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特開2023-149319蛍光体、その製造方法、および、それを用いた発光装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149319
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】蛍光体、その製造方法、および、それを用いた発光装置
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/65 20060101AFI20231005BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20231005BHJP
   C01B 32/05 20170101ALI20231005BHJP
   C01B 32/205 20170101ALI20231005BHJP
   H01L 33/50 20100101ALI20231005BHJP
   G02B 5/20 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C09K11/65
C09K11/08 A ZNM
C01B32/05
C01B32/205
H01L33/50
G02B5/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】26
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022057828
(22)【出願日】2022-03-31
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)令和3年11月27日公開、公益社団法人日本表面真空学会発行、The 9th International Symposium on Surface Science(ISSS-9)講演予稿集、01PS-43 P.360 (2)令和3年11月28日~12月1日開催、公益社団法人日本表面真空学会主催、The 9th International Symposium on Surface Science(ISSS-9)
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】長尾 忠昭
(72)【発明者】
【氏名】バルマン クマール バルン
(72)【発明者】
【氏名】岡野 佳子
【テーマコード(参考)】
2H148
4G146
4H001
5F142
【Fターム(参考)】
2H148AA00
2H148AA05
2H148AA07
2H148AA19
4G146AA01
4G146AA02
4G146AA15
4G146AA19
4G146AB04
4G146AC02B
4G146AC16B
4G146AC17B
4G146AC27B
4G146AD02
4G146AD03
4G146AD40
4G146BA11
4G146BA31
4G146BA38
4G146BB07
4G146BB09
4G146BC15
4G146BC27
4G146BC32A
4G146BC32B
4H001CA02
4H001XA06
4H001XA07
5F142BA32
5F142CA03
5F142CA13
5F142CD18
5F142CE03
5F142CE08
5F142CE16
5F142CG04
5F142DA42
5F142DA64
5F142DA72
5F142DA73
5F142GA21
(57)【要約】
【課題】 色度が調整された炭素ナノ粒子蛍光体を製造する方法、それによって得られる炭素ナノ粒子蛍光体、および、それを用いた発光装置を提供すること。
【解決手段】 本発明の炭素ナノ粒子蛍光体を製造する方法は、少なくとも炭素源を有機溶媒に溶解させた原料溶液を調製することと、原料溶液を加熱することとを包含する。本発明の炭素ナノ粒子蛍光体は、炭素元素、酸素元素、窒素元素、および、水素元素を含有、アモルファス炭素とグラファイト状炭素とを含有し、窒素元素は、ピリジン型窒素、アミド型窒素、ピロール型窒素、および、グラファイト型窒素を含む。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
色度が調整された炭素ナノ粒子蛍光体を製造する方法は、
少なくとも炭素源を有機溶媒に溶解させた原料溶液を調製することと、
前記原料溶液を加熱することと
を包含する、方法。
【請求項2】
前記炭素源は、クエン酸、クエン酸一水和物、クエン酸アンモニウム、安息香酸、アスコルビン酸、グルコース、フルクトース、および、スクロースからなる群から少なくとも1種選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
300nm以上380nm以下の範囲の波長を有する光が照射されたときに、前記炭素ナノ粒子蛍光体の発光する色が、CIE1931色度座標上の(x,y)の値で0.2≦x<0.3および0.25≦y≦0.4を満たす場合、
前記有機溶媒は、窒素を含有する有機溶媒であり、
300nm以上380nm以下の範囲の波長を有する光が照射されたときに、前記炭素ナノ粒子蛍光体の発光する色が、CIE1931色度座標上の(x,y)の値で0.3≦x<0.44および0.3≦y≦0.4を満たす場合、
前記有機溶媒は、ホルムアミド、および/または、N-メチルフォルムアミドであり、
前記調製することは、前記有機溶媒に、エチレンジアミン(EDA)、ジエタノールアミン(DEA)、尿素、チオ尿素、エタノールアミン(EA)、ドーパミン、L-シスチン、L-アルギニン、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、および、システアミンからなる群から少なくとも1種選択される窒素源をさらに溶解させ、
300nm以上380nm以下の範囲の波長を有する光が照射されたときに、前記炭素ナノ粒子蛍光体の発光する色が、CIE1931色度座標上の(x,y)の値で0.44≦x≦0.6および0.3≦y≦0.45を満たす場合、
前記有機溶媒は、ホルムアミドであり、
前記調製することは、前記有機溶媒に、水酸化アンモニウム、o-フェニレンジアミン、および、p-フェニレンジアミンからなる群から少なくとも1種選択される窒素源をさらに溶解させる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
300nm以上380nm以下の範囲の波長を有する光が照射されたときに、前記炭素ナノ粒子蛍光体の発光する色が、CIE1931色度座標上の(x,y)の値で0.2≦x<0.3および0.25≦y≦0.4を満たす場合、
前記有機溶媒中の炭素源の濃度は、0.05mol/L以上0.2mol/L以下の範囲を満たし、
300nm以上380nm以下の範囲の波長を有する光が照射されたときに、前記炭素ナノ粒子蛍光体の発光する色が、CIE1931色度座標上の(x,y)の値で0.3≦x<0.44および0.3≦y≦0.4を満たす場合、
前記有機溶媒中の前記炭素源の濃度は、0.05mol/L以上0.2mol/L以下の範囲を満たし、
前記有機溶媒中の前記窒素源の濃度は、0.05mol/L以上1.5mol/L以下の範囲を満たし、
300nm以上380nm以下の範囲の波長を有する光が照射されたときに、前記炭素ナノ粒子蛍光体の発光する色が、CIE1931色度座標上の(x,y)の値で0.44≦x≦0.6および0.3≦y≦0.45を満たす場合、
前記有機溶媒中の前記炭素源の濃度は、0.05mol/L以上0.2mol/L以下の範囲を満たし、
前記有機溶媒中の前記窒素源の濃度は、0.05mol/L以上3.0mol/L以下の範囲を満たす、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
300nm以上380nm以下の範囲の波長を有する光が照射されたときに、前記炭素ナノ粒子蛍光体の発光する色が、CIE1931色度座標上の(x,y)の値で0.2≦x<0.3および0.25≦y≦0.4を満たす場合、
前記有機溶媒は、ホルムアミドであり、
300nm以上380nm以下の範囲の波長を有する光が照射されたときに、前記炭素ナノ粒子蛍光体の発光する色が、CIE1931色度座標上の(x,y)の値で0.3≦x<0.44および0.3≦y≦0.4を満たす場合、
前記有機溶媒は、ホルムアミドであり、
前記窒素源は、エチレンジアミン、ジエタノールアミン、および、尿素からなる群から少なくとも1種選択され、
300nm以上380nm以下の範囲の波長を有する光が照射されたときに、前記炭素ナノ粒子蛍光体の発光する色が、CIE1931色度座標上の(x,y)の値で0.44≦x≦0.6および0.3≦y≦0.45を満たす場合、
前記有機溶媒は、ホルムアミドであり、
前記窒素源は、水酸化アンモニウムである、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
前記炭素源は、クエン酸である、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記原料溶液を加熱することは、前記原料溶液を、150℃以上230℃以下の温度で、5時間以上15時間以下の時間、加熱する、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記原料溶液を加熱することよって生成した生成物を回収し、真空中で加熱することをさらに包含する、請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記真空中で加熱することは、前記生成物を、1Pa以上10000Pa以下の真空度で、50℃以上70℃以下の時間、30分以上12時間以下の時間、加熱する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
炭素元素、酸素元素、窒素元素、および、水素元素を含有する炭素ナノ粒子蛍光体であって、
アモルファス炭素とグラファイト状炭素とを含有し、
前記窒素元素は、ピリジン型窒素、アミド型窒素、ピロール型窒素、および、グラファイト型窒素を含む、炭素ナノ粒子蛍光体。
【請求項11】
前記ピリジン型窒素の含有量は、前記グラファイト型窒素のそれよりも多く、
前記アモルファス炭素は、90体積%より大きく99体積%以下の範囲を満たし、
前記グラファイト状炭素は、1体積%以上10体積%未満の範囲を満たし、
300nm以上380nm以下の範囲の波長を有する光が照射されたときに、前記炭素ナノ粒子蛍光体の発光する色が、CIE1931色度座標上の(x,y)の値で0.2≦x<0.3および0.25≦y≦0.4を満たす、請求項10に記載の炭素ナノ粒子蛍光体。
【請求項12】
前記アモルファス炭素は、95体積%以上99体積%以下の範囲を満たし、
前記グラファイト状炭素は、1体積%以上5体積%以下の範囲を満たす、請求項11に記載の炭素ナノ粒子蛍光体。
【請求項13】
前記炭素元素の含有量p(原子%)、前記窒素元素の含有量q(原子%)および前記酸素元素の含有量r(原子%)(ただし、p+q+r=1)は、それぞれ、
0.58≦p≦0.65
0.22≦q≦0.30
0.12≦r<0.16
を満たす、請求項11または12に記載の炭素ナノ粒子蛍光体。
【請求項14】
前記炭素元素および窒素元素の含有量pとqとは、
0.38<q/p≦0.41
を満たす、請求項13に記載の炭素ナノ粒子蛍光体。
【請求項15】
前記ピリジン型窒素の含有量は、前記グラファイト型窒素のそれよりも少なく、
前記アモルファス炭素は、45体積%以上70体積%以下の範囲を満たし、
前記グラファイト状炭素は、30体積%以上55体積%以下の範囲を満たし、
300nm以上380nm以下の範囲の波長を有する光が照射されたときに、前記炭素ナノ粒子蛍光体の発光する色が、CIE1931色度座標上の(x,y)の値で0.3≦x<0.44および0.3≦y≦0.4を満たす、請求項10に記載の炭素ナノ粒子蛍光体。
【請求項16】
前記アモルファス炭素は、53体積%以上68体積%以下の範囲を満たし、
前記グラファイト状炭素は、32体積%以上47体積%以下の範囲を満たす、請求項15に記載の炭素ナノ粒子蛍光体。
【請求項17】
前記炭素元素の含有量p(原子%)、前記窒素元素の含有量q(原子%)および前記酸素元素の含有量r(原子%)(ただし、p+q+r=1)は、それぞれ、
0.57≦p≦0.65
0.20≦q<0.26
0.16≦r<0.19
を満たす、請求項15または16に記載の炭素ナノ粒子蛍光体。
【請求項18】
前記炭素元素および窒素元素の含有量pとqとは、
0.32<q/p<0.44
を満たす、請求項17に記載の炭素ナノ粒子蛍光体。
【請求項19】
前記ピリジン型窒素の含有量は、前記グラファイト型窒素のそれよりも少なく、
前記アモルファス炭素は、60体積%以上90体積%以下の範囲を満たし、
前記グラファイト状炭素は、10体積%以上40体積%以下の範囲を満たし、
300nm以上380nm以下の範囲の波長を有する光が照射されたときに、前記炭素ナノ粒子蛍光体の発光する色が、CIE1931色度座標上の(x,y)の値で0.44≦x≦0.6および0.3≦y≦0.45を満たす、請求項10に記載の炭素ナノ粒子蛍光体。
【請求項20】
前記アモルファス炭素は、60体積%以上83体積%以下の範囲を満たし、
前記グラファイト状炭素は、17体積%以上40体積%以下の範囲を満たす、請求項19に記載の炭素ナノ粒子蛍光体。
【請求項21】
前記炭素元素の含有量p(原子%)、前記窒素元素の含有量q(原子%)および前記酸素元素の含有量r(原子%)(ただし、p+q+r=1)は、それぞれ、
0.58≦p≦0.65
0.15≦q≦0.21
0.19≦r≦0.21
を満たす、請求項19または20に記載の炭素ナノ粒子蛍光体。
【請求項22】
前記炭素元素および窒素元素の含有量pとqとは、
0.25<q/p<0.34
を満たす、請求項21に記載の炭素ナノ粒子蛍光体。
【請求項23】
前記炭素ナノ粒子蛍光体は、1nm以上20nm以下の範囲の直径を有する、請求項10~22のいずれかに記載の炭素ナノ粒子蛍光体。
【請求項24】
少なくとも、励起源と蛍光体とを備える発光装置であって、
前記蛍光体は、請求項10~23のいずれかに記載の炭素ナノ粒子蛍光体を備える、発光装置。
【請求項25】
前記蛍光体は、前記炭素ナノ粒子蛍光体が分散した樹脂成形体である、請求項24に記載の発光装置。
【請求項26】
被験液が水を含有するか否かを判定する試験紙であって、
前記試験紙は、請求項10~23のいずれかに記載の炭素ナノ粒子蛍光体を含有する、試験紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体、その製造方法、および、それを用いた発光装置に関する。詳細には、本発明は、炭素ナノ粒子を用いた蛍光体、その製造方法、および、それを用いた発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、励起光の照射によって青色~赤色発光する炭素ナノ粒子蛍光体を含有する組成物が開発された(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1によれば、クエン酸、安息香酸、グルコース、フルクトースおよびスクロースからなる群から選択される有機物と、アミン類と、無機酸および酢酸から選択される一種以上とを水溶性溶媒に溶解させた溶液を水熱合成するステップと、水熱合成するステップによって得られた溶液にアルコールを添加し、撹拌するステップと、添加し、撹拌するステップによって得られた溶液の上澄み液を抽出するステップとを包含する方法によって、励起光の照射によって青色~赤色発光する炭素ナノ粒子蛍光体を含有する組成物を提供する。このような炭素ナノ粒子蛍光体の発光波長は、励起光に対する波長依存性を有しておらず、選択的に所望の発光波長を得ることができる。しかしながら、色度の調整(チューニング)は困難であった。
【0003】
また、グラフェン量子ドット蛍光体が報告されている(例えば、非特許文献1を参照)。非特許文献1によれば、窒素ドープしたグラフェン量子ドット蛍光体がクエン酸およびエチレンジアミンを用いた水熱合成により製造されること、さらに入射光の波長が変化することにより、発光波長が変化することを報告する。しかしながら、色度の調整はできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2018/163955号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Dan Quら,SCIENTIFIC REPORTS 4,5294,2014
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、色度が調整(チューニング)された炭素ナノ粒子蛍光体を製造する方法、それによって得られる色度が調整された炭素ナノ粒子蛍光体、それを用いた発光装置、および、それを用いた試験紙を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による色度が調整された炭素ナノ粒子蛍光体を製造する方法は、少なくとも炭素源を有機溶媒に溶解させた原料溶液を調製することと、前記原料溶液を加熱することとを包含、これにより上記課題を解決する。
前記炭素源は、クエン酸、クエン酸一水和物、クエン酸アンモニウム、安息香酸、アスコルビン酸、グルコース、フルクトース、および、スクロースからなる群から少なくとも1種選択されてもよい。
300nm以上380nm以下の範囲の波長を有する光が照射されたときに、前記炭素ナノ粒子蛍光体の発光する色が、CIE1931色度座標上の(x,y)の値で0.2≦x<0.3および0.25≦y≦0.4を満たす場合、前記有機溶媒は、窒素を含有する有機溶媒であり、
300nm以上380nm以下の範囲の波長を有する光が照射されたときに、前記炭素ナノ粒子蛍光体の発光する色が、CIE1931色度座標上の(x,y)の値で0.3≦x<0.44および0.3≦y≦0.4を満たす場合、前記有機溶媒は、ホルムアミド、および/または、N-メチルフォルムアミドであり、前記調製することは、前記有機溶媒に、エチレンジアミン(EDA)、ジエタノールアミン(DEA)、尿素、チオ尿素、エタノールアミン(EA)、ドーパミン、L-シスチン、L-アルギニン、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、および、システアミンからなる群から少なくとも1種選択される窒素源をさらに溶解させ、
300nm以上380nm以下の範囲の波長を有する光が照射されたときに、前記炭素ナノ粒子蛍光体の発光する色が、CIE1931色度座標上の(x,y)の値で0.44≦x≦0.6および0.3≦y≦0.45を満たす場合、前記有機溶媒は、ホルムアミドであり、前記調製することは、前記有機溶媒に、水酸化アンモニウム、o-フェニレンジアミン、および、p-フェニレンジアミンからなる群から少なくとも1種選択される窒素源をさらに溶解させてもよい。
300nm以上380nm以下の範囲の波長を有する光が照射されたときに、前記炭素ナノ粒子蛍光体の発光する色が、CIE1931色度座標上の(x,y)の値で0.2≦x<0.3および0.25≦y≦0.4を満たす場合、前記有機溶媒中の炭素源の濃度は、0.05mol/L以上0.2mol/L以下の範囲を満たし、
300nm以上380nm以下の範囲の波長を有する光が照射されたときに、前記炭素ナノ粒子蛍光体の発光する色が、CIE1931色度座標上の(x,y)の値で0.3≦x<0.44および0.3≦y≦0.4を満たす場合、前記有機溶媒中の前記炭素源の濃度は、0.05mol/L以上0.2mol/L以下の範囲を満たし、前記有機溶媒中の前記窒素源の濃度は、0.05mol/L以上1.5mol/L以下の範囲を満たし、
300nm以上380nm以下の範囲の波長を有する光が照射されたときに、前記炭素ナノ粒子蛍光体の発光する色が、CIE1931色度座標上の(x,y)の値で0.44≦x≦0.6および0.3≦y≦0.45を満たす場合、前記有機溶媒中の前記炭素源の濃度は、0.05mol/L以上0.2mol/L以下の範囲を満たし、前記有機溶媒中の前記窒素源の濃度は、0.05mol/L以上3.0mol/L以下の範囲を満たしてもよい。
300nm以上380nm以下の範囲の波長を有する光が照射されたときに、前記炭素ナノ粒子蛍光体の発光する色が、CIE1931色度座標上の(x,y)の値で0.2≦x<0.3および0.25≦y≦0.4を満たす場合、前記有機溶媒は、ホルムアミドであり、
300nm以上380nm以下の範囲の波長を有する光が照射されたときに、前記炭素ナノ粒子蛍光体の発光する色が、CIE1931色度座標上の(x,y)の値で0.3≦x<0.44および0.3≦y≦0.4を満たす場合、前記有機溶媒は、ホルムアミドであり、前記窒素源は、エチレンジアミン、ジエタノールアミン、および、尿素からなる群から少なくとも1種選択され、
300nm以上380nm以下の範囲の波長を有する光が照射されたときに、前記炭素ナノ粒子蛍光体の発光する色が、CIE1931色度座標上の(x,y)の値で0.44≦x≦0.6および0.3≦y≦0.45を満たす場合、前記有機溶媒は、ホルムアミドであり、前記窒素源は、水酸化アンモニウムであってもよい。
前記炭素源は、クエン酸であってもよい。
前記原料溶液を加熱することは、前記原料溶液を、150℃以上230℃以下の温度で、5時間以上15時間以下の時間、加熱してもよい。
前記原料溶液を加熱することよって生成した生成物を回収し、真空中で加熱することをさらに包含してもよい。
前記真空中で加熱することは、前記生成物を、1Pa以上10000Pa以下の真空度で、50℃以上70℃以下の時間、30分以上12時間以下の時間、加熱してもよい。
本発明による炭素元素、酸素元素、窒素元素、および、水素元素を含有する炭素ナノ粒子蛍光体は、アモルファス炭素とグラファイト状炭素とを含有し、前記窒素元素は、ピリジン型窒素、アミド型窒素、ピロール型窒素、および、グラファイト型窒素を含み、これにより上記課題を解決する。
前記ピリジン型窒素の含有量は、前記グラファイト型窒素のそれよりも多く、前記アモルファス炭素は、90体積%より大きく99体積%以下の範囲を満たし、前記グラファイト状炭素は、1体積%以上10体積%未満の範囲を満たし、300nm以上380nm以下の範囲の波長を有する光が照射されたときに、前記炭素ナノ粒子蛍光体の発光する色が、CIE1931色度座標上の(x,y)の値で0.2≦x<0.3および0.25≦y≦0.4を満たしてもよい。
前記アモルファス炭素は、95体積%以上99体積%以下の範囲を満たし、前記グラファイト状炭素は、1体積%以上5体積%以下の範囲を満たしてもよい。
前記炭素元素の含有量p(原子%)、前記窒素元素の含有量q(原子%)および前記酸素元素の含有量r(原子%)(ただし、p+q+r=1)は、それぞれ、
0.58≦p≦0.65
0.22≦q≦0.30
0.12≦r<0.16
を満たしてもよい。
前記炭素元素および窒素元素の含有量pとqとは、
0.38<q/p≦0.41
を満たしてもよい。
前記ピリジン型窒素の含有量は、前記グラファイト型窒素のそれよりも少なく、前記アモルファス炭素は、45体積%以上70体積%以下の範囲を満たし、前記グラファイト状炭素は、30体積%以上55体積%以下の範囲を満たし、300nm以上380nm以下の範囲の波長を有する光が照射されたときに、前記炭素ナノ粒子蛍光体の発光する色が、CIE1931色度座標上の(x,y)の値で0.3≦x<0.44および0.3≦y≦0.4を満たしてもよい。
前記アモルファス炭素は、53体積%以上68体積%以下の範囲を満たし、前記グラファイト状炭素は、32体積%以上47体積%以下の範囲を満たしてもよい。
前記炭素元素の含有量p(原子%)、前記窒素元素の含有量q(原子%)および前記酸素元素の含有量r(原子%)(ただし、p+q+r=1)は、それぞれ、
0.57≦p≦0.65
0.20≦q<0.26
0.16≦r<0.19
を満たしてもよい。
前記炭素元素および窒素元素の含有量pとqとは、
0.32<q/p<0.44
を満たしてもよい。
前記ピリジン型窒素の含有量は、前記グラファイト型窒素のそれよりも少なく、前記アモルファス炭素は、60体積%以上90体積%以下の範囲を満たし、前記グラファイト状炭素は、10体積%以上40体積%以下の範囲を満たし、300nm以上380nm以下の範囲の波長を有する光が照射されたときに、前記炭素ナノ粒子蛍光体の発光する色が、CIE1931色度座標上の(x,y)の値で0.44≦x≦0.6および0.3≦y≦0.45を満たしてもよい。
前記アモルファス炭素は、60体積%以上83体積%以下の範囲を満たし、前記グラファイト状炭素は、17体積%以上40体積%以下の範囲を満たしてもよい。
前記炭素元素の含有量p(原子%)、前記窒素元素の含有量q(原子%)および前記酸素元素の含有量r(原子%)(ただし、p+q+r=1)は、それぞれ、
0.58≦p≦0.65
0.15≦q≦0.21
0.19≦r≦0.21
を満たしてもよい。
前記炭素元素および窒素元素の含有量pとqとは、
0.25<q/p<0.34
を満たしてもよい。
前記炭素ナノ粒子蛍光体は、1nm以上20nm以下の範囲の直径を有してもよい。 本発明による発光装置は、少なくとも、励起源と蛍光体とを備え、前記蛍光体は、上述の炭素ナノ粒子蛍光体を備え、これにより上記課題を解決する。
前記蛍光体は、前記炭素ナノ粒子蛍光体が分散した樹脂成形体であってもよい。
本発明による被験液が水を含有するか否かを判定する試験紙は、上述の炭素ナノ粒子蛍光体を含有し、これにより上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の色度が調整された炭素ナノ粒子蛍光体を製造する方法は、少なくとも炭素源を有機溶媒に溶解させた原料溶液を調製することと、原料溶液を加熱することとを包含し、炭素源の種類や濃度、有機溶媒の種類、さらには、窒素源の種類や濃度を適宜選択することにより、色度を調整(チューニング)できる。本発明の炭素ナノ粒子蛍光体は、炭素元素、酸素元素、窒素元素、および、水素元素を含有し、アモルファス炭素とグラファイト状炭素とを含有し、記窒素元素は、ピリジン型窒素、アミド型窒素、ピロール型窒素、および、グラファイト型窒素を含む。上述の方法によって、アモルファス炭素とグラファイト状炭素との割合を調整し、組成比を制御することにより、色度を調整できる。このような蛍光体を用いれば、黒体軌跡の近傍に色度を有し、比較的自然光に近い発光を生ずる発光装置を提供できる。本発明の蛍光体は、水に対して発光強度が低下するため、発光強度の変化から液体中に水を含有するか否かを判定する試験紙を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の色度が調整された炭素ナノ粒子蛍光体を製造するフローを示す図
図2】本発明の炭素ナノ粒子蛍光体を用いた発光装置を示す模式図
図3】本発明の炭素ナノ粒子蛍光体を用いた試験紙を示す模式図
図4】例1の反応式と、例1の液体試料の発光の様子とを示す図
図5】例2~例6の反応式と、例2~例6の液体試料の発光の様子とを示す図
図6】例7~例8の反応式と、例7~例8の液体試料の発光の様子とを示す図
図7】例1、例2および例7の粉末試料のXRDパターンを示す図
図8】例1の液体試料の種々の倍率のTEM像を示す図
図9】例2の液体試料の種々の倍率のTEM像を示す図
図10】例7の液体試料の種々の倍率のTEM像を示す図
図11】例1、例2および例7の液体試料のXPSスペクトルを示す図
図12】例1の液体試料の逆畳み込みHRXPSスペクトルを示す図
図13】例2の液体試料の逆畳み込みHRXPSスペクトルを示す図
図14】例7の液体試料の逆畳み込みHRXPSスペクトルを示す図
図15図12図14から算出した窒素ドーピングセンターの量の変化を示す図
図16】例1、例2および例7の液体試料のATR-FTIRスペクトルを示す図
図17】例1、例2および例7の液体試料の吸収スペクトルを示す図
図18】例1、例2および例7の液体試料の発光スペクトルを示す図
図19】例3~例4の液体試料の吸収スペクトルを示す図
図20】例5~例6の液体試料の吸収スペクトルを示す図
図21】例1~例8の液体試料の発光をプロットしたCIE色度図
図22】例1の液体試料の2次元発光マッピングを示す図
図23】例2の液体試料の2次元発光マッピングを示す図
図24】例7の液体試料の2次元発光マッピングを示す図
図25】例9による樹脂成形体の外観を示す図
図26】例9による樹脂成形体の蛍光スペクトルを示す図
図27】例9による樹脂成形体の発光をプロットしたCIE色度図
図28】試験紙の製造プロシージャおよび試験の様子を示す図
図29】試験紙を用いた判定の様子を示す図
図30】種々の水に対する発光スペクトルを示す図
図31図30の発光強度の重水濃度依存性を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。なお、同様の要素には同様の番号を付し、その説明を省略する。
【0011】
(実施の形態1)
実施の形態1では、本発明の色度が調整(チューニング)された炭素ナノ粒子蛍光体を製造する方法、および、それによって得られた炭素ナノ粒子蛍光体について説明する。
【0012】
図1は、本発明の色度が調整された炭素ナノ粒子蛍光体を製造するフローを示す図である。
【0013】
ステップS110:少なくとも炭素源を有機溶媒に溶解させた原料溶液を調製すること。
ステップS120:原料溶液を加熱すること。
本願発明者らは、水熱合成ではなく、有機溶媒を用いて炭素源を加熱するだけで、炭素ナノ粒子蛍光体が得られることを発見し、特に、炭素源の種類や濃度、有機溶媒の種類、さらには、窒素源の種類や濃度を適宜選択することにより、色度を黒体軌跡に沿って調整できることを実験から見出した。各工程を詳細に説明する。
【0014】
ステップS110で使用する炭素源は、ステップS120の加熱によって分解され、炭素となる有機物であれば特に制限はないが、好ましくは、クエン酸、クエン酸一水和物、クエン酸アンモニウム、安息香酸、アスコルビン酸、グルコース、フルクトース、および、スクロースからなる群から少なくとも1種選択される。これらの有機物は入手が容易であり、ステップS120の加熱によって分解され、炭素ナノ粒子蛍光体を構成し得る。中でも、クエン酸は、黒体軌跡上または近辺の色度および色温度を達成する炭素ナノ粒子蛍光体が得られるため好ましい。
【0015】
ステップS110で使用する有機溶媒は、特に制限はないが、好ましくは、窒素を含有するものを使用できる。窒素を含有することにより、窒素ドープされた炭素ナノ粒子蛍光体が得られる。このような有機溶媒には、ホルムアミド、および/または、N-メチルフォルムアミドがある。これらは、上述の炭素源ンを溶解できるので好ましい。
【0016】
ステップS110において、上述の炭素源に加えて、有機溶媒に窒素源をさらに溶解させた原料溶液を調製してもよい。これにより、窒素ドープ量を制御できる。このような窒素源には、エチレンジアミン(EDA)、ジエタノールアミン(DEA)、尿素、チオ尿素、エタノールアミン(EA)、ドーパミン、L-シスチン、L-アルギニン、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、システアミン、水酸化アンモニウム、o-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン等がある。これらは、有機溶媒に溶解し得、ピリジン型窒素、アミド型窒素、ピロール型窒素、グラファイト型窒素等のドーピングを可能とする。
【0017】
ステップS120により、アモルファス炭素とグラファイト状炭素とを生成できる。ここで、加熱は、炭素源を分解し、炭素と有機溶媒中の窒素あるいは窒素源中の窒素とが反応する限り特に制限はないが、好ましくは、原料溶液を、150℃以上230℃以下の温度で、5時間以上15時間以下の時間、加熱する。この条件であれば、反応が効率的に進み、炭素ナノ粒子蛍光体が得られる。加熱は、より好ましくは、170℃以上210℃以下の温度で、7時間以上10時間以下の時間、行う。
【0018】
このようにして炭素ナノ粒子蛍光体が溶媒中に分散した状態で得られるが、炭素ナノ粒子蛍光体を粉末で得る場合には、図1のステップS130に示すように、得られた生成物を遠心分離等によって回収し、真空中で加熱してもよい。
【0019】
好ましくは、生成物を、1Pa以上10000Pa以下の真空度で、50℃以上70℃以下の時間、30分以上12時間以下の時間、加熱する。これにより、効率的に生成物を回収できる。
【0020】
本願発明者らは、炭素源、有機溶媒、必要に応じて窒素源を選択し、その濃度を調製することにより、色度が調整された、さらには黒体軌跡上または近傍の炭素ナノ粒子蛍光体を提供できることを見出した。このような色度に調整された炭素ナノ粒子蛍光体を、分かりやすさのために、シアン系、白色系、橙色系の炭素ナノ粒子蛍光体と称して、これらの蛍光体の製造方法を説明する。
【0021】
<シアン系>
シアン系炭素ナノ粒子蛍光体とは、300nm以上380nm以下の範囲の波長を有する光が照射されたときに、炭素ナノ粒子蛍光体の発光する色が、CIE1931色度座標上の(x,y)の値で0.2≦x<0.3および0.25≦y≦0.4を満たすものである。
【0022】
この場合には、ステップS110において、上述の炭素源を、窒素を含有する有機溶媒に溶解させた原料溶液を調製するだけでよい。これにより、ピリジン型窒素の含有量がグラファイト型窒素のそれよりも多くなり、90体積%より大きく99体積%以下の範囲を満たすアモルファス炭素、および、1体積%以上10体積%未満の範囲を満たすグラファイト状炭素を含有し、上述の発光色を満たし得る。ここで、アモルファス炭素およびグラファイト状炭素の合計量を100体積%とする。
【0023】
より好ましくは、有機溶媒中の炭素源の濃度は、0.05mol/L以上0.2mol/L以下の範囲を満たす。この範囲であれば、95体積%以上99体積%以下の範囲を満たすアモルファス炭素、および、1体積%以上5体積%以下の範囲を満たすグラファイト状炭素を含有した、シアン系炭素ナノ粒子蛍光体が得られる。
【0024】
なお好ましくは、有機溶媒中の炭素源の濃度は、0.1mol/L以上0.15mol/L以下の範囲を満たす。さらに好ましくは、有機溶媒はホルムアミドであり、炭素源はクエン酸である。この場合、後述する所定の組成式を満たし、上記色度座標内の黒体軌跡からの偏差(Duv)を±0.03の範囲に抑えることができる。なお、黒体軌跡からの偏差は、JIS Z8725に開示される評価手法に準じて評価した。
【0025】
<白色系>
白色系炭素ナノ粒子蛍光体とは、300nm以上380nm以下の範囲の波長を有する光が照射されたときに、炭素ナノ粒子蛍光体の発光する色が、CIE1931色度座標上の(x,y)の値で0.3≦x<0.44および0.3≦y≦0.4を満たすものである。
【0026】
この場合には、ステップS110において、上述の炭素源を、有機溶媒として、ホルムアミド、および/または、N-メチルフォルムアミドに溶解させるとともに、エチレンジアミン(EDA)、ジエタノールアミン(DEA)、尿素、チオ尿素、エタノールアミン(EA)、ドーパミン、L-シスチン、L-アルギニン、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、および、システアミンからなる群から少なくとも1種選択される窒素源をさらに溶解させた原料溶液を調製すればよい。これにより、ピリジン型窒素の含有量は、グラファイト型窒素のそれよりも少なくなり、45体積%以上70体積%以下の範囲を満たすアモルファス炭素、および、30体積%以上55体積%以下の範囲を満たすグラファイト状炭素を含有した、白色系炭素ナノ粒子蛍光体が得られる。ここで、アモルファス炭素およびグラファイト状炭素の合計量を100体積%とする。
【0027】
より好ましくは、有機溶媒中の炭素源の濃度は、0.05mol/L以上0.2mol/L以下の範囲を満たし、かつ、有機溶媒中の窒素源の濃度は、0.05mol/L以上1.5mol/L以下の範囲を満たす。この範囲であれば、53体積%以上68体積%以下の範囲を満たすアモルファス炭素、および、32体積%以上47体積%以下の範囲を満たすグラファイト状炭素を含有した、白色系炭素ナノ粒子蛍光体が得られる。
【0028】
なお好ましくは、有機溶媒中の炭素源の濃度は、0.1mol/L以上0.15mol/L以下の範囲を満たし、かつ、有機溶媒中の窒素源の濃度は、0.05mol/L以上1.0mol/L以下の範囲を満たす。この範囲であれば、効率よく白色系炭素ナノ粒子蛍光体が得られる。
【0029】
さらに好ましくは、有機溶媒はホルムアミドであり、炭素源はクエン酸であり、窒素源は、エチレンジアミン、ジエタノールアミン、および、尿素からなる群から少なくとも1種選択される。この場合、後述する所定の組成式を満たし、上記色度座標内の黒体軌跡からの偏差を±0.01の範囲に抑えることができる。
【0030】
<橙色系>
橙色系炭素ナノ粒子蛍光体とは、300nm以上380nm以下の範囲の波長を有する光が照射されたときに、炭素ナノ粒子蛍光体の発光する色が、CIE1931色度座標上の(x,y)の値で0.44≦x≦0.6および0.3≦y≦0.45を満たすものである。
【0031】
この場合には、ステップS110において、上述の炭素源を、有機溶媒として、ホルムアミドに溶解させるとともに、水酸化アンモニウム、o-フェニレンジアミン、および、p-フェニレンジアミンからなる群から少なくとも1種選択される窒素源をさらに溶解させた原料溶液を調製すればよい。これにより、ピリジン型窒素の含有量は、グラファイト型窒素のそれよりも少なくなり、60体積%以上90体積%以下の範囲を満たすアモルファス炭素、および、10体積%以上40体積%以下の範囲を満たすグラファイト状炭素を含有した、橙色系炭素ナノ粒子蛍光体が得られる。ここで、アモルファス炭素およびグラファイト状炭素の合計量を100体積%とする。
【0032】
より好ましくは、有機溶媒中の炭素源の濃度は、0.05mol/L以上0.2mol/L以下の範囲を満たし、かつ、有機溶媒中の窒素源の濃度は、0.05mol/L以上3.0mol/L以下の範囲を満たす。この範囲であれば、77体積%以上83体積%以下の範囲を満たすアモルファス炭素、および、17体積%以上23体積%以下の範囲を満たすグラファイト状炭素を含有した、橙色系炭素ナノ粒子蛍光体が得られる。
【0033】
なお好ましくは、有機溶媒中の炭素源の濃度は、0.1mol/L以上0.15mol/L以下の範囲を満たし、かつ、有機溶媒中の窒素源の濃度は、0.5mol/L以上2.5mol/L以下の範囲を満たす。この範囲であれば、効率よく橙色系炭素ナノ粒子蛍光体が得られる。なおさらに好ましくは、有機溶媒中の窒素源の濃度は、0.5mol/L以上1mol/L以下の範囲を満たす。
【0034】
さらに好ましくは、有機溶媒はホルムアミドであり、炭素源はクエン酸であり、窒素源は水酸化アンモニウムである。この場合、後述する所定の組成式を満たし、上記色度座標内の黒体軌跡からの偏差を±0.01の範囲に抑えることができる。
【0035】
次に、このようにして得られる本発明の炭素ナノ粒子蛍光体について説明する。
本発明のナノ粒子蛍光体は、炭素を主成分とするが、上述の原料溶液を用いることにより、炭素元素、酸素元素、窒素元素、および、水素元素を含有する。ここで、主成分である炭素として、アモルファス炭素およびグラファイト状炭素を含有し、これらの量を制御することにより、発光色、色度、色温度を制御できる。アモルファス炭素は、非晶質炭素であり、グラファイト状炭素は、結晶性炭素である。これらは、粉末X線回折において2θ=20.5°近傍にブロードなピークが観察されれば、アモルファス炭素が存在しており、2θ=27°近傍にシャープなピークが観察されれば、グラファイト状炭素が存在していると判断できる。
【0036】
本発明のナノ粒子蛍光体は、窒素元素として、ピリジン型窒素、アミド型窒素、ピロール型窒素、および、グラファイト型窒素を含有する。これらの含有量などによって、発光色、色度、色温度を制御できる。ここで、ピリジン型窒素、アミド型窒素、ピロール型窒素、グラファイト型窒素は、次式に示す構造式で表される。なお、アミド型窒素のRは、水素または炭素数1~5のアルキル基であってよい。これらの窒素元素の存在は、X線光電子分光(XPS)測定によって得られるN1sスペクトルのピーク位置から判断できる。これらの窒素元素をまとめて窒素ドーピングセンターと呼ぶ場合がある。
【0037】
【化1】
【0038】
本願発明者らは、上述の製造方法によって炭素ナノ粒子蛍光体が得られ、特に、アモルファス炭素およびグラファイト状炭素の量の制御、窒素ドーピングセンターの量的関係、および、組成制御をすることにより、色度が調整された、さらには黒体軌跡上または近傍の炭素ナノ粒子蛍光体となることを見出した。このような色度が調整された炭素ナノ粒子蛍光体を、分かりやすさのために、シアン系、白色系、橙色系の炭素ナノ粒子蛍光体と称して、これらの蛍光体を説明する。
【0039】
<シアン系>
シアン系炭素ナノ粒子蛍光体とは、300nm以上380nm以下の範囲の波長を有する光が照射されたときに、炭素ナノ粒子蛍光体の発光する色が、CIE1931色度座標上の(x,y)の値で0.2≦x<0.3および0.25≦y≦0.4を満たすものである。
【0040】
この場合、ピリジン型窒素の含有量がグラファイト型窒素のそれよりも多くなる。さらに、アモルファス炭素およびグラファイト状炭素の合計量を100体積%とすると、シアン系炭素ナノ粒子蛍光体は、90体積%より大きく99体積%以下の範囲を満たすアモルファス炭素、および、1体積%以上10体積%未満の範囲を満たすグラファイト状炭素を含有する。アモルファス炭素が顕著に多くなることにより、シアン系の発光を示す。アモルファス炭素とグラファイト状炭素との含有量は、粉末X線回折における2θ=20.5°、27°の各ピークの強度比から算出される。
【0041】
シアン系炭素ナノ粒子蛍光体は、より好ましくは、95体積%以上99体積%以下の範囲を満たすアモルファス炭素、および、1体積%以上5体積%以下の範囲を満たすグラファイト状炭素を含有する。これにより色純度のよい蛍光体となり得る。
【0042】
シアン系炭素ナノ粒子蛍光体において、好ましくは、炭素元素の含有量p(原子%)、窒素元素の含有量q(原子%)および酸素元素の含有量r(原子%)(ただし、p+q+r=1)は、それぞれ、
0.58≦p≦0.65
0.22≦q≦0.30
0.12≦r<0.16
を満たす。これにより、上記色度座標内の黒体軌跡からの偏差を±0.03の範囲に抑えることができる。より好ましくは、含有量pとqとが、0.38<q/p≦0.41を満たす。
【0043】
<白色系>
白色系炭素ナノ粒子蛍光体とは、300nm以上380nm以下の範囲の波長を有する光が照射されたときに、炭素ナノ粒子蛍光体の発光する色が、CIE1931色度座標上の(x,y)の値で0.3≦x<0.44および0.3≦y≦0.4を満たすものである。
【0044】
この場合、ピリジン型窒素の含有量は、グラファイト型窒素のそれよりも少なくなり、白色系炭素ナノ粒子蛍光体は、45体積%以上70体積%以下の範囲を満たすアモルファス炭素、および、30体積%以上55体積%以下の範囲を満たすグラファイト状炭素を含有する。また、アモルファス炭素の含有量が、グラファイト状炭素のそれよりも多い。ここで、アモルファス炭素およびグラファイト状炭素の合計量を100体積%とする。
【0045】
白色系炭素ナノ粒子蛍光体は、より好ましくは、53体積%以上68体積%以下の範囲を満たすアモルファス炭素、および、32体積%以上47体積%以下の範囲を満たすグラファイト状炭素を含有する。これにより、青白、白色、温白色の発光を可能にする。
【0046】
白色系炭素ナノ粒子蛍光体において、好ましくは、炭素元素の含有量p(原子%)、窒素元素の含有量q(原子%)および酸素元素の含有量r(原子%)(ただし、p+q+r=1)は、それぞれ、
0.57≦p≦0.65
0.20≦q<0.26
0.16≦r<0.19
を満たす。これにより、上記色度座標内の黒体軌跡からの偏差を±0.01の範囲に抑えることができる。より好ましくは、含有量pとqとが、0.32<q/p<0.44を満たす。
【0047】
<橙色系>
橙色系炭素ナノ粒子蛍光体とは、300nm以上380nm以下の範囲の波長を有する光が照射されたときに、炭素ナノ粒子蛍光体の発光する色が、CIE1931色度座標上の(x,y)の値で0.44≦x≦0.6および0.3≦y≦0.45を満たすものである。
【0048】
この場合、ピリジン型窒素の含有量は、グラファイト型窒素のそれよりも少なくなる。橙色系炭素ナノ粒子蛍光体は、60体積%以上90体積%以下の範囲を満たすアモルファス炭素、および、10体積%以上40体積%以下の範囲を満たすグラファイト状炭素を含有する。ここで、アモルファス炭素およびグラファイト状炭素の合計量を100体積%とする。
【0049】
橙色系炭素ナノ粒子蛍光体は、より好ましくは、60体積%以上83体積%以下の範囲を満たすアモルファス炭素、および、17体積%以上40体積%以下の範囲を満たすグラファイト状炭素を含有する。これにより、色純度のよい発光を可能にする。
【0050】
橙色系炭素ナノ粒子蛍光体において、好ましくは、炭素元素の含有量p(原子%)、窒素元素の含有量q(原子%)および酸素元素の含有量r(原子%)(ただし、p+q+r=1)は、それぞれ、
0.58≦p≦0.65
0.15≦q≦0.21
0.19≦r≦0.21
を満たす。これにより、上記色度座標内の黒体軌跡からの偏差を±0.01の範囲に抑えることができる。より好ましくは、含有量pとqとが、0.25<q/p<0.34を満たす。
【0051】
本発明の炭素ナノ粒子蛍光体は、上述したように、アモルファス炭素およびグラファイト状炭素の量、窒素ドーピングセンターの量、および、組成が制御されることにより、色度が調整された発光をするが、特筆すべきは、黒体軌跡からの偏差が±0.01となる発光を1つの材料で可能とすることである。
【0052】
加えて、本発明の炭素ナノ粒子蛍光体は、300nm以上380nm以下の範囲の波長を有する光(励起光)が照射されて発光するが、励起光の波長が変化すると、その発光波長も変化する。すなわち、励起光の波長が長波長になると、発光波長も長波長側へレッドシフトする。例えば、白色系炭素ナノ粒子蛍光体は、300nm以上380nm以下の範囲の波長を有する光が照射されたときに、CIE1931色度座標上の(x,y)の値で0.3≦x<0.44および0.3≦y≦0.4を満たし、白色発光するが、励起光の波長が450nmのときに、緑色発光し、励起光の波長が525nmのときに、黄緑色発光し、励起光の波長が550nmのときに、橙色発光し、励起光の波長が600nmのときに、赤色発光する。
【0053】
本発明の炭素ナノ粒子蛍光体は、ナノオーダの粒径を有するナノ粒子からなるが、好ましくは、1nm以上20nm以下の範囲の直径を有する。この範囲であれば、発光効率が高い。
【0054】
本発明の炭素ナノ粒子蛍光体は、-OH、-CONH、C=O、-COOH、C=C、O-C=O、C-H、N-H等の官能基や結合を有してもよい。これにより、高効率な可視光発光を可能にする。これらの結合は、赤外吸収スペクトルによって確認される。
【0055】
本発明の炭素ナノ粒子蛍光体は、溶媒や樹脂等に分散させてもよい。これにより濃度消光の影響が小さくなり、発光効率が高くなる。このような溶媒には、例えば、合成に用いた有機溶媒以外にもジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド等であってもよいし、水であってもよい。樹脂は、紫外域から可視域までの波長を有する光を透過する水溶性高分子であればよく、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリルアミド、ポリエチレンイミン、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、カルボキシルビニルポリマーなどを選択できる。このような樹脂であれば、スピンコートや滴下等による薄膜、乾燥によるバルク体、電界紡糸等によるファイバといった樹脂成形体を提供できる。このような樹脂成形体であれば、取り扱いが容易である。
【0056】
なお、溶媒や樹脂等に分散させた場合、炭素ナノ粒子蛍光体の含有量は、好ましくは、0.01質量%以上5質量%以下の範囲である。この範囲であれば、高い発光強度および高い量子効率が期待できる。より好ましくは、炭素ナノ粒子蛍光体の含有量は、0.01質量%以上1質量%以下の範囲である。
【0057】
(実施の形態2)
実施の形態2では、本発明の炭素ナノ粒子蛍光体を用いた発光装置を説明する。
図2は、本発明の炭素ナノ粒子蛍光体を用いた発光装置を示す模式図である。
【0058】
本発明の発光装置は、少なくとも励起源と蛍光体とを備え、蛍光体は、上述の炭素ナノ粒子蛍光体を含む。このような構成により、所望の発光色を有する発光装置を提供できる。
【0059】
励起源は、発光ダイオード、レーザダイオード、有機EL、半導体レーザ、蛍光ランプなどがあるが、200nm以上600nm以下の範囲にピークを有する光を発するものが使用される。中でも、330nm以上420nm以下の範囲にピークを有する紫色発光ダイオードは、本発明の炭素ナノ粒子蛍光体を効率よく励起できるので、好ましい。
【0060】
図2の発光装置200は、基板実装型白色発光ダイオードランプを示す。発光装置200は、リードワイヤ210、220を有し、これらは可視光反射率の高い白色のアルミナ基板230に固定されている。一方のリードワイヤ210の片端には発光ピーク波長が405nmである紫色発光ダイオード素子240が載置され、導電性ペースト等により電気的に接続される。紫色発光ダイオード素子240は、もう一方のリードワイヤ220と金細線250によって電気的に接続される。リードワイヤ210、220の他端は、外部に出ており、電極として機能する。
【0061】
紫色発光ダイオード素子240は、本発明の炭素ナノ粒子蛍光体が樹脂に分散した樹脂成形体260で覆われている。ここでは、炭素ナノ粒子蛍光体として白色系炭素ナノ粒子蛍光体とする。アルミナ基板230には白色のシリコーン樹脂等によって形成される壁面部材280が設けられ、その中央部に樹脂成形体260で覆われた紫色発光ダイオード素子240が位置する。壁面部材280の中央部において、樹脂成形体260で覆われた紫色発光ダイオード素子240が、エポキシ樹脂等の透明な樹脂270で封止される。
【0062】
発光装置200のリードワイヤ210、220に通電すると、紫色発光ダイオード素子240は、ピーク波長が405nmである光を発する。この光は、本発明の樹脂成形体260に入射し、樹脂成形体260内の炭素ナノ粒子蛍光体が励起され、白色光を発する。白色光は、樹脂270を透過し、外部へ出る。このようにして、発光装置200は白色光を発するよう機能する。
【0063】
ここでは、樹脂成形体260は、紫色発光ダイオード素子240を覆うように構成されているがこれに限らない。例えば、樹脂成形体260は、紫色発光ダイオード素子240の発光面に載置してもよいし、樹脂270上に載置されてもよい。あるいは、樹脂270に代えて、全体が樹脂成形体260であってもよい。
【0064】
また、ここでは、樹脂成形体260は、白色光を発する炭素ナノ粒子蛍光体のみを蛍光体として含有するものとして説明したが、シアン系炭素ナノ粒子蛍光体や橙色系炭素ナノ粒子蛍光体を用いてもよいことは言うまでもない。また、紫色発光ダイオード素子に代えて、波長可変レーザを用い、白色から赤色まで可変な発光装置を提供してもよい。このような改変も本発明の範囲内である。
【0065】
図2を参照して、基板実装型白色発光ダイオードランプを説明したが、本発明の炭素ナノ粒子蛍光体を砲弾型白色発光ダイオードランプに採用してもよい。このような改変は当業者であれば容易に行える。
【0066】
(実施の形態3)
実施の形態3では、本発明の炭素ナノ粒子蛍光体を用いた試験紙を説明する。
本願発明者らは、本発明の炭素ナノ粒子蛍光体が水(HO)または重水(DO)と接触することにより、その発光強度が低下することを発見した。このような特性を利用し、被験液中に水(HO)または重水(DO)を含有するかを簡便に判定する試験紙を提供できる。
【0067】
図3は、本発明の炭素ナノ粒子蛍光体を用いた試験紙を示す模式図である。
【0068】
試験紙300は、検査領域310を備えた台紙320からなる。検査領域310には、実施の形態1で説明した炭素ナノ粒子蛍光体が含有される。台紙320は、炭素ナノ粒子蛍光体を分散して担持可能な紙であれば特に制限はないが、好ましくは、セルロースファイバである。セルロースファイバは、-OH、-COOH等の表面官能基を有しており、これらが炭素ナノ粒子蛍光体を吸着し、互いに凝集することを抑制できる。このため、セルロースファイバを用いれば、濃度消光が抑制され、発光強度に優れ、目視にて容易に判断可能な試験紙を提供できる。
【0069】
図3では、6つの検査領域310を示すが、検査領域は台紙全体であってもよい。区分けされることにより、複数の被験液の同時判別に有利である。なお、このような試験紙300は、台紙320に炭素ナノ粒子蛍光体が分散した組成物を滴下し、乾燥させることによって製造される。
【0070】
次に、このような試験紙300を用いて、被験液が水を含有するか否かの判定方法を説明する。ここで、水は軽水(HO)であってもよいし、重水(DO)であってもよい。まず、試験紙300の検査領域310の1つの領域にコントロールとして水を含有しない液体を滴下する。次いで、他の領域に被験液を滴下し、励起源を照射し、その発光の様子を観察する。コントロールの発光に対して、目視にて発光強度が小さい検査領域があれば、その領域の被験液は、水を含有すると判定できる。
【0071】
発光強度は、水の含有量によって線形に低下するため、予め、水の含有量と発光強度との関係を保持しておけば、発光スペクトルを測定することにより、水の含有量を求めることもできる。
【0072】
さらに、本発明の炭素ナノ粒子蛍光体の発光強度は、軽水と重水とによっても異なる。重水の比率が高いほど、発光強度は高くなり、軽水の比率が高いほど、発光強度は低くなる。このような特性を利用し、被験液中の軽水や重水の含有量を判定できる。
【0073】
次に具体的な実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明がこれら実施例に限定されないことに留意されたい。
【実施例0074】
[例1~例8]
例1~例8では、炭素ナノ粒子蛍光体を、ソルボサーマル法を用いて合成した。
【0075】
詳細には、表1に示す条件で、炭素源としてクエン酸(富士フイルム和光純薬株式会社製)、必要に応じて窒素源としてエチレンジアミン(EDA、シグマアルドリッチ製、純度>99.5%、比重D=0.899g/mL)、ジメチルアミン(DEA、富士フイルム和光純薬株式会社製)、尿素(富士フイルム和光純薬株式会社製)、水酸化アンモニウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)を、有機溶媒としてホルムアミド(富士フイルム和光純薬株式会社製)に溶解させ、原料溶液を調製した(図1のステップS110)。次いで、原料溶液を表1に示す加熱条件で加熱した(図1のステップS120)。
【0076】
得られた生成物を遠心分離(回転速度;800rpm)し、ミリQ水およびエタノールで数回洗浄した。洗浄後の生成物を真空中(真空度;1~1000Pa)で60℃、4時間乾燥させた。このようにして、例1~例8の粉末試料を得た。次いで、例1~例8の粉末試料をジメチルスルホキシド(DMSO、富士フイルム和光純薬株式会社製)に分散させ、20nmシリンジを通した。このとき、DMSO中の生成物の濃度は、0.0025質量%(0.025mg/mL)であった。このようにして、例1~例8の液体試料を得た。
【0077】
【表1】
【0078】
例1~例8の液体試料を、波長365nmの光を発するランプで照射した。結果を図4図6に示す。例1~例8の粉末試料ついて、X線回折装置(Rigaku社製、Rint UltimaIII)を用いてX線回折した。結果を図7に示す。例1~例8の液体試料を分散法により調製し、高分解能透過電子顕微鏡(HR-TEM)(JEOL製、JEM 2100F)により観察した。結果を図8図10に示す。例1~例8の液体試料の化学状態解析および組成分析をX線光電子分光(XPS)分析装置(アルバック・ファイ株式会社製、Quautera SXM)により行った。結果を図11図15および表2に示す。
【0079】
分光光度計(Thermo Scientific社製、Nicolet iS50 FTIR)を用い、全反射赤外分光(ATR-FTIR)法により例1~例8の液体試料のFTIRスペクトルを得た。各測定の積算回数は50回であった。結果を図16に示す。例1~例8の液体試料の吸収スペクトルを、紫外可視近赤外分光光度計(日本分光株式会社製、V-570)を用いて測定した。結果を図17に示す。例1~例8の液体試料の発光スペクトルを、分光蛍光高度計(日本分光株市域会社製、FP-8500)を用いて測定した。発光スペクトルからCIEの色度(x,y)を算出した。これらの結果を図18図24に示す。これらの結果をまとめて説明する。
【0080】
図4は、例1の反応式と、例1の液体試料の発光の様子とを示す図である。
図5は、例2~例6の反応式と、例2~例6の液体試料の発光の様子とを示す図である。
図6は、例7~例8の反応式と、例7~例8の液体試料の発光の様子とを示す図である。
【0081】
図4図6ではグレースケールで示されるが、図4によれば、例1の液体試料に紫外線ランプを照射したところ、青色(シアン系)に発光することが分かった。図5によれば、例2~例6の液体試料に紫外線ランプを照射したところ、青白~白色~温白色(白色系)に発光することが分かった。図6によれば、例7~例8の液体試料に紫外線ランプを照射したところ、橙色(橙色系)に発光することが分かった。このことから、図1に記載の方法を実施することにより、蛍光発光する組成物(蛍光体)が得られることが示された。また、表1に示すように、窒素源や濃度を選択することにより、発光色を変化させることができることが示された。
【0082】
図7は、例1、例2および例7の粉末試料のXRDパターンを示す図である。
【0083】
図7によれば、いずれのXRDパターンも、2θ=20.5°近傍にブロードなピークと、2θ=27°近傍にシャープなピークとを示しており、アモルファス炭素およびグラファイト状炭素を主成分とすることが分かった。図示しないが、例3~例6および例8の粉末試料も同様のパターンを示した。これらのピーク強度比からアモルファス炭素およびグラファイト状炭素の体積百分率を算出した。結果を表2に示す。
【0084】
【表2】
【0085】
表2によれば、アモルファス炭素の含有量が、グラファイト状炭素のそれよりも多いが、発光色によって含有量が異なっていることが分かる。シアン系に発光する蛍光体は、グラファイト状炭素がごく少量であり、アモルファス炭素が顕著に多く、白色系に発光する蛍光体は、グラファイト状炭素も比較的存在するものの、アモルファス炭素の方が多く、橙色系に発光する蛍光体は、グラファイト状炭素が少量であり、アモルファス炭素が多い、という傾向が見られる。
【0086】
図8は、例1の液体試料の種々の倍率のTEM像を示す図である。
図9は、例2の液体試料の種々の倍率のTEM像を示す図である。
図10は、例7の液体試料の種々の倍率のTEM像を示す図である。
【0087】
図8によれば、点線で示すように、アモルファス炭素に由来する層構造が確認された。また、丸で囲む領域を拡大したところ、格子縞が確認され、結晶性のグラファイト状の炭素であることが分かった。図9および図10によれば、黒くスポットで示されるナノ粒子が多数確認され、その粒径は、1nm以上20nm以下の範囲を有することが分かった。粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて1000倍以上の倍率で透過画像を得、任意の500nm四方の領域において少なくとも100個のナノ粒子の粒径を計測し、その平均値である。ナノ粒子は完全な球形ではないので、最長径をナノ粒子の粒径とする。以上から、液体試料中には炭素ナノ粒子蛍光体が分散していることが示された。
【0088】
図11は、例1、例2および例7の液体試料のXPSスペクトルを示す図である。
【0089】
図11によれば、例1、例2および例7の液体試料中の炭素ナノ粒子蛍光体には、炭素元素、酸素元素、窒素元素が存在することが分かった。なお、XPSスペクトルでは、溶媒(DMSO)中の元素によるピークは除去されている。例3~例6および例8の液体試料も同様のXPSスペクトルを示した。
【0090】
【表3】
【0091】
表3の組成分析によれば、本発明の炭素ナノ粒子蛍光体において、炭素元素の含有量p(原子%)、前記窒素元素の含有量q(原子%)および前記酸素元素の含有量r(原子%)(ただし、p+q+r=1)が、それぞれ、
0.58≦p≦0.65
0.22≦q≦0.30
0.12≦r<0.16
を満たす場合には、青色(シアン系)発光し、
0.57≦p≦0.65
0.20≦q<0.26
0.16≦r<0.19
を満たす場合には、青白~白色~温白色(白色系)発光し、
0.58≦p≦0.65
0.15≦q≦0.21
0.19≦r≦0.21
を満たす場合には、橙色発光することが示された。
【0092】
図12は、例1の液体試料の逆畳み込みHRXPSスペクトルを示す図である。
図13は、例2の液体試料の逆畳み込みHRXPSスペクトルを示す図である。
図14は、例7の液体試料の逆畳み込みHRXPSスペクトルを示す図である。
【0093】
図12図14は、いずれも、図11に示すXPSスペクトルのうちN-1sピークについて逆畳み込みをした結果を示す。図12図14によれば、主要な4つのピークを示し、それぞれ、398.7eV、399.6eV、400.3eV、401.3eVの結合エネルギーに相当することが分かった。このことから、これらは、炭素フレームワーク内の窒素ドーピングセンターの種類であり、それぞれ、ピリジン型窒素、アミド型窒素、ピロール型窒素、グラファイト型窒素に相当した。図示しないが、例3~例6および例8の液体試料の逆畳み込みHRXPSスペクトルも同様であった。
【0094】
図15は、図12図14から算出した窒素ドーピングセンターの量の変化を示す図である。
【0095】
図15によれば、発光色によって、窒素ドーピングセンターの量的関係が異なることが分かる。特に、ピリジン型窒素とグラファイト型窒素との関係が発光色に寄与しており、例3~例6および例8についても同様に調べた。結果を表4に示す。
【0096】
【表4】
【0097】
表4によれば、シアン系に発光する蛍光体は、ピリジン型窒素の量は、グラファイト型窒素のそれよりも多く、白色系に発光する蛍光体は、ピリジン型窒素の量は、グラファイト型窒素のそれよりも少なく、橙色系に発光する蛍光体は、ピリジン型窒素の量は、グラファイト型窒素のそれよりも少ない、という傾向が見られる。
【0098】
図16は、例1、例2および例7の液体試料のATR-FTIRスペクトルを示す図である。
【0099】
例1、例2および例7の液体試料中の炭素ナノ粒子蛍光体は、アミド結合によるC=O結合(1697cm-1付近)、芳香族によるC=C結合(1530cm-1付近)、フェノールによるOH結合とCH結合(1310~1380cm-1付近)を有することが分かった。このことから、本発明の炭素ナノ粒子蛍光体は、-OH、C=O、C=C、C-H等の官能基や結合を有することが示された。
【0100】
図17は、例1、例2および例7の液体試料の吸収スペクトルを示す図である。
【0101】
図17によれば、いずれの試料も200nm以上600nm以下の範囲の波長の光をよく吸収することが分かった。図示しないが、例3~例6および例8の液体試料の吸収スペクトルも同様であった。
【0102】
図18は、例1、例2および例7の液体試料の発光スペクトルを示す図である。
図19は、例3~例4の液体試料の吸収スペクトルを示す図である。
図20は、例5~例6の液体試料の吸収スペクトルを示す図である。
【0103】
図18図20には、励起波長370nmで各液体試料を照射した際の発光スペクトルが示される。図19および図20には、図1に示す例2の発光スペクトルも併せて示す。
【0104】
例1の発光スペクトルにすれば、450nmにピークを有し、青色発光することが分かった。例7の発光スペクトルによれば、616nmmにピークを有し、橙色発光することが分かった。一方、例2の発光スペクトルによれば、例1や例7のそれとは異なりブロードな発光スペクトルを示し、478nm、514nm、612nmをピークとする複数の波長成分を有していた。このことからも、例2の液体試料中の炭素ナノ粒子蛍光体は、白色発光することが分かった。
【0105】
例3~例6の発光スペクトルによれば、例2のそれと同様に、複数の波長成分を有し、ブロードな発光スペクトルを示したが、各波長成分の強度の違いにより、演色性の異なる白色発光をすることが示された。
【0106】
以上から、本発明の方法を採用すれば、原料成分の選択、濃度の調整により、青色(シアン系)発光、白色発光、橙色発光する炭素ナノ粒子蛍光体を提供できる。また、本発明によれば、演色性の調整に優れた炭素ナノ粒子蛍光体の合成法を提供できる。
【0107】
図21は、例1~例8の液体試料の発光をプロットしたCIE色度図を示す。
【0108】
図18図20の発光スペクトルから算出した色度x、y値をCIE1931色度図にプロットした。図21には黒体軌跡も併せて示す。原料の選択や濃度の調整によって発光色が変化する炭素ナノ粒子蛍光体が提供されるが、驚くべきことに、発光色は黒体軌跡に沿って変化し得ることが分かった。例えば、白色発光する白色炭素ナノ粒子蛍光体は、条件によっては、黒体軌跡から偏差±0.01(-0.01以上+0.01以下の範囲)内の発光をすることが分かった。
【0109】
図22は、例1の液体試料の2次元発光マッピングを示す図である。
図23は、例2の液体試料の2次元発光マッピングを示す図である。
図24は、例7の液体試料の2次元発光マッピングを示す図である。
【0110】
図22図24では、グレースケールで示されるが、明るくしめされる領域が発光することを示す。図22図24によれば、いずれの液体試料も、励起光の波長が変化すると発光波長が変化することが分かった。図24の例7の液体試料の励起波長の発光波長依存性は、図22の例1および図23の例2の液体試料のそれらに比べて小さい。これは、例7の液体試料は、橙色発光する炭素ナノ粒子蛍光体を含有するが、図17の吸収スペクトルに示すように、波長が600nmを超えると吸収が小さくなるため、発光しにくくなるためと考える。簡単のため、以上の結果を表5にまとめて示す。
【0111】
【表5】
【0112】
[例9]
例9では、例2~例4の粉末試料を用い、ポリビニルピロリドン(PVP、富士フイルム和光純薬株式会社製)に炭素ナノ粒子蛍光体が分散した、薄膜状の樹脂成形体を製造した。
【0113】
脱イオン水(60mL)にPVP粉末(2g)を添加し、90℃で3時間保持し、PVP水溶液(PVP濃度:3.3質量%)を調製した。PVP水溶液(4mL)に、例2~例4で得られた粉末試料(各100μg)を添加・撹拌した。これを石英基板上にドロップキャストし、90℃で1時間乾燥させ、薄膜状の樹脂成形体を得た。このようにして得られた樹脂成形体中の炭素ナノ粒子蛍光体の含有量は、0.07質量%であった。例2~例4の粉末試料を、それぞれ、W-CD1、W-CD2、W-CD3と称し、得られた樹脂成形体をW-CD1@PVP、W-CD2@PVP、W-CD3@PVPと呼ぶ。
【0114】
得られた樹脂成形体の外観を観察し、波長365nmの光を発するランプで照射した。観察結果を図25に示す。樹脂成形体の発光スペクトルを、分光蛍光高度計を用いて測定した。発光スペクトルからCIEの色度(x,y)を算出した。これらの結果を図26および図27に示す。これらの結果をまとめて説明する。
【0115】
図25は、例9による樹脂成形体の外観を示す図である。
【0116】
図25(A)によれば、例9による樹脂成形体は、可視領域において透明であることが分かった。図25(B)によれば、紫外線ランプを照射したところ、例9による樹脂成形体は、いずれも、青白~白色~温白色(白色系)に発光することが分かった。これらの発光色は、例2~例4の液体試料の発光と同様であった。
【0117】
図26は、例9による樹脂成形体の蛍光スペクトルを示す図である。
【0118】
図26によれば、例9による樹脂成形体は、いずれも、ブロードな発光スペクトルを示し、478nm、514nm、612nmをピークとする複数の波長成分を有していた。このような発光スペクトルは、例2~例4の液体試料のそれと同様であった。
【0119】
図27は、例9による樹脂成形体の発光をプロットしたCIE色度図を示す。
【0120】
図27には黒体軌跡も併せて示す。例2~例4と同様に、白色発光する白色炭素ナノ粒子蛍光体は、樹脂等と組み合わせ成形体としても黒体軌跡から偏差±0.01(-0.01以上+0.01以下の範囲)内の発光をすることが分かった。
【0121】
[例10]
例10では、例2の粉末試料が分散した試験紙を製造した。
図28は、試験紙の製造プロシージャおよび試験の様子を示す図である。
【0122】
例2の粉末試料をDMSOに分散させ、蛍光体分散液(0.3質量%、3mg/mL)を調製した。台紙には、セルロースフィルターペーパ(Whatman(登録商標)、セルロースフィルター)を用い、これに蛍光体分散液を領域1~3の3か所に滴下し、80℃で乾燥させ、試験紙を得た。次いで、領域1および3には、それぞれ、被験液として軽水および重水を滴下した。ここでは、水を被験液としたため、何も滴下しない領域2をコントロールとした。これに紫外線ランプを照射し、発光の様子を観察した。結果を図29に示す。
【0123】
図29は、試験紙を用いた判定の様子を示す図である。
【0124】
図29(A)は、セルロースフィルターペーパに蛍光体分散液を滴下し、炭素ナノ粒子蛍光体が分散した試験紙の外観を示す図である。領域1~3の3か所に炭素ナノ粒子蛍光体が含有される。
【0125】
図29(B)は、被験液の滴下前の試験紙に紫外線ランプを照射した様子を示す。図29(B)によれば、目視にて発光強度に変化がないことが分かる。図29(C)は、被験液の滴下後の試験紙に紫外線ランプを照射した様子を示す。紫外線ランプを照射したところ、軽水および重水をそれぞれ滴下した領域1および3は、コントロールである領域2に比べて、発光強度が低下した。このことから、本発明の試験紙を用いれば、被験液が水を含有するか否かを簡便に判定できることが示された。
【0126】
次に、炭素ナノ粒子蛍光体を担持させた試験紙に重水を0体積%、2.5体積%、5体積%、10体積%、20体積%、100体積%含有する水をそれぞれ滴下し、分光光度計を用いて発光スペクトルを測定した。結果を図30および図31に示す。
【0127】
図30は、種々の水に対する発光スペクトルを示す図である。
図31は、図30の発光強度の重水濃度依存性を示す図である。
【0128】
図30は、励起波長370nmで試験紙の各領域を照射した際の発光スペクトルを示す。図30には、コントロール(水を滴下していない領域)における発光スペクトルも併せて示される。図30によれば、600nm近傍のピークの発光強度が、重水の含有量が減るにつれて、すなわち、軽水の含有量が増えるにつれて低下することが分かった。
【0129】
図31は、発光波長600nmにおける発光強度を重水の含有量に対してプロットした図である。図31によれば、発光強度は、重水の含有量に対して線形に増大することが分かった。
【0130】
これを利用して、重水(DO)中に含まれる軽水(HO)を検出する、あるいは、その量の大小を知ることが可能である。これを用いて、簡便で安価な軽水・重水の量を検知する試験紙としての使用が可能である。さらに、DMSO、DMF、アセトニトリル、エタノールなどを重水(DO)の代わりに用いることにより、それらの中の軽水(HO)の存在やその量の多寡を知ることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明によれば、原料を調整するだけで、色度を調整した炭素ナノ粒子蛍光体を製造できるので、有利である。また、このような炭素ナノ粒子蛍光体を用いれば、発光装置を提供できる。特に、特定の組成の炭素ナノ粒子蛍光体は高い演色性を示す白色発光をする蛍光体として優れているため、白色LED等の白色発光装置を提供できる。また、本材料は水により発光強度が大きく下がるため、発光強度の変化から重水やエタノールなどの中の水の量を知る簡便な試験紙を提供できる。
【符号の説明】
【0132】
200 発光装置
210、220 リードワイヤ
230 アルミナ基板
240 紫色発光ダイオード素子
250 金細線
260 樹脂成形体
270 樹脂
300 試験紙
310 検査領域
320 台紙
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31