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特開2023-149225中性子変換積層体、中性子検出装置及び時間分解型中性子検出装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149225
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】中性子変換積層体、中性子検出装置及び時間分解型中性子検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01T 3/00 20060101AFI20231005BHJP
   G01T 1/18 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
G01T3/00 Z
G01T3/00 G
G01T1/18 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022057674
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】506209422
【氏名又は名称】地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター
(71)【出願人】
【識別番号】504151365
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】小宮 一毅
(72)【発明者】
【氏名】武内 陽子
(72)【発明者】
【氏名】宇野 彰二
【テーマコード(参考)】
2G188
【Fターム(参考)】
2G188AA01
2G188AA19
2G188AA27
2G188BB06
2G188BB09
2G188CC04
2G188CC41
2G188DD05
2G188DD09
2G188DD42
2G188DD44
(57)【要約】
【課題】中性子~熱中性子~高速中性子までのエネルギー帯域を1つの中性子検出装置で検出することを可能にすると共に、この広いエネルギー帯域で2次元画像を得るために用いることができる中性子変換積層体を提供することである。
【解決手段】本発明の中性子変換積層体1000は、水素を含有する樹脂フィルム1001と、樹脂フィルム1001上に形成された10B単体又は10Bの化合物からなる膜1002と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素を含有する樹脂フィルムと、
前記樹脂フィルム上に形成された10B単体又は10Bの化合物からなる膜と、を有する、中性子変換積層体。
【請求項2】
前記樹脂は、PET、PI、PEN、PE、PC及びPEEKからなる群から選択された樹脂材料である、請求項1に記載の中性子変換積層体。
【請求項3】
前記膜が10Bの窒化物からなる、請求項1又は2のいずれかに記載の中性子変換積層体。
【請求項4】
前記樹脂フィルムの厚みは50μm以上、2mm以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の中性子変換積層体。
【請求項5】
前記膜の厚みは0.05μm以上、3μm以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の中性子変換積層体。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の中性子変換積層体と、
前記中性子変換積層体から発生したα粒子及び陽子を検出するマイクロパターンガス検出器と、を備える、中性子検出装置。
【請求項7】
前記マイクロパターンガス検出器がガス電子増幅器である、請求項6に記載の中性子検出装置。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか一項に記載の中性子変換積層体と、
前記中性子変換積層体から発生したα粒子及び陽子を検出する、飛行時間型マイクロパターンガス検出器と、
パルス中性子源と、を備える、時間分解型中性子検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中性子変換積層体、中性子検出装置及び時間分解型中性子検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
中性子は、従来のX線にはない水素の応答がよく、透過能力が強いという特性を有することから、非破壊検査、材料分析の分野で注目をされている。また、医療分野においても、透過力が強いため、中性子との反応が大きいホウ素と組み合わせ、中性子医療としてがん治療の分野で注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2018-524560号公報
【特許文献2】特開2004-233283号公報
【特許文献3】特開2000-206261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
その一方で、中性子は電荷を持たないため、その検出には電離作用を利用し検出する。また、中性子線源は幅の広いエネルギー帯域をもち、各エネルギー帯域で必要になる検出機構が異なる。例えば、熱中性子(2.5×10-2eV以下)については中性子を吸収しやすい原子核による吸収を利用する。例えば、熱中性子は10B(同位体ホウ素)との核反応によってα(アルファ)粒子とLi原子核が放出されるので、そのα粒子を検出する。また、高速中性子(5×10eV以上)については水素原子核の散乱を利用する。例えば、水素を高密度で含む樹脂から高速中性子によって叩き出された反跳陽子を検出する。
このように各エネルギー帯域で必要になる検出機構が異なるため、ユーザーは通常、エネルギー帯域に応じて、中性子を荷電粒子に変換する物質や検出器をそれぞれ用意する必要があった。
【0005】
また、2次元の検出位置情報が得られる放射線検出器としてマイクロパターンガス検出器が知られている。冷中性子~熱中性子~高速中性子までの広いエネルギー帯域で2次元画像が得られると、中性子の新しい利用が期待できる。
【0006】
特許文献3には、10Bを含有する(10B95%含有)ボロン板コンバータと高密度ポリエチレンラジエータとを重ねて、一つのシリコン中性子検出器で熱中性子及び高速中性子を検出する発明が開示されている([0014]参照)。さらに特許文献3には、同一面積の場合、高速中性子に対するラジエータの感度が熱中性子に対するコンバータの感度に対して2桁~3桁小さいことに基づき、コンバータの面積をラジエータに対して1/100程度に小さくできる旨、記載されている([0010]、[0011]参照)。この発明に基づいて、冷中性子~熱中性子~高速中性子までの広いエネルギー帯域で2次元画像を得ることに想到することは難しい。
【0007】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、冷中性子~熱中性子~高速中性子までの広いエネルギー帯域を1つの中性子検出装置で検出することを可能にすると共に、この広いエネルギー帯域で2次元画像を得るために用いることができる中性子変換積層体及び中性子検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0009】
本発明の第1態様に係る中性子変換積層体は、水素を含有する樹脂フィルムと、前記樹脂フィルム上に形成された10B単体又は10Bの化合物からなる膜と、を有する。
【0010】
上記態様に係る中性子変換積層体において、前記樹脂は、PET、PI、PEN、PE、PC及びPEEKからなる群から選択された樹脂材料であってもよい。
【0011】
上記態様に係る中性子変換積層体において、前記膜が10Bの窒化物からなるものでもよい。
【0012】
上記態様に係る中性子変換積層体において、前記樹脂フィルムの厚みは50μm以上、2mm以下であってもよい。
【0013】
上記態様に係る中性子変換積層体において、前記膜の厚みは0.05μm以上、3μm以下であってもよい。
【0014】
本発明の第2態様に係る中性子検出装置は、上記態様に係る中性子変換積層体と、前記中性子変換積層体から発生したα粒子及び陽子を検出するマイクロパターンガス検出器と、を備える。
【0015】
上記態様に係る中性子変換積層体において、前記マイクロパターンガス検出器がガス電子増幅器であってもよい。
【0016】
本発明の第3態様に係る時間分解型中性子検出装置は、上記態様に係る中性子変換積層体と、前記中性子変換積層体から発生したα粒子及び陽子を検出する、飛行時間型マイクロパターンガス検出器と、パルス中性子源と、を備える。
【発明の効果】
【0017】
本発明の中性子変換積層体によれば、冷中性子~熱中性子~高速中性子までのエネルギー帯域を1つの中性子検出装置で検出可能にすると共に、この広いエネルギー帯域で2次元画像を得るために用いることができる中性子変換積層体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係る中性子変換積層体の断面模式図である。
図2】本発明に係る中性子検出装置の概要を示す斜視図である。
図3図2に示した中性子変換積層体の断面模式図である。
図4】本発明に係る中性子検出装置の構成を模式的に示す断面模式図である。
図5】本発明に係る中性子検出装置のチャンバー内の構成を模式的に示す斜視図である。
図6】ガス電子増幅器用電極の斜視模式図である。
図7】本発明に係る時間分解型中性子検出装置の概念図である。
図8】本発明に係る時間分解型中性子検出装置の原理を説明するための図である。
図9A】(a)は用いた中性子検出装置の概要図であり、(b)は用いた中性子変換積層体の構成の断面模式図である。
図9B】用いた中性子変換積層体の写真である。
図10】(a)は熱中性子画像であり、(b)は高速中性子画像である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であり、その効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0020】
[中性子変換積層体]
図1に、本発明に係る中性子変換積層体の断面模式図を示す。
図1に示す中性子変換積層体1000は、水素を含有する樹脂フィルム1001と、樹脂フィルム1001上に形成された10B単体又は10Bの化合物からなる膜1002と、を有する。
図1に示す中性子変換積層体1000の形状は膜状であり、中性子変換積層膜と言えるものであるが、膜状に限定されない。
【0021】
中性子変換積層体1000には、高速中性子及び熱中性子を検出可能であるという効果を奏する限り、他の膜を有してもよい。例えば、後述するマイクロパターンガス検出器に適用する場合には、水素含有樹脂フィルム1001と10B含有膜1002との間に電極膜を挟んでもよい。
【0022】
(樹脂フィルム)
樹脂フィルム1001は水素を含有する樹脂材料からなる。樹脂フィルム1001は水素を含有するので、高速中性子(5×10eV以上)が水素原子核から陽子を叩き出す。この現象を利用して、その反跳陽子を検出することによって高速中性子を検出することができる。
かかる樹脂材料としては水素を高密度で含有することが好ましい。水素を高密度で含有する樹脂材料としては例えば、PE(ポリエチレン)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PI(ポリイミド)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PC(ポリカーボネート)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)などが挙げられる。
この中で、樹脂フィルム1001上に乾式の成膜法によって10B単体又は10Bの化合物からなる膜を形成するためには高耐熱性であることが好ましい。高耐熱性の樹脂材料としては、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PI(ポリイミド)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PC(ポリカーボネート)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)などが挙げられる。
【0023】
樹脂フィルム1001の厚みとしては50μm以上、2mm以下であることが好ましい。この厚みの範囲であると、高速中性子の検出効率が十分であるからである。樹脂フィルム1001の厚みは100μm以上、1mm以下であることがより好ましい。
【0024】
10B含有膜)
10B含有膜1002は、10B単体又は10Bの化合物からなる膜である。
10B(質量数10のホウ素原子。ボロンテン。)は大きな中性子捕獲断面積を有することから、低エネルギー中性子(2.5×10-2eV以下)と核反応を起こし易い元素であり、中性子による放射化がほとんど起こらない。
10Bの化合物としては、10Bの酸化物、窒化物、炭化物、ケイ化物、硼化物、塩類、等の各種の化合物を挙げることができる。10Bは、約20%の同位体比率で存在する安定なホウ素原子である。10Bの含有率は特に限定されるものではなく、通常は20%以上含有するものであれば、使用可能であるが、10Bを99%以上含有するものが好ましい。
10Bの化合物のうち、絶縁性で安定なために扱いやすい10Bの窒化物(10BN)は特に好ましい。
【0025】
10B含有膜1002の厚みとしては0.05μm以上、3μm以下であることが好ましい。この厚みの範囲であると、熱中性子の検出効率が十分であるからである。10B含有膜1002の厚みは、0.05μm以上、2.0μm以下であることがより好ましく、0.1μm以上、1.5μm以下であることがさらに好ましい。
【0026】
10B含有膜は公知の成膜方法によって樹脂フィルム1上に成膜可能であるが、スパッタリング法によって成膜すると樹脂フィルム1との間に高密着性を得ることができる。また、樹脂フィルム1上に10B含有膜を成膜する前に樹脂フィルム表面をプラズマ照射して表面を清浄にし、活性化を図ってもよい。
一般にホウ素の成膜は電子線蒸着法で行われることが多いが、樹脂フィルムと10B含有膜との間で十分な密着性が得られないことがある。このような場合には、樹脂フィルムの表面にプラズマ処理を行うと共に、マグネトロンスパッタリング法によって成膜することで密着性の向上を図ることができる。また、マグネトロンスパッタリング法によると、ホウ素化合物の成膜も容易に行うことができる。PETフィルムやPEフィルムなどは10B含有膜を安定に保持できる成膜面を有するため、十分な密着性を得ることができる。
【0027】
[中性子検出装置]
図2に、本発明に係る中性子検出装置の概要を示す斜視図を示す。図3に、図2に示した中性子変換積層体の断面模式図を示す。
図2に示す中性子検出装置2000は、中性子変換積層体1000Aと、中性子変換積層体1000Aから発生したα線及び陽子を検出するマイクロパターンガス検出器200と、を備えている。
【0028】
(マイクロパターンガス検出器)
マイクロパターンガス検出器(MPGD:Micro Pattern Gas Detector))200は、チャンバー220内に、中性子変換積層体1000A中に含まれるカソード電極211と、読み出し電極212と、カソード電極211と読み出し電極212との間に配設された電極210-1、210-2を備える。カソード電極211と読み出し電極212との間に配設された電極は2枚であるが、1枚でも3枚以上でもよい。
読み出し電極212としては、X方向及びY方向が同時に読み出せるようにXストリップとYストリップが配置されている。これによって、2次元位置情報すなわち、2次元画像を得ることができる。
【0029】
中性子変換積層体1000Aは、水素含有樹脂フィルム1001と10B含有膜1002との間にカソード電極211を備える。
【0030】
チャンバー220内には、電離ガスが含まれている。電離ガスとしては例えば、ArとCOが7:3の割合の混合ガスを用いることができる。
【0031】
本発明に係る中性子変換積層体は、従来のマイクロパターンガス検出器(MPGD)に容易に組み込むことができる。これによって、冷中性子~熱中性子~高速中性子までの広いエネルギー帯域で2次元画像を得ることが可能になる。
【0032】
図4図6を用いて、マイクロパターンガス検出器の1種であり、発生した電子を増幅するタイプのガス電子増幅器(GEM:Gas Electron Multiplier)に、中性子変換積層体を適用した例を説明する。
【0033】
図4は、本発明に係る中性子検出装置の模式図である。図4図6に示す中性子検出装置においては、高速中性子が中性子変換積層体に入射したときは荷電粒子として陽子を発生し、熱中性子が中性子変換積層体に入射したときには荷電粒子としてα粒子を発生し、それら荷電粒子が電離ガスを電離させ電子を発生させ、発生した電子を、電子雪崩増幅を利用して増幅し、検出する。
【0034】
「電子雪崩増幅」とは、強い電場中で自由電子が気体分子と衝突することで、気体分子から電子が叩き出され、叩き出された電子が電場により加速し、さらに他の気体分子と衝突することで、加速度的に電子数が増える現象をいう。
【0035】
図4に示す中性子検出装置2001では、従来のガス電子増幅器が備えるカソード電極に替えて、カソード電極を含む中性子変換積層体を備えている。従って、従来のガス電子増幅器において、カソード電極を本発明に係る中性子変換積層体に差し替えるだけで容易に、本発明に係る中性子検出装置を得ることができる。
図4に示す中性子変換積層体1000Aにおいては、カソード電極211は樹脂フィルム1001の全面に形成されたベタ膜であるが、開口部を有する構成にしたり、櫛型の構成にするなど、中性子の検出効率を最適化するために適宜、形状を調整してもよい。また、図4に示す中性子変換積層体1000Aにおいては、カソード電極211が樹脂フィルム10001と10B含有膜1002との間に挟まれた構成であるが、樹脂フィルム10001と10B含有膜1002との積層体の一方の面に配置する構成でもよい。
【0036】
図4に示す中性子検出装置2001は、カソード電極211を含む中性子変換積層体1000Aと、読出し電極12と、所定のガス電子増幅器用電極10と、チャンバー20と、接続端子30とを有し、一体化されている。図5は、図4の中性子検出装置に対応し、チャンバー20内の構成を模式的に示した斜視図である。図4及び図5ではガス電子増幅器用電極10が、カソード電極211と読出し電極12の間に3枚の構成を図示したが、3枚の構成に限られない。ガス電子増幅器用電極10は1枚の単層構成でもよいし、2以上の複数枚の構成でもよい。
【0037】
チャンバー20は、封止されている。チャンバー20内には、反応ガスとして電離ガスが封入されている。電離ガスとしては、アルゴン、ネオン等の希ガス又はこれらを含む混合ガスを用いることができる。
【0038】
カソード電極211には、第1電圧印加端子31が接続されている。第1電圧印加端子31を介してカソード電極211に、所定の電圧を印加可能である。またガス電子増幅器用電極10の両面には、第2電圧印加端子32が接続されている。第2電圧印加端子32を介して、ガス電子増幅器用電極10の両面に所定の電圧を印加可能である。
【0039】
ガス電子増幅器用電極10、カソード電極211及び読出し電極12のそれぞれ間に電位差を加えることで、カソード電極211(中性子変換積層体1000A)とガス電子増幅器用電極10の間の領域(以下、「ドリフト領域」という)13、ガス電子増幅器用電極10と読出し電極12の間の領域(以下、「インダクション領域」という)14には、電界が発生する。またガス電子増幅器用電極10の貫通孔3内にも電界が発生する。
【0040】
チャンバー20の入射口21から入射する中性子が高速中性子の場合は、その高速中性子が中性子変換積層体1000Aに入射すると、樹脂フィルム10001から陽子が発生し、また、チャンバー20の入射口21から入射する中性子が熱中性子の場合は、その熱中性子が中性子変換積層体1000Aに入射すると、10B含有膜1002からα粒子が発生し、荷電粒子であるα粒子、陽子がドリフト領域13で電離ガスを電離させ電子を発生させる。発生した電子は、ドリフト領域13に生じた電界によって、ガス電子増幅器用電極10へ向かって引き寄せられる。
【0041】
そして電子は、ガス電子増幅器用電極10内の貫通孔3を通過する際に、電子雪崩増幅を生じ、電子数が増倍する。増幅した電子は、インダクション領域14に生じた電界により読出し電極12側に引き寄せられる。
【0042】
読出し電極12に到達した電子は、読出し端子33によって外部に読み出される。読出し電極12は、図4及び図5に示すように、エリアごとに区分けされており、どのエリアにどれだけの電子が測定されたかを判定できる。ガス電子増幅器では、上述のように検出対象である中性子を測定できる。
【0043】
以下、中性子検出装置の各構成要素について説明する。
【0044】
(中性子変換積層体)
中性子変換積層体1000Aは、樹脂フィルム10001と、10B含有膜1002と、これらの間にカソード電極211が挟まれた構成である。
樹脂フィルム10001と10B含有膜1002との間に挟まれた構成であるが、樹脂フィルム10001と10B含有膜1002との積層体の一方の面に配置する構成でもよい。
【0045】
(カソード電極)
カソード電極211は、読出し電極12との間で電位差を生み出すための電極である。カソード電極211は、導電性を有し、検出する放射線を透過できる公知のものを用いることができる。
【0046】
(読出し電極)
読出し電極12は、カソード電極211に対向して配置される。読出し電極12は、配線12aと基材12bとを有する。
【0047】
配線12aは、導電性を有する金属であれば特に問わない。配線12aには、例えば、銀、銅、金、クロム、ITO等を用いることができる。配線12aの配置は、例えばマトリックス配置の配線構造をとることができる。配線をマトリックス配置で配置することで、電子が入射した位置を平面座標として読み出せる。
【0048】
基材12bは、配線12aを配設するための支持体である。基材12bは無機材料により構成されたものを用いることができる。基材12bが無機材料により構成されたものを用いた場合、読出し電極12全体が無機材料により構成され、チャンバー20内での放出ガスの発生源となることが避けられる。
【0049】
(ガス電子増幅器用電極)
ガス電子増幅器用電極10は、カソード電極211と、読出し電極12の間に配設される。
【0050】
図6は、ガス電子増幅器用電極の斜視模式図である。ガス電子増幅器用電極10は、絶縁層1と、絶縁層1の両面に形成された導電層2とを備える。図6に示すように、ガス電子増幅器用電極10には、絶縁層1及び導電層2を貫く貫通孔3が複数形成されている。
【0051】
ガス電子増幅器用電極10の両面には、上述のように第2電圧印加端子32(図4参照)が接続され、電圧を印加可能となっている。導電層2は、図6に示すように平面視で連続しているため、第2電圧印加端子32との接点はそれぞれ1点でよい。二つの導電層2に異なる電圧を印加することで、貫通孔3内に強い電場が生み出される。
【0052】
絶縁層1は、無機材料や樹脂などにより構成されたものとすることができる。無機材料としては、感光性ガラスに代表される機能性ガラス、セラミックス等が挙げられる。絶縁層1が無機材料からなる場合は、絶縁層1がチャンバー20内での放出ガスの発生源となることが避けられるので望ましい。
【0053】
絶縁層1の両面を挟む導電層2間には、300V~700V程度の電位差を与えられる。そのため、絶縁層1に有機物を用いた場合は、電圧印加により発熱し、放出ガスを発生しやすい。これに対し、絶縁層1を無機物により構成すると、電圧印加により発熱しても、放出ガスはほとんど発生しない。そのため、チャンバー20を封止しても、電子雪崩増幅が放出ガスにより妨げられることはほとんどない。すなわち、ガス電子増幅器を一体化したモジュールとして構成できる。またガス電子増幅器用電極10の動作の安定性および信頼性も高まる。
【0054】
また絶縁層1を無機物質により構成すると、炭化導電路に伴う二つの導電層2間の短絡が避けられる。有機物を絶縁層として用いた場合、有機物が炭化することで炭化導電路が形成され、二つの導電層2間が短絡することがある。短絡が生じると、貫通孔3内に電場を生み出すことができなくなる。
【0055】
絶縁層1は、無機材料の中でもセラミックスからなることが好ましく、ファインセラミックスからなることがより好ましい。本明細書においてセラミックスとは、無機物を焼き固めた焼結体を意味する。ファインセラミックスとは、目的の機能を発現させるために、化学組成、微細組織、形状及び製造工程が制御されたセラミックスをいう。具体的には、低温焼結セラミックス(LTCC)、高温焼結セラミックス(HTCC)等を用いることが好ましい。
【0056】
また無機材料の中でもセラミックスは、感光性ガラス等に代表される機能性ガラスと比較して安価である。さらにガラス等と比較すると柔らかく、加工性にも優れる。そのため、貫通孔3を所望の形状に加工しやすい。
【0057】
また絶縁層に感光性ガラスを用いる場合は、電離ガスとして安価なアルゴンを用いることが難しく、高価なネオンを用いることが好ましいという報告がされている。これに対し、絶縁層1がセラミックスからなるガス電子増幅器用電極10は、電離ガスとして安価なアルゴンを好適に用いることができる。
【0058】
導電層2は、導電性を有する無機物質であればよい。例えば、銀、銅、金、クロム、ITO等を用いることができる。導電層2は、蒸着、スパッタ等により成膜されたものであっても、塗布等により形成されたものであってもよい。
【0059】
貫通孔3は、ガス電子増幅器用電極10において、平面視で規則的に配列している。貫通孔3の孔径及び配列間隔(ピッチ)は適宜設定することができる。中性子検出装置2001の増幅率を高めるためには、孔径を大きくし、ピッチを狭め、開口率を高めることが好ましい。絶縁層が有機物からなる場合は、強度を維持することができないため、孔径:ピッチ=1:2の関係とすることが一般的であった。これに対し、無機物質からなる絶縁層1は、有機物を用いた場合より硬く高い強度を有するため、より開口率を高めることができる。
【0060】
貫通孔3の孔径は、厚み方向で略一定であることが好ましい。ここで、略一定とは、絶縁層1の厚み方向中央における貫通孔3の孔径が、絶縁層1の一面における貫通孔3の孔径の0.9倍~1.0倍であることを意味する。ここで、絶縁層1の一面とは、加工手段によって判断する。打抜き加工を行う場合はポンチが押し付けられる面に対し反対側の面を意味し、レーザー加工を行う場合はレーザーが照射される面を意味し、フォトリソグラフィーにより作製する場合はマスクを形成した面を意味する。
【0061】
貫通孔3の孔径が厚み方向で略一定となると、貫通孔3内に生じる電界が均一になる。また電界が均一になると、部分的に電界強度が大きく低下することを抑制できる。すなわち、貫通孔3の孔径を厚み方向で略一定とすることで、導電層2に印加する電圧が低電圧の段階から、貫通孔3内で電子雪崩増幅を行うことができるだけの電界強度を発生させることができる。
【0062】
また貫通孔3の孔径が厚み方向で略一定であると、貫通孔3のアスペクト比を高めることができる。アスペクト比は0.5以上であることが好ましい。アスペクト比とは、絶縁層1の一面における貫通孔3の孔径に対する貫通孔3の深さ(絶縁層1及び導電層2の厚みの和)の比を意味する。
【0063】
貫通孔3の形状が厚さ方向に変化する場合、貫通孔3の孔径は厚さ方向中央部において最も小さくなる。すなわち、絶縁層1の一面における貫通孔3の孔径が広くても、貫通孔3を平面視した際の実質的な開口率は狭くなってしまう。つまり貫通孔3の形状が厚み方向に変化する場合、アスペクト比が高くなると中性子検出装置2001の増幅率特性を最大限に得ることができない。
【0064】
これに対し、貫通孔の孔径が厚み方向で略一定であれば、アスペクト比を高めても、実質的な開口率に差は生じない。すなわち、アスペクト比を高めても、中性子検出装置2001の増幅率特性を低下させることはない。またアスペクト比を高めることができれば、導電層2間の短絡がより発生しにくくなる。
【0065】
(チャンバー)
チャンバー20としては、カソード電極211、読出し電極12及びガス電子増幅器用電極10を囲むように構成され、封止されているものや、反応ガスがフローされているものなどを用いることができる。すなわち、チャンバー20によって形成される空間内に、カソード電極211、読出し電極12及びガス電子増幅器用電極10は配設される。
【0066】
上述のように、電圧印加により発熱するガス電子増幅器用電極10が無機材料で構成されている場合は、放出ガスの発生は抑制される。そのため、チャンバー20が封止されている場合であっても、放出ガスによる悪影響はほとんど受けない。
【0067】
チャンバー20は、中性子を入射する入射口21を有する。入射口21を構成する材料は、入射する中性子によって選択できる。例えば、アルミホイル(Al-foil)を用いることができる。
【0068】
チャンバー20の入射口21以外の部分は、放出ガスの発生をより抑制するために、無機材料からなることが好ましい。またチャンバー20及びチャンバー20内に配設される各部材を全て同一の無機材料とすることが好ましい。各部材が同一の無機材料からなると、一体成型が容易となり、量産性が高まる。
【0069】
(接続端子)
接続端子30は、第1電圧印加端子31と、第2電圧印加端子32と、読出し端子33からなる。接続端子30は、導電性を有する公知のものを用いることができる。
【0070】
第1電圧印加端子31はカソード電極211に接続され、カソード電極211と読出し電極12間の電位差を生み出す。第2電圧印加端子32は、一つのガス電子増幅器用電極10の両面の導電層2に接続され、貫通孔3内に電場を形成する。読出し端子33は、読出し電極12に接続され、読出し電極12に入射した電子を信号として読み出す。
【0071】
本発明に係る中性子変換積層体は、従来のガス電子増幅器(GEM)に容易に組み込むことができる。これによって、冷中性子~熱中性子~高速中性子までの広いエネルギー帯域で2次元画像を得ることが可能になる。
【0072】
[時間分解型中性子検出装置]
図7に、本発明に係る時間分解型中性子検出装置の概念図を示す。また、図8に、本発明に係る時間分解型中性子検出装置の原理を説明するための図を示す。
【0073】
図7に示す時間分解型中性子検出装置3000は、本発明に係る中性子変換積層体を備え、中性子変換積層体から発生したα粒子及び陽子を検出する飛行時間型マイクロパターンガス検出器3001と、パルス中性子源3002と、を備える。
【0074】
パルス中性子源3002としては、冷中性子から高速中性子までの広いエネルギー帯域の中性子を発生することができることが好ましい。パルス中性子源3002としては、加速器などを用いることができる。
【0075】
飛行時間型マイクロパターンガス検出器3001において、中性子検出器として本発明に係る中性子検出装置2001を用いることができる。
【0076】
中性子の運動エネルギーEnは、中性子の質量をMn、距離Lを移動するのに要した時間をTとすると、以下の式で与えられる。
【数1】
【0077】
図8に原理を図示するように、上式に基づいて、飛行時間(ToF:Time of Flight)法による中性子のエネルギー分解を行うことによって、高速中性子から冷中性子までを用いたさまざまなエネルギー帯域における画像を、同一試料に対して同時に取得することが可能となる。
例えば、試料中又は試料表面に、各エネルギー帯域ごとの中性子と反応しやすい箇所を有する場合例えば、高速中性子に反応しやすい部分、熱中性子に反応しやすい部分及び、冷中性子に反応しやすい部分を有する場合を考える。図7に示す時間分解型中性子検出装置3000において、各エネルギー帯域の中性子が試料で反応後、陽子やα粒子が発生して、それらがパルス中性子源3002から中性子が出ると同時に出力されるトリガ信号を基準とした時間として、時間T1の間に検出され、また、その後、時間T2の間に検出され、さらにその後、時間T3の間に検出され、各時間ごとに2次元位置分布を画像化することによって、各エネルギー帯域ごとの画像を得ることができる。
【実施例0078】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、その効果を奏する範囲で適宜変更して実施することができる。
【0079】
本発明に係る中性子変換積層体の効果を確認する実験を行った。
図9A(a)に用いた中性子検出装置の概要図、図9A(b)に用いた中性子変換積層体の構成の断面模式図、及び、図9Bに用いた中性子変換積層体の写真を示す。
図10(a)に熱中性子画像、(b)に高速中性子画像を示す。
【0080】
中性子変換積層体は、厚み500μmのPETフィルム上に、カソード電極として厚み100nmのアルミニウム(Al)膜、その上に厚み800nmの10BN膜を順に形成して得たものである。
【0081】
中性子線源として、自然放射源のカリホルニウム(252Cf)を用いた。図10(b)に示した高速中性子画像は、中性子線源から放出された高速中性子をそのまま直接、中性子検出装置に入射させて得たものであり、図10(a)に示した熱中性子画像は、中性子検出装置の入射口にポリエチレンブロック(減速材)を配置して得たものである。
【0082】
図9A(a)に示した大きさの電界を印加して測定を行った。
【0083】
10BN膜の成膜時に4箇所を押さえで支えて成膜を行った。図9Bの中性子変換積層体の写真に10BN膜が成膜されていない4箇所のノッチが見えている。
図10(a)の熱中性子画像において、4箇所のノッチに対応して熱中性子が検出されていない箇所が現れている。
これに対して、図10(b)の高速中性子画像において、4箇所のノッチに対応する箇所はない。
高速中性子についてはPETフィルムが全体に配置しているので、高速中性子が反応しない部分はなく、全体が反応していることがわかる。
図10(a)及び(b)の画像によって、2種類の中性子が検出できていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の中性子変換積層体及び中性性検出器は、原子炉などのエネルギーが未知の放射線に対する検出器、放射線医療実施時のインラインビームラインモニタ、材料物性の組成分析などに利用することができる。
【符号の説明】
【0085】
1000、1000A 中性子変換積層体
1001 水素含有樹脂フィルム
1002 10B含有膜
2000、2001 中性子検出装置
3000 時間分解型中性子検出装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10