(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149166
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】既存骨組み部材の補強用連結部構造
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
E04G23/02 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022057588
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000140292
【氏名又は名称】株式会社奥村組
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岸本 剛
(72)【発明者】
【氏名】植北 直樹
(72)【発明者】
【氏名】森 年幸
(72)【発明者】
【氏名】舩津 昌史
(72)【発明者】
【氏名】服部 晃三
(72)【発明者】
【氏名】平松 一夫
(72)【発明者】
【氏名】秋竹 壮哉
【テーマコード(参考)】
2E176
【Fターム(参考)】
2E176AA07
2E176BB28
2E176BB29
(57)【要約】
【課題】建物の骨組み構造を形成する既存の鋼製骨組み部材に、ブレース材等の補強部材が連結される接合金物を、無溶接で連結部分に取り付けて、補強部材によって補強させる補強用連結部構造を提供する。
【解決手段】連結部分51aの周囲を囲んで設置された矩形環状枠金物12と、鋼製骨組み部材52を巻き込んで、矩形環状枠金物12の内側に充填されたセメント系固化材17とを含んで構成される。連結部分51aの鋼製骨組み部材51の表面から突出して複数のスタッド部材13取り付けられている。施工現場において、矩形環状枠金物12及びセメント系固化材17が、無溶接で施工されて連結部分51aの鋼製骨組み部材51の周囲に固設される。矩形環状枠金物12の接合金物11に補強部材20が無溶接で連結されて、補強部材20が鋼製骨組み部材52に一体として接合される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存の建設物の骨組み構造を形成する既存の鋼製骨組み部材に、ブレース材、フレーム材等による補強部材を連結して、前記骨組み構造を補強する際に採用される既存骨組み部材の補強用連結部構造であって、
前記鋼製骨組み部材における前記補強部材の連結部分の周囲を矩形状に囲んで設置された、前記補強部材との接合金物が側面部から外側に突出して取り付けられている矩形環状枠金物と、前記連結部分の前記鋼製骨組み部材の表面から突出して取り付けられた複数のスタッド部材と、前記連結部分の前記鋼製骨組み部材を巻き込むようにして、前記矩形環状枠金物の内側に充填されて固化したセメント系固化材とを含んで構成されており、前記接合金物は、前記矩形環状枠金物の側面部に、施工現場での施工前に予め一体として接合されたものとなっており、
施工現場において、前記矩形環状枠金物及び前記セメント系固化材が無溶接で施工されて前記連結部分の前記鋼製骨組み部材の周囲に固設されると共に、前記矩形環状枠金物の前記接合金物に前記補強部材が無溶接で連結されて、前記補強部材が前記鋼製骨組み部材に一体として接合されることで、前記鋼製骨組み部材による前記骨組み構造が補強される既存骨組み部材の補強用連結部構造。
【請求項2】
前記スタッド部材は、前記連結部分における前記鋼製骨組み部材にドリルによって穿孔形成された固定孔を介して固定された、ボルト部材又はリベット部材によるものとなっている請求項1記載の既存骨組み部材の補強用連結部構造。
【請求項3】
前記鋼製骨組み部材は、H形鋼又はI形鋼からなり、前記スタッド部材は、これらの鋼材のリブ部にドリルによって穿孔形成された固定孔に締着固定された、ボルト部材によるものとなっている請求項2記載の既存骨組み部材の補強用連結部構造。
【請求項4】
前記接合金物は、予めボルト締着孔が形成されたガセットプレートである請求項1~3のいずれか1項記載の既存骨組み部材の補強用連結部構造。
【請求項5】
前記セメント系固化材は、無収縮モルタルである請求項1~4のいずれか1項記載の既存骨組み部材の補強用連結部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存骨組み部材の補強用連結部構造に関し、特に既存の建物の骨組み構造を形成する既存の鋼製骨組み部材に、補強部材を連結して補強する際に採用される既存骨組み部材の補強用連結部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、既存の建物において、老朽化対策や耐震性の向上等を目的として、特に荷重を支持する部分である骨組み構造を補強することが必要となる場合があり、例えば鋼製の骨組み構造を効果的に補強するための手段として、ブレース材、フレーム材等による鋼製の補強部材を、既存の骨組み構造に一体として連結して補強する工法や構造が用いられている。このような補強部材を用いて補強する工法や構造では、一般に、既存の建物の骨組み構造を構成する鋼製の骨組み部材(鋼製骨組み部材)に、例えばガセットプレート等の接合金物を、補強工事の施工現場において溶接等によって取り付けて、これらの接合金物を介して、補強部材を骨組み構造に一体として連結することが行われている。
【0003】
また、例えば補強すべき既存の建物が、工場やその他の施設であって、これらの建物での操業や使用を継続したまま、居ながら施工によって補強工事を行う場合、溶接等の火器を用いて、鋼製骨組み部材に接合金物を取り付ける作業を行うことは、不適切と考えられるため、火器を用いない無溶接の作業で接合金物を取り付けることによって、既存の建物の骨組み構造を、ブレース材等の補強部材で補強する方法や構造も提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0004】
特許文献1や特許文献2に開示された、既存の建物の骨組み構造を、ブレース材等の補強部材を用いて無溶接で補強する方法や構造によれば、特許文献1の補強方法では、接合金物であるガセットプレートの一部を、鋼製骨組み部材である柱材又は梁材に接着すると共に、ガセットプレート及び対向プレートによって柱材又は梁材を挟持した状態で、ガセットプレートと対向プレートとをボルト連結することによって、ブレース材等の補強部材が連結されるガセットプレートの剥離を、防止するようになっている。また特許文献2の補強構造では、ガセットプレートが予め接合された一対の鋼板を、柱材又は梁材を挟み込むように対向させて当該柱材又は梁材に当接させた状態で、これらの一対の鋼板をボルト部材で締め付けることによって、ブレース材等の補強部材が連結されるガセットプレートを、柱材又は梁材にしっかりと固定するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-177797号公報
【特許文献2】特開2016-153582号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に開示された、既存の建物の骨組み構造をブレース材等の補強部材を用いて無溶接で補強する方法や構造によれば、ガセットプレート及び対向プレートや、或いはガセットプレートが予め接合された一対の鋼板を、これらの間に柱材又は梁材を挟み込んだ状態で、ボルト部材を強固に締め付けてボルト連結することによって、接合金物であるガセットプレートを柱材や梁材に固定するようになっており、これによって、ガセットプレートが取り付けられる、補強部材が連結される部分の鋼製骨組み部材には、強固な締付け力によって、過大な応力を生じさせ易い。このため、特に老朽化した既存の建物の骨組み構造を、ブレース材等の補強部材によって補強する際には、老朽化した既存の鋼製骨組み部材における補強部材が連結される部分に生じた応力によって、安定した補強構造を得られなくなることが考えらえる。
【0007】
本発明は、既存の建物の骨組み構造を形成する既存の鋼製骨組み部材に、ブレース材等の補強部材が連結される接合金物を、締付け力による応力を生じさせることなく無溶接で補強部材の連結部分に取り付けて、既存の建物の骨組み構造を、補強部材によって安定した状態で補強させることのできる既存骨組み部材の補強用連結部構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、既存の建設物の骨組み構造を形成する既存の鋼製骨組み部材に、ブレース材、フレーム材等による補強部材を連結して、前記骨組み構造を補強する際に採用される既存骨組み部材の補強用連結部構造であって、前記鋼製骨組み部材における前記補強部材の連結部分の周囲を矩形状に囲んで設置された、前記補強部材との接合金物が側面部から外側に突出して取り付けられている矩形環状枠金物と、前記連結部分の前記鋼製骨組み部材の表面から突出して取り付けられた複数のスタッド部材と、前記連結部分の前記鋼製骨組み部材を巻き込むようにして、前記矩形環状枠金物の内側に充填されて固化したセメント系固化材とを含んで構成されており、前記接合金物は、前記矩形環状枠金物の側面部に、施工現場での施工前に予め一体として接合されたものとなっており、施工現場において、前記矩形環状枠金物及び前記セメント系固化材が無溶接で施工されて前記連結部分の前記鋼製骨組み部材の周囲に固設されると共に、前記矩形環状枠金物の前記接合金物に前記補強部材が無溶接で連結されて、前記補強部材が前記鋼製骨組み部材に一体として接合されることで、前記鋼製骨組み部材による前記骨組み構造が補強される既存骨組み部材の補強用連結部構造を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0009】
そして、本発明の既存骨組み部材の補強用連結部構造は、前記スタッド部材が、前記連結部分における前記鋼製骨組み部材にドリルによって穿孔形成された固定孔を介して固定された、ボルト部材又はリベット部材によるものとなっていることが好ましい。
【0010】
また、本発明の既存骨組み部材の補強用連結部構造は、前記鋼製骨組み部材が、H形鋼又はI形鋼からなり、前記スタッド部材は、これらの鋼材のリブ部にドリルによって穿孔形成された固定孔に締着固定された、ボルト部材によるものとなっていることが好ましい。
【0011】
さらに、本発明の既存骨組み部材の補強用連結部構造は、前記接合金物が、予めボルト締着孔が形成されたガセットプレートであることが好ましい。
【0012】
さらにまた、本発明の既存骨組み部材の補強用連結部構造は、前記セメント系固化材が、無収縮モルタルであることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の既存骨組み部材の補強用連結部構造によれば、既存の建物の骨組み構造を形成する既存の鋼製骨組み部材に、ブレース材等の補強部材が連結される接合金物を、締付け力による応力を生じさせることなく無溶接で補強部材の連結部分に取り付けて、既存の建物の骨組み構造を、補強部材によって安定した状態で補強させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の好ましい第1実施形態に係る既存骨組み部材の補強用連結部構造を用いて補強される骨組み構造を例示する略示正面図である。
【
図2】本発明の好ましい第1実施形態に係る既存骨組み部材の補強用連結部構造を説明する、
図1のA部拡大図である。
【
図3】本発明の好ましい第1一実施形態に係る既存骨組み部材の補強用連結部構造を説明する、
図2のB-Bに沿った断面図である。
【
図4】他の形態の補強用連結部構造を例示する、(a)は
図1のA部拡大図、(b)は(a)のC-Cに沿った断面図である。
【
図5】第2実施形態に係る既存骨組み部材の補強用連結部構造を用いて補強される骨組み構造を例示する略示側面図である。
【
図6】(a)は
図5のD部拡大図、(b)は(a)のE-Eに沿った断面図である。
【
図7】(a)は他の形態の補強用連結部構造を用いて補強される骨組み構造を例示する略示側面図、(b)は(a)のF-Fに沿ったG部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の好ましい第1実施形態に係る既存骨組み部材の補強用連結部構造10は、例えば老朽化した既存の建物の骨組み構造50として、
図1に示すような、格子状に組み付けられた、横方向に間隔をおいて配置されて縦方向に延設する複数の柱材51と、縦方向に間隔をおいて配置されて横方向に延設する複数の梁材52とによる骨組み構造50を、例えばブレース材による補強部材20を用いて効果的に補強できるように、好ましくは骨組み構造50を形成する鋼製骨組み部材である柱材51に、補強部材20を、無溶接で連結させるための連結部の構造として採用されたものである。
【0016】
本第1実施形態では、老朽化した既存の建物の骨組み構造50は、柱材51を形成する鋼製骨組み部材として、好ましくはH形鋼53を組み付けて形成されたものとなっている。本実施形態の補強用連結部構造10は、骨組み構造50を形成するH形鋼53による柱材51における、梁材52との接合部54に近接する部分を、ブレース材(補強部材)20が連結される連結部分51aとして、この連結部分51aに、
図2及び
図3に示すように、ブレース材20が接合される接合金物11を、締付け力による応力を生じさせることなく、無溶接で取り付け可能とする、補強用の連結部の構造として採用されたものである。
【0017】
そして、本第1実施形態の既存骨組み部材の補強用連結部構造10は、既存の建設物の骨組み構造50を形成する、好ましくはH形鋼53による既存の鋼製骨組み部材である柱材51に、好ましくはブレース材20による補強部材を連結して、骨組み構造50を補強する際に採用される補強用の連結部構造であって、
図2及び
図3に示すように、柱材51における補強部材20の連結部分51aの周囲を矩形状に囲んで設置された、補強部材20との接合金物11が側面部12aから外側に突出して取り付けられている矩形環状枠金物12と、連結部分51aの柱材51の表面から突出して取り付けられた複数のスタッド部材13と(
図3参照)、連結部分51aの柱材51を巻き込むようにして、矩形環状枠金物12の内側に充填されて固化したセメント系固化材17とを含んで構成されている。接合金物11は、矩形環状枠金物12の側面部12aに、施工現場での施工前に工場等において予め一体として接合されたものとなっている。施工現場において、矩形環状枠金物12及びセメント系固化材17が無溶接で施工されて、連結部分51aの柱材51の周囲に固設されると共に、矩形環状枠金物12の接合金物11にブレース材20が無溶接で連結されて、ブレース材20が柱材51に一体として接合されることで、柱材51と梁材52による骨組み構造50が補強されるようになっている。
【0018】
また、本第1実施形態では、好ましくはスタッド部材13は、連結部分51aにおけるH形鋼53による柱材51に、ドリルによって穿孔形成された固定孔を介して固定された、ボルト部材又はリベット部材(本実施形態では、ボルト部材)18によるものとなっている。矩形環状枠金物12の側面部12aから突出して取り付けられた接合金物11は、好ましくは予めボルト締着孔が形成されたガセットプレートとなっている。
【0019】
本第1実施形態では、老朽化した既存の建物の骨組み構造50を形成する、H型鋼53による鋼製骨組み部材である柱材51は、
図1に示すように、横方向に所定の間隔をおいて、複数本が平行に配置されて縦方向に延設して設置されている。柱材51は、縦方向に所定の中心間の間隔をおいて平行に配置されて横方向に延設して設置されている、複数本の梁材52と共に、格子状に組み付けられることで、既存の骨組み構造50を形成している。梁材52は、好ましくはI型鋼55による鋼製骨組み部材となっている。本第1実施形態の補強用連結部構造10は、このような柱材51と梁材52による骨組み構造50の矩形状の格子枠の内側において、対角方向に交差させて配置した好ましくは山形鋼56による補強部材である一対のブレース材20によって、骨組み構造50を効果的に補強できるように、ブレース材20の端部を柱材51に無溶接で連結して一体として接合させるための接合金物11を、柱材51におけるブレース材20の連結部分51aに、無溶接で安定した状態で固定できるようにするための構造となっている。
【0020】
また、本第1実施形態では、補強部材である一対のブレース材20は、骨組み構造50の矩形状の格子枠の内側において、対角方向に交差させて配置されるようになっている。補強部材であるブレース材20は、柱材51における、梁材52との接合部54に近接する部分を連結部分51aとして、本実施形態の補強用連結部構造10を介して柱材51に連結されることで、骨組み構造50を無溶接で効果的に補強できるようになっている。
【0021】
そして、本第1実施形態の補強用連結部構造10を構成する矩形環状枠金物12は、
図2及び
図3に示すように、一方の対向する辺部に配置される一対の第1枠金物14と、他方の対向する辺部に配置される一対の第2枠金物15とを含んで形成されている。一対の第1枠金物14は、各々が例えば溝形鋼からなり、これらの平板部14aを、互いに間隔をおいて平行に対向配置すると共に、各々の平板部14aの両側の側縁部から、張出しリブ部14bを外側に突出させた状態で取り付けられる(
図3参照)。張出しリブ部14bには、複数のボルト締着孔が形成されている。
【0022】
また、各々の第1枠金物14の平板部14aにおける、張出しリブ部14bが突出する側の外側面には、当該外側面を矩形環状枠金物12の側面部12aとして、これの横幅方向の中央部分に、ブレース材20との接合金物11である好ましくはガセットプレートが、張出しリブ部14bと平行な面に沿って、平板部14aから垂直に張り出すようにして取り付けられている。ガセットプレートによる接合金物11は、施工現場に搬入される前に、予め工場等において、第1枠金物14の平板部14aに一体として接合されている。本実施形態では、ガセットプレート11は、第1枠金物14の平板部14aと接合される基端部において、平板部14aの縦幅と同様の縦幅を有すると共に、格子枠の対角方向に向けて縦幅を徐々に減少させた、先端部が切り取られた略三角形状の側面形状を備えている。ガセットプレート11には、格子枠の対角方向に沿って配設されて、複数のボルト締着孔が形成されている。
【0023】
一対の第2枠金物15は、各々が例えば鋼製プレートからなり、第1枠金物14の平板部14aの縦幅と同様の縦幅を備えると共に、間隔をおいて配置された一対の第1枠金物14の張出しリブ部14bに跨る長さの横幅を備える、矩形状の側面形状を有している。各々の第2枠金物15の両側の側縁部分には、第1枠金物14の張出しリブ部14bに形成された複数のボルト締着孔と対応する位置に、複数のボルト締着孔が形成されている。
【0024】
一対の第1枠金物14と一対の第2枠金物15は、柱材51における補強部材20の連結部分51aの周囲を、矩形状に囲んで設置される。すなわち、一対の第1枠金物14は、平板部14aを、例えば柱材51を構成するH型鋼53の一対のフランジ部53aと平行に配置すると共に、平板部14aとフランジ部53aとの間に好ましくは50mm以下の間隔を保持した状態で、組み付けることができる。一対の第2枠金物15は、例えば柱材51を構成するH型鋼53のリブ部53bと平行に配置されると共に、H型鋼53のフランジ部53aの端部との間に好ましくは60mm以下の間隔を保持し、且つボルト締着孔が形成された両側の側縁部分を、一対の第1枠金物14のボルト締着孔が形成された張出しリブ部14bに、各々外側から重ね合わせた状態で、組み付けることができる。柱材51における補強部材20の連結部分51aの周囲を矩形状に囲んで組み付けられた、一対の第1枠金物14と一対の第2枠金物15は、重ね合わせた第2枠金物15の側縁部分のボルト締着孔と第1枠金物14の張出しリブ部14bのボルト締着孔とを合致させて、固定ボルト16を締着させることにより、これらが一体となって、柱材51における補強部材20の連結部分51aの周囲を矩形状に囲んで設置された、補強部材20との接合金物11が側面部12aから外側に突出して取り付けられている、矩形環状枠金物12を形成することになる。
【0025】
本第1実施形態では、一対の第1枠金物14と一対の第2枠金物15による矩形環状枠金物12は、例えば
図1において、柱材51における下方の梁材52との接合部54に近接する連結部分51aでは、例えば下方の梁材52の上に載置して取り付けられた床スラブ57(
図2参照)を基台部として、これの上方に組み付けることができるようになっている(
図3参照)。また柱材51における上方の梁材52との接合部54に近接する連結部分51aでは、矩形環状枠金物12は、例えば柱材51に支持させて公知の各種の固定金物を用いて無溶接で取り付けられた、基盤プレート(図示せず)を基台部として、
図3に示す正立状態とは上下を逆さまにした倒立状態で、当該基台部の上方に組み付けることができるようになっている。矩形環状枠金物12の基台部となる床スラブ57や基盤プレートは、矩形環状枠金物12の内側にセメント系固化材17を充填する際に、矩形環状枠金物12の底型枠として用いることができる。
【0026】
ブレース材20の連結部分51aにおける柱材51の表面から突出して取り付けられた複数のスタッド部材13は、本第1実施形態では、上述のように、連結部分51aのH形鋼53による柱材51に、ドリルによって穿孔形成された固定孔を介して固定された、複数のボルト部材18によるものとなっている。ボルト部材18によるスタッド部材13は、連結部分51aのH形鋼53の好ましくはリブ部53bに、例えば公知のドリルを用いて無溶接で穿孔形成された複数の固定孔に対して、ボルト部材18を各々締着固定することによって、容易に取り付けることができる。またこれによって、リブ部53bの表面を柱材51における連結部分51aの表面として、ボルト部材19による複数のスタッド部材13を、リブ部53bの表面から突出させた状態で容易に取り付けることが可能になる。このような、連結部分51aのH形鋼53のリブ部53bにボルト部材18によるスタッド部材13を取り付ける作業は、好ましくは連結部分51aのH形鋼53の周囲に一対の第1枠金物14と一対の第2枠金物15とを組み付けて矩形環状枠金物12を取り付ける作業に先立って、行うことができる。
【0027】
上述のようにして連結部分51aにおけるH形鋼53の周囲に取り付けられた、矩形環状枠金物12の内側に充填されて固化するセメント系固化材17としては、例えば各種のコンクリートやモルタルを用いることができる。矩形環状枠金物12の内側に充填する際の、施工性の向上や、固化後の品質の向上等の観点から、セメント系固化材17として、公知の各種の無収縮モルタルを用いることが好ましい。
【0028】
無収縮モルタル等のセメント系固化材17は、例えば作業員の手作業によって、矩形環状枠金物12の内側に、連結部分51aのH形鋼53を巻き込むようにして、無溶接で隙間なく充填された後に、固化することによって、H形鋼53による柱材51におけるブレース材20の連結部分51aの周囲に、容易に固設することができる。また、充填されたセメント系固化材17が固化することで、矩形環状枠金物12もまた、H形鋼53による柱材51におけるブレース材20の連結部分51aの周囲に、一体として固設されることになる。これによって、矩形環状枠金物12の接合金物11にブレース材20が連結されることで骨組み構造50を補強することが可能な、本第1実施形態の既存骨組み部材の補強用連結部構造10が、形成されることになる。
【0029】
本第1実施形態では、ブレース材20による補強部材は、施工現場において、補強用連結部構造10を構成する矩形環状枠金物12のガセットプレート11による接合金物に、当該ブレース材20の端部に形成されたボルト締着孔を、ガセットプレート11に形成されたボルト締着孔に合致させて、固定ボルト16を締着することによって、矩形環状枠金物12の接合金物11に当該ブレース材20が、無溶接で容易に連結されることになる。これによって、骨組み構造50の矩形状の格子枠の内側に、好ましくは一対のブレース材20を、交差した状態で柱材51に一体として容易に接合することが可能になり、柱材51と梁材52による骨組み構造50が、ブレース材20によって効果的に補強されることになる。
【0030】
そして、上述の構成を備える本第1実施形態の既存骨組み部材の補強用連結部構造10によれば、既存の建物の骨組み構造50を形成する柱材51に、ブレース材20による補強部材が連結される接合金物11を、締付け力による応力を生じさせることなく、無溶接でブレース材20の連結部分51aに取り付けて、既存の建物の骨組み構造50を、ブレース材20によって安定した状態で補強させることが可能になる。
【0031】
すなわち、本第1実施形態によれば、補強用連結部構造10は、H形鋼53による柱材51におけるブレース材20の連結部分51aの周囲を囲んで設置された、接合金物11が予め接合されている矩形環状枠金物12と、矩形環状枠金物12の内側に充填されて固化したセメント系固化材17とを含んで構成されている。これによって、施工現場においては、接合金物11が予め接合されている矩形環状枠金物12を、無溶接で鋼製骨組み部材である柱材51の周囲に固設することが可能になる。また矩形環状枠金物12は、これの内側に充填されて固化したセメント系固化材17によって、締付け力による応力を柱材51に生じさせることなく、柱材51におけるブレース材20の連結部分51aに、当該セメント系固化材17を介して強固に一体として接合されるので、連結部分51aの柱材51に一体として接合された当該矩形環状枠金物12の接合金物11に、補強部材であるブレース材20が無溶接で連結されることによって、既存の建物の骨組み構造50を、矩形環状枠金物12を及びセメント系固化材17を介することで、ブレース材20によって安定した状態で強固に補強させることが可能になる。
【0032】
また、本実施形態の補強用連結部構造10では、連結部分51aの柱材51の表面である、H形鋼53のリブ部53bの表面から突出して、ボルト部材18による複数のスタッド部材13が突出して設けられている。これによって、例えば内側にセメント系固化材17が充填されている、矩形環状枠金物12と、連結部分51aの柱材51との間に、せん断方向の力が作用した場合に、これらのスタッド部材13によってセメント系固化材17を介した支圧抵抗を効果的に発揮させることが可能になる。またこれによって、セメント系固化材17による付着強度が向上して、ブレース材20が連結される、柱材51の連結部分51aのH形鋼53に、矩形環状枠金物12が、より強固に一体として接合されるので、既存の建物の骨組み構造50を、ブレース材20によってさらに安定した状態で、効果的に補強させることが可能になる。このような付着強度を向上させる観点から、例えば矩形環状枠金物12の内側面にも、複数の突起を設けておくことが好ましい。
【0033】
さらに、本実施形態では、ボルト部材18による複数のスタッド部材13は、柱材51を構成するH形鋼53のリブ部53bに、ドリルを用いて固定孔を形成して、リブ部53bに形成された当該固定孔にボルト部材18を各々締着固定することによって設けられるので、H形鋼53において応力を主に負担するフランジ部53aに固定孔を形成して断面欠損を生じさせることがなく、ブレース材20によってさらに安定した状態で、H形鋼53による柱材51を用いた骨組み構造50を補強することが可能になる。
【0034】
図4(a)、(b)は、他の形態の補強用連結部構造10’を例示するものである。
図4(a)、(b)に示す補強用連結部構造10’では、矩形環状枠金物12’を形成する一対の第1枠金物14’と一対の第2枠金物15’は、いずれも溝形鋼からなり、接合金物としてガセットプレート11’が予め接合された第1枠金物14’は、柱材51を構成するH型鋼53のフランジ部53aに隙間なく面接触させた状態で取り付けられていると共に、第2枠金物15’は、H型鋼53のフランジ部53aの端部に当接させた状態で取り付けられている。またセメント系固化材17’は、矩形環状枠金物12’の内側の、H型鋼53のフランジ部53a及びリブ部53bと、第2枠金物15’とによって囲まれる領域にのみ充填されて固化している。
【0035】
図4(a)、(b)に示す他の形態の補強用連結部構造10’によっても、ガセットプレート11’を備える矩形環状枠金物12’が、締付け力による応力を柱材51に生じさせることなく、柱材51におけるブレース材20の連結部分51aに、セメント系固化材17’を介して強固に一体として接合されると共に、連結部分51aにおける柱材51の表面から突出して、ボルト部材18によるスタッド部材13が取り付けられているので、上述の補強用連結部構造10と同様の作用効果が奏される。
【0036】
図5及び
図6(a)、(b)は、本発明の第2実施形態に係る既存骨組み部材の補強用連結部構造30を示すものである。第2実施形態の補強用連結部構造30は、例えば老朽化した既存の建物の骨組み構造を形成するH形鋼59による柱材58を、好ましくフレーム材による補強部材31によって効果的に補強できるように、骨組み構造を形成する鋼製骨組み部材である柱材58に、フレーム材31を、無溶接で連結させるための連結部の構造として採用されたものとなっている。
【0037】
本第2実施形態では、補強部材であるフレーム材31は、既存の建物の床面から組み付けることによって、安定した状態で設置されたものとなっている。フレーム材31は、当該フレーム材31を構成する、補強すべきH形鋼59による柱材58に向けて横方向に張り出して設けられた横フレーム31aの先端部を、補強用連結部構造30を構成する矩形環状枠金物32に予め接合された接合金物であるガセットプレート33に、ボルト部材34により無溶接で連結されることによって、柱材58を用いた骨組み構造を、安定した状態で補強できるようになっている。
【0038】
本第2実施形態の補強用連結部構造30もまた、鋼製骨組み部材である柱材58におけるフレーム材31の連結部分58aの周囲を矩形状に囲んで、矩形環状枠金物32が設置されている。矩形環状枠金物32は、溝形鋼からなる第1枠金物35とコの字断面形状を有する第2枠金物36を組み付けて形成されており、第2枠金物36の外側面から突出して、フレーム材31との接合金物である矩形状のガセットプレート33が取り付けられている。また連結部分58aにおける、柱材58を形成するH形鋼59のリブ部59bの表面から突出して、複数のボルト部材によるスタッド部材37が取り付けられている。矩形環状枠金物32の内側には、連結部分58aの柱材58を巻き込むようにして、セメント系固化材38が充填されて固化している。接合金物であるガセットプレート33は、矩形環状枠金物32の側面部に、施工現場での施工前に予め一体として接合されたものとなっている。
【0039】
本第2実施形態の補強用連結部構造30によっても、ガセットプレート33を備える矩形環状枠金物32が、締付け力による応力を柱材58に生じさせることなく、柱材58におけるフレーム材31の連結部分58aに、セメント系固化材38を介して強固に一体として接合されていると共に、連結部分58aにおける柱材58の表面から突出して、ボルト部材によるスタッド部材37が取り付けられているので、上述の実施形態の補強用連結部構造10と同様の作用効果が奏される。
【0040】
なお、本発明は上記の各実施形態に限定されることなく種々の変更が可能である。例えば、補強部材が連結される矩形環状枠金物の接合金物は、予めボルト締着孔が形成されたガセットプレートである必要は必ずしもなく、ブレース材、フレーム材等による補強部材を無溶接で連結することが可能な、その他の種々の公知の接合金物であっても良い。スタッド部材は、ボルト部材の他に、セメント系固化材を介した支圧抵抗を効果的に発揮させることを可能にする、その他の種々の金物を用いて設けることができる。矩形環状枠金物の内側に充填されて固化するセメント系固化材は、無収縮モルタルである必要は必ずしもなく、コンクリートやセメントミルク等のその他の種々のセメント系固化材であっても良い。
【0041】
また、本発明の補強用連結部構造を用いて補強される骨組み構造を形成する鋼製骨組み部材は、柱材以外の、梁材等であっても良い。補強される骨組み構造を構成する鋼製骨組み部材は、H形鋼によるによるものである必要は必ずしもなく、例えば
図7(a)、(b)に示すように、角形鋼管等の、その他の種々の鋼製骨組み部材であっても良い。
【0042】
図7(a)、(b)では、鋼製骨組み部材は、角形鋼管47による柱材48となっており、補強部材は、フレーム材49となっている。また、補強用連結部構造40を形成する矩形環状枠金物41は、柱材48を形成する角形鋼管47よりも大きな角形鋼管を、切断したり溶接加工したりして形成されていることで、接合金物43を備えるものとなっている。角形鋼管47による柱材48におけるフレーム材49の連結部分48aには、表面から突出して、リベット部材44が、ドリルによって穿孔形成された固定孔を介して無溶接で固定されて、スタッド部材として突出している。矩形環状枠金物41には、複数のボルト部材45が取り付けられていることで、当該ボルト部材45による突起が、内側面から突出して設けられている。矩形環状枠金物41の内側には、連結部分48aの柱材48を巻き込むようにして、セメント系固化材46が充填されて固化している。これらによって、補強用連結部構造40が形成されている。形成された補強用連結部構造40の矩形環状枠金物41の接合金物43には、フレーム材49が無溶接で連結されて、柱材48を用いた骨組み構造を、効果的に補強できるようになっている。
【符号の説明】
【0043】
10,10’,30,40 補強用連結部構造
11,11’,33,43 ガセットプレート(接合金物)
12,32,41 矩形環状枠金物
12a 側面部
13,37 スタッド部材
14,14’,35 第1枠金物
14a 平板部
14b 張出しリブ部
15、36 第2枠金物
16 固定ボルト
17,17’,38,46 セメント系固化材
18,19,34,45 ボルト部材
20 ブレース材(補強部材)
31,49 フレーム材(補強部材)
31a 横フレーム
44 リベット部材(スタッド部材)
47 角形鋼管 (鋼製骨組み部材)
50 骨組み構造
51,48,58 柱材(鋼製骨組み部材)
51a,48a,58a 連結部分
52 梁材(鋼製骨組み部材)
53,59 H形鋼(鋼製骨組み部材)
53a,59a フランジ部
53b,59b リブ部
54 梁材との接合部
55 I形鋼(鋼製骨組み部材)
56 山形鋼(補強部材)
57 床スラブ