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特開2023-149375射出成形装置、樹脂成形品の製造方法及び樹脂成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149375
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】射出成形装置、樹脂成形品の製造方法及び樹脂成形品
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/78 20060101AFI20231005BHJP
   B29C 45/18 20060101ALI20231005BHJP
   B29C 33/02 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
B29C45/78
B29C45/18
B29C33/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022057915
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田村 隆正
【テーマコード(参考)】
4F202
4F206
【Fターム(参考)】
4F202CA11
4F202CB01
4F202CB22
4F202CB30
4F202CN05
4F202CN30
4F206AR06
4F206JA07
4F206JL02
4F206JM04
4F206JN11
4F206JN44
4F206JQ81
(57)【要約】
【課題】コア層の比率の増大とコア層によるスキン層の突き破りの抑制とを両立した樹脂成形品を提供する。
【解決手段】射出成形装置1は、金型10と、樹脂Pを金型10のキャビティ11に射出する射出ユニット20と、を備える。金型10には、射出ユニット20から射出された樹脂Pをキャビティ11に導入する導入口12が設けられている。射出成形装置1は、金型10の温度Tcを変化させる温調ユニット30と、金型10の温度Tcが、キャビティ11における樹脂Pの流動方向Xの末端13側よりも導入口12側の方が低くなるように、温調ユニット30を制御するコントローラ40と、を備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型と、樹脂を前記金型のキャビティに射出する射出部と、を備え、前記金型には、前記射出部から射出された前記樹脂を前記キャビティに導入する導入口が設けられている、射出成形装置であって、
前記金型の温度を変化させる温調部と、
前記金型の前記温度が、前記キャビティにおける前記樹脂の流動方向の末端側よりも前記導入口側の方が低くなるように、前記温調部を制御する制御部と、を備える、射出成形装置。
【請求項2】
請求項1に記載の射出成形装置であって、
前記温調部は、前記流動方向に並んだ複数の配管で構成されており、
前記制御部は、前記流動方向の前記導入口側に配置された前記配管を流れる媒体の温度を、前記流動方向の前記末端側に配置された前記配管を流れる前記媒体の前記温度よりも低くする、射出成形装置。
【請求項3】
スキン層とコア層とを含む樹脂成形品の製造方法であって、
前記スキン層に対応するスキン樹脂を金型のキャビティに射出するスキン射出工程と、
前記スキン射出工程の後に前記コア層に対応するコア樹脂を前記キャビティに射出するコア射出工程と、を備え、
前記金型には、射出された樹脂を前記キャビティに導入する導入口が設けられおり、
前記スキン射出工程及び前記コア射出工程のうちの少なくとも一方では、前記キャビティにおける前記樹脂の流動方向の末端側よりも前記導入口側の方が低くなるように、前記金型の温度を調整する、樹脂成形品の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の樹脂成形品の製造方法であって、
前記スキン射出工程では、前記金型の前記温度が前記流動方向の前記末端側よりも前記導入口側の方が低くなるように、前記金型を昇温する、樹脂成形品の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の樹脂成形品の製造方法であって、
前記スキン射出工程では、前記金型の前記温度は、前記スキン樹脂のガラス転移点以上である、樹脂成形品の製造方法。
【請求項6】
請求項3から5のいずれか1つに記載の樹脂成形品の製造方法であって、
前記コア射出工程では、前記金型の前記温度が前記流動方向の前記末端側よりも前記導入口側の方が低くなるように、前記金型を冷却する、樹脂成形品の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の樹脂成形品の製造方法であって、
前記コア射出工程では、前記金型の前記温度は、前記スキン樹脂のガラス転移点より10℃低い温度以下である、樹脂成形品の製造方法。
【請求項8】
請求項3から7のいずれか1つに記載の樹脂成形品の製造方法であって、
前記スキン樹脂は、バージン樹脂であり、
前記コア樹脂は、リサイクル樹脂であり、
前記スキン層と前記コア層との合計に対する前記コア層の比は、50%以上であり、
前記キャビティにおける前記スキン樹脂の流動長さは、500mm以上である、樹脂成形品の製造方法。
【請求項9】
請求項3から8のいずれか1つに記載の樹脂成形品の製造方法であって、
前記スキン樹脂及び前記コア樹脂において、せん断速度100/sにおける互いの粘度差は、5000Pa・s以下である、樹脂成形品の製造方法。
【請求項10】
スキン層とコア層とを含む樹脂成形品であって、
前記スキン層は、バージン樹脂で構成されており、
前記コア層は、リサイクル樹脂で構成されており、
前記スキン層と前記コア層との合計に対する前記コア層の比は、50%以上であり、
前記スキン層の流動長さは、500mm以上である、樹脂成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、射出成形装置、樹脂成形品の製造方法及び樹脂成形品に、関する。
【背景技術】
【0002】
スキン層とコア層とを含む樹脂成形品(例えばサンドイッチ樹脂成形品)及びその製造方法が、知られている。この種の樹脂成形品では、外観品質に優れないコア層を、外観品質に優れたスキン層で覆うことによって、樹脂成形品全体の外観品質を向上させることができる。
【0003】
特許文献1に開示の樹脂成形品の製造方法(偏肉多層成形方法)は、金型キャビティ内にスキン層樹脂とコア層樹脂とを順次射出充填して多層の成形品を得るコ・インジェクション成形(サンドイッチ成形)において、成形中、成形品の表側となる金型キャビティ表面温度を成形品の裏側となる金型コア表面温度よりも少なくとも10℃低く保持して、成形品表側のスキン層厚さを成形品裏側のスキン層厚さよりも厚く形成する。
【0004】
また、特許文献2に開示のサンドイッチ成形品の製造方法では、スキン層を構成する樹脂をせん断速度100/sで400Pa・s以下の粘度に保ち、コア層を構成する樹脂をせん断速度100/sで6000Pa・s以上の粘度に保ちながら、スキン層を構成する樹脂及びコア層を構成する樹脂を金型内に射出する。これにより、スキン層の厚みが成形品全体の厚みの10%以下であるサンドイッチ成形品を、製造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9-85780号公報
【特許文献2】特開2005-335236公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、コストや環境保護の観点で有利な樹脂成形品として、スキン層にバージン樹脂を採用し且つコア層にリサイクル樹脂を採用した樹脂成形品が、知られている。このような樹脂成形品において、コストや環境保護の観点からは、可能な限りコア層の比率を大きくしたい。
【0007】
しかしながら、特許文献1では、成形品表側のスキン層厚さを厚くしているが、樹脂成形品全体におけるコア層の比率を大きくすることは難しい。
【0008】
また、特許文献2では、コア層の比率の大きなサンドイッチ樹脂成形品を製造し得るものの、コア層樹脂とスキン層樹脂との間の粘度差を大きくする必要があるため、コア層樹脂及びスキン層樹脂として互いに性質の大きく異なる材料を選定せざるを得ず、現実的ではない。
【0009】
一方、コア層の比率を無理に大きくしようとすると、コア層がスキン層を突き破って露出してしまい、外観品質が悪化するおそれがある。
【0010】
なお、上記課題は、スキン層にバージン樹脂を採用せず且つコア層にリサイクル樹脂を採用しない場合であっても、起こり得る。
【0011】
本開示は斯かる諸点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、コア層の比率の増大とコア層によるスキン層の突き破りの抑制とを両立した樹脂成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示に係る射出成形装置は、金型と、樹脂を上記金型のキャビティに射出する射出部と、を備え、上記金型には、上記射出部から射出された上記樹脂を上記キャビティに導入する導入口が設けられている、射出成形装置であって、上記金型の温度を変化させる温調部と、上記金型の上記温度が、上記キャビティにおける上記樹脂の流動方向の末端側よりも上記導入口側の方が低くなるように、上記温調部を制御する制御部と、を備える。
【0013】
本開示に係る樹脂成形品の製造方法は、スキン層とコア層とを含む樹脂成形品の製造方法であって、上記スキン層に対応するスキン樹脂を金型のキャビティに射出するスキン射出工程と、上記スキン射出工程の後に上記コア層に対応するコア樹脂を上記キャビティに射出するコア射出工程と、を備え、上記金型には、射出された樹脂を上記キャビティに導入する導入口が設けられおり、上記スキン射出工程及び上記コア射出工程のうちの少なくとも一方では、上記キャビティにおける上記樹脂の流動方向の末端側よりも上記導入口側の方が低くなるように、上記金型の温度を調整する。
【0014】
本開示に係る樹脂成形品は、スキン層とコア層とを含む樹脂成形品であって、上記スキン層は、バージン樹脂で構成されており、上記コア層は、リサイクル樹脂で構成されており、上記スキン層と上記コア層との合計に対する上記コア層の比は、50%以上であり、上記スキン層の流動長さは、500mm以上である。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、コア層の比率の増大とコア層によるスキン層の突き破りの抑制とを両立した樹脂成形品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本開示の一実施形態に係る射出成形装置を用いた樹脂成形品の製造方法を示す(準備工程)。
図2図2は、射出成形装置を用いた樹脂成形品の製造方法を示す(スキン射出工程)。
図3図3は、射出成形装置を用いた樹脂成形品の製造方法を示す(コア射出工程)。
図4図4は、射出成形装置を用いた樹脂成形品の製造方法を示す(完了工程)。
図5図5は、樹脂成形品の一例を示す。
図6図6は、従来例に係る図4相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示の一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本開示、その適用物あるいはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0018】
(射出成形装置)
図1~4は、本開示の一実施形態に係る、射出成形装置1を用いた樹脂成形品Pの製造方法を、示す。図3,4に示すように、樹脂成形品Pは、サンドイッチ樹脂成形品であって、スキン層P1とコア層P2とを含む。スキン層P1の外観品質は、コア層P2の外観品質よりも、優れている。コア層P2をスキン層P1で覆うことによって、樹脂成形品P全体の外観品質が向上する。
【0019】
図1に示すように、射出成形装置1は、金型10と、射出部としての射出ユニット20と、温調部としての温調ユニット30と、制御部としてのコントローラ40と、を備える。 金型10は、可動金型10a及び固定金型10bで構成されている。可動金型10aと固定金型10bとは、図1の上下方向に互いに対向している。金型10における可動金型10aと固定金型10bとの間には、キャビティ11が形成される。金型10には、キャビティ11の内外を連通する導入口(ゲート)12が、設けられている。金型10は、後述する流動方向Xに長手である。
【0020】
射出ユニット20は、インジェクタで構成されている。射出ユニット20は、例えば、第1インジェクタ(図示せず)から射出された後述するスキン樹脂の射出路と、第2インジェクタ(図示せず)から射出された後述するコア樹脂の射出路とが、途中で合流するように構成されている。
【0021】
射出ユニット20は、加熱溶融された樹脂を、金型10のキャビティ11に射出する。当該樹脂は、樹脂成形品Pに対応する(以下、「樹脂P」という)。射出ユニット20から射出された樹脂Pは、導入口12を介してキャビティ11に導入される。キャビティ11に導入される樹脂Pは、流動方向Xの導入口12側から末端13側へ、流動する。本実施形態では、流動方向Xは、直線状である。
【0022】
温調ユニット30は、流動方向Xに並んだ複数の配管31で、構成されている。各配管31には、媒体Wが流れている。媒体Wは、例えば、液体や蒸気である。各配管31は、可動金型10aの壁内及び固定金型10bの壁内に、設けられている。各配管31は、キャビティ11の近傍に配置されている。配管31は、流動方向Xにおいて、導入口12側から末端13側に亘って、配置されている。各配管31は、流動方向Xに垂直な垂直方向Yにおいて、キャビティ11に対して両側に、配置されている。
【0023】
温調ユニット30は、配管31に媒体Wが流れることによって、金型10(可動金型10a及び固定金型10b)の温度Tc[℃]を変化(昇温又は冷却)させる。換言すると、配管31を流れる媒体Wと金型10との間で、熱交換が行われる。
【0024】
温調ユニット30において、各配管31は、3つのゾーンZ1,Z2,Z3に区分されている。第1ゾーンZ1は、流動方向Xの導入口12側に配置された配管31で、構成されている。第3ゾーンZ3は、流動方向Xの末端13側に配置された配管31で、構成されている。第2ゾーンZ2は、第1ゾーンZ1(導入口12側)と第3ゾーンZ3(末端13側)との中間に配置された配管31で、構成されている。
【0025】
コントローラ40は、公知のマイクロコンピュータ及びプログラムで構成されている。コントローラ40は、金型10の温度Tcが、キャビティ11における樹脂Pの流動方向Xの末端13側よりも導入口12側の方が低くなるように、温調ユニット30を制御する。具体的には、コントローラ40は、流動方向Xの導入口12側に配置された配管31を流れる媒体Wの温度Tw[℃]を、流動方向Xの末端13側に配置された配管31を流れる媒体Wの温度Twよりも、低くする。
【0026】
コントローラ40は、各ゾーンZ1,Z2,Z3における配管31を流れる媒体Wの温度Twについて、温度勾配を段階的に設ける。詳細には、第1ゾーンZ1(導入口12側)における配管31を流れる媒体Wの温度Tw1は、第2ゾーンZ2(中間側)における配管31を流れる媒体Wの温度Tw2よりも、低い。第2ゾーンZ2(中間側)における配管31を流れる媒体Wの温度Tw2は、第3ゾーンZ3(末端13側)における配管31を流れる媒体Wの温度Tw3よりも、低い。
【0027】
コントローラ40は、例えば、各配管31に設けられたヒータやクーラの作動を制御したり、各配管31の上流側に配置されたバルブの切り換えを制御したりすることによって、各配管31を流れる媒体Wの温度Twを変化させる。
【0028】
(樹脂成形品の製造方法)
樹脂成形品Pの製造方法について、図1~4を参照しながら説明する。樹脂成形品Pの製造方法は、準備工程S1と、スキン射出工程S2と、コア射出工程S3と、完了工程S4と、を備える。図1は準備工程S1、図2はスキン射出工程S2、図3はコア射出工程S3、図4は完了工程S4を示す。
【0029】
図1に示すように、準備工程S1において、樹脂成形品Pに対応する樹脂Pを、準備する。具体的には、準備工程S1において、スキン層P1に対応するスキン樹脂(以下、「スキン樹脂P1」という)と、コア層P2に対応するコア樹脂(以下、「コア樹脂P2」という)と、を準備する。
【0030】
スキン樹脂P1は、バージン樹脂である。コア樹脂P2は、リサイクル樹脂である。
【0031】
ここで、リサイクル樹脂は、少なくとも1回以上の成形に使用されたバージン樹脂を粉砕したものであって、所謂マテリアルリサイクル樹脂を含む。
【0032】
リサイクル樹脂は、バージン樹脂に比較して、コストや環境保護の観点で有利である。一方、リサイクル樹脂は、バージン樹脂に比較して、外観品質の観点で不利である。例えば、リサイクル樹脂は、バージン樹脂に比較して、透明度や色目の点で不利であったり、黒点が発生しやすかったりする。また、リサイクル樹脂は、熱履歴による材料強度劣化が生じ得る。
【0033】
スキン樹脂(バージン樹脂)P1とコア樹脂(リサイクル樹脂)P2とは、同じ元素で構成されており、互いの粘度差が小さい。例えば、スキン樹脂(バージン樹脂)P1及びコア樹脂(リサイクル樹脂)P2において、せん断速度100/sにおける互いの粘度差は、5000Pa・s以下である。なお、上記粘度差は、4000Pa・s以下であることが好ましく、3000Pa・s以下であることがさらに好ましい。
【0034】
準備工程S1では、スキン樹脂P1及びコア樹脂P2を、加熱溶融して、射出ユニット20にセットする。
【0035】
準備工程S1の後、図2に示すように、スキン射出工程S2において、スキン樹脂P1を、射出ユニット20から金型10のキャビティ11に、射出する。具体的には、射出ユニット20から射出されたスキン樹脂P1は、導入口12を介してキャビティ11に導入される。キャビティ11に導入されたスキン樹脂P1は、流動方向Xの導入口12側から末端13側へ、流動する。
【0036】
スキン射出工程S2では、金型10の温度Tcが、樹脂Pの流動方向Xの末端13側よりも導入口12側の方が低くなるように、金型10を昇温する。換言すると、スキン射出工程S2では、金型10のキャビティ11における樹脂Pの流動方向Xの末端13側よりも導入口12側の方が低くなるように、金型10の温度Tcを調整する。
【0037】
具体的には、スキン射出工程S2では、流動方向Xの導入口12側に配置された配管31を流れる媒体Wの温度Twを、流動方向Xの末端13側に配置された配管31を流れる媒体Wの温度Twよりも、低くする(Tw1<Tw2<Tw3)。
【0038】
好ましくは、スキン射出工程S2では、金型10の温度Tc[℃]は、スキン樹脂P1のガラス転移点(ガラス転移温度)Tg[℃]以上となる。例えば、スキン射出工程S2では、第1ゾーンZ1(導入口12側)における配管31を流れる媒体Wの温度Tw1を、ガラス転移点Tg+5℃とし、第2ゾーンZ2(中間側)における配管31を流れる媒体Wの温度Tw2を、ガラス転移点Tg+10℃とし、第3ゾーンZ3(末端13側)における配管31を流れる媒体Wの温度Tw3を、ガラス転移点Tg+15℃とする。
【0039】
金型10の昇温は、射出ユニット20からのスキン樹脂P1の射出前に、完了していることが好ましい。
【0040】
スキン射出工程S2の後、図3に示すように、コア射出工程S3において、コア樹脂P2を、射出ユニット20から金型10のキャビティ11に、射出する。具体的には、射出ユニット20から射出されたコア樹脂P2は、導入口12を介してキャビティ11に導入される。キャビティ11に導入されたコア樹脂P2は、流動方向Xの導入口12側から末端13側へ、流動する。
【0041】
コア射出工程S3では、金型10のキャビティ11において、コア樹脂P2は、流動方向Xの末端13側及び垂直方向Yの両側から、スキン樹脂P1によって覆われる。
【0042】
コア射出工程S3では、金型10の温度Tcが、樹脂Pの流動方向Xの末端13側よりも導入口12側の方が低くなるように、金型10を冷却する。換言すると、コア射出工程S3では、金型10のキャビティ11における樹脂Pの流動方向Xの末端13側よりも導入口12側の方が低くなるように、金型10の温度Tcを調整する。
【0043】
具体的には、コア射出工程S3では、流動方向Xの導入口12側に配置された配管31を流れる媒体Wの温度Twを、流動方向Xの末端13側に配置された配管31を流れる媒体Wの温度Twよりも、低くする(Tw1<Tw2<Tw3)。
【0044】
好ましくは、コア射出工程S3では、金型10の温度Tc[℃]は、スキン樹脂P1のガラス転移点Tg[℃]より10℃低い温度以下となる。例えば、コア射出工程S3では、第1ゾーンZ1(導入口12側)における配管31を流れる媒体Wの温度Tw1を、ガラス転移点Tg-20℃とし、第2ゾーンZ2(中間側)における配管31を流れる媒体Wの温度Tw2を、ガラス転移点Tg-15℃とし、第3ゾーンZ3(末端13側)における配管31を流れる媒体Wの温度Tw3を、ガラス転移点Tg-10℃とする。
【0045】
金型10の冷却は、射出ユニット20からのコア樹脂P2の射出に合わせて、開始されることが好ましい。金型10の冷却タイミングは、キャビティ11におけるコア樹脂P2の流動に合わせて、調整されることが好ましい。配管31を流れる媒体Wの温度Twの冷却は、第1ゾーンZ1、第2ゾーンZ2、第3ゾーンZ3の順に、開始されることが好ましい。
【0046】
コア射出工程S3の後、再び、スキン樹脂P1を、射出ユニット20から金型10のキャビティ11に射出してもよい。これにより、コア樹脂(コア層)P2の流動方向Xの導入口12側が、スキン樹脂(スキン層)P1によって覆われる。
【0047】
コア射出工程S3の後、図4に示すように、完了工程S4において、金型10を全体に亘って冷却して、金型10の温度Tc全体を低くする。具体的には、全てのゾーンZ1,Z2,Z3において、配管31を流れる媒体Wの温度Twを低くする。各ゾーンZ1,Z2,Z3において、配管31を流れる媒体Wの温度Twの勾配は、無くてもよい。
【0048】
図4に示すように、キャビティ11におけるスキン樹脂(バージン樹脂:スキン層)P1の流動長さ(導入口12からの流動方向Xにおける距離)H1は、500mm以上であることが好ましい。流動長さH1は、600mm以上であることがより好ましく、700mm以上であることがさらに好ましい。なお、コア樹脂(リサイクル樹脂:コア層)P2の流動長さH2は、スキン樹脂(バージン樹脂)P1の流動長さH1よりも小さい。流動長さH2も、流動長さH1と同様に、500mm以上であることが好ましく、600mm以上であることがより好ましく、700mm以上であることがさらに好ましい。
【0049】
樹脂成形品Pが完全に冷却固化されたら、金型10を開いて、樹脂成形品Pを金型10から取り外す。図4に示すように、スキン層(バージン樹脂)P1とコア層(リサイクル樹脂)P2との合計(樹脂成形品P全体)に対するコア層(リサイクル樹脂)P3の比率(リサイクル比率)Rは、50%以上であることが好ましい。リサイクル比率Rは、コア層P2/(スキン層P1+コア層P2)で表される。なお、リサイクル比率Rは、60%以上であることがより好ましく、70%以上であることがさらに好ましい。リサイクル比率Rは、例えば、体積比又は質量比などである。
【0050】
図5は、樹脂成形品Pの一例を示す。なお、図5に示す樹脂成形品Pは、図1~4に示す樹脂成形品Pに対応していない。図5に示すように、樹脂成形品Pには、導入口(ゲート)12の痕跡がある。本例では、導入口12の痕跡は、樹脂成形品Pの側面中央にある。流動長さH1は、導入口12の痕跡からスキン層P1の末端までの最遠(最長)距離であって、当業者であれば、例えば断面観察によって視認可能である。図5に示さないが、流動長さH2も同様である。なお、導入口12の痕跡は、樹脂成形品Pの端部にあってもよい。
【0051】
(作用効果)
図6に示すように、従来例に係る射出成形装置1’では、金型10’(可動金型10a’及び固定金型10b’)の温度Tc’は、流動方向Xにおける導入口12’側から末端13’側に亘って、略一定である。すなわち、従来例に係る射出成形装置1’における金型10’の末端13’側の温度Tc’は、本実施形態に係る射出成形装置1における金型10の末端13側の温度Tcよりも、低い。
【0052】
このため、射出ユニット20’から射出され且つ導入口12’を介してキャビティ11’に導入されたスキン樹脂P1’は、流動方向X’の末端13’側に至るまでに、冷却固化されて粘度が高くなってしまう。そして、射出ユニット20’から射出され且つ導入口12’を介してキャビティ11’に導入されたコア樹脂P2’は、粘度が高くなったスキン樹脂P1’に妨げられて、流動方向X’の末端13’側まで流動しにくくなる。
【0053】
このため、コア樹脂P2’が流動方向X’の末端13’側まで行き渡らないので、樹脂成形品P’全体(スキン層P1’+コア層P2’)に対するコア層P2’の比率は、小さくなってしまう。また、粘度の高くなったスキン樹脂P1’によって流動方向X’への流動が妨げられたコア樹脂(コア層)P2’は、特に流動方向X’の導入口12’側において、垂直方向Y’へ移動しようとして、垂直方向Y’両側のスキン樹脂(スキン層)P1’を突き破って、外部に露出してしまう(バースト現象)。このため、樹脂成形品P’の外観品質が悪化してしまう。
【0054】
本実施形態によれば、スキン射出工程S2(図2参照)において、金型10の温度Tcが流動方向Xの末端13側よりも導入口12側の方が低くなるように、金型10を昇温する。換言すると、金型10における流動方向Xの末端13側の温度Tcは、高くなる。
【0055】
このため、スキン射出工程S2では、導入口12を介してキャビティ11に導入されたスキン樹脂P1は、流動方向Xの末端13側において、冷却固化が抑制されて、粘度の低い状態に維持される。これにより、キャビティ11の流動方向Xの末端13側における圧力損失は、小さくなる。
【0056】
そして、コア射出工程S3(図3参照)では、導入口12を介してキャビティ11に導入されたコア樹脂P2は、流動方向Xの末端13側まで、流動しやすくなる。また、粘度の低い状態に維持されたスキン樹脂P1自身も、流動方向Xの末端13側まで流動しやすくなる。
【0057】
コア樹脂P2が流動方向Xの末端13側まで十分に行き渡るので、樹脂成形品P全体(スキン層P1+コア層P2)に対するコア層P2の比率は、大きくなる。なお、スキン樹脂P1も、当然に、流動方向Xの末端13側まで十分に行き渡る。
【0058】
さらに、コア射出工程S3(図3参照)において、金型10の温度Tcが流動方向Xの末端13側よりも導入口12側の方が低くなるように、金型10を冷却する。換言すると、金型10における流動方向Xの導入口12側の温度Tcは、低くなる。
【0059】
このため、コア射出工程S3では、キャビティ11におけるスキン樹脂P1は、流動方向Xの導入口12側において、冷却固化が促進されて、粘度の高い状態になる。これにより、コア射出工程S3では、導入口12を介してキャビティ11に導入されたコア樹脂P2は、特に流動方向Xの導入口12側において、垂直方向Y両側における粘度の高いスキン樹脂(スキン層)P1に案内されて、流動方向Xの末端13側へ移動するようになる。
【0060】
このため、コア樹脂(コア層)P2が垂直方向Y両側のスキン樹脂(スキン層)P1を突き破って外部に露出することが、抑制される。これにより、樹脂成形品Pの外観品質の悪化が、抑制される。
【0061】
以上、コア層P2の比率の増大とコア層P2によるスキン層P1の突き破りの抑制とを両立した樹脂成形品Pを、提供することができる。
【0062】
本実施形態では、スキン樹脂P1はバージン樹脂であり、コア樹脂P2はリサイクル樹脂である。このため、樹脂成形品P全体(スキン層P1+コア層P2)に対するコア層P2の比率を高めることによって、リサイクル比率Rを向上させることができる。
【0063】
本実施形態によれば、スキン樹脂P1及びコア樹脂P2が流動方向Xの末端13側まで十分に行き渡るので、流動長さH1,H2を大きくすることができる。これにより、大型の樹脂成形品Pを成形する上で有利になる。大型の樹脂成形品Pとして、例えば、便器や洗面台又は家電外装体等がある。
【0064】
また、流動長さH1,H2を大きくすることによって、各ゾーンZ1,Z2,Z3に区分して金型10の温度Tcに勾配を設けることにより得られる効果が、大きくなる。
【0065】
サンドイッチ樹脂成形品Pの製造において、通常、スキン樹脂P1及びコア樹脂P2には、互いの接着強度を高く保つために物性の近い材料を採用する。すなわち、サンドイッチ樹脂成形品Pの製造において、通常、スキン樹脂P1の粘度とコア樹脂P2の粘度とは、互いに近い。
【0066】
本実施形態によれば、特許文献2のようにスキン樹脂P1とコア樹脂P2との間の粘度差が大きくなくても、コア層P2の比率を増大させることができる。したがって、特許文献2に比較して、スキン樹脂P1及びコア樹脂P2の選定自由度が高い。また、スキン樹脂P1及びコア樹脂P2の性質が互いに近いので、両者の接着強度を高めたり、反りの発生を抑制したりする上で、有利である。
【0067】
(その他の実施形態)
以上、本開示を好適な実施形態により説明してきたが、こうした記述は限定事項ではなく、勿論、種々の改変が可能である。
【0068】
上記実施形態では、スキン樹脂P1としてバージン樹脂を適用することによって、樹脂成形品Pの外観品質を向上させたが、これに限定されない。例えば、スキン樹脂P1及び/又はコア樹脂P2として繊維強化材料を適用することによって樹脂成形品Pの機械強度を向上させたり、スキン樹脂P1及び/又はコア樹脂P2として機能性材料を適用することによって樹脂成形品Pに所望の性質を付与させたりしてもよい。また、例えば、スキン樹脂P1として着色リサイクル材料を適用するとともに、コア樹脂P2として(黒などの綺麗でない色の)リサイクル樹脂を適用してもよい。
【0069】
上記実施形態では、温調ユニット30は、流動方向Xに並んだ複数の配管31で構成されているが、これに限定されない。温調ユニット30は、金型10を直接的に昇温するヒータや、金型10を直接的に冷却するドライアイス・冷却スプレー等でもよい。温調ユニット30は、ペルチェ素子で構成されてもよい。また、温調ユニット30として、昇温用の加熱媒体が流れる配管と、冷却用の冷却媒体が流れる配管とを、別個に用意してもよい。
【0070】
上記実施形態では、流動方向Xは直線状であったが、これに限定されない。流動方向Xは、例えば、弧状や円周状でもよい。また、流動方向Xは、任意の点から放射状に広がってもよい。流動方向Xが放射状の場合、流動長さH1は、樹脂成形品Pの半径となる。
【0071】
金型10の温度Tcについて、2段階のみの温度勾配を設けてもよいし、連続的に温度勾配を設けてもよい。
【0072】
スキン射出工程S2及びコア射出工程S3の両方ではなく、スキン射出工程S2及びコア射出工程S3のうちの少なくとも一方において、金型10のキャビティ11における樹脂Pの流動方向Xの末端13側よりも導入口12側の方が低くなるように、金型10の温度Tcを調整すればよい。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本開示は、射出成形装置、樹脂成形品の製造方法及び樹脂成形品に適用できるので、極めて有用であり、産業上の利用可能性が高い。
【符号の説明】
【0074】
P 樹脂成形品(樹脂)
P1 スキン層(スキン樹脂)
P2 コア層(コア樹脂)
X 流動方向
Y 垂直方向
W 媒体
Tc 温度
Tw 温度
Tw1 温度
Tw2 温度
Tw3 温度
Tg ガラス転移点
Z1 第1ゾーン
Z2 第2ゾーン
Z3 第3ゾーン
H1 流動長さ
H2 流動長さ
R リサイクル比率
1 射出成形装置
10 金型
11 キャビティ
12 導入口
13 末端
20 射出ユニット(射出部)
30 温調ユニット(温調部)
31 配管
40 コントローラ(制御部)
S1 準備工程
S2 スキン射出工程
S3 コア射出工程
S4 完了工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6