IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ダイハツ工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-内燃機関の制御装置 図1
  • 特開-内燃機関の制御装置 図2
  • 特開-内燃機関の制御装置 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149409
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】内燃機関の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
F02D45/00 345
F02D45/00 360Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022057961
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085338
【弁理士】
【氏名又は名称】赤澤 一博
(74)【代理人】
【識別番号】100148910
【弁理士】
【氏名又は名称】宮澤 岳志
(72)【発明者】
【氏名】南口 昌弘
【テーマコード(参考)】
3G384
【Fターム(参考)】
3G384AA01
3G384BA24
3G384DA56
3G384ED07
3G384ED08
3G384FA04Z
3G384FA06Z
3G384FA08Z
3G384FA28Z
3G384FA37Z
3G384FA40Z
3G384FA58Z
3G384FA61Z
3G384FA68Z
(57)【要約】
【課題】内燃機関の運転中に、電子制御装置の演算処理負荷を徒に増大させることなく、異常なピストンスラップが発生していないかどうかを判定できるようにする。
【解決手段】複数の気筒を内包するシリンダブロックに生じる振動をセンサを介して検出し、前記センサの出力信号をある一つの周波数帯を通過させるフィルタで処理したものに含まれるノイズが閾値以上に大きいか否かを判断し、同一の気筒の連続した所定数のサイクル中に前記ノイズが前記閾値以上に大きかった回数が判定値を上回ったならば、異常なピストンスラップが発生していると判定する内燃機関の制御装置を構成した。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の気筒を有するシリンダブロックに生じる振動を、センサを介して検出し、
前記センサの出力信号におけるノイズが閾値以上であるか否かを判断し、
同一の前記気筒の連続した所定数のサイクル中において、前記ノイズが前記閾値以上である回数が判定値を上回ったならば、異常なピストンスラップが発生していると判定する内燃機関の制御装置。
【請求項2】
内燃機関の温度が一定以上昇温している状況の下で、
同一の前記気筒の連続した所定数のサイクル中において、前記ノイズが前記閾値以上である回数が判定値を上回ったならば、異常なピストンスラップが発生していると判定する請求項1記載の内燃機関の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両等に搭載される内燃機関の運転を制御する制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の気筒を備える4ストロークレシプロエンジンでは、各気筒において、吸気行程-圧縮行程-膨張行程-排気行程の一連であるサイクルを連続的に実行し、気筒内でピストンが往復動する。
【0003】
ピストンは、ピストンピン、コネクティングロッド(コンロッド)及びクランクピンを介して、内燃機関の出力軸(回転軸)であるクランクシャフトのクランクアームに連結されている。気筒のシリンダボアの内径とピストン(または、ピストンリング)の外径とは、公称値では同値であるが、実際には両者の間に微細な隙間が存在する。そのため、クランクシャフトの回転に伴いピストン側圧が作用する方向が変化して、ピストンがシリンダボア内壁の左右の壁に繰り返し衝突するピストンスラップ現象が発生する。ピストンスラップは、上死点近傍で好発する。ピストンスラップによる騒音は、低負荷運転時に内燃機関から放たれる機械騒音の多くを占める(例えば、下記特許文献を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭57-168042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、内燃機関の運転中に、電子制御装置(Electronic Control Unit)の演算処理負荷を徒に増大させることなく、異常なピストンスラップが発生していないかどうかを判定できるようにすることを所期の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、複数の気筒を有するシリンダブロックに生じる振動を、センサを介して検出し、前記センサの出力信号におけるノイズが閾値以上であるか否かを判断し、同一の前記気筒の連続した所定数のサイクル中において、前記ノイズが前記閾値以上である回数が判定値を上回ったならば、異常なピストンスラップが発生していると判定する内燃機関の制御装置を構成した。
【0007】
尤も、内燃機関の冷間始動直後のような、内燃機関自体及び潤滑油の温度が低温である状況下では、どうしてもピストンスラップが大きくなる。そこで、上記の判定は、内燃機関の温度が一定以上昇温していることを必要条件とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、内燃機関の運転中に、電子制御装置の演算処理負荷を徒に増大させることなく、異常なピストンスラップが発生していないかどうかを判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態における車両用内燃機関及び制御装置の概略構成を示す図。
図2】同実施形態の内燃機関の制御装置がプログラムに従い実行する処理の手順例を示すフロー図。
図3】同実施形態における内燃機関の各気筒の行程を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。図1に、本実施形態における車両用内燃機関の概要を示す。本実施形態における内燃機関は、火花点火式の4ストロークレシプロエンジンであり、複数の気筒1(例えば、三気筒エンジン。図1には、そのうち一つを図示している)を具備している。各気筒1の吸気バルブよりも上流、各気筒1に連なる吸気ポートの近傍には、吸気ポートに向けて燃料を噴射するインジェクタ11を設けている。また、各気筒1の燃焼室の天井部に、点火プラグ12を取り付けてある。点火プラグ12は、点火コイルにて発生した誘導電圧の印加を受けて、中心電極と接地電極との間で火花放電を起こすものである。点火コイルは、半導体スイッチング素子であるイグナイタとともに、コイルケースに一体的に内蔵される。
【0011】
吸気を気筒1に供給するための吸気通路3は、外部から空気を取り入れて各気筒1の吸気ポートへと導く。吸気通路3上には、エアクリーナ31、電子スロットルバルブ32、サージタンク33、吸気マニホルド34を、上流からこの順序に配設している。
【0012】
排気を気筒1から排出するための排気通路4は、気筒1内で燃料を燃焼させたことで生じる排気を各気筒1の排気ポートから外部へと導く。この排気通路4上には、排気マニホルド42及び排気浄化用の三元触媒41を配設している。
【0013】
排気ガス再循環(Exhaust Gas Recirculation)装置2は、排気通路4と吸気通路3とを連通する外部EGR通路21と、EGR通路21上に設けたEGRクーラ22と、EGR通路21を開閉し当該EGR通路21を流れるEGRガスの流量を制御するEGRバルブ23とを要素とする。EGR通路21の入口は、排気通路4における触媒41の下流の所定箇所に接続している。EGR通路21の出口は、吸気通路3におけるスロットルバルブ32の下流の所定箇所(特に、サージタンク33または吸気マニホルド34)に接続している。
【0014】
周知の通り、内燃機関では、クランクスプロケット(または、プーリ)、吸気側スプロケット(または、プーリ)並びに排気側スプロケット(または、プーリ)にタイミングチェーン(または、ベルト)を巻き掛け、このタイミングチェーンにより、クランクシャフトからもたらされる回転駆動力を吸気側スプロケットを介して吸気カムシャフトに、排気側スプロケット73を介して排気カムシャフトに、それぞれ伝達している。
【0015】
吸気側スプロケットと吸気カムシャフトとの間には、可変バルブタイミング(Variable Valve Timing)機構5を介設している。吸気VVT機構5は、クランクシャフトに対する吸気カムシャフトの回転位相を変化させることにより、各気筒1の吸気バルブの開閉タイミングを可変制御する(進角/遅角させる)既知のものである。VVT機構5の具体的態様は、作動液圧(油圧)でベーン及びカムシャフトを回動させる液圧式(ベーン式)のものであってもよく、電動機によりカムシャフトを回動させるモータドライブ式のものであってもよい。
【0016】
加えて、排気側スプロケットと排気カムシャフトとの間に、排気VVT機構を付設することもあり得る。排気VVT機構は、吸気VVT機構5と同様、クランクシャフトに対する排気カムシャフトの回転位相を変化させることにより、各気筒1の排気バルブの開閉タイミングを可変制御するものである。
【0017】
本実施形態の内燃機関の制御装置たるECU0は、プロセッサ、メモリ、入力インタフェース、出力インタフェース等を有したマイクロコンピュータシステムである。ECU0は、複数基のECUまたはコントローラが、CAN(Controller Area Network)等の電気通信回線を介して相互に通信可能に接続されてなるものであることがある。
【0018】
ECU0の入力インタフェースには、車両の実車速を検出する車速センサから出力される車速信号a、クランクシャフトの回転角度及びエンジン回転数を検出するクランク角センサから出力されるクランク角信号b、アクセルペダルの踏込量またはスロットルバルブ32の開度をアクセル開度(いわば、要求されるエンジン負荷率またはエンジントルク)として検出するセンサから出力されるアクセル開度信号c、内燃機関の冷却水の温度を検出する水温センサから出力される冷却水温信号d、気筒1に連なる吸気通路3(特に、サージタンク33またはサージタンク33)内の吸気温及び吸気圧を検出する温度・圧力センサから出力される吸気温・吸気圧信号e、気筒1を内包しているシリンダブロックの振動の大きさを検出する振動式のノックセンサ13から出力される振動信号f、吸気カムシャフトの複数のカム角にてカム角センサから出力されるカム角信号g、気筒1から排出され排気通路4を流れるガスの空燃比を検出する空燃比センサ(リニアA/FセンサまたはO2センサ)から出力される空燃比信号h等が入力される。なお、ノックセンサ13は、シリンダブロックにおける吸気通路3側に一個だけ設置している。
【0019】
ECU0の出力インタフェースからは、火花点火装置のイグナイタに対して点火信号i、インジェクタ11に対して燃料噴射信号j、スロットルバルブ32に対して開度操作信号k、EGRバルブ23に対して開度操作信号l、VVT機構5に対してバルブタイミングの制御信号m等を出力する。
【0020】
ECU0のプロセッサは、予めメモリに格納されているプログラムを解釈、実行し、運転パラメータを演算して内燃機関の運転を制御する。ECU0は、内燃機関の運転制御に必要な各種情報a、b、c、d、e、f、g、hを入力インタフェースを介して取得し、気筒1に吸入される空気量に見合った要求燃料噴射量、燃料噴射タイミング(一度の燃焼に対する燃料噴射の回数を含む)、燃料噴射圧、点火タイミング(一度の燃焼に対する火花点火の回数を含む)、要求EGR率(または、EGRガス量)、吸気バルブの目標開閉タイミング等といった各種運転パラメータを決定する。ECU0は、運転パラメータに対応した各種制御信号i、j、k、l、mを出力インタフェースを介して印加する。
【0021】
ノックコントロールシステムに関して補足すると、ECU0は、ノックセンサ13が出力する振動信号fを参照して、各気筒1におけるノッキングの発生の有無を判定し、その判定結果に応じた点火タイミングの調整を行う。ECU0は、内燃機関1の気筒1またはシリンダブロックの振動の強度を示す振動信号fの現在のサンプリング値をノック判定値と比較し、前者が後者を上回ったならば、当該気筒1にてノッキングが起こったと判定する。翻って、振動信号fのサンプリング値がノック判定値以下であるならば、当該気筒1にてノッキングは起こっていないと判定する。
【0022】
気筒1におけるノッキングの発生を感知した場合には、以後ノッキングが起こらなくなるまで点火タイミングを徐々に遅角させる、換言すればベース点火タイミングに加味する遅角補正量を徐々に増大させる。他方、ノッキングの発生を感知していない場合には、ノッキングが起こらない限りにおいて点火タイミングを徐々に進角させ、即ちベース点火タイミングに加味する遅角補正量を減少させて、点火タイミングを可及的にMBT(Minimum advance for Best Torque)に近づけ、内燃機関の熱効率の向上を図る。このノッキングの有無の判定及び点火タイミングの遅角/進角補正は、各気筒1毎に個別に行うことができる。
【0023】
しかして、本実施形態のECU0は、ノックセンサ13の出力信号fを参照して、内燃機関の運転中に、異常なピストンスラップが発生していないかどうかをオンラインで判定する。
【0024】
図2に示すように、ECU0は、内燃機関の温度が既に所定値以上に上昇している状況の下で(ステップS1)、ノックセンサ13の出力信号fに含まれる、ピストンスラップに起因するノイズが閾値以上に大きいか否かを判断する(ステップS2)。そして、同一の気筒1における連続した所定数のサイクル中に、ノイズが閾値以上に大きかった回数が判定値を上回ったならば(ステップS3)、異常なピストンスラップが発生しているとの判定を下す(ステップS4)。
【0025】
ステップS1では、内燃機関の冷却水温が所定値以上であることを以て、内燃機関自体及び潤滑油の温度が一定以上に上昇していると判断する。ステップS1は、冷間始動直後等の冷温時にはどうしてもフリクション及びピストンスラップが大きく、本来は正常であるものを異常と誤判定してしまうことを回避するための措置である。内燃機関の潤滑油の温度を検出するセンサが実装されているならば、冷却水温でなく潤滑油温に基づいてもよいことは当然である。
【0026】
ステップS2に関して詳記すると、図3に示すように、各気筒1の行程に合わせた特定の検出区間T1、T2、T3を予め設定しておく。T1は、第一気筒1についての検出区間であり、第一気筒1の圧縮上死点近傍におけるピストンスラップを検出する。T2は、第二気筒1についての検出区間であり、第二気筒1の圧縮上死点近傍におけるピストンスラップを検出する。T3は、第三気筒1についての検出区間であり、第三気筒1の圧縮上死点近傍におけるピストンスラップを検出する。何れの検出区間T1、T2、T3も、その始期は対象の気筒1の吸気バルブが閉弁した後、終期は圧縮上死点の前である。なお、検出区間T1、T2、T3以後に、各気筒1の膨張行程中に発生し得るノッキングの検出区間N1、N2、N3を設定している。
【0027】
その上で、当該期間T1、T2、T3中のノックセンサ13の出力信号fを、ある一つの周波数帯を通過させる(他の周波数帯を遮断する)バンドパスフィルタにより処理し、そうして抽出したノイズの信号の振幅の絶対値を閾値と比較し、またはそうして抽出したノイズの信号の時間積分値(サンプリング値の積算値)を閾値と比較する。それが閾値を上回ったならば、ステップS2が真、即ちピストンスラップに起因するノイズが大きいと判断する。
【0028】
ステップS3では、同一の気筒1における連続した所定数のサイクル中に上記のステップS2が真であった回数が判定値を上回った、特に同一の気筒1について判定値の回数(サイクル)分連続してステップS2が真であったことを条件として、異常なピストンスラップが発生していると判定する(ステップS4)。ステップS3は、プレイグニッションとピストンスラップとを区別するための措置である。
【0029】
ステップS4では、例えば、異常なピストンスラップが発生している旨を示す情報(異常なピストンスラップが発生している気筒1を識別する識別子を含むことがある)をECU0の不揮発性メモリに書き込んだり、異常なピストンスラップが発生している旨を車両のユーザの視覚または聴覚に訴えかける態様で報知(ランプを点灯または点滅させる、ディスプレイに表示する、警告音または音声を出力する等)したりする。
【0030】
本実施形態では、複数の気筒1を有するシリンダブロックに生じる振動を、センサ13を介して検出し、前記センサ13の出力信号fをある一つの周波数帯を通過させるフィルタで処理したものに含まれるノイズが閾値以上に大きいか否かを判断し、同一の気筒1の連続した所定数のサイクル中に前記ノイズが前記閾値以上に大きかった回数が判定値を上回ったならば、異常なピストンスラップが発生していると判定する内燃機関の制御装置0を構成した。
【0031】
本実施形態では、内燃機関の温度が一定以上昇温している状況の下で、同一の気筒1の連続した所定数のサイクル中に前記ノイズが前記閾値以上に大きかった回数が判定値を上回ったならば、異常なピストンスラップが発生していると判定する。
【0032】
本実施形態によれば、内燃機関の運転中に、制御装置たるECU0の演算処理負荷を徒に増大させることなしに、異常なピストンスラップが発生していないかどうかを判定することが可能となる。
【0033】
なお、本発明は以上に詳述した実施形態に限られるものではない。各部の具体的な構成や処理の手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0034】
0…制御装置(ECU)
1…気筒
13…センサ
b…クランク角信号
d…冷却水温信号
f…振動信号
g…カム角信号
図1
図2
図3