晶性の共重合ポリエステルである。
【0012】
結晶性とは、繊維の温度を溶解状態の温度まで高めた後に、温度を下げていった場合、溶融状態では分子運動しながら絡み合っているが、温度を下げていくことで分子運動がゆっくり収まりながら、結晶化温度にて部分的に整列し、結晶化する特性を有することをいう。
【0013】
結晶性の有無を確認する方法としては、示差走査熱量計(パーキンエルマー社製、装置名:DSC8500)を用いて、昇温速度10℃/分で、0℃から芯鞘型ポリエステル複合繊維の鞘部の融点を超えるまで昇温した後に、連続して冷却速度10℃/分で、0℃まで冷却し、結晶化による発熱ピークの有無を確認し、発熱ピークが観察された場合、結晶性であると判断する。また、発熱ピークのピーク温度を結晶化温度とする。
【0014】
融点の測定は、示差走査熱量計(パーキンエルマー社製、装置名:DSC8500)を用いて、昇温速度10℃/分で、0℃から300℃まで昇温させた際の結晶融解による吸熱ピークを観察し、そのピーク温度を融点とする。
【0015】
鞘部のガラス転移点の測定は、示差走査熱量計(パーキンエルマー社製、装置名:DSC8500)を用いて、昇温速度10℃/分で、0℃から芯鞘型ポリエステル複合繊維の鞘部の融点を超えるまで昇温して10分間保った後に、連続して急冷で0℃まで冷却した後に、連続して昇温速度20℃/分で、0℃から芯鞘型ポリエステル複合繊維の鞘部の融点を超えるまで昇温してDSC曲線を描き、各ベースラインの延長した直線から縦軸方向に等距離にある直線とガラス転移の階段状変化部分の曲線とが交わる点の温度(中間点ガラス転移温度)をISO 11357-2(2013)又はJIS K7121:1987に記載の方法で測定した。
【0016】
芯鞘型ポリエステル複合繊維Aの芯部は、主たる繰り返し単位がアルキレンテレフタレートであるポリエステルであり、耐熱性の高いポリエチレンテレフタレートであることが好ましい。
【0017】
芯鞘型ポリエステル複合繊維Aの断面形状は特に限定しないが、円形が好ましい。また、芯部と鞘部の比率は、体積比で芯/鞘=30/70~70/30の範囲が好ましく、40/60~60/40がより好ましい。
【0018】
芯鞘型ポリエステル複合繊維Aの繊維径は2~30μmが好ましく、5~27μmがより好ましく、7~25μmがさらに好ましい。該繊維径が2μm未満の場合には、セパレータの強度が不十分となる場合がある。一方、該繊維径が30μmを超える場合には、抄紙の際の繊維分散が悪くなり、セパレータの地合が不均一となりやすく、ショート不良率が高くなる場合がある。
【0019】
芯鞘型ポリエステル複合繊維Aの繊維長は1~15mmが好ましく、3~12mmがより好ましく、3~10mmがさらに好ましい。該繊維長が1mm未満の場合には、セパレータの強度が低下する場合がある。該繊維長が15mmを超える場合には、繊維分散性が低下しやすく、セパレータの地合が不均一となりやすく、ショート不良率が高くなる場合がある。
【0020】
芯鞘型ポリエステル複合繊維Aの含有率は、セパレータに含まれる繊維全体に対して、10~40質量%であり、12~35質量%がより好ましく、15~30質量%がさらに好ましい。該含有率が10質量%未満である場合、セパレータの強度が低下する。該含有率が40質量%を超えると、セパレータの空隙が埋まり過ぎ、等価直列抵抗(ESR)が高くなる。
【0021】
<フィブリル化耐熱性繊維>
本発明において、フィブリル化耐熱性繊維とは、融点又は熱分解温度が250℃以上であり、高圧ホモジナイザー、リファイナー、ビーター、ミル、摩砕装置などを用いて微細化処理され、フィルム状でなく、主に繊維軸と平行な方向に非常に細かく分割された部分を有する繊維状で、少なくとも一部の繊維径が1μm以下になっている繊維である。
【0022】
融点又は熱分解温度が250℃以上の耐熱性繊維としては、例えば、全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリ-p-フェニレンベンゾビスチアゾール、ポリ-p-フェニレンベンゾビスオキサゾール、ポリベンゾイミダゾール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン、アクリル類からなる単繊維又は複合繊維が挙げられる。これらの中でも全芳香族ポリアミドが電解液との親和性に優れるため好ましい。本発明では、フィブリル化天然セルロース繊維はフィブリル化耐熱性繊維に含まれない。
【0023】
フィブリル化耐熱性繊維の変法濾水度は0~700mlであることが好ましく、より好ましくは30~600mlであり、さらに好ましくは100~500mlであり、特に好ましくは200~450mlである。フィブリル化耐熱性繊維の変法濾水度が700ml超である場合、フィブリル化があまり進んでいないため、太い幹繊維が多く存在して、繊維径分布が広くなり、地合斑や厚み斑が生じる場合がある。また、フィブリル化耐熱性繊維の変法濾水度が0ml未満である場合、ESRが高くなる場合がある。繊維のフィブリル化が進むと、変法濾水度は下がり続ける。そして、変法濾水度が0mlに達した後も、さらにフィブリル化すると、繊維がメッシュを通りすぎるようになり、変法濾水度が逆に上昇し始める。本発明では、このように、変法濾水度が逆上昇し始めた状態を「変法濾水度が0ml未満」と称している。
【0024】
なお、「変法濾水度」とは、「ふるい板として線径0.14mm、目開き0.18mmの80メッシュ金網を用い、試料濃度を0.1質量%にした以外はJIS P8121-2:2012に準拠して測定した値」である。
【0025】
フィブリル化耐熱性繊維において、質量加重平均繊維長は、0.10~2.00mmであることが好ましく、0.20~1.50mmであることがより好ましい。また、長さ加重平均繊維長は、0.10~2.00mmであることが好ましく、0.30~1.00mmであることがより好ましく、0.40~0.75mmであることがさらに好ましく、0.50~0.70mmであることが特に好ましい。平均繊維長が好ましい範囲よりも短い場合、セパレータから脱落する場合やセパレータが毛羽立つ場合があり、平均繊維長が好ましい範囲よりも長い場合、ダマになる場合がある。
【0026】
本発明において、質量加重平均繊維長と長さ加重平均繊維長は、KajaaniFiberLabV3.5(Metso Automation社製)を使用して、投影繊維長(Proj)モードにおいて測定した質量加重平均繊維長(L(w))と長さ加重平均繊維長(L(l))である。
【0027】
フィブリル化耐熱性繊維の平均繊維幅は、0.5~40.0μmが好ましく、3.0~35.0μmがより好ましく、5.0~30.0μmがさらに好ましい。該平均繊維幅が40.0μmを超えた場合、セパレータの厚みを薄くし難くなる場合があり、該平均繊維幅が0.5μm未満の場合、地合斑や厚み斑が生じる場合がある。
【0028】
本発明において、フィブリル化耐熱性繊維の平均繊維幅は、KajaaniFiberLabV3.5(Metso Automation社製)を使用して測定した繊維幅(Fiber Width)である。
【0029】
フィブリル化耐熱性繊維の含有率は、セパレータに含まれる繊維全体に対して、10~60質量%であり、15~55質量%がより好ましく、20~50質量%がさらに好ましい。該含有率が10質量%未満である場合、耐熱性が低くなる。該含有率が60質量%を超えると、セパレータが緻密になり過ぎ、ESRが高くなる。
【0030】
<フィブリル化天然セルロース繊維>
フィブリル化天然セルロース繊維は、溶剤紡糸セルロース繊維等のフィブリル化再生セルロース繊維に比べ、繊維1本の太さの均一性が劣る傾向にあるが、繊維間の物理的な絡みと水素結合力が強いという特徴を有する。フィブリル化天然セルロース繊維の変法濾水度は0~400mlであることが好ましく、50~350mlがより好ましく、70~300mlがさらに好ましく、90~280mlが特に好ましい。該変法濾水度が400mlを超えると、繊維径分布が広くなり、地合斑や厚み斑になる場合がある。該変法濾水度が0ml未満の場合、セパレータから脱落する場合やセパレータが毛羽立つ場合がある。
【0031】
フィブリル化天然セルロース繊維の長さ加重平均繊維長は、0.10~2.00mmであることが好ましく、0.10~1.00mmであることがより好ましく、0.10~0.50mmであることがさらに好ましく、0.10~0.40mmであることが特に好ましい。該長さ加重平均繊維長が0.10mm未満である場合、セパレータから脱落する場合やセパレータが毛羽立つ場合があり、該長さ加重平均繊維長が2.00mmより長い場合、ダマになる場合がある。
【0032】
フィブリル化天然セルロース繊維の原料としては、針葉樹パルプや広葉樹パルプ等の木材パルプ;コットンリンターパルプ、コットンパルプ、麻、バガス、ケナフ、竹、藁等を由来とする非木材パルプ;等を使用することができる。中でも、フィブリル化後の繊維強度や品質の安定性やセルロース純度の観点から、コットン由来の原料が好ましい。
【0033】
フィブリル化天然セルロース繊維は、リファイナー、ビーター、ミル、摩砕装置、高速の回転刃により剪断力を与える回転刃式ホモジナイザー、高速で回転する円筒形の内刃と固定された外刃との間で剪断力を生じる二重円筒式の高速ホモジナイザー、超音波による衝撃で微細化する超音波破砕器、繊維懸濁液に少なくとも20MPaの圧力差を与えて小径のオリフィスを通過させて高速度とし、これを衝突させて急減速することにより繊維に剪断力、切断力を加える高圧ホモジナイザー等で処理されたもので、この中でも、特に高圧ホモジナイザーで処理されたものが好ましい。
【0034】
フィブリル化天然セルロース繊維の含有率は、セパレータに含まれる繊維全体に対して、1~10質量%であり、2~9質量%がより好ましく、3~8質量%がさらに好ましい。該含有率が1質量%未満である場合、セパレータの機械的強度が弱くなり、また、コンデンサのショート不良が起きやすくなる。該含有率が10質量%を超えると、セパレータが緻密になり過ぎ、ESRが高くなる。
【0035】
本発明のセパレータは、前記した芯鞘型ポリエステル複合繊維A、フィブリル化耐熱性繊維、フィブリル化天然セルロース繊維以外の繊維を含有しても良い。具体的には、合成繊維としては、ポリエステル系、ポリオレフィン系、ポリアミド系、ポリアクリル系、ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ベンゾエート、ポリクラール(polychlal)、フェノール系などの繊維が挙げられる。再生繊維としては、リヨセル繊維、レーヨン、キュプラなどの繊維が挙げられる。この中でも、特にポリエステル系合成繊維が好ましい。
【0036】
<固体電解コンデンサ用セパレータ>
本発明のセパレータは、湿式不織布からなるセパレータであり、湿式不織布が、ジカルボン酸成分がテレフタル酸であり、ジオール成分がエチレングリコールとテトラメチレングリコールであり、融点が160~185℃である結晶性の芯鞘型ポリエステル複合繊維Aとフィブリル化耐熱性繊維とフィブリル化天然セルロース繊維とを含有する。各繊維の含有率は上述したとおりである。また、本発明のセパレータは、JIS L1913:2010で規定される41.5°カンチレバー法による縦方向と横方向の剛軟度の平均値が40mN・m以上であることを特徴とする。
【0037】
本発明によれば、セパレータが微細で耐熱性の高いフィブリル化耐熱性繊維とバインダー繊維として融点の高い芯鞘型ポリエステル複合繊維Aを含むことにより、セパレータの熱寸法安定性が向上し、耐熱性に優れたセパレータを得ることができる。さらに、JIS L1913:2010で規定される41.5°カンチレバー法による縦方向と横方向の剛軟度の平均値が40mN・m以上であることで、マイクロスリット加工時に、セパレータの折れ曲がりや搬送ロールへの巻き付きを抑えることができ、スリット不良を発生しにくくすることができる。
【0038】
本発明において、フィブリル化天然セルロース繊維は、バインダー繊維の一部として含有する。芯鞘型ポリエステル複合繊維Aは、融点が160~185℃であり、結晶性の共重合ポリエステルを鞘部としていることから、湿式抄紙法で不織布を製造する際の乾燥工程において、乾燥温度を160℃以上にまで高める必要がある。しかしながら、通常の抄紙機では160℃以上に乾燥温度を高めることが困難であり、バインダー繊維として芯鞘型ポリエステル複合繊維Aのみを使用した場合、抄紙後における不織布の強度が不足し、熱カレンダー処理に移行できない場合があった。本発明では、バインダー繊維としてフィブリル化天然セルロース繊維を併用することにより、芯鞘型ポリエステル複合繊維Aの抄紙工程における強度を補う効果があることを見出した。
【0039】
本発明において、セパレータのJIS L1913:2010で規定される41.5°カンチレバー法による縦方向と横方向の剛軟度の平均値が40mN・m以上であり、45mN・mがより好ましく、50mN・mがさらに好ましい。縦方向と横方向の剛軟度の平均値が40mN・m未満である場合、マイクロスリット加工時のスリット不良が発生しやすくなる。なお、該平均値の上限値には、特に制限はないが、800mN・m以下であることが好ましい。該平均値が800mN・mを越える場合、セパレータが緻密になり過ぎ、ESRが高くなることがある。
【0040】
JIS L1913:2010で規定される41.5°カンチレバー法による縦方向と横方向の剛軟度の平均値を40mN・m以上に調整する方法としては、熱カレンダーロールによって、芯鞘型ポリエステル複合繊維Aの軟化点又は融点以上まで温度を上げて熱処理する方法や、バインダー繊維である芯鞘型ポリエステル複合繊維Aとフィブリル化天然セルロース繊維の含有率を調整する方法が挙げられる。
【0041】
本発明において、セパレータの坪量は、8~22g/mが好ましく、10~20g/mがより好ましく、14~18g/mがさらに好ましい。坪量が22g/mを超える場合、ESRが高くなり過ぎる場合がある。坪量が8g/m未満である場合、十分な強度を得ることが難しい場合や耐熱性が劣る場合がある。なお、坪量は、JIS P 8124:2011(紙及び板紙-坪量測定法)に規定された方法に基づき測定される。
【0042】
本発明において、セパレータの厚みは、20~65μmが好ましく、25~60μmがより好ましく、30~55μmがさらに好ましい。厚みが65μmを超える場合、ESRが高くなり過ぎる場合がある。厚みが20μm未満である場合、十分な強度を得ることが難しい場合や耐熱性が劣る場合がある。なお、厚みは、JIS C2300-2:2010に規定された方法に基づき、5N荷重時の外側マイクロメーターにより測定されたセパレータ1枚の値である。
【0043】
本発明において、セパレータは、湿式抄紙法で製造された湿式不織布である。湿式抄紙法は、繊維を水に分散して均一な抄紙スラリーとし、この抄紙スラリーを抄紙機で漉きあげて湿式不織布を作製する。抄紙機としては、円網、長網、傾斜型、傾斜短網等の抄紙網を単独で使用する抄紙機や、これらの抄紙網を複数組み合わせた複合抄紙機が挙げられる。湿式不織布を製造する工程においては、必要に応じて、水流交絡処理を施しても良い。抄紙スラリーには、繊維原料の他に、必要に応じて、分散剤、増粘剤、消泡剤などを適宜添加することができる。湿式不織布に対して、熱処理、カレンダー処理、熱カレンダー処理などの加工処理を施しても良い。
【実施例0044】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【0045】
<芯鞘PET繊維A1>
芯部がポリエチレンテレフタレート(融点:260℃)であり、ジカルボン酸成分がテレフタル酸であり、ジオール成分がエチレングリコールとテトラメチレングリコールであり、融点が180℃である結晶性の共重合ポリエステルを鞘部とする、繊維径14μm、繊維長5mmの芯鞘型ポリエステル複合繊維(ユニチカ社製キャスベン(登録商標)8080)を、芯鞘PET繊維A1とした。芯鞘PET繊維A1の鞘部の結晶化温度126℃、ガラス転移点50℃、芯/鞘体積比50/50である。
【0046】
<芯鞘PET繊維a2>
芯部がポリエチレンテレフタレート(融点:260℃)であり、ジカルボン酸成分がテレフタル酸であり、ジオール成分がエチレングリコールとテトラメチレングリコールとε-カプロラクトンであり、融点が159℃である結晶性の共重合ポリエステルを鞘部とする、繊維径14μm、繊維長5mmの芯鞘型ポリエステル複合繊維(ユニチカ社製キャスベン(登録商標)7080)を、芯鞘PET繊維a2とした。芯鞘PET繊維a2の鞘部の結晶化温度125℃、ガラス転移点34℃、芯/鞘体積比50/50である。
【0047】
<芯鞘PET繊維a3>
芯部がポリエチレンテレフタレート(融点:260℃)であり、ジカルボン酸成分がテレフタル酸とイソフタル酸であり、ジオール成分がエチレングリコールとジエチレングリコールであり、軟化温度が75℃である非結晶性の共重合ポリエステルを鞘部とする、繊維径14μm、繊維長5mmの芯鞘型ポリエステル複合繊維(ユニチカ社製メルティー(登録商標)4080)を、芯鞘PET繊維a3とした。芯鞘PET繊維a3の鞘部のガラス転移点67℃、芯/鞘体積比50/50である。
【0048】
<芯鞘PET繊維a4>
芯部がポリエチレンテレフタレート(融点:260℃)であり、ジカルボン酸成分がテレフタル酸とイソフタル酸であり、ジオール成分がエチレングリコールとジエチレングリコールであり、軟化温度が75℃である非結晶性の共重合ポリエステルを鞘部とする、繊維径13μm、繊維長5mmの芯鞘型ポリエステル複合繊維(帝人社製TJ04CN(登録商標))を、芯鞘PET繊維a4とした。芯鞘PET繊維a4の鞘部のガラス転移点67℃、芯/鞘体積比50/50である。
【0049】
<フィブリル化耐熱性繊維B1>
変法濾水度250mlのフィブリル化全芳香族ポリアミドをフィブリル化耐熱性繊維B1とした。
【0050】
<フィブリル化天然セルロース繊維C1>
変法濾水度270ml、長さ加重平均繊維長0.22mmのフィブリル化天然セルロース繊維をC1とした。
【0051】
<延伸PET繊維D1>
繊維径3.0μm、繊維長3mmのポリエステル短繊維を延伸PET繊維D1とした。
【0052】
【表1】
【0053】
<セパレータ>
(実施例1~5)
表1記載のスラリー1~5を円網・傾斜コンビネーション抄紙機を用いて、湿式抄紙した後、230℃に加熱した金属ロールに両面を接触させて熱処理し、さらにカレンダー処理して厚み調整し、表2に示す実施例1~5のセパレータを作製した。
【0054】
(比較例1~7)
表1記載のスラリー6~12を円網・傾斜コンビネーション抄紙機を用いて、湿式抄紙した後、230℃に加熱した金属ロールに両面を接触させて熱処理し、さらにカレンダー処理して厚み調整し、表2に示す比較例1~7のセパレータを作製した。
【0055】
(比較例8)
表1記載のスラリー3を円網・傾斜コンビネーション抄紙機を用いて、湿式抄紙した後、150℃に加熱した金属ロールに両面を接触させて熱処理し、さらにカレンダー処理して厚み調整し、表2に示す比較例8のセパレータを作製した。
【0056】
【表2】
【0057】
<実施例及び比較例の評価用固体電解コンデンサの作製>
厚み50μm、エッチング孔1~5μmのアルミニウム箔の表面を酸化処理して、酸化アルミニウム誘電体を形成させ、これを陽極として用いた。酸化処理する前のアルミニウム箔を陰極として用いた。実施例及び比較例の固体電解コンデンサ用セパレータを陽極の誘電体上に配置し、陰極と合わせて巻き取り、固体電解コンデンサ素子を作製した。この素子を3,4-エチレンジオキシチオフェン:p-トルエンスルホン酸第二鉄の50質量%ブタノール溶液を質量比で1:20になるように混合した溶液(導電性高分子モノマー液)に浸漬し、引き上げて200℃で30分加熱してポリエチレンジオキシチオフェンを重合した。この素子をメタノールで洗浄してセパレータに残留している未反応の3,4-エチレンジオキシチオフェンとp-トルエンスルホン酸第二鉄を除去した後、120℃で乾燥させた。同様に、ポリエチレンジオキシチオフェンの重合作業をもう1回繰り返した後、素子をアルミニウム製外装缶に収納して封口し、定格電圧25V、定格静電容量33μFの固体電解コンデンサを作製した。
【0058】
[耐熱性]
セパレータを100mm巾×100mm長さに切り、耐熱ガラス板に挟んで、180℃の恒温乾燥機に1時間静置し、長さ方向及び巾方向の収縮率を算出した。長さ方向及び巾方向の収縮率の平均値が2.7%未満であれば「○」、2.7%以上3.0%未満であれば「△」、3.0%以上であれば「×」で表し、表3に示した。
【0059】
[マイクロスリット加工適性]
セパレータを幅4.0mm、長さ200m、20巻にマイクロスリット加工する際に、セパレータの折れ曲がりや紙切れなどの不具合が見られなかった場合「○」、不具合が見られた場合「×」で表し、表3に示した。
【0060】
[ESR]
実施例及び比較例の固体電解コンデンサのESRを、20℃、100kHzの条件で測定し、20個の平均値が30mΩ未満であれば「○」、30mΩ以上35mΩ未満であれば「△」、35mΩ以上であれば「×」で表し、表3に示した。
【0061】
【表3】
【0062】
実施例1~5の固体電解コンデンサ用セパレータは、湿式不織布からなり、湿式不織布が、ジカルボン酸成分がテレフタル酸であり、ジオール成分がエチレングリコールとテトラメチレングリコールであり、融点が160~185℃である結晶性の共重合ポリエステルを鞘部とする芯鞘型ポリエステル複合繊維Aとフィブリル化耐熱性繊維とフィブリル化天然セルロース繊維とを含有し、セパレータに含まれる繊維全体に対して、芯鞘型ポリエステル複合繊維Aの含有率は10~40質量%であり、フィブリル化耐熱性繊維の含有率は10~60質量%であり、フィブリル化天然セルロース繊維の含有率は1~10質量%であり、かつ、JIS L1913:2010で規定される41.5°カンチレバー法による縦方向と横方向の剛軟度の平均値が40mN・m以上であるため、セパレータの耐熱性、マイクロスリット加工適性、コンデンサのESRに優れていた。
【0063】
一方、比較例1~3の固体電解コンデンサ用セパレータは、芯鞘型ポリエステル複合繊維Aを含有しておらず、かつ、JIS L1913:2010で規定される41.5°カンチレバー法による縦方向と横方向の剛軟度の平均値が40mN・m未満であることから、マイクロスリット加工適性が劣っていた。
【0064】
比較例4の固体電解コンデンサ用セパレータは、芯鞘型ポリエステル複合繊維Aとフィブリル化耐熱性繊維の含有量が少ないことから、耐熱性が劣っていた。また、縦方向と横方向の剛軟度の平均値が40mN・m未満であることから、マイクロスリット加工適性が劣っていた。
【0065】
比較例5の固体電解コンデンサ用セパレータは、フィブリル化天然セルロース繊維を含有していないため、強度が弱く、湿式抄紙後の熱処理を行うことができず、坪量14g/mのサンプルをとることができなかった。
【0066】
比較例6の固体電解コンデンサ用セパレータは、フィブリル化耐熱性繊維の含有量が多いことから、ESRが劣っていた。
【0067】
比較例7の固体電解コンデンサ用セパレータは、フィブリル化天然セルロース繊維の含有量が多いことから、ESRが劣っていた。
【0068】
比較例8の固体電解コンデンサ用セパレータは、縦方向と横方向の剛軟度の平均値が40mN・m未満であることから、マイクロスリット加工適性が劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、固体電解コンデンサ用セパレータ又はハイブリッド電解コンデンサ用セパレータとして好適に利用できる。