(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149111
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】合金鋳塊の製造方法、及び合金鋳塊製造用ボトム出湯ノズル
(51)【国際特許分類】
B22D 7/00 20060101AFI20231005BHJP
B22D 21/06 20060101ALI20231005BHJP
B22D 41/50 20060101ALI20231005BHJP
F27B 14/18 20060101ALI20231005BHJP
C22C 1/02 20060101ALI20231005BHJP
F27D 3/14 20060101ALI20231005BHJP
B22D 23/00 20060101ALN20231005BHJP
【FI】
B22D7/00 J
B22D21/06
B22D41/50 510
F27B14/18
C22C1/02 503E
F27D3/14 Z
B22D23/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022057503
(22)【出願日】2022-03-30
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成31年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)「高品位/低コストの粉末用TiAl基合金鋳塊製造技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】西村 友宏
(72)【発明者】
【氏名】王 昌麟
【テーマコード(参考)】
4K046
4K055
【Fターム(参考)】
4K046AA01
4K046BA03
4K046CE05
4K055AA03
4K055JA17
(57)【要約】
【課題】合金鋳塊の製造時において、くびれが発生する割合を低減することができ、これにより製造歩留まりを向上させることができる合金鋳塊の製造方法、及び合金鋳塊製造用ボトム出湯ノズルを提供する。
【解決手段】合金鋳塊の製造方法は、坩堝2から合金溶湯7を有底の鋳型3に出湯し、合金鋳塊を製造する方法であって、坩堝2の底部に設けられたボトム出湯ノズル2aから合金溶湯7を出湯させる速度を、0.06kg/s以上0.30kg/s以下とし、ボトム出湯ノズル2aの内径を3.5mm以上とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
坩堝から合金溶湯を有底の鋳型に出湯し、合金鋳塊を製造する合金鋳塊の製造方法であって、
前記坩堝の底部に設けられたボトム出湯ノズルから合金溶湯を出湯させる速度を、0.06kg/s以上0.30kg/s以下とし、
前記ボトム出湯ノズルの内径を3.5mm以上とすることを特徴とする、合金鋳塊の製造方法。
【請求項2】
水冷銅製の前記坩堝を使用し、誘導溶解法により前記合金溶湯の材料を溶解させることを特徴とする、請求項1に記載の合金鋳塊の製造方法。
【請求項3】
前記合金鋳塊は、Ti及びAlを含有する合金からなる鋳塊であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の合金鋳塊の製造方法。
【請求項4】
前記鋳型の水平方向における最大内径をD(mm)、前記合金鋳塊の鉛直方向における高さをH(mm)とする場合に、H/Dが1.5以上であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の合金鋳塊の製造方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の合金鋳塊の製造方法において用いられる合金鋳塊製造用ボトム出湯ノズルであって、
内径が3.5mm以上であり、黒鉛製である合金鋳塊製造用ボトム出湯ノズル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合金鋳塊の製造方法、及び合金鋳塊製造用ボトム出湯ノズルに関し、特に、鋳塊が細くくびれる欠陥の発生を抑制することができ、これにより、鋳塊製造の歩留まりを向上させることができる合金鋳塊の製造方法、及び合金鋳塊製造用ボトム出湯ノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
輸送機及び産業機械等のエンジンには、高い燃焼エネルギーを得るための過給機が採用されている。近時、エンジンの燃費を向上させるとともに、応答速度を向上させるため、過給機用部材として、高温耐性に優れ、軽量なTiAl合金が実用化されている。
【0003】
このようなTiAl合金の利用の拡大に伴って、TiAl合金鋳塊を製造する技術について、種々の検討がなされている。
例えば、水冷銅の坩堝を用いた誘導溶解炉(CCIM:コールドクルーシブル誘導溶解装置)を使用する方法は、溶解雰囲気および坩堝から溶湯内に不純物が混入することがほとんどなく、高融点のTiAl基合金の溶解に適している。
また、誘導溶解炉は、坩堝サイズより小さな原料であれば、形状に制約なく炉内で溶解ができるため、スクラップ等の材料を原材料として有効に活用することができる。
【0004】
さらに、誘導溶解炉で加熱を起こさせる電磁誘導は、溶湯を攪拌させる電磁斥力も生じさせるため、電磁斥力による攪拌で溶湯内の成分均質性を保つことも可能となる。
そのため、誘導溶解炉を用いたTiAl基合金の鋳造は、高価な原料費が故に高い歩留まりが求められるTiAl基合金の鋳塊に対して、高品質な鋳塊を高歩留まりで得るための有効な手法とされている。
【0005】
ところで、通常、金属は液体状態よりも固体状態において密度が大きいため、凝固の際に鋳造体の容積が小さくなる。つまり、凝固時に収縮が起こることで、比較的冷却速度が遅く凝固の遅れる部分には、引巣と呼ばれる空洞が鋳造時の欠陥が発生しやすくなる。なお、鋳造時の欠陥としては、引巣の他に、例えば、鋳塊の鋳肌に形成される欠陥も挙げられる。
【0006】
これらの欠陥のうち、鋳造時の引巣を抑制する方法が、例えば、特許文献1に提案されている。上記特許文献1に記載の鋳造方法は、コールドクルーシブル誘導溶解炉(CCIM:Cold Crucible Induction Melting)にて溶解させた溶湯を、るつぼ底部のノズルから出湯させて鋳型に鋳造させる方法であり、鋳塊の直径、鋳塊高さと鋳塊径との比、及び出湯される溶湯の重量等について、所定の条件を前提として、鋳造速度Vと鋳塊高さHとの関係(V/H)を制御する方法である。そして、上記特許文献1には、V/Hを所定の範囲とすることにより、鋳塊底部からの指向性凝固を実現し、最大で86%の歩留りを実現できることが記載されている。
【0007】
また、特許文献2には、引巣のような形状の欠陥を低減するとともに、例えばAl濃度が規格範囲から外れる欠陥についても低減することができるTi-Al合金の鋳造方法が提案されている。上記特許文献2に記載の鋳造方法は、Ti-Al基合金を溶解、鋳造する際に、誘導溶解炉内の真空度、及び鋳造された鋳塊のAl濃度を規定したものであり、総合的な品質を大きく向上させることができる。
【0008】
さらに、鋳造時の欠陥のうち、鋳肌の状態を改善する方法として、特許文献3には、ボトム出湯用黒鉛ノズルの内部における溶湯が通過する流路に、所定の角度のテーパを設ける方法が開示されている。特許文献3には、上記のとおりノズルの形状を調整することにより、溶湯の流路を制御して、出湯流の乱れ及びばらつきを抑制することができ、ノズルの材質を最適化することにより、鋳型内の鋳塊への不純物(炭素)の混入を抑制することができることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2018-094628号公報
【特許文献2】特開2021-023967号公報
【特許文献3】特開2021-154304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、合金の鋳造時には、上記引巣や乱れの他に、鋳塊の径が部分的に細くなる「くびれ」と呼ばれる欠陥が発生することがあり、上記従来の特許文献には、くびれについての検討は十分になされていない。したがって、くびれを低減する鋳造方法については、さらなる検討が要求されている。
【0011】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであって、合金鋳塊の製造時において、くびれが発生する割合を低減することができ、これにより製造歩留まりを向上させることができる合金鋳塊の製造方法、及び合金鋳塊製造用ボトム出湯ノズルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の上記目的は、合金鋳塊の製造方法に係る下記[1]の構成により達成される。
【0013】
[1] 坩堝から合金溶湯を有底の鋳型に出湯し、合金鋳塊を製造する合金鋳塊の製造方法であって、
前記坩堝の底部に設けられたボトム出湯ノズルから合金溶湯を出湯させる速度を、0.06kg/s以上0.30kg/s以下とし、
前記ボトム出湯ノズルの内径を3.5mm以上とすることを特徴とする、合金鋳塊の製造方法。
【0014】
また、合金鋳塊の製造方法に係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[2]~[4]に関する。
【0015】
[2] 水冷銅製の前記坩堝を使用し、誘導溶解法により前記合金溶湯の材料を溶解させることを特徴とする、[1]に記載の合金鋳塊の製造方法。
【0016】
[3] 前記合金鋳塊は、Ti及びAlを含有する合金からなる鋳塊であることを特徴とする、[1]又は[2]に記載の合金鋳塊の製造方法。
【0017】
[4] 前記鋳型の水平方向における最大内径をD(mm)、前記合金鋳塊の鉛直方向における高さをH(mm)とする場合に、H/Dが1.5以上であることを特徴とする、[1]~[3]のいずれか1つに記載の合金鋳塊の製造方法。
【0018】
また、本発明の上記目的は、合金鋳塊製造用ボトム出湯ノズルに係る下記[5]の構成により達成される。
【0019】
[5] [1]~[4]のいずれか1つに記載の合金鋳塊の製造方法において用いられる合金鋳塊製造用ボトム出湯ノズルであって、
内径が3.5mm以上であり、黒鉛製である合金鋳塊製造用ボトム出湯ノズル。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、合金鋳塊の製造時において、くびれが発生する割合を低減することができ、これにより製造歩留まりを向上させることができる合金鋳塊の製造方法、及び合金鋳塊製造用ボトム出湯ノズルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、合金鋳塊の製造装置の一例を示す模式図である。
【
図2】
図2は、鋳肌の状態を示す図面代用写真である。
【
図3】
図3は、縦軸を鋳肌の状態を表す割合とし、横軸を鋳造速度とした場合の、鋳造速度に対する鋳肌の状態を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明者らは、鋳肌の状態に着目し、特にくびれの発生を低減することができる合金の鋳造方法について、鋭意検討を行った。
まず、本発明者らは、くびれが発生する原因として、以下の2つの現象を考えた。
原因(1):ノズルから溶湯が出湯する際に溶湯が散り、この散った溶湯が鋳型に接触することにより凝固する。
原因(2):溶湯温度が低いことにより、鋳型に溶湯が充填される前に凝固する。
【0023】
そこで、本発明者らは、上記(1)及び(2)の原因を解消するため、溶湯の温度を上昇させることを検討したが、鋳造に用いる装置の都合により、溶湯の温度を上昇させることは困難であった。
次に、本発明者らは、上記(1)の原因を解消するため、テーパを有するノズルを使用し、溶湯の散りの低減によるくびれ発生の抑制を検討した。また、上記(2)の原因を解消するため、ノズルから溶湯が出湯する速度を調整し、くびれ発生に与える影響を検討した。
【0024】
その結果、(2)を解消すること、すなわち、鋳型に溶湯が充填される前における溶湯の凝固を抑制することが、くびれの抑制により一層効果があることを見出した。そのため、鋳型内で溶湯が凝固する速度と、溶湯が鋳型に出湯される速度とのバランスを調整することが重要であるという結論に至った。具体的には、ノズルの内径を所定の内径以上に設定するとともに、ノズルから合金溶湯を出湯させる際の単位時間に対する出湯量を制御することにより、くびれが発生する割合を低減することができ、その結果、歩留まりを向上させることができる。
【0025】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下で説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。
【0026】
[1.合金鋳塊の製造方法]
図1は、合金鋳塊の製造装置の一例を示す模式図である。
図1を用いて、本実施形態に係る合金鋳塊の製造方法について、説明する。
図1に示すように、本実施形態に係る合金鋳塊の製造に用いられる製造装置1は、チャンバ4の内部に配置された、水冷銅製の坩堝2と、坩堝2の下方に配置された有底の鋳型3とを有する。坩堝2の周方向外側と、底部外側には、坩堝2の内部に配置された金属6を誘導加熱する不図示の高周波コイルが配置され、坩堝2及び高周波コイルにより、誘導溶解炉5が構成されている。また、坩堝2は、上方が開口した有底筒状に形成されており、坩堝2の底部には、高周波コイルにより加熱されて溶解した金属6(合金溶湯7)を鋳型3に注入するためのボトム出湯ノズル2a(以下、「ノズル2a」ともいう。)が形成されている。なお、溶湯を出湯させる前のノズル2aには、チタン製の底栓(図示せず)が取り付けられている。
【0027】
このように構成された合金鋳塊の製造装置1を用いて、合金鋳塊を製造する方法について、以下に説明する。
まず、チャンバ4の内部のガス雰囲気及び圧力を所定の範囲に制御した後、高周波コイルにより磁場を発生させ、水冷された坩堝2の内部の金属6を加熱溶解させる。このように、水冷された坩堝を使用する誘導溶解炉5を用いた方法は、一般的に、コールドクルーシブル誘導溶解法(CCIM)と呼ばれている。
【0028】
次に、底部に設置したコイルに通電し、底部に設置したチタン製の底栓を誘導溶解させ、底栓を溶解除去して開口することにより、ノズル2aから合金溶湯7を有底の鋳型3に出湯させる。本実施形態においては、ノズル2aから合金溶湯7を出湯させる速度(鋳造速度)を、0.06kg/s以上0.30kg/s以下とし、ノズル2aの内径を3.5mm以上としている。その後、鋳型3内において、注入された合金溶湯7が凝固し、合金鋳塊を製造することができる。
【0029】
本実施形態においては、ノズル2aから合金溶湯7を出湯させる速度と、ノズル2aの内径とを適切に制御しているため、鋳型3内で合金溶湯7が凝固する速度と、合金溶湯7が鋳型3に出湯される速度とのバランスを良好に保つことができる。その結果、鋳肌の状態を改善することができ、特に、くびれが発生する割合を低減することができる。
また、本実施形態においては、水冷銅製の坩堝2を使用した誘導溶解法により、合金溶湯7の材料である金属6を溶解させるため、一般的に坩堝の材料として使用される耐火材料を使用しない。したがって、耐火材料から不純物が合金鋳塊に混入することを防止することができる。
【0030】
ただし、本発明においては、CCIMによる合金鋳塊の製造に限定されず、一般的な坩堝を使用した鋳造に対しても適用することができる。
なお、ノズル2aの内径を調節する方法としては、電磁式や機械式で開口径を調整する方法や、開口径が異なる複数の弁部材を予め用意しておいて、弁部材を取り替える方法を採用することができる。
【0031】
以下、本実施形態に係る合金鋳塊の製造方法における種々の条件について、更に詳細に説明する。
【0032】
<鋳造速度:0.06kg/s以上0.30kg/s以下>
鋳造速度が0.06kg/s未満であると、高熱の合金溶湯7が所定の高さまで鋳型3に注入される前に、鋳型3内で合金溶湯7が凝固し始めるため、くびれが発生する割合が増加する。一方、安全性を考慮すると、0.30kg/sを超える鋳造速度となるようにノズル内径を大きくすることは困難であることから、合金溶湯7を0.30kg/sを超える速度で安定的に出湯させることができない。したがって、鋳造速度は、0.06kg/s以上0.30kg/s以下とし、0.12kg/s以上とすることが好ましい。
【0033】
なお、鋳造速度は、ノズル2aの内径のほかに、坩堝2内における合金溶湯の湯面高さによっても変化するが、合金鋳塊の製造途中で湯面高さを制御することは難しい。したがって、本実施形態においては、ノズル2aの内径を調整し、可能な限り鋳造速度を上記範囲内となるように制御することにより、くびれが発生する割合を低減している。
本実施形態において、鋳造速度は、1本の鋳型に合金溶湯が所定の高さまで注入されるまでの時間を測定し、鋳型に注入された合金溶湯の重量(kg)を注入時間(秒)で除することにより、算出することができる。
【0034】
<ノズル内径:3.5mm以上>
ノズルの内径は、鋳造速度に大きく影響を与える。ノズルの内径が3.5mm未満であると、鋳造速度が0.06kg/s以上となる確率が減少し、その結果、くびれが発生する割合が増加する。したがって、ノズルの内径は3.5mm以上とし、4mm以上とすることが好ましく、5mm以上とすることがより好ましい。
なお、ノズルの内径の上限は特に設定しないが、合金溶湯は、ノズルの内壁面を削りながら出湯されるため、ノズルの内径を大きくしすぎると、安全性が低下する。したがって、ノズルの内径は、10mm以下であることが好ましい。
【0035】
<合金>
本発明において、製造する合金鋳塊の組成は特に限定されず、どのような組成の合金鋳塊であっても、本発明に係る製造方法を適用することができる。ただし、例えば航空機用の部材として、近時の高温耐性及び軽量化への要求に対応するため、Ti及びAlを含有する合金鋳塊の製造に適用することが好ましい。
【0036】
なお、Ti及びAlを含有する合金(以下、「Ti-Al基合金」ともいう。)としては、Ti-3Al-2.5V合金、Ti-6Al-6V-2Sn-0.5Fe-0.5Cu合金、Ti-3Al-10V-2Fe合金、Ti-5Al-5V-5Mo-3Cr-0.5Fe合金、Ti-3Al-8V-6Cr-4Mo-4Zr合金、Ti-3Al-15V-3Cr-3Sn合金、Ti-6Al-4V合金、Ti-3Al-15Mo-2.7Nb-0.2Si合金、Ti-5Al-2Sn-2Zr-4Mo-4Cr合金、Ti-6Al-2Sn-4Zr-6Mo合金、Ti-6Al-2Sn-4Zr-2Mo合金、Ti-6Al-5Zr-0.5Mo-0.25Si合金、Ti-5.5Al-3.5Sn-3Zr-1Nb-0.25Mo-0.3Si合金、Ti-5.8Al-4Sn-3.5Zr-0.7Nb-0.5Mo-0.35Si-0.06C合金等が挙げられる。
【0037】
<鋳型のサイズ>
本発明に係る合金鋳塊の製造方法において、使用する鋳型3のサイズは特に限定されない。ただし、引巣の発生をより一層抑制するためには、合金鋳塊の高さと鋳型3の内径との比を適切に設計することが好ましい。例えば、鋳型3内に出湯された溶湯は、底面および側面から冷却されて凝固するが、側面からの凝固の影響が大きいと、引巣などの鋳造欠陥が、合金鋳塊の中央部に生じやすくなる。鋳型の水平方向における最大内径をD(mm)、合金鋳塊の鉛直方向における高さをH(mm)とする場合に、H/Dが1.5以上であると、溶湯の注入と共に鋳型が温まって、相対的に鋳型側面からの冷却が弱くなり、鋳型底部から上部へ向かっての指向性凝固に近くなるため、鋳造欠陥の発生を抑制できる。したがって、H/Dは、1.5以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましく、10以上であることがさらに好ましく、20以上であることが特に好ましい。
【0038】
なお、鋳型3の水平方向における最大内径は、250mm以下であることが好ましく、100mm以下であることがより好ましい。また、得られる合金鋳塊における、鉛直方向の高さは、100mm以上であることが好ましく、400mm以上であることがより好ましく、800mm以上であることがさらに好ましい。
【0039】
[2.合金鋳塊製造用ボトム出湯ノズル]
本実施形態に係る合金鋳塊製造用ボトム出湯ノズルは、上記[1.合金鋳塊の製造方法]において用いられるものであって、内径が3.5mm以上であり、黒鉛製である。ノズルの内径を3.5mm以上とする理由は、上述のとおりである。また、材質を黒鉛製とすることにより、ノズルに誘導加熱が生じて底栓を溶解させることができ、溶湯の出湯が可能となる。したがって、本実施形態に係るボトム出湯ノズルを使用することにより、容易に溶湯を出湯させることができるとともに、得られる合金鋳塊の表面にくびれが発生する割合を低減することができる。
【実施例0040】
以下、本発明に係る合金鋳塊の製造方法の発明例及び比較例について説明する。
【0041】
[合金鋳塊の製造]
まず、合金溶湯の材料となるTi-Al基合金材を、
図1に示す誘導溶解炉5の坩堝2内に投入し、コールドクルーシブル誘導溶解(CCIM:Cold Crucible Induction Melting)法により加熱して溶解させた。次に、溶解した合金溶湯7を、坩堝2の底部に設けられた種々の内径を有するボトム出湯ノズル2aから出湯させ、黒鉛製の鋳型3に注入し、合金鋳塊を製造した。
【0042】
本実施例においては、種々の組成のTi-Al基合金材を使用したが、一例として、Ti-48Al-2Nb-2Cr(at%)の組成の合金材を使用した。なお、合金の組成は、鋳肌の状態に影響を与えないことを確認した。また、一度に投入できるTi-Al基合金材の投入量が50kgである坩堝を使用し、坩堝内で溶解させた合金溶湯を、合計4つの鋳型に順次注入させた。チャンバ4内はAr雰囲気とし、真空度は80torr~680torrの範囲で制御した。製造できる合金鋳塊の形状は、鋳型の形状に合わせて変化させることができるため、本実施例においては、以下に示すサイズの円柱形の鋳塊を製造した。
【0043】
円柱形:直径60mm、又は直径72mm(鋳型3の水平方向における内径)
また、有底円筒形の鋳型により得られた合金鋳塊の鉛直方向の高さは110mm~1490mmであった。なお、一辺及び他辺がいずれも55mmである、断面形状が矩形の鋳塊を製造し、鋳肌の状態を確認したところ、合金材の組成と同様に、製造する合金鋳塊の水平方向の断面形状は、鋳肌の状態に影響を与えないことも確認した。
【0044】
[鋳塊の鋳肌の評価]
得られた円柱形の各合金鋳塊について、目視により鋳肌を観察し、良好、乱れ、くびれの3種類に分類した。
図2は、鋳肌の状態を示す図面代用写真である。「良好」は、鋳肌の状態が良好であり、傷等も観察されなかったものを表す。「乱れ」は、鋳肌の一部に傷が発生しているものの、切削により使用可能であるものを表す。「くびれ」は、鋳塊の一部が細くくびれており、切削によっても使用が困難であるものを表す。
【0045】
図3は、縦軸を鋳肌の状態を表す割合とし、横軸を鋳造速度とした場合の、鋳造速度に対する鋳肌の状態を示すグラフ図である。
図3においては、各鋳造速度について複数の鋳塊の鋳肌を観察しているため、くびれ、乱れ及び良好と判断された鋳肌状態を、各割合で表している。なお、
図3に示す鋳造速度の表示において、例えば、0.02~0.03という記載は、0.02(kg/s)以上0.03(kg/s)未満であることを表す。すなわち、「~」よりも前の数値を下限として含み、「~」よりも後の数値を含まないことを意味する。
【0046】
また、表1は、ノズルの内径を3.2mm、3.5mm、4mm、5mmに変化させた場合の、鋳造速度とくびれが発生した個数及びくびれ発生率との関係を示す。なお、表1では、くびれの発生のみについて測定し、くびれが発生した鋳塊の個数及びくびれ発生率を表した。下記表1において、鋳造速度が0.20(kg/s)以上0.28(kg/s)未満となった鋳塊は製造されなかったため、表中においてまとめて記載している。また、表1において、太線で囲んでいる範囲が、本発明で規定する範囲である。
【0047】
【0048】
図3に示すように、くびれの発生と鋳造速度との間には、相関関係があることが示された。すなわち、鋳造速度を大きくすることにより、くびれが発生する割合を低下させることができた。なお、鋳造速度が0.09kg/s以上0.10kg/s未満の範囲で、乱れ及びくびれの発生が0となっているが、これは、実験上のばらつきによるものと考えらえる。また、鋳造速度を0.12kg/s以上とすると、くびれは発生せず、良好と乱れのみとなった。
【0049】
また、上記表1に示すように、ノズルの内径を3.5mm以上とするとともに、鋳造速度を0.06kg/s以上0.30kg/s未満とすることにより、くびれの発生割合を20%以内とすることができた。これにより、鋳塊を製造する際の歩留まりを向上させることができた。さらに、鋳造速度はノズル内径の影響を大きく受けるため、ノズル内径を3.5mm以上とするとともに、鋳造速度を0.12kg/s以上とすると、より一層くびれの発生を防止することができることが示された。