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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023014918
(43)【公開日】2023-01-31
(54)【発明の名称】インバータ装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20230124BHJP
   H02P 27/08 20060101ALI20230124BHJP
【FI】
H02M7/48 E
H02P27/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021119143
(22)【出願日】2021-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098361
【弁理士】
【氏名又は名称】雨笠 敬
(72)【発明者】
【氏名】柏原 辰樹
(72)【発明者】
【氏名】吉田 浩
(72)【発明者】
【氏名】荒木 雄志
(72)【発明者】
【氏名】小林 孝次
【テーマコード(参考)】
5H505
5H770
【Fターム(参考)】
5H505AA06
5H505AA16
5H505BB05
5H505CC04
5H505DD03
5H505DD08
5H505EE41
5H505EE49
5H505HA01
5H505HA05
5H505HA08
5H505HA10
5H505HA16
5H505HB01
5H505JJ03
5H505KK05
5H505LL22
5H770AA05
5H770BA01
5H770DA03
5H770DA41
5H770EA01
5H770EA25
5H770HA02X
5H770HA02Y
5H770JA11Z
5H770QA01
5H770QA27
5H770QA31
(57)【要約】
【課題】広い運転領域を確保しながらコモンモードノイズを抑制することができる、小型で安価なインバータ装置を提供する。
【解決手段】インバータ装置1は上下アームスイッチング素子18A~18Fの接続点における相電圧を三相交流出力としてモータ8に印加するインバータ回路28と、制御装置21を備える。制御装置21は、各相の相電圧を生成するための指令値のうちの最大値と最小値の絶対値が常に等しくなるように各相の指令値に同一の値を加算し、且つ、当該加算された各相の指令値のうちの一相を反転したものを各相の新たな指令値とし、当該各相の新たな指令値に基づいて、各相の上下アームスイッチング素子を制御する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
各相の上下アームスイッチング素子の接続点における相電圧を三相交流出力としてモータに印加するインバータ回路と、
該インバータ回路の前記各相の上下アームスイッチング素子のスイッチングを制御する制御装置を備えたインバータ装置において、
前記制御装置は、各相の前記相電圧を生成するための指令値のうちの最大値と最小値の絶対値が常に等しくなるように前記各相の指令値に同一の値を加算し、且つ、当該加算された各相の指令値のうちの一相を反転したものを前記各相の新たな指令値とし、当該各相の新たな指令値に基づいて、前記各相の上下アームスイッチング素子のスイッチングを制御することを特徴とするインバータ装置。
【請求項2】
前記制御装置は、反転する前と反転した後で前記一相の相電圧にて上アーム電源ライン電圧が印加されている幅が一キャリア周期において変化しないように、当該一相の前記上下アームスイッチング素子のスイッチングを制御することを特徴とする請求項1に記載のインバータ装置。
【請求項3】
上アーム電源ライン及び下アーム電源ライン間に、各相毎に上アームスイッチング素子と下アームスイッチング素子を直列接続し、これら各相の上下アームスイッチング素子の接続点における相電圧を三相交流出力としてモータに印加するインバータ回路と、
該インバータ回路の前記各相の上下アームスイッチング素子のスイッチングを制御する制御装置を備えたインバータ装置において、
前記制御装置は、
前記モータの各相に印加する相電圧を生成するための相電圧指令値を演算し、出力する相電圧指令演算部と、
該相電圧指令演算部が出力する前記各相の相電圧指令値から各相のパルス幅指令値を演算し、出力するパルス幅指令演算部と、
該パルス幅指令演算部が出力する前記各相のパルス幅指令値に基づき、前記インバータ回路をPWM制御するための、前記各相の上アーム立ち上げ指令値及び上アーム立ち下げ指令値から成るPWM信号を生成するPWM信号生成部を有し、
前記パルス幅指令演算部は、前記各相のパルス幅指令値のうちの最大値の相電圧にて上アーム電源ライン電圧が印加されている区間と最小値の相電圧にて下アーム電源ライン電圧が印加されている区間が常に等しくなるように前記各相の相電圧指令値に同一の値を加算し、且つ、当該加算された各相の相電圧指令値から演算された各相のパルス幅指令値のうちの一相を反転させることで、前記各相の新たなパルス幅指令値を生成し、出力することを特徴とするインバータ装置。
【請求項4】
前記PWM信号生成部は、反転する前と反転した後で前記一相の相電圧にて上アーム電源ライン電圧が印加されている幅が一キャリア周期において変化しないように、当該一相の上アーム立ち上げ指令値及び上アーム立ち下げ指令値を生成することを特徴とする請求項3に記載のインバータ装置。
【請求項5】
前記指令値又は前記相電圧指令値に加える同一の値は、前記指令値又は相電圧指令値のうちの中間値の2分の1であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のうちの何れかに記載のインバータ装置。
【請求項6】
前記制御装置は、前記反転した一相が前記指令値又はパルス幅指令値のうちの中間値となる領域においては、当該一相の相電圧の立ち上がりタイミングと他の相の相電圧の立ち下がりタイミング、及び/又は、前記一相の相電圧の立ち下がりタイミングともう一つの他の相の相電圧の立ち上がりタイミングを同期させることを特徴とする請求項1乃至請求項5のうちの何れかに記載のインバータ装置。
【請求項7】
前記制御装置は、前記一相の上アームスイッチング素子がONし、他の二相の下アームスイッチング素子がONした状態、又は、前記一相の下アームスイッチング素子がONし、他の二相の上アームスイッチング素子がONした状態からスイッチングの規定区間を開始することを特徴とする請求項1乃至請求項6のうちの何れかに記載のインバータ装置。
【請求項8】
前記制御装置は、前記各相の上下アームスイッチング素子をそれぞれ接続するための出力ポートを有し、前記一相の上下アームスイッチング素子は、上アームスイッチング素子が下アームスイッチング素子用の前記出力ポートに、下アームスイッチング素子が上アームスイッチング素子用の前記出力ポートに接続されていることを特徴とする請求項7に記載のインバータ装置。
【請求項9】
前記モータのコモンモード電圧を相殺するためのノイズ抑制電圧を生成する補助回路を更に備えたことを特徴とする請求項1乃至請求項8のうちの何れかに記載のインバータ装置。
【請求項10】
前記補助回路は、電流制御素子と、該電流制御素子と接地間に接続されたカップリングコンデンサと、前記電流制御素子に所定の低電圧を印加するための電源回路と、前記電流制御素子を駆動することにより、前記ノイズ抑制電圧を生成する補助回路制御部を備えたことを特徴とする請求項9に記載のインバータ装置。
【請求項11】
前記電流制御素子は、互いに逆極性を有する2個のトランジスタから成り、各トランジスタはプッシュプル回路を構成することを特徴とする請求項10に記載のインバータ装置。
【請求項12】
前記モータを内蔵した電動コンプレッサに搭載されることを特徴とする請求項1乃至請求項11のうちの何れかに記載のインバータ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータ回路により三相交流出力をモータに印加して駆動するインバータ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来よりモータを駆動するためのインバータ装置は、複数のスイッチング素子により三相インバータ回路を構成すると共に、UVW各相のスイッチング素子をPWM(Pulse Width Modulation)制御し、正弦波に近い電圧波形の相電圧をモータに印加して駆動するものであるが、モータのコモンモード電圧(中性点電位)の変動により発生するコモンモードノイズが問題となっていた。
【0003】
このコモンモードノイズは、例えば車載用の電動コンプレッサを構成するモータの場合、コンプレッサのハウジング(筐体)と接地(車両のシャシー)間の浮遊容量を通して漏洩するコモンモード電流によって発生するものであるが、これまでにも各相の上下アームスイッチング素子のスイッチングタイミングを同期させることでコモンモード電圧の変動を抑制する方式が提案されていた(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0004】
しかしながら、係る方式は出力可能な変調率が低く、上述した電動コンプレッサのように広い運転領域を必要とするモータの制御には不向きであった。そこで、コモンモード電圧を相殺するノイズ抑制電圧を生成する補助回路を設けたものも開発されている(例えば、特許文献3~特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10-23760号公報
【特許文献2】特許第5045137号公報
【特許文献3】特許第3650314号公報
【特許文献4】特許第5621533号公報
【特許文献5】特許第6344211号公報
【特許文献6】特許第5819010号公報
【特許文献7】特公平6-81514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献3や特許文献4ではインバータ制御についての改善は行っておらず、補助回路のみでコモンモードノイズの抑制を行っていた。そのため、補助回路が大掛かりなものとなってしまい、コストも高騰する問題があった。また、特許文献5は120度通電方式であるため騒音が大きくなり、いずれにしても車両で使用される電動コンプレッサには搭載困難である。
【0007】
更に、特許文献6ではインバータ制御に改良を加えてコモンモードノイズを抑制しているものの、PWM動作が限定的であり、一般的なマイクロコンピュータを用いて実現することは困難である。特に、スイッチングタイミングを同期させる相を切り替える際には電磁ノイズが発生すると共に、補助回路にも高電圧に耐える部品を使用しなければならず、コストが高騰すると云う問題があった。
【0008】
一方で、各相の電圧指令値の最大値と最小値の絶対値を等しくしながら、各相の電圧指令値に等しい値を加えることで、電圧の制御範囲を拡大させた電力変換装置も開発されている(例えば、特許文献7参照)。
【0009】
本発明は、係る従来の状況に鑑みて成されたものであり、広い運転領域を確保しながらコモンモードノイズを抑制することができる、小型で安価なインバータ装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の発明のインバータ装置は、各相の上下アームスイッチング素子の接続点における相電圧を三相交流出力としてモータに印加するインバータ回路と、このインバータ回路の各相の上下アームスイッチング素子のスイッチングを制御する制御装置を備えたものであって、制御装置は、各相の相電圧を生成するための指令値のうちの最大値と最小値の絶対値が常に等しくなるように各相の指令値に同一の値を加算し、且つ、当該加算された各相の指令値のうちの一相を反転したものを各相の新たな指令値とし、当該各相の新たな指令値に基づいて、各相の上下アームスイッチング素子のスイッチングを制御することを特徴とする。
【0011】
請求項2の発明のインバータ装置は、上記発明において制御装置は、反転する前と反転した後で前記一相の相電圧にて上アーム電源ライン電圧が印加されている幅が一キャリア周期において変化しないように、当該一相の上下アームスイッチング素子のスイッチングを制御することを特徴とする。
【0012】
請求項3の発明のインバータ装置は、上アーム電源ライン及び下アーム電源ライン間に、各相毎に上アームスイッチング素子と下アームスイッチング素子を直列接続し、これら各相の上下アームスイッチング素子の接続点における相電圧を三相交流出力としてモータに印加するインバータ回路と、このインバータ回路の各相の上下アームスイッチング素子のスイッチングを制御する制御装置を備えたものであって、制御装置は、モータの各相に印加する相電圧を生成するための相電圧指令値を演算し、出力する相電圧指令演算部と、この相電圧指令演算部が出力する各相の相電圧指令値から各相のパルス幅指令値を演算し、出力するパルス幅指令演算部と、このパルス幅指令演算部が出力する各相のパルス幅指令値に基づき、インバータ回路をPWM制御するための、各相の相電圧の上アーム立ち上げ指令値及び上アーム立ち下げ指令値から成るPWM信号を生成するPWM信号生成部を有し、パルス幅指令演算部は、各相のパルス幅指令値のうちの最大値の相電圧にて上アーム電源ライン電圧が印加されている区間と最小値の相電圧にて下アーム電源ライン電圧が印加されている区間が常に等しくなるように各相の相電圧指令値に同一の値を加算し、且つ、当該加算された各相の相電圧指令値から演算された各相のパルス幅指令値のうちの一相を反転させることで、各相の新たなパルス幅指令値を生成し、出力することを特徴とする。
【0013】
請求項4の発明のインバータ装置は、上記発明においてPWM信号生成部は、反転する前と反転した後で前記一相の相電圧にて上アーム電源ライン電圧が印加されている幅が一キャリア周期において変化しないように、当該一相の上アーム立ち上げ指令値及び上アーム立ち下げ指令値を生成することを特徴とする。
【0014】
請求項5の発明のインバータ装置は、上記各発明において指令値又は相電圧指令値に加える同一の値は、指令値又は相電圧指令値のうちの中間値の2分の1であることを特徴とする。
【0015】
請求項6の発明のインバータ装置は、上記各発明において制御装置は、前記反転した一相が指令値又はパルス幅指令値のうちの中間値となる領域においては、当該一相の相電圧の立ち上がりタイミングと他の相の相電圧の立ち下がりタイミング、及び/又は、前記一相の相電圧の立ち下がりタイミングともう一つの他の相の相電圧の立ち上がりタイミングを同期させることを特徴とする。
【0016】
請求項7の発明のインバータ装置は、上記各発明において記制御装置は、前記一相の上アームスイッチング素子がONし、他の二相の下アームスイッチング素子がONした状態、又は、前記一相の下アームスイッチング素子がONし、他の二相の上アームスイッチング素子がONした状態からスイッチングの規定区間を開始することを特徴とする。
【0017】
請求項8の発明のインバータ装置は、上記発明において制御装置は、各相の上下アームスイッチング素子をそれぞれ接続するための出力ポートを有し、前記一相の上下アームスイッチング素子は、上アームスイッチング素子が下アームスイッチング素子用の出力ポートに、下アームスイッチング素子が上アームスイッチング素子用の出力ポートに接続されていることを特徴とする。
【0018】
請求項9の発明のインバータ装置は、上記各発明においてモータのコモンモード電圧を相殺するためのノイズ抑制電圧を生成する補助回路を更に備えたことを特徴とする。
【0019】
請求項10の発明のインバータ装置は、上記発明において補助回路は、電流制御素子と、この電流制御素子と接地間に接続されたカップリングコンデンサと、電流制御素子に所定の低電圧を印加するための電源回路と、電流制御素子を駆動することにより、ノイズ抑制電圧を生成する補助回路制御部を備えたことを特徴とする。
【0020】
請求項11の発明のインバータ装置は、上記発明において電流制御素子は、互いに逆極性を有する2個のトランジスタから成り、各トランジスタはプッシュプル回路を構成することを特徴とする。
【0021】
請求項12の発明は、上記各発明のインバータ装置がモータを内蔵した電動コンプレッサに搭載されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
請求項1及び請求項3の発明によれば、従来同様に線間電圧を変化させずに電圧の制御範囲を拡大することができる。特に、請求項1及び請求項3の発明では一相の指令値(請求項3ではパルス幅指令値)を反転させているので、当該一相の指令値が最大値又は最小値となっている領域では、当該指令値は他の相の指令値と同じ値となる。これにより、当該領域では前記一相の相電圧の立ち上がりタイミングと他の相の相電圧の立ち下がりタイミング、及び、一相の相電圧の立ち下がりタイミングと他の相の相電圧の立ち上がりタイミングを完全に同期させ、モータのコモンモード電圧の変動により発生するコモンモードノイズを抑制することが可能となる。
【0023】
これにより、広い運転領域を確保しながらコモンモードノイズを抑制するインバータ装置を小型で安価なかたちで実現することができるようになり、請求項12の如き電動コンプレッサのモータを駆動する際に極めて有効となる。
【0024】
実際には請求項7の発明の如く、前記一相のみ他の相とは逆の上下アームスイッチング素子がONした状態からスイッチングの規定区間が開始するようにすることで、円滑に立ち上がり、立ち下がりタイミングを同期させることができるようになる。
【0025】
この場合、各相の上下アームスイッチング素子がそれぞれ接続される制御装置の出力ポートの出力が、全ての上アームスイッチング素子がON、又は、全ての下アームスイッチング素子がONした状態からスイッチングの規定区間が開始される構成である場合には、請求項8の発明の如く前記一相の上下アームスイッチング素子のみ逆の出力ポートに接続することで簡単に請求項7の発明を実現することができる。
【0026】
また、請求項2や請求項4の発明の如く反転する前と反転した後で前記一相の相電圧にて上アーム電源ライン電圧が印加されている幅が一キャリア周期において変化しないように、当該一相の上下アームスイッチング素子のスイッチングを制御することで、モータの運転性能にも支障が生じない。
【0027】
尚、指令値(相電圧指令値)に加える同一の値は、請求項5の発明の如く指令値(相電圧指令値)のうちの中間値の2分の1とする。
【0028】
ここで、前記反転した一相が指令値(パルス幅指令値)のうちの中間値となる領域においては、反転させても他の相の指令値(パルス幅指令値)と同じ値とならないが、その領域では請求項6の発明の如く前記一相の相電圧の立ち上がりタイミングと他の相の相電圧の立ち下がりタイミング、及び/又は、前記一相の相電圧の立ち下がりタイミングともう一つの他の相の相電圧の立ち上がりタイミングを同期させることで、係る領域においてもコモンモード電圧の変動を抑制し、コモンモードノイズの低減を図ることが可能となる。
【0029】
この場合も、請求項7の発明の如く前記一相のみ他の相とは逆の上下アームスイッチング素子がONした状態からスイッチングの規定区間が開始するようにすることで、円滑に立ち上がり、立ち下がりタイミングを同期させることができるようになる。
【0030】
また、請求項9の発明の如くモータのコモンモード電圧を相殺するためのノイズ抑制電圧を生成する補助回路を更に設けることで、コモンモード電圧を完全に抑制することも可能となる。この場合にも、請求項1乃至請求項8の発明によりコモンモード電圧の変動が抑制されているので、補助回路自体の構成や動作も簡易化することが可能となる。
【0031】
具体的な補助回路は請求項10の発明の如き電流制御素子と、この電流制御素子と接地間に接続されたカップリングコンデンサと、電流制御素子に所定の低電圧を印加するための電源回路と、電流制御素子を駆動することにより、ノイズ抑制電圧を生成する補助回路制御部から構成する。
【0032】
また、電流制御素子は、請求項11の発明の如く互いに逆極性を有する2個のトランジスタから成るプッシュプル回路で構成することになるが、この場合にも電源回路にてトランジスタに印加する電圧は所定の低電圧とされているので、低耐圧の素子を使用できるようになり、補助回路の小型化と低コスト化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明の一実施例のインバータ装置の電気回路図である。
図2図1のインバータ装置を備えた一実施例の電動コンプレッサの縦断側面図である。
図3図1のインバータ装置のゲートドライバの動作を説明する図である。
図4】モータのコモンモード電圧を説明するための図1のインバータ装置のもう一つの電気回路図である。
図5】インバータ装置の相電圧指令値を説明する図である。
図6】インバータ装置の一般的なパルス幅指令値を説明する図である。
図7図6の線間電圧を説明する図である。
図8】各相のパルス幅指令値に同一の値を加算した場合のパルス幅指令値を説明する図である。
図9図8の線間電圧を説明する図である。
図10図8の場合の相電圧とコモンモード電圧等を説明する図である。
図11図8においてU相のみパルス幅指令値を反転させた場合の新たなパルス幅指令値を説明する図である。
図12図11の線間電圧を説明する図である。
図13図11の場合の相電圧とコモンモード電圧等を説明する図である。
図14図11の場合の相電圧とコモンモード電圧を360度で示した図である。
図15図11の場合に更にU相電圧が中間値である領域で、その立ち上がりタイミングと立ち下がりタイミングを他の相の立ち下がりタイミングと立ち上がりタイミングに同期させた場合の相電圧とコモンモード電圧等を説明する図である。
図16図15の場合の相電圧とコモンモード電圧を360度で示した図である。
図17図1のインバータ装置に更に補助回路を追加した場合の電気回路図である。
図18図17の場合の相電圧とコモンモード電圧を360度で示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて詳細に説明する。先ず、図2を参照しながら本発明のインバータ装置1を一体に備えた実施例の電動コンプレッサ(所謂インバータ一体型電動コンプレッサ)16について説明する。尚、実施例の電動コンプレッサ16は、エンジン駆動自動車やハイブリッド自動車、電気自動車等の車両に搭載される車両用空気調和装置の冷媒回路の一部を構成するものである。
【0035】
(1)電動コンプレッサ16の構成
図2において、電動コンプレッサ16の金属性の筒状ハウジング2内は、当該ハウジング2の軸方向に交差する仕切壁3により圧縮機構収容部4とインバータ収容部6とに区画されており、圧縮機構収容部4内に例えばスクロール型の圧縮機構7と、この圧縮機構7を駆動するモータ8が収容されている。この場合、ハウジング2は車両のシャシー(接地)に導通されている。また、モータ8はハウジング2に固定されたステータ9と、このステータ9の内側で回転するロータ11から成るIPMSM(Interior Permanent Magnet Synchronous Motor)である。
【0036】
仕切壁3の圧縮機構収容部4側の中心部には軸受部12が形成されており、ロータ11の駆動軸13の一端はこの軸受部12に支持され、駆動軸13の他端は圧縮機構7に連結されている。ハウジング2の圧縮機構収容部4に対応する位置の仕切壁3近傍には吸入口14が形成されており、モータ8のロータ11(駆動軸13)が回転して圧縮機構7が駆動されると、この吸入口14からハウジング2の圧縮機構収容部4内に作動流体である低温の冷媒が流入し、圧縮機構7に吸引されて圧縮される。
【0037】
そして、この圧縮機構7で圧縮され、高温・高圧となった冷媒は、図示しない吐出口よりハウジング2外の前記冷媒回路に吐出される構成とされている。また、吸入口14から流入した低温の冷媒は、仕切壁3近傍を通ってモータ8の周囲を通過し、圧縮機構7に吸引されることから、仕切壁3も冷却されることになる。
【0038】
そして、この仕切壁3で圧縮機構収容部4と区画されたインバータ収容部6内には、モータ8を駆動制御する本発明のインバータ装置1が収容される。この場合、インバータ装置1は、仕切壁3を貫通する密封端子やリード線を介してモータ8に給電する構成とされている。
【0039】
(2)インバータ装置1の構造(スイッチング素子18A~18Fの配置)
実施例の場合、インバータ装置1は、基板17と、この基板17の一面側に配線された上アームスイッチング素子18A、18B、18Cと、下アームスイッチング素子18D、18E、18Fの計6個のスイッチング素子と、基板17の他面側に配線された制御装置21と、図示しないHVコネクタ、LVコネクタ等から構成されている。各上下アームスイッチング素子18A~18Fは、実施例ではMOS構造をゲート部に組み込んだ絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)等から構成されている。
【0040】
この場合、実施例では後述する三相のインバータ回路28のU相インバータ19Uの上アームスイッチング素子18Aと下アームスイッチング素子18D、V相インバータ19Vの上アームスイッチング素子18Bと下アームスイッチング素子18E、W相インバータ19Wの上アームスイッチング素子18Cと下アームスイッチング素子18Fは二つずつそれぞれ並んだかたちで配置されている。
【0041】
また、各スイッチング素子18A~18Fの端子部22は、基板17の中心側となった状態で基板17に接続されている。そして、このように組み立てられたインバータ装置1は、各スイッチング素子18A~18Fがある一面側が仕切壁3側となった状態でインバータ収容部6内に収容されて仕切壁3に取り付けられ、カバー23にて塞がれる。この場合、基板17は仕切壁3から起立するボス部24を介して仕切壁3に固定されることになる。
【0042】
このようにインバータ装置1が仕切壁3に取り付けられた状態で、各スイッチング素子18A~18Fは仕切壁3に直接若しくは所定の絶縁熱伝導材を介して密着し、ハウジング2の仕切壁3と熱交換関係となる。そして、前述した如く仕切壁3は圧縮機構収容部4内に吸入される冷媒によって冷やされているので、各スイッチング素子18A~18Fは仕切壁3を介して吸入冷媒と熱交換関係となり、仕切壁3の厚みを介して圧縮機構収容部4内に吸入された冷媒によって冷却され、各スイッチング素子18A~18F自体は仕切壁3を介して冷媒に放熱するかたちとなる。
【0043】
(3)インバータ装置1の回路構成
次に、図1においてインバータ装置1は、前述した三相のインバータ回路28と、制御装置21を備えている。インバータ回路28は、直流電源(車両のバッテリ:例えば、DC350V)29の直流電圧Vdcを三相交流電圧(三相交流出力)に変換してモータ8に印加する回路である。このインバータ回路28は、U相ハーフブリッジ回路19U、V相ハーフブリッジ回路19V、W相ハーフブリッジ回路19Wを有しており、各相ハーフブリッジ回路19U~19Wは、それぞれ上アームスイッチング素子18A~18Cと、下アームスイッチング素子18D~18Fを個別に有している。更に、各スイッチング素子18A~18Fには、それぞれフライホイールダイオード31が逆並列に接続されている。
【0044】
そして、インバータ回路28の上アームスイッチング素子18A~18Cの上端側は、直流電源29の上アーム電源ライン(正極側母線)10に接続されている。一方、インバータ回路28の下アームスイッチング素子18D~18Fの下端側は、直流電源29の下アーム電源ライン(負極側母線)15に接続されている。
【0045】
尚、32Aは上アーム電源ライン10とシャシー(接地)間に接続されたYコンデンサであり、32Bは下アーム電源ライン15とシャシー(接地)間に接続されたYコンデンサである。これにより、上アーム電源ライン10の電圧は+Vdc/2、下アーム電源ライン15の電圧は-Vdc/2となり、この電圧(+Vdc/2、及び、-Vdc/2)がインバータ回路28に印加される。
【0046】
この場合、U相ハーフブリッジ回路19Uの上アームスイッチング素子18Aと下アームスイッチング素子18Dが直列に接続され、V相ハーフブリッジ回路19Vの上アームスイッチング素子18Bと下アームスイッチング素子18Eが直列に接続され、W相ハーフブリッジ回路19Wの上アームスイッチング素子18Cと下アームスイッチング素子18Fが直列に接続されている。
【0047】
そして、U相ハーフブリッジ回路19Uの上アームスイッチング素子18Aと下アームスイッチング素子18Dの接続点(U相電圧Vu)は、モータ8のU相の電機子コイル41(図4)に接続され、V相ハーフブリッジ回路19Vの上アームスイッチング素子18Bと下アームスイッチング素子18Eの接続点(V相電圧Vv)は、モータ8のV相の電機子コイル42(図4)に接続され、W相ハーフブリッジ回路19Wの上アームスイッチング素子18Cと下アームスイッチング素子18Fの接続点(W相電圧Vw)は、モータ8のW相の電機子コイル43(図4)に接続されている。
【0048】
(4)制御装置21の構成
次に、制御装置21はプロセッサを有するマイクロコンピュータから構成されており、実施例では車両ECUから回転数指令値を入力し、モータ8からモータ電流(相電流)を入力して、これらに基づき、インバータ回路28の各スイッチング素子18A~18FのON/OFF状態(スイッチング)を制御する。具体的には、各スイッチング素子18A~18Fのゲート端子に印加するゲート電圧を制御する。
【0049】
実施例の制御装置21は、相電圧指令演算部33と、パルス幅指令演算部34と、PWM信号生成部36と、ゲートドライバ37と、モータ8に流れる各相のモータ電流(相電流)であるU相電流iu、V相電流iv、W相電流iwを測定するためのカレントトランスから成る電流センサ26A、26Bを有しており、各電流センサ26A、26Bは相電圧指令演算部33に接続されている。
【0050】
尚、電流センサ26AはU相電流iuを測定し、電流センサ26BはV相電流ivを測定する。そして、W相電流iwはこれらから計算により求める。また、各相のモータ電流を検出する方法については実施例のように電流センサ26A、26Bで測定する以外に、下アーム電源ライン15の電流値を検出し、その電流値とモータ8の運転状態から相電圧指令演算部33が推定する方法などがあることから、各相電流を検出・推定する方法に関しては、特に限定しない。
【0051】
(4-1)相電圧指令演算部33
この相電圧指令演算部33は、モータ8の電気角、電流指令値と相電流から得られるd軸電流、q軸電流に基づくベクトル制御により、モータ8の各相の電機子コイル41~43に印加するU相電圧Vu、V相電圧Vv、W相電圧Vwを生成するための三相変調の相電圧指令値Vu(以下、U相電圧指令値Vu)、Vv(以下、V相電圧指令値Vv)、Vw(以下、W相電圧指令値Vw)を演算し、出力する。この場合、相電圧指令演算部33は、d軸電流及びq軸電流から得られるd軸電圧指令値Vd及びq軸電圧指令値Vqにより、下記数式(I)を用いて各相電圧指令値Vu、Vv、Vwを算出する。尚、数式(I)中のθreはモータ電気角である。これらの相電圧指令値Vu、Vv、Vwは、モータ8の三相変調制御を行う場合における電圧指令値である。
【0052】
【数1】
【0053】
(4-2)パルス幅指令演算部34
パルス幅指令演算部34は、相電圧指令演算部33により演算され、出力された各相電圧指令値Vu、Vv、Vwから、下記数式(II)を用いて、0~1で正規化された各相のパルス幅指令値Cu(以下、U相パルス幅指令値)、Cv(以下、V相パルス幅指令値)、Cw(以下、W相パルス幅指令値)を演算し、出力する。尚、数式(II)中のvmodは線間変調を行う場合の加算値であり、後述する線間変調を行う場合には、この加算値vmodがそれぞれ加算された各相電圧指令値(Vu+vmod、Vv+vmod、Vw+vmod)から各相のパルス幅指令値Cu、Cv、Cwを演算することになるが、線間変調を行わない場合は加算値vmod=0となる。このパルス幅指令演算部34における線間変調や本発明の制御装置21による反転動作については後に詳述する。
【0054】
【数2】
【0055】
(4-3)PWM信号生成部36
PWM信号生成部36は、パルス幅指令演算部34により演算され、算出された各相のパルス幅指令値Cu、Cv、Cwに基づき、キャリア信号(実施例では図3の鋸波キャリアX1)との大小を比較することによって、インバータ回路28のU相インバータ19U、V相インバータ19V、W相インバータ19WをPWM制御するための駆動指令信号となるPWM信号を生成し、出力する。
【0056】
この場合、PWM信号生成部36は、下記数式(III)を用いて、各相の上アーム立ち上げ指令値(Cuu、Cvu、Cwu)、及び、上アーム立ち下げ指令値(Cud、Cvd、Cwd)を演算し、出力する。この場合、CuuはU相上アーム立ち上げ指令値、CudはU相上アーム立ち下げ指令値、CvuはV相上アーム立ち上げ指令値、CvdはV相上アーム立ち下げ指令値、CwuはW相上アーム立ち上げ指令値、CwdはW相上アーム立ち下げ指令値であり、何れも上述したPWM信号である。尚、数式(III)中のCAはキャリアカウント(鋸波キャリアX1)のピーク値である。本発明におけるPWM信号生成部36の動作についても後に詳述する。ここで、実施例ではパルス幅指令値として数式(II)にて生成した0~1で正規化されたパルス幅指令値Cu、Cv、Cwを用いるが、数式(III)にて実施するキャリアカウント(鋸波キャリアX1)のピーク値CAの乗算を数式(II)の時点であらかじめ実施すれば、正規化されていないパルス幅指令値を求めることができる。このように、正規化の有無はCAの乗算の有無のみを意味するため、本実施例に記載の方法はいずれの場合でも実現が可能である。そのため、本実施例では正規化されたパルス幅指令値Cu、Cv、Cwを単にパルス幅指令値とする。
【0057】
【数3】
【0058】
(4-4)ゲートドライバ37
ゲートドライバ37は、PWM信号生成部36から出力されるPWM信号(各相の上アーム立ち上げ指令値及び上アーム立ち下げ指令値)Cuu、Cud、Cvu、Cvd、Cwu、Cwdに基づき、各相の上アームゲート電圧(Vup、Vvp、Vwp)、及び、下アームゲート電圧(Vun、Vvn、Vwn)を生成し、出力する。この場合、Vup及びVunは、それぞれU相インバータ19Uの上アームスイッチング素子18A及び下アームスイッチング素子18Dのゲート電圧、Vvp及びVvnは、それぞれV相インバータ19Vの上アームスイッチング素子18B及び下アームスイッチング素子18Eのゲート電圧、Vwp及びVwnは、それぞれW相インバータ19Wの上アームスイッチング素子18C及び下アームスイッチング素子18Fのゲート電圧である。
【0059】
そして、インバータ回路28の各スイッチング素子18A~18Fは、ゲートドライバ37から出力される各ゲート電圧に基づき、ON/OFF駆動される。即ち、ゲート電圧がON状態(所定の電圧値)となるとスイッチング素子がON動作し、ゲート電圧がOFF状態(零)となるとスイッチング素子がOFF動作する。このゲートドライバ37は、スイッチング素子18A~18Fが前述したIGBTである場合には、PWM信号に基づいてゲート電圧をIGBTに印加するための回路であり、フォトカプラやロジックIC、トランジスタ等から構成される。
【0060】
(4-5)制御装置21の出力ポート
ここで、制御装置21はU相の上アームスイッチング素子用の出力ポート44A、U相の下アームスイッチング素子用の出力ポート44D、V相の上アームスイッチング素子用の出力ポート44B、V相の下アームスイッチング素子用の出力ポート44E、W相の上アームスイッチング素子用の出力ポート44C、W相の下アームスイッチング素子用の出力ポート44Fを有しており、ゲートドライバ37が出力するゲート電圧Vupは出力ポート44Aから出力され、ゲート電圧Vunは出力ポート44Dから出力される。また、ゲート電圧Vvpは出力ポート44Bから出力され、ゲート電圧Vvnは出力ポート44Eから出力され、ゲート電圧Vwpは出力ポート44Cから出力され、ゲート電圧Vwnは出力ポート44Fから出力される。
【0061】
また、実施例の制御装置21は、全ての上アームスイッチング素子用の出力ポート44A、44B、44Cから出力されるゲート電圧Vup、Vvp、VwpをON状態、又は、OFF状態としてスイッチングの規定区間を開始する構成とされている。従って、各相の上アームスイッチング素子18A、18B、18Cの各ゲートが出力ポート44A、44B、44Cにそれぞれ接続され、下アームスイッチング素子18D、18E、18Fの各ゲートが出力ポート44D、44E、44Fにそれぞれ接続された場合には、全ての上アームスイッチング素子18A、18B、18CがON、又は、全ての下アームスイッチング素子18D、18E、18FがONした状態からスイッチングの規定区間が開始されることになる。
【0062】
その場合の一キャリア周期における各相の上アーム立ち上げ指令値Cuu、Cvu、Cwu、上アーム立ち下げ指令値Cud、Cvd、Cwd、鋸波キャリアX1、ゲート電圧Vup、Vun、Vvp、Vvn、Vwp、Vwn、各相電圧Vu、Vv、Vw、及び、モータ8のコモンモード電圧Vcmの関係を図3に示す。図3に示すようにU相上アーム立ち上げ指令値Cuu、上アーム立ち下げ指令値Cudが決まれば、U相の上アームスイッチング素子18Aのゲート電圧Vup、下アームスイッチング素子18Dのゲート電圧Vunの動作タイミングが決まる。V相、W相についても同様である。尚、各相の上アーム立ち上げ指令値Cuu、Cvu、Cwuは、厳密には各相の上アーム立ち上げの前に上下アームの同時立ち上げ状態を防ぐためのデッドタイムを入れた下アーム立ち下げ指令値であるが、上アーム立ち下げ指令(Cud、Cvd、Cwd)と合わせて分かりやすいように、上アーム立ち上げ指令として記載している。
【0063】
また、実際にモータ8に印加される電圧の変化タイミングは、モータ8に流れる電流の向きによって決まり、モータ8に流れ込む方向の場合には、上アームスイッチング素子のスイッチング時にモータ8に印加される電圧が決まり、モータ8から流れ出る方向の場合には、下アームスイッチング素子のスイッチング時にモータ8に印加される電圧が決まる。図3の場合、U相とV相はモータ8から流れ出る方向、W相はモータ8に流れ込む方向に電流が流れている場合を示している。また、図3の場合、モータ8のコモンモード電圧Vcmは4レベルで変動していることが分かる。
【0064】
後述する本発明の制御では、相電圧Vu、Vv、Vwのタイミングを調整することでコモンモード電圧Vcmの変動をキャンセルする動作を実現するものであるが、そのために、電流の向きにより上アーム立ち上げ指令値Cuu、Cvu、Cwu、上アーム立ち下げ指令値Cud、Cvd、Cwdのタイミングを微調整する。
【0065】
尚、実施例では鋸波キャリアX1を使用しているが、三角波キャリアでも上アーム立ち上げ指令値とゲート電圧の動作の関連が若干異なってくるものの、実現可能である。
【0066】
(4-6)本発明の実施例における出力ポートとゲートの接続
通常の使用方法では各上下アームスイッチング素子18A~18Fのゲートは上述のように各出力ポート44A~44Fに接続するものであるが、本発明の実施例では図1に示す如く、U相の上アームスイッチング素子18Aのゲートを制御装置21の出力ポート44Dに接続し、下アームスイッチング素子18Dのゲートを出力ポート44Aに接続している。V相とW相は変えていない。即ち、U相の上下アームスイッチング素子18A、18Dのみ逆の出力ポート44D、44Aに接続する。それによる作用についても後述する。
【0067】
(4-7)相電圧Vu、Vv、Vw
そして、U相ハーフブリッジ回路19Uの上アームスイッチング素子18Aと下アームスイッチング素子18Dの接続点の電圧がU相電圧Vu(相電圧)としてモータ8のU相の電機子コイル41(図4)に印加(出力)され、V相ハーフブリッジ回路19Vの上アームスイッチング素子18Bと下アームスイッチング素子18Eの接続点の電圧がV相電圧Vv(相電圧)としてモータ8のV相の電機子コイル42(図4)に印加(出力)され、W相ハーフブリッジ回路19Wの上アームスイッチング素子18Cと下アームスイッチング素子18Fの接続点の電圧がW相電圧Vw(相電圧)としてモータ8のW相の電機子コイル43(図4)に印加(出力)される。
【0068】
(5)制御装置21の動作
次に、図4図16を参照しながら、制御装置21の動作について説明する。
(5-1)コモンモード電圧Vcm
先ず、図4を参照しながらモータ8のコモンモード電圧Vcmの考え方について説明する。モータを駆動するインバータ装置は、PWMによりモータにパルス電圧を印加する。このパルス電圧は高調波特性を持ち、この高調波特性がモータが持つ浮遊容量を通してモータ(電動コンプレッサ)の外に漏洩する。この漏洩する電流について求めると、コンデンサCに流れる電流Iは一般的に下記数式(IV)で表現される。
【0069】
【数4】
【0070】
電動コンプレッサ16のハウジング2から漏洩するコモンモード電流Icmは、各相毎に漏洩するコモンモード電流Icu、Icv、Icwの総和になるため、下記数式(V)で表現できる。
【0071】
【数5】
【0072】
ここで、モータの各相毎の浮遊容量Ccu、Ccv、Ccwが等しい場合、下記数式(VI)のようになる。
【0073】
【数6】
【0074】
更に、モータの浮遊容量を三相分加算した三相コモンモード浮遊容量Cmを考えると、下記数式(VII)のようになる。
【0075】
【数7】
【0076】
この関係を適用すると、下記数式(VIII)のようになる。
【0077】
【数8】
【0078】
以上により、インバータによって発生するコモンモード電流を励起するコモンモード電圧Vcmを定義すると、下記数式(IX)となる。
【0079】
【数9】
【0080】
このコモンモード電圧によりモータ(電動コンプレッサ)から漏洩するコモンモード電流が励起される。そのため、このコモンモード電圧の発生を抑制することで、コモンモードノイズを抑制することができる。
【0081】
また、図4の場合、全体のコモンモード電流Ic、及び、全体のコモンモード電圧Vcは、インバータにより発生するコモンモード電流Icm、インバータにより発生するコモンモード電圧Vcmのみであるため、下記数式(X)の関係となる。
【0082】
【数10】
【0083】
(5-2)線間変調と反転動作
次に、本発明の制御装置21による線間変調と反転動作について説明する。
(5-2-1)通常のパルス幅指令演算部34の動作
先ず、図5は相電圧指令演算部33が出力する各相電圧指令値Vu、Vv、Vwを示し、図6は通常のパルス幅指令演算部34が出力する各相のパルス幅指令値Cu、Cv、Cwを示し、図7はその場合の線間電圧Vu-v、Vv-w、Vw-uを示している。
【0084】
(5-2-2)本発明のパルス幅指令演算部34における線間変調
他方、本発明のパルス幅指令演算部34は、各相のパルス幅指令値Cu、Cv、Cwのうちの最大値の相電圧にて上アーム電源ライン電圧(上アーム電源ライン10の電圧)が印加されている区間と最小値の相電圧にて下アーム電源ライン電圧(下アーム電源ライン15の電圧)が印加されている区間が常に等しくなるように、各相の相電圧指令値Vu、Vv、Vwに同一の加算値vmod(数式(II))を加算する線間変調を実施する。この同一の加算値vmodは、各相電圧指令値Vu、Vv、Vwのうちの中間値vmiddleの2分の1とする。
【0085】
この場合の各相電圧指令値Vu、Vv、Vw図5に示し、各相のパルス幅指令値Cu、Cv、Cwを図8に示し、線間電圧Vu-v、Vv-w、Vw-uを図9に示す。例えば、図8の0度~60度の領域では、中間値vmiddleとなっているV相電圧指令値Vvの2分の1を、各相電圧指令値Vu、Vv、Vwに加算し、60度~120度の領域では、中間値vmiddleとなっているU相電圧指令値Vuの2分の1を、各相電圧指令値Vu、Vv、Vwに加算するという具合である。
【0086】
同一の加算値vmodを加算するので、線間電圧Vu-v、Vv-w、Vw-uは変わらない(図7図9参照)。このような線間変調により、線間電圧を変化させずに電圧の制御範囲を拡大することができる。しかしながら、この場合の一キャリア周期における各相の上アーム立ち上げ指令値Cuu、Cvu、Cwu、上アーム立ち下げ指令値Cud、Cvd、Cwd、鋸波キャリアX1、各相電圧Vu、Vv、Vw、及び、モータ8のコモンモード電圧Vcmを図10に示す。図10の場合、モータ8のコモンモード電圧Vcmは4レベルで変動してしまうので、コモンモードノイズが大きくなることが分かる。
【0087】
(5-2-3)本発明の制御装置21による反転動作
そこで、本発明のパルス幅指令演算部34は、上記線間変調に加えて、一相(実施例ではU相)のパルス幅指令値を反転させる反転動作を実行する。この場合、パルス幅指令演算部34は、U相パルス幅指令値として(1-Cu)を出力し、この(1-Cu)と、V相パルス幅指令値Cvと、W相パルス幅指令値Cwを新たなパルス幅指令値として出力する。
【0088】
これにより、U相パルス指令値(1-Cu)は図8の場合のU相パルス幅指令値Cuが図11に示す如く反転されたかたちとなる。このとき、線間変調によりパルス幅指令値の最大値の相電圧にて上アーム電源ライン電圧が印加されている区間と最小値の相電圧にて下アーム電源ライン電圧が印加されている区間は等しいものとされているので、図11の0度~60度の領域と、180度~240度の領域ではU相パルス幅指令値(1-Cu)とW相パルス幅指令値Cwが同じ値となり、120度~180度の領域と、300度~360度の領域ではU相パルス幅指令値(1-Cu)とV相パルス幅指令値Cvが同じ値となる。
【0089】
即ち、0度~60度の領域と、180度~240度の領域ではU相電圧VuとW相電圧Vwのスイッチングタイミングが一致し、120度~180度の領域と、300度~360度の領域ではU相電圧VuとV相電圧Vvのスイッチングタイミングが一致することになる。そして、前述した如くU相については上下アームスイッチング素子18A、18Dのゲートが制御装置21の出力ポート44D、44Aに逆に接続されているので、上記各領域ではU相電圧Vuの立ち上がりタイミング/立ち下がりタイミングとW相電圧Vwの立ち下がりタイミング/立ち上がりタイミングが一致し、或いは、U相電圧Vuの立ち上がりタイミング/立ち下がりタイミングとV相電圧Vvの立ち下がりタイミング/立ち上がりタイミングが一致して、コモンモード電圧Vcmの変動が抑えられることになる。
【0090】
図13は180度~240度の領域での一キャリア周期における各相の上アーム立ち上げ指令値Cuu、Cvu、Cwu、上アーム立ち下げ指令値Cud、Cvd、Cwd、鋸波キャリアX1、各相電圧Vu、Vv、Vw、及び、モータ8のコモンモード電圧Vcmを示している。この領域では、U相の上アームスイッチング素子18AがONし、V相とW相の下アームスイッチング素子18E、18FがONした状態からスイッチングの規定区間が開始されている。
【0091】
そして、図13に示す180度~240度の領域では、U相電圧Vuの立ち下がりタイミングとW相電圧Vwの立ち上がりタイミングが同期し、U相電圧Vuの立ち上がりタイミングとW相電圧Vwの立ち下がりタイミングが同期していることが分かる。これにより、コモンモード電圧Vcmの変動は2レベルに抑えられ、コモンモードノイズの発生が抑制される。
【0092】
次に、係る反転動作を実行してモータ8の運転を実現するためのPWM信号生成部36の具体的な動作について数式に基づき説明する。PWM信号生成部36は、前記数式(III)を用いて各相の上アーム立ち上げ指令値(Cuu、Cvu、Cwu)、及び、上アーム立ち下げ指令値(Cud、Cvd、Cwd)を演算することは既に述べた。この数式(III)を一般式にすると、下記数式(XI)のようになる。ここで、Cxは出力したいパルス幅であり、Cxuは上アーム立ち上げ指令値、Cxdは上アーム立ち下げ指令値を示す。
【0093】
【数11】
【0094】
一般的なインバータ装置では、Cxは図10に示した如く、全て相電圧がONとなるパルス幅指令値(上アーム立ち上げ指令値)が当てはまっていた。
【0095】
一方、本発明の実施例ではU相については、上下アームスイッチング素子18A、18Dのゲートを制御装置21の出力ポート44D、44Aに逆に接続しているので、図13のようになる。このとき、U相上アーム立ち上げ指令値Cuuと、U相上アーム立ち下げ指令値Cudは、数式(III)中のものから、下記数式(XII)のように変化する。尚、V相とW相については数式(III)の中のもののままである。
【0096】
【数12】
【0097】
数式(XI)と数式(XII)を比較すると、先ず、立ち上げと立ち下げの順序が逆転するため、CuuとCudが逆転している。また、PWMの順序が逆転するため、出力したいパルス幅Cxは、相電圧がOFFとなるパルス幅指令値をセットする必要がある。ONとなるパルス幅とOFFとなるパルス幅を加算すると1になるため、OFFとなるパルス幅は、ONとなるパルスはば指令値で表現すると、前述した(1-Cu)となる。
【0098】
以上により、U相の上下アームスイッチング素子18A、18Dのゲートを制御装置21の出力ポート44D、44Aに逆に接続した場合でも、数式(XII)のようにCud、Cuuを与えることで、狙い通りのONとなるパルス幅を出力することができるようになる。即ち、PWM信号生成部36は、反転する前と後でU相電圧Vuが立ち上がっている幅(U相電圧Vuにて上アーム電源ライン10の電圧が印加されている幅)が一キャリア周期において変化しないように上アーム立ち上げ指令値Cuu、上アーム立ち下げ指令値Cudを生成するので、線間電圧は図12に示すように図9と同様となって変化しなくなり、モータ8は支障なく運転されることになる。尚、上記のようにU相の上下アームスイッチング素子18A、18Dのゲートを制御装置21の出力ポート44D、44Aに逆に接続した場合、PWM信号生成部36において数式(XII)で求めたCudとCuuをゲートドライバ37に渡す際には、Cudをゲートドライバ37のCuuを格納するためのレジスタに出力し、Cuuはゲートドライバ37のCudを格納するためのレジスタに出力する。
【0099】
また、CvuとCudの値が等しい場合は、V相の立ち上げとU相の立ち下げのスイッチングタイミングが一致する。同様に、CvdとCuuの値が等しい場合には、V相の立ち下げとU相の立ち上げのスイッチングタイミングが一致する。数式(III)と数式(XII)より、Cvu=Cud、Cvd=Cuuとすると、下記数式(XIII)が成立する場合、スイッチングタイミングが一致するということが分かる。これは、U相とW相についても同様のことが云える。
【0100】
【数13】
【0101】
図14は上述した本発明の制御装置21による線間変調と反転動作を実行した場合の各相電圧Vu、Vv、Vwとコモンモード電圧Vcmを360度で示している。図14中の破線で囲んだ領域と、一点鎖線で囲んだ領域では、上記のようにコモンモード電圧Vcmの変動を抑制できていることが分かる。
【0102】
(5-3)シフト制御
しかしながら、360度で見ると、60度~120度の領域、240度~300度の領域では、図8に示す如くU相パルス幅指令値Cuが中間値vmiddleとなるため、U相はV相、W相の何れかの次に動作することになり、図14の右下に示すように反転した(1-Cu)は他の二相と一致せず、360度で示した図から明らかな如く、一キャリア周期中でコモンモード電圧Vcmが、他の領域より多く変動している。そこで、制御装置21はU相パルス幅指令値Cu(あるいは、反転したU相パルス幅指令値(1-Cu)で考えてもよい)が中間値vmiddleとなっている60度~120度の領域、240度~300度の領域においては、以下に説明するシフト制御を更に実行する。
【0103】
係るシフト制御について、図15図16に基づいて説明する。図15中の左側の図は、図14の60度~120度の領域での一キャリア周期における各相の上アーム立ち上げ指令値Cuu、Cvu、Cwu、上アーム立ち下げ指令値Cud、Cvd、Cwd、鋸波キャリアX1、各相電圧Vu、Vv、Vw、及び、モータ8のコモンモード電圧Vcmを示している。この領域でも、U相の上アームスイッチング素子18AがONし、V相とW相の下アームスイッチング素子18E、18FがONした状態からスイッチングの規定区間が開始されている。
【0104】
そして、図15中の左側の図では、コモンモード電圧Vcmの変動は2レベルであるものの、一キャリア周期中で6回変動していることが分かる。そこで、実施例ではPWM信号生成部36が、下記数式(XIV)を用いてU相上アーム立ち下げ指令値Cudを、V相上アーム立ち上げ指令値Cvuまで下げ、U相のパルス幅を保つため、U相上アーム立ち上げ指令値Cuuも同じ幅だけ下げる。
【0105】
【数14】
【0106】
尚、数式(XIV)は下記数式(XV)に置き換えられる。
【0107】
【数15】
【0108】
これにより、図15中の中央の図に示す如く、U相電圧Vuの立ち下がりタイミングとV相電圧Vvの立ち上がりタイミングが同期する。更に、PWM信号生成部36は、下記数式(XVI)を用いてW相上アーム立ち下げ指令値Cwdを、U相上アーム立ち上げ指令値Cuuに合わせるように移動させ、W相のパルス幅を保つため、W相上アーム立ち上げ指令値Cwuも同じ幅だけ移動させる。
【0109】
【数16】
【0110】
尚、数式(XVI)は下記数式(XVII)に置き換えられる。
【0111】
【数17】
【0112】
これにより、図15中の右側の図に示す如く、U相電圧Vuの立ち上がりタイミングとW相電圧Vwの立ち下がりタイミングも同期することになり、コモンモード電圧Vcmの変動は2レベルで、一キャリア周期中に2回(立ち上がり1回、立ち下がり1回ずつ)に削減されることが分かる。
【0113】
尚、240度~300度の領域においても同様のシフト制御を実行するものであるが、この領域においては、60度~120度の領域とはV相とW相の関係が逆になるため、前述した数式(XV)と数式(XVII)は下記数式(XVIII)のようになる。
【0114】
【数18】
【0115】
図16は前述した線間変調と反転動作に加えて上記シフト制御を実行した場合の各相電圧Vu、Vv、Vwとコモンモード電圧Vcmを360度で示している。シフト制御を行うことにより、U相電圧指令値Vuが中間値vmiddleとなる領域(U相がV相或いはW相と反対のPWMにならない領域)においてもスイッチングタイミングを同期させ、コモンモードノイズの発生を抑制することができたことが分かる。
【0116】
(6)補助回路46
次に、図17図18を参照しながら更に補助回路46を追加した場合について説明する。前述した如く、制御装置21による線間変調、反転動作及びシフト制御により、コモンモード電圧Vcmの変動は2レベルで、一キャリア周期中に2回に削減された。このような少ない変動であれば、簡単な構成の補助回路46を追加して全体のコモンモード電圧Vcの変動を更に抑制することが可能である。
【0117】
そこで、図1図4に示したインバータ装置1に、補助回路46を追加して設ける。図17はこの場合の電気回路を示している。図17中で図14と同一の部分は同一の符号を付して示しており、この場合は図14の回路に補助回路46を追加する。補助回路46は、絶縁トランス47と、この絶縁トランス47の一次側に設けられた低電圧電源48(例えば、直流電源29から生成される)、コンデンサ49、抵抗51、ダイオード52、スイッチング素子53、フライホイールダイオード54と、絶縁トランス47の二次側の正極側母線56に接続された整流ダイオード57と、絶縁トランス47の正極側母線56と負極側母線58間に接続された抵抗61、62と、Yコンデンサ63、64を有しており、これらにより補助回路46の電源回路65が構成され、実施例では正極側母線56の電圧を+Vdc/30(所定の低電圧)とし、負極側母線58の電圧を-Vdc/30(所定の低電圧)としている。この補助回路46の絶縁トランス47の二次側で生成される+Vdc/30、及び、-Vdc/30が、実施例では制御装置21側でインバータ回路28に印加される+Vdc/2、及び、-Vdc/2よりも低い所定の低電圧である。
【0118】
そして、この電源回路65の正極側母線56と負極側母線58間に、電流制御素子66が接続され、上記+Vdc/30、及び、-Vdc/30(所定の低電圧)が印加される。実施例の電流制御素子66は、NPNトランジスタ67とPNPトランジスタ68から成り、各トランジスタ67、68はプッシュプル回路を構成している。そして、各トランジスタ67、68のエミッタとシャシー(接地)間に、リアクタンス69と、抵抗71と、カップリングコンデンサ72が接続されている。
【0119】
図中73はマイクロコンピュータから構成された補助回路制御部であり、この補助回路制御部73が絶縁型ゲートドライバ74を介して、電流制御素子66の各トランジスタ67、68のベースを駆動してスイッチングする構成とされている。以上が実施例の補助回路46の構成であり、この補助回路46も電動コンプレッサ16のインバータ収容部6に配置される。
【0120】
次に、係る補助回路46の動作を数式を用いて説明する。補助回路46の補助回路制御部73は、前述した制御装置21による線間変調、反転動作及びシフト制御により、変動が2レベルで、一キャリア周期中で2回に削減されたコモンモード電圧Vcmを相殺するためのノイズ抑制電圧Vcxを生成するように、絶縁型ゲートドライバ74にて電流制御素子66の各トランジスタ67、68をスイッチング駆動(PWM駆動)し、このノイズ抑制電圧Vcxをカップリングコンデンサ72に加える。
【0121】
モータ8より漏洩するコモンモード電流Icと前述したモータ8のコモンモード電圧Vcmの関係は下記数式(XIX)の通りである。
【0122】
【数19】
【0123】
上記コモンモード電流Icを0としてコモンモード電圧Vcmの変動を1レベル(変動しないこと)まで低減するには、下記数式(XX)の関係となるような容量Cxのカップリングコンデンサ72を補助回路46に接続し、補助回路制御部73によりノイズ抑制電圧Vcxを生成すればよい。
【0124】
【数20】
【0125】
ここで、前述した如くコモンモード電圧Vcmの変動は2レベルに抑制されているので、コモンモード電圧Vcmは下記数式(XXI)の通りとなり、ノイズ抑制電圧Vcxはコモンモード電圧Vcmの逆向きで動作させるものとすると下記の通りとなる(同じく数式(XXI)中に示す。
【0126】
【数21】
【0127】
以上により、下記数式(XXII)のようにカップリングコンデンサ72の容量Cxを与える(選定する)ことで、コモンモード電流Ic=0とすることができる。
【0128】
【数22】
【0129】
上記得られたカップリングコンデンサ72の容量Cxを用いてコモンモード電流Icと全体のコモンモード電圧Vcを表現すると、下記数式(XXIII)のようになる。尚、数式(XXIII)中の(Vu+Vv+Vw)/3は数式(IX)で示したモータ8のコモンモード電圧Vcmである。
【0130】
【数23】
【0131】
制御装置21による線間変調、反転動作及びシフト制御を実施した上で、補助回路46の出力15Vcxを図18のように与えることで、全体のコモンモード電圧Vcの変動は完全に抑制される。尚、補助回路46の出力15Vcxは、実施例の回路における数値である。
【0132】
この場合、モータ8のコモンモード電圧Vcmの変動は2レベルで、一キャリア周期中に2回とされているので、補助回路46の電流制御素子66のスイッチング回数も低減される。そのため、補助回路46のPWM動作を、制御装置21によるモータ8の制御のPWM動作に連動して出力できるPWM信号を一本(単一で二値の制御信号)用いて動作させるたけで駆動することができるようになる。これにより、補助回路46の構成を簡素化することが可能となる。
【0133】
以上詳述した如く本発明によれば、パルス幅指令演算部34が実行する線間変調により、従来同様に線間電圧を変化させずに電圧の制御範囲を拡大することができる。特に、パルス幅指令演算部34はU相パルス幅指令値を反転させて(1-Cu)とするので、U相パルス幅指令値が最大値又は最小値となっている領域では、当該パルス幅指令値は他の相のパルス幅指令値と同じ値となる。これにより、当該領域ではU相電圧Vuの立ち上がりタイミングと他の相の相電圧の立ち下がりタイミング、及び、U相電圧Vuの立ち下がりタイミングと他の相の相電圧の立ち上がりタイミングを完全に同期させ、モータ8のコモンモード電圧Vcmの変動により発生するコモンモードノイズを抑制することが可能となる。
【0134】
これにより、広い運転領域を確保しながらコモンモードノイズを抑制するインバータ装置を小型で安価なかたちで実現することができるようになり、実施例の如き電動コンプレッサ16のモータ8を駆動する際に極めて有効となる。
【0135】
また、U相のみ他の相とは逆の上下アームスイッチング素子がONした状態からスイッチングの規定区間が開始するようにしているので、円滑に立ち上がり、立ち下がりタイミングを同期させることができるようになる。
【0136】
この場合、各相の上下アームスイッチング素子18A~18Fがそれぞれ接続される制御装置21の出力ポート44A~44Fの出力が、実施例のように全ての上アームスイッチング素子18A~18CがON、又は、全ての下アームスイッチング素子18D~18FがONした状態からスイッチングの規定区間が開始される構成である場合には、実施例の如くU相の上下アームスイッチング素子18A、18Dのみ逆の出力ポート44D、44Aに接続することで簡単に上記タイミングの同期を実現することができる。
【0137】
また、PWM信号生成部36は反転する前と反転した後でU相電圧Vuが立ち上がっている幅(U相電圧Vuにて上アーム電源ライン10の電圧が印加されている幅)が一キャリア周期において変化しないように、当該U相の上下アームスイッチング素子18A、18Dのスイッチングを制御するので、モータ8の運転性能にも支障が生じない。
【0138】
また、反転したU相パルス幅指令値が中間値となる領域においては、反転させても他の相のパルス幅指令値と同じ値とならないが、その領域ではU相電圧Vuの立ち上がりタイミングと他の相の相電圧の立ち下がりタイミング、U相電圧Vuの立ち下がりタイミングともう一つの他の相の相電圧の立ち上がりタイミングを同期させるシフト制御を実行するので、この領域においても、コモンモード電圧Vcmの変動を抑制し、コモンモードノイズの低減を図ることが可能となる。
【0139】
この場合も、U相のみ他の相とは逆の上下アームスイッチング素子がONした状態からスイッチングの規定区間が開始するようにしているので、円滑に立ち上がり、立ち下がりタイミングを同期させることができるようになる。
【0140】
また、モータ8のコモンモード電圧Vcmを相殺するためのノイズ抑制電圧Vcxを生成する補助回路46を更に設けることで、全体のコモンモード電圧Vcを完全に抑制することも可能となる。この場合にも、線間変調と反転動作、シフト制御によりモータ8のコモンモード電圧Vcmの変動が抑制されているので、補助回路46自体の構成や動作も簡易化される。
【0141】
この場合も実施例のように、補助回路46の電源回路65にて電流制御素子66を構成する各トランジスタ67、68に印加する電圧を所定の低電圧としているので、低耐圧の素子(トランジスタ)を使用することができるようになり、補助回路46の小型化と低コスト化を実現することができる。
【0142】
尚、上述した実施例では制御装置21により線間変調と反転動作に加えて、シフト制御も実行するようにしたが、請求項1~請求項5の発明では、線間変調と反転動作のみを実行するようにしてもよい。同様に請求項1~請求項8の発明には補助回路46を設けない場合も含まれる。また、請求項1~請求項5の発明によりコモンモード電圧Vcmの変動は2レベルに抑えられるため、請求項1~請求項5の発明に対して請求項9の発明の補助回路46を設けることで、補助回路のノイズ抑制電圧の生成回数が増加するものの、コモンモードノイズの発生抑制が可能である。
【0143】
また、実施例では制御装置21のパルス幅指令演算部34により線間変調と反転動作を実行するようにしたが、請求項1、請求項2の発明では、例えばPWM信号生成部36で線間変調と反転動作を実施するようにしてもよい。更に、前述した図13図15の例ではU相の上アームスイッチング素子18AがONし、V相とW相の下アームスイッチング素子18E、18FがONした状態からスイッチングの規定区間が開始される場合で説明したが、U相の下アームスイッチング素子18DがONし、V相とW相の上アームスイッチング素子18B、18CがONした状態からスイッチングの規定区間が開始されるようにしてもよい。
【0144】
更にまた、実施例では反転動作でU相パルス幅指令値Cuを反転させた(1-Cu)が、V相或いはW相を反転するようにしてもよい。また、実施例では電動コンプレッサのモータの駆動に本発明を適用したが、請求項1~請求項11の発明は電動コンプレッサ以外のモータにも有効であることは云うまでもない。
【符号の説明】
【0145】
1 インバータ装置
8 モータ
16 電動コンプレッサ
18A~18F 上下アームスイッチング素子
19U U相インバータ
19V V相インバータ
19W W相インバータ
21 制御装置
28 インバータ回路
33 相電圧指令演算部
34 パルス幅指令演算部
36 PWM信号生成部
37 ゲートドライバ
44A~44F 出力ポート
46 補助回路
65 電源回路
66 電流制御素子
67、68 トランジスタ
72 カップリングコンデンサ
73 補助回路制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18