IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三井化学株式会社の特許一覧

特開2023-149337芳香族ポリヒドロキシ化合物を含む化合物の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149337
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】芳香族ポリヒドロキシ化合物を含む化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 37/70 20060101AFI20231005BHJP
   C07C 39/08 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C07C37/70
C07C39/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022057859
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大角 直矢
(72)【発明者】
【氏名】森川 博士
(72)【発明者】
【氏名】菊地 崇浩
(72)【発明者】
【氏名】沼 優
(72)【発明者】
【氏名】平林 敦
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC42
4H006AD10
4H006BB14
4H006BC51
4H006BD60
4H006FC52
4H006FE13
(57)【要約】
【課題】フェノール類を過酸化水素とアルコールを併用する触媒の存在下に反応させ、反応液を触媒分離工程にて比較的高温で触媒であるチタノシリケートを沈降分離し、得られた油水相を冷却して比較的低温とすることで油水分離可能な状態とし、次いで油相と水相に分離することが出来る、芳香族ポリヒドロキシ化合物を含む化合物の製造方法を提供すること。
【解決手段】チタノシリケート、アルコール、水、芳香族モノヒドロキシ化合物、過酸化水素を反応させ、反応液(R)を得た後に、下記工程1および工程2を行い、前記工程2は、前記工程1の後に行う、芳香族ポリヒドロキシ化合物を含む化合物の製造方法。
工程1:前記反応液(R)を50℃以上の温度で、前記チタノシリケートを沈降させる工程
工程2:前記工程1の液部(反応液(R1))を28℃以上、48℃以下の温度で油水分離し、油相から芳香族ポリヒドロキシ化合物を含む化合物を分離する工程
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタノシリケート、アルコール、水、芳香族モノヒドロキシ化合物、過酸化水素を反応させ、反応液(R)を得た後に、下記工程1および工程2を行い、
前記工程2は、前記工程1の後に行う、
芳香族ポリヒドロキシ化合物を含む化合物の製造方法。
工程1:前記反応液(R)を50℃以上の温度で、前記チタノシリケートを沈降させる工程
工程2:前記工程1の液部(反応液(R1))を28℃以上、48℃以下の温度で油水分離し、油相から芳香族ポリヒドロキシ化合物を含む化合物を分離する工程
【請求項2】
前記工程1の温度(1)と前記工程2の温度(2)との差が10~52℃である、請求項1に記載の化合物製造方法。
【請求項3】
前記工程1の温度(1)が55℃~80℃である、請求項1に記載の化合物製造方法。
【請求項4】
前記工程2の温度(2)が28℃~45℃である、請求項1に記載の化合物製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はチタノシリケートを触媒として用い、フェノール類を過酸化水素と反応させ、得られた反応液を触媒分離工程、冷却工程、油水分離工程を実施することによる、芳香族ポリヒドロキシ化合物を含む化合物の工業的な製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
芳香族ジヒドロキシ化合物は、還元剤、ゴム薬、染料、医薬、農薬、重合禁止剤、酸化抑制剤等の分野に利用される。フェノール類を過酸化水素と反応させて得られる芳香族ジヒドロキシ化合物としてハイドロキノンやカテコールがあり、製造方法によりハイドロキノンとカテコールの生成比が異なる。近年、ハイドロキノンとカテコールの需給バランスから、ハイドロキノンを高選択的に製造する方法が切望されている。
【0003】
フェノールを過酸化水素と反応させてハイドロキノンを得る方法において、本出願人はチタノシリケート、3級または4級炭素を有する炭素数4~5のアルコールおよび反応液の総質量5~90質量%の水及び/またはメタノールの存在下で反応させることでハイドロキノンの選択性が向上することを報告している(特許文献1)。
【0004】
また、金属イオンの存在下、酸性水溶液中でフェノールを過酸化水素で直接酸化してハイドロキノンを生成させ、有機溶剤によってフェノール類を抽出し、抽出水相を反応媒体として循環使用することは特許文献2から公知の方法である。この抽出水相の循環使用は、排水の抑制による環境負荷の低減、省水資源の観点から重要であるが、実際の場面においては、特許文献3のように抽出時の分液性が困難となる問題が発生することもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5734538号
【特許文献2】特開昭49-30330号公報
【特許文献3】特開昭52-87126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上のような背景の下、本発明者らがハイドロキノンの製造について検討したところ、前述した反応工程の触媒であるチタノシリケートは、沈降分離して反応に再利用することが好ましいが、前記特許文献1の様な反応液では、固体状物質が沈降し難かったり、油水分離し難かったりすることがあり、工業的に効率的な生産を行うことが難しいと言う全くの予想外の状態となる場合がある事が分かった。この原因は恐らくアルコールが併存する為であろうと考えられた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、フェノール類を過酸化水素と反応させ、反応液を触媒分離工程にて比較的高温で触媒であるチタノシリケートを沈降分離し、得られた油水相を冷却して比較的低温とすることで油水分離可能な状態とし、次いで油相と水相に分離することが出来る事を見出した。すなわち本発明は、以下の要件で特定される。
【0008】
[1] チタノシリケート、アルコール、水、芳香族モノヒドロキシ化合物、過酸化水素を反応させ、反応液(R)を得た後に、下記工程1および工程2を行い、
前記工程2は、前記工程1の後に行う、
芳香族ポリヒドロキシ化合物を含む化合物の製造方法。
工程1:前記反応液(R)を50℃以上の温度で、前記チタノシリケートを沈降させる工程
工程2:前記工程1の液部(反応液(R1))を28℃以上、48℃以下の温度で油水分離し、油相から芳香族ポリヒドロキシ化合物を含む化合物を分離する工程
【0009】
[2] 前記工程1の温度(1)と前記工程2の温度(2)との差が10~52℃である、[1]に記載の化合物製造方法。
【0010】
[3] 前記工程1の温度(1)が55℃~80℃である、[1]に記載の化合物製造方法。
【0011】
[4] 前記工程2の温度(2)が28℃~45℃である、[1]に記載の化合物製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法は、触媒の沈降分離工程における油水相への触媒流出割合を抑制できるため、触媒ロス率が抑えられ、芳香族ポリヒドロキシ化合物を含む化合物、特に芳香族ジヒドロキシ化合物の製造コスト低減に寄与できる。また、油水分離工程において、蒸留工程へ供給される油相への水相の分配率を低下させることが可能であり、スチームコストを低減できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は前記した通り、チタノシリケート、アルコール、水、芳香族モノヒドロキシ化合物、過酸化水素を反応させ、反応液(R)を得た後に、比較的高温として触媒を沈降分離する工程1と、前記触媒分離後の反応液を比較的低温として油水分離を行う工程2を実施することを特徴とする芳香族ポリヒドロキシ化合物を含む化合物の製造方法である。
【0014】
本発明で用いる芳香族モノヒドロキシ化合物としてはフェノール類を挙げることが出来、具体的には無置換のフェノール及び置換フェノールを意味する。ここで置換フェノールとは、メチル基、エチル基、イソプロピル基、ブチル基、ヘキシル基等の炭素数1から6の直鎖または分枝アルキル基あるいはシクロアルキル基で置換されたアルキルフェノールが挙げられる。
【0015】
より具体的なフェノール類としては、フェノール、2-メチルフェノール、3-メチルフェノール、2,6-ジメチルフェノール、2,3,5-トリメチルフェノール、2-エチルフェノール、3-イソプロピルフェノール、2-ブチルフェノール、2-シクロヘキシルフェノールが例示されるが特に、フェノールが好ましい。尚、フェノール類の2位と6位の両方に置換値を有している場合には、原理上、生成物はハイドロキノン誘導体のみとなることが多い。
【0016】
反応生成物である芳香族ポリヒドロキシ化合物を含む化合物の具体的なものとしては、ハイドロキノン類(置換又は無置換のハイドロキノン)、カテコール類(置換又は無置換のカテコール)が挙げられ、より具体的には、ハイドロキノン、カテコール、2-メチルハイドロキノン、3-メチルカテコール、4-メチルカテコール、3-メチルハイドロキノン、1,4-ジメチルハイドロキノン、1,4-ジメチルカテコール、3,5-ジメチルカテコール、2,3-ジメチルハイドロキノン、2,3-ジメチルカテコールなどを挙げることができる。
【0017】
本発明を実施するに際して、その方法はバッチ式、セミバッチ式、または連続流通式のいずれの方法においても実施することが可能である。触媒の充填方式としては、固定床、流動床、懸濁床、棚段固定床等種々の方式が採用され、いずれの方式で実施しても差し支えない。
【0018】
本発明において反応液の総質量とは反応系内の液状成分の総質量である。即ちチタノシリケート等の固体成分の質量を含まない。反応系内の液状成分としては、フェノール類、過酸化水素、3級または4級炭素を有する炭素数4~5のアルコール、水及び/又はメタノール、芳香族ポリヒドロキシ化合物、反応副生物などが含まれる。必要に応じて他の溶媒等を本発明の効果を損なわない範囲で含んでもよい。反応の進行に伴い、反応生成物の量が増えるが、反応中の反応液の総質量は実質的に一定である。
【0019】
本発明で触媒として用いるチタノシリケートの組成は(SiO2x・(TiO2(1-x)で示される構造のものを指す。この場合x/(1-x)の値の範囲は、5~1,000、好ましくは10~500のものが用いられる。チタノシリケートは公知の方法により製造することができる。たとえば、US4,410,501号公報、Catalysis Today 147(2009)186-195に記載されているようにケイ素のアルコキシドとチタンのアルコキシドを4級アンモニウム塩などの存在下、水熱合成する方法が一般的である。用いる4級アンモニウム塩がテトラプロピルアンモニウム塩の場合、得られるチタノシリケートがMFI構造となり、好適に使用される。またMFI型チタノシリケートは、(SiO2x・(TiO2(1-x)が所定の範囲のものであれば、市販されているものを用いても差し支えない。
【0020】
また、チタノシリケート触媒はそのまま使用してもよいが、触媒の充填方式に合わせて成型して使用してもよい。触媒の成型方法としては、押し出し成型、打錠成型、転動造粒、噴霧造粒などが一般的である。固定床の方式で触媒を使用する場合は押し出し成型や打錠成型が好ましい。懸濁床の方式の場合は噴霧造粒が好ましく、例えば、US4,701,428号公報に記載されているように予め調製したチタノシリケート懸濁液とシリカ原料を混合し、スプレードライヤーを用いて噴霧造粒を行う方法が一般的である。ケイ素原料としては、ケイ素のアルコキシドやコロイダルシリカ、水中溶存シリカ、ケイ酸ナトリウム(水ガラス)、ケイ酸カリウムなどを用いることができるが、ケイ素以外の金属不純物を含むと触媒性能に悪影響を及ぼすため、不純物の少ないケイ素のアルコキシドやコロイダルシリカ、水中溶存シリカが好ましい。また、噴霧造粒後に乾燥や焼成を行ってもよい。噴霧造粒した成型触媒の平均粒径は、好ましくは0.1μm~1,000μm、より好ましくは5μm~100μmの範囲である。0.1μm以上であると触媒のろ過などのハンドリングがしやすいため好ましく、1,000μm以下であると触媒の性能が良く強度が高いため好ましい。
【0021】
チタノシリケート触媒の使用量は反応液の総質量に対して、外率で好ましくは0.1~30質量%、より好ましくは0.4~20質量%の範囲である。0.1質量%以上であると、反応が短時間で完結し、生産性が向上するため好ましい。30質量%以下であると、触媒の分離回収量が少ない点で好ましい。
【0022】
過酸化水素は、フェノール類に対して、モル比で0.01以上1以下にすることが好ましい。また、用いる過酸化水素の濃度は特に限定しないが、通常の30%濃度の水溶液を用いてもよいし、さらに高濃度の過酸化水素水をそのまま、あるいは反応系において不活性な溶媒で希釈して用いてもよい。希釈に用いる溶媒としては、アルコール類、水などが挙げられる。過酸化水素は一度に加えてもよいし、時間をかけて徐々に加えてもよい。
【0023】
本反応で用いる3級または4級炭素を有する炭素数4~5のアルコールとしては、ターシャリーブチルアルコール、2-メチル-1-プロパノール、2-メチル-1-ブタノール、3-メチル-1-ブタノール、2,2-ジメチル-1-プロパノール、2-メチル-2-ブタノール、3-メチル-2-ブタノールなどを挙げることができる。その中でも、特にターシャリーブチルアルコール、2,2-ジメチル-1-プロパノール、2-メチル-2-ブタノールが好ましい。その中でも特にターシャリーブチルアルコールは水と分離が可能であり、回収が容易である点から好ましい。このようなアルコール類を含むと、ハイドロキノン類の選択率を高くすることができる。この3級または4級炭素を有する炭素数4~5のアルコールの使用量としては、反応液の総質量に対して好ましくは1~90質量%の範囲、より好ましくは3~50質量%の範囲が特に好ましい。1質量%以上の場合はハイドロキノン類の選択率が高い点で好ましく、90質量%以下の場合は反応速度が速く、溶媒の回収量が少なくなる点で好ましい。
【0024】
本発明において水及び/又はメタノールとしては、水を用いてもメタノールを用いてもよく、また水とメタノールを任意の比率で併用してもよい。溶媒の回収及び再利用を考慮すると、水のみの使用が好ましい。水は過酸化水素水に含まれる水でもよい。水及び/又はメタノールは、反応液の総質量に対して5~90質量%の範囲が好ましく、8~90質量%の範囲がより好ましく、8~85質量%の範囲がさらに好ましい。溶媒の回収を考慮すると、水のみの使用が好ましく、水の使用は反応の総質量に対して8~85質量%の範囲が好ましい。
【0025】
なお、反応液中に含まれる、反応原料(フェノール類、過酸化水素)は10~94質量%、好ましくは13~80質量%の範囲で含まれていることが好ましい。この範囲にあれば、本発明の製造方法で、効率的に、所望の芳香族ポリヒドロキシ化合物を含む化合物を製造できる。
【0026】
3級または4級炭素を有する炭素数4~5のアルコールと、水または/及びメタノールの使用量比(質量比)は、3級または4級炭素を有する炭素数4~5のアルコール:水・メタノールで1:99~90:10、好ましくは3:97~80:20の範囲にあることが好ましい。溶媒の回収を考慮するとメタノールを除いた水のみの使用が好ましく、3級または4級炭素を有する炭素数4~5のアルコールと、水の使用量比(質量比)は、3:97~80:20の範囲にあることが好ましい。この比率であれば、芳香族ポリヒドロキシ化合物を含む化合物の収率が大きく、かつハイドロキノン類の選択率が高くなる。
【0027】
反応温度は、好ましくは30℃~130℃の範囲、より好ましくは40℃~100℃の範囲である。この範囲以外の温度でも反応は進行するが、生産性の向上の観点から上記範囲が好ましい。反応圧力は特に制限されない。
【0028】
また本反応は、回分式で行ってもよく、半回分式で行ってもよく、連続的に反応を行ってもよい。連続的に行う場合は、懸濁式の均一混合槽で行なってもよく、固定床流通式のプラグフロー形式で行ってもよい。また複数の反応器を直列及び/または並列に接続してもよい。反応器数は1~4器とするのが機器費の観点から好ましい。また複数の反応器を使用する場合は、それらに過酸化水素を分割して加えてもよい。
【0029】
本反応は、通常、懸濁床で行い、得られる反応液(R)から触媒を分離する工程を含む。触媒の分離には、一般的に沈降分離、遠心ろ過器、加圧ろ過器、フィルタープレス、リーフフィルター、ロータリーフィルターなどが用いられるが、本発明においては、沈降分離法を用いる。沈降分離は各種の濾過方法に比して高額なろ過設備を必要としないため、経済的な面で特に好ましい。沈降分離においては、通常、油水相を上部よりオーバーフローにて抜き出し、下部より一部の水相と共に沈降した触媒を抜き出す。この際、前記反応液(R)にエマルション相が発生し、そのエマルション相に触媒が混入することがあった。このような場合、上部より抜き出す液相に触媒が流出してしまい、触媒回収率が低下することがあった。
【0030】
本発明においては、前記反応液(R)を50℃以上として、触媒を沈降分離する(工程1)。この工程1を実施することによって、触媒の沈降が促進され、エマルション相から触媒を効率的に分離することができる。前記工程1の温度の好ましい下限値は、55℃、より好ましくは60℃である。一方、前記工程1の温度の好ましい上限値は、100℃、より好ましくは90℃、さらに好ましくは80℃である。
【0031】
この様な温度で前記の触媒が沈降する理由は定かではないが、本発明者は以下のように推測している。
前記の触媒はアルコールなどと親和性を持ち、エマルションとなり易い傾向があると考えられる。一方で、上記の温度範囲であれば、アルコールなどとの親和性が低下し、触媒固体が、それ自身が持つ密度の影響で沈降し易くなるのではないかと考えることが出来る。
【0032】
連続的に反応を行う場合、連続的に液相部が抜き出される。また、触媒を懸濁液ではなくケーキまたは粉体として取り出す場合、そのまま再度反応に使用してもよいし、乾燥処理(再生処理ともいう)をしてから再度反応に使用してもよい。乾燥処理には、箱型乾燥機、バンド乾燥機、回転乾燥機、噴霧乾燥器、気流乾燥機などが用いられる。乾燥処理は、窒素などの不活性ガス雰囲気下、空気雰囲気下、不活性ガスで希釈した空気雰囲気下、水蒸気雰囲気下、不活性ガスで希釈した水蒸気雰囲気下などで行うことができる。乾燥の温度としては60~800℃が好ましく、80~600℃が特に好ましい。この温度であれば、触媒の性能を著しく損なうことなく付着した有機物を減少させることができる。また、異なる複数の温度域を組み合わせて処理を行うこともできる。
また、上記反応液からジヒドロキシ化合物を得るため、反応液または触媒を分離した後のジヒドロキシ化合物を含む分離液(R1)に対し、未反応成分や副生成物を除去するなどの精製処理を行ってもよい。該精製処理は、触媒を分離した後のジヒドロキシ化合物を含む分離液に対してより好適に用いることができる。精製処理の方法については特に制限は無く、具体的には油水分離、抽出、蒸留、晶析、およびこれらの組み合わせ等の方法が挙げられる。精製処理の方法、手順等は特に限定しないが、例えば以下のような方法により、反応液および触媒を分離した後のジヒドロキシ化合物を含む分離液の精製が可能である。
【0033】
反応液が油相と水相の2相に分離する場合、油水分離が可能である。油水分離により、ジヒドロキシ化合物含有量が低い水相を除去して、油相を回収する。この場合、分離した水相は抽出や蒸留により、ジヒドロキシ化合物を回収してもよいし、一部または全部を再度反応に用いてもよい。また分離した水相に前記触媒分離工程で分離した触媒や乾燥処理をした触媒を分散し、反応器に供給することもできる。一方、油相はさらに抽出、蒸留および晶析等により精製処理を行うことが望ましい。
【0034】
触媒沈降分離を実施した後の油水分離に関して、工程1の温度のままではエマルション相が発生したり、油水が均一相になることがあるので、油相と水相の分離が困難となることがある。エマルション相の発生を抑制する方法として、液温としては、28℃以上、48℃以下である。好ましい下限値は30℃である。一方、液温が向上すると油相への水相の分配率が向上し、次工程の油相の蒸留において負荷となる。油相への水相の分配率を低下する方法として、好ましい上限値は45℃であり、さらに好ましくは40℃である。この様な範囲の温度とした後、油水分離を行う(工程2)。この際、得られた液相は、攪拌や振とう等の方法で、なるべく温度分布の均等な状態にすることが好ましい。
【0035】
触媒沈降分離槽において直接油水分離を実施してもよいが、液温調整のため、触媒沈降分離槽の後に、温度調整槽を設けてもよい。触媒を沈降分離した後、温度調整槽を設け液温調整してから油水分離槽に移液する形態が最も望ましい。
【0036】
また、前記工程1、前記工程2を連続的に実施することも可能である。
上記の様に、工程1と工程2とをこの順番で実施することで、効率よく触媒(固体)分離、油水分離を実施することが出来るのが本発明の特徴である。
【0037】
上記の工程1、工程2を行うことで得られる油相には、目的物であるジヒドロキシ化合物やジケトン化合物等が含まれている。これから、濃縮や蒸留などの公知の方法を用いて目的物を分離することが出来る。(もしも前記の反応でジケトン化合物が優勢となる場合は、本発明はジケトン化合物の製造方法に適用することも可能である。)
【0038】
本発明において、工程1と工程2での温度領域が異なる(工程1の方が高い温度で実施する。)ことは上記の通りである。この工程1と工程2の温度の差が比較的大きい方が本発明の効果を得やすい傾向がある。この温度差として好ましくは10~52℃の範囲である。より好ましい下限値は15℃、さらに好ましくは20℃である。一方より好ましい上限値は50℃、さらに好ましくは45℃である。
【0039】
蒸留は、触媒分離直後の反応液に対して実施してもよいし、前記油水分離後の油相および水相に実施してもよい。さらに抽出液を蒸留してもよい。
【0040】
触媒分離直後の反応液を蒸留する場合、まず水やアルコール類などの軽沸成分を分離するのが好ましい。水とアルコール類は別々の蒸留塔で分離してもよいし、1つの蒸留塔で分離してもよい。本発明では、水、メタノールおよび3級または4級炭素を有する炭素数4~5のアルコールを同時に蒸留により分離することが望ましい。
【0041】
水相や油相に分離された水やメタノールおよび3級または4級炭素を有する炭素数4~5のアルコール類は、一部または全部を再度反応に用いてもよい。また分離した水やメタノールおよび3級または4級炭素を有する炭素数4~5のアルコール類に前記触媒分離工程で分離した触媒や乾燥処理をした触媒を分散し、反応器に供給することもできる。
【0042】
前記した油水分離、抽出、蒸留等操作により、水やアルコール類を分離した後、次の蒸留操作でフェノール類を回収し、再度反応に用いてもよい。回収したフェノール類に分離しきれなかった水が含まれる場合は、イソプロピルエーテルまたはトルエンを加え共沸蒸留により除去することができる。この共沸蒸留は、フェノール類回収前の水やアルコール類分離後の液に対して行うこともできる。分離した水は、再度反応に用いてもよいし、廃水としてもよい。回収したフェノール類に水以外の反応副生物などの不純物が含まれる場合は、さらに蒸留操作で分離することもできる。不純物が反応副生物のベンゾキノン類の場合、フェノール類と共に再度反応器に供給することができる。
【0043】
フェノール類分離の後、芳香族ポリヒドロキシ化合物よりも高沸の成分を蒸留によって除去し、次の蒸留操作によってハイドロキノン類とカテコール類を分離できる。また高沸成分とハイドロキノン類とカテコール類は、ハイドロキノン類を蒸留塔の中段から抜き出すことにより1つの蒸留操作で分離することもできる。
【0044】
得られたハイドロキノン類とカテコール類は、必要に応じて、蒸留や晶析により不純物を除去し純度を高めることができる。
こうして得られたハイドロキノンなどの芳香族ポリヒドロキシ化合物は種々の有機合成中間体または原料物質として有用であり、還元剤、ゴム薬、染料、医薬、農薬、重合禁止剤、酸化抑制剤などの分野に利用される。
【実施例0045】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれにより何等制限されるものではない。
【0046】
芳香族ジヒドロキシ化合物の収率(%)=〔(生成したハイドロキノンのモル数)+(生成したカテコールのモル数)〕÷(加えた過酸化水素のモル数)×100
ハイドロキノン/カテコール比=(生成したハイドロキノンのモル数)÷(生成したカテコールのモル数)
【0047】
(製造例1)
外部ヒーター、圧力計、温度計、撹拌翼を備えた内容積1LのSUS 製オートクレーブに、チタノシリケート(TS-1)触媒25g、フェノール122g、ターシャリーブタノール87g、水221gを仕込み、窒素でオートクレーブ内圧力を0.3MPaGまで加圧した。さらに撹拌翼でオートクレーブ内液を撹拌しながら内温が90℃になるまで加温した。その状態で35.4質量%過酸化水素水を0.3g/分で120分オートクレーブへフィードし、降温後に反応液をサンプリングし、残存過酸化水素をヨードメトリーで、生成物をガスクロマトグラフィーで定量した。
その結果、芳香族ヒドロキシ化合物類の収率は70%、ハイドロキノン/カテコール比は4.0となった。
【0048】
[ガスクロマトグラフィーの分析条件]
検出器;水素炎イオン化検出器(FID)
カラム;DB-5(AgilentJ&W)、内径0.25mm、長さ60m、膜厚0.25μm
カラム温度;50℃、昇温速度5℃/分、300℃まで昇温10分保持
注入口温度;290℃
検出器温度;300℃
キャリアーガス;窒素
流速;1mL/min.
【0049】
(比較例1)
製造例1で得られたフェノール25質量%、ターシャリーブタノール20質量%、ハイドロキノン4質量%、カテコール1質量%、チタノシリケート触媒5質量%、水45質量%の懸濁溶液を、液温度が30℃となるように保温したセパラブルフラスコに連続フィードし触媒沈降分離を実施した。オーバーフローした油相および水相について30℃で油水分離した後、各相の重量、水分濃度を測定した。油相への水分配率を算出すると、20.9質量%となった。またオーバーフローした各相から触媒量を測定し触媒の油水相への流出率を算出すると1.0質量%となった。
【0050】
(参考例1)
製造例1で得られたフェノール25質量%、ターシャリーブタノール20質量%、ハイドロキノン4質量%、カテコール1質量%、チタノシリケート触媒5質量%、水45質量%の懸濁溶液を液温度が50℃となるように保温したセパラブルフラスコに連続フィードし触媒沈降分離を実施した。オーバーフローした油相および水相について50℃で油水分離した後、各相の重量、水分濃度を測定した。油相への水分配率を算出すると、32.6質量%となった。またオーバーフローした各相から触媒量を測定し、触媒の油水相への流出率を算出すると2.0質量%となった。
【0051】
(参考例2(工程1のみ実施))
製造例1で得られたフェノール25質量%、ターシャリーブタノール20質量%、ハイドロキノン4質量%、カテコール1質量%、チタノシリケート触媒5質量%、水45質量%の懸濁溶液を液温度が70℃となるように保温したセパラブルフラスコに連続フィードし触媒沈降分離を実施した。オーバーフローした油相および水相について70℃で油水分離した後、各相の重量、水分濃度を測定した。油相への水分配率を算出すると、39.8質量%となった。またオーバーフローした各相から触媒量を測定し、触媒の油水相への流出率を算出すると0.1%となった。
【0052】
(比較例2)
製造例1で得られたフェノール25質量%、ターシャリーブタノール20質量%、ハイドロキノン4質量%、カテコール1質量%、チタノシリケート触媒5質量%、水45質量%の懸濁溶液を液温度が70℃となるように保温したセパラブルフラスコに連続フィードし、触媒沈降分離を実施した。油水分離としてオーバーフローした油相および水相を室温(25℃前後)下で静置すると、240分経過してもエマルション相は解消されなかった。
【0053】
(比較例3)
実施例1で得られたフェノール25質量%、ターシャリーブタノール20質量%、ハイドロキノン4質量%、カテコール1質量%、チタノシリケート触媒5質量%、水45質量%の懸濁溶液を液温度が70℃となるように保温したセパラブルフラスコに連続フィードした。オーバーフローした油相および水相を冷却槽へ流し込み、平均滞留時間30分、20℃の条件下で撹拌混合し、オーバーフローした油相および水相を室温下で静置すると、エマルジョン相が解消される時間は44分であった。
【0054】
(実施例1)
製造例1で得られたフェノール25質量%、ターシャリーブタノール20質量%、ハイドロキノン4質量%、カテコール1質量%、チタノシリケート触媒5質量%、水45質量%の懸濁溶液を液温度が70℃となるように保温したセパラブルフラスコに連続フィードし、触媒沈降分離を実施した。オーバーフローした油相および水相を冷却槽へ流し込み、平均滞留時間30分、30℃の条件下で撹拌混合し、オーバーフローした油相および水相を平均滞留時間60分、30℃条件下で油水分離槽へ流し込み、連続的に油水分離を実施すると良好な分液性となった。
この後、常法により油水分離、濃縮、蒸留にて目的物を分離した。
【0055】
(比較例4)
製造例1で得られたフェノール25質量%、ターシャリーブタノール20質量%、ハイドロキノン4質量%、カテコール1質量%、チタノシリケート触媒5質量%、水45質量%の懸濁溶液を液温度が70℃となるように保温したセパラブルフラスコに連続フィードした。オーバーフローした油相および水相を冷却槽へ流し込み、平均滞留時間30分、20℃の条件下で撹拌混合し、オーバーフローした油相および水相を平均滞留時間30分、20℃条件下で油水分離槽へ流し込み、連続的に油水分離を実施するとエマルジョンが発生し、時間経過とともにエマルジョン相が増加した。
【0056】
(比較例5)
製造例1で得られたフェノール25質量%、ターシャリーブタノール20質量%、ハイドロキノン4質量%、カテコール1質量%、チタノシリケート触媒5質量%、水45質量%の懸濁溶液を液温度が70℃となるように保温したセパラブルフラスコに連続フィードした。オーバーフローした油相および水相を冷却槽へ流し込み、平均滞留時間30分、25℃の条件下で撹拌混合し、オーバーフローした油相および水相を平均滞留時間30分、25℃条件下で油水分離槽へ流し込み、連続的に油水分離を実施するとエマルジョンが発生し時間経過とともにエマルジョン相が緩やかに増加した。
【0057】
(参考例3(模擬反応液を用いて、工程2を実施))
フェノール27.7質量%、ターシャリーブタノール19.8質量%、ハイドロキノン1.5質量%、カテコール0.5質量%、水50.5質量%の模擬液を耐圧ガラス製オートクレーブへ仕込み、50℃以上で撹拌すると油水懸濁状態となった。さらに97℃に昇温すると油水が均一化した。
【0058】
(参考例4(模擬反応液を用いて、工程2を実施))
フェノール27.2質量%、ターシャリーブタノール19.4質量%、ハイドロキノン2.9質量%、カテコール1.0質量%、水49.5質量%の模擬液を耐圧ガラス製オートクレーブへ仕込み、50℃以上で撹拌すると油水懸濁状態となった。さらに88℃に昇温すると油水が均一化した。
【0059】
(参考例5(模擬反応液を用いて、工程2を実施))
フェノール26.7質量%、ターシャリーブタノール19.1質量%、ハイドロキノン4.2質量%、カテコール1.4質量%、水48.6質量%の模擬液を耐圧ガラス製オートクレーブへ仕込み、50℃以上で撹拌すると油水懸濁状態となった。さらに79℃に昇温すると油水が均一化した。