(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149453
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】水なしオフセット原版の製造方法および製造装置
(51)【国際特許分類】
B05D 1/02 20060101AFI20231005BHJP
B05D 1/26 20060101ALI20231005BHJP
B05D 1/36 20060101ALI20231005BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20231005BHJP
B05D 5/00 20060101ALI20231005BHJP
B05D 7/00 20060101ALI20231005BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20231005BHJP
B05B 13/04 20060101ALI20231005BHJP
B05C 9/12 20060101ALN20231005BHJP
B05C 11/00 20060101ALN20231005BHJP
B05C 11/10 20060101ALN20231005BHJP
B05C 13/02 20060101ALN20231005BHJP
B05C 9/06 20060101ALN20231005BHJP
【FI】
B05D1/02 Z
B05D1/26 Z
B05D1/36 Z
B05D3/00 C
B05D3/00 D
B05D5/00 A
B05D7/00 K
B05D7/24 302Y
B05B13/04
B05C9/12
B05C11/00
B05C11/10
B05C13/02
B05C9/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022058035
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】谷 義則
(72)【発明者】
【氏名】中田 泰宏
(72)【発明者】
【氏名】箕浦 潔
(72)【発明者】
【氏名】飯原 明宏
【テーマコード(参考)】
4D075
4F035
4F042
【Fターム(参考)】
4D075AA01
4D075AA67
4D075AA76
4D075AC06
4D075AC08
4D075AC09
4D075AC58
4D075AC71
4D075AC88
4D075AE03
4D075BB42Z
4D075BB57Z
4D075CA07
4D075CA13
4D075CA47
4D075CA48
4D075DA15
4D075DA20
4D075DC19
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4D075EC30
4F035AA03
4F035CA02
4F035CA05
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4F035CB24
4F035CB27
4F035CB29
4F035CC01
4F035CD03
4F035CD13
4F035CD15
4F035CD18
4F035CD19
4F042AA03
4F042BA05
4F042BA08
4F042BA12
4F042BA22
4F042BA25
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4F042CB02
4F042CB19
4F042DB00
4F042DB51
4F042DF07
4F042DF29
4F042DF32
4F042DF36
4F042DH09
4F042ED02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】円柱状基材の水なしオフセット原版を製造する工程において、基材再生のための剥離膜に易剥離膜の材料を用いつつ、基材に対し剥離膜が高い被覆性を保持し、安定した印刷を行うことができる高品位な原版を製造することができる、製造方法および装置を提供する。
【解決手段】特定の物性の剥離材料を用い、第1の塗布工程が、円柱状基材の軸を中心軸として回転させながら、円柱状基材の周面に対し、第1の塗布器から剥離膜材料を滴状に吐出し、円柱状基材の表面に滴状の剥離膜材料を吹き付けながら、第1の塗布器を円柱状の基材の軸方向に往復移動させることにより、剥離膜材料を積層させ塗膜を形成する塗布工程であり、円柱基材上で塗布された剥離膜材料を固化させ、円柱基材上に剥離膜を形成する工程であり、第2の塗布工程は、第2の塗布器からシリコーン膜材料を吐出し、剥離膜の表面に前記シリコーン膜材料を塗布する工程である、製造方法を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円柱状基材の表面に、液状の剥離膜材料を塗布する第1の塗布工程と、前記剥離膜材料を乾燥固化し前記円柱状の基材の表面に剥離膜を形成する第1の固化工程と、前記剥離膜の表面にシリコーン膜材料を塗布する第2の塗布工程と、前記シリコーン膜材料を乾燥固化する第2の固化工程とを含む、水なしオフセット原版の製造方法において、
前記剥離膜材料は、乾燥固化後の標準剥離特性において、塗膜厚みが100μm以下のとき、剥離膜の引張強さ[N/mm2]と塗膜厚み[mm]の積が、剥離膜の粘着力[N/mm]を超える剥離膜材料を用い、
前記第1の塗布工程が、前記円柱状基材の軸を中心軸として回転させながら、前記円柱状基材の周面に対し、第1の塗布器から前記剥離膜材料を滴状に吐出し、前記円柱状基材の表面に滴状の前記剥離膜材料を吹き付けながら、前記第1の塗布器を円柱状の基材の軸方向に往復移動させることにより、前記剥離膜材料を積層させ塗膜を形成する塗布工程であり、
前記第1の固化工程が、前記第1の塗布工程に続き、前記円柱基材を回転した状態で塗布された剥離膜材料の乾燥固化を行うことで、前記円柱基材上で塗布された剥離膜材料を固化させ、前記円柱基材上に前記剥離膜を形成する工程であり、
前記第2の塗布工程は、第2の塗布器から前記シリコーン膜材料を吐出し、前記剥離膜の表面に前記シリコーン膜材料を塗布する工程であり、
円柱状基材の表面に、少なくとも前記剥離膜とシリコーン膜とを含む積層体が形成される、水なしオフセット原版の製造方法。
【請求項2】
前記第1の固化工程の途中で、前記円柱状基材を回転した状態で、第2の塗布工程を開始する、請求項1に記載の水なしオフセット原版の製造方法。
【請求項3】
前記第1の固化工程および前記第2の固化工程が、前記円柱状の基材の回転により生じる風、もしくは、前記円柱状の基材上の塗膜面に対してエアーノズルから送風することで行う、請求項1または2に記載の水なしオフセット原版の製造方法。
【請求項4】
前記剥離膜材料に光硬化型樹脂を用い、前記剥離膜材料の塗布後、基材を回転した状態で光照射を行い、前記剥離膜材料を固化する、請求項1または2に記載の水なしオフセット原版の製造方法。
【請求項5】
円柱状基材の周面に第1の塗材を塗布するための第1のスプレーノズルを有する第1の塗布手段と、円柱状基材の周面に第2の塗材を塗布するための第2のスプレーノズルを有する第2の塗布手段と、
前記円柱状基材を円柱の軸を中心軸として回転せしめるための回転駆動手段と、
前記円柱状基材の周面に塗布された塗膜を固化するエアーノズルから送風または光照射による固化手段と、
塗膜の膜厚値を計測する測定器と、前記第1および第2の塗布手段と前記固化手段との切り替えを行う制御器を少なくとも有し、
前記の第1および第2の塗布手段は、該円柱状基材の回転軸方向に前記第1のスプレーノズルおよび第2のスプレーノズルを繰り返し往復移動させる移動手段を備え、さらに、前記回転駆動手段によって前記円柱状基材を回転した状態で前記第1および第2のスプレーノズルを前記移動手段により移動させることで塗材の塗布を行い、かつ、
前記第2の塗布手段は、前記測定器の測定値に基づき、前記固化手段を停止した後、前記第2の塗布手段による塗布工程を開始する、水なしオフセット原版の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水なしオフセット原版の製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水なしオフセット印刷は、通常のオフセット印刷で油性インキを反発させるために用いている湿し水の代わりに、インキ反発性のあるシリコーン材料を用いていることを特徴とする平版印刷技術である。この水なしオフセット印刷では、原版として、アルミニウムなどの板材表面にシリコーンの膜を形成したものを用いるのが一般的である(特許文献1)。
【0003】
具体的には、連続する長い板材に対しシリコーン材料を連続して塗布した後、必要とする原版の大きさに応じ、個々の長さにカットして使用する。そして、その原版に印刷パターンを加工し、印刷版とした後は、版胴と呼ばれる円柱基材に印刷版を巻き付け、印刷機にて使用される。
【0004】
しかし、その際、印刷版の端部が円柱基材上の周方向で継ぎ目となり、この継ぎ目部分近傍では印刷できないという課題がある。この課題に対し、特許文献2には、オフセット原版を従来の板状から継ぎ目の無い円柱状とする原版が提案されている。さらに、特許文献2には、円筒状版基材の梨地状粗面に塗布したレジストパターンを、超音波洗浄処理、化学薬品洗浄処理などの処理を行って、円筒状版基材の表面からレジストパターン部を除去することで印刷版を再生処理することが開示されている。
【0005】
さらに、特許文献3には、水なしオフセット印刷において、円筒状版基材の表面にシリコーン樹脂層をコーティングする方法などで継ぎ目がなくシームレスに形成することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平05-094008号公報
【特許文献2】国際公開第2017/104327号
【特許文献3】国内公開第2017/077825号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
原版の基材形状が、従来の板状から円柱形状になった場合、その製造において従来の手法を用いることが困難となる工程がある。基材上に必要な機能膜を形成する工程もその1つである。例えば、円柱状基材を用いる際は、原版の大きさによって、外径の異なる円柱状基材を用いるが、その保管や運送時において、板状基材のように重ねて、コンパクトにまとめることが出来ないことから、原版の製造は印刷所や印刷メーカーで実施される場合がある。
原版の製造場所が印刷所や印刷メーカーとなった場合、原版の製造は、その場所で必要な個数のみ作ることとなり、その保管場所や運送負荷の関係で、同じ円柱状基材を繰り返し再利用するのが好ましい。この円柱状基材の再利用においては、円柱状基材の表面に形成した機能膜を、印刷版として使用した後に除去し、再度、機能膜を形成するという再生工程が必要となる。水なしオフセット原版の機能膜として用いられるシリコーン材料は、円柱状基材に密着しやすく、完全に無くなるまで除去することが困難である。そこで、円柱基材上に容易に剥離できる剥離膜を設けておいて、剥離膜上にシリコーン膜を形成し、基材を再生する際は、その剥離膜をシリコーン膜ごと引き剥がす再生方法が考えられるが、円柱状基材の表面に形成した剥離膜は、印刷時におけては容易に剥がれることがなく、円柱状基材に被覆した状態を保持しなければならない。
【0008】
つまり、円柱状基材を再生のために設ける剥離膜は、再生工程において容易に剥がすことができることに加え、印刷工程では、円柱状基材上に強固に被覆し剥がれないという、相反する機能を両立させる必要がある。しかしながら、水なしオフセット原版の製造において、円柱状基材表面に液状の剥離膜材料を塗布し剥離膜を形成することも、剥離時の易剥離性と円柱状基材上での強固な被覆性を両立することは検討されていなかった。
【0009】
すなわち、本発明の解決しようとする課題は、円柱状基材の表面に継ぎ目のないシームレスの水なしオフセット原版を製造するに際し、円柱状基材から剥離し易く円柱状基材を再生可能にしつつ、印刷時においては基材に対し高い被覆性を保持し安定した印刷を行うことであり、そのための製造方法および製造装置の提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は、以下の構成からなる水なしオフセット原版の製造方法および製造装置を提供する。
(1)円柱状基材の表面に、液状の剥離膜材料を塗布する第1の塗布工程と、前記剥離膜材料を乾燥固化し前記円柱状の基材の表面に剥離膜を形成する第1の固化工程と、前記剥離膜の表面にシリコーン膜材料を塗布する第2の塗布工程と、前記シリコーン膜材料を乾燥固化する第2の固化工程とを含む、水なしオフセット原版の製造方法において、前記剥離膜材料は、乾燥固化後の標準剥離特性において、塗膜厚みが100μm以下のとき、剥離膜の引張強さ[N/mm2]と塗膜厚み[mm]の積が、剥離膜の粘着力[N/mm]を超える剥離膜材料を用い、前記第1の塗布工程が、前記円柱状基材の軸を中心軸として回転させながら、前記円柱状基材の周面に対し、第1の塗布器から前記剥離膜材料を滴状に吐出し、前記円柱状基材表面に前記滴状の剥離膜材料を吹き付けながら、前記第1の塗布器を円柱状基材の軸方向に往復移動させることにおり、前記剥離膜材料を積層させ塗膜を形成する塗布工程であり、
前記第1の固化工程が、前記円柱基材を回転した状態で塗布された剥離膜材料の乾燥固化を行うことで、前記円柱基材上で塗布された剥離膜材料を固化させ、前記円柱基材上に前記剥離膜を形成する工程であり、前記第2の塗布工程は、第2の塗布器から前記シリコーン膜材料を吐出し、前記剥離膜の表面に前記シリコーン膜材料を塗布する工程であり、円柱状基材の表面に、少なくとも前記剥離膜とシリコーン膜とを含む積層体が形成される、水なしオフセット原版の製造方法である。
【0011】
(2)前記第1の固化工程の途中で、前記円柱状基材を回転した状態で、第2の塗布工程を開始する、(1)に記載の水なしオフセット原版の製造方法である。
(3)前記第1の固化工程および前記第2の固化工程が、前記円柱状の基材の回転により生じる風、もしくは、前記円柱状の基材上の塗膜面に対してエアーノズルから送風することで行う、(1)または(2)に記載の水なしオフセット原版の製造方法である。
(4)前記剥離膜材料に光硬化型樹脂を用い、前記剥離膜材料の塗布後、基材を回転した状態で光照射を行い、前記剥離膜材料を固化する、(1)または(2)に記載の水なしオフセット原版の製造方法である。
【0012】
(5)円柱状基材の周面に第1の塗材を塗布するための第1の塗布ノズルとしてスプレーノズルを有する第1の塗布手段と、円柱状基材の周面に第2の塗材を塗布するための第2の塗布ノズルを有する第2の塗布手段と、前記円柱状基材を円柱の軸を中心軸として回転せしめるための回転駆動手段と、前記円柱状基材の周面に塗布された塗膜を固化するエアーノズルから送風または光照射による固化手段と、塗膜の膜厚値を計測する測定器と、第1および第2の塗布手段と前記固化手段との切り替えを行う制御器を少なくとも有し、
前記の第1および第2の塗布手段は、該円柱状基材の回転軸方向に前記第1のスプレーノズルおよび第2のスプレ―ノズルを繰り返し往復移動させる移動手段を備え、さらに、前記回転駆動手段によって前記円柱状基材を回転した状態で前記第1および第2のスプレーノズルを前記移動手段により移動させることで塗材の塗布を行い、かつ、前記第2の塗布手段は、前記測定器の測定値に基づき、前記固化手段を停止した後、前記第2の塗布手段による塗布工程を開始する、水なしオフセット原版の製造装置である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、円柱状基材の表面に継ぎ目のないシームレスの水なしオフセット原版を製造するに際し、円筒状基材の表面に塗布された剥離膜材料を固化させ、円柱基材上に剥離膜を形成し、引き続き、剥離層の表面にシリコーン膜を形成する積層体構造により、剥離層円柱状基材から剥離し易く、かつ、印刷時においては基材に対し高い被覆状態を保持し安定した印刷を行うことができる。
【0014】
これにより、円柱状形状の基材に対応した、これら製造方法および製造装置を用いることで、易剥離膜を有する水なしオフセット原版を、効率よく、且つ高品質に製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る製造装置の実施の一形態を示す斜視模式図である。
【
図2】本発明に係る製造装置の実施の一形態を示す正面模式図である。
【
図3】第1の塗布工程および第1の固化工程を示す側面模式図である。
【
図4】第2の塗布工程および第2の固化工程を示す側面模式図である。
【
図5】塗膜の乾燥固化を行う装置構成を正面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の一形態について、図面を参照しながら説明する。本発明は、以下の説明および図面により理解されるものであるが、本発明の実施形態がこれらに限定されるものではない。
【0017】
本発明の水なしオフセット原版の製造方法は、円柱状基材の表面に、液状の剥離膜材料を塗布する第1の塗布工程とその離型膜材料の乾燥固化工程と、さらにシリコーン膜材料を塗布する第2の塗布工程とそのシリコーン膜材料の乾燥固化工程とを含み、円柱状基材の表面に、少なくとも前記剥離膜とシリコーン膜とを含む積層体が形成される。本発明の剥離膜材料は、乾燥固化後の標準剥離特性において、塗膜厚みが100μm以下のとき、剥離膜の引張強さ[N/mm2]と塗膜厚み[mm]の積が、剥離膜の粘着力[N/mm]を超える易剥離材料を用いており、前記第1の塗布工程が、前記円柱状基材の軸を中心軸として回転させながら、前記円柱状基材の周面に対し、第1の塗布器から前記剥離膜材料を滴状に吐出し、前記円柱状基材表面の回転方向に前記滴状の剥離膜材料を吹き付けながら積層させ塗膜を形成する塗布する工程である。そして、前記第1の固化工程が、前記第1の塗布工程に続き実行され、前記円柱基材を回転した状態で塗布された剥離膜材料の乾燥固化を行うことで、前記円柱基材上で塗布された剥離膜材料を固化させ、前記円柱基材上に前記剥離膜を形成する。その後、前記第2の塗布工程は、第2の塗布器から前記シリコーン膜材料を吐出し、前記剥離膜の表面に前記シリコーン膜材料を塗布する工程である。剥離膜材料とは、剥離膜となる剥離材料を表し、シリコーン膜材料とは、シリコーン膜を成すシリコーン材料を表し、剥離膜とシリコーン膜の積層体は機能膜と呼ぶことがある。
【0018】
本発明において、シリコーン材料を塗布する第2の塗布方法は限定されないが、以下の実施態様の説明においては、第2の塗布工程は第1の塗布工程に類似する方法を用いて説明される。すなわち、前記円柱状基材の軸を中心軸として回転させながら、前記円柱状基材の周面に対し、第2の塗布器から前記剥離膜材料を滴状に吐出し、前記円柱状基材表面の回転方向に前記滴状のシリコーン材料を塗布する工程である。
【0019】
本発明において、水なしオフセット原版の機能膜として用いられるシリコーン材料は、円柱状基材に密着しやすく剥離することが困難であることから、円柱基材上に容易に剥離できる剥離膜をシリコーン膜との間に設けることで、で容易に剥離される。そして、円柱状基材を再生する際は、その剥離膜をシリコーン膜ごと引き剥がし再生される。一方、円柱状基材の表面に形成した剥離膜は、印刷時における版面の剥がれを防ぐために、円柱状基材との強固な被覆保持性を必要とするものでもある。
【0020】
ここで、本発明の剥離膜材料に求められる標準剥離特性は、以下の通りである。なお、本発明における「標準剥離特性」とは、剥離材料を塗布等により基材上に薄く形成した剥離層が有する特性により、剥離膜材料を表した指標である。ここで、剥離性が良好、すなわち易剥離性を有する剥離膜材料は、基材上に形成された剥離膜を、基材から引き剥がす際に剥離膜が破断することなく容易に剥離することが可能であり、剥離膜自体の引張強度と基材と剥離膜との粘着強度に関係する。そして、本発明の水なしオフセット原版に用いられる剥離材の標準剥離特性は、剥離膜の引張強さ[N]が基材と剥離膜との密着力[N]よりも大きいものである。
【0021】
ここで、引張強さは、剥離膜材料が膜状態での材料強度:T[N/mm2]であり、JIS B 7721(2018年)で定められた引張試験機により測定することができ、幅W[mm]と膜厚t[mm]の断面積[mm2]から、T/(W・t)で表される。粘着力:P[N/m]は、JIS Z 0237(2009年)に記載の90度引き剥がしによる粘着力の測定方法により測定することができ、幅W[mm]から、P/Wで表される。そして、剥離膜の厚み、つまり膜厚tは100μm以下のときに、標準剥離特性として、T・W・tが、P・Wを超える易剥離膜材料であることが必要である。標準剥離特性と本発明の製造方法により得られる剥離膜の特性については、詳細を後述する。
【0022】
まず、本発明の製造方法に係る装置の構成について図面を参照しながら説明する。
【0023】
<製造装置の構成>
図1は、水なしオフセット原版の製造装置100の一例を示す概略構成図である。
図2は、
図1の製造装置100の一部である塗布工程を詳細に示す正面図で、
図3及び
図4は、同じく
図1の製造装置100の一部である塗布工程について、
図3は第1の塗布工程および第1の固化工程、
図4は第2の塗布工程および第2の固化工程を示す側面図である。また、
図5は、同じく
図1の製造装置100の一部である乾燥固化工程を示す正面図である。
【0024】
図1には、液状の剥離膜材料を塗布する第1の塗布工程では、第1のスプレーノズル121aおよび第1の塗布ヘッド122aを少なくとも有しており、剥離膜材料が円柱状基材の表面に滴状で塗布される。
図1に示す製造装置100は、塗布対象となる円柱状基材111を軸中心回りに回転させつつ、塗材を吐出する第1のスプレーノズル121aを、円柱状基材111の軸方向を示す移動方向Pに対し往復で移動させ、基材の外周面に塗材Fを重ねながら塗布する。その後、円柱状基材111を軸中心回りに回転させつつ、基材の外周面上の塗材Fへ向けて気流による固化手段141から気流を噴射することで、塗材Fを乾燥固化させる。
【0025】
図1には、シリコーン膜材料を塗布する第2の塗布工程として、第2のスプレーノズル121bおよび第2の塗布ヘッド122bを少なくとも有しており、
図1中では第2の塗布工程を実施するために円柱状基材上から離れて待機している。そして、
図1に図示していないが、第1の塗布工程および第1の固化工程の後に、第2のスプレーノズル121bおよび第2の塗布ヘッド122bにより、シリコーン材料が剥離膜上に塗布され、第2の固化工程を経て、シリコーン膜が形成され、水なしオフセット印刷原版が製造される。
【0026】
図1の製造装置100は、第1の固化工程と第2の固化工程に使用される気流による固化手段141が1つ示されているが、複数個の気流による固化手段を設けてそれぞれ独立に乾燥固化に供してもよい。なお、
図1では気流による固化手段141は円柱状基材の軸方向にスリット状の気流吐出口を有するスリット型ノズルを記載したが、形状としては、これ以外のノズル形状を用いてもよい。
【0027】
塗膜に対し、気流による固化手段141で気流を基材周面の塗膜面に噴射する際は、塗膜全面対して気流が噴射されるよう、円柱基材を回転した状態で噴射するのが好ましい。これにより、基材回転により基材表面に発生する気流で塗膜の乾燥が促進されることに加え、重力影響による塗膜の液流動も抑えることが出来る。
【0028】
この固化工程では、
図3および
図4に示す膜厚センサ151で、塗膜の膜厚値を測定し、センサ制御器152にその測定値を取り込むことで、塗膜の積層状態を検知し、第1の塗布工程の終了および第1の固化工程の開始タイミングを制御することの他、第1の塗布工程終了後の塗膜変化を測定することで、塗膜の乾燥固化状態をモニターしてもよい。
【0029】
たとえば、センサ制御器152に取り込まれた測定値は、連動動作制御器150に伝達され、第1の塗布工程における塗膜の積層状態が、次工程の第1の固化工程に移行できる状態になると、連動動作制御器150からの指令により、第1の固化工程に移行する。そして、塗膜の乾燥固化状態が、次工程の第2の塗布工程に移行できる状態になると、連動動作制御器150からの指令により、第2の塗布工程に移行する。第2の塗布工程では、
図1に示す、第2のスプレーノズル121bを円柱状基材111の軸方向へ移動させながら、剥離膜の表面上にシリコーン機能層の塗布を行い、引き続き、
図1及び
図4に示す気流による固化手段141から気流噴射し、塗膜の乾燥固化を行うことで、円柱基材上に複数の機能膜を積層する積層体を形成することができる。
【0030】
また、本発明の製造装置100は、
図1に示す円柱状基材111を回転させる回転駆動手段と、
図2に示す塗布手段を基材の長手方向(図中のY方向)に移動させる移動手段と、
図3および
図4に示す膜厚センサ151およびセンサ制御器152からなる膜厚検知部を備えてもよい。第1および第2のスプレーノズルおよび塗布ヘッドと、気流による固化手段141などと、それぞれの移動手段および回転手段、並びに膜厚検知部を連動させてもよい。
【0031】
図6(a)~(d)は、各工程とその連動を示したもので、
図6(a)には、円柱状基材の表面に、滴状の剥離膜材料を往復移動で積層塗布する第1の塗布工程が示され、
図6(b)には、前記剥離膜材料を乾燥固化し前記円柱状の基材の表面に剥離膜を形成する第1の固化工程が示され、
図6(c)には前記剥離膜の表面にシリコーン膜材料を塗布する第2の塗布工程の一例が示され、
図6(d)には前記シリコーン膜材料を乾燥固化する第2の固化工程の一例が示されている。
図6(a)~(d)は連動動作制御器150により各工程を制御し工程を順に動作させてもよい。
【0032】
以下、装置の各手段および塗膜の形成について、詳細に説明する。
<回転駆動手段>
図2に示す回転駆動手段は、円柱状基材111を回転支持する左右の回転中心軸112、113と、前記回転中心軸を支持する支持台114、115と、回転支持軸に接続されて、円柱状基材111を回転駆動させるアクチュエータ116と、前記アクチュエータを制御し、円柱状基材111の回転速度を制御する回転速度制御器117を備える。回転駆動手段は、円柱状基材111を任意の回転数で回転させることができ、円柱状基材111の回転数は塗布に適した回転数や、乾燥固化を行うに適した回転数を得ることができる。回転駆動手段は、第1のスプレーノズル121a、第2のスプレーノズル121bを往復または直動移動させる手段、つまり、
図1中の矢印(符号P)とは独立して制御されることが好ましい。
【0033】
<塗布手段とその移動手段>
図3に示す塗布手段は、第1の塗布工程で用いる塗布手段であり、液状の剥離膜材料の塗材を吐出孔から吐出する第1のスプレーノズル121aと、塗材を供給する第1の塗布ヘッド122a、第1の送液ポンプ123aと、塗材を蓄える第1の塗材タンク124aを備える。塗液は、第1の塗材タンク124aから第1の塗布ヘッド122a内の流路(図示せず)を経て、第1の塗布ヘッド122aの先端に在る第1のスプレーノズル121aの吐出孔から、任意の吐出量で塗材Faを連続吐出できる。ここで、第1のスプレーノズル121aに塗材Faを供給する方式は、スプレーノズルから塗材Faを滴状に吐出できるものであれば特に限定はなく、第1の送液ポンプ123aに定量ポンプを用いる方法の他、図示しないが、第1の塗材タンク124を加圧し、加圧の圧力を調整することで吐出流量を制御する圧送方式を用いてもよい。また、第1のスプレーノズル121aの方式も、塗材Faの送り込みにより滴状に噴霧する1流体式のスプレーノズルの他、図示しない圧空源からの圧空供給により、塗材Faの滴状化を促進させる2流体式のスプレーノズルを用いてもよい。
【0034】
また、
図4には、第2の塗布工程で用いる、もう1つの第2のスプレーノズル121bについての塗布手段を示すが、こちらも
図3と同様に、シリコーン塗材を供給する第2の塗布ヘッド122b、第2の送液ポンプ123bと、塗材を蓄える第2の塗材タンク124bを備える。第2の塗布ヘッド122bの先端に在る第2のスプレーノズル121bの吐出孔から任意の吐出量で塗材Fbを連続吐出できる。これら塗材を供給する方式は、
図3の塗布手段と同様に方式を限定するものでなく、また、第2のスプレーノズル121bの形状や塗材を供給する方式については、
図3の塗布手段と異なる方式を用いてもよい。
【0035】
図2、
図3及び
図4に示す各塗布手段の移動手段は、第1の塗布ヘッド122a、第2の塗布ヘッド122bを支持するステージ131a、131bと、前記ステージが移動するスライダー132と、前記スライダーを駆動するアクチュエータ133と、前記アクチュエータを制御する制御器134を備え、第1のスプレーノズル121a、第2のスプレーノズル121bを円柱状基材111の軸方向に対し任意の速度で往復移動させることができる。ここで、剥離膜材料を塗布する第1の塗布工程において、ステージ131には、第1の塗布ヘッド122a内のスプレーノズル121aと円柱状基材111との距離を調整する調整機構を有してもよい。
【0036】
また、
図3に示す第1のスプレーノズル121aの移動手段と
図4に示す第2のスプレーノズル121bの移動手段は、それぞれ独立して移動及び制御できることが好ましいが、同じ移動手段を共有してもよい。塗布動作においては、前記回転駆動手段によって基材を回転させながら、これら移動手段によってスプレーノズル121を往復移動させることによって、円筒状の基材の周面に対し、スプレーノズル121から連続して吐出される液滴を積層塗布しながら、膜厚センサ151の測定値が設定値になるまで、基材の幅全体に塗膜を積層することで、周面上に所望の厚さで塗膜が形成される。
【0037】
また、
図2に示す塗布手段の移動を制御する制御器134は、前記塗布手段に、前記塗布手段の移動手段と連動し往復移動の折り返し位置を判定する判定器と、移動手段の位置情報を入力し、所定走査を実行するプログラムが格納された制御器を用いてもよい。この連動動作制御器150によって、例えば、円柱基材の端部など特定の箇所において塗膜の厚みを薄くするなど、膜厚の変化を行いたい場合は、往復移動の折り返し位置を変化させるなど、設定された移動手段の位置情報を元に、塗膜形成に関わる各パラメータを制御すればよい。
【0038】
<塗膜を乾燥固化する固化手段>
図3は、円柱状の基材の側面方向から見た模式図である。
図3には円柱基材の軸方向にスリット状の気流を吐出する吐出口を有する気流による固化手段141を用いている。乾燥固化手段は、
図3に示すように、前記円柱状の基材の周面から径方向に一定の間隙を保持することが好ましい。
【0039】
また、気流による固化手段141は、供給する気体の圧力を制御する気流噴射の圧力制御器142と、圧縮気体を前記圧力制御器へ供給する圧縮気体供給源143を備え、円柱状基材111の外周面へ向けて、気流を連続噴射できる。この際、気流に用いる気体として、乾燥空気のほか窒素などの不活性気体を用いてもよい。
【0040】
さらに、
図3には気流による固化手段141を示したが、固化手段はこれに限定されない。たとえば、光照射器により固化する方法が挙げられる。ただし、本発明の固化手段には、溶媒の除去や樹脂の硬化に用いられる高温の加熱や熱風の噴射による固化方法は、基材の温度上昇を伴い、常温に戻すまでに時間を要することから好ましくない。
【0041】
<膜厚検知部>
膜厚検知部は、
図3および
図4に示す膜厚センサ151およびセンサ制御器152からなる。膜厚センサ151は、円柱状基材111の周面位置に向けて設置されており、塗膜の膜厚値を測定し、センサ制御器152にその測定値を取り込むことで、塗布工程における塗布膜厚値および固化工程における塗膜の乾燥固化状態をモニターすることができる。この際、膜厚センサが測定する膜厚値は、塗膜の表面と裏面を測定し膜厚値を測定するものが好ましいが、基材および塗膜の表面高さを測定し、その高さ変化から膜厚値を算出してもよい。その際、膜厚センサ151および制御装置152により検知する膜厚値は、円柱状基材111の回転状態で測定した複数の測定値を平均した、円柱状基材111の周面における平均膜厚値であるが、それに限らず、周面の特定位置のみで測定を行い、その箇所での測定値を膜厚値としてもよい。
【0042】
また、本発明において膜厚センサ151は、共焦点式のレーザーセンサを用いているが、塗膜状態での膜厚値が測定できるセンサであればよく、この限りでない。
【0043】
<剥離膜材料の塗布形成について>
以上の構成を備える製造装置100を用い、円柱基材上に塗膜の形成を行う。剥離膜材料の塗布方法について説明する。塗材の充填工程では、
図3に示す第1の塗材タンク124aに十分に脱泡した剥離膜材料の塗材Faを入れ、第1の送液ポンプ123aにより、第1の塗布ヘッド122a、第1のスプレーノズル121a及び構成部品同士を接続する配管内に送液を行うことで、塗材Faを充填する。塗布動作工程では、円柱状基材111を
図2に示す回転支持軸112、113に固定した後、製造装置100において、円柱状基材111を円柱の軸を中心軸とし、一定の回転速度で回転を行う。この時、塗材Faを吐出する第1のスプレーノズル121aは、円柱状基材111の軸方向端部で待機状態である。次に、第1の1の送液ポンプ123aを稼働させ、第1の塗布ヘッド122aを介し、第1のスプレーノズル121aから塗材Faの滴状吐出を行う。第1のスプレーノズル121aから吐出された塗材Faは、滴状に飛び出し、回転する円柱状基材111の周面に付着するように塗布される。円柱状基材111周面に対し、滴状に塗布された塗膜は、塗布ヘッド122を円柱状基材111の軸方向に往復移動させることで、円柱状基材の周面に塗布され、重なり合うように積層し塗布されることで周面上に連続した面状の塗膜となる、
この塗布動作の際に、用いる塗材Fは、その後の乾燥固化工程を考慮し、溶媒による希釈量の少ないもの、すなわち固形分濃度の高いものが好ましい、ただ、一般的に塗液の固形分濃度が高くなると塗液粘度が高粘度になり、それに伴い塗布手段の対応が難しくなる傾向があることから、塗布における好ましい適用範囲として、塗材粘度が0.03P~10P、より好ましくは0.1P~5Pに粘度を調整した塗材を用いるのがよい。すなわち、本発明の第1の塗布工程において、第1の塗布器から滴状吐出される剥離膜材料の塗液の粘度は、0.03P~10Pの範囲を用いることができる。より好ましくは、剥離膜材料の塗液の粘度が0.1P~5Pである。塗液の粘度の単位Pは、Poise:ポアズである。
【0044】
また、往復移動における移動周期M[cycle/sec]と円柱状基材111の回転数R[rev/sec]の比(R/M)を、整数比とならない設定値とすることで、円柱状基材周面に対するスプレーノズル121の塗布位置を分散させ、より均一な積層塗膜を形成することができる。
<剥離膜とシリコーン膜の乾燥固化について>
まず、
図5に塗膜の乾燥固化のための装置構成を示す。
図5(a)は気流による固化手段141を用いた場合の乾燥固化手段で、
図5(b)は、後に記載する光照射器151を用いて塗膜の固化を行う構成である。
図5(a)および(b)は第1の固化工程を代表して示されている。以下の説明における塗膜は、剥離膜材料を塗布した塗膜である。
【0045】
まず、
図5(a)の構成において乾燥固化工程を説明する。塗布手段により基材上に塗材Fを塗布した後は、基材を回転させながら、円柱状基材の周面に向かって、気流噴射手段から気流を噴射することで、塗膜の乾燥を促進させ、塗膜の乾燥固化を行う。
【0046】
この乾燥固化工程において、処理時間を短縮するために、気流の温度を常温に対し10~30℃程度上昇させると効果的であるが、乾燥固化後に円柱基材の温度が過度に上昇した場合、円柱基材に熱によるひずみが発生し、次工程のパターン形成における精度にも影響を与えることから、気流の昇温は行わず、常温で処理することが好ましい。
【0047】
次に、
図6には、剥離膜とシリコーン膜との積層体の形成方法の一例を示している。各工程は、第1の塗布工程(a)、第1の固化工程(b)、第2の塗布工程(c)、第2の固化工程(d)の順に行われ、それぞれ、塗布が完了してから塗膜全体に気流を噴射することで乾燥固化を促進させる。さらに、第1の固化工程の途中で、円柱状基材を回転した状態で、第2の塗布工程を開始することもできる。これは、剥離膜表面が完全に固化する前にシリコーン層を塗布し積層体を一体で乾燥させることで密着性をさらに高める観点から、好ましい。
【0048】
この際、各工程(a)~(d)において、円柱基材は回転状態で行うが、回転速度は同じ速度で行わなくともよい。例えば、塗布を回転速度400rpmで行ったのち、乾燥固化は25rpmに速度低下して行うと、固化前の塗膜面において塗材のレベリングが生じ易く、滴状跡の残らない高品位な塗膜を形成することができる。
【0049】
さらに、異なる乾燥固化の手段として、塗膜材料に、常温で容易に固化させることが可能な光硬化型の樹脂を用いる方法もある。この場合、希釈溶剤を用いない光硬化型の樹脂を用いれば、気流噴射手段を用いる必要はない。一方、樹脂の固化には光照射器を必要とすることから、装置内に
図5(b)に示すような光照射器161および照射時間を制御する制御器162を設置し、基材回転状態で光照射を行うことで基材上塗膜の固化を行うとよい。
【0050】
<剥離膜について>
水なしオフセット原版に用いる円柱状基材を再利用するためには、目的の印刷が完了したのち、円柱状基材上に形成した塗膜を除去し、再度、基材上に新規原版用の塗膜を形成することで、円柱状基材を再利用することができる。
【0051】
オフセット印刷においては、基材上のレジスト膜を薬液で洗浄溶解させることで除去しているが、水なし平版に用いるシリコーン材料を同様の手段で円柱基材上から除去した場合、シリコーン材料が円柱状基材の表面に付着してしまい、一旦、付着したシリコーン材料は円柱状基材表面に薄く残ることから、円柱状基材を再利用する際に表面状態が変わることで原版の品質が低下してしまう。
【0052】
このため、シリコーン材料を除去する手段としては、シリコーン層の下、円柱状基材の表面に、剥離用の塗膜(剥離膜)を形成し、その剥離膜をシリコーン層ごと円柱状基材から膜状に剥離することで、円柱状基材の初期化を安定して行うことができる。
【0053】
剥離膜に求められる機能としては、まず、円柱状基材から容易に剥離できることであり、そのためには、以下の式(1)を満たす膜特性を有する剥離膜材料を用いるのが好ましい。この特性を有する剥離材料を、易剥離性を有すると判定し、このような剥離特性を有する剥離材料を易剥離膜材料と呼ぶ。
【0054】
剥離膜を基材から剥離する際、膜に加わる力は、膜を引き剥がそうとする引張力[N]と基材に膜が留まろうとする密着力[N]であり、引張力[N]が密着力[N]より大きい場合、膜は基材から剥がれることができる。
【0055】
この関係式を単位幅[1/mm]あたりの力のつり合いに変形すると式(1)のようになる。
引張強さ(N/mm2)×塗膜厚み(mm)>粘着力(N/mm) ・・・ 式(1)
左項の引張強さ[N/mm2]は、膜が破断することなく発生できる最大の引張力[N]を膜の断面積[mm2]で除した値であり、塗布厚み[mm]を乗じることで単位幅[1/mm]あたりの引張力[N]となる。また、右項の粘着力[N/mm]は、単位幅[1/mm]あたりの密着力[N]である。
【0056】
この式(1)において、引張強さ×塗膜厚みは、剥離膜を除去する際、膜状態での引き剥がしに耐えられる膜強度であり、この膜強度以下の力であれば剥離膜は破れることなく膜形状を保つことが出来る。また、右項の粘着力は基材から剥離膜を引き剥がす際に生じる抵抗力であり、この力より大きい力で膜を引き上げれば、基材上から膜を引き剥がすことができる。つまり、式(1)を満たす材料では、膜形状を保ったまま連続的に基材から剥離膜を引き剥がすことができるのに対し、式(1)を満たさない条件では、剥離膜の引き剥がしの際、剥離膜がちぎれてしまい、基材上の剥離膜を全て除去するには多大な労力を要してしまう。このように、剥離膜が易剥離性を有するかどうかは、式(1)を膜の材質が満たすかどうかで確認出来ることの他に、基材から剥離膜がどのように剥がれるかを確認することでも、概ね知ることがきる。
【0057】
ここで、式(1)の各項目について説明する。左項の引張強さは、剥離膜材料が膜状態での材料強度であり、JIS B 7721(2018年)で定められた引張試験機により測定することができる。剥離膜における引張強さは、原版として機能膜を保持するうえで20N/mm2 以上であることが好ましく、さらに安定性を考慮すると40N/mm2 以上であることが好ましい。同じく左項の、塗膜厚みは、剥離膜として乾燥固化した際の膜厚みであり、膜厚が厚くなるほど膜としての強度が向上するという利点があるが、膜厚が大きくなると、その分、乾燥固化に時間が必要であり、また、材料費も多く必要となることから、適度な膜厚が求められる。この剥離膜の厚みとしては、100μm以下が好ましく、また、短時間に乾燥固化を行ううえで50μm以下がさらに好ましい。
【0058】
次に右項の粘着力は、JIS Z 0237(2009年)に記載の90度引き剥がしによる粘着力の測定方法を元に、基材を円柱状基材の表面仕上げ状態と同じ表面粗さとして測定する。ここで、本開示における円柱状基材の表面状態は、アルミニウムを母材(A5052)とし、仕上げ面の平均粗さをRa1.6とした。
【0059】
また、剥離膜の粘着力の大きさは、式(1)の関係より、小さい値であるほど易剥離性の傾向が大きくなるが、一方、印刷時における円柱状基材への機能膜保持性能は低下する。このため、式(1)を満たす条件内で大きな値の粘着力を有するのがよいが、人力により指で引き剥がしできる容易さを考慮した場合、粘着力の値は0.50N/mm以下が好ましく、また、0.10N/mm以下がさらに好ましい。
【0060】
また、このような易剥離性を有する剥離膜を円柱状基材の周面に対し、高い被覆性を保持するためには、剥離開始の起点を設けないことが重要になる。例えば、円柱状基材の表面に対し剥離膜の液膜を形成する際、その塗布起点や塗膜の方向性などが明確な塗布方法を用いた場合、形成した膜面にその塗布履歴としての傾向が残るため、剥離起点となりうる箇所が生じ易い。一方、滴状に塗材を分散させ、かつ積層する塗布方式を用いることで、連続的な剥離起点が生じ難い塗膜を形成することが可能になり、剥離膜としての被覆保持性を高めることができる。
【0061】
<水なしオフセット原版の製造について>
円柱状基材を用い、本発明の塗布方法および製造装置にて、水なしオフセット原版を製造する際は、第1の塗布工程および第1の固化工程で基材表面に剥離膜を形成したのち、第2の塗布工程および第2の固化工程により、前記剥離膜状にシリコーン層を形成する。
【0062】
より詳細に記載すると、まず第1の塗布工程で、円柱状基材を回転した状態で、乾燥固化後の膜厚から計算した剥離膜材量分だけ円柱状基材上に塗膜を形成する。この塗布の際、塗材を滴状に塗布器より吐出し、円柱基材上に分散させ塗布することで、円柱状基材の周面に対し均一な液膜を形成することができる。この液膜形成は、例えば、途中で円柱状基材の回転を停止した場合、重力影響による塗材流れにより、塗膜の不均一状態が生じることから、塗布の開始から終了まで円柱状基材の回転場を保持したまま行うのが好ましい。塗布の途中において非連続状態で塗布を行うと、塗液が分離した状態で塗膜の乾燥・固化が進行することから、非連続部で塗液が結合して塗膜となる際、十分な強度を保持しにくいためである。
【0063】
次に、第1の塗布工程で、剥離膜の塗膜厚さが膜厚センサの測定値により設定膜厚知に達したところで、第1の塗布工程を終了させ、液膜の形状が崩れないよう円柱状基材の回転状態を保持しながら、第1の固化工程を行うのがよい。第1の固化工程では、塗膜表面に常温のエアーを吹き付けることで乾燥を促進させ、同時に液膜の収縮固化により、剥離膜が円柱状基材を把持するように固化される。この際、液膜の固化手段はエアー吹き付けの他に、剥離膜材料を光硬化樹脂としたうえで光照射を行ってもよい。光照射による樹脂硬化は、基材の温度上昇を少なく抑えるという利点の他に、短時間で固化工程が完了できるという利点もある。
【0064】
次に、第1の固化工程を、膜厚センサの測定値を基に乾燥状態を判断し終了させ、引き続き、第2の塗布工程のシリコーン材料塗布に移行する。この第1の固化工程から第2の塗布工程の移行は、第1の固化工程において、剥離膜の固化が完了してから実施してもよいが、剥離膜表面が完全に固化する手前で移行することにより、原版の製造時間を短縮できることのほか、剥離膜とシリコーン層の密着性をより高めることが期待できる。また、この際、剥離膜の乾燥固化は、第2の固化工程による追乾燥により完了する。そして、第2の塗布工程が完了したのち、第2の固化工程を行うことで、円柱状基材上に剥離膜とシリコーン膜の積層体を有する水なしオフセット原版が製造できる。
【0065】
このようにして製造した水なしオフセット原版は、剥離膜部分が円柱状基材の周面に対して均一な塗膜で形成できることから、印刷時において剥離膜剥離起点が生じにくく、膜の被覆保持性が高い。
【0066】
さらに、円柱状基材の再利用時においては、剥離膜に易剥離性の材料を用いていることから、膜面の一部にカッターなどで機能膜にキズを入れ、剥離の起点を作ることにより、手で容易に剥離膜をシリコーン層ごと円柱状基材から剥離することができる。
【0067】
また、本発明の水なしオフセット原版の機能膜について、剥離膜とシリコーン層の2層構成について記載したが、この2層以外に、例えば、剥離層とシリコーン層の間に印刷パターンを形成するための感熱層を設けてもよく、その他、シリコーン層の外側に容易に剥離できる保護膜を設けてもよい。この際、剥離膜上にシリコーン層を形成することと同様に、塗膜の数に応じて塗材の塗布ノズル、塗布手段および塗布ノズル移動手段の数を増加することで、第2の塗布工程および第2の固化工程と同様な方法で積層膜を形成すればよい。
【実施例0068】
以下、本発明の具体的態様の実施例および比較例との性能比較を示す。なお、本発明の実施形態はこれらによって何ら限定されるものではない。
【0069】
実施例1、2および比較例1については、それぞれの条件で原版の評価サンプルを作製したのち、印刷時を想定した機能膜の耐久性評価と、基材再生時を想定した剥離膜の剥離性評価を実施した。
【0070】
耐久性評価は、原版の外周面にオフセット印刷時のブランケットを模したゴムローラを押しつけた状態で、50時間および100時間の長時間回転駆動を行い、機能膜が円柱状基材に被覆した状態を保持できるかを確認した。評価の対象は、基材に対する剥離膜の浮きや剥がれ、剥離膜に対するシリコーン膜の剥がれであり、状態は目視で確認した。評価基準は、設定した耐久時間(50時間、100時間)を経ても機能膜の状態変化が生じなかったものは「良好:〇」、機能膜に剥がれ、破れなどの欠陥が確認できたものは「不良:×」、また、×には至らないが、その予兆として機能膜に浮きが生じたものは「やや不良:△」と評価した。
【0071】
剥離性の評価は、人手で剥離膜を基材から除去することを想定し、円柱状基材上の機能膜端部に切り目を入れ、そこから円周方向に剥離しながら、円柱状基材から剥離膜とシリコーン膜の積層体を剥離した。剥離性の評価は、積層体が切れることなく、容易に引き剥がすことが出来るものは「良好:〇」、積層体が3か所以上に引きちぎれてしまい、引き剥がしが困難なものは「不良:×」、また、引き剥がすことは可能だが、積層体が2か所以下で引きちぎれてしまい容易ではないものは「やや不良:△」と評価した。
【0072】
<実施例1>
図1~
図4に示す構成と同等の製造装置を使用し、
図6の手順で円柱状基材上に剥離膜とシリコーン膜の積層体を形成した。外径185mm、軸長300mmの円柱状基材を用い、第1の塗布工程において、円柱状基材の周面に均一に平坦な塗膜が形成された場合に、乾燥固化後の膜厚が100μmとなるよう塗布膜の積層量を設定し、第1の塗布工程に1流体式のスプレーノズルを用い、基材を390rpm(6.5rev/sec)で回転させた状態で、往復周期12.5sec(0.08cycle/sec)で剥離膜材料の積層塗布を行った。次の第1の固化工程では、基材の回転速度を25rpmに低下させ、スリット型のエアーノズルを用い、吐出流速90m/secの気流を10分間、基材の回転数を25rpmに保持した状態で吹き付け続け、塗膜の乾燥固化を行った。次の第2の塗布工程では、再び基材の回転速度を390rpmに上昇させ、第1の塗布工程と同様にスプレーノズルを用いた滴状吐出をし、乾燥固化後の膜厚が10μmとなるようシリコーン膜材料の塗布を行った。次の第2の固化工程では、基材の回転速度を25rpmに低下させ、剥離膜乾燥時と同じスリット型のエアーノズルを用い、吐出流速90m/secの気流を10分間、基材の回転数を25rpmに保持した状態で吹き付け続け、塗膜を乾燥固化した。
【0073】
機能膜の耐久性および剥離膜の剥離性の確認結果を表1に示す。耐久性確認では、実施例1および2において、剥離膜の浮きや剥がれ、また、シリコーン膜の剥がれともに100時間経過後も問題は生じなかった。
【0074】
また、剥離膜材料には、ポリウレタンを原料とし、N,N-ジメチルホルムアミドを主溶剤成分とした固形分濃度10wt%の希釈液を用いた。希釈液材料の液粘度は1P、乾燥固化後の膜状態での粘着力が0.10N/mmに対し、引張強さ40N/mm2、膜厚100μmの易剥離性であった。
【0075】
【0076】
<実施例2>
図1~
図4に示す構成に、第1の固化工程において、
図5(b)の光照射器を加えた構成の製造装置を使用し、剥離膜材料に光硬化型の塗材を用いることで、円柱状基材上に剥離膜とシリコーン膜を形成した。第1の塗布工程では、外径185mm、軸長300mmの円柱状基材を用い、円柱状基材の周面に均一に平坦な塗膜が形成された場合に、固化後の膜厚が50μmとなるよう積層膜厚を設定し、実施例1と同じ1流体式のスプレーノズルを用い、基材を390rpm(6.5rev/sec)で回転させた状態で、往復周期12.5sec(0.08cycle/sec)で剥離膜材料の積層塗布を行った。次に第1の固化工程では、基材の回転速度を25rpmに低下させ、照射光量300mW/cm
2の光照射器を用い、10分間、基材の回転数を25rpmに保持した状態で光照射を続け、塗膜を固化した。次に第2の塗布工程で、再び基材の回転速度を400rpmに上昇させ、乾燥固化後の膜厚が10μmとなるよう塗布膜厚量を設定し、第1の塗布工程と同じ1流体式のスプレーノズルを用い、シリコーン材料の塗布を行った。次に第2の固化工程で、基材の回転速度を25rpmに低下させ、スリット型のエアーノズルを用い、吐出流速90m/secの気流を10分間、基材の回転数を25rpmに保持した状態で吹き付け続け、塗膜を乾燥固化し、下地剥離層、上層シリコーン膜の原版を作製した。
剥離膜材料には、ポリウレタンを原料とした光硬化樹脂を用い、材料固化時の膜収縮率は10%、液粘度は5P、膜状態での粘着力が0.08N/mmに対し、引張強さ40N/mm
2、膜厚100μmの易剥離性である。
<比較例1>
実施例1における、第1の塗布工程の塗布手量調整手段を、膜厚センサによる厚み設定から、送液ポンプで送液量調整に変更し、実施例1と同じ1流体式のスプレーノズルを用い、基材を390rpm(6.5rev/sec)で回転させた状態で、一方向1回のみのノズル移動で基材周面全体に塗膜が螺旋状に塗布されるよう、ノズル移動速度5mm/secで、実施例1同様、乾燥固化後の膜厚が100μmとなるよう剥離膜材料の塗布を行った。
【0077】
実施例1、2および比較例1の条件で製作した水なしオフセット原版を用い、機能膜の耐久性および剥離膜の剥離性確認を行った結果を以下に示す。耐久性確認は、各原版を回転保持できる試験機にセットし、回転速度200rpmで保持した状態で、版表面にゴムローラを荷重10kgで押しつけ、50時間および100時間後の版面状態を目視で確認した。実施例1、2において、剥離膜の浮きや剥がれ、また、シリコーン膜の剥がれともに100時間経過後も問題は生じなかった。一方、比較例1では、シリコーン膜に剥がれが生じなかったものの、時間の経過とともに剥離膜の塗布を開始した箇所の一部で膜の浮きが発生し、100時間経過前に浮きを起点に機能膜の破れが発生し、基材から剥がれた。
【0078】
剥離性確認は、原版の機能膜にカッターで切り込みを入れることで剥離膜を一部破断し、そこを起点に機能膜を指で引っ張ることで、容易に剥離膜を剥離できるか確認した。機能膜の耐久性および剥離膜の剥離性の確認結果を示す。剥離性確認では、いずれの条件でも手で剥離膜を剥離することができたが、比較例1では、剥離の途中で膜が切れやすかった。