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特開2023-149184光学測定装置、光学測定システム、及び光学測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149184
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】光学測定装置、光学測定システム、及び光学測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/64 20060101AFI20231005BHJP
   G01N 21/05 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
G01N21/64 B
G01N21/64 Z
G01N21/05
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022057615
(22)【出願日】2022-03-30
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-06-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100169823
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 雄郎
(74)【代理人】
【識別番号】100202326
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 大佑
(72)【発明者】
【氏名】小川 潤一
【テーマコード(参考)】
2G043
2G057
【Fターム(参考)】
2G043AA03
2G043BA16
2G043CA04
2G043CA07
2G043DA05
2G043EA01
2G043FA03
2G043HA09
2G043KA09
2G043LA02
2G043LA03
2G043NA01
2G057AA04
2G057AB04
2G057AC01
2G057BA05
2G057DC07
2G057GA01
(57)【要約】
【課題】長時間の物性パラメータを有する試料に対しても物性パラメータを短時間で測定できる光学測定装置を提供する。
【解決手段】本開示に係る光学測定装置10は、移動する試料の移動経路上の一の第1照射領域R1に励起光L1を照射する第1照射部11aと、移動経路上で一の第1照射領域R1よりも試料の移動方向側に位置する第2照射領域R2にプローブ光L2を照射する第2照射部11bと、第2照射部11bによって試料に照射されたプローブ光L2を検出する検出部12b1と、励起光L1による励起によって生じる試料の光学パラメータの過渡応答において互いに異なる複数の時点の各々にある試料を透過して、検出部12b1により異なるタイミングで検出されたプローブ光L2の検出強度に基づき、複数の時点での光学パラメータを算出し、算出された光学パラメータに基づいて試料の物性パラメータを算出する制御部15と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動する試料の移動経路上の一の第1照射領域に励起光を照射する第1照射部と、
前記移動経路上で前記一の第1照射領域よりも前記試料の移動方向側に位置する第2照射領域にプローブ光を照射する第2照射部と、
前記第2照射部によって前記試料に照射された前記プローブ光を検出する検出部と、
前記励起光による励起によって生じる前記試料の光学パラメータの過渡応答において互いに異なる複数の時点の各々にある前記試料を透過して、前記検出部により異なるタイミングで検出された前記プローブ光の検出強度に基づき、前記複数の時点での前記光学パラメータを算出し、算出された前記光学パラメータに基づいて前記試料の物性パラメータを算出する制御部と、
を備える、
光学測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の光学測定装置であって、
前記第2照射領域は、一の領域を含み、
前記検出部は、一の検出器を含み、
前記制御部は、前記試料の移動速度が変化するときに、互いに異なる複数の前記移動速度の各々に対し前記光学パラメータを算出する、
光学測定装置。
【請求項3】
請求項1に記載の光学測定装置であって、
前記第2照射領域は、一の領域を含み、
前記検出部は、前記移動経路に沿ってアレイ状に配置されている複数の検出器を含み、
前記制御部は、互いに異なる複数の前記検出器で検出された前記検出強度に基づき、前記複数の時点での前記光学パラメータを算出する、
光学測定装置。
【請求項4】
請求項1に記載の光学測定装置であって、
前記第2照射領域は、複数の領域を含み、
前記検出部は、前記複数の領域ごとに対応する検出器を含み、
前記制御部は、互いに異なる複数の前記検出器で検出された前記検出強度に基づき、前記複数の時点での前記光学パラメータを算出する、
光学測定装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の光学測定装置であって、
前記検出部からの検出情報及び前記試料の移動速度に関する情報を記憶する記憶部をさらに備える、
光学測定装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の光学測定装置と、
前記試料が流路の内部を一方向に流れるフロー式の流通型セルと、
を備える、
光学測定システム。
【請求項7】
請求項6に記載の光学測定システムであって、
前記光学測定装置を制御する制御装置と、
前記制御装置による制御によって前記試料の流量を変化させるポンプと、
を備える、
光学測定システム。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の光学測定システムであって、
前記流通型セル上の前記一の第1照射領域及び前記第2照射領域を限定するマスクを備える、
光学測定システム。
【請求項9】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の光学測定装置と、
基板上に前記試料が製膜された回転体であって、一方向に回転する前記回転体と、
を備える、
光学測定システム。
【請求項10】
請求項9に記載の光学測定システムであって、
前記光学測定装置を制御する制御装置と、
前記制御装置による制御によって前記回転体の回転速度を変化させるモータと、
を備える、
光学測定システム。
【請求項11】
移動する試料の移動経路上の一の第1照射領域に励起光を照射する第1照射ステップと、
前記移動経路上で前記一の第1照射領域よりも前記試料の移動方向側に位置する第2照射領域にプローブ光を照射する第2照射ステップと、
前記第2照射ステップにおいて前記試料に照射された前記プローブ光を検出する検出ステップと、
前記励起光による励起によって生じる前記試料の光学パラメータの過渡応答において互いに異なる複数の時点の各々にある前記試料を透過して、前記検出ステップにおいて異なるタイミングで検出された前記プローブ光の検出強度に基づき、前記複数の時点での前記光学パラメータを算出する第1算出ステップと、
前記第1算出ステップにおいて算出された前記光学パラメータに基づいて前記試料の物性パラメータを算出する第2算出ステップと、
を含む、
光学測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光学測定装置、光学測定システム、及び光学測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
流体等を含む試料の物性パラメータを光学的手法により非接触で測定する技術が従来から知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、簡素な構造で、5ナノ秒~50ナノ秒の時間領域を含む幅広い時間領域において、短時間で多数時刻における過渡吸収特性の測定を可能にする過渡吸収測定方法及び過渡吸収測定装置が開示されている。例えば、特許文献2には、励起状態の寿命を測定することで、化学反応系に含まれる物質の温度を非接触かつ高精度に測定できる温度測定装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-222192号公報
【特許文献2】特開2020-046199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えばパルス光の照射によって試料が光励起されると、当該試料の光学パラメータが励起状態の寿命等を含む物性パラメータに応じて過渡応答を示す。このような物性パラメータがマイクロ秒からミリ秒オーダーに近づくような試料の測定には長時間の積算を要する。したがって、長時間にわたりレーザを安定に動作させるための機能が必要になったり、長時間の光照射又は時間経過そのものによって試料自体が劣化したりするといった問題が生じていた。
【0006】
本開示は、長時間の物性パラメータを有する試料に対しても物性パラメータを短時間で測定できる光学測定装置、光学測定システム、及び光学測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
幾つかの実施形態に係る光学測定装置は、移動する試料の移動経路上の一の第1照射領域に励起光を照射する第1照射部と、前記移動経路上で前記一の第1照射領域よりも前記試料の移動方向側に位置する第2照射領域にプローブ光を照射する第2照射部と、前記第2照射部によって前記試料に照射された前記プローブ光を検出する検出部と、前記励起光による励起によって生じる前記試料の光学パラメータの過渡応答において互いに異なる複数の時点の各々にある前記試料を透過して、前記検出部により異なるタイミングで検出された前記プローブ光の検出強度に基づき、前記複数の時点での前記光学パラメータを算出し、算出された前記光学パラメータに基づいて前記試料の物性パラメータを算出する制御部と、を備える。
【0008】
これにより、長時間の物性パラメータを有する試料に対しても物性パラメータを短時間で測定できる。光学測定装置は、励起によって生じた変化が完全に収束して試料が定常状態に戻るまで励起光の後続の照射を待機する必要がない。光学測定装置は、第1照射領域で励起光により励起された試料が連続的に供給され、第2照射領域でのプローブ光の照射により試料の光学パラメータを連続的に測定可能である。
【0009】
一実施形態において、前記第2照射領域は、一の領域を含み、前記検出部は、一の検出器を含み、前記制御部は、前記試料の移動速度が変化するときに、互いに異なる複数の前記移動速度の各々に対し前記光学パラメータを算出してもよい。これにより、光学測定装置は、第2照射領域が一の領域のみを含み、第1検出部が一の検出器のみを含んだ状態であっても、励起された試料が第2照射領域を通過するタイミングを変化させて光学パラメータ及び物性パラメータを算出可能である。
【0010】
一実施形態において、前記第2照射領域は、一の領域を含み、前記検出部は、前記移動経路に沿ってアレイ状に配置されている複数の検出器を含み、前記制御部は、互いに異なる複数の前記検出器で検出された前記検出強度に基づき、前記複数の時点での前記光学パラメータを算出してもよい。
【0011】
これにより、光学測定装置は、流通型セルでの試料の流量が一定である条件下においても、試料の光学パラメータ及び物性パラメータの算出を可能にする。光学測定装置は、試料の流量が一定であり安定化した状態で測定を実行することができる。光学測定装置は、試料の流量を掃引したときよりもさらに早く、光学パラメータの時間変化及び物性パラメータの算出を可能にする。光学測定装置は、時間分解能を向上させて、光学パラメータの時間変化をより滑らかなプロファイルとして取得することができる。光学測定装置は、従来の光学測定方法で得られるような連続的な減衰プロファイルを、離散的ではあるがより連続的に近い状態で再現することができる。
【0012】
一実施形態において、前記第2照射領域は、複数の領域を含み、前記検出部は、前記複数の領域ごとに対応する検出器を含み、前記制御部は、互いに異なる複数の前記検出器で検出された前記検出強度に基づき、前記複数の時点での前記光学パラメータを算出してもよい。
【0013】
これにより、光学測定装置は、流通型セルでの試料の流量が一定である条件下においても、試料の光学パラメータ及び物性パラメータの算出を可能にする。光学測定装置は、試料の流量が一定であり安定化した状態で測定を実行することができる。光学測定装置は、試料の流量を掃引したときよりもさらに早く、物性パラメータの算出を可能にする。
【0014】
幾つかの実施形態に係る光学測定システムは、上記のいずれかの光学測定装置と、前記試料が流路の内部を一方向に流れるフロー式の流通型セルと、を備えてもよい。これにより、光学測定システムは、第1照射領域及び第2照射領域に重なる流路において試料をとどめておくことなく一方向に移動させることが可能となる。したがって、光学測定システムは、第1照射領域及び第2照射領域における試料の露光時間を低減可能となる。結果として、光学測定システムは、測定対象である試料への光照射による劣化を抑制可能である。
【0015】
一実施形態において、光学測定システムは、前記光学測定装置を制御する制御装置と、前記制御装置による制御によって前記試料の流量を変化させるポンプと、を備えてもよい。これにより、光学測定システムは、流量掃引に基づく光学測定装置を用いた光学パラメータ及び物性パラメータの算出を可能にする。したがって、光学測定システムは、長時間の物性パラメータを有する試料に対しても物性パラメータを短時間で測定できる。
【0016】
一実施形態において、光学測定システムは、前記流通型セル上の前記一の第1照射領域及び前記第2照射領域を限定するマスクを備えてもよい。これにより、光学測定システムは、励起光及びプローブ光に対して、光強度の均一性と照射領域の絞り込みとの間の両立を可能にする。加えて、光学測定システムは、励起光及びプローブ光が局所領域に集光され、高いエネルギー密度で試料に照射されるときと比較して、測定対象である試料への光照射による劣化を抑制可能である。
【0017】
幾つかの実施形態に係る光学測定システムは、上記のいずれかの光学測定装置と、基板上に前記試料が製膜された回転体であって、一方向に回転する前記回転体と、を備えてもよい。これにより、光学測定システムは、第1照射領域及び第2照射領域に重なる移動経路において試料をとどめておくことなく一方向に移動させることが可能となる。したがって、光学測定システムは、第1照射領域及び第2照射領域における試料の露光時間を低減可能となる。結果として、光学測定システムは、測定対象である試料への光照射による劣化を抑制可能である。
【0018】
一実施形態において、光学測定システムは、前記光学測定装置を制御する制御装置と、前記制御装置による制御によって前記回転体の回転速度を変化させるモータと、を備えてもよい。これにより、光学測定システムは、回転速度の掃引に基づく光学測定装置を用いた光学パラメータ及び物性パラメータの算出を可能にする。したがって、光学測定システムは、長時間の物性パラメータを有する試料に対しても物性パラメータを短時間で測定できる。
【0019】
幾つかの実施形態に係る光学測定方法は、移動する試料の移動経路上の一の第1照射領域に励起光を照射する第1照射ステップと、前記移動経路上で前記一の第1照射領域よりも前記試料の移動方向側に位置する第2照射領域にプローブ光を照射する第2照射ステップと、前記第2照射ステップにおいて前記試料に照射された前記プローブ光を検出する検出ステップと、前記励起光による励起によって生じる前記試料の光学パラメータの過渡応答において互いに異なる複数の時点の各々にある前記試料を透過して、前記検出ステップにおいて異なるタイミングで検出された前記プローブ光の検出強度に基づき、前記複数の時点での前記光学パラメータを算出する第1算出ステップと、前記第1算出ステップにおいて算出された前記光学パラメータに基づいて前記試料の物性パラメータを算出する第2算出ステップと、を含む。
【0020】
これにより、長時間の物性パラメータを有する試料に対しても物性パラメータを短時間で測定できる。光学測定方法では、励起によって生じた変化が完全に収束して試料が定常状態に戻るまで励起光の後続の照射を待機する必要がない。光学測定方法では、第1照射領域で励起光により励起された試料が連続的に供給され、第2照射領域でのプローブ光の照射により試料の光学パラメータを連続的に測定することが可能である。
【発明の効果】
【0021】
本開示によれば、長時間の物性パラメータを有する試料に対しても物性パラメータを短時間で測定できる光学測定装置、光学測定システム、及び光学測定方法を提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本開示の第1実施形態に係る光学測定システムの構成の一例を示す模式図である。
図2図1の光学測定システムの概略構成を示す機能ブロック図である。
図3】移動経路上を移動する試料に対する光のタイミングの一例を示すタイムシーケンス図である。
図4】試料のエネルギー準位を簡略的に示した模式図である。
図5図1の光学測定装置の動作の一例を説明するための模式図である。
図6図1の光学測定システムの動作の一例を示すフローチャートである。
図7図1の光学測定システムの第1変形例を示す模式図である。
図8図1のフロー系の流通型セルの変形例を示す模式図である。
図9図1の光学測定システムの第2変形例の一部を示す模式図である。
図10図1の光学測定システムの第3変形例の一部を示す模式図である。
図11図1の光学測定システムの第4変形例の一部を示す模式図である。
図12】本開示の第2実施形態に係る光学測定システムの一部の構成の一例を示す模式図である。
図13図12の光学測定システムの動作の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
従来技術の背景及び問題点についてより詳細に説明する。
【0024】
電子材料開発の過程において、材料となる物質の物性値の一つである励起状態の寿命を測定することで、デバイスを実際に組み上げ試験する前に、デバイスの性能の上限をある程度見積もることができる。このような寿命が長いほど、デバイスとしての性能が良くなる傾向にある。したがって、このような寿命が長い材料が開発されている。
【0025】
高速高分解の光励起現象、又は電子及び物質の移動の現象をとらえるために開発されてきた光学測定装置を用いて励起状態の寿命が長い材料の寿命測定を行うと、励起状態の寿命が短い材料の寿命測定と同様の確からしさを得るためには測定時間がより長くなる。したがって、励起状態の寿命が長い材料の寿命測定においても、より短時間で、かつ確からしさも高く維持できる測定手法が望まれている。
【0026】
特許文献1に記載の過渡吸収測定方法では、励起光に加えてプローブ光もパルス光とすることで、試料に与える不可逆的破壊の影響が小さくなり、本質的に光強度を上げることができる。加えて、当該過渡吸収測定方法は、遅延時間を駆使することで、測定時間の短縮に一定程度寄与している。しかしながら、励起状態の寿命が長い材料の寿命測定において測定時間が長くなるといった問題は依然として残っている。加えて、パルス光源を用いることで、測定系が本質的に高価になるといった問題も生じていた。
【0027】
特許文献2に記載の温度測定装置は、流通系において物質を光励起し、プローブ光の吸光度の減衰特性を取得することで、反応場の温度を算出している。当該装置では、励起光の照射領域とプローブ光の照射領域とが互いに重なっているため、励起する領域と励起によって生じた変化をプローブ光により観測する領域とが互いに分離できない。したがって、当該装置を励起状態の寿命が長い材料の寿命測定に応用すると、励起によって生じた変化が完全に収束して物質が定常状態に戻るまで、励起光を照射して次の積算を行うことができない。結果として、測定時間の短縮が困難となる。加えて、励起光源としてパルス光を利用していることから、測定系が高価になるといった問題も生じていた。
【0028】
本開示は、以上のような問題点を解決するために、長時間の物性パラメータを有する試料に対しても物性パラメータを短時間で測定できる光学測定装置、光学測定システム、及び光学測定方法を提供することを目的とする。以下では、添付図面を参照しながら本開示の一実施形態について主に説明する。
【0029】
(第1実施形態)
図1及び図2を参照しながら、第1実施形態に係る光学測定装置10及び光学測定システム1の構成及び機能について主に説明する。
【0030】
図1は、本開示の第1実施形態に係る光学測定システム1の構成の一例を示す模式図である。図1に示されるように、光学測定システム1は、光学測定装置10と、フロー系20と、制御装置30と、を有する。
【0031】
光学測定装置10は、フロー系20に対して設置され、励起光L1及びプローブ光L2に基づいて、フロー系20の移動経路上を移動する試料の光学パラメータ及び物性パラメータを測定する。
【0032】
第1実施形態において、測定対象となる「試料」は、例えば溶液を構成する任意の分子を含む。溶液に含まれる溶質は、例えば励起光L1を吸収し基底状態から電子が遷移して励起状態となる分子を含む。溶液に含まれる溶質は、例えばπ電子共役を有する分子であり、アミノ酸及びペプチド等を構成する分子を含む。溶液に含まれる溶媒は、基底状態及び励起状態における吸収波長領域に、励起光L1及びプローブ光L2に対する強い吸収を有さない任意の分子を含む。
【0033】
本開示において、試料の「光学パラメータ」は、例えば光学密度及び吸光度等の光の吸収に関連する任意のパラメータを含む。試料の「物性パラメータ」は、例えば励起状態の寿命等の光学遷移に関連するパラメータであって、試料の特性とある程度関連付けることが可能な任意のパラメータを含む。
【0034】
フロー系20は、ポンプ21を有する。ポンプ21は、脈動が少ない任意のポンプを含む。例えば、ポンプ21は、シリンジポンプを含む。シリンジポンプは、試料が少量で測定時間が短いときに有用である。この他にも、ポンプ21は、ダイヤフラムポンプを含んでもよい。これらに限定されず、ポンプ21は、脈動を抑制するためのダンパーを伴う任意のポンプを含んでもよい。
【0035】
フロー系20は、ポンプ21によって試料が流路の内部を一方向に流れるフロー式の流通型セル22を有する。フロー系20では、ポンプ21からの圧力により試料が移動経路上を移動する。流通型セル22には、試料が連続的にポンプ21により供給される。ポンプ21は、制御装置30による制御によって試料の流量を変化させる。
【0036】
試料の移動経路は、ポンプ21と流通型セル22との間に位置する流路、流通型セル22、及び流通型セル22のアウトレットOUT側からさらに延びる流路によって形成されている。図1において、試料は、ポンプ21側から図面の右側に向けて移動し、流通型セル22のインレットINから流通型セル22の内部を通過し、流通型セル22のアウトレットOUTからその先に延びる流路へと排出される。
【0037】
図2は、図1の光学測定システム1の概略構成を示す機能ブロック図である。図2では、光学測定装置10及びフロー系20について、図1に示した構成のうち、制御の対象となる主な構成のみが示されている。図2に示されるように、光学測定装置10は、第1照射部11aと、第2照射部11bと、励起光検出部12aと、検出部12bと、制御部15と、記憶部19と、を有する。
【0038】
第1照射部11aは、例えば半導体レーザ等の任意の光源を含む。第1照射部11aは、光学測定装置10に含まれている任意の光学系を介して、フロー系20を移動する試料の移動経路上の一の第1照射領域R1に励起光L1を照射する。より具体的には、第1照射部11aは、フロー系20に含まれる流通型セル22のインレットIN側に位置する一の第1照射領域R1に励起光L1を連続光として照射する。第1照射部11aは、第1照射領域R1に重なる流通型セル22の流路を試料が通過するときに励起光L1を照射して試料を励起する。第1照射部11aによって照射される励起光L1の波長は、第1波長領域に含まれる。第1波長領域は、例えば、紫外領域及び可視領域等の任意の波長領域を含む。
【0039】
第2照射部11bは、例えば半導体レーザ等の任意の光源を含む。第2照射部11bは、光学測定装置10に含まれている任意の光学系を介して、フロー系20の移動経路上で一の第1照射領域R1よりも試料の移動方向側に位置する第2照射領域R2にプローブ光L2を照射する。より具体的には、第2照射部11bは、フロー系20に含まれる流通型セル22の流路上で第1照射領域R1よりもアウトレットOUT側に位置する一の第2照射領域R2にプローブ光L2を連続光として照射する。第2照射部11bは、第2照射領域R2に重なる流通型セル22の流路を試料が通過するときにプローブ光L2を照射して試料に対して透過させる。第2照射部11bによって照射されるプローブ光L2の波長は、第2波長領域に含まれる。第2波長領域は、例えば、可視領域及び赤外領域等の任意の波長領域を含む。
【0040】
検出部12bは、第1検出部12b1及び第2検出部12b2を有する。第1検出部12b1及び第2検出部12b2の各々は、例えばフォトダイオード等の任意の光検出器を含む。
【0041】
第1検出部12b1は、第2照射部11bによって試料に照射されたプローブ光L2を検出する。第1検出部12b1は、第2照射部11bによって照射され、フロー系20の流通型セル22上の移動経路を移動する試料を透過したプローブ光L2を検出する。
【0042】
第2検出部12b2は、第2照射部11bから出射し、試料に照射される前のプローブ光L2の一部を検出する。第2検出部12b2は、第2照射部11bから出射したプローブ光L2の強度の時間変化、例えばドリフトを観測するために配置されている。
【0043】
励起光検出部12aは、例えばフォトダイオード等の任意の光検出器を含む。励起光検出部12aは、第1照射部11aから出射し、試料に照射される前の励起光L1の一部を検出する。励起光検出部12aは、第1照射部11aから出射した励起光L1の強度の時間変化、例えばドリフトを観測するために配置されている。
【0044】
記憶部19は、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)、ROM(Read-Only Memory)、及びRAM(Random Access Memory)等の任意の記憶装置を含む。記憶部19は、光学測定装置10の動作を実現するために必要な情報を記憶する。記憶部19は、例えば第1検出部12b1からの検出情報及び試料の移動速度に関する情報を記憶する。本開示において、「第1検出部12b1からの検出情報」は、例えば第1検出部12b1により検出されたプローブ光L2の検出強度を含む。第1実施形態において、「移動速度に関する情報」は、例えば試料の流量を含む。これらに加えて、記憶部19は、例えば制御部15により算出された光学パラメータ及び物性パラメータを情報として記憶してもよい。
【0045】
記憶部19は、主記憶装置、補助記憶装置、又はキャッシュメモリとして機能してもよい。記憶部19は、光学測定装置10に内蔵されているものに限定されず、USB等のデジタル入出力ポート等によって接続されている外付け型の記憶装置であってもよい。
【0046】
制御部15は、1つ以上のプロセッサを含む。制御部15は、光学測定装置10に関する処理を可能にするプロセッサを含む。制御部15は、光学測定装置10を構成する各構成部に接続され、各構成部をはじめとして光学測定装置10全体を制御及び管理する。
【0047】
制御装置30は、光学測定装置10及びフロー系20を制御する任意の装置を含む。制御装置30は、光学測定装置10の制御部15及びフロー系20のポンプ21と接続され、光学測定システム1においてこれらの構成部を制御及び管理する。
【0048】
光学測定装置10を構成する、図1に示されるような光学系の構成及び機能について主に説明する。
【0049】
第1照射部11aから出射した励起光L1は、レンズ等の任意の光学素子によって構成される第1光束調整部16a及び第1シャッタ14aを通過して、第1ビームスプリッタ13aに入射する。励起光L1は、第1ビームスプリッタ13aで分岐する。励起光L1の一部は、第1ビームスプリッタ13aを透過して第1照射領域R1に照射される。励起光L1の残りの一部は、第1ビームスプリッタ13aで反射して励起光検出部12aにより検出される。
【0050】
第1照射領域R1に照射される励起光L1は、流通型セル22の流路上で所定の光束径、すなわち第1照射領域R1の径を有するように第1光束調整部16aにより調整される。第1照射領域R1に照射される励起光L1の光束径は、プローブ光L2の光束径よりも大きく、かつ第2照射領域R2と重ならないような値に調整される。
【0051】
励起光L1は、流通型セル22のインレットIN側、例えばインレットINから試料が流入した直後の流路上の第1照射領域R1に入射する。流通型セル22の流路を透過した励起光L1は、集光レンズ18aにより集光され、レーザダンプ17によって吸収される。これにより、励起光L1の不必要な散乱及び反射が抑制される。
【0052】
第2照射部11bから出射したプローブ光L2は、レンズ等の任意の光学素子によって構成される第2光束調整部16b及び第2シャッタ14bを通過して、第2ビームスプリッタ13bに入射する。プローブ光L2は、第2ビームスプリッタ13bで分岐する。プローブ光L2の一部は、第2ビームスプリッタ13bで反射して第2照射領域R2に照射される。プローブ光L2の残りの一部は、第2ビームスプリッタ13bを透過して第2検出部12b2により検出される。
【0053】
第2照射領域R2に照射されるプローブ光L2は、流通型セル22の流路上で所定の光束径、すなわち第2照射領域R2の径を有するように第2光束調整部16bにより調整される。第2照射領域R2に照射されるプローブ光L2の光束径は、励起光L1の光束径よりも小さくなるような値に調整される。
【0054】
プローブ光L2は、流通型セル22において第1照射領域R1よりもアウトレットOUT側に位置し、かつ第1照射領域R1と所定の間隔で離間する第2照射領域R2に入射する。流通型セル22の流路を透過したプローブ光L2は、第1検出部12b1により検出される。
【0055】
図3は、移動経路上を移動する試料に対する光のタイミングの一例を示すタイムシーケンス図である。図3の縦軸は、励起光L1及びプローブ光L2それぞれの光強度を示す。図3の横軸は、時間を示す。
【0056】
図3における励起光L1の光強度の変化は、フロー系20の移動経路上を一方向に移動する特定の試料群に対して連続光としての励起光L1が照射される特定のタイミングを示す。図3における励起光L1の光強度は、当該試料群に励起光L1が照射される直前の励起光強度を示す。図3におけるプローブ光L2の光強度の変化は、当該試料群に対してプローブ光L2が常時照射されていると仮定したときに、励起光L1の照射タイミングに応じてプローブ光L2が減衰するタイミングを示す。図3におけるプローブ光L2の光強度は、当該試料群をプローブ光L2が透過して第1検出部12b1で検出されるときの透過光強度、すなわち検出強度を示す。
【0057】
制御部15は、連続光として励起光L1を照射するように第1照射部11aを制御する。同様に、制御部15は、連続光としてプローブ光L2を照射するように第2照射部11bを制御する。フロー系20の移動経路上を一方向に移動する特定の試料群は、移動経路において第1照射領域R1に重なる部分に位置するときにのみ励起光L1にさらされる。
【0058】
流通型セル22の流路を流れる特定の試料群の光学密度は、連続光としての励起光L1に特定のタイミングでさらされることで変化する。例えば、流通型セル22の流路を流れる特定の試料群の光学密度は、励起光L1による試料群の励起によって増大する。このとき、プローブ光L2の透過光強度は減少する。
【0059】
特定の試料群が連続光としての励起光L1の第1照射領域R1から離れると、特定の試料群への励起光L1の照射が終了する。このとき、流通型セル22の流路を流れる特定の試料群の光学密度は、励起光L1によって励起された試料群の励起状態の寿命を時定数とする指数関数に従って減少し、励起光L1に試料群がさらされる前の値に回復する。プローブ光L2の透過光強度は、励起状態の寿命を時定数とする指数関数に基づいて増大し、励起光L1に試料群がさらされる前のベースラインの値Iに回復する。
【0060】
図4は、試料のエネルギー準位を簡略的に示した模式図である。一般的に、流通型セル22の流路を流れる試料のエネルギー準位構造は、電子準位、振動準位、及び回転準位を含む複雑な構造を有する。しかしながら、図4では、説明の簡便のために、代表的な3つの準位のみが示されている。図4を参照しながら、励起光L1に基づいて、図3に示すようなプローブ光L2の透過光強度の変化が得られる原理について主に説明する。
【0061】
プローブ光L2の波長は、例えば、図4における第1状態と第2状態との間のエネルギー遷移の吸収波長に略一致するように調整される。励起光L1の波長は、例えば、図4における第2状態と励起状態との間のエネルギー遷移の吸収波長に略一致するように調整される。励起光L1が吸収されると、第2状態にあったポピュレーションの一部が励起状態に遷移する。これにより、第2状態にあるポピュレーションと第1状態にあるポピュレーションとの差が大きくなり、第1状態と第2状態との間のエネルギー遷移における物質の光学密度が増大する。したがって、プローブ光L2の透過光強度は減少する。
【0062】
励起状態にあるポピュレーションは、エネルギー的に不安定であるために基底状態へと戻ろうとする性質を有する。このような状態で励起光L1の照射が終了すると、励起状態にあるポピュレーションは、所定の寿命で第2状態に緩和する。励起状態にあるポピュレーションが所定の寿命で第2状態に緩和するにつれて、励起光L1が照射される前の値に第2状態のポピュレーションが回復する。これにより、第2状態にあるポピュレーションと第1状態にあるポピュレーションとの差が所定の寿命に従って小さくなる。したがって、第1状態と第2状態との間のエネルギー遷移における試料の光学密度が所定の寿命に従って減少する。結果として、プローブ光L2の透過光強度は、所定の寿命に従って増大し、励起光L1が照射される前の値に回復する。
【0063】
図5は、図1の光学測定装置10の動作の一例を説明するための模式図である。図5のグラフは、図3のグラフに示すプローブ光L2の透過光強度の時間変化に対応する試料の光学パラメータの時間変化を示す。図5の縦軸に記載の光学パラメータは、一例として光学密度を示す。
【0064】
制御部15は、励起光L1による励起によって生じる試料の光学パラメータの過渡応答において互いに異なる複数の時点の各々にある試料を透過して、第1検出部12b1により異なるタイミングで検出されたプローブ光L2の検出強度を取得する。制御部15は、取得された当該検出強度に基づき、上記の複数の時点での光学パラメータを算出する。
【0065】
光学測定システム1の制御装置30は、フロー系20のポンプ21を制御し、流通型セル22の流路内での試料の流量を変化させる。光学測定システム1では、図1に示すように、第2照射領域R2は、一の領域を含み、試料の移動方向側に第1照射領域R1と所定の間隔で離間している。光学測定システム1では、図1に示すように、第1検出部12b1は、一の検出器を含む。
【0066】
このとき、制御部15は、流通型セル22において試料の流量が変化し、試料の移動速度が変化するときに、互いに異なる複数の移動速度の各々に対し光学パラメータを算出する。図5に示すように、例えば、制御部15は、第1流量、第2流量、及び第3流量の各々に対し光学パラメータを算出する。
【0067】
第1照射領域R1と第2照射領域R2とは移動経路に沿って互いに一定の間隔で離間している。このような状態で流通型セル22の流路の内部を流れる試料の流量が変化すると、励起光L1による励起によって生じた光学パラメータの過渡応答における時点が変化した試料に対してプローブ光L2が透過する。流量が多く移動速度が速い試料は、第1照射領域R1から第2照射領域R2までの移動時間が短いので、過渡応答においてより早い時点での光学パラメータに基づいてプローブ光L2にさらされる。流量が少なく移動速度が遅い試料は、第1照射領域R1から第2照射領域R2までの移動時間が長いので、過渡応答においてより遅い時点での光学パラメータに基づいてプローブ光L2にさらされる。
【0068】
第1流量、第2流量、及び第3流量の中で最も多い第1流量では、制御部15は、励起光L1による励起により光学パラメータが立ち上がった時点から最も早い時点での光学パラメータの情報を、試料を透過したプローブ光L2の検出強度に基づいて取得可能である。第1流量、第2流量、及び第3流量の中で2番目に多い第2流量では、制御部15は、励起光L1による励起により光学パラメータが立ち上がった時点から2番目に早い時点での光学パラメータの情報を、試料を透過したプローブ光L2の検出強度に基づいて取得可能である。第1流量、第2流量、及び第3流量の中で最も少ない第3流量では、制御部15は、励起光L1による励起により光学パラメータが立ち上がった時点から最も遅い時点での光学パラメータの情報を、試料を透過したプローブ光L2の検出強度に基づいて取得可能である。
【0069】
制御部15は、各流量において試料を透過し、第1検出部12b1により異なるタイミングで検出されたプローブ光L2の検出強度に基づいて、各時点での光学パラメータを算出する。図5では、制御部15は、3つの流量の各々に対して光学パラメータを算出し、合計で3つの光学パラメータを取得する。
【0070】
制御部15は、算出された光学パラメータに基づいて試料の物性パラメータを算出する。例えば、制御部15は、光学パラメータの時間変化を示す3点に対して指数関数を用いたフィッティング処理を実行する。これにより、制御部15は、試料の励起状態の寿命を物性パラメータとして算出する。
【0071】
図6は、図1の光学測定システム1の動作の一例を示すフローチャートである。図6を参照しながら、光学測定装置10を含む光学測定システム1を用いた光学測定方法の主なフローについて説明する。
【0072】
ステップS100では、光学測定システム1の制御装置30は、フロー系20のポンプ21を動作させる。これにより、制御装置30は、測定対象となる試料が均一に存在する溶液の流通型セル22への連続的な供給を開始させる。
【0073】
ステップS101では、光学測定装置10の制御部15は、ステップS100においてポンプ21の動作が安定した後、第2照射部11bを動作させてプローブ光L2の試料への照射を開始させる。ステップS101は、移動経路上で一の第1照射領域R1よりも試料の移動方向側に位置する第2照射領域R2にプローブ光L2を照射する第2照射ステップに対応する。プローブ光L2は、後続のステップにおいても連続光として継続して試料に照射されている。
【0074】
ステップS102では、光学測定装置10の制御部15は、励起光L1が照射されていない状態の試料を透過して第1検出部12b1により検出されたプローブ光L2の透過光強度を図3に示すようなベースラインIとして測定する。制御部15は、測定されたベースラインIの情報を記憶部19に格納する。
【0075】
ステップS103では、光学測定装置10の制御部15は、第1照射部11aを動作させて励起光L1の試料への照射を開始させる。ステップS103は、移動する試料の移動経路上の一の第1照射領域R1に励起光L1を照射する第1照射ステップに対応する。励起光L1の照射によって測定対象となる試料が励起される。
【0076】
ステップS104では、光学測定装置10の制御部15は、ステップS103において励起された試料を透過したプローブ光L2を第1検出部12b1により検出し、検出されたプローブ光L2の検出強度を記憶部19に格納する。制御部15は、プローブ光L2のこのような透過光強度に加えて、流通型セル22での試料の流量及び測定時刻等の付加的な情報を記憶部19に格納する。記憶部19は、流通型セル22での試料の流量を移動速度に関する情報として記憶する。ステップS104は、第2照射ステップにおいて試料に照射されたプローブ光L2を検出する検出ステップに対応する。
【0077】
ステップS105では、光学測定装置10の制御部15は、全ての流量について測定が完了したか否かを判定する。制御部15は、全ての流量について測定が完了したと判定するとステップS107の処理を実行する。制御部15は、全ての流量について測定しきれていないと判定すると、ステップS106の処理を実行する。
【0078】
ステップS106では、光学測定システム1の制御装置30は、フロー系20のポンプ21を制御して流通型セル22での試料の流量を変更する。例えば、制御装置30は、測定が開始したときは少ない流量に設定し、図6のフローが繰り返される中で流量を徐々に多くする。少ない値から最も多い値に至るまでの流量の掃引は、1回のみ実行される。
【0079】
ステップS106において流量が変更される間、光学測定装置10の制御部15は、ステップS104での透過光強度、流量、及び測定時刻等の情報の記憶部19への格納処理を継続して実行する。
【0080】
ステップS107では、光学測定装置10の制御部15は、記憶部19が記憶している測定データと、第1照射領域R1と第2照射領域R2との間の流通型セル22上の移動経路に沿った間隔と、を用いて、透過光強度から算出した光学密度と時間との2次元プロットを取得する。ステップS107は、励起光L1による励起によって生じる試料の光学パラメータの過渡応答において互いに異なる複数の時点の各々にある試料を透過して、検出ステップにおいて異なるタイミングで検出されたプローブ光L2の検出強度に基づき、複数の時点での光学パラメータを算出する第1算出ステップに対応する。
【0081】
ステップS108では、光学測定装置10の制御部15は、ステップS107において取得された2次元プロットに対して、最適な関数をフィッティングすることで励起状態の寿命となる時定数を物性パラメータとして取得する。最適な関数は、例えば指数関数を含む。ステップS108は、第1算出ステップにおいて算出された光学パラメータに基づいて試料の物性パラメータを算出する第2算出ステップに対応する。
【0082】
光学測定装置10の制御部15は、ステップS108において取得された物性パラメータを、必要に応じて出力する。例えば、制御部15は、光学測定装置10に付加的に備わっているディスプレイ及びスピーカ等を含む出力部からユーザに対して物性パラメータを情報として出力してもよい。例えば、制御部15は、光学測定装置10とは異なる他の構成部として光学測定システム1に付加的に備わっているディスプレイ及びスピーカ等を含む出力部からユーザに対して物性パラメータを情報として出力してもよい。
【0083】
以上のような一実施形態に係る光学測定装置10、光学測定システム1、及び光学測定方法によれば、長時間の物性パラメータを有する試料に対しても物性パラメータを短時間で測定できる。制御部15は、励起光L1による励起によって生じる試料の光学パラメータの過渡応答において互いに異なる複数の時点の各々にある試料を透過して、第1検出部12b1により異なるタイミングで検出されたプローブ光L2の検出強度に基づき、複数の時点での光学パラメータを算出する。これにより、光学測定装置10は、励起によって生じた変化が完全に収束して試料が定常状態に戻るまで励起光L1の後続の照射を待機する必要がない。光学測定装置10は、第1照射領域R1で励起光L1により励起された試料が連続的に供給され、第2照射領域R2でのプローブ光L2の照射により試料の光学パラメータを連続的に測定可能である。
【0084】
光学測定装置10は、長時間の物性パラメータを有する試料の物性パラメータ測定を、短時間の物性パラメータを有する試料の物性パラメータ測定と同様の確からしさで、従来技術よりも短時間で実行することができる。光学測定装置10は、確からしさの高い光学測定方法を提供可能である。
【0085】
加えて、光学測定装置10は、励起光L1及びプローブ光L2の両方を連続光とすることが可能である。したがって、光学測定装置10は、第1照射部11a及び第2照射部11bに対してパルスレーザ等の高価な光源を用いる必要がなく、より安価に構成可能である。
【0086】
制御部15は、試料の移動速度が変化するときに、互いに異なる複数の移動速度の各々に対し光学パラメータを算出する。これにより、光学測定装置10は、第2照射領域R2が一の領域のみを含み、第1検出部12b1が一の検出器のみを含んだ状態であっても、励起された試料が第2照射領域R2を通過するタイミングを変化させて光学パラメータ及び物性パラメータを算出可能である。
【0087】
光学測定装置10は、このような流量掃引を採用した結果、過渡応答における初期過程から終過程に至るまでの光学パラメータの変化を照射位置が固定された励起光L1及びプローブ光L2によって高感度で測定可能である。光学測定装置10は、このような流量掃引を繰り返す必要はなく、1回の掃引のみで光学パラメータ及び物性パラメータの測定を完結させることができる。これにより、光学測定装置10は、長時間の物性パラメータを有する試料に対しても物性パラメータを短時間で測定できる。
【0088】
試料が流路の内部を一方向に流れるフロー式の流通型セル22を光学測定システム1が有することで、光学測定システム1は、第1照射領域R1及び第2照射領域R2に重なる流路において試料をとどめておくことなく一方向に移動させることが可能となる。これにより、光学測定システム1は、第1照射領域R1及び第2照射領域R2における試料の露光時間を低減可能となる。したがって、光学測定システム1は、測定対象である試料への光照射による劣化を抑制可能である。
【0089】
光学測定システム1は、制御装置30及び制御装置30による制御によって試料の流量を変化させるポンプ21を有することで、上記の流量掃引に基づく光学測定装置10を用いた光学パラメータ及び物性パラメータの算出を可能にする。これにより、光学測定システム1は、長時間の物性パラメータを有する試料に対しても物性パラメータを短時間で測定できる。
【0090】
第2照射領域R2に照射されるプローブ光L2の光束径は、第1照射領域R1に照射される励起光L1の光束径よりも小さくなることで、励起光L1によって励起された試料が流通型セル22の流路上に存在している領域に対して小さくなる。したがって、プローブ光L2の全体を励起光L1によって励起された試料に照射することも可能となる。結果として、プローブ光L2が当該試料に吸収される割合を最大化することが可能となる。
【0091】
図7は、図1の光学測定システム1の第1変形例を示す模式図である。上記第1実施形態では、試料は流通型セル22のインレットINから流入してアウトレットOUTから排出されることで流通型セル22を一回のみ通過すると説明したが、これに限定されない。光学測定システム1のフロー系20は、原料タンク23と、原料タンク23を含むループ系と、をさらに有してもよい。これにより、試料は、流通型セル22のアウトレットOUTから排出され、原料タンク23に再度戻り、ループ系内で移動を繰り返す。
【0092】
このとき、光学測定装置10は、励起光L1及びプローブ光L2が一度照射され、排出に向かった試料を、繰り返し測定することができる。試料が第1照射領域R1において励起光L1により一度励起されてから再度励起されるまでの時間間隔は、物性パラメータとしての励起状態の寿命よりも十分に長い必要はある。
【0093】
このようなループ系を用いた構成により、光学測定システム1は、試料の再利用性を向上させることが可能である。光学測定システム1は、可逆性のある反応、例えば励起状態から電子が緩和して基底状態に戻り、試料に含まれる対象分子の構造に変化が見られない場合に、試料を完全に排出することなく測定に繰り返し用いることができる。
【0094】
図8は、図1のフロー系20の流通型セル22の変形例を示す模式図である。上記第1実施形態では、図1に示すように、流通型セル22の流路はインレットINからアウトレットOUTに向けて一直線状に形成されているが、これに限定されない。
【0095】
流通型セル22は、図8の左側に示すように、Y字状に形成されていてもよい。流通型セル22は、図8の右側に示すように、2つの流路それぞれが直角に折れ曲がった後1つの流路に統合されるような形状に形成されていてもよい。
【0096】
このとき、フロー系20は、任意の化学反応系を含んでもよい。化学反応系は、例えば、試料が流路の内部を流れるフロー式の化学反応系を含んでもよい。より具体的には、化学反応系は、第1原料と第2原料とを合成して生成物を得る合成反応系を含んでもよい。
【0097】
化学反応系における第1原料及び第2原料それぞれは、任意の化合物を含んでもよい。第1原料及び第2原料それぞれは、例えばアミノ酸を含んでもよい。同様に、化学反応系における生成物は、ポリマー又はオリゴマー等の任意の化合物を含んでもよい。生成物は、例えばアミド結合により形成された化合物を含んでもよいし、複数のアミノ酸に基づくペプチド結合により形成された化合物を含んでもよい。
【0098】
化学反応系は、第1原料をあらかじめ定められた流量で送液する第1のポンプ21と、第2原料をあらかじめ定められた流量で送液する第2のポンプ21と、を有してもよい。化学反応系の流通型セル22は、2つのポンプ21によってそれぞれ送液された第1原料及び第2原料を合成してもよい。2つのポンプ21によってそれぞれ送液された第1原料及び第2原料は、独立した流路内を流れた後、流通型セル22内の流路によって合成され、1つの流路によって排出されてもよい。化学反応系を構成する各流路の管径は、例えば、数10μmから数mmの範囲の値を有してもよい。これに限定されず、化学反応系を構成する各流路の管径は、例えば、数cm等のより大きな値を有してもよい。
【0099】
流通型セル22の流路は、図8に示すような形状以外の任意の形状に形成されていてもよい。例えば、流通型セル22の流路は、3つ以上の独立した流路が1つに統合されるような形状に形成されていてもよい。
【0100】
光学測定システム1は、フロー系20が合成反応系を含むことで、流通型セル22内での第1原料及び第2原料の混合による化学反応で生成された生成物及び中間体に対しても、物性パラメータの測定を可能にする。光学測定システム1は、物性パラメータとしての励起状態の寿命が短い中間体等の反応物の物性も測定可能である。
【0101】
フロー系20は、以上のような合成反応系に限定されず、異なる原料間で化学反応が生じずに単なる混合のみが生じる単純な混合系であってもよい。これにより、光学測定システム1は、異なる原料間の混合中に発生する現象論の究明に寄与できる。
【0102】
図9は、図1の光学測定システム1の第2変形例の一部を示す模式図である。上記第1実施形態では、第2照射領域R2が一の領域を含み、第1検出部12b1が一の検出器を含み、制御部15は、互いに異なる複数の移動速度の各々に対し試料の光学パラメータを算出すると説明したが、これに限定されない。
【0103】
第2照射領域R2は、複数の領域を含んでもよい。例えば、第2照射領域R2は、互いに異なる2つの領域を含んでもよい。第1検出部12b1は、複数の領域ごとに対応する検出器を含んでもよい。例えば、第1検出部12b1は、互いに異なる2つの検出器を含んでもよい。このとき、制御部15は、互いに異なる複数の検出器で検出されたプローブ光L2の検出強度に基づき、試料の光学パラメータの過渡応答において互いに異なる複数の時点での光学パラメータを算出してもよい。
【0104】
励起光L1によって励起された試料が2つの第2照射領域R2を通過するとき、各々において光学パラメータの過渡応答における時点が異なっている。インレットIN側に位置する第2照射領域R2では、過渡応答におけるより早い時点での光学パラメータの情報が得られる。アウトレットOUT側に位置する第2照射領域R2では、過渡応答におけるより遅い時点での光学パラメータの情報が得られる。光学測定装置10は、2つのプローブ光L2を用いて、励起された直後の試料、及び一定時間経過後にその一部が緩和した試料の光学パラメータを同時に算出し、当該光学パラメータに基づいてその存在比を同時に定量化する。
【0105】
以上により、光学測定装置10は、流通型セル22での試料の流量が一定である条件下においても、試料の光学パラメータ及び物性パラメータの算出を可能にする。光学測定装置10は、試料の流量が一定であり安定化した状態で測定を実行することができる。光学測定装置10は、試料の流量を掃引したときよりもさらに早く、物性パラメータの算出を可能にする。
【0106】
図10は、図1の光学測定システム1の第3変形例の一部を示す模式図である。上記第1実施形態では、第2照射領域R2が一の領域を含み、第1検出部12b1が一の検出器を含み、制御部15は、互いに異なる複数の移動速度の各々に対し試料の光学パラメータを算出すると説明したが、これに限定されない。
【0107】
第2照射領域R2は、一の領域を含み、第1検出部12b1は、試料の移動経路に沿ってアレイ状に配置されている複数の検出器を含んでもよい。例えば、第1検出部12b1は、互いに異なる複数の検出器が移動経路に沿って一列に配列されるように構成されてもよい。プローブ光L2の光束径は、第1照射領域R1よりもアウトレットOUT側でプローブ光L2が流通型セル22を全体的に広く均一に照射するように、第2光束調整部16bにより調整されてもよい。
【0108】
このとき、制御部15は、互いに異なる複数の検出器で検出されたプローブ光L2の検出強度に基づき、試料の光学パラメータの過渡応答において互いに異なる複数の時点での光学パラメータを算出してもよい。
【0109】
励起光L1によって励起された試料が一の第2照射領域R2を通過するとき、第2照射領域R2の各位置において光学パラメータの過渡応答における時点が異なっている。第2照射領域R2においてよりインレットIN側に位置する領域では、過渡応答におけるより早い時点での光学パラメータの情報が得られる。第2照射領域R2においてよりアウトレットOUT側に位置する領域では、過渡応答におけるより遅い時点での光学パラメータの情報が得られる。このように、アレイ状に配置されている検出器の位置と過渡応答における時点とが互いに関連付けられる。光学測定装置10は、拡大された一のプローブ光L2及びアレイ状に配置されている複数の検出器を用いて、過渡応答における初期過程から終過程に至るまでの光学パラメータの変化を同時に算出する。
【0110】
以上により、光学測定装置10は、流通型セル22での試料の流量が一定である条件下においても、試料の光学パラメータ及び物性パラメータの算出を可能にする。光学測定装置10は、試料の流量が一定であり安定化した状態で測定を実行することができる。光学測定装置10は、試料の流量を掃引したときよりもさらに早く、光学パラメータの時間変化及び物性パラメータの算出を可能にする。光学測定装置10は、時間分解能を向上させて、光学パラメータの時間変化をより滑らかなプロファイルとして取得することができる。光学測定装置10は、従来の光学測定方法で得られるような連続的な減衰プロファイルを、より連続的に近い状態で再現することができる。
【0111】
図11は、図1の光学測定システム1の第4変形例の一部を示す模式図である。上記第1実施形態では、フロー系20の流通型セル22に対して励起光L1及びプローブ光L2が直接入射しているが、これに限定されない。光学測定システム1は、流通型セル22上の一の第1照射領域R1及び第2照射領域R2を限定するマスク40をさらに有してもよい。マスク40は、励起光L1用の第1スリット41a及びプローブ光L2用の第2スリット41bを有してもよい。
【0112】
このとき、励起光L1の光束径は、第1スリット41aのスリット幅よりも広くなるように、第1光束調整部16aにより調整されてもよい。プローブ光L2の光束径は、第2スリット41bのスリット幅よりも広くなるように、第2光束調整部16bにより調整されてもよい。
【0113】
これにより、光学測定システム1は、励起光L1及びプローブ光L2に対して、光強度の均一性と照射領域の絞り込みとの間の両立を可能にする。加えて、光学測定システム1は、励起光L1及びプローブ光L2が局所領域に集光され、高いエネルギー密度で試料に照射されるときと比較して、測定対象である試料への光照射による劣化を抑制可能である。
【0114】
マスク40は、励起光L1用の第1スリット41aのみを有し、プローブ光L2側には配置されないように構成されてもよい。マスク40は、図11のように流通型セル22と離間していてもよいし、流通型セル22に接触させて、流通型セル22の流路の直上に位置してもよい。光学測定システム1は、絞りとして機能するこのようなマスク40に代えて、又は加えて、光学測定装置10の光学系における光路の途中に位置する異なる絞りをさらに有してもよい。
【0115】
上記第1実施形態では、光学測定装置10は、第1ビームスプリッタ13a及び第2ビームスプリッタ13bを有すると説明したが、これに限定されない。光学測定装置10は、第1ビームスプリッタ13a及び第2ビームスプリッタ13bの少なくとも一方を有さなくてもよい。光学測定装置10では、高いS/N比を得るために指向性の高いレーザ光源を用いることが望ましいが、レーザ光源ではなくLED(Light Emitting Diode)等の指向性が低い光源を用いる場合には、これらのビームスプリッタは必ずしも必要とされない。
【0116】
上記第1実施形態では、光学測定システム1は、少ない値から最も多い値に至るまでの流量の掃引を1回のみ実行すると説明したが、これに限定されない。光学測定システム1は、このような掃引を複数回繰り返してもよい。光学測定システム1は、このような積算処理によって、光学パラメータの測定データに関するS/N比を向上可能である。
【0117】
上記第1実施形態では、励起光L1及びプローブ光L2は、共に連続光であると説明したが、これに限定されない。励起光L1及びプローブ光L2の少なくとも一方は、パルス光であってもよい。
【0118】
上記第1実施形態では、ステップS108においてフィッティング処理に用いられる最適な関数は、指数関数を含むと説明したが、これに限定されない。最適な関数は、指数関数以外の任意の関数を含んでもよい。
【0119】
上記第1実施形態において、光学測定装置10は、試料から放出される蛍光の影響を抑制するための蛍光フィルタを有してもよい。このような蛍光フィルタは、プローブ光L2が入射する第1検出部12b1の直前に配置されてもよい。これにより、光学測定装置10は、測定の確からしさをさらに向上させることも可能である。
【0120】
上記第1実施形態において、制御部15において実行される少なくとも一部の処理動作が制御装置30において実行されてもよい。例えば、制御部15に代えて、制御装置30が、制御部15に関する上述した一連の処理動作を実行してもよい。逆に、制御装置30において実行される少なくとも一部の処理動作が制御部15において実行されてもよい。
【0121】
以上のような第1実施形態に係る光学測定システム1は、連続フロー合成用測定装置として応用可能である。光学測定システム1は、連続フロー合成装置と組み合わせられることで、合成及び物性測定を同時に行うことができる。以上のような第1実施形態に係る光学測定システム1は、化学プラント内の配管内を流れる物質の物性連続モニタリングにも応用可能である。以上により、光学測定システム1を用いた光学測定手法は、物質を連続で生産する連続プロセス内での物性モニタリング手法の一つになり得る。
【0122】
(第2実施形態)
図12は、本開示の第2実施形態に係る光学測定システム1の一部の構成の一例を示す模式図である。図12を参照しながら、第2実施形態に係る光学測定システム1の構成及び動作について主に説明する。第2実施形態に係る光学測定システム1は、主にフロー系20の構成が第1実施形態と相違する。
【0123】
その他の構成、機能、効果、及び変形例などについては、第1実施形態と同様であり、対応する説明が第2実施形態に係る光学測定システム1にも当てはまる。以下では、第1実施形態と同様の構成部については同一の符号を付し、その説明を省略する。第1実施形態と異なる点について主に説明する。
【0124】
第2実施形態において、測定対象となる「試料」は、例えば基板上に製膜された任意のサンプルを含む。フロー系20は、基板上に試料が製膜された回転体24を有する。
【0125】
回転体24は、例えば太陽電池及び光応答デバイス等を含む。回転体24は、スピンコート法、真空蒸着法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法におけるスプレー法及びパイロゾル法、結晶成長法、スキージ法、並びにスクリーンプリント法等を含む任意の製造方法に基づいて作成される。回転体24に対して、浸漬法及びエッチング等を含む付加的な処理が施されてもよい。このような付加的な処理は、上記の製造方法により製膜された基板に対して機能をさらに追加するためのものである。
【0126】
フロー系20は、回転体24に取り付けられ、回転体24を回転させることが可能なモータ25を有する。モータ25は、制御装置30による制御によって回転体24を一方向に回転させる。モータ25は、制御装置30による制御によって回転体24の回転速度を変化させる。これにより、基板上に製膜された試料は、回転体24上で一方向に回転する。第2実施形態において、「移動速度に関する情報」は、例えば回転体24での試料の回転速度を含む。
【0127】
制御部15は、連続光として励起光L1を照射するように第1照射部11aを制御する。同様に、制御部15は、連続光としてプローブ光L2を照射するように第2照射部11bを制御する。励起光L1及びプローブ光L2は、回転の軸中心から同じ半径距離に照射される。回転体24上の試料を透過したプローブ光L2は、集光レンズ18bにより集光され、第1検出部12b1により検出される。
【0128】
フロー系20の移動経路上を一方向に回転しながら移動する特定の試料群は、移動経路において第1照射領域R1に重なる部分に位置するときにのみ励起光L1にさらされる。試料が第1照射領域R1において励起光L1により一度励起されてから再度励起されるまでの時間間隔が物性パラメータとしての励起状態の寿命よりも十分に長くなるように、試料の移動経路が設計される。
【0129】
基板上で回転する特定の試料群の光学密度は、連続光としての励起光L1に特定のタイミングでさらされることで変化する。例えば、当該特定の試料群の光学密度は、励起光L1による試料群の励起によって増大する。このとき、プローブ光L2の透過光強度は減少する。
【0130】
特定の試料群が連続光としての励起光L1の第1照射領域R1から離れると、特定の試料群への励起光L1の照射が終了する。このとき、基板上で回転する特定の試料群の光学密度は、励起光L1によって励起された試料群の励起状態の寿命を時定数とする指数関数に従って減少し、励起光L1に試料群がさらされる前の値に回復する。プローブ光L2の透過光強度は、励起状態の寿命を時定数とする指数関数に基づいて増大し、励起光L1に試料群がさらされる前のベースラインの値Iに回復する。
【0131】
光学測定システム1の制御装置30は、フロー系20のモータ25を制御し、回転体24上での試料の回転速度、すなわち移動速度を変化させる。光学測定システム1では、図12に示すように、第2照射領域R2は、一の領域を含み、試料の回転方向側に第1照射領域R1と所定の間隔で離間している。光学測定システム1では、図12に示すように、第1検出部12b1は、一の検出器を含む。
【0132】
このとき、制御部15は、回転体24において試料の回転速度、すなわち移動速度が変化するときに、互いに異なる複数の移動速度の各々に対し光学パラメータを算出する。第1実施形態における図5と同様に、例えば、制御部15は、第1回転速度、第2回転速度、及び第3回転速度の各々に対し光学パラメータを算出する。
【0133】
第1照射領域R1と第2照射領域R2とは移動経路に沿って互いに一定の間隔で離間している。このような状態で回転体24上を回転する試料の移動速度が変化すると、励起光L1による励起によって生じた光学パラメータの過渡応答における時点が変化した試料に対してプローブ光L2が透過する。回転速度が速い試料は、第1照射領域R1から第2照射領域R2までの移動時間が短いので、過渡応答においてより早い時点での光学パラメータに基づいてプローブ光L2にさらされる。回転速度が遅い試料は、第1照射領域R1から第2照射領域R2までの移動時間が長いので、過渡応答においてより遅い時点での光学パラメータに基づいてプローブ光L2にさらされる。
【0134】
第1回転速度、第2回転速度、及び第3回転速度の中で最も速い第1回転速度では、制御部15は、励起光L1による励起により光学パラメータが立ち上がった時点から最も早い時点での光学パラメータの情報を、試料を透過したプローブ光L2の検出強度に基づいて取得可能である。第1回転速度、第2回転速度、及び第3回転速度の中で2番目に速い第2回転速度では、制御部15は、励起光L1による励起により光学パラメータが立ち上がった時点から2番目に早い時点での光学パラメータの情報を、試料を透過したプローブ光L2の検出強度に基づいて取得可能である。第1回転速度、第2回転速度、及び第3回転速度の中で最も遅い第3回転速度では、制御部15は、励起光L1による励起により光学パラメータが立ち上がった時点から最も遅い時点での光学パラメータの情報を、試料を透過したプローブ光L2の検出強度に基づいて取得可能である。
【0135】
制御部15は、各回転速度において試料を透過し、第1検出部12b1により異なるタイミングで検出されたプローブ光L2の検出強度に基づいて、各時点での光学パラメータを算出する。例えば、制御部15は、3つの回転速度の各々に対して光学パラメータを算出し、合計で3つの光学パラメータを取得する。
【0136】
図13は、図12の光学測定システム1の動作の一例を示すフローチャートである。図13を参照しながら、光学測定装置10を含む光学測定システム1を用いた光学測定方法の主なフローについて説明する。
【0137】
ステップS200では、光学測定システム1の制御装置30は、フロー系20のモータ25を動作させる。これにより、制御装置30は、回転体24上に均一に存在する、測定対象となる試料の回転動作を開始させる。
【0138】
ステップS201では、光学測定装置10の制御部15は、ステップS200においてモータ25の動作が安定した後、第2照射部11bを動作させてプローブ光L2の試料への照射を開始させる。ステップS201は、移動経路上で一の第1照射領域R1よりも試料の移動方向側に位置する第2照射領域R2にプローブ光L2を照射する第2照射ステップに対応する。プローブ光L2は、後続のステップにおいても連続光として継続して試料に照射されている。
【0139】
ステップS202では、光学測定装置10の制御部15は、励起光L1が照射されていない状態の試料を透過して第1検出部12b1により検出されたプローブ光L2の透過光強度を図3に示すようなベースラインIとして測定する。制御部15は、測定されたベースラインIの情報を記憶部19に格納する。
【0140】
ステップS203では、光学測定装置10の制御部15は、第1照射部11aを動作させて励起光L1の試料への照射を開始させる。ステップS203は、移動する試料の移動経路上の一の第1照射領域R1に励起光L1を照射する第1照射ステップに対応する。励起光L1の照射によって測定対象となる試料が励起される。
【0141】
ステップS204では、光学測定装置10の制御部15は、ステップS203において励起された試料を透過したプローブ光L2を第1検出部12b1により検出し、検出されたプローブ光L2の検出強度を記憶部19に格納する。制御部15は、プローブ光L2のこのような透過光強度に加えて、回転体24での試料の回転速度及び測定時刻等の付加的な情報を記憶部19に格納する。記憶部19は、回転体24での試料の回転速度を移動速度に関する情報として記憶する。ステップS204は、第2照射ステップにおいて試料に照射されたプローブ光L2を検出する検出ステップに対応する。
【0142】
ステップS205では、光学測定装置10の制御部15は、全ての回転速度について測定が完了したか否かを判定する。制御部15は、全ての回転速度について測定が完了したと判定するとステップS207の処理を実行する。制御部15は、全ての回転速度について測定しきれていないと判定すると、ステップS206の処理を実行する。
【0143】
ステップS206では、光学測定システム1の制御装置30は、フロー系20のモータ25を制御して回転体24での試料の回転速度を変更する。例えば、制御装置30は、測定が開始したときは遅い回転速度に設定し、図13のフローが繰り返される中で回転速度を徐々に速くする。遅い値から最も速い値に至るまでの回転速度の掃引は、1回のみ実行される。
【0144】
ステップS206において回転速度が変更される間、光学測定装置10の制御部15は、ステップS204での透過光強度、回転速度、及び測定時刻等の情報の記憶部19への格納処理を継続して実行する。
【0145】
ステップS207では、光学測定装置10の制御部15は、記憶部19が記憶している測定データと、第1照射領域R1と第2照射領域R2との間の回転体24上の移動経路に沿った間隔と、を用いて、透過光強度から算出した光学密度と時間との2次元プロットを取得する。ステップS207は、励起光L1による励起によって生じる試料の光学パラメータの過渡応答において互いに異なる複数の時点の各々にある試料を透過して、検出ステップにおいて異なるタイミングで検出されたプローブ光L2の検出強度に基づき、複数の時点での光学パラメータを算出する第1算出ステップに対応する。
【0146】
ステップS208では、光学測定装置10の制御部15は、ステップS207において取得された2次元プロットに対して、最適な関数をフィッティングすることで励起状態の寿命となる時定数を物性パラメータとして取得する。最適な関数は、例えば指数関数を含む。ステップS208は、第1算出ステップにおいて算出された光学パラメータに基づいて試料の物性パラメータを算出する第2算出ステップに対応する。
【0147】
光学測定装置10の制御部15は、ステップS208において取得された物性パラメータを、必要に応じて出力する。例えば、制御部15は、光学測定装置10に付加的に備わっているディスプレイ及びスピーカ等を含む出力部からユーザに対して物性パラメータを情報として出力してもよい。例えば、制御部15は、光学測定装置10とは異なる他の構成部として光学測定システム1に付加的に備わっているディスプレイ及びスピーカ等を含む出力部からユーザに対して物性パラメータを情報として出力してもよい。
【0148】
基板上に試料が製膜された回転体24であって、一方向に回転する回転体24を光学測定システム1が有することで、光学測定システム1は、第1照射領域R1及び第2照射領域R2に重なる移動経路において試料をとどめておくことなく一方向に移動させることが可能となる。これにより、光学測定システム1は、第1照射領域R1及び第2照射領域R2における試料の露光時間を低減可能となる。したがって、光学測定システム1は、測定対象である試料への光照射による劣化を抑制可能である。
【0149】
光学測定システム1は、制御装置30及び制御装置30による制御によって回転体24の回転速度を変化させるモータ25を有することで、上記の回転速度の掃引に基づく光学測定装置10を用いた光学パラメータ及び物性パラメータの算出を可能にする。これにより、光学測定システム1は、長時間の物性パラメータを有する試料に対しても物性パラメータを短時間で測定できる。
【0150】
本開示は、その精神又はその本質的な特徴から離れることなく、上述した実施形態以外の他の所定の形態で実現できることは当業者にとって明白である。したがって、先の記述は例示的であり、これに限定されない。開示の範囲は、先の記述によってではなく、付加した請求項によって定義される。あらゆる変更のうちその均等の範囲内にあるいくつかの変更は、その中に包含されるとする。
【0151】
例えば、上述した各構成部の形状、配置、向き、及び個数等は、上記の説明及び図面における図示の内容に限定されない。各構成部の形状、配置、向き、及び個数等は、その機能を実現できるのであれば、任意に構成されてもよい。
【0152】
例えば、上述した光学測定方法の各ステップに含まれる機能等は、論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数のステップを1つに組み合わせたり、又は分割したりすることが可能である。
【0153】
上記では、光学測定装置10、光学測定システム1、及び光学測定方法について主に説明したが、本開示は、制御部15及び制御装置30が有するプロセッサにより実行されるプログラム又はプログラムを記録した記憶媒体としても実現し得るものである。本開示の範囲には、これらも包含されると理解されたい。
【符号の説明】
【0154】
1 光学測定システム
10 光学測定装置
11a 第1照射部
11b 第2照射部
12a 励起光検出部
12b 検出部
12b1 第1検出部
12b2 第2検出部
13a 第1ビームスプリッタ
13b 第2ビームスプリッタ
14a 第1シャッタ
14b 第2シャッタ
15 制御部
16a 第1光束調整部
16b 第2光束調整部
17 レーザダンプ
18a 集光レンズ
18b 集光レンズ
19 記憶部
20 フロー系
21 ポンプ
22 流通型セル
23 原料タンク
24 回転体
25 モータ
30 制御装置
40 マスク
41a 第1スリット
41b 第2スリット
IN インレット
OUT アウトレット
L1 励起光
L2 プローブ光
R1 第1照射領域
R2 第2照射領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13