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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149306
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】車両の検査表示方法および装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/007 20060101AFI20231005BHJP
   G01H 17/00 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
G01M17/007 H
G01H17/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022057812
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】広瀬 悟
(72)【発明者】
【氏名】高木 徹
【テーマコード(参考)】
2G064
【Fターム(参考)】
2G064AB01
2G064AB02
2G064AB13
2G064BA02
2G064BD02
2G064CC02
2G064CC41
2G064CC42
2G064CC43
2G064DD02
(57)【要約】
【課題】音により部品の異常を検査するに際して操作のばらつき等による信頼度を併せて表示することで、不適切な操作により部品が異常と誤判断されることを防止する。
【解決手段】フリーローラ上で試走している車両から音を取得し(S1)、対象部品であるホーンの音を分離・抽出する(S2)。抽出したホーンの音の周波数解析を行い(S3)、正常部品の周波数データと比較して異常度を算出する(S4)。抽出したホーン音の時間振幅データの時間特性として時間長を算出し(S5)、これを正常な操作の時間長と比較して信頼度を算出する(S6)。算出した異常度および信頼度に基づき、マトリクス状の二次元グラフ表示を作成し、これをディスプレイ上に表示する(S7)。適当に検査を繰り返した後に検査員が停止ボタンを押したら検査を終了する(S8)。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査中の車両から発せられる音ないし振動を取得し、
取得した音ないし振動の中から検査員の操作に対応した検査対象とする部品の音ないし振動を抽出して部品音/振動データを生成し、
この部品音/振動データから時間振幅分布を示す時間振幅データを生成し、
上記時間振幅データにおける振幅の時間特性を正常操作に対応した基本時間特性と比較して操作の信頼度を算出し、
上記部品音/振動データを解析し、正常部品の基本特性と比較して、基本特性からの差異に応じた部品の異常度を算出し、
上記信頼度に関する情報と上記異常度に関する情報との双方を表示する、
車両の検査表示方法。
【請求項2】
上記信頼度に関する情報と上記異常度に関する情報とをディスプレイ上に同時に表示する、請求項1に記載の車両の検査表示方法。
【請求項3】
一方の軸を信頼度とし他方の軸を異常度としたマトリクス上の交点として、算出された信頼度と異常度との双方を同時に表示する、請求項2に記載の車両の検査表示方法。
【請求項4】
上記信頼度は、正常操作による振幅の時間特性を学習して上記基本時間特性とする教師なし学習によって算出する、請求項1~3のいずれかに記載の車両の検査表示方法。
【請求項5】
上記信頼度は、上記振幅の時間特性として上記時間振幅データの時間長を少なくとも1つの要素として算出する、請求項1~4のいずれかに記載の車両の検査表示方法。
【請求項6】
上記信頼度は、上記振幅の時間特性として上記時間振幅データの振幅ピークを結ぶ包絡線を少なくとも1つの要素として算出する、請求項1~5のいずれかに記載の車両の検査表示方法。
【請求項7】
上記信頼度は、上記振幅の時間特性として上記時間振幅データのプラス側とマイナス側とのバランスを少なくとも1つの要素として算出する、請求項1~6のいずれかに記載の車両の検査表示方法。
【請求項8】
上記異常度を正常・異常に2分する閾値を、上記信頼度に応じて変更する、請求項1~7のいずれかに記載の車両の検査表示方法。
【請求項9】
上記信頼度を正常・異常に2分する閾値を、上記異常度に応じて変更する、請求項1~8のいずれかに記載の車両の検査表示方法。
【請求項10】
検査中の車両から発せられる音ないし振動を取得する音/振動取得部と、
取得した音ないし振動の中から検査員の操作に対応した検査対象とする部品の音ないし振動を抽出して部品音/振動データを生成する部品音/振動データ生成部と、
この部品音/振動データから時間振幅分布を示す時間振幅データを生成する時間振幅データ生成部と、
上記時間振幅データにおける振幅の時間特性を正常操作に対応した基本時間特性と比較して操作の信頼度を算出する信頼度算出部と、
上記部品音/振動データを解析し、正常部品の基本特性と比較して、基本特性からの差異に応じた部品の異常度を算出する異常度算出部と、
上記信頼度に関する情報と上記異常度に関する情報との双方を表示する表示部と、
を備えてなる車両の検査表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車等の車両における検査工程において、種々の部品から発せられる音ないし振動が異常でないかどうかの検査結果を表示する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車生産ラインの最終段階となる完成車検査工程においては、フリーローラ上で検査員が検査対象となる完成車両の試走を行い、エンジン、メータ類、ブレーキ、ホーン、灯火、等について多数の項目の検査を行う。一般に、この検査工程の中で、車両の各部で発する種々の音ないし振動について、検査員の感覚に基づくいわゆる官能評価によって異常の有無の判定がなされる。例えば、ホーンについては、検査員がホーンを鳴らし、自らその音を聞いて正常な音であることを確認する検査がなされる。加速時にトランスミッションから生じる音やブレーキ操作時にブレーキから生じる音等についても同様に官能検査の対象となる。
【0003】
このような官能検査に代えて、音ないし振動をマイクロフォンないしセンサで取得して、その信号の解析により異常を検出する試みが従来からなされている。例えば特許文献1には、対象機器が発する音ないし振動の波形データを取得し、この波形データを時間周波数分析して時間周波数分布を求め、変動成分が含まれる抽出領域の中の時間周波数分布に基づいて異常判定を行う診断装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5783808号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
検査の種類によっては、検査の対象となる音ないし振動が検査員の操作に基づいて生じる場合がある。例えば、ホーンの検査では、検査員がステアリングホイール上のホーンスイッチを押圧することでホーンが鳴り、加速検査では検査員がアクセルペダルを所定の開度変化となるように踏み込むことによって、その際のトランスミッション等の異音が判定される。
【0006】
このような検査員の操作によって音ないし振動が生じる部品ないし機器を検査対象とする場合には、発生する音ないし振動に操作のばらつきが影響することがある。例えばホーン検査では、ホーンスイッチの押圧時間が短いと正しい音が再現されないような現象がある。加速時の音についても、検査員によるアクセルペダルの開度増加が正しくなされないと音が異なるものとなる。特許文献1では、このような操作のばらつきの影響が考慮されていない。従って、例えばホーンそのものは正常であるのに、誤って異常と判定されてしまうことがある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る車両の検査表示方法は、
検査中の車両から発せられる音ないし振動を取得し、
取得した音ないし振動の中から検査員の操作に対応した検査対象とする部品の音ないし振動を抽出して音/振動データを生成し、
この部品の音/振動データから時間振幅分布を示す時間振幅データを生成し、
上記時間振幅データにおける振幅の時間特性を正常操作に対応した基本時間特性と比較して操作の信頼度を算出し、
上記音/振動データを解析し、正常部品の基本特性と比較して、基本特性からの差異に応じた部品の異常度を算出し、
上記信頼度に関する情報と上記異常度に関する情報との双方を表示する。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、検査対象とする部品の音ないし振動の異常度に関する情報に併せて検査員の操作についての信頼度に関する情報が表示されるので、両者を勘案して対象部品の最終的な異常判定を行うことができ、また信頼度が低い場合に必要に応じて再検査を行うようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】この発明を自動車の完成車検査工程におけるホーン検査に適用した第1実施例の機能ブロック図。
図2】第1実施例の処理の流れを示すフローチャート。
図3】第1実施例の表示部における表示例を示した説明図。
図4】第2実施例の機能ブロック図。
図5】第2実施例の処理の流れを示すフローチャート。
図6】第2実施例の表示部における表示例を示した説明図。
図7】第3実施例の機能ブロック図。
図8】第3実施例の処理の流れを示すフローチャート。
図9】第3実施例の表示部における表示例を示した説明図。
図10】時間振幅データの一例を示す特性図。
図11】周波数スペクトルの一例を示す特性図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、この発明を自動車のホーンの検査に適用した一実施例について説明する。このホーン検査は、例えば、自動車生産ラインの最終段階となる完成車検査工程の中で実行される。一般に、完成車検査工程においては、フリーローラ上で検査員が検査対象となる完成車両の試走を行い、エンジン、メータ類、ブレーキ、等を含む多数の項目の検査を行う。この完成車検査の中で、所定の検査順序に従って検査員がステアリングホイール上のホーンスイッチを押圧することでホーンを鳴らし、その音に基づいて、ホーンが正常であるかどうかを検査する。ホーン自体の異常、部品(ホーン)の型番の間違い、配線の接触不良、ホーンスイッチの異常、等によって、ホーンの音程が異なっていたり音色がおかしい、等の異常が生じることが有り得るので、実際のホーンの音に基づく検査が行われるのである。
【0011】
なお、第1実施例のホーン検査は、正常・異常の判別までを完全に自動化した形で行うものではなく、後述するディスプレイ上の表示を見た検査員等が最終的な正常・異常の判断を行う、一種の検査支援システムの形態となっている。
【0012】
図1は、第1実施例の検査表示装置の機能ブロック図を示している。第1実施例の検査表示装置は、音取得部10と、対象音抽出部20と、周波数特性解析部30と、時間特性解析部40と、基本特性データ記憶部50と、異常度算出部60と、基本時間特性データ記憶部70と、信頼度算出部80と、表示制御部90と、表示部100と、を含んで構成されている。
【0013】
音取得部10は、検査対象の車両から生じる音を取得して電気信号つまり音データとするマイクロフォンと、この音データを一時的に保存する録音部と、を含んでいる。マイクロフォンは、ホーンの音を含む車両からの音を集音し得るように車両外部に配置される。マイクロフォンの指向性や周波数特性などは、計測対象に合わせて選択されている。通常は、車両へ向けて指向性を有するマイクロフォンが用いられる。マイクロフォンアレーなどにより音源を定位してノイズとなる音を除去した音データを得るようにしてもよい。なお、部品からの振動を対象とする場合には、マイクロフォンに代えて圧電素子等からなる加速度ピックアップ等の振動検出用センサが用いられることとなる。
【0014】
対象音抽出部20は、音取得部10が取得した音データの中から検査対象である部品つまりホーンの音を抽出し、部品音データとして切り出す。マイクロフォンが取得する音には、例えば他のエンジン音、トランスミッション作動音、ブレーキ作動音、種々の機器の動作音、等が含まれていることがあり、その中からホーンの音を分離・抽出する。例えば、FFT(高速フーリエ変換)やウェーブレット解析などの既知の手法を用いてホーンの音を特定する。特定の周波数を通過させるフィルタを用いて分離することも可能である。またホーンは比較的高い音圧を有するので、音圧に基づいてホーン音の特定を行うようにしてもよい。なお、ホーンスイッチの操作は所定の検査順序に従って概ね既知のタイミングで実行されるので、ホーンの音の分離・抽出は容易である。そして、このホーンの音が所定の強度(振幅)以上である期間を特定し、その間のデータを部品音データ(つまりホーン音データ)として切り出す。より詳しくは、所定の強度(振幅)以上のホーン音が発生するよりも所定時間(例えば0.1秒程度)前のタイミングを「切出し開始点」とし、所定の強度(振幅)以上のホーン音が終了してから所定時間(例えば0.1秒程度)後のタイミングを「切出し終了点」として、データを切り出し、部品音データとする。
【0015】
なお、完成車検査工程においてホーンの他にエンジンやトランスミッションあるいはブレーキ等の音の検査を行う場合には、対象音抽出部20において並行して各々の音の抽出およびデータの切り出しを行うようにしてもよい。
【0016】
周波数特性解析部30は、対象音抽出部20において分離・抽出した部品音データの周波数解析を行う。例えば、FFTやウェーブレット解析などの周波数解析手法を用いて、周波数に従って変換することで、より詳細な周波数データを生成する。
【0017】
周波数データは、例えば二次元で表現した場合、横軸を周波数、縦軸をパワー(あるいは音圧)、とした周波数スペクトルとして表現される。なお、周波数スペクトルの縦軸は、パワーおよび音圧に限らず、聴覚のA特性関数を積した値や、ISOで定義されている聴覚の感覚量であるLoudness等の他のパラメータを用いてもよい。図11は、周波数スペクトルの一例を示す。また、時間毎の変換結果を時系列に重ね合わせることで、時間を含む三次元データであるいわゆるスペクトログラムとして、周波数データを取り扱うようにしてもよい。
【0018】
基本特性データ記憶部50は、正常部品についての上記の周波数データの基本特性を記憶しているデータベースからなる。具体的には、それまでのホーン検査において正常に動作していると判断された周波数データ(周波数スペクトルやスペクトログラム等)が蓄積されている。各々のデータには、付属の情報として、検査を行った季節、気温、時刻、製造メーカ名、検査・出荷情報、等が付与されており、必要に応じてデータの絞り込み等が行えるようになっている。完成車検査工程においてホーンの他にエンジンやトランスミッションあるいはブレーキ等の音の検査を行う場合には、これらの音についての周波数データが部品別に蓄積される。
【0019】
異常度算出部60は、周波数特性解析部30において得られた今回の検査の周波数データを基本特性データ記憶部50に蓄積された多数の正常部品の周波数データ(換言すれば基本特性)と比較して、異常度を算出する。すなわち、周波数データの正常状態を学習することで、いわゆる教師なし学習の手法により、今回の検査対象であるホーン音の周波数データの異常度が算出される。
【0020】
例えば、下記の式のようにして検査対象の周波数データの波形と正常部品の周波数データの波形とを対比することで異常度αを算出することができる。すなわち、横軸を周波数とし縦軸をパワーとした周波数スペクトルを例として、各々の波形について、例えば単位周波数毎(あるいはピーク周波数毎でもよい)にパワーの値をサンプリングしてデータ群を作成する。そして、各々の周波数について、正常値をSb、観測値をSo、とし、データ数をN(個)とすると、
異常度α=(1/N)×Σ((So-Sb)2
となる。
【0021】
この例では、異常度αが大であるほど正常部品の特性から乖離していることを意味する。
【0022】
上記周波数データの正常状態ならびに異常状態の双方を学習し、これらとの空間的距離による教師あり学習の手法によって異常度の算出を行うようにしてもよい。例えば、異常値の基準データがある場合には、正常と異常の2クラスの分類モデルを作り、各々との距離から異常度を算出することができる。
【0023】
このほか、公知の適当な統計学的手法によって異常度を求めることが可能である。例えば、今までのデータの平均値と標準偏差とを用いた異常度の算出方法や、確率分布に基づく異常度の算出などが可能である。
【0024】
なお、ホーン検査においては、異常音のデータを大量に収集することが一般に難しく、従って正常部品の特性のみの学習に基づく異常度の算出が好ましい。対象部品によっては、正常部品の特性と異常部品の特性との双方の学習が可能である。
【0025】
時間特性解析部40は、対象音抽出部20において分離抽出した部品音データを、例えば横軸を時間とし縦軸を振幅とした時間振幅分布を示す時間振幅データとした上で、その時間特性を抽出する。なお、対象音抽出部20から出力される部品音データが横軸を時間とし縦軸を振幅とした時間振幅分布を示す時間振幅データの形式である場合には、そのまま用いてもよい。図10は、時間振幅データの一例を示す。
【0026】
検査員によるホーンスイッチの操作の適否は、時間振幅データの時間特性に反映する。時間特性としては、第1実施例では、ホーンスイッチの操作時間に相当する時間振幅データの時間長を用いる。例えば、時間振幅データの中である閾値以上の振幅(強度、パワー、等でもよい)を有する時間長を求める。対象部品の音が特有の周波数帯域にある場合(ホーン等の場合)は、予めバンドパスフィルタによってその周波数帯域の音だけを抽出した上で、ある閾値以上の大きさの音の期間を求めるようにしてもよい。図10に時間長Taの一例を示す。
【0027】
基本時間特性データ記憶部70は、上述した基本特性データ記憶部50と同様に、正常な操作が行われた場合の時間特性(ここでは時間長)を記憶しているデータベースからなる。具体的には、それまでのホーン検査において正常に動作していると判断された場合の時間長のデータが蓄積されている。各々のデータには、付属の情報として、検査を行った季節、気温、時刻、製造メーカ名、検査・出荷情報、等が付与されており、必要に応じてデータの絞り込み等が行えるようになっている。完成車検査工程においてホーンの他にエンジンやトランスミッションあるいはブレーキ等の音の検査を行う場合には、これらの音についての時間特性データが部品別に蓄積される。
【0028】
信頼度算出部80は、時間特性解析部40において得られた今回の検査の時間特性(ここでは時間長)を基本時間特性データ記憶部70に蓄積された多数の正常時の時間特性データ(換言すれば基本時間特性)と比較して、信頼度を算出する。すなわち、時間特性の正常状態を学習することで、いわゆる教師なし学習の手法により、今回の検査対象であるホーン音の時間特性の信頼度が算出される。
【0029】
例えば、次式のようにして偏差平方に相当するパラメータρを求める。すなわち、正常値をTb、観測値をToとして、
ρ=(To-Tb)2
となる。あるいは、ρ=(To-Tb)/Tb)でもよい。ここでは、パラメータρが小さいほど信頼度は高いこととなる。
【0030】
表示制御部90は、上記のようにして算出された異常度および信頼度の表示データを作成し、表示部100に表示する。表示部100は、検査結果を、車両を運転している検査員、製造管理者、データを活用するデータサイエンティストなどの関係者、に対して表示するための表示手段である。例えば、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ、HMD(Head Mounted Display)、スマートウォッチ、等から構成される。また、音声を伴う場合は、音を生成し発するための音源、アンプ、スピーカ、等を含む。表示制御部90は、適当な表示を行うために、2次元グラフや動画、アニメーションなど各種表示を生成し、分割、合成、切替表示、等を行う。表示タイミングの制御により複数の表示部100に適切なタイミングで異なる表示を行うなども可能である。
【0031】
図3は、第1実施例の表示部100における表示例を示した説明図である。この例では、ディスプレイ上に、横軸を信頼度とし縦軸を異常度としたマトリクスの枠線が表示され、マトリクス上の1つの交点として、算出された信頼度と異常度との双方が同時に表示される。また、この図3の例では、同じ検査対象車両について行った複数回のホーン検査の結果が併せて点で表示されている。そして、今回の検査結果(例えばP1点として示す)が相対的に明るい点として表示され、過去の検査結果である他の点は相対的に暗い点として表示される。
【0032】
さらに、一実施例においては、検査員等による判断を容易とするために、異常度について正常・異常に2分する閾値が横軸と平行な直線(符号L1として示す)として表示されている。そして、検査結果を表す点は、正常となる閾値未満の領域内では青色で、閾値以上の領域内では赤色で、それぞれ表示される。
【0033】
一方、信頼度については、図3の表示で左側で信頼度が高く(パラメータρが小さい)、右側で信頼度が低い。従って、例えば、P2点の結果は、異常度が高く閾値L1以上であるものの、信頼度が低いことから、直ちにホーンが異常であるとは判断することができない。このような場合、例えば、再度のホーン検査を行うようにすることができる。P1点のように信頼度が高い検査結果は、相対的に信頼できる結果であると判断できる。
【0034】
図3に例示したようなマトリクス上の表示により、検査員等は、検査結果として、異常度に併せて検査員の操作に関連した信頼度を容易に認識することができる。また図3に示すように複数回の検査結果をまとめて表示することで、検査員等は複数回の検査結果を総合的に判断して、検査対象車両のホーンやホーンスイッチ等に何らかの異常があるかどうかを最終的に決定することができる。
【0035】
また、例えば、何回かの検査結果を示す複数の点が信頼度が低い側(図3の右側)に片寄っているような場合は、検査員の操作の傾向が全体として不適当であることを意味するので、検査員が自ら何らかの対応(例えばホーンスイッチを確実に所定時間押圧するなど)を試みることが容易となる。
【0036】
なお、図3のような表示のほか、異常度および信頼度を数値として表示する形態、異常度と信頼度とを切り換えて順次に表示する形態、等も可能である。
【0037】
図2は、上記の第1実施例の検査表示装置の処理の流れをフローチャートとして示したものである。まず初めに、音取得部10のマイクロフォンによってフリーローラ上で試走している車両からホーンの音を集音し、音データとして取得する(ステップ1)。次に、前述した対象音抽出部20としてホーンの音の分離・抽出を行う(ステップ2)。
【0038】
ステップ3では、抽出したホーンの音の周波数解析を行う。つまり、周波数特性解析部30として、FFT(Fast Fourier Transform)やウェーブレット解析などの周波数解析手法を用いてホーン音データを周波数に従って変換し、周波数スペクトルやスペクトログラム等の周波数データを生成する。次にステップ4へ進み、上記の周波数データを、基本特性データ記憶部50に蓄積された多数の正常部品の周波数データと比較して異常度を算出する。
【0039】
一方、ステップ5では、時間特性解析部40として、ステップ2で抽出したホーン音の時間振幅データの時間特性、この実施例では時間長を算出する。次にステップ6へ進み、上記の時間長を基本時間特性データ記憶部70に蓄積された多数の正常な時間長と比較して信頼度を算出する。
【0040】
次にステップ7へ進み、ステップ4,6でそれぞれ算出した異常度および信頼度に基づき、図3に例示したようなマトリクス状の二次元グラフ表示を作成し、これを表示部100となるディスプレイ上に表示する。
【0041】
最後にステップ8において、ホーン検査終了のための停止ボタンを検査員が押したかどうかを判定する。ディスプレイでの検査結果表示後に停止ボタンが操作されていなければ、ステップ1~7の処理つまりホーン検査を繰り返し実行する。停止ボタンが押圧されたら、検査を終了する。この検査終了時には、表示部100となるディスプレイ上にその旨の表示を行う。表示と合わせて終了のブザーや音声などで案内を出してもよい。
【0042】
次に、図4図6に基づいて第2実施例の検査表示装置について説明する。なお、以下では、第1実施例と異なる部分について主に説明する。第2実施例の検査表示装置は、正常/異常の判別および表示を行う点、異常度の閾値を信頼度に応じて変更ないし修正する点、信頼度算出の基礎となる時間特性として時間長に代えて波形ピークの包絡線を用いる点、の3点において第1実施例と異なる。
【0043】
図4は、第2実施例の検査表示装置の機能ブロック図を示している。第2実施例の検査表示装置は、第1実施例と同様に、音取得部10と、対象音抽出部20と、周波数特性解析部30と、時間特性解析部40と、基本特性データ記憶部50と、異常度算出部60と、基本時間特性データ記憶部70と、信頼度算出部80と、表示制御部90と、表示部100と、を備えており、さらに正常/異常判定部110を備えている。
【0044】
第2実施例においては、時間特性解析部40は、検査対象の部品音の時間振幅データの時間特性として、波形ピークの包絡線を求める。図10に包絡線の一例を示す。包絡線は、一般的に、曲線群f(x,y,t)=0の包絡線方程式f(x,y,t)=0として、∂∂tf(x,y,t)=0からtを消去する方法で得られる。例えば、図10に例示するように、音圧ないし振幅の変化を示す包絡線の傾きθを算出し、検査員の操作を示すパラメータとする。包絡線が以下のような一次式で表される場合は、係数Cが傾きθと同等であるため、その値を用いる。
【0045】
y=Ct+D (t=時間、CとDは係数)
基本時間特性データ記憶部70は、このような時間特性つまり包絡線の傾き(θ,C)について、多数の正常時のデータを蓄積している。
【0046】
信頼度算出部80は、時間特性解析部40が算出した包絡線の傾き(θ,C)を、基本時間特性データ記憶部70に蓄積された多数の正常時の時間特性データと比較し、前述した第1実施例と同様に、信頼度を示すパラメータρを算出する。
【0047】
包絡線の特性としては、上記のような単純な直線近似に限らず、包絡線全体の比較を行うようにしてもよい。なお、例えば加速時のエンジン音やトランスミッション音の検査の場合、アクセルペダルの踏込操作(開度増加速度)によって包絡線の傾きが変化するので、適切な操作であるかどうかを容易に推定することができる。
【0048】
正常/異常判定部110は、異常度算出部60および信頼度算出部80によってそれぞれ算出された異常度および信頼度に基づいて正常/異常判定を行う。ここでは、初めに、信頼度を示すパラメータρを所定の閾値Aと比較する。パラメータρが閾値A未満の場合は操作が適性で信頼の高いデータと判断し、異常度の判定のために、異常度αを閾値Bと比較する。異常度αが閾値B未満であれば正常と判断し、閾値B以上であれば異常と判断する。
【0049】
一方、信頼度を示すパラメータρが閾値A以上の場合は、信頼度が低く、正常/異常を判定できるレベルではないと判断し、最終的な正常/異常判定は行わない。
【0050】
ここで、第2実施例の正常/異常判定部110は、信頼度に応じて異常度用の閾値Bを可変的に設定する閾値設定部を具備しており、信頼度が低いほど閾値Bを低くする。つまり、異常度に関して正常と判断される領域が狭くなる。
【0051】
図6は、第2実施例の表示部100に表示される表示例を示している。この第2実施例では、第1実施例と同様に、横軸を信頼度とし縦軸を異常度としたマトリクス上の交点として検査結果である信頼度および異常度の双方が同時に表示される。そして、信頼度に関して閾値Aが縦軸と平行な直線(L2)で示され、異常度に関して閾値Bが横軸に沿った直線(L1)で示される。閾値Bの線(L1)は、信頼度に応じて閾値Bが変化することから、図示するように傾いた直線となる。
【0052】
さらに、信頼度が高く異常度が低い図左下の領域に正常であることを示す「OK」の文字が表示され、信頼度が高く異常度が高い図左上の領域に異常であることを示す「NG」の文字が表示される。第1実施例と同様に、今回検査した結果の点は相対的に明るく、以前の検査結果の点は相対的に暗く表示される。また、「OK」の領域内の点は青色で、「NG」の領域内の点は赤色でそれぞれ表示され、信頼度が低い図右側の領域内の点は、判定不能であることを示すように灰色で表示される。
【0053】
他の表示例としては、例えば、「正常」、「異常」、「判定不能」のみを文字列として表示する、なども可能である。
【0054】
図5は、第2実施例の検査表示装置の処理の流れを示すフローチャートであり、ステップ1で何らかの操作に基づく部品音を含む音を取得し、ステップ2で対象の部品(ホーンやエンジン等)の音の分離・抽出を行い、ステップ3で周波数解析を行い、ステップ4で正常な周波数データと比較して異常度を算出する。またステップ5で、時間特性として包絡線特性を求め、ステップ6でこれをを正常な包絡線特性と比較することで信頼度を算出する。
【0055】
次にステップ11へ進み、算出された信頼度に応じて異常度に関する閾値Bの算出を行う。次のステップ12では、算出された信頼度(この例ではパラメータρ)を閾値Aと比較し、パラメータρが閾値A未満(信頼度は高い)であればステップ13へ進む。ステップ13では、算出された異常度αを閾値Bと比較する。信頼度を示すパラメータρが閾値A以上であれば、ステップ13の判定は行わずにステップ7へ進む。
【0056】
ステップ13の判定で異常度αが閾値B未満であれば、ステップ14へ進み、「正常」と判定してその旨の表示の準備を行う。異常度αが閾値B以上であれば、ステップ15へ進み、「異常」と判定してその旨の表示の準備を行う。
【0057】
次のステップ7では、第1実施例と同様に、図6に例示したようなマトリクス状の二次元グラフ表示を作成し、これを表示部100となるディスプレイ上に表示する。そして最後にステップ8において、停止ボタンが押されたか判定する。
【0058】
次に、図7図9に基づいて第3実施例の検査表示装置について説明する。なお、以下では、第2実施例と異なる部分について主に説明する。第3実施例の検査表示装置は、信頼度の閾値を異常度に応じて変更ないし修正する点、信頼度算出の基礎となる時間特性として包絡線特性に代えて時間振幅データのプラス側とマイナス側とのバランスを用いる点、の2点において第2実施例と異なる。
【0059】
図7は、第3実施例の検査表示装置の機能ブロック図を示している。第3実施例の検査表示装置は、第2実施例と同様に、音取得部10と、対象音抽出部20と、周波数特性解析部30と、時間特性解析部40と、基本特性データ記憶部50と、異常度算出部60と、基本時間特性データ記憶部70と、信頼度算出部80と、表示制御部90と、表示部100と、正常/異常判定部110と、を備えている。
【0060】
第3実施例においては、時間特性解析部40は、検査対象の部品音の時間振幅データの時間特性として、時間振幅データにおける振幅のプラス側とマイナス側とのバランスを求める。図10にプラス側(Peak+)とマイナス側(Peak-)とのバランスの一例を示す。このバランスの不均衡は、ホーンのような単振動の部品の音の場合に発生することがあり、部品自体に問題があるのではなく、ホーンスイッチの操作状態によって発生し、異音と誤判定する1つの例となっている。
【0061】
振幅のプラス側/マイナス側のバランスは、一例では、単純にPeak+とPeak-の比率で表し、次式のように求める。
【0062】
ρ(B)=Peak+/Peak-
なお、振幅最大の1点でPeak+とPeak-とのバランスを求めても良く、あるいは時間軸の複数点でPeak+とPeak-とのバランスを求めるようにしてもよい。
【0063】
基本時間特性データ記憶部70は、このような時間特性つまり振幅のバランスについて、多数の正常時のデータを蓄積している。
【0064】
信頼度算出部80は、時間特性解析部40が算出したバランスρ(B)を、基本時間特性データ記憶部70に蓄積された多数の正常時のデータと比較し、前述した第1実施例と同様に、信頼度を示すパラメータρを算出する。
【0065】
正常/異常判定部110は、異常度算出部60および信頼度算出部80によってそれぞれ算出された異常度および信頼度に基づいて正常/異常判定を行う。つまり、信頼度を示すパラメータρを所定の閾値Aと比較して正常・異常に2分類するとともに、異常度αを閾値Bと比較して正常・異常に2分類する。従って、両者の組み合わせにより、計4つの群に分類する。
【0066】
ここで、第3実施例の正常/異常判定部110は、信頼度に応じて異常度用の閾値Bを可変的に設定する閾値設定部を具備するとともに、異常度に応じて信頼度に関するパラメータρ用の閾値Aを可変的に設定する第2の閾値設定部を具備している。第2実施例と同様に信頼度が低いほど閾値Bが低くなる。また、異常度が高いほどパラメータρと比較する閾値Aを低く(信頼度として高くなる)する。つまり、信頼度が低いほど異常度に関して正常と判断される領域が狭くなる。
【0067】
図9は、第3実施例の表示部100に表示される表示例を示している。この第3実施例では、第1,第2実施例と同様に、横軸を信頼度とし縦軸を異常度としたマトリクス上の交点として検査結果である信頼度および異常度の双方が同時に表示される。そして、信頼度に関する閾値Aおよび異常度に関して閾値Bがそれぞれ縦軸および横軸に対し傾いた直線(L2,L1)となる。これらの閾値A,Bによって、表示領域が4つの象限ないし領域に分割される。
【0068】
信頼度が高く異常度が低い図左下の領域には、正常であることを示す「OK」の文字が表示され、信頼度が高く異常度が高い図左上の領域には異常であることを示す「NG」の文字が表示される。第1実施例と同様に、今回検査した結果の点は相対的に明るく、以前の検査結果の点は相対的に暗く表示される。また、「OK」の領域内の点は青色で、「NG」の領域内の点は赤色でそれぞれ表示される。信頼度が低いものの異常度が閾値B未満である図右下の領域内の点は、正常である可能性が高いものとして緑色で表示される。信頼度が低くかつ異常度が閾値B以上である図右上の領域内の点は、異常である可能性が高いものとして灰色で表示される。
【0069】
検査員等は、このような表示に基づき、対象部品が正常であると最終判断して検査を終了する、対象部品が故障ないし異常であると最終判断して検査を終了する、再度検査を繰り返す、のいずれかを行うこととなる。
【0070】
図8は、第3実施例の検査表示装置の処理の流れを示すフローチャートであり、ステップ1で何らかの操作に基づく部品音を含む音を取得し、ステップ2で対象の部品(ホーン等)の音の分離・抽出を行い、ステップ3で周波数解析を行い、ステップ4で正常な周波数データと比較して異常度を算出する。またステップ5で、時間特性として振幅のプラス側/マイナス側のバランスを求め、ステップ6でこれを正常なデータと比較することで信頼度を算出する。
【0071】
次にステップ21へ進み、算出された異常度に応じて信頼度に関する閾値Aの算出を行う。また次のステップ11では、第2実施例と同じく、算出された信頼度に応じて異常度に関する閾値Bの算出を行う。ステップ12では、算出された信頼度(この例ではパラメータρ)を閾値Aと比較し、パラメータρが閾値A未満(信頼度は高い)であればステップ13へ進む。ステップ13では、算出された異常度αを閾値Bと比較する。
【0072】
ステップ13の判定で異常度αが閾値B未満であれば、ステップ14へ進み、「正常」と判定してその旨の表示の準備を行う。異常度αが閾値B以上であれば、ステップ15へ進み、「異常」と判定してその旨の表示の準備を行う。
【0073】
次のステップ7では、図9に例示したようなマトリクス状の二次元グラフ表示を作成し、これを表示部100となるディスプレイ上に表示する。そして最後にステップ8において、停止ボタンが押されたか判定する。
【0074】
以上、この発明の一実施例を説明したが、この発明は、上記の実施例に限らず、種々の応用が可能である。例えば、整備工場での点検整備などでの利用も可能である。また上記実施例では、操作の信頼度を判断するための時間振幅データにおける振幅の時間特性として、時間長、包絡線特性、プラス側/マイナス側のバランス、を例に挙げたが、他の要素を時間特性として用いてもよい。さらには、これらの要素を複数組み合わせて信頼度を算出するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0075】
10…音取得部
20…対象音抽出部
30…周波数特性解析部
40…時間特性解析部
50…基本特性データ記憶部
60…異常度算出部
70…基本時間特性データ記憶部
80…信頼度算出部
90…表示制御部
100…表示部
110正常/異常判定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11