IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東洋インキSCホールディングス株式会社の特許一覧

特開2023-149362シリマリン微粒子の製造方法、シリマリン微粒子、およびシリマリン微粒子含有水性分散体の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149362
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】シリマリン微粒子の製造方法、シリマリン微粒子、およびシリマリン微粒子含有水性分散体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/28 20060101AFI20231005BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231005BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20231005BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20231005BHJP
   A61K 47/14 20170101ALI20231005BHJP
   A61K 31/357 20060101ALN20231005BHJP
   A61K 131/00 20060101ALN20231005BHJP
【FI】
A61K36/28
A61P43/00
A61P1/16
A61K9/14
A61K47/14
A61K31/357
A61K131:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022057891
(22)【出願日】2022-03-31
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】唐木田 直人
(72)【発明者】
【氏名】山本 裕一
(72)【発明者】
【氏名】藤野 卓矢
(72)【発明者】
【氏名】門田 和紀
(72)【発明者】
【氏名】戸塚 裕一
(72)【発明者】
【氏名】内山 博雅
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
4C088
【Fターム(参考)】
4C076AA29
4C076BB01
4C076BB11
4C076BB24
4C076BB31
4C076CC16
4C076CC21
4C076DD09F
4C076DD23
4C076DD46F
4C076DD47F
4C076DD67
4C076DD70F
4C076EE16
4C076EE23Q
4C076EE32F
4C076FF43
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA15
4C086GA02
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA43
4C086NA03
4C086ZA75
4C086ZC52
4C088AB27
4C088AC04
4C088BA08
4C088MA43
4C088NA03
4C088ZA75
4C088ZC52
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本発明が解決しようとする課題は、難水溶性であるシリマリンに関して、従来より微細化した微粒子の製造方法、シリマリン微粒子、さらに保存安定性に優れたシリマリン微粒子を含有する水性分散体の製造方法を提供することにある。
【解決手段】上記課題は、シリマリン、水溶性無機塩、および水溶性有機溶剤をともに機械的に混錬する工程(a)と、工程(a)の後に、水溶性無機塩および水溶性有機溶剤を除去する工程(b)とを具備し、該水溶性有機溶剤が、以下の(i)~(iii)を満足することを特徴とするシリマリン微粒子の製造方法によって、解決される。
(i)分子量が100~350である。
(ii)ヒドロキシル基およびエステル基からなる官能基を合計で2以上有する。
(iii)60℃における粘度が2~150mPa・sである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリマリン、水溶性無機塩、および水溶性有機溶剤をともに機械的に混錬する工程(a)と、工程(a)の後に、水溶性無機塩および水溶性有機溶剤を除去する工程(b)とを具備し、該水溶性有機溶剤が、以下の(i)~(iii)を満足することを特徴とするシリマリン微粒子の製造方法。
(i) 分子量が100~350である。
(ii)ヒドロキシル基およびエステル基からなる官能基を合計で2以上有する。
(iii)60℃における粘度が2~150mPa・sである。
【請求項2】
前記水溶性有機溶剤が、トリアセチン、トリプロピオニン、トリブチリン、クエン酸トリエチル、およびクエン酸アセチルトリエチルからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1記載のシリマリン微粒子の製造方法。
【請求項3】
シリマリンと、水溶性有機溶剤とを含むシリマリン微粒子であって、シリマリン微粒子の平均一次粒子径が5~300nmであり、該水溶性有機溶剤が、以下の(i)~(iii)を満足し、該水溶性有機溶剤の含有量が、シリマリン100質量部に対して0.003~0.3質量部であることを特徴とするシリマリン微粒子。
(i) 分子量が100~350である。
(ii)ヒドロキシル基および/またはエステル基からなる官能基を合計で2以上有する。
(iii)60℃における粘度が2~150mPa・sである。
【請求項4】
前記水溶性有機溶剤が、トリアセチン、トリプロピオニン、トリブチリン、クエン酸トリエチル、およびクエン酸アセチルトリエチルからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項3記載のシリマリン微粒子。
【請求項5】
さらに、添加剤として、樹脂または界面活性剤を含むことを特徴とする請求項3または4記載のシリマリン微粒子。
【請求項6】
請求項3~5いずれか1項記載のシリマリン微粒子を、超音波処理、ホモジナイザー処理、またはビーズミル分散処理により、水に懸濁分散させることを特徴とするシリマリン微粒子含有水性分散体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリマリン微粒子の製造方法、シリマリン微粒子に関する。また、本発明は、シリマリン微粒子含有水性分散体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フラボノイドやカテキン、植物性色素のようなポリフェノール化合物の機能性に着目して、これらを含有する組成物が多く開発されている。
シリマリンは、このようなポリフェノール化合物をふくむ天然抽出物のひとつであり、マリアアザミ(学名:Silybum marianum (L.) Gaerth)と呼ばれる植物の種子から抽出されたエキスである。シリマリンは、その構成成分としてフラボノリグナンに分類されるシリビン、イソシリビン、シリジアニン、シリクリスチンを含むことが知られている。
【0003】
シリマリンは肝臓機能強化や老化防止に有用であり、さらには紅斑、火傷、皮膚又は粘膜のジストロフィー状態、皮膚炎等の治療における治癒を促進し、外部環境からの刺激(放射線、風、太陽等)から皮膚を保護するのに有用であることが知られている(特許文献1)。また、シリマリンの皮脂分泌抑制効果(特許文献2)、表皮透過バリア強化効果(特許文献3)、乾癬及びアトピー性皮膚炎の治療効果(特許文献4)、表皮の扁平化改善効果(特許文献5)が知られている。シリマリンが上記薬効を発揮するためには、シリマリンが吸収部位で溶解することが必要である。しかしながら、難水溶性であるシリマリンは、溶解速度が遅く、溶解過程が吸収の律速となることが多い。難水溶性のシリマリンの溶解性を向上する手段として、シリマリンの微粒子化が挙げられる。これは、シリマリンをナノオーダーまたはナノオーダーに近いオーダーのサイズにまで微粒子化することで、比表面積を飛躍的に上昇させ、その結果として、溶解速度を向上させることを期待したアプローチである。
【0004】
シリマリンを微粒子化する方法は、気体中での乾式粉砕と液体雰囲気中での湿式粉砕に大別される。一般に乾式粉砕は、10μm以下の粒子に粉砕することが困難である。一方、湿式粉砕は、10μm以下の粒子に粉砕することが可能である(非特許文献1)。さらに、湿式粉砕は、媒体ミルなどを用いる機械的破砕法と高圧ホモジナイザーなどを用いる加圧粉砕法に大別される(特許文献6、7)。しかし、いずれの手法も微粒子化が不十分であったり、シリマリン微粒子を水性分散体化した際の安定性に課題があるなど、さらなる改善が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平1-100132号公報
【特許文献2】特開2000-169332号公報
【特許文献3】特開2000-169328号公報
【特許文献4】特開平5-286864号公報
【特許文献5】特開2004-91397号公報
【特許文献6】特開平04-295420号公報
【特許文献7】特開平04-288013号公報
【非特許文献1】すぐに役立つ粒子設計・加工技術、じほう社編、第23-24頁、2003年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、難水溶性であるシリマリンに関して、従来より微細化した微粒子の製造方法、シリマリン微粒子、さらに保存安定性に優れたシリマリン微粒子を含有する水性分散体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記諸問題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、シリマリン、水溶性無機塩、および特定の水溶性有機溶剤をともに機械的に混錬する工程(a)と、工程(a)の後に、水溶性無機塩および水溶性有機溶剤を除去する工程(b)とを具備する製造方法によって、従来より微細化したシリマリン微粒子が得られることを見出し、本発明に至った。
【0008】
すなわち、本発明は、シリマリン、水溶性無機塩、および水溶性有機溶剤をともに機械的に混錬する工程(a)と、工程(a)の後に、水溶性無機塩および水溶性有機溶剤を除去する工程(b)とを具備し、該水溶性有機溶剤が、以下の(i)~(iii)を満足することを特徴とするシリマリン微粒子の製造方法に関する。
(i) 分子量が100~350である。
(ii)ヒドロキシル基およびエステル基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を合計で2以上有する。
(iii)60℃における粘度が2~150mPa・sである。
【0009】
また、本発明は、前記水溶性有機溶剤が、トリアセチン、トリプロピオニン、トリブチリン、クエン酸トリエチル、およびクエン酸アセチルトリエチルからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする前記シリマリン微粒子の製造方法に関する。
【0010】
また、本発明は、シリマリンと、水溶性有機溶剤とを含むシリマリン微粒子であって、
シリマリン微粒子の平均一次粒子径が5~300nmであり、該水溶性有機溶剤が、以下の(i)~(iii)を満足し、該水溶性有機溶剤の含有量が、シリマリン100質量部に対して0.003~0.3質量部であることを特徴とするシリマリン微粒子に関する。
(i) 分子量が100~350である。
(ii)ヒドロキシル基および/またはエステル基からなる官能基を合計で2以上有する。
(iii)60℃における粘度が2~150mPa・sである。
【0011】
また、本発明は、前記水溶性有機溶剤が、トリアセチン、トリプロピオニン、トリブチリン、クエン酸トリエチル、およびクエン酸アセチルトリエチルからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする前記シリマリン微粒子に関する。
【0012】
また、本発明は、さらに、添加剤として、樹脂または界面活性剤を含むことを特徴とする前記シリマリン微粒子に関する
【0013】
また、本発明は、前記シリマリン微粒子を、超音波処理、ホモジナイザー処理、またはビーズミル分散処理により、水に懸濁分散させることを特徴とするシリマリン微粒子含有水性分散体の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、難水溶性であるシリマリンに関して、従来より微細化した微粒子の製造方法、シリマリン微粒子、さらに保存安定性に優れたシリマリン微粒子を含有する水性分散体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
<シリマリン微粒子の製造方法>
本発明のシリマリン微粒子の製造方法は、シリマリン、水溶性無機塩、および水溶性有機溶剤をともに機械的に混錬する工程(a)と、工程(a)の後に、水溶性無機塩および水溶性有機溶剤を除去する工程(b)とを具備し、該水溶性有機溶剤が、以下の(i)~(iii)を満足することを特徴とする。
(i) 分子量が100~350である。
(ii)ヒドロキシル基および/またはエステル基からなる官能基を合計で2以上有する。
(iii)60℃における粘度が2~150mPa・sである。
【0017】
<シリマリン>
本発明において、シリマリンはシリビン(シリビニン)、シリジアニン、シリクリスチンなどのフラボノリグナン類から成る混合物あるいはそれぞれ単体である。
【0018】
<水溶性無機塩>
本発明の製造方法に用いられる水溶性無機塩は、難水溶性のシリマリンを摩砕・微粒子化する効果を有する。水溶性のものを使用することで洗浄により除去することが可能である。
使用できる無機塩の例として、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化アンモニウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カリウム、硫酸カルシウム、リンゴ酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸二ナトリウム、クエン酸二水素ナトリウム、クエン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、及びリン酸水素二カリウム等が挙げられる。この中でも好ましくは塩化ナトリウムである。
【0019】
本発明の製造方法に用いられる水溶性無機塩の添加量は特に限定されないが、処理効率と生産効率の両面から、シリマリン100質量部に対し、50~2000質量部用いることが好ましく、300~1000質量部用いることがより好ましい。また、該無機塩は、単一種類でも複数種類を併用して用いてもよい。
【0020】
<水溶性有機溶剤>
本発明における水溶性有機溶剤は、シリマリンおよび水溶性無機塩を湿潤する働きをするものであり、水に溶解(混和)し、かつ用いる水溶性無機塩を実質的に溶解しないものである必要がある。更に、本発明に用いられる水溶性有機溶剤は、以下の(i)~(iii)を満足するものである。即ち、
(i) 分子量が100~350である。
(ii)ヒドロキシル基および/またはエステル基からなる官能基 を合計で2以上有する。
(iii)60℃における粘度が2~150mPa・sである。
という条件をすべて満たすものである。粘度が高いと、シリマリンと無機塩の混錬物の粘度が上がり、摩砕剤である無機塩の運動が阻害され、シリマリンの微粒子化効果が十分に得られなくなってしまう。本願の明細書の水溶性有機溶剤の粘度は、JIS Z 8803の規定に従い、円錐平板型回転粘度計(東機産業社製粘度測定器:TVE-20L)を用いて測定した値である。
【0021】
上記(i)~(iii)を満足する水溶性有機溶剤の例として、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール(16.6mPa・s)、2 ,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール(67.2mPa・s)、モノアセチン(13. 7mPa・s)、ジアセチン(8.2mPa・s)、トリアセチン(4.1mPa・s)、トリプロピオニン(2.7mPa・s)、トリブチリン(3.3mPa・s)、2-メチルペンタン-2,4-ジオール(5.8mPa・s)、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール(43.7mPa・s)、1,5-ペンタンジオール(20.9mPa・s)、1,6-ヘキサンジオール(25.2mPa・s)、1,2,6-ヘキサントリオール(137.6mPa・s)、クエン酸トリエチル(35.2mPa・s)、およびクエン酸アセチルトリエチル(53.7mPa・s)が挙げられる。
【0022】
また、後述する本発明のシリマリン微粒子においては、水溶性有機溶剤が特定の範囲で残留している。残留量としては、シリマリン100質量部当たりに、水溶性有機溶剤が0.003~0.3質量部の範囲である。これは、水溶性有機溶剤が特定の範囲で残留することにより、シリマリン微粒子の凝集を抑制できる効果があるためである。残留の観点から考えると、ヒドロキシル基の官能基を持たず、エステル基を合計で2以上有する水溶性有機溶剤がより好ましい。これはヒドロキシル基が水素結合により凝集を促進してしまうためである。これらを総合的に考えると、上記記載の水溶性有機溶剤のうち、トリアセチン、トリプロピオニン、トリブチリン、クエン酸アセチルトリエチル、ジアセチン、クエン酸トリエチルが好ましく、特にトリアセチン、トリプロピオニン、トリブチリン、クエン酸アセチルトリエチルが好ましい。
【0023】
本発明の製造方法に用いられる水溶性有機溶剤の添加量は特に限定されないが、シリマリン100質量部に対し、5~1000質量部用いることが好ましく、50~500質量部用いることがより好ましい。また、本発明における水溶性有機溶剤は、単一種類でも複数種類を併用して用いてもよい。本発明における水溶性有機溶剤以外の溶剤の使用は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において排除するものではない。但し、シリマリンの微粒子化を効果的に高める観点からは、実質的に本発明における水溶性有機溶剤を用いることが好ましい。
【0024】
<工程(a)>
本発明の製造方法において、シリマリンを機械的に混錬・摩砕するために用いられる混錬装置は、機械的手段によって、シリマリン、水溶性無機塩、水溶性有機溶剤の混錬・分散が可能である能力を有するものであれば、特に制限なく用いることができる。該混錬装置として、例えば、ニーダー、二本ロールミル、三本ロールミル、ボールミル、アトライター、横型サンドミル、縦型サンドミル、フレットミル、フーバーマーラー、円盤ブレード混練分散機等の装置が挙げられる。これらを用いて、求められている微細化の程度等に応じて、処理条件等を適宜調整すればよい。水溶性無機塩は、破砕助剤として働くものであり、混錬時に水溶性無機塩の硬度の高さを利用してシリマリンを破砕する。混錬条件(温度、回転数など)を最適化することにより、平均一次粒子径が5~300nmと非常に微細であり、幅が狭くシャープな粒度分布のシリマリン微粒子を得ることができる。
【0025】
<工程(b)>
シリマリンの混錬・摩砕終了後、混錬・摩砕に用いた水溶性無機塩および水溶性有機溶媒を除去することにより、目的のシリマリン微粒子を得ることができる。具体的には、溶媒中で、撹拌翼、ディソルバー、ホモジナイザー等を用いて、シリマリン・水溶性無機塩・水溶性有機溶剤の混合物を均一にした後に、濾過及び水洗により、水溶性無機塩と水溶性溶剤を除去する。該混合物を均一にする際に使用する溶媒は、水溶性無機塩及び水溶性有機溶媒が溶解し易く、かつ、摩砕されたシリマリンが溶解し難い溶媒であって、かつ、生理学的に許容される溶媒であれば、特に限定されるものではない。該溶媒は、水が好ましいが、水以外の溶媒も使用することができる。該水以外の溶媒として、例えば、酢酸、メタノール、エタノール等の有機溶媒を水との混合液がある。また、濾過方法は、特に限定されるものではなく、通常、有機化合物の含有物を濾過するために用いられる公知の方法で行うことができる。該濾過方法として、例えば、減圧濾過法、加圧濾過法、限外濾過膜法等がある。
【0026】
水溶性無機塩および水溶性有機溶媒を除去した後、乾燥処理を行うことにより、得られたシリマリン微粒子から、塩等の除去に用いた溶媒を除去することができる。該乾燥方法は、特に限定されるものではなく、通常、有機化合物を乾燥するために用いられる方法で行うことができる。該乾燥方法として、例えば、減圧乾燥法、凍結乾燥法、噴霧乾燥法、凍結噴霧乾燥法等がある。該乾燥における乾燥温度や乾燥時間等は特に制限されるものではないが、シリマリンの化学的安定性の保持及び粒子の二次凝集を防止するために、該乾燥は低温で行うことが好ましく、凍結乾燥法、噴霧乾燥法、凍結噴霧乾燥法で行うことが好ましい。
【0027】
<シリマリン微粒子>
本発明のシリマリン微粒子は、シリマリンと、水溶性有機溶剤とを含み、シリマリン微粒子の平均一次粒子径が5~300nmであり、該水溶性有機溶剤が、以下の(i)~(iii)を満足し、該水溶性有機溶剤の含有量が、シリマリン100質量部に対して0.003~0.3質量部であることを特徴とする。
(i) 分子量が100~350である。
(ii)ヒドロキシル基および/またはエステル基からなる官能基を合計で2以上有する。
(iii)60℃における粘度が2~150mPa・sである。
【0028】
シリマリンを300nm以下のレベルまで微粒子化することにより、水への溶解性を向上することができる。本発明において、「平均一次粒子径」とは、ストークス径、光散乱相当径、拡散相当径、体積球相当径、表面積球相当径、面積円相当径、周長円相当径等の相当径における平均粒子径のことであり、好ましくは、表面積球相当径又は光散乱相当径であり、より好ましくは表面積球相当径である。表面積球相当径は、より具体的には、BET法等により測定された粒子径である。好ましくは電子顕微鏡による観察を併用して微粒子形状を確認することができる。また、光散乱相当径は、より具体的には、レーザー回折散乱光法又は動的光散乱法により測定された粒子径である。
【0029】
本発明のシリマリン微粒子は、シリマリン、水溶性無機塩、および水溶性有機溶剤をともに機械的に混錬する工程(a)と、工程(a)の後に、水溶性無機塩および水溶性有機溶剤を除去する工程(b)とを具備し、該水溶性有機溶剤が上述の水溶性有機溶剤であることを特徴とする製造方法によって製造することができる。
【0030】
<添加剤>
本発明のシリマリン微粒子においては、機械混錬時での微細化促進、乾燥凝集抑制のため、添加剤を添加してもよい。添加剤としては、樹脂や界面活性剤が挙げられ、医薬品添加物事典2016(薬事日報社)、医薬品添加物規格2018(薬事日報社)、食品添加物事典新訂第二版(食品化学新聞社)といった書籍に記載のものが挙げられる。
【0031】
樹脂としては、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリアクリル酸、カルボキソビニルポリマー、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、アラビアゴム、でんぷん、トレハロース、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリン酸トリグリセリド、ステアリン酸ショ糖エステル、流動パラフィン等のパラフィン類、カルナウバロウ, 硬化ヒマシ油等の硬化油類、ヒマシ油、ステアリン酸、ステアリルアルコール、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。
【0032】
界面活性剤としては、リン脂質、グリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンソルビタンサンモノラウレート、ポリソルベート、モノオレイン酸ソルビタン、モノステアリン酸グリセリド、モノオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、モノオキシエチレンソルビタンモノステアレート、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノパルミチン酸ソルビタン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラムノリピッド、ソホロリピッド、トレハロースリピッド、フィットグリコリピッド、リポタイコイン酸、コリノミコール酸、オープンリング酸、アガリチン酸、セバシン酸、エマルザン、ケルザン、プルラン、カードラン、デキストラン、シクロデキストリン、アラビアゴム、トラがんとゴム、キトサン、オルニチンリピッド、セリリピン、サーファクチン、グラミシジンS、レシチン、デオキシコール酸、コール酸、リトコール酸、ケノデオキシコール酸、ウルソデオキシコール酸、グリチルリチン、エスジン、キラヤサポニンなどが挙げられる。
【0033】
<シリマリン微粒子含有水性分散体の製造方法>
本発明のシリマリン微粒子を、経口投与液、注射剤、点眼剤、軟膏剤、経皮吸収剤等に使用する場合は、水性分散体を製造して用いることができる。
本発明のシリマリン微粒子含有水性分散体の製造方法は、本発明のシリマリン微粒子を、超音波処理、ホモジナイザー処理、またはビーズミル分散処理により、水に懸濁分散させることを特徴とする。
水性分散体製造時に、分散助剤として添加剤を加えてもよく、添加剤の項目に記載されている樹脂や界面活性剤が挙げられる。また、水性分散体を製造する際、シリマリン微粒子の乾燥凝集を防ぐため、水溶性無機塩及び水溶性有機溶媒を除去した後の含水状態のシリマリン微粒子を用いて水性分散体を製造してもよい。
【0034】
前記水分散体は、噴霧乾燥、凍結乾燥又は凍結噴霧乾燥等により粉末化することもできる。このようにして調製した粉体は、水に対する再分散性に優れるため、用時調製用の注射剤及び点眼剤、経口剤として優れた特性を有する。
【0035】
また、本発明のシリマリン微粒子を、油状物質中に分散させ、軟膏剤、カプセル剤、経皮吸収剤等に使用することもできる。該油状物質は、通常製剤化において用いられる物質であれば、特に限定されるものではない。該油状物質として、例えば、流動パラフィン、ワセリン、プロピレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール、植物油等が挙げられる。該油状物質は1種類で用いても良く、2種類以上の油状物質を混合して用いてもよい。また、油状物質分散体調製時に、通常使用されている装置等を用いてもよい。該装置として、例えば、ホモジナイザー、ホモミキサー、超音波分散機、二本ロール、三本ロール、円盤ブレード混練分散機等がある。
【実施例0036】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。なお、実施例および比較例中、「部」とは「質量部」を意味する。
【0037】
(平均一次粒子径の測定)
得られたシリマリン微粒子の平均一次粒子径は、透過型電子顕微鏡(日本電子社製「JEM-1200EX」) を用い、10万倍での観察試料中の全シリマリン粒子の一次粒子径を計測してその平均値を用いた。なお、粒子形状が球状でない場合は、長径と短径を計測し、(長径+短径)/2により求められる値を粒子径とした。
【0038】
(残留水溶性有機溶剤の測定)
得られたシリマリン微粒子中の残留水溶性有機溶剤は、ガスクロマトグラフィーにより定量し、シリマリン100質量部に対しての水溶性有機溶剤の残留量を算出することにより求めた。ガスクロマトグラフィーの条件を以下に示す。
・分離機器: 島津製作所社製 GC2010
・カラム: DM-5MS (30m x 0.25mm x 0.25μ m Film、Agilent Technologies)
・キャリアガス: He
・圧力: 120.0kPa
・全流量: 50.0ml/min
・カラム流量: 1.77ml/min
・線速度: 49.0cm/sec
・パージ流量: 3.0ml/min
・カラム温度: 80℃で4分保持した後、16分で昇温し、320℃ で5分保持
注入モード: Split-less Mode
注入量: 1μL
【0039】
質量分析計の条件を以下に示す。
・測定機器: 島津製作所社製 GC2010
・インターフェイス温度: 250℃
・イオン源温度: 200℃
・測定モード: Scan Mode
・測定範囲: m/z= 30-500
・測定時間: 5~20min
・イベント時間: 0.5sec
【0040】
[実施例1]
シリマリン100質量部、塩化ナトリウム1000質量部、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール160質量部をステンレス製1ガロンニーダー(井上製作所社製)に仕込み、30℃で6時間混練した。次に、この混練物を10リットルの水に投入し、1時間攪拌してスラリー状とし、濾過、水洗を繰り返して塩化ナトリウム及び2-エチル-1,3-ヘキサンジオールを除いた後、凍結乾燥を行い、98質量部のシリマリン微粒子M-1を得た。得られたシリマリン微粒子の平均一次粒子径は、220nm、残留溶剤量は、シリマリン100質量部に対して0.023質量部であった。
【0041】
[実施例2~21・比較例1]
シリマリン量、水溶性有機溶剤種/量、塩化ナトリウム量、添加剤種/量、混錬条件を表1記載のものに変更した他は、実施例1と同様の手法にて、シリマリン微粒子M-2~22を作成した。
【0042】
【表1】
【0043】
[比較例2]
ジェットミル(ホソカワアルピネ社製・「50-AS」)を用いて、供給エア圧力0.5MPa、粉砕エア圧力0.3Mpaにて、シリマリンの粉砕を行い、シリマリン微粒子M-23を作成した。得られたシリマリン微粒子の平均粒子径は1430nmであった。
【0044】
表1に記載の通り、本発明の製造方法により、平均1次粒子径が300nm以下まで微粒化したシリマリン微粒子を作成することができた。
実施例1~14を比較すると、ヒドロキシル基をもたず、エステル基が2以上の水溶性有機溶剤を用いると粒子径が小さくなっており、微粒子化効果に優れていることが判明した。
実施例5と15~20を比較すると、樹脂であるポリビニルピロリドンやトレハロース、界面活性剤であるTween-80やデオキシコール酸、ヒドロキシプロピルセルロースを水溶性無機塩との混錬時に併用すると、微粒子化効果が向上していることがわかった。
また、比較例1に水溶性有機溶剤としてグリセリンを使用した例を示すが、実施例5と比較すると、粒子径は大きい結果であった。この結果は、グリセリンは粘度が1499mPa・sと高いため、混錬時に摩砕剤である塩化ナトリウムがうまく運動できず十分な摩砕効果が得られなかったためと推測される。これによりシリマリンの微粒子化には、粘度が適切な水溶性有機溶剤を使用することが重要であることが分かった。
【0045】
<水性分散体の評価>
続いて、作成したシリマリン微粒子を用いて水性分散体を作成した。得られた水性分散体に関し、粒度分布測定装置(MicrotracUPA日機装株式会社製)を用いて、分散体の粒子径(D50:50%メジアン径)を測定した。
【0046】
<水性分散体の保存安定性評価>
作成した水性分散体を、温度:25℃・相対湿度:60%RHの環境で7日保管し、粒子径(D50:50%メジアン径)を測定して、水性分散体の保存安定性評価を行った。
【0047】
[実施例22]
シリマリン微粒子・M-5を1質量部、ポリビニルピロリドン・0.5質量部、精製水・98.5質量部を混合し、超音波装置(シャープマニファクチャリングシステム社製「UT-105」)を用いて、超音波照射・2時間を行い、水性分散体S-1を得た。
【0048】
[実施例23]
シリマリン微粒子・M-5を1質量部、ポリビニルピロリドン・0.5質量部、精製水・98.5質量部を混合し、攪拌式ホモジナイザー(エムテクニック社製「クレアミックス CLM-0.8S」) を用いて、ホモジナイザー処理・2時間を行い、水性分散体S-2を得た。
【0049】
[実施例24]
シリマリン微粒子・M-5を1質量部、ポリビニルピロリドン・0.5質量部、精製水・98.5質量部を混合し、高圧式ホモジナイザー(スギノマシン社製「スターバーストミニ」) を用いて100MPaの高圧処理を10回行い、水性分散体S-3を得た。
【0050】
[実施例25]
シリマリン微粒子・M-5を1質量部、ポリビニルピロリドン・0.5質量部、精製水・98.5質量部を混合し、直径0.5mmのジルコニアビーズを用いて、アイガーミル(アイガージャパン社製「ミニモデルM-250 MKII」)で3時間分散した後、孔径5.0μmのフィルタで濾過し、水性分散体S-4を得た。
【0051】
[実施例26]
シリマリン微粒子・M-12を1質量部、ポリビニルピロリドン・0.5質量部、精製水・98.5質量部を混合し、直径0.5mmのジルコニアビーズを用いて、アイガーミル(アイガージャパン社製「ミニモデルM-250 MKII」)で3時間分散した後、孔径5.0μmのフィルタで濾過し、水性分散体S-5を得た。
【0052】
[実施例27]
シリマリン微粒子・M-14を1質量部、ポリビニルピロリドン・0.5質量部、精製水・98.5質量部を混合し、直径0.5mmのジルコニアビーズを用いて、アイガーミル(アイガージャパン社製「ミニモデルM-250 MKII」)で3時間分散した後、孔径5.0μmのフィルタで濾過し、水性分散体S-6を得た。
【0053】
[実施例28]
シリマリン100質量部、塩化ナトリウム1000質量部、トリアセチン150質量部をステンレス製1ガロンニーダー(井上製作所社製)に仕込み、50℃で5時間混練した。次に、この混練物を10リットルの水に投入し、1時間攪拌してスラリー状とし、濾過、水洗を繰り返して塩化ナトリウムおよびトリアセチンを除いて、含水状態のシリマリン微粒子・M-24を作成した。シリマリン微粒子・M-24の固形分は35%であり、収量は19.5質量部であった。
シリマリン微粒子・M-24を2.86重量部、ポリビニルピロリドン・0.5重量部、精製水・96.64重量部を混合し、直径0.5mmのジルコニアビーズを用いて、アイガーミル(アイガージャパン社製「ミニモデルM-250 MKII」)で3時間分散した後、孔径5.0μmのフィルタで濾過し、水性分散体S-7を得た
【0054】
[比較例3]
シリマリン微粒子・M-21を1質量部、ポリビニルピロリドン・0.5質量部、精製水・98.5質量部を混合し、直径0.5mmのジルコニアビーズを用いて、アイガーミル(アイガージャパン社製「ミニモデルM-250 MKII」)で3時間分散した後、孔径5.0μmのフィルタで濾過し、水性分散体S-8を得た。
【0055】
[比較例4]
シリマリン微粒子・M-22を1重量部、ポリビニルピロリドン・0.5重量部、精製水・98.5重量部を混合し、超音波装置(シャープマニファクチャリングシステム社製「UT-105」)を用いて、超音波照射・2時間を行い、水性分散体S-9を得た。
【0056】
表2に、各水性分散体の粒子径および保存安定性の結果を示す。実施例の水性分散体では、いずれも300nm以下に微粒子化されており、かつ保存安定性にも優れた結果であった。また、水性製剤の作製方法は、ビーズ分散が最適であった。実施例25と26を比較すると、水溶性有機溶剤としてヒドロキシル基をもたず、エステル基を2つ以上もつ溶剤を用いた方が、経時での粒子径の増大が抑制されており、保存安定性に優れることが判明した。また、実施例25と比較例3を比較すると、残留水溶性有機溶剤量が、シリマリン100質量部に対して0.003~0.3質量部に該当する実施例25の方が、安定性が優れることが判明した。以上により、本発明のシリマリン微粒子を使用した場合、水性分散体においても微粒子化かつ保存安定性に優れていることが確認された。
【0057】
【表2】