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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149449
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】積層不織布
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/26 20060101AFI20231005BHJP
   D04H 3/16 20060101ALI20231005BHJP
   D04H 3/007 20120101ALI20231005BHJP
【FI】
B32B5/26
D04H3/16
D04H3/007
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022058027
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 格
(72)【発明者】
【氏名】島田 大樹
(72)【発明者】
【氏名】小出 現
【テーマコード(参考)】
4F100
4L047
【Fターム(参考)】
4F100AK03A
4F100AK03B
4F100AK03C
4F100AK07A
4F100AK07B
4F100AK07C
4F100AK17A
4F100BA03
4F100BA06
4F100DG04A
4F100DG04B
4F100DG04C
4F100DG15A
4F100DG15B
4F100DG15C
4F100GB66
4F100JA06A
4F100JA06B
4F100JB06
4F100JB06A
4F100JC00
4F100JL06
4L047AA14
4L047AB03
4L047AB07
4L047BA09
4L047BB01
4L047CA05
(57)【要約】
【課題】
高い撥水性と撥油性とを併せ持ち、摩擦による撥油性の低下が少ない積層不織布を提供する。
【解決手段】
ポリオレフィン系樹脂からなる繊維で構成されてなり、かつフッ素系樹脂を含むメルトブロー不織布層Aと、ポリオレフィン系樹脂からなる繊維で構成されてなるスパンボンド不織布層Bとが積層されてなる積層不織布であって、1層以上の前記メルトブロー不織布層Aの表裏それぞれに1層以上の前記スパンボンド不織布層Bが配されてなる、積層不織布。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン系樹脂からなる繊維で構成されてなり、かつフッ素系樹脂を含むメルトブロー不織布層Aと、ポリオレフィン系樹脂からなる繊維で構成されてなるスパンボンド不織布層Bとが積層されてなる積層不織布であって、1層以上の前記メルトブロー不織布層Aの表裏それぞれに1層以上の前記スパンボンド不織布層Bが配されてなる、積層不織布。
【請求項2】
前記フッ素系樹脂が前記メルトブロー不織布層Aを構成する繊維の少なくとも内部に含まれる、請求項1に記載の積層不織布。
【請求項3】
前記メルトブロー不織布層Aを構成する繊維100質量%中に前記フッ素系樹脂の含有量が0.1質量%以上10質量%以下である、請求項1または2に記載の積層不織布。
【請求項4】
前記スパンボンド不織布層Bを構成する繊維の平均繊維径が6.5μm以上14.2μm以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の積層不織布。
【請求項5】
前記メルトブロー不織布層Aの厚み(t)の、前記積層不織布全体の厚み(t)に対する比(t/t)が0.05以上0.15以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の積層不織布。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の医療技術発達による長寿命化や感染症の世界的な流行から、衛生資材および医療・防護用資材等の需要が拡大しており、その素材として撥水性を有するポリオレフィン系不織布が広く使用されている。このような用途に適用される不織布には、親水と親油の両方の性質を有する両親媒性の体液に対するバリア性が要求されることから、撥水性と撥油性の両立が必要である。
【0003】
親油性のポリオレフィン系不織布に撥油性を付与する手法として、従来、様々な方法が検討されている。例えば、特許文献1には、積層不織布を構成するスパンボンド不織布層にフッ素系樹脂を含浸することで、積層不織布が油に対して優れた液浸透抑制性能を発現することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2019/059203号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1で開示された方法では、不織布表面にフッ素系樹脂を付与するため、多量の樹脂が含浸されることにより不織布が硬い風合いとなるという課題がある。
【0006】
そこで、本発明の目的は、高い撥水性と撥油性とを併せ持つ積層不織布を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、以下の発明が提供される。すなわち、
(1)ポリオレフィン系樹脂からなる繊維で構成されてなり、かつフッ素系樹脂を含むメルトブロー不織布層Aと、ポリオレフィン系樹脂からなる繊維で構成されてなるスパンボンド不織布層Bとが積層されてなる積層不織布であって、1層以上の前記メルトブロー不織布層Aの表裏それぞれに1層以上の前記スパンボンド不織布層Bが配されてなる、積層不織布。
(2)前記フッ素系樹脂が前記メルトブロー不織布層Aを構成する繊維の少なくとも内部に含まれる、上記(1)に記載の積層不織布。
(3)前記メルトブロー不織布層Aを構成する繊維100質量%中に前記フッ素系樹脂の含有量が0.1質量%以上10質量%以下である、上記(1)または(2)に記載の積層不織布。
(4)前記スパンボンド不織布層Bを構成する繊維の平均繊維径が6.5μm以上14.2μm以下である、上記(1)~(3)のいずれか1項に記載の積層不織布。
(5)前記メルトブロー不織布層Aの厚み(t)の、前記積層不織布全体の厚み(t)に対する比(t/t)が0.05以上0.15以下である、上記(1)~(4)のいずれか1項に記載の積層不織布。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高い撥水性と撥油性を併せ持つ、積層不織布が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の積層不織布は、ポリオレフィン系樹脂からなる繊維で構成されてなり、かつフッ素系樹脂を含むメルトブロー不織布層Aと、ポリオレフィン系樹脂からなる繊維で構成されてなるスパンボンド不織布層Bとが積層されてなる積層不織布であって、1層以上の前記メルトブロー不織布層Aの表裏それぞれに1層以上の前記スパンボンド不織布層Bが配されてなる。
【0010】
以下に、その構成要素について詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下に説明する範囲に何ら限定されるものではない。
【0011】
[ポリオレフィン系樹脂]
本発明において、メルトブロー不織布層A、スパンボンド不織布層Bは、いずれもポリオレフィン系樹脂からなる繊維で構成されてなる。本発明における「ポリオレフィン系樹脂」とは、主となる繰り返し単位がオレフィン単位である樹脂のことを指す。同様に「ポリエチレン系樹脂」、「ポリプロピレン系樹脂」とは、主となる繰り返し単位が、それぞれ、エチレン単位、プロピレン単位である樹脂のことを指すものである。ここで、「主となる繰り返し単位」とは、樹脂中にモル数で最も多く含まれる繰り返し単位のことである。また、本発明において、メルトブロー不織布層Aを構成する繊維に用いられるポリオレフィン系樹脂をポリオレフィン系樹脂(P)、スパンボンド不織布層Bを構成する繊維に用いられるポリオレフィン系樹脂をポリオレフィン系樹脂(P)と称することがある。
【0012】
ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリブテン系樹脂、ポリメチルペンテン系樹脂などが挙げられる。ポリエチレン系樹脂としては、エチレンの単独重合体またはエチレンと各種α-オレフィンとの共重合体などが挙げられる。また、ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレンの単独重合体またはプロピレンと各種α-オレフィンとの共重合体などが挙げられる。中でも、紡糸性や強度の特性の観点から、ポリプロピレン系樹脂が好ましい。
【0013】
前記ポリオレフィン系樹脂(P)は、メルトフローレート(MFRと略記することがある)が200g/10分以上2500g/10分以下であることが好ましい。MFRを好ましくは200g/10分以上、より好ましくは400g/10分以上、さらに好ましくは600g/10分以上とすることで、延伸時の応力が低下するため、生産能力を維持しながら、平均繊維径の細いメルトブロー不織布層Aを得ることができ、生産性と撥水性の両立が可能となる。一方、MFRを好ましくは2500g/10分以下、より好ましくは2000g/10分以下、さらに好ましくは1500g/10分以下とすることで、口金背面圧力が大きくなり、樹脂の吐出量の変動を抑えることができるため、メルトブロー不織布層Aの繊維径が均一となり、撥水性や撥油性のばらつきの少ない積層不織布を得ることができる。
【0014】
ポリオレフィン系樹脂(P)は、後述するフッ素系樹脂を含有することが好ましい。ポリオレフィン系樹脂(P)がフッ素系樹脂を含有することにより、積層不織布の撥水性と撥油性をより向上させることができる。一方、スパンボンド不織布層Bへの印刷、後加工による機能性付与をより容易なものとするためには、ポリオレフィン系樹脂(P)は、フッ素系樹脂を含まないことが好ましい。
【0015】
また、前記ポリオレフィン系樹脂(P)は、MFRが75g/10分以上850g/10分以下であることが好ましい。MFRを75g/10分以上、より好ましくは120g/10分以上、さらに好ましくは155g/10分以上とすることで、延伸時の応力を低くすることができ、速い紡糸速度で延伸したとしても、安定した紡糸が可能となる。これにより、スパンボンド不織布層Bの平均繊維径が細くなることで、表面が平滑化され、メルトブロー不織布層Aとの接着性を向上させることが可能となる。一方、MFRを850g/10分以下、より好ましくは600g/10分以下、さらに好ましくは400g/10分以下とすることで、ポリオレフィン系樹脂(P)の分子量が大きくなり、繊維1本あたりの強度が高くなるため、十分な強度の積層不織布が得られやすくなる。
【0016】
なお、本発明において、ポリオレフィン系樹脂のMFRは、ASTM D1238 (A法)によって測定される値を採用する。なお、この規格によれば、例えば、ポリプロピレンは荷重:2.16kg、温度:230℃にて、ポリエチレンは荷重:2.16kg、温度:190℃にて測定することが規定されている。
【0017】
本発明において、ポリオレフィン系樹脂は、2種以上のポリオレフィン系樹脂の樹脂組成物であってもよく、また、熱可塑性エラストマー等を含有する樹脂組成物であってもよい。当然、MFRの異なる2種類以上の樹脂を任意の割合でブレンドして、ポリオレフィン系樹脂(P)、および/またはポリオレフィン系樹脂(P)のMFRを調整することもできる。
【0018】
本発明で用いられるポリオレフィン系樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲で、酸化防止剤、耐候剤、光安定剤、防曇剤、帯電防止剤、帯電助剤、ブロッキング剤、滑剤、核剤、および酸化チタン等の顔料等の添加物、あるいは他の重合体を必要に応じて添加することができる。
【0019】
また、後述する繊維を紡出する際、部分的な粘度斑の発生を防ぎ、繊維の繊度を均一化し、さらに平均繊維径を後述するように細くするため、ポリオレフィン系樹脂の分子量を低下させてMFRを上げても良い。MFRを上げる方法としては、例えば、使用前に樹脂を加熱して熱分解する方法や、過酸化物を添加して熱処理する方法等が考えられる。
【0020】
本発明において、ポリオレフィン系樹脂の融点は、80℃以上200℃以下であることが好ましい。融点を好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上、さらに好ましくは120℃以上とすることにより、より高い耐熱性が得られやすくなる。また、融点を好ましくは200℃以下、より好ましくは180℃以下とすることにより、口金から吐出された糸条を冷却しやすくなり、繊維同士の融着を抑制し安定した紡糸が行いやすくなる。
【0021】
[繊維]
本発明において、メルトブロー不織布層Aを構成するポリオレフィン系樹脂(P)からなる繊維は、平均繊維径が0.1μm以上8.0μm以下であることが好ましい。ポリオレフィン系樹脂(P)からなる繊維の平均繊維径を好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.4μm以上とすることで、メルトブロー不織布層Aを形成する際に容易に繊維を捕集することができ、周囲への飛散を抑制して、より均一な積層不織布とすることができる。一方、平均繊維径を好ましくは8.0μm以下、より好ましくは7.0μm以下とすることで、メルトブロー不織布層Aの緻密性が向上し、撥水性、撥油性を向上させることができる。
【0022】
本発明において、メルトブロー不織布層Aを構成するポリオレフィン系樹脂(P)からなる繊維の平均繊維径(μm)は、以下の手順によって算出される。なお、測定には、例えば、株式会社キーエンス製の走査型電子顕微鏡「VHX-D500」を使用できる。以降、特に断りがない限り、測定方法の説明で示される走査型電子顕微鏡(SEM)としては本装置などを使用することができるものとする。
(1)積層不織布について、ランダムに小片サンプル10個を採取する。
(2)採取した試験片を凍結ミクロトームで切削し、得られた断面に対して導電処理を施し、SEMを用いて撮影倍率4000~10000倍にて断面を撮影する。
(3)各サンプルのメルトブロー不織布層Aから10本ずつ、計100本の繊維の幅を測定する。
(4)測定した100本の値の平均値から平均繊維径(μm)を算出する。
【0023】
本発明において、スパンボンド不織布層Bを構成する繊維の平均繊維径が6.5μm以上14.2μm以下であることが好ましい。平均繊維径を好ましくは6.5μm以上、より好ましくは7.5μm以上、さらに好ましくは8.4μm以上とすることにより、紡糸性の低下を防ぎ、安定した平均繊維径を有する不織布層を形成することができる。一方、平均繊維径を好ましくは14.2μm以下、より好ましくは11.2μm以下、さらに好ましくは10.6μm以下とすることにより、柔軟性や均一性が高く、積層不織布におけるメルトブロー不織布層Aの含有比率が低くても、撥水性に優れた積層不織布を得ることができる。
【0024】
なお、本発明において、スパンボンド不織布層Bを構成するポリオレフィン系樹脂(P)からなる繊維の平均繊維径(μm)は、以下の手順によって算出される。
(1)積層不織布について、ランダムに小片サンプル10個を採取する。
(2)SEMで撮影倍率500~1000倍の表面写真を撮影し、各サンプルから10本ずつ、計100本のポリオレフィン繊維の幅を測定する。
(3)測定した100本の値の平均値から平均繊維径(μm)を算出する。
【0025】
[積層不織布]
本発明の積層不織布は、上述のとおり、ポリオレフィン系樹脂からなる繊維で構成されてなり、かつフッ素系樹脂を含むメルトブロー不織布層Aと、ポリオレフィン系樹脂からなる繊維で構成されてなるスパンボンド不織布層Bとが積層されてなる積層不織布であって、1層以上の前記メルトブロー不織布層Aの表裏それぞれに1層以上の前記スパンボンド不織布Bが配されてなる。このような構成にすることにより衛生資材、あるいは、医療・防護用資材として要求されるレベルの高い撥水性と撥油性を付与することができる。そして、高い撥水性と撥油性を併せ持つことにより、本発明の積層不織布は、体液やアルコール類に対するバリア性を有することが期待できる。また、かかる積層構成を有することにより、フッ素系樹脂が脱落しにくくなることから、摩擦による撥油性の低下が少ない積層不織布が得られる。
【0026】
本発明において、メルトブロー不織布層Aは、フッ素系樹脂を含む。ここで、本発明において、メルトブロー不織布層Aが「フッ素系樹脂を含む」とは、メルトブロー不織布層Aを構成する繊維の表面にフッ素系樹脂が付与されている状態、および/または、メルトブロー不織布層Aを構成する繊維の内部にフッ素系樹脂を含んでいる状態のことをいう。
【0027】
メルトブロー不織布層Aを構成する繊維の表面にフッ素系樹脂が付与されている状態としては、例えば、メルトブロー不織布層Aを構成する繊維の表面にフッ素系樹脂の膜が形成されている状態、あるいは、メルトブロー不織布層Aを構成する繊維の間隙にフッ素系樹脂が充填されている状態などが挙げられる。また、メルトブロー不織布層Aを構成する繊維の内部にフッ素系樹脂を含んでいる状態とは、繊維内部にフッ素系樹脂が存在する状態が挙げられる。スパンボンド不織布層Bとの接着性の観点から、本発明の積層不織布において、フッ素系樹脂がメルトブロー不織布層Aを構成する繊維の少なくとも内部に含まれることがより好ましい。
【0028】
本発明において、メルトブロー不織布層Aにおけるフッ素系樹脂の含有量は、メルトブロー不織布層Aを構成する繊維100質量%中に、0.1質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。フッ素系樹脂の含有量を好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1.0質量%以上とすることにより、積層不織布の撥水性と撥油性を向上させることができる。一方、フッ素系樹脂の含有量を好ましくは10.0質量%以下、より好ましくは5.0質量%以下とすることにより、フッ素系樹脂による繊維融着の低下に由来する撥水性低下を抑制することができる。
【0029】
前記のフッ素系樹脂としては、炭素数4以上6以下のフルオロアルキル構造を側鎖に有するアクリル系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン等の不飽和フッ化炭素化合物の重合体が挙げられる。とりわけ、撥油性に優れることから、炭素数4以上6以下のフルオロアルキル構造を側鎖に有するアクリル系樹脂が好適に用いられる。
【0030】
ここで、本発明における「アクリル系樹脂」とは、主となる繰り返し単位がアクリル酸エステル単位、あるいはメタクリル酸エステル単位である重合体のことを指す。このアクリル系樹脂は、アクリル酸エステル単位あるいはメタクリル酸エステル単位からなる単独重合体、または、これらの単量体と不飽和炭化水素化合物との共重合体であっても良い。炭素数4以上6以下のフルオロアルキル構造を側鎖に有するアクリル系樹脂として、例えば、ポリ1H,1H,5H-オクタフルオロペンチルメタクリレート、ポリ2-(パーフルオロブチル)エチルメタクリレート、ポリ2-(パーフルオロヘキシル)エチルメタクリレート、ポリ1H,1H,7H-ドデカフルオロヘプチルメタクリレートが挙げられる。
【0031】
本発明の積層不織布のメルトブロー不織布層Aに、フッ素系樹脂を含むことは、エネルギー分散型X線分析(SEM-EDX)法により分析できる。測定には、例えば、株式会社日立ハイテク製の走査電子顕微鏡「S-3400N」に株式会社堀場製作所製のX線検出器「EMAX x-act」を取り付けて使用できる。SEM-EDX法により積層不織布断面をマッピングし、メルトブロー不織布層Aにフッ素元素が検出された場合に、メルトブロー不織布層Aにフッ素系樹脂を含むと判定する。また、メルトブロー不織布層Aを構成する繊維の断面において、繊維内部にフッ素元素が検出された場合、繊維の中にフッ素系樹脂を含んでいると判断する。なお、本発明において、メルトブロー不織布層Aにおけるフッ素系樹脂の含有量は、SEM-EDX法の定量分析より求めるF元素の含有量より算出できる。
【0032】
なお、本発明の積層不織布の具体的な積層構成としては、例えば、スパンボンド不織布層B側の表面から順に、(スパンボンド不織布層B)/(メルトブロー不織布層A)/(スパンボンド不織布層B)と積層されてなるSMS不織布、(スパンボンド不織布層B)/(メルトブロー不織布層A)/(メルトブロー不織布層A)/(スパンボンド不織布層B)と積層されてなるSMMS不織布、(スパンボンド不織布層B)/(スパンボンド不織布層B)/(メルトブロー不織布層A)/(メルトブロー不織布層A)/(スパンボンド不織布層B)、あるいは、(スパンボンド不織布層B)/(メルトブロー不織布層A)/(メルトブロー不織布層A)/(スパンボンド不織布層B)/(スパンボンド不織布層B)と積層されてなるSSMMS不織布等が挙げられる。
【0033】
本発明の積層不織布において、メルトブロー不織布層Aの厚み(t)の、積層不織布全体の厚み(t)に対する比(t/t)は0.05以上0.15以下であることが好ましい。ここでいう、積層不織布全体の厚みとは、積層不織布の断面において、非融着部における一方のスパンボンド不織布層Bの表面の最も高い点から、他方のスパンボンド不織布層Bの表面の最も高い点までの距離のことをいう。t/tを好ましくは0.05以上、より好ましくは0.08以上とすることで撥水性を向上させることができる。一方、t/tを好ましくは0.15以下、より好ましくは0.12以下とすることで十分な強度が得られやすくなる。
【0034】
本発明の積層不織布におけるメルトブロー不織布層Aの厚み(t)の、積層不織布全体の厚み(t)に対する比(t/t)は、以下のように測定される。
(1)積層不織布から幅20mm×20mmの試験片を採取する。
(2)採取した試験片を凍結ミクロトームで切削し、得られた断面に対して導電処理を施し、SEMを用いて撮影倍率300倍にて断面を撮影する。断面のSEM写真に融着部が含まれる場合は、観察視野を移動させて再度撮影する。
(3)断面のSEM写真から、一方のスパンボンド不織布層Bとメルトブロー不織布層Aとの界面から、他方のスパンボンド不織布層Bとメルトブロー不織布層Aとの界面までの距離を5点計測し、その平均値をメルトブロー不織布層Aの厚み(t)とする。
(4)断面SEM写真から、一方のスパンボンド不織布層Bの表面から他方のスパンボンド不織布層Bの表面までの距離を5点計測し、その平均値を積層不織布全体の厚み(t)とする。
(5)tをtで除し、小数点以下第三位を四捨五入した値を厚みの比(t/t)とする。
【0035】
/tはメルトブロー不織布層Aの目付、平均繊維径を調節することによって調節することが可能である。また、融着工程における接着温度や線圧、クリアランスを調節することによっても可能である。
【0036】
本発明の積層不織布の目付は、10g/m以上100g/m以下であることが好ましい。目付を好ましくは10g/m以上、より好ましくは30g/m以上とすることにより、より高い撥水性や機械的強度の積層不織布を得ることができる。
【0037】
一方、目付を好ましくは100g/m以下、より好ましくは80g/m以下、さらに好ましくは60g/m以下とすることにより、柔軟性や通気性に優れる積層不織布を得ることができる。
【0038】
なお、本発明において、積層不織布の目付は、JIS L1913:2010「一般不織布試験方法」の「6.2 単位面積当たりの質量」に準じ、以下の手順によって測定される。
(1)20cm×25cmの試験片を、試料の幅1m当たり3枚採取する。
(2)標準状態におけるそれぞれの質量(g)を量る。
(3)その平均値を1m当たりの質量(g/m)で表する。
【0039】
本発明の積層不織布は、単位目付当たりの耐水圧が15mmHO/(g/m)以上であることが好ましい。単位目付当たりの耐水圧を15mmHO/(g/m)以上、より好ましくは20mmHO/(g/m)以上、さらに好ましくは30mmHO/(g/m)とすることにより、より高い耐水性を維持しつつ、柔軟性に優れる積層不織布とすることができる。耐水圧の上限について特に制限はないが、高い耐水圧を発現する不織布構造は緻密な構造となるため、積層不織布の通気性は低下し、防護服として用いた場合に着用時の蒸れが発生しやすくなることから、耐水圧の上限は、50mmHO/(g/m)が好ましい。
【0040】
なお、本発明の積層不織布の単位目付当たりの耐水圧は、JIS L1092:2009「繊維製品の防水性試験方法」の「7.1.1 A法(低水圧法)」に準じ、以下の手順によって測定される。
(1)積層不織布から幅150mm×150mmの試験片を5枚採取する。
(2)試験片を測定装置のクランプ(試験片の水に当たる部分が100cmの大きさのもの)にセットする。
(3)水を入れた水準装置を600mm/分±30mm/分の速さで水位を上昇させ、試験片の裏側に3か所から水が出たときの水位をmm単位で測定する。
(4)上記の測定を5枚の試験片で行い、その平均値を算出する。
(5)算出した耐水圧(mmHO)を、前記の方法で測定された目付(g/m)で除する。
【0041】
本発明の積層不織布の単位目付当たりの通気量は、0.01(cm/(cm・秒))/(g/m)以上5.00(cm/(cm・秒))/(g/m)以下であることが好ましい。単位目付当たりの通気量を好ましくは5.00(cm/(cm・秒))/(g/m)以下とし、より好ましくは1.00(cm/(cm・秒))/(g/m)以下とし、さらに好ましくは0.50(cm/(cm・秒))/(g/m)以下とすることにより、防護服用途等で必要となる撥水性を維持することができる。一方、単位目付当たりの通気量を好ましくは0.01(cm/(cm・秒))/(g/m)以上とし、より好ましくは0.05(cm/(cm・秒))/(g/m)以上とし、さらに好ましくは0.1(cm/(cm・秒))/(g/m)以上とすることにより、防護服用途などで着用時の蒸れを軽減できる。通気量は、目付、平均繊維径、メルトブロー不織布層Aの目付および熱圧着条件(圧着率、温度および線圧)などによって調節することができる。
【0042】
なお、本発明において、積層不織布の単位目付当たりの通気量は、JIS L1913:2010「一般不織布試験方法」の「6.8.1 フラジール形法」に準じ、以下の手順によって測定される。
(1)積層不織布から80cm×100cmの試験片を切り出す。
(2)気圧計の圧力125Paで、試験片において任意の20点について測定する。
(3)上記20点の平均値について、小数点以下第二位を四捨五入して算出する。
(4)算出した通気量(cm/(cm・秒))を、前記の方法によって測定・算出した積層不織布の目付(g/m)で除する。
【0043】
本発明の積層不織布は、JIS T8122:2015「生物学的危険物質に対する防護服」で定められる耐バクテリオファージ浸透性のクラスが、クラス2以上であることが望ましい。耐バクテリオファージ浸透性のクラスを好ましくは、クラス2以上、より好ましくはクラス3以上、さらに好ましくはクラス4以上とすることにより、防護服としての体液等の両親媒性液体に対するバリア性を高くすることができる。耐バクテリオファージ浸透性は、目付、平均繊維径、メルトブロー不織布層Aの目付、メルトブロー不織布層Aのフッ素系樹脂の含有量によって調節することができる。
【0044】
なお、本発明において、耐バクテリオファージ浸透性のクラスはJIS T8061:2015「血液及び体液の接触に対する防護服-防護服材料の血液媒介性病原体に対する耐浸透性の求め方-Phi-X174バクテリオファージを用いる試験方法」のB法に準じ、測定される。
【0045】
[積層不織布の製造方法]
次に、本発明の積層不織布を製造する方法の好ましい態様について、具体的に説明する。
【0046】
本発明の積層不織布を製造する方法は、好ましくは、スパンボンド不織布層Bを形成し、その上に少なくとも1層のメルトブロー不織布層Aを形成し、さらにその上に前記スパンボンド不織布層Bを形成して積層体を形成する工程(工程1)と、前記積層体を、片方のロール表面が平滑なロールと、他方のロール表面に彫刻が施されたロールとの組み合わせからなる、熱エンボスロールを用いて融着させ、シートを得る工程(工程2)とを含む。なお、一般的には熱融着された後のものをスパンボンド不織布層と呼ぶが、本発明においては、便宜上、熱融着される前のものもスパンボンド不織布層と呼ぶ。
【0047】
(工程1:スパンボンド不織布層Bを形成し、その上に少なくとも1層のメルトブロー不織布層Aを形成し、さらにその上に前記スパンボンド不織布層Bを形成して積層体を形成する工程)
本工程において、スパンボンド不織布層B、メルトブロー不織布層Aはそれぞれ、スパンボンド法、メルトブロー法により形成することができる。これらを積層して積層体を形成する方法としては、例えば、最初に形成したスパンボンド不織布層Bの上に、直接、メルトブロー法によって形成される繊維を堆積させてメルトブロー不織布層Aを形成し、さらに、スパンボンド法によって形成される繊維を堆積させてスパンボンド不織布層Bを形成するというように、逐次、得られている不織布層にさらに繊維を堆積させて積層体を形成する方法、あるいは、別々に形成したスパンボンド不織布層Bとメルトブロー不織布層Aとを重ね合わせ、加熱・加圧によりこれらの不織布層を融着させるか、ホットメルト接着剤や溶剤系接着剤等の接着剤によって接着するなどして積層体を形成する方法などを採用することができる。生産性の観点からは、逐次、得られている不織布層にさらに繊維を堆積させて積層体を形成する方法が好ましい。なお、積層構成は、前記のとおりである。
【0048】
スパンボンド不織布層Bは、溶融したポリオレフィン系樹脂を紡糸口金から長繊維として紡出し、これを冷却して延伸した後、移動するネット上に繊維を捕集して形成する。なお、延伸はエジェクター等により圧縮エアで吸引して延伸してもよい。
【0049】
紡糸口金やエジェクターの形状は、丸形や矩形等、種々の形状のものを採用することができる。なかでも、圧縮エアの使用量が比較的少なくエネルギーコストに優れること、糸条同士の融着や擦過が起こりにくく、糸条の開繊も容易であることから、矩形口金と矩形エジェクターの組み合わせが好ましく用いられる。
【0050】
本発明では、ポリオレフィン系樹脂を押出機において溶融し、計量して紡糸口金へと供給し、長繊維として紡出する。ポリオレフィン系樹脂を溶融し紡糸する際の紡糸温度は、200℃以上270℃以下であることが好ましい。より好ましくは210℃以上、さらに好ましくは220℃以上であることで、ポリオレフィン系樹脂の粘度低下により、平均繊維径をより細くすることが可能となり、スパンボンド不織布層Bとメルトブロー不織布層Aの接着面積が増加し層間の接着性に優れる積層不織布を得ることができる。また、より好ましくは260℃以下、さらに好ましくは250℃以下であることで、ポリオレフィン系樹脂の熱分解による不織布の強度低下を抑制することができる。紡糸温度を上記範囲内とすることにより、安定した溶融状態とし、優れた紡糸安定性を得ることができる。
【0051】
紡出した長繊維の糸条は冷却されるが、この冷却方法としては、例えば、冷風を強制的に糸条に吹き付ける方法、糸条周りの雰囲気温度で自然冷却する方法、および紡糸口金とエジェクター間の距離を調整する方法等が挙げられ、またはこれらの方法を組み合わせる方法を採用することができる。また、冷却条件は、紡糸口金の単孔あたりの吐出量、紡糸温度および雰囲気温度等を考慮して、適宜調整して採用することができる。
【0052】
次に、冷却されて固化した糸条は、エジェクターから噴射される圧縮エアによって牽引し、延伸してもよい。紡糸速度は、3000m/分以上6500m/分以下であることが好ましい。紡糸速度を好ましくは3000m/分以上、より好ましくは3500m/分以上、さらに好ましくは4000m/分以上とすることで、繊維の配向結晶化が進み、高強度の長繊維を得ることができる。一方、紡糸速度を好ましくは6500m/分以下、より好ましくは6000m/分以下、さらに好ましくは5500m/分以下とすることで、不織布における繊維の配向を抑制し、強度の異方性が少ない不織布を得ることができる。
【0053】
続いて、得られた長繊維を、移動するネット上、あるいは、移動するネット上に載せられた、既に形成したスパンボンド不織布層B、あるいは、メルトブロー不織布層Aの上に捕集して不織布層化する。本発明では、これらの不織布層に対して、ネット上でその片面から熱フラットロールを当接して仮接着させることも好ましい。このようにすることにより、ネット上を搬送中に不織布層の表層がめくれたり吹き流れたりして地合が悪化することを防ぎ、糸条を捕集してから熱圧着するまでの搬送性を改善することができる。
【0054】
次に、メルトブロー不織布層Aは、公知の製造方法を採用して形成することができる。ポリオレフィン系樹脂とフッ素系樹脂の混合物を押出機内で溶融して口金部に供給し、口金から押し出した糸条に熱風を吹きつけ、細化させた後、捕集ネット上、あるいは、移動するネット上に載せられた、既に形成したスパンボンド不織布層B、あるいは、メルトブロー不織布層Aの上にメルトブロー不織布層Aを形成する。メルトブロー法では、複雑な工程を必要とせず、数μmの細繊維を容易に得ることができ、高い撥水性を得ることができる。
【0055】
本発明では、ポリオレフィン系樹脂とフッ素系樹脂を混練した後に押出機において溶融し、計量して紡糸口金へと供給し、長繊維として紡出する。ポリオレフィン系樹脂とフッ素系樹脂を混練する方法としては、紡糸機の押出機ホッパーにこれらを混合して供給し、押出機内で混練し、直接口金へ供給する方法や、あらかじめ、熱可塑性樹脂材料と添加剤を混練押出機や静止混練機等で混練してマスターチップを作製する方法が挙げられる。
【0056】
ポリオレフィン系樹脂を溶融し紡糸する際の紡糸温度は、230℃以上300℃以下であることが好ましい。紡糸温度を好ましくは230℃以上、より好ましくは250℃以上とすることで、ポリオレフィン系樹脂の粘度低下により、平均繊維径をより細くすることが可能となる。また、紡糸温度を好ましくは300℃以下、さらに好ましくは280℃以下とすることで、ポリオレフィン系樹脂の熱分解による糸切れを防ぎ、積層不織布の撥水性、撥油性の低下を防ぐことができる。
【0057】
(工程2:積層体を、片方のロール表面が平滑なロールと、他方のロール表面に彫刻が施されたロールとの組み合わせからなる、熱エンボスロールを用いて融着させ、シートを得る工程)
本工程においては、片方のロール表面が平滑なロールと、他方のロール表面に彫刻が施されたロールとの組み合わせからなる、熱エンボスロールを用いて融着させてシートを得る。このようにすることで、生産性に優れ、最終的に得られる積層不織布も、部分的な融着部で強度を付与され、かつ、非融着部でスパンボンド不織布ならではの風合いや肌触りを保持することができる。
【0058】
熱エンボスロールの表面材質としては、十分な熱圧着効果を得て、かつ片方のエンボスロール(彫刻ロール)の彫刻(凹凸部)が他方のロール表面に転写することを防ぐため、金属製ロールと金属製ロールとを対にすることが好ましい。
【0059】
熱エンボスロールによるエンボス接着面積率は、5%以上30%以下であることが好ましい。接着面積を好ましくは5%以上とし、より好ましくは8%以上とし、さらに好ましくは10%以上することにより、積層不織布として実用に供し得る強度を得ることができる。一方、接着面積を好ましくは30%以下とし、より好ましくは25%以下とし、さらに好ましくは20%以下とすることにより、防護服等における適度な柔軟性を得ることができる。
【0060】
ここでいうエンボス接着面積率とは、融着部の面積の積層不織布の面積全体に占める割合のことをいう。具体的には、凹凸を有するロールとフラットロールにより熱接着する場合、凹凸を有するロールの凸部が積層不織布に当接する部分(融着部)の積層不織布全体に占める割合のことをいう。
【0061】
熱エンボスロールによる接着部の形状としては、円形、楕円形、正方形、長方形、平行四辺形、ひし形、正六角形および正八角形などを用いることができる。また接着部は、積層不織布の長手方向(搬送方向)と幅方向に、それぞれ一定の間隔で均一に存在していることが好ましい。このようにすることにより、積層不織布の強度のばらつきを低減することができる。
【0062】
融着させる際の熱エンボスロールの表面温度は、使用しているポリオレフィン系樹脂の融点に対し-50℃以上-15℃以下とすることが好ましい。熱エンボスロールの表面温度をポリオレフィン系樹脂の融点に対し好ましくは-50℃以上とし、より好ましくは-45℃以上とすることにより、適度に融着させ高強度の積層不織布を得ることができる。また、熱エンボスロールの表面温度をポリオレフィン系樹脂の融点に対し好ましくは-15℃以下とし、より好ましくは-20℃以下とすることにより、過度な融着を抑制し、積層不織布として、特に防護服用途での使用に適した適度な柔軟性・加工性を得ることができる。
【0063】
融着させる際の熱エンボスロールの線圧は、50N/cm以上500N/cm以下であることが好ましい。熱エンボスロールの線圧を好ましくは50N/cm以上とし、より好ましくは100N/cm以上とし、さらに好ましくは150N/cm以上とすることにより、適度に融着させ実用に供しうる強度の積層不織布を得ることができる。一方、熱エンボスロールの線圧を好ましくは500N/cm以下とし、より好ましくは400N/cm以下とし、さらに好ましくは300N/cm以下とすることにより、積層不織布として、特に防護服用途での使用に適した適度な柔軟性・加工性を得ることができる。
【0064】
また、本発明では、積層不織布の厚みを調整することを目的に、上記の熱エンボスロールによる融着の前および/または後に、上下一対のフラットロールからなる熱カレンダーロールにより熱圧着を施すこともできる。上下一対のフラットロールとは、ロールの表面に凹凸のない金属製ロールや弾性ロールのことであり、金属製ロールと金属製ロールを対にしたり、金属製ロールと弾性ロールを対にしたりして用いることができる。
【0065】
また、ここで弾性ロールとは、金属製ロールと比較して弾性を有する材質からなるロールのことである。弾性ロールとしては、ペーパー、コットンおよびアラミドペーパー等のいわゆるペーパーロールや、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリエステル系樹脂および硬質ゴム、およびこれらの混合物からなる樹脂製のロールなどが挙げられる。
【実施例0066】
実施例に基づき、本発明の積層不織布について具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。各物性の測定において、特段の記載がないものは、前記の方法に基づいて測定を行ったものである。
【0067】
(1)ポリオレフィン系樹脂のMFR(g/10分):
ポリオレフィン系樹脂(P)、ポリオレフィン系樹脂(P)のMFRは、荷重が2.16kg、温度が230℃の条件で測定した。
【0068】
(2)メルトブロー不織布層A、スパンボンド不織布層B、積層不織布の目付(g/m
メルトブロー不織布層A、スパンボンド不織布層Bの目付は、後述の実施例1の(メルトブロー不織布層A)、(スパンボンド不織布層B1)の項目に記載の条件と同条件で別途捕集ネット上に採取した不織布層より、前記の方法によって測定した。積層不織布の目付は、前記の方法によって測定した。
【0069】
(3)メルトブロー不織布層A、スパンボンド不織布層Bの平均繊維径(μm)
走査型電子顕微鏡として、株式会社キーエンス製「VHX-D500」を用い、前記の方法によって測定した。
【0070】
(4)積層不織布の単位目付当たりの耐水圧((mmHO)/(g/m)):
スイス・テクステスト社 耐水圧試験機「ハイドロテスター」(FX-3000-IV型)を用いた。なお、算出した耐水圧(mmHO)を、上記の方法に基づいて求めた目付(g/m)から、次の式より小数点以下第二位を四捨五入して単位目付当たりの耐水圧を算出した
単位目付当たりの耐水圧=耐水圧(mmHO)/目付(g/m)。
【0071】
(5)積層不織布の単位目付当たりの通気量((cm3/(cm・秒))/(g/m)):
前記の方法に基づいて、通気量の測定を行った。なお、算出した通気量(cm3/(cm・秒))を、上記の方法に基づいて求めた目付(g/m)から、次の式より小数点以下第三位を四捨五入して単位目付当たりの通気量を算出した
単位目付当たりの通気量=通気量(cm3/(cm・秒))/目付(g/m)。
【0072】
(6)耐バクテリオファージ浸透性のクラス:
前記の方法に基づいて、JIS T8061:2015に準じて、バクテリオファージ浸透性のクラスを測定した。
【0073】
[製造例]
2000mL容の反応容器に1H,1H,7H-ドデカフルオロヘプチルメタクリレートモノマー(CAS:2261―99―6)500g、溶媒としてイソプロピルアルコール750gを加え、アゾビスイソブチロニトリルを5.5g添加し内温70℃で撹拌した。24時間経過後、溶媒を除去してフッ素系樹脂としてポリ1H,1H,7H-ドデカフルオロヘプチルメタクリレートを得た。
【0074】
[実施例1]
(スパンボンド不織布層B1)
MFR200g/10分、融点163℃のホモポリマーからなるポリプロピレン樹脂を押出機で溶融し、孔径φ0.30mm、孔深度2mmの矩形口金から、紡糸温度235℃、単孔吐出量0.30g/分の条件で紡出した。紡出した糸条を冷却固化した後、これを矩形エジェクターにおいて、エジェクター圧力を0.40MPaとした圧縮エアによって牽引、延伸し、移動するネット上に捕集して、ポリプロピレン長繊維からなる、目付25g/mのスパンボンド不織布層B1を形成した。形成したスパンボンド不織布層B1を構成する繊維の平均繊維径は11.2μmであった。
【0075】
(メルトブロー不織布層A)
ポリオレフィン系樹脂として、前記製造例で得たフッ素系樹脂を10質量%含む、MFR1100g/分のポリプロピレン樹脂を押出機で溶融し、孔径φ0.25mmの口金から、紡糸温度260℃、単孔吐出量0.10g/分で紡出した。その後、エア温度290℃、エア圧力0.10MPaの条件でエアを糸条に噴射し、前記のスパンボンド不織布層B1上に捕集し、メルトブロー不織布層Aを形成した。メルトブロー不織布層Aの目付は10g/mであり、平均繊維径は1.1μmであった。
【0076】
(スパンボンド不織布層B2)
前記メルトブロー不織布層Aの上に、スパンボンド不織布層B1を形成した条件と同じ条件で、ポリプロピレン長繊維を捕集させ、目付25g/mのスパンボンド不織布層B2を形成した。
【0077】
(積層不織布)
前記の方法によって、総目付60g/mの、スパンボンド不織布層B1-メルトブロー不織布層A-スパンボンド不織布層B2を積層した積層繊維ウェブを得た。次いで、得られた積層繊維ウェブを、上ロールに金属製で水玉柄の彫刻がなされた接着面積率16%のエンボスロールを、下ロールに金属製フラットロールで構成される上下一対の熱エンボスロールを用いて、線圧300N/cm、熱接着温度130℃の条件で熱接着し、積層不織布を得た。結果を表1に示す。
【0078】
[実施例2]
実施例1の(メルトブロー不織布層A)において、フッ素系樹脂の含有量が10質量%であったところ、1.0質量%に変更した以外は、実施例1と同様に積層不織布を得た。結果を表1に示す。
【0079】
[実施例3]
実施例1の(メルトブロー不織布層A)において、フッ素系樹脂の含有量が10質量%であったところ、0.5質量%に変更した以外は、実施例1と同様に積層不織布を得た。結果を表1に示す。
【0080】
[実施例4]
実施例1の(メルトブロー不織布層A)において、フッ素系樹脂の含有量が10質量%であったところ、0.05質量%に変更した以外は、実施例1と同様に積層不織布を得た。結果を表1に示す。
【0081】
[実施例5]
実施例1の(メルトブロー不織布層A)において、フッ素系樹脂の含有量が10質量%であったところ、20質量%に変更した以外は、実施例1と同様に積層不織布を得た。結果を表1に示す。
【0082】
[実施例6]
実施例2の(メルトブロー不織布層A)において、単孔吐出量0.10g/分であったところ、0.05g/分に変更し、エア圧力0.10MPaであったところ、0.05MPaに変更した以外は、実施例1と同様に積層不織布を得た。結果を表1に示す。
【0083】
[実施例7]
実施例2の(スパンボンド不織布層B1)および(スパンボンド不織布層B2)において、エジェクター圧力を0.40MPaであったところ、0.20MPaに変更した以外は、実施例1と同様に積層不織布を得た。結果を表1に示す。
【0084】
[比較例1]
実施例1の(メルトブロー不織布層A)において、フッ素系樹脂の含有量が10質量%であったところ、フッ素系樹脂を含まないMFR1100g/分のポリプロピレン樹脂に変更した以外は、実施例1と同様に積層不織布を得た。結果を表2に示す。
【0085】
[比較例2]
実施例2において、(スパンボンド不織布層B1)、および(スパンボンド不織布層B2)を形成しない以外は、実施例2と同様にして不織布を得た。結果を表2に示す。なお、単位目付当たりの耐水圧の測定を行ったところ、不織布の強度不足により測定ができなかった。また、耐バクテリオファージ浸透性の測定においても、同様に不織布の強度不足により測定ができなかった。
【0086】
[比較例3]
実施例2において、(スパンボンド不織布層B2)を形成しない以外は、実施例2と同様に積層不織布を得た。結果を表2に示す。
【0087】
【表1】
【0088】
【表2】
【0089】
実施例1~7の積層不織布は、フッ素系樹脂を含むメルトブロー不織布層Aと、そのメルトブロー不織布層Aの表裏にそれぞれポリオレフィン系樹脂からなる繊維で構成されてなるスパンボンド不織布層Bが配されてなることで、単位目付当たりの耐水圧が20mmHO/(g/m)以上、かつ耐バクテリオファージ浸透性のクラスが2以上と、体液等の両親媒性液体に対する優れたバリア性を有していた。
【0090】
一方、比較例1の積層不織布はメルトブロー不織布層Aにフッ素系樹脂を含まず、耐バクテリオファージ浸透性に劣る結果であった。また、スパンボンド不織布層Bを含まない比較例2はメルトブロー不織布層Aの強度不足により、体液等の両親媒性液体に対するバリア性に劣る結果であった。スパンボンド不織布層Bがメルトブロー不織布層Aの片面にのみ積層された、比較例3はメルトブロー不織布層Aが摩擦により傷つき、耐水圧に劣る結果であった。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の積層不織布は、撥水性と撥油性に優れ、体液やアルコール類に対するバリア性を有するため、衛生資材、医療・防護用資材に好適に用いることができる。