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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149241
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】排水処理装置及び排水処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/28 20230101AFI20231005BHJP
   C02F 1/20 20230101ALI20231005BHJP
【FI】
C02F3/28 A
C02F1/20 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022057706
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】507036050
【氏名又は名称】住友重機械エンバイロメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】知久 治之
(72)【発明者】
【氏名】加藤 貴史
【テーマコード(参考)】
4D037
4D040
【Fターム(参考)】
4D037AA11
4D037AA13
4D037AB11
4D037BA23
4D037BB05
4D037CA07
4D037CA14
4D040AA02
4D040AA12
4D040AA32
4D040AA42
4D040AA45
4D040AA62
4D040AA63
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本発明の課題は、嫌気処理を伴う排水処理において、pH調整用のアルカリ使用量を低減するとともに、排水処理効率の低下及び処理過程で発生する有用なバイオガスの回収率低下を抑制できる排水処理装置及び排水処理方法を提供することである。
【解決手段】上記課題を解決するために、脱炭酸槽と、酸生成槽と、嫌気処理を行う反応部とを備え、脱炭酸槽に原水が導入され、反応部で処理された後の処理水を脱炭酸槽に返送する排水処理装置及びこの装置を用いた排水処理方法を提供する。本発明によれば、脱炭酸槽と酸生成槽を分け、脱炭酸槽を酸生成槽の前段に配することで、酸生成槽における過曝気による処理効率低下や、酸生成槽で発生したバイオガスの回収率低下が抑制できる。また、反応部で処理された後の処理水を脱炭酸槽に返送してpH調整剤として機能させ、処理水に対するpH調整用のアルカリ使用量の低減を可能とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱炭酸処理を行う脱炭酸槽と、
酸生成槽と、
前記酸生成槽の後段で嫌気処理を行う反応部と、を備え、
前記脱炭酸槽に原水が導入され、前記反応部で嫌気処理された後の処理水は前記脱炭酸槽に返送されることを特徴とする、排水処理装置。
【請求項2】
前記脱炭酸槽は、脱炭酸処理と併せて酸生成処理を行うことを特徴とする、請求項1に記載の排水処理装置。
【請求項3】
前記脱炭酸槽は、加温手段を備えることを特徴とする、請求項1又は2に記載の排水処理装置。
【請求項4】
前記反応部で嫌気処理された後の処理水は、前記脱炭酸槽の上部から返送されることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の排水処理装置。
【請求項5】
脱炭酸処理を行う脱炭酸ステップと、
酸生成ステップと、
前記酸生成ステップの後段で嫌気処理を行う反応ステップと、を備え、
前記脱炭酸ステップには原水が導入され、前記反応ステップ後の処理水は前記脱炭酸ステップに返送されることを特徴とする、排水処理方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水処理装置及び排水処理方法に関するものである。特に、本発明は、嫌気処理を伴う排水処理装置及び排水処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、有機物を含む排水を処理する方法として、種々の微生物を利用した生物処理が知られている。生物処理には、好気処理と嫌気処理の大きく分けて2種類の方法がある。このうち嫌気処理は、更にメタン発酵処理と脱窒処理の大きく分けて2種類の方法がある。このうち、メタン発酵処理は余剰汚泥がほとんど発生しないことなど、導入に係るメリットが高いことが挙げられる。
【0003】
メタン発酵処理は、嫌気的な環境下における嫌気性微生物の働きにより、排水中の有機物をメタンと二酸化炭素に分解する嫌気処理であり、処理コストや生成ガスの有用性の観点から、嫌気処理として広く用いられている。
【0004】
メタン発酵処理には、排水中の有機物に酸生成菌を接触させて酸を生成させる酸生成工程と、酸が生成した処理液にメタン生成菌を接触させてメタンを生成させるメタン生成工程が含まれる。酸生成工程とメタン生成工程はそれぞれ好適な進行条件が異なるため、別々の処理槽(酸生成槽及びメタン発酵槽)で処理を行う二相式が広く行われている。
【0005】
例えば、特許文献1には、有機物を含む排水の嫌気処理として、酸生成槽とメタン発酵槽を備えた嫌気処理装置が記載されている。また、特許文献1には、酸生成槽における酸生成工程と、メタン発酵槽におけるメタン生成工程と、メタン生成工程の処理水の一部を酸生成工程に返送する返送工程とを含む嫌気処理方法において、酸生成工程における被処理液を曝気することで脱炭酸を行い、pH調整用のアルカリ使用量を削減できるということが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5-277486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されるように、嫌気処理において、曝気による脱炭酸を行うことで、pH調整用のアルカリ使用量を低減させることは知られている。
一方、特許文献1に記載される嫌気処理では、酸生成槽で曝気を行うため、排水の処理量や処理負荷量が低減した場合、過曝気状態となり、酸生成菌やメタン生成菌の活性低下につながるということが懸念される。また、特許文献1に記載される嫌気処理では、酸生成槽において発生する有用なバイオガスに対し、曝気による気体が混入することになり、バイオガスとしての回収率が低下することになる。
【0008】
本発明の課題は、嫌気処理を伴う排水処理において、pH調整用のアルカリ使用量を低減するとともに、排水処理効率の低下及び処理過程で発生する有用なバイオガスの回収率低下を抑制することができる排水処理装置及び排水処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の課題について鋭意検討した結果、嫌気処理において、処理対象となる原水を導入した脱炭酸槽で脱炭酸を行った後、酸生成処理及びメタン生成を伴う嫌気処理を行うとともに、嫌気処理後の処理水を脱炭酸槽に返送することで、pH調整用のアルカリ使用量の低減に加え、排水処理効率の低下及び処理過程で発生する有用なバイオガスの回収率低下の抑制が可能となることを見出して、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の排水処理装置及び排水処理方法である。
【0010】
上記課題を解決するための本発明の排水処理装置は、脱炭酸処理を行う脱炭酸槽と、酸生成槽と、酸生成槽の後段で嫌気処理を行う反応部と、を備え、脱炭酸槽に原水が導入され、反応部で嫌気処理された後の処理水は脱炭酸槽に返送されるという特徴を有する。
本発明の排水処理装置は、脱炭酸槽と酸生成槽を分けることで、酸生成槽においては脱炭酸処理を行う必要がなくなる。これにより、酸生成槽における脱炭酸処理によって生じる過曝気による処理効率の低下や、酸生成槽で発生した有用なバイオガスの回収率低下を抑制することが可能となる。また、酸生成槽の前段に脱炭酸槽を設けることにより、脱炭酸槽から酸生成槽に導入される被処理水は、二酸化炭素以外の気体(特に酸素)についても脱気された状態となる。ここで、酸生成処理は嫌気条件下で進行する反応であるから、脱炭酸槽を酸生成槽の前段に配することで、酸生成槽に導入される被処理水の酸生成処理効率を向上させることが可能となる。
そして、反応部で嫌気処理された後の処理水には、嫌気処理で発生した二酸化炭素が溶存しており、この処理水を脱炭酸槽に返送することで、脱炭酸槽では薬品を用いることなく、pHを低下させることができる。このとき、脱炭酸槽ではpHを下げた状態で脱炭酸処理を行うことで、脱炭酸処理効率を高めることが可能となる。また、嫌気処理後の処理水を脱炭酸槽におけるpH調整剤として利用することにより、処理水に対するpH調整用の薬品(アルカリ)使用量を低減させることが可能となる。
【0011】
また、本発明の排水処理装置の一実施態様としては、脱炭酸槽は、脱炭酸処理と併せて酸生成処理を行うという特徴を有する。
この特徴によれば、先に脱炭酸槽で脱炭酸処理及び酸生成処理を行うことで、後段の酸生成槽に導入される被処理水中の脱気と併せ、塩酸などの強酸を添加することなく、後段の酸生成槽に導入される被処理水のpHを、酸生成処理に適したpH(弱酸性)とすることが可能となる。これにより、導入される原水のpHによらず、pH調整に使用する薬品使用量を低減させた上で、酸生成槽における酸生成処理を促進することが可能となり、排水処理効率及びバイオガス回収率を向上させることが可能となる。
【0012】
また、本発明の排水処理装置の一実施態様としては、脱炭酸槽は、加温手段を備えるという特徴を有する。
この特徴によれば、脱炭酸槽における脱炭酸処理効率を高めることが可能となる。また、脱炭酸槽において酸生成処理を行う場合、脱炭酸処理効率を高めることに加え、酸生成処理の促進を図ることも可能となる。
【0013】
また、本発明の排水処理装置の一実施態様としては、反応部で嫌気処理された後の処理水は、前記脱炭酸槽の上部から返送されるという特徴を有する。
この特徴によれば、二酸化炭素を含む処理水を槽上部から脱炭酸槽に導入することで、落水の衝撃で脱気を行うことができる。これにより、曝気等、駆動装置を使用する脱炭酸処理に比べ、省エネルギー化を図ることが可能となる。
【0014】
また、上記課題を解決するための本発明の排水処理方法としては、脱炭酸処理を行う脱炭酸ステップと、酸生成ステップと、酸生成ステップの後段で嫌気処理を行う反応ステップと、を備え、脱炭酸ステップには原水が導入され、反応ステップ後の処理水は脱炭酸ステップに返送されるという特徴を有する。
本発明の排水処理方法は、脱炭酸ステップと酸生成ステップを分けることで、酸生成ステップで発生した有用なバイオガスの回収率低下を抑制することが可能となる。また、酸生成ステップの前段に脱炭酸ステップを設けることにより、酸生成ステップにおける被処理水の酸生成処理効率を向上させることが可能となる。
そして、反応ステップ後の処理水を脱炭酸ステップに返送することで、脱炭酸ステップでは薬品を用いることなく、pHを低下させた状態で脱炭酸処理が可能となり、脱炭酸処理効率を高めることができる。また、反応ステップ後の処理水が脱炭酸ステップにおけるpH調整剤として作用することで、反応ステップで生じる処理水に対するpH調整用の薬品(アルカリ)使用量を低減させることが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、嫌気処理を伴う排水処理において、pH調整用のアルカリ使用量を低減するとともに、排水処理効率の低下及び処理過程で発生する有用なバイオガスの回収率低下を抑制することができる排水処理装置及び排水処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第1の実施態様における排水処理装置の概略説明図である。
図2】本発明の第2の実施態様における排水処理装置の概略説明図である。
図3】本発明の第2の実施態様における排水処理装置の別態様を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の処理対象である排水(以下、「原水」と呼ぶ)は、嫌気処理が可能な物質(有機物)を含有するものであれば特に限定されない。具体的な原水の例としては、例えば、食品工場、化学工場、紙パルプ工場等の各種工場から排出される工業排水や、下水などの生活排水などが挙げられる。
【0018】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係る排水処理装置及び排水処理方法の実施態様を詳細に説明する。本発明における排水処理方法については、本発明に係る排水処理装置の作動の説明に置き換えるものとする。
なお、実施態様に記載する排水処理装置及び排水処理方法については、本発明に係る排水処理装置及び本発明に係る排水処理装置を用いた排水処理方法を説明するために例示したにすぎず、これに限定されるものではない。
【0019】
[第1の実施態様]
図1は、本発明の第1の実施態様の排水処理装置の概略説明図である。
本実施態様における排水処理装置1Aは、図1に示すように、原水W0を導入する脱炭酸槽2と、脱炭酸槽2からの被処理水W1を酸生成処理する酸生成槽3と、酸生成槽3からの被処理水W2を嫌気処理する反応部4を備えている。さらに、脱炭酸槽2に対して原水W0を導入するための導入配管であるラインL1と、脱炭酸槽2から排出された被処理水W1を酸生成槽3に導入するラインL2と、酸生成槽3から排出された被処理水W2を反応部4に導入するラインL3と、反応部4で処理された処理水W3の一部を脱炭酸槽2に返送するための返送配管であるラインL4と、反応部4から排出される処理水W3を系外に排出するための排出配管であるラインL5を有している。なお、図1中の太線の矢印は水の流れを示すものである。
【0020】
本実施態様における排水処理装置1Aは、ラインL1を介して原水W0が導入される脱炭酸槽2から始まり、酸生成槽3、反応部4の順に排水処理を行っていくものである。また、反応部4で処理された処理水W3の一部はラインL4を介して脱炭酸槽2に返送され、脱炭酸槽2では原水W0と処理水W3の混合液に対する脱炭酸処理を行うこととなる。
【0021】
脱炭酸槽2は、原水W0及び反応部4から返送された処理水W3に含まれる二酸化炭素を除去する脱炭酸処理(脱炭酸ステップ)を行うための槽である。図1に示すように、脱炭酸槽2には、原水W0の供給源からラインL1を介して原水W0が導入されるとともに、ラインL4を介して反応部4で処理された処理水W3が導入される。
なお、図1では、ラインL1とラインL4は個々独立したものが示されているが、これに限定されるものではない。例えば、ラインL1とラインL4とを合流させ、この合流させた配管内で原水W0と処理水W3を混合し、混合液として脱炭酸槽2に導入するものとしてもよい。
【0022】
脱炭酸槽2で行う脱炭酸処理に係る具体的な手段については特に限定されない。本実施態様における脱炭酸手段21の一例としては、例えば、図1に示すように、散気管22と、散気管22に気体を供給するブロワ23とを備える曝気機構を設けることが挙げられる。また、脱炭酸手段21の他の例としては、脱炭酸槽2内に撹拌機構を設けることや、脱炭酸槽2内を減圧する減圧機構を設けることなどが挙げられる。
この脱炭酸手段21により、脱炭酸槽2内の原水W0及び処理水W3に対し曝気処理を行うことで、溶存二酸化炭素を槽外に排出することが可能となる。
このとき、脱炭酸槽2内から排出されるガスについては、二酸化炭素のほか、原水W0あるいは処理水W3由来の臭気性ガスが含まれるため、脱炭酸槽2から排出されるガスについては脱臭設備へ移送し、脱臭処理を行うことが好ましい。
【0023】
本実施態様における脱炭酸槽2には、反応部4からラインL4を介して処理水W3が供給されるが、後述するように、処理水W3には嫌気処理で用いた菌体(酸生成菌やメタン生成菌等の嫌気性細菌)が含まれている。
このため、特に、原水W0のpHがアルカリ側である場合、脱炭酸槽2内では原水W0と酸生成菌を含む処理水W3が混合されることで酸生成反応が進行する。
この酸生成反応により脱炭酸槽2内の溶液のpHを酸性寄りとすることで、曝気による脱炭酸効率を高めることが可能となるとともに、後段の酸生成槽3における酸生成処理についても処理効率を高めることが可能となる。
そして、脱炭酸槽2で処理された被処理水W1は、ラインL2を介して酸生成槽3に導入される。
【0024】
ここで、原水W0に含まれる主成分が高濃度の低級アルコールや有機酸であり、酸生成菌による分解対象が少ない場合や、原水W0のpHが酸性である場合においては、脱炭酸槽2で行う処理は、脱炭酸手段21による脱炭酸処理のみで十分なものとなる。
【0025】
一方、原水W0に含まれる主成分が多糖類、蛋白質などの高分子有機物であり、酸生成菌による分解対象が多い場合や、原水W0のpHがアルカリ性である場合においては、脱炭酸槽2で行う処理は、脱炭酸処理と併せて酸生成処理を行うことが好ましい。後述するように、酸生成槽3における処理では、処理対象の溶液(被処理水W1)のpHは弱酸性であることが好ましい。このため、脱炭酸槽2において、一部の成分が酸生成処理されることにより、塩酸などの強酸を添加することなく、被処理水W1のpHを酸性寄りとすることが可能となり、後段の酸生成槽3における酸生成処理を促進することが可能となる。また、脱炭酸槽2において、酸生成処理を一部進行させることにより、酸生成槽3による酸生成処理と併せて、原水W0に対する排水処理効率を向上させることが可能となる。
【0026】
脱炭酸槽2における酸生成処理については、系外から酸生成菌を脱炭酸槽2に添加することで行うものとしてもよいが、処理水W3に含まれる菌体を用いて酸生成処理を行うことが挙げられる。具体的には、脱炭酸槽2に対し、酸生成菌が必要とする栄養源を添加する手段を設けることや、脱炭酸槽2内を嫌気性ないし微好気性雰囲気下とするため、散気管22から導入する気体として酸素を含まないものを用いるか、曝気以外の脱炭酸手段21を用いることなどが挙げられる。
【0027】
このとき、脱炭酸槽2における酸生成処理は、原水W0のpHを中性化ないしは弱酸性化することができるものであればよく、原水W0に対する酸生成処理を完全に進行させるものではない。このため、脱炭酸槽2における溶液(原水W0及び処理水W3)の滞留時間は、酸生成槽3における溶液(被処理水W1)の滞留時間よりも短くなるように設定することが好ましい。より具体的には、脱炭酸槽2の容積を酸生成槽3の容積よりも小さくすることや、脱炭酸槽2に導入する溶液の流入量が、酸生成槽3に導入する溶液の流入量よりも少なくなるように、各ラインL1~L3における流量調節を行うことなどが挙げられる。
【0028】
また、本実施態様における脱炭酸槽2は、さらに付帯する各種設備を設けることができる。例えば、脱炭酸槽2は、内部の水温調整手段を設けることが挙げられる。
特に、脱炭酸槽2には、加温手段を設けることが好ましい。加温手段としては、脱炭酸槽2内の溶液(原水W0及び処理水W3)の温度上昇が可能なものであればよく、具体的な構造については特に限定されず、脱炭酸槽2の内外どちらに設けるものであってもよい。これにより、脱炭酸槽2における脱炭酸処理効率を高めることが可能となる。また、加温手段として温度制御(温度調整)機能を備え、脱炭酸槽2内を酸生成処理に適した温度に維持することで、脱炭酸処理効率の向上と併せて、脱炭酸槽2における酸生成処理を促進させることが可能となる。なお、加温手段自体も脱炭酸手段21として機能するが、上述した他の脱炭酸手段21と組み合わせることで、脱炭酸処理効率の向上をより一層図ることが可能となる。
【0029】
酸生成槽3は、溶存酸素のない嫌気性雰囲気下で、通性嫌気性細菌である酸生成菌によって被処理水W1中の有機物を分解し、有機酸を生成する酸生成処理(酸生成ステップ)を行うための槽である。図1に示すように、ラインL2を介して被処理水W1が酸生成槽3に供給される。酸生成槽3では、内部に収容する酸生成菌により、被処理水W1中に含まれる成分の分解が行われる。なお、酸生成槽3は、密閉系とし、嫌気的環境を維持することが望まれる。
酸生成処理による分解の一例としては、例えば、被処理水W1に含まれる多糖類、蛋白質などの高分子有機物が、単糖類、アミノ酸、低級脂肪酸などの低分子有機物に分解され(加水分解)、更にこの低分子有機物が低級アルコール、酢酸、水素、メタン、二酸化炭素等に分解されるもの(酸発酵)が挙げられる。
【0030】
酸生成処理後の被処理水W2は、ラインL3を介し酸生成槽3から排出され、反応部4に導入される。また、酸生成処理により発生するバイオガスG1は、ラインL6を介して酸生成槽3外に排出される。このとき、酸生成槽3から排出されるバイオガスG1(主に水素、メタン)を有効活用するために、ラインL6はバイオガスG1(水素、メタン)の回収、精製及び貯留を行う手段に接続することが好ましい。
【0031】
酸生成槽3内に収容される酸生成菌としては、系外から酸生成菌を酸生成槽3に添加するものとしてもよいが、後述する反応部4内の嫌気性微生物層Mから一部を採取して用いることが挙げられる。より具体的には、処理水W3に含まれる菌体を用いて酸生成処理を行うことが挙げられる。本実施態様においては、脱炭酸槽2に導入される処理水W3に含まれる菌体は、そのまま被処理水W1にも含まれた状態で酸生成槽3に供給されるため、この菌体を利用することができる。また、反応部4と酸生成槽3を接続するラインを設け、処理水W3の一部を酸生成槽3に供給するものとしてもよい。
【0032】
本実施態様における酸生成槽3は、さらに付帯する各種設備を設けることができる。例えば、酸生成槽3は、内部の水温調整手段、酸生成菌が必要とする栄養源である窒素、リン、コバルト及びニッケル等の金属類を添加する手段を備えたものとしてもよい。また、酸生成槽3において、酸生成菌を保持した担体を用いるものとしてもよい。
【0033】
反応部4は、酸生成槽3で処理された被処理水W2を嫌気処理する反応ステップを行うためのものである。図1に示すように、反応部4は、メタン発酵槽41と、メタン発酵槽41内の上部に、バイオガスG2(主にメタン)、処理水W3及び固体分を分離する分離装置42を備えている。
【0034】
メタン発酵槽41は、酸生成槽3で処理された被処理水W2に含まれる炭素源からメタンを生成するメタン発酵処理を行うためのものである。メタン発酵処理は、浮遊法、固定床法、流動床法、UASB法、EGSB法等によりメタン発酵槽41内に保持されたメタン生成菌によって、溶存酸素のない嫌気性雰囲気で行う嫌気処理の一種である。なお、メタン発酵槽41は、密閉系とし、嫌気的環境を維持することが必須である。
メタン発酵処理における反応の一例としては、有機物(主に酢酸)をメタン及び二酸化炭素に分解することや、二酸化炭素と水素からメタンを生成することが挙げられる。このとき生成するメタンは、分離装置42によりバイオガスG2として分離・回収されるが、二酸化炭素については高い割合で処理水W3中に溶存することになる。
【0035】
メタン発酵槽41内に保持されるメタン生成菌としては、特に限定されない。例えば、単離された微生物を用いるものであってもよく、他の嫌気処理設備等からの種汚泥を用いるものであってもよい。また、原水W0(被処理水W2)中に含まれる嫌気性微生物を活用するものであってもよい。
【0036】
メタン生成菌からなる層(嫌気性微生物層M)を形成するメタン生成菌の形態としては、特に限定されないが、例えばグラニュールと呼ばれる直径0.3~3mm程度の微生物の造粒物を用いるものとすることが挙げられる。グラニュールは、自己固定化作用(Self-immobilization)を利用した微生物塊であり、高い菌体濃度を維持することが可能である。したがって、グラニュールを用いることで、メタン生成菌を高濃度に維持した嫌気性微生物層Mがメタン発酵槽41内に形成される。
また、嫌気性微生物層Mとしては、グラニュール層に代えて、メタン生成菌を保持した担体からなる担体層を用いるものとしてもよい。
【0037】
分離装置42により分離したバイオガスG2(メタン)、処理水W3及び固体分については、それぞれを回収又は再利用するための手段を設けることが好ましい。例えば、メタンについては、バイオガスG2として有効活用するために、ラインL7を介して回収、精製及び貯留を行う手段に移送されることが好ましい。また、処理水W3については、ラインL5を介して系外に排出される以外に、ラインL4を介して脱炭酸槽2に返送し、脱炭酸槽2内の原水W0のpH調整及び処理水W3自体のpH調整を行うものとする。また、固体分は、メタン生成菌を含むため、系外に流出しないよう分離装置42を使用してメタン発酵槽41内に保持させることが好ましい。なお、固体分の一部を脱炭酸槽2あるいは酸生成槽3に供給し、酸生成菌の種汚泥として利用するものとしてもよい。
【0038】
本実施態様における反応部4は、さらに付帯する各種設備を設けることができる。例えば、反応部4は、内部の水温調整手段、メタン生成菌が必要とする栄養源である窒素、リン、コバルト及びニッケル等の金属類を添加する手段を備えたものとしてもよい。
【0039】
本実施態様の排水処理装置1Aにおいては、脱炭酸槽2と酸生成槽3とを分離し、反応部4で嫌気処理された後の処理水W3を脱炭酸槽2に返送して原水W0と混合させることで、pH調整用の薬品を用いることなく、排水処理を行う各槽(脱炭酸槽2、酸生成槽3、メタン発酵槽41)において一定程度のpH調整を行うことが可能となる。
一方、酸生成処理及びメタン生成処理には、処理に適したpH範囲が存在することが知られており、排水処理効率をより一層向上させるために、酸生成槽3及びメタン発酵槽41に、pHを測定する手段(pH計)及びpH調整用の薬品(pH調整剤)を添加する手段を設け、酸生成槽3及びメタン発酵槽41内のpH調整を行うものとしてもよい。なお、pH調整剤としては、酸、アルカリともに公知の物質を用いるものとする。
【0040】
このとき、脱炭酸槽2から酸生成槽3に導入される被処理水W1については、酸生成処理に適した弱酸性とする必要がある一方、酸生成槽3からメタン発酵槽41に導入される被処理水W2については、メタン生成処理に適した中性とする必要がある。
上述したように、脱炭酸槽2で処理された被処理水W1については、原水W0の性質によってはpH調整剤を用いることなく弱酸性化することが容易であるため、脱炭酸槽2における被処理水W1に対してはpH調整剤の使用量を格段に少なくするか、あるいはpH調整剤を使用しないものとすることができる。一方、酸生成槽3からメタン発酵槽41に導入される被処理水W2については、酸生成処理により酸が発生するため、被処理水W2のpHは低下することになる。そのため、メタン生成処理に適した中性化を行うために、酸生成槽3にはpH調整剤としてアルカリを添加する手段を設けることが好ましい。このとき、脱炭酸槽2で酸生成処理の一部を進行させておくことで、酸生成槽3におけるpH低下を抑制し、被処理水W2を中性化するためのpH調整剤の使用量を低減させることが可能となる。
【0041】
以上のように、本実施態様の排水処理装置1A及びこの排水処理装置1Aを用いた排水処理方法により、脱炭酸槽2と酸生成槽3を分けた処理を行うことで、酸生成槽3においては脱炭酸処理を行う必要がなくなる。これにより、酸生成槽における脱炭酸処理によって生じる過曝気による処理効率の低下や、酸生成槽で発生した有用なバイオガスの回収率低下を抑制することが可能となる。ここで、酸生成処理は微好気及び嫌気条件下で進行する反応であるから、脱炭酸槽2を酸生成槽3の前段に配することで、酸生成槽3に導入される被処理水W1の適度な溶存酸素が酸生成処理効率を向上させ、バイオガスG1の回収率を高めることが可能となる。
【0042】
[第2の実施態様]
図2は、本発明の第2の実施態様の排水処理装置1Bの概略説明図である。
本実施態様に係る排水処理装置1Bは、図2に示すように、脱炭酸手段21として、反応部4(メタン発酵槽41)から脱炭酸槽2へ処理水W3を返送する返送配管(ラインL4)を、脱炭酸槽2の上部に接続し、処理水W3を脱炭酸槽2の上部から脱炭酸槽2内に導入するものである。
なお、本実施態様における排水処理装置1Bの構成のうち、第1の実施態様の排水処理装置1Aの構成と同じものについては、説明を省略する。
【0043】
本実施態様の排水処理装置1Bは、脱炭酸手段21として、反応部4で嫌気処理された後の処理水W3を脱炭酸槽2に返送する返送配管(ラインL4)が脱炭酸槽2と接続する位置を、脱炭酸槽2の上部とすることで、ラインL4を介して処理水W3を脱炭酸槽2内部に落水させたときの衝撃で脱炭酸(脱気)を行うものである。これにより、曝気等、駆動装置を使用する脱炭酸処理に比べ、省エネルギー化を図ることが可能となる。
【0044】
本実施態様の脱炭酸手段21として、返送配管(ラインL4)と脱炭酸槽2の接続箇所については、脱炭酸槽2の上部であればよく、例えば、脱炭酸槽2の天井部あるいは脱炭酸槽2の側面上部が挙げられる。
また、脱炭酸槽2と接続するラインL4の配管形状や、開口部形状及び開口部の開口方向については、処理水W3が脱炭酸槽2内に落水する際、脱炭酸(脱気)を可能とするのに十分な衝撃を付与することができるものであればよく、具体的な構造については特に限定されない。例えば、ラインL4は、いわゆる滝落としを可能とする構造を有することが挙げられる。
【0045】
また、本実施態様における脱炭酸手段21としては、ラインL4の配置による滝落としを行うことに加え、更に脱炭酸効率を高めるための機構を設けるものとしてもよい。
図3は、本実施態様における排水処理装置1Bの別態様を示す概略説明図である。
図3に示すように、排水処理装置1Bの別態様としては、ラインL4上に空気導入部24を設けることが挙げられる。
空気導入部24としては、処理水W3に対して強制的に空気を供給するための加圧空気導入手段を設け、処理水W3に加圧空気を加えることで、処理水W3がラインL4から脱炭酸槽2に導入(放出)された際に、処理水W3に加えられていた圧力が開放されることで脱炭酸効果を高めることが挙げられる。
なお、空気導入部24としては、処理水W3に対して加圧空気を強制的に供給することに限定されるものではない。空気導入部24の他の例としては、ラインL4の一部を絞るとともに、空気の吸込口を設けることで、ラインL4内を流れる流体(処理水W3)の速度を増加させる、いわゆるアスピレーターとして機能する構造を有するものとすることが挙げられる。これにより、ポンプなどの動力を用いることなく、ラインL4から脱炭酸槽2に導入(放出)する処理水W3の流入速度を増加させるとともに、処理水W3に対して更に空気を溶存させることができ、落水による衝撃に伴う脱炭酸効果をより一層高めることが可能となる。
【0046】
また、本実施態様における脱炭酸手段21としては、処理水W3が脱炭酸槽2内を落水する途中で接触する構造体を設けるものとしてもよい。これにより、処理水W3に対しては、落水の衝撃に加え、構造体と接触することによる衝撃も加わることになり、脱炭酸効率を高めることが可能となる。
【0047】
以上のように、本実施態様における排水処理装置1B及びこの排水処理装置1Bを用いた排水処理方法では、脱炭酸処理において駆動装置を特に必要としないため、排水処理装置1B全体としての省エネルギー化を図ることが可能となる。
【0048】
なお、上述した実施態様は排水処理装置及び排水処理方法の一例を示すものである。本発明に係る排水処理装置及び排水処理方法は、上述した実施態様に限られるものではなく、請求項に記載した要旨を変更しない範囲で、上述した実施態様に係る排水処理装置及び排水処理方法を変形してもよい。
【0049】
例えば、本実施態様で示した脱炭酸手段を複数組み合わせるものとしてもよい。これにより、脱炭酸槽における脱炭酸処理効率を高めることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の排水処理装置及び排水処理方法は、有機物を含む排水の嫌気処理に対し、好適に利用される。
【符号の説明】
【0051】
1A,1B 排水処理装置、2 脱炭酸槽、21 脱炭酸手段、22 散気管、23 ブロワ、24 空気導入部、3 酸生成槽、4 反応部、41 メタン発酵槽、42 分離装置、L1~L7 ライン、G1,G2 バイオガス、M 嫌気性微生物層、W0 原水、W1,W2 被処理水、W3 処理水
図1
図2
図3