(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023014917
(43)【公開日】2023-01-31
(54)【発明の名称】インバータ装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20230124BHJP
H02P 27/08 20060101ALI20230124BHJP
【FI】
H02M7/48 E
H02P27/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021119142
(22)【出願日】2021-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098361
【弁理士】
【氏名又は名称】雨笠 敬
(72)【発明者】
【氏名】柏原 辰樹
(72)【発明者】
【氏名】荒木 雄志
(72)【発明者】
【氏名】小林 孝次
【テーマコード(参考)】
5H505
5H770
【Fターム(参考)】
5H505AA06
5H505AA16
5H505BB05
5H505CC04
5H505DD03
5H505DD08
5H505EE41
5H505EE49
5H505GG02
5H505GG04
5H505HA10
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ22
5H505JJ24
5H505JJ25
5H505JJ28
5H505KK05
5H505LL14
5H505LL22
5H770AA05
5H770BA02
5H770DA03
5H770DA41
5H770EA04
5H770EA25
5H770HA02Z
5H770QA27
5H770QA31
(57)【要約】
【課題】相電圧の変化を、他の相の相電圧の変化で打ち消すことでコモンモードノイズのキャンセルを可能な限り実現しながら、モータを広い運転範囲で駆動することができるインバータ装置を提供する。
【解決手段】インバータ装置1の制御装置21は、相電圧Vu、Vv、Vwの狙いのパルス幅が出せない位相領域M3が発生する場合、当該位相領域M3と、この位相領域M3に対して120度、及び、240度ずれた計三つの位相領域M1~M3において、線間電圧が平衡となるように、全ての相の指令値に対して補正を加える補正制御を実行するPWM信号生成部36を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
各相の上下アームスイッチング素子の接続点における相電圧を三相交流出力としてモータに印加するインバータ回路と、
該インバータ回路の前記各相の上下アームスイッチング素子のスイッチングを制御する制御装置を備え、
該制御装置により、一相の前記上アームスイッチング素子がONし、他の二相の前記下アームスイッチング素子がONした状態、又は、前記一相の下アームスイッチング素子がONし、前記他の二相の上アームスイッチング素子がONした状態からスイッチングの規定区間を開始すると共に、
前記相電圧の変化を、他の相の前記相電圧の変化で打ち消すような指令値を生成して前記上下アームスイッチング素子をスイッチングするキャンセル制御を実行するインバータ装置において、
前記制御装置は、前記相電圧の狙いのパルス幅が出せない位相領域が発生する場合、当該位相領域と、該位相領域に対して120度、及び、240度ずれた計三つの位相領域において、線間電圧が平衡となるように、全ての相の前記指令値に対して、補正を加える補正制御を実行する補正制御部を有することを特徴とするインバータ装置。
【請求項2】
前記補正制御部は前記補正制御において、電気角一周期の全領域においてスイッチングにより相電圧の変化を打ち消すキャンセル制御を実現することを目的として、前記一相の上下アームスイッチング素子のスイッチングは、前記他の二相のスイッチングによる相電圧の変化を打ち消すために停止しないことを特徴とする請求項1に記載のインバータ装置。
【請求項3】
前記補正制御部は前記補正制御により、前記一相の上下アームスイッチング素子のスイッチングを停止するよう前記指令値を補正することを特徴とする請求項1に記載のインバータ装置。
【請求項4】
前記補正制御部は、前記一相の上下アームスイッチング素子のスイッチングを停止する前記位相領域の幅が、他の前記位相領域の幅よりも広くなる範囲では、前記他の二相に対する前記補正制御を行わないことを特徴とする請求項3に記載のインバータ装置。
【請求項5】
前記補正制御部が行う補正制御において、全ての相の一キャリア周期中の補正値は合計すると0になることを特徴とする請求項1乃至請求項4のうちの何れかに記載のインバータ装置。
【請求項6】
前記補正制御部が行う補正制御において、全ての相の電気角一周期中の補正値は合計すると0になることを特徴とする請求項1乃至請求項5のうちの何れかに記載のインバータ装置。
【請求項7】
前記補正制御部は前記補正制御により、前記三つの位相領域において、全ての相の前記上下アームスイッチング素子のスイッチングを停止するよう前記指令値を補正することを特徴とする請求項1に記載のインバータ装置。
【請求項8】
前記補正制御部は前記補正制御により、前記三つの位相領域において、全ての相の前記上下アームスイッチング素子のスイッチングを停止し、且つ、前記三つの位相領域のそれぞれに対して180度ずれた位相領域において、相電圧が逆となるように、前記上下アームスイッチング素子のスイッチングを停止するよう前記指令値を補正することを特徴とする請求項1に記載のインバータ装置。
【請求項9】
前記補正制御部は、前記三つの位相領域において、同位相において三相のうちの少なくとも二相で異なる値で、且つ、120度ずらして等しくなる補正値を用いて前記指令値を補正することを特徴とする請求項1乃至請求項8のうちの何れかに記載のインバータ装置。
【請求項10】
各相の上下アームスイッチング素子の接続点における相電圧を三相交流出力としてモータに印加するインバータ回路と、
該インバータ回路の前記各相の上下アームスイッチング素子のスイッチングを制御する制御装置を備え、
該制御装置により、一相の前記上アームスイッチング素子がONし、他の二相の前記下アームスイッチング素子がONした状態、又は、前記一相の下アームスイッチング素子がONし、前記他の二相の上アームスイッチング素子がONした状態からスイッチングの規定区間を開始すると共に、
前記相電圧の変化を、他の相の前記相電圧の変化で打ち消すような指令値を生成して前記上下アームスイッチング素子をスイッチングするキャンセル制御を実行するインバータ装置において、
前記制御装置は、前記相電圧の狙いのパルス幅が出せない位相領域が発生する場合、当該位相領域と、該位相領域に対して120度、及び、240度ずれた計三つの位相領域において、前記狙いのパルス幅が出せなくなる相の前記上下アームスイッチング素子のスイッチングを停止する部分キャンセル制御を実行することを特徴とするインバータ装置。
【請求項11】
前記制御装置は、請求項2、請求項3、請求項4、請求項5、請求項6、請求項7、請求項8、請求項9、及び、請求項10に記載の前記補正制御、及び、前記部分キャンセル制御を有し、
変調率、及び/又は、制御位相角に応じて、それらの何れかを選択して実行することを特徴とするインバータ装置。
【請求項12】
前記相電圧の狙いのパルス幅とは、前記キャンセル制御を実現しながら前記線間電圧が正弦波となるパルス幅であることを特徴とする請求項1乃至請求項11のうちの何れかに記載のインバータ装置。
【請求項13】
前記制御装置は、前記各相の上下アームスイッチング素子をそれぞれ接続するための出力ポートを有し、前記一相の上下アームスイッチング素子は、上アームスイッチング素子が下アームスイッチング素子用の前記出力ポートに、下アームスイッチング素子が上アームスイッチング素子用の前記出力ポートに接続されていることを特徴とする請求項1乃至請求項12のうちの何れかに記載のインバータ装置。
【請求項14】
前記モータを内蔵した電動コンプレッサに搭載されることを特徴とする請求項1乃至請求項13のうちの何れかに記載のインバータ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータ回路により三相交流出力をモータに印加して駆動するインバータ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来よりモータを駆動するためのインバータ装置は、複数の上下アームスイッチング素子により三相インバータ回路を構成すると共に、UVW各相のスイッチング素子をPWM(Pulse Width Modulation)制御し、正弦波に近い電圧波形の相電圧をモータに印加して駆動するものであるが、モータのコモンモード電圧(中性点電位)の変動により発生するコモンモードノイズが問題となっていた。このコモンモードノイズを抑制する方式は、これまでにも種々提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
特許文献2の方式は対称の鋸波キャリアを二つ利用することを前提としたものであるため、キャリアを二つ連携して使用するマイクロコンピュータで制御する必要がある。また、近年では一定周期中の任意のタイミングで複数回PWM(相電圧のパルス)を立ち上げ、立ち下げすることができるマイクロコンピュータも増えてきており、係るマイクロコンピュータを使用できれば、コモンモードノイズの抑制は比較的容易に実現できるものの、何れにしても部品コストが高騰してしまう。
【0004】
そこで、PWMの開始を一相のみ「H」スタート(上アームスイッチング素子がON)、他の二相は「L」スタート(下アームスイッチング素子がON。或いはその逆)とすることで、各相の上下アームスイッチング素子のスイッチングタイミングを同期させ、一相の相電圧の変化を、他相の相電圧の変化で打ち消し、コモンモード電圧の変動を抑制して、コモンモードノイズをキャンセルする方式がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10-23760号公報
【特許文献2】特許第5045137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、出力される相電圧ピーク値と入力電圧振幅の比率を変調率とした場合、係る方式では出力できる変調率は2/3程度にしかならないという課題がある(実際には、出力可能な最小パルス幅を考慮する必要があるため、出力できる変調率はそれよりも小さくなる)。特許文献2のように、電圧位相に合わせて「L」スタート、「H」スタートを位相ごとに1:2、2:1と切り換えることで、出力できる変調率は(4ルート3)/9まで上げることができるが、それ以上は出力できない。
【0007】
通常の三相変調では変調率1まで利用することが可能であるが、上記の方式ではコモンモードノイズをキャンセルする制御を実行することで、出力できる変調率が低下し、その影響で出力可能なモータの最大回転数が低下してしまうと云う欠点がある。そのため、車両で使用される電動コンプレッサ等には搭載困難である。
【0008】
本発明は、係る従来の技術的課題を解決するためになされたものであり、一相の相電圧の変化を、他相の相電圧の変化で打ち消すことでコモンモードノイズのキャンセルを可能な限り実現しながら、モータを広い運転範囲で駆動することができるインバータ装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明のインバータ装置は、各相の上下アームスイッチング素子の接続点における相電圧を三相交流出力としてモータに印加するインバータ回路と、このインバータ回路の各相の上下アームスイッチング素子のスイッチングを制御する制御装置を備え、この制御装置により、一相の上アームスイッチング素子がONし、他の二相の下アームスイッチング素子がONした状態、又は、一相の下アームスイッチング素子がONし、他の二相の上アームスイッチング素子がONした状態からスイッチングの規定区間を開始すると共に、相電圧の変化を、他の相の相電圧の変化で打ち消すような指令値を生成して上下アームスイッチング素子をスイッチングするキャンセル制御を実行するものであって、制御装置は、相電圧の狙いのパルス幅が出せない位相領域が発生する場合、当該位相領域と、この位相領域に対して120度、及び、240度ずれた計三つの位相領域において、線間電圧が平衡となるように、全ての相の指令値に対して、補正を加える補正制御を実行する補正制御部を有することを特徴とする。
【0010】
請求項2の発明のインバータ装置は、上記発明において補正制御部は補正制御において、電気角一周期の全領域においてスイッチングにより相電圧の変化を打ち消すキャンセル制御を実現することを目的として、一相の上下アームスイッチング素子のスイッチングは、他の二相のスイッチングによる相電圧の変化を打ち消すために停止しないことを特徴とする。
【0011】
請求項3の発明のインバータ装置は、請求項1の発明において補正制御部は補正制御により、一相の上下アームスイッチング素子のスイッチングを停止するよう指令値を補正することを特徴とする。
【0012】
請求項4の発明のインバータ装置は、上記発明において補正制御部は、一相の上下アームスイッチング素子のスイッチングを停止する位相領域の幅が、他の位相領域の幅よりも広くなる範囲では、他の二相に対する補正制御を行わないことを特徴とする。
【0013】
請求項5の発明のインバータ装置は、上記各発明において補正制御部が行う補正制御において、全ての相の一キャリア周期中の補正値は合計すると0になることを特徴とする。
【0014】
請求項6の発明のインバータ装置は、上記各発明において補正制御部が行う補正制御において、全ての相の電気角一周期中の補正値は合計すると0になることを特徴とする。
【0015】
請求項7の発明のインバータ装置は、請求項1の発明において補正制御部は補正制御により、三つの位相領域において、全ての相の上下アームスイッチング素子のスイッチングを停止するよう指令値を補正することを特徴とする。
【0016】
請求項8の発明のインバータ装置は、請求項1の発明において補正制御部は補正制御により、三つの位相領域において、全ての相の上下アームスイッチング素子のスイッチングを停止し、且つ、三つの位相領域のそれぞれに対して180度ずれた位相領域において、相電圧が逆となるように、上下アームスイッチング素子のスイッチングを停止するよう指令値を補正することを特徴とする。
【0017】
請求項9の発明のインバータ装置は、上記各発明において補正制御部は、三つの位相領域において、同位相において三相のうちの少なくとも二相で異なる値で、且つ、120度ずらして等しくなる補正値を用いて指令値を補正することを特徴とする。
【0018】
請求項10の発明のインバータ装置は、各相の上下アームスイッチング素子の接続点における相電圧を三相交流出力としてモータに印加するインバータ回路と、このインバータ回路の各相の上下アームスイッチング素子のスイッチングを制御する制御装置を備え、この制御装置により、一相の上アームスイッチング素子がONし、他の二相の下アームスイッチング素子がONした状態、又は、一相の下アームスイッチング素子がONし、他の二相の上アームスイッチング素子がONした状態からスイッチングの規定区間を開始すると共に、相電圧の変化を、他の相の相電圧の変化で打ち消すような指令値を生成して上下アームスイッチング素子をスイッチングするキャンセル制御を実行するものであって、制御装置は、相電圧の狙いのパルス幅が出せない位相領域が発生する場合、当該位相領域と、この位相領域に対して120度、及び、240度ずれた計三つの位相領域において、狙いのパルス幅が出せなくなる相の上下アームスイッチング素子のスイッチングを停止する部分キャンセル制御を実行することを特徴とする。
【0019】
請求項11の発明のインバータ装置は、制御装置が、請求項2、請求項3、請求項4、請求項5、請求項6、請求項7、請求項8、請求項9、及び、請求項10に記載の補正制御、及び、部分キャンセル制御を有し、変調率、及び/又は、制御位相角に応じて、それらの何れかを選択して実行することを特徴とする。
【0020】
請求項12の発明のインバータ装置は、上記各発明において相電圧の狙いのパルス幅とは、キャンセル制御を実現しながら線間電圧が正弦波となるパルス幅であることを特徴とする。
【0021】
請求項13の発明のインバータ装置は、上記各発明において制御装置は、各相の上下アームスイッチング素子をそれぞれ接続するための出力ポートを有し、一相の上下アームスイッチング素子は、上アームスイッチング素子が下アームスイッチング素子用の出力ポートに、下アームスイッチング素子が上アームスイッチング素子用の出力ポートに接続されていることを特徴とする。
【0022】
請求項14の発明のインバータ装置は、上記各発明においてモータを内蔵した電動コンプレッサに搭載されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、相電圧の変化を、他の相の相電圧の変化で打ち消すことでコモンモードノイズを可能な限りキャンセルしながら、変調率が高い場合でも、不平衡が生じないようにして、モータを広い運転範囲で駆動することができるようになる。これにより、請求項14の発明の如き電動コンプレッサを駆動する場合等に極めて好適なものとなる。
【0024】
請求項2の発明によれば、電気角一周期の全領域においてスイッチングにより一相の相電圧の変化を、他の二相の相電圧の変化で打ち消すことでコモンモードノイズをキャンセルするキャンセル制御を実現しながら、変調率が高い場合でも、不平衡が生じない指令値の補正を行って、モータを広い運転範囲で駆動することができるようになる。
【0025】
請求項3及び請求項4の発明によれば、コモンモードノイズの完全抑制はできないものの、格別な制御装置や特殊な制御方式を用いること無く、可能な限りコモンモードノイズをキャンセルしながら、狙い通りの相電圧を出力することができるようになる。
【0026】
請求項5によれば、キャンセル制御を実現しながら、指令値の補正を行うことができるようになる。また、請求項6及び請求項9の発明によれば、補正による不平衡が生じなくなる。
【0027】
請求項7乃至請求項10の発明によれば、コモンモードノイズの完全抑制はできないものの、格別な制御装置や特殊な制御方式を用いること無く、可能な限りコモンモードノイズをキャンセルしながら、より高い変調率においても狙い通りの相電圧を出力することができるようになり、モータをより広い運転範囲で駆動することができるようになる。
【0028】
そして、請求項11の発明の如く制御装置が、請求項2乃至請求項10の発明の補正制御、部分キャンセル制御を有し、変調率、及び/又は、制御位相角に応じて、補正制御、部分キャンセル制御のうちの何れかを選択して実行するようにすれば、制御性を担保しながら効果的なモータの運転範囲拡大を図ることが可能となる。
【0029】
ここで、相電圧の狙いのパルス幅とは、請求項12の発明の如くキャンセル制御を実現しながら線間電圧が正弦波となるパルス幅であり、このパルス幅が出力できれば、相電圧が不平衡とならずにモータを狙い通りに駆動することができる。
【0030】
また、各相の上下アームスイッチング素子がそれぞれ接続される制御装置の出力ポートの出力が、全ての上アームスイッチング素子がON、又は、全ての下アームスイッチング素子がONした状態からスイッチングの規定区間が開始される構成である場合には、請求項13の発明の如く前記一相の上下アームスイッチング素子のみ逆の出力ポートに接続することで簡単にキャンセル制御を実現することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の一実施例のインバータ装置の電気回路図である。
【
図2】
図1のインバータ装置を備えた一実施例の電動コンプレッサの縦断側面図である。
【
図3】
図1のインバータ装置のモータ制御に関するブロック図である。
【
図4】
図1のインバータ装置のゲートドライバの動作を説明する図である。
【
図5】変調率指令値kHset=0.5の過変調でない場合のUVW各相の相電圧指令値とパルス幅指令値を示す図である。
【
図6】
図5の場合の相電圧とコモンモード電圧を360度で示した図である。
【
図7】
図5の場合の一キャリア周期の相電圧等を示した図である。
【
図8】
図5の場合の正規化した線間電圧を示した図である。
【
図9】変調率指令値kHset=1.4の過変調の場合のUVW各相の相電圧指令値とパルス幅指令値を示す図である。
【
図10】
図9の場合の相電圧とコモンモード電圧を360度で示した図である。
【
図11】
図9の場合の正規化した線間電圧を示した図である。
【
図12】三相変調の場合の変調率指令値kHsetと、出力される変調率kHoutの関係を示す図である。
【
図13】変調率指令値kHset=0.5の過変調でない場合におけるキャンセル制御(完全抑制)での各相のパルス幅指令値を説明する図である。
【
図14】
図13の場合の一キャリア周期の相電圧等を示した図である。
【
図15】
図13の場合の一キャリア周期の相電圧等を示したもう一つの図である。
【
図16】
図13の場合の相電圧とコモンモード電圧を360度で示した図である。
【
図17】
図13の場合の正規化した線間電圧を示した図である。
【
図18】変調率指令値kHset=0.9の過変調の場合におけるキャンセル制御(完全抑制)での各相のパルス幅指令値を説明する図である。
【
図19】
図18の場合の一キャリア周期の相電圧等を示した図である。
【
図20】
図18の場合の相電圧とコモンモード電圧を360度で示した図である。
【
図21】
図20において三つの位相領域の幅を示した図である。
【
図22】
図18の場合の正規化した線間電圧を示した図である。
【
図23】本発明の制御装置が実行する補正制御A(実施例1)を説明する図である。
【
図24】
図23の補正制御Aによる補正後の各相のパルス幅指令値を説明する図である(変調率指令値kHset=0.9)。
【
図25】
図23の補正制御Aを説明する正規化したパルス幅指令値を示す図である。
【
図26】
図25の場合のパルス幅指令値の補正値を示す図である。
【
図27】
図23の場合の相電圧とコモンモード電圧を360度で示した図である。
【
図28】
図23の場合の正規化した線間電圧を示した図である。
【
図29】本発明の制御装置が実行する補正制御Aを実行した場合の変調率指令値kHsetと、出力される変調率kHoutの関係を示す図である。
【
図30】
図23の補正制御A(実施例1)で位相領域M3において幅広いパルス幅となったときの正規化した線間電圧を示した図である。
【
図31】補正制御Aで位相領域M1、M2、M3においてPWMパルスを出力する場合の補正後の正規化した各相のパルス幅指令値を説明する図である。
【
図32】
図31の場合の相電圧とコモンモード電圧を360度で示した図である。
【
図33】本発明の制御装置が実行する補正制御B(実施例2)を説明する相電圧とコモンモード電圧を360度で示した図である(変調率指令値kHset=0.9)。
【
図34】
図33の場合の正規化した線間電圧を示した図である。
【
図35】
図33の場合の一キャリア周期の相電圧等を示した図である。
【
図36】実施例1、実施例2の補正制御A、Bで変調率指令値kHset=1.4の場合の正規化した線間電圧を示す図である。
【
図37】本発明の制御装置が実行する部分キャンセル制御(実施例3)を説明する相電圧とコモンモード電圧を360度で示した図である(変調率指令値kHset=0.8)。
【
図38】
図37の場合の正規化した線間電圧を示した図である。
【
図39】本発明の制御装置が実行する補正制御C(実施例4)を説明する相電圧とコモンモード電圧を360度で示した図である(変調率指令値kHset=0.58)。
【
図40】
図39の場合の正規化した線間電圧を示した図である。
【
図41】
図39の補正制御Cを説明する正規化したパルス幅指令値を示す図である
【
図42】
図41の場合のパルス幅指令値の補正値を示す図である。
【
図43】
図39の場合の変調率指令値kHsetと、出力される変調率kHoutの関係を示す図である。
【
図44】本発明の制御装置が実行する補正制御D(実施例5)を説明する相電圧とコモンモード電圧を360度で示した図である(変調率指令値kHset=0.58)。
【
図45】
図44の場合の正規化した線間電圧を示した図である。
【
図46】
図44の補正制御Dを説明する正規化したパルス幅指令値を示す図である
【
図47】
図46の場合のパルス幅指令値の補正値を示す図である。
【
図48】
図44の場合の変調率指令値kHsetと、出力される変調率kHoutの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて詳細に説明する。先ず、
図2を参照しながら本発明のインバータ装置1を一体に備えた実施例の電動コンプレッサ(所謂インバータ一体型電動コンプレッサ)16について説明する。尚、実施例の電動コンプレッサ16は、エンジン駆動自動車やハイブリッド自動車、電気自動車等の車両に搭載される車両用空気調和装置の冷媒回路の一部を構成するものである。
【0033】
(1)電動コンプレッサ16の構成
図2において、電動コンプレッサ16の金属性の筒状ハウジング2内は、当該ハウジング2の軸方向に交差する仕切壁3により圧縮機構収容部4とインバータ収容部6とに区画されており、圧縮機構収容部4内に例えばスクロール型の圧縮機構7と、この圧縮機構7を駆動するモータ8が収容されている。この場合、ハウジング2は車両のシャシー(接地)に導通されている。また、モータ8はハウジング2に固定されたステータ9と、このステータ9の内側で回転するロータ11から成るIPMSM(Interior Permanent Magnet Synchronous Motor)である。
【0034】
仕切壁3の圧縮機構収容部4側の中心部には軸受部12が形成されており、ロータ11の駆動軸13の一端はこの軸受部12に支持され、駆動軸13の他端は圧縮機構7に連結されている。ハウジング2の圧縮機構収容部4に対応する位置の仕切壁3近傍には吸入口14が形成されており、モータ8のロータ11(駆動軸13)が回転して圧縮機構7が駆動されると、この吸入口14からハウジング2の圧縮機構収容部4内に作動流体である低温の冷媒が流入し、圧縮機構7に吸引されて圧縮される。
【0035】
そして、この圧縮機構7で圧縮され、高温・高圧となった冷媒は、図示しない吐出口よりハウジング2外の前記冷媒回路に吐出される構成とされている。また、吸入口14から流入した低温の冷媒は、仕切壁3近傍を通ってモータ8の周囲を通過し、圧縮機構7に吸引されることから、仕切壁3も冷却されることになる。
【0036】
そして、この仕切壁3で圧縮機構収容部4と区画されたインバータ収容部6内には、モータ8を駆動制御する本発明のインバータ装置1が収容される。この場合、インバータ装置1は、仕切壁3を貫通する密封端子やリード線を介してモータ8に給電する構成とされている。
【0037】
(2)インバータ装置1の構造(スイッチング素子18A~18Fの配置)
実施例の場合、インバータ装置1は、基板17と、この基板17の一面側に配線された上アームスイッチング素子18A、18B、18Cと、下アームスイッチング素子18D、18E、18Fの計6個のスイッチング素子と、基板17の他面側に配線された制御装置21と、図示しないHVコネクタ、LVコネクタ等から構成されている。各上下アームスイッチング素子18A~18Fは、実施例ではMOS構造をゲート部に組み込んだ絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)等から構成されている。
【0038】
この場合、実施例では後述する三相のインバータ回路28のU相インバータ19Uの上アームスイッチング素子18Aと下アームスイッチング素子18D、V相インバータ19Vの上アームスイッチング素子18Bと下アームスイッチング素子18E、W相インバータ19Wの上アームスイッチング素子18Cと下アームスイッチング素子18Fは二つずつそれぞれ並んだかたちで配置されている。
【0039】
また、各スイッチング素子18A~18Fの端子部22は、基板17の中心側となった状態で基板17に接続されている。そして、このように組み立てられたインバータ装置1は、各スイッチング素子18A~18Fがある一面側が仕切壁3側となった状態でインバータ収容部6内に収容されて仕切壁3に取り付けられ、カバー23にて塞がれる。この場合、基板17は仕切壁3から起立するボス部24を介して仕切壁3に固定されることになる。
【0040】
このようにインバータ装置1が仕切壁3に取り付けられた状態で、各スイッチング素子18A~18Fは仕切壁3に直接若しくは所定の絶縁熱伝導材を介して密着し、ハウジング2の仕切壁3と熱交換関係となる。そして、前述した如く仕切壁3は圧縮機構収容部4内に吸入される冷媒によって冷やされているので、各スイッチング素子18A~18Fは仕切壁3を介して吸入冷媒と熱交換関係となり、仕切壁3の厚みを介して圧縮機構収容部4内に吸入された冷媒によって冷却され、各スイッチング素子18A~18F自体は仕切壁3を介して冷媒に放熱するかたちとなる。
【0041】
(3)インバータ装置1の回路構成
次に、
図1においてインバータ装置1は、前述した三相のインバータ回路28と、制御装置21を備えている。インバータ回路28は、直流電源(車両のバッテリ:例えば、DC350V)29の直流電圧Vdcを三相交流電圧(三相交流出力)に変換してモータ8に印加する回路である。このインバータ回路28は、U相ハーフブリッジ回路19U、V相ハーフブリッジ回路19V、W相ハーフブリッジ回路19Wを有しており、各相ハーフブリッジ回路19U~19Wは、それぞれ上アームスイッチング素子18A~18Cと、下アームスイッチング素子18D~18Fを個別に有している。更に、各スイッチング素子18A~18Fには、それぞれフライホイールダイオード31が逆並列に接続されている。
【0042】
そして、インバータ回路28の上アームスイッチング素子18A~18Cの上端側は、直流電源29及び平滑コンデンサ32の上アーム電源ライン(正極側母線)10に接続されている。一方、インバータ回路28の下アームスイッチング素子18D~18Fの下端側は、直流電源29及び平滑コンデンサ32の下アーム電源ライン(負極側母線)15に接続されている。これにより、上アーム電源ライン10の電圧は+Vdc/2、下アーム電源ライン15の電圧は-Vdc/2となり、上アーム電源ライン10と下アーム電源ライン15間の電圧は直流リンク電圧Vdcとなる。
【0043】
この場合、U相ハーフブリッジ回路19Uの上アームスイッチング素子18Aと下アームスイッチング素子18Dが直列に接続され、V相ハーフブリッジ回路19Vの上アームスイッチング素子18Bと下アームスイッチング素子18Eが直列に接続され、W相ハーフブリッジ回路19Wの上アームスイッチング素子18Cと下アームスイッチング素子18Fが直列に接続されている。
【0044】
そして、U相ハーフブリッジ回路19Uの上アームスイッチング素子18Aと下アームスイッチング素子18Dの接続点(U相電圧Vu)は、モータ8のU相の電機子コイル41に接続され、V相ハーフブリッジ回路19Vの上アームスイッチング素子18Bと下アームスイッチング素子18Eの接続点(V相電圧Vv)は、モータ8のV相の電機子コイル42に接続され、W相ハーフブリッジ回路19Wの上アームスイッチング素子18Cと下アームスイッチング素子18Fの接続点(W相電圧Vw)は、モータ8のW相の電機子コイル43に接続されている。
【0045】
(4)インバータ装置1のモータの制御ブロック図
次に、
図3はインバータ装置1のモータ8の制御に関するブロック図を示している。インバータ装置1の制御装置21は、プロセッサを有するマイクロコンピュータから構成されており、実施例では車両ECUから回転数指令値を入力し、モータ8からモータ電流(相電流)を入力して、これらに基づき、インバータ回路28の各スイッチング素子18A~18FのON/OFF状態(スイッチング)を制御する。具体的には、各スイッチング素子18A~18Fのゲート端子に印加するゲート電圧を制御する。
【0046】
制御装置21は、モータ8の電気角速度推定値ω(ハット)と電気角速度指令値ω*との偏差に基づき、d軸電圧指令値Vd*、q軸電圧指令値Vq*を生成し、これらd軸電圧指令値Vd*、q軸電圧指令値Vq*から最終的にインバータ回路28の各スイッチング素子18A~18FをスイッチングするためのPWM信号を生成し、モータ8を位置センサレスベクトル制御にて駆動するものである。
【0047】
実施例の制御装置21は、減算部46~48と、加算部49と、速度制御器51と、最大トルク電流制御器52と、電流制御器53と、非干渉化制御器54と、制御部30と、uvw-dq変換器56と、位相差導出器57と、積分器58と、位相同期回路(或いは、制御器)59の各機能から構成されている。
【0048】
実施例のuvw-dq変換器56には、モータ8のU相電流iu、V相電流iv、W相電流iw(実施例では何れも推定値ハット。若しくは、図示しないカレントトランスにより検出される)が入力される。uvw-dq変換器56には更に積分器58が出力するモータ電気角θreが入力され、U相電流iu、V相電流iv、W相電流iwと、モータ電気角θreからd軸電流推定値id(ハット)と、q軸電流推定値iq(ハット)を導出する。
【0049】
位相差導出器57はuvw-dq変換器56が出力するd軸電流推定値id(ハット)、q軸電流推定値iq(ハット)と、加算器49からのd軸電圧指令値Vd*とq軸電圧指令値Vq*から位相差Δθを導出し、出力する。この位相差Δθは減算器48、位相同期回路59を経て電気角速度推定値ω(ハット)とされ、出力される。積分器58には実施例ではこの電気角速度推定値ω(ハット)が入力され、積分器58は電気角速度推定値ω(ハット)から電気角推定値θre(ハット)を生成して出力する。
【0050】
位相同期回路59が出力する電気角速度推定値ω(ハット)は減算部46に入力される。この減算部46には更に電気角速度指令値ω*が入力され、この減算部46において電気角速度指令値ω*から電気角速度推定値ω(ハット)が減算されてそれらの偏差が算出される。
【0051】
減算部46で算出された偏差は速度制御器51に入力される。この速度制御器51はPI演算及びq軸電流とトルクの関係式によりトルク指令値τ*を算出し、出力する。最大トルク電流制御器52はこのトルク指令値τ*からd軸電流指令値id
*とq軸電流指令値iq
*を生成し、出力する。このd軸電流指令値id
*とq軸電流指令値iq
*は、非干渉化制御器54にてdq軸間の干渉が打ち消された後、加算器49に入力される。電流制御器53には、減算部47で生成されたd軸電流指令値id
*、q軸電流指令値iq
*と、d軸電流推定値id(ハット)、q軸電流推定値iq(ハット)の偏差が入力される。そして、加算器49で電流制御器53と非干渉化制御器54の出力が加算され、d軸電圧指令値Vd*とq軸電圧指令値Vq*が生成されて制御部30に入力される。
【0052】
(5)制御装置21の制御部30
次に、
図1に戻って制御装置21の制御部30について説明する。実施例の制御部30は、相電圧指令演算部33と、パルス幅指令演算部34と、PWM信号生成部36と、ゲートドライバ37を有している。
【0053】
(5-1)相電圧指令演算部33
制御部30の相電圧指令演算部33は、d軸電圧指令値Vd*、q軸電圧指令値Vq*等に基づくベクトル制御により、モータ8の各相の電機子コイル41~43に印加するU相電圧Vu、V相電圧Vv、及び、W相電圧Vwを生成するための三相変調の相電圧指令値Vu*(以下、U相電圧指令値Vu*)、Vv*(以下、V相電圧指令値Vv*)、Vw*(以下、W相電圧指令値Vw*)を演算し、出力する。この場合、相電圧指令演算部33は、加算部49から得られるd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*により、下記数式(I)を用いて各相電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*を算出する。尚、数式(I)中のθreは積分器58から入力されるモータ電気角である。これらの相電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*は、モータ8の三相変調制御を行う場合における電圧指令値である。
【0054】
【0055】
(5-2)パルス幅指令演算部34
パルス幅指令演算部34は、相電圧指令演算部33により演算され、出力された各相電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*から、下記数式(II)を用いて、0~1で正規化された各相のパルス幅指令値Cu(以下、U相パルス幅指令値)、Cv(以下、V相パルス幅指令値)、Cw(以下、W相パルス幅指令値)を演算し、出力する。尚、数式(II)中のvmodは三相共通の所定の加算値、Cmu、Cmv、Cmwは同位相において三相のうちの少なくとも二相で異なる所定の加算値であり、これらは特に使用しない場合は各加算値vmod=0、Cmu=0、Cmv=0、Cmw=0となる。
【0056】
【0057】
(5-3)PWM信号生成部36
PWM信号生成部36は、パルス幅指令演算部34により演算され、算出された各相のパルス幅指令値Cu、Cv、Cwに基づき、キャリア信号(実施例では
図4の鋸波キャリアX1)との大小を比較することによって、インバータ回路28のU相インバータ19U、V相インバータ19V、W相インバータ19WをPWM制御するための駆動指令信号となるPWM信号を生成し、出力する。
【0058】
この場合、PWM信号生成部36は、下記数式(III)を用いて、各相の上アーム立ち上げ指令値(Cuu、Cvu、Cwu)、及び、上アーム立ち下げ指令値(Cud、Cvd、Cwd)を演算し、出力する。この場合、CuuはU相上アーム立ち上げ指令値、CudはU相上アーム立ち下げ指令値、CvuはV相上アーム立ち上げ指令値、CvdはV相上アーム立ち下げ指令値、CwuはW相上アーム立ち上げ指令値、CwdはW相上アーム立ち下げ指令値であり、何れも上述したPWM信号である。尚、数式(III)中のCAはキャリアカウント(鋸波キャリアX1)のピーク値である。
【0059】
【0060】
(5-4)ゲートドライバ37
ゲートドライバ37は、PWM信号生成部36から出力されるPWM信号(各相の上アーム立ち上げ指令値及び上アーム立ち下げ指令値)Cuu、Cud、Cvu、Cvd、Cwu、Cwdに基づき、各相の上アームゲート電圧(Vup、Vvp、Vwp)、及び、下アームゲート電圧(Vun、Vvn、Vwn)を生成し、出力する。この場合、Vup及びVunは、それぞれU相インバータ19Uの上アームスイッチング素子18A及び下アームスイッチング素子18Dのゲート電圧、Vvp及びVvnは、それぞれV相インバータ19Vの上アームスイッチング素子18B及び下アームスイッチング素子18Eのゲート電圧、Vwp及びVwnは、それぞれW相インバータ19Wの上アームスイッチング素子18C及び下アームスイッチング素子18Fのゲート電圧である。
【0061】
そして、インバータ回路28の各スイッチング素子18A~18Fは、ゲートドライバ37から出力される各ゲート電圧に基づき、ON/OFF駆動される。即ち、ゲート電圧がON状態(所定の電圧値)となるとスイッチング素子がON動作し、ゲート電圧がOFF状態(零)となるとスイッチング素子がOFF動作する。このゲートドライバ37は、スイッチング素子18A~18Fが前述したIGBTである場合には、PWM信号に基づいてゲート電圧をIGBTに印加するための回路であり、フォトカプラやロジックIC、トランジスタ等から構成される。
【0062】
(5-5)制御装置21の出力ポート
ここで、制御装置21はU相の上アームスイッチング素子用の出力ポート44A、U相の下アームスイッチング素子用の出力ポート44D、V相の上アームスイッチング素子用の出力ポート44B、V相の下アームスイッチング素子用の出力ポート44E、W相の上アームスイッチング素子用の出力ポート44C、W相の下アームスイッチング素子用の出力ポート44Fを有しており、ゲートドライバ37が出力するゲート電圧Vupは出力ポート44Aから出力され、ゲート電圧Vunは出力ポート44Dから出力される。また、ゲート電圧Vvpは出力ポート44Bから出力され、ゲート電圧Vvnは出力ポート44Eから出力され、ゲート電圧Vwpは出力ポート44Cから出力され、ゲート電圧Vwnは出力ポート44Fから出力される。
【0063】
また、実施例の制御装置21は、全ての上アームスイッチング素子用の出力ポート44A、44B、44Cから出力されるゲート電圧Vup、Vvp、VwpをON状態、又は、OFF状態としてスイッチングの規定区間を開始する構成とされている。従って、各相の上アームスイッチング素子18A、18B、18Cの各ゲートが出力ポート44A、44B、44Cにそれぞれ接続され、下アームスイッチング素子18D、18E、18Fの各ゲートが出力ポート44D、44E、44Fにそれぞれ接続された場合には、全ての上アームスイッチング素子18A、18B、18CがON、又は、全ての下アームスイッチング素子18D、18E、18FがONした状態からスイッチングの規定区間が開始されることになる。
【0064】
その場合の一キャリア周期における各相の上アーム立ち上げ指令値Cuu、Cvu、Cwu、上アーム立ち下げ指令値Cud、Cvd、Cwd、鋸波キャリアX1、ゲート電圧Vup、Vun、Vvp、Vvn、Vwp、Vwn、各相電圧Vu、Vv、Vw、及び、モータ8のコモンモード電圧Vcmの関係を
図4に示す。
図4に示すようにU相上アーム立ち上げ指令値Cuu、上アーム立ち下げ指令値Cudが決まれば、U相の上アームスイッチング素子18Aのゲート電圧Vup、下アームスイッチング素子18Dのゲート電圧Vunの動作タイミングが決まる。V相、W相についても同様である。尚、各相の上アーム立ち上げ指令値Cuu、Cvu、Cwuは、厳密には各相の上アーム立ち上げの前に上下アームの同時立ち上げ状態を防ぐためのデッドタイムを入れた下アーム立ち下げ指令値であるが、上アーム立ち下げ指令値(Cud、Cvd、Cwd)と合わせて分かりやすいように、上アーム立ち上げ指令値として記載している。
【0065】
また、実際にモータ8に印加される電圧の変化タイミングは、モータ8に流れる電流の向きによって決まり、モータ8に流れ込む方向の場合には、上アームスイッチング素子のスイッチング時にモータ8に印加される電圧が決まり、モータ8から流れ出る方向の場合には、下アームスイッチング素子のスイッチング時にモータ8に印加される電圧が決まる。
図4の場合、U相とV相はモータ8から流れ出る方向、W相はモータ8に流れ込む方向に電流が流れている場合を示している。また、
図4の場合、モータ8のコモンモード電圧Vcmは4レベルで変動していることが分かる。
【0066】
後述するキャンセル制御では、相電圧Vu、Vv、Vwのタイミングを調整することでコモンモード電圧Vcmの変動をキャンセルする動作を実現するものであるが、そのために、電流の向きにより上アーム立ち上げ指令値Cuu、Cvu、Cwu、上アーム立ち下げ指令値Cud、Cvd、Cwdのタイミングを微調整する。
【0067】
尚、実施例では鋸波キャリアX1を使用しているが、キャリア波形形状が異なる場合でも、一キャリア周期中の任意のタイミングで立ち上げ、立ち下げが可能なコントローラを用いた場合には実現可能である。
【0068】
(5-6)本発明の実施例における出力ポートとゲートの接続
通常の使用方法では各上下アームスイッチング素子18A~18Fのゲートは上述のように各出力ポート44A~44Fに接続するものであるが、本発明の実施例では
図1に示す如く、U相の上アームスイッチング素子18Aのゲートを制御装置21の出力ポート44Dに接続し、下アームスイッチング素子18Dのゲートを出力ポート44Aに接続している。V相とW相は変えていない。即ち、U相の上下アームスイッチング素子18A、18Dのみ逆の出力ポート44D、44Aに接続している。また、上記のようにU相の上下アームスイッチング素子18A、18Dのゲートを制御装置21の出力ポート44D、44Aに逆に接続しているため、PWM信号生成部36いて得たCudとCuuをゲートドライバ37に渡す際には、Cudをゲートドライバ37のCuuを格納するためのレジスタに出力し、Cuuはゲートドライバ37のCudを格納するためのレジスタに出力する。
【0069】
(5-7)相電圧Vu、Vv、Vw
そして、U相ハーフブリッジ回路19Uの上アームスイッチング素子18Aと下アームスイッチング素子18Dの接続点の電圧がU相電圧Vu(相電圧)としてモータ8のU相の電機子コイル41に印加(出力)され、V相ハーフブリッジ回路19Vの上アームスイッチング素子18Bと下アームスイッチング素子18Eの接続点の電圧がV相電圧Vv(相電圧)としてモータ8のV相の電機子コイル42に印加(出力)され、W相ハーフブリッジ回路19Wの上アームスイッチング素子18Cと下アームスイッチング素子18Fの接続点の電圧がW相電圧Vw(相電圧)としてモータ8のW相の電機子コイル43に印加(出力)される。
【0070】
(5-8)変調率指令値kHsetと電圧位相θm
ここで、前記の通り変調率を、出力される相電圧ピーク値と入力電圧振幅の比率としているため、変調率指令値kHsetと、電圧位相θmを下記数式(IV)のように定義する。即ち、変調率指令値kHsetと電圧位相θmは相電圧指令演算部33がd軸電圧指令値Vd*、q軸電圧指令値Vq*に基づいて相電圧指令演算部33が設定することになる。また、ここではベクトル制御を実施例としたため、d軸電圧指令値Vd*、q軸電圧指令値Vq*に基づいて変調率指令値kHsetと電圧位相θmの指令値を生成したが、如何なるモータ制御方法であっても、指令電圧ピーク値と電圧位相θmの指令値は生成することになるため、ベクトル制御以外にも適用が可能である。
【0071】
【0072】
図4のU相電圧Vuに着目すると、U相電圧指令値Vu
*は+Vdc/3程度である。一キャリア周期中に+Vdc/3を出力するためには、
図4のように、相電圧Vuが立ち上がっている時間(ONパルス時間)を長時間保持する必要がある。このように、規定区間(一キャリア周期中)に相電圧が立ち上がっている(ONしている)割合によって出力電圧を定める方法がPWMである。規定区間内で常に立ち上がっている(ON)場合には、出力電圧は+Vdc/2になる。規定区間内で常に立ち下がっている(OFF)場合には、出力電圧は-Vdc/2になる。即ち、出力できる最大出力電圧は、-Vdc/2~+Vdc/2になる。
【0073】
前述した如く本願では変調率を相電圧のピーク値としている。その意味は、変調率指令値kHsetが1の場合、UVW各相の相電圧のピーク値がPWMで出力できる最大出力電圧である-Vdc/2~+Vdc/2になるということである。
【0074】
(6)相電圧指令演算部33とパルス幅変調部34の動作
次に、
図5~
図12を参照しながら実施例の相電圧指令演算部33とパルス幅変調部34の動作について説明する。
(6-1)変調率指令値kHset=0.5の過変調でない場合
図5~
図8は相電圧指令演算部33が設定する変調率指令値kHsetが0.5で過変調ではない場合を示している。
図5の上側は相電圧指令演算部33が出力する変調率指令値kHset=0.5のときのU相電圧指令値Vu
*、V相電圧指令値Vv
*、W相電圧指令値Vw
*を360度で示し、下側はそれに基づいてパルス幅指令演算部34が出力するU相パルス幅指令値Cu、V相パルス幅指令値Cv、W相パルス幅指令値Cwを示している。
【0075】
ここで、各図の横軸は電気角の位相を示しており、本願に記載の位相は、特筆しない限り電気角の位相を示す。また、電気角位相は360度で一回転となり、これを電気角一周期と称する。
【0076】
また、
図6はその場合のU相電圧Vu、V相電圧Vv、W相電圧Vwとモータ8のコモンモード電圧Vcmを360度で示し、
図7はその場合の一キャリア周期における各相の上アーム立ち上げ指令値Cuu、Cvu、Cwu、上アーム立ち下げ指令値Cud、Cvd、Cwd、鋸波キャリアX1、各相電圧Vu、Vv、Vw、及び、コモンモード電圧Vcmの関係を示し、
図8はその場合の線間電圧を積算し、正規化したものを(ルート3)で割った値Vn
u-v、Vn
v-w、Vn
w-uを示した図である。
【0077】
ここで、数式(II)において所定の値VmodとしてUVW各相に対して同じ値を加算する線間変調や、数式(II)において所定の値Cmu、Cmv、Vmwにて同位相において三相のうちの少なくとも二相で異なる値を加算する過変調を考慮した場合、相印加電圧指令値と、PWMにより実際に出力される相印加電圧には差異が現れる。そのため、実際にモータ8に出力される相電圧は、単に相印加電圧を考慮するだけでは前記の差異を正しく考慮することができない。そのため、出力される相電圧ピーク値を求める場合には、三相印加電圧によるモータ中性点電圧からの相印加電圧を用いるか、線間電圧を用いる必要がある。ここでは、線間電圧を利用する。また、PWMにより出力される線間電圧の実効値を正しく求めるために、積分を用いて評価する。そのため、ここでは、例えば、U相-V相間の線間電圧Vu-vの積分結果は、下記数式(V)により得られる。尚、任意の位相からの定積分を行うため、積分定数Cu-vを用いている。
【0078】
【0079】
実際にはU相電圧Vuは、-Vdc/2、+Vdc/2をPWMにより印加することになるが、
図6に示す電気角一周期分のPWM波形図では、相電圧は-1、+1で正規化している。このことから、入力電圧で正規化した線間電圧積分値VH
u-vは下記数式(VI)のように表現できる。
【0080】
【0081】
数式(VI)では線間電圧積分値を求めているが、先述の通り変調率は、出力される相電圧ピーク値と入力電圧振幅の比率で与えているため、線間電圧値から相電圧値に変換するために、振幅を(ルート3)で除算することになる。この(ルート3)で除算した結果得られる、相出力電圧振幅値に正規化した線間電圧積分値(正規化した線間電圧と称する)をVnu-vとすると、下記数式(VII)のようになる。
【0082】
【0083】
その結果が
図8になる。この図から明らかな如く、Vn
u-vの振幅の最大値は設定した変調率指令値kHset=0.5と等しくなる。V相-W相、W相-U相間の正規化した線間電圧Vn
v-wとVn
w-uについても数式(VIII)に示す。
【0084】
【0085】
(6-2)変調率指令値kHset=1.4の過変調の場合
次に、
図9~
図12は相電圧指令演算部33が設定する変調率指令値kHsetが1.4で過変調の場合を示す。ここで、三相変調方式ではkHset>1の領域は過変調領域となる。
図9の上側は相電圧指令演算部33が出力する変調率指令値kHset=1.4のときのU相電圧指令値Vu
*、V相電圧指令値Vv
*、W相電圧指令値Vw
*を360度で示し、下側はそれに基づいてパルス幅指令演算部34が出力するU相パルス幅指令値Cu、V相パルス幅指令値Cv、W相パルス幅指令値Cwを示している。
【0086】
また、
図10はその場合のU相電圧Vu、V相電圧Vv、W相電圧Vwとモータ8のコモンモード電圧Vcmを360度で示し、
図11はその場合の正規化した線間電圧Vn
u-v、Vn
v-w、Vn
w-uを示し、
図12は三相変調の場合の変調率指令値kHsetと、出力される変調率kHoutの関係を示した図である。相電圧指令値が大き過ぎると、出力パルス幅は-1、+1が最大なので、パルス幅指令値は制限される。三相変調の場合、変調率1を超えるとパルス幅制限が発生するが、その例を
図9、
図10中に破線で囲って示す。
【0087】
変調率指令値kHset=1.4で出力した場合、
図10に示すPWMは0度~50度程度までU相パルス幅指令値Cuは1であるため、最大パルス幅が出力され、U相は上アームスイッチング素子18AがONを保つ。20度~110度程度まではW相パルス幅指令値Cwが0であるため、最小パルス幅が出力され、W相は下アームスイッチング素子18FがONを保つ。
【0088】
正規化した線間電圧Vn
u-v、Vn
v-w、Vn
w-uは、
図11のようになる。
図10から明らかな如く、スイッチングを停止している領域が広くある。これは
図9中のパルス幅指令値Cu、Cv、Cwからも分かる。また、変調率指令値kHset=1.4を与えているが、正規化した線間電圧Vn
u-v、Vn
v-w、Vn
w-uはの振幅は、
図11のように1.2以下になっている。即ち、過変調領域になると変調率指令値kHsetと正規化した線間電圧の振幅は等しくなくなる。
【0089】
ここで、変調率指令値kHsetと、出力される変調率kHoutとの関係を
図12に示す。
図12に示すように、変調率指令値kHsetが1以下の場合には、kHset=kHoutの関係が成立するが、変調率指令値kHsetが1を超えると、その関係が成立しなくなる。この場合、出力される変調率kHoutは、正規化した線間電圧の電気角回転数1次成分の振幅値となる。変調率指令値kHsetが1以下の場合には、正規化した線間電圧は正弦波であったため、電気角回転数1次成分と明示しなくても振幅値を取るだけでよいが、変調率指令値kHsetが1を超えると、正規化した線間電圧は正弦波から崩れたかたちになるため、振幅値をとるだけでは出力される変調率kHoutを求められず、フーリエ変換して1次成分を得る必要がある。
【0090】
上記のように過変調領域では変調率指令値kHsetの通りの変調率kHoutが出力されないため、制御に矛盾が生じて制御性が悪化する。そのため、通常の三相変調方式では、過変調時には
図12の関係を用いて実際に出力したい変調率kHoutが得られる変調率設定値kHsetを求め、求めた比率(kHset/kHout)をd軸電圧指令値Vd
*、q軸電圧指令値Vq
*に乗算することで、過変調時の相電圧指令値と実際に出力される電圧の大きさの誤差を抑制する過変調制御を実施する。例えば、変調率指令値kHout=1.2としたい場合、kHset=1.8となるようにd軸電圧指令値Vd
*、q軸電圧指令値Vq
*を修正する。これは、ベクトル制御でない場合でも、指令電圧ピーク値の大きさに(kHset/kHout)を乗算し、補正することで、同様の補正が可能である。
【0091】
(7)PWM信号生成部36(補正制御部)の動作
次に、
図13~
図49を参照しながら実施例のPWM信号生成部36の動作について説明する。
(7-1)キャンセル制御
先ず、
図13~
図22を参照して実施例のPWM信号生成部36が実行するキャンセル制御を説明する。
(7-1-1)変調率指令値kHset=0.5の過変調でない場合
図13は変調率指令値kHset=0.5の過変調でない場合におけるキャンセル制御(完全抑制型)での各相のパルス幅指令値を説明する図、
図14、
図15はこの場合の一キャリア周期の相電圧等を示した図、
図16はこの場合の相電圧とコモンモード電圧を360度で示した図、
図17はこの場合の線間電圧を示した図である。
【0092】
前述した如く、U相の上下アームスイッチング素子18A、18Dのみ制御装置21の出力ポート44D、44Aに逆に接続しているので、
図14の実施例ではU相の上アームスイッチング素子18AがONし、V相とW相の下アームスイッチング素子18E、18FがONした状態からスイッチングの規定区間が開始される(尚、その逆で、U相の下アームスイッチング素子18DがONし、V相とW相の上アームスイッチング素子18B、18CがONした状態からスイッチングの規定区間が開始されてもよい)。そして、実施例ではU相上アーム立ち下げ指令値CudとV相上アーム立ち上げ指令値Cvuを一致させてそれらをC
1bとし、V相上アーム立ち下げ指令値CvdとW相上アーム立ち上げ指令値Cwuを一致させてそれらをC
2bとし、W相上アーム立ち下げ指令値CwdとU相上アーム立ち上げ指令値Cuuを一致させてそれらをC
3bとする。これらC
1b、C
2b、C
3bは下記数式(IX)から得られる。
【0093】
【0094】
ここで、C
min-bは出力可能な最小パルス幅である。そして、C
1b、C
2b、C
3bを下記数式(X)により0~1に正規化したものが
図13に示すC
1、C
2、C
3である。
【0095】
【0096】
上記各値の関係は、Cmin≦C1≦C2≦C3≦1-Cminである。ここで、Cminは正規化した出力可能な最小パルス幅を示しており、C1、C2、C3はこの最小パルス幅Cminを考慮して与える必要がある。Cmin=0の場合、変調率が2/3以下では、C1、C2、C3は上記の関係を保つことができる。
【0097】
そして、
図14に示すようにU相電圧Vuの立ち下がりタイミングとV相電圧Vvの立ち上がりタイミングが同期し、V相電圧Vvの立ち下がりタイミングとW相電圧Vwの立ち上がりタイミングが同期し、W相電圧Vwの立ち下がりタイミングとU相電圧Vuの立ち上がりタイミングが同期することにより、コモンモード電圧Vcmの変動は完全に抑制され、コモンモードノイズがキャンセルされる(完全抑制型)。また、パルス幅指令値Cu、Cv、Cwは
図15に示すようにPWMがONになっている幅を示しており、キャンセル制御中はUVW相の何れか一つの相がONになっている。即ち、一つの相がONになっている三つの時間の合計Cu+Cv+Cwが1となる。尚、規定区間のスイッチングの開始が本実施例とは逆の場合には、UVW相の何れか一つの相がOFFになるようにPWMを動作させることになる。即ち、一つの相がOFFになっている三つの時間の合計Cu+Cv+Cwが1となる。
【0098】
変調率指令値kHset=0.5の過変調でない領域では、
図16に示すように三相のパルス幅がすべて狙い通りに出されており、正規化した線間電圧Vn
u-v、Vn
v-w、Vn
w-uも
図17に示すように正弦波となる。このように、変調率指令値kHsetが小さいときには、正規化した線間電圧Vn
u-v、Vn
v-w、Vn
w-uは狙い通りの正弦波で出力される。
【0099】
(7-1-2)変調率指令値kHset=0.9の過変調領域の場合
次に、
図18は変調率指令値kHset=0.9の過変調領域の場合におけるキャンセル制御(完全抑制型)での各相のパルス幅指令値を説明する図、
図19はこの場合の一キャリア周期の相電圧等を示した図、
図20、
図21はこの場合の相電圧とコモンモード電圧を360度で示した図、
図22はこの場合の線間電圧を示した図である。
【0100】
変調率が2/3以上となると、過変調となり、
図18に示すように300度付近でC
1とC
2が重なり、更に、そこから120度ずれた60度付近ではC
2とC
3が重なり、更に、300度から240度ずれた180度付近ではC
3とC
minが重なる。即ち、300度付近と、そこから120度、及び、240度ずれた60度付近、及び、180度付近の計三つの位相領域でC
min、C
1、C
2、C
3、1-C
minが重なるようになる(
図18はkHset=0.9)。即ち、前述したC
min≦C
1≦C
2≦C
3≦1-C
minの関係が崩れてしまい、キャンセル制御を実現できず、狙い通りのパルス幅を出力できないため、正規化した線間電圧が正弦波にならない位相領域がでてくる。
図18における係る位相領域300度付近をM1、60度付近をM2、180度付近をM3とする。また、
図21に示す如く位相領域M1の幅(位相の角度)をW1、位相領域M2の幅をW2、位相領域M3の幅をW3とする。
【0101】
ここで、過変調の定義は線間電圧(線間電圧積分値)を正弦波で出力できるか否かであり、正弦波で出力できる場合は過変調ではなく、正弦波で出力できない場合には過変調であると云える。そのため、完全抑制型のキャンセル制御を行う場合には、変調率が2/3以上の場合には線間電圧が正弦波でなくなり、過変調となる。尚、この過変調での制限による補正は、数式(II)にてVu*、Vv*、Vw*に対してCmu、Cmv、Cmwにより三相で異なる値の補正を行うことで演算を表現できる。
【0102】
図20に示すように、位相領域M1ではC
1とC
2が同時に動作するため、V相のスイッチングがなくなり、U相とW相が同時スイッチングになる。位相領域M2ではC
2とC
3が同時に動作するため、W相のスイッチングがなくなり、U相とV相が同時スイッチングになる。位相領域M3ではC
1とC
3が略同時に動作する。そのため、U相電圧Vuは最小パルス幅で出力され、V相電圧VvとW相電圧Vwのスイッチングがそれぞれ同期して動作する。実施例では鋸波キャリアに限定して考えているため、U相電圧Vuは最小パルス幅が出力されることになる(尚、実施例のようなキャリア比較型PWMではない場合は、C
1とC
3を同時に動作させることができ、U相電圧Vuの最小パルス幅出力は不要となり、M1、M2と同様にU相電圧Vuのスイッチングを停止できる)。
【0103】
図18の位相領域M1ではC
1とC
2が逆転しているので、C
2を先に出力することになるが、出力できない。なぜならば、C
2ではV相の立ち下げ指令を出しているが、V相はC
1により立ち上げ動作が行われるためである。これを解決するために位相領域M1、M2、M3で指令値を以下のように平等に補正し、C
1、C
2、C
3の重なりを無くすことを考える。
【0104】
図18の位相領域M1、M2、M3で補正が必要な超過量(正規化したパルス幅の重なっている高さ。)をそれぞれm
1、m
2、m
3とすると、位相領域M1ではm
1=C
1-C
2、位相領域M2ではm
2=C
2-C
3、位相領域M3ではm
3=C
1-C
minとなる。そして、補正後のC
1をC
1’、補正後のC
2をC
2’とすると、位相領域M1ではC
1’=C
1-m
1/2、C
2’=C
2+m
1/2、位相領域M2ではC
2’=C
2-m
2、位相領域M3ではC
1’=C
1-m
3とすることで、各位相領域M1~M3における重なり(
図18でハッチングで示す重なった部分の面積)は解消されることになる。
【0105】
しかしながら、上記のように平等に補正した場合、位相領域M1ではU相電圧Vuのパルス幅は狭くなり、V相電圧Vvのパルス幅は変わらず0、W相電圧Vwのパルス幅も狭くなる。その結果、電気角一周期中のV相電圧VvとW相電圧Vwのパルス幅の積算値が小さくなり、Vu、Vv、Vwの関係が崩れる。他の位相領域M2、M3についても同様のことが云える。
【0106】
上記のように平等にC1、C2、C3を補正した場合、Vu、Vv、Vwの関係が崩れることとなり、結果として出力される正規化した線間電圧が周期性を持たなくなって不平衡となる。ここで、平衡というのはUVW各相の印加電圧が、120度の位相差をもって同じ振幅値を出力していることを指し、平衡でない場合、即ち、不平衡の場合には、モータ8の出力電力が不安定になり、大きな回転数脈動の発生、運転範囲の低下、脱調の原因になる。
【0107】
図22はその場合の正規化した線間電圧Vn
u-v、Vn
v-w、Vn
w-uを0度~360度まで計算し、それを2回連結したものである。360度の時点で線間電圧(線間電圧積分値)が急変している。即ち、線間電圧(線間電圧積分値)が不平衡になっている。この状態では相電圧Vu、Vv、Vwの狙いのパルス幅が出せなくなり、モータ8を狙い通りに駆動することができない。
【0108】
以上のように完全抑制型のキャンセル制御では、変調率が大きくなると位相領域M1、M2、M3では正弦波の線間電圧の印加ができず不平衡となってしまうため、出力可能な変調率が小さいという課題がある。そのため、キャンセル制御を行う場合にも、前述した通常の三相変調方式での過変調制御のような動作が必要となるが、パルス幅の与え方とスイッチングタイミングを合わせて両方を考慮する必要がある。
【0109】
(7-2)補正制御A(実施例1)
そこで、本発明では実施例の制御装置21の制御部30を構成するPWM信号生成部36が、以下に説明する補正制御Aを実行する。即ち、実施例ではこのPWM信号生成部36が本発明における補正制御部を構成する。次に、
図23~
図32を参照しながらこの実施例(実施例1)の補正制御Aについて説明する。
【0110】
ここで、前述した
図18の位相領域M1、M2、M3で補正が必要な超過量(重なっている高さ)m
1、m
2、m
3を用いて各位相領域M1、M2、M3の面積M
1、M
2、M
3(
図18のハッチング部分)を算出すると、下記数式(XI)となる。尚、θは電気角を示す。
【0111】
【0112】
また、最低パルス幅C
min=0の場合には、位相領域M1、M2、M3の面積M
1、M
2、M
3は、M
1=M
2=M
3という関係であり、位相領域M1、M2、M3の幅W1、W2、W3の関係も、W1=W2=W3となる。更に、補正が必要な超過量m
1、m
2、m
3の値は、120度の位相差をもって同じ値になっている。そのため、位相領域M1、M2、M3においてC
1、C
2、C
3を
図23の各枠内に記載した補正値を用いて補正することで、電気角一周期中のC
1、C
2、C
3に関する補正値の合計はプラスマイナス0になり、UVW相の各線間電圧はバランスが保たれる。即ち、三相不平衡を起こさなくなる。
【0113】
尚、
図23において位相領域M1でのC
1の補正値は-1/2m
1、C
2の補正値は1/2m
1、C
3の補正値は0である。また、位相領域M2でのC
1の補正値は-1/2m
2、C
2の補正値は-m
2、C
3の補正値は0である。更に、位相領域M3でのC
1の補正値は+m
3、C
2の補正値は+1/2m
3、C
3の補正値は0である。C
1について電気角一周期の補正値を合算すると、-1/2m
1-1/2m
2+m
3=0となり、C
2についても合算すると1/2m
1-m
2+1/2m
3=0となり、C
3も当然に合算すると0となる。
【0114】
図23ではC
1、C
2、C
3の補正値の合計が全て0になっている。即ち、補正した結果のC
1、C
2、C
3の合計値に変化がなく、三相不平衡を起こさなことを示している。この補正した結果のC
1、C
2、C
3を
図24に示す。各位相領域M1、M2、M3の面積M
1、M
2、M
3をM
1=M
2=M
3=0に揃えるようにC
1、C
2、C
3のタイミングを補正することで、正規化した線間電圧Vn
u-v、Vn
v-w、Vn
w-uのアンバランスを整える。
【0115】
ここで、120度ずらしたm
1、m
2、m
3を共通のmとおいて、
図23の補正を考察する。一キャリア周期中にPWMで出力される相電圧、即ち、一キャリア周期中のPWMのON時間は以下の数式(XII)で得られる。
Cu=1-(C
3-C
1)
Cv=C
2-C
1
Cw=C
3-C
2 ・・・(XII)
【0116】
この場合、位相領域M1、M2、M3における補正値は、以下の数式(XIII)、(XIV)、(XV)の通りとなる。但し、Cu’、Cv’、Cw’は補正後のCu、Cv、Cwである。
位相領域M1での補正は、
Cu’=1-(C3-(C1-1/2m))
Cv’=(C2+1/2m)-(C1-1/2m)
Cw’=C3-(C2+1/2m)
即ち、
Cu’=Cu-1/2m
Cv’=Cv+m
Cw’=Cw-1/2m ・・・(XIII)
【0117】
位相領域M2での補正は、
Cu’=1-(C3-(C1-1/2m))
Cv’=(C2-m)-(C1-1/2m)
Cw’=C3-(C2-m)
即ち、
Cu’=Cu-1/2m
Cv’=Cv-1/2m
Cw’=Cw+m ・・・(XIV)
【0118】
位相領域M3での補正は、
Cu’=1-(C3-(C1+m))
Cv’=(C2+1/2m)-(C1+m)
Cw’=C3-(C2+1/2m)
即ち、
Cu’=Cu+m
Cv’=Cv-1/2m
Cw’=Cw-1/2m ・・・(XV)
【0119】
補正後のU相パルス指令値Cu’で考えると、位相領域M3のみ補正値(数式(II)におけるCmuにあたる)は+mであり、位相領域M1、M2では補正値Cmuは-1/2mとなる。そのため、補正値Cmuは電気角一周期分を加算すると0になる。また、補正後のV相パルス幅指令値Cv’の補正値(数式(II)におけるCmvにあたる)、補正後のW相パルス幅指令値Cw’の補正値(数式(II)におけるCmwにあたる)についても同様の補正を120度ずらしたかたちで実施している。
【0120】
図25、
図26に変調率指令値kHset=0.9の場合の補正後のUVW各相の正規化したパルス幅指令値Cu’、Cv’、Cw’と補正値Cmu、Cmv、Cmwを示している。各図から明らかな如く、各相の補正値Cmu、Cmv、Cmwは、同位相において三相のうちの少なくとも二相で異なる値で、且つ、120度ずらして等しい値となる。ここで、キャンセル制御にてコモンモード電圧の変動を完全に抑制するためには、補正値Cmu、Cmv、Cmwによる補正後においても、一つの相がONになっている(或いは、一つの相がOFFになっている)三つの時間の合計がCu+Cv+Cw=1の関係を保つ必要があり、そのためには、一キャリア周期中で各相の補正値Cmu+Cmv+Cmw=0とする必要があり、
図23の補正はこのことも考慮した補正方法になっている。尚、位相領域M1、M2、M3以外の補正を行わない領域では、Cu’、Cv’、Cw’は補正前のCu、Cv、Cwをそのまま採用する。
【0121】
このように、スイッチングタイミングを同期させてキャンセル制御を行うために、一キャリア周期ごとに常にCu+Cv+Cw=1の関係にする。なおかつ、三相の補正が120度ずらしたかたちで平衡であるため、その結果各相の補正量は電気角一周期にてプラスマイナス0になるように補正される。常にこの3点に着目して補正することで、変調率が高い場合でもキャンセル制御にて不平衡無しの補正を実現することができる。
【0122】
係る補正制御Aをより具体的に説明する。尚、上記では位相領域M1、M2、M3の面積M
1、M
2、M
3と表現したが、実際には瞬時電圧指令値に対して都度計算を行う。先ず、位相領域M1か否かを判定する。判定方法としては、m
1=C
1-C
2の計算を行い、このm
1の値が正の場合にはC
1>C
2であるため、補正を実施する。補正の方法は上記で求めたm
1を用いてそれぞれC
1、C
2に対して
図23に示した値を加算する。即ち、C
1’=C
1-1/2m
1、C
2’=C
2+1/2m
1という計算を行う。
【0123】
同様に位相領域M2か否かを判定する。判定方法としては、m
2=C
2-C
3の計算を行い、このm
2の値が正の場合にはC
2>C
3であるため、補正を実施する。補正の方法は上記で求めたm
2を用いてそれぞれC
1、C
2に対して
図23に示した値を加算する。ここで、C
3は変化させたくないため、C
2の補正を行い、それに合わせて位相領域M2の判定には関連のないC
1にも補正を行う。この位相領域M2で関連のないC
1にも補正を行うことが本発明の特徴である。
【0124】
同様に位相領域M3か否かを判定する。判定方法としては、m
3=0-C
1の計算を行い、このm
3の値が正の場合には0>C
1であるため、補正を実施する。補正の方法は上記で求めたm
3を用いてそれぞれC
1、C
2に対して
図23に示した値を加算する。ここで、位相領域M2の場合と同様に、位相領域M3には関連のないC
2に対して補正を行うことが本発明の特徴である。
【0125】
上記補正制御Aを行った結果を出力すると
図27、
図28のようになる。位相領域M3においてもU相の上下アームスイッチング素子18A、18Dはスイッチングしているが、コモンモード電圧Vcmは完全に抑制されている(
図27)。また、360度の正規化した線間電圧Vn
u-v、Vn
v-w、Vn
w-uを見ると、0度と略同じ値になり、不平衡が起きていないことが分かる(
図28)。
【0126】
(7-3)補正制御A(実施例1)の課題
しかしながら、
図28では変調率指令値kHset=0.9としているものの、出力されている電圧ピークは小さい。
図29に上記補正制御Aでの変調率指令値kHsetと出力される変調率kHoutの関係を示す。
図12の場合はkHset≦1の領域ではkHset=kHoutの関係になっている。その後、kHsetを2.4まで上昇させると、kHoutは1.2程度まで上昇する。それに対して、
図29ではkHset≦2/3の領域ではkHset=kHoutとなっているが、kHsetを2.4まで上昇させても、kHoutは1.05程度までである。即ち、出力できるkHoutが小さいと云う課題があり、そのため、通常の過変調のようにkHsetとkHoutの関係の補正を行う必要がある。また、正規化した線間電圧Vn
u-v、Vn
v-w、Vn
w-uは正弦波から崩れていることも分かる(
図28)。
【0127】
前述した補正制御Aは、位相領域M1、M2、M3の面積M1、M2、M3が等しく、瞬間的な超過量m1、m2、m3も、120度ずらした状態で値が等しくなるという前提であった。補正制御Aは位相領域M3のU相電圧Vuの出力が問題となる。位相領域M3の面積M1を位相領域M2、M3の面積M2、M3と等しくするためには、次の何れかの方式を採用する必要がある。
【0128】
即ち、
図27のU相電圧Vuは位相領域M3では略ゼロと無視できるほどの極小のパルス幅を出力できるとみなした場合であり、これを実現するためには、極小パルスを出力できる次世代半導体を用いる必要がある。もう一つは、位相領域M3にてU相電圧VuのPWMパルスを出力せずに、V相電圧VvとW相電圧Vwを同期させることができるような、特殊なキャリア信号を用いたPWM出力方式を用いた制御装置、或いは、キャリア信号を用いずに任意のタイミングで相電圧Vu、Vv、Vwの出力をON/OFF制御できる制御装置を用いる方法である。その場合は位相領域M3でU相電圧Vuの出力をゼロにできるため、より容易にコモンモード電圧の変動を抑制しながら三相平衡を保つPWM出力が可能である。
【0129】
しかしながら、次世代半導体やキャリア信号を用いない制御装置は極めて高価であるため、実施例の電動コンプレッサのような機器に適用することは現実的ではない。その場合、位相領域M3にてU相電圧Vuは幅広いパルスを出力することになり、正規化した線間電圧Vn
u-v、Vn
v-w、Vn
w-uは
図30に示すように不平衡になる。その理由は、
図15に示すように反転したU相電圧Vuは一キャリア周期の最初と最後でONパルスを出す必要があるからである。
【0130】
また、位相領域M3にてU相電圧VuのPWMパルスを出力しながら前記3つの条件を達成するために、位相領域M1、M2でも位相領域M3と同様にPWMパルスを出力する方法も考えられる。この場合でも、前記3つの条件に注目して補正を行うことで、不平衡を解消しながら駆動することは容易である。位相領域M1、M2でもPWMパルスを出力する場合の、変調率指令値kHset=0.9での補正後のUVW各相の正規化したパルス幅指令値Cu’、Cv’、Cw’を
図31に示す。また、
図32はこの場合の相電圧Vu、Vv、Vwとコモンモード電圧Vcmを360度で示した図である。
図31及び
図32に示す通り、不平衡を解消しながら、尚且つ、コモンモード電圧Vcmの変動を抑制することは可能であるが、この場合には、位相領域M1、M2のPWMパルス停止領域を利用できず、そのために最大変調率が低下することから、高い変調率を得るという目的を満たす制御にはならない。
【0131】
(7-4)補正制御B(実施例2)
係る課題を解決できるもう一つの補正制御B(実施例2)を、
図33~
図35を用いて説明する。この実施例(実施例2)の補正制御Bでは、PWM信号生成部36(補正制御部)が、位相領域M3ではU相の上アームスイッチング素子18AがOFF、下アームスイッチング素子18DがONした状態を維持して各素子18A、18Dのスイッチングを停止し、U相電圧VuをOFFしたままとする。その結果、
図33に示すように位相領域M3ではコモンモード電圧Vcmの変動を完全に抑制することができないものの、出力電圧(正規化した線間電圧Vn
u-v、Vn
v-w、Vn
w-u)は
図34に示すように狙い通り出力できるようになる(変調率指令値kHset=0.9)。
【0132】
同じく
図34に示すように正規化した線間電圧Vn
u-v、Vn
v-w、Vn
w-uは平衡になる。但し、位相領域M1とM2では補正制御A(実施例1)と同じ補正を行う。位相領域M3は、
図33に示すように他の位相領域M1、M2よりも幅が広くなる。電圧を平衡にするためには、補正制御A(実施例1)で挙げたように、電気角一周期中の補正値を三相とも0に揃える、120度ずらしたときの補正量を三相とも揃える、という要件を守る必要がある。
【0133】
このようにするためには、位相領域M1、M2、M3の幅W1、W2、W3を等しくする必要がある。そこで、位相領域M3のうち、他の位相領域M1、M2の幅と等しくなる領域M3’’では、位相領域M1、M2と同様に、補正制御A(実施例1)の補正を他の二相(V相、W相)に対して行う。一方、位相領域M3のうち、領域M3’’ではない領域、即ち、他の位相領域M1、M2の幅よりも広くなる範囲では、V相、W相に対して補正制御A(実施例1)の補正を行わない。これにより、位相領域M3のうち領域M3’’ではない範囲ではC1、C2の補正を行わず通常の二相変調のような動作となる(U相はスイッチング停止、V相とW相をスイッチング)。これにより、位相領域M1、M2、M3’’の同じ幅にて三相を平衡な補正が行えるようになる。
【0134】
次に、
図35を参照しながらこの補正制御B(実施例2)の位相領域M3での補正方法を具体的に説明する。この実施例の補正制御Bでは、位相領域M3にて、領域M3’’か否かの判定を行う。領域の判定として先ず、C
1-C
min<0の場合には位相領域M3になる。また、C
1-0<0の場合には、領域M3’’になる。この領域M3’’の場合は、
図23と同様にC
1、C
2を補正する(
図35下に抜粋して示す)。領域M3’’ではない範囲では、
図23に従ってC
1、C
2の補正は行わない。
【0135】
次に、U相とV相とW相のパルス幅指令に戻す。具体的な数式(XVI)は下記の通りである。
U相パルス幅指令値Cu=1-(C3-C1)
V相パルス幅指令値Cv=(C2-C1)
W相パルス幅指令値Cw=(C3-C2) ・・・(XVI)
【0136】
次に、U相パルス幅指令値Cuを0に設定するため、各パルス幅指令値Cu、Cv、CwからCuを減算する。この場合、上記のようにCu=1-(C3-C1)であるため、下記数式(XVII)のようになる。
U相パルス幅指令値Cu=0
V相パルス幅指令値Cv=(C2-C1)-1+(C3-C1)
W相パルス幅指令値Cw=(C3-C2)-1+(C3-C1) ・・・(XVII)
以上により、U相電圧VuはOFFしたままとなる。
【0137】
次に、V相とW相にて
図35のように一回だけキャンセル制御(打ち消し動作)を行えるか否かを判定する。具体的には、Cv+Cw+2C
min<1の場合、
図35のように打ち消し動作が可能である。打ち消し動作が可能な場合には、下記数式(XVIII)により立ち上げ、立ち下げタイミングを与える。
Cvu=CA(C
min)
Cvd=CA(C
min+Cv)
Cwu=CA(C
min+Cv)
Cwd=CA(C
min+Cv+Cw) ・・・(XVIII)
【0138】
次に、打ち消し動作が不可能な場合には、下記数式(XIX)により立ち上げ、立ち下げタイミングを与える。
Cvu=CA(1/2-Cv/2)
Cvd=CA(1/2+Cv/2)
Cwu=CA(1/2-Cw/2)
Cwd=CA(1/2+Cw/2) ・・・(XIX)
これは通常の二相変調の演算となる。
【0139】
また、当然ながら、実施例1の課題に挙げた、キャリア信号を用いない制御装置等を利用することにより、位相領域M3にてU相はPWMパルスを出力せずに、尚且つ、V相電圧VvとW相電圧Vwを同期させて駆動することが可能な場合も、本実施例2に含まれる。
【0140】
(7-5)補正制御B(実施例2)の課題
ここで、変調率指令値kHset=0.9までの補正制御B(実施例2)の効果は上記の如くであるが、変調率指令値kHsetが1.4まで大きくなると、正規化した線間電圧Vn
u-v、Vn
v-w、Vn
w-uは
図36に示すように歪が大きくなり、正弦波とは云えなくなる。
図36の変調率指令値kHset=1.4では、正側のピーク値は1.1程度まで出力されているが、負側は-0.8程度までしか出力されていない。その結果、出力される変調率kHoutは0.95程度までしかならない。このように、変調率指令値kHsetを大きくしても正規化した線間電圧が負側に大きくならないため、変調率指令値kHsetをいくら大きくしても、出力される変調率kHoutが1.05程度までしか大きくならないという課題がある。
【0141】
(7-6)部分キャンセル制御(実施例3)
係る課題を解決できる部分キャンセル制御(実施例3)を、
図37、
図38を用いて説明する。この実施例では、PWM信号生成部36は前述した補正制御(実施例1、実施例2)を行わず、代わりに、以下に説明する部分キャンセル制御を実行する。この部分キャンセル制御では、コモンモード電圧Vcmの変動抑制ではなく、指令通りにパルス幅が出力できることを優先し、位相領域M1、M2、M3にて積極的にスイッチングを停止する。
【0142】
具体的には、先ず位相領域M1、M2、M3か否かを判定する。その場合の判定条件は数式(XVI)により求めたU相、V相、W相のパルス幅指令値Cu、Cv、Cwで考えたとき、
Cu、Cv、Cwが全て最小パルス幅Cminよりも大きいか、である。
そして、上記のうち、何れか一つでも条件が非成立の場合には、位相領域M1、M2、M3の何れかの状態にあり、相電圧の狙いのパルス幅が出せなくなっていると云える。
【0143】
V相パルス幅指令値Cvが最小となって狙いのパルス幅が出せなくなる状態となる場合には位相領域M1であり、W相パルス幅指令値Cwが最小となって狙いのパルス幅が出せなくなる状態となる場合には位相領域M2であり、U相パルス幅指令値Cuが最小となって狙いのパルス幅が出せなくなる状態となる場合には位相領域M3であると云える。
【0144】
そこで、位相領域M1の場合は、V相(狙いのパルス幅が出せなくなる相)の上アームスイッチング素子18BがOFF、下アームスイッチング素子18EがONした状態を維持して各素子18B、18Eのスイッチングを停止し、V相電圧VvをOFFしたままとし、U相とW相の上下アームスイッチング素子18A、18D、18C、18Fをスイッチングする二相変調として、U相電圧VuとW相電圧Vwのスイッチングのうちの一回のタイミングを同期させる。
【0145】
位相領域M2の場合は、W相(狙いのパルス幅が出せなくなる相)の上アームスイッチング素子18CがOFF、下アームスイッチング素子18FがONした状態を維持して各素子18C、18Fのスイッチングを停止し、W相電圧VwをOFFしたままとし、U相とV相の上下アームスイッチング素子18A、18D、18B、18Eをスイッチングする二相変調として、U相電圧VuとV相電圧Vvのスイッチングのうちの一回のタイミングを同期させる。
【0146】
位相領域M3の場合は、U相(狙いのパルス幅が出せなくなる相)の上アームスイッチング素子18BがOFF、下アームスイッチング素子18EがONした状態を維持して各素子18B、18Eのスイッチングを停止し、U相電圧VuをOFFしたままとし、V相とW相の上下アームスイッチング素子18B、18E、18C、18Fをスイッチングする二相変調として、可能であればV相電圧VvとW相電圧Vwのスイッチングのうちの一回のタイミングを同期させる。不可能であれば同期させない通常の二相変調とする。
【0147】
このように狙い通りのパルス幅が出せなくなる箇所(相)のみを停止した結果を
図37と
図38に示す。コモンモード電圧Vcmの変動は
図37に示すようにある程度発生するものの、全運転領域でスイッチングを停止するよりは、コモンモード電圧Vcmの変動(コモンモードノイズの発生)回数は少なくなる。また、正規化した線間電圧Vn
u-v、Vn
v-w、Vn
w-uは
図38に示すように通常の三相変調と同等になる。
図38の場合、変調率指令値kHset=0.8で、位相領域M1、M2、M3の全ての領域で部分キャンセル制御を行っており、その結果、線間電圧は正弦波で出力され、kHoutも略0.8が出力されている。
【0148】
(7-7)補正制御C(実施例4)
次に、前述の補正制御A(実施例1)、補正制御B(実施例2)における課題を解決できるもう一つの補正制御である補正制御C(実施例4)を、
図39~
図43を用いて説明する。この実施例では、PWM信号生成部36は以下に説明する補正制御C(実施例4)を実行する。この補正制御Cでは、コモンモード電圧Vcmの変動抑制ではなく、高い変調率kHoutが出力できることを優先し、位相領域M1、M2、M3にて
図39に示すように強制的に全相の上下アームスイッチング素子18A~18Fのスイッチングを停止する。
【0149】
この補正制御Cによれば、コモンモードノイズの発生は少なく、正規化した線間電圧Vn
u-v、Vn
v-w、Vn
w-uを、
図40に示すように負側に大きくすることができる。そのため、出力可能変調率を更に上げることができる。具体的には、前述した部分キャンセル制御(実施例3)と同様の方法で先ず位相領域M1、M2、M3である否かを判定する。
【0150】
そして、位相領域M1の場合は、PWM信号生成部36がU相とW相のパルス幅指令値Cu’、Cw’を1とし、V相パルス指令値Cv’を0とする補正を行う。これにより、U相、W相の上アームスイッチング素子18A、18CをON、下アームスイッチング素子18D、18FをOFFした状態に維持して各素子18A、18C、18D、18Fのスイッチングを停止し、U相電圧Vu、W相電圧VwをONしたままとし、V相の上アームスイッチング素子18BがOFF、下アームスイッチング素子18EがONした状態を維持して各素子18B、18Eのスイッチングを停止し、V相電圧VvをOFFしたままとする。
【0151】
位相領域M2の場合は、U相とV相のパルス幅指令値Cu’、Cv’を1とし、W相パルス指令値Cw’を0とする補正を行う。これにより、U相、V相の上アームスイッチング素子18A、18BをON、下アームスイッチング素子18D、18EをOFFした状態に維持して各素子18A、18B、18D、18Eのスイッチングを停止し、U相電圧Vu、V相電圧VvをONしたままとし、W相の上アームスイッチング素子18CがOFF、下アームスイッチング素子18FがONした状態を維持して各素子18C、18Fのスイッチングを停止し、W相電圧VwをOFFしたままとする。
【0152】
位相領域M3の場合は、V相とW相のパルス幅指令値Cv’、Cw’を1とし、U相パルス指令値Cu’を0とする補正を行う。これにより、V相、W相の上アームスイッチング素子18B、18CをON、下アームスイッチング素子18E、18FをOFFした状態に維持して各素子18B、18C、18E、18Fのスイッチングを停止し、V相電圧Vv、V相電圧VvをONしたままとし、U相の上アームスイッチング素子18AがOFF、下アームスイッチング素子18DがONした状態を維持して各素子18A、18Dのスイッチングを停止し、U相電圧VuをOFFしたままとする。
【0153】
即ち、
図39に示すように各位相領域M1、M2、M3で全相のスイッチングを完全に停止させることで、コモンモード電圧Vcmの変動によるコモンモードノイズの発生を抑制する。
【0154】
図41、
図42に補正制御Cにおける変調率指令値kHset=0.58の場合の補正後のUVW各相の正規化したパルス幅指令値Cu’、Cv’、Cw’と、補正値Cmu、Cmv、Cmwを示している。各図から明らかな如く、この場合も各相の補正値Cmu、Cmv、Cmwは、同位相において三相のうちの少なくとも二相で異なる値で、且つ、120度ずらして等しい値となるが(幅W1、W2、W3も同じ)、スイッチング停止を利用することができるため、一キャリア周期中、更には電気角一周期中の両方でCmu+Cmv+Cmw=0となると云う枠(規制)からは脱した補正を行うことができる。尚、位相領域M1、M2、M3以外の補正を行わない領域では、Cu’、Cv’、Cw’は補正前のCu、Cv、Cwをそのまま採用する。
【0155】
図43に上記補正制御Cでの変調率指令値kHsetと出力される変調率kHoutの関係を示す。
図30の場合と比較して低い変調率指令値kHsetにて、出力される変調率kHoutを出力でき、不平衡の小さい補正を実現できることが分かる。
【0156】
(7-8)補正制御D(実施例5)
ここで、上述した補正制御C(実施例4)では、位相領域M1、M2、M3においてのみ指令値の補正制御を行うものであった。そのため、正規化した線間電圧Vn
u-v、Vn
v-w、Vn
w-uは、
図40に示したように正側と負側で非対称となっていた。この課題を解決できるもう一つの補正制御D(実施例5)を、
図45~
図48を用いて説明する。
【0157】
この実施例では、PWM信号生成部36は以下に説明する補正制御D(実施例5)を実行する。この補正制御Dでは、補正制御C(実施例4)での正規化した線間電圧Vnu-v、Vnv-w、Vnw-uの正負の非対称を抑制するために、位相領域M1、M2、M3のそれぞれに対して180度位相をずらした箇所に、逆電圧を印加する。
【0158】
具体的には、例えば
図44の場合、位相領域M1は300度にてU相電圧VuがONしたまま、V相電圧VvがOFFしたまま、W相電圧VwがONしたままという動作を行っている。その180度ずらした位相に逆電圧を印加する、とは120度の位相領域M1’にU相電圧VuがOFFしたまま、V相電圧VvがONしたまま、W相電圧VwがOFFしたままの動作を入れるという意味である。この実施例の補正制御Dでは、PWM信号生成部36が、これを位相領域M1、M2(60度)、M3(180度)の全てで行い、240度の位相領域M2’と360度の位相領域M3’で動作をM1に対するM1’と同様の動作を入れる。
【0159】
コモンモード電圧Vcmの変動は
図44に示すようになり、前述した補正制御Cと同等となる。正規化した線間電圧Vn
u-v、Vn
v-w、Vn
w-uは、
図45のようになり、正側と負側で対称となっている。このような設定とすることで、実際の変調率kHoutは1.05程度となる。
【0160】
具体的には、前述した部分キャンセル制御(実施例3)と同様の方法で先ず位相領域M1、M2、M3である否かを判定する。次に、この位相領域M1、M2、M3に対しては前述した補正制御C(実施例4)と同様の補正を行う。
【0161】
即ち、位相領域M1の場合は、PWM信号生成部36がU相とW相のパルス幅指令値Cu、Cwを1とし、V相パルス指令値Cvを0とする補正を行う。これにより、U相、W相の上アームスイッチング素子18A、18CをON、下アームスイッチング素子18D、18FをOFFした状態に維持して各素子18A、18C、18D、18Fのスイッチングを停止し、U相電圧Vu、W相電圧VwをONしたままとし、V相の上アームスイッチング素子18BがOFF、下アームスイッチング素子18EがONした状態を維持して各素子18B、18Eのスイッチングを停止し、V相電圧VvをOFFしたままとする。
【0162】
位相領域M2の場合は、U相とV相のパルス幅指令値Cu’、Cv’を1とし、W相パルス指令値Cw’を0とする補正を行う。これにより、U相、V相の上アームスイッチング素子18A、18BをON、下アームスイッチング素子18D、18EをOFFした状態に維持して各素子18A、18B、18D、18Eのスイッチングを停止し、U相電圧Vu、V相電圧VvをONしたままとし、W相の上アームスイッチング素子18CがOFF、下アームスイッチング素子18FがONした状態を維持して各素子18C、18Fのスイッチングを停止し、W相電圧VwをOFFしたままとする。
【0163】
位相領域M3の場合は、V相とW相のパルス幅指令値Cv’、Cw’を1とし、U相パルス指令値Cu’を0とする補正を行う。これにより、V相、W相の上アームスイッチング素子18B、18CをON、下アームスイッチング素子18E、18FをOFFした状態に維持して各素子18B、18C、18E、18Fのスイッチングを停止し、V相電圧Vv、V相電圧VvをONしたままとし、U相の上アームスイッチング素子18AがOFF、下アームスイッチング素子18DがONした状態を維持して各素子18A、18Dのスイッチングを停止し、U相電圧VuをOFFしたままとする。
【0164】
次に、位相領域M1’、M2’、M3’か否かの判定を行う。この場合、前述した部分キャンセル制御(実施例3)に示した方法にて、判定するパルス幅指令値を、1-Cu、1-Cv、1―Cwにて反転させてから、部分キャンセル制御(実施例3)で示した方法にて位相領域M1’、M2’、M3’か否かの判定を行う。
【0165】
そして、位相領域M1’の場合は、PWM信号生成部36がU相とW相のパルス幅指令値Cu’、Cw’を0とし、V相パルス指令値Cv’を1とする補正を行う。これにより、U相、W相の下アームスイッチング素子18D、18FをON、上アームスイッチング素子18A、18CをOFFした状態に維持して各素子18A、18C、18D、18Fのスイッチングを停止し、U相電圧Vu、W相電圧VwをOFFしたままとし、V相の上アームスイッチング素子18BがON、下アームスイッチング素子18EがOFFした状態を維持して各素子18B、18Eのスイッチングを停止し、V相電圧VvをONしたままとする。
【0166】
位相領域M2’の場合は、U相とV相のパルス幅指令値Cu’、Cv’を0とし、W相パルス指令値Cw’を1とする補正を行う。これにより、U相、V相の下アームスイッチング素子18D、18EをON、上アームスイッチング素子18A、18BをOFFした状態に維持して各素子18A、18B、18D、18Eのスイッチングを停止し、U相電圧Vu、V相電圧VvをOFFしたままとし、W相の上アームスイッチング素子18CがON、下アームスイッチング素子18FがOFFした状態を維持して各素子18C、18Fのスイッチングを停止し、W相電圧VwをONしたままとする。
【0167】
位相領域M3’の場合は、V相とW相のパルス幅指令値Cv’、Cw’を0とし、U相パルス指令値Cu’を1とする補正を行う。これにより、V相、W相の下アームスイッチング素子18E、18FをON、上アームスイッチング素子18B、18CをOFFした状態に維持して各素子18B、18C、18E、18Fのスイッチングを停止し、V相電圧Vv、V相電圧VvをOFFしたままとし、U相の上アームスイッチング素子18AがON、下アームスイッチング素子18DがOFFした状態を維持して各素子18A、18Dのスイッチングを停止し、U相電圧VuをONしたままとする。
【0168】
即ち、
図44に示すように各位相領域M1、M2、M3、M1’、M2’、M3’で全相のスイッチングを完全に停止させることで、コモンモード電圧Vcmの変動によるコモンモードノイズの発生を抑制する。また、正規化した線間電圧Vn
u-v、Vn
v-w、Vn
w-uは、
図45のように正側と負側で対称となる。
【0169】
図46、
図47に補正制御Dにおける変調率指令値kHset=0.58の場合の補正後のUVW各相の正規化したパルス幅指令値Cu’、Cv’、Cw’と、補正値Cmu、Cmv、Cmwを示している。各図から明らかな如く、この場合も各相の補正値Cmu、Cmv、Cmwは、同位相において三相のうちの少なくとも二相で異なる値で、且つ、120度ずらして等しい値となるが(幅W1、W2、W3も同じ)、スイッチング停止を利用することができるため、一キャリア周期中、更には電気角一周期中の両方でCmu+Cmv+Cmw=0となると云う枠(規制)からは脱した補正を行うことができる。尚、位相領域M1、M2、M3、M1’、M2’、M3’以外の補正を行わない領域では、Cu’、Cv’、Cw’は補正前のCu、Cv、Cwをそのまま採用する。
【0170】
図48に上記補正制御Dでの変調率指令値kHsetと出力される変調率kHoutの関係を示す。
図43の場合と比較して変調率がより高い場合でも不平衡無しの補正を実現できることが分かる。
【0171】
(7-9)各補正制御A~D、部分キャンセル制御の組み合わせ制御(実施例6)
しかしながら、
図48に示すように上記補正制御D(実施例5)では出力できる変調率kHoutが0.8付近で急峻に増大し、制御が難しくなる。そこで、この実施例では、PWM信号生成部36が、例えば、前述した補正制御C(実施例4)と補正制御D(実施例5)を有する構成とし、前述した0.8の変調率の領域では補正制御C(実施例4)を実行し、その他の領域では補正制御D(実施例5)を実行するように制御を切り替えるようにしてもよい。また、制御D(実施例5)のみを用い、位相領域M1、M2、M3、M1’、M2’、M3’以外の位相では変調率指令値kHsetを上昇させることや、位相領域M1、M2、M3と位相領域M1’、M2’、M3’の比率を調整することで、前述した出力できる変調率kHoutの急峻な増大を抑制するようにしてもよい。
【0172】
その他、実施例のPWM信号生成部36が、前述した各補正制御A~D、部分キャンセル制御を全て有することとし、変調率や制御位相角に応じてそれらの何れかを選択して実行するようにしてもよい。そのように切り換えて制御を行うことで、制御性を担保しながら効果的なモータ8の運転範囲拡大を図ることが可能となる。
【0173】
尚、上述した実施例では制御装置21の制御部30を構成するPWM信号生成部36がキャンセル制御や各補正制御、部分キャンセル制御を実行するようにしたが、例えば、パルス幅指令演算部34により実行するようにしてもよい。更に、パルス幅指令演算部34とPWM信号生成部36の組み合わせで実行するようにしてもよい。更にまた、前述したキャンセル制御ではU相の上アームスイッチング素子18AがONし、V相とW相の下アームスイッチング素子18E、18FがONした状態からスイッチングの規定区間が開始される場合で説明したが、U相の下アームスイッチング素子18DがONし、V相とW相の上アームスイッチング素子18B、18CがONした状態からスイッチングの規定区間が開始されるようにしてもよい。
【0174】
更に、キャリア信号を用いない場合や、キャリア信号を位相により変更できるコントローラを用いた場合には、電圧位相に合わせて「L」スタート、「H」スタートを位相ごとに1:2、2:1と切り換えることができるが、そのような場合にも本発明は容易に適用可能であり、運転範囲を広げることが可能である。
【0175】
更にまた、実施例では電動コンプレッサのモータの駆動に本発明を適用したが、請求項1~請求項12の発明は電動コンプレッサ以外のモータにも有効であることは云うまでもない。
【符号の説明】
【0176】
1 インバータ装置
8 モータ
16 電動コンプレッサ
18A~18F 上下アームスイッチング素子
19U U相インバータ
19V V相インバータ
19W W相インバータ
21 制御装置
28 インバータ回路
30 制御部
33 相電圧指令演算部
34 パルス幅指令演算部
36 PWM信号生成部(補正制御部)
37 ゲートドライバ
44A~44F 出力ポート