(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149104
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】セルロース繊維樹脂複合材料
(51)【国際特許分類】
C08J 3/215 20060101AFI20231005BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20231005BHJP
C08L 1/00 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C08J3/215
C08L101/00
C08L1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022057495
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000153591
【氏名又は名称】株式会社巴川製紙所
(71)【出願人】
【識別番号】517392621
【氏名又は名称】エフピー化成工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591098628
【氏名又は名称】ユアサ化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 温
(74)【代理人】
【識別番号】100132137
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】木村 雄大
(72)【発明者】
【氏名】岩本 清志
(72)【発明者】
【氏名】久保田 展弘
(72)【発明者】
【氏名】佐野 昌義
(72)【発明者】
【氏名】大塚 淳
(72)【発明者】
【氏名】赤澤 英郎
(72)【発明者】
【氏名】中西 謙介
【テーマコード(参考)】
4F070
4J002
【Fターム(参考)】
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(57)【要約】 (修正有)
【課題】引張強度等の機械的特性に優れ、より難燃性に優れたセルロース繊維樹脂複合材料及び該複合材料を用いた複合材成形物を提供する。
【解決手段】セルロース繊維と、熱可塑性樹脂と、難燃剤とを含む樹脂混合物を押出成形して得られるセルロース繊維樹脂複合材料であって、前記セルロース繊維は、平均繊維長が10~400μm、平均繊維径が1~50μmであり、前記セルロース繊維の含有量は、前記セルロース繊維樹脂複合材料の全質量を100質量%とした場合に、10~60質量%であり、前記難燃剤の含有量は、前記セルロース繊維樹脂複合材料の全質量を100質量%とした場合に、5~30質量%であり、前記難燃剤の少なくとも一部は、前記セルロース繊維を被覆しており、前記難燃剤による前記セルロース繊維の平均被覆率が15%以上60%以下である、セルロース繊維樹脂複合材料である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース繊維と、熱可塑性樹脂と、難燃剤とを含む樹脂混合物を、前記セルロース繊維が押出方向に沿って配向するように押出成形して得られるセルロース繊維樹脂複合材料であって、
前記セルロース繊維は、平均繊維長が10~400μm、平均繊維径が1~50μmであり、
前記セルロース繊維の含有量は、前記セルロース繊維樹脂複合材料の全質量を100質量%とした場合に、10~60質量%であり、
前記難燃剤の含有量は、前記セルロース繊維樹脂複合材料の全質量を100質量%とした場合に、5~30質量%であり、
前記難燃剤の少なくとも一部は、前記セルロース繊維を被覆しており、
下記の評価方法によって算出される、前記難燃剤による前記セルロース繊維の平均被覆率が15%以上60%以下である、セルロース繊維樹脂複合材料。
(被覆率評価方法)
前記セルロース繊維樹脂複合材料を押出成形して得た際の押出方向と直交する断面における82μm×126μmの範囲を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて1000倍の倍率で撮像し、断面SEM像を得る。得られた断面SEM像を画像解析し、断面内の前記セルロース繊維のうち繊維断面の周長が10~50μmのものを無作為に20本選択し、個々の前記セルロース繊維について、周長及び前記難燃剤によって被覆されている長さ(被覆長)を取得し、以下の式に従って、被覆率を算出する。
被覆率=(被覆長)/(周長)×100(%)
前記20本のセルロース繊維について得られた被覆率を数平均し、平均被覆率とする。
【請求項2】
前記断面SEM像に含まれる、繊維断面の周長が10~50μmの全てのセルロース繊維の数を基準としたとき、前記被覆率が15~60%である前記セルロース繊維の数の割合が80%以上である、請求項1に記載のセルロース繊維樹脂複合材料。
【請求項3】
前記難燃剤は、リン系難燃剤、ハロゲン系難燃剤のいずれかを含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載のセルロース繊維樹脂複合材料。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂が、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、塩化ビニル樹脂、メタクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリサルホン樹脂、変性PPO樹脂、ポリエステル樹脂のいずれかを含むことを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載のセルロース繊維樹脂複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース繊維樹脂複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂は、加熱することで容易に成形できることから様々な製品の部品などとして用いられている。近年、電子デバイス等の小型化、薄型化に伴い、それらに用いられる部品なども小型化、薄型化が進み、熱可塑性樹脂においても微細で複雑な形状への成形性が要求されている。また、熱可塑性樹脂が小型化、薄型化された部品に用いられる場合には、より高い引張強度等の機械的特性が求められるため、熱可塑性樹脂は繊維と複合化されて用いられている。
【0003】
熱可塑性樹脂と複合化される繊維として無機繊維を用いた場合には、廃棄の際の焼却時に無機繊維に由来する残渣が発生して、この残渣を埋め立て処理等する必要がある。このため無機繊維を使用しない樹脂成形物が求められており、セルロース繊維などの植物繊維が複合繊維として用いられている。
【0004】
このような植物繊維が複合化された樹脂成形物は難燃性が高くないため、難燃化処理が必要とされている。例えば、特許文献1には、ホウ酸及びホウ酸化合物の少なくともいずれかを含ませて(含浸させて)難燃化した植物繊維を含む樹脂成形物の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の製造方法は、植物繊維をフィラーとして含む、難燃性を有する樹脂成形物を製造することができ、UL(Underwriters Laboratory)規格(94V)に準拠した難燃性評価では、V-2の難燃性を達成している。しかしながら用途によってはV-2の難燃性では不十分であるおそれがあり、より高い難燃性が求められている。
【0007】
そこで本発明の目的は、引張強度等の機械的特性に優れ、より難燃性に優れたセルロース繊維樹脂複合材料を提供することである。また、セルロース繊維樹脂複合材料をペレットとして射出成型法などにより溶融、成形した場合に、引張強度等の機械的特性に優れ、より難燃性に優れた複合材成形物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究を行い、セルロース繊維の表面を難燃剤が被覆し、特定の平均被覆率を有するセルロース繊維と熱可塑性樹脂とを含むセルロース繊維樹脂複合材料が、引張強度等の機械的特性と、より難燃性に優れていることを見出し、本開示技術を完成させた。即ち、本開示技術は以下の通りである。
【0009】
本開示技術の一態様は、セルロース繊維樹脂複合材料である。当該セルロース繊維樹脂複合材料は、セルロース繊維と、熱可塑性樹脂と、難燃剤と、を含む樹脂混合物を、前記セルロース繊維が押出方向に沿って配向するように押出成形して得られるセルロース繊維樹脂複合材料であって、前記セルロース繊維は、平均繊維長が10~400μm、平均繊維径が1~50μmであり、前記セルロース繊維の含有量は、前記セルロース繊維樹脂複合材料の全質量を100質量%とした場合に、10~60質量%であり、前記難燃剤の含有量は、前記セルロース繊維樹脂複合材料の全質量を100質量%とした場合に、5~30質量%であり、前記難燃剤の少なくとも一部は、前記セルロース繊維を被覆しており、下記の評価方法によって算出される、前記難燃剤による前記セルロース繊維の平均被覆率が15%以上60%以下である。
(被覆率評価方法)
前記セルロース繊維樹脂複合材料を押出成形して得た際の押出方向と直交する断面における82μm×126μmの範囲を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて1000倍の倍率で撮像し、断面SEM像を得る。得られた断面SEM像を画像解析し、断面内の前記セルロース繊維のうち繊維断面の周長が10~50μmのものを無作為に20本選択し、個々の前記セルロース繊維について、周長及び前記難燃剤によって被覆されている長さ(被覆長)を取得し、以下の式に従って、被覆率を算出する。
被覆率=(被覆長)/(周長)×100(%)
前記20本のセルロース繊維について得られた被覆率を数平均し、平均被覆率とする。
本開示のセルロース繊維樹脂複合材料は、前記断面SEM像に含まれる、繊維断面の周長が10~50μmの全てのセルロース繊維の数を基準としたとき、前記被覆率が15~60%であるセルロース繊維の数の割合が80%以上であることが好ましい。
本開示のセルロース繊維樹脂複合材料は、前記難燃剤は、リン系難燃剤、ハロゲン系難燃剤のいずれかを含むことが好ましい。
本開示のセルロース繊維樹脂複合材料は、前記熱可塑性樹脂が、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、塩化ビニル樹脂、メタクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリサルホン樹脂、変性PPO樹脂、ポリエステル樹脂のいずれかを含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本開示技術によれば、引張強度等の機械的特性に優れ、より難燃性に優れたセルロース繊維樹脂複合材料を提供することができる。また、セルロース繊維樹脂複合材料を原料として射出成型法などにより溶融、成形した場合には、引張強度等の機械的特性に優れ、より難燃性に優れた複合材成形物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示技術の実施形態について、詳細に説明する。なお、本明細書中、数値範囲の説明における「a~b」との表記は、特に断らない限り、a以上b以下であることを表す。
【0012】
<<<セルロース繊維樹脂複合材料>>>
本開示のセルロース繊維樹脂複合材料は、セルロース繊維と、熱可塑性樹脂と、難燃剤とを含む樹脂混合物を、前記セルロース繊維が押出方向に沿って配向するように押出成形して得られるセルロース繊維樹脂複合材料である。セルロース繊維樹脂複合材料を原料とし、後述するように溶融、成形(例えば、射出成型)することで、複合材成形物を形成することができる。
【0013】
セルロース繊維樹脂複合材料の形状は、押出成形により成形できる形状であれば特に限定されない。また、セルロース繊維樹脂複合材料としてペレットとする場合においては、セルロース繊維複合材料の形状は、円柱、楕円柱、多角形柱の柱状体である。セルロース繊維樹脂複合材料は、樹脂混合物が溶融され、セルロース繊維樹脂複合材料が押出成形される際に用いた成形型の押出部(樹脂混合物の吐出口)の断面形状を円形、楕円形、多角形とすることで、それぞれ円柱、楕円柱、多角形柱の柱状体のペレットとすることができる。
【0014】
セルロース繊維樹脂複合材料をペレットとする場合の断面径は、特に限定されないが、1~5mmとすることができる。ここで、セルロース繊維樹脂複合材料の断面径とは、柱状体の軸方向と直交する断面の断面径を示し、それぞれ断面形状が円形の場合には直径を、断面形状が楕円形の場合には長軸長さを、断面形状が多角形の場合には最長辺長さを示す。
【0015】
セルロース繊維樹脂複合材料をペレットとする場合の軸方向の長さは、特に限定されないが、6~15mmとすることができる。セルロース繊維樹脂複合材料をペレットとする場合の軸方向の長さは、樹脂混合物が溶融され、セルロース繊維樹脂複合材料が押出成形される際に用いた成形型の押出部(樹脂混合物の吐出口)から吐出された樹脂混合物を切断した際の吐出された樹脂混合物の成形物(セルロース繊維樹脂複合材料のペレット)の軸方向の長さである。
【0016】
セルロース繊維樹脂複合材料の表面は、セルロース繊維樹脂複合材料が押出成形される際に樹脂混合物が成形型から押し出された方向と平行に形成された溝(又は傷)を有する場合がある。本明細書において、この溝(又は傷)の長手方向を、樹脂混合物を押出成形してセルロース繊維樹脂複合材料を得た際の押出方向(以降、セルロース繊維樹脂複合材料の押出方向と略す場合がある)とする。セルロース繊維樹脂複合材料をペレットとする場合の押出方向は、一般に柱状体であるペレットの軸方向に一致する。ペレットが立方体の場合には、セルロース繊維樹脂複合材料表面の溝(又は傷)の方向により、ペレットの押出方向を知ることができる。セルロース繊維樹脂複合材料表面の溝(又は傷)の方向は、肉眼又は光学顕微鏡で確認することができる。
【0017】
セルロース繊維樹脂複合材料内のセルロース繊維は、セルロース繊維樹脂複合材料の押出方向に配向している。セルロース繊維樹脂複合材料の内のセルロース繊維は、セルロース繊維樹脂複合材料が押出成形される際に樹脂混合物が成形型から押し出された方向に配向する。即ち、セルロース繊維の配向方向は、セルロース繊維樹脂複合材料の押出方向に一致する。
ここで、「配向している」又は「押出方向に一致している」とは、技術的常識に基づいて配向又は押出方向に一致していると理解される程度に配向又は押出方向に一致していればよく、必ずしも全てのセルロース繊維が平行に存在又は押出方向に一致して配向している状態を示すものではない。
【0018】
<<セルロース繊維樹脂複合材料セルロース繊維樹脂複合材料の構成>>
<セルロース繊維>
セルロース繊維は、熱可塑性樹脂と複合化されることでセルロース繊維樹脂複合材料の引張強度等の機械的特性を優れたものとする。そのため、セルロース繊維樹脂複合材料を原料とし、溶融、成形(例えば、射出成型)することで、引張強度等の機械的特性を優れた複合材成形物を得ることができる。
セルロース繊維は、特に限定されず、植物由来のセルロース繊維、酢酸菌などの動物由来のセルロース繊維、樹木や木材パルプの天然セルロースを溶剤で溶かし、細く長い連続した繊維を人工的に製造した再生繊維のいずれも用いることができる。後述するセルロース繊維樹脂複合材料の製造方法において、セルロース繊維樹脂複合材料におけるセルロース繊維の分散性を優れたものとし、後述するセルロース繊維の難燃剤による平均被覆率の調整を容易とする点で、パルプを粉砕(解繊)して得られるセルロース繊維が好ましく用いられる。これらのセルロース繊維は、単独で、又は、複数を任意の比率で組み合わせて用いることができる。
【0019】
パルプとしては、原料の観点で木材パルプ、非木材パルプのいずれでもよく、製造方法の観点で機械パルプ、化学パルプのいずれでもよい。
【0020】
木材パルプとしては、モミやマツ等の針葉樹やユーカリやポプラ等の広葉樹からなるMP、CP、GP、RGP、CGP、SP、AP、KP、SCP等を挙げることができ、これらは未晒しパルプでも晒しパルプでもよい。
【0021】
非木材パルプとしては、木材以外の天然繊維としては、木綿、わら、竹、エスパルト、バガス、リンター、ケナフ、マニラ麻、亜麻、麻、黄麻、雁皮等を挙げることができ、その他として古紙や裁落を原料とする古紙パルプを挙げることができる。
【0022】
セルロース繊維の平均繊維長は、10~400μmであり、好ましくは10~350μmである。セルロース繊維の平均繊維長がかかる範囲にある場合には、セルロース繊維樹脂複合材料内においてセルロース繊維の分散性が優れたものとなる。このため、セルロース繊維樹脂複合材料は、溶融時の流動性に優れるため成形性に優れたものとなり、その結果、セルロース繊維樹脂複合材料を原料とし、溶融、成形(例えば、射出成型)することで、引張強度等の機械的特性を優れた複合材成形物を得ることができる。
また、セルロース繊維の平均繊維長がかかる範囲にある場合には、樹脂混合物が押出成形時の流動性に優れることから、セルロース繊維樹脂複合材料においてセルロース繊維が押出方向に沿って配向することが容易となる。
セルロース繊維の平均繊維長がかかる範囲にある場合には、セルロース繊維の比表面積が後述する難燃剤によるセルロース繊維の被覆率や平均被覆率を適度なものとすることに適しており、セルロース繊維樹脂複合材料の難燃性をより優れたものとすることができる。その結果、セルロース繊維樹脂複合材料を原料とし、溶融、成形(例えば、射出成型)することで、より難燃性に優れた複合材成形物を得ることができる。
【0023】
セルロース繊維の平均繊維長は、セルロース繊維(後述する製造方法ではパルプ)の配合量及び後述する製造方法における混合時の攪拌の回転数と攪拌時間により調整することができる。
【0024】
セルロース繊維の平均繊維長は、セルロース繊維樹脂複合材料の押出方向に平行な任意の断面を、走査型電子顕微鏡を用いて観察し、当該断面に含まれるセルロース繊維を無作為に50本選択して、それらセルロース繊維の繊維長を測定したものの数平均を算出して得る。
【0025】
セルロース繊維の平均繊維径は、1~50μmである。セルロース繊維の平均繊維径がかかる範囲にある場合には、セルロース繊維樹脂複合材料内においてセルロース繊維の分散性は優れたものとなる。このため、セルロース繊維樹脂複合材料は、溶融時の流動性に優れ、成形性に優れたものとなり、引張強度等の機械的特性に優れたものとすることができる。また、セルロース繊維樹脂複合材料を原料とし、溶融、成形(例えば、射出成型)することで、引張強度等の機械的特性を優れた複合材成形物を得ることができる。
セルロース繊維の平均繊維径がかかる範囲にある場合には、セルロース繊維の比表面積が後述する難燃剤によるセルロース繊維の被覆率や平均被覆率を適度なものとすることに適しており、セルロース繊維樹脂複合材料を原料とし、溶融、成形(例えば、射出成型)することで、より難燃性に優れた複合材成形物を得ることができる。
さらに、セルロース繊維の平均繊維径がかかる範囲にある場合には、樹脂混合物が押出成形時の流動性に優れることから、セルロース繊維樹脂複合材料内においてセルロース繊維が押出方向に沿って配向することが容易となる。
【0026】
セルロース繊維の平均繊維径は、セルロース繊維(後述する製造方法ではパルプ)の配合量及び後述する製造方法における混練時の回転数と繰返し回数により調整することができる。
【0027】
セルロース繊維の平均繊維径は、セルロース繊維樹脂複合材料の押出方向と直交する断面を、走査型電子顕微鏡を用いて観察し、当該断面に含まれるセルロース繊維を無作為に50本選択して、それらセルロース繊維の直径(楕円形状の場合は長軸長さ、多角形の場合は最長辺長さとする)を測定したものの数平均を算出して得る。
【0028】
セルロース繊維は、後述する難燃剤で部分的に被覆されており、その平均被覆率は15%以上60%以下であり、20%以上50%以下が好ましい。平均被覆率がかかる範囲にある場合には、セルロース繊維の表面に存在する難燃剤が十分であるため、セルロース繊維の難燃性をより優れたものにすることができ、その結果セルロース繊維樹脂複合材料及びセルロース繊維樹脂複合材料を原料とし、溶融、成形(例えば、射出成型)することで得られる複合材成形物の難燃性をより優れたものとすることができる。また、セルロース繊維の表面の一部に難燃剤が被覆していない部分を有しており、セルロース繊維と熱可塑性樹脂の密着性が適度に確保される。このため、セルロース繊維樹脂複合材料及びセルロース繊維樹脂複合材料を原料とし、溶融、成形(例えば、射出成型)することで得られる複合材成形物は、より優れた引張強度等の機械的特性を有する。なお、難燃剤が被覆したセルロース繊維とは、セルロース繊維を難燃剤が直接被覆する場合のほか、セルロース繊維の表面の一部又は全部に熱可塑性樹脂が被覆し、さらにその外側に難燃剤が被覆する場合も含むものとする。
【0029】
セルロース繊維における難燃剤の被覆率及び平均被覆率は、セルロース繊維(後述するパルプ)の配合量と、セルロースの平均繊維長及び平均繊維径と、難燃剤の量と、難燃剤を投入してからの攪拌時間とにより調整することができる。
【0030】
セルロース繊維における難燃剤の被覆率及び平均被覆率は、以下の評価方法で算出される。セルロース繊維樹脂複合材料の押出方向と直交する断面における82μm×126μmの範囲を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて1000倍の倍率で撮像し、断面SEM像を得る。得られた断面SEM像を画像解析し、断面内のセルロース繊維のうち繊維断面の周長が10~50μmのものを無作為に20本選択し、個々のセルロース繊維について周長及び難燃剤によって被覆されている長さ(被覆長)を取得し、以下の式に従って被覆率を算出する。
被覆率=(被覆長)/(周長)×100(%)
選択された20本のセルロース繊維について得られた被覆率を数平均し、平均被覆率とする。
【0031】
また、上述した断面SEM像に含まれる、繊維断面の周長が10~50μmの全てのセルロース繊維の数を基準としたとき、被覆率が15~60%であるセルロース繊維の数の割合(以降、占有率と記載する場合がある)は特に限定されず、例えば、50~100%とすることができ、80%以上がより好ましく、80~95%がより好ましい。難燃剤の被覆率が15~60%であるセルロース繊維の占有率がかかる範囲にある場合には、引張強度等の機械的特性と難燃性により優れたセルロース繊維樹脂複合材料を得ることができる。そのため、セルロース繊維樹脂複合材料を原料とし、溶融、成形(例えば、射出成型)することで得られる複合材成形物も引張強度等の機械的特性と難燃性により優れたものとなる。
【0032】
難燃剤の被覆率が15~60%であるセルロース繊維の占有率は、セルロース繊維(後述するパルプ)の配合量と、難燃剤の配合量と、後述するパルプ小片と熱可塑性樹脂を混合する混合装置に投入したのち難燃剤を投入するまでの時間(難燃剤の投入タイミング)により調整することができる。
【0033】
セルロース繊維樹脂複合材料におけるセルロース繊維の含有量は、セルロース繊維樹脂複合材料の全質量を100質量%とした場合に、10~60質量%であり、10~50質量%が好ましく、10~40質量%がより好ましい。セルロース繊維樹脂複合材料におけるセルロース繊維の含有量がかかる範囲にある場合には、セルロース繊維樹脂複合材料内においてセルロース繊維の分散性は優れたものとなる。このため、セルロース繊維樹脂複合材料は、溶融時の流動性、成形性により優れ、さらに強度や弾性率等の機械的特性に優れたものとなる。その結果、セルロース繊維樹脂複合材料を原料とし、溶融、成形(例えば、射出成型)することで得られる複合材成形物も強度や弾性率等の機械的特性に優れたものとなる。
また、後述する難燃剤の含有量を調整することで、セルロース繊維における難燃剤の被覆率、セルロース繊維における難燃剤の平均被覆率、セルロース繊維樹脂複合材料に含まれる難燃剤の被覆率が15~60%であるセルロース繊維の占有率を調整することが容易となるとともに、セルロース繊維樹脂複合材料及びセルロース繊維樹脂複合材料を原料とし、溶融、成形(例えば、射出成型)することで得られる複合材成形物は、より優れた難燃性を有する。
【0034】
<熱可塑性樹脂>
熱可塑性樹脂は、特に限定されず、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、塩化ビニル樹脂、メタクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリサルホン樹脂、変性PPO樹脂、ポリエステル樹脂等を用いることができる。これらは、単独で、又は、複数を任意の比率で組み合わせて用いることができる。
【0035】
セルロース繊維樹脂複合材料における熱可塑性樹脂の含有量は、セルロース繊維樹脂複合材料の全質量を100質量%とした場合に、10~85質量%が好ましく、20~80質量%がより好ましく、30~75質量%がさらに好ましい。セルロース繊維樹脂複合材料における熱可塑性樹脂の含有量がかかる範囲にある場合には、セルロース繊維樹脂複合材料内におけるセルロース繊維の分散性が優れたものとなる。このため、セルロース繊維樹脂複合材料は、溶融時の流動性、成形性により優れたものとなり、さらに強度や弾性率等の機械的特性に優れたものとなる。その結果、セルロース繊維樹脂複合材料を原料とし、溶融、成形(例えば、射出成型)することで得られる複合材成形物は、強度や弾性率等の機械的特性に優れたものとなる。
【0036】
<難燃剤>
難燃剤は、特に限定されず、例えば、臭素系難燃剤、塩素系難燃剤などのハロゲン系難燃剤;リン系難燃剤;ホウ素系難燃剤;シリコーン系難燃剤;窒素含有化合物;金属酸化物;等を用いることができる。これらは、単独で、又は、複数を任意の比率に組み合わせて用いることができる。これらのうち、ハロゲン系難燃剤とリン系難燃剤が、セルロース繊維樹脂複合材料の難燃性をより優れたものとする点で好ましい。また、ハロゲン系難燃剤及びリン系難燃剤は、熱可塑性樹脂との相溶性に優れるため、セルロース繊維樹脂複合材料の成形性をより優れたものとすることができ、より強度(例えば、引張強度など)に優れたセルロース繊維樹脂複合材料及びセルロース繊維樹脂複合材料を原料とし、溶融、成形(例えば、射出成型)することで得られる複合材成形物を得ることができる。さらにハロゲン系難燃剤及びリン系難燃剤は、費用及び環境負荷の面でも優れている。
【0037】
塩素系難燃剤としては、例えば、塩素化パラフィン、塩素化ポリエチレン、ドデカクロロペンタシクロオクタデカ-7,15-ジエン、無水ヘット酸等を挙げることができる。
【0038】
臭素系難燃剤としては、例えば、ペンタブロモジフェニルエーテル;オクタブロモジフェニルエーテル;
デカブロモジフェニルエーテル;テトラブロモビスフェノールA(TBBA)、TBBA-エポキシオリゴマー、TBBA-ポリカーボネートオリゴマー、TBBA-ビス(ジブロモプロピールエーテル)、TBBA-ビス(アリールエーテル)等のTBBA化合物;
ビスフェニルペンタメタン、1,2-ビス(2,4,6-トリブロモフェノキシ)エタン、2,4,6-トリス(2,4,6-トリブロモフェノキシ)-1,3,5-トリアジン、2,6-ジブロモフェノール、2,4-ジブロモフェノール等の多ベンゼン環化合物;
臭素化ポリスチレン、ポリ臭素化スチレン等の臭素化スチレン化合物;
エチレンビステトラブロモフタルイミド等のフタル酸化合物;
ヘキサブロモシクロドデカン等の環状脂肪族化合物;等を挙げることができる。
【0039】
リン系難燃剤としては、例えば、赤リン等の赤リン系難燃剤;
トリフェニルホスフェート(TPP)、トリクレジルホスフェート(TCP)、トリキシレニルホスフェート(TXP)、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート(TBP)、トリオクチルホスフェート(TOP)、トリス(ブトキシエチル)ホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート(CDP)、キシレニルジフェニルホスフェート、ビス(ノニルフェニル)フェニルホスフェート(DNP)、クレジルビス(ジ2,6-キシレニル)ホスフェート等のリン酸エステル系難燃剤;
ポリリン酸メラミン系難燃剤;
トリフェニルフォスフォルアミド等のリン酸アミド系難燃剤;ポリリン酸アンモニウム(APP)、リン酸メラミン、リン酸グアニジン、ピロリン酸メラミン等のリン酸塩系難燃剤;
トリフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィンオキサイド、テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスフォニウムクロライド、テトラキス(ヒドロキシメチル)サルフェイト等のホスフィン系難燃剤;
プロポキシホスファゼン、フェノキシホスファゼン、アミノホスファゼン、ポリ(フロロアルキルホスファゼン)、ジプロポキシホスファゼン等のリン化合物等のホスファゼン系難燃剤;ジエチルホスフィン酸アルミニウム;等のホスフィン酸系難燃剤を挙げることができる。
【0040】
ホウ素系難燃剤としては、例えば、ホウ砂;
三酸化二ホウ素、三酸化ホウ素、二酸化二ホウ素、三酸化四ホウ素、五酸化四ホウ素等の酸化ホウ素;
ホウ酸、ホウ酸リチウム、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム、ホウ酸セシウム、ホウ酸マグネシウム、ホウ酸カルシウム、ホウ酸バリウム、ホウ酸ジルコニウム、ホウ酸亜鉛、ホウ酸アルミニウム、ホウ酸アンモニウム等のホウ酸化合物;等を挙げることができる。
【0041】
シリコーン系難燃剤としては、例えば、シリコーンオイル、ポリオルガノシロキサン類等のシリコーン化合物を挙げることができる。
【0042】
窒素含有化合物としては、例えば、炭酸アンモニウムや上述したもの以外のメラミン系化合物等の窒素含有化合物を挙げることができる。
【0043】
金属酸化物としては、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化カリウム、酸化珪素、酸化チタン、酸化鉄、酸化銅、酸化ナトリウム、酸化ニッケル、酸化ホウ素、酸化マンガン、酸化リチウム、酸化アンチモン等を挙げることができる。
【0044】
セルロース繊維樹脂複合材料における難燃剤の含有量は、セルロース繊維樹脂複合材料の全質量を100質量%とした場合に、5~30質量%であり、7~30質量%が好ましく、9~30質量%がより好ましい。セルロース繊維の含有量と調整することでセルロース繊維における難燃剤の被覆率、セルロース繊維における難燃剤の平均被覆率、セルロース繊維樹脂複合材料に含まれる難燃剤の被覆率が15~60%であるセルロース繊維の占有率を調整することが容易となるとともに、引張強度等の機械的特性と難燃性により優れたセルロース繊維樹脂複合材料を得ることができる。
【0045】
<その他の成分>
セルロース繊維樹脂複合材料は、公知の添加物をその他の成分として含むことができる。添加物としては、例えば、離型剤、流動改質剤、帯電防止剤、相溶化剤、紫外線吸収剤、充填剤、界面活性剤、カップリング剤、着色剤、酸化防止剤、消泡剤、レベリング剤、可塑剤などを挙げることができる。
【0046】
<<セルロース繊維樹脂複合材料の製造方法>>
セルロース繊維樹脂複合材料の製造方法として好適な例として、原料としてパルプを用いた製造方法について説明する。セルロース繊維樹脂複合材料の製造方法は、セルロース繊維の原料であるパルプをパルプ小片に粉砕する粉砕工程と、各原料を混合、混練する混練工程と、混練工程で得られた樹脂混合物を押出成形することによりセルロース繊維樹脂複合材料を形成する押出工程とを含む。
【0047】
<粉砕工程>
粉砕工程では、セルロース繊維の原料となるパルプをパルプ小片に粉砕する。パルプ小片の大きさとしては、特に限定されないが、後述する混合の容易さや混練工程の時間短縮のため、パルプ小片の径(パルプ小片の最も長い部分の長さ)を10~50mmとすることが好ましい。パルプ小片をこのような大きさとすることで、混練工程において、樹脂混合物内で優れた分散性を示す。
【0048】
粉砕は、公知の方法を用いて行うことができ、例えば、ハンマーミル、カッターミルあるいはジェットミル等の粉砕機を用いる粉砕方法を挙げることができる。
【0049】
<混練工程>
混練工程では、粉砕工程で得られたパルプ小片、熱可塑性樹脂、及び、難燃剤が混合されたのち、混練され、樹脂混合物が作製される。難燃剤は、パルプ小片、熱可塑性樹脂を後述する混合装置に投入する際に同時に投入してもよいし、パルプ小片、熱可塑性樹脂を先に投入し、その後所望の時間経過後に投入してもよい。パルプ小片、熱可塑性樹脂を投入したのち、難燃剤を投入するまでの時間を調整することで、難燃剤の被覆率が15~60%であるセルロース繊維の占有率を調整することができる。
【0050】
混合方法及び混練方法は特に限定されず、公知の方法で行うことができる。なお、混合方法において攪拌する際は、添加する難燃剤の量や、撹拌する機械の回転数(例えば、20~40m/s)等を調整し、パルプが繊維状(以降、パルプ繊維と呼ぶ)になるまで攪拌する。この際、パルプ繊維に難燃剤が一時的に被覆する。その後、混練工程において、パルプ繊維は微細なセルロース繊維に粉砕(解繊)され、かつ、セルロース繊維は熱可塑性樹脂及び難燃剤と混練され、セルロース繊維に被覆された難燃剤は溶融された熱可塑性樹脂によって密着する。この際、セルロース繊維の表面の一部又は全部に熱可塑性樹脂が付着し、さらにその外側に難燃剤が被覆することで難燃剤がセルロース繊維に被覆する場合と、セルロース繊維に付着した難燃剤が、熱可塑性樹脂に圧着されて難燃剤がセルロース繊維に直接被覆する場合が生じる。
【0051】
混合方法(混合装置)としては、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、リボンミキサーなどの攪拌機を用いる方法を挙げることができる。
【0052】
混練方法としては、バンバリーミキサーによる方法、加圧ローラによる方法などを用いる方法を挙げることができる。また、例えば、2軸押出機などの押出成形機を用いて混練することもできる。この場合、混錬工程と後述する押出工程は押出成成形機によりに行われることになる。
【0053】
混練条件は、特に限定されないが、加熱温度を熱可塑性樹脂の軟化点以上とすることが好ましい。このような温度とすることで、セルロース繊維樹脂複合材料内のセルロース繊維の分散が進み、溶融時の流動性に優れるため成形性に優れ、強度や弾性率等の機械的特性に優れたセルロース繊維樹脂複合材料を得ることが可能となる。また熱可塑性樹脂とセルロース繊維との混練が進み、繊維塊りのない、均一分散されたセルロース繊維樹脂複合材料を得ることができる。さらにセルロース繊維と難燃剤の混練が進むことにより、セルロース繊維における難燃剤の被覆率、セルロース繊維における難燃剤の平均被覆率、セルロース繊維樹脂複合材料に含まれる難燃剤の被覆率が15~60%であるセルロース繊維の占有率を好ましい範囲に調整することが可能となり、セルロース繊維樹脂複合材料から得られる複合材成形物の引張強度等の機械的特性と難燃性をより優れたものとすることができる。
【0054】
混練時間又は混練回数としては、特に限定されないが、例えば、1回の混練における混練時間を5~60秒とした場合に、同条件の混練を複数回行うことができる。具体的な混練回数としては、例えば2~5回とすることができる。
【0055】
混練時の回転数は、特に限定されないが、例えば、50~300rpmとすることができる。
【0056】
<押出工程>
押出工程では、混練工程で得られた樹脂混合物を、成形型を介して、所望の形状に成形し、セルロース繊維樹脂複合材料が形成される。
混練工程で得られた樹脂混合物は、押出成形機により加熱、溶融され、成形型に注型される。注型された樹脂混合物は、成形型により所望の断面形状(柱状体であるペレットの軸方向と直交する断面の形状となる)に成形され、成形型の吐出口から吐出される。吐出された成形後の樹脂混合物を所望の長さに切断し、セルロース繊維樹脂複合材料を得ることができる。
【0057】
押出工程における加熱条件は、特に限定されないが、加熱温度を熱可塑性樹脂の軟化点以上とすることが好ましい。このような温度とすることで、セルロース繊維樹脂複合材料内のセルロース繊維が押出成形時に押出方向に配向する。
【0058】
押出成形機は、公知の押出成形機を用いることができる。押出成形方法としては、例えば、2軸押出機による方法などを用いる方法を挙げることができる。2軸押出機は、混練と押出成形とについて兼用できる点で好ましく用いることができる。
【0059】
2軸押出機を用いた場合の2軸押出機のスクリューの回転数は、特に限定されないが、例えば、50~300rpmとすることができる。スクリューの回転数がかかる範囲にある場合には、樹脂混合物の流れがスムーズになることから、セルロース繊維樹脂複合材料のセルロース繊維が押出方向に沿って配向することが容易となる。
【0060】
<<セルロース繊維樹脂複合材料の用途>>
本開示のセルロース繊維樹脂複合材料は、射出成型などの金型を用いて成形する方法や3Dプリンターによる成形方法等による複合材成形物の原料(例えば、ペレット)として用いることが好ましい。複合材成形物は、特に、微細な構造や複雑な構造を有する車両、機器、装置などの成形部品、コンテナ、パレット、プラスチックコア、建材などの工業用資材、日用品、雑貨に用いることが好適である。
【実施例0061】
<<セルロース繊維樹脂複合材料の作製>>
<原料>
・熱可塑性樹脂
ポリプロピレン(ノバテック社製 MG03BD)
・パルプ(セルロース繊維の原料)
針葉樹パルプ(キャンフォー社製 NBKP)
・難燃剤
リン系難燃剤(リン系難燃剤、帝人株式会社製 ファイヤガード FCX-210)
ハロゲン系難燃剤(臭素系難燃剤、ALBEMARLE JAPAN CORPORATION社製 SAYTEX8010)
ホウ素系難燃剤(和光純薬社製、ホウ酸)
【0062】
<各実施例及び各比較例のセルロース繊維樹脂複合材料の作製>
パルプを表1及び表2に示した量を秤量し、粉砕機を用いて、パルプが長さ40mm以下、幅10mm以下のパルプ小片となるまで、粗粉砕した。
表1及び表2に示した質量比となるようパルプ小片、熱可塑性樹脂、難燃剤をドライブレンドして各実施例及び各比較例の混合物とした。得られた各混合物を、2軸押出機(池貝社製 PCM30)を用いて、表3及び表4に示した製造方法でそれぞれ溶融混練した。得られた各実施例及び各比較例の混練物を成形型を介して押出成形したものをホットカットし、各実施例及び各比較例のセルロース繊維樹脂複合材料とした。なお、セルロース繊維樹脂複合材料は、直径3mm×長さ6mmの円柱状のペレットとした。セルロース繊維樹脂複合材料内のセルロース繊維は押出成形機の吐出口からホットカットする際に、押出方向に配向していることを確認した。
【0063】
<各実施例及び各比較例のセルロース繊維樹脂複合材料の測定値>
(セルロース繊維の平均繊維長)
各実施例及び各比較例のセルロース繊維樹脂複合材料を、セルロース繊維樹脂複合材料の押出方向と平行な平面でカットして断面を形成し、その断面を走査型電子顕微鏡により観察し、断面に含まれるセルロース繊維を無作為に50本選択して、それらセルロース繊維の繊維長を測定したものを数平均して算出した。
【0064】
(セルロース繊維の平均繊維径)
各実施例及び各比較例のセルロース繊維樹脂複合材料を、セルロース繊維樹脂複合材料の押出方向と直交する平面でカットして断面を形成し、その断面を走査型電子顕微鏡により観察し、断面に含まれるセルロース繊維を無作為に50本選択して、それらセルロース繊維の繊維径を測定したものを数平均して算出した。測定結果を表1及び表2に示した。
【0065】
(セルロース繊維の平均被覆率、被覆率が15~60%であるセルロース繊維の占有率)
各実施例及び各比較例のセルロース繊維の難燃剤による平均被覆率は、以下の手順で測定した。各実施例及び各比較例のセルロース繊維樹脂複合材料を、セルロース繊維樹脂複合材料の押出方向と直交する平面でカットして断面を形成し、断面における82μm×126μmの範囲を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて1000倍の倍率で撮像し、各実施例及び各比較例の断面SEM像を得た。得られた各断面SEM像を画像解析し、断面内のセルロース繊維のうち繊維断面の周長が10~50μmのものを無作為に20本選択し、個々のセルロース繊維について周長及び難燃剤によって被覆されている長さ(被覆長)を取得し、以下の式に従って被覆率を算出した。
被覆率=(被覆長)/(周長)×100(%)
各実施例及び各比較例について選択された20本のセルロース繊維について得られた被覆率を数平均し、各実施例及び各比較例の平均被覆率とした。結果を表1及び表2に示した。
【0066】
各実施例及び各比較例の被覆率が15~60%であるセルロース繊維の占有率は、各実施例及び各比較例の断面SEM像に含まれる繊維断面の周長が10~50μmの全てのセルロース繊維の数を基準とし、被覆率が15~60%であるセルロース繊維の数を数え、その基準に対する割合を占有率とした。結果を表1及び表2に示した。
【0067】
<<評価>>
<複合材成形物の難燃性評価:垂直燃焼性試験(UL94V試験)>
各実施例及び各比較例のセルロース繊維樹脂複合材料から以下の方法で得られた複合材成形物の難燃性評価をUL94V試験により行った。評価は、ASTM D3801に準拠して行った。
複合材成形物の試験片は、各実施例及び各比較例のセルロース繊維樹脂複合材料を射出成型して、長さ125±5mm×幅13±0.5mm×厚さ5mmとしたものを用いた。射出成型は、各実施例及び各比較例のセルロース繊維樹脂複合材料を80℃、30分間乾燥器内で乾燥させ、射出成型機(日精樹脂工業社製:TD100-25ASE)を用い、シリンダー温度、ノズル温度ともに180℃又は200℃の条件で樹脂を溶融させ、試験片の形状の金型の内部に送り込み、冷却して複合材成形物(試験片)を得た。
評価は、垂直燃焼性試験結果について以下の判定方法に従って行った。結果を表1及び表2に示した。
(判定方法)
判定は、垂直燃焼性試験において、以下に示す燃焼挙動に該当したものをV0、V1、V2とし、いずれの基準にも該当しなかったものを不適合とした。なお、表中の結果が「-」とされているものは、試験片が成形できず評価できなかったものを示す。
・V0
1回目の残炎時間が10秒以下であり、試験片5枚の合計残炎時間が50秒以下であり、2回目の残炎時間+アフターグロー時間が30秒以下であり、クランプ部まで燃えず、滴下物で下に敷いた綿を燃やさないもの。
・V1
1回目の残炎時間が30秒以下であり、試験片5枚の合計残炎時間が250秒以下であり、2回目の残炎時間+アフターグロー時間が60秒以下であり、クランプ部まで燃えず、滴下物で下に敷いた綿を燃やさないもの。
・V2
1回目の残炎時間が30秒以下であり、試験片5枚の合計残炎時間が250秒以下であり、2回目の残炎時間+アフターグロー時間が60秒以下であり、クランプ部まで燃えず、滴下物で下に敷いた綿が燃えるもの。
【0068】
<セルロース繊維樹脂複合材料の成形性評価>
各実施例及び各比較例のセルロース繊維樹脂複合材料を80℃、30分間乾燥器内で乾燥させ、射出成型機(日精樹脂工業社製:TD100-25ASE)を用い、シリンダー温度、ノズル温度ともに180℃又は200℃の条件で樹脂を溶融させ、ダンベル形状試験片の形状の金型(金型の温度は60℃とした)の内部に送り込み、冷却して、各実施例及び各比較例の複合材成形物を得た。ダンベル形状試験片はJIS Z2201:1968で規定している板状試験片寸法とした。また射出成型は、射出圧力を800~1500MPaとして行った。各複合材成形物の成形性は、以下の判定基準に従い、肉眼で観察して行った。結果を表1及び表2に示した。
(判定基準)
A:シリンダー温度、ノズル温度ともに180℃で、射出圧力が800MPa以上1000MPa以下で正常に試験片が成形できる
B:シリンダー温度、ノズル温度ともに180℃で、射出圧力が800MPa以上1000MPa以下で正常に試験片が成形できず、射出圧力を1000MPa超1500MPa以下とすると正常に試験片が成形できる
C:シリンダー温度、ノズル温度ともに180℃で、射出圧力が1000MPa超15000MPa以下で正常に試験片が成形できず、シリンダー温度、ノズル温度ともに200℃として、射出圧力が800MPa以上1500MPa以下で正常に試験片が成形できる
D:シリンダー温度、ノズル温度ともに180℃で、射出圧力が1000MPa超15000MPa以下で正常に試験片が成形できず、さらにシリンダー温度、ノズル温度ともに200℃として、射出圧力が800MPa以上1500MPa以下で正常に試験片が成形できない
【0069】
<複合材成形物の引張強度試験>
成形性評価で作製した各実施例及び各比較例の複合材成形物のダンベル形状試験片をインストロン型材料試験機(島津製作所社製:オートグラフAG25 TA)を用い、クロスヘッド速度を50mm/minとして、破断した際の荷重から引張強度を測定した。測定結果を表1及び表2に示した。なお、表中の結果が「-」とされているものは、試験片が成形できず評価できなかったものを示す。
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】