(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149156
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】スクロール圧縮機及び冷凍サイクル装置
(51)【国際特許分類】
F04C 18/02 20060101AFI20231005BHJP
F25B 1/04 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
F04C18/02 311Q
F04C18/02 311F
F04C18/02 311M
F25B1/04 Y
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022057572
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】森 誠也
(72)【発明者】
【氏名】小島 功二
(72)【発明者】
【氏名】岡村 勇太
(72)【発明者】
【氏名】岡本 彩
【テーマコード(参考)】
3H039
【Fターム(参考)】
3H039AA03
3H039AA12
3H039BB02
3H039CC03
3H039CC16
3H039CC34
(57)【要約】
【課題】異常振動しながら長時間運転されることを抑制可能なスクロール圧縮機、及びこれを備えた冷凍サイクル装置を提供する。
【解決手段】スクロール圧縮機は、圧縮機構20と、ハウジングと、オルダム継手と、突出部38を備える。圧縮機構は、第1キー溝42baが形成されている可動スクロール40と、固定スクロール30を有する。ハウジングには、第2キー溝が形成されている。ハウジングは、固定スクロールを支持する。オルダム継手は、可動スクロールのキー溝を摺動する第1キーと、ハウジングの第2キー溝を摺動する第2キーを有する。突出部38は、第1キーの第1キー面の摩耗量及び第1キー溝の第1溝面の摩耗量の合計である第1値が第1許容値を超えると可動スクロールに干渉する位置、又は、第2キーの第2キー面の摩耗量及び第2キー溝の第2溝面の摩耗量の合計である第2値が第2許容値を超えると可動スクロールに干渉する位置、に配置される。
【選択図】
図7B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1キー溝(42ba)が形成されている可動スクロール(40)と、固定スクロール(30)と、を有する圧縮機構(20)と、
第2キー溝(58a)が形成されており、前記固定スクロールを支持するハウジング(50)と、
前記可動スクロールの前記第1キー溝を摺動する第1キー(24b)及び前記ハウジングの前記第2キー溝を摺動する第2キー(24c)を有するオルダム継手(24)と、
前記第1キーの第1キー面(25)の摩耗量及び前記第1キー面と摺動する前記第1キー溝の第1摺動面(42c)の摩耗量の合計である第1値が第1許容値を超えるまでは前記可動スクロール又は前記オルダム継手に干渉せず、前記第1値が前記第1許容値を超えると、前記可動スクロール又は前記オルダム継手に干渉する位置に配置される、又は、前記第2キーの第2キー面(26)の摩耗量及び前記第2キー面と摺動する前記第2キー溝の第2摺動面(58b)の摩耗量の合計である第2値が第2許容値を超えるまでは前記可動スクロール又は前記オルダム継手に干渉せず、前記第2値が前記第2許容値を超えると、前記可動スクロール又は前記オルダム継手に干渉する位置に配置される、干渉部(38,59a,59b)と、
を備える、スクロール圧縮機(100)。
【請求項2】
前記干渉部(38)は、前記固定スクロールに設けられる、
請求項1に記載のスクロール圧縮機。
【請求項3】
前記干渉部(59a,59b)は、前記ハウジングに設けられる、
請求項1に記載のスクロール圧縮機。
【請求項4】
前記可動スクロールは、円板部(43a)と、前記円板部から径方向外側に延びる耳部(43b)と、を有し、
前記第1値が前記第1許容値を超えると、又は、前記第2値が前記第2許容値を超えると、前記可動スクロールの前記耳部が前記干渉部と干渉する、
請求項1から3のいずれか1項に記載のスクロール圧縮機。
【請求項5】
前記可動スクロールは、前記固定スクロールとは対向しない面(42b)に、外縁から径方向内向きに切り欠かれた切り欠き部(42d)が形成されている円板部(43a)を有し、
前記第1値が前記第1許容値を超えると、又は、前記第2値が前記第2許容値を超えると、前記可動スクロールの前記切り欠き部が前記干渉部と干渉する、
請求項1から3のいずれか1項に記載のスクロール圧縮機。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載のスクロール圧縮機と、凝縮器(300,400)と、蒸発器(400,300)と、膨張機構(500)と、を有する冷媒回路(600)を備える、
冷凍サイクル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
スクロール圧縮機、及び、スクロール圧縮機を備える冷凍サイクル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スクロール圧縮機では、可動スクロールの自転防止の目的でオルダム継手が用いられる(例えば特許文献1(特開2014-190157号公報)参照)。オルダム継手は、可動スクロール及びハウジングに設けられたキー溝を摺動するキーを有し、キーがキー溝内を摺動することで、可動スクロールの自転を防止する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このようなスクロール圧縮機において、何らかの原因で、可動スクロール又はハウジングに設けられたキー溝や、可動スクロール又はハウジングに設けられたキー溝を摺動するキーが、過度に摩耗する場合がある。キー溝やキーに過度な摩耗が生じると、可動スクロールやオルダム継手は、正常な運転状態とは異なる経路を移動する可能性がある。
【0004】
このような状態が生じると、スクロール圧縮機の回転バランスが崩れるため、スクロール圧縮機が異常振動する可能性がある。このようなスクロール圧縮機の異常振動は、スクロール圧縮機に接続されている配管を破損し、その結果、スクロール圧縮機における圧縮対象等の冷媒や、スクロール圧縮機で使用されている冷凍機油等が環境に放出され、環境に悪影響を与えるおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1観点のスクロール圧縮機は、圧縮機構と、ハウジングと、オルダム継手と、干渉部を備える。圧縮機構は、第1キー溝が形成されている可動スクロールと、固定スクロールを有する。ハウジングには、第2キー溝が形成されている。ハウジングは、固定スクロールを支持する。オルダム継手は、可動スクロールの第1キー溝を摺動する第1キー及びハウジングの第2キー溝を摺動する第2キーを有する。干渉部は、第1値が第1許容値を超えるまでは可動スクロール又はオルダム継手に干渉せず、第1値が第1許容値を超えると、可動スクロール又はオルダム継手に干渉する位置に配置される。第1値は、第1キーの第1キー面の摩耗量及び第1キー面と摺動する第1キー溝の第1摺動面の摩耗量の合計である。または、干渉部は、第2値が第2許容値を超えるまでは可動スクロール又はオルダム継手に干渉せず、第2値が第2許容値を超えると、可動スクロール又はオルダム継手に干渉する位置に配置される。第2値は、第2キーの第2キー面の摩耗量及び第2キー面と摺動する第2キー溝の第2摺動面の摩耗量の合計である。
【0006】
第1観点のスクロール圧縮機では、第1キー溝及び第1キーの摩耗が進むと、又は、第2キー溝及び第2キーの摩耗が進むと、可動スクロール又はオルダム継手が干渉部に接触し、スクロール圧縮機のモータの負荷を増大させることができる。その結果、第1観点のスクロール圧縮機では、第1キー溝及び第1キーの摩耗により、又は、第2キー溝及び第2キーの摩耗により、可動スクロール又はオルダム継手が正常な運転状態とは異なる経路を移動するようになったことを、モータの過電流により検知して、スクロール圧縮機が異常振動しながら長時間運転される状態の発生を抑制できる。
【0007】
第2観点のスクロール圧縮機は、第1観点のスクロール圧縮機であって、干渉部は、固定スクロールに設けられる。
【0008】
第3観点のスクロール圧縮機は、第1観点のスクロール圧縮機であって、干渉部は、ハウジングに設けられる。
【0009】
第4観点のスクロール圧縮機は、第1観点から第3観点のいずれかのスクロール圧縮機であって、可動スクロールは、円板部と、円板部から径方向外側に延びる耳部を有する。第1値が第1許容値を超えると、又は、第2値が第2許容値を超えると、可動スクロールの耳部が干渉部と干渉する。
【0010】
可動スクロールの耳部は、円板部から径方向外側に張り出しているため、可動スクロールが通常時とは異なる動きをした時に、通常時に移動する経路から比較的大きく外れた経路を移動しやすい。そのため、第1値が第1許容値を超えた場合に又は第2値が第2許容値を超えた場合に可動スクロールの耳部に干渉する位置に干渉部を配置することで、早い段階でスクロール圧縮機を停止させ、スクロール圧縮機が異常振動しながら長時間運転される状態の発生を抑制できる。
【0011】
第5観点のスクロール圧縮機は、第1観点から第3観点のいずれかのスクロール圧縮機であって、可動スクロールは、固定スクロールとは対向しない面に、外縁から径方向内向きに切り欠かれた切り欠き部が形成されている円板部を有する。第1値が第1許容値を超えると、又は、第2値が第2許容値を超えると、可動スクロールの切り欠き部が干渉部と干渉する。
【0012】
可動スクロールが正円に近い形状の場合、キー溝及びキーの摩耗により可動スクロールが自転し始めても、干渉部が可動スクロールの外縁には接触しにくい可能性がある。これに対し、第5観点のスクロール圧縮機では、可動スクロールの切り欠き部を干渉部と干渉させるため、第1キー溝及び/又は第1キーの異常摩耗時に、又は、第2キー溝及び/又は第2キーの異常摩耗時に、早い段階で可動スクロールを干渉部と干渉させることができる。その結果、スクロール圧縮機が異常振動しながら長時間運転される状態の発生を抑制できる。
【0013】
第6観点の冷凍サイクル装置は、第1観点から第5観点のいずれかのスクロール圧縮機と、凝縮器と、蒸発器と、膨張機構を有する冷媒回路を備える。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】一実施形態に係る冷凍サイクル装置の概略構成図である。
【
図2】圧縮機の一実施形態に係るスクロール圧縮機の概略縦断面図である。
【
図3】
図2のスクロール圧縮機の可動スクロールを背面側から見た概略平面図である。
【
図4】
図2のスクロール圧縮機のオルダム継手の概略平面図であり、あわせてオルダム継手の第2キーが摺動するキー溝が形成されているハウジングを模式的に描画している。
【
図6A】
図2のスクロール圧縮機において、通常時に可動スクロールが移動する経路を説明するための図である。
【
図6B】
図2のスクロール圧縮機において、通常時に可動スクロールが移動する経路を説明するための図である。
【
図7A】
図2のスクロール圧縮機において、異常摩耗時に可動スクロールが移動する経路を説明するための図である。
【
図7B】
図2のスクロール圧縮機において、異常摩耗時に可動スクロールが移動する経路を説明するための図である。
【
図8】
図2のスクロール圧縮機の、キー溝の側面が摩耗した可動スクロールを背面側から見た概略平面図である。
【
図9】変形例Cのスクロール圧縮機の可動スクロールの概略斜視図である。
【
図10A】変形例Cのスクロール圧縮機において、通常時に可動スクロールが移動する経路を説明するための図である
【
図10B】変形例Cのスクロール圧縮機において、異常摩耗時に可動スクロールが移動する経路を説明するための図である。
【
図11】変形例Dのスクロール圧縮機において、オルダム継手が移動する経路を説明するための図である。
【
図12A】変形例Dのスクロール圧縮機において、通常時にオルダム継手が移動する経路を説明するための図である。
【
図12B】変形例Dのスクロール圧縮機において、異常摩耗時にオルダム継手が移動する経路を説明するための図である。
【
図13】変形例Dのスクロール圧縮機において、オルダム継手が異常摩耗時に干渉部と接触する位置を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示のスクロール圧縮機と、スクロール圧縮機を備えた冷凍サイクル装置の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0016】
以下では、説明の便宜上、位置や向きを説明するために、「上」、「下」等の表現を用いる場合がある。断りの無い場合、「上」、「下」等の表現の表す位置や向きは、図中の矢印に従う。
【0017】
また、以下では、「平行」、「直交」、「水平」、「垂直」、「同一」等の表現を用いる場合があるが、これらの表現は、厳密な意味で「平行」、「直交」、「水平」、「垂直」、「同一」である場合に限定されない。「平行」、「直交」、「水平」、「垂直」、「同一」等の表現は、実質的に「平行」、「直交」、「水平」、「垂直」、「同一」である場合を含む意味で用いられる。
【0018】
(1)冷凍サイクル装置の構成
本開示の圧縮機の一実施形態に係るスクロール圧縮機100を備えた冷凍サイクル装置1000について、
図1を参照しながら説明する。
図1は、冷凍サイクル装置の一実施形態に係る空気調和装置の概略構成図である。
【0019】
冷凍サイクル装置1000は、蒸気圧縮式冷凍サイクルを利用して、温度調整対象を冷却したり、加熱したりする装置である。冷凍サイクル装置1000は、例えば、温度調整対象としての空調対象空間の空気を冷却したり加熱したりする空気調和装置である。ここでは、冷凍サイクル装置1000が空気調和装置である場合を例に、冷凍サイクル装置1000を説明する。ただし、冷凍サイクル装置1000の種類は、空気調和装置に限定されるものではなく、給湯装置、床暖房装置、冷蔵装置等であってもよい。
【0020】
冷凍サイクル装置1000は、
図1のように、主として冷媒回路600を備える。冷媒回路600は、
図1のように、スクロール圧縮機100と、流路切換機構700と、熱源熱交換器300と、利用熱交換器400と、膨張機構500を有する。冷媒回路600では、スクロール圧縮機100と、流路切換機構700と、熱源熱交換器300と、利用熱交換器400と、膨張機構500が、冷媒配管により接続されている。
【0021】
スクロール圧縮機100は、冷凍サイクルにおける低圧(以後、単に低圧と呼ぶ場合がある)のガス冷媒を吸入して加圧し、冷凍サイクルにおける高圧のガス冷媒(以後、単に高圧と呼ぶ場合がある)として吐出する装置である。スクロール圧縮機100についての詳細は後述する。
【0022】
流路切換機構700は、冷媒回路600の状態を、冷房状態と、暖房状態の間で切り換える機構である。限定するものではないが、流路切換機構700は、四路切換弁である。冷媒回路600が冷房状態にある時には、冷媒は、スクロール圧縮機100、流路切換機構700、熱源熱交換器300、膨張機構500、利用熱交換器400、流路切換機構700、スクロール圧縮機100の順に冷媒回路600を流れる(
図1の流路切換機構700内の実線を参照)。冷媒回路600が暖房状態にある時には、冷媒は、スクロール圧縮機100、流路切換機構700、利用熱交換器400、膨張機構500、熱源熱交換器300、流路切換機構700、スクロール圧縮機100の順に冷媒回路600を流れる(
図1の流路切換機構700内の破線を参照)。
【0023】
熱源熱交換器300は、熱源となる媒体(例えば空気)と冷媒との間で熱交換を行わせる熱交換器である。冷媒回路600の状態が冷房状態にある時、熱源熱交換器300は、冷媒の凝縮器(放熱器)として機能する。冷媒回路600の状態が暖房状態にある時、熱源熱交換器300は、冷媒の蒸発器(吸熱器)として機能する。
【0024】
利用熱交換器400は、温度調整対象(ここでは、空調対象空間の空気)と冷媒との間で熱交換を行わせる熱交換器である。冷媒回路600の状態が冷房状態にある時、利用熱交換器400は、冷媒の蒸発器(吸熱器)として機能する。冷媒回路600の状態が暖房状態にある時、利用熱交換器400は、冷媒の凝縮器(放熱器)として機能する。
【0025】
膨張機構500は、膨張機構500を通過する高圧の冷媒(主に液体の冷媒)を減圧し、低圧の冷媒(液体と気体とからなる二相の冷媒)にする。膨張機構500は、例えば電子膨張弁である。ただし、膨張機構500の種類は電子膨張弁に限定されず、感温筒を有する温度自動膨張弁や、キャピラリチューブであってもよい。
【0026】
冷凍サイクル装置1000の行う冷房運転と暖房運転とについて説明する。
【0027】
冷凍サイクル装置1000が冷房運転を行う場合、スクロール圧縮機100は、低圧のガス冷媒を吸入して加圧し、高圧のガス冷媒として吐出する。スクロール圧縮機100が吐出する高圧のガス冷媒は、流路切換機構700を通過して、凝縮器として機能する熱源熱交換器300に供給される。熱源熱交換器300は、熱源となる媒体と高圧のガス冷媒とを熱交換させて、高圧のガス冷媒を凝縮させ、高圧の液冷媒にする。熱源熱交換器300から流出する高圧の液冷媒は、膨張機構500を通過して低圧の気液二相冷媒となり、蒸発器として機能する利用熱交換器400に供給される。利用熱交換器400は、空調対象空間の空気と低圧の気液二相冷媒とを熱交換させて、気液二相冷媒に含まれる液冷媒を蒸発させ、低圧のガス冷媒にする。この際、空調対象空間の空気は、冷媒により冷却される。利用熱交換器400から流出する低圧のガス冷媒は、流路切換機構700を通過し、スクロール圧縮機100に再び吸入される。
【0028】
冷凍サイクル装置1000が暖房運転を行う場合、スクロール圧縮機100は、低圧のガス冷媒を吸入して加圧し、高圧のガス冷媒として吐出する。スクロール圧縮機100が吐出する高圧のガス冷媒は、流路切換機構700を通過して、凝縮器として機能する利用熱交換器400に供給される。利用熱交換器400は、空調対象空間の空気と高圧のガス冷媒とを熱交換させて、高圧のガス冷媒を凝縮させ、高圧の液冷媒にする。この際、空調対象空間の空気は、冷媒により加熱される。利用熱交換器400から流出する高圧の液冷媒は、膨張機構500を通過して低圧の気液二相冷媒となり、蒸発器として機能する熱源熱交換器300に供給される。熱源熱交換器300は、熱源となる媒体と低圧の気液二相冷媒とを熱交換させて、気液二相冷媒に含まれる液冷媒を蒸発させ、低圧のガス冷媒にする。熱源熱交換器300から流出する低圧のガス冷媒は、流路切換機構700を通過し、スクロール圧縮機100に再び吸入される。
【0029】
なお、ここでは、冷凍サイクル装置1000の一例としての空気調和装置が、冷房運転と暖房運転とを実行する装置である場合を例に説明したが、空気調和装置は、冷房運転と暖房運転との一方だけを行う装置であってもよい。この場合には、冷凍サイクル装置1000の一例としての空気調和装置は、流路切換機構700を有していなくてもよい。
【0030】
また、ここで説明した冷凍サイクル装置1000を構成する機器は一例に過ぎず、冷凍サイクル装置1000は、ここで説明した以外の機器を有してもよい。
【0031】
(2)スクロール圧縮機の全体構成
スクロール圧縮機100の概要を、
図2を参照しながら説明する。
図2は、スクロール圧縮機100の概略縦断面図である。
【0032】
スクロール圧縮機100は、前述のように冷凍サイクル装置1000において用いられ、低圧のガス冷媒を吸入し、吸入した冷媒を圧縮して高圧のガス冷媒にして吐出する。冷媒は、例えばHFC冷媒のR32である。なお、R32は冷媒の種類の例示に過ぎず、スクロール圧縮機100は、R32以外のHFC冷媒や、HFO冷媒を圧縮する装置であってもよい。また、例えば、スクロール圧縮機100は、二酸化炭素等の自然冷媒を圧縮して吐出する装置であってもよい。
【0033】
スクロール圧縮機100は、
図1及び
図2に示すように、ケーシング10と、圧縮機構20と、オルダム継手24、ハウジング50と、モータ70と、クランク軸80と、下部軸受ハウジング90と、停止部140を主に有する。
【0034】
(3)スクロール圧縮機の各構成
スクロール圧縮機100の、ケーシング10、圧縮機構20、オルダム継手24、ハウジング50、モータ70、クランク軸80、下部軸受ハウジング90、及び停止部140について、詳細を説明する。
【0035】
なお、本スクロール圧縮機100は、所定の状態で、モータ70により駆動される可動スクロール40に干渉する(接触する)干渉部を有する。(3)スクロール圧縮機の各構成の説明では、干渉部については特に触れない。干渉部については別途後述する。
【0036】
(3-1)ケーシング
スクロール圧縮機100は、縦長円筒状のケーシング10を有する(
図2参照)。
【0037】
ケーシング10は、
図2に示すように、円筒部材12と、上蓋14aと、下蓋14bを主に有する。円筒部材12は、中心軸に沿って延びる上下が開口した円筒状の部材である。上蓋14aは、円筒部材12の上方に設けられ、円筒部材12の上方の開口を塞ぐ。下蓋14bは、円筒部材12の下方に設けられ、円筒部材12の下方の開口を塞ぐ。円筒部材12と、上蓋14a及び下蓋14bとは、気密を保つように溶接により固定される。
【0038】
ケーシング10は、圧縮機構20、オルダム継手24、ハウジング50、モータ70、クランク軸80、及び下部軸受ハウジング90を含む、スクロール圧縮機100を構成する各種部材を内部に収容する(
図2参照)。ケーシング10内の上部には、圧縮機構20が配置されている。圧縮機構20の下方には、ハウジング50が配置されている。ハウジング50の下方には、モータ70が配置されている。モータ70の下方には、下部軸受ハウジング90が配置されている。ケーシング10の底部には、油溜空間16が形成されている。油溜空間16には、スクロール圧縮機100の各種摺動箇所を潤滑するための油(冷凍機油)が溜められている。
【0039】
モータ70は、スクロール圧縮機100の第1空間S1に配置される。第1空間S1は、ケーシング10の内部の、圧縮機構20のハウジング50より下方の空間である。本実施形態では、第1空間S1は、圧縮機構20により圧縮された高圧の冷媒が流入する空間である。言い換えれば、本実施形態のスクロール圧縮機100は、いわゆる高圧ドーム型のスクロール圧縮機である。
【0040】
ケーシング10には、吸入管18a及び吐出管18bが、ケーシング10の内部と外部とを連通するように取り付けられている(
図2参照)。
【0041】
吸入管18aは、
図2のように、ケーシング10の上蓋14aを貫通して設けられる。吸入管18aの一端(ケーシング10の外部の端部)は、冷凍サイクル装置1000の配管600aに接続され、吸入管18aの他端(ケーシング10の内部の端部)は、圧縮機構20の固定スクロール30の吸入ポート36aに接続される。配管600aは、
図1のように、スクロール圧縮機100の吸入管18aと流路切換機構700とを接続する配管である。吸入管18aは、吸入ポート36aを介して後述する圧縮機構20の外周側の圧縮室Scと連通する。スクロール圧縮機100は、吸入管18aを介して、冷凍サイクル装置1000の冷凍サイクルにおける低圧の冷媒を吸入する。
【0042】
吐出管18bは、
図2のように、円筒部材12の上下方向における中央部に、円筒部材12を貫通して設けられる。吐出管18bの一端(ケーシング10の外部の端部)は、冷凍サイクル装置1000の配管600bに接続され、吐出管18bの他端(ケーシング10の内部の端部)は、第1空間S1のハウジング50とモータ70との間に配置される。配管600bは、
図1のように、スクロール圧縮機100の吐出管18bと流路切換機構700とを接続する配管である。スクロール圧縮機100は、圧縮機構20による圧縮後の高圧の冷媒を吐出管18bを介して吐出する。
【0043】
(3-2)圧縮機構
圧縮機構20は、固定スクロール30と、可動スクロール40を主に有する。固定スクロール30と可動スクロール40とは、組み合わされて圧縮室Scを形成する。圧縮機構20は、圧縮室Scで冷媒を圧縮し、圧縮後の冷媒を吐出する。
【0044】
(3-2-1)固定スクロール
固定スクロール30は、ハウジング50上に載置され、図示しない固定手段(例えばボルト)によりハウジング50に固定されている。
【0045】
固定スクロール30は、
図2に示すように、第1鏡板32と、第1ラップ34と、周縁部36を主に有する。
【0046】
第1鏡板32は、円板状の部材である。第1ラップ34は、第1鏡板32の前面32a(下面)から可動スクロール40側に突出する壁状の部材である。固定スクロール30を下方から見ると、第1ラップ34は、第1鏡板32の中心付近から外周側に向かって渦巻状(インボリュート形状)に形成されている。周縁部36は、第1鏡板32の前面32aから可動スクロール40側に突出する厚肉円筒状の部材である。周縁部36は、第1ラップ34の周囲を取り囲むように配置される。周縁部36には、吸入ポート36aが形成される。吸入ポート36aには、吸入管18aの下端が接続される。
【0047】
固定スクロール30の第1ラップ34と、後述する可動スクロール40の第2ラップ44とは、組み合わされて圧縮室Scを形成する。具体的には、固定スクロール30と可動スクロール40とは、第1鏡板32の前面32aと後述する第2鏡板42の前面42a(上面)とが対向する状態で組み合わされる。その結果、第1鏡板32と、第1ラップ34と、第2ラップ44と、後述する可動スクロール40の第2鏡板42に囲まれた圧縮室Scが形成される(
図2参照)。可動スクロール40が固定スクロール30に対して旋回すると、吸入管18aから吸入ポート36aを介して周縁側の圧縮室Scに流入した低圧の冷媒は、中央側の圧縮室Scへと移動するにつれ圧縮されて圧力が上昇する。
【0048】
第1鏡板32の略中心には、圧縮機構20により圧縮された冷媒を吐出する吐出ポート33が、第1鏡板32を厚さ方向(上下方向)に貫通して形成されている(
図2参照)。吐出ポート33は、圧縮機構20の中心側(最内側)の圧縮室Scと連通している。第1鏡板32の上方には、吐出ポート33を開閉する吐出弁22が取り付けられている。吐出ポート33が連通する最内側の圧縮室Scの圧力と、吐出弁22より上方の吐出空間Saの圧力とが所定の関係になると、吐出弁22が開き、最内側の圧縮室Scの冷媒が吐出ポート33を通過して第1鏡板32の上方の吐出空間Saに流入する。吐出空間Saは、固定スクロール30及びハウジング50にわたって形成されている冷媒通路(図示省略)と連通している。冷媒通路は、吐出空間Saとハウジング50の下方の第1空間S1とを連通する通路であり、吐出空間Saに流入する圧縮機構20による圧縮後の冷媒は、冷媒通路を通過して第1空間S1へ流入する。
【0049】
(3-2-2)可動スクロール
可動スクロール40について、
図3も参照して更に説明する。
図3は、可動スクロール40を背面側(下方側)から見た概略平面図である。
【0050】
可動スクロール40は、
図2に示すように、第2鏡板42と、第2ラップ44と、ボス部46を主に有する。
【0051】
第2鏡板42は、
図3のように、円板部43aと、円板部43aから径方向外側に延びる耳部43bを有する。第2鏡板42は、3カ所に耳部43bを有する。可動スクロール40の第2鏡板42の背面42bには、上方に凹む第1キー溝42baが形成されている。第1キー溝42baは、
図3のように、円板部43aを間に挟むように配置される2カ所の耳部43bの外縁(第2鏡板42の径方向における端部)から、第2鏡板42の中心側に向かって延びる。
【0052】
第2ラップ44は、第2鏡板42の前面42a(上面)から固定スクロール30側に突出する壁状の部材である。可動スクロール40を上方から見ると、第2ラップ44は、第2鏡板42の中心付近から外周側に向かって渦巻状(インボリュート形状)に形成されている。
【0053】
スクロール圧縮機100の運転中には、可動スクロール40は、第2鏡板42の背面42b側の、後述するクランク室52及び背圧空間54の圧力により固定スクロール30に押し付けられる。可動スクロール40が固定スクロール30に押し付けられることで、第1ラップ34の歯先と第2鏡板42との間の隙間や、第2ラップ44の歯先と第1鏡板32との間の隙間からの冷媒の漏れが抑制される。
【0054】
ボス部46は、ハウジング50により形成される後述するクランク室52内に配置される。ボス部46は、円筒状に形成されている。ボス部46は、第2鏡板42の背面42bから下方に突出するように延びる。円筒状のボス部46の上部は、第2鏡板42により閉じられている。ボス部46の中空部には、軸受メタル47が配置される。ボス部46の中空部には、後述するクランク軸80の偏心部84(ピン軸)が挿入される(
図2参照)。クランク軸80は、後述するようにモータ70のロータ74と連結されているため、モータ70が運転されてロータ74が回転すると、可動スクロール40が旋回する。
【0055】
モータ70が旋回させる可動スクロール40は、オルダム継手24の働きにより、自転せずに、固定スクロール30に対して公転する。オルダム継手24については後述する。
【0056】
可動スクロール40が固定スクロール30に対して公転させられると、圧縮機構20の圧縮室Sc内のガス冷媒が圧縮される。具体的には、可動スクロール40が公転させられると、吸入管18aから吸入ポート36aを介して周縁側の圧縮室Scにガス冷媒が吸引され、その後、圧縮室Scは圧縮機構20の中心側(第1鏡板32の中心側)に移動する。圧縮室Scが圧縮機構20の中心側に移動するにつれ、圧縮室Scの容積は減少し、圧縮室Sc内の圧力が上昇する。その結果、中央側の圧縮室Scは、周縁側の圧縮室Scに比べ高い圧力になる。圧縮機構20により圧縮されて高圧となったガス冷媒は、中央側の圧縮室Scから第1鏡板32に形成された吐出ポート33を通って吐出空間Saに吐出される。吐出空間Saに吐出された冷媒は、固定スクロール30及びハウジング50に形成された冷媒通路を通過して、ハウジング50の下方の第1空間S1へ流入する。
【0057】
(3-3)オルダム継手
オルダム継手24について、
図4及び
図5を更に参照して説明する。
図4は、オルダム継手24の概略平面図である。また、
図4には、オルダム継手24の第2キー24cが摺動する第2キー溝58aが形成されているハウジング50を模式的に描画している。
図5は、オルダム継手24の側面図である。
【0058】
オルダム継手24は、ハウジング50と可動スクロール40との間に配置される(
図2参照)。オルダム継手24は、ハウジング50により下方から支持される。
【0059】
オルダム継手24は、リング部24aと、2つの第1キー24bと、2つの第2キー24cとを有している(
図4及び
図5参照)。リング部24aは、環形状を有する本体部24aaと、本体部24aaの外周面から径方向外側に突出する4つの凸部24abを有している。本実施形態では、凸部24abは、周方向に等間隔(90度間隔)で配置されている。
【0060】
第1キー24bは、形状を限定するものではないが、立方体形状に形成されている。2つの第1キー24bは、平面視において本体部24aaの中心を挟むように配置される2ヶ所の凸部24abから上方(可動スクロール40側)に延びる。第1キー24bは、可動スクロール40の第2鏡板42の背面42bに形成されている第1キー溝42ba(
図3参照)に嵌入される。
【0061】
第1キー24bは、第1キー溝42baを摺動する。通常(後述する異常摩耗時でなければ)、第1キー24bは、クランク軸80の径方向に沿って第1キー溝42baを摺動する。第1キー24bの幅(第1キー24bの摺動方向と直交する方向における第1キー24bの幅)は、第1キー溝42baの幅(第1キー24bの摺動方向と直交する方向における第1キー溝42baの幅)と概ね同一である。そのため、第1キー24bの第1キー面25(第1キー24bの摺動方向と直交する方向における両端の側面、
図4参照)は、第1キー溝42baの第1摺動面42c(第1キー24bの摺動方向に平行に延びる側面、
図3参照)と摺動する。
【0062】
第2キー24cは、形状を限定するものではないが、立方体形状に形成されている。2つの第2キー24cは、平面視において本体部24aaの中心を挟むように配置される2ヶ所の凸部24abから下方(ハウジング50側)に延びる。第2キー24cが設けられる2つの凸部24abは、第1キー24bが設けられている2つの凸部24abとは別の凸部24abである。第2キー24cは、後述するハウジング50の第2凹部58の上面に、下方に凹むように形成されている第2キー溝58a(
図4参照)に嵌入されている。
【0063】
第2キー24cは、第2キー溝58aを摺動する。通常(後述する異常摩耗時でなければ)、第2キー24cは、クランク軸80の径方向に沿って第2キー溝58aを摺動する。第2キー24cの幅(第2キー24cの摺動方向と直交する方向における第2キー24cの幅)は、第2キー溝58aの幅(第2キー24cの摺動方向と直交する方向における第2キー溝58aの幅)と概ね同一である。そのため、第2キー24cの第2キー面26(第2キー24cの摺動方向と直交する方向における両端の側面)は、ハウジング50の第2キー溝58aの第2摺動面58b(第2キー24cの摺動方向に平行に延びる側面)と摺動する。
【0064】
(3-4)ハウジング
ハウジング50は、固定スクロール30及び可動スクロール40を支持する。また、ハウジング50は、クランク軸80を軸支する機能を有する。
【0065】
ハウジング50は、
図2のように、本体部120と、上部軸受ハウジング110を主に含む。
【0066】
本体部120は、ケーシング10に固定される円筒状の部分である。本体部120は、ケーシング10の円筒部材12の内面12bに固定されている。
【0067】
上部軸受ハウジング110も、円筒状に形成されている。上部軸受ハウジング110は、クランク軸80の軸方向において、本体部120よりモータ70側に配置される。
【0068】
本体部120には、固定スクロール30が固定されている。具体的には、固定スクロール30は、固定スクロール30の周縁部36の下面がハウジング50の上面と対向する状態でハウジング50に載置され、図示しない固定部材(例えばボルト)によりハウジング50に固定されている。本体部120には、吐出空間Saと第1空間S1とを連通する冷媒通路の一部が形成されている。
【0069】
本体部120は、本体部120に固定されている固定スクロール30を支持する。また、本体部120は、固定スクロール30とハウジング50の本体部120との間に配置される可動スクロール40を支持する。具体的には、本体部120は、可動スクロール40を、ハウジング50の上方に配置されているオルダム継手24を介して下方から支持する。
【0070】
本体部120は、
図2に示すように、中央に凹むように配置される第1凹部56と、第1凹部56を囲むように配置される第2凹部58を有する。第1凹部56は、可動スクロール40のボス部46が配置されるクランク室52の側面を囲む。第2凹部58は、第2鏡板42の背面42b側に環状の背圧空間54を形成する。第2凹部58の上面には、前述のオルダム継手24の第2キー24cが嵌入され、第2キー24cが摺動する第2キー溝58aが、下方に凹むように形成されている(
図4参照)。
【0071】
スクロール圧縮機100の定常運転時には(スクロール圧縮機100の運転が安定した状態では)、クランク室52の圧力は、冷凍サイクルにおける高圧になる。その結果、スクロール圧縮機100の定常運転時には、クランク室52に面する第2鏡板42の背面42bの中央部は、高圧で固定スクロール30に向かって押される。
【0072】
背圧空間54は、スクロール圧縮機100の運転中に可動スクロール40が旋回すると、可動スクロール40が1回転する間に、所定の期間、第2鏡板42に形成されている図示しない穴を介して圧縮途中の圧縮室Scと連通する。そのため、スクロール圧縮機100の定常運転時には、背圧空間54の圧力は、冷凍サイクルにおける中間圧(冷凍サイクルにおける低圧と高圧との間の圧力)になる。その結果、スクロール圧縮機100の定常運転時には、背圧空間54に面する第2鏡板42の背面42bの周縁部は、中間圧で固定スクロール30に向かって押される。
【0073】
なお、クランク室52と背圧空間54とは、第1凹部56と第2凹部58との境界に配置されている環状の壁部57により隔てられている(
図2参照)。第2鏡板42の背面42bと対向する壁部57の上端には、クランク室52と背圧空間54との間をシールするように、図示しないシールリングが配置されている。
【0074】
上部軸受ハウジング110は、円筒状に形成されている。円筒状の上部軸受ハウジング110の内部には、クランク軸80を回転可能に支持する軸受メタル112が設けられる。
【0075】
(3-5)モータ
モータ70は、可動スクロール40を駆動する。
【0076】
モータ70は、ケーシング10の円筒部材12の内面12bに固定された環状のステータ72と、ステータ72の内側に配置されたロータ74を有する(
図2参照)。
【0077】
ステータ72は、主として、ステータコア73と、図示を省略するコイルとを含む(
図2参照)。ステータコア73は、ケーシング10の円筒部材12の内面12bに固定される円筒形状の部材である。
【0078】
ロータ74は、ステータコア73の内側に僅かな隙間(エアギャップ)を空けて回転自在に収容されている。ロータ74は、円筒状の部材で、内部にクランク軸80が挿通されている。ロータ74は、クランク軸80を介して可動スクロール40と連結されている。モータ70は、ロータ74を回転させることで可動スクロール40を駆動し、可動スクロール40を固定スクロール30に対して旋回させる。
【0079】
(3-6)クランク軸
クランク軸80は、モータ70の駆動力を圧縮機構20に伝える部材である。具体的には、クランク軸80は、モータ70のロータ74と、圧縮機構20の可動スクロール40とを連結する。クランク軸80は、
図2のように回転軸Oに沿って延び、回転軸O周りを回転する。本実施形態のスクロール圧縮機100では、回転軸Oは上下方向である。クランク軸80は、モータ70の駆動力を圧縮機構20の可動スクロール40に伝達する。
【0080】
クランク軸80は、主軸82と、偏心部84を主に有する(
図2参照)。
【0081】
主軸82は、油溜空間16からクランク室52まで上下方向に延びる。主軸82は、上部軸受ハウジング110の軸受メタル112、及び後述する下部軸受ハウジング90の軸受メタル91により、回転自在に支持される。また、主軸82は、ハウジング50の上部軸受ハウジング110と下部軸受ハウジング90との間で、モータ70のロータ74に挿通され、ロータ74に連結される。主軸82の中心軸は、クランク軸80の回転軸Oと一致する。
【0082】
偏心部84は、主軸82の端部(本実施形態では上端)に配置されている。偏心部84の中心軸は、クランク軸80の回転軸Oに対して偏心している。偏心部84は、可動スクロール40のボス部46の内部に挿入され、ボス部46の内部に配置されている軸受メタル47により回転可能に支持されている。
【0083】
クランク軸80の内部には、油通路86が形成されている。油通路86は、主経路86aと、分岐経路(図示せず)を有する。主経路86aは、クランク軸80の軸方向に沿って、クランク軸80の下端から上端まで延びる。分岐経路は、主経路から、クランク軸80の軸方向と交差する方向に延びる。油溜空間16の油は、クランク軸80の下端に設けられたポンプ(図示せず)により汲み上げられ、油通路86を通って、最終的に、クランク軸80と軸受メタル47,112,91との摺動箇所や、圧縮機構20の摺動箇所や、オルダム継手24の第1キー24bと可動スクロール40の第1キー溝42baとの摺動箇所や、オルダム継手24の第2キー24cとハウジング50の第2キー溝58aとの摺動箇所等に供給される。
【0084】
(3-7)下部ハウジング
下部軸受ハウジング90は、
図2に示すように、下部軸受部92と、複数のアーム94を主に含む。下部軸受ハウジング90は、クランク軸80を軸支する。
【0085】
下部軸受部92は、クランク軸80を回転可能に支持する軸受メタル91を含む。
【0086】
アーム94は、下部軸受部92を支持する。アーム94は、棒状の部材である。各アーム94は、下部軸受部92から、ケーシング10に向かって延び、ケーシング10の円筒部材12の内面12bに固定される。
【0087】
(3-8)停止部
停止部140は、所定条件の成立時に、運転中のスクロール圧縮機100を停止させる。具体的には、停止部140は、モータ70に供給される電流の大きさが所定値を超える際に、モータ70への電力供給を遮断し、スクロール圧縮機100を停止させる。
【0088】
停止部140は、例えば、モータ70の保護用のリレーである。ただし、停止部140は、モータ70に供給される電流の大きさが所定値を超える際にモータ70を停止させるものであれば、リレーに限定されない。
【0089】
(4)スクロール圧縮機の動作
スクロール圧縮機100の動作について説明する。なお、ここでは、定常状態(運転を開始して、運転が安定した状態)のスクロール圧縮機100の動作について説明する。また、ここでは、後述する異常摩耗時ではない、通常時のスクロール圧縮機100の動作について説明する。
【0090】
モータ70が駆動されると、ステータ72の発生させる回転磁界によりロータ74が回転し、ロータ74と連結されたクランク軸80も回転する。クランク軸80が回転すると、オルダム継手24の働きにより、可動スクロール40は、自転せずに固定スクロール30に対して公転する。そして、吸入管18aから流入した冷凍装置の冷凍サイクルにおける低圧の冷媒は、吸入ポート36aを介して圧縮機構20の周縁側の圧縮室Scに吸入される。そして、可動スクロール40が公転し、圧縮室Scの容積が減少するのに伴って、圧縮室Scの圧力が上昇する。冷媒が、周縁側(外側)の圧縮室Scから、中央側(内側)の圧縮室Scへ移動するに連れて冷媒の圧力は上昇し、最終的に冷凍装置の冷凍サイクルにおける高圧となる。圧縮機構20によって圧縮された冷媒は、第1鏡板32の中央付近に位置する吐出ポート33から吐出され、固定スクロール30及びハウジング50に形成されている図示しない冷媒経路を通過して第1空間S1に流入する。また、圧縮機構20によって圧縮され、固定スクロール30及びハウジング50に形成されている図示しない冷媒経路を通過した冷媒は、ステータ72とケーシング10の円筒部材12の内面12bとの隙間等を通過して油溜空間16にも流入する。油溜空間16に吐出された冷媒ガスは、ステータ72とロータ74との間のエアギャップや、ステータ72とケーシング10の円筒部材12の内面12bとの隙間を通過して第1空間S1に流入する。第1空間S1に流入した冷凍サイクルにおける高圧の冷媒は、最終的に吐出管18bから吐出される。
【0091】
(5)干渉部
スクロール圧縮機100は、オルダム継手24の第1キー24bの異常摩耗及び/又は可動スクロール40の第2鏡板42の第1キー溝42baの異常摩耗への対策のための構造、及び、オルダム継手24の第2キー24cの異常摩耗及び/又はハウジング50の第2キー溝58aの異常摩耗への対策のための構造、の少なくとも一方として機能する干渉部を有する。本実施形態では、干渉部は、オルダム継手24の第1キー24bの異常摩耗及び/又は可動スクロール40の第2鏡板42の第1キー溝42baの異常摩耗への対策のための構造、及び、オルダム継手24の第2キー24cの異常摩耗及び/又はハウジング50の第2キー溝58aの異常摩耗への対策のための構造として機能する。
図6~
図7を参照しながら干渉部(本実施形態では、突出部38)について説明する。
【0092】
図6A及び
図6Bは、通常時に可動スクロール40が移動する経路を説明するための図である。通常時とは、後述する異常摩耗が生じていない時を意味する。
図7A及び
図7Bは、異常摩耗時に可動スクロール40が移動する経路を説明するための図である。異常摩耗時とは、後述する異常摩耗が生じている時を意味する。
【0093】
なお、
図6~
図7は、圧縮機構20をハウジング50側(下方)から見た図である。
図6~
図7では、可動スクロール40のボス部46の描画は省略し、固定スクロール30の第1ラップ34及び可動スクロール40の第2ラップ44は破線で描画している。断面を示すものではないが、図面の見やすさの観点から、可動スクロール40の第2ラップ44にはハッチングを付している。
【0094】
ここでは、異常摩耗時という語は、第1キー24bの第1キー面25の(初期状態からの)摩耗量と、第1キー溝42baの第1摺動面42cの(初期状態からの)摩耗量との合計である第1値が第1許容値を超えた時、又は、第2キー24cの第2キー面26の(初期状態からの)摩耗量と、第2キー溝58aの第2摺動面58bの(初期状態からの)摩耗量との合計である第2値が第2許容値を超えた時、を意味する。
【0095】
なお、第1キー面25、第1摺動面42c、第2キー面26、及び第2摺動面58bの摩耗量は、場所によって異なる可能性がある。そのため、ここでの第1キー面25、第1摺動面42c、第2キー面26、及び第2摺動面58bの摩耗量は、それぞれ、第1キー面25、第1摺動面42c、第2キー面26、及び第2摺動面58bの最大摩耗量を意味する。ただし、これに限定されるものではなく、第1キー面25、第1摺動面42c、第2キー面26、及び第2摺動面58bの摩耗量には、第1キー面25、第1摺動面42c、第2キー面26、及び第2摺動面58bの平均摩耗量や摩耗量の中間値が用いられてもよい。
【0096】
なお、第1キー24bの第1キー面25と第1キー溝42baの第1摺動面42cとは、同時に摩耗するとは限らない。そのため、異常摩耗時には、実質的に第1キー24bの第1キー面25だけが第1許容値を超えて摩耗している場合や、実質的に第1キー溝42baの第1摺動面42cだけが第1許容値を超えて摩耗している場合も含まれる。
【0097】
また、第2キー24cの第2キー面26と第2キー溝58aの第2摺動面58bとは、同時に摩耗するとは限らない。そのため、異常摩耗時には、実質的に第2キー24cの第2キー面26だけが第2許容値を超えて摩耗している場合や、実質的に第2キー溝58aの第2摺動面58bだけが第2許容値を超えて摩耗している場合も含まれる。
【0098】
干渉部(本実施形態では、突出部38)は、端的に言えば、異常摩耗時に、スクロール圧縮機100の異常振動が冷凍サイクル装置1000の配管を損傷する前に、のスクロール圧縮機100の運転を停止させるための構造である。
【0099】
なお、上記の第1許容値及び第2許容値は、以下のような値である。
【0100】
スクロール圧縮機100の運転中には、第1キー24bの第1キー面25と第1キー溝42baの第1摺動面42cとが摺動するため、スクロール圧縮機100が長期間使用されると、部品が少しずつ摩耗する可能性がある。しかし、スクロール圧縮機100は、第1キー24bの第1キー面25の摩耗量と第1キー溝42baの第1摺動面42cの摩耗量との合計である第1値が、ある値(値Aと呼ぶ)以下であれば、特に問題なく運転可能である。同様に、スクロール圧縮機100は、第2キー24cの第2キー面26の摩耗量と第2キー溝58aの第2摺動面58bの摩耗量との合計である第2値が、ある値(値Bと呼ぶ)以下であれば、特に問題なく運転可能である。
【0101】
一方で、スクロール圧縮機100では、第1値が値Aを超えると、異常振動を起こす可能性がある。また、スクロール圧縮機100では、第2値が値Bを超えると、異常振動を起こす可能性がある。スクロール圧縮機100が異常振動すると、スクロール圧縮機100の接続されている冷媒配管が振動で破損し、冷媒回路600から冷媒や冷凍機油が外部に流出する可能性がある。
【0102】
ここでの第1許容値は、値A以下の値である。また、第2許容値は、値B以下の値である。第1許容値及び第2許容値をどのような値とするかは、例えば、スクロール圧縮機100の試験機を用いて実験結果に基づいて決定される。また、第1許容値及び第2許容値は、コンピュータ上でのシミュレーション結果に基づいて決定されてもよいし、理論的な計算に基づいて決定されてもよい。また、第1許容値と第2許容値とは、同じ値であってもよいし、異なる値であってもよい。
【0103】
本実施形態における干渉部は、固定スクロール30の周縁部36の背面(下面)から下方に突出する突出部38である。突出部38は、
図6及び
図7では円柱状の部材として描画したが、突出部38の形状は円柱状に限定されない。例えば、突出部38の形状は、四角柱状であってもよい。突出部38は、以下で説明する機能を果たすことが可能であれば、任意の形状が選択されればよい。
【0104】
突出部38は、第1キー24bの第1キー面25の摩耗量及び第1キー溝42baの第1摺動面42cの摩耗量の合計である第1値が第1許容値を超えるまでは、スクロール圧縮機100の運転中に可動スクロール40及びオルダム継手24に干渉(接触)しない位置に配置される。また、突出部38は、第2キー24cの第2キー面26の摩耗量及び第2キー溝58aの第2摺動面58bの摩耗量の合計である第2値が前記の第2許容値を超えるまでは、スクロール圧縮機100の運転中に可動スクロール40及びオルダム継手24に干渉(接触)しない位置に配置される。また、突出部38は、第1値が第1許容値を超えると、可動スクロール40に干渉(接触)する位置に配置される。また、突出部38は、第2値が第2許容値を超えると、可動スクロール40に干渉(接触)する位置に配置される。具体的には、突出部38は、第1値が第1許容値を超えると、スクロール圧縮機100の運転中に可動スクロール40の第2鏡板42の耳部43bに干渉する位置に配置される。また、突出部38は、第2値が第2許容値を超えると、スクロール圧縮機100の運転中に可動スクロール40の第2鏡板42の耳部43bに干渉する位置に配置される。以後、第1値が第1許容値を超えた際に、又は、第2値が第2許容値を超えた際に接触することとなる可動スクロール40の耳部43bを、干渉対象の耳部43bと呼ぶ場合がある。
【0105】
突出部38の配置についてより具体的に説明する。突出部38は、干渉対象の耳部43bの、通常時の(異常摩耗時に至るまでの)移動経路の近傍であって、通常時の移動経路外に配置される。突出部38は、固定スクロール30の周縁部36から、下方に、可動スクロール40の干渉対象の耳部43bが通過する高さ位置と同じ高さ位置まで延びる。また、突出部38は、圧縮機構20をハウジング50側から見た時に、可動スクロール40の旋回方向R(
図6A,
図7A参照)において、干渉対象の耳部43bより上流側であって、干渉対象の耳部43bの通常時の移動経路の近傍かつ通常時の移動経路外に配置される。
【0106】
通常時の可動スクロール40の動きと、異常摩耗時の可動スクロール40の動きについて説明する。
【0107】
通常時の可動スクロール40の動きについて、
図6A及び
図6Bを参照しながら説明する。第1値が第1許容値より小さく、かつ、第2値が第2許容値より小さい通常時には、オルダム継手24は正常に機能し、可動スクロール40は自転しない。
【0108】
これに対し、例えば、可動スクロール40の第1キー溝42baの第1摺動面42cが、
図8に描画するように比較的大きく摩耗し、又は、ハウジング50の第2キー溝58aの第2摺動面58bが同様に比較的大きく摩耗し、異常摩耗時に至ったとする。
【0109】
この場合には、オルダム継手24で可動スクロール40の自転を完全には規制することができなくなり、
図7Aのように可動スクロール40は、可動スクロール40の旋回方向Rとは反対方向に回転する。この状態でスクロール圧縮機100が運転され、可動スクロール40が旋回させられると、干渉対象の耳部43bは、
図7Bのように、通常時には接触しなかった(通常時の干渉対象の耳部43bの移動経路外に配置されている)突出部38に接触することとなる。
【0110】
なお、
図7A及び
図7Bでは、説明の分かりやすさの観点から、比較的大きな角度自転した状態の可動スクロール40を描画している。しかし、実際には、図示されたような大きな角度自転する以前に干渉対象の耳部43bが突出部38に接触するように、突出部38の位置や大きさは決定されてもよい。また、
図7Bでは、説明の分かりやすさの観点から、干渉対象の耳部43bと突出部38とが重なり合った状態を描画しているが、実際には、異常摩耗時には干渉対象の耳部43bの外面と突出部38の外面とが接触し合う。
【0111】
このように、突出部38が可動スクロール40の干渉対象の耳部43bと接触するようになると、スクロール圧縮機100のモータ70の負荷が大きくなる。その結果、モータ70に供給される電流の大きさも増大する。そして、電流の大きさが所定値以上になると、停止部140は、モータ70に供給される電力を遮断し、スクロール圧縮機100は運転を停止する。
【0112】
(6)特徴
(6-1)
スクロール圧縮機100は、圧縮機構20と、ハウジング50と、オルダム継手24と、干渉部の一例としての突出部38を備える。圧縮機構20は、第1キー溝42baが形成されている可動スクロール40と、固定スクロール30と、を有する。ハウジング50には、第2キー溝58aが形成されている。ハウジング50は、固定スクロール30を支持する。オルダム継手24は、可動スクロール40の第1キー溝42baを摺動する第1キー24b及びハウジング50の第2キー溝58aを摺動する第2キー24cを有する。突出部38は、第1値が第1許容値を超えるまでは可動スクロール40又はオルダム継手24に干渉せず、第1値が第1許容値を超えると可動スクロール40に干渉する位置に配置される。第1値は、第1キー24bの第1キー面25の摩耗量及び第1キー溝42baの第1摺動面42cの摩耗量の合計である。また、突出部38は、第2値が第2許容値を超えるまでは可動スクロール40又はオルダム継手24に干渉せず、第2値が第2許容値を超えると可動スクロール40に干渉する位置に配置される。第2値は、第2キー24cの第2キー面26の摩耗量及び第2キー面26と摺動する第2キー溝58aの第2摺動面58bの摩耗量の合計である。
【0113】
このスクロール圧縮機100では、第1キー溝42ba及び第1キー24bの摩耗が進むと、又は、第2キー溝58a及び第2キー24cの摩耗が進むと、可動スクロール40が突出部38に接触し、スクロール圧縮機100のモータ70の負荷を増大させることができる。その結果、第1観点のスクロール圧縮機100では、第1キー溝42ba及び第1キー24bの摩耗により、又は、第2キー溝58a及び第2キー24cの摩耗により、可動スクロール40が正常な運転状態とは異なる経路を移動するようになったことをモータ70の過電流により検知して、スクロール圧縮機100が異常振動しながら長時間運転される状態の発生を抑制できる。
【0114】
(6-2)
スクロール圧縮機100では、突出部38は、固定スクロール30に設けられる。
【0115】
(6-3)
スクロール圧縮機100では、可動スクロール40は、円板部43aと、円板部43aから径方向外側に延びる耳部43bを有する。第1値が第1許容値を超えると、又は、第2値が第2許容値を超えると、可動スクロール40の耳部43bが突出部38と干渉する。
【0116】
可動スクロール40の耳部43bは、円板部43aから径方向外側に張り出しているため、可動スクロール40が通常時とは異なる動きをした時に、通常時に移動する経路から比較的大きく外れた経路を移動しやすい。
【0117】
そのため、第1値が第1許容値を超えた場合に又は第2値が第2許容値を超えた場合に可動スクロール40の耳部43bに干渉する位置に突出部38を配置することで、早い段階でスクロール圧縮機100を停止させ、スクロール圧縮機100が異常振動しながら長時間運転される状態の発生を抑制できる。
【0118】
(7)変形例
以下に上記実施形態の変形例を示す。なお、以下の変形例の内容は、互いに矛盾しない範囲で適宜組み合わされてもよい。
【0119】
(7-1)変形例A
上記実施形態では、固定スクロール30の周縁部36に突出部38が設けられているが、突出部38は、ハウジング50に設けられていてもよい。例えば、突出部38は、ハウジング50の第2凹部58の上面に、上方に延びるように設けられる。また、上述のような形態で可動スクロール40の第2鏡板42の耳部43bに干渉可能であれば、突出部38は、ハウジング50の、第2凹部58の上面以外の箇所に設けられてもよい。
【0120】
(7-2)変形例B
上記実施形態では、突出部38は、異常摩耗時に、可動スクロール40の第2鏡板42の耳部43bに干渉する。
【0121】
ただし、これに限定されず、突出部38は、異常摩耗時に、可動スクロール40の第2鏡板42の円板部43aの外周面に干渉してもよい。具体的には、突出部38は、第1値が第1許容値を超えず、かつ、第2値が第2許容値を超えない間は、可動スクロール40及びオルダム継手24に干渉せず、第1値が第1許容値を超えると、又は、第2値が第2許容値を超えると、可動スクロール40の円板部43aの外周面に干渉する位置に配置されてもよい。
【0122】
なお、突出部38を第2鏡板42の円板部43aの外周面に干渉させる場合、機能上必要でなければ、可動スクロール40の第2鏡板42は耳部43bを有さなくてもよい。
【0123】
(7-3)変形例C
上記実施形態では、干渉部は、異常摩耗時に、可動スクロール40の第2鏡板42の外縁に干渉する。ただし、干渉部の干渉箇所は、第2鏡板42の外縁に限定されない。
【0124】
以下に、干渉部が、可動スクロール40の第2鏡板42の外縁以外に接触するスクロール圧縮機100の例について、
図9~
図10を参照しながら説明する。
図9は、変形例Cのスクロール圧縮機100の可動スクロール40の概略斜視図である。
図10Aは、変形例Cのスクロール圧縮機100において、通常時に可動スクロール40が移動する経路を説明するための図である。
図10Bは、変形例Cのスクロール圧縮機100において、異常摩耗時に可動スクロール40が移動する経路を説明するための図である。
【0125】
なお、
図10A及び
図10Bは、圧縮機構20をハウジング50側(下方)から見た図である。
図10A及び
図10Bでは、可動スクロール40のボス部46の描画は省略し、固定スクロール30の第1ラップ34及び可動スクロール40の第2ラップ44は破線で描画している。また、断面を示すものではないが、図面の見やすさの観点から、可動スクロール40の第2ラップ44にはハッチングを付している。
【0126】
なお、変形例Cに係るスクロール圧縮機100は、可動スクロール40の第2鏡板42の形状、及び、干渉部(ここでは、突出部59a)の設けられる位置以外は、上記実施形態と同様である。ここでは、上記実施形態との相違点について主に説明し、共通点についての説明は、必要のない限り省略する。また、以下の説明では、上記実施形態と同様の構成については、同じ参照符号を使用する。
【0127】
変形例Cのスクロール圧縮機100では、
図9に示すように、可動スクロール40の円板部43aの固定スクロール30とは対向しない面(言い換えれば、背面42b)に、外縁から径方向内向きに切り欠かれた切り欠き部42dが形成される。
【0128】
そして、変形例Cのスクロール圧縮機100では、例えばハウジング50の第2凹部58の上面に、上方に延びる突出部59aが設けられている(
図10A及び
図10B参照)。なお、突出部59aは、
図9及び
図10では円柱状の部材として描画しているが、突出部59aの形状は円柱状に限定されない。例えば、突出部59aは、四角柱状であってもよい。突出部59aは、以下で説明する機能を果たすことができれば、任意の形状が選択されればよい。また、下記の目的を果たすことができれば、突出部59aは、第2凹部58の上面以外のハウジング50の任意の箇所に設けられてもよい。また、下記の目的を果たすことが可能であれば、突出部59aは、固定スクロール30に設けられてもよい。
【0129】
突出部59aは、第1値が第1許容値を超えず、かつ、第2値が第1許容値を超えない間は、可動スクロール40及びオルダム継手24に干渉(接触)しない位置に配置される。また、突出部59aは、第1値が第1許容値を超えると、又は、第2値が第2許容値を超えると、可動スクロール40の切り欠き部42dを規定する、円板部43aの周方向と交差する面42daに干渉する位置に配置される。以後、第1値が第1許容値を超えた際に、又は、第2値が第2許容値を超えた際に、突出部59aが接触することとなる可動スクロール40の切り欠き部42dの面42daを、干渉対象の面42daと呼ぶ場合がある。
【0130】
突出部59aの配置についてより具体的に説明する。突出部59aは、干渉対象の面42daの、通常時の(異常摩耗時に至るまでの)移動経路の近傍であって、通常時の移動経路外に配置される。突出部59aは、第2凹部58の上面から、上方に、可動スクロール40の干渉対象の面42daが通過する高さ位置と同じ高さ位置まで延びる。また、突出部59aは、圧縮機構20をハウジング50側から見た時に、可動スクロール40の旋回方向R(
図9,
図10参照)において、干渉対象の面42daよりも上流側であって、干渉対象の面42daの通常時の移動経路の近傍かつ通常時の移動経路外に配置される。
【0131】
変形例Cのスクロール圧縮機100における、通常時の可動スクロール40の動きと、異常摩耗時の可動スクロール40の動きについて説明する。
【0132】
第1値が第1許容値より小さく、かつ、第2値が第2許容値より小さい通常時には、上記実施形態でも説明したように、オルダム継手24は正常に機能し、可動スクロール40は自転しない。
【0133】
これに対し、例えば、可動スクロール40の第1キー溝42baの第1摺動面42cが、
図8に描画された態様と同様に比較的大きく摩耗し、あるいは、ハウジング50の第2キー溝58aの第2摺動面58bが比較的大きく摩耗し、異常摩耗時に至ったとする。
【0134】
この場合には、オルダム継手24で可動スクロール40の自転を完全には規制することができなくなり、
図10Bのように可動スクロール40は、旋回方向Rとは反対方向に回転する。この状態でスクロール圧縮機100が運転され、可動スクロール40が旋回させられると、干渉対象の面42daは、
図10Bのように、通常時には接触しなかった(通常時の干渉対象の面42daの移動経路外に配置されている)突出部59aに接触することとなる。
【0135】
なお、
図10Bでは、説明の分かりやすさの観点から、比較的大きな角度自転した状態の可動スクロール40を描画している。しかし、実際には、図示されたような大きな角度自転する以前に干渉対象の面42daが突出部59aに接触するように、突出部59aの位置や大きさは決定されてもよい。また、
図10Bでは、説明の分かりやすさの観点から、干渉対象の面42daと突出部59aとが重なり合った状態を描画しているが、実際には、異常摩耗時には干渉対象の面42daと突出部59aの外面とが接触し合う。
【0136】
このように、突出部59aが可動スクロール40の干渉対象の面42daと接触するようになると、スクロール圧縮機100のモータ70の負荷が大きくなる。その結果、モータ70に供給される電流の大きさも増大する。そして、電流の大きさが所定値以上になると、停止部140は、モータ70に供給される電力を遮断し、スクロール圧縮機100は運転を停止する。
【0137】
なお、突出部59aを第2鏡板42の円板部43aの切り欠き部42dの面42daに干渉させる場合、機能上必要でなければ、可動スクロール40の第2鏡板42は耳部43bを有さなくてもよい。言い換えれば、変形例Cに係るスクロール圧縮機100では、設計上、第2鏡板42に耳部43bが不要な場合でも、突出部59aを可動スクロール40に接触させて、スクロール圧縮機100を停止させることが容易である。
【0138】
より詳細に説明すると、可動スクロール40が耳部43bを有さない正円に近い形状の場合に、変形例Bのような、第2鏡板42の外周面に接触させるタイプの干渉部を採用した場合を想定する。この場合、第1キー溝42ba及び第1キー24bの摩耗により、又は、第2キー溝58a及び第2キー24cの摩耗により可動スクロール40が少し自転しても、可動スクロール40の形状は正円に近い形状であることから、可動スクロール40の通過する経路があまり変化せず、干渉部が、可動スクロールの外周面に接触しない可能性がある。
【0139】
これに対し、変形例Cに係るスクロール圧縮機100では、可動スクロール40の円板部43aの背面42bに設けた切り欠き部42dを干渉部としての突出部59aと干渉させるため、第1キー24bの第1キー面25及び第1キー溝42baの第1摺動面42cの摩耗時に、又は、第2キー24cの第2キー面26及び第2キー溝58aの第2摺動面58bの摩耗時に、比較的早い段階で可動スクロール40を突出部59aと干渉させることができる。その結果、変形例Cのスクロール圧縮機100では、可動スクロール40が正円に近い形状である場合にも、異常振動しながら長時間運転される状態の発生を抑制しやすい。
【0140】
(7-4)変形例D
上記実施形態では、干渉部は、異常摩耗時に、可動スクロール40に干渉する。ただし、これに限定されず、干渉部は、可動スクロール40ではなく、オルダム継手24に干渉してもよい。
【0141】
以下に、干渉部が、オルダム継手24に接触するスクロール圧縮機100の例について、
図11~
図13を参照しながら説明する。
図11は、変形例Dのスクロール圧縮機100において、オルダム継手24が移動する経路を説明するための図である。
図12Aは、変形例Dのスクロール圧縮機100において、通常時にオルダム継手24が移動する経路を説明するための図である。
図12Bは、変形例Dのスクロール圧縮機100において、異常摩耗時にオルダム継手24が移動する経路を説明するための図である。
図13は、変形例Dのスクロール圧縮機100において、オルダム継手24が異常摩耗時に干渉部(ここでは、突出部59b)と接触する位置を説明するための図である。
【0142】
なお、
図11及び
図12は、オルダム継手24が下方に配置された圧縮機構20をハウジング50側(下方)から見た図である。
図11及び
図12では、可動スクロール40のボス部46の描画は省略し、固定スクロール30の第1ラップ34及び可動スクロール40の第2ラップ44は破線で描画している。断面を示すものではないが、図面の見やすさの観点から、可動スクロール40の第2ラップ44についてはハッチングを付している。
【0143】
なお、変形例Dに係るスクロール圧縮機100は、干渉部(ここでは、突出部59b)の設けられる位置以外は、上記実施形態と同様である。ここでは、上記実施形態との相違点について主に説明し、共通点についての説明は、必要のない限り省略する。また、以下の説明では、上記実施形態と同様の構成については、同じ参照符号を使用する。
【0144】
変形例Dのスクロール圧縮機100では、例えばハウジング50の第2凹部58の上面に、第2凹部58の上面から上方に延びる突出部59bが設けられている(
図11及び
図12参照)。なお、突出部59bは、
図11及び
図12では円柱状の部材として描画したが、突出部59bの形状は円柱状に限定されない。例えば、突出部59bは、四角柱状であってもよい。突出部59bは、以下で説明する機能を果たすことが可能であれば、任意の形状が選択されればよい。また、下記の目的を果たすことが可能であれば、突出部59bは、第2凹部58の上面以外のハウジング50の任意の箇所に設けられてもよい。また、下記の目的を果たすことが可能であれば、突出部59bは、固定スクロール30に設けられてもよい。
【0145】
突出部59bは、第1値が第1許容値を超えず、かつ、第2値が第2許容値を超えない間は、可動スクロール40及びオルダム継手24に干渉(接触)しない位置に配置される。また、突出部59bは、第1値が第1許容値を超えると、又は、第2値が第2許容値を超えると、オルダム継手24に干渉する位置に配置される。具体的には、突出部59bは、第1値が第1許容値を超えると、又は、第2値が第2許容値を超えると、オルダム継手24の第2キー24cが設けられている凸部24abに干渉する位置に配置される。以後、第1値が第1許容値を超えた際に、又は、第2値が第2許容値を超えた際に、突出部59bが接触することとなるオルダム継手24の凸部24abを、干渉対象の凸部24abと呼ぶ場合がある。
【0146】
突出部59bの配置についてより具体的に説明する。突出部59bは、干渉対象の凸部24abの、通常時の(異常摩耗時に至るまでの)移動経路の近傍であって、通常時の移動経路外に配置される。突出部59bは、第2凹部58の上面から、上方に、オルダム継手24の干渉対象の面42daが通過する高さ位置と同じ高さ位置まで延びる。また、突出部59bは、圧縮機構20をハウジング50側から見た時に、可動スクロール40の旋回方向R(
図11,
図12参照)において、干渉対象の凸部24abよりも上流側であって、干渉対象の凸部24abの通常時の移動経路の近傍かつ通常時の移動経路外に配置される。
【0147】
変形例Dのスクロール圧縮機100における通常時のオルダム継手24の動きと、異常摩耗時のオルダム継手24の動きについて説明する。
【0148】
前述のように、オルダム継手24の第2キー24cは、ハウジング50に形成されている第2キー溝58aを摺動する。ハウジング50は、スクロール圧縮機100の運転中も不動の部材であるため、通常時には、オルダム継手24は、第2キー溝58aの延びる方向(
図11,
図12中で、D2の矢印で示す方向)に沿って移動しても、第2キー溝58aの延びる方向と直交する方向には移動しない。そのため、オルダム継手24は、第2キー溝58aの延びる方向D2に沿って、
図11に描画した位置と
図12Aに描画した位置との間を往復動する。
【0149】
これに対し、第1値が第1許容値より大きくなると、又は、第2値が第2許容値より大きくなると、オルダム継手24で可動スクロール40の自転を完全には規制できなくなり、可動スクロール40は、旋回方向Rとは反対方向に回転しようとする。
【0150】
このような、可動スクロール40が自転しようとする力がオルダム継手24に作用することで、オルダム継手24は、通常時に通過する経路よりも、可動スクロール40の旋回方向Rと反対方向にやや傾いた軌道を移動することになる。その結果、オルダム継手24の干渉対象の凸部24ab(特には、
図13に示した、凸部24abの側面F)は、
図12Bのように、通常時には接触しなかった(通常時の干渉対象の凸部24abの移動経路外に配置されている)突出部59bに接触することとなる。
【0151】
なお、
図12Bでは、説明の分かりやすさの観点から、オルダム継手24が、通常時の通過経路を比較的大きく外れて移動し、干渉対象の凸部24abと突出部59bとが重なり合った状態を描画しているが、実際には、異常摩耗時には干渉対象の面42daと突出部59bの外面とが接触し合う。
【0152】
このように、突出部59bが可動スクロール40の干渉対象の面42daと接触するようになると、スクロール圧縮機100のモータ70の負荷が大きくなる。その結果、モータ70に供給される電流の大きさも増大する。そして、電流の大きさが所定値以上になると、停止部140が、モータ70に供給される電力を遮断し、スクロール圧縮機100は運転を停止する。
【0153】
なお、突出部59bをオルダム継手24の凸部24abに干渉させる場合、機能上必要でなければ、可動スクロール40の第2鏡板42は耳部43bを有さなくてもよい。
【0154】
(7-5)変形例E
上記実施形態では、干渉部は、第1値が第1許容値を超えると、又は、第2値が第2許容値を超えると、可動スクロール40又はオルダム継手24に干渉する位置に配置される。ただし、干渉部は、第1値が第1許容値を超える場合、又は、第2値が第2許容値を超える場合の、いずれか一方の条件でのみ、可動スクロール40又はオルダム継手24に干渉する位置に配置されてもよい。
【0155】
例えば、第2キー24cの第2キー面26及び第2キー溝58aの第2摺動面58bが、第1キー24bの第1キー面25及び第1キー溝42baの第1摺動面42cに比べて明らかに摩耗しにくいことが分かっているような場合には、干渉部は、第1値が第1許容値を超える際に可動スクロール40又はオルダム継手24に干渉する位置に配置されればよい。逆に、第1キー24bの第1キー面25及び第1キー溝42baの第1摺動面42cが、第2キー24cの第2キー面26及び第2キー溝58aの第2摺動面58bに比べて明らかに摩耗しにくいことが分かっているような場合には、干渉部は、第2値が第2許容値を超える際に可動スクロール40又はオルダム継手24に干渉する位置に配置されればよい。
【0156】
(7-6)変形例F
干渉部は、1カ所にのみ設けられるものではなくてもよく、2カ所以上に設けられてもよい。
【0157】
例えば、スクロール圧縮機100には、第1値が第1許容値を超えるまでは可動スクロール40又はオルダム継手24に干渉せず、第1値が第1許容値を超えると可動スクロール40又はオルダム継手24に干渉する位置に配置される第1の干渉部と、第2値が第2許容値を超えるまでは可動スクロール40又はオルダム継手24に干渉せず、第2値が第2許容値を超えると可動スクロール40又はオルダム継手24に干渉する位置に配置される、第1の干渉部とは別の第2の干渉部が設けられてもよい。
【0158】
<付記>
以上、本開示の実施形態を説明したが、特許請求の範囲に記載された本開示の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
【産業上の利用可能性】
【0159】
本開示は、スクロール圧縮機、及び、スクロール圧縮機を備えた冷凍サイクル装置に広く適用でき有用である。
【符号の説明】
【0160】
20 圧縮機構
24 オルダム継手
24b 第1キー
24c 第2キー
25 第1キー面
26 第2キー面
30 固定スクロール
38 突出部(干渉部)
40 可動スクロール
42b 面(背面)
42ba 第1キー溝
42c 第1摺動面
42d 切り欠き部
43a 円板部
43b 耳部
50 ハウジング
58a 第2キー溝
58b 第2摺動面
59a 突出部(干渉部)
59b 突出部(干渉部)
100 スクロール圧縮機
300 熱源熱交換器(凝縮器,蒸発器)
400 利用熱交換器(蒸発器,凝縮器)
500 膨張機構
600 冷媒回路
1000 冷凍サイクル装置
【先行技術文献】
【特許文献】
【0161】