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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149379
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】超音波診断装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/14 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
A61B8/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022057920
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷口 哲哉
【テーマコード(参考)】
4C601
【Fターム(参考)】
4C601DE12
4C601EE04
4C601FE07
4C601HH01
4C601HH05
4C601HH07
(57)【要約】
【課題】音響遮蔽物がある場合に良好な超音波画像を得ることである。
【解決手段】超音波探触子2Lの送信開口は、内側の第1振動子群及び外側の第2振動子群を有する。超音波診断装置は、第1の駆動信号及び第2の駆動信号を一音線に対して複数の振動子群に出力し、超音波探触子2Lから複数の受信信号を受信し演算して超音波画像データを生成する。第1の駆動信号は、第3の駆動信号及び第4の駆動信号を含む。第2の駆動信号は、第3の駆動信号と加算した場合に相殺される第5の駆動信号と、第4の駆動信号と加算した場合に相殺残留が発生する第6の駆動信号と、を含む。超音波診断装置は、第3、第5の駆動信号を第1振動子群に出力して超音波ビームU1を出力し、第4、第6の駆動信号を第2振動子群に出力して超音波ビームU2を出力する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に送信超音波を送信して当該被検体から受信超音波を受信する超音波探触子により得られた受信信号に基づき超音波画像データを生成する超音波診断装置であって、
前記超音波探触子は、複数の振動子により構成された送信開口を有し、
前記送信開口は、前記送信開口の内側に配置された第1振動子群及び前記第1振動子群よりも外側に配置された第2振動子群を少なくとも含む複数の振動子群を有し、
前記超音波診断装置は、
駆動信号を生成して前記複数の振動子群に出力する送信部と、
前記送信部に、第1駆動信号及び第2駆動信号を少なくとも含む複数の駆動信号を一音線に対して前記複数の振動子群に出力させる制御部と、
前記超音波探触子から前記複数の駆動信号に対応する複数の受信信号を受信する受信部と、
前記複数の受信信号を演算して超音波画像データを生成する画像生成部と、を備え、
前記第1駆動信号は、第3駆動信号及び第4駆動信号を含み、
前記第2駆動信号は、前記第3駆動信号と加算した場合に相殺される第5駆動信号と、前記第4駆動信号と加算した場合に相殺残留が発生する第6駆動信号と、を含み、
前記制御部は、前記送信部に、前記第1駆動信号及び前記第2駆動信号に、前記送信超音波が同一焦点に集束するよう時間遅延を与えて、前記第3駆動信号及び前記第5駆動信号を前記第1振動子群に出力させ、前記第4駆動信号及び前記第6駆動信号を前記第2振動子群に出力させる超音波診断装置。
【請求項2】
前記画像生成部は、前記受信信号を加算することにより前記超音波画像データを生成する請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記第1駆動信号及び前記第2駆動信号の駆動電圧が同じである請求項1又は2に記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記第4駆動信号及び前記第6駆動信号の送信超音波の周波数パワースペクトルの中心周波数は、前記第3駆動信号及び前記第5駆動信号の送信超音波の周波数パワースペクトルの中心周波数よりも小さい請求項1から3のいずれか一項に記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記第4駆動信号及び前記第6駆動信号の送信超音波の周波数パワースペクトルの帯域幅は、前記第3駆動信号及び前記第5駆動信号の送信超音波の周波数パワースペクトルの帯域幅よりも小さい請求項1から4のいずれか一項に記載の超音波診断装置。
【請求項6】
前記超音波探触子の中心周波数よりも高周波領域において、前記第4駆動信号及び前記第6駆動信号の送信超音波の周波数パワースペクトルの信号強度は、前記第3駆動信号及び前記第5駆動信号の送信超音波の周波数パワースペクトルの信号強度よりも小さい請求項1から5のいずれか一項に記載の超音波診断装置。
【請求項7】
前記第3駆動信号及び前記第6駆動信号の送信超音波の周波数パワースペクトルの中心周波数は、前記相殺残留の成分の中心周波数よりも小さい請求項1から6のいずれか一項に記載の超音波診断装置。
【請求項8】
前記第3駆動信号及び前記第6駆動信号の送信超音波の周波数パワースペクトルの帯域幅は、前記相殺残留の成分の帯域幅よりも小さい請求項1から7のいずれか一項に記載の超音波診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断は、超音波探触子を患者の被検体の体表又は体腔内から当てるという簡単な操作で心臓や胎児の様子が超音波画像として得られ、かつ安全性が高いため繰り返して検査を行うことができる。このような超音波診断を行うために用いられる超音波診断装置が知られている。
【0003】
このような超音波診断画像を表示する技術として、生体組織の中で発生した高調波成分(送信超音波には含まれていない成分)を画像化することによって、コントラストの良い画像が得られるティッシュハーモニックイメージング(THI:Tissue Harmonic Imaging)が知られている。
【0004】
また、超音波探触子の複数の振動子のうち、送信開口の内側に配置された第1の振動子群に第1の駆動信号を出力し、第1の振動子群の外側に配置された第2の振動子群に第2の駆動信号を出力し、第1の駆動信号の送信パルスの周波数パワースペクトルの周波数帯域が、第2の駆動信号の送信パルスの周波数パワースペクトルの周波数帯域を含んで広く、第2の駆動信号の送信パルスの周波数パワースペクトルの周波数帯域よりも高い成分を含む超音波診断装置が知られている(特許文献1参照)。特許文献1の超音波診断装置は、音響ノイズを抑制し、ペネトレーション(深達度)を向上している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-114195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、THIでは、高調波を発生させるには、高い音圧(超音波の音の圧力)が必要である。高い音圧は、強い超音波送信及び超音波を集めることにより実現できる。ここで、図25を参照して、音響遮蔽物がある場合の超音波の音圧の強さを説明する。図25は、超音波探触子2Lの送信超音波の音圧の強さを示す図である。
【0007】
図25に、走査方式がリニアの超音波探触子2Lの送信超音波の送信焦点の探触子側に音響遮蔽物AS1がある場合の送信超音波の音圧の強さを示す。図25において、超音波探触子2Lの送信超音波において、音圧が高いほど白く、音圧が低いほど黒くなるよう表現している。音響遮蔽物AS1は、高反射、高減衰の組織などの遮蔽物であり、図上では斜線模様の領域で表現している。音響遮蔽物AS1があると、送信超音波の音圧が上がらず、高調波成分生成量が低下する。このため、音圧が低い後方陰影(シャドウ)AS2が発生し、深部にまで及ぶ。
特に経膣用探触子に代表される小径コンベックス型の探触子では、送信に用いる素子数を増加しても方位方向に開口を拡げるには限界があるため、この影響を受けやすい。
【0008】
特許文献1の超音波診断装置では、音響ノイズ抑制及びペネトレーション向上には有用だが、音圧依存性の高い高調波成分を画像化しており、音響遮蔽物がある場合のシャドウ耐性が弱かった。
【0009】
本発明の課題は、音響遮蔽物がある場合に良好な超音波画像を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、
被検体に送信超音波を送信して当該被検体から受信超音波を受信する超音波探触子により得られた受信信号に基づき超音波画像データを生成する超音波診断装置であって、
前記超音波探触子は、複数の振動子により構成された送信開口を有し、
前記送信開口は、前記送信開口の内側に配置された第1振動子群及び前記第1振動子群よりも外側に配置された第2振動子群を少なくとも含む複数の振動子群を有し、
前記超音波診断装置は、
駆動信号を生成して前記複数の振動子群に出力する送信部と、
前記送信部に、第1駆動信号及び第2駆動信号を少なくとも含む複数の駆動信号を一音線に対して前記複数の振動子群に出力させる制御部と、
前記超音波探触子から前記複数の駆動信号に対応する複数の受信信号を受信する受信部と、
前記複数の受信信号を演算して超音波画像データを生成する画像生成部と、を備え、
前記第1駆動信号は、第3駆動信号及び第4駆動信号を含み、
前記第2駆動信号は、前記第3駆動信号と加算した場合に相殺される第5駆動信号と、前記第4駆動信号と加算した場合に相殺残留が発生する第6駆動信号と、を含み、
前記制御部は、前記送信部に、前記第1駆動信号及び前記第2駆動信号に、前記送信超音波が同一焦点に集束するよう時間遅延を与えて、前記第3駆動信号及び前記第5駆動信号を前記第1振動子群に出力させ、前記第4駆動信号及び前記第6駆動信号を前記第2振動子群に出力させる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の超音波診断装置において、
前記画像生成部は、前記受信信号を加算することにより前記超音波画像データを生成する。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の超音波診断装置において、
前記第1駆動信号及び前記第2駆動信号の駆動電圧が同じである。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項1から3のいずれか一項に記載の超音波診断装置において、
前記第4駆動信号及び前記第6駆動信号の送信超音波の周波数パワースペクトルの中心周波数は、前記第3駆動信号及び前記第5駆動信号の送信超音波の周波数パワースペクトルの中心周波数よりも小さい。
【0014】
請求項5に記載の発明は、請求項1から4のいずれか一項に記載の超音波診断装置において、
前記第4駆動信号及び前記第6駆動信号の送信超音波の周波数パワースペクトルの帯域幅は、前記第3駆動信号及び前記第5駆動信号の送信超音波の周波数パワースペクトルの帯域幅よりも小さい。
【0015】
請求項6に記載の発明は、請求項1から5のいずれか一項に記載の超音波診断装置において、
前記超音波探触子の中心周波数よりも高周波領域において、前記第4駆動信号及び前記第6駆動信号の送信超音波の周波数パワースペクトルの信号強度は、前記第3駆動信号及び前記第5駆動信号の送信超音波の周波数パワースペクトルの信号強度よりも小さい。
【0016】
請求項7に記載の発明は、請求項1から6のいずれか一項に記載の超音波診断装置において、
前記第3駆動信号及び前記第6駆動信号の送信超音波の周波数パワースペクトルの中心周波数は、前記相殺残留の成分の中心周波数よりも小さい。
【0017】
請求項8に記載の発明は、請求項1から7のいずれか一項に記載の超音波診断装置において、
前記第3駆動信号及び前記第6駆動信号の送信超音波の周波数パワースペクトルの帯域幅は、前記相殺残留の成分の帯域幅よりも小さい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、音響遮蔽物がある場合に良好な超音波画像を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施の形態の超音波診断装置の外観図である。
図2】超音波診断装置の機能構成を示すブロック図である。
図3】送信部の機能構成を示すブロック図である。
図4】(a)は、超音波探触子の振動子のチャネルに対する送信超音波の送信強度を示す図である。(b)は、超音波探触子の振動子チャネルの送信中心方向に対する音圧上昇寄与度を示す図である。
図5】超音波探触子から出力される第1振動子群及び第2振動子群に対応する超音波ビームを示す図である。
図6】(a)は、第4の駆動信号に対応する送信超音波の信号強度の時間特性の一例を示す図である。(b)は、第6の駆動信号に対応する送信超音波の信号強度の時間特性の一例を示す図である。
図7】(a)は、図6(a)の第4の駆動信号、図6(b)の第6の駆動信号の送信超音波及びその合算信号の信号強度の時間特性の一例を示す図である。(b)は、図6(a)の第4の駆動信号、図6(b)の第4の駆動信号の送信超音波及びその合算信号の信号強度の周波数特性並びに超音波探触子の送信帯域の一例を示す図である。
図8】第1振動子群及び第2振動子群の送信超音波の信号強度の周波数特性の好ましい態様を示す図である。
図9】(a)は、第1の駆動波形の駆動信号の信号強度の時間特性を示す図である。(b)は、第1の駆動波形の駆動信号に対応する送信超音波の信号強度の時間特性を示す図である。
図10】(a)は、第2の駆動波形の駆動信号の信号強度の時間特性を示す図である。(b)は、第2の駆動波形の駆動信号に対応する送信超音波の信号強度の時間特性を示す図である。
図11】(a)は、第3の駆動波形の駆動信号の信号強度の時間特性を示す図である。(b)は、第3の駆動波形の駆動信号に対応する送信超音波の信号強度の時間特性を示す図である。
図12】(a)は、第4の駆動波形の駆動信号の信号強度の時間特性を示す図である。(b)は、第4の駆動波形の駆動信号に対応する送信超音波の信号強度の時間特性を示す図である。
図13】(a)は、第5の駆動波形の駆動信号の信号強度の時間特性を示す図である。(b)は、第5の駆動波形の駆動信号に対応する送信超音波の信号強度の時間特性を示す図である。
図14】(a)は、第6の駆動波形の駆動信号の信号強度の時間特性を示す図である。(b)は、第6の駆動波形の駆動信号に対応する送信超音波の信号強度の時間特性を示す図である。
図15】(a)は、第1、第2の駆動波形の駆動信号に対応する送信超音波の信号強度の時間特性を示す図である。(b)は、第1、第2の駆動波形の駆動信号に対応する送信超音波の信号強度の周波数特性を示す図である。
図16】(a)は、第3、第4の駆動波形の駆動信号に対応する送信超音波の信号強度の時間特性を示す図である。(b)は、第3、第4の駆動波形の駆動信号に対応する送信超音波の第1の合算波形の時間特性を示す図である。
図17】第3、第4の駆動波形の駆動信号に対応する送信超音波及び第1の合算波形の合算信号の信号強度の周波数特性を示す図である。
図18】第5、第4の駆動波形の駆動信号に対応する送信超音波の信号強度の時間特性を示す図である。
図19】(a)は、第6、第4の駆動波形の駆動信号に対応する送信超音波の信号強度の時間特性を示す図である。(b)は、第6、第4の駆動波形の駆動信号に対応する送信超音波の第2の合算波形の時間特性を示す図である。
図20】第6、第4の駆動波形の駆動信号に対応する送信超音波及び第2の合算波形の合算信号の信号強度の周波数特性を示す図である。
図21】(a)は、第4の比較例における第1の被検体の超音波画像を示す図である。(b)は、第1の実施例における第1の被検体の超音波画像を示す図である。
図22】(a)は、図21(a)の部分領域の輝度値の3Dグラフである。(b)は、図21(b)の部分領域の輝度値の3Dグラフである。
図23】(a)は、第4の比較例における第2の被検体の超音波画像を示す図である。(b)は、第1の実施例における第2の被検体の超音波画像を示す図である。
図24】(a)は、図23(a)の部分領域の輝度値の3Dグラフである。(b)は、図23(b)の部分領域の輝度値の3Dグラフである。
図25】超音波探触子の送信超音波の音圧の強さを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
添付図面を参照して本発明に係る実施の形態を詳細に説明する。なお、本発明は、図示例に限定されるものではない。
【0021】
先ず、図1図3を参照して、本実施の形態の超音波診断装置Sの装置構成を説明する。図1は、本実施の形態の超音波診断装置Sの外観図である。図2は、超音波診断装置Sの機能構成を示すブロック図である。図3は、送信部12の機能構成を示すブロック図である。
【0022】
本実施の形態に係る超音波診断装置Sは、図1及び図2に示すように、超音波診断装置本体1と、超音波探触子2と、を備える。超音波探触子2は、図示しない生体などの被検体に対して超音波(送信超音波)を送信するとともに、この被検体で反射した反射超音波及び散乱超音波を含む受信超音波を受信する。超音波診断装置本体1は、超音波探触子2に接続される。超音波診断装置本体1は、超音波探触子2に電気信号の駆動信号を送信することによって超音波探触子2に被検体に対して送信超音波を送信させるとともに、超音波探触子2にて受信した被検体内からの受信超音波に応じて超音波探触子2で生成された電気信号である受信信号に基づいて被検体内の内部状態を超音波画像データとして画像化する。
【0023】
超音波探触子2は、超音波探触子本体21と、ケーブル22と、コネクター23と、を有する。超音波探触子本体21は、超音波を送受信する超音波探触子2のヘッダ部である。ケーブル22は、超音波探触子本体21及びコネクター23の間に接続され、超音波探触子本体21用の駆動信号及び超音波の受信信号が流れるケーブルである。コネクター23は、超音波診断装置本体1のレセプタクルのコネクター(図示略)に接続するためのプラグのコネクターである。
【0024】
超音波診断装置本体1は、コネクター23、ケーブル22を介して、超音波探触子本体21と接続される。超音波探触子本体21は、圧電素子からなる振動子2a、送信超音波を焦点に向けて集束させる音響レンズなどを備え、被検体の体腔(例えば、膣内)を検査するための体腔内プローブ(経膣プローブ)の本体部である。この振動子2aは、例えば、180°の半円状に複数配列されている。本実施の形態では、例えば、192個の振動子2aを備えた超音波探触子2を用いている。なお、振動子2aは、二次元アレイ状に配列されたものであってもよい。また、振動子2aの個数は、任意に設定することができる。また、本実施の形態では、超音波探触子2について、電子スキャンの体腔内プローブを採用したが、電子走査方式あるいは機械走査方式の何れを採用してもよく、また、リニア走査方式、セクタ走査方式あるいはコンベックス走査方式など何れの方式を採用することもできる。
【0025】
超音波探触子2の周波数帯域幅は、送受信感度の-20dB比帯域幅が100%以上であることが好ましく、120%以上であることがより好ましい。具体的には、超音波探触子2の中心周波数が6[MHz]であれば、好ましくは-20dB帯域幅が3~9[MHz]より広く、2.4~9.8[MHz]であることがより好ましい。広帯域の超音波探触子2を用いることで、浅部高調波生成の原動力となる高周波とペネトレーション確保に重要な低周波の双方を送信することが可能となり、浅部~深部にわたって良好なS/N(Signal to Noise Ratio)を得ることが可能となる。さらに、相殺残留成分の帯域幅上限は超音波探触子の帯域幅により制限されるため、広帯域な超音波探触子2を用いることは分解能の向上に寄与する。
【0026】
図2に示すように、超音波診断装置本体1は、例えば、操作入力部11と、送信部12と、受信部13と、画像生成部14と、画像処理部15と、DSC(Digital Scan Converter)16と、表示部17と、制御部18と、記憶部19と、を備える。
【0027】
操作入力部11は、例えば、診断開始を指示するコマンドや被検体の個人情報などのデータの入力などを行うための各種スイッチ、ボタン、トラックボール、マウス、キーボードなどを備えており、医師、技師などのユーザーからの操作入力を受け付け、その操作信号を制御部18に出力する。
【0028】
送信部12は、制御部18の制御にしたがって、超音波探触子2に電気信号である駆動信号を供給して超音波探触子2に送信超音波を発生させる回路である。また、送信部12は、超音波探触子2の送信開口の複数の振動子2aを、送信開口の内側(送信開口中央部)に配置された第1振動子群と、内側となる第1振動子群よりも外側(送信開口辺縁部)に配置された第2振動子群との2種類に分け、同一焦点に向けた異なる駆動波形の駆動信号を生成し、送信超音波が同一焦点に集束するよう時間遅延を複数の駆動信号に与えて、第1振動子群と第2振動子群とにそれぞれ出力する。本実施の形態において、「異なる駆動波形」とは、駆動制御信号の異なるものを指す。送信開口は、超音波探触子2の全ての振動子2aのうち、超音波送信用の駆動信号を出力する所定数(例えば、46)の一連の振動子群の開口である。
【0029】
図3に示すように、送信部12は、例えば、クロック発生回路121、パルス発生回路122、時間及び電圧設定部123及び遅延回路124を備えている。
【0030】
クロック発生回路121は、駆動信号の送信タイミングや送信周波数を決定するクロック信号を発生させる回路である。パルス発生回路122は、所定の周期で駆動信号としてのパルス信号を発生させるための回路である。パルス発生回路122は、例えば、3値(+HV/0(GND)/-HV)の電圧を切り替えて出力することにより、矩形波による駆動信号を発生させることができる。このとき、パルス信号の振幅については、正極性及び負極性で同一となるようにしたが、これに限定されない。本実施の形態では、3値の電圧を切り替えて駆動信号を出力するようにしたが、3値に限定されず、5値(+HV/+MV/0(GND)/-MV/-HV)など、適宜の値に設定することができるが、5値以下が好ましい。これにより、低コストで周波数成分の制御の自由度を向上させることができ、より高分解能である送信超音波を得ることができる。
【0031】
時間及び電圧設定部123は、パルス発生回路122から出力される駆動信号の同一電圧レベルの各区間の持続時間及びその電圧レベルを設定する。すなわち、パルス発生回路122は、時間及び電圧設定部123によって設定された各区間の持続時間及び電圧レベルに従ったパルス波形による駆動信号を出力する。時間及び電圧設定部123で設定される各区間の持続時間及び電圧レベルは、例えば、操作入力部11による入力操作により可変することができる。
【0032】
遅延回路124は、駆動信号の送信タイミングを振動子毎に対応した個別経路毎に遅延時間を設定し、設定された遅延時間だけ駆動信号の送信を遅延させて送信超音波によって構成される送信ビームの集束を行うための回路である。
【0033】
送信部12は、制御部18の制御にしたがって、駆動信号を供給する送信開口の複数の振動子2aを、超音波の送受信毎に所定数ずらしながら順次切り替え、出力の選択された複数の振動子2aに対して駆動信号を供給することによりスキャンを行う。
【0034】
本実施の形態では、THIの高調波成分を抽出するために、パルスインバージョン法を実施することができる。パルスインバージョン法は、基本波が互いに位相反転した2つの駆動信号を送信したときの受信信号(エコー信号)を加算することによって,基本波成分を相殺し、高調波成分のみを抽出する方法である。すなわち、送信部12は、パルスインバージョン法を実施する場合には、(送信)駆動信号として、第1の駆動波形の第1の駆動信号と、この第1の駆動信号とは信号強度(電圧)が極性反転した第2の駆動波形の第2の駆動信号とを同一走査線上に時間間隔をおいて送信することができる。極性反転した第1の駆動信号及び第2の駆動信号を本発明における対称パルスインバージョン(以下、対称PI)の駆動信号とする。
【0035】
また、送信部12は、第1の駆動信号の複数のデューティーのうちの少なくとも1つを異ならせて極性反転させた第2の駆動信号を送信できる。このとき、第1の駆動信号及び第2の駆動信号に対応する駆動信号を加算すると、足し残る成分があり、この成分を相殺残留とする。相殺残留が発生する第1の駆動信号及び第2の駆動信号を本発明における非対称パルスインバージョン(以下、非対称PI)の駆動信号とする。
【0036】
このように、本実施の形態におけるPIの対称/非対称は、(送信)駆動信号の正負の対称性により定義され、時間反転対称などの他の対称軸による対称性は考慮しない。また、駆動電圧の立ち上がり立ち下がり時間の非対称性やオーバーシュート/アンダーシュートの特性の違いなど、駆動デバイス特性に起因する正負非対称性も考慮しない。すなわち、PIの対称/非対称は、駆動(制御)信号の正負対称性により定義される。
【0037】
ここで、第1の駆動信号が、第3の駆動信号及び第4の駆動信号を含み、第2の駆動信号が、第5の駆動信号及び第6の駆動信号を含むものとする。この第3の駆動信号及び第5の駆動信号が対称PIの関係にある駆動信号とし、第4の駆動信号及び第6の駆動信号が非対称PIの関係にある駆動信号とする。以上のように構成された送信部12は、第3の駆動信号及び第4の駆動信号を含む第1の駆動信号と、第5の駆動信号及び第6の駆動信号を含む第2の駆動波形の第2の駆動信号と、を生成する。送信部12は、同一焦点となるように、第3の駆動信号を送信開口の内側となる第1振動子群に出力し、第4の駆動信号を送信開口の外側となる第2振動子群に出力するように、第1の駆動信号を出力し、ついで第1の駆動信号と同一焦点となるように、第5の駆動信号を送信開口の内側となる第1振動子群に出力し、第6の駆動信号を送信開口の外側となる第2振動子群に出力するように、第2の駆動信号を出力できる。第1~第6の駆動信号と第1振動子群、第2振動子群との関係を次表Iにまとめる。
【表1】
【0038】
受信部13は、制御部18の制御にしたがって、超音波探触子2から電気信号の受信信号を受信する回路である。受信部13は、例えば、増幅器、A/D変換回路、整相加算回路を備えている。増幅器は、受信信号を、振動子2a毎に対応した個別経路毎に、予め設定された所定の増幅率で増幅させるための回路である。A/D変換回路は、増幅された受信信号をアナログ-デジタル変換(A/D変換)するための回路である。整相加算回路は、A/D変換された受信信号に対して、振動子2a毎に対応した個別経路毎に遅延時間を与えて時相を整え、これらを加算(整相加算)して音線データを生成するための回路である。
【0039】
画像生成部14は、受信部13からの音線データに対して包絡線検波処理や対数増幅などを実施し、ゲインの調整などを行って輝度変換することにより、Bモード画像データを生成する。すなわち、Bモード画像データは、受信信号の強さを輝度によって表したものである。画像生成部14にて生成されたBモード画像データは、画像処理部15に送信される。また、画像生成部14は、高調波成分抽出部14aを備え、高調波成分抽出部14aにより抽出された高調波成分からBモード画像データを生成する。
【0040】
高調波成分抽出部14aは、受信部13から出力された受信信号の音線データからパルスインバージョン法を実施して高調波成分を抽出する。より具体的には、高調波成分抽出部14aは、第1の駆動信号に対応する第1の受信信号の音線データと、第2の駆動信号に対応する第2の受信信号の音線データと、を加算(合成)して、受信信号に含まれる基本波成分を除去した上で必要に応じてフィルター処理を行うことにより高調波成分を抽出できる。奇数次高調波成分の高調波成分は、同一の第1、第2の受信信号の音線データを減算(合成)して偶数次高調波成分を除去した上で必要に応じてフィルター処理を行うことにより取得される。こうして抽出された偶数次高調波成分と奇数次高調波成分は、必要に応じてオールパスフィルターなどにより位相調整処理を行った後に加算(合成)することにより、偶数次と奇数次の高調波が相殺することなく結合して広帯域の受信信号を得ることが可能となる。
【0041】
画像処理部15は、DRAM(Dynamic Random Access Memory)などの半導体メモリーによって構成された画像メモリー部15aを備えている。画像処理部15は、画像生成部14から出力されたBモード画像データをフレーム単位で画像メモリー部15aに記憶する。フレーム単位での画像データを超音波画像データ、あるいはフレーム画像データということがある。画像処理部15は、画像メモリー部15aに記憶した超音波画像データを適宜読み出してDSC16に出力する。
【0042】
DSC16は、画像処理部15より受信した超音波画像データに座標変換などの処理を施して画像信号に変換し、表示部17に出力する。
【0043】
表示部17は、LCD(Liquid Crystal Display)、CRT(Cathode-Ray Tube)ディスプレイ、有機EL(Electronic Luminescence)ディスプレイ、無機ELディスプレイ及びプラズマディスプレイなどの表示装置が適用可能である。表示部17は、DSC16から出力された画像信号にしたがって表示画面上に超音波画像の表示を行う。
【0044】
制御部18は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)を備えて構成され、ROMに記憶されているシステムプログラムなどの各種処理プログラムを読み出してRAMに展開し、展開したプログラムにしたがって超音波診断装置Sの各部の動作を集中制御する。ROMは、半導体などの不揮発メモリーなどにより構成され、超音波診断装置Sに対応するシステムプログラム及び該システムプログラム上で実行可能な各種処理プログラムや、各種データなどを記憶する。これらのプログラムは、コンピューターが読み取り可能なプログラムコードの形態で格納され、CPUは、当該プログラムコードに従った動作を逐次実行する。RAMは、CPUにより実行される各種プログラム及びこれらプログラムに係るデータを一時的に記憶するワークエリアを形成する。
【0045】
ROMには、後述する超音波画像表示処理を実行するための超音波画像表示プログラムが記憶されているものとする。制御部18は、超音波画像表示プログラムに従い、複数の駆動波形が異なる駆動信号から第1の駆動信号(第3の駆動信号、第4の駆動信号)及びに第2の駆動信号(第3の駆動信号と対称PIの第5の駆動信号、第4の駆動信号と非対称PIの第6の駆動信号)を選択し、送信部12により、第1の駆動信号及び第2の駆動信号に送信超音波が同一焦点に集束するよう時間遅延を与えて同一音線上に順に超音波探触子2の振動子2aに出力し、このとき、第3の駆動信号及び第5の駆動信号を振動子2aの送信開口の内側となる第1振動子群に出力し、第4の駆動信号及び第6の駆動信号を振動子2aの送信開口の外側となる第2振動子群に出力し、送信超音波を被検体に送信させる。そして、制御部18は、受信部13により、第3~第6の駆動信号に対応する受信超音波の受信信号を生成し、画像生成部14により、第1の駆動信号、第2の駆動信号に対応する受信信号を、パルスインバージョン法により加算し高調波成分を抽出して超音波画像データを生成し、画像処理部15、DSC16を介して超音波画像データを表示部17に超音波画像として表示させる。制御部18は、上記の超音波画像データの生成及び表示を繰り返し行うライブ画像表示を行い、操作入力部11を介するユーザーからのフリーズ、保存の操作入力に応じて、超音波画像データを保持し、記憶部19に保存する。
【0046】
記憶部19は、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)などの情報の読み出し及び書き込みが可能な記憶部であり、超音波画像データなどの情報が記憶される。
【0047】
つぎに、図4(a)、図4(b)を参照して、体腔内プローブである超音波探触子2の音圧の特性を説明する。図4(a)は、超音波探触子2の振動子2aのチャネルに対する送信超音波の送信強度を示す図である。図4(b)は、超音波探触子2の振動子2aのチャネルの送信中心方向に対する音圧上昇寄与度を示す図である。
【0048】
超音波探触子2は、振動子2aの音響放射面が小径円弧であり、振動子2aの素子数を増やしても送信開口幅増加に限界がある。図4(a)に示すように、指向角感度の影響により送信開口の振動子2aのチャネルごとに同一の送信強度で超音波を送信しても、図4(b)に示すように、送信開口外側(送信中心から離れた部分)のチャネルでの超音波送信による音圧上昇寄与度が少ない。このため、送信開口の送信中心が音響遮蔽物により遮蔽されると後方遮蔽(シャドウ)耐性が弱い。
【0049】
経膣エコー領域におけるシャドウの原因となる高反射及び高減衰を示す音響遮蔽物の具体例としては、カルシウムの蓄積による石灰を伴う子宮筋腫、頸管中に入り込んだ気泡などがあり、高減衰を示す具体例としては石灰化を伴わない子宮筋腫、悪性腫瘍、頸管粘液などが挙げられる。
【0050】
つぎに、図5図7(b)を参照して、本実施の形態の非対称PIの駆動信号(上記の第1の駆動信号(第3の駆動信号+第4の駆動信号)、第2の駆動信号(第5の駆動信号+第6の駆動信号)に対応する送信超音波のパルス信号について説明する。図5は、超音波探触子2Lから出力される第1振動子群及び第2動子群に対応する超音波ビームを示す図である。図6(a)は、第4の駆動信号に対応する送信超音波の信号強度の時間特性の一例を示す図である。図6(b)は、第6の駆動信号に対応する送信超音波の信号強度の時間特性の一例を示す図である。図7(a)は、図6(a)の第4の駆動信号、図6(b)の第6の駆動信号の送信超音波及びその合算信号の信号強度の時間特性の一例を示す図である。図7(b)は、図6(a)の第4の駆動信号、図6(b)の第4の駆動信号の送信超音波及びその合算信号の信号強度の周波数特性並びに超音波探触子2の送信帯域の一例を示す図である。
【0051】
図5では、超音波ビームを分かりやすく図示するため、体腔内プローブとしての超音波探触子2に代えて、リニアの超音波探触子2Lを用いているが、超音波探触子2の超音波ビームの生成も超音波探触子2Lと同様である。
【0052】
図5に示すように、超音波探触子2Lから、送信開口の内側となる第1振動子群に対称PIの駆動信号(第1の駆動信号の第3の駆動信号、第2の駆動信号の第5の駆動信号)が入力されて、対称PIの超音波ビームU1が、内側となる第1振動子群から送信開口の送信中心の中心線C1に沿って、焦点に集束されるように出力される。これとともに、超音波探触子2Lから、送信開口の外側となる第2振動子群に非対称PIの駆動信号(第1駆動信号の第4の駆動信号、第2の駆動信号の第6の駆動信号)が入力されて、非対称PIの超音波ビームU2が、超音波ビームU1の外側に、外側となる第2振動子群から同様に焦点に集束されるように出力される。Bモード画像生成の副走査により、中心線C1が走査方向(振動子の配列方向)に移動していく。
【0053】
超音波ビームU1の高調波成分の生成領域を領域AR1で示す。超音波ビームU2の高調波成分の生成領域を領域AR2で示す。非対称PIの第2のパルス信号及び第4のパルス信号を加算(合算)した合算信号の相殺残留の生成領域を領域AR3で示す。
【0054】
ここで、非対称PIの駆動信号の送信超音波及び合算信号の一例を説明する。第4の駆動信号に対応する送信超音波のパルス信号として、図6(a)に示す時間[μs]に対する送信超音波の信号強度[mV]の駆動波形(図上で破線)の送信超音波と、第6の駆動信号に対応する送信超音波のパルス信号として、図6(b)に示す時間[μs]に対する送信超音波の信号強度[mV]の駆動波形(図上で一点鎖線)の送信超音波と、が出力されるものとする。これらが反射されて受信信号として得られた場合、これらを演算して得られる画像化信号は図6(a)の第4の駆動信号に対応する送信超音波と、図6(b)の第6の駆動信号に対応する送信超音波と、が加算(合算)されたものとなる。すると、図7(a)に示すように、図6(a)の第4の駆動信号に対応する送信超音波(破線)と、図6(b)の第6の駆動信号に対応する送信超音波(一点鎖線)との合算信号の、時間[μs]に対する送信超音波の信号強度[mV](図上で合算信号の信号強度が実線)が演算結果として得られる。また、図7(a)の第4の駆動信号に対応する送信超音波と、第6の駆動信号に対応する送信超音波と、その合算信号の送信超音波とのパルス信号をそれぞれフーリエ変換することにより、図7(b)に示すように、第4の駆動信号に対応する送信超音波と、第6の駆動信号に対応する送信超音波と、その合算信号との、周波数[MHz]に対する送信超音波の信号強度[dB](周波数パワースペクトル)が得られる。図7(a)、図7(b)の合算信号の成分が、相殺残留である。
【0055】
非対称PIの合算信号の第1の特徴として、図7(a)により、非対称PIの相殺残留は、高音圧領域で発生する高調波とは異なり、線形成分となるため、音圧が低くても得ることが可能となる。第2の特徴として、図7(b)に示すように、図6(a)の第4の駆動信号に対応する低周波の送信超音波及び図6(b)の第6の駆動信号に対応する低周波の送信超音波に対応する受信信号から、合算により広帯域な信号成分が得ることが可能となり、距離分解能やスペックルの粒状性に優れた超音波画像データを得ることが可能となる。第3の特徴として、図7(a)に示すように、第4の駆動信号及び第6の駆動信号の送信超音波は、低周波であるため、広がりやすく(回折しやすく)、音響遮蔽物のシャドウ部分に回り込むため、シャドウ部分を補完するのに好適となる。
【0056】
また、図7(b)に、超音波探触子2の送信帯域(送信周波数帯域)(周波数[MHz]に対する送信超音波の信号強度[dB])(図上で二点鎖線)の一例を示す。本実施の形態と、後述する比較例及び実施例とには、図7(b)の送信帯域の特性の超音波探触子2を用いるものとする。ただし、図7(b)の送信帯域は、広帯域インパルスを入力した場合の送信特性であり、超音波探触子2の送信帯域特性を示しているが、入力エネルギーは同等でないため縦軸(信号強度[dB])の絶対値は参考値である。
【0057】
つぎに、図8を参照して、対称PIの送信超音波と、非対称PIの送信超音波と、の好ましい条件を説明する。図8は、第1振動子群及び第2振動子群の送信超音波の信号強度の周波数特性の好ましい態様を示す図である。
【0058】
図8に、超音波探触子2の-20dB送信周波数帯域(図上、破線)と、第1振動子群の送信超音波の信号強度の周波数特性(周波数パワースペクトル)としての信号成分ITxと、第2振動子群の送信超音波の信号強度の周波数特性(周波数パワースペクトル)としての信号成分OTxと、を示す。
【0059】
まず、条件(a)として、信号成分OTxの中心周波数<信号成分ITxの中心周波数とする。ここで、中心周波数([MHz])とは、周波数パワースペクトルのピーク周波数の信号強度値から最初に-6dB以下となる上限周波数と下限周波数との平均値である。
【0060】
また、条件(b)として、信号成分OTxの帯域幅<信号成分ITxの帯域幅とする。ここで、(周波数)帯域幅([MHz])とは、周波数パワースペクトルのピーク周波数の強度値から最初に-6dB以下となる上限周波数と下限周波数の差分値である。なお、比帯域幅[%]とは、上記の帯域幅を上記の中心周波数で除した百分率である。
【0061】
また、条件(c)として、超音波探触子2の-20dB中心周波数より高周波領域において、信号成分OTxの信号強度<信号成分ITxの信号強度とする。
【0062】
超音波がその波長より充分小さい散乱体を受ける場合の散乱強度は周波数の4乗に比例することが知られており、条件(a),(b),(c)の構成とすることにより、送信波の高周波成分が生体組織に散乱され、音響ノイズとして受信領域に入り込むことが抑制されるため、特に浅部の無~低エコー領域の描出向上に有用である。さらに、第2振動子群には送信焦点付近において高調波生成に必要な音圧上昇を得るための低周波成分のみが送出され、これに寄与しない高周波成分が送出されないことになる。これにより探触子表面等での発熱量が減少し、送信効率が向上するためにペネトレーションも向上する。
【0063】
また、条件(d)として、第1の駆動信号の第4の駆動信号に対応する送信超音波の中心周波数<相殺残留の合算信号(相殺残留成分)の中心周波数、かつ第2の駆動信号の第6の駆動信号に対応する送信超音波の中心周波数<相殺残留成分の中心周波数とする。例えば、図7(b)において、条件(d)が満たされている。
【0064】
また、条件(e)として、第4の駆動信号に対応する送信超音波の帯域幅<相殺残留成分の帯域幅、かつ第6の駆動信号に対応する送信超音波の帯域幅<相殺残留成分の帯域幅とする。例えば、図7(b)において、条件(e)が満たされている。
【0065】
相殺残留成分を条件(d),(e)となるように設計することにより、超音波画像において音響遮蔽物のシャドウ部分への送波成分の回り込みは低い周波数成分の特性が生かされて回り込み量が大きくなる(シャドウ部分のカバー効果が大きくなる)が、そうして得られる相殺残留成分の画像信号は送信超音波よりも周波数が高く、帯域が広いことにより画像粒度が細かく、距離分解能の高い画像描出が得られる。
【0066】
つぎに、図9(a)~図20を参照して、本実施の形態における超音波探触子2と、駆動信号、送信超音波などの送信条件との具体的な比較例1~4及び実施例1~3を説明する。図9(a)は、駆動波形1の駆動信号の信号強度の時間特性を示す図である。図9(b)は、駆動波形1の駆動信号に対応する送信超音波の信号強度の時間特性を示す図である。図10(a)は、駆動波形2の駆動信号の信号強度の時間特性を示す図である。図10(b)は、駆動波形2の駆動信号に対応する送信超音波の信号強度の時間特性を示す図である。図11(a)は、駆動波形3の駆動信号の信号強度の時間特性を示す図である。図11(b)は、駆動波形3の駆動信号に対応する送信超音波の信号強度の時間特性を示す図である。図12(a)は、駆動波形4の駆動信号の信号強度の時間特性を示す図である。図12(b)は、駆動波形4の駆動信号に対応する送信超音波の信号強度の時間特性を示す図である。図13(a)は、駆動波形5の駆動信号の信号強度の時間特性を示す図である。図13(b)は、駆動波形5の駆動信号に対応する送信超音波の信号強度の時間特性を示す図である。図14(a)は、駆動波形6の駆動信号の信号強度の時間特性を示す図である。図14(b)は、駆動波形6の駆動信号に対応する送信超音波の信号強度の時間特性を示す図である。
【0067】
図15(a)は、駆動波形1,2の駆動信号に対応する送信超音波の信号強度の時間特性を示す図である。図15(b)は、駆動波形1,2の駆動信号に対応する送信超音波の信号強度の周波数特性を示す図である。図16(a)は、駆動波形3,4の駆動信号に対応する送信超音波の信号強度の時間特性を示す図である。図16(b)は、駆動波形3,4の駆動信号に対応する送信超音波の合算波形1の時間特性を示す図である。図17は、駆動波形3,4の駆動信号に対応する送信超音波及び合算波形1の合算信号の信号強度の周波数特性を示す図である。図18は、駆動波形5,4の駆動信号に対応する送信超音波の信号強度の周波数特性を示す図である。図19(a)は、駆動波形6,4の駆動信号に対応する送信超音波の信号強度の時間特性を示す図である。図19(b)は、駆動波形6,4の駆動信号に対応する送信超音波の合算波形2の時間特性を示す図である。図20は、駆動波形6,4の駆動信号に対応する送信超音波及び合算波形2の合算信号の信号強度の周波数特性を示す図である。
【0068】
以下、比較例、実施例を用いて本発明を説明する。尚、比較例、実施例中の送信超音波時間特性の縦軸は本来音圧(Pa)であるが、便宜上、これを全て同一条件、同一測定系にてハイドロフォンで測定した際の電圧値(mV)で表記している。
<比較例1>
図9(a)~図10(b)、図15(a)、図15(b)を参照して、比較例1を説明する。比較例1は、超音波探触子2の送信開口の振動子2aを送信開口中央部の内側となる第1振動子群、送信開口辺縁部の外側となる第2振動子群、に分けずに、駆動波形1の第1の駆動信号と、駆動波形2の第2の駆動信号とを、送信部12から送信開口の各振動子2aに順に出力して、得られた受信信号に基づきパルスインバージョン法により得られた画像化信号を画像化する比較例である。
【0069】
超音波探触子2としては、曲率半径=10[mm]、振動子2aの素子ピッチ=0.15[mm]の経膣用プローブを用いた。また、用いた超音波探触子2の送信周波数帯域は、図7(b)の二点鎖線で示すものである。また、後述するように、送信焦点は、30[mm]として画像評価を行った。この超音波探触子2及び画像評価の送信焦点は、比較例1~4、実施例1~3で共通とした。また、比較例1の超音波探触子2の送信開口の振動子2aの素子数は、46である。
【0070】
比較例1の第1の駆動信号の波形を駆動波形1とする。図9(a)に、時間[ns]に対する駆動波形1の駆動信号の信号強度[V]を示す。図9(b)に、時間[μs]に対する駆動波形1の駆動信号に対応する送信超音波(駆動信号を超音波探触子2に入力して出射される送信超音波)の信号強度[mV]を示す。図9(b)において、駆動波形1に対応する送信超音波の信号強度を破線で示した。
【0071】
比較例1の第2の駆動信号の波形を駆動波形2とする。図10(a)に、時間[ns]に対する駆動波形2の駆動信号の信号強度[V]を示す。図10(b)に、時間[μs]に対する駆動波形2の駆動信号に対応する送信超音波の信号強度[mV]を示す。図10(b)において、駆動波形2に対応する送信超音波の信号強度を一点鎖線で示した。
【0072】
図15(a)に、時間[μs]に対する、駆動波形1の駆動信号に対応する送信超音波と、駆動波形2の駆動信号に対応する送信超音波との信号強度[mV]の重畳を示す。図15(b)に、周波数[MHz]に対する、駆動波形1の駆動信号に対応する送信超音波と、駆動波形2の駆動信号に対応する送信超音波との信号強度[dB](周波数パワースペクトル)の重畳を示す。図15(a)、図15(b)において、駆動波形1に対応する送信超音波の信号強度を破線で示し、駆動波形2に対応する送信超音波の信号強度を一点鎖線で示した。図15(b)においては駆動波形1の周波数特性と駆動波形2の周波数特性は同一のため、重畳されて示されている。
【0073】
図15(a)に示すように、駆動波形2に対応する送信超音波の信号強度は、駆動波形1に対応する送信超音波の信号強度と電圧の極性が反転している。このため、図15(b)に示すように、駆動波形1,2に対応する送信超音波の周波数パワースペクトルが一致する。したがって、駆動波形1に対応する送信超音波の信号強度と、駆動波形2に対応する送信超音波の信号強度とを加算することで、完全に相殺され、相殺残留が発生しない。
【0074】
図9(a)、図10(a)に示すように、駆動波形1,2の駆動信号は、GND(0[V])、+HV、-HVの共通する3値で生成しており、送信部12の構成及び制御が簡単になる。これは、駆動波形1,2だけではなく、駆動波形3~6でも同様である。
【0075】
比較例1の画像化信号は、送信部12から出力する駆動波形1の第1の駆動信号に対応する超音波送受信により受信部13で生成された受信信号(第1送受信結果信号)と、ついで送信部12から出力する駆動波形2の第2の駆動信号に対応する超音波送受信とにより、受信部13で生成された受信信号(第2送受信結果信号)と、の加算信号(第1/第2送受信結果加算信号)となる。高調波成分抽出部14aにより、第1/第2送受信結果加算信号の高調波成分が抽出され、画像生成部14により、当該高調波成分を用いて超音波画像データが生成される。
高調波成分のみを用いているためCystの描出は良好だが、遮蔽物による音圧低下部分には充分な高調波が生成しないため、シャドウが強く描出される。
【0076】
<比較例2>
図12(a)~図13(b)、図18を参照して、比較例2を説明する。比較例2は、超音波探触子2の送信開口の振動子2aを送信開口の内側となる第1振動子群、外側となる第2振動子群に分け、第1の駆動信号として、駆動波形1の第3の駆動信号を、送信部12から送信開口の内側となる第1振動子群に出力するとともに、駆動波形2の第4の駆動信号を送信部12から送信開口の外側となる第2振動子群に出力し、ついで、第2の駆動信号として、駆動波形5の第5の駆動信号を送信部12から送信開口の内側となる第1振動子群に出力するとともに、駆動波形4の第6の駆動信号を送信部12から送信開口の外側となる第2振動子群に出力して、得られた受信信号に基づきパルスインバージョン法により得られた画像化信号を画像化する比較例である。
【0077】
また、比較例2の超音波探触子2の送信開口の内側となる第1振動子群の振動子2aの素子数が16であり、外側となる第2振動子群の振動子2aの素子数が30である。
【0078】
比較例2の第1の駆動信号のうち、送信開口の内側となる第1振動子群に出力する第3の駆動信号の波形を駆動波形1とする。比較例2の第2の駆動信号のうち、送信開口の内側となる第1振動子群に入力する第5の駆動信号の波形を駆動波形2とする。
【0079】
比較例2の第1の駆動信号のうち、送信開口の外側となる第2振動子群に出力する第4の駆動信号の波形を駆動波形5とする。図13(a)に、時間[ns]に対する駆動波形5の駆動信号の信号強度[V]を示す。図13(b)に、時間[μs]に対する駆動波形5の駆動信号に対応する送信超音波の信号強度[mV]を示す。図13(b)において、駆動波形5に対応する送信超音波の信号強度を破線で示した。
【0080】
比較例2の第2の駆動信号のうち、送信開口の外側となる第2振動子群に出力する第6の駆動信号の波形を駆動波形4とする。図12(a)に、時間[ns]に対する駆動波形4の駆動信号の信号強度[V]を示す。図12(b)に、時間[μs]に対する駆動波形4の駆動信号に対応する送信超音波の信号強度[mV]を示す。図12(b)において、駆動波形4に対応する送信超音波の信号強度を一点鎖線で示した。
【0081】
比較例2の駆動波形1の第3の駆動信号と駆動波形2の第5の駆動信号との送信超音波の加算については、比較例1と同様に相殺残留が発生しない。比較例2の駆動波形5の第3の駆動信号と駆動波形4の第5の駆動信号との送信超音波の加算についても、相殺残留は発生しない。
【0082】
図18に、時間[μs]に対する、駆動波形5の駆動信号に対応する送信超音波と、駆動波形4の駆動信号に対応する送信超音波との信号強度[mV]の重畳を示す。図18において、駆動波形5に対応する送信超音波の信号強度を破線で示し、駆動波形4に対応する送信超音波の信号強度を一点鎖線で示した。
【0083】
図18に示すように、駆動波形4に対応する送信超音波の信号強度は、駆動波形5に対応する送信超音波の信号強度と電圧の極性が反転している。このため、駆動波形5,4に対応する送信超音波の周波数パワースペクトルが一致する。したがって、駆動波形5に対応する送信超音波の信号強度と、駆動波形4に対応する送信超音波の信号強度とを加算することで、完全に相殺され、相殺残留が発生しない。
【0084】
比較例2の画像化信号は、送信部12の送信開口の内側となる第1振動子群から出力する駆動波形1の第3の駆動信号に対応する超音波、及び送信開口の外側となる第2振動子群から出力する駆動波形5の第4の駆動信号に対応する超音波の送受信により受信部13で生成された受信信号(第1送受信結果信号)と、ついで送信部12の送信開口の内側となる第1振動子群から出力する駆動波形2の第5の駆動信号に対応する超音波、及び送信開口の外側となる第2振動子群から出力する駆動波形4の第6の駆動信号に対応する超音波の送受信により受信部13で生成された受信信号(第2送受信結果信号)と、の加算信号(第1/第2送受信結果加算信号)となる。高調波成分抽出部14aにより、第1/第2送受信結果加算信号の高調波成分が抽出され、画像生成部14により、当該高調波成分を用いて超音波画像データが生成される。
第1振動子群から出力される超音波の周波数パワースペクトルは図15(b)に示した通りとなり、第2振動子群から出力される超音波の周波数パワースペクトルは図17の一点鎖線で示した通りとなり、駆動波形4と駆動波形5は極性反転対称となっており同一の周波数パワースペクトルとなるため、これらは図8に示した好ましい態様の関係となっている。そのため、比較例1に対して送信効率が向上し、良好なCystの描出に加えてペネトレーションも向上するが、依然として高調波成分のみを用いているため、遮蔽物による音圧低下部分には充分な高調波が生成せず、シャドウが強く描出される。
【0085】
<比較例3>
比較例3を説明する。比較例3は、比較例2と同様の送信条件で第1、第2の駆動信号(第3~第6の駆動信号)を、送信部12から超音波探触子2の送信開口の振動子2aに出力し、得られた受信信号に基づきパルスインバージョン法により得られた画像化信号および第2送信の受信信号により得られた画像化信号を合成して画像化する比較例である。
【0086】
比較例3の画像化信号は、比較例2の第1送受信結果信号及び第2送受信結果信号の加算信号(第1/第2送受信結果加算信号)を画像化信号として得られた画像50%と、第2送受信結果信号を画像化信号として得られた画像50%と、のから得られた合成画像となる。すなわち、高調波成分抽出部14aにより、第1/第2送受信結果加算信号により高調波成分が抽出され、画像生成部14により、当該高調波成分を用いて生成された超音波画像データと、第2送受信結果信号より高調波成分抽出処理を行わずに画像生成された画像データを各々重みづけ50%として合成された画像となる。
高調波成分に加え、第2送信として用いた基本波成分も用いて画像化しているため、音圧が低下したシャドウ部においても基本波成分により画像化成分が得られ、シャドウは軽減するものの、高調波によるコントラスト改善効果が得られず、低輝度部では音響ノイズの影響が大きくなるため浅部Cyst描出は境界の階調変化が緩やかになって視認性が劣化するうえ、その面積も縮小して低下する。
【0087】
<比較例4>
図11(a)、図11(b)、図16(a)~図17を参照して、比較例4を説明する。比較例4は、超音波探触子2の送信開口の振動子2aを内側となる第1振動子群、外側となる第2振動子群に分けずに、駆動波形3の第1の駆動信号と、駆動波形4の第2の駆動信号とを、送信部12から送信開口の各振動子2aに順に出力して、得られた受信信号に基づきパルスインバージョン法に準じた受信信号加算演算により得られた画像化信号を画像化する比較例である。
【0088】
比較例4の第1の駆動信号の波形を駆動波形3とする。図11(a)に、時間[ns]に対する駆動波形3の駆動信号の信号強度[V]を示す。図11(b)に、時間[μs]に対する駆動波形3の駆動信号に対応する送信超音波の信号強度[mV]を示す。図11(b)において、駆動波形3に対応する送信超音波の信号強度を破線で示した。
【0089】
比較例4の第2の駆動信号の波形を駆動波形4とする。
【0090】
図16(a)に、時間[μs]に対する、駆動波形3の駆動信号に対応する送信超音波と、駆動波形4の駆動信号に対応する送信超音波との信号強度[mV]の重畳を示す。図16(b)に、時間[μs]に対する、駆動波形3の駆動信号に対応する送信超音波と、駆動波形4の駆動信号に対応する送信超音波との合算波形1の合算信号の信号強度[mV]を示す。図17に、周波数[MHz]に対する、駆動波形3の駆動信号に対応する送信超音波と、駆動波形4の駆動信号に対応する送信超音波と、合算波形1の合算信号と、の信号強度[dB](周波数パワースペクトル)の重畳を示す。図16(a)~図17において、駆動波形3に対応する送信超音波の信号強度を破線で示し、駆動波形4に対応する送信超音波の信号強度を一点鎖線で示し、合算波形1の合算信号の信号強度を実線で示した。
【0091】
図16(a)に示すように、駆動波形4に対応する送信超音波の信号強度は、駆動波形3に対応する送信超音波の信号強度と電圧の極性がおおよそ反転しているものの完全ではない。このため、図16(b)に示すように、駆動波形3,4に対応する送信超音波の合算波形1の合算信号は、0にならずに、相殺残留となる。また、図17に示すように、駆動波形3,4に対応する送信超音波と、合算波形1の合算信号との周波数パワースペクトルは一致しない。
【0092】
比較例4の画像化信号は、送信部12から出力する駆動波形3の第1の駆動信号に対応する超音波送受信により受信部13で生成された受信信号(第1送受信結果信号)と、ついで送信部12から出力する駆動波形4の第2の駆動信号に対応する超音波送受信とにより、受信部13で生成された受信信号(第2送受信結果信号)と、の加算信号(第1/第2送受信結果加算信号)となる。高調波成分抽出部14aにより、第1/第2送受信結果加算信号の高調波成分が抽出されるとともに相殺残留成分も抽出され、画像生成部14により、当該高調波成分と相殺残留成分を用いて超音波画像データが生成される。
高調波成分に加え、線形成分である相殺残留成分も用いて画像化しているため、音圧が低下したシャドウ部においても基本波成分により画像化成分が得られ、シャドウは軽減するものの、高調波によるコントラスト改善効果が得られず、低輝度部では音響ノイズの影響が大きくなるため浅部Cyst描出は境界の階調変化が緩やかになって視認性が劣化するうえ、その面積も縮小して低下する。
【0093】
<実施例1>
実施例1を説明する。実施例1は、超音波探触子2の送信開口の振動子2aを内側となる第1振動子群、外側となる第2振動子群に分け、第1の駆動信号として、駆動波形1の第3の駆動信号を、送信部12から内側となる第1振動子群に出力するとともに、駆動波形3の第4の駆動信号を、送信部12から外側となる第2振動子群に出力し、ついで、第2の駆動信号として、駆動波形2の第5の駆動信号を、送信部12から内側となる第1振動子群に出力するとともに、駆動波形4の第6の駆動信号を、送信部12から外側となる第2振動子群に出力して、得られた受信信号に基づきパルスインバージョン法により準じた受信信号加算演算により得られた画像化信号を画像化する実施例である。
【0094】
また、実施例1の超音波探触子2の送信開口の内側となる第1振動子群の振動子2aの素子数が16であり、外側となる第2振動子群の振動子2aの素子数が30である。
【0095】
実施例1の第1の駆動信号のうち、内側となる第1振動子群に出力する第3の駆動信号の波形を駆動波形1とする。実施例1の第2の駆動信号のうち、内側となる第1振動子群に出力する第4の駆動信号の波形を駆動波形2とする。
【0096】
実施例1の第1の駆動信号のうち、外側となる第2振動子群に出力する第4の駆動信号の波形を駆動波形3とする。実施例1の第2の駆動信号のうち、外側となる第2振動子群に出力する第6の駆動信号の波形を駆動波形4とする。
【0097】
実施例1の駆動波形1の第3の駆動信号と駆動波形2の第5の駆動信号との送信超音波の加算については、比較例1と同様に相殺残留が発生しない。実施例1の駆動波形3の第4の駆動信号と駆動波形4の第6の駆動信号との送信超音波の加算については、合成波形1の合成信号の相殺残留が発生する。
【0098】
実施例1の画像化信号は、送信部12の内側となる第1振動子群から出力する駆動波形1の第3の駆動信号に対応する超音波、及び外側となる第2振動子群から出力する駆動波形3の第4の駆動信号に対応する超音波の送受信により受信部13で生成された受信信号(第1送受信結果信号)と、ついで送信部12の内側となる第1振動子群から出力する駆動波形2の第5の駆動信号に対応する超音波、及び外側となる第2振動子群から出力する駆動波形4の第6の駆動信号に対応する超音波の送受信により受信部13で生成された受信信号(第2送受信結果信号)と、の加算信号(第1/第2送受信結果加算信号)となる。高調波成分抽出部14aにより、第1/第2送受信結果加算信号の高調波成分が抽出されるとともに相殺残留成分も抽出され、画像生成部14により、当該高調波成分と相殺残留成分を用いて超音波画像データが生成される。
相殺残留成分を生じない第1振動子群の割合が多く、浅部音響ノイズの影響をほとんど受けないため浅部Cyst描出は良好で、深部のシャドウ領域に対しては第2振動子群により得られる相殺残留成分により画像信号が得られるため充分改善される。浅部シャドウに対しては第2振動子群による画像信号がやや弱いが実用上問題ないレベルに改善される。
更に第1振動子群から出力される超音波の周波数パワースペクトルは図15(b)に示した通りとなり、第2振動子群から出力される超音波の周波数パワースペクトルは図17の一点鎖線および破線で示した通りとなるため、これらは図8に示した好ましい態様の関係となっている。そのためペネトレーションも良好となっている。
【0099】
<実施例2>
実施例2を説明する。実施例2は、実施例1と同様の駆動信号(第3~第6の駆動信号)を用い、送信開口の総素子数も同様ではありながら、送信開口の内側となる第1振動子群の振動子2aの素子数を10とし、外側となる第2振動子群の振動子2aの素子数を36とした実施例である。
実施例1と比較し、相殺残留成分を生じない第1振動子群の割合が少なくなり、浅部音響ノイズの影響を若干受けてはいるものの浅部Cyst描出は実用上問題ないレベルが得られており、浅部シャドウに対しては第2振動子群による画像信号がより得られるため改善される。深部のシャドウ領域に対しては概ね実施例1と同様の改善効果が得られており、第1振動子群から出力される超音波の周波数パワースペクトルと、第2振動子群から出力される超音波の周波数パワースペクトルの関係も、実施例1同様に図8に示した好ましい態様の関係となっているためペネトレーションも良好となっている。
【0100】
<実施例3>
図14(a)、図14(b)、図19(a)~図20を参照して、実施例3を説明する。実施例3は、超音波探触子2の送信開口の振動子2aを内側となる第1振動子群、外側となる第2振動子群に分け、第1の駆動信号として、駆動波形1の第3の駆動信号を、送信部12から内側となる第1振動子群に出力するとともに、駆動波形6の第4の駆動信号を、送信部12から外側となる第2振動子群に出力し、ついで、第2の駆動信号として、駆動波形2の第5の駆動信号を、送信部12から内側となる第1振動子群に出力するとともに、駆動波形4の第6の駆動信号を、送信部12から外側となる第2振動子群に出力して、得られた受信信号に基づきパルスインバージョン法により準じた受信信号加算演算により得られた画像化信号を画像化する実施例である。
【0101】
また、実施例3の超音波探触子2の送信開口の内側となる第1振動子群の振動子2aの素子数が10であり、外側となる第2振動子群の振動子2aの素子数が36である。
【0102】
実施例3の第1の駆動信号のうち、内側となる第1振動子群に出力する第3の駆動信号の波形を駆動波形1とする。実施例3の第2の駆動信号のうち、内側となる第1振動子群に出力する第5の駆動信号の波形を駆動波形2とする。
【0103】
実施例3の第1の駆動信号のうち、外側となる第2振動子群に出力する第4の駆動信号の波形を駆動波形6とする。図14(a)に、時間[ns]に対する駆動波形6の駆動信号の信号強度[V]を示す。図14(b)に、時間[μs]に対する駆動波形6の駆動信号に対応する送信超音波の信号強度[mV]を示す。図14(b)において、駆動波形6に対応する送信超音波の信号強度を破線で示した。
【0104】
実施例3の第2の駆動信号のうち、外側となる第2振動子群に出力する第6の駆動信号の波形を駆動波形4とする。
【0105】
実施例3の駆動波形1の第3の駆動信号と駆動波形2の第5の駆動信号との送信超音波の加算については、比較例1と同様に相殺残留が発生しない。実施例3の駆動波形6の第3の駆動信号と駆動波形4の第5の駆動信号との送信超音波の加算については、相殺残留が発生する。
【0106】
図19(a)に、時間[μs]に対する、駆動波形6の駆動信号に対応する送信超音波と、駆動波形4の駆動信号に対応する送信超音波との信号強度[mV]の重畳を示す。図19(b)に、時間[μs]に対する、駆動波形6の駆動信号に対応する送信超音波と、駆動波形4の駆動信号に対応する送信超音波との合算波形2の合算信号の信号強度[mV]を示す。図20に、周波数[MHz]に対する、駆動波形6の駆動信号に対応する送信超音波と、駆動波形4の駆動信号に対応する送信超音波と、合算波形2の合算信号と、の信号強度[dB](周波数パワースペクトル)の重畳を示す。図19(a)~図20において、駆動波形6に対応する送信超音波の信号強度を破線で示し、駆動波形4に対応する送信超音波の信号強度を一点鎖線で示し、合算波形2の合算信号の信号強度を実線で示した。
【0107】
図19(a)に示すように、駆動波形4に対応する送信超音波の信号強度は、駆動波形6に対応する送信超音波の信号強度と電圧の極性がおおよそ反転しているものの完全ではない。このため、図19(b)に示すように、駆動波形6,4に対応する送信超音波の合算波形1の合算信号は、0にならずに、相殺残留となる。また、図20に示すように、駆動波形6,4に対応する送信超音波と、合算波形2の合算信号との周波数パワースペクトルは一致しない。また、図20に実線で示された合算波形2の周波数パワースペクトルから、合算波形の周波数帯域幅や中心周波数は図17に実線で示された合算波形1の周波数パワースペクトルとほぼ同様であるが、その成分強度は全体が低く、合算波形2の相殺残留成分強度は合算波形1よりも弱いことがわかる。
【0108】
実施例3の画像化信号は、送信部12の内側となる第1振動子群から出力する駆動波形1の第3の駆動信号に対応する超音波、及び外側となる第2振動子群から出力する駆動波形6の第4の駆動信号に対応する超音波の送受信により受信部13で生成された受信信号(第1送受信結果信号)と、ついで送信部12の内側となる第1振動子群から出力する駆動波形2の第5の駆動信号に対応する超音波、及び外側となる第2振動子群から出力する駆動波形4の第6の駆動信号に対応する超音波の送受信により受信部13で生成された受信信号(第2送受信結果信号)と、の加算信号(第1/第2送受信結果加算信号)となる。高調波成分抽出部14aにより、第1/第2送受信結果加算信号の高調波成分が抽出されるとともに相殺残留成分も抽出され、画像生成部14により、当該高調波成分と相殺残留成分を用いて超音波画像データが生成される。
第1振動子群と第2振動子群の素子数が同じである実施例2と比較し、第2振動子群により得られる相殺残留成分が少なくなるために浅部音響ノイズの影響がほぼなくなり浅部Cystの描出は改善している。シャドウ軽減効果は実施例2同様に相殺残留を生じない第1振動子群の割合が少ないために浅部シャドウ部への回り込み効果は充分得られるが、トータルの相殺残留成分が少なくなるため深部では実用上問題ないレベルはあるものの若干低下する。第1振動子群から出力される超音波の周波数パワースペクトルと、第2振動子群から出力される超音波の周波数パワースペクトルの関係も、実施例1同様に図8に示した好ましい態様の関係となっているためペネトレーションも良好となっている。
【0109】
実施例1~3の送信条件(送信超音波)は、条件(a)~(e)を満たすものとしている。
【0110】
<画像評価>
上記の比較例1~4、実施例1~3の送信条件と、画像化信号とに基づいて、超音波診断装置Sにより、超音波画像データを生成し、生成した超音波画像データの画像評価を行った。比較例1~4、実施例1~3の送信条件、画像化信号及び画像評価を次表IIに示す。
【表2】
【0111】
ついで、図21(a)~図24(b)を参照して、超音波画像の画像評価を説明する。図21(a)は、比較例4における第1の被検体の超音波画像を示す図である。図21(b)は、実施例1における第1の被検体の超音波画像を示す図である。図22(a)は、図21(a)の部分領域P1の輝度値の3Dグラフである。図22(b)は、図21(b)の部分領域P2の輝度値の3Dグラフである。図23(a)は、比較例4における第2の被検体の超音波画像を示す図である。図23(b)は、実施例1における第2の被検体の超音波画像を示す図である。図24(a)は、図23(a)の部分領域P3の輝度値の3Dグラフである。図24(b)は、図23(b)の部分領域P4の輝度値の3Dグラフである。
【0112】
まず、超音波診断装置Sにおいて、比較例1~4、実施例1~3の送信条件及び画像化信号の条件を用いて、同一の第1の被検体をスキャンして超音波画像データを生成した。第1の被検体として、マトリクス部(散乱体の材料部分)としてのGammex社404GSをベースとして、Cyst部(小径シストターゲット(Cyst(嚢胞)を模した無エコー成分の均一な材料部分))を追加した特注ファントム(Cyst深度1~2cm)を用いた。
【0113】
表IIの画像評価の「浅部Cyst描出」は、実施例4の超音波画像中のCyst部のCyst面積縮小度合い及び境界部輝度変化度合いを×レベルとし、実施例1のCyst面積縮小度合い及び境界部輝度変化度合いを〇レベルとして、×~〇までを等分割し、各々の両項目結果に基づいて結果を割り当てた。
【0114】
Cyst描出は、比較例1,2、実施例1~3が良好であり、比較例3,4が不良である結果が得られた。
【0115】
例えば、図21(a)に示すように、比較例4における第1の被検体の超音波画像データの超音波画像が得られた。この超音波画像のうち、Cyst部(図上の黒丸部分)を含む80×80ピクセルの画素からなる領域を部分領域P1とする。
【0116】
また、図21(b)に示すように、実施例1における同じ第1の被検体の超音波画像データの超音波画像が得られた。この超音波画像のうち、同じCyst部を含む80×80ピクセルの画素からなる領域を部分領域P2とする。
【0117】
ここで、図22(a)に示すように、部分領域P1の各画素の輝度値を3Dグラフにした。部分領域P1をXY平面とし、輝度値をZ軸にとるように、X軸、Y軸、Z軸(いずれも図示略)をとった。このように、形状視認性を高めるため、低輝度部がZ軸高値となるようにして輝度値を3Dグラフ化した。また、図22(b)に示すように、図22(a)と同様にして、部分領域P2の各画素の輝度値を3Dグラフにした。
【0118】
図22(a)の輝度の3Dグラフに示すように、全送信開口の振動子2aに非対称PIの駆動信号を出力した比較例4の部分領域P1では、Cyst部の低輝度部面積が縮小し、境界部の輝度変化も緩やかである。これに対し、図22(b)の輝度の3Dグラフに示すように、送信開口の内側となる第1振動子群に対称PIの駆動信号を出力し、かつ外側となる第2振動子群を非対称PIの駆動信号を出力した実施例1の部分領域P2では、低輝度部面積が保たれており、境界部の輝度変化も急峻でコントラストが明確であることが分かる。
【0119】
つぎに、超音波診断装置Sにおいて、比較例1~4、実施例1~3の送信条件及び画像化信号の条件を用いて、同一の第2の被検体をスキャンして超音波画像データを生成した。第2の被検体として、マトリクス部(散乱体の材料部分)としての溶解した寒天中に500[μmΦ]のアクリル粒子を分散したものを母材とし、シャドウ源(シャドウ部の原因となる音響遮蔽物)として1[mmΦ]のナイロンワイヤーを埋設したものを凝固させたファントムを用いた。
【0120】
表IIの画像評価の「シャドウ軽減効果」は、超音波画像の浅部と深部とについて、比較例1のマトリクス部とシャドウ部の輝度均一性(浅部及び深部)を×レベルとし、実施例1の輝度均一性(浅部)を〇△レベル、輝度均一性(深部)を〇レベルとして、×~〇までを等分割し、各々の両項目結果に基づいて結果を割り当てた。
【0121】
シャドウ軽減効果は、比較例3,4、実施例1~3が浅部及び深部ともに良好であり、比較例1,2が浅部及び深部ともに不良である結果が得られた。
【0122】
例えば、図23(a)に示すように、比較例4における第1の被検体の超音波画像データの超音波画像が得られた。この超音波画像のうち、シャドウ部(図上の黒部分)を含む170×120ピクセルの画素からなる領域を部分領域P3とする。
【0123】
図23(b)に示すように、実施例1における同じ第2の被検体の超音波画像データの超音波画像が得られた。この超音波画像のうち、同じシャドウ部を含む170×120ピクセルの画素からなる領域を部分領域P4とする。
【0124】
ここで、図24(a)に示すように、部分領域P3の各画素の輝度値を3Dグラフにした。部分領域P3をXY平面とし、輝度値をZ軸にとるように、X軸、Y軸、Z軸(いずれも図示略)をとった。このように、Cyst部と同様に、形状視認性を高めるため、低輝度部がZ軸高値となるようにして輝度値を3Dグラフ化した。また、図24(b)に示すように、図24(a)と同様にして、部分領域P4の各画素の輝度値を3Dグラフにした。
【0125】
図24(b)の輝度の3Dグラフに示すように、全送信開口の振動子2aに非対称PIの駆動信号を出力した比較例4の部分領域P1では、浅部から深部に渡って2本の筋状シャドウ部が明確な輝度差として認められる。これに対し、図24(b)の輝度の3Dグラフに示すように、送信開口の内側となる第1振動子群に対称PIの駆動信号を出力し、かつ外側となる第2振動子群に非対称PIの駆動信号を出力した実施例1の部分領域P2では、周辺との輝度差が浅部(3Dグラフ奥)から大きく軽減しており、深部(3Dグラフ手前)では概ね輝度が均一化していることがわかる。
【0126】
表IIの画像評価の「Penetraton(評価)」は、時間平均を行わずに異なる2フレームの超音波画像データを取得し、その画像相関が0.5以上を保てる深度をPenetraton深度とし、実施例1と概ね同等のものを〇、比較例1と概ね同等(実施例1より劣る)を△、比較例1より劣るものを×として評価した。ただし、結果として×評価はなかった。
【0127】
実施例1~3については、浅部Cyst描出、シャドウ軽減効果、Penetratonのいずれの画像評価も実用上問題ないレベル(〇△以上)となり良好であった。実施例1~3において相殺残留成分を条件(d),(e)となるように設計することで、分解能の高い画像描出が得られている。対して、送信超音波から得られた受信信号をそのまま画像化してシャドウ部をカバーした場合である比較例3では、シャドウ部はカバーされるものの、音響ノイズの影響を強く受け、周波数が低く、狭帯域の第2送受信結果による画像信号が50%の重みづけで描出されることになり、画像粒度が粗く、分解能が劣る成分が画像全体に悪影響を及ぼすため、例えばCystの描出(浅部Cyst描出)が劣化する。
【0128】
また、送信開口を内側となる第1振動子群、外側となる第2振動子群に分けずに相殺残留が発生する第1、第2の駆動信号を用いた比較例4は、浅部から相殺残留成分による音響ノイズの影響を強く受けることとなり、実施例1~3に比べて、浅部Cyst描出が不良となった。また、同じ送信開口を設定し、実施例1と、実施例1よりも内側となる第1振動子群の素子数が少ない実施例2とにおいて、浅部Cyst描出については、外側となる第2振動子群の相殺残留成分の影響を受けにくい実施例1が、実施例2よりも良好となった。同じく、シャドウ軽減効果(浅部)については、外側となる第2振動素子群からの送信超音波がシャドウ部に回り込みやすくなるため、実施例2が、実施例1よりも良好となった。また、内側となる第1振動素子群素子数と外側となる第2振動素子群素子数のいずれも同一とし、外側となる第2振動素子群の駆動波形を変更して相殺残留成分の強度を変更した実施例3では、浅部Cyst描出が改善するが、シャドウ軽減効果(深部)については画像化信号全体に対する相殺残留成分の割合が減少するため実施例3よりも実施例2が良好であった。
【0129】
以上、本実施の形態によれば、被検体に送信超音波を送信して当該被検体から受信超音波を受信する超音波探触子2により得られた受信信号に基づき超音波画像データを生成する超音波診断装置Sとする。超音波探触子2は、複数の振動子2aにより構成された送信開口を有する。送信開口は、送信開口の内側に配置された第1振動子群及び第1振動子群よりも外側に配置された第2振動子群を少なくとも含む複数の振動子群を有する。超音波診断装置Sは、駆動信号を生成して前記複数の振動子群に出力する送信部12と、送信部12に、第1駆動信号及び第2駆動信号を少なくとも含む複数の駆動信号を一音線に対して複数の振動子群に出力させる制御部18と、超音波探触子2から複数の駆動信号に対応する複数の受信信号を受信する受信部13と、複数の受信信号を演算して超音波画像データを生成する画像生成部14と、を備える。第1の駆動信号は、第3の駆動信号及び第4の駆動信号を含む。第2の駆動信号は、第3の駆動信号と加算した場合に相殺される第5の駆動信号と、第4の駆動信号と加算した場合に相殺残留が発生する第6の駆動信号と、を含む。制御部18は、送信部12に、第1の駆動信号及び第2の駆動信号に、送信超音波が同一焦点に集束するよう時間遅延を与えて、第3の駆動信号及び第5の駆動信号を内側となる第1振動子群に出力させ、第4の駆動信号及び第6の駆動信号を外側となる第2振動子群に出力させる。
【0130】
このため、音響遮蔽物がある場合に、音響ノイズによる暗部描出低下を解消し、シャドウ耐性のある良好な超音波画像を得ることができる。また、非対称PIの第3の駆動信号及び第5の駆動信号により、分解能を維持しつつペネトレーションを向上できる。
【0131】
また、画像生成部14は、受信信号を加算することにより超音波画像データを生成する。このため、高調波成分により、分解能が高く、アーチファクトが少なく、コントラストの良い超音波画像を得ることができる。
【0132】
また、第1の駆動信号及び第2の駆動信号の駆動電圧が同じである。このため、第1の駆動信号及び第2の駆動信号、内側となる第1振動子群、外側となる第2振動子群の違いで駆動電圧を別に設定する複雑な構成を防ぎ、超音波診断装置Sの構成を簡単にできるとともにコストを低減できる。
【0133】
また、第4の駆動信号及び第6の駆動信号の送信超音波の周波数パワースペクトル(非対称PIの信号成分OTx)の中心周波数は、第3の駆動信号及び第5の駆動信号の送信超音波の周波数パワースペクトル(対称PIの信号成分ITx)の中心周波数よりも小さい。また、第4の駆動信号及び第6の駆動信号の送信超音波の周波数パワースペクトル(非対称PIの信号成分OTx)の帯域幅は、第3の駆動信号及び第5の駆動信号の送信超音波の周波数パワースペクトル(対称PIの信号成分ITx)の帯域幅よりも小さい。また、超音波探触子2の中心周波数よりも高周波領域において、第4の駆動信号及び第6の駆動信号の送信超音波の周波数パワースペクトル(非対称PIの信号成分OTx)の信号強度は、第3の駆動信号及び第5の駆動信号の送信超音波の周波数パワースペクトル(対称PIの信号成分ITx)の信号強度よりも小さい。このため、浅部の無~低エコー領域の画像描出を向上できる。
【0134】
また、第3の駆動信号及び第6の駆動信号の送信超音波の周波数パワースペクトルの中心周波数は、相殺残留成分の中心周波数よりも小さい。また、第3の駆動信号及び第6の駆動信号の送信超音波の周波数パワースペクトルの帯域幅は、相殺残留の帯域幅よりも小さい。このため、シャドウ部について、帯域が広いことにより画像粒度の細かい、分解能の高い画像描出を得ることができる。
【0135】
なお、上記実施の形態における記述は、本発明に係る好適な超音波診断装置の一例であり、これに限定されるものではない。
【0136】
例えば、上記実施の形態では、超音波探触子2の送信開口の振動子2aを、内側となる第1振動子群、外側となる第2振動子群に分ける構成としたが、これに限定するものではない。超音波探触子2の送信開口の振動子2aを内側となる第1振動子群、外側となる第2振動子群を含む3以上の振動子群に分ける構成としてもよい。また、上記実施の形態では、1つの振動子群は、複数の振動子2aを有する構成として説明したが、これに限定されるものではなく、少なくとも1つの振動子2aを有する構成としてもよい。
【0137】
また、以上の実施の形態における超音波診断装置Sを構成する各部の細部構成及び細部動作に関して本発明の趣旨を逸脱することのない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0138】
S 超音波診断装置
1 超音波診断装置本体
11 操作入力部
12 送信部
121 クロック発生回路
122 パルス発生回路
123 時間及び電圧設定部
124 遅延回路
13 受信部
14 画像生成部
14a 高調波成分抽出部
15 画像処理部
15a 画像メモリー部
16 DSC
17 表示部
18 制御部
19 記憶部
2,2L 超音波探触子
21 超音波探触子本体
2a 振動子
22 ケーブル
23 コネクター
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