(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149251
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】測量機
(51)【国際特許分類】
G01C 15/00 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
G01C15/00 105Z
G01C15/00 103A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022057726
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】100207642
【弁理士】
【氏名又は名称】簾内 里子
(72)【発明者】
【氏名】菊池 雅穂
(57)【要約】
【課題】容易に器械高を精密に計測可能な測量機を提供する。
【解決手段】測距光を測量機本体の鉛直軸下方の測距対象物に出射して測距を行い、器械高を算出する器械高計測部と、前記測距光が前記測距対象物に反射して戻ってきた光を解析して、前記測距対象物までの距離を算出して、前記器械高を算出する演算部とを有する測量機において、前記器械高計測部は、前記測量機本体の鉛直軸下方点を中心とした、前記測距対象物の所定の領域に前記測距光を照射して測距を行い、前記演算部は、前記領域における測距値の平均値を演算して、前記器械高を算出する測量機を提供する。所定の領域を測距して平均値を算出することで、測定精度を高めることができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測距光を測量機本体の鉛直軸下方の測距対象物に出射して測距を行う器械高計測部と、前記測距光が前記測距対象物に反射して戻ってきた光を解析して、前記測距対象物までの距離を算出して、前記器械高を算出する演算部とを有する測量機において、
前記器械高計測部は、前記測量機本体の鉛直軸下方点を中心とした、前記測距対象物の所定の領域に前記測距光を照射して測距を行い、
前記演算部は、前記領域における測距値の平均値を演算して、前記器械高を算出する、
ことを特徴とする測量機。
【請求項2】
前記器械高計測部は、
前記測距対象物に向けて前記測距光を出射する送光部と、
前記送光部から出射されて、前記測距対象物で反射して戻ってきた前記測距光を受光する受光部と、
前記測距光の光路に配置される、入射した光を拡散させるデフォーカスレンズと、
を有し、
前記デフォーカスレンズを通過した前記測距光は、前記測量機本体の鉛直軸下方へ出射され、前記測距対象物に、前記測量機本体の鉛直軸下方点を中心とした前記領域に照射され、
前記演算部は、前記受光部の受光信号に基づいて前記測距対象物までの距離を算出し、さらに前記測距対象物までの距離の平均値を算出することで、前記測距光が照射した前記領域までの平均距離を前記測距対象物までの距離として、前記器械高を算出する、
ことを特徴とする請求項1に記載の測量機。
【請求項3】
前記デフォーカスレンズは、素通しのレンズである、
ことを特徴とする請求項2に記載の測量機。
【請求項4】
前記測距光は、可視レーザ光であり、
前記測距光は、前記測量機本体の鉛直軸下方に、求心用のスポット光として照射される、
ことを特徴とする請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の測量機。
【請求項5】
前記可視レーザ光は、緑色レーザ光である、
ことを特徴とする請求項4に記載の測量機。
【請求項6】
前記器械高計測部は、パルス方式を採用した測距装置である、
ことを特徴とする請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の測量機。
【請求項7】
前記演算部は、前記測距光が照射した前記領域における計測値の平均値を演算して、
さらに内蔵されたチルトセンサにより計測された傾きで補正を行う、
ことを特徴とする請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の測量機。
【請求項8】
前記測量機本体の底面から1m離れた位置での、前記測距光の照射領域は、最大外径が5mm~30mmである、
ことを特徴とする請求項1~請求項7のいずれか一項に記載の測量機。
【請求項9】
前記器械高計測部は、所定範囲の距離画像情報を取得する距離画像センサであり、
前記測距光は赤外光であり、
前記距離画像センサは前記距離画像情報を取得するための複数の撮像素子を有し、
前記演算部は、前記撮像素子により受信された信号から、前記撮像素子ごとに距離を算出して、所定範囲の前記撮像素子の距離の平均値を算出して、前記測距対象物までの距離とする、
ことを特徴とする請求項1に記載の測量機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、器械高を計測可能な測量機に関する。
【背景技術】
【0002】
測量作業では、まず整準作業および求心作業により、測量機本体を基準点の鉛直上に水平に配置し、ついで測量機本体の光学中心から鉛直下方の基準点までの高さである器械高を求める。器械高を求める方法には、巻尺やスケールなどにより、作業者が手作業で計測する方法がある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、巻尺による計測は、手作業であるため、面倒な上に精度が粗いという問題がある。求心作業や整準作業も精度よく行われないと、器械高の誤差も大きくなる。また、レーザ測距装置を用いても測距点にちょうど凹凸などがあった場合、精度が低下する。
【0005】
本発明は、これを鑑みてなされたものであり、容易に精密な器械高を取得可能な測量機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題を解決するため、本開示のある測量機のおいては、測距光を測量機本体の鉛直軸下方の測距対象物に出射して測距を行い、器械高を算出する器械高計測部と、前記測距光が前記測距対象物に反射して戻ってきた光を解析して、前記測距対象物までの距離を算出して、前記器械高を算出する演算部とを有する測量機において、前記器械高計測部は、前記測量機本体の鉛直軸下方点を中心とした、前記測距対象物の所定の領域に前記測距光を照射して測距を行い、前記演算部は、前記領域における測距値の平均値を演算して、前記器械高を算出するように構成した。
【0007】
この態様によれば、測距点に凹凸や傾きがあった場合でも、周辺領域を合わせてた面で器械高を算出することにより測距点における凹凸や傾きが是正された測距値を取得することができる。また、領域で複数回計測することとなり、平均値をとることで計測精度を高めることができる。容易に精密な器械高を取得できる。
【0008】
また、ある態様においては、前記器械高計測部は、前記測距対象物に向けて前記測距光を出射する送光部と、前記送光部から出射されて、前記測距対象物で反射して戻ってきた前記測距光を受光する受光部と、前記測距光の光路に配置される、入射した光を拡散させるデフォーカスレンズとを有し、前記デフォーカスレンズを通過した前記測距光は、前記測量機本体の鉛直軸下方へ出射され、前記測距対象物に、前記測量機本体の鉛直軸下方点を中心とした前記領域に照射され、前記演算部は、前記受光部の受光信号に基づいて前記測距対象物までの距離を算出し、さらに前記測距対象物までの距離の平均値を算出することで、前記測距光が照射した前記領域までの平均距離を前記測距対象物までの距離として、前記器械高を算出するように構成した。デフォーカスレンズを使うことで、測距光が所定範囲に広げられ、測距点は広げられた照射領域の無作為な一点となる。連続して計測することで、所定範囲内をランダムに何度も計測することとなる。測距点を所定領域内で変更する必要もなく、連続計測により、自然に異なる測距点で計測することができる。
【0009】
また、ある態様においては、前記デフォーカスレンズは、素通しのレンズであるものとした。この態様によれば、素通しのレンズを用いることで、容易に僅かに照射領域を広げることできる。また、厚みにより照射領域の拡大範囲を設定できる。
【0010】
また、ある態様においては、前記測距光は、可視レーザ光であり、前記測距光は、前記測量機本体の鉛直軸下方に、求心用のスポット光として照射されるものとした。この態様によれば、測量機本体の鉛直軸下方に照射される測距光が、求心作業用のスポット光を兼ねるため、求心作業が容易となる。
【0011】
また、ある態様においては、前記可視レーザ光は、緑色レーザ光であるものとした。視認性の高い緑色レーザ光を用いることで、作業者がスポット光を基準点に合わせやすくなり、求心作業の作業性が向上する。
【0012】
また、ある態様においては、前記器械高計測部は、パルス方式を採用した測距装置であるものとした。パルス方式を用いることで、照射領域の大きさに制限がかけられないものとした。
【0013】
また、ある態様においては、前記演算部は、前記測距光が照射した前記領域における計測値の平均値を演算して、さらに内蔵されたチルトセンサにより計測された傾きで補正を行うものとした。これにより測量機本体の水平軸回りの傾きが是正される。
【0014】
また、ある態様においては、前記測量機本体の底面から1m離れた位置での、前記測距光の照射領域は、最大外径が5mm~30mmであるものとした。測標からはみ出さず、好適な範囲で測距ができる。
【0015】
また、ある態様においては、前記器械高計測部は、所定範囲の距離画像情報を取得する距離画像センサであり、前記測距光は赤外光であり、前記距離画像センサは前記距離画像情報を取得するための複数の撮像素子を有し、前記演算部は、前記撮像素子により受信された信号から、前記撮像素子ごとに距離を算出して、所定範囲の前記撮像素子の距離の平均値を算出して、前記測距対象物までの距離とするよう構成した。距離画像センサを用いて求心作業も測距作業も可能となる。
【発明の効果】
【0016】
以上の説明から明らかなように、容易に精密な器械高を取得可能な測量機を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の好適な実施形態に係る測量機と測標の斜視図である。
【
図2】測量機と測標の概略構成を示す説明図である。一部破断図となっている。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の具体的な実施形態を、図面を参照しながら説明する。実施形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。また、以下の実施形態および変形例の説明において、同一の構成には同一の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。
【0019】
(測量機1)
図1は、第1の実施形態に係る測量機1と測標2の斜視図である。
図2は測量機1と測標2の概略構成を示す説明図である。
図2では一部破断図となっている。
【0020】
測量機1は、測距・測角機能を備えたトータルステーションである。測標2は、測量基準点であり、標石3の点上に設けられている。
【0021】
測量機1は、測量機の筐体としての本体ケーシング12を備えている。本体ケーシング12は、本件請求項の測量機本体にあたる。本体ケーシング12は、2本の支柱14を備えており、2本の支柱14の間には水平軸Hに回動可能に、視準望遠鏡16が軸支されている。
【0022】
本体ケーシング12の下部には、ディスプレイ20と操作キー群21が配設されている。ディスプレイ20は、必要な情報を画面上に表示する。操作キー群21は、必要な設定条件や命令を入力する入力手段である。
【0023】
また、本体ケーシング12は整準台25に配設されており、整準台25は三脚8に載置された状態で、三脚8に固定されるようになっている。
【0024】
本体ケーシング12の下部にある固定部24には、軸筒26が配設されている。軸筒26は、その内側に、本体ケーシング12に垂直に設けられた鉛直軸28が挿通され、ボールベアリングを介して固定部24に回動可能に軸支されている。これにより、本体ケーシング12は、固定部24に対して鉛直軸28を中心として回動可能となっている。整準台25は、傾きを微調整する調整ねじを有し、その上に固定部24が固定される。調整ねじの回動により、測量機1が水平に調整される。
【0025】
軸筒26の上端部と鉛直軸28の上端部には、互いに対向するフランジ部が形成されており、ここにロータリーエンコーダ22が設けられている。ロータリーエンコーダ22は水平角センサであり、本体ケーシング12の回転量が検出される。
【0026】
測量機1には、傾きを検知するチルトセンサ80も搭載されている。チルトセンサ80には従来の構成を用いてよい。
【0027】
鉛直軸28は中空円筒状に形成されており、鉛直軸28の中心線Vは、延長上で水平軸Hと直交する。水平軸Hと中心線Vの直交点を測量機1の中心点Oとする。視準望遠鏡16を軸支する本体ケーシング12が、中心線V周りに回動することから、水平軸Hに設けられた角度センサ18と上記ロータリーエンコーダ22により、視準望遠鏡16の水平軸H周りの回転量と、中心線V周りに回転量とが検出される。即ち、中心線Vは、測量機本体の鉛直軸である。
【0028】
鉛直軸28の上方には、測量機1の器械高Tを算出するための器械高計測部40が配置されている。器械高計測部40は、測距対象物に測距光Lを出射し、反射して戻ってきた光を解析して測距対象物までの距離を計測するノンプリズム光波距離装置である。器械高計測部40の光軸は、中心線Vと一致するように構成されており、器械高計測部40から出射された測距光Lは、鉛直軸28の中空部を通過して、測量機1の底面から下方へ出射される。
【0029】
(器械高計測部40)
図3は、器械高計測部40の光学系の構成図である。
【0030】
器械高計測部40は、送光部51、コリメートレンズ52、ビームスプリッタ53、受光部54、シャッター55、デフォーカスレンズ56、対物レンズ57を備える。
【0031】
送光部51は、測距光Lを出射する光源であり、レーザダイオード(LD)からなる。
【0032】
コリメートレンズ52は、入射した光を平行光として出射する光学部材である。コリメートレンズ52は、送光部51の前方に配置され、送光部51から出射された測距光Lは、コリメートレンズ52で平行光となる。コリメートレンズ52の光軸は中心線Vと一致し、光軸線は測量機1の中心点Oを通るように構成されている。ビームスプリッタ53、デフォーカスレンズ56、対物レンズ57は、この順でコリメートレンズ52の光軸上に配置されている。
【0033】
ビームスプリッタ53は、ハーフミラーであり、入射光の一部を反射し、残りの一部を通過させる。コリメートレンズ52から出射した測距光Lは、ビームスプリッタ53に入射して、一部が反射され参照光Rとなり、受光部54へ向かう参照光路に導かれる。反射されずにビームスプリッタ53を通過した残りの測距光Lは、測距光路へ送出される。参照光Rは受光部54へ向かい、受光部54で受光される。
【0034】
シャッター55は、切替板の移動により、測距光路と参照光路を択一的に切り替える。
【0035】
デフォーカスレンズ56は、入射した光を拡散させて出射させる光学部材である。本実施形態では、デフォーカスレンズ56は素通しのレンズである。送光部51から集光されレーザ光として出射し、コリメートレンズ52で平行光となった測距光Lは、デフォーカスレンズ56でわずかに拡散されて照射半径を広げられて、出射される。
【0036】
デフォーカスレンズ56を出射した測距光Lは、対物レンズ57へ向かい、これを通過して、測量機本体の下方に出射される。そして、測量機1の測距対象物(本実施形態においては測標2)に反射され、測量機1に同経路で戻ると、今度はビームスプリッタ53で反射されて受光部54へ向かい、受光部54で受光される。
【0037】
受光部54は、アバランシェフォトダイオード(APD)からなる。受光部54での受光信号は、演算部90(
図2参照)に出力される。
【0038】
演算部90は、メモリとCPUを有するマイクロコンピュータである。解析プログラムがメモリに収納されている。演算部90は、受光部54が受信した測距光Lと参照光Rによる受光信号を解析し、測標2までの距離を算出する。解析には位相差方式、スポット方式など、従来の周知の方法が用いられ、その種類は問わない。器械高計測部40により測標2までの距離が算出される。これに中心点Oから器械高計測部40までの距離が加算され、器械高Tが算出される。
【0039】
(作用効果)
測距光Lによる測距について、
図4を用いて詳しく説明する。
図4は、
図1の測標2周辺の拡大図である。本実施形態においては、測距光Lは、デフォーカスレンズ56により、照射半径を僅かに広げられている。このため、測距対象物に照射されると、照射領域LAの光として視認される。測距光Lは、照射領域LA上のいずれかの点で反射されて、受光部54に受光される。例えば、最初の測距結果が測距点P1、次の測距結果が測距点P2、さらに次の測距結果が測距点P3…のように、照射領域LA内の任意の一点を測距点Pとして測距点Pまでの距離が測距結果として算出される。測距される測距点Pは、照射領域の光軸上の点、即ち、照射領域LAでの測量機本体の鉛直軸下方点を基準点CPとして、基準点CPを中心として、照射領域LA内で無作為に選ばれることとなる。演算部90は、これらランダムな測距点Pで反射された受光信号による測距結果を平均化することで、照射領域LAまでの距離の平均が求められる。演算部90は、照射領域LAまでの距離を測標2までの距離として算出し、この算出結果に中心点Oから器械高計測部40までの高さを加算して、器械高Tとする。算出された器械高Tは、ディスプレイ20に表示される。器械高計測部40は、連続して測距を行うだけで、照射領域LA内のランダムな一点に対して測距を行うことができ、計測するたびに、測距点は照射領域LA内で、毎回変更される。器械高計測部40は、測距光Lによる測距を連続して行う。演算部90は、連続計測した複数の測距結果の平均値を演算することで、照射領域LAまでの平均距離を算出し、これを測標2までの距離とする。
【0040】
演算部90による測距結果の平均化は、所定の計測時間内で計測された値の平均値でもよく、常に計測値の平均値を取得し、平均値の振れ幅が所定の範囲内に収束するまで計測した結果でもよい。
【0041】
レーザ光による照射点ではなく、照射領域LAまでの距離の平均値を求めることで、照射点における微妙な凹凸や傾きが是正されて、測標2までの距離を精密に測定できる。また手動では補正しきれない測量機1の微妙な水平からの傾きも是正される。このため、容易に器械高Tを精密に計測できる。
【0042】
照射領域LAまでの距離を平均化したうえで、測量機1に内蔵されたチルトセンサ80で計測された傾き、特に水平軸H回りの傾きで補正して算出すると、より精密に器械高Tを算出できて好ましい。これを、
図5を用いて説明する。
図5は、測量機1または測標2の傾斜状態を示す。
図5(A)は水平軸Hに対して、測量機1が傾斜している状態を示す。
図5(B)は水平軸Hに対して、測標2が傾斜している状態を示す。
【0043】
測量機1には水平軸Hに平行に水平気泡管が設けられている。整準作業では、水平気泡管の気泡が真ん中となるように、測量機1の傾きが調整される。水平軸Hを基準に傾きを調整するため、水平軸H回りに僅かに傾いた状態となる場合がある(
図5(A)参照)。また、測標2に傾きや凹凸のある場合もある(
図5(B)参照)。即ち、水平軸Hに対して、相対的に測量機1や測標2が水平ではない場合があり、その場合、器械高Tに誤差が生じる。この誤差を照射領域LAまでの距離を算出することでキャンセルすることができる。測量機1が傾いている場合(
図5(A))、内蔵するチルトセンサ80にて傾斜の角度θが計測されるため、角度θにて算出された器械高Tを補正することでより正確な器械高Tを求めることができる。測標2に傾きや凹凸のある場合(
図5(B))、照射領域LAで測距値を平均化することで、是正される。
【0044】
照射領域LAは、測標2からはみ出さず、適度な大きさがあると好ましい。このため、測量機1の底面から距離1m離れた位置にある仮想平面への照射領域LAの最大外径が2mm~30mm程度であると好ましく、5mm~20mmだとより好ましい。デフォーカスレンズ56は素通しのレンズに限られず、レンズ曲面が計算されたレンズを用いてもよく、複数のレンズを用いてもよい。測距光Lの照射半径を広げてさらに平行光として出射してもよい。照射領域LAの大きさを変更可能に構成してもよい。
【0045】
器械高計測部40が用いられる距離は、測量機1の設置高さ、即ち、おおむね作業者の視線の高さとなる。拡散光では照射領域も距離に応じて無限に広がるが、器械高計測部40は使用目的が限定されており、使用距離が短く、加えて使用範囲も狭いため、測距光Lが測距対象物に照射される照射領域LAの大きさも所定範囲内に設定できる。
【0046】
本実施形態においては、送光部51が出射する光は可視光であり、測量機1の下方に照射される測距光Lは、求心レーザ光としても用いられる。即ち、コリメートレンズ52の光軸は鉛直軸28の中心線Vと一致し、測距光Lは測量機1の底面から測量機本体の鉛直軸下方へ出射されるため、測距対象物に照射された測距光Lは、中心点Oを通る測量機本体の鉛直軸下方の目印である求心用スポット光として視認される。求心作業においては、照射された照射領域LAの光の中心と測標2の中心を合わせることで、測量機1を測標2の鉛直軸上に配置することができる。
【0047】
作業者が測標2を基準点として測量機1を設置する場合、測標2のおおむね鉛直上方に、三脚8にて測量機1を配置し、整準台25の調整ネジで測量機1を水平とする整準作業を行う。ついで器械高計測部40から測距光Lが測量機本体の鉛直軸下方に出射され、測標2に照射領域LAの光として照射されるため、整準状態を保ちながら、測標2に照射された測距光Lの中心に測標2の中心が合致するように測量機1をスライドさせて、位置調整を行う。この求心作業により水平状態から傾くことがあり、整準作業と求心作業を繰り返し、測量機1を測標2の鉛直上に水平に配置する。求心作業が完了すると、器械高計測部40にて測距が行われ、測標2までの距離が算出され、器械高Tが取得される。
【0048】
整準作業も、求心作業も、作業者が測量機1に対向した姿勢で行うことができ、器械高Tの算出も自動で行われるため、作業者の求心作業の負担、および測量機1の設置の負担が軽減される。
【0049】
求心用の可視レーザ光は、視認性の高い緑色レーザ光であると好ましい。照射される光を基準点に合わせる求心作業の作業性が向上する。緑色レーザ光に限られず、赤色レーザ光やその他の色のレーザ光でも問題ない。
【0050】
また、測距方式ではパルス方式を採用すると好ましい。位相差方式では、照射領域の大きさに限界が生じる可能性があり、照射領域の大きさに依存しないパルス方式が好ましい。
【0051】
本実施形態においては、器械高計測部40は、器械高計測機能のみならず、求心作業用の求心レーザ光照射機能も備えている。これに限られず、器械高計測部40は器械高計測機能のみ備え、求心作業は別途行うように構成してもよい。例えば、求心望遠鏡を備えるなど、求心作業には従来の構成を用いても問題ない。
【0052】
本実施形態においては、器械高計測部40は、鉛直軸28の上方に配置され、その光学部材も全て鉛直軸28の上方に配置される。これに限られず、送光部51を、本体ケーシング12に取付け、コリメートレンズ52や対物レンズ57を中空の鉛直軸28の内部に配置するなど、器械高計測部40の光学部材の一部を鉛直軸28や固定部24などに配置してもよい。デフォーカスレンズ56はビームスプリッタ53の前方に配置したが、測距光路の往路上に配置してあればよく、ビームスプリッタ53の後方に配置してもよい。
【0053】
また、本実施形態においては、照射形状が点のビーム光を素通しレンズを用いて、照射形状を拡大して略円形状に広げたが、照射領域LAの形状は円形に限られず、ランダムな拡散形状でもよく、所望の形状にレンズを用いて設定してもよい。
【0054】
(変形例)
器械高計測部には、所定範囲の距離画像情報を取得する距離画像センサを用いてもよい。距離画像センサは、測距対象物の画像を取得するとともに、奥行きすなわち、距離を情報として取得する。物体に投影した光が反射により戻って来るまでの時間から距離を求める光飛行時間法や、所定のパターンの光を測距対象物に投影して、その反射像における歪み具合から距離を求めるパターン投影方など、距離の演算については公知の方法を用いてよい。演算部90は、撮像範囲の光軸を中心とした所定領域における距離の平均値を算出し、器械高Tを取得する。
【0055】
図6は変形例として距離画像センサを用いた一例として、器械高計測部140の光学的構成を示す。
【0056】
器械高計測部140は、送光部151は赤外光を出射して測距対象物(測標2)にむけて送光する。器械高計測部140は、受光部154として、マトリクス配置された複数の撮像素子154aを有する。送光部151から出射した測距光Lは、測標2で反射して、結像レンズ158と通り、受光部154に受光される。演算部90は、受光部154で受光された各撮像素子154aの受光信号から、撮像素子154aごとに測距結果を算出する。これにより測距光Lにより投影された画像とともに、画像の構成点までの奥行き(距離)までも取得される。測標2の基準点CP2も画像で取得される。演算部90は、光軸上の点を中心とした所定領域LA2のピクセルにおける距離を平均化して、測標2までの距離として、器械高Tを算出する。測定結果の平均値取得のために、取得画像から基準点CP2や所定領域LA2を作業者が指定してもよい。器械高Tの計測範囲であれば、距離画像センサでも十分な精度で計測でき、比較的低コストで実装できる。
【0057】
以上、本発明の好ましい実施形態について述べたが、上記の実施形態は本発明の一例であり、これらを当業者の知識に基づいて組合わせることが可能であり、そのような形態も本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0058】
1 :測量機
2 :測標
28 :鉛直軸
40 :器械高計測部
51 :送光部
54 :受光部
56 :デフォーカスレンズ
80 :チルトセンサ
90 :演算部
140 :器械高計測部
151 :送光部
154 :受光部
154a :撮像素子
L :測距光
LA :照射領域
T :器械高