(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149386
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】構造物解析装置、構造物解析方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G06T 7/60 20170101AFI20231005BHJP
G06T 7/50 20170101ALI20231005BHJP
G01B 11/00 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
G06T7/60 180
G06T7/50
G01B11/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022057930
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000135771
【氏名又は名称】株式会社パスコ
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】陳 天恩
(72)【発明者】
【氏名】野尻 義敬
(72)【発明者】
【氏名】津口 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】崔 載永
(72)【発明者】
【氏名】松本 正芳
【テーマコード(参考)】
2F065
5L096
【Fターム(参考)】
2F065AA04
2F065AA12
2F065AA53
2F065BB05
2F065CC14
2F065DD03
2F065FF11
2F065HH04
2F065JJ01
2F065LL61
2F065MM16
2F065PP22
2F065QQ03
2F065QQ21
2F065QQ25
2F065QQ28
2F065QQ41
2F065UU05
5L096AA09
5L096BA03
5L096FA09
5L096FA33
5L096FA34
5L096FA67
5L096FA69
5L096FA76
5L096GA32
5L096GA51
(57)【要約】
【課題】より高精度に構造物の継ぎ目の候補点を抽出することのできる構造物解析装置、構造物解析方法及びプログラムを提供する。
【解決手段】平面を有する複数の部材が平面を略同一方向に向けて組まれた構造物の平面を含む表面における部材間の継ぎ目を検出する構造物解析装置であって、表面に略平行な第1方向及び第2方向、並びに第1方向及び前記第2方向に垂直な第3方向による三次元直交座標系で表された位置が特定されている表面の複数点の集合である点群のデータを取得する取得手段と、表面の局所領域ごとに、複数点のうち局所領域に含まれる複数の点の三次元座標の共分散行列の逆行列における第1方向及び第2方向に係る対角成分のうち少なくともいずれかを算出する算出手段と、算出された対角成分を用いて局所領域に継ぎ目が存在し得るかを判定する判定手段と、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面を有する複数の部材が当該平面を略同一方向に向けて組み合わされた構造物の前記平面を含む表面における前記部材間の継ぎ目を検出する構造物解析装置であって、
前記表面に略平行な第1方向、当該表面に略平行かつ前記第1方向に垂直な第2方向、並びに前記第1方向及び前記第2方向に垂直な第3方向を3軸とする三次元直交座標系で表された位置が特定されている前記表面の複数点の集合である点群のデータを取得する取得手段と、
前記表面の局所領域ごとに、前記複数点のうち前記局所領域に含まれる複数の点の三次元座標の共分散行列の逆行列における前記第1方向及び前記第2方向に係る対角成分のうち少なくともいずれかを算出する算出手段と、
算出された前記対角成分を用いて前記局所領域に前記継ぎ目が存在し得るかを判定する判定手段と、
を備えることを特徴とする構造物解析装置。
【請求項2】
前記構造物は、略平行に延在する複数の前記継ぎ目からなる第1継ぎ目群を有し、
前記取得手段は、前記複数の継ぎ目の延在方向が前記第1方向に略平行な前記三次元直交座標系で位置が表された前記点群のデータを取得し、
前記算出手段は、少なくとも前記逆行列における前記第2方向に係る対角成分を算出し、
前記判定手段は、前記第2方向に係る対角成分が予め定めた第1閾値以上である前記局所領域に前記第1継ぎ目群の継ぎ目が存在し得ると判定する
ことを特徴とする請求項1記載の構造物解析装置。
【請求項3】
前記構造物は、前記第1継ぎ目群の前記継ぎ目の延在方向に略垂直に延在する継ぎ目からなる第2継ぎ目群を有し、
前記算出手段は、前記逆行列における前記第1方向及び前記第2方向に係る対角成分を算出し、
前記判定手段は、前記第1方向に係る対角成分が予め定めた第2閾値以上である前記局所領域に前記第2継ぎ目群の継ぎ目が存在し得ると判定する
ことを特徴とする請求項2記載の構造物解析装置。
【請求項4】
前記複数点の位置の前記第3方向の成分について、当該第3方向の成分の勾配の変化に係る極値点を検出する検出手段と、
前記判定手段により前記継ぎ目が存在し得ると判定された前記局所領域に含まれる前記極値点を用いて、前記継ぎ目を近似した図形データを生成する生成手段と、
を備えることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の構造物解析装置。
【請求項5】
前記部材は、矩形の前記平面を有する煉瓦であり、
前記構造物は、前記煉瓦をある方向に並べ、当該ある方向に垂直な方向に重ねた壁であり、
前記継ぎ目は、前記煉瓦の間をつなぐ目地であり、
前記取得手段は、前記第1方向が前記煉瓦の並び方向に平行であり、かつ前記第2方向が前記煉瓦を重ねる方向に平行である前記点群のデータを取得し、
前記算出手段は、前記逆行列における前記第1方向及び前記第2方向に係る対角成分を算出し、
前記判定手段は、前記第2方向に係る対角成分が予め定めた第1閾値以上である前記局所領域に前記第1方向に延在する横目地が存在し得ると判定し、前記第1方向に係る対角成分が予め定めた第2閾値以上である前記局所領域に前記第2方向に延在する縦目地が存在し得ると判定し、
前記生成手段は、前記横目地が存在し得ると判定された前記局所領域に含まれる前記極値点を用いて前記横目地を近似した第1図形と、前記縦目地が存在し得ると判定された前記局所領域に含まれる前記極値点を用いて前記縦目地を近似した第2図形と、を含む図形データを生成する
ことを特徴とする請求項4記載の構造物解析装置。
【請求項6】
平面を有する複数の部材が当該平面を略同一方向に向けて組み合わされた構造物の前記平面を含む表面における前記部材間の継ぎ目を検出する構造物解析方法であって、
前記表面に略平行な第1方向、当該表面に略平行かつ前記第1方向に垂直な第2方向、並びに前記第1方向及び前記第2方向に垂直な第3方向を3軸とする三次元直交座標系で表された位置が特定されている前記表面の複数点の集合である点群のデータを取得する取得ステップ、
前記表面の局所領域ごとに、前記複数点のうち前記局所領域に含まれる複数の点の三次元座標の共分散行列の逆行列における前記第1方向及び前記第2方向に係る対角成分のうち少なくともいずれかを算出する算出ステップ、
算出された前記対角成分を用いて前記局所領域に前記継ぎ目が存在し得るかを判定する判定ステップ、
を含むことを特徴とする構造物解析方法。
【請求項7】
コンピュータに
平面を有する複数の部材が当該平面を略同一方向に向けて組み合わされた構造物の前記平面を含む表面における前記部材間の継ぎ目を検出する機能を実行させるプログラムであって、
前記機能には、
前記表面に略平行な第1方向、当該表面に略平行かつ前記第1方向に垂直な第2方向、並びに前記第1方向及び前記第2方向に垂直な第3方向を3軸とする三次元直交座標系で表された位置が特定されている前記表面の複数点の集合である点群のデータを取得する取得機能、
前記表面の局所領域ごとに、前記複数点のうち前記局所領域に含まれる複数の点の三次元座標の共分散行列の逆行列における前記第1方向及び前記第2方向に係る対角成分のうち少なくともいずれかを算出する算出機能、
算出された前記対角成分を用いて前記局所領域に前記継ぎ目が存在し得るかを判定する判定機能、
を含むことを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、構造物解析装置、構造物解析方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
歴史的な構造物は、長期の維持や保存のために修復や移築などが行われることがある。近年、このような構造物を移築したり、一度解体してから修復、復元するような場合には、予め構造物を撮影して写真測量を行ったり、3Dレーザスキャンを行ったりして、元の3次元構造を特定しておくことで、復元を容易にしている。
【0003】
このような構造物には、煉瓦壁を含むものがある。煉瓦壁は、略矩形の煉瓦材を積み上げていくことから網目状に伸びる継ぎ目(目地)が凹部となり、また、この目地におけるレーザ光の反射強度が煉瓦部分と異なったりすることで、目地が特定され、煉瓦壁の構造情報が取得される。特許文献1は、レーザスキャンにおける反射強度が変化する部分の勾配ピークの位置を煉瓦の境界位置として検出して、煉瓦壁を図化する技術について示している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】AUTOMATIC CREAION OF STRUCTURAL MODELS FROMPOINT CLOUD DATA: THE CASE OF MASONRY STRUCTURES, B. Riveiro他, ISPRS Annals of Photogrammetry, RemoteSensing and Spatial Information Sciences, Volume II-3/W5,2015. ISPRS Geospatial Week 2015, 2015年9月28日-10月3日(フランス)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、煉瓦壁のようなブロック状の構造材を組んだ構造物が建造されてから時間が経過すると、劣化や損傷などにより多数の凹凸が生じる。従来の技術では、このような凹凸と構造材の継ぎ目とを精度よく区別して、構造を特定することが難しかった。
【0006】
本開示の目的は、より高精度に構造物の継ぎ目の候補点を抽出することのできる構造物解析装置、構造物解析方法及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本開示は、
平面を有する複数の部材が当該平面を略同一方向に向けて組み合わされた構造物の前記平面を含む表面における前記部材間の継ぎ目を検出する構造物解析装置であって、
前記表面に略平行な第1方向、当該表面に略平行かつ前記第1方向に垂直な第2方向、並びに前記第1方向及び前記第2方向に垂直な第3方向を3軸とする三次元直交座標系で表された位置が特定されている前記表面の複数点の集合である点群のデータを取得する取得手段と、
前記表面の局所領域ごとに、前記複数点のうち前記局所領域に含まれる複数の点の三次元座標の共分散行列の逆行列における前記第1方向及び前記第2方向に係る対角成分のうち少なくともいずれかを算出する算出手段と、
算出された前記対角成分を用いて前記局所領域に前記継ぎ目が存在し得るかを判定する判定手段と、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、より高精度に構造物の継ぎ目の候補点を抽出することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】構造物解析システムの構成を示すブロック図である。
【
図3】LoGを用いた目地の位置の特定例について説明する図である。
【
図4】構造解析処理の制御手順を示すフローチャートである。
【
図5】横目地特定処理の制御手順を示すフローチャートである。
【
図6】縦目地特定処理の制御手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態の構造物解析装置を含む構造物解析システム100の構成を示すブロック図である。
構造物解析システム100は、構造物解析装置としての処理装置1と、構造物の位置データを記憶する記憶装置2とを含む。
【0011】
処理装置1は、通常のパーソナルコンピュータ(PC、コンピュータ)であってもよく、CPU11(CentralProcessing Unit)と、RAM12(Random Access Memory)と、記憶部13と、通信部14と、表示部15と、操作受付部16などを備える。
【0012】
CPU11は、演算処理を行い、処理装置1の動作を統括制御する。CPU11は、単一のプロセッサであってもよいし、複数のプロセッサが並列動作又は用途などに応じて各々独立に動作するものであってもよい。
【0013】
RAM12は、CPU11に作業用のメモリ空間を提供し、一時データを記憶する。RAM12は、特には限られないがDRAMなどであってもよい。CPU11が複数のプロセッサを有する場合には、各々に対応するRAMを有していてもよいし、複数のプロセッサにより共通に利用されるRAMであってもよい。
【0014】
記憶部13は、煉瓦壁(構造物)解析処理に係るプログラム131や設定データなどを記憶する補助記憶装置である。記憶部13は、例えば、フラッシュメモリなどの不揮発性メモリやHDD(Hard Disk Drive)などであってよい。記憶部13は、処理装置1に対して外付けされる構成(処理装置1の外部の構成)であってもよく、ネットワーク上に存在してアクセス可能なネットワークドライブやクラウドサーバなどであってもよい。設定データには、例えば、表示画面への照合結果の表示に係る画面設定や表示順設定などが含まれる。
【0015】
通信部14は、外部機器との間で所定の通信規格に従って行うデータの送受信(通信)を制御する。所定の通信規格には、例えば、LAN(Local Area Network)に係るTCP/IPなどが含まれる。また、通信部14は、USB(Universal Serial Bus)などの接続端子を有し、USBによる接続機器との一対一での通信を制御することが可能であってもよい。
【0016】
表示部15は、デジタル表示画面を有し、CPU11の制御に基づいてデジタル表示画面による表示を行う。デジタル表示画面は、特には限られないが、例えば液晶表示画面(
LCD)である。
操作受付部16は、マウスなどのポインティングデバイスやキーボードなどを含み、入力操作を受け付けて、受け付けた内容に応じた操作信号をCPU11へ出力する。
なお、表示部15及び操作受付部16は、通信部14の接続端子に接続された周辺機器(処理装置1(コンピュータ)の外部の構成)であってもよい。
【0017】
記憶装置2は、煉瓦壁の表面の計測データ21を記憶する。記憶装置2は、ネットワークドライブやクラウドサーバなど、専用のデータベース装置、又は適宜な容量の補助記憶装置(HDD)などを内蔵又は外付けしたPCなどであってもよい。計測データ21は、表面上の多数の点の3次元位置の集合であり、光学カメラにより撮影された複数の画像からSfMなどにより3次元位置が特定されたものであってもよいし、レーザスキャナなどによりレーザ光出射点からの距離及び方向の測定により特定されたものであってもよい。測量点の間隔は、均一であってもよいし、ランダムであってもよいが、解析対象の煉瓦壁の目地の幅に比して十分に小さい必要がある。
【0018】
次に、本実施形態の構造物解析である煉瓦壁の継ぎ目(目地)の解析について説明する。
【0019】
特に限定するものではないが、一般的に、構造解析対象の煉瓦壁(壁)は、露出される平面を有する略直方体形状の複数の構造材(部材)を、当該平面(矩形である)が略鉛直な同一面(表面)内に並ぶように(法線が略同一の水平方向を向く)水平方向(ある方向)に当該構造材の長辺を水平にして並べ、これを鉛直方向(ある方向に垂直な方向)に複数段に重ねる(個々の構造材の水平方向位置は異なっていてよい)ことで(重ねて)組み合わせた構造物であり、各構造材の間はモルタルの目地(継ぎ目)でつながれている。構造材の短辺の長さ、すなわち、鉛直方向についての幅(縦幅)は、略同一である。したがって、煉瓦壁は、複数の構造材に跨って水平方向に長く伸びる目地(横目地)を鉛直方向に略等間隔で複数有して(第1継ぎ目群)、それぞれ各段の境界をなしている。ただし、経年変化などにより多少の歪みが特にモルタル部分に生じる場合があるので、完全に水平方向に伸びる直線状にはならないことが多い。
【0020】
構造材の短辺同士が面する目地(横目地に略垂直な縦目地、第2継ぎ目群)は、水平方向について互い違いの位置になるように定められることが多く、すなわち段ごとに位置が異なる。また、構造材の長辺の長さ、すなわち、水平方向についての幅(横幅)は、略同一であることが多いが、継ぎ目や模様などに応じて変化する場合がある。よって、縦目地は、段ごとに各々特定される必要があり、また、均等間隔で出現するとは限らない。
【0021】
これらの目地は、通常、モルタルなどにより延在方向に垂直な幅を有する。したがって、目地の中央位置が適宜特定される必要がある。目地部分は、煉瓦の構造材とは表面位置が異なる(一般的に窪んでいる)ことが多いので、表面に垂直方向の位置成分の変化が極大又は極小となる位置が中央位置として定められ得る。
【0022】
処理装置1では、目地の検出に係る識別パラメータとして、各点を基準としたその近傍の基準範囲(局所領域)内の複数の点の三次元座標の共分散行列の逆行列を用いる。局所領域は、目地内に設定されたときに当該目地内の点を多く含み、かつ目地以外の点ができる限り含まれないよう目地の幅程度の大きさを有する領域に設定することが好適であり、例えば、各点を中心とする半径が目地の幅の半分程度の円領域とすることができる。この処理のために、予め、煉瓦壁の表面に略平行かつ目地方向に沿ったxy面を有する座標系に、計測(算出)された各点の位置を座標変換しておく。ここでいう略平行は、凹凸を有する煉瓦壁の表面を表す代表的な平面を当該煉瓦壁の全体の計測データに基づいて厳密に求めなくてもよく、これに伴って多少の傾きは許容されるという意味である。識別パラメ
ータは、縦目地と横目地について各々別個に定められ得る。後述のように、このようなxy方向が定められることで、横目地の判定と縦目地の判定とを識別パラメータQxx、Qyyに分離して行うことが可能になるが、多少(例えば5~10度以下)傾いている程度では、他方の識別パラメータへの混ざり込みは少ないので、判定処理や判定精度に大きな問題は生じない。
【0023】
図2は、座標変換前後の煉瓦壁の例を示す図である。
図2(a)に示すように、座標変換前の煉瓦壁Wの表面の位置データは、任意の座標系であってよく、例えば、鉛直方向がZ座標で、水平面と平行なXY面を有する地理的座標系である。XY面における煉瓦壁Wの表面の向きも任意であり、X軸(XZ面)やY軸(YZ面)と重なっているものに限られない。このようなXYZ座標系で表された煉瓦壁Wの表面に沿った矩形Rの4頂点のうち3頂点P1~P3をユーザが操作受付部16へ入力操作することで定める。2頂点P1、P2は、入力操作で可能な範囲で煉瓦壁Wのいずれかの横目地Jhに略平行に設定される。3つめの頂点P3の設定は、先に定められた2頂点P1、P2を結ぶ線分に対し、これら2頂点P1、P2のうちいずれかから垂直な範囲に限定されて設定可能であってよい。
【0024】
定められた3頂点P1~P3が計測点と一致している場合には、計測点の座標がそのまま用いられてもよい。計測点と一致していない頂点は、近傍の計測点の位置の線形補間などにより求められてもよいし、操作受付部16によりユーザからの座標の入力操作を受け付けてもよい。なお、上記のように、3頂点で表される矩形が煉瓦壁Wの平均的な表面に厳密に平行ではなくてもよいが、なるべく平行に近い面となるように、3頂点P1~P3が縦目地Jvや横目地Jhから外れた煉瓦B(構造材)の損傷、劣化の少ない部分を選んで設定されてもよい。
【0025】
このように定められた矩形R(すなわち、煉瓦壁の表面上の3点)がXYZ座標系とは異なる座標軸を有する三次元直交座標系(デカルト座標系)のxy平面上に位置するように平行移動及び回転移動を行う座標変換(アフィン変換)を行う。すなわち、3頂点P1~P3のz座標(第3方向)がゼロであり、頂点P1、P2のy座標(第2方向)が等しく、頂点P2、P3のx座標(第1方向)が等しくなるように当該3頂点のxyz座標系における座標が定められる。このとき、いずれかの頂点が原点(0、0、0)とされてもよいし、他の任意のxy座標が設定されてもよい。頂点P1、P2の距離及び頂点P2、P3の距離が維持されるように座標が定められることで、等倍変換となるが、これに限られるものではない。ただし、実寸で表されたレーザ計測データを非等倍変換する場合には、後述のスケールファクタσもそれに合わせた値に調整する必要がある。座標の設定は、操作受付部16へのユーザの入力操作によって行われればよく、上記のように条件に応じて定められる座標成分は、予め、又はある値の入力操作に応じて固定されてもよい。
【0026】
変換前後の3頂点P1~P3の座標が定められることで、XYZ座標系からxyz座標系への座標変換パラメータ(3次元行列の各成分)が求められる。処理装置1では、この座標変換パラメータを算出すると、自動的に全ての計測点の座標をxyz座標系の座標に変換して、
図2(b)に示すように煉瓦壁の複数点の位置の集合(点群データ)を定める。すなわち、x方向は、横目地Jh(第1継ぎ目群の各継ぎ目の代表的な延在方向。構造材の並び方向でもある)に沿った向き(平行)であり、表面に平行な面内でx方向に垂直なy方向は縦目地Jvに概ね沿った向き(構造材を重ねる方向に平行)であり、z成分(第3方向の成分)は、煉瓦壁の表面に垂直な方向への凹凸を表す。
【0027】
煉瓦壁Wの表面は、上記の通り、煉瓦B上では概ね平坦であるが、劣化や損傷などにより不特定な凹凸(主に凹部)を有する。一方で、煉瓦壁Wの表面には、横目地Jhに沿って規則的に横方向(x方向)に伸びるz成分が非ゼロの領域と、縦目地Jvに沿って規則
的に縦方向(y方向)に伸びるz成分が非ゼロの領域がある。
【0028】
目地の検出に係る識別パラメータの算出に用いられる共分散行列Ciのuv成分Ciuv(u、vはそれぞれx、y、zのいずれか)は、ある点からあるサイズの基準範囲(局所領域)の内部に位置する複数の点の座標のu成分とv成分の共分散である。計測点は煉瓦壁Wの表面において概ねランダムに分布するので、これらの座標のx成分及びy成分の分散(ばらつき)は概ね一様である。一方で、z成分の分散(ばらつき)は、局所領域内に縦目地Jvや横目地Jhがあるか否かによって偏りが生じる。縦目地Jvの近傍であって局所領域内に縦目地Jvを含む場合には、あるxの範囲でy方向に散らばって分布する非ゼロのz成分の点を多く含むことで、yz、zz成分で大きくなり(共分散行列は概ね対称行列になるので、yz成分とzy成分はほぼ等しい)、横目地では、あるy成分の範囲でx方向に散らばって分布する非ゼロのz成分の点を多く含むことで、xz、zz成分が(同様に、xz成分とzx成分はほぼ等しい)大きくなる。劣化や損傷により不規則な形状でz成分が非ゼロとなる場合、サイズが大きいとCzzに現れるが、これに比して非対角成分には明確な非ゼロの成分が現れにくい。
【0029】
点r
i=(x
i、y
i、z
i)に係る識別パラメータは、下記の数式1に示す共分散行列Ciの逆行列Qiの対角成分から得られる。
【数1】
【0030】
逆行列は、余因子行列を用いて表すことができるので、逆行列Qiの(m、n)成分(m、nは、それぞれx、y、zのいずれか)は、共分散行列Ciの(n、m)余因子に応じた値となる。したがって、Qixx(第1方向に係る対角成分)は、共分散行列Ciのyz成分、zy成分及びzz成分を含む縦目地Jv(第2継ぎ目群)で大きくなり、Qiyy(第2方向に係る対角成分)は、共分散行列Ciのxz成分、zx成分及びzz成分を含む横目地Jh(第1継ぎ目群)で大きくなる傾向が想定される。その他の成分は、相対的にQixx、Qiyyよりも小さくなりやすい。特に共分散行列Ciの各成分を直接使わず、更に逆行列Qiの対角成分を用いることで、ノイズの影響や損傷、劣化の影響をより低減させることができる。したがって、逆行列Qiの対角成分であるQixx、Qiyyの大きさを識別パラメータQxx、Qyyとして用いて、表面の劣化や損傷による凹凸の影響を低減しつつ横目地(第1継ぎ目群)及び縦目地(第2継ぎ目群)の候補位置(継ぎ目が存在し得る点)を各々区別して精度よく絞りこむ(判定する)ことができる。目地か否かの判定に係る閾値Tcは、予め実験的に適宜な値が求められればよい。なお、Qiのxx成分及びyy成分以外の成分は不要であるので、逆行列Qi全体を求める必要はない(誤差の確認などに求められてもよいし、元々存在する逆行列の算出プログラムを利用して不要な成分もまとめて取得されるのであってもよい)。
【0031】
なお、更に細かい煉瓦壁の表面の凹凸や計測上のばらつきなどがあり得るので、共分散行列Ciを算出する前に、各点のz成分の値を平滑化してノイズを除去しておくことができる。ノイズ除去には、周知の技術、例えば、ガウシアンフィルタを利用することができる。例えば、ある点ri=(xi、yi、zi)について、その近傍の各点rj(点ri自身を含む)の座標のx、y成分(xj、yj)の(xi、yi)からの相対位置(距離)とスケールファクタσとに応じた重みgにより重み付けられたz成分(zj)の和、すなわち、zi=Σj(g・zj)として各点のz成分(凹凸)が平滑化され得る。
【0032】
ここで、スケールファクタσは、目地の幅よりも小さく、特に、ガウシアンフィルタgの値が無視できない程度の範囲(上記各点riの近傍)である3σが目地の幅より小さくなるように、例えば、上記目地の幅の0.3倍程度とされるとよい。このようなスケールファクタσの設定により、目地の内外のz成分の差を消さないようにしつつ、目地や煉瓦(構造材)のそれぞれ内側での細かい凹凸の影響を適切に低減することができる。計測点は、ある点から半径3σの範囲に複数点が入る程度の密度である。
【0033】
一方で、上記のように抽出される縦目地及び横目地の候補内における中央位置は、z座標(第3方向の座標成分)の勾配の変化に係る極値により判断される。この判断には、例えば、ラプラシアンフィルタ(二階微分)が用いられる。また、上記のガウシアンフィルタによる平滑化、ノイズ除去と組み合わせたラプラシアンオブガウシアン(LoG;ガウシアンフィルタの二階微分、すなわち勾配変化)が利用されてもよい。このLoGを用いる場合には、ある点riの勾配変化Eziは、上記近傍の範囲内の各点rjに対するLoGの値を重みgLとして、当該近傍の範囲内の各点の輪郭成分の和、すなわち、Ezi=-Σj(gLj・zj)として表される。LoGにもスケールファクタσが含まれ、その値を上記ガウシアンフィルタのスケールファクタσと同一とすることができる。LoGにおけるスケールファクタσが適切に定められていることで、この勾配変化Eziは、輪郭、すなわち目地以外の点ではゼロに近づき、目地で大きな値となって、その中心付近で極値をとる。
【0034】
なお、上記ガウシアンフィルタを適用済みの各点の座標に対してLoGを用いる場合、スケールの調整のためにσ2を乗じて、Ezi=-Σj(σ2・gLj・zj)となる。σ2・gLjは、まとめて求められたうえでziと乗じられてもよい。
【0035】
図3は、LoGを用いた目地の位置の特定例について説明する図である。
例えば、x方向に伸びる横目地を検出する際に、丸で示された計測点のうち、識別パラメータQyyが基準値より大きいもの(ハッチ、白抜き及び×で示したもの)がx方向に目地の幅に応じた幅を持って並ぶ。このうち1つの点r
i(×印で示す)を選択し、この選択した点r
iから基準範囲内(x方向に±Tw/2、y方向に±Th/2)の点を検出する(白抜きで示す)。幅Thは、目地の幅より狭く、かつ計測点の平均間隔よりは広く定められる。幅Twは、幅Thと同程度であってもよいが、これより広めであってもよい。すなわち、基準範囲内には複数の計測点が含まると想定される。検出した点を横目地に対して交差するy方向について順番に並べ、勾配変化Ez
jの変化を見たときに、選択した点r
iでの勾配変化Ez
iが極値を取っていれば(選択した点r
iが極値点であれば)、当該点r
iが目地の候補点として特定される。選択点を順番に変更して同じ処理を行うことで、目地に沿って目地の候補点が複数特定されてゆく。
【0036】
縦目地を検出する場合には、基準範囲内の点を縦目地に対して交差するx方向について順番に並べ、勾配変化Ezjの変化を見たときに、選択した点riが勾配変化の極値を取っていれば、当該点riが目地の候補点として特定される。
【0037】
このように、識別パラメータにより抽出され、勾配分布により特定された目地の候補点の並びに応じて延在する目地を表す線が近似的に求められることで、目地の位置が近似的に定まる。この線は、上記目地の計測点の並びの近似曲線や近似直線で表されればよい。上記のように、建造後時間の経過した目地は歪むこともあるので、例えば、長く鉛直方向に略垂直な横目地は曲線で近似され、短く鉛直方向に略平行な縦目地は直線で近似される。なお、長い横目地の方が特定しやすいので、先に横目地を特定した後に縦目地を特定するとよい。
【0038】
以上の処理により、計測点データから目地の位置が得られるが、さらに、得られた目地の間隔や長さなどが目地として不適当なものは、誤判定として除外されてもよい。これらの処理が実行された後に、ユーザにより検出結果を目視確認して修正することで、ユーザの手間を大幅に低減させて精度よく目地の位置を決定することができる。
【0039】
このように近似的に得られた目地を元のXYZ座標系に戻して図面化することで、煉瓦壁の目地の位置を表す立面図が得られる。なお、Z軸方向が鉛直方向に平行ではない場合には、鉛直方向にZa軸が向くように更に座標変換された立面図とされてもよい。
【0040】
図4は、本実施形態の処理装置1で実行される構造解析処理のCPU11による制御手順を示すフローチャートである。本実施形態の構造物解析方法を含むこの構造解析処理は、プログラム131の一部として、例えば、煉瓦壁の位置計測データが記憶装置2に記憶保持されている状態でユーザによる開始要求に係る入力操作に応じてCPU11により開始、実行される。
【0041】
CPU11は、記憶装置2(外部)から煉瓦壁の位置を示す点群データを取得する(ステップS101)。取得手段(CPU11)は、得られた点群データの各点の座標を変換する(ステップS102;取得ステップ、取得機能)。取得手段は、煉瓦壁の画像を表示部15により表示させて、操作受付部16による3頂点の設定操作を待ち受けて操作内容を取得する。取得手段は、取得した3頂点の座標変換前の座標と変換後の座標とに基づいて座標変換パラメータを算出する。取得手段は、取得された点群データの各点の座標を算出した座標変換パラメータにより変換する。
【0042】
CPU11は、変換後の点群データの位置データのノイズを除去(低減)する(ステップS103)。CPU11は、点群データの各点について、スケールファクタσに基づいてz成分の値を平滑化する。スケールファクタσは、予め定められていてもよいし、操作受付部16が受け付けた数値が取得されてもよいし、あるいは、表示部15により表示された煉瓦壁に対して操作受付部16が受け付けた操作により指定された目地の幅方向両端の位置に応じて適宜な数値が定められてもよい。
【0043】
算出手段(CPU11)は、点群データの点を1つ選択して、選択点を中心とする円形の局所領域を設定する(ステップS104)。算出手段は、局所領域内の複数の点(選択点を含む)の3次元座標の共分散行列Ciを算出する(ステップS105)。算出手段は、この共分散行列Ciの逆行列を算出する(ステップS106)。ステップS104~S106の処理が、本実施形態の構造物解析方法(プログラム)における算出ステップ(算出機能)を構成する。検出手段(CPU11)は、選択点の勾配変化Eziを算出する(ステップS107)。上記のように、勾配変化は、局所領域内の各点の座標のz成分に対するLoGの重み付き平均(和)により得られる。
【0044】
CPU11は、点群データの全ての点が選択されたか否かを判定する。全ての点が選択されていない(選択されていない点がある)と判定された場合には(ステップS108で“NO”)、CPU11の処理は、ステップS104へ戻る。
【0045】
全ての点が選択されたと判定された場合には(ステップS108で“YES”)、CPU11は、後述の横目地特定処理を実行する(ステップS109)。CPU11は、後述の縦目地特定処理を実行する(ステップS110)。
【0046】
CPU11は、推定された横目地及び縦目地の位置を煉瓦壁の画像に重ねて表示部15により表示させる。CPU11は、操作受付部16への入力操作を待ち受けて、入力操作により受け付けられた横目地及び縦目地の編集操作内容を取得する(ステップS111)。CPU11は、取得した編集操作内容を反映して、横目地及び縦目地の位置を調整(削除、追加を含む)する(ステップS112)。なお、編集操作がなかった場合(承認確定操作などがなされた場合)には、ステップS112の処理は省略される。
【0047】
生成手段(CPU11)は、得られた目地の位置をxyz座標系の座標からXYZ座標系の座標に変換して、煉瓦壁の立面図(図形データ)を生成する(ステップS113)。そして、CPU11は、構造解析処理を終了する。
【0048】
図5は、
図4のステップS109である横目地特定処理の制御手順を示すフローチャートである。
横目地特定処理において、判定手段(CPU11)は、点群データの中から識別パラメータQyyが閾値Tc(第1閾値)以上である点を抽出する(ステップS201)。CPU11は、抽出点のうち未選択のものを1つ選択する(ステップS202)。CPU11は、選択された点から基準範囲内(x方向に±Tw/2の範囲内かつy方向に±Th/2の範囲内)の点を検出し、検出された点をy座標の順番にソートする(ステップS203)。
【0049】
ステップS202で選択した抽出点がy座標の順番でi番目であるとすると、CPU11は、このi番目である抽出点の勾配変化Eziが、ソート順で(i+1)番目の点の勾配変化Ez(i+1)より大きく、かつソート順で(i-1)番目の点の勾配変化Ez(i-1)よりも大きいか否かを判定する(ステップS204)。勾配変化Eziが勾配変化Ez(i-1)及び勾配変化Ez(i+1)のいずれよりも大きいと判定された場合には(ステップS204で“YES”)、CPU11は、選択されている抽出点を目地候補点として設定する(ステップS205)。CPU11は、全ての抽出点を選択したか否かを判定する(ステップS206)。全ての抽出点を選択していない(選択していない抽出点がある)と判定された場合には(ステップS206で“NO”)、CPU11の処理は、ステップS202に戻る。ステップS204の判定処理で、勾配変化Eziが勾配変化Ez(i+1)及び勾配変化Ez(i-1)のうち少なくともいずれかよりも小さいと判定された場合には(ステップS204で“NO”)、CPU11の処理は、ステップS206へ移行する。
【0050】
ステップS206の判定処理で、全ての抽出点を選択したと判定された場合には(ステップS206で“YES”)、CPU11は、設定された目地候補点から未選択のものを1つ選択する(ステップS207)。CPU11は、選択された目地候補点のy座標に対して基準範囲±Th2/2のy座標を有する目地候補点を抽出する(ステップS208)。Th2は、例えば、目地の幅程度又はこれよりも若干広い程度である。
【0051】
生成手段(CPU11)は、抽出された目地候補点を曲線近似して横目地を表す線(第1図形)を設定(決定)する(ステップS209)。近似される曲線は、特には限られないが3次曲線である。近似される曲線の計数は、例えば、最小二乗法で求められてもよいし、あるいは、RANSAC(Random sample consensus)法などを用いて定められてもよい。なお、抽出された目地候補点が非常に少ない(例えば、3個以下など)の場合には、誤抽出の可能性が高いので、曲線近似を行わずに該当する目地候補点を除外してもよい。CPU11は、曲線近似に用いた全ての目地候補点を選択済みとする(ステップS210)。CPU11は、全ての目地候補点を選択したか否かを判定する(ステップS211)。全ての目地候補点が選択されていない(選択されていない目地候補点がある)と判定された場合には(ステップS211で“NO”)、CPU11の処理は、ステップS207に戻る。
【0052】
全ての目地候補点が選択されたと判定された場合には(ステップS211で“YES”)、CPU11は、得られた複数の近似曲線の平均間隔を算出する(ステップS212)。ここでは、CPU11は、最も+yの側に位置する近似曲線と最も-yの側に位置する近似曲線の距離を近似曲線の数に応じた間隔数(近似曲線の数-1)で除すことで平均間隔を算出する。曲線間の距離は一定ではないので、曲線近似と併せて近似直線も求めて当該近似直線間の距離を求めてもよいし、近似曲線の同一x成分の位置同士で比較したy成分の差分(絶対値)のうち最小値又は平均値を用いてもよい。
【0053】
CPU11は、求めた平均間隔に所定の割合、例えば30%などを乗じて下限間隔Dthを設定する(ステップS213)。CPU11は、上端(y成分が最大)の近似曲線のその一本下(-yの側)の近似曲線との間隔が下限間隔Dthより小さいか否かを判定する(ステップS214)。間隔が下限間隔Dthよりも小さいと判定された場合には(ステップS214で“YES”)、CPU11は、上端の近似曲線を削除する(ステップS215)。それから、CPU11の処理は、ステップS216へ移行する。間隔が下限間隔Dthよりも小さくないと判定された場合には(ステップS214で“NO”)、CPU11の処理は、ステップS216へ移行する。
【0054】
CPU11は、下端(y成分が最小)の近似曲線のその一本上(+yの側)の近似曲線との間隔が下限間隔Dthより小さいか否かを判定する(ステップS216)。間隔が下限間隔Dthよりも小さいと判定された場合には(ステップS216で“YES”)、CPU11は、下端の近似曲線を削除する(ステップS217)。それから、CPU11の処理は、ステップS218へ移行する。間隔が下限間隔Dthよりも小さくないと判定された場合には(ステップS216で“NO”)、CPU11の処理は、ステップS218へ移行する。
【0055】
CPU11は、ステップS215又はステップS217で近似曲線の削除がなされたか否かを判定する(ステップS218)。目地ではなく、煉瓦壁の上端又は下端を検出して近似曲線を求めた場合には、これらは煉瓦(構造材)の幅によらないことがあるので、ステップS215、S217の処理でそれぞれ除外される。近似曲線の削除がなされたと判定された場合には(ステップS218で“YES”)、CPU11は、残りの近似曲線間の平均間隔を再算出する(ステップS219)。それから、CPU11の処理は、ステップS220へ移行する。近似曲線の削除がなされていないと判定された場合には(ステップS218で“NO”)、CPU11の処理は、ステップS220へ移行する。
【0056】
ステップS220の処理へ移行すると、CPU11は、この処理で未選択の近似曲線のうちy成分が最小のものを選択する(ステップS220)。CPU11は、選択した近似曲線と、その一本上(+y側)の近似曲線との間隔が下限間隔Dthよりも小さいか否かを判定する(ステップS221)。間隔が下限間隔Dthよりも小さいと判定された場合には(ステップS221で“YES”)、CPU11は、比較された近似曲線のうち上側のものを削除する(ステップS222)。この場合、上側の近似曲線は、損傷や劣化などによるものを誤検出したものであると推定される。それから、CPU11の処理は、ステップS221に戻る。
【0057】
間隔が下限間隔Dthよりも小さくないと判定された場合には(ステップS221で“NO”)、CXPU11は、比較された2本の近似曲線を選択済みとする(ステップS223)。CPU11は、削除されていない全ての近似曲線が選択されたか否かを判定する(ステップS224)。全ての近似曲線が選択されていない(選択されていない近似曲線がある)と判定された場合には(ステップS224で“NO”)、CPU11の処理は、ステップS220へ戻る。全ての近似曲線が選択されたと判定された場合には(ステップS224で“YES”)、CPU11は、横目地特定処理を終了して処理を構造解析処理に戻す。
【0058】
図6は、
図4のステップS110である縦目地特定処理の制御手順を示すフローチャートである。
縦目地特定処理において、CPU11は、取得されている点群データを先に特定されて
いる横目地の近似曲線の間隔、すなわち、煉瓦(構造材)の段ごとに分割する(ステップS301)。CPU11は、分割された点群のうち1つを選択する(ステップS302)。
【0059】
CPU11は、選択された点群に属する未選択の点を1つ選択する(ステップS303)。判定手段(CPU11)は、選択点の識別パラメータQxxが閾値Tc(第2閾値)以上であるか否かを判定する(ステップS304)。閾値Tcは、横目地特定処理で用いられる値と縦目地特定処理で用いられる値とが同一であってもよいし、異なっていてもよい。識別パラメータQxxが閾値Tc以上であると判定された場合には(ステップS304で“YES”)、CPU11は、選択点から基準範囲内(選択点のx成分に対して±Th/2の範囲内かつ選択点のy成分に対して±Tw/2の範囲内)の点を検出し、検出点をx座標の順番にソートする(ステップS305)。
【0060】
ステップS303で選択した抽出点がx座標の順番でi番目であるとすると、CPU11は、このi番目である選択点の勾配変化Eziがx成分の順番で(i+1)番目の点の勾配変化Ez(i+1)よりも大きく、かつx成分の順番で(i-1)番目の点の勾配変化Ez(i-1)よりも大きいか否かを判定する(ステップS306)。勾配変化Eziが勾配変化Ez(i+1)及び勾配変化Ez(i-1)のいずれよりも大きいと判定された場合には(ステップS306で“YES”)、CPU11は、選択点を目地候補点として設定する(ステップS307)。それから、CPU11の処理は、ステップS308へ移行する。勾配変化Eziが勾配変化Ez(i+1)及び勾配変化Ez(i-1)のうち少なくともいずれかよりも大きくないと判定された場合には(ステップS306で“NO”)、CPU11の処理は、ステップS308へ移行する。
【0061】
また、ステップS304の判定処理で、識別パラメータQxxが閾値Tc以上ではないと判定された場合には(ステップS304で“NO”)、CPU11の処理は、ステップS308へ移行する。
【0062】
ステップS308の処理へ進むと、CPU11は、選択した点群の全ての点を選択したか否かを判定する(ステップS308)。全ての点を選択していない(選択していない点がある)と判定された場合には(ステップS308で“NO”)、CPU11の処理は、ステップS303へ戻る。
【0063】
全ての点を選択したと判定された場合には(ステップS308で“YES”)、CPU11は、設定された目地候補点のうちこの処理で未選択のものから1つを選択する(ステップS309)。CPU11は、選択された目地候補点からx方向に基準範囲(±Tw2/2)内の目地候補点を抽出する(ステップS310)。基準範囲(±Tw2/2)は、選択された目地候補点と同一の縦目地内に位置する目地候補点を全て抽出し、異なる縦目地や横目地に位置する目地候補点をなるべく抽出しないように縦目地の幅程度又はこれよりも若干広く定められる。基準範囲の全幅である|Tw2|は、横目地特定処理における基準範囲の全幅である|Th2|と同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0064】
生成手段(CPU11)は、抽出された目地候補点を直線近似して縦目地を表す線分(第2図形)を設定(決定)する(ステップS311)。直線近似は、最小二乗法によりなされてもよいし、RANSAC法などによりなされてもよい。このとき、縦目地はy方向に略平行となるので、目地候補点のy座標を独立変数とした近似式x=αy+βにおける係数α、βを求めればよい。線分の両端のy座標は、例えば、抽出された目地候補点のうち最大のy座標及び最小のy座標によりそれぞれ定められればよい。なお、抽出された目地候補点が非常に少ない(例えば、3個以下など)の場合には、誤抽出の可能性が高いので、直線近似を行わずに該当する目地候補点を除外してもよい。CPU11は、直線近似に用いた全ての目地候補点を選択済みとする(ステップS312)。
【0065】
CPU11は、設定されている全ての目地候補点を選択したか否かを判定する(ステップS313)。全ての目地候補点を選択していない(選択していない目地候補点がある)と判定された場合には(ステップS313で“NO”)、CPU11の処理は、ステップS309に戻る。全ての目地候補点を選択したと判定された場合には(ステップS313で“YES”)、CPU11は、分割した全ての点群を選択したか否かを判定する(ステップS314)。全ての点群を選択していない(選択していない点群がある)と判定された場合には(ステップS314で“NO”)、CPU11の処理は、ステップS302へ戻る。
【0066】
分割した全ての点群を選択したと判定された場合には(ステップS314で“YES”)、CPU11は、取得した縦目地の線分のそれぞれ上端と、当該上端に最も近い横目地との距離Luを算出する(ステップS315)。CPU11は、距離Luが上限値Dcよりも大きい線分を縦目地から除外する(ステップS316)。上限値Dcは、平均的な計測点の密度(平均間隔)又は横目地の平均間隔に基づいて定められればよい。例えば、横目地特定処理のステップS212で算出された、又はステップS219で再算出された平均間隔に所定の割合、例えば25%を乗じた間隔を上限値Dcとすることができる。
【0067】
CPU11は、取得した縦目地の線分の下端と、当該下端に最も近い横目地との距離Llを算出する(ステップS317)。CPU11は、距離Llが上限値Dcよりも大きい線分を縦目地から除外する(ステップS318)。そして、CPU11は、縦目地特定処理を終了して処理を構造解析処理に戻す。
【0068】
上記の横目地特定処理のステップS201及び縦目地特定処理のステップS304で“YES”に分岐する処理が本実施形態の構造物解析方法(プログラム)における判定ステップ(判定機能)を構成する。また、横目地特定処理のステップS209、縦目地特定処理のステップS311及び構造解析処理のステップS113の処理が本実施形態の構造物解析方法(プログラム)における生成ステップ(生成機能)を構成する。
【0069】
図7及び
図8は、煉瓦壁の目地の構造解析例を示す図である。
図7(a)には、識別パラメータをコンター表示している。縦目地において識別パラメータQxxが増大して黒く(暗く)表現され、横目地において識別パラメータQyyが増大して白く(明るく)表現されていることが分かる。一方で、
図7(b)には、LoGに基づくz成分の勾配変化の分布を濃淡表示で表している。この勾配変化の分布では、目地の部分は明確に白く表れているが、目地の間でも多く白い筋が出現している。
【0070】
図8(a)に示すように、識別パラメータのコンター表示に、各横目地間の水平な線上で得られたz成分の勾配変化の一次元プロットを重ねてみると、勾配変化Ezが波打って上下している部分でも、Qxxは小さく抑えられていることが分かる。したがって、識別パラメータにより、より精度よく目地候補が絞り込まれ、そのうえで勾配分布を併用すると、より容易に目地の位置が特定しやすくなる。上記の処理の結果、
図8(b)に示すように、目地の分布を示す立面図では、煉瓦壁の計測点データから精度よく適切に目地の位置が特定されている。
【0071】
[変形例]
なお、本発明は、上記実施の形態に限られるものではなく、様々な変更が可能である。
例えば、上記実施の形態では、概ねランダムに分布する計測点ごとに目地の内部に位置し得るか否かを判定、特定するものとして説明したが、単位面積を有し、2次元マトリクス状に定められたメッシュの格子点を単位として目地の内部であるか否かの判定を行って
もよい。例えば、あるサイズの正方形メッシュを規定し、各格子点を取り囲む4つのメッシュ内に位置する煉瓦壁Wの表面の位置データの内挿(例えば、重み付け平均)により当該格子点の3次元位置を求める。このように求められる格子点データを取得対象の点群データとして、取得された点群データに基づいて各格子点が目地の内部にあるか(局所領域に目地が存在するか)否かを判定してもよい。この場合の局所領域は、例えば、注目対象の格子点及びその周囲の8点の格子点が含まれるように、メッシュの辺の長さの√2倍~1.5倍程度に定めることができる。
【0072】
あるいは、局所領域の範囲を先に定める代わりに、注目対象の点に近い順に所定数Nの点(例えば、3~8点など)を局所領域内の点として定めてもよい。すなわち、この場合の局所領域は、注目対象の点を中心として、この点からN番目に近い点までの距離を半径とした円形とされてもよい。
【0073】
また、上記実施の形態では、勾配変化による目地の位置の特定を行ったが、この処理を行わず、識別パラメータによる判定だけで目地範囲の絞り込みを行ってもよい。幅を有する目地内の点の数は、勾配変化の極値のみに絞る場合に比較して多くなるが、その全点を利用して目地を近似する線を求めることも可能である。
【0074】
また、目地の間隔の均一性を考慮した誤検出判定は行われなくてもよい。特に、目地の間隔が一様ではない場合には、このような判定は除外される。
【0075】
また、上記実施の形態では、処理装置1で座標変換を行ったが、予め座標変換がなされたデータを取得して、そのまま継ぎ目を特定する処理を行ってもよい。
【0076】
また、上記実施の形態では、横目地を3次曲線、縦目地を直線(線分)で近似するものとして説明したが、これに限られない。それほど歪みが大きくない場合には横目地も直線近似してもよいし、反対に煉瓦(構造材)のサイズが大きい場合などには縦目地も曲線近似してもよい。
【0077】
また、上記実施の形態では、継ぎ目がx軸及びy軸にそれぞれ沿った2種類のものであるとして説明したが、一方しかないのであれば他方の向きの継ぎ目の検出処理は不要である。また、必ずしもx軸及びy軸に平行に伸びない継ぎ目がある場合には、識別パラメータを2成分に分けずに当該2成分の二乗和の平方根や両成分の絶対値の和などを用いて継ぎ目の領域内の点であるか否かを判定してもよい。また、この場合には、x軸及びy軸の方向設定は任意であってよく、例えば、先にz軸を定めてから、z軸に直交する平面内で任意にx軸及びy軸を定めてもよい。また、縦目地と横目地を順番に検出する必要もなく、まとめて全ての継ぎ目が検出されてもよい。
【0078】
また、上記実施の形態では、勾配変化の算出にLoGを用いたが、他のもの、例えば、DoG(Differenceof Gaussian Filter)などを用いてもよい。
【0079】
また、上記実施の形態では、煉瓦壁の目地を検出するものとして説明したが、これに限られない。コンクリートブロック(ブロック塀など)やタイル構造などの概ね定められた構造材を組み合わせた構造物の継ぎ目を検出する場合全般に利用することができる。また、壁面のように直立しているものではなく、傾いていたり曲面だったりするもの、例えば。道路擁壁や、地面に敷かれた又は載置された構造物を上空から撮影又は測量したデータなどに基づいて解析してもよい。
【0080】
また、継ぎ目の両側の構造材が同一の高さでなくても上記技術を適用することができる。すなわち、構造物には継ぎ目における段差があってもよい。
【0081】
また、目地が直線ではない場合、例えば、円形の場合などには、三次元直交座標系として円筒座標系などを用いて位置を定めてもよい。
【0082】
また、上記実施の形態では横目地が煉瓦壁の幅全体にわたって一つながりであるものとして説明したが、これに限られない。x方向について途中で構造が明らかに変わっている場合には、当該地点を境界として画像を分割してもよいが、そうでない場合や、できない場合などには、横目地も線分として検出してもよい。
【0083】
また、特に、継ぎ目の太さの異なる構造物の解析に処理装置1が併用される場合などには、スケールファクタσや局所領域を定める幅Th、Twや閾値Tcなどが随時変更設定可能であってもよい。変更設定は、元の計測データ上で目地幅を指定することで適宜な値を自動設定するのであってもよいし、値自体が操作受付部16を介して入力されて設定されるのであってもよい。
【0084】
また、上記実施の形態では、ノイズ除去をガウシアンフィルタによって行ったが、これに限られない。あるいは、計測点の質などによってはノイズ除去を行わなくてもよい。
【0085】
また、上記実施の形態では、構造物解析の処理を単一の処理装置1で行ったが、複数の処理装置に分割して処理が行われてもよい。また、計測データは、記憶装置2の代わりにDVD-ROMなどの可搬型記憶媒体などから取得されてもよい。
【0086】
また、以上の説明では、本発明の構造解析制御に係るプログラム131を記憶するコンピュータ読み取り可能な媒体としてHDDやフラッシュメモリなどの不揮発性メモリなどからなる記憶部13を例に挙げて説明したが、これらに限定されない。その他のコンピュータ読み取り可能な媒体として、MRAMなどの他の不揮発性メモリや、CD-ROM、DVDディスクなどの可搬型記憶媒体を適用することが可能である。また、本発明に係るプログラムのデータを通信回線を介して提供する媒体として、キャリアウェーブ(搬送波)も本発明に適用される。
その他、上記実施の形態で示した具体的な構成、処理動作の内容及び手順などは、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。本発明の範囲は、特許請求の範囲に記載した発明の範囲とその均等の範囲を含む。
【0087】
以上のように、本実施形態の構造物解析装置である処理装置1は、CPU11を備える。CPU11は、取得手段として、平面を有する複数の構造材(煉瓦B)が当該平面を略同一方向に向けて組み合わされた構造物(煉瓦壁W)の上記平面を含む表面における煉瓦B間の継ぎ目(縦目地Jv、横目地Jh)を検出する構造物解析装置であって、表面に略平行なx方向、当該表面に略平行かつx方向に垂直なy方向、並びにx方向及びy方向に垂直なz方向を3軸とする三次元直交座標系(デカルト座標系)で表された位置が特定されている表面の複数点の集合である点群のデータを取得し、算出手段として、表面の局所領域(ここでは各点ri)ごとに、複数点のうち局所領域に含まれる複数の点の三次元座標の共分散行列Ciの逆行列Qiにおけるx方向及びy方向に係る対角成分のうち少なくともいずれかを算出し、判定手段として、算出された対角成分を用いて局所領域に継ぎ目が存在し得るか(各点riが継ぎ目内に存在し得るか)を判定する。
このような処理装置1によれば、従来より低ノイズで各点riが継ぎ目内の点であり得るかを判定することができ、損傷や劣化などにより誤判定しやすい点を多く除外することが可能になるので、従来よりも高精度で継ぎ目の検出が可能になる。よって、ユーザの手間を十分に低減しつつ、損傷や劣化などが多い構造物でも正確な構造を特定しやすくなる。
【0088】
また、構造物(煉瓦壁W)は、略平行に延在する複数の継ぎ目(目地)からなる第1継ぎ目群を有する。CPU11は、取得手段として、複数の継ぎ目の延在方向がx方向に略平行な三次元直交座標系(デカルト座標系)で位置が表された点群のデータを取得し、算出手段として、少なくとも逆行列Qiにおけるy方向に係る対角成分(識別パラメータQyy)を算出し、判定手段として、識別パラメータQyyが予め定めた閾値Tc以上である局所領域(点)に第1継ぎ目群の継ぎ目(目地)が存在し得ると判定する。
このように、取得するデータの座標を予め目地の延在方向にほぼ合わせておくことで、目地の検出も1つの識別パラメータのみで行うことが可能になって容易に特定される。
【0089】
また、構造物(煉瓦壁W)は、第1継ぎ目群の継ぎ目の延在方向に略垂直に延在する継ぎ目からなる第2継ぎ目群を有する。CPU11は、判定手段として、x方向に係る対角成分が予め定めた閾値Tc以上である局所領域に第2継ぎ目群の継ぎ目が存在し得る(点riが第2継ぎ目群の継ぎ目に存在し得る)と判定する。
このように、目地が直交する方向に伸びている場合には、これらに座標軸方向が略一致することで、各々識別パラメータを分離することができる。したがって、他方の目地の影響を抑えながら各々の目地に該当し得るか否かをより精度よく容易に判定することができる。
【0090】
また、CPU11は、検出手段として、複数点の位置のz方向の成分について、当該z方向の成分の勾配変化に係る極値点を検出し、生成手段として、継ぎ目が存在し得ると判定した局所領域に含まれる極値点の当該局所領域の代表点である点riを用いて、継ぎ目を近似した図形データを生成する。識別パラメータQxx,Qyyを用いた継ぎ目の判定を従来の技術と併用することで、より適切に継ぎ目外の点を除外しながら継ぎ目の中央位置を特定することが可能になるので、継ぎ目を表す近似的な線をより精度よく定めることが可能になる。
【0091】
また、構造材は、矩形の平面を有する煉瓦Bであり、構造物は、煉瓦Bをある方向(水平方向)に並べ、当該ある方向に垂直な方向(鉛直方向)に重ねた煉瓦壁Wであり、継ぎ目は、煉瓦Bの間をつなぐ目地(横目地Jh、縦目地Jv)である。CPU11は、取得手段として、x方向が煉瓦Bの並び方向に平行であり、y方向が煉瓦Bを重ねる方向に平行である点群のデータを取得し、算出手段として、逆行列Qiにおけるx方向及びy方向に係る対角成分を算出し、判定手段として、y方向に係る対角成分が予め定めた閾値Tc以上である局所領域に横目地Jhが存在し得る(横目地Jhに点riが存在し得る)と判定し、x方向に係る対角成分が予め定めた閾値Tc以上である局所領域に縦目地Jvが存在し得る(縦目地Jvに点riが存在し得る)と判定し、生成手段として、横目地Jhが存在し得ると判定された局所領域に含まれる極値点を用いて横目地Jhを近似した第1図形(線分)と、縦目地Jvが存在し得ると判定された局所領域に含まれる極値点を用いて縦目地Jvを近似した第2図形(曲線)と、を含む図形データを生成する。
このように、縦横に組まれる煉瓦Bによる煉瓦壁Wの縦目地Jv及び横目地Jhを検出するのに上記識別パラメータQxx、Qyyを用いることで、従来よりもノイズ、特に劣化や損傷の影響を低減して、より精度よくこれらを近似した線を得ることができる。
なお、CPU11は、生成手段として第2図形を含む図形データを生成する際、上記第1図形と、縦目地Jvが存在し得ると判定された局所領域に含まれる極値点を用いて縦目地Jvを近似した第2図形であって第1図形との接続性を有する第2図形と、を含む図形データを生成することが好適である。
このように、長くて特定しやすい横目地Jhに係る第1図形を生成してから、縦目地Jvに係る第2図形のうち第1図形と接続性を有するものだけを図形データとして生成することで横目地Jhよりも短くて誤検出しやすい縦目地Jvの誤検出を効果的に排除できる。
【0092】
また、本実施形態の構造物解析方法は、平面を有する複数の部材(煉瓦B)が当該平面を略同一方向に向けて組み合わされた構造物(煉瓦壁W)の平面を含む表面における部材間の継ぎ目を検出する構造物解析方法であって、表面に略平行なx方向、当該表面に略平行かつ前記x方向に垂直なy方向、並びにx方向及びy方向に垂直なz方向を3軸とする三次元直交座標系(デカルト座標系)で表された位置が特定されている表面の複数点の集合である点群のデータを取得する取得ステップ、表面の局所領域(点ri)ごとに、複数点のうち局所領域に含まれる複数の点の三次元座標の共分散行列Ciの逆行列Qiにおけるx方向及びy方向に係る対角成分のうち少なくともいずれかを算出する算出ステップ、算出された対角成分を用いて局所領域に継ぎ目が存在し得るか(継ぎ目に点riが存在し得るか)を判定する判定ステップ、を含む。
このような構造物解析方法によれば、従来より低ノイズで各点riが継ぎ目内の点であり得るかを判定することができ、損傷や劣化などにより誤判定しやすい点を多く除外することが可能になるので、従来よりも高精度で継ぎ目の検出が可能になる。よって、ユーザの手間を十分に低減しつつ、損傷や劣化などが多い構造物でも正確な構造を特定しやすくなる。
【0093】
コンピュータに、上記構造物解析方法に係るプログラム131をインストールして実行することで、ソフトウェア的に上記継ぎ目(目地)の検出に係る一連の処理を実行可能となり、通常のコンピュータにより、より精度よく容易に目地を特定することが可能になる。
【符号の説明】
【0094】
1 処理装置
2 記憶装置
11 CPU
12 RAM
13 記憶部
131 プログラム
14 通信部
15 表示部
16 操作受付部
21 計測データ
100 構造物解析システム
B 煉瓦
Ci 共分散行列
Dc 上限値
Dth 下限間隔
Ez 勾配変化
Jh 横目地
Jv 縦目地
Qi 逆行列
Qxx、Qyy 識別パラメータ
Tc 閾値
Th、Tw 幅
W 煉瓦壁