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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149262
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】耐酸性粉末及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 5/00 20160101AFI20231005BHJP
   A61K 35/745 20150101ALI20231005BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20231005BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20231005BHJP
   A61K 47/14 20170101ALI20231005BHJP
   A61K 47/44 20170101ALI20231005BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
A23L5/00 D
A61K35/745
A61K9/14
A61K9/20
A61K47/14
A61K47/44
A61P1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022057739
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】上岡 勇輝
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 由花
(72)【発明者】
【氏名】伊佐治 知也
【テーマコード(参考)】
4B035
4C076
4C087
【Fターム(参考)】
4B035LC05
4B035LC16
4B035LE01
4B035LE07
4B035LG12
4B035LG50
4B035LP36
4C076AA29
4C076AA37
4C076BB01
4C076CC16
4C076CC40
4C076DD25
4C076DD46H
4C076EE53H
4C076EE55H
4C076FF21
4C076FF25
4C076FF63
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC60
4C087CA09
4C087MA05
4C087MA35
4C087MA43
4C087MA52
4C087NA03
4C087ZA66
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、優れた耐酸性や保存安定性を有し、さらには、他の剤形への加工適性に優れる耐酸性粉末を提供することである。
【解決手段】上記課題を解決するために、芯物質(A)の粉末粒子を内包し連続相としての一次被覆材(B)で被覆された一次被覆粒子、一次被覆粒子を単一の核として二次被覆材(C)で被覆された構造を有する二次被覆粒子を含む耐酸性粉末であって、芯物質(A)が生菌を含む粉末であり、一次被覆材(B)が融点40℃~70℃の脂質を含み、二次被覆材(C)が融点40℃~100℃の脂質を含み、一次被覆粒子の平均粒子径が50μm~500μmであり、一次被覆粒子の平均粒子径に対する二次被覆粒子の平均粒子径が1.05~2.0であることを特徴とする、耐酸性粉末を提供する。
【選択図】図2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯物質(A)の粉末粒子を内包し連続相としての一次被覆材(B)で被覆された一次被覆粒子、前記一次被覆粒子を単一の核として二次被覆材(C)で被覆された構造を有する二次被覆粒子を含む耐酸性粉末であって、
前記芯物質(A)が生菌を含む粉末であり、
前記一次被覆材(B)が融点40℃~70℃の脂質を含み、
前記二次被覆材(C)が融点40℃~100℃の脂質を含み、
前記一次被覆粒子の平均粒子径が50μm~500μmであり、
前記一次被覆粒子の平均粒子径に対する前記二次被覆粒子の平均粒子径の比(二次被覆粒子の平均粒子径/一次被覆粒子の平均粒子径)が1.05~2.00であることを特徴とする、耐酸性粉末。
【請求項2】
前記芯物質(A)と前記一次被覆材(B)の合計質量に対する前記芯物質(A)の質量割合が0.65~0.90であり、
前記一次被覆粒子と前記二次被覆材(C)の合計質量に対する前記一次被覆粒子の質量割合が0.60~0.85であることを特徴とする、請求項1に記載の耐酸性粉末。
【請求項3】
平均粒子径が50μm~500μmであり、耐酸性試験後の生菌残存率が32%以上であることを特徴とする、耐酸性粉末。
【請求項4】
打錠用であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の耐酸性粉末。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の耐酸性粉末を含むことを特徴とする、食品。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載の耐酸性粉末の製造方法であって、
前記芯物質(A)と前記一次被覆材(B)を混合して前記一次被覆粒子を得る工程、
前記一次被覆粒子と粉末状の二次被覆材(C)を混合して前記二次被覆粒子を得る工程、を備えることを特徴とする、耐酸性粉末の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生菌を含む粉末を芯物質として含有する被覆粒子を含む耐酸性粉末及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビフィズス菌、乳酸菌などの生菌は腸内において悪玉菌の増殖を抑制し、腸内フローラを改善することで宿主に有益な作用を及ぼす。また、前記の生菌は、便秘・下痢の改善など整腸作用を有する。これらの生菌は、近年、プロバイオティクスとして知られ、特定保健用食品などに利用される食品素材である。しかし、これらの生菌は、経口摂取後、胃酸、胆汁酸などに耐え腸管に到達しなければその効果を十分に発揮することはできない。そこで従来、ビフィズス菌、乳酸菌を生きたまま腸管に届け、その効果を発揮させるための耐酸性および腸溶性コーティングの発明がなされている。
【0003】
例えば、特開平5-186335号公報(特許文献1)及び特開平5-186336号公報(特許文献2)には、乳酸菌と賦形剤とを用いる腸溶性造粒物の製法が提案されている。これらの方法は、乾燥乳酸菌体粉末と賦形剤とツェインとを混合し、この混合物に40℃に溶融した油脂を加えて攪拌、押し出し造粒した後にツェイン溶液又は40℃で溶融したパーム油脂を噴霧し、腸溶性造粒物を得る方法である。具体的には、孔径0.8mmのスクリーンを設けた押出顆粒機にて長さ1.5~2mmの造粒物を得る方法であり、得られた腸溶性造粒物の形状は、直径約0.8mm、長さ1.5~2mmの円柱状である。
特許文献1及び特許文献2に記載された腸溶性造粒物の製法では、耐酸性を付与できるものの、溶融状態の油脂を加え、押し出し造粒する過程での菌の死滅が激しく、製造後の残存菌数が低くなってしまう傾向がある。そのため、製剤中の菌数が低くなり、腸溶性製剤としての価値が半減してしまう恐れがある。
また、押し出し造粒法では粒子が大きいため、ペレットやタブレット等の打錠加工用の粉末としては適さない。その他、粒子が大きいと、ソフトカプセルなどに添加することも難しく、耐酸性粉末としての汎用性が低いという問題がある。
【0004】
また、乳酸菌、ビフィズス菌などの生菌は、タブレット、またはチュアブル型の健康食品や錠菓として利用される機会が多い。しかし、これらの生菌は打錠時の衝撃に弱く、錠剤にした際に生菌の残存率が低いという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5-186335号公報
【特許文献2】特開平5-186336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような背景から、乳酸菌やビフィズス菌などの生菌を含む耐酸性粉末は、優れた耐酸性を有するだけでなく、錠剤やソフトカプセルなどの他の剤形への加工適性に優れる粉末であることや、保存時の生菌の死滅を抑制すること(保存安定性)が求められている。
さらに、耐酸性粉末を打錠加工する場合には、打錠加工する際の圧力による生菌の死滅を抑制すること(耐圧性)が求められている。
また、耐酸性粉末へ加工する際の生菌の死滅を低減すること(加工安定性)が求められている。
【0007】
本発明の課題は、優れた耐酸性や保存安定性を有し、さらには、他の剤形への加工適性に優れる耐酸性粉末を提供することである。
さらには、本発明の課題は、打錠圧による生菌の死滅が低減され、優れた耐圧性を有する打錠加工用の耐酸性粉末を提供することである。
また、本発明の課題は、耐酸性粉末を製造する際の生菌の死滅が抑制された耐酸性粉末の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、生菌を含む粉末である芯物質を、特定の融点の脂質を含む一次被覆材で被覆して特定の平均粒子径の一次被覆粒子を形成し、さらに、一次被覆粒子を特定の融点の脂質を含む二次被覆材で被覆して特定の平均粒子径の二次被覆粒子とすることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。すなわち本発明は以下の[1]~[6]である。
【0009】
[1]
芯物質(A)の粉末粒子を内包し連続相としての一次被覆材(B)で被覆された一次被覆粒子、前記一次被覆粒子を単一の核として二次被覆材(C)で被覆された構造を有する二次被覆粒子を含む耐酸性粉末であって、
前記芯物質(A)が生菌を含む粉末であり、
前記一次被覆材(B)が融点40℃~70℃の脂質を含み、
前記二次被覆材(C)が融点40℃~100℃の脂質を含み、
前記一次被覆粒子の平均粒子径が50μm~500μmであり、
前記一次被覆粒子の平均粒子径に対する前記二次被覆粒子の平均粒子径の比(二次被覆粒子の平均粒子径/一次被覆粒子の平均粒子径)が1.05~2.00であることを特徴とする、耐酸性粉末。
[2]
前記芯物質(A)と前記一次被覆材(B)の合計質量に対する前記芯物質(A)の質量割合が0.65~0.90であり、
前記一次被覆粒子と前記二次被覆材(C)の合計質量に対する前記一次被覆粒子(B)の質量割合が0.60~0.85であることを特徴とする、[1]に記載の耐酸性粉末。
[3]
平均粒子径が50μm~500μmであり、耐酸性試験後の生菌残存率が32%以上であることを特徴とする、耐酸性粉末。
[4]
打錠用であることを特徴とする、[1]~[3]のいずれか一項に記載の耐酸性粉末。
[5]
[1]~[4]のいずれか一項に記載の耐酸性粉末を含むことを特徴とする、食品。
[6]
[1]~[4]のいずれか一項に記載の耐酸性粉末の製造方法であって、
前記芯物質(A)と前記一次被覆材(B)を混合して前記一次被覆粒子を得る工程、
前記一次被覆粒子と粉末状の二次被覆材(C)を混合して前記二次被覆粒子を得る工程、を備えることを特徴とする、耐酸性粉末の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、優れた耐酸性や保存安定性を有し、さらには、他の剤形への加工適性に優れる耐酸性粉末を提供することができる。
さらには、本発明によれば、打錠圧による生菌の死滅が低減され、優れた耐圧性を有する打錠加工用の耐酸性粉末を提供することができる。
また、本発明によれば、耐酸性粉末を製造する際の生菌の死滅が抑制された耐酸性粉末の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の耐酸性粉末を構成する一次被覆粒子の構造を示す概略説明図である。
図2】本発明の耐酸性粉末を構成する二次被覆粒子の構造を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において、好ましい数値範囲(例えば、質量%)を段階的に記載した場合、各下限値および上限値は、それぞれ独立して組み合わせることができる。例えば、「好ましくは10以上、より好ましくは20以上、そして、好ましくは100以下、より好ましくは90以下」という記載において、「好ましい下限値:10」と「より好ましい上限値:90」とを組合せて、「10以上90以下」とすることができる。
【0013】
[耐酸性粉末]
本発明の耐酸性粉末は、芯物質(A)の粉末粒子を内包し連続相としての一次被覆材(B)で被覆された一次被覆粒子、前記一次被覆粒子を単一の核として二次被覆材(C)で被覆された構造を有する二次被覆粒子を含む耐酸性粉末であって、前記芯物質(A)が生菌を含む粉末であり、前記一次被覆材(B)が融点40℃~70℃の脂質を含み、前記二次被覆材(C)が融点40℃~100℃の脂質を含み、前記一次被覆粒子の平均粒子径が50μm~500μmであり、前記一次被覆粒子の平均粒子径に対する二次被覆粒子の平均粒子径(二次被覆粒子の平均粒子径/一次被覆粒子の平均粒子径)が1.05~2.0であることを特徴とする。
【0014】
図1に本発明の耐酸性粉末を構成する一次被覆粒子の構造の概略説明図を示し、図2に本発明の耐酸性粉末に含まれる二次被覆粒子の構造の概略説明図を示す。
図1に示すように、一次被覆粒子10は、連続相である一次被覆材(B)の内部に芯物質(A)を内包した被覆造粒物である。
また、図2に示すように、二次被覆粒子20は、一次被覆粒子10を単一の核として、粒子状の二次被覆材(C)で被覆された構造を有する。粒子状の二次被覆材(C)を使用することにより、一次被覆粒子10を単一の核とする二次被覆粒子20を作製することができる。二次被覆粒子20内に一次被覆粒子10が単一で存在することで、圧縮成型時の圧力で二次被覆粒子20が崩れにくくなり、耐圧性がより効果的に発揮される。
【0015】
一次被覆粒子10の平均粒子径は、50μm~500μmである。下限値として、好ましくは100μm以上である。上限値として、好ましくは400μm以下であり、より好ましくは300μm以下である。平均粒子径が50μm未満の場合、一次被覆粒子の表面積が大きくなり、二次被覆材で十分な被覆ができないため、耐酸性や耐圧性を得ることができない。平均粒子径が500μmを超える場合、二次被覆材が剥がれやすくなり、二次被覆粒子の被覆状態が悪くなるため、耐酸性や耐圧性を得ることができない。また、一次被覆粒子の形成時に、一次被覆材が溶解した状態で粒子を大きく成長させるため、加工時における有用成分の安定性が低下する。
【0016】
二次被覆粒子20の平均粒子径は、特に制限されないが、例えば、50μm~500μmである。下限値として、好ましくは100μm以上である。上限値として、好ましくは400μm以下であり、より好ましくは300μm以下である。平均粒子径が50μm未満の場合には、一次被覆粒子の粒子径も50μm未満となるため、上述したとおり、二次被覆材で十分な被覆ができず、耐酸性や耐圧性を得ることができない。平均粒子径が500μmを超える場合には、二次被覆材が剥がれやすくなり、二次被覆粒子の被覆状態が悪くなるため、耐酸性や耐圧性を得ることができない。
【0017】
一次被覆粒子10の平均粒子径に対する二次被覆粒子20の平均粒子径の比(二次被覆粒子の平均粒子径/一次被覆粒子の平均粒子径)は、1.05~2.00である。上限値として、好ましくは1.60以下であり、より好ましくは、1.40以下である。この比が2.00を超える場合には、二次被覆材が多くなりすぎており、有用成分の含有量が低下する。また、複数の一次被覆粒子を内包する二次被覆粒子となる場合には、耐圧性や耐酸性を得ることができない。
【0018】
一次被覆粒子において、芯物質(A)と一次被覆材(B)の質量の割合は、特に制限されないが、例えば、芯物質(A)と一次被覆材(B)の合計質量に対する芯物質(A)の質量割合が0.65~0.90である。下限値として、好ましくは0.70以上であり、より好ましくは0.75以上である。上限値として、好ましくは0.85以下である。当該質量割合が0.65以上の場合、芯物質(A)の含有量を高めることができる。また、当該質量割合が0.90以下の場合、一次被覆材(B)の含有量が増え、被覆性能が向上するという効果がある。
【0019】
二次被覆粒子において、一次被覆粒子と二次被覆材(C)の質量の割合は、特に制限されないが、例えば、一次被覆粒子と二次被覆材(C)の合計質量に対する一次被覆粒子(B)の質量割合が0.60~0.85である。下限値として、好ましくは0.65以上であり、より好ましくは0.70以上である。上限値として、好ましくは0.80以下である。当該質量割合が0.60以上の場合、一次被覆粒子に含まれる芯物質(A)の含有量を高めることができる。また、当該質量割合が0.85以下の場合、二次被覆材(C)の含有量が増え、被覆性能が向上するという効果がある。
【0020】
本発明の耐酸性粉末の耐酸性は、特に制限されないが、例えば、本発明の耐酸性試験における生菌残存率が10%以上であり、好ましくは20%以上であり、より好ましくは30%以上であり、さらに好ましくは32%以上であり、特に好ましくは35%以上である。
【0021】
本発明の耐酸性粉末の耐圧性は、特に制限されないが、例えば、本発明の耐圧性試験における生菌残存率が75%以上であり、好ましくは85%以上であり、より好ましくは95%以上である。
【0022】
本発明の耐酸性粉末の保存安定性は、特に制限されないが、例えば、本発明の保存安定性試験における生菌残存率が50%以上であり、好ましくは60%以上であり、より好ましくは70%以上である。
【0023】
本発明の耐酸性粉末の水分活性は、特に制限されないが、例えば0.16以下であり、好ましくは0.14以下である。乾燥減量は、日本薬局方の「水分活性試験法」に準じて測定する。水分活性が0.14以下の場合には、耐酸性粉末の自由水が少ないため、保存安定性に優れるという効果がある。
【0024】
本発明の耐酸性粉末の油分含量は、特に制限されないが、例えば、20~70質量%以上である。下限値として、好ましくは30質量%以上であり、より好ましくは35質量%以上である。上限値として、好ましくは60質量%以下であり、より好ましくは50質量%以下であり、さらに好ましくは45質量%以下である。油分は、「エーテル抽出法」に準じて測定する。油分含量が大きい場合には、耐酸性粉末の吸水性が低いため、保存安定性に優れるという効果がある。油分含量が小さい場合には、生菌の含有量を高めることができる。
【0025】
以下に、本発明の各成分について詳細に説明する。
[芯物質(A)]
本発明の芯物質(A)は、生菌を含む粉末であれば特に限定されない。生菌は、例えば、ビフィズス菌や乳酸菌などが挙げられる。
【0026】
また、芯物質(A)は、本発明の作用に影響しない賦形剤として、例えば、乳糖、澱粉、白糖、マルチトール、ソルビトール、デキストリン、トレハロース、結晶セルロース等の粉末を含有してもよい。
さらに、耐酸性を向上するために、アルカリ成分を含有してもよい。アルカリ成分としては、例えば、炭酸カルシウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどが挙げられる。
【0027】
芯物質(A)の平均粒子径は、本発明の効果を奏する範囲であれば特に制限されないが、例えば10~200μmである。上限値として、好ましくは150μm以下であり、より好ましくは100μm以下であり、さらに好ましくは80μm以下である。芯物質(A)の平均粒子径が小さくなると、一次被覆粒子の大きさを調整しやすいという利点がある。
【0028】
[一次被覆材(B)]
本発明の一次被覆材(B)は、融点40℃~70℃の食用の脂質である。一次被覆材(B)の融点の下限値は、好ましくは50℃以上であり、より好ましくは55℃以上である。一次被覆材(B)の融点が40℃以上の場合には、被覆性能が向上して耐圧性や耐酸性に優れるという効果を奏する。一方、一次被覆材(B)の融点が70℃以下の場合には、一次被覆粒子の形成時に芯物質(A)を高温に晒すことなく一次被覆材(B)を軟化することができる。
【0029】
一次被覆材(B)は、融点40℃~70℃の脂質であればいずれでも構わず、例えば、脂肪酸エステル、高級アルコール、ワックスなどが挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用することができる。
脂肪酸エステルとしては、例えば、食用油脂として代表的なトリグリセライドが挙げられ、トリグリセライドはグリセリンに3分子の脂肪酸がエステル結合した構造を有し、その由来は例えば、大豆油、ナタネ油、綿実油、コメ油、コーン油、ゴマ油、落花生油、ヒマワリ油、サフラワー油、椿油、オリーブ油、ヤシ油、パーム油、パーム核油、カカオ脂、エゴマ油、シソ油、豚脂、牛脂、鶏油、鯨油、及び魚油などが挙げられる。融点の調整は、エステル交換、水素添加などにより行われる。
その他の脂肪酸エステルとしては、いわゆる乳化剤も含まれ、例えばグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン等が挙げられる。
高級アルコールとしては、炭素数20~36の直鎖、もしくは分岐鎖を持つアルコールが挙げられ、具体的には例えば、エイコサノール(炭素数20)、ドコサノール(炭素数26)、オクタコサノール(炭素数28)、トリアコンタノール(=ミリシルアルコール、炭素数30)、ヘキサトリアコンタノール(炭素数36)等が挙げられる。
ワックスとしては、カルナウバワックス、キャンデリラワックス、ライスワックス等が挙げられる。
【0030】
一次被覆材(B)は、粉末状でも、加温により溶融した液体状でもよい。溶融した液体状の一次被覆材(B)を使用する場合、混合した状態の芯物質(A)に液体状の一次被覆材(B)を噴霧することで、簡単な操作で素早く一次被覆粒子を形成することができる。
【0031】
[二次被覆材(C)]
本発明の二次被覆材(C)は、融点40℃~100℃の食用の脂質である。二次被覆材(C)の融点の下限値は、好ましくは50℃以上であり、より好ましくは55℃以上であり、さらに好ましくは60℃以上である。一方、二次被覆材(C)の融点の上限値は、好ましくは90℃以下であり、より好ましくは80℃以下であり、さらに好ましくは75℃以下である。二次被覆材(C)の融点が40℃未満の場合には、一次被覆粒子と二次被覆材(C)を混合する際に、二次被覆材が溶解してしまい、一次被覆粒子を単一の核とする二次被覆粒子を形成することができない。一方、二次被覆材(C)の融点が100℃を超えると、二次被覆材(C)の展延性が低下する。そのため、一次被覆粒子の表面に配置された二次被覆材(C)が粒子同士の衝突により展延しないため、被覆性能が低下し、本発明の効果を得ることができない。
【0032】
二次被覆材(C)は、融点40℃~100℃の脂質であればいずれでも構わず、例えば、脂肪酸エステル、高級アルコール、ワックスなどが挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用することができる。
脂肪酸エステルとしては、例えば、食用油脂として代表的なトリグリセライドが挙げられ、トリグリセライドはグリセリンに3分子の脂肪酸がエステル結合した構造を有し、その由来は例えば、大豆油、ナタネ油、綿実油、コメ油、コーン油、ゴマ油、落花生油、ヒマワリ油、サフラワー油、椿油、オリーブ油、ヤシ油、パーム油、パーム核油、カカオ脂、エゴマ油、シソ油、豚脂、牛脂、鶏油、鯨油、及び魚油などが挙げられる。融点の調整は、エステル交換、水素添加などにより行われる。
その他の脂肪酸エステルとしては、いわゆる乳化剤も含まれ、例えばグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン等が挙げられる。
高級アルコールとしては、炭素数20~36の直鎖、もしくは分岐鎖を持つアルコールが挙げられ、具体的には例えば、エイコサノール(炭素数20)、ドコサノール(炭素数26)、オクタコサノール(炭素数28)、トリアコンタノール(=ミリシルアルコール、炭素数30)、ヘキサトリアコンタノール(炭素数36)等が挙げられる。
ワックスとしては、カルナウバワックス、キャンデリラワックス、ライスワックス等が挙げられる。
【0033】
二次被覆材(C)は、粉末状である。粉末状の二次被覆材(C)を使用することにより、一次被覆粒子の表面に二次被覆材(C)が付着し、一次被覆粒子を単一の核とする二次被覆粒子を形成することができる。液体状の二次被覆材(C)を使用すると、二次被覆材(C)を連続相として複数の一次被覆粒子を内包する被覆造粒物となり、本発明の効果を得ることができない。
【0034】
二次被覆材(C)の平均粒子径は、例えば、5~100μmである。上限値として、好ましくは80μm以下であり、より好ましくは60μm以下であり、さらに好ましくは40μm以下である。二次被覆材(C)の平均粒子径が小さくなると、一次被覆粒子の表面に緻密に二次被覆材(C)が配置されるため、被覆性能が向上する。
【実施例0035】
以下、実施例および比較例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0036】
(実施例1~12、比較例1~7)
以下に示す一次被覆粒子の調製方法、及び、二次被覆粒子の調製方法に従い、表1、2に示す配合にて、耐酸性粉末を調製した。また、得られた耐酸性粉末について、「加工後の生菌残存率」(加工安定性)、「保存後の生菌残存率」(保存安定性)、打錠後の生菌残存率」(耐圧性)、「耐酸性試験後の生菌残存率」(耐酸性)について評価し、評価結果を表1、2に示した。
【0037】
(原料について)
実施例で使用した原料は、以下のとおりである。
なお、本発明における平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定機「SALD-2100」((株)島津製作所製)にて測定する。
また、本発明における融点は、基準油脂分析試験法「2.2.4.2 融点(上昇融点)」に準じて測定する。
【0038】
<芯物質(A)>
ビフィズス菌A:「ビフィズス菌末BB536」(森永乳業(株)製)、平均粒子径29.0μm
ビフィズス菌B:「ビフィズス菌末B-3」(森永乳業(株)製)、平均粒子径31.2μm
卵殻カルシウム:「カルホープ」(キューピータマゴ(株)製)、平均粒子径8.8μm
【0039】
<一次被覆材(B)>
菜種極度硬化油:(日油(株)製)、融点67℃
パーム極度硬化油:(日油(株)製)、融点57℃
菜種硬化油1:(日油(株)製)、融点50℃
パーム硬化油:(日油(株)製)、融点42℃
カルナウバロウ:(東亜化成(株)製)、融点86℃
【0040】
<二次被覆材(C)>
以下に記載の脂質をスプレークーリング又は粉砕により粉末化し、さらに平均粒子径が50μm以下となるまで二次粉砕をして、二次被覆材を調製した。
菜種極度硬化油:(日油(株)製)、融点67℃、平均粒子径6.8μm
パーム極度硬化油:(日油(株)製)、融点57℃、平均粒子径14.6μm
グリセリン脂肪酸エステル:(ダニスコジャパン(株)製)、融点62℃、平均粒子径18.2μm
パーム硬化油:(日油(株)製)、融点42℃、平均粒子径42.5μm
ライスワックス:(東亜化成(株)製)、融点78℃、平均粒子径14.5μm
菜種硬化油2:(日油(株)製)、融点36℃、平均粒子径40.4μm
【0041】
(耐酸性粉末の製造について)
実施例及び比較例の耐酸性粉末を構成する一次被覆粒子及び二次被覆粒子は以下のとおりに調製した。
[一次被覆粒子の調製方法]
芯物質(A)400gを高速撹拌混合機に投入した。高速撹拌混合機を撹拌しながら、各原料の融点+10℃に調温して溶融した一次被覆材(B)100gを、高速撹拌混合機の内部に噴霧して、芯物質(A)を一次被覆材(B)で被覆した。次いで、高速撹拌機内で品温20℃となるまで冷却して一次被覆粒子を得た。
【0042】
[二次被覆粒子の調製方法]
一次被覆粒子375gと二次被覆材(C)の粉末125gを高速撹拌混合機に投入した。高速撹拌混合機のジャケット温度を冷やした状態で撹拌混合し、二次被覆材を粉末の状態のまま、一次被覆粒子の表面に付着させた。さらに撹拌混合を継続することにより、一次被覆粒子の表面に二次被覆材の粉末を均等に配置し、二次被覆粒子を調製した。
但し、比較例7では、二次被覆材(C)を融点+10℃で加温溶融し、溶融した二次被覆材(C)を高速撹拌混合機内の一次被覆粒子に対して噴霧することにより、二次被覆粒子を調製した。
【0043】
(耐酸性粉末の評価方法について)
<生菌の測定方法>
本発明の生菌の測定方法は、検体100mgを100mLの生理食塩水に加え、ホモジナイズすることで生菌を抽出した。本溶液を適宜希釈し、希釈液1mLをBL寒天培地(日水製薬株式会社製)20mLと混釈し、嫌気培養(37℃、72時間)を行った。培養終了後、培地上に発育したコロニー数から、検体1g当たりの生菌数を算出した。
【0044】
<加工安定性:加工後の生菌残存率(加工生残率)>
加工後の生菌残存率は、次の式により算出し、以下の基準により評価した。
加工生残率(%)=加工後生菌数/加工前生菌数×100
[加工生残率の基準]
◎:90%以上、〇:90%未満、80%以上、△:80%未満、70%以上、×:70%未満
【0045】
<保存安定性:保存後の生菌残存率(保存生残率)>
(保存安定性試験)
耐酸性粉末を、アルミ袋中に密封し、25℃、6か月の保管試験を行った。保管後の生菌残存率は、次の式により算出し、以下の基準により評価した。
保存生残率(%)=保存後生菌数/保存前生菌数×100
[保存生残率の基準]
◎:70%以上、〇:70%未満、60%以上、△:60%未満、50%以上、×:50%未満
【0046】
<耐圧性:打錠後の生菌残存率(打錠生残率)>
(耐圧性試験)
本発明の耐圧性評価は、以下に示す配合組成及び打錠条件で、実施例又は比較例の耐酸性粉末を含むタブレットを作製し、打錠前と打錠後における生菌数を測定した。タブレット中の生菌の測定は、タブレットを乳鉢ですりつぶして粉末状としたものを生菌の測定方法の検体とした。なお、乳糖は「ラクトース」(レプリノフーズ社製)、澱粉は「STスターチP」(日澱化学(株)製)、結晶セルロースは「セオラスUF-702」(旭化成(株)製)、ショ糖脂肪酸エステルは「リョートーシュガーエステルS-370」(三菱ケミカル(株)製)を使用した。生菌の耐圧性は、次の式により評価した。
打錠生残率(%)=打錠後生菌数/打錠前生菌数×100
[打錠生残率の基準]
◎:95%以上、〇:95%未満、85%以上、△:85%未満、75%以上、×:75%未満]
〔タブレットの配合組成〕
実施例又は比較例の耐酸性粉末 10質量%
乳糖造粒物 68質量%
澱粉 10質量%
結晶セルロース 10質量%
ショ糖脂肪酸エステル 2質量%
合計 100質量%
〔タブレット作製時の打錠条件〕
機種:ロータリー打錠機コレクト12HU(株式会社菊水製作所製)
打錠圧力:15kN
杵の大きさ:直径15mmφ
錠剤重量:1g
【0047】
<耐酸性試験後の生菌残存率(耐酸生残率)>
(耐酸性試験)
本発明の耐酸性評価は、200mL容量のビーカーに、pH3.0の塩酸水溶液100mLを入れ、37℃に調温する。次いで、二次被覆粒子100mgを添加し、マグネチックスターラー100rpmで、1時間撹拌する。撹拌終了後、pH13の水酸化ナトリウム水溶液で中和し、生菌数を測定した。なお、生菌数の算出の際、水酸化ナトリウム水溶液の添加量分を補正する。
耐酸性生存率(%)=耐酸性試験後の生菌数/耐酸性試験前の生菌数×100
[耐酸生残率の基準]
◎:30%以上、〇:30%未満、20%以上、△:20%未満、10%以上、×:10%未満
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
【表3】
【0051】
実施例1~17は、一次被覆材(B)として融点40℃~70℃の脂質を用いて、平均粒子径50μm~500μmの一次被覆粒子を形成し、得られた一次被覆粒子の表面に、二次被覆材(C)として融点40℃~100℃の脂質を被覆し、一次被覆粒子の平均粒子径に対する二次被覆粒子の平均粒子径が1.05~2.0となるように二次被覆粒子を形成したことにより、加工安定性、保存安定性、耐圧性、耐酸性のいずれの評価においても優れるという結果となった。また、得られた耐酸性粉末は、平均粒子径が50μm~500μm程度であるため、打錠やソフトカプセルなど、他の剤形に使用する原料として好適なものであった。
【0052】
一方、比較例1では、一次被覆粒子に対して二次被覆材(C)により被覆をしなかったため、(二次被覆粒子の平均粒子径/一次被覆粒子の平均粒子径)が1.05~2.00にならず耐圧性及び耐酸性の効果が得られなかった。また、一次被覆加工時における一次被覆材(B)の配合量が多いため、一次被覆材における被覆の際に長時間の熱に晒されたため、加工安定性が低下する傾向が認められた。
比較例2では、一次被覆材による一次被覆加工をしなかったため、(二次被覆粒子の平均粒子径/一次被覆粒子の平均粒子径)が1.05~2.00にならず二次被覆材による被覆が不十分となり、耐酸性の効果が得られなかった。
比較例3では、高融点の一次被覆材を使用したため、一次被覆材における被覆の際に、生菌が高温の一次被覆材と接触することにより死滅し、加工安定性が悪かった。
比較例4では、二次被覆材として融点が40℃未満の脂質を使用したため、耐圧性及び耐酸性の効果が得られなかった。
比較例5では、一次被覆粒子の平均粒子径が50μm未満であるため、耐酸性の効果が得られなかった。
比較例6では、一次被覆粒子の平均粒子径が500μm超であるため、耐酸性の効果が得られなかった。
比較例7では、一次被覆粒子の平均粒子径に対する二次被覆粒子の平均粒子径が2.0を超えており、二次被覆材を連続相とする一次被覆粒子の造粒物が形成されてしまった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の耐酸性粉末は、生菌を含む粉末に対して、優れた耐酸性を付与することができるため、食品(健康食品、機能性表示食品、特定保健用食品などを含む。)、医薬品、医薬部外品、飼料などの腸溶性製剤の原料として利用することができる。
さらには、本発明の耐酸性粉末は、耐圧性にも優れるため、タブレットやチュアブルなどの錠剤の原料として好適に利用することができる。
【0054】
また、本発明の耐酸性粉末の製造方法は、被覆等の加工時の生菌の死滅率が低く、生菌の耐酸性粉末の製造方法に好適に利用することができる。


図1
図2