(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149284
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】水圧転写シート及び水圧転写方法
(51)【国際特許分類】
B44C 1/175 20060101AFI20231005BHJP
H05K 3/20 20060101ALI20231005BHJP
B32B 7/025 20190101ALI20231005BHJP
【FI】
B44C1/175 D
H05K3/20 C
B32B7/025
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022057772
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】306026980
【氏名又は名称】株式会社タイカ
(72)【発明者】
【氏名】亀井 隆一
【テーマコード(参考)】
3B005
4F100
5E343
【Fターム(参考)】
3B005FA04
3B005FB23
3B005FC20Z
3B005FE04
3B005FG02X
3B005GA28
3B005GC02
3B005GC03
3B005GD01
3B005GD03
4F100AA37C
4F100AD11B
4F100AD11C
4F100AK01A
4F100AK21A
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4F100BA07
4F100GB41
4F100HB31C
4F100JB09A
4F100JG01B
4F100JG04D
5E343BB60
5E343DD56
5E343ER50
5E343FF08
5E343GG13
(57)【要約】
【課題】曲面を有する物品の表面に電気回路を形成するための水圧転写方法と、それに用いる水圧転写シートの提供。
【解決手段】本発明の水圧転写フィルムは、水溶性フィルムの表面に少なくとも導電性パターン層を備えた転写層を有し、導電性パターン層は透明な導電インクからなり、導電インクはポリチオフェン系化合物、ポリアニリン系化合物、グラフェンからなる群より選択される導電性成分を含んでなる。また、本発明の水圧転写方法は、上記水圧転写フィルムに活性剤を塗布して水圧転写槽の水面に配置し、当該水圧転写フィルムに被転写体を押し当て、被転写体の表面に導電性パターン層を水圧で転写して水圧転写品を得る。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性フィルムの表面に少なくとも導電性パターン層を備えた転写層を有する水圧転写シートであって、
前記導電性パターン層は透明な導電インクからなり、前記導電インクはポリチオフェン系化合物、ポリアニリン系化合物、グラフェンからなる群より選択される導電性成分を含んでなることを特徴とする水圧転写シート。
【請求項2】
前記転写層がさらに印刷パターン層を備え、前記印刷パターン層は前記導電性パターン層の少なくとも一部に積層された構造を有することを特徴とする請求項1に記載の水圧転写シート。
【請求項3】
前記転写層がさらに印刷パターン層を備え、前記印刷パターン層は前記導電性パターン層に積層しないように配置された構造を有することを特徴とする請求項1に記載の水圧転写シート。
【請求項4】
前記印刷パターン層は炭素系導電成分を含むことを特徴とする請求項2又は請求項3の何れか1項に記載の水圧転写シート。
【請求項5】
前記導電性パターン層は、少なくとも一部が絶縁層を介した複数の導電性パターン要素が積層配置された構造を有することを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の水圧転写シート。
【請求項6】
前記導電性パターン層が電気回路、コンデンサ、静電容量スイッチ、アンテナ、無線周波数識別素子またはコイルの何れかであることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の水圧転写シート。
【請求項7】
水溶性フィルムの表面に少なくとも導電性パターン層を備えた転写層を有する水圧転写シートに活性剤を塗布して水圧転写槽の水面に配置し、前記水圧転写シートに被転写体を押し当て、前記被転写体の表面に前記転写層を水圧で転写して水圧転写品を得る水圧転写方法において、
前記導電性パターン層は透明な導電インクからなり、前記導電インクはポリチオフェン系化合物、ポリアニリン系化合物、グラフェンからなる群より選択される導電性成分を含んでなることを特徴とする水圧転写方法。
【請求項8】
前記活性剤が溶剤系活性剤組成物であることを特徴とする請求項7に記載の水圧転写方法。
【請求項9】
前記導電性成分がポリチオフェン系化合物であり、前記活性剤が水系活性剤組成物であることを特徴とする請求項7に記載の水圧転写方法。
【請求項10】
前記被転写体は被転写面に電気回路を備えており、前記導電性パターン層の少なくとも一部が前記電気回路と通電可能に接触するように転写されることを特徴とする請求項7~9のいずれか一項に記載の水圧転写方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、曲面を有する物品表面に柄模様などの装飾パターンに同調して電気回路パターンを転写形成するための水圧転写シートと、その水圧転写シートを用いた水圧転写方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性インクを用いた回路パターンの形成方法として、スクリーン印刷法が一般的に採用されており、近年のエレクトロニクス製品の設計おいては、デザイン性を考慮した様々な形状設計の新たなニーズとして、筐体形状や実装基板形状に依存することなく、球体形状や曲面形状といった非平面の基板上に回路パターンを形成する技術の要求が高まってきている。しかし、このニーズに対して、従来から広く採用されているスクリーン印刷法の適用は困難であることが多い。
【0003】
このような非平面状の物品の表面に印刷パターンを転写する技術として、水溶性フィルム(キャリアフィルム)の上に非水溶性の印刷パターンを有する水圧転写シートを転写槽内の水面上に浮かばせ、この水圧転写シートの水溶性フィルムを水で膨潤させた上で、物品(被転写体)をこの水圧転写シートの印刷パターンに接触させながら転写槽内の水中に押し入れ、この際に物品の表面に対して発生する水圧を利用して水圧転写シートの印刷パターンを物品の表面に転写する水圧転写方法が用いられている。
【0004】
水圧転写方法は、主に曲面を有する物品への加飾に適用されているが、印刷パターンが導電性インクを適用した回路パターンとして転写することが提案されている。例えば特許文献1には、第1種の溶媒に可溶な材料からなる第1のベースフィルムと、第2のベースフィルム上に形成された、導電性接着剤からなる導電性パターンと、を有する回路パターン形成用転写フィルムを用いて、回路パターン形成用転写フィルムを第1種の溶媒に浮かべる工程と、回路パターン形成用転写フィルム上に基材を載置する工程と、基材と共に回路パターン形成用転写フィルムを第1種の溶媒中に沈めて第1のベースフィルムを溶解ないし剥離する工程と、基材と共に、第1のベースフィルムが除去された回路パターン形成用転写フィルムを第2種の溶媒中に沈めて第2のベースフィルムを溶解ないし剥離する工程と、基材上に残された導電性パターンに熱処理を行なって導電性接着剤の硬化ないし固化を行なう工程と、を有することを特徴とする回路パターンの形成方法が提案されており、大きな曲率の曲面に対しても断線を発生させることなく回路パターンを形成できるものである。
【0005】
また、特許文献2には、液体に対する可溶性または液体に起因する膨潤性を有する基材フィルムと、基材フィルム上に設けられた下地層と、少なくとも部分的に下地層上に設けられた回路層と、を備え、回路層は、少なくとも部分的に下地層上に設けられた複数の導電パターンを有し、下地層は、電子線照射、紫外線照射、電磁波照射、荷電粒子線照射または加熱によって硬化する硬化性樹脂から構成された転写箔を用いて、水圧転写することによって、被転写物上に複数の導電パターンを形成する方法が提案されている。特許文献2の方法によって、高い位置精度で物品の表面に導電パターンを形成することができるようになった。
【0006】
さらに近年は、水圧転写方法の従来の適用目的である柄や模様などの加飾柄と、特許文献1や特許文献2の方法などを応用した電気回路パターンと、を複合した機能性装飾の開発が求められてきている。加飾層と電気回路パターンを複合する方法としては、特許文献1や特許文献2の方法で電気回路パターンを被転写物上に形成した後に公知の方法で電気回路パターン上に加飾層を積層する方法や、予め被転写物上に加飾層を形成しておき、加飾層上に電気回路パターンを転写する方法が適用できるが、電気回路パターンと加飾層の形成工程を個別に実施しなければならないため、生産性の観点から予め電気回路パターンと加飾層が積層形成された水圧転写シートを用いて水圧転写加工する方法が有利である。
【0007】
しかし、予め電気回路パターンと加飾層が積層形成された水圧転写シートを適用する場合には、加飾層の柄や模様が電気回路パターンとの積層によって、意匠が阻害されないようにする必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第5472098号公報
【特許文献2】特開2016-060089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明者は、電気回路パターンを透明にすることによって、有色の電気回路パターンの場合に生じる意匠性の制約が解消されて、電気回路パターンと複合しつつ加飾層を自由にデザインすることができるものと考えた。しかし、従来の透明導電インクで電気回路パターンを透明化はできるものの、水圧転写加工性と導通性(断線の回避)の確保するのは困難であることが判明した。
【0010】
従って、本発明は上記事情を鑑みてなされたものであり、透明な導電パターンと加飾層が複合された機能性装飾層を形成した水圧転写品を得るにあたり、その第1の目的は、水圧転写加工性と導通性に優れる導電パターン層を有する水圧転写シートを提供することにある。また、本発明の第2の目的は、水圧転写加工性と導通性に優れる導電パターンと加飾層が複合された転写層を備えた水圧転写シートを提供することにある。
【0011】
また、本発明の第3の目的は、第1または第2の目的の水圧転写シートを用いた水圧転写方法によって、導電パターン単体、または導電パターンと加飾層が複合された機能性装飾層を備えた水圧転写品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明の水圧転写シートは、水溶性フィルムの表面に少なくとも導電性パターン層を備えた転写層を有し、導電性パターン層は透明な導電インクからなり、導電インクはポリチオフェン系化合物、ポリアニリン系化合物、グラフェンからなる群より選択される導電性成分を含んで構成されている。
【0013】
導電性パターン層が、ポリチオフェン系化合物、ポリアニリン系化合物、グラフェンからなる群より選択される導電性成分を含んだ透明な導電インクからなることによって、水圧転写加工時に柔軟に伸展することができるため、水圧転写加工性と断線のない良好な導電性を有する導電パターン層を備えた水圧転写シートが得られる。
【0014】
また、本発明の水圧転写シートは、転写層がさらに印刷パターン層を備え、印刷パターン層は導電性パターン層の少なくとも一部に積層された構造を有することも好ましい。これにより、水圧転写加工性と導通性に優れる導電性パターン層と印刷パターン層とが複合された転写層を備えた水圧転写シートが得られる。
【0015】
また、本発明の水圧転写シートは、転写層がさらに印刷パターン層を備え、印刷パターン層は、導電性パターン層に積層しないように配置された構造を有することも好ましい。これにより、導電性パターン層をデザインとして印刷パターン層と複合された転写層を備えた水圧転写シートが得られる。
【0016】
また、本発明の水圧転写シートにおける印刷パターン層は、炭素系導電成分を含むことも好ましい。これにより、印刷パターン層に導電性が付与されるため、導電性パターン層と印刷パターン層とが電気的に接続されて、印刷パターン層と同調した複雑な導電パターン構造を形成した転写層を備えた水圧転写シートが得られる。
【0017】
また、本発明の水圧転写シートにおける導電性パターン層は、少なくとも一部が絶縁層を介した複数の導電性パターン要素が積層配置された構造を有することも好ましい。これにより、導電性パターン層が水圧転写シートの厚み方向にも三次元的に導電性パターンを展開させることができるので、印刷パターン層と同調した複雑な導電パターン構造を形成した転写層を備えた水圧転写シートが得られる。
【0018】
また、本発明の水圧転写方法における導電性パターン層が、電気回路、コンデンサ、静電容量スイッチ、アンテナ、無線周波数識別素子またはコイルの何れかであることも好ましい。これにより、電気回路、コンデンサ、静電容量スイッチ、アンテナまたはコイル単独または複数種組合せたデバイスを水圧転写で形成するための水圧転写シートが得られる。
【0019】
また、本発明の水圧転写方法は、水溶性フィルムの表面に少なくとも導電性パターン層を備えた転写層を有する水圧転写シートに活性剤を塗布して水圧転写槽の水面に配置し、水圧転写シートに被転写体を押し当て、被転写体の表面に導電性パターン層を水圧で転写して水圧転写品を得る水圧転写方法であり、導電性パターン層は透明な導電インクからなり、導電インクはポリチオフェン系化合物、ポリアニリン系化合物、グラフェンからなる群より選択される導電性成分を含んでいる。これ水圧転写方法によって、被転写体に導電パターンを断線することなく良好な状態で転写形成された水圧転写品を得ることができる。
【0020】
また、本発明の水圧転写方法において、活性剤が溶剤系活性剤組成物であることも好ましい。これにより、水圧転写加工性が最適化されて、被転写体に導電パターンを断線することなく良好な状態で転写形成された水圧転写品を得ることができる。
【0021】
また、本発明の水圧転写方法において、導電性成分がポリチオフェン系化合物であり、活性剤が水系活性剤組成物であることも好ましい。これによって、ポリチオフェン系化合物が水分散された導電インクの場合に、水圧転写加工性が最適化されて、被転写体に導電パターンを断線することなく良好な状態で転写形成された水圧転写品を得ることができる。
【0022】
また、本発明の水圧転写方法において、被転写体は被転写面に電気回路を備えており、導電性パターン層の少なくとも一部が電気回路と通電可能に接触するように転写されることも好ましい。これにより、転写された導電性パターン層と被転写面に備えられた電気回路とが複合されたデバイスとして機能する水圧転写品を得ることができる。
【0023】
また、本発明の上記の水圧転写方法において、水圧転写シートは、さらに印刷パターン層を備えてもよい。これにより、導電性パターン層と印刷パターン層とが複合された機能性装飾層を備えた水圧転写品が得られる。印刷パターン層は導電性パターン層の少なくとも一部に積層された構造としてもよいし、積層しないように配置された構造としてもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、水圧転写シートはポリチオフェン系化合物、ポリアニリン系化合物、グラフェンからなる群より選択される導電性成分を含んだ透明な導電インクからなる導電性パターン層を備えるため、導電性パターン層が水圧転写加工性と導通性に優れており、この水圧転写シートを用いて被転写体に水圧転写加工を施すことによって、断線することなく透明な導電性パターン層を備えた導電性機能層を表面に備えた水圧転写品を得ることができる。また、水圧転写シートをさらに印刷パターン層を備えた構造とすることによって、導電性パターン層と印刷パターン層とが複合された機能性加飾層として機能する導電性機能層を備えた水圧転写品が得られる。導電性パターン層は透明であるため、印刷パターン層と積層された構成においても、意匠性が阻害されないため、意匠性と電気的機能性が複合された様々な加飾品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の水圧転写シートの第1の実施形態を示す模式的な拡大断面図である。
【
図2】本発明の水圧転写シートの第1の実施形態において、転写層が絶縁層を有する構成例を示す模式的な拡大断面図である。
【
図3】本発明の水圧転写シートの第1の実施形態において、複数の導電性パターン層が絶縁層を介して積層された転写層とした構成例を示す模式的な拡大断面図である。
【
図4】本発明の水圧転写シートの第2の実施形態を示す模式的な拡大断面図である。
【
図5】本発明の水圧転写シートの転写層に印刷パターン層を含む第3の実施形態のうち、導電性パターン層が形成された同じ層面内に印刷パターン層が配置された構成例を示す模式的な拡大断面図である。
【
図6】本発明の水圧転写シートの転写層に印刷パターン層を含む第3の実施形態のうち、導電性パターン層に印刷パターン層が積層された構成例を示す模式的な拡大断面図である。
【
図7】本発明で実施される水圧転写方法の概略図である。
【
図8】本発明の水圧転写方法の各工程を模式的に示す説明図である。
【
図9】本発明の水圧転写方法で得られる水圧転写品の構成例を示す模式的な拡大断面図である。
【
図10】本発明の実施例8における導電性パターン層と印刷パターン層の配置構成を示す平面図である。
【
図11】本発明の実施例9における転写層の構成を説明する模式図であり、
図11(a)~(c)は導電性パターン(i)層、絶縁層、導電性パターン(ii)を示す各平面図、
図11(d)は転写層の構成を示す平面図、
図11(e)は
図11(d)のA-A´における模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の水圧転写シート及び水圧転写方法について、以下に詳細に説明する。
【0027】
1.水圧転写シート
本発明に係る水圧転写シートは、水溶性フィルムの表面に少なくとも導電性パターン層を備えた転写層を有し、導電性パターン層は透明な導電インクからなり、導電インクはポリチオフェン系化合物、ポリアニリン系化合物、グラフェンからなる群より選択される導電性成分を含んで構成されている。以下、
図1~
図3を参照しながら水圧転写シートの第1の実施形態ついて説明する。
【0028】
本発明の第1の実施形態の水圧転写シート20は、
図1に示すように、水溶性フィルム30の表面に転写層70として導電性パターン層40が形成されてなる。
【0029】
(水溶性フィルム)
水圧転写シート20を構成する水溶性フィルム30は、水溶性樹脂からなり、導電性パターン層40を保持するための基材となるものであって、水に接した状態で膨潤して伸展し、水圧転写後は水洗されて除去されるものである。水溶性樹脂としては、例えばポリビニルアルコール樹脂、デキストリン、ゼラチン、にかわ、カゼイン、セラック、アラビアゴム、澱粉、蛋白質、ポリアクリル酸アミド、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルメチルエーテル、メチルビニルエーテルと無水マレイン酸との共重合体、酢酸ビニルとイタコン酸との共重合体、ポリビニルピロリドン、アセチルセルロース、アセチルブチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、アルギン酸ナトリウムなどの各種水溶性ポリマーが挙げられる。これらの樹脂は、単独で用いられてもよいし、2種以上が混合されて用いられてもよい。特に生産安定性と水に対する溶解性及び経済性の点から、ポリビニルアルコールが好ましい。ポリビニルアルコールとしては、従来の水圧転写シート用として使用されているものを、加飾層の形成しやすさや、機械的強度や耐湿性などの取り扱い性や保存性、水圧転写時に水面に浮かべてからの吸水性や伸展性などに応じて選択して適用できる。
【0030】
(導電性パターン層)
水圧転写シート20の転写層70を構成する導電性パターン層40は、透明な導電性インクを用いてスクリーン印刷やインクジェット印刷などの公知の方法で水溶性フィルム30の表面に所望のパターンで形成される。導電性インクで形成されるパターン(導電パターン)としては、回路配線パターンやコイル、アンテナ、静電容量スイッチ、無線周波数識別素子(RFID)などが例示される。また、導電性パターン層40には、水圧転写によって転写層が被転写体に転写された後に、制御回路や電源、その他の回路と電気的に接続するためのランドを備えている。導電パターンの抵抗値などは用途に応じて適宜設定される。また導電性パターンの一部の抵抗値を調整して薄膜ヒーターとして機能させることもできる。導電性パターン層40は透明性を有しており、波長が380~780nm領域の可視光の全光線透過率(JIS K7105「プラスチックの光学的特性試験方法」準拠)は、80%以上であることが好ましく、より好ましくは85%以上、特に好ましくは90%以上である。なお本発明において透明とは、無色透明、着色透明、半透明を包含する意である。
【0031】
導電性パターン層40を形成するための透明な導電インクは、導電性成分と分散媒を主成分として成り、透明性と導電性を確保しつつ水圧転写時の良好な加工性を実現する観点から、ポリチオフェン系化合物、ポリアニリン系化合物、グラフェンからなる群より選択される導電性成分を単独または複数の組合せを含んで構成されている。
【0032】
ポリチオフェン化合物は、チオフェン又はその誘導体が重合して得られる構造を有する重合単位を含む重合体であり、チオフェン誘導体の例としては、チオフェン環の3位及び4位において置換基を有する誘導体が挙げられ、具体的な例としては、3,4-エチレンジオキシチオフェンが挙げられる。ポリチオフェン化合物におけるチオフェン又はその誘導体の重合の態様は、典型的には、チオフェン環の2位及び5位において他の環と結合した態様が挙げられ、具体例としてポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)が、そのチオフェン環の2位及び5位において、他の環と結合した態様が挙げられる。ポリチオフェン化合物は、チオフェン単位以外の重合単位を有していてもよい。ポリチオフェン化合物の例としては、ポリ(チオフェン)、ポリ(3-メチルチオフェン)、ポリ(3-エチルチオフェン)、ポリ(3-プロピルチオフェン)、ポリ(3-ブチルチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルチオフェン)、ポリ(3-オクチルチオフェン)、ポリ(3-デシルチオフェン)、ポリ(3-ドデシルチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルチオフェン)、ポリ(3-ブロモチオフェン)、ポリ(3-クロロチオフェン)、ポリ(3-ヨードチオフェン)、ポリ(3-シアノチオフェン)、ポリ(3-フェニルチオフェン)、ポリ(3,4-ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4-ジブチルチオフェン)、ポリ(3-ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3-メトキシチオフェン)、ポリ(3-エトキシチオフェン)、ポリ(3-ブトキシチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3-デシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヒドロキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジエトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジプロポキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジブトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジオクチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ブテンジオキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-メトキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-エトキシチオフェン)、ポリ(3-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルチオフェン)等が適用できる。
【0033】
ポリアニリン系化合物は、ポリアニリン及びポリアニリン誘導体であり、アニリン誘導体としては、例えば、(i)o-メチルアニリン、o-エチルアニリン、o-フェニルアニリン、o-メトキシアニリン、及びo-エトキシアニリン等のo-置換アニリン、又は、(ii)m-メチルアニリン、m-エチルアニリン、m-メトキシアニリン、m-エトキシアニリン、m-フェニルアニリン等のm-置換アニリンなどが適用できる。また、ポリアニリン系化合物にはプロトン酸等のドーパントがドーピングされたものを適用してもよい。
【0034】
グラフェンは、1原子の厚さのsp2結合炭素原子のシートであり、単層グラフェンと多層グラフェンがある。多層グラフェンの層数は、例えば2~200程度、好ましくは3~50である。グラフェンの面方向の最大寸法は、例えば、1~100μm程度であり、透明導電膜を形成するための導電性インクとして用いられている公知のグラフェンを適用することができる。
【0035】
また、導電パターン層40の水溶性フィルム20側は、水圧転写後に露出するため、
図2(a)に示したように、導電パターン層40の水溶性フィルム20側表面に絶縁層を形成してもよい。また、導電パターン層のレベリングの観点から、導電性パターン層の導電パターンの隙間がある場合には、
図2(b)及び(c)に示したように、その隙間も絶縁材料で埋めることが好ましい。絶縁層を構成する材料は、水圧転写で用いる活性剤によって伸展性を発現する樹脂成分からなり、水圧転写シートの適用される公知の樹脂成分を適用することができる。例えばアクリル樹脂、アルキドなどのポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂(例えばポリエステルウレタン系樹脂)、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ポリビニルブチラールなどのポリビニルアセタール(ブチラール系樹脂)、硝化綿などのニトロセルロース系樹脂が適用できる。
【0036】
また、導電性パターンは、
図3に示したように、絶縁層を介して積層した構成としてもよい。絶縁層にはビアホールを形成して、異なる層位置に形成された複数の導電性パターン層同士をビア(via)で電気的に接続する構成とすることもできる。この場合のビアの素材は、転写層の透明性を確保する場合には、導電性パターン層40で適用できる透明な導電性インクを適用することが好ましい。また、後述する印刷パターン層と組み合わせた転写層とする実施形態において、ビア部分が印刷パターンで隠蔽される場合や、ビア部を意匠要素として利用する場合には、水圧転写で伸展可能な炭素系有色インクなどの導電性素材で形成してもよい。導電性パターンが積層された構造の導電性パターン層の具体例としては、薄膜コンデンサや積層薄膜コイル、薄膜トランジスタなどが挙げられる。絶縁層は少なくとも水圧転写で用いる活性剤によって伸展性を発現する樹脂成分からなり、水圧転写シートで適用されている公知の樹脂成分を適用することができる。例えばアクリル樹脂、アルキドなどのポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂(例えばポリエステルウレタン系樹脂)、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ポリビニルブチラールなどのポリビニルアセタール(ブチラール系樹脂)、硝化綿などのニトロセルロース系樹脂が挙げられる。絶縁層の厚みと抵抗値は、導電性パターン層間で電気的な短絡(ショート)が起こらないように適宜設定すればよい。
【0037】
また、本発明の水圧転写シートの第2の実施形態として、
図4に示したように、水圧転写シート20は、導電性パターン層40と被転写体との密着性を高めるため、導電性パターン層40の水溶性フィルム30側とは逆側に接着付与樹脂層65を積層してもよい。接着付与樹脂層65は、
図4(a)に示したように、導電性パターン層40の隙間を絶縁層で埋めた状態で積層してもよいし、
図4(b)に示したように導電性パターン層40の隙間も埋めるように絶縁層としても機能させるように積層して形成してもよい。なお、ここで接着付与とは、導電性パターン層と被転写体の表面との界面密着性を向上させることを意味し、いわゆる接着剤のような接着性までは必ずしも要さないものである。接着付与樹脂層65は、上述の絶縁層と同様に、少なくとも水圧転写で用いる活性剤によって伸展性を発現する樹脂成分からなり、水圧転写シートの適用される公知の樹脂成分を適用することができる。例えばアクリル樹脂、アルキドなどのポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂(例えばポリエステルウレタン系樹脂)、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ポリビニルブチラールなどのポリビニルアセタール(ブチラール系樹脂)、硝化綿などのニトロセルロース系樹脂などが適用できる。
【0038】
また、本発明の水圧転写シートの第3実施形態として、転写層70が導電性パターン層40と印刷パターン層50とを備えた構成としてもよい。印刷パターン層50は、導電性パターン層40と重ならないように配置した構成(面上配置ともいう。)や、導電性パターン層40と重なるように積層した構成、それらを組合せた構成から適宜選択できる。
【0039】
(印刷パターン層)
水圧転写シート20の転写層70を構成する印刷パターン層50は、従来の水圧転写シート用のインクを用いた印刷パターンとして、水溶性基材の表面にグラビア印刷やインクジェット印刷、オフセット印刷などの公知の方法で印刷または塗布された後に乾燥して形成される。この印刷パターンは厳密な意味での模様のほかに無地(無模様)の印刷パターンも含む。水圧転写シート用のインクは、水圧転写で使用する活性剤で軟化して伸展性と接着性を発現できる樹脂組成物を主成分としてなる。具体的な樹脂組成物の例としては、アマニ油、大豆油、合成乾性油等の各種の油脂類;ロジン、硬化ロジン、ロジンエステル、重合ロジン等の天然樹脂;フェノール樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、マレイン酸樹脂、アルキッド樹脂、石油樹脂、ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、アミノアルキッド樹脂、フッ素樹脂等の合成樹脂;ニトロセルロース、セルロースアセテートブチレート樹脂、エチルセルロース等の繊維素誘導体;塩化ゴム、環化ゴム等のゴム誘導体;その他カゼイン、デキストリン、ゼイン等を挙げることができるが、短油性アルキッド樹脂、ニトロセルロース、セルロースアセトブチレートなどが好ましい。また樹脂組成物は、着色されていてもよいし、着色されない透明なものでもよい。
【0040】
印刷パターン層50が導電性パターン層40と重ならないように配置された構成の転写層70としては、
図5に例示したように、導電性パターン層40の隙間に印刷パターン層50が配置されており、印刷パターン層の柄抜け(余白)部分に導電性パターンを設けて意匠と一体化させる場合に有効的な構成である。例えば、印刷パターン層50のパターンがスパイラルパターンを含む柄の場合に、スパイラル状の印刷パターン層50に隣接した余白部分に導電性パターン層40を形成することで、柄に同調したコイルを形成することができる。また、この構成において、印刷パターン層50は絶縁層としても機能する。
【0041】
また、印刷パターン層50が導電性パターン層40と重なるように積層された構成の転写層70としては、
図6に例示したように、導電性パターン層40の少なくとも一方の側に印刷パターン50が積層された構造とすることもできる。導電パターン層40は透明性を有しているので、
図6(a)のように印刷パターン層50は導電性パターン層40の水溶性フィルム30側と反対側に配置してもよいし、
図6(b)のように水溶性フィルム30側に配置してもよい。
図6(a)の構成の場合には、印刷パターン層40を上述の水圧転写シートの第2の実施形態における接着付与層としても機能させることもできる。また、
図6(a)の構成においても、印刷パターン層50は絶縁層としても機能し得る。
【0042】
また、印刷パターン層50は、絶縁層として機能させるだけでなく、印刷パターン層50の少なくとも一部を導電性として、意匠要素として機能させつつ、導電性パターン層40と電気的に接続した構成としてもよい。印刷パターン層50に導電性が付与された部分は、有色導電性インクを用いて印刷して形成される。有色導電性インクとしては、カーボンブラック、カーボンナノコイル、カーボンナノファイバーなどのカーボン系やチタンブラックなどの黒色顔料や、酸化亜鉛などの白色顔料、銀や銅などの金属粉体や繊維などの導電性顔料が樹脂に分散されたものを適用できる。
【0043】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、転写層70は、その他の各種機能層を備えた構成であってもよい。例えば、導電パターン層40の水溶性フィルム30側と反対側に金属蒸着層を積層する構成や、印刷パターン層40を中間層として導電パターン層40と金属層が積層された構成とすることによって、金属調または金属調要素と複合した意匠を得ることができる。また、導電パターン層40の水溶性フィルム30側に反射防止や防眩などの光学機能層を配置してもよい。
【0044】
次に、本発明の水圧転写シートを用いた水圧転写方法について説明する。
【0045】
2.水圧転写方法
図7は、本発明の水圧転写方法を概略的に示しており、この水圧転写方法は、ポリチオフェン系化合物、ポリアニリン系化合物、グラフェン系化合物からなる群より選択される導電性成分を含んだ透明な導電インクからなる導電性パターン層40を備えた転写層70が、水溶性フィルム30の表面上に少なくとも形成された本発明の水圧転写シート20を用いて実施され、水圧転写シート20の転写層70に活性剤90が塗布され(図示は省略)、その転写層70が上面となるようにして水圧転写シート20を転写槽内の水80上に供給して浮かばせ、水圧転写すべき被転写体10をこの水圧転写シート20を介して水80の中に押し込んで水圧転写し、被転写体10の表面に導電性パターン層40Tを転写形成する方法である。水圧転写シート20を構成する転写層70は、導電性パターン層40だけで構成された形態でもよいし、導電性パターン層40と印刷パターン層50とが組合された形態でもよい。導電性パターン層40と印刷パターン層50の詳しい説明は、水圧転写シートでの説明と重複するので省略する。
【0046】
本発明の水圧転写方法に用いられる活性剤90は、導電性パターン層40や印刷パターン層50を備えた転写層70全体に浸透して水圧転写プロセスにおいて伸展可能な状態にする役割と、被転写体10の表面と転写層70とを密着させる接着成分として機能するものであり、溶剤系、光硬化系、熱光併用硬化系などの従来の水圧転写法で使用されている公知の活性剤組成物を用いることができる。例えば、溶剤系活性剤としては、樹脂分と溶剤分と可塑剤分とを必須成分として含む組成物であり、この組成物には、さらに微粒子シリカを含んでいてもよい。樹脂分は、ニトロセルロースと短油性アルキッド樹脂とを樹脂分として含むことが好ましく、溶剤分はトルエン、ブチルセロソルブ、ブチルカルビトールアセテートなどを、可塑剤成分はフタル酸ジブチルなどを適用できる。
【0047】
光硬化系の活性剤は、光重合性モノマーと光重合開始剤とを少なくとも含む液状の組成物であり、この光硬化系活性剤は、水溶性フィルム30上に形成された導電性パターン層40や印刷パターン層50を備えた転写層70に塗布されて浸透して水圧転写された後に活性エネルギー線の照射によって転写層70と混然一体化した状態で硬化することによって、耐溶剤性、耐摩耗性等の化学的及び機械的な表面保護機能が付与されたトップコート不要な導電性パターン層を形成するように作用する。光硬化性活性剤は、紫外線や電子線などで硬化する活性エネルギー線硬化樹脂組成物からなり、例えば少なくとも活性エネルギー線で重合反応するモノマー(光重合性モノマーともいう)と光重合開始剤を含んでなり、必要に応じて装飾層の強度や耐薬品性などを向上させるために光重合性オリゴマー(プレポリマー)が配合されていてもよい。また、これらの活性エネルギー線硬化型と熱硬化型を組み合わせた所謂デュアルキュア方式で硬化する組成物も本発明の光硬化性活性剤として適用できる。また、光硬化系活性剤に含まれる光重合性モノマーには、SP値で9以上のインク溶解度を有する光重合性モノマーを用いることが好ましい。これによって、光硬化系活性剤に、光重合性モノマーに比べて高粘度である光重合性プレポリマーが配合された場合であっても光重合性プレポリマーをよく溶解して扱いやすい粘度に調整できると共に、光硬化系活性剤の光重合性成分を導電性パターン層40や印刷パターン50のインク組成物の溶解度に近づけることができるため、これらのインク組成物に平滑に塗布することができる性質(平滑塗布性)とインク組成物に活性剤成分を良好に浸透することができる性質(浸透性)とを確保することができる。また、光硬化系活性剤には、必要に応じてレベリング剤、消泡剤、紫外線吸収剤、安定剤等が添加されていてもよい。
【0048】
次に、本発明の実施形態に係る水圧転写方法を構成する各工程について、
図8を参照しながら詳細に説明する。
【0049】
(1)活性剤塗布工程
活性剤塗布工程では、まず、
図8(a)に示すように、水溶性フィルム(キャリアフィルム)30上に導電性パターン層40を含む転写層70を備えた水圧転写シート20を準備する。次に、
図8(b)に示すように、この水圧転写シート20の転写層70に活性剤90を塗布して、導電性パターン層40を含む転写層70を活性化状態とする。活性剤90を塗布する方法としては、従来のミヤバーやキスタッチリバースコーター法、スプレー法などの公知の方法を適用できる。
【0050】
(3)水圧転写シート着水工程
水圧転写シート着水工程は、活性剤90で転写層70が活性化された水圧転写シート20を、水溶性フィルム30の転写層70が形成されていない側の表面が水80の水面に着水するように供給して、
図8(c)に示すように、水圧転写シート20を水80に接触させて水80に浮遊支持させる工程である。水圧転写シート20を水80まで移送及び供給する手段は特に限定されず、手で持って移送する方法も含め、従来の水圧転写で用いられる手段を適用できる。
【0051】
(4)転写工程
転写工程は、
図8(d)に示すように、水圧転写シート着水工程で水80に浮遊支持された水圧転写シート20の全体を水面上で伸展させ、活性化された転写層70に被転写体10の表面を押し当てるように水圧転写シート20と共に水中に押し入れ、それによって活性化された転写層70が被転写体10の表面に転写される工程である。この工程で、活性化された転写層70が被転写体10の表面に転写されて、
図8(e)に示すように、導電性パターン層40Tを備えた水圧転写層70T(後述する水圧転写品の導電性機能層に相当)となる。
【0052】
(5)水洗工程及び乾燥工程
さらに、本発明に係る水圧転写方法には水洗工程及び乾燥工程を備えることができる。具体的には、
図8(f)に示す水洗工程で水圧転写層70Tの表面に付着している水溶性フィルム30を水洗装置Wによって水流rwで洗い流し、その後、
図8(g)に示す乾燥工程で、水分を除去するためにヒーターHにて熱線(熱風)hを与えて乾燥させる。これにより、不要となった水溶性フィルム30が除去され、被転写体10の表面に導電性パターン層40Tを備えた導電性機能層(図示は省略。)が形成された水圧転写品100が得られる。また、
図8(a)における転写層70を水圧転写シートの説明で例示した様々な構成とすることによって、それらの転写層70に応じた様々な導電性機能層を備えた水圧転写品100を得ることができる。
【0053】
(6)硬化工程
なお、活性剤90が光硬化系活性剤を適用した場合には、転写工程後に被転写体10の表面に形成された水圧転写層70Tに対して、
図8(h)に示すように、水溶性フィルム30側から活性エネルギー線照射装置ULによって紫外線などの活性エネルギー線UVを照射し、光硬化性活性剤中の光重合成分を反応させることによって、当該光重合成分と転写された水圧転写層70Tとを混然一体化して硬化させて、導電性パターン層40Tを備えた導電性機能層を得る硬化工程を実施する。
【0054】
なお、活性剤塗布工程は、水圧転写シート20を水溶性フィルム30の転写層60が形成されていない側の表面が水80の水面に着水するように供給して、水圧転写シート20を水80に接触させて水80に浮遊支持させた状態で実施してもよい。この場合には、活性剤70はスプレー法で塗布される。
【0055】
次に、本発明に係る水圧転写方法で得られる水圧転写品について説明する。
図9に示したように、水圧転写品100は、被転写体10の表面に本発明の水圧転写法で形成された導電性パターン層40Tを備えた導電性機能層7Tが形成されており、印刷パターン層を有する場合には、導電性パターン層40Tと印刷パターン層50Tとが複合された装飾性を有する導電性機能層7Tとして機能する。導電性機能層7Tは、本発明の水圧転写シート20の転写層70を構成する導電性パターン層40、印刷パターン層50などの配置組合せによって様々な構成で形成される。例えば、
図9(a)は、本発明の水圧転写シートの第1の実施形態のうち、転写層70が導電性パターン層40のみからなる水圧転写シート20を用いて水圧転写した場合の導電性機能層7Tの例である。また、
図9(b)は、本発明の水圧転写シートの第1の実施形態のうち、転写層70が絶縁層を介して複数の導電性パターン層40が積層された構成からなる水圧転写シート20を用いて水圧転写した場合の導電性機能層7Tの例である。また、
図9(c)は、本発明の水圧転写シートの第2の実施形態である転写層70が導電性パターン層40と接着付与層とが積層された構成からなる水圧転写シート20を用いて水圧転写した場合の導電性機能層7Tの例である。また、
図9(d)は、本発明の水圧転写シートの第3の実施形態のうち転写層70が導電性パターン層40と印刷パターン層50が同じ層に配置された構成からなる水圧転写シート20を用いて水圧転写した場合の導電性機能層7Tの例である。また、
図9(e)は、本発明の水圧転写シートの第3の実施形態のうち転写層70が導電性パターン層40と印刷パターン層50が異なる層に配置された構成からなる水圧転写シート20を用いて水圧転写した場合の導電性機能層7Tの例である。また、転写層70を構成する導電性パターン40を回路配線パターンやコイル、アンテナ、静電容量スイッチ、無線周波数識別素子(RFID)などの素子として形成することによって、導電性機能層7Tに多様な機能な付与される。
【実施例0056】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
【0057】
以下の実施例及び比較例における水圧転写フィルム及びそれを用いた水圧転写方法で得られた水圧転写品に係る物性の測定方法及び効果の評価方法は、下記の通りである。
【0058】
(1)水圧転写適性(付き回り性)
円筒状のテストピースの表面にその軸線方向に沿って、水圧転写シートの印刷パターン層を水圧転写し、このテストピースの表面のインクの付き回りを確認した。この試験では被転写体が円筒状であるため、転写の際に、絵柄は相当な変形応力を受けて変形し、この変形応力の程度及びその規模はインクの特性に応じて変化するので、絵柄の変化(インクの付き回り)からインクの特性を判断することができる。テストピースは、直径(外径)30mm×長さ200mmの厚紙(「トチマン ファーストケント紙F160」トチマンは登録商標)製の円筒体とし、円筒体の中心軸と転写水面とが略直交するように、活性剤が塗布されて接着性が回復した転写層を有し水面上に浮上している水圧転写シートとともに、一方の円筒端部から1.5m/minの速さで水中に沈めて円筒周面に転写層を転写したときの転写状態を目視確認して評価を行った。円筒体表面への転写状態が、シワがなく、連続的に転写できているものを優良「〇」、シワはあるが、途切れることなく連続的に転写出来ているものを良「△」、シワもあり、転写も途切れてしまっているものを不良「×」と評価した。
【0059】
(2)水圧転写品の導電性パターン層の導電性
実施例および比較例における水圧転写品に転写形成された導電性パターン層の抵抗値を表面抵抗計(三菱アナリテック製MCP-T400)にて計測した。 107Ω未満のものを合格「○」、107Ω以上のものを不合格「×」と評価した。
【0060】
本実施例と比較例で用いた導電性パターン層を形成するための導電性インクは、表1に示した通りである。なお、表1中の「セプルジータ」は、信越ポリマー社の登録商標である。
【0061】
【0062】
以下の手順で本実施例と比較例の水圧転写品を作製し、その効果を評価した。
【0063】
[実施例1]
ポリビニルアルコールからなる水溶性フィルム(日本合成化学社製 型番C820)上の全面に、導電性インクとして表1に記載のポリ(3,4エチレンジオキシチオフェン)が分散された溶剤系導電性インク(A1)を用いて、スクリーン印刷で厚さ5μmの導電性パターン層を印刷、乾燥して形成した転写層を備えた水圧転写シートを得た。この水圧転写フィルムの転写層全面に対して、溶剤系活性剤(株式会社タイカ製 CPA-H)をウェット重量において15g/m2となるように塗布して転写層を活性化処理した。その後、水圧転写シートを水溶性フィルム側から水に浮かべて所定の状態まで水圧転写フィルムを伸展させ、そこにPC/ABSアロイ材の被転写体(日本A&L株式会社 テクニエース(登録商標)PAX1439 幅100mm×長さ200mm×厚さ3mm)を押し当てて水圧転写し、被転写体に伸展した転写層を転写し、次いで水洗と乾燥工程を経て実施例1の水圧転写品を得た。実施例1の水圧転写品について、上記(2)の導電性を評価した。また、PC/ABSアロイ材の被転写体に代えて、上記(1)の円筒状のテストピースに水圧転写して水圧転写適性を評価した。
【0064】
[実施例2]
実施例1において、導電性インクとして導電性インク(A1)に代えてポリ(3,4エチレンジオキシチオフェン)が分散された水系導電性インク(A2)とし、溶剤系活性剤に代えて水系活性剤とした以外は、実施例1と同様にして、実施例2の水圧転写品を得た。実施例2の水圧転写品について、上記(2)の導電性を評価した。また、PC/ABSアロイ材の被転写体に代えて、上記(1)の円筒状のテストピースに水圧転写して水圧転写適性を評価した。
【0065】
[実施例3]
実施例1において、導電性インクとして導電性インク(A1)に代えてポリアニリンが分散された溶剤系導電性インク(A3)とした以外は、実施例1と同様にして、実施例3の水圧転写品を得た。実施例3の水圧転写品について、上記(2)の導電性を評価した。また、PC/ABSアロイ材の被転写体に代えて、上記(1)の円筒状のテストピースに水圧転写して水圧転写適性を評価した。
【0066】
[実施例4]
実施例1において、導電性インクとして導電性インク(A1)に代えてグラフェンが分散された溶剤系導電性インク(A4)とした以外は、実施例1と同様にして、実施例4の水圧転写品を得た。実施例4の水圧転写品について、上記(2)の導電性を評価した。また、PC/ABSアロイ材の被転写体に代えて、上記(1)の円筒状のテストピースに水圧転写して水圧転写適性を評価した。
【0067】
[実施例5]
実施例1において、導電性パターンの水溶性フィルム側とは反対側の表面全面に青色のニトロセルロース系の透明インク(東洋インキ社製 PCNT)をスクリーン印刷して印刷パターン層を形成した以外は、実施例1と同様にして、実施例5の水圧転写品を得た。実施例5の水圧転写品について、上記(2)の導電性を評価した。また、PC/ABSアロイ材の被転写体に代えて、上記(1)の円筒状のテストピースに水圧転写して水圧転写適性を評価した。
【0068】
[実施例6]
実施例5において、導電性インクとして導電性インク(A1)に代えてポリアニリンが分散された溶剤系導電性インク(A3)とした以外は、実施例1と同様にして、実施例6の水圧転写品を得た。実施例6の水圧転写品について、上記(2)の導電性を評価した。また、PC/ABSアロイ材の被転写体に代えて、上記(1)の円筒状のテストピースに水圧転写して水圧転写適性を評価した。
【0069】
[実施例7]
実施例5において、導電性インクとして導電性インク(A1)に代えてグラフェンが分散された溶剤系導電性インク(A4)とした以外は、実施例5と同様にして、実施例7の水圧転写品を得た。実施例7の水圧転写品について、上記(2)の導電性を評価した。また、PC/ABSアロイ材の被転写体に代えて、上記(1)の円筒状のテストピースに水圧転写して水圧転写適性を評価した。
【0070】
[実施例8]
実施例1において、水圧転写シートの転写層(70)として、水溶性フィルム上に導電性パターン層40と印刷パターン層50とが積層されない状態(面上配置)で
図10に示す平面視パターン(水溶性フィルムの描写は省略している。)で配置されて形成されたものを用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例8の水圧転写品を得た。ここで、導電性パターン層40の導電パターンの線幅は2mm、導電パターンの間隔は2mmとし、導電パターン層40をスクリーン印刷で形成し乾燥させたのち、青色のニトロセルロース系の透明インク(東洋インキ社製 PCNT)を用いてスクリーン印刷して約5μm厚で印刷パターン層50を形成した。実施例8の水圧転写品について、上記(2)の導電性を評価した。また、PC/ABSアロイ材の被転写体に代えて、上記(1)の円筒状のテストピースに水圧転写して水圧転写適性を評価した。
【0071】
[実施例9]
実施例8において、導電性インクとして導電性インク(A1)に代えてポリ(3,4エチレンジオキシチオフェン)が分散された水系導電性インク(A2)とし、溶剤系活性剤に代えて水系活性剤とした以外は、実施例8と同様にして、実施例9の水圧転写品を得た。実施例9の水圧転写品について、上記(2)の導電性を評価した。また、PC/ABSアロイ材の被転写体に代えて、上記(1)の円筒状のテストピースに水圧転写して水圧転写適性を評価した。
【0072】
[実施例10]
実施例8において、導電性インクとして導電性インク(A1)に代えてポリアニリンが分散された溶剤系導電性インク(A3)とした以外は、実施例8と同様にして、実施例10の水圧転写品を得た。実施例10の水圧転写品について、上記(2)の導電性を評価した。また、PC/ABSアロイ材の被転写体に代えて、上記(1)の円筒状のテストピースに水圧転写して水圧転写適性を評価した。
【0073】
[実施例11]
実施例1において、水溶性フィルム側から順に導電性パターン(i)/絶縁層/導電性パターン(ii)/印刷パターン層の構成の転写層とした以外は、実施例1と同様にして、実施例11の水圧転写品を得た。転写層を構成する導電性パターン(i)層及び導電性パターン(ii)層は、
図11(a)、(c)に示すコイルパターン40A、40Bと、その他の領域を絶縁層で埋めて平面化された層であり、
図11(b)に示した絶縁層に形成したビア40vで電気的に接続されて、
図11(d)の平面図(印刷パターン層の描写は省略している。)及び、
図11(e)の断面図に示した構造からなる積層コイルと、その表面全体に印刷された印刷パターン層から形成されたものである。コイルパターン40A、40Bの導電パターンの線幅は2mm、導電パターンの間隔は2mmとした。ここで、絶縁層60はニトロセルロース系の透明インク(東洋インキ株式会社製 PCNT SメジウムC)を用い、印刷パターン層は、青色のニトロセルロース系の透明インク(東洋インキ社製 PCNT)を用いてスクリーン印刷してそれぞれ約5μm厚で形成した。スクリーン印刷で形成された層が乾燥した後に次の層を印刷する手順で、導電性パターン(i)層、絶縁層、導電性パターン(ii)層、印刷パターン層の順に形成した。得られた実施例11の水圧転写品について、上記(2)の導電性を評価した。また、PC/ABSアロイ材の被転写体に代えて、上記(1)の円筒状のテストピースに水圧転写して水圧転写適性を評価した。
【0074】
[実施例12]
実施例11において、導電性インクとして導電性インク(A1)に代えてポリ(3,4エチレンジオキシチオフェン)が分散された水系導電性インク(A2)とし、溶剤系活性剤に代えて水系活性剤とした以外は、実施例11と同様にして、実施例12の水圧転写品を得た。実施例12の水圧転写品について、上記(2)の導電性を評価した。また、PC/ABSアロイ材の被転写体に代えて、上記(1)の円筒状のテストピースに水圧転写して水圧転写適性を評価した。
【0075】
[実施例13]
実施例11において、導電性インクとして導電性インク(A1)に代えてポリアニリンが分散された溶剤系導電性インク(A3)とした以外は、実施例11と同様にして、実施例13の水圧転写品を得た。実施例13の水圧転写品について、上記(2)の導電性を評価した。また、PC/ABSアロイ材の被転写体に代えて、上記(1)の円筒状のテストピースに水圧転写して水圧転写適性を評価した。
【0076】
[比較例1]
実施例1において、水溶性フィルム上の全面に、導電パターン層として50nm厚のインジウム錫酸化物(ITO)のスパッタ膜からなる転写層とした以外は、実施例1と同様にして比較例1の水圧転写品を得た。比較例1の水圧転写品について、上記(2)の導電性を評価した。また、PC/ABSアロイ材の被転写体に代えて、上記(1)の円筒状のテストピースに水圧転写して水圧転写適性を評価した。
【0077】
[比較例2]
実施例1において、導電性インクとして導電性インク(A1)に代えてカーボンが分散された溶剤系導電性インク(A4)とした以外は、実施例1と同様にして、比較例2の水圧転写品を得た。比較例2の水圧転写品について、上記(2)の導電性を評価した。また、PC/ABSアロイ材の被転写体に代えて、上記(1)の円筒状のテストピースに水圧転写して水圧転写適性を評価した。
【0078】
実施例1~4及び比較例1~2の結果を表2に、実施例5~10の結果を表3に、実施例11~13の結果を表4にそれぞれ示した。
【0079】
【0080】
【0081】
【0082】
表2に示した実施例1~4の結果と比較例1、2との比較から、転写層の導電性パターン層を形成する導電性インクの導電性成分が、チオフェン系化合物、ポリアニリン系化合物、グラフェンである水圧転写シートは、水圧転写における転写性(付き回り性)に優れるとともに、それを用いて水圧転写して得られた水圧転写品の導電性パターン層は良好な導電性を有することがわかった。一方、比較例1のように、導電性パターン層が無機材料のITOスパッタ膜である水圧転写シートは、水圧転写時の伸展性が著しく劣り、ITO膜が割れた状態で水圧転写されるため、水圧転写品に形成された導電性パターン層の導電性は失われることがわかった。また、比較例2のように、有機系の導電性成分としてカーボンを適用した導電性インクで形成した導電性パターン層を備えた水圧転写シートは、転写性には優れるものの転写後の導電性パターン層の導電性は低下することから、有機系の透明導電性成分であっても水圧転写の転写性と転写後の導電性を両立するには特定の成分に限定されることが分かり、導電性インクとしてチオフェン系化合物、ポリアニリン系化合物、グラフェンが有効であることが裏付けられた。
【0083】
また、表3の実施例5~10の結果から、水圧転写シートの転写層として、導電性パターン層と印刷パターン層とを積層した構成である実施例5~7の水圧転写シートや、導電性パターン層と印刷パターン層とを積層せずに同じ平面上に配置した構成である実施例8~10の水圧転写シートにおいても、導電性インクとしてチオフェン系化合物、ポリアニリン系化合物、グラフェンを適用することによって、水圧転写における転写性(付き回り性)に優れるとともに、それを用いて水圧転写して得られた水圧転写品の導電性パターン層は良好な導電性を有することがわかった。
【0084】
また、表4の実施例11~13の結果から、水圧転写シートの転写層として、絶縁層を介して複数の導電パターン層を積層するとともに印刷パターン層を積層した水圧転写シートにおいても、導電性インクとしてチオフェン系化合物、ポリアニリン系化合物、グラフェンを適用することによって、水圧転写における転写性(付き回り性)に優れるとともに、それを用いて水圧転写して得られた水圧転写品の導電性パターン層は良好な導電性を有することがわかった。
【0085】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものでなく、特許請求の範囲に記載された発明の要旨を逸脱しない範囲内での種々、設計変更した形態を技術的範囲に含むものである。
本発明の水圧転写シート及びそれを用いた水圧転写方法によって、被転写体の曲面に透明な導電性パターンを良好に形成でき、加飾層と組合せた際にも加飾層の意匠性を阻害しないため、加飾柄と同調、融合した機能性装飾ができるので、電気デバイスを内蔵した新規の加飾部品として車の内装や家電などの部品として有用である。