(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149334
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】衣料用部材
(51)【国際特許分類】
A41C 3/14 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
A41C3/14 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022057850
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】306033379
【氏名又は名称】株式会社ワコール
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100176245
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 亮輔
(72)【発明者】
【氏名】尼口 賢
(72)【発明者】
【氏名】平岡 香里
(72)【発明者】
【氏名】北川 由香
【テーマコード(参考)】
3B131
【Fターム(参考)】
3B131AA17
3B131BB07
3B131CA21
(57)【要約】
【課題】通気性の良さ、適度な触感、及び適度な質感を兼ね備えた衣料用部材を提供する。
【解決手段】衣料用部材1は、軟質樹脂を積層した立体構造体20を有する。立体構造体20には、空隙部が設けられている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟質樹脂を積層した立体構造体を有する衣料用部材であって、
前記立体構造体には空隙部が設けられている、衣料用部材。
【請求項2】
前記軟質樹脂のショア硬度がA0~A95である、請求項1に記載の衣料用部材。
【請求項3】
前記立体構造体におけるインフィル密度は5~80%である、請求項1又は2に記載の衣料用部材。
【請求項4】
前記立体構造体は、前記衣料用部材が取り付けられた衣料を着用する着用者の身体に面する第1面を有し、
前記第1面の周縁には前記軟質樹脂が全周にわたって連続する連続部が形成されている、請求項1~3の何れか一項に記載の衣料用部材。
【請求項5】
前記立体構造体におけるインフィル密度が部位によって異なる、請求項1~4の何れか一項に記載の衣料用部材。
【請求項6】
前記立体構造体を形成する構造が部位によって異なる、請求項1~5の何れか一項に記載の衣料用部材。
【請求項7】
前記立体構造体がジャイロイド構造をなしている、請求項1~6の何れか一項に記載の衣料用部材。
【請求項8】
前記立体構造体は、前記衣料用部材が取り付けられた衣料を着用する着用者の身体に面する第1面を有し、
前記第1面が曲面をなしている、請求項1~7の何れか一項に記載の衣料用部材。
【請求項9】
前記立体構造体の少なくとも一方の面に設けられた生地を備え、
前記一方の面において前記軟質樹脂が前記生地に含浸することにより前記生地と前記立体構造体とが一体となっている、請求項1~8の何れか一項に記載の衣料用部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衣料用部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1に記載されるように、カップ部の内側にパッドが設けられたブラジャーが知られている。パッドは、ポケットに収容されて出し入れ可能になっており、パッドの数、種類、又は保持位置等は調整可能である。このようなブラジャーは、例えば、乳房を切除した患者のための医療用ブラジャーとして有用である。パッドの素材としては、ウレタン、シリコン、綿、不織布等の柔軟性及び弾力性を有する材料が使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ブラジャー用のパッドには、上記したように種々の材料が用いられてきた。各材料は一定の利点を有するが、パッド等の衣料用部材として用いることを想定した場合に、欠点も有する。例えば、不織布パッドは、高い通気性を有するという利点を有するが、軽すぎるため、触感や質感の面で自然さに欠ける。ウレタンパッドは、自由な形状に成形できるという利点を有するが、通気性が悪く、また軽すぎるので着用時に違和感が生じたり、着崩れにつながったりしやすい。シリコンパッドは、適度な重量があって質感に優れ、また柔らかさがあって好ましい触感を有する。しかしシリコンパッドの通気性は非常に低い。このように、通気性の良さ、適度な触感(柔らかさや硬さの概念はこれに含まれる)及び適度な質感(重さや密度の概念はこれに含まれる)のすべてを満たす衣料用部材を実現することは難しかった。
【0005】
本発明は、通気性の良さ、適度な触感、及び適度な質感を兼ね備えた衣料用部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の衣料用部材は、軟質樹脂を積層した立体構造体を有する衣料用部材であって、立体構造体には空隙部が設けられている。
【0007】
この衣料用部材では、立体構造体に設けられた空隙部により、通気性を確保することができる。また、軟質樹脂の種類や空隙部の容積を調整することにより、柔らかさや硬さを変化させることができ、触感を調整することもできる。同時に、重さも変化させることができ、質感を調整することができる。その結果として、通気性の良さ、適度な触感、及び適度な質感を兼ね備えた衣料用部材が提供される。
【0008】
軟質樹脂のショア硬度がA0~A95であってもよい。ショア硬度をこの範囲に設定することにより、樹脂の破断などが生じず、衣料用部材を身体に沿わせることができる。
【0009】
立体構造体におけるインフィル密度は5~80%であってもよい。インフィル密度をこの範囲に設定することにより、上記した触感や質感をより好適に保つことができる。
【0010】
立体構造体は、衣料用部材が取り付けられた衣料を着用する着用者の身体に面する第1面を有し、第1面の周縁には軟質樹脂が全周にわたって連続する連続部が形成されていてもよい。例えば、三次元積層造形装置により作成された立体構造体は、通常、周縁において多数の端点を有する。端点が連続部で接続される構造により、立体構造体の強度が高められる。その結果として、衣料用部材の使用時の耐久性が向上する。
【0011】
立体構造体におけるインフィル密度が部位によって異なっていてもよい。この場合、部位に応じたインフィル密度の相違(分布)により、着用者の身体に対する追従性(つけ心地)や重量等を調整することができる。
【0012】
立体構造体を形成する構造が部位によって異なっていてもよい。この場合、部位に応じた構造の相違(分布)により、部位ごとの変形特性、質感又は触感等を調整することができる。
【0013】
立体構造体がジャイロイド構造をなしていてもよい。ジャイロイド構造を採用することにより、通気性に関する要求を満たしつつ、ジャイロイド構造の三次元方向の“連続性”と“周期性”を併せ持つという特徴により、どの部分からの接触、荷重に対しても均等な(均一な)触感、及び質感と十分な強度を有する衣料用部材が実現される。
【0014】
立体構造体は、衣料用部材が取り付けられた衣料を着用する着用者の身体に面する第1面を有し、第1面が曲面をなしていてもよい。曲面をなす第1面は、着用者の身体にフィットしやすい。
【0015】
立体構造体の少なくとも一方の面に設けられた生地を備え、一方の面において軟質樹脂が生地に含浸することにより生地と立体構造体とが一体となっていてもよい。この場合、生地と立体構造体とが軟質樹脂の含浸により一体となっているので、別途の接着剤等を要しないため通気性が低下せず、衣料用部材として利用しても快適な着用感を得られる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、通気性の良さ、適度な触感、及び適度な質感を兼ね備えた衣料用部材が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係る衣料用部材の立体構造体を示す斜視図である。
【
図2】
図1の立体構造体がカバー内に収容された一実施形態の衣料用部材を示す断面図である。
【
図3】
図1の立体構造体が生地上に積層されて一体化された他の実施形態の衣料用部材を示す断面図である。
【
図4】
図4(a)は実施例に係る立体構造体の平面写真、
図4(b)は
図4(a)の底面写真である。
【
図5】第1面の周縁に形成された連続部の一例を示す写真であり、積層構造体からなる連続部を示す図である。
【
図6】第1面の周縁に形成された連続部の他の例を示す写真であり、1本~数本のフィラメントからなる連続部を示す図である。
【
図7】インフィル密度を変化させた各種実施例の試験結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、図面の説明において同一要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。衣料用部材は、下着、外着(アウターウェア)や靴下の体形補整を目的とした衣料、スポーツ用(アンダーウェアを含む)、作業用、又は高齢者・介護用等の身体保護を目的とした衣服、サポーター等の衣料に適用される。衣料用部材は、例えば、衣料を着用する着用者の身体の一部にあてがわれる。
【0019】
図1及び
図2を参照して、一実施形態に係る衣料用部材1と、衣料用部材1を構成する立体構造体20について説明する。
図1及び
図2に示されるように、衣料用部材1は、例えば、軟質樹脂からなるパッド10と、パッド10を収容するカバー30とを備える。
【0020】
パッド10は、例えば立体的な形状を有する。衣料用部材1に用いられることを考慮して、パッド10は、その用途に応じた形状に成形されている。パッド10は、軟質樹脂からなり、弾力性を有する。パッド10は、衣料用部材1としての用途に適した柔らかさを有する。パッド10は、例えば、三次元積層造形装置(3Dプリンタ)を用いて製造され得る。
【0021】
パッド10は、本実施形態では、軟質樹脂を積層した立体構造体20からなる。パッド10は、立体構造体20そのものであってもよいし、立体構造体20に対して、他の何らかの材料が塗布又は充填されていてもよい。立体構造体20が、他の部材と組み合わせて、又は他の部材に接合されて、パッド10が形成されてもよい。本実施形態では、パッド10は、立体構造体20そのものである。
【0022】
カバー30は、衣料用部材1の用途に応じて設けられる。カバー30は、適宜選択した生地からなる袋体である。カバー30にパッド10が収容された状態で、衣料用部材1が衣料に取り付けられてもよいし、カバー30が、衣料の一部であってもよい。カバー30は、例えば伸縮性を有する生地から形成されており、一部に挿入用の開口31を有する。挿入用の開口31を介して、パッド10がカバー30内に収容される。挿入用の開口31が設けられず、製造段階において、カバー30内にパッド10が(取出し不可能な状態で)内蔵されてもよい。
【0023】
なお、カバー30は省略されてもよい。すなわち、パッド10が、単独で衣料用部材とされてもよい。カバー30が不要の場合には、パッド10が露出した状態で何らかの衣料に取り付けられて(又は固定されて)もよい。
【0024】
図1及び
図2に示される衣料用部材1は、ブラジャー用のパッドである。衣料用部材1は、例えば、ブラジャーのカップ部分に適用されて、整形を目的として使用される。或いは、衣料用部材1は、乳房を切除した女性(乳がん術後用乳房パッド)に用いることもできる。その場合には、パッド10は、切除された乳房を代替しても違和感を生じさせないような触感及び質感をもつように成形される。
【0025】
本実施形態では衣料用部材1がブラジャー用のパッドである場合について説明するが、衣料用部材は、ブラジャー用カップであってもよい。衣料用部材は、ブラジャーに適用される形態に限られない。立体構造体20は、あらゆる(任意の)形状及び大きさに成形可能であるため、着用者の身体にフィットする形状及び大きさを有する。そのため、バストやヒップ等、身体の左部分と右部分にそれぞれ対応する左右一対の衣料用部材が提供される場合でも、各着用者のバストやヒップ等の形状に合わせて、左右が異なる形状及び/又は大きさとすることもできる。衣料用部材の他の例としては、例えば、バスト用カップ、バスト用パッド、ヒップ用パッド、肩用パッド、膝用パッド、肘用パッド、又は背中用パッド等の体型補整用パッド又は保護用パッドが挙げられる。
【0026】
図1に示されるように、立体構造体20には、空隙部が設けられている。言い換えれば、立体構造体20は、多孔質構造を有する。立体構造体20は、軟質樹脂を多孔質構造に積層造形した構造体である。立体構造体20内の空隙部は、例えば、互いに連結(接続)された構造を有し、これによって立体構造体20は高い通気性を有する。言い換えれば、立体構造体20の空隙部は、立体構造体20内において閉じた空間ではなく、開放されて立体構造体20の外部に通じる空間である。なお、
図2の断面図では、空隙部の図示は省略されている(形状が複雑であるため図示することが難しい)。
【0027】
立体構造体20の空隙部は、規則性をもった空隙部である。立体構造体20は、同じ形状と大きさの単位空隙が規則的に繰り返された構造を有する。立体構造体20は、好ましくは、ジャイロイド構造をなしている。立体構造体20の全体が、同一の(均一な)ジャイロイド構造により形成されている。本発明者らは、ジャイロイド構造が、整形性、身体保護の観点、適度な触感及び質感を生み出す観点、あるいは通気性の観点において、衣料用部材1に適する構造であることを見出している。なお、立体構造体は、ジャイロイド構造以外にも、格子構造、トライアングル構造、スター型構造、グリッド構造、立方体構造、ハニカム構造、ジグザグ構造等であってもよい。
【0028】
立体構造体20におけるインフィル密度は、5~80%であることが好ましい。立体構造体20の全体において、インフィル密度は均一である。言い換えれば、立体構造体20の何れの部位においても(後述する連続部25を除いて)、インフィル密度は等しい。立体構造体20におけるインフィル密度は、20~70%であることがより好ましく、30~60%であることが更に好ましく、30~50%であることが更により好ましい。インフィル密度は、三次元積層造形の分野において、インフィル充填率、又は充填率等と呼ばれることもある。或いは、インフィル密度に代えて、樹脂容積比率との用語が用いられてもよい。樹脂容積比率とは、同一の外形形状で樹脂を充填した容積に対する当該物品の樹脂容積の比率である。なお、インフィル密度が5%以下の場合、立体構造体20の造形そのものが難しくなる傾向にある。
【0029】
軟質樹脂のショア硬度は、A0~A95であることが好ましい。ショア硬度をこの範囲に設定することにより、樹脂の破断などが生じず、衣料用部材1を身体に沿わせることができる。「ショア硬度An」(nは数値)との表現は、ショアA硬度nと同義である。ショア硬度の設定と、インフィル密度の設定とを適宜に組み合わせることで、望ましい柔らかさが実現可能である。一般に、ショア硬度A0の樹脂であれば、空隙部さえ設ければ、インフィル密度に関わらず、柔らかく感じる。一方、ショア硬度A95の樹脂であれば、インフィル密度をどのように設定したとしても、硬く感じる。本発明者らは、ショア硬度A95の樹脂であっても、例えばインフィル密度5~10%の範囲内であれば圧縮できる部分が多くなるので、着用感の観点で許容可能な柔らかさが実現できることを発見している。
【0030】
軟質樹脂は、例えば、熱可塑性エラストマー樹脂である。軟質樹脂として、例えば、スチレン系エラストマー樹脂が好適に用いられる。軟質樹脂の樹脂材料としては、スチレン系エラストマー樹脂以外に、オレフィン系、ウレタン系、エステル系等の軟質熱可塑性エラストマー樹脂が用いられてもよい。また、光硬化性エラストマー樹脂が用いられてもよい。
【0031】
図1及び
図2に示されるように、本実施形態のパッド10に係る立体構造体20は、着用者の身体に面する裏面(第1面)22と、表面(第2面)21とを有する。立体構造体20の表面21は、膨出面をなしている(
図4(a)も参照)。立体構造体20の裏面22は、平面をなしている(
図4(b)も参照)。また、裏面22は、凹面等の曲面をなしてもよい。この場合、着用者の胸部に対するフィット感が更に向上している。
【0032】
更に、裏面22の周縁24には、軟質樹脂が全周にわたって連続する連続部25が形成されている(
図4(b)も参照)。ジャイロイド構造又は上記した他の構造で立体構造体20を形成した場合、周縁24の外周端には、周方向に並ぶ複数の端点が存在する。連続部25は、軟質樹脂の積層構造体からなっている。連続部25は、立体構造体20(一例としてジャイロイド構造)の周縁24における端点と端点とを結んでいる。連続部25は環状に形成され、それによって端点同士が繋がり、連続することになる。したがって、連続部25により、端点がもはや端点でなくなり、連続する構造体の途中部分になっている(図中には端点の位置を示すために符号を付している)。連続部25により、立体構造体20の強度が向上している。
【0033】
連続部25は、隣り合う端点と端点の間において、端点と端点とを結ぶ最短距離に相当する直線状であってもよい。連続部25は、裏面22側において、例えば平坦面をなしている。連続部25は、円形や半円形の断面を有してもよい。連続部25の形状(半径方向に延びる面で切断した断面形状)は、衣料用部材1の用途に応じて適宜に決められてよい。
【0034】
この積層構造体からなる連続部25は、立体構造体20の周縁24における端点と端点とを結ぶ最短距離に相当する直線状でなくてもよい。例えば、
図5に示されるように、周縁24の外周端には、周方向に並ぶ複数の端点26が形成されている。
図5に示される例では、連続部25は、隣り合う端点26と端点26の間において、端点26と端点26とを結ぶ最短距離に相当する直線状ではなく、意図的に、曲線状、ジグザグ状(複数の直線状の組合せ)や複数の直線状と複数の曲線状を組み合わせた形状となっている。例えば、連続部25は、隣り合う端点26と端点26の間において波形状をなしている。例えば、裏面22の径方向外方に向けて突出する凸部(山形部)、又は裏面22の径方向内方に向けて凹む凹部が、隣り合う端点26と端点26の間に少なくとも1つ設けられている。連続部25を直線状としない場合は、周縁24の伸縮性が高まり、追従性が良くなる。
【0035】
パッド10すなわち立体構造体20の製造方法について説明する。立体構造体20は、三次元積層造形装置(3Dプリンタ)を用いて製造される。立体構造体20を製造するための三次元積層造形方法は特に限定されないが、例えば、軟質樹脂の粒状体(ペレット状の原材料)をスクリュー押出機内で溶融させて押し出し、ノズルから吐出させてストランド(糸状体)を走査する製法が採用され得る。三次元積層造形装置は、ノズル又は、造形物が載置される基台の何れか一方の位置を制御する制御部(コントローラ)を備えている。
なお、軟質樹脂の線状体を溶融させてノズルから吐出させて走査する製法であってもよい。
【0036】
制御部は、CPU等のプロセッサ、ROMおよびRAM等のメモリ、ストレージ及び通信デバイス等を含むコンピュータ装置として構成される。制御部には、造形すべき立体構造体20の3Dデータが格納されており、制御部は、この3Dデータに基づいて、ノズル又は基台の何れか一方を移動させる。基台上で造形された立体構造体20は、冷却工程(自然冷却又は強制冷却)を経て、完成する。
【0037】
ノズルの吐出口の口径を適宜に選択することにより、吐出されるストランドの線径(糸状体の直径)が調整される。ストランドの線径は、立体構造体20の大きさ、形状、構造、及びインフィル密度等に応じて設定されてよいが、例えば一例として、0.1mm~6.0mmの範囲内で決定され得る。線径は、0.3mm~4.0mmの範囲内の値であってもよい。なお、ストランドは、フィラメントと呼ばれるような非常に細い繊維状のものであってもよい。その場合でも、フィラメントは、少なくとも0.01mm以上の線径を有する。
【0038】
本実施形態の衣料用部材1では、立体構造体20に設けられた空隙部により、通気性を確保することができる。また、軟質樹脂の種類や空隙部の容積を調整することにより、柔らかさや硬さを変化させることができ、触感を調整することもできる。同時に、構造や密度を変えることで重さも変化させることができ、質感を調整することができる。その結果として、通気性の良さ、適度な触感、及び適度な質感を兼ね備えた衣料用部材が提供される。厚みも自由に設定できる。また汎用的な樹脂材料で製造でき、また三次元積層造形による製造も容易である。よって、コスト上の問題も生じにくい。
【0039】
ブラジャー用のパッドとして適用される衣料用部材1においては、高い通気性を有することで、着用した際の蒸れの問題が生じにくく、心地よさが実現される。また、パッド10が身体形状にフィットし、着崩れしにくい効果も得られる。乳がん術後用乳房パッドに衣料用部材1を適用する場合、本物のバストのような柔らかさ(触感)及び重量(質感)が実現される。従来シリコンパッドが用いられた場合に、パッドが重すぎることで肩への負担が増す傾向にあったが、そのような問題も解決される。また、立体構造体20の内部が折れ曲がることによる身体形状へのフィット性も得られる。さらには、患者ひとりひとりに合う形状、大きさ、弾力性等を実現可能であり、術前のバストを再現することも可能である。その他、ヒップ用パッド、肩用パッド、又は関節保護パッドに衣料用部材1を適用する場合でも、高い通気性と、身体形状にフィットし着崩れしにくい効果が同様に得られる。
【0040】
立体構造体におけるインフィル密度は5~80%である。インフィル密度をこの範囲に設定することにより、上記した触感や質感をより好適に保つことができる。
【0041】
立体構造体20は、着用者の身体に面する裏面22を有し、裏面22が平面(平坦面)をなしている。立体構造体20は柔らかさを有しているためフィット性を有するが、裏面22を曲面とした場合は、更に着用者の身体にフィットしやすい。例えば、製造時に基台に曲面サポートを付けて三次元積層造形を行うことで、裏面22が曲面化され、より身体形状へフィットさせることができる。
【0042】
立体構造体がジャイロイド構造をなしている。ジャイロイド構造を採用することにより、通気性に関する要求を満たしつつ、ジャイロイド構造の三次元方向の“連続性”と“周期性”を併せ持つという特徴により、どの部分からの接触、荷重に対しても均等な(均一な)な触感、及び質感と十分な強度を有する衣料用部材が実現される。
【0043】
立体構造体20において、裏面22の周縁24には、軟質樹脂が全周にわたって連続する連続部25が形成されている。立体構造体20は、通常、周縁24において多数の端点26を有する。端点26が連続部25で接続される構造により、立体構造体20の強度が高められる。その結果として、衣料用部材1の使用時の耐久性が向上する。
【0044】
連続部25が軟質樹脂の積層構造体からなる(
図1、
図4(b)、
図5参照)。積層構造体によって頑丈な連続部25を形成することができるので、立体構造体20の強度がより一層高められる。
【0045】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限られない。空隙部が設けられた立体構造体は、あらゆる態様で実現することができる。
【0046】
例えば、立体構造体におけるインフィル密度が部位によって異なっていてもよい。この場合、部位に応じたインフィル密度の相違(分布)により、着用者の身体に対する追従性(つけ心地)等を調整することができる。例えば、立体構造体の重心位置付近のインフィル密度を高くすることにより、身体への追従性と通気性を保ったまま重量調整が可能である。インフィル密度を部位によって異ならせることで、柔らかさやハリ感を変化させることができる。乳がん術後用乳房パッドに衣料用部材1を適用した場合、上下の重量バランスを本物のバストに近づけることができ、着用時に形状の変化が起きにくいという利点が得られる。
【0047】
立体構造体を形成する構造が部位によって異なっていてもよい。この場合、部位に応じた構造の相違(分布)により、部位ごとの質感又は触感等を調整することができる。構造を部位によって異ならせることで、柔らかさやハリ感を変化させることができる。
【0048】
連続部が、1本の軟質樹脂のフィラメント、又は複数本の軟質樹脂のフィラメントからなってもよい。この場合、1本または複数本のフィラメントからなる連続部は、必要最小限の材料の使用量のみで、立体構造体の強度を高めることができる。また当該連続部は、変形特性に影響を与えず、身体への追従性を妨げない。例えば、
図6に示されるように、1本又は2~3本の極細いフィラメントからなる連続部25Aが周縁に設けられていてもよい。この場合も端点同士が接続されており、立体構造体20の強度が高められている。
【0049】
或いは、
図3に示されるように、生地40の表面40a上に立体構造体20が接合された衣料用部材1Aが提供されてもよい。例えば、
図3に示される衣料用部材1Aでは、立体構造体20の裏面22に生地40が設けられており、裏面22において軟質樹脂が生地40に含浸することにより、生地40と立体構造体20とが一体となっている。裏面22が凹面となっている場合は、凹面と同等形状の基台状に生地を載置し、含浸部A(接合部)が裏面22全面に形成されるが、立体構造体20の形状によっては、裏面22の全面でなく大部分(一部分のみ)に、含浸部A(接合部)が形成されてもよい。このような衣料用部材1Aでは、生地40と立体構造体20とが軟質樹脂の含浸により一体となっているので、別途の接着剤等を要しないため通気性が低下せず、衣料用部材として利用しても快適な着用感を得られる。なお、この生地40をさらに縫合する等により、
図2に示されるのと同様のカバー30を形成してもよい。
【0050】
積層構造体からなる連続部25が省略されてもよく、1本又は複数本のフィラメントからなる連続部25Aが省略されてもよい。衣料用部材の全体に又は一部(外周部)に同心円構造を採用した場合には、上記した端点が生じないため、連続部は不要である。
【0051】
表面21及び裏面22が平面(平坦面)をなす衣料用部材が提供されてもよく、表面21及び裏面22が凸面(膨出面)等の曲面をなす衣料用部材が提供されてもよい。表面21及び/又は裏面22が波状の曲面をなす衣料用部材が提供されてもよい。表面21及び/又は裏面22に1つ又は複数の突起が形成された衣料用部材が提供されてもよい。
【0052】
(実施例)
ショア硬度A0,A65,A95の樹脂材料を用いて、それぞれパッド形状に積層造形したサンプルを作製し、着用感(触感及び質感)、通気性及び耐久性を比較した。使用した樹脂材料はスチレン系エラストマー樹脂である。形状は既存の切除乳房代替用パッドと同形状とした。立体構造体20の構造はジャイロイド構造とし、インフィル密度を
図7に示される5~90%の範囲の各値に設定してサンプルを作製した。また積層構造体からなる連続部25を設けた(
図4(b)参照)。
【0053】
通気性は、KES通気度試験機を用いて測定した。また着用感については、乳房切除術の術後者による着用感評価を行った。着用感評価は、ショア硬度A0の樹脂材料について、インフィル密度30%~40%のサンプルを用いて行った。インフィル密度20%以下、50%以上の評価は従来のパッドとの触感比較により行った。耐久性については、乳がん術後用乳房用パッドの通常耐用年数に相当する回数分、パッドに負荷をかける強制着脱試験を行うと共に、既存の乳がん術後用乳房用パッド(シリコンパッドやウレタンパッド)の12名の着用者に対し、インフィル密度35%のサンプルを用いて20日間の長期着用評価試験を実施した(インフィル密度35%以外のインフィル密度のサンプルについては、パッド使用時相当の負荷をかけて破断した場合は×とした)。
【0054】
試験の結果、ショア硬度で見た場合、サンプルの柔らかさは樹脂材料の柔らかさと同じ傾向を示し、ショア硬度A0,A65,A95の順で柔らかかった(A0>A65>A95)。またショア硬度A95の樹脂材料であっても、インフィル密度を7%程度まで下げることで使用可能性のある柔らかさは実現できることがわかった。
図7に示されるように、インフィル密度で見た場合、インフィル密度70%以上のサンプルでは立体構造体の空隙部が少なくなるため、通気性が低くなる傾向が見られたが、既存品との対比においては、通気性に優れていることがわかった。またインフィル密度80%以上のサンプルでは立体構造体の空隙部が更に少なくなるため、パッドとして使用するには通気性の面で十分でないと考えられた。
【0055】
なお、ショア硬度A0かつインフィル密度35%のサンプルにおいて、通気抵抗はカバー無しの場合で0.002(kPa・s/m)であり、カバー有りの場合で0.042(kPa・s/m)であった。既存のパッドでは、何れもカバー無しの場合で、不織布パッドで0.340(kPa・s/m)、ウレタンパッドで2.38(kPa・s/m)、シリコンパッドで250(kPa・s/m)以上であったことに比べると、サンプルでは通気性が格段に向上することがわかった。
【0056】
着用感に関しては、インフィル密度30%~40%の間では、重さに違いは感じられないが、インフィル密度35%のものが最適な柔らかさ及びフィット感が得られた。具体的には、「軽くて楽で、快適である」、「ぴったり肌にフィットしている」、「肩が凝らない感じである」、「ずれない」、「脇側がフィットしている」、「カップ下部が落ち着いており快適」等のコメントが得られた。
【0057】
耐久性に関しては、
図7に示されるように、インフィル密度10%以上のサンプルにおいて、パッドに破損や不具合は見られず、良好な耐久性が得られた。総合評価としては、インフィル密度30~60%の範囲で特に良好な結果が得られ、インフィル密度20~70%の範囲で良好な結果が得られた。またインフィル密度10%以下の場合は耐久性に問題が生じ得るが、例えばショア硬度A65以上の樹脂材料を用いることで、耐久性を満たすことができると考えられる。インフィル密度80%以上の場合は着用感や通気性に問題が生じ得るが、例えばショア硬度A5以下の樹脂材料を用いることで、着用感や通気性を満たすことができると考えられる。
【符号の説明】
【0058】
1…衣料用部材、10…パッド、20…立体構造体、21…表面(第2面)、22…裏面(第1面)、24…周縁、25,25A…連続部、26…端点、30…カバー、40…生地、A…含浸部。