(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149294
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】内燃機関の冷却システム
(51)【国際特許分類】
F01P 11/18 20060101AFI20231005BHJP
F01P 7/16 20060101ALI20231005BHJP
F01P 7/14 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
F01P11/18 A
F01P7/16 A
F01P7/14 E
F01P7/16 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022057788
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002424
【氏名又は名称】ケー・ティー・アンド・エス弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】馬場 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】藤原 健
(57)【要約】 (修正有)
【課題】目標開度と実開度の差に応じて流量制御弁を制御する際に、最適な圧抜制御を実行できる冷却システムを提供する。
【解決手段】内燃機関の冷却システムは、冷却水が流れる複数の通路と、冷却水の流量を制御する流量制御弁と、冷却水の温度を取得するとともに目標開度を決定し、目標開度と実開度との差が大きいほど流量制御弁を移動させる速度が速くなるように速度を決定し、速度によって流量制御弁を制御する制御装置とを備える。制御装置は、冷却水の圧力が所定値未満では温度に基づいて決定された第1目標開度によって流量制御弁を制御し、冷却水の圧力が所定以上の場合、複数の通路の開度が最大となる第2目標開度と第2目標開度よりも大きい開度の第3目標開度を決定し、第3目標開度を用いて流量制御弁を制御する圧抜制御を実行し、圧抜制御を終了する場合に、第1目標開度よりも実開度との差が小さい第4目標開度を用いて流量制御弁を制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の冷却システムであって、
冷却水が流れる複数の通路と、
複数の前記通路のそれぞれに流れる冷却水の流量を制御する流量制御弁と、
前記冷却水の温度を取得するとともに目標開度を決定し、前記目標開度と前記流量制御弁の実際の開度である実開度との差が大きいほど前記流量制御弁を移動させる速度が速くなるように前記速度を決定し、前記速度によって前記流量制御弁を制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、複数の前記通路のそれぞれに流れる冷却水の圧力が所定値未満では、前記温度に基づいて決定された第1目標開度によって、前記流量制御弁を制御し、
前記冷却水の圧力が所定値以上の場合、複数の前記通路の開度が最大となる前記第2目標開度を決定するとともに、前記第2目標開度よりも大きい開度の第3目標開度を決定し、前記第3目標開度を用いて前記流量制御弁を制御する圧抜制御を実行し、
前記圧抜制御を終了する場合に、前記第1目標開度よりも実開度との差が小さい開度の第4目標開度を用いて前記流量制御弁を制御する、
内燃機関の冷却システム。
【請求項2】
前記制御装置は、前記圧抜制御が終了したのち、第1所定時間経過するまで前記第4目標開度を用いて前記流量制御弁を制御し、前記第1所定時間経過後は、前記第1目標開度を用いて前記流量制御弁を制御する、
請求項1に記載の内燃機関の冷却システム。
【請求項3】
前記制御装置は、前記圧抜制御を実行する場合に、前記実開度が前記第2目標開度に到達した場合に、前記第3目標開度を用いた制御から前記第2目標開度を用いた制御に切り替える、
請求項1または2に記載の内燃機関の冷却システム。
【請求項4】
前記流量制御弁をバイパスするバイパス通路と、
前記バイパス通路に設けられる所定圧力以上で開弁するベント弁と、
をさらに備える、
請求項1から3のいずれか1項に記載の内燃機関の冷却システム。
【請求項5】
前記ベント弁はサーモスタットである、
請求項4に記載の内燃機関の冷却システム。
【請求項6】
前記制御装置は、前記冷却水の圧力が所定未満である状態が第2所定時間継続した場合に、前記圧抜制御を終了する、
請求項1から5のいずれか1項に記載の内燃機関の冷却システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、内燃機関の冷却システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、内燃機関のシリンダヘッドおよび排気循環装置などの冷却が必要な部品に冷却水を供給する通路を備えた内燃機関の冷却システムが知られている(例えば、特許文献1参照)。このような内燃機関の冷却システムは、ラジエタに冷却水を供給する通路を有し、ラジエタによって冷却水が冷却される。特許文献1は、各通路の流量を制御する流量制御弁を有し、各通路に最適な流量の冷却水が流れるように、流量制御弁を制御する内燃機関の冷却システムを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1は、冷却水回路内の圧力が増大する可能性のある場合に、流量制御弁の開度を増大させることで圧抜きする内燃機関の冷却システムを開示する。また、特許文献1は、圧抜き開始時の流量制御弁の開度の変化速度に比べ、圧抜き終了時の流量制御弁の開度の変化速度を遅くする内燃機関の冷却システムを開示する。しかし、特許文献1は、目標開度と実際の流量制御弁の開度である実開度との差に応じて流量制御弁を制御する内燃機関の冷却システムにおける、圧抜制御を開示していない。
【0005】
本開示の課題は、目標開度と実際の流量制御弁の開度である実開度との差に応じて流量制御弁を制御する際に、最適な圧抜制御を実行できる内燃機関の冷却システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る内燃機関の冷却システムは、冷却水が流れる複数の通路と、複数の前記通路のそれぞれに流れる冷却水の流量を制御する流量制御弁と、前記冷却水の温度を取得するとともに目標開度を決定し、前記目標開度と前記流量制御弁の実際の開度である実開度との差が大きいほど前記流量制御弁を移動させる速度が速くなるように前記速度を決定し、前記速度によって前記流量制御弁を制御する制御装置と、を備える。前記制御装置は、複数の前記通路のそれぞれに流れる冷却水の圧力が所定値未満では、前記温度に基づいて決定された第1目標開度によって、前記流量制御弁を制御し、前記冷却水の圧力が所定以上の場合、複数の前記通路の開度が最大となる前記第2目標開度を決定するとともに、前記第2目標開度よりも大きい開度の第3目標開度を決定し、前記第3目標開度を用いて前記流量制御弁を制御する圧抜制御を実行し、前記圧抜制御を終了する場合に、前記第1目標開度よりも実開度との差が小さい開度の第4目標開度を用いて前記流量制御弁を制御する。
【0007】
この内燃機関の冷却システムによれば、第2目標開度よりも大きい第3目標開度により流量制御弁を移動させることによって、より早く冷却水の流れる通路を最大まで開く角度に到達させることができる。また、圧抜き終了後は第4目標開度によって、流量制御弁をゆっくり閉めることでウォーターハンマーを防止する。このように、この内燃機関の冷却システムによれば、目標開度と実際の流量制御弁の開度である実開度の差に応じて流量制御弁を制御する際に、簡単な制御によって最適な圧抜制御を実行できる。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、目標開度と実際の流量制御弁の開度である実開度との差に応じて流量制御弁を制御する際に、最適な圧抜制御を実行できる内燃機関の冷却システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の実施形態による内燃機関の制御システムのシステム図。
【
図2】本開示の実施形態によるロータリバルブの回転角度に対する角通路の開口面積(開度)との関係の一例を示すグラフ。
【
図3】本開示の実施形態による制御装置の実行する制御手順を示すフローチャート。
【
図4】本開示の実施形態による圧抜制御時の実回転角度と目標回転角度の関係を示すタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下明細書において、冷却水が流れる方向を基準として、上流を上流と、下流を下流と、明細書に記す。
【0011】
図1に示すように、内燃機関2の冷却システム1は、内燃機関2の種々の装置を冷却する装置である。内燃機関2の冷却システム1は、流量制御弁(V)4と、バルブフィッチング(V/F)6と、ウォータポンプ(W/P)8と、シリンダブロック(C/B)10と、シリンダヘッド(C/H)12と、アウトレットフィッチング(O/F)14と、排気循環ガスクーラ(EGR/C)16と、ヒータコア(H/C)18と、過給機(T/C)20と、スロットル(Th/B)22と、モータジェネレータ(M/G)24と、トランスミッションクーラ(TM/C)26と、エンジンオイルクーラ(ENG/C)28と、ラジエタ(RA)30と、ホットボトル(HB)32と、制御装置40と、を備える。本実施形態では、内燃機関2は、車両に搭載され、ピストン(図示せず)がクランクシャフトを回転させるレシプロ型の内燃機関2である。
【0012】
また、内燃機関2の冷却システム1は、冷却水を種々の装置に供給する複数の通路を備える。本実施形態では、主機冷却通路50と、ラジエタ通路52と、排気循環ガスクーラ通路54と、スロットル温水通路56と、エンジンオイルクーラ通路58と、過給機冷却通路60を備える。
【0013】
流量制御弁4は、通路に流れる冷却水の量を調整する装置である。本実施形態では、ラジエタ通路52、排気循環ガスクーラ通路54、およびエンジンオイルクーラ通路58(以下明細書において各通路という場合もある)に流れる冷却水の量を調整する装置である。本実施形態では、流量制御弁4は、各通路から流量制御弁4に冷却水が入る入口の開度を可変することによって、各通路に流れる冷却水の流量を制御する。本実施形態では、流量制御弁4は、ロータリバルブ4aを有するロータリ式バルブである。流量制御弁4は、ロータリバルブ4aを回転させることによって各通路の入口の開口面積の大きさを変化させる。これによって、流量制御弁4は、各通路に流れる冷却水の流量を制御できる。流量制御弁4は、制御装置40と電気的に接続され、制御装置40によってバルブの回転角度が制御される。また、流量制御弁4は、ロータリバルブ4aの回転角度ωを検知する回転角センサ(図示せず)を有し、ロータリバルブ4aの回転角度ωを制御装置40に送信する。
【0014】
流量制御弁4は、冷却水が入る入口として、ロータリバルブ4aに直接接続される第1入口4bと、サーモスタット(T)5を介してロータリバルブ4aをバイパスし、バルブフィッチング6に接続される第2入口4cと、サーモスタット5の第2入口4cを開閉するサーモバルブ(図示なし)及びロータリバルブ4aをバイパスし、バルブフィッチング6に接続される第3入口4dと、を有する。サーモスタット5は、冷却水が所定の温度となるとパラフィンワックスが溶け第2入口4cを開弁する。所定の温度は、冷却水が沸騰し内燃機関2がオーバーヒートする可能性がある温度である。第3入口4dに供給される冷却水は、このパラフィンワックスを通過し、パラフィンワックスを溶かす。サーモスタット5は、第2入口4cを閉じる方向にサーモバルブを付勢するバネを有する。なお、サーモスタット5は、既存のサーモスタット5であればよく、より詳細な説明は省略する。
【0015】
バルブフィッチング6は、流量制御弁4の冷却水出口に取り付けられる筒状部材である。バルブフィッチング6の下流には、冷却水を各通路に供給するウォータポンプ8が接続される。本実施形態では、ウォータポンプ8は、内燃機関2のクランクシャフトから駆動力を得てインペラが回転する機械式のポンプである。
【0016】
ウォータポンプ8の下流には、主機冷却通路50が接続される。主機冷却通路50は、シリンダブロック10のシリンダ(図示せず)の周囲に形成される第1ウォータジャケット(図示なし)、およびシリンダヘッドの排気ポート近傍に形成される第2ウォータジャケット(図示なし)を含む。主機冷却通路50は、第1ウォータジャケットおよび第2ウォータジャケットを冷却水が通過することによって、シリンダブロック10と、シリンダヘッド12を冷却する。
【0017】
アウトレットフィッチング14は、シリンダブロック10およびシリンダヘッド12を通過した冷却水を、各通路に分配する筒状部材である。本実施形態では、アウトレットフィッチング14は、シリンダヘッド12の第2ウォータジャケットの下流に取り付けられる。本実施形態では、アウトレットフィッチング14には、水温センサ15が設けられる。水温センサ15は、アウトレットフィッチング14を通過する冷却水の温度(水温WT)を検知する。言い換えると、水温センサ15は、冷却水が各通路に供給される前の冷却水温度を検知する。水温センサ15は、制御装置40と電気的に接続され、検知した水温WTを制御装置40に送信する。
【0018】
本実施形態の内燃機関2は、図示しない排気循環バルブを含む排気循環装置17を備え、内燃機関2の排気を吸気に導入する。排気循環バルブは、制御装置40によって電気的に接続され、排気循環バルブによって吸気に流れる排気の量が調整される。排気循環ガスクーラ(排気循環ガス冷却装置の一例)16は、排気循環装置17によって内燃機関2の排気から吸気に導入される排気循環ガス(
図1の破線参照)を、冷却水によって冷却する熱交換器である。ヒータコア18は、車両の室内に空調風を供給する空調装置(HVAC)19の熱交換器である。ヒータコア18は、冷却水から熱を吸収し、空調風を温める。空調装置19は、ブロアファン19aを含み、ブロアファン19aを回転させることによってヒータコア18で暖められた空調風を室内に供給する。空調装置19は、空調制御装置19bを含む。空調制御装置19bは図示しない通信線によって制御装置40と電気的に接続され、制御装置40から送信される情報を取得できる。制御装置40も同様に、空調制御装置19bから送信される情報を取得できる。
【0019】
排気循環ガスクーラ16、およびヒータコア18は、アウトレットフィッチング14と接続される排気循環ガスクーラ通路54が接続され、冷却水が供給される。排気循環ガスクーラ通路54は、ゴムホース、および金属製のパイプなどによって形成される通路である。排気循環ガスクーラ通路54は、ヒータコア18の下流で流量制御弁4の第1入口4bに接続される第1排気循環ガスクーラ通路54aと、第3入口4dに接続される第2排気循環ガスクーラ通路54bと、に分岐する。第2排気循環ガスクーラ通路54bは、サーモスタット5の感温用の通路である。具体的には、冷却水が高温となった場合に第2排気循環ガスクーラ通路54bを流れる冷却水がパラフィンワックスを溶かし、パラフィンワックスが溶け第2入口4cが開通すると、ロータリバルブ4aの回転角度ωによらずラジエタ通路52に冷却水が供給される。
【0020】
過給機20は、内燃機関2の吸気を過給する装置である。過給機20は、排気循環ガスクーラ通路54の排気循環ガスクーラ16より上流から分岐した過給機冷却通路60が接続され、過給機20のタービン軸を冷却する。過給機冷却通路60は、ホットボトル32と接続される。
【0021】
スロットル22は、内燃機関2の吸気量を制御する装置である。モータジェネレータ24は、内燃機関2によって駆動され、発電と内燃機関2の始動とを行う回転電機である。スロットル22およびモータジェネレータ24は、アウトレットフィッチング14と接続されるスロットル温水通路56と接続される。スロットル温水通路56は、ラジエタ30を通過せずにバルブフィッチング6と接続される。スロットル温水通路56は、常時暖められた冷却水が流れることによって、スロットル22の凍結やモータジェネレータ24の凍結を防止する。
【0022】
トランスミッションクーラ26は、トランスミッションに充填されるトランスミッションオイルと冷却水を熱交換し、トランスミッションオイルを昇温若しくは冷却する熱交換器である。エンジンオイルクーラ28は、内燃機関2に充填されるエンジンオイルと冷却水を熱交換し、エンジンオイルを昇温若しくは冷却する熱交換器である。
【0023】
トランスミッションクーラ26、およびエンジンオイルクーラ28は、スロットル温水通路56のスロットル22より上流から分岐するエンジンオイルクーラ通路58に接続され、冷却水が供給される。エンジンオイルクーラ通路58は、流量制御弁4の第1入口4bに接続される。
【0024】
ラジエタ30は、図示しない上部通路30aと、上部通路30aの下流に配置されるラジエタコア30bと、ラジエタコア30bの下流に配置される下部通路30cと、を有する。ラジエタコア30bは、複数のフィンを有し、冷却水と車両の外気とを熱交換し、冷却水を冷却するための熱交換器である。ラジエタ30の上部通路30aは、アウトレットフィッチング14に接続されるラジエタ通路52に接続される。ラジエタ30の下部通路30cは、流量制御弁4の第1入口4bに接続される第1ラジエタ通路52aと、第2入口4cに接続される第2ラジエタ通路52bと、に接続される。ラジエタ通路52は、第1ラジエタ通路52aと、第2ラジエタ通路52bと、に分岐する。また、ラジエタ通路52は、ラジエタ30の上流で過給機冷却通路60に接続される第3ラジエタ通路52cに分岐する。
【0025】
ホットボトル32は、冷却水を一時貯蔵するリザーバタンクとして機能するとともに、冷却水中のエア抜きを行うためのタンクである。ホットボトル32の上流は、過給機冷却通路60における、第3ラジエタ通路52cと過給機冷却通路60との連結部より下流に接続される。ホットボトル32の下流は、スロットル温水通路56のモータジェネレータ24より下流に接続される。ホットボトル32には、過給機20を通過した冷却水が供給される。
【0026】
制御装置40は、水温センサ15によって取得した水温WT、車両の走行状態、内燃機関2の運転状態、などに応じて流量制御弁4を制御し、冷却水の流量を制御する装置である。より具体的には、制御装置40は、水温WT、車両の走行状態、内燃機関2の運転状態、に応じて各通路の開度O、すなわちロータリバルブ4aの目標回転角度ωtを決定し、各通路に流す冷却水の流量を制御する。
【0027】
図2のグラフは、横軸にロータリバルブ4aの回転角度ωを示し、縦軸に開口面積(開度O)を示す。制御装置40は、水温WT、車両の走行状態、内燃機関2の運転状態、に応じて目標回転角度ωtを決定する。制御装置40は、目標回転角度ωtに向けてロータリバルブ4aを回転させる。ロータリバルブ4aが目標回転角度ωtとなると、各通路の開度Oが目標回転角度ωtに対応した値となり、各通路に流れる冷却水の流量が制御される。すなわち、目標回転角度ωtを決定することは、目標開度Otを決定することと同義である。制御装置40は、この間、流量制御弁4に設けられた回転角センサからロータリバルブ4aの実際の実回転角度ωrを取得し、実回転角度が追従しているか否か監視する。
【0028】
また、本実施形態の流量制御弁4は、ロータリバルブ4aの最小回転角度ωminの位置(本実施形態では例えば、
図2の―40度の位置)にロータリバルブ4aの回転を規制する第1ストッパ(規制部の一例)を有する。また、流量制御弁4は、最大回転角度ωmaxの位置(本実施形態では例えば
図2の210度の位置)に、ロータリバルブ4aの回転を規制する第2ストッパ(規制部の一例)を有する。制御装置40は、ロータリバルブ4aを第1ストッパから第2ストッパの区間で制御する。
【0029】
また、制御装置40は、排気循環ガスの導入割合を決定し、排気循環ガスの導入量が、吸気量に対して決定した導入割合となるように、排気循環弁の開度を制御する。制御装置40は、内燃機関2の運転領域ごとに排気循環ガスの導入割合を定めたマップに基づいて、排気循環ガスの導入割合を決定してもよい。
【0030】
このほか、制御装置40は、エアフロセンサ(図示なし)、およびアクセルポジションセンサ(図示なし)などのセンサから取得した値に基づいて、内燃機関2が所望の運転状態となるように、燃料噴射弁(図示なし)、排気循環弁(図示なし)、および過給機20の過給圧、などの各装置の制御を実行してもよい。
【0031】
制御装置40は、実際には、演算装置と、メモリと、入出力バッファ等とを含むマイクロコンピュータによって構成されるECU(Electrоnic Control Unit)である。制御装置40は、メモリに格納されたマップおよびプログラムに基づいて、内燃機関2が、所望の運転状態となるように各装置を制御する。なお、各種制御については、ソフトウェアによる処理に限られず、専用のハードウェア(電子回路)により処理することも可能である。
【0032】
次に、
図3のフローチャートを用いて、制御装置40が実行する制御手順について説明する。なお、制御装置40は、図示しないイグニッションスイッチがオンされると制御動作を開始する。
【0033】
ステップS1では、制御装置40は、水温WTを取得する。制御装置40は、水温WTを取得すると、ステップS2に処理を進め、車両の走行状態、内燃機関2の運転状態、に応じてバルブの第1目標回転角度(第1目標開度の一例)ωt1を決定する。制御装置40は、第1目標回転角度ωt1と現在のロータリバルブ4aの角度である実回転角度(実開度の一例)ωrの差を取得し、目標回転角度ωtと実回転角度ωrとの差に基づいて、ロータリバルブ4aを移動させる第1回転速度ωv1を決定する。制御装置40は、目標回転角度ωtと実回転角度ωrとの差が大きいほど、回転速度ωvが大きくなるように回転速度ωvを決定する。制御装置40は、回転速度ωvを決定すると、ステップS3に処理を進める。
【0034】
ステップS3では、制御装置40は、各通路を流れる冷却水の圧力が所定値以上であるか否か、本実施形態では内燃機関2の回転数Erが所定回転数Et以上か否か判断する。本実施形態では、内燃機関2の回転数Erが上昇すると、クランクシャフトによって駆動されるウォータポンプ8の回転数も上昇する。このため、所定回転数Etは、ウォータポンプ8の回転上昇に伴って、各通路の圧力がホース抜け等の懸念があるような圧力にまで上昇するような内燃機関2の回転数Erに基づいて決定される。所定回転数Etは、例えば、内燃機関2の許容回転数に対して1000rpm低い回転数から許容回転数までの領域に設定されるレッドゾーン近辺の回転数であってもよい。また、所定回転数Etは、レッドゾーンよりもやや低い回転数であってもよい。制御装置40は、内燃機関2の回転数Erが所定回転数Et以上であると判断した場合(ステップS3 YES)、ステップS4に処理を進める。
【0035】
ステップS4では、制御装置40は、圧抜制御を成立させる。
図4に示すように、本実施形態では、制御装置40は、内燃機関2の回転数Erが所定回転数Et以上の場合、圧抜制御が必要と判断し、圧抜制御のフラグを記録する。しかし、制御装置40は、例えばウォータポンプ8が電動ウォータポンプの場合、ウォータポンプ8の回転数を取得し、圧抜制御の要否を判断してもよい。また、制御装置40は、各通路を流れる冷却水の圧力をセンサ等で計測してもよい。さらに、制御装置40は、内燃機関2の回転数Erまたはウォータポンプ8の回転数に加えて、水温WTなどを加味して圧抜制御の要否を判断してもよい。
図3に示すように、制御装置40は、圧抜制御を成立させると、ステップS5に処理を進め、圧抜制御を開始する。
【0036】
ステップS5では、制御装置40は、各通路の開度が最大となる第2目標回転角度(第2目標開度の一例)ωt2を決定するとともに、第2目標回転角度ωt2よりも大きい開度の第3目標回転角度(第3目標開度の一例)ωt3を決定する。
図2に示すように、本実施形態では、回転角度ωが150度から160度の間(
図2の区間A参照)は、ラジエタ通路52、排気循環ガスクーラ通路54、およびエンジンオイルクーラ通路58(各通路)の開口面積が最大となる。このため、制御装置40は、回転角度ωが150度から160度の間で、第2目標回転角度ωt2を決定する。また、本実施形態では制御装置40は、第2目標回転角度ωt2よりも大きい最大回転角度ωmaxに第3目標回転角度ωt3を決定する。しかし、第3目標回転角度ωt3は、決定した第2目標回転角度ωt2よりも大きい回転角度ωであればよい。言い換えると、第3目標回転角度ωt3は、実回転角度ωrと第2目標回転角度ωt2との差よりも大きい目標回転角度ωtであればよい。制御装置40は、第2目標回転角度ωt2、および第3目標回転角度ωt3を決定するとステップS6に処理を進める。
【0037】
ステップS6では、制御装置40は、実回転角度ωrと第3目標回転角度ωt3との差に基づいて、第2回転速度ωv2を決定する。制御装置40は、第2回転速度ωv2を決定すると、第2回転速度ωv2でロータリバルブ4aを第3目標回転角度ωt3に向けて移動させる。制御装置40は、第2回転速度ωv2でロータリバルブ4aを回転移動させると、ステップS7に処理を進める。
【0038】
ステップS7では、制御装置40は、実回転角度ωrが第2目標回転角度ωt2に到達したか否か判断する。制御装置40は、実回転角度ωrが第2目標回転角度ωt2になったと判断した場合(ステップS7 YES)、ステップS8に処理を進める。制御装置40は、実回転角度ωrが第2目標回転角度ωt2未満であると判断した場合(ステップS7 NO)、ステップS6に処理を戻し、ロータリバルブ4aを第2回転速度ωv2で第3目標回転角度ωt3に向けて回転移動させ続ける。
【0039】
ステップS8では、制御装置40は、目標回転角度ωtを、第3目標回転角度ωt3から第2目標回転角度ωt2に切り替える。これによって、制御装置40は、ロータリバルブ4aを、実回転角度ωrと第2目標回転角度ωt2との差に基づいた第3回転速度ωv3で、第2目標回転角度ωt2に向けて回転移動させる。制御装置40は、ロータリバルブ4aを第2目標回転角度ωt2に向けて回転移動させると、ステップS9に処理を進める。
【0040】
ステップS9では、制御装置40は、実回転角度ωrが第2目標回転角度ωt2に一致したか否か判断する。制御装置40は、実回転角度ωrが第2目標回転角度ωt2に一致しないと判断した場合(ステップS9 NO)、ステップS8に処理を戻し、ロータリバルブ4aを第2目標回転角度ωt2に向けて回転移動させ続ける。制御装置40は、実回転角度ωrが第2目標回転角度ωt2に一致すると判断した場合(ステップS9 YES)、ステップS10に処理を進める。
【0041】
図4の回転角度ωのグラフに示すように、このように第3目標回転角度ωt3を用いてロータリバルブ4aを制御することによって(
図4の時刻t1から時刻t2の破線参照)、制御装置40は、回転速度ωvを実回転角度ωrと第2目標回転角度ωt2の差に基づいて決定するよりも、ロータリバルブ4aを速く回転移動させることができる(
図4の時刻t1から時刻t2の実線参照)。ロータリバルブ4aは一旦、慣性により第2目標回転角度ωt2を超えてから、第2目標回転角度ωt2に緩やかに戻る(
図4の時刻t2から時刻t3の実線参照)。制御装置40は、このようにロータリバルブ4aを制御することによって、各通路の開度が最大となる位置までロータリバルブ4aを迅速に移動させるとともに、ロータリバルブ4aの慣性力によって第2目標回転角度ωt2からずれてロータリバルブ4aが停止することを抑制している。この結果、制御装置40は、圧抜制御を迅速に実行できる。なお、このとき第2目標回転角度ωt2を区間Aの中間部以下の回転角度ωt(150度~155度)に設定しておくとよい。これにより、
図4の時刻t2から時刻t3のようにロータリバルブ4aの慣性力によって回転角度ωtが第2目標回転角度ωt2を超えたとしても、各通路の開口面積を最大状態に維持しやすくなる。
【0042】
なお、本実施形態では、サーモスタット5を介してロータリバルブ4aをバイパスし、バルブフィッチング6に接続される第2入口4cと、を有する。サーモスタット5は、第2入口4cを塞ぐようにコイルバネによって付勢されている。言い換えると、内燃機関2の冷却システム1は、第2入口4cから流量制御弁4の一例であるロータリバルブ4aをバイパスしてバルブフィッチング6に接続されるバイパス通路を有する。バイパス通路上には、各通路の圧力を抜くベント弁として機能するサーモスタット5が配置される。これによって、各通路の圧力がコイルバネの付勢力と釣り合う所定圧力を超えて上昇すると、サーモスタット5が開き、各通路の圧力を逃がすことができる。このように、既存のサーモスタット5を配置することによって、圧力制御のみならず、サーモスタット5を使っても各通路の圧力を抜くことができる。
【0043】
ステップS10では、制御装置40は、圧抜制御を終了する。制御装置40は、各通路を流れる冷却水の圧力が所定値未満である状態、本実施形態では内燃機関2の回転数が所定回転数未満である状態を第2所定時間継続した場合、圧抜制御を終了する。第2所定時間は、内燃機関2の回転数が所定回転数未満に安定したと判断できる時間であればよい。なお、ステップS6でロータリバルブ4aを第3目標回転角度ωt3に向けて移動させている途中で、各通路を流れる冷却水の圧力が所定値未満となった場合は、その時点で圧抜制御を終了してもよい。制御装置40は、圧抜制御を終了すると
図4に示すように圧抜制御のフラグを不成立側に記録する(
図4の時刻t4参照)。制御装置40は、フラグを不成立側に記録すると、ステップS11に処理を進める。
【0044】
ステップS11では、制御装置40は、第4目標回転角度(第4目標開度の一例)ωt4を決定する。
図4の時刻t4から時刻t5に示すように、第4目標回転角度ωt4は、実回転角度ωrが第1目標回転角度ωt1に向けて緩やかに下降させるために設定する目標回転角度ωtである。本実施形態では第4目標回転角度ωt4は、実回転角度ωrから所定の回転角度を引いた値である。したがって、制御装置40は、所定時間ごとに第4目標回転角度ωt4分だけロータリバルブ4aを回転移動させる。これにより、ロータリバルブ4aは、一定の第3回転速度ωv3で、第1目標回転角度ωt1に向けて緩やかに回転移動する。この結果、各通路の急な圧力上昇によるウォーターハンマーの発生を抑制する。第4目標回転角度ωt4は、第2目標回転角度ωt2から第1目標回転角度ωt1までの回転角度ωを、複数の角度に分割した値であってもよい。いずれにせよ、第4目標回転角度ωt4は、ロータリバルブ4aを第1目標回転角度ωt1に向けて緩やかに回転移動させる値であればよい。
図3に示すように、制御装置40は、第4目標回転角度ωt4を決定するとステップS12に処理を進める。なお、ここでの第1目標回転角度ωt1はステップS2と同じ値である必要はなく、そのときの水温WT、車両の走行状態、内燃機関2の運転状態、に基づいて設定すればよい。
【0045】
ステップS12では、制御装置40は、ロータリバルブ4aを第3回転速度ωv3で移動させ、ステップS13に処理を進める。ステップS13では、制御装置40は、ロータリバルブ4aを第3回転速度ωv3で移動させてから第1所定時間経過したか否か判断する。第1所定時間は、各通路の急激な圧力上昇が発生しない程度に十分な時間であればよい。制御装置40は、所定時間経過していないと判断した場合(ステップS13 NO)、ステップS12に処理を戻し、ロータリバルブ4aを第3回転速度ωv3で第1目標回転角度ωt1に向けて回転移動させ続ける。制御装置40は、第1所定時間経過したと判断した場合(ステップS13 YES)、ステップS14に処理を進める。ステップS14では、制御装置40は、第1回転速度ωv1によってロータリバルブ4aを回転移動させる。
【0046】
ステップS3において、制御装置40が内燃機関2の回転数Erが所定回転数Et未満であると判断した場合、制御装置40は、ステップS14に処理を進める。ステップS14で、第1回転速度ωv1によってロータリバルブ4aを回転移動させると、制御装置40は、ステップS15に処理を進める。ステップS15では、制御装置40は、実回転角度ωrが第1目標回転角度ωt1に一致したか否か判断する。制御装置40は、実回転角度ωrが第1目標回転角度ωt1に一致しないと判断した場合(ステップS15 NO)、ステップS14に処理を戻し、ロータリバルブ4aを第1回転速度ωv1で第1目標回転角度ωt1に向けて回転移動させ続ける。制御装置40は、実回転角度ωrが第1目標回転角度ωt1に一致すると判断した場合(ステップS15 YES)、ステップS1に処理を戻す。
【0047】
なお、ステップS13において、制御装置40が所定時間経過していないと判断した場合であっても(ステップS13 NO)、第1目標回転角度ωt1が実回転角度ωrよりも大きい回転角度ωに変化した場合、すなわち、各通路の開度が大きくなるように変化した場合、制御装置40は、ステップS14に処理を進めてもよい。このような場合は、各通路の開度を開く方向にロータリバルブ4aが回転移動するため、各通路の圧力は下がる方向になる。
【0048】
以上説明した通り、本開示の内燃機関2の冷却システム1によれば、第1目標回転角度ωt1から第4目標回転角度ωt4と、実回転角度ωrとの差異に応じてロータリバルブ4aを制御することによって、最適な圧抜制御を実行できる。
【0049】
また、この内燃機関2の冷却システム1によれば、第2目標回転角度ωt2よりも大きい第3目標回転角度ωt3によってロータリバルブ4aを移動させることによって、より早く冷却水の流れる通路を最大まで開く角度に到達させることができる。また、圧抜き終了後は第4目標回転角度ωt4によって、ロータリバルブ4aをゆっくり閉めることでウォーターハンマーを防止する。このように、この内燃機関2の冷却システム1によれば、目標回転角度ωtと実回転角度ωrの差に応じてロータリバルブ4aの回転速度を決定するようなシステムにおいて、簡単な制御により最適な圧抜制御を実行できる。
【0050】
<他の実施形態>
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。特に、本明細書に書かれた複数の変形例は必要に応じて任意に組合せ可能である。
【0051】
(a)上記実施形態では、流量制御弁4はロータリバルブ4aを例に用いて説明したが、本開示はこれに限定されない。流量制御弁4は、例えば、各通路の流量をスライド式のバルブによって制御する流量制御弁4であってもよい。この場合、規制部は、スライド式のバルブの移動を規制するストッパであってもよい。
【0052】
(b)上記実施形態では、制御装置40が
図2の各通路の開口面積とロータリバルブ4aの回転角度ωの関係を用いて、各通路に流れる冷却水の流量を制御する例を用いて説明したが、本開示はこれに限定されない。制御装置40は、例えば、流量を検知するセンサ等を用いて、流量制御弁4を制御してもよい。また、
図2の各通路の関口面積と、ロータリバルブ4aの回転角度ωは、適宜変更してもよい。
【符号の説明】
【0053】
1 :冷却システム
2 :内燃機関
4 :流量制御弁
5 :サーモスタット
40 :制御装置
52 :ラジエタ通路
54 :排気循環ガスクーラ通路
O :開度
Ot :目標開度
ωr :実回転角度
ωt :目標回転角度
ωv :回転速度