(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149277
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】RAGE阻害剤組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 36/185 20060101AFI20231005BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231005BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20231005BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20231005BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20231005BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
A61K36/185
A61P43/00
A61P3/10
A61P9/00
A61P25/00
A61P35/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022057757
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000251130
【氏名又は名称】林兼産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139262
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 和昭
(72)【発明者】
【氏名】伊東 秀之
(72)【発明者】
【氏名】上村 知広
(72)【発明者】
【氏名】山田 道生
【テーマコード(参考)】
4C088
【Fターム(参考)】
4C088AB12
4C088AC04
4C088BA08
4C088NA14
4C088ZA02
4C088ZA36
4C088ZB26
4C088ZC35
4C088ZC41
(57)【要約】
【課題】安全で高い活性を有するRAGE阻害剤組成物を提供する。
【解決手段】本発明のRAGE阻害剤組成物は、ヒシ科に属する植物の抽出物又は該抽出物に含まれる1又は複数の化合物、ガロタンニン類又はエラジタンニン類に属し、β-D-グルコース骨格を含む1又は複数の化合物及びエラグ酸からなる群より選択される1又は複数の化合物を有効成分として含有し、AGE(終末糖化産物)のAGE特異的受容体(RAGE)への結合を阻害する活性を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒシ科に属する植物の抽出物又は該抽出物に含まれる1又は複数の化合物を有効成分として含有し、AGE(終末糖化産物)のAGE特異的受容体(RAGE)への結合を阻害する活性を有することを特徴とするRAGE阻害剤組成物。
【請求項2】
前記ヒシ科に属する植物の抽出物が、ヒシ科に属する植物の果皮の抽出物であることを特徴とする請求項1に記載のRAGE阻害剤組成物。
【請求項3】
前記有効成分が、ガロタンニン類又はエラジタンニン類に属し、β-D-グルコース骨格を含む1又は複数の化合物及びエラグ酸からなる群より選択される1又は複数の化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載のRAGE阻害剤組成物。
【請求項4】
前記ガロタンニン類又はエラジタンニン類に属し、β-D-グルコース骨格を含む化合物が、1,2,4,6-テトラ-O-ガロイル-β-D-グルコース、1,2,3,4,6-ペンタ-O-ガロイル-β-D-グルコース、テリマグランジンII及びエラグ酸のいずれかであることを特徴とする請求項3に記載のRAGE阻害剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なRAGE(AGE特異的受容体)阻害剤組成物に関し、より具体的には、安全であり、高いRAGE阻害を有するRAGE阻害剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
終末糖化産物(Advanced Glycation Endproducts、AGE)は、糖化タンパク質、メイラード反応産物等とも呼ばれ、例えば、高血糖状態下で、グルコース等の還元糖とタンパク質のアミノ基との非酵素的な反応により生成する種々の構造を有するタンパク質誘導体である。AGEは、細胞外マトリックスタンパク質、膜タンパク質及び細胞内タンパク質の糖化修飾に起因するこれらのタンパク質の機能及びそれに依存する細胞機能の破綻、或いはAGEをリガンドとするレセプターが引き起こす細胞応答の結果として、種々の病変の発症及び増悪に関与している。
【0003】
例えば、AGEレセプターの1つであるRAGEによってAGEが認識されると、細胞内NADPHオキシダーゼによる細胞内酸化ストレス物質の生成が亢進し、これが上皮細胞における遺伝子発現を変化させることにより、種々の糖尿病性血管障害が発症すると考えられている(非特許文献1参照)。また、近年、AGEは、糖尿病性血管障害に加え、心筋梗塞、動脈硬化症等の心血管障害(非特許文献2参照)、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症等の神経変性疾患(非特許文献3参照)、アルコール依存症による脳障害及び肝障害(非特許文献4参照)、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、糖尿病性神経症等の糖尿病合併症(非特許文献5参照)、骨粗鬆症等の骨代謝異常(非特許文献6参照)、老化現象(非特許文献7参照)、インスリン抵抗性(非特許文献8参照)、腫瘍の増殖及び転移(非特許文献9参照)等にも関与していることが示唆されている。更に、RAGEは、血管、腎臓、神経、マクロファージ、皮膚等の様々な組織に存在し、上述の糖尿病合併症に加え、癌等にも関与していることが、近年の研究から明らかになっている(非特許文献10参照)。
【0004】
RAGEへのリガンドの結合を阻害する活性を有する物質は、RAGEが関与する上記の各種疾患への治療薬としての有効性が期待され、その探索及び開発に関する研究が精力的に行われている。RAGEの阻害剤として、FPS-ZM1、アゼリラゴン(非特許文献11参照)等の化合物が知られている。また、生薬由来成分として、アカメガシワ抽出物(非特許文献12参照)、ハンゲショウ抽出物(特許文献1参照)、フラバンジェノール(特許文献2参照)等がRAGE阻害活性を有することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-31424号公報
【特許文献2】特開2020-33380号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Marie-Paule Wautier他著、「Activation of NADPH oxidase by AGE links oxidant stress to altered gene expression via RAGE」、Amarican Journal of Physiology-Endocrinology and Metabolism、(米国)、アメリカ生理学会(American Physiological Society)、2001年5月、第280巻、E685-E694
【非特許文献2】Yoshihide Innouchi他著、「Glycolaldehyde-modified low density lipoprotein leads macrophages to foam cells via the macrophage scavenger receptor」、The Journal of Biochemistry、日本生化学会、1998年、123巻、第6号、p.1208-1217
【非特許文献3】Nobuyuki Sasaki他著、「Advanced Glycation End Products in Alzheimer's Disease and Other Neurodegenerative Diseases」、The American Journal of Pathology、(米国)、アメリカ研究病理学会(American Society for Investigative Pathology)、1998年10月、第153巻、第4号、p.1149-1155
【非特許文献4】Keiko Iwamoto他著、「Advanced glycation end products enhance the proliferation and activation of hepatic stellate cells」、Journal of Gastroenterology、シュプリンガー・ジャパン、2008年4月、第43巻、第4号、p.298-304
【非特許文献5】C. W. Yang他著、「Advanced glycation end products up-regulate gene expression found in diabetic glomerular disease」、Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America、(米国)、アメリカ国立科学協会(National Academy of Sciences of the United States of America)、1994年9月27日、第91巻、第20号、p.9436-9440
【非特許文献6】James J. Tomasek他著、「Diabetic and age-related enhancement of collagen-linked fluorescence in cortical bones of rats」、Life Sciences、(オランダ)、エルゼビア(Elsevier B.V.)、1994年、第55巻、p.855-861
【非特許文献7】Melpomeni Peppa他著、「Aging and glycoxidant stress」、Hormones、(ギリシア)、ギリシア内分泌学協会(Hellenic Endocrine Society)、2008年、第7巻、第3号、p.123-132
【非特許文献8】水田雅也著、「インスリン作用不足と酸化ストレス」、日本薬理学雑誌、日本薬理学会、2005年、第125巻、第3号、p.125-128
【非特許文献9】Riichiro Abe他著、「Regulation of Human Melanoma Growth and Metastasis by AGE-AGE Receptor Interactions」、Journal of Investigative Dermatology、(英国)、ネイチャー・パブリッシング・グループ(Nature Publishing Group)、2004年2月、第122巻、第2号、p.461-467
【非特許文献10】山本博著、「糖尿病合併症の成因・病態・克服に関する基礎的研究」、「糖尿病」、日本糖尿病学会、2014年、57巻、10号、p.765-771
【非特許文献11】A. H. Burstein他著、「Development of Azeliragon, an Oral Small Molecule Antagonist of the Receptor for Advanced Glycation Endproducts, for the Potential Slowing of Loss of Cognition in Mild Alzheimer's Disease」、The Journal of Prevention of Alzheimer's Disease、(フランス)、SERDI、2018年、第5巻、第2号、p.149-154
【非特許文献12】松本輝樹他著、「Identification of pheophorbide a as an inhibitor of receptor for advanced glycation end products in Mallotus japonicus」、Journal of Natural Medicine、シュプリンガー・ジャパン、2021年、第75巻、第3号、p.675-681
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献11等に記載のアゼリラゴンは、in vitro試験では多くのリガンドについてRAGEへの結合阻害活性が確認されているものの、アルツハイマー病治療薬としての臨床試験において、副作用が確認されたため臨床試験が失敗に終わった事例が報告されている。また、非特許文献12、特許文献1、2に記載の生薬由来のRAGE阻害剤について、AGEのRAGEへの結合阻害活性が低いものが存在するという問題があった。
【0008】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、安全で高い活性を有するRAGE阻害剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的に沿う本発明は、ヒシ科に属する植物の抽出物又は該抽出物に含まれる1又は複数の化合物を有効成分として含有し、AGE(終末糖化産物)のAGE特異的受容体(RAGE)への結合を阻害する活性を有することを特徴とするRAGE阻害剤組成物を提供することにより上記課題を解決するものである。
【0010】
本発明に係るRAGE阻害剤組成物において、前記ヒシ科に属する植物の抽出物が、ヒシ科に属する植物の果皮の抽出物であることが好ましい。
【0011】
本発明に係るRAGE阻害剤組成物において、前記有効成分が、ガロタンニン類又はエラジタンニン類に属し、β-D-グルコース骨格を含む1又は複数の化合物及びエラグ酸からなる群より選択される1又は複数の化合物であることが好ましい。
【0012】
本発明に係るRAGE阻害剤組成物において、前記ガロタンニン類又はエラジタンニン類に属し、β-D-グルコース骨格を含む化合物が、1,2,4,6-テトラ-O-ガロイル-β-D-グルコース、1,2,3,4,6-ペンタ-O-ガロイル-β-D-グルコース、テリマグランジンII及びエラグ酸のいずれかであることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るRAGE阻害剤組成物の有効成分は、食経験のあるヒシ科に属する植物に含まれているものであり、安全性が確認されたものであると共に、本発明において見出されたように、AGEのRAGEへの結合に対する高い阻害活性を有する。このように、本発明によると、安全で活性の高いRAGE阻害剤組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】AGE-RAGE結合阻害活性の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施の形態に係るRAGE阻害剤組成物(以下、「RAGE阻害剤組成物」と略称する場合がある。)は、ヒシ科に属する植物の抽出物又は該抽出物に含まれる1又は複数の化合物を有効成分として含有し、AGE(終末糖化産物)のAGE特異的受容体(RAGE)への結合を阻害する活性を有している。
【0016】
RAGE阻害剤組成物の抽出源となるヒシ科植物は特に制限されないが、具体例としては、ヒシ(ワビシ)(Trapa japonica)、オニビシ(Trapa natans L. ver. japonica)、ヒメビシ(Trapa incisa)及びトウビシ(Trapa bispinosa Roxb.)が挙げられる。
【0017】
抽出物は、ヒシ科植物の各部位、例えば、花、花穂、果皮、果実、果肉、茎、葉、根、種子等より得ることができるが、抽出源としては、ヒシ科植物の果皮が好適に用いられる。抽出は、通常用いられる方法により行うことができる。具体的には、植物の果皮をそのまま又は適当な大きさに切断し、溶媒で抽出することにより、又は溶媒中でホモジナイズすることにより行うことができる。抽出溶媒としては、例えば、水、各種有機溶媒、あるいはそれらの混合溶媒を用いることができる。抽出のための有機溶媒としては、例えば、低級アルコール(例えば、メタノール、エタノール)、クロロホルム、酢酸エチル、n-ヘキサンを挙げることができる。抽出溶媒の中で、特に水、メタノール、エタノールが好ましい。また、これらの溶媒を一種又は二種以上混合して用いることもできる。抽出溶媒の使用量は、用いる部位や抽出溶媒等により異なるが、重量比で、1:2~1:30(植物原料:抽出溶媒)の範囲内が適当であり、1:3~1:20の範囲内が好ましく、1:5~1:10の範囲内がより好ましい。抽出時間は、1時間~15日の範囲内が適当である。抽出温度は、5~100℃の範囲内が適当である。抽出方法については特に制限されず、バッチ抽出、カラムを使用した連続抽出等、任意の方法を適用することができる。
【0018】
ヒシ科植物の果皮の溶媒抽出物から、1又は複数の化合物を分離する前に、高分子量成分や不溶分等を除去するために、透析、限外ろ過、ろ過、カラムクロマトグラフィー等による前処理を行ってもよい。
【0019】
ろ過により不溶分等を除去する場合には、必要に応じて、不純物を除去するために活性炭、ベントナイト、セライト等の吸着剤やろ過助剤を添加してもよい。特に抽出液の状態で用いる場合には、メンブレンフィルター等による除菌ろ過を併せて行うことが好ましい。
【0020】
必要に応じて上述のような前処理を行った抽出物の分離は、カラムクロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、イオンクロマトグラフィー等の任意の公知の方法を用いて行うことができ、AGEのRAGEへの結合に対する高い阻害活性の高い画分を分画することにより行うことができる。
【0021】
RAGE阻害剤組成物の有効成分は、ガロタンニン類又はエラジタンニン類に属し、β-D-グルコース骨格を含む1又は複数の化合物及びエラグ酸からなる群より選択される1又は複数の化合物であってもよい。ガロタンニン類及びエラジタンニン類は、酸、アルカリ、酵素で多価フェノール酸と多価アルコールに加水分解される加水分解型タンニンの一種であり、前者は、多価フェノール酸として没食子酸を、後者は、多価フェノール酸としてエラグ酸を生じるものである。RAGE阻害剤組成物の有効成分として用いられる、ガロタンニン類及びエラジタンニン類に属する化合物は、多価アルコールとしてD-グルコースを生じるものである。
【0022】
ガロタンニン類に属し、β-D-グルコース骨格を含む化合物の例としては、例えば、下記の一般式(I)、(I’)で表される化合物が挙げられ、その具体例としては、2,6-ジ-O-ガロイル-β-D-グルコース、1,2,3-トリ-O-ガロイル-β-D-グルコース、1,2,6-トリ-O-ガロイル-β-D-グルコース、2,3,6-トリ-O-ガロイル-β-D-グルコース、1,2,3,6-テトラ-O-ガロイル-β-D-グルコース、1,2,4,6-テトラ-O-ガロイル-β-D-グルコース、1,2,3,4,6-ペンタ-O-ガロイル-β-D-グルコースが挙げられる。
【0023】
【0024】
【0025】
なお、式(I)、(I’)において、R、R’及びR”は、それぞれ独立して、水素原子又は下式で表されるガロイル基を示す。
【0026】
【0027】
ガロタンニン類に属し、β-D-グルコース骨格を含む化合物の例としては、例えば、下記の一般式(II)で表されるルゴシンD、下記の一般式(III)で表されるコルヌシインG、下記の一般式(IV)で表されるテリマグランジンIIが挙げられる。
【0028】
【0029】
【0030】
【0031】
なお、エラグ酸は、下記の一般式(V)で表される化合物である。
【0032】
【0033】
RAGE阻害剤組成物の有効成分として特に好ましい化合物は、1,2,4,6-テトラ-O-ガロイル-β-D-グルコース(一般式(I)において、R及びR”がガロイル基で、R’が水素原子であるもの。)、1,2,3,4,6-ペンタ-O-ガロイル-β-D-グルコース(一般式(I)において、R、R’及びR”がガロイル基であるもの。)、テリマグランジンII(一般式(IV)で表される化合物)及びエラグ酸(一般式(V)で表される化合物)である。これらの化合物は単独で用いられていてもよく、任意の2以上の組み合わせで用いられていてもよい。
【0034】
AGEのRAGEへの結合に対する阻害活性は、RAGE阻害剤組成物の存在下又は非存在下におけるAGEのRAGE阻害剤組成物ヘの結合活性の変化を検討することにより評価することができる。
【0035】
RAGE阻害剤組成物は、担体等と混合することにより、糖尿病及びそれに関連する疾患及び症状等の、終末糖化産物が関与する疾患に対する治療効果及び予防効果の一方又は双方を有する医薬組成物として用いることができる。医薬組成物のヒト或いは動物に対する投与形態としては、経口、経直腸、非経口(例えば、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与など)等が挙げられ、投与量は、医薬組成物の製剤形態、投与方法、使用目的及びこれに適用される投与対象の年齢、体重、症状によって適宜設定され一義的に決定することは困難であるが、ヒトの場合、一般には製剤中に含有される有効成分の量で、好ましくは成人1日当り0.1~2000mg/日である。もちろん投与量は、種々の条件によって変動するので、上記投与量より少ない量で十分な場合もあるし、或いは上記範囲を超えて必要な場合もある。
【0036】
経口投与製剤として調製する場合は、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、コーティング剤、液剤、懸濁剤等の形態に調製でき、非経口投与製剤にする場合には、注射剤、点滴剤、座薬等の形態に調製することができる。製剤化には、任意の公知の方法を用いることができる。例えば、RAGE阻害剤組成物と、製薬学的に許容し得る担体又は希釈剤、安定剤、及びその他の所望の添加剤を配合して、上記の所望の剤形とすることができる。
【0037】
RAGE阻害剤組成物を含む食品としては、RAGE阻害剤組成物を食品に配合したもの、或いは、カプセル、錠剤等、食品又は健康食品に通常用いられる任意の形態をとることができる。配合される食品の種類に特に制限はなく、例えば、コーヒー、果汁、清涼飲料水、ビール、牛乳、味噌汁、スープ、紅茶、茶、栄養剤、シロップ、マーガリン、ジャム等の液状(流動状)食品、米飯、パン、じゃがいも製品、もち、飴、チョコレート、ふりかけ、ハム、ソーセージ、キャンディーなどの固形形状食品等の主食、副食、菓子類ならびに調味料に配合することも可能である。用途に応じて、粉末、顆粒、錠剤等の形に成形してもよい。また、必要に応じて、賦形剤、増量剤、結合剤、増粘剤、乳化剤、着色料、香料、食品添加物、調味料等と適宜混合してもよい。
【0038】
また、ヒトの消費に供する食品以外にも、RAGE阻害剤組成物を飼料中に混合して、家畜、ペット等の動物に投与する場合には、予め飼料の原料中に混合して、機能性を付与した飼料として調製することができる。また、RAGE阻害剤組成物を飼料に添加して投与することもできる。すなわち、RAGE阻害剤組成物を有効成分として含む食品は、ブタ、ニワトリ、ウシ、ウマ、ヒツジ等の家畜や、魚類、ペット(イヌ、ネコ、鳥類)等の飼料に添加することにより、安全で、糖尿病及びそれに関連する疾患及び症状の治療効果及び予防効果の一方又は双方を有する機能性飼料として用いることができる。
【実施例0039】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
実施例1:トウビシの果皮の熱水抽出物(ヒシエキス)の調製
収穫後のトウビシ(Trapa bispinosa)の果実から果皮を分離し、果皮をカット後、乾燥させた。乾燥果皮に対して約6倍量の90℃の熱水を添加して熱水抽出を行った。得られた抽出液をろ過後、濃縮した。濃縮液67重量%に対し33重量%の割合となるようにデキストリンを加えて、スプレードライヤーで噴霧乾燥することにより、パウダー状のヒシエキスを得た。
【0040】
実施例3:AGEのRAGEヘの結合活性の評価
[方法]
AGE(グリセルアルデヒド修飾タンパク質)のRAGEヘの結合活性の評価には、「CircuLex AGE-RAGE in vitro Binding Assay Kit」(株式会社医学生物学研究所)を使用した。測定はキット付属の操作手順書に従い、下記の手順により実施した。AGE-BSA固相化プレート及びBSA固相化プレートに緩衝液85μL及び測定試料溶液5μL(溶媒として、DMSO又は蒸留水を使用)、His-tag標識sRAGE溶液(終濃度50AU/mL)10μLを添加し、60分間室温(24℃)で静置した。キットに付属のWash bufferで4回ウェルを洗浄し、His-tag標識モノクロ-ナル抗体HRP結合型溶液100μLを添加し、60分間室温(24℃)で静置した。Wash bufferで4回ウェル洗浄し、基質溶液100μLを添加後、10分間室温で反応させた。反応停止液100μLを添加後、プレートリーダーで吸光度450nmにおける吸光度を測定した。測定後、AGE-BSA固相化プレートの値からBSA固相化プレートの値を差し引き、付属のHis-tag標識RAGE溶液によって作成したsRAGE検量線を用いて、AGEと結合したsRAGE量(A)を算出した。次いでAGE-RAGE結合阻害率を以下の式より算出した。
【0041】
AGE-RAGE結合阻害率(%)=[sRAGE添加量-(A)]/sRAGE添加量×100
【0042】
[測定試料]
評価に使用した測定試料について以下のとおりである。陽性対照として、AGE-RAGE結合阻害活性が報告されている化合物であるアゼリラゴンを使用した。測定対象として、実施例1で調製したヒシエキス、ヒシエキスの調製に担体として使用したデキストリンを用い、ヒシエキスの含有成分である没食子酸、エラグ酸、トリガロイルグルコース(1,2,3-トリ-O-ガロイル-β-D-グルコース、1,2,6-トリ-O-ガロイル-β-D-グルコース)、テトラガロイルグルコース(1,2,3,6-テトラ-O-ガロイル-β-D-グルコース、1,2,4,6-テトラ-O-ガロイル-β-D-グルコース)、1,2,3,4,6-ペンタ-O-ガロイル-β-D-グルコース、テリマグランジンIIの8種類の化合物を使用した。
【0043】
[結果]
AGE-RAGE結合阻害活性の測定結果を
図1及び表1に示した。ヒシエキス(IC
50=0.11μg/mL)は陽性対照のアゼリラゴン(IC
50=4.7μg/mL)よりも顕著に強い活性を示した。ヒシエキスの含有成分である上記8種類の化合物について終濃度0.25μg/mLでの阻害活性の比較を行なった結果、4種類の化合物(エラグ酸、1,2,4,6-テトラ-O-ガロイル-β-D-グルコース、1,2,3,4,6-ペンタ-O-ガロイル-β-D-グルコース、テリマグランジンII)が比較的強い阻害活性を示したため、化合物のIC
50を算出した。なお、デキストリンは阻害活性を示さなかった。
【0044】