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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149350
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】黒鉛含有耐火物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/80 20060101AFI20231005BHJP
   C04B 35/52 20060101ALI20231005BHJP
   C04B 35/66 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C04B35/80
C04B35/52
C04B35/66
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022057878
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083253
【弁理士】
【氏名又は名称】苫米地 正敏
(72)【発明者】
【氏名】吉田 圭佑
(72)【発明者】
【氏名】松永 久宏
(72)【発明者】
【氏名】細原 聖司
(57)【要約】
【課題】転炉の内張耐火物のように長期間に亘って昇温と降温が繰り返される条件で使用される場合でも、熱応力により発生する亀裂の進展が抑制されて高い耐用性が得られ、また、特に転炉の羽口煉瓦のように内部の温度勾配が非常に大きい条件で使用される場合でも、高い耐用性が得られる黒鉛含有耐火物を安定して製造することができる製造方法を提供する。
【解決手段】炭素繊維束Bに対して残炭率が6~80質量%の有機物または/および無機微粒子を含む接着剤cを付着させる調製工程と、この調製工程で接着剤cを付着させた炭素繊維束Bを耐火物原料Aの内部に埋設し、この炭素繊維束Bが埋設された耐火物原料Aを成形して耐火物成形体xを得る成形工程を有する。好ましくは、成形工程において、耐火物原料Aの内部に、黒鉛含有耐火物の稼働面と平行な耐火物断面における、炭素繊維束Bを構成する炭素繊維の存在密度が10~2000本/mmとなるように、同じく炭素繊維の占有面積率が0.1~40%となるように炭素繊維束Bを埋設する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛を含有する耐火物原料(A)の内部に炭素繊維束(B)が配置された黒鉛含有耐火物の製造方法であって、
炭素繊維束(B)に対して残炭率が6~80質量%の有機物または/および無機微粒子を含む接着剤(c)を付着させる調製工程と、
該調製工程で接着剤(c)を付着させた炭素繊維束(B)を耐火物原料(A)の内部に埋設し、該炭素繊維束(B)が埋設された耐火物原料(A)を成形して耐火物成形体(x)を得る成形工程を有することを特徴とする黒鉛含有耐火物の製造方法。
【請求項2】
成形工程では、耐火物原料(A)にバインダーを加えて混錬し、該混錬物に炭素繊維束(B)を埋設した後、成形することを特徴とする請求項1に記載の黒鉛含有耐火物の製造方法。
【請求項3】
さらに、成形工程で得られた耐火物成形体(x)を乾燥する乾燥工程を有することを特徴とする請求項1または2に記載の黒鉛含有耐火物の製造方法。
【請求項4】
さらに、乾燥工程を経た耐火物成形体(x)を還元焼成する焼成工程を有することを特徴とする請求項3に記載の黒鉛含有耐火物の製造方法。
【請求項5】
接着剤(c)は、有機樹脂溶液、無機ゾル、タール、ピッチ、有機糊の中から選ばれる1種以上からなることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の黒鉛含有耐火物の製造方法。
【請求項6】
炭素繊維束(B)の幅が1~15mmであることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の黒鉛含有耐火物の製造方法。
【請求項7】
炭素繊維束(B)は、長さが100mm以上で繊維径が1~45μmの炭素繊維を束に纏めたものであって、1束あたりの炭素繊維の本数が1000~300000本であることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の黒鉛含有耐火物の製造方法。
【請求項8】
成形工程では、耐火物原料(A)の内部に、隣り合う炭素繊維束(B)どうしの間隔が3mm超となるように、複数本の炭素繊維束(B)を並列状に埋設することを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載の黒鉛含有耐火物の製造方法。
【請求項9】
成形工程では、耐火物原料(A)の内部に、黒鉛含有耐火物の稼働面と平行な耐火物断面における、炭素繊維束(B)を構成する炭素繊維の存在密度が10~2000本/mmとなるように炭素繊維束(B)を埋設することを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載の黒鉛含有耐火物の製造方法。
【請求項10】
成形工程では、耐火物原料(A)の内部に、黒鉛含有耐火物の稼働面と平行な耐火物断面における、炭素繊維束(B)を構成する炭素繊維の占有面積率が0.1~40%となるように炭素繊維束(B)を埋設することを特徴とする請求項1~9のいずれかに記載の黒鉛含有耐火物の製造方法。
【請求項11】
耐火物原料(A)は、黒鉛原料を1~80質量%含有することを特徴とする請求項1~10のいずれかに記載の黒鉛含有耐火物の製造方法。
【請求項12】
耐火物原料(A)は、マグネシア原料を20~99質量%含有することを特徴とする請求項1~11のいずれかに記載の黒鉛含有耐火物の製造方法。
【請求項13】
耐火物原料(A)は、アルミナ原料を10~95質量%含有することを特徴とする請求項1~11のいずれかに記載の黒鉛含有耐火物の製造方法。
【請求項14】
耐火物原料(A)は、シリカ原料を1~50質量%含有することを特徴とする請求項1~11、13のいずれかに記載の黒鉛含有耐火物の製造方法。
【請求項15】
耐火物原料(A)は、炭化ケイ素原料を1質量%以上含有することを特徴とする請求項13または14に記載の黒鉛含有耐火物の製造方法。
【請求項16】
耐火物原料(A)は、使用済み耐火物を粉砕した耐火物屑を10~90質量%含有することを特徴とする請求項1~15いずれかに記載の黒鉛含有耐火物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐火物本体の内部に炭素繊維束を配置した黒鉛含有耐火物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
製鉄所において製銑工程や製鋼工程で使用される設備(精錬容器、搬送容器など)は、高温下で長期間の使用に耐えられるように耐火物が内張り施工されている。一般に、精錬工程で使用される転炉の内張りにはマグネシア・カーボン質耐火物が使用され、溶銑予備処理工程で使用されるトピードや高炉鍋の内張りにはアルミナ・炭化珪素・カーボン質耐火物などが使用される。
これらの精錬容器や搬送容器で内張りに使用される耐火物は、装入物による機械的衝撃、溶鋼や溶融スラグの撹拌による摩耗、溶融スラグによるスラグ浸食、操業中の急激な温度変化などが生じる非常に過酷な条件下で使用される。このため、安定した操業を行うためにも、そのような過酷な条件に耐えられる耐用性の高い耐火物を使用する必要がある。
【0003】
特に、転炉の羽口部を構成する羽口煉瓦は、内部に常温のガス(酸素や冷却用炭化水素ガス等)が流れており、炉内に近い部位では内面が常温のガスにより冷却され、外面は炉内の溶鋼からの伝熱による高温に曝されるため、羽口煉瓦内の熱勾配は極めて大きく、しかも転炉の1チャージ分の吹錬が終わる度に、溶鋼を排出することによる温度低下が生じ、大きな熱変動が繰り返される。転炉に設置される羽口煉瓦は、使用頻度が2500~4000チャージ程度にも達し、この1チャージ毎に上記のような大きな熱勾配を生じる状況と大きな熱変動が繰り返されるという極めて過酷な条件で使用されるため、このような条件での使用に耐え得る高い耐用性が必要である。また、羽口煉瓦以外の転炉内張り耐火物(転炉内壁を構成する煉瓦)も、上述したような大きな熱変動が繰り返される過酷な条件で使用されるため、羽口煉瓦ほどではないが、高い耐用性が求められる。
【0004】
耐火物の耐用性を高める技術として、特許文献1には、長さ100mm以上の炭素繊維を接着剤で束ね、粘着性を付与した束の状態で耐火物の内部に配置することにより、破壊エネルギーが大幅に上昇したことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】再公表2018-155118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、本発明者らが検討した結果、特許文献1のように耐火物の内部に炭素繊維束を装入する技術では、使用する接着剤の特性によっては、耐火物内に炭素繊維束を装入(配置)することによる効果が十分に得られないことが判った。特許文献1には、そのような炭素繊維束の装入効果を最大限に発現させるための接着剤の条件については開示がない。
【0007】
したがって本発明の目的は、以上のような従来技術の課題を解決し、転炉の内張り耐火物のように長期間にわたって昇温と降温が繰り返される条件で使用される場合でも、熱応力により発生する亀裂の進展が抑制されて高い耐用性が得られ、また、特に転炉の羽口煉瓦のように内部の温度勾配が非常に大きい条件で使用される場合でも高い耐用性が得られる黒鉛含有耐火物を安定して製造することができる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために検討を重ねた結果、耐火物の内部に炭素繊維束を埋設した黒鉛含有耐火物を製造する際に、炭素繊維束を耐火物原料に接着または密着させるために炭素繊維束に付着させる接着剤として所定の残炭率を有する有機物または/および無機微粒子を含む接着剤を用いること、好ましくは炭素繊維束を構成する炭素繊維の繊維径や本数、さらには耐火物断面における炭素繊維の存在密度、占有面積率などを最適化することにより、上述したような極めて厳しい使用環境でも高い耐用性が得られる黒鉛含有耐火物を安定して製造できることを見出した。
【0009】
本発明は、このような知見に基づきなされたもので、以下を要旨とするものである。
[1]黒鉛を含有する耐火物原料(A)の内部に炭素繊維束(B)が配置された黒鉛含有耐火物の製造方法であって、
炭素繊維束(B)に対して残炭率が6~80質量%の有機物または/および無機微粒子を含む接着剤(c)を付着させる調製工程と、
該調製工程で接着剤(c)を付着させた炭素繊維束(B)を耐火物原料(A)の内部に埋設し、該炭素繊維束(B)が埋設された耐火物原料(A)を成形して耐火物成形体(x)を得る成形工程を有することを特徴とする黒鉛含有耐火物の製造方法。
[2]上記[1]の製造方法において、成形工程では、耐火物原料(A)にバインダーを加えて混錬し、該混錬物に炭素繊維束(B)を埋設した後、成形することを特徴とする黒鉛含有耐火物の製造方法。
【0010】
[3]上記[1]または[2]の製造方法において、さらに、成形工程で得られた耐火物成形体(x)を乾燥する乾燥工程を有することを特徴とする黒鉛含有耐火物の製造方法。
[4]上記[3]の製造方法において、さらに、乾燥工程を経た耐火物成形体(x)を還元焼成する焼成工程を有することを特徴とする黒鉛含有耐火物の製造方法。
[5]上記[1]~[4]のいずれかの製造方法において、接着剤(c)は、有機樹脂溶液、無機ゾル、タール、ピッチ、有機糊の中から選ばれる1種以上からなることを特徴とする黒鉛含有耐火物の製造方法。
[6]上記[1]~[5]のいずれかの製造方法において、炭素繊維束(B)の幅が1~15mmであることを特徴とする黒鉛含有耐火物の製造方法。
【0011】
[7]上記[1]~[6]のいずれかの製造方法において、炭素繊維束(B)は、長さが100mm以上で繊維径が1~45μmの炭素繊維を束に纏めたものであって、1束あたりの炭素繊維の本数が1000~300000本であることを特徴とする黒鉛含有耐火物の製造方法。
[8]上記[1]~[7]のいずれかの製造方法において、成形工程では、耐火物原料(A)の内部に、隣り合う炭素繊維束(B)どうしの間隔が3mm超となるように、複数本の炭素繊維束(B)を並列状に埋設することを特徴とする黒鉛含有耐火物の製造方法。
[9]上記[1]~[8]のいずれかの製造方法において、成形工程では、耐火物原料(A)の内部に、黒鉛含有耐火物の稼働面と平行な耐火物断面における、炭素繊維束(B)を構成する炭素繊維の存在密度が10~2000本/mmとなるように炭素繊維束(B)を埋設することを特徴とする黒鉛含有耐火物の製造方法。
【0012】
[10]上記[1]~[9]のいずれかの製造方法において、成形工程では、耐火物原料(A)の内部に、黒鉛含有耐火物の稼働面と平行な耐火物断面における、炭素繊維束(B)を構成する炭素繊維の占有面積率が0.1~40%となるように炭素繊維束(B)を埋設することを特徴とする黒鉛含有耐火物の製造方法。
[11]上記[1]~[10]のいずれかの製造方法において、耐火物原料(A)は、黒鉛原料を1~80質量%含有することを特徴とする黒鉛含有耐火物の製造方法。
[12]上記[1]~[11]のいずれかの製造方法において、耐火物原料(A)は、マグネシア原料を20~99質量%含有することを特徴とする黒鉛含有耐火物の製造方法。
【0013】
[13]上記[1]~[11]のいずれかの製造方法において、耐火物原料(A)は、アルミナ原料を10~95質量%含有することを特徴とする黒鉛含有耐火物の製造方法。
[14]上記[1]~[11],[13]のいずれかの製造方法において、耐火物原料(A)は、シリカ原料を1~50質量%含有することを特徴とする黒鉛含有耐火物の製造方法。
[15]上記[13]または[14]のいずれかの製造方法において、耐火物原料(A)は、炭化ケイ素原料を1質量%以上含有することを特徴とする黒鉛含有耐火物の製造方法。
[16]上記[1]~[15]のいずれかの製造方法において、耐火物原料(A)は、使用済み耐火物を粉砕した耐火物屑を10~90質量%含有することを特徴とする黒鉛含有耐火物の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高い破壊エネルギーを有するため、転炉の内張り耐火物のように長期間にわたって昇温と降温が繰り返される条件下で使用しても、熱応力により発生する亀裂の進展が抑制されるため高い耐用性が得られ、特に転炉の羽口煉瓦のように内部の温度勾配が非常に大きい条件で使用される場合でも高い耐用性が得られる黒鉛含有耐火物を安定して製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明法による黒鉛含有耐火物の製造工程の一例を示すフロー図
図2】本発明法により製造される黒鉛含有耐火物の一例である、羽口煉瓦を構成する煉瓦構成部材の1つを模式的に示すものであり、図2(ア)は斜視図、図2(イ)は図2(ア)中の一点鎖線に沿う断面図(耐火物稼働面に平行な断面図)
図3】実施例における黒鉛含有耐火物の耐溶損性の評価試験方法を示すもので、図3(A)は試験の実施状況を試験炉および筒状サンプルを縦断面した状態で模式的に示す説明図、図3(B)は図3(A)に示される筒状サンプルの平面図、図3(C)は図3(A),(B)に示す筒状サンプルを構成する試験片の1つを示す斜視図
図4】実施例における黒鉛含有耐火物の曲げ強度の測定方法を示すもので、図4(ア)は3点曲げ強度試験の実施状況を模式的に示す説明図、図4(イ)は図4(ア)の試験片の端面を模式的に示す説明図
図5】実施例において、3点曲げ強度試験で得られた荷重-変位曲線から求められる破壊エネルギーの一例を示す図面
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の製造方法は、黒鉛を含有する耐火物原料Aの内部に炭素繊維束Bが埋設された黒鉛含有耐火物の製造方法であって、炭素繊維束Bに対して残炭率が6~80質量%の有機物または/および無機微粒子を含む接着剤cを付着させる調製工程(i)と、この調製工程(i)で接着剤cを付着させた炭素繊維束Bを耐火物原料Aの内部に埋設し、この炭素繊維束Bが埋設された耐火物原料Aを成形して耐火物成形体xを得る成形工程(ii)を有する。ここで、接着剤cの残炭率とは、JIS K6910(フェノール樹脂試験方法)に記載の固定炭素測定法に基づいて測定されるものである。
【0017】
このような本発明法により製造される黒鉛含有耐火物は、耐火物原料Aの内部に配置(埋設)された炭素繊維束Bが、耐火物原料Aに対して接着剤cを介して接着または密着されることで炭素繊維束Bが耐火物と一体化することに加えて、接着剤cが特定の残炭率を有する有機物または/および無機微粒子を含むことにより、亀裂の発生を抑制できる高い破壊エネルギーが得られる。また、調製工程(i)において、炭素繊維束Bに対して、その外表面に接着剤cを付着させるだけでなく、束内に接着剤cを浸透(含浸)させることにより、炭素繊維束Bが接着剤cにより束として一体化されるので、より高い破壊エネルギーが得られる。
【0018】
図1は、本発明の製造方法における製造工程の一例を示すものである。また、図2は、本発明法により製造される黒鉛含有耐火物の一例(羽口煉瓦を構成する煉瓦構成部材の1つ)を模式的に示すものであって、図2(ア)は斜視図、図2(イ)は図2(ア)中の一点鎖線に沿う断面図(耐火物稼働面に平行な断面図)であり、s1が耐火物の稼動面(溶鋼やスラグに接触する面)、s2が反稼動面である。この黒鉛含有耐火物では、耐火物本体(耐火物原料Aで構成される部分。以下同様)の内部に複数本の炭素繊維束Bが所定の間隔で並列状に配置(埋設)されている。
調製工程(i)では、炭素繊維束Bに対して残炭率が6~80質量%の有機物または/および無機微粒子を含む接着剤c(すなわち、残炭率が6~80質量%の有機物または/および無機微粒子を有効成分とする接着剤c)を付着させる。この際、炭素繊維束Bと耐火物原料Aを接着して一体化させるために、接着剤cを炭素繊維束Bの外表面を覆うように付着させるが、さらに好ましくは、炭素繊維束Bを束として一体化させるために、接着剤cを炭素繊維の束の中(炭素繊維どうしの間隙)に浸透(含浸)させる。
【0019】
耐火物は、その使用時または事前焼成時に、内部まで500℃以上(JIS K6910では900℃で測定する)の高温になる。このとき、黒鉛含有耐火物のように内部には酸素がほとんどない環境であっても、接着剤cの有効成分が有機樹脂などの有機物である場合、炭素繊維束Bに付着した接着剤cの一部は分解や蒸発によってガス化して耐火物の外に散逸してしまう。残炭率は、接着剤のうち、ガス化散逸せずに残存する重量の比率の指標となると思われ、接着剤の種類や品質によって異なる。本発明者らは、接着剤の残炭率が、炭素繊維束を用いた黒鉛含有耐火物が実使用環境である高温に晒された時の破壊エネルギーに影響するとの着想を得て調査した結果、残炭率が6~80質量%である接着剤c(有機物)を使用すると、高い破壊エネルギーを有する黒鉛含有耐火物が得られることを見出した。これは、そのような特定の残炭率の接着剤c(有機物)を使用すると、耐火物原料A(耐火物本体)と炭素繊維束Bの密着性が高まるため、成形時に耐火物煉瓦が緻密化し易くなることに加え、使用時または事前焼結時に高温に曝されると耐火物内部から抜け出るガス量を抑制できるため、亀裂の発生を抑制でき、破壊エネルギーが上昇するためであると考えられる。
また、本発明者らは、接着剤cの有効成分がアルミナやシリカなどの無機微粒子である場合にも、高い破壊エネルギーが得られることを見出した。これは、無機微粒子(特に無機ゾル由来の無機微粒子)を使用した場合にも、耐火物原料(耐火物本体A)と炭素繊維束Bの密着性が高まるため、成形時に耐火物煉瓦が緻密化し易くなることに加え、使用時または事前焼結時に高温に曝されると無機微粒子が焼結することで亀裂の発生を抑制でき、破壊エネルギーが上昇するためであると考えられる。
【0020】
接着剤cの有効成分が有機物の場合、その残炭率が6質量%未満では、高温下において耐火物内部から抜けるガス量が多くなり、気孔などの欠陥が多く生成されるため、破壊エネルギーが上昇しない。一方、残炭率が80質量%超では、高温下において耐火物内部から抜けるガス量が殆ど無くなり、耐火物が緻密化し過ぎて脆くなるため、破壊エネルギーが上昇しない。また、以上のような観点から、有機物の残炭率は20~80質量%が好ましく、40~80質量%がより好ましい。
接着剤cは、炭素繊維束Bの外表面を覆って炭素繊維束Bを耐火物本体Aに接着または密着させ、さらに好ましくは炭素繊維の束の中(炭素繊維どうしの間隙)に存在(浸透)して炭素繊維束Bを束として一体化させるものであるため、調製工程(i)で使用する接着剤cは液体状であることが望ましい。また、接着剤cは高温下でも分解や蒸発をせずに残存する必要があるが、黒鉛含有耐火物に用いる場合は酸素による燃焼はほとんど起こらないので、酸素存在下での燃焼性に富む樹脂を用いることは可能である。これらの条件から、調製工程(i)において炭素繊維束Bに付着させる接着剤cとしては、有機樹脂溶液、タール、ピッチ、有機糊、無機ゾルの中から選ばれる1種以上(すなわち、これらのいずれか若しくはこれらの混合物)が適している。
【0021】
接着剤c(粘着性付与剤)の具体例としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂(これらの有機樹脂の1種以上からなる樹脂溶液)、ピッチ、タール、でんぷん糊、アルミナゾル、シリカゾル、ジルコニアゾル、クロミアゾル、チタニアゾル、マグネシアゾル、カルシアゾル、イットリアゾルなどが挙げられ、これらの中から選ばれる1種以上を用いることができる。
また、これらの接着剤cの粘性を調整するために溶媒で薄めることもできるが、500℃以上の高温下では酸素が無くてもガス化する溶媒(たとえば、水)の使用は接着剤成分の重量に対して等量以下に抑えることが望ましい。
また、2種以上の接着剤cを使用することにより、1種類の接着剤cを使用する場合よりも高い曲げ強度と破壊エネルギーが得られる。この理由は、耐火物原料と炭素繊維の密着性がより高まるからである。したがって、より高い曲げ強度と破壊エネルギーを得るためには、接着剤cが2種以上の接着剤で構成されることが好ましい。
【0022】
調製工程(i)において、接着剤cを炭素繊維束Bの外表面を覆うように付着させるとともに、接着剤cを炭素繊維の束の中(炭素繊維どうしの間隙)に浸透(含浸)させる場合、例えば、接着剤cである樹脂(樹脂溶液)や無機ゾルなどに炭素繊維束Bを浸漬したり、接着剤cである樹脂(樹脂溶液)や無機ゾルなどを炭素繊維束Bに散布する。
また、他の方法としては、予め束内に接着剤cを含浸させた後、硬化または固化させた炭素繊維束Bを用意し、調製工程(i)においてに、改めて炭素繊維束Bの外表面を覆うように接着剤cを付着させるようにしてもよい。
【0023】
成形工程(ii)では、調製工程(i)で接着剤cを付着させた炭素繊維織束B(好ましくは接着剤cを束の内部に浸透(含浸)させ且つ外表面にも付着させた炭素繊維束B)を、接着剤cが粘着性を有するうちに耐火物原料Aの内部に埋設し、この炭素繊維織束Bが埋設された耐火物原料Aを成形して耐火物成形体x(耐火物原料の成型品)を得るが、図1に示すように成形をプレス成形で行う場合には、通常、耐火物原料Aに適量のバインダーを加えて混練し、その混練物に対して炭素繊維束Bを埋設し、次いで、プレス成形を行う。バインダーとしては、例えば、フェノールレジン(主剤)+ヘキサミン(硬化剤)、カーボンボンド、セラミックボンドなどが用いられる。なお、耐火物原料Aは、黒鉛(カーボン原料)および骨材原料などが配合されたものであり、その具体的な組成については、後に詳述する。
【0024】
ここで、炭素繊維束Bに付着した接着剤cは、炭素繊維束Bを混練物に埋設する際にある程度硬化または固化が進んだ状態であっても、上述したように炭素繊維束Bと耐火物原料A(混練物)が接着または密着できるような粘着性を有する状態(いわゆる生乾きの状態)であればよい。
耐火物原料Aに埋設された炭素繊維束Bは、接着剤cを介して耐火物原料Aに接着または密着する。また、炭素繊維束Bが、外表面に接着剤cを付着させ、且つ束内にも接着剤cを浸透させた状態で耐火物原料Aに埋設される場合、炭素繊維束Bは、その束内に接着剤cを含む(すなわち、接着剤cが炭素繊維束Bを構成する炭素繊維どうしの間隙に存在することにより、炭素繊維が束の状態に一体化される)とともに、耐火物原料Aとの間に接着剤cが介在し、耐火物原料Aに対して接着剤cを介して接着または密着される。
【0025】
プレス成形は、型に耐火物原料Aの混練物と炭素繊維束Bを充填して行うが、耐火物原料Aの混練物を、炭素繊維束B(接着剤cを付着させた炭素繊維束B。以下同様)とともに型に充填する方法としては、例えば、一定量の混練物を型に装入した後に複数本の炭素繊維束Bを並列状に配置(装入)し、さらに一定量の混練物を型に装入する方法がある。したがって、この方法で図2のように複数本の炭素繊維束Bが耐火物原料Aの内部に埋設された黒鉛含有耐火物を製造するには、型に一定量の混練物を装入した後、その上に並列した複数本の炭素繊維束Bを配置する工程と、その上に一定量の混練物を装入する工程を繰り返し行う。
【0026】
プレス成形は、金型内で一方向に圧縮する一般的な金型プレス成形を行うことができるが、液体を用いて全方向から均等に圧力を加えるCIP成形を行ってもよい。部位によって厚さが異なる形状など、一方向の圧縮では均等な圧力を加えることが難しい形状に対しては、CIP成形を用いることによって部位による圧縮度の偏りが軽減されるので望ましい。
また、成形工程(ii)は、プレス成形以外の成形法で行ってもよい。プレス成形以外の成形法としては、例えば、流し込みによる成形があり、その1つに、鍋やタンディッシュなどの稼働面である施工部位に内枠を設置し、この内枠に不定形耐火物(耐火物原料A)を流し込み、乾燥(乾燥工程)・固化させた後に内枠を除去する方法がある。また、施工部位に流し込むのではなく、耐火物形状の型枠内に不定形耐火物(耐火物原料A)を流し込み、乾燥(乾燥工程)・固化させた後に型枠から取り出した耐火物を、施工部位まで運搬して施工する方法もあり、この方法は施工部位への耐火物施工の手間はかかるものの、型枠内に不定形耐火物を流し込む際の炭素繊維束Bの埋設や固化時の温度管理が容易であるので望ましい。これらの流し込みによる成形法では、上述した内枠や型枠内に炭素繊維束Bを配置した上で、内枠や型枠内に不定形耐火物(耐火物原料A)を流し込み、乾燥(乾燥工程)・固化させる。
したがって、本発明により製造される黒鉛含有耐火物には、プレス成形を経て製造される、いわゆる耐火物れんがのほかに、上述したように、鍋やタンディッシュなどの稼働面である施工部位において流し込みにより成形され、そのまま乾燥・固化させる耐火物なども含まれる。
【0027】
以下、成形工程(ii)において耐火物原料Aに埋設する炭素繊維束Bの構成と、炭素繊維束Bの埋設条件について説明する。
耐火物原料Aに埋設される炭素繊維束Bの配置形態は任意であり、特別な制限はないが、操業時、亀裂発生原因である引張応力は耐火物の長手方向に発生することから、一方向に沿って直線状に配置(埋設)することが好ましく、特に、耐火物の稼動面s1と直交する方向に沿って配置(埋設)されることが好ましい。また、複数本の炭素繊維束Bを配置する場合には所定の間隔をあけて並列状に配置(埋設)することが好ましい。
【0028】
なお、耐火物成形体xの内部に埋設される炭素繊維束Bは、その端部が耐火物成形体xの表面に露出していてもよいし、露出していなくてもよい。また、後者の場合、耐火物成形体xの稼動面s1側においては、炭素繊維織物Bの端部と稼動面s1間の距離はなるべく小さいことが好ましいが、反稼動面s2側においては、炭素繊維束Bの端部と反稼動面s2間の距離はある程度大きくてもよい。これは、使用終了時にも残存することが想定される耐火物の反稼働面s2側の部分には、炭素繊維束Bが埋設されている必要がないからである。
【0029】
炭素繊維束Bは、幅w(1束あたりの幅)が1~15mmであることが好ましい。ここで、炭素繊維束Bの幅とは、炭素繊維束の幅方向断面における長辺又は長径の長さ(但し、幅方向断面が4角形又は円形の場合は1辺の長さ又は直径)を指す。炭素繊維束Bの幅wが1mm以上であることにより、同じ本数の炭素繊維を用いる場合の炭素繊維束Bの数を少なくでき、炭素繊維束Bを耐火物原料Aの内部に偏りなく配置することが容易になる。一方、炭素繊維束Bの幅wが15mm以下であることにより、耐火物原料Aに用いる原料のうちの粗粒材(一般に粒径5~20mmのものが用いられる)と炭素繊維束Bが干渉したり、炭素繊維束B自体の溶損が耐火物の溶損の引き金となることを軽減できる。
【0030】
炭素繊維束Bは、長さLが100mm以上で繊維径が1~45μmの炭素繊維を束に纏めたものであって、1束あたりの炭素繊維の本数が1000~300000本であることが好ましい。
炭素繊維の長さL(炭素繊維束Bの長さ)が100mm未満の場合には、耐火物原料Aとの間の拘束力が小さくなるため、炭素繊維束Bが亀裂の進展を抑制する効果が小さくなる。また、炭素繊維の繊維径が1μm未満の場合や、1束あたりの炭素繊維の本数が1000本未満の場合には、炭素繊維束Bが細過ぎるため局部的な亀裂の進展を抑制する効果が低下し、破壊エネルギーの上昇が小さくなる。一方、炭素繊維の繊維径が45μm超の場合や、1束あたりの炭素繊維の本数が300000本超の場合には、炭素繊維束Bが太過ぎるため耐火物原料A(耐火物本体)と炭素繊維束Bとの馴染みが悪く、成形時にスプリングバックと呼ばれる炭素繊維束の弾性による欠陥が起こりやすい。
【0031】
成形工程(ii)では、耐火物原料Aの内部に、隣り合う炭素繊維束Bどうしの間隔d(炭素繊維束Bの相互間距離)が3mm超となるように、複数本の炭素繊維束Bを並列状に埋設することが好ましい。隣り合う炭素繊維束Bどうしの間隔dが3mm超となるように配置することにより、耐火物原料(耐火物本体A)と炭素繊維束Bの絡みを良くすることができ、また、成形時にラミネーションと呼ばれる炭素繊維束に起因する剥離を起こし難くできる。なお、この間隔dの上限は特にないが、下記する炭素繊維の存在密度との関係などからして、一般には100mm程度が上限となる。
また、耐火物原料Aの内部に、黒鉛含有耐火物の稼働面s1と平行な耐火物断面における、炭素繊維束Bを構成する炭素繊維の存在密度が10~2000本/mmとなるように炭素繊維束Bを埋設することが好ましく、これにより、耐火物原料A(耐火物本体)と炭素繊維束Bとの接触面積が確保されて密着性が高まり、破壊エネルギーを高めることができるとともに、炭素繊維束Bの弾性変形による欠陥の発生も抑えられる。炭素繊維の存在密度が10本/mm未満の場合には、耐火物原料A(耐火物本体)と炭素繊維束Bとの接触面積が狭過ぎるため、耐火物原料Aと炭素繊維束Bの密着性が高まらず、破壊エネルギーの上昇が小さい。一方、炭素繊維の存在密度が20000本/mm超の場合には、耐火物原料A(耐火物本体)と炭素繊維束Bとの接触面積が広過ぎるため、成形時にスプリングバックと呼ばれる炭素繊維束Bの弾性による欠陥が起こりやすい。
【0032】
また、耐火物原料Aの内部に、黒鉛含有耐火物の稼働面s1と平行な耐火物断面における、炭素繊維束Bを構成する炭素繊維の占有面積率が0.1~40%となるように炭素繊維束Bを埋設することが好ましく、これにより、耐火物原料A(耐火物本体)と炭素繊維束Bとの接触面積が確保されて密着性が高まり、破壊エネルギーを高めることができるとともに、炭素繊維束Bの弾性による欠陥の発生も抑えられる。炭素繊維の占有面積率が0.1%未満の場合には、耐火物原料A(耐火物本体)と炭素繊維束Bとの接触面積が狭過ぎるため、耐火物原料Aと炭素繊維束Bの密着性が高まらず、破壊エネルギーの上昇が小さい。一方、炭素繊維の占有面積率が40%超の場合には、耐火物原料A(耐火物本体)と炭素繊維束Bとの接触面積が広過ぎるため、成形時にスプリングバックと呼ばれる炭素繊維束Bの弾性による欠陥が起こりやすい。
【0033】
成形工程(ii)で得られた耐火物成形体xは、そのまま製品としてもよいが、通常、乾燥工程(iii)で乾燥させる。
この乾燥工程(iii)は、耐火物成形体xの乾燥(キュアリング)を目的として、通常、200~230℃程度で行われる。また、乾燥(キュアリング)後、さらに焼成工程(iv)で還元焼成(コーキング処理)を施して製品煉瓦(焼成煉瓦)としてもよい。
また、上述したような流し込みによる成形で得られる耐火物成形体xについては、施工部位に設置された内枠や他の場所に設置された型枠に保持された耐火物成形体xを加熱バーナなどの加熱手段で加熱することにより、乾燥・固化させる。その後、内枠の除去や型枠からの取り出しが行われる。
【0034】
以上により、耐火物原料A(耐火物本体)の内部に炭素繊維束Bが埋設され、この炭素繊維束Bが接着剤cを介して耐火物原料A(耐火物本体)に接着または密着した(好ましくは、さらに炭素繊維束Bの束内に接着剤cが浸透することにより、炭素繊維束Bの束内に接着剤cが存在し、炭素繊維束Bが接着剤cにより束として一体化された)黒鉛含有耐火物が得られる。
本発明法で製造された黒鉛含有耐火物は、種々の設備や容器の耐火物として使用できるが、なかでも製鉄所内で使用される精錬容器や搬送容器の内張り耐火物として好適である。特に、非常に過酷な使用環境である転炉の内張り耐火物として好適であり、そのなかでも羽口部を構成する羽口煉瓦として特に好適である。
【0035】
次に、耐火物原料Aの組成について説明する。
耐火物原料Aは、黒鉛原料を1~80質量%含有することが好ましい。黒鉛原料の含有量を1質量%以上とすることにより、黒鉛含有耐火物の耐割れ性を確保できるとともに、耐火物内部の炭素繊維の酸化消失を抑制することができる。一方、黒鉛原料の含有量を80質量%以下とすることにより、耐火物表面の黒鉛原料の酸化消失を抑制することができる。黒鉛(カーボン原料)としては、一般に鱗状黒鉛などが用いられる。
【0036】
一般に、精錬工程において使用される転炉の内張り(羽口部を含む)には、マグネシアおよびカーボンを主成分とする耐火物であるマグネシア・カーボン質耐火物(マグネシア原料を骨材とした黒鉛含有耐火物)が使用される。耐火物本体がマグネシア・カーボン質耐火物の場合、耐火物原料Aは、マグネシア原料を20~99質量%含有することが好ましく、これにより熱スポーリングによる割れが抑制され、且つFeOを多く含む転炉スラグの浸食にも耐えられる耐食性を有する耐火物とすることができる。なお、マグネシア原料としては、マグネシア濃度が90質量%以上の高純度のマグネシア原料を用いることが好ましい。
【0037】
また、一般に、溶銑予備処理工程において使用されるトピードや高炉鍋の内張りにはアルミナ、炭化珪素およびカーボンを主成分とする耐火物であるアルミナ・炭化珪素・カーボン質耐火物(アルミナ原料、炭化珪素原料を骨材とした黒鉛含有耐火物)や、アルミナ、炭化珪素、シリカおよびカーボンを主成分とする耐火物であるアルミナ・炭化珪素・シリカ・カーボン質耐火物(アルミナ原料、炭化珪素原料、シリカ原料を骨材とした黒鉛含有耐火物)などが使用される。耐火物本体がアルミナ・炭化珪素・カーボン質耐火物やアルミナ・炭化珪素・シリカ・カーボン質耐火物の場合、耐火物原料Aは、アルミナ原料を10~95質量%含有することが好ましく、これにより溶銑予備処理スラグに対する高い耐食性が得られ、且つ熱スポーリングによる亀裂の発生をさらに抑制することができる。なお、アルミナ原料としては、アルミナ濃度が70質量%以上の高純度のアルミナ原料を用いることが好ましい。
【0038】
さらに、耐火物本体がアルミナ・炭化珪素・カーボン質耐火物やアルミナ・炭化珪素・シリカ・カーボン質耐火物の場合、耐火物原料Aは、炭化珪素原料を1質量%以上含有することが好ましい。炭化珪素原料を1質量%以上含有することにより、大気雰囲気下における黒鉛の酸化を抑制できるので、高耐割れ性を維持できる。なお、炭化珪素原料としては、炭化珪素濃度が80質量%以上の高純度の炭化珪素原料を用いることが好ましい。
また、耐火物本体がアルミナ・炭化珪素・シリカ・カーボン質耐火物の場合、耐火物原料Aは、シリカ原料を1~50質量%含有することが好ましく、これにより高耐割れ性と高耐溶損性を両立できる。
【0039】
転炉の内張りに使用するマグネシア・カーボン質耐火物は、装入物による機械的衝撃、溶鋼及び溶融スラグの撹拌による摩耗、溶融スラグによるスラグ浸食および転炉操業中の急激な温度変化など、非常に苛酷な条件下で使用される。このため、安定した操業を行うためにも苛酷な条件に耐える耐用性の高いマグネシア・カーボン質耐火物を使用することが好ましい。同様に、トピードや高炉鍋などの溶銑予備処理容器の内張りに使用するアルミナ・炭化珪素・カーボン質耐火物やアルミナ・炭化珪素・シリカ・カーボン質耐火物も非常に苛酷な条件下で使用されることから、これらの条件に耐えられる耐火物を使用することが好ましい。本発明によれば、これら非常に苛酷な条件下で使用される黒鉛含有耐火物の破壊エネルギーが、従来の黒鉛含有耐火物と比較して大幅に向上するため、高い耐用性が得られる。
【0040】
また、耐火物本体がシリカ、炭化珪素およびカーボンを主成分とする耐火物であるシリカ・炭化珪素・カーボン質耐火物の場合、耐火物原料Aは、炭化珪素原料を1質量%以上、シリカ原料を1~50質量%含有することが好ましく、これにより高耐割れ性と高耐溶損性を両立できる。炭化珪素原料を1質量%以上含有することにより、大気雰囲気下における黒鉛の酸化を抑制できるので、高耐割れ性を維持できる。なお、炭化珪素原料としては、炭化珪素濃度が80質量%以上の高純度の炭化珪素原料を用いることが好ましい。
【0041】
ここで、アルミナ原料としては、例えば、バン土頁岩、ホワイトアルミナ、ブラウンアルミナなどの1種以上が用いられる。また、炭化珪素原料としては、例えば、緑色炭化ケイ素、黒色炭化ケイ素などの1種以上が用いられる。また、シリカ原料としては、例えば、ろう石、ムライトなどの1種以上が用いられる。
耐火物原料Aには、製鉄容器からの放熱量を抑制しながら、耐用性を高くすることを目的として、さらに金属粉末原料を含有(配合)することができる。金属粉末原料としては、例えば、金属Si、金属Al、金属Al-Si、AlSiC、BCなどが挙げられ、これらの1種以上を含有させることができる。金属粉末原料の含有量は特に規定しないが、通常、1~5質量%程度が好ましい。金属粉末原料の含有量(配合量)が1質量%未満では、金属粉末原料を配合することによる耐用性の向上効果が十分に得られず、一方、5質量%を超えると、強度が高くなりすぎるため、実機で使用した際に亀裂が発生し易くなって煉瓦が割れ易くなり、実機での使用回数が低下するおそれがある。
【0042】
耐火物原料Aは、骨材原料として使用済み耐火物を粉砕した耐火物屑を10~90質量%程度含有することができる。特に、耐火物本体がアルミナ・炭化珪素・カーボン質耐火物(さらにシリカ原料を含有するアルミナ・炭化珪素・シリカ・カーボン質耐火物の場合を含む。以下同様)の場合には、使用済みのアルミナ・炭化珪素・カーボン質耐火物(さらにシリカ原料を含有するアルミナ・炭化珪素・シリカ・カーボン質耐火物の場合を含む。以下同様)を粉砕して得られた耐火物屑を骨材原料として好適に用いることができる。
このように耐火物原料Aが耐火物屑を含有する場合、耐火物原料の残部は未使用の原料(バージン原料)である。
【0043】
黒鉛含有耐火物がアルミナ・炭化珪素・カーボン質耐火物である場合、使用済みのアルミナ・炭化珪素・カーボン質耐火物を粉砕して得られた耐火物屑の耐火物原料A中での含有量を10~90質量%とした場合、バージン原料のみを使用した黒鉛含有耐火物と同程度の耐割れ性および耐溶損性が得られる。その理由は、耐火物屑原料はバージン原料と比較して純度が低いが、耐火物屑原料とバージン原料を併用することにより、耐火物屑原料中のAl成分が有する耐溶損性の大幅な低下を抑制できることが挙げられる。ただし、耐火物屑の含有量を90質量%超とした場合には、バージン原料の含有量が少な過ぎるため、耐火物屑原料中のAl成分が有する耐食性の大幅な低下を抑制できない。また、耐火物屑の含有量を10質量%未満とした場合、耐火物屑の再利用率が低過ぎるため、産業廃棄物としての耐火物屑処理費用が大幅に上がる。
【実施例0044】
転炉に使用するマグネシア・カーボン質耐火物(マグネシア原料を骨材とした黒鉛含有耐火物)について、マグネシア・カーボン質原料の配合を検討するため、表1に示すような原料配合でマグネシア原料を骨材とした耐火物成形品、すなわち、炭素繊維束を埋設しない黒鉛含有耐火物を製作した。耐火物原料を混練・成形するにあたり、バインダーとして、耐火物原料に対する外掛けでフェノールレジンを3質量%、ヘキサミンを0.3質量%配合した。製作した黒鉛含有耐火物について、耐溶損性と耐割れ性をそれぞれ以下の方法で評価した。その結果を表1に併せて示す。
【0045】
耐溶損性については、図3(試験方法)に示すとおり、高周波誘導炉を用いた内張り分け法で溶損量を測定し、その溶損量に基づき評価した。内張り分け法による試験では、試験温度を1650℃、温度保持時間を4時間として表2に示す組成の合成スラグを1時間毎に投入し、冷却後に稼働面の溶損量を測定した。そして、その溶損量から表1中の配合例1-4の溶損量を100とした溶損指数を求めた。なお、図3(A)は試験の実施状況を試験炉および筒状サンプルを縦断面した状態で模式的に示す説明図、図3(B)は図3(A)に示される筒状サンプルの平面図、図3(C)は図3(A),(B)に示す筒状サンプルを構成する試験片の1つを示す斜視図である。
耐割れ性については、40×40×200mmの試料の長手方向の動弾性率EをJIS R1605に示された超音波パルス法に従って測定した後、1500℃×10分間の加熱、5分間の水冷、10分間の大気冷却を1サイクルとした工程を3回繰り返し、この3回の工程の終了後に再び上記方法で動弾性率Eを測定し、試験前後での動弾性率の変化率E/Eを指標として評価した。
【0046】
表1の配合例1-2~配合例1-8に示す通り、黒鉛含有量を1~80質量%、マグネシア原料の含有量を20~99質量%とした場合、耐溶損性と耐割れ性は殆ど一定であったが、配合例1-1に示す通り、黒鉛含有量を1質量%未満とした場合には耐割れ性が大幅に低下している。また、配合例1-9に示す通り、マグネシア原料の含有量を20質量%未満とした場合には耐溶損性が大幅に低下している。これらのことから、黒鉛含有耐火物の耐割れ性を確保するためには黒鉛含有量は1質量%以上とする必要があり、また、マグネシア・カーボン質原料の配合において、耐溶損性と耐割れ性を両立させるためには、黒鉛含有量を1~80質量%、マグネシア原料の含有量を20~99質量%とするのが好ましいことが判る。
【0047】
耐火物原料A(耐火物本体)の内部に炭素繊維束Bを配置(埋設)した発明例および比較例の黒鉛含有耐火物を図1に示す手順で製造した。この製造された黒鉛含有耐火物は、図2に示すように耐火物本体の長手方向に沿って複数本の炭素繊維束Bが並列状に等間隔で埋設され、炭素繊維束Bは、その束内に接着剤成分(接着剤c)を含むとともに、耐火物本体に対して接着剤成分(接着剤c)を介して接着または密着したものである。耐火物原料を混練・成形するにあたり、バインダーとして、耐火物原料に対する外掛けでフェノールレジンを3質量%、ヘキサミンを0.3質量%配合した。製造された黒鉛含有耐火物について、曲げ強度、破壊エネルギー、耐溶損性、耐割れ性を、それぞれ以下の方法で評価した。
【0048】
曲げ強度については、図4(試験方法)に示すとおり、耐火物原料A(耐火物本体)の内部に、その長手方向に沿って複数本の炭素繊維束Bを並列状に等間隔で埋設した試験片(試験片サイズ:40mm×40mm×160mm)を用い、中心間距離を100mm、荷重印加速度を0.5mm/minとし、JIS R2213に記載された3点曲げ試験方法に準拠して測定した。なお、図4(ア)は3点曲げ強度試験の実施状況を模式的に示す説明図、図4(イ)は図4(ア)の試験片の端面を模式的に示す説明図である。
破壊エネルギーについては、図5に示すとおり、3点曲げ強度試験で得られた荷重-変位曲線において第1ピーク値を示した位置を基準とし、基準位置から変位1mmの範囲の面積とした。
また、耐割れ性と耐溶損性については、上述した方法で評価したが、耐割れ性を評価する試験片としては、耐火物原料A(耐火物本体)の内部に、その長手方向に沿って複数本の炭素繊維束Bを並列状に等間隔で埋設したものを用いた。また、耐溶損性を評価する試験片としては、スラグや溶鋼に接する面(耐火物の稼動面s1)に垂直に複数本の炭素繊維束Bが並列状に等間隔で埋設されたものを用いた。
【0049】
表3~表9に、発明例および比較例の黒鉛含有耐火物(耐火物本体Aの内部に炭素繊維織束Bが埋設された黒鉛含有耐火物)の構成と特性(曲げ強度、破壊エネルギー、耐溶損性、耐割れ性)を示す。
まず、表3の実施例は、炭素繊維束Bの束内に含まれ、且つ炭素繊維束Bを耐火物原料Aに接着または密着させる接着剤cが黒鉛含有耐火物の曲げ強度および破壊エネルギー・耐割れ性に及ぼす影響を調べたものである。
この実施例では、炭素繊維の繊維径が7μm、長さが200mm、1束あたりの炭素繊維数が75000本、幅が8mmの炭素繊維束と、残炭率が異なるフェノール樹脂(溶液)や無機ゾル等の接着剤を用い、束の内外に接着剤cを浸透・付着させて粘着性を付与した複数本の炭素繊維束Bをマグネシア・カーボン質耐火物(耐火物原料A)の内部に10mm間隔で並列状に埋設した。その際、事前に接着剤(溶液)に炭素繊維束Bを浸漬し、この接着剤が束の内外に浸透・付着した炭素繊維束Bを耐火物原料Aに埋設した。なお、2種の接着剤を併用する場合には、それらを混合して使用した。また、比較例の1つでは、接着剤を付着させない複数本の炭素繊維束を、同様に耐火物本体に埋設した。
【0050】
発明例1-1~発明例1-10が示す通り、本発明条件を満足させるような特定の接着剤cを用いて粘着性を付与した炭素繊維束Bを耐火物原料Aに埋設した場合、高い曲げ強度と破壊エネルギーが得られており、さらに、発明例1-11~発明例1-15が示す通り、2種類の接着剤を用いて粘着性を付与した炭素繊維束Bを埋設した場合、1種類の接着剤を用いた場合と比較してより高い曲げ強度と破壊エネルギーが得られている。
一方、比較例1-1が示す通り、残炭率が6質量%未満の接着剤(有機樹脂)を使用した場合、高温下において耐火物内部から抜けるガス量が多く、気孔などの欠陥が内部に多く生成されるため、高い曲げ強度と破壊エネルギー・耐割れ性は得られない。
【0051】
また、比較例1-2が示す通り、残炭率が80質量%超の接着剤(有機樹脂)を使用した場合、高温下において耐火物内部から抜けるガス量が殆どなく、耐火物が緻密化し過ぎるため、高い曲げ強度と破壊エネルギー・耐割れ性は得られない。
さらに、比較例1-3が示す通り、接着剤を使用せず、炭素繊維束に粘着性を全く付与しなかった場合、耐火物原料と炭素繊維束の密着性が向上しないため、高い曲げ強度と破壊エネルギー・耐割れ性は得られない。
以上のことから、残炭率が6~80質量%の有機物または/および無機微粒子を有効成分とする接着剤cを使用することにより、高い曲げ強度と破壊エネルギー・耐割れ性を有する黒鉛含有耐火物が得られることが判る。
【0052】
表4の実施例は、耐火物原料Aの内部に埋設される炭素繊維束Bについて、その幅w、炭素繊維束Bを構成する炭素繊維の長さL、繊維径、1束あたりの炭素繊維本数、耐火物稼働面と平行な耐火物断面における炭素繊維の存在密度(埋設密度)、同じく炭素繊維の占有面積率が黒鉛含有耐火物の曲げ強度および破壊エネルギー・耐割れ性に及ぼす影響を調べたものである。
この実施例では、炭素繊維束Bを構成する炭素繊維の繊維径を0.5~50μm、炭素繊維束Bの1束あたりの炭素繊維数(本数)を900~350000本とすることにより、耐火物稼働面と平行な耐火物断面における炭素繊維の存在密度と占有面積率が異なるように、複数本の炭素繊維束Bをマグネシア・カーボン質耐火物(耐火物原料A)の内部に10mm間隔で並列状に埋設した。その際、事前に接着剤cである残炭率:40質量%のフェノール樹脂(樹脂溶液)に炭素繊維束Bを浸漬し、束の内外にフェノール樹脂(樹脂溶液)が浸透・付着した炭素繊維束Bを耐火物原料Aに埋設した。耐火物原料Aを構成する骨材(マグネシア)の最大粒径は8-5mmである。
【0053】
発明例1-4および発明例2-1~発明例2-5が示す通り、炭素繊維束Bを構成する炭素繊維の繊維径が1~45μm、炭素繊維束Bの1束あたりの炭素繊維数(本数)が1000~300000本の場合に、耐火物稼働面と平行な耐火物断面における炭素繊維の存在密度が10~2000本/mm、同じく炭素繊維の占有面積率が0.1~40%なり、高い曲げ強度および破壊エネルギー・耐割れ性が得られている。
【0054】
一方、発明例2-0が示す通り、炭素繊維束Bを構成する炭素繊維の繊維径が1μm未満、炭素繊維束Bの1束あたりの炭素繊維数(本数)が1000本未満の場合には、耐火物稼働面と平行な耐火物断面における炭素繊維の存在密度(埋設密度)が10本/mm未満、同じく炭素繊維の占有面積率が0.1%未満となり、発明例2-1に較べて破壊エネルギーが低下した。
また、発明例2-6が示す通り、炭素繊維束Bを構成する炭素繊維の繊維径が45μm超、炭素繊維束Bの1束あたりの炭素繊維数(本数)が300000本超の場合、耐火物稼働面と平行な耐火物断面における炭素繊維の存在密度が2000本/mm超、同じく炭素繊維の占有面積率が40%超となり、発明例2-5に較べて曲げ強度と破壊エネルギーが低下した。この要因としては、炭素繊維束が太過ぎたために、炭素繊維束と耐火物原料との絡みが悪く、成形する際にスプリングバックが発生し易いことが挙げられる。
【0055】
以上のことから、炭素繊維束Bを耐火物原料Aの内部に配置する条件として、炭素繊維束Bを構成する炭素繊維の繊維径を1~45μm、炭素繊維束Bの1束あたりの炭素繊維数(本数)を1000~300000本とし、耐火物稼働面と平行な耐火物断面における炭素繊維の存在密度を10~2000本/mm、同じく炭素繊維の占有面積率を0.1~40%とすることが好ましく、これにより耐火物原料A(耐火物本体)と炭素繊維束Bの接触面積が多くなって密着性も高まり、特に高い曲げ強度および破壊エネルギー・耐割れ性が安定して得られることが判る。
【0056】
表5の実施例は、耐火物原料Aの内部に埋設される炭素繊維束Bどうしの間隔d(炭素繊維束Bの相互間距離)が黒鉛含有耐火物の曲げ強度および破壊エネルギー・耐割れ性に及ぼす影響を調べたものである。
この実施例では、炭素繊維束Bを構成する炭素繊維の繊維径を7μm、炭素繊維束Bの1束あたりの炭素繊維数(本数)を75000本とし、複数本の炭素繊維束Bを相互の間隔を3mm、5mm、10mm、20mm、30mmにしてマグネシア・カーボン質耐火物(耐火物原料A)の内部に並列状に埋設した。その際、事前に接着剤cである残炭率:40質量%のフェノール樹脂(樹脂溶液)に炭素繊維束Bを浸漬し、束の内外にフェノール樹脂(樹脂溶液)が浸透・付着した炭素繊維束Bを耐火物原料Aに埋設した。耐火物原料Aを構成する骨材(マグネシア)の最大粒径は8-5mmである。
【0057】
発明例1-4および発明例3-2~発明例3-4が示す通り、隣り合う炭素繊維束Bどうしの間隔d(炭素繊維束の相互間距離)を3mm超とした場合、耐火物原料A(耐火物本体)と炭素繊維束Bの絡みが良く、高い破壊エネルギーが得られている。
一方、発明例3-1が示す通り、隣り合う炭素繊維束Bどうしの間隔dを3mm以下とした場合、耐火物原料A(耐火物本体)と炭素繊維束Bの絡みが悪く、破壊エネルギー・耐割れ性が低下する。
以上のことから、並列状に配置される複数の炭素繊維束Bについて、隣り合う炭素繊維束Bどうしの間隔(炭素繊維束Bの相互間距離)を3mm超にすれば、耐火物原料A(耐火物本体)と炭素繊維束Bの絡みが良く破壊エネルギーを高く維持できることが判る。
【0058】
溶銑予備処理容器の内張りに使用するアルミナ原料、炭化珪素原料、シリカ原料を骨材とした黒鉛含有耐火物についても同様の検討を行った。
表6の実施例は、溶銑予備処理容器の内張りに使用するアルミナ・シリカ・炭化珪素・カーボン質耐火物(アルミナ原料、炭化珪素原料、シリカ原料を骨材とした黒鉛含有耐火物)について、その組成が黒鉛含有耐火物の曲げ強度、破壊エネルギー・耐割れ性、および耐溶損性に及ぼす影響を調べたものである。
この実施例では、炭素繊維束Bを構成する炭素繊維の繊維径を7μm、炭素繊維束Bの1束あたりの炭素繊維数(本数)を75000本とし、複数本の炭素繊維束Bをアルミナ・シリカ・炭化珪素・カーボン質耐火物(耐火物原料A)の内部に10mm間隔で並列状に埋設した。その際、事前に接着剤cである残炭率:40質量%であるフェノール樹脂(樹脂溶液)に炭素繊維束Bを浸漬し、束の内外にフェノール樹脂(樹脂溶液)が浸透・付着した炭素繊維束Bを耐火物原料Aに埋設した。耐火物原料Aを構成する骨材(アルミナ原料、炭化珪素原料、シリカ原料)の最大粒径は8-5mmである。
【0059】
発明例4-2~発明例4-8が示す通り、アルミナ原料の含有量を10~95質量%、シリカ原料の含有量を1~50質量%、炭化珪素原料の含有量を1質量%以上、黒鉛含有量を1~80質量%とした場合、高い曲げ強度および破壊エネルギー・耐割れ性と耐溶損性が得られている。
これに対して、発明例4-1が示す通り、アルミナ原料の含有量が10質量%未満、シリカ原料の含有量が1質量%未満、炭化珪素原料の含有量が1質量%未満、黒鉛含有量が80質量%超の場合には、破壊エネルギー・耐割れ性、耐溶損性がともに低下している。
また、発明例4-9が示す通り、アルミナ原料の含有量が95質量%超、シリカ原料の含有量が1質量%未満、炭化珪素原料の含有量が1質量%未満、黒鉛含有量が1質量%未満の場合、熱スポーリングによる亀裂の発生を抑制できず、破壊エネルギー・耐割れ性が低下している。
以上のことから、アルミナ・シリカ・炭化珪素・カーボン質耐火物において、アルミナ原料の含有量を10~95質量%、シリカ原料の含有量を1~50質量%、炭化珪素原料の含有量を1質量%以上、黒鉛含有量を1~80質量%とすれば、高耐溶損性と高い破壊エネルギー・耐割れ性を両立できることが判る。
【0060】
表7の実施例は、溶銑予備処理容器の内張りに使用するアルミナ・シリカ・炭化珪素・カーボン質耐火物(アルミナ原料、炭化珪素原料、シリカ原料を骨材とした黒鉛含有耐火物)であって、骨材原料の一部として、使用済みのアルミナ・シリカ・炭化珪素・カーボン質耐火物を粉砕して得られた耐火物屑を用いた黒鉛含有耐火物について、その耐火物屑含有量が黒鉛含有耐火物の曲げ強度、破壊エネルギー・耐割れ性、および耐溶損性に及ぼす影響を調べたものである。
この実施例では、アルミナ・シリカ・炭化珪素・カーボン質耐火物中での耐火物屑の配合量を変え、炭素繊維束Bを構成する炭素繊維の繊維径を7μm、炭素繊維束Bの1束あたりの炭素繊維数(本数)を75000本とし、複数本の炭素繊維束Bをアルミナ・シリカ・炭化珪素・カーボン質耐火物(耐火物原料A)の内部に10mm間隔で並列状に埋設した。その際、事前に接着剤cである残炭率:40質量%のフェノール樹脂(樹脂溶液)に炭素繊維束Bを浸漬し、束の内外にフェノール樹脂(樹脂溶液)が浸透・付着した炭素繊維束Bを耐火物原料Aに埋設した。耐火物原料Aを構成する骨材(アルミナ原料、炭化珪素原料、シリカ原料)の最大粒径は8-5mmである。
【0061】
発明例5-1~発明例5-3に示す通り、耐火物屑の含有量を10~90質量%とした場合、表6に示したバージン原料のみを使用した黒鉛含有耐火物と同程度の破壊エネルギー・耐割れ性および耐溶損性が得られている。
一方、発明例5-4に示す通り、耐火物屑の含有量が90質量%超の場合、破壊エネルギー・耐割れ性と耐溶損性が低下した。
以上のことから、使用済みのアルミナ・炭化珪素・カーボン質耐火物屑を粉砕して得られた耐火物屑を骨材原料とした黒鉛含有耐火物に関して、耐火物屑の含有量を10~90質量%とすれば、破壊エネルギーを高く維持でき、さらに、バージン原料のみを使用した黒鉛含有耐火物と同程度の耐割れ性および耐溶損性を有することが判る。
【0062】
表8の実施例は、アルミナ・炭化珪素・カーボン質耐火物(アルミナ原料、炭化珪素原料を骨材とした黒鉛含有耐火物)について、その組成が黒鉛含有耐火物の曲げ強度、破壊エネルギー・耐割れ性、および耐溶損性に及ぼす影響を調べたものである。
この実施例では、炭素繊維束Bを構成する炭素繊維の繊維径を7μm、炭素繊維束Bの1束あたりの炭素繊維数(本数)を75000本とし、複数本の炭素繊維束Bをアルミナ・炭化珪素・カーボン質耐火物(耐火物原料A)の内部に10mm間隔で並列状に埋設した。その際、事前に接着剤cである残炭率:40質量%のフェノール樹脂(樹脂溶液)に炭素繊維束Bを浸漬し、束の内外にフェノール樹脂(樹脂溶液)が浸透・付着した炭素繊維束Bを耐火物原料Aに埋設した。耐火物原料Aを構成する骨材(アルミナ原料、炭化珪素原料)の最大粒径は8-5mmである。
【0063】
発明例6-2~発明例6-4が示す通り、アルミナ原料の含有量を10~95質量%、黒鉛含有量を1~80質量%とした場合、高い曲げ強度および破壊エネルギー・耐割れ性と耐溶損性が得られている。
一方、発明例6-1が示す通り、アルミナ原料の含有量が10質量%未満、黒鉛含有量が80質量%超の場合、破壊エネルギー・耐割れ性、耐溶損性が低下している。また、発明例6-5が示す通り、アルミナ原料の含有量が95質量%超、黒鉛含有量が1質量%未満の場合、破壊エネルギー・耐割れ性が低下している。
以上のことから、アルミナ・炭化珪素・カーボン質耐火物において、アルミナ原料の含有量を10~95質量%、黒鉛含有量を1~80質量%とすれば、高い破壊エネルギー・耐割れ性と耐溶損性が得られることが判る。
【0064】
表9の実施例は、シリカ・炭化珪素・カーボン質耐火物(シリカ原料、炭化珪素原料を骨材とした黒鉛含有耐火物)について、その組成が黒鉛含有耐火物の曲げ強度、破壊エネルギー・耐割れ性、および耐溶損性に及ぼす影響を調べたものである。
この実施例では、炭素繊維束Bを構成する炭素繊維の繊維径を7μm、炭素繊維束Bの1束あたりの炭素繊維数(本数)を75000本とし、複数本の炭素繊維束Bをシリカ・炭化珪素・カーボン質耐火物(耐火物原料A)の内部に10mm間隔で並列状に埋設した。その際、事前に接着剤cである残炭率:40質量%のフェノール樹脂(樹脂溶液)に炭素繊維束Bを浸漬し、束の内外にフェノール樹脂(樹脂溶液)が浸透・付着した炭素繊維束Bを耐火物原料Aに埋設した。耐火物原料Aを構成する骨材(シリカ原料、炭化珪素原料、)の最大粒径は8-5mmである。
【0065】
発明例7-2~発明例7-4が示す通り、シリカ原料の含有量を1~50質量%、黒鉛含有量を1~80質量%とした場合、高い曲げ強度および破壊エネルギー・耐割れ性と耐溶損性が得られている。
一方、発明例7-1が示す通り、シリカ原料の含有量を1質量%未満、黒鉛含有量を80質量%超とした場合、破壊エネルギー・耐割れ性が低下している。また、比較例7-5が示す通り、シリカ原料の含有量を50質量%超とした場合、熱スポーリングによる亀裂の発生を抑制できず、破壊エネルギー・耐割れ性が低下している。
以上のことから、シリカ・炭化珪素・カーボン質耐火物において、シリカ原料の含有量を1~50質量%、黒鉛含有量を1~80質量%とすれば、高い曲げ強度および破壊エネルギー・耐割れ性と耐溶損性が得られることが判る。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
【表3-1】
【0069】
【表3-2】
【0070】
【表4】
【0071】
【表5】
【0072】
【表6】
【0073】
【表7】
【0074】
【表8】
【0075】
【表9】
【符号の説明】
【0076】
A 耐火物原料
B 炭素繊維束
c 接着剤
s1 稼動面
s2 反稼動面
x 耐火物成形体

図1
図2
図3
図4
図5